特許第6408281号(P6408281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6408281ゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法
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  • 特許6408281-ゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408281
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】ゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20181004BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20181004BHJP
   C25D 5/26 20060101ALN20181004BHJP
   C25D 7/06 20060101ALN20181004BHJP
【FI】
   C25D15/02 E
   D07B1/06 A
   !C25D5/26 C
   !C25D7/06 U
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-155731(P2014-155731)
(22)【出願日】2014年7月31日
(65)【公開番号】特開2016-33235(P2016-33235A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2017年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】大野 義昭
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−084233(JP,A)
【文献】 特開昭51−143534(JP,A)
【文献】 特開昭63−020498(JP,A)
【文献】 特開昭63−105979(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3013828(JP,U)
【文献】 特開昭50−131201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 13/00−15/02
D07B 1/00−9/00
C25D 5/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気めっきにより亜鉛めっきを施すゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法において、
前記亜鉛めっきに用いるめっき浴に、マグネシウム、アルミニウム、チタン、およびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属粉末が含有されてなり、前記金属粉末の平均粒子径が、3μm以下であり、かつ、前記亜鉛めっき中の前記金属粉末の割合が、20〜60容量%となるように前記亜鉛めっきを行うことを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品補強用スチールワイヤ(以下、単に「スチールワイヤ」とも称する)の製造方法に関し、詳しくは、重量増加を抑えつつ、耐腐食疲労性が向上したゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤやコンベヤ等のゴム物品の補強材として、スチールワイヤを撚り合わせてなるスチールコードをゴム被覆したゴム−スチールコード複合体が用いられている。ゴム−スチールコード複合体が用いられたタイヤやコンベヤが、スチールコードに達するほどの外傷を受けると、ゴムが浸透していない部分を水分が毛細管現象にて通水する。そのためスチールは水の腐食によって錆が発生する場合がある。
【0003】
そのため、従来、スチールワイヤの耐食性を向上させるために、スチールワイヤ表面に、スチールよりも卑な金属である亜鉛めっきを施し、スチールよりも優先的に亜鉛等の卑金属を溶出させて、スチールワイヤの腐食を遅らせる等の対策がとられてきた。また、上記効果を狙って、亜鉛以外にも、亜鉛−アルミニウム合金や亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金等のスチールよりも卑な合金のめっきを、スチールに施すことも提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−31519号公報
【特許文献2】特開2003−155548号公報
【特許文献3】特開2006−283188号公報
【特許文献4】特開2009−24210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜4に係る技術は、スチールに溶融亜鉛めっきを施す技術であるが、溶融亜鉛めっきは450℃以上の高温で行われるため、非めっき体が加工硬化により強度が向上したスチールワイヤの場合、熱により強度が大きく低下してしまうという問題を有している。このような強度の低下は、強度が2500MPa以上の高強度のスチールワイヤにおいて顕著である。また、溶融亜鉛めっきであるため、スチールワイヤ表面の亜鉛めっきの膜厚が厚くなり、スチールワイヤ表面に付着する亜鉛の量が多く、スチールワイヤの重量が増加してしまうという問題も有している。
【0006】
これに対して、スチールワイヤの強度を低下させることなく、また、付着する亜鉛めっきを抑えつつ、スチールワイヤの耐食性を向上させる方法としては、亜鉛−アルミニウム合金や亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金等をスチールワイヤに真空蒸着させる方法も考えられる。しかしながら、真空蒸着には真空環境が必要となるため、付帯設備が必要となり、さらに、真空蒸着では、めっきの付き回りが悪いという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、重量増加を抑えつつ、耐腐食疲労性が向上したゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、下記構成とすることで、上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法は、電気めっきにより亜鉛めっきを施すゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法において、
前記亜鉛めっきに用いるめっき浴に、マグネシウム、アルミニウム、チタン、およびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属粉末が含有されてなり、前記金属粉末の平均粒子径が、3μm以下であり、かつ、前記亜鉛めっき中の前記金属粉末の割合が、20〜60容量%となるように前記亜鉛めっきを行うことを特徴とするものである。
【0010】
ここで平均粒子径とは、レーザ回折・散乱法により求めた粒子径の平均値であり、例えば、(株)島津製作所社製のレーザ回折式粒子径分布測定装置(SALD−3100)を用いて測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、重量増加を抑えつつ、耐腐食疲労性が向上したゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るゴム物品補強用スチールワイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一好適な実施の形態に係るゴム物品補強用スチールワイヤの断面図であり、本発明のゴム物品補強用スチールワイヤは、電気めっきにより亜鉛めっき2が施されたスチールワイヤ1であり、亜鉛めっき2中に、マグネシウム、アルミニウム、チタン、およびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属粉末3が含有されてなる。マグネシウム、アルミニウム、チタン、およびマンガンは、亜鉛よりもイオン化傾向が大きいため、スチールワイヤが水分と接触した際、スチールよりも優先的に腐食する効果は亜鉛よりも大きい。したがって、亜鉛めっき中に上記金属粉末を含有させることで、スチールワイヤの腐食をより効果的に防止することができる。上記金属粉末は、1種単独で用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。
【0015】
なお、スチールワイヤの耐食性を向上させる手段として、亜鉛めっき中に上記金属粉末を含有させるのではなく、亜鉛−アルミニウム合金や、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金等をスチールワイヤに電気めっきすることも考えられるが、アルミニウムやマグネシウムを電気めっきする際の電圧は、水素発生電圧よりも高いため、上記合金は電気めっきをすることができない。そこで、本発明においては、マグネシウム、アルミニウム、チタン、およびマンガンの粉末を、亜鉛の電気めっきの際にめっき層に取り込ませている。なお、亜鉛よりもイオン化傾向が大きい金属であっても、ナトリウムやカリウムのような、非常にイオン化傾向が大きい金属は、活性に富み、逆に早期に効果を失うため、実用的でない。
【0016】
本発明のスチールワイヤにおいては、亜鉛めっき中のマグネシウム、アルミニウム、チタン、およびマンガンの平均粒子径は、10μm以下であることが好ましい。スチールワイヤ表面の亜鉛めっきは、その厚さは、通常、10μm以下であるため、平均粒子径を10μm以下とすることで金属粉末を亜鉛めっきから脱落することを防止することができ、その結果、優れた耐食効果を得ることができる。本発明のスチールワイヤにおいては、金属粉末の平均粒子径は、より好ましくは5μmであり、特に好ましくは3μm以下である。
【0017】
また、本発明のスチールワイヤにおいては、亜鉛めっき中の金属粉末の割合は、20容量%以上であることが好ましい。亜鉛めっき中の金属粉末の割合を20容量%以上とすることで、耐食効果を長期にわたって維持することができる。なお、亜鉛めっき中の金属粉末の割合を60容量%未満とすることで、めっき液の均一な撹拌を容易なものとすることができ、作業性の観点から好ましい。亜鉛めっき中の金属粉末の割合は、好適には20〜50容量%である。
【0018】
本発明のスチールワイヤは、マグネシウム、アルミニウム、チタン、およびマンガンの金属粉末を含有する亜鉛めっき浴を用いて、スチールワイヤに電気めっきを施すことにより、製造することができる。亜鉛めっき浴に添加する上記金属粉末の量は、得られるスチールワイヤの亜鉛めっき中の金属粉末の割合に基づき、適宜決定すればよい。また、亜鉛めっき浴は、マグネシウム、アルミニウム、チタン、およびマンガンが溶解しないように調整する必要がある。そこで、上記金属粉末に不動態被膜が形成するよう、亜鉛めっき浴のpHの調整やめっき液状態の調整を行う。例えば、金属粉末としてアルミニウム粉末を用いる場合はpHを3.5以上、マグネシウム粉末の場合はpHを12以上、チタン粉末の場合はpHを1以上、マンガン粉末の場合は溶存酸素に富んだpHを1以上とする必要がある。
【0019】
本発明のスチールワイヤの製造に用いる亜鉛めっき浴としては、上記要件を満たせば、硫酸亜鉛浴や塩化亜鉛浴等、公知のものを用いることができる。例えば、硫酸亜鉛浴としては、硫酸亜鉛(7水和物)が50〜300g/L程度で、必要に応じて鉱酸や支持電解質を添加したものを用いることができる。また、塩化亜鉛浴としては、塩化亜鉛(7水和物)が50〜300g/L程度で、必要に応じて鉱酸や支持電解質を添加したものを用いる。また、亜鉛めっき浴の温度については、30〜70℃とするのが好ましい。亜鉛めっき浴の温度を30℃以上とすれば、電気亜鉛めっきにおいて良好な電析効率が得られ、一方、70℃未満とすることで、エネルギーコストを抑えることができる。また、めっき浴の蒸発を抑制することができるため、めっき浴の濃度管理の点においても有利である。
【0020】
本発明のスチールワイヤにおいては、亜鉛めっきを施すスチールワイヤについては、従来用いられているものであれば何れでも用いることができるが、炭素成分が0.80質量%以上である高炭素鋼であることが好ましい。スチールワイヤの素材を高硬度である炭素成分が0.80質量%以上の高炭素鋼とすることで、タイヤやベルトのようなゴム物品の補強効果を十分に得ることができる。なお、炭素成分を1.5質量%以下とすれば、延性も確保しやすくなり、耐疲労性の面において好ましい。
【0021】
本発明のスチールワイヤを製造するに当たっては、上述のとおり、溶融亜鉛めっきではなく、電気めっきを用いているため、本発明のスチールワイヤは、熱により強度が低下するおそれはない。そのため、本発明のスチールワイヤは、特に、高強度が要求されるタイヤの補強材として好適に用いることができる。本発明のスチールワイヤは、その一本をそのままで用いても、または複数本を撚り合わせずに束ねて、スチールコードとして用いてもよく、さらに、従来と同様に、複数本を撚り合わせてスチールコードとして用いてもよい。これらスチールワイヤおよびスチールコードは、タイヤのプライコードやベルトコードとして用いることができる。
【0022】
本発明のスチールワイヤは、その製造に当たって、溶融亜鉛めっきのような加熱設備等の付帯設備を必要とせず、従来用いられてきた電気めっき浴を用いることができるため、設備投資が少なくて済み、経済性に優れている。また、本発明のスチールワイヤは、電気めっきを経て製造されるものであるため、亜鉛めっきの膜厚の調整が容易であり、必要最小限のめっき処理が可能であるという利点も有している。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1−1〜1−4、比較例1−1、1−2>
実施例1−1〜1−4として、亜鉛めっきに平均粒子径3μmのアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、およびマグネシウム(Mg)の粉末を含有するスチールワイヤを作製した。また、比較例1−1として、上記金属粉末を含有しない亜鉛めっきを有するスチールワイヤを、比較例1−2として、亜鉛めっきを施していないスチールワイヤを作製した。得られた各スチールワイヤにつき、腐食疲労性試験を行った。腐食疲労性試験の手順は以下のとおりである。なお、亜鉛めっきの厚みは3μmとし、金属粉末の平均粒子径は(株)島津製作所社製:SALD−3100を用いて測定した。
【0024】
<耐腐食疲労性試験>
耐腐食疲労性の評価は、100mmに切断した各スチールワイヤを、少量の硝酸イオンおよび硫酸イオンを含む中性の水溶液に浸し、毎分1000回転の速度で300N/mmの繰り返し曲げ応力を与えてスチールワイヤが破断に至るまでの回転数を求めた。回転数は最大で100万回まで測定した。得られた結果につき、回転数100万回を100とする指数とし、耐腐食疲労性の評価を行った。結果を表1に示す。なお、評価結果は、比較例1−1を100とする指数として表示した。
【0025】
【表1】
【0026】
<実施例2−1〜2−2、参考例2−1〜2−2>
実施例2−1〜2−2、参考例2−1〜2−2として、亜鉛めっきに平均粒子径1、3、5および10μmのアルミニウム粉末を20容量%含有するスチールワイヤを作製した。亜鉛めっきの厚みは3μmとした。得られた、スチールワイヤの表面を布で拭き、その前後からアルミニウム粉末の残存率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
<実施例3−1〜3−3、参考例3−1、比較例3−1>
実施例3−1〜3−3、参考例3−1として、亜鉛めっき中のアルミニウム粉末の含有量を10、20、50および60容量%であるスチールワイヤを作製した。亜鉛めっきの厚みは3μmとし、また、使用したアルミニウム粉末の平均粒子径は3μmとした。また、比較例3−1として、アルミニウム粉末を含まない亜鉛めっきを有するスチールワイヤを作製した。亜鉛めっきの膜厚は3μmである。得られた各スチールワイヤにつき、上記と同じ手順で耐腐食疲労性試験を行った。得られた結果を表3に示す。なお、評価の基準は、比較例3−1を100とした指数にて表示した。
【0029】
【表3】
【0030】
表1〜3より、本発明のスチールワイヤは耐食性が向上していることがわかる。また、耐腐食疲労性の向上効果は、アルミニウム>チタン>マグネシウム>マンガンの順であることがわかる。
【符号の説明】
【0031】
1 スチールワイヤ
2 亜鉛めっき
3 金属粉末
図1