(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
Snを主体とし、TCT特性の向上効果を考慮してCu,Agを含有したSn-Cu-Ag系合金でなる従来の半田ボールとは異なり、本発明の半田ボールは、TCT特性の向上よりも、耐落下衝撃特性(ドロップ特性)の向上を重視している。本発明の半田ボールは、Snを主体とした半田ボールであって、Niを0.04〜0.2質量%含有し、残部がSnおよび不可避不純物でなることを特徴とし、このような組成とすることで、優れた耐落下衝撃特性の向上効果を得ることができる。
【0011】
本発明では、半田ボールの製造過程にて、Sn中に最適な含有量のNiが添加されており、NiがNi
3Sn
4として半田ボール中に存在している。ここで、Cuでなる電極上にリフロー法によって半田ボールで半田接合部を形成する場合には、溶融した半田ボール中のSnと、固体のNi
3Sn
4とが、電極のCuと同時に反応することで、固体のNi
3Sn
4が分解してその中のNiがSnとCuとの反応に関与し、溶融した半田ボールと、電極との界面に沿って(Cu,Ni)
6Sn
5や、(Cu,Ni)
3Snでなる金属間化合物を形成する。
【0012】
このような(Cu,Ni)
6Sn
5や(Cu,Ni)
3Snでなる金属間化合物は、成長速度が比較的遅いことから、半田ボールと電極との間に厚みが薄く、かつ、凹凸が少なく平滑化した金属間化合物層を形成する。このように実装後に半田ボールと電極との間に(Cu,Ni)
6Sn
5や(Cu,Ni)
3Snという比較的延性な金属間化合物を薄く形成できることから、外部から衝撃が加わっても、金属間化合物やその近傍が延性的に変形し得、脆性破壊が生じ難くなり、優れた耐落下衝撃特性を確保し得る。また、実装後に半田ボールと電極との間に、半島状の凸部を含んだ凹凸が少なく平滑化された金属間化合物層が形成できることから、外部衝撃が与えられた際に衝撃が集中し易い山谷部分が少ない分、衝撃を集中させることなく分散できることから金属間化合物層での亀裂の発生を抑制し得、耐落下衝撃特性が飛躍的に向上し得る。このような耐落下衝撃特性の向上効果を得るにはNiをNi
3Sn
4として、予め半田ボール中に存在させておくことが最も効果的である。
【0013】
ここで、従来のように濡れ性の確保を考慮してCuを含んだSn-Cu-Ag系合金でなる半田ボールの原料中に、例えばNiを添加させた場合には、Niが半田ボール中のCuと結合し、(Cu,Ni)
6Sn
5や(Cu,Ni)
3Snでなる化合物が実装前の半田ボール中に形成されてしまい、その分、Niが消費されてしまう。
【0014】
このように実装前に(Cu,Ni)
6Sn
5や(Cu,Ni)
3Snでなる化合物が既に形成された半田ボールでは、(Cu,Ni)
6Sn
5や(Cu,Ni)
3Snでなる化合物の成長速度が遅いことがわざわいし、リフロー法によってCuでなる電極上に半田接合部を形成する際、 (Cu,Ni)
6Sn
5や(Cu,Ni)
3SnからNiが拡散できず、その結果、NiがSnと電極のCuとの反応に関与し難い状態となる。従って、従来のようにSn中にCuが混入している半田ボール中にNiを添加しても、実装時に、溶融した半田ボールと、電極との間に形成される金属間化合物層の厚みを薄くさせたり、平滑化させたりすることが困難となる。
【0015】
そのため、本発明の半田ボールでは、Snに所定量のNiを含有させたSn-Ni系合金中におけるCuが、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析による検出限界以下であること、すなわち、Cuが含有されていないことが望ましい。なお、ここで、ICP分析とは、ICP発光分光分析や、ICP質量分析を示し、ここで「検出限界以下」とは、ICP発光分光分析またはICP質量分析のいずれかで検出限界以下となればよい。このように、本発明の半田ボールでは、Cuの含有量をICP分析による検出限界以下にすることで、実装前の半田ボール中に(Cu,Ni)
6Sn
5や(Cu,Ni)
3Snが形成され難くなり、その分、優れた耐落下衝撃特性を得ることができる。
【0016】
本発明の半田ボールは、Sn-Ni系合金中にCuを含有させずに、Niを0.04〜0.2質量%、好ましくは0.04質量%以上0.1質量%未満、より好ましくは0.06±0.02質量%含有させることで、優れた耐落下衝撃特性の向上効果を得ることができる。なお、Niの含有量は、0.04質量%未満にすると、(Cu,Ni)
6Sn
5や(Cu,Ni)
3Snの形成が困難となることから、所望する耐落下衝撃特性が得られず、一方、0.2質量%を超えても、半田中に針状のNi
3Sn
4が粗大に成長してしまうことから、所望する耐落下衝撃特性が得られないため、0.04〜0.2質量%であることが望ましい。また、Niの含有量を0.1質量%未満にすると、さらに優れた耐落下衝撃特性の向上効果が得られるため、0.1質量%未満であることがより好ましく、さらには、0.06±0.02質量%であることが最も好ましい。
【0017】
また、本発明の半田ボールは、SnにNiを所定量添加しているが、更に必要に応じてMg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を総計で0.006質量%以下で添加してもよい。すなわち、本発明の半田ボールは、Niを0.01〜0.2質量%(好ましくは0.04質量%以上0.1質量%未満、より好ましくは0.06±0.02質量%)、Mg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を総計で0.006質量%以下含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成してもよい。
【0018】
この場合、これらMg,P,Gaは、1種または2種以上を総計で0.0001〜0.006質量%添加することで、Niだけを添加した場合に比して、耐落下衝撃特性の向上効果が得られる他、半田ボールの濡れ性を高めることができる。なお、このような半田ボールの濡れ性の向上効果は、例えばMgはSnよりも卑な金属であるため、Snよりも優先的に酸化することで、急冷状態において非晶質状の酸化物層を形成し、半田ボール表面のSn酸化物の成長が抑制されるためと考えられる。この硬化はMg,P,Gaの含有量が1種または2種以上の総計で0.0001質量%未満になると得られず、逆に0.006質量%を超えるとMg,P,Gaが激しく酸化してしまい、半田ボールが球状とはならずに多角形状となってしまうことから好ましくない。
【0019】
さらに、本発明の半田ボールは、必要に応じてAgを0.1〜1.5質量%、好ましくは0.5質量%以下で含有させてもよい。すなわち、本発明の半田ボールは、Niを0.01〜0.2質量%(好ましくは0.04質量%以上0.1質量%未満、より好ましくは0.06±0.02質量%)、Agを0.1〜1.5質量%含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成してもよい。Agの含有量を0.1〜1.5質量%にすれば、ボイドの発生を十分に抑制でき、その一方で半田ボール中に析出したAg
3Snにより半田ボールが硬化し、TCT特性の向上効果も得ることができる。なお、上述と同様に、このようにAgを含有させた半田ボールでも、必要に応じてMg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を総計で0.006質量%以下、具体的にはMg,P,Gaのうち少なくとも1種、または2種以上を総計で0.0001〜0.006質量%添加してもよい。
【0020】
このように、Sn-Ni-Ag系合金の組成でなる本発明の半田ボールでは、Agを含有させるとともに、さらにMg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を上記含有量にて含有させることにより、TCT特性の向上を考慮してAgを含有させても、Mg,P,Gaの効果によって耐落下衝撃特性が劣ることを防止し得、所望する優れた耐落下衝撃特性を得ることができる。
【0021】
さらに、本発明の半田ボールは、必要に応じてBiを0.1〜1.5質量%含有させてもよい。すなわち、本発明の半田ボールは、Niを0.01〜0.2質量%(好ましくは0.04質量%以上0.1質量%未満、より好ましくは0.06±0.02質量%)、Biを0.1〜1.5質量%、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成してもよい。Biの含有量を0.1〜1.5質量%にすれば、Snに対するBiの固溶強化によって半田ボール全体を硬化でき、その結果、半田ボールの熱疲労特性を高めることができる。なお、上述と同様に、このようにBiを含有させた半田ボールでも、必要に応じてMg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を総計で0.006質量%以下、具体的にはMg,P,Gaのうち少なくとも1種、または2種以上を総計で0.0001〜0.006質量%添加してもよい。
【0022】
このように、Sn-Ni-Bi系合金の組成でなる半田ボールでは、Biを含有させるとともに、さらにMg,P,Gaの少なくとも1種以上を上記含有量にて含有させることにより、TCT特性の向上を考慮してBiを含有させても、Mg,P,Gaの効果によって耐落下衝撃特性が劣ることを防止し得、所望する優れた耐落下衝撃特性を得ることができる。
【0023】
また、本発明の半田ボールでは、Sb,In,Zn,As,Al,Au等の他の元素が、ICP分析による検出限界以下か、または前記Sb,In,Zn,As,Al,Auのうち少なくともいずれか1種を含有していたとしても、いずれも不可避不純物として含有されていることが望ましい。なお、ここで不可避不純物とは、精錬、溶解等の製造工程で、材料中への混入が避けられない不純物元素を指すものであり、例えばSb,In,Zn,As,Al,Auであれば、30質量ppm以下を指す。
【0024】
以上の構成において、本発明の半田ボールでは、Niを0.04〜0.2質量%含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、さらにCuがICP分析による検出限界以下であることにより、電極に接合させた際に優れた耐落下衝撃特性を得ることができる。
【0025】
また、本発明の半田ボールでは、Niを0.04〜0.2質量%、Mg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を総計で0.006質量%以下含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、CuがICP分析による検出限界以下であることにより、電極に接合させた際に優れた耐落下衝撃特性を得ることができる他、濡れ性の向上効果を得ることができる。
【0026】
さらに、本発明の半田ボールでは、Niを0.04〜0.2質量%、Agを0.1〜1.5質量%含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、さらにCuがICP分析による検出限界以下であることにより、電極に接合させた際に優れた耐落下衝撃特性を得ることができる他、TCT特性を向上させることもできる。
【0027】
さらに、本発明の半田ボールでは、Niを0.04〜0.2質量%、Biを0.1〜1.5質量%含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、さらにCuがICP分析による検出限界以下であることにより、電極に接合させた際に優れた耐落下衝撃特性を得ることができる。
【0028】
ここで、これら半田ボールでは、電子部品間に実装させたときの耐落下衝撃特性(ドロップ特性)の評価として、後述する実施例に従った耐落下衝撃特性試験を目安としている。具体的に、本発明の半田ボールでは、1500[G]の加速度で行われるJEDEC規格のJESD22−b111に準拠した試験法(以下、JEDEC規格試験とも呼ぶ)により、耐落下衝撃特性試験を行ったとき、80回以上、落下衝撃を加えても、電気抵抗値が耐落下衝撃特性試験を行う前の電気抵抗値以下となっており、優れた耐落下衝撃特性を得ることができている。
【0029】
さらに、本発明の半田ボールでは、JEDEC規格試験よりも、さらに過酷な条件を課し、1500[G]の6倍程度の加速度で少なくとも30回以上、落下衝撃を加えた過酷試験を行っても、電気抵抗値が耐落下衝撃特性試験を行う前の電気抵抗値以下となっており、耐落下衝撃特性が飛躍的に向上した半田ボールを得ることができている。
【0030】
なお、半田ボール中の組成を同定する手法については特に制限は無いが、例えばエネルギー分散X線分光法(EDS;Energy Dispersive Xray Spectrometry)、電子プローブ分析法(EPMA;Electron Probe Micro Analyzer)、オージェ電子分光法(AES;Auger Electron Spctroscopy)、二次イオン質量分析法(SIMS;Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)、誘導結合プラズマ分析法(ICP;Inductively Coupled Plasma)、グロー放電スペクトル質量分析法(GD-MASS;Glow Discharge Mass Spectrometry)、蛍光X線分析法(XRF;X-ray Fluorescence Spectrometer)等が実績も豊富で精度も高いので好ましい。
【0031】
因みに、本発明の半田ボールを半導体メモリーへの実装に使用したり、もしくは半導体メモリーの近傍での実装に使用した場合は、当該半田ボールにより形成された接合部からα線が放射されると、当該α線が半導体メモリーに作用してデータが消去されてしまう虞もある。そこで、α線による半導体メモリーへの影響を考慮した場合、本発明の半田ボールは、α線量が1[cph/cm
2]以下というように、通常よりもα線量が少ない、いわゆる低α線量の半田合金からなる半田ボールとしてもよい。このような低α線量でなる本発明の半田ボールは、α線の発生源となる不純物を除去することで純度を99.99%以上とした高純度のSnを原料として使用し、上述した組成の半田ボールを製造することで実現できる。
【0032】
また、本発明の半田ボールの形状は特に問わないが、ボール状の半田合金を接合部へ転写して突起状としたり、更にその突起物を別な電極に実装したりするのが、実績も豊富であるので工業的には好ましい。
【0033】
本発明の半田ボールは、BGAや、CSP、またはFC(Flip Chip)と呼ばれる実装形態を有する半導体デバイスの接続端子として使用した場合でも効果を発現することができる。本実施形態による半田ボールをこれら半導体デバイスの接続端子として利用する場合には、例えば、フラックスや半田ペーストという有機物を予めプリント配線基板上の電極に塗布してから半田ボールを電極に並べ、前述のリフロー法で強固な半田接合部を形成することで電子部材を得ることができる。
【0034】
本実施形態の電子部材では、これらのBGA、CSP、FCに本実施形態の半田ボールを実装した電子部材も含み、またフラックスや半田ペーストを予めプリント配線基板上の電極に塗布してから電子部材を電極上に乗せ、前述のリフロー法で強固に半田付けすることで電子部材を更にプリント配線基板に実装させた電子部材も含むものとする。さらに、このプリント配線基板の代わりに、TAB(Tape Automated Bonding)テープと呼ばれるフレキシブル配線テープや、リードフレームと呼ばれる金属製配線を使用しても良い。
【実施例】
【0035】
半田ボールとなる半田合金の組成を変えてゆき、各半田ボールの耐落下衝撃特性(ドロップ特性)および熱疲労特性(TCT特性)についてそれぞれ調べた。ここでは、下記表1〜表3に示すSnやNi等の成分を加えて原料を生成し、この原料を黒鉛るつぼ内に設置してから高周波溶解炉で275[℃]に加熱して溶解させた後、冷却することで半田合金を得た。
【0036】
その後、半田合金を線径25[μm]の線材とした。この線材を長さ28.79[mm]で切断してゆき、一定体積にしてから再度高周波溶解炉で加熱・溶解し、冷却することで直径300[μm]の半田ボールを得た。表1の実施例1〜37、表2の実施例38〜49、表3の比較例1〜9の各半田ボールの組成についてICP発光分光分析で測定した。プラズマ条件高周波出力は1.3[KW]とし、発光強度の積分時間は3秒とし、各元素の検量線用標準液並びに各元素の標準溶液はあらかじめ調製しておいたものを用い、検量線法で同定したところ、下記の表1〜表3のような組成であった。なお、表1〜表3では、質量ppmで表記しているが、例えば10000質量ppmは1質量%であり、以下の記載では表1〜表3の「質量ppm(mass ppm)」を「質量%(mass %)」として説明する。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
ここで、実施例1〜6は、Niを0.04〜0.2質量%含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、さらにCuがICP分析による検出限界以下である本発明の半田ボールを示す。実施例7〜25,27〜36は、Niを0.04〜0.2質量%、Mg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を総計で0.005質量%以下含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、さらにCuがICP分析による検出限界以下である本発明の半田ボールを示す。実施例26,37は、Niを0.04〜0.2質量%、Mg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を総計で0.006質量%以下含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、CuがICP分析による検出限界以下である本発明の半田ボールを示す。
【0041】
また、実施例38〜40は、Niを0.05質量%、Agを0.1〜1.5質量%含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、CuがICP分析による検出限界以下である本発明の半田ボールを示し、一方、実施例41〜43は、Niを0.05質量%、Biを0.1〜1.5質量%含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、CuがICP分析による検出限界以下である本発明の半田ボールを示す。さらに、実施例44〜46は、Niを0.04〜0.2質量%、Agを0.1〜1.5質量%、Mg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を総計で0.006質量%以下含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、CuがICP分析による検出限界以下である本発明の半田ボールを示す。一方、実施例47〜49は、Niを0.04〜0.2質量%、Biを0.1〜1.5質量%、Mg,P,Gaの少なくとも1種、または2種以上を総計で0.006質量%以下含有し、残部をSnおよび不可避不純物とした組成により形成し、CuがICP分析による検出限界以下である本発明の半田ボールを示す。
【0042】
実施例1〜49、比較例1〜9の各半田ボールについて、Drop試験による耐落下衝撃特性と、TCT試験による熱疲労特性について調べた。ここでは、半田ボールを実装するプリント基板として、40[mm]×30[mm]×1[mm]サイズ、電極は0.27[mm]ピッチ、電極表面はCu電極のままという仕様のプリント基板を用いた。そして、プリント基板上に水溶性フラックスを塗布してから半田ボールを搭載し、ピーク温度が250[℃]に保たれたリフロー炉内で加熱し、冷却することで前記プリント基板上に半田バンプを形成した。
【0043】
更にその半田バンプ上に、同様の方法で半導体デバイスを接合(半導体デバイス上の電極に水溶性フラックスを塗布してからプリント基板上の半田バンプに当該電極を位置決めし、ピーク温度が250[℃]に保たれたリフロー炉内で加熱し、冷却することで半導体デバイスに半田バンプを接合)させ、プリント基板(電子部品)/半田バンプ(接合部)/半導体デバイス(電子部品)という構成の電子部材を得た。なお、半導体デバイスは8[mm]角、324ピンで、電極はCuである。
【0044】
実施例1〜49、比較例1〜9の各半田ボールを用いて作製した上述の電子部材に対して、2種類の耐落下衝撃特性試験(Drop試験)を行い、各電子部材について耐落下衝撃特性の評価を行った。具体的に耐落下衝撃特性の評価は、JEDEC(半導体技術協会;Solid State Technology Association)規格のJESD22-b111に準拠した試験法として、1500[G]の加速度を0.5[ms]印加する衝撃波を用いたJEDEC規格試験と、今後の使用環境が益々過酷となることをにらんで、JEDEC規格の6倍程度の加速度を印加した過酷試験との2種類の耐落下衝撃特性試験を実施した。
【0045】
過酷試験は、ステンレス板からなるベースプレート上に、上述の電子部材を試験片としてネジ止めし、ベースプレートを70[cm]の高さからステンレス板からなる受け板に向けて落下させ、ベースプレートを受け板に衝突させた。受け板と接触するベースプレートの接触面には、直径1[cm]程度のステンレスネジを埋め込んで重りとし、ベースプレートが受け板に対し水平に落下するように工夫した。一般に、大きな加速度を得るには金属同士を衝突させることが好ましく、この過酷試験ではステンレス同士を衝突させることとした。加速度は、市販の加速度計をベースプレート上にネジ止めしておき、ベースプレートを受け板に向けて落下させるたびに、加速度計での値を測定した。過酷試験では、この加速度計の値を基に加速度を9000〜10000[G]の範囲で調整し、おおむねJEDEC規格である1500[G]の約6倍程度という大きな加速度を得た。
【0046】
JEDEC規格試験および過酷試験のいずれの耐落下衝撃特性試験(Drop試験)でも、ベースプレートを落下させる毎に、試験片(電子部材)のプリント基板および半導体デバイス間の接合部における導通性を導通試験により確認した。そして、電子部材におけるプリント基板および半導体デバイス間の接合部を含む電気抵抗値を、予めプリント基板にひきまわした端子間の抵抗値で測定し、耐落下衝撃特性試験を行う前の初期値の2倍の値を超えたら不良(破断)が発生したと見なした。
【0047】
表1〜表3では、JEDEC規格試験にて、80回落下させても不良が生じなかった半田ボールを○とし、79回以下で不良が生じた半田ボールを×とした。JEDEC規格試験では、表1〜表3に示すように、実施例1〜49、比較例1〜5の半田ボールが○となり、比較例6〜9の半田ボールが×となった。
【0048】
また、表1〜表3では、過酷試験にて、29回以下の落下で不良が生じたら×とし、30〜39回落下させても不良が生じなかったら○とし、40〜44回落下させても不良が生じなかったら◎とし、45回落下させても不良が生じなかったら◎○とした。過酷試験では、表1〜表3に示すように、実施例1〜49の半田ボールが○以上となり、JEDEC規格試験で○であった比較例1〜5の半田ボールや、比較例6〜9の半田ボールが×であった。特にNiの含有量が1.0質量%未満である実施例1〜3は、過酷試験にて◎の結果が得られ、Niを1.0質量%以上含有させた実施例4〜6よりも優れた耐落下衝撃特性を有することが確認できた。その一方で、Niだけを添加した半田ボールであっても、Niの含有量が0.04質量%未満の比較例2や、Niの含有量が0.2質量%を超えた比較例3では、過酷試験の結果が×であった。
【0049】
また、過酷試験の結果から、Ga,Mg,Pのうち少なくとも1種、または2種以上を含有させることで、耐落下衝撃特性が向上することが確認できた。特に、Niの含有量が1.0質量%未満である半田ボールに対して、Ga,Mg,Pのうち少なくとも1種、または2種以上を含有させることで、過酷試験で最も評価の良い◎○となることが確認でき、比較例1〜9に比べて耐落下衝撃特性が飛躍的に向上することが確認できた。
【0050】
なお、実施例1〜49、比較例1〜9の各半田ボールを用いて作製した上述の電子部材に対してTCT試験も行い、各電子部材について熱疲労特性の評価を行った。TCT試験は、−40[℃]で30分間維持した後、125[℃]で30分間維持する一連の工程を1サイクルとし、この1サイクルを所定回数連続して行った。そして、この1サイクルを25回行った毎にTCT試験装置内から試験片(電子部材)を取り出し、プリント基板および半導体デバイス間の接合部を含む電気抵抗値をあらかじめプリント基板にひきまわした端子間の抵抗値で測定する導通試験を行った。導通試験では、電子部材の電気抵抗値がTCT試験を行う前の初期値の2倍を超えたら不良が発生したと見なした。表1〜表3では、その結果を「TCT試験」の欄に示した。
【0051】
表1〜表3の「TCT試験」の欄では、初めて不良が発生した回数が200回以下であれば不良として×とし、200回超350回以下であれば実用上使用できるレベルということで△とし、350回超450回以下であれば良好として○とし、450回超であれば極めて良好として◎とした。その結果、実施例1〜37のAgやBiを添加していない半田ボール(すなわち、Ag,Biの含有量がICP分析による検出限界以下の半田ボール)では、実用上使用できるレベル程度であった。一方、Agを添加した実施例38〜40,44〜46や、Biを添加した実施例41〜43,47〜49では、TCT試験の結果が○以上となり、TCT特性が向上したことが確認できた。
【0052】
但し、これら実施例38〜43では、Niの含有量が0.05質量%(500質量ppm)と少ないものの、過酷試験の結果が○となっており、Niの含有量が同じでAgやBiを添加していない実施例2,9等に比べて、耐落下衝撃特性が劣ることが確認できた。特に、比較例6〜9から、1.5質量%超えてAgを含有させると、TCT特性は飛躍的に向上するものの、本発明で重視している良好な耐落下衝撃特性が得られないことが確認できた。よって、Agを添加してTCT特性を向上させる場合でも、Agは1.5質量%以下であることが望ましいことが確認できた。また、実施例41〜43から、Biを含有させることで、TCT特性を向上させることができるとともに、良好な耐落下衝撃特性も得られることが確認できた。
【0053】
その一方で、実施例44〜46から、Agを添加しても、Ga,Mg,Pのうち少なくとも1種を添加すれば、過酷試験の結果が◎となり、Agを添加しても良好な落下衝撃特性が得られることが確認できた。また、実施例47〜49から、Biを添加しても、Ga,Mg,Pのうち少なくとも1種を添加すれば、過酷試験の結果が◎となり、Biを添加しても良好な落下衝撃特性が得られることが確認できた。
【0054】
以上より、半田ボールの製造過程においてCuを含有させずに、SnにNiを0.04〜0.2質量%含有したSn-Ni系合金でなる半田ボールでは、電極に接合させた際、接合部における熱疲労特性が実用上使用できるレベルであるが、耐落下衝撃特性が飛躍的に向上することが確認できた。