【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電子情報通信学会技術研究報告、信学技報 Vol.113、No.439、P19〜P24(平成26年2月14日発行、発行者:一般社団法人電子情報通信学会)にて発表。 日本超音波医学会第87回学術集会プログラム・講演抄録集、超音波医学 第41巻増刊号、S487(平成26年4月15日発行、発行者:一般社団法人日本超音波医学会)にて発表。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステップ(a)に先立って、少なくとも1つの送信開口素子から前記計測対象物に向けて零度又は非零度の偏角又は仰角及び方位角を有する波動を送信するステップ(a')をさらに具備する、請求項1又は2に記載のビームフォーミング方法。
ステップ(b)が、軸方向yの任意の座標について、各々の波数kに対して、前記の波数マッチングを行った後に、それらの結果を全て加算したものを横方向に関して逆フーリエ変換することによって、直接的にデカルト直交座標系においてイメージ信号を生成することを含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法。
ヤコビ(Jacobi)演算により、補間近似処理を行うことなく、波動の受信が行われたデカルト直交座標系又は直交曲線座標系である直交座標系とは異なる直交座標系において直接的にイメージ信号が生成される、請求項1〜17のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法。
波動源位置又は送信開口素子に関する情報として、受信開口素子に対する位置、存在する位置の方向若しくは距離、開口の方向、又は、生成される波動の伝搬方向が与えられ、該情報に従ってビームフォーミングが行われる、請求項1〜20のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法。
受信信号が複数の異なる波動源から生成された波動の複数の受信信号を含む場合に、多次元スペクトルの重心周波数や瞬時周波数、帯域、MIMO(Multiple-input and Multiple-output)、SIMO(Single-input and Multiple-output)、MUSIC(Multiple Signal Classification)、独立成分分析、符号、又は、各種パラメトリックな方法に基づいて信号を分離し、ビームフォーミングが行われる、請求項1〜20のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法。
受信信号が複数の異なる波動源から生成された波動の複数の受信信号を含む場合に、前記ビームフォーミング方法を使用して得られるイメージ信号に対し、多次元スペクトルの重心周波数や瞬時周波数、帯域、MIMO(Multiple-input and Multiple-output)、SIMO(Single-input and Multiple-output)、MUSIC(Multiple Signal Classification)、独立成分分析、符号、又は、各種パラメトリックな方法に基づいて信号を分離し、ビームフォーミングが行われる、請求項1〜20のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法。
受信信号より得られる、波数マッチング前の角スペクトル又は波数マッチング後のスペクトルに対して、所望する点拡がり関数の角スペクトル若しくはスペクトル又は受信信号の角スペクトル若しくはスペクトルを用いて、超解像を施す、請求項1〜20のいずれか1項に記載のビームフォーミング法。
任意の波動源によって、波動が、受信開口素子アレイで決まるデカルト直交座標系又は直交曲線座標系である直交座標系を任意位置を中心として回転したり、空間的にシフティングして表される座標系において生成される場合に、受信信号に座標の補正をかけた上で、ビームフォーミングが行われる、請求項1〜29のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法。
任意の波動源によって、波動が、受信開口素子アレイで決まるデカルト直交座標系又は直交曲線座標系である直交座標系を任意位置を中心として回転したり、空間的にシフティングして表される座標系において生成される場合に、前記受信開口素子アレイで決まる座標系への変換を伴う送信ビームフォーミングを行た上で、受信ビームフォーミングが行われる、請求項1〜30のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法。
同一の時相の同一時刻、又は、異なる時刻、又は、略同一の時相において複数の波動が受信された場合に、それらが、フーリエ変換前に空間領域で重ね合わされているか、又は、重ね合わせるか、又は、逆フーリエ変換を行う前に、各々の波動の多次元スペクトルが波数領域又は周波数領域において重ね合わされているか、又は、重ね合わされることを特徴とする、請求項1〜35のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法。
受信信号の時間に関するフーリエ変換に複素指数関数(101)又は(201)を掛けて得られる結果を直接に生成する高速フーリエ変換を実施することを含む、請求項1又は2に記載のビームフォーミング方法。
ステップ(b)が、ステップ(a)において生成される受信信号の替りに、前記イメージ信号を生成した後に前記イメージ信号に対してビームフォーミング処理を行うことを含む、請求項1〜41のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法。
送信ビームフォーミングの行われる座標系がデカルト直交座標系又は直交曲線座標系である直交座標系の場合において、受信開口素子アレイの開口の向きによって定まるデカルト直交座標系又は直交曲線座標系である直交座標系の替りに前記送信ビームフォーミングの行われる直交座標系において請求項1〜42のいずれか1項に記載のビームフォーミング方法を施してイメージ信号を生成する演算を行うデジタル信号処理部を具備する装置。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同じ構成要素には同じ符号を用いて、重複する説明を省略する。本発明に係る装置は、計測イメージング装置として使用することもできるし、通信装置として使用することもできる。以下においては、主として、波動が超音波等の音波であるときには音圧又は粒子速度、力学的な波として圧縮波(縦波)又はずり波、衝撃波、表面波等を対象とするときには応力波又は歪波、電磁波を対象とするときには電界又は磁場、熱波を対象とするときには温度又は熱束の透過波や屈折波、反射波、散乱波(前方散乱波又は後方散乱波等)のイメージ信号を生成する場合について説明する。
【0074】
<<第1の実施形態>>
まず、本発明の第1の実施形態に係る計測イメージング装置及び通信装置の構成を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る計測イメージング装置及び通信装置の構成例を示す代表的なブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る計測イメージング装置及び通信装置は、送信トランスデューサ(又はアプリケータ)10と、受信トランスデューサ(又は受信センサー)20と、装置本体30と、入力装置40と、出力装置(又は表示装置)50と、外部記憶装置60とを備えている。
【0075】
図2は、
図1に示す装置本体の構成例を詳しく示す代表的なブロック図である。装置本体30は、主として、送信ユニット31と、受信ユニット32と、デジタル信号処理ユニット33と、制御ユニット34とを備えている。ここで、受信ユニット32がデジタル信号処理ユニット33を含んでも良い。なお、
図1及び
図2は、適度に簡略したブロック図であり、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の詳細は以下の通りである。一例として、上記の装置間や装置本体30内のユニット間や各ユニット内においては、有線技術又は無線技術を基礎として適切に通信が行われるものであり、離れた場所に設置されても良い。装置本体30とは、それらの様な複数のユニットから構成されるものであり、便宜上、その様に呼ぶ。
【0076】
<送信トランスデユーサ>
図2に示す送信トランスデューサ(又はアプリケータ)10は、装置本体30内の送信ユニット31から供給される駆動信号により波動を発生して送信する。本実施形態においては、送信トランスデューサ10の複数の送信開口素子10aがアレイを構成している。
【0077】
図3は、送信トランスデューサにおける複数の送信開口素子の配置例を示す模式図である。
図3(a1)は、1次元アレイ状に密に配列化された複数の送信開口素子10aを示しており、
図3(b1)は、1次元状に疎に存在する複数の送信開口素子10aを示している。
図3(a2)は、2次元アレイ状に密に配列化された複数の送信開口素子10aを示しており、
図3(b2)は、2次元状に疎に存在する複数の送信開口素子10aを示している。
図3(a3)は、3次元アレイ状に密に配列化された複数の送信開口素子10aを示しており、
図3(b3)は、3次元状に疎に存在する複数の送信開口素子10aを示している。
【0078】
各々の送信開口素子10aは、矩形、円形、六角形、又は、その他の開口形状を有しており、また、フラット、凹型、凸型と様々であり、アレイは、1次元、2次元、又は、3次元状のものがある。1つの送信開口素子10aの指向性は、生成する波動の周波数や帯域幅、及び、その送信開口素子10aの開口の形状で決まり、通常、2次元以上の空間で表されるが、少なくとも直交する2方向に指向性を持つ様にいわゆる開口が直交する2方向を向いているものを1素子と勘定することがあるし、直交する3方向に指向性を持つ様にいわゆる開口が直交する3方向に向いているものを1素子と勘定することもある。独立した3方向より多くの方向に指向性を持つ様に開口が3方向より多くの方向を向いている開口をもつ素子も存在する。それらが位置により異なり、混在することもある。
【0079】
送信開口素子10aは、空間的に密又は疎(離れた位置)に存在する場合があるが、特段、1次元〜3次元のアレイ型と区別することなく、本実施形態を説明する。開口素子アレイは、リニア型(素子の並びがフラット)、コンベックス(凸型の円弧状の並び)、フォーカス型(凹型の円弧状の並び)、円形型(例えば、医用超音波等でIVUSに使用される)、球状、凸型又は凹型の球殻状、その他の形状で凸型又は凹型に並ぶもの等、波動を伝搬させる対象(通信対象)や観察対象に対して、様々な様態が取られ、これらに限られるものではない。これらの開口素子アレイを適切に駆動して、上記の平面波等の波面が横方向に広く拡がる波の送波やステアリング、開口面合成や固定送信フォーカス等が行われ、1つのビームや生成された波面を持つ送信波が実現される。
【0080】
電子走査に関しては、後に詳述する通り、1つの送信ビーム又は波面を持つ送信波を生成するべく、
図2に示す送信ユニット31が備える複数の送信チャンネルが生成する独立した駆動信号により、その駆動信号の数と同じ数の送信開口素子10aを独立に駆動できる。1つの送信ビーム又は波面を持つ送信波を生成するために使用される送信開口素子アレイを、送信有効開口とも称する。また、全開口素子を纏めて称する物理開口素子アレイと区別し、この同時に駆動される送信開口素子10aにより実現される送信開口を、送信サブ開口素子アレイ、又は、単に送信サブ開口とも称することがある。
【0081】
波動を伝搬させる対象(通信対象)が広い場合や関心領域全体を一度に観察するべく、物理開口素子アレイにある全開口素子数の送信チャンネル数を備え、常時、それらの全てを使用することもあるが、装置を安価にするべく、電子的に送信チャンネルをスイッチングして送信サブ開口素子アレイを推移させたり(電子走査)、又は、物理開口素子アレイを機械走査すること(機械的走査)により、最小限の送信チャンネル数を用いて関心領域全体に波動が送信されることもある。波動を伝搬させる対象(通信対象)が広い場合や観察対象のサイズが大きい場合には、電子走査と機械走査とが共に実施されることもある。
【0082】
セクタスキャンが行われる場合には、空間的に固定された上記の様な型の開口素子アレイが電子的に駆動されて走査される(電子走査)、又は、開口素子アレイそのものが機械的に走査される(機械走査)、又は、両者が共に実施されることがある。古典的な開口面合成では、開口素子アレイの1素子毎に電子的に駆動する電子走査、又は、1開口素子の機械走査を通じ、異なる位置において送信して送信開口アレイを構成するため、電子走査においては、送信ユニット31が、物理開口アレイの素子数だけの送信チャンネル数を備えることがあるが、スイッチングデバイスを使用するとその送信チャンネル数を減じることができ、機械走査と同様に必ず少なくとも1チャンネルを必要とする。偏波を送信する場合には、少なくとも、一度に駆動する素子数に偏波の数だけ乗じたチャンネル数が、送信ユニット31に必要である。
【0083】
<受信トランスデューサ>
図2に示す受信トランスデューサ(又は受信センサー)20は、送信トランスデューサ10を兼ねることもあるが、送信トランスデューサ10とは別に使用されて受信専用のアレイ型センサーであっても良い。従って、受信トランスデューサ20は、送信トランスデューサ10とは別の位置に設定されることもある。また、受信トランスデューサ20が送信トランスデューサ10の生成する波動とは異なる波動を感知するものであることもある。その様な受信トランスデューサ20が送信トランスデューサ10と同一の位置に設置されたり、一体を成している場合もある。
【0084】
本実施形態における受信トランスデューサ20は、送信トランスデューサ10と同様に、少なくとも1つ以上の受信開口素子20aがアレイを構成しており、各素子が受信した信号は、独立な状態で、装置本体30内の受信ユニット32(
図2)に伝送される。送信開口素子10aと同様に、受信開口素子20aは、矩形、円形、六角形、又は、その他の開口形状を有しており、また、フラット、凹型、凸型と様々であり、アレイは、1次元、2次元、又は、3次元状のものがある。1つの受信開口素子20aの指向性は、受信する波動の周波数や帯域幅、及び、その受信開口素子20aの開口の形状で決まり、複数の開口を備えるものを1素子と勘定することもある。1素子における開口の数が位置により異なり、混在することもある。また、受信開口素子20aが空間的に密又は疎(離れた位置)に存在する場合もあり、ここでは、アレイ型と区別しない(
図3の送信アレイの例を参照)。
【0085】
開口素子アレイは、送信トランスデューサ10のそれと同様に、リニア型(素子の並びがフラット)、コンベックス(凸型の円弧状の並び)、フォーカス型(凹型の円弧状の並び)、円形型(例えば、医用超音波等でIVUSに使用される)、球状、凸型又は凹型の球殻状、その他の形で凸型又は凹型に並ぶもの等、波動を伝搬させる対象(通信対象)や観察対象に対して、様々な様態が取られ、これらに限られるものではない。これらの開口素子アレイを用いて波動を受信して、上記の平面波等の波面が横方向に広く拡がる波の受波やステアリング、開口面合成や固定受信フォーカスやダイナミックフォーカス等が行われ、1つのビームや生成された波面を持つ受信波が実現される。
【0086】
トランスデューサ開口(素子)は、空間的に密でなく、疎(離れた位置)に存在する場合もあり、また、計測対象を機械的に走査して送信又は受信を行うこともあり、一般的にアレイ型と称さないトランスデューサを用いる場合においても同様に受信信号が処理されることがあるが、本願においては、それらを特段に区別することなく、アレイ型デバイスを使用する場合について重点的に述べながら本発明を説明する。例えば、陸地の離れた位置に、レーダー開口がある場合に、各レーダーがアレイを構成している場合もあれば、そうでない場合もある。
【0087】
衛星や飛行機に搭載のレーダーのみならず、トランスデューサで計測対象を機械走査することがあり、そのような場合においても、トランスデューサがアレイを構成している場合もあれば、そうでない場合もあり、空間的に連続的に高密度に、若しくは、離れた位置において空間的に疎に、信号を送信又は受信することもある。従って、古典的な開口面合成(1開口素子による送信)だけでなく、送信ビームフォーミングを行いながら、信号を受信することもある。開口素子が1次元状に存在することもあるし、2次元又は3次元空間において存在することもある。また、電子的な走査を行いながら機械的な走査を行うこともある。
【0088】
電子走査に関しては、後に詳述する通り、1つの受信ビーム又は生成された波面を持つ受信波を実現するべく、受信ユニット32が備える受信チャンネル数の独立した受信信号を開口素子において一度に受信することができる(受信有効開口が決まる)。受信有効開口は、送信有効開口と異なることもある。全開口素子を纏めて称する物理開口素子アレイと区別し、この同時に使用される受信開口素子20aにより実現される受信開口を受信サブ開口素子アレイ、又は、単に受信サブ開口とも称することがある。
【0089】
波動を伝搬させる対象(通信対象)が広い場合や関心領域全体を一度に観察するべく、物理開口素子アレイに設けられた全開口素子数の受信チャンネル数を受信ユニット32が備え、常時、それらの全てを使用することもあるが、装置を安価にするべく、電子的に受信チャンネルをスイッチングして受信サブ開口素子アレイを推移させたり(電子走査)、又は、物理開口素子アレイを機械走査すること(機械的走査)により、最小限の受信チャンネル数を用いて関心領域全体から到来する波動が受信されることもある。
【0090】
波動を伝搬させる対象(通信対象)が広い場合や観察対象のサイズが大きい場合には、電子走査と機械走査とが共に実施されることもある。セクタスキャンが行われる場合には、空間的に固定された上記の様な型の開口素子アレイが電子的に駆動されて、送信と受信を交互に繰り返しながら走査されたり(電子走査)、又は、開口素子アレイそのものが機械的に走査されたり(機械走査)、又は、両者が共に実施されることがある。また、古典的な開口面合成においては、送信に関し、上記の通り、開口素子アレイの1素子毎に電子的に駆動する電子走査、又は、1開口素子の機械走査を通じて、異なる位置において送信して送信開口アレイを構成するため、電子走査においては物理開口アレイの素子数だけの送信チャンネル数を送信ユニット31が備えることがあるが、スイッチングデバイスを使用することにより機械走査と同様に必ず少なくとも1チャンネルを必要とする。
【0091】
一方、その際の受信に関しては、アクティブな送信素子と同一の素子のみで受信する型のモノスタティック型では、受信ユニット32が受信チャンネルを送信チャンネルと同様に備えれば良い。また、アクティブな送信素子を含む周囲の複数の素子で受信を行うことの多いマルチスタティック型では、電子走査では物理開口アレイの素子数だけの受信チャンネル数を受信ユニット32が備えることがあるが、スイッチングデバイスを使用することにより、電子走査と機械走査の両者において、少なくとも受信有効開口の素子数だけの受信チャンネル数を受信ユニット32が備えれば良い。偏波を受信する場合には、少なくとも、受信素子数に偏波の数だけ乗じたチャンネル数が受信ユニット32に必要である。
【0092】
<トランスデューサの具体例>
トランスデューサ10又は20としては、電磁波、光、力学的な振動、音波、又は、熱波等の任意波動を生成又は受信できる様々なものがある。例えば、トランスデューサ10は、任意波動を計測対象に送信すると共に、計測対象内において反射された反射波や後方散乱された散乱波等を受信できることがある(トランスデューサ20を兼ねる)。例えば、任意波動が超音波である場合に、駆動信号に従って超音波を送信すると共に、超音波を受信して受信信号を生成する超音波トランスデューサを用いることができる。応用に合わせて、超音波素子(PZTや高分子圧電素子等)は異なり、トランスデューサの構造が異なることは良く知られている。
【0093】
医療応用において、血流計測では歴史的に狭帯域の超音波を使用することが行われてきたが、本願の第一の発明者は、近年において実用化された軟組織の変位や歪(静的な場合を含む)、ずり波伝搬(速度)の計測の場合を含め、(エコー)イメージング用の広帯域トランスデューサを使用することを世界に先駆けて実現してきた。HIFU治療も然りで、連続波が使用されることもあるが、本願の第一の発明者は、高分解能な治療を実現すべく、広帯域型のデバイスを用いたアプリケータの開発も行っている。強力超音波を使用する場合には、加熱効果を来さない範囲で組織を刺激し、前記の如く計測対象内に力源を生成することもあり、(エコー)イメージング用のトランスデューサが使用されることもある。加熱治療や力源生成、そして、(エコー)イメージングが同時に行われることもある。その他の波動源やトランスデューサにおいても然りである。
【0094】
トランスデューサには接触型と非接触型があり、その都度、整合材を介す(超音波の場合には、ジェルや水等)、又は、予め整合材がトランスデューサに組み込んであるもの(超音波の場合には、整合層)を使用し、計測体対象に対して各波動のインピーダンスマッチングが適切に行われている状態で使用される。パワーや搬送周波数、帯域(広帯域又は狭帯域化、軸方向の空間分解能を決める)、波形の形状、素子の大きさ(横方向の空間分解能を決める)、指向性等が、開口素子レベルとアレイ性能の両面において設計されたものが使用される(詳細は略)。超音波トランスデューサとして、PZTやPVDFが積層されて、送信音響パワーと広帯域性の両者を兼ね備えたもの等、複合的なものもある。
【0095】
駆動信号によって強制振動させる場合においては、その駆動信号により、生成される超音波の周波数や帯域が調整されたり、符号化されることもある(受信に関しては、トランスデューサの帯域内の信号に対して、アナログ又はデジタルのフィルタを用いて帯域を選択することもある)。周波数や感度等の特性の異なる開口素子が並べられている場合もある。医療用超音波トランスデューサは、元より、それらは、ハンディーであり、使い勝手がよいものであったが、最近では、ノンケーブル型のトランスデューサが、ハンディーサイズの装置本体と共に使用される様になった。周波数の低い音(例えば、可聴音)であれば、スピーカーやマイクロフォンがある。他の波動のトランスデューサも同様な観点で実現されることがあるが、その限りではない。
【0096】
あるいは、トランスデューサ10として、任意波動を生成する送信用トランスデューサと、トランスデューサ20として、任意波動を受信する受信用トランスデューサ(センサー)とが用いられても良い。その場合に、送信用トランスデューサは、任意波動を計測対象に送信すると共に、センサーは、計測対象内において反射された反射波又は後方散乱された散乱波、又は、計測対象内を透過した透過波や屈折波、前方散乱等を受信することができる。
【0097】
例えば、任意波動が熱波である場合に、太陽光や照明、生体内の代謝等の故意に生じさせることのない熱源が使用されることもあるが、赤外加温器やヒータ―等の比較的定常なものや、また、駆動信号に従って制御されることが多い加熱用の超音波を送信する超音波トランスデューサ(計測対象内に力源を生成することもある)や電磁波トランスデューサ、レーザー等も使用される。また、熱波を受信して受信信号を生成する赤外線センサー、焦電センサー、マイクロ波やテラヘルツ波の検出器、光ファイバー等の温度センサー、超音波トランスデューサ(超音波の音速や体積変化等の温度依存性を用いて温度変化を検出)、又は、核磁気共鳴信号検出器(核磁気共鳴のケミカルシフトを用いて温度を検出)を用いることができる。各波動に関し、適切に受信できるトランスデューサが使用される。
【0098】
光学デジタルカメラやマンモグラフィーには、CCD(電荷結合素子)技術が使用されており、集積回路とセンサー本体とが一体となっている場合がある。また、超音波2次元アレイにおいても、同技術が応用されており、実時間の3次元イメージングが可能になっている。X線の検出には、シンチレータとフォトカプラの組み合わせが使用されるが、波動として観測できる様になって久しい。高周波信号をデジタル信号として取り込むに当たり、前処理にアナログ的に検波又は変調を行い、低周波数にしてAD変換してメモリや記憶装置(記憶媒体)に格納することは有効である。時には、デジタル検波されることもある。これらが、送信器や受信器と共に、チップや基板によって一体化されることがある。
【0099】
その他、例えば、陸地の離れた位置にレーダーがある場合等の様に、各開口がアレイを構成している場合もあるし、その限りではない場合もある。開口が機械的に走査されて、広い指向性が得られることもある。開口が、空間的に連続的に高密度に、また、離れた位置において空間的に疎に、また、等間隔に等の、ある規則性の下に、また、物理的な制約下において変則的に、設置されることもある。その他、海洋中や建物、又は、屋内等のように、波動を伝搬させる対象(通信対象)や観察位置に対して位置が固定されている場合もある。それらは波動の送信又は受信の専用開口であることがある。また、各開口が両者を兼ねることもあるが、自ら送信した波動の応答を受信するのみとは限らず、他の開口の送信した波動を受信することもある。医療や生物の観察においては、光音響(Photoacoustic)と称されて、レーザー照射により生成される超音波が観測されることもある(複数の波動のトランスデューサが一体化されていることもある)し、病変に親和性のある磁性体を造影剤として静脈注射し、患部に超音波等の振動を与え、電磁波を観測することもある(本願の第一の発明者の過去の発明)。電波を使用して様々な移動体と通信することもある。
【0100】
地震波(地震計)や脳磁(SQUIDアレイ)、脳波、神経回路網(電極アレイ)、電波(アンテナ)、レーダー等のパッシブな観測に使用されるトランスデューサ(アレイ)にも、様々なものがあり、波動源の観測に使用されることがある。到来する波動の伝搬方向を多次元スペクトル解析に基づいて求めたり(本願の第一の発明者の過去の業績)、さらに、本願発明の装置においては、異なる位置に備えられた複数のトランスデューサ又は受信有効開口を使用して、伝搬時間に関する情報が得られない場合(通常、複数位置において波動が観測された時間から波動源の位置等を割り出す)においても、幾何学的に波動源の位置等を割り出すことが可能である。波動がパルス波やバースト波ではなく、連続波でも観測できる。如何なる処理を通じてでも、波動の到来方向がわかった場合において、その方向に、各種ビームをステアリング及びフォーカシングを行い、詳細に観測することも行える。それらの処理において、常に、可能性の高い方向を重点的に、ステアリング角度を変えながら受信ビームフォーミングを行って、得られる像又は結像、空間分解能、コントラスト、信号強度等を観測する、又は、多次元スペクトル解析を通じ、波源の方向を特定することもできる。従って、本願発明の装置で使用されるトランスデューサには、ステアリングにも使用され、電子走査、機械走査、又は、両走査を行う機構が備えられている場合もある。
【0101】
本願発明の有効性を実証できるトランスデューサとして、比較的に身近である典型的なトランスデューサや、特殊なものを幾つか列挙したが、本願発明において使用されるものとしては、応用を含めて、それらに限られるものではなく、電磁波、光、力学的な振動、音波、又は、熱波等の任意波動を生成又は受信できる様々なものを使用できる。
【0102】
<ビームフォーミング>
同時、又は、波動を伝搬させる対象(通信対象)や観察対象の状態が同一又は略同一である同時相、又は、別の時刻若しくは別の時相において、各開口において、1つ以上のビームフォーミング、又は、送信若しくは受信が行われることもある。また、同様にして、開口の1つの組み合わせで、1つ以上のビームフォーミング、又は、送信若しくは受信が行われることもある。また、同様にして、開口の複数の組み合わせの各々が、1つ以上のビームフォーミング、又は、送信若しくは受信を行うこともある。また、それらにおいて、ビームフォーミングや受信の結果が複数得られる場合を含め、それらを用いた線形又は非線形の演算を通じて新たなデータが生成されることもある。
【0103】
また、例えば、衛星や飛行機に搭載のレーダー等の様に空間的に移動するものにおいては、搭載される開口がアレイを構成している場合もあれば、そうでない場合もあり、また、機械走査されて広い指向性が得られることもあり、また、空間的に連続的に高密度に、若しくは、離れた位置において空間的に疎に、若しくは、等間隔である等のとある規則性の下、若しくは、必要に応じて変則的に、送信と受信が行われることもある。移動物体は、その他に、車や船、電車、潜水艦、移動ロボット等、様々である。その他、流通されるもの等、生き物等、規則的又は無作為に移動するものである場合もある。そのような場合には、移動可能な通信機が使用される。RFID(Radio Frequency Identification)タグやICカード等が使用されることもある。
【0104】
その際には、古典的な開口面合成(1開口素子毎の送信に基づく開口面合成)が行われるだけでなく、送信ビームフォーミングを生成しながら、受信ビームフォーミングが行われることもある。また、電子走査を行いながら機械走査が規則的に又は変則的に行われることもあり、空間的に広い範囲に適切に波動を伝搬させたり(通信)、空間的に広い範囲が適切に観察されることもある。無論、多次元アレイを使用することにより、電子走査のみで、空間的に広い範囲に適切に波動を伝搬させたり(通信)、空間的に広い範囲が適切に観察されることもある(物理開口が大きくなるだけでなく、多方向のステアリングも可能になる)。
【0105】
搭載される開口は、波動の送信と受信のための両開口を兼ねることもあるが、自ら送信した波動の応答を受信するのみとは限らず、他の任意の開口の送信した波動を受信することもある。また、複数の移動物体が開口を備えている場合もあり、同時、又は、波動を伝搬させる対象(通信対象)や観察対象の状態が同一又は略同一である同時相、又は、別の時刻若しくは別の時相において、各開口において1つ以上のビームフォーミング、又は、送信若しくは受信が行われることもある。
【0106】
また、同様にして、開口の1つの組み合わせで1つ以上のビームフォーミング、又は、送信若しくは受信が行われることもある。さらに、同様にして、開口の複数の組み合わせの各々が1つ以上のビームフォーミング、又は、送信若しくは受信を行うこともある。また、それらにおいて、ビームフォーミングや受信の結果が、複数得られる場合を含め、それらを用いた線形又は非線形の演算を通じて新たなデータが生成されることもある。上記において、波動を伝搬させる対象(通信対象)や観察対象に対して、移動物体の開口と固定された開口の組み合わせが使用されることもある。
【0107】
この様に、本実施形態では、複数の送信開口素子10aと複数の受信開口素子20aとが存在し(1つの開口素子が、送信開口素子10aと受信開口素子20aとを兼ねることもある)、アクティブにビームフォーミングが行われる。このアクティブビームフォーミングにおいて、高速フーリエ変換を通じて任意のビームフォーミングを高速に補間近似を行わずにデジタル処理によって実現することができる。また、実質的に、任意のフォーカシングと任意のステアリングとを、任意開口形状を有するトランスデューサアレイデバイスを用いて実施することができる。
【0108】
送信は、各開口素子の方向を重視するために、一般的に、物理開口素子アレイの形状で決まる直交座標系において行われるが(仮想音源は別途説明する)、本発明の特徴は、最終的な表示座標系において直接的に波動を表す信号を生成するべく、補間近似処理を行うことなく受信デジタルビームフォーミングを行うことが中心であり、派生的に、送信ビームフォーミングにおける座標系において受信デジタルビームフォーミングを行うことにもある。
【0109】
<送信ユニット>
次に、装置本体30が備える送信ユニット31(
図2)について説明する。送信ユニット31は、複数の送信チャンネルの送信器31aを含んでいる。1つのビームフォーミングを行うに当たり使用する開口素子に異なる駆動信号を送るための回線数が送信チャンネル数である。例えば、下記の如く、この送信チャンネルの形態は様々なものがある。各送信開口素子10aにおいて生成される波動の周波数、帯域幅、波形、及び、指向性は、送信開口素子10aと送信ユニット31とで決まる。
【0110】
インパルス信号を送信開口素子10aに印加すると、送信開口素子10aの形状(厚みや開口の大きさや形)と材料(超音波素子の代表的なものにシングルクリスタル)とで決まる波動が生成されるが、送信ユニット31において生成されて周波数と帯域幅、波形(符号化されていることもある)を持つ駆動信号で送信開口素子10aを強制的に励起することにより、生成される波動の周波数、帯域幅、波形、指向性が調整される。その生成される駆動信号の特性は、制御ユニット34による制御の下でパラメータとして設定される。使用されるトランスデューサを制御ユニット34が認識して、推奨する設定が自動的に行われることもあるが、入力装置40を用いた設定又は調整も可能である。
【0111】
通常、1つのビームフォーミングを行うに当たり、異なるディレイを掛けた駆動信号により複数の開口素子を駆動するために、送信ユニット31はアナログ又はデジタルのディレイパターンを搭載しており、操作者が入力装置40を用いて選択できる送信フォーカス位置やステアリング方向等を実現するディレイパターンが使用されることがある。それらのパターンがプログラマブルであり、目的に応じて、使用するパターンや選択可能なパターンがCD−ROM、フロッピー(登録商標)ディスク、又は、MO等の様々な媒体を通じてインストールされることもある。プログラムを起動して入力装置40よりインターラクティブにパターンを選択できる場合もあるし、ディレイ(パターン)値を直接に入力したり、その他、データの記録されたファイルを読み込ませて設定する場合等、様々な場合がある。特に、アナログディレイの場合に、使用するディレイ値がアナログ的又はデジタル的に変更される場合もあるし、ディレイ回路又はパターンそのものが別のものに付け替えられるか別に切り替えられることもある。
【0112】
装置本体30(
図2)において、制御ユニット34から複数チャンネルの送信器31aに、対応する送信開口素子10aを駆動する駆動信号(符号化されている場合がある)を生成させる指令信号が伝送される。それらの指令信号は、1フレーム分のビームフォーミングを開始するための指令信号を基に生成されることがある。送信ディレイがデジタルである場合に、例えば、最初に駆動する送信開口素子のための送信器31aに送られる指令信号をトリガーとしてデジタルディレイが掛けられ、各送信器31aに指令信号が送られることがある。デジタルディレイにはデジタル回路のディレイデバイスが使用されることもある。
【0113】
また、最初に駆動する素子のために送信器31aにおいて生成された駆動信号そのものにアナログディレイが掛けられ、各開口素子に伝送されることもある。同期を必要としないアナログディレイが使用されるこの場合においては、送信器31aは少なくとも1機で複数の送信開口素子10aを駆動できる。従って、送信アナログディレイは、送信器31aの前後又は内部、又は、制御ユニット34内に設けられ、一方、送信デジタルディレイは、送信器31aの内部又は前、又は、制御ユニット34内に設けられることがある。
【0114】
アナログ回路若しくはアナログデバイス、又は、デジタル回路若しくはデジタルデバイスの切り替えにより、パターンが選択されることもあるが、それらのディレイデバイスのディレイが、制御ユニット34による制御の下で変更される場合もあるし、インストールや入力設定等を通じてプログラマブルであることもある。また、制御ユニット34内にディレイデバイスが設けられていることもある。さらに、制御ユニット34が以下の如く計算機等により構成されている場合には、ソフト制御の下でディレイの掛けられた指令信号が制御ユニット34から直接に出力されることもある。
【0115】
制御ユニット34やデジタルディレイは、汎用の計算処理能力を備えるデバイスや計算機、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphical Processing Unit)、若しくは、マイクロプロセッサ等、又は、専用のデジタル回路、若しくは、専用デバイスであっても良い。それらは高性能(マルチコア等)であることが望ましく、アナログデバイスや、AD変換器32b、メモリ32c、及び/又は、送信又は受信ビームフォーミング処理を行うデジタル信号処理ユニット33をも担うことがある。
【0116】
また、デバイス間の通信回数や通信線路容量、配線、若しくは、広帯域な無線通信は重要であり、特に、本発明においては、それらの機能デバイスが1つのチップや基板に適切に装着される場合(脱着可能な場合)がある。その他に、1つのチップや基板にそれらが直接的に実装されること(積層を含む)もある。並列処理が行われることもある。デバイスが脱着不可能なものであると、計算機が制御ユニット34も兼ねるときにおいて、通常のプログラム制御の下で得られるセキュリティに比べて格段に高いセキュリティ性能を獲得することもできる。その反面、現行の法律では処理内容の開示が求められることが増えるであろう。
【0117】
制御ソフトウェアやディレイ値が直接にコーディング又は入力されるものやインストールされるものもある。デジタルディレイの掛け方はこれらに限られない。送信ディレイにおいてこのデジタルディレイを実施すると、アナログディレイとは異なり、デジタル制御信号を発生するためのクロック周波数で決まる誤差を必ず生じるので、精度の点では送信ディレイはアナログディレイの方が良い。基本的には、コストをかけて高クロック周波数を使用して誤差を低減する。一方、アナログディレイはアナログ的に変更可能であるし、デジタル制御可能なプログラマブルにすることも可能である。しかしながら、デジタルディレイに比べて自由度が低く、コストを下げる場合においては、アナログ回路として搭載されたディレイパターンを切り替えて使用することもある。
【0118】
尚、送信アポダイゼーションは、開口素子の駆動信号のエネルギーや時間的に変化する波形(符号化されていることもある)の振幅の時間変化によって行われる。開口素子の駆動信号の波動への変換効率(変換能)の校正データに基づいて、駆動信号が調節される。別の目的で、校正することだけを目的に駆動信号の調節が実施されることもある。制御ユニット34から送信器31aに送られる指令信号は、送信器31aが生成する駆動信号の波形や位相の情報を時系列として表すものであっても良いし、送信器31aが認識して所定の駆動信号を生成できる符号化されたものであっても良いし、有効開口内の駆動する各開口素子の位置に対して所定の駆動信号を生成する送信器31aに単に送信の指令を下すものであっても良い。
【0119】
また、ディレイと同様に、有効開口内の駆動する各開口素子の位置に対して所定の駆動信号を生成する様に送信器31aがプログラマブルであることがあり、様々な形態を取り得る。駆動信号の生成には、電源や増幅器が使用されるが、電力又はエネルギー供給量の異なる電源や増幅度の異なる増幅器が、切り換えられて使用されたり、1つの駆動信号を生成するために同時に使用されたり、また、送信ディレイパターンと同様に上記の如く直接的に設定されたりプログラマブルであることがある。ディレイとアポダーゼーションは、送信ユニット内において、同じか異なる階層レベルにおいて同じか異なる形態で実現されたものが実施されうるものである。
【0120】
送信有効開口内の開口素子を駆動するための送信チャンネルは、シフトレジスタやマルチプレクサ等のスイッチングデバイスを通じて切り替えられ、別の位置の有効開口が使用されてビームフォーミングを行いながら関心領域が走査されることがある。また、ディレイ素子のディレイ値が可変であるものがあるし、ディレイパターン(ディレイ素子群)が切り換えられることもある。さらに、1つの有効開口において複数方向へのステアリングが行われることもあるし、適宜、開口位置や有効開口幅を変えながら、さらには、複数方向にステアリングが行われることもある。
【0121】
高圧信号をスイッチングする場合においては、専用のスイッチングデバイスが使用される。また、アポダイゼーション素子のアポダイゼーション値が送信時間方向や開口素子のアレイ方向に可変であるものがあるし、アポダイゼーションパターン(アポダイゼーション素子群)が切り換えられることもあり、開口位置やレンジ方向、又は、ステアリング方向に依存してビーム形状が調整されることがある。詳細には、アポダイゼーション値が零の送信素子はアクティブではなくオフであることを意味し、アポダイゼーションは有効素子のスイッチをも担い、有効開口幅をも決め得るものである(開口素子アレイ方向のアポダイゼーションの関数が矩形(rectangular)窓であればスイッチはオンであり、一定値でないときは重みの掛かったオンである)。
【0122】
また、ディレイパターンやアポダイゼーションパターンに関し、装置本体30が複数のパターンを備える場合や、プログラマブルである場合があり、送信対象からの応答や次に説明する受信ユニット32によるビームフォーミングの結果に基づいて、後に説明する装置本体30内のデジタル信号処理ユニット33(
図2)において、伝搬過程の媒体における波動の減衰や散乱(前方散乱又は後方散乱等)、透過、反射、屈折、又は、音速の周波数分散や空間分布等が計算され、各開口から送信する波動のディレイや強度、ビームや波面のステアリング方向、アポダイゼーションパターン等が最適化されることがある。
【0123】
尚、古典的な開口面合成には、1開口素子による送信において行われるモノスタティック型とマルチスタティック型とがあり、アクティブな送信開口素子10aが、上記の如くして、スイッチング又はアポダイゼーションの下で切り替えられる。全送信素子が送信器31aを含む送信チャンネルを備えている場合もある。開口面合成においては、十分な強度又はエネルギーの波動を生成する必要があり、送信アポダイゼーション関数そのものが必ずしも重要であるとは限らない。実質的には、通常、開口面合成は、整相加算器において受信アポダイゼーションと同時に実施されるし、本発明においては、デジタル信号処理ユニット33において、受信アポダイゼーションと同時に実施されることが多い。以上、本実施形態の代表的な送信ユニットについて説明したが、送信ビームフォーミングの可能なものであれば、任意のものを使用でき、記載されている限りではない。
【0124】
<受信ユニット及びデジタル信号処理ユニット>
次に、装置本体30が備える受信ユニット32及びデジタル信号処理ユニット33(
図2)について説明する。受信ユニット32は、複数の受信チャンネルの受信器32aと、AD変換器32bと、メモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)32cとを含んでいる。各受信開口素子において生成される受信信号の周波数、帯域幅、波形、指向性は、受信開口素子20aと受信ユニット32で決まる。波動が受信開口に到来すると、受信開口素子20aの形状(厚みや開口の大きさや形)と材料(超音波素子の代表的なものにシングルクリスタル)とで決まる受信信号が生成されるが、受信ユニット32におけるフィルタリング処理(アナログ増幅器が兼ねることもある)により生成される受信信号の周波数と帯域幅、指向性が調整される。その生成される受信信号は、制御ユニット34による制御の下で設定されるフィルタのパラメータ(周波数や帯域幅等の周波数特性)に基づいて実質的に調整される。使用されるトランスデューサを制御ユニット34が認識して、推奨する設定が自動的に行われることもあるが、入力装置40を用いた設定又は調整も可能である。
【0125】
通常のデジタル受信ユニット又はデジタル受信装置は、この様な機能を備え、さらに、整相加算機能を備える。即ち、デジタル受信ユニット又はデジタル受信装置におけるDAS処理は、複数の受信信号に整相処理を施して、整相処理が施された複数の受信信号を加算するものである。整相処理としては、複数の受信開口の受信チャンネルにおいて受信信号をAD変換して、基本的には読み書きを高速に行えるメモリ、記憶装置、又は、記憶媒体等に格納し、関心領域内の各関心位置に関して整相するべく、格納先から読み出した受信信号に空間領域において補間近似処理を交えて高速にディレイを掛けるものと、多くの時間を要するが、格納先から読み出した受信信号に周波数領域において複素指数関数を乗ずる位相回転によりナイキスト(Nyquist)定理に基づいてディレイを高精度に掛けるもの(本願の第1の発明者の過去の発明)とがある。また、格納先においては、各受信開口の受信信号が受信ディレイに応じた位置に格納される場合もあり、それらの受信信号を読み出して加算したり、又は、それらに上記の処理をさらに施して加算することもある。
【0126】
図4は、整相加算処理を実現する整相加算器を搭載する受信ユニット又は受信装置の典型的な構成とその周辺装置を示すブロック図である。
図4に示す受信ユニット(又は受信装置)35は、複数の受信チャンネルの受信器35aと、AD変換器35bと、メモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)35cとに加えて、整相加算処理を行う整相加算器35dと、生成されたイメージ信号をデジタル信号処理する他データ生成部35eとを備えている。例えば、他データ生成部35eは、画像表示データを生成したり、高次の計算により、例えば、ドプラ(Doppler)法に基づいて変位を計算したり、温度を計算したり等、対象に対して解析を行う。
【0127】
この整相加算処理を関心領域内の各位置において実施することにより、ダイナミックフォーカシングが行われる。本来、ダイナミックフォーカシングは、有効開口において受信したレンジ方向において使う用語(term)であったが、実のところ、本発明によって実施される受信デジタルビームフォーミングにおいては、その限りではない。
図2に示す本発明の実施形態における受信ユニット32は、整相加算(DAS)処理を行う演算過程がその名称の表す上記の演算処理とは異なる高速且つ近似処理を必要としない高精度なデジタルビームフォーミングを行うものである。従って、本発明の実施形態においては、
図4に示す整相加算器35dの代わりに、
図2に示すデジタル信号処理ユニット33が用いられる。デジタル信号処理ユニット33においては、イメージ信号を基に上記の様な他のデータが生成されることもある。
【0128】
通常の整相加算器も本発明の実施形態におけるデジタル信号処理ユニット33によって同様に実現することが可能であるが、特に、本発明の実施形態における受信ユニット32の特徴は、高速且つ高精度な処理を実現するべく、通常は受信開口素子20aにおいて生成される受信信号をアナログ的な増幅又は減衰によるレベル調整やアナログフィルタリング(プグラマブルであり、制御ユニット34を通じて設定される周波数特性やパラメータ下で動作する)等のアナログデバイスを使用して信号強度の確保やノイズの低減を行うことに加え、アナログ信号処理がデジタル信号処理よりも高速である利点を生かして、必要に応じて線形又は特に非線形のアナログ信号処理を行うデバイスを有効的に使用することを含み、それらの処理を通じて得られた信号をAD変換し、その結果として得られるデジタル信号を読み書きの高速なメモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)32cに格納する。
【0129】
また、搭載されるデジタル信号処理ユニット33として、汎用の計算処理能力を備えるデバイスや計算機、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphical Processing Unit)、若しくは、マイクロプロセッサ等が使用され、又は、専用の計算機や専用のデジタル回路、若しくは、専用デバイスが使用されて、格納されているデジタル信号に対して本発明のデジタルの波動信号処理が施される。
【0130】
それらのアナログデバイスや、AD変換器32b、メモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)32c、及び、デジタル信号処理ユニット33(マルチコア等)を担うデバイスが高性能であることは重要であるが、デバイス間の通信回数や通信線路容量、配線、若しくは、広帯域な無線通信は重要であり、特に、本発明においては、それらの機能デバイスが1つのチップや基板に適切に装着される場合(脱着可能な場合)があり、その他に、1つのチップや基板にそれらが直接的に実装されること(積層を含む)もある。並列処理が行われることもある。
【0131】
デバイスが脱着不可能なものであると、計算機が制御ユニット34も兼ねるときにおいて通常のプログラム制御の下で得られるセキュリティに比べて格段に高いセキュリティ性能を獲得することもできる。その反面、現行の法律では処理内容の開示が求められることが増えるであろう。また、そのデジタル信号処理ユニット33が、他ユニットに指令信号を送りそれらを制御する制御ユニット34を兼ねることもある。
【0132】
本発明に実施される受信ユニット32において、受信トランスデューサ(又は受信センサー)20において生成される受信信号のサンプリング(AD変換)をAD変換器32bに開始させるトリガー信号(即ち、AD変換を開始してメモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)32cにデジタル信号を格納することを開始する取り込み開始の指令信号)は、通常の受信ユニットにおいて用いられるトリガー信号と同様である。例えば、駆動する送信開口素子10aへの送信信号を送信器31aが生成する様に制御ユニット34が発生するいずれかの指令信号が使用されることがあり、有効開口の複数の受信開口素子20aにおいて受波する場合においては、最初に駆動する素子のための指令信号か、最後に駆動する素子のための指令信号か、又は、別の素子を駆動するための指令信号が使用され、適宜、所定のデジタルディレイを掛けてAD変換が開始されることもある。
【0133】
それらの指令信号は、1フレーム分のビームフォーミングを開始するための指令信号を基に生成されることがある。つまり、送信トリガー信号の発生回数をカウントし、所定の数、又は、適宜、入力装置40等から入力されて設定される等のプログラマブルなパラメータであることのある数に達したことがハードウェア又は制御プログラムにおいて確認されると、新しいフレームの生成を開始する指令信号が発生されることがある。その数は、他パラメータと同様に、CD−ROMやフロッピー(登録商標)ディスク、又は、MO等の様々な媒体を通じてインストールされることもある。プログラムを起動して入力装置40からインターラクティブに選択できる場合もあるし、数値を直接に入力したり、その他、データの記録されたファイルを読み込ませて設定する場合等、様々な場合がある。その数は、ディップスイッチ等を使用して定めることも可能である。受信ディレイのパターンの数が大きいことが必要とされない場合には、受信信号に対して搭載されたアナログディレイパターンを掛けたものがAD変換されることもある。
【0134】
高速に受信ダイナミックフォーカシングを実現するべく、本願の第1の発明者の過去の発明である周波数領域において信号に複素指数関数の積を施してナイキスト(Nyquist)定理に基づく方法を使用せずに通常の高速な受信デジタルディレイを掛けると、AD変換のサンプリング間隔で決まる誤差を生じるため、コストをかけてAD変換器32bのサンプリング周波数を十分に高くするか、又は、高精度なデジタルディレイ(位相回転処理)による低速ビームフォーミングを行うしかなかった。これに対し、本発明によれば、上記の如く、受信信号を同期してデジタルサンプリングすれば、その種の近似誤差を生じることなく、しかも、高速な受信デジタルビームフォーミングを実施することができる。そのような受信デジタルビームフォーミングは、本願の第1の発明者の過去の発明である周波数領域において複素指数関数の積を演算する方法に比べ、格段に高速でもある。
【0135】
本発明においても、通常においても、1つのビームフォーミングを行うに当たり使用する受信開口素子20aにおいて受波した信号を受信ユニット32に送るための回線数が受信チャンネル数である。その点で、受信ユニット32は以下の通りであり、受信チャンネルの形態も様々なものがある。即ち、通常のビームフォーミングを1回行うに当たり、複数の受信開口素子20aにおいて生成される信号に異なるディレイを掛けるべく、受信ユニット32は、上記の如くアナログ又はデジタルのディレイパターンを搭載しており、操作者が入力装置40を用いて選択できる受信フォーカス位置やステアリング方向等を実現するディレイパターンが使用されることがある。
【0136】
それらのパターンがプログラマブルであり、目的に応じて、使用するパターンや選択可能なパターンがCD−ROMやフロッピー(登録商標)ディスク、又は、MO等の様々な媒体を通じてインストールされることもある。プログラムを起動して入力装置40よりインターラクティブにパターンを選択できる場合もあるし、ディレイ(パターン)値を直接に入力したり、その他、データの記録されたファイルを読み込ませて設定する場合等、様々な場合がある。特に、アナログディレイの場合には、使用するディレイ値がアナログ的に、又は、デジタル的に変更される場合もあるし、ディレイ回路又はパターンそのものが別のものに付け替えられるか、又は、別に切り替えられることもある。
【0137】
また、受信ディレイがデジタルである場合には、各受信チャンネルのメモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)32cに格納されている受信信号が読み出されて整相(加算)される。本実施形態の装置においては、デジタル信号処理ユニット33においてデジタル受信信号にディレイを掛けるか、デジタル回路のディレイデバイスにデジタル受信信号を通過させるか、又は、AD変換器32b及びメモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)32cをオンにするための制御ユニット34からの取り込み開始の指令信号にディレイを掛けることができる。従って、デジタルディレイは、AD変換器32bの内部以降であれば任意位置において、又は、制御ユニット34において掛けることができる。
【0138】
また、アナログディレイの場合には、受信開口素子20aにおいて受信信号を生成した後であれば任意の位置において、又は、制御ユニット34においてディレイを掛けることができる。アナログディレイパターンが使用される場合には、受信器32aは少なくとも1機で複数の開口素子の受信信号を受信できる。従って、受信信号の格納先には、各受信開口の受信信号が受信ディレイに応じた位置に格納されている場合があるし、受信ディレイが全く掛けられていないこともあり、それらを読み出して、デジタル信号処理ユニット33において後述のデジタル波動信号処理が実施されることがある(デジタル信号処理ユニット33は、通常の整相加算処理も実施できることがある)。
【0139】
アナログ回路若しくはアナログデバイス、又は、デジタル回路若しくはデジタルデバイスの切り替えにより、パターンが選択されることもある。また、それらのディレイデバイスのディレイが、制御ユニット34による制御の下で変更される場合や、インストールや入力設定等を通じてプログラマブルであることもある。さらに、制御ユニット34内にディレイデバイスが設けられていることもあり、制御ユニット34が上記の如く計算機等により構成されている場合には、ソフト制御の下でディレイの掛けられた指令信号が制御ユニット34より直接に出力されることもある。
【0140】
制御ユニット34やデジタルディレイは、汎用の計算処理能力を備えるデバイスや計算機、PLD、FPGA、DSP、GPU、若しくは、マイクロプロセッサ等、又は、専用のデジタル回路、若しくは、専用デバイスであっても良い。それらは高性能(マルチコア等)であることが望ましく、アナログデバイスや、AD変換器32b、メモリ32c、及び/又は、送信又は受信ビームフォーミング処理を行うデジタル信号処理ユニット33をも担うことがある。
【0141】
また、デバイス間の通信回数や通信線路容量、配線、若しくは、広帯域な無線通信は重要であり、特に、本発明においては、それらの機能デバイスが1つのチップや基板に適切に装着される場合(脱着可能な場合)がある。その他に、1つのチップや基板にそれらが直接的に実装されること(積層を含む)もある。並列処理が行われることもある。デバイスが脱着不可能なものであると、計算機が制御ユニット34も兼ねるときにおいて、通常のプログラム制御の下で得られるセキュリティに比べて格段に高いセキュリティ性能を獲得することもできる。その反面、現行の法律では処理内容の開示が求められることが増えるであろう。制御ソフトウェアやディレイ値が、直接にコーディング又は入力されるものや、インストールされるものもある。デジタルディレイの掛け方はこれらに限られない。
【0142】
本実施形態においては、装置本体30の制御ユニット34(
図2)から送られてくる上記のトリガー信号を基に、AD変換の開始を指令するトリガー信号(指令信号)が、各受信チャンネルのAD変換器32bに供給される。この指令信号に従って、各チャンネルの受信アナログ信号のAD変換及びデジタル化された信号のメモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)32cへの格納が開始される。送信ユニット31、受信ユニット32、及び、デジタル信号処理ユニット33は、1フレーム分の受信信号が全て格納されるまで、制御ユニット34による制御の下で、送信開口位置や送信有効開口幅、又は、送信ステアリング方向等を変えながら、さらに、波動やビームを送信する毎に受信開口位置や受信有効開口幅、又は、受信ステアリング方向等を変えながら、送信からデジタル信号を格納するまでの処理を繰り返し行い、1フレーム分の受信信号が格納される毎に、その受信信号群に対して本発明において使用されるデジタルの波動信号処理方法、即ち、デジタルビームフォーミング方法を施してコヒーレントな信号を生成する。
【0143】
従って、本発明における装置が上記のアナログやデジタルのディレイを搭載しているとしても、必ずしも、ビームフォーミングのためのディレイとして使用されるとは限らず、メモリ、記憶装置、又は、記憶媒体を節約して有効に利用すると共にアクセス時間を短縮するべく、受信信号のAD変換及びそれらのメモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)32cへの格納を開始するタイミングを遅らせるために使用される場合もある。ビームフォーミングにおける受信ディレイは、必ず、デジタル信号処理ユニット33で実施されるデジタル波動信号処理が主であり、本発明において、その節約とアクセス時間の短縮化の意味は大きい。また、送信時に物理的なビームフォーミングを行わない古典的な開口面合成を行う場合には、送信ディレイは、デジタル波動信号処理において受信ディレイと同一のタイミングで掛けられる。
【0144】
以上のことから、本発明において、受信ユニット32は、必ず、各受信チャンネルにおいて、独立した、アナログ又はデジタルのディレイ、受信器32a、AD変換器32b、及び、メモリ(又は記憶装置又は記憶媒体)32cを備え、必要に応じて、アナログ的な増幅又は減衰によるレベル調整やアナログフィルタ、その他のアナログ演算デバイスを備えるものである。即ち、本発明の装置において、受信ディレイによってこのデジタルディレイを実施するに当たり、ビームフォーミングのためのディレイを掛けない限りは、アナログディレイと同じく、クロック周波数に依存する様な誤差は生じない。
【0145】
つまり、送信のデジタルディレイではクロック周波数で決まる誤差を必ず生じるため、コストをかけて高クロック周波数を使用して誤差を低減する必要があるが、受信のデジタルディレイではその様なことは必要がない。受信ディレイにデジタルディレイを使用すると、精度を低下させることなく、また、ディレイパターンの設定の自由度も高く、送信ディレイにアナログディレイを使用すると、精度が良く、クロック周波数を低くできる。アナログディレイは、アナログ的に変更可能であるし、デジタル制御可能なプログラマブルにすることも可能である。しかしながら、アナログディレイは、デジタルディレイに比べて自由度が低く、コストを下げる場合においては、アナログ回路として搭載されたディレイパターンを切り替えて使用するか、適切なものに付け替えて使用することもある。送信ディレイパターンの設定に高い自由度を要する場合には、高クロックでデジタルディレイを稼働させることが必要となる。
【0146】
以下において、本発明のビームフォーミングそのものにより生成されるコヒーレント信号をイメージ信号と称する。受信有効開口素子やそれらの位置は、送信有効開口素子と同様に制御される(後述)。尚、このデジタルビームフォーミングは、1フレーム分の受信信号が格納される毎に行われるとは限らず、例えば、有効開口幅やそれ以外の所定数、又は、適宜、入力装置40等から入力されて設定される等のハードウェアのチャンネル数かプログラマブルなパラメータであることのある数の受信信号が格納されたタイミング毎に行われることもある(上記の様に様々な入力手段がある)。また、部分的にビームフォーミングされて生成されるイメージ信号を合成して、1フレームのイメージ信号とすることもある。
【0147】
その場合に、走査方向に連続した位置において処理される受信信号がオーバーラップしたものであることがあり、それらの受信信号を合成する際には、単なる重ね合わせが行われる場合(周波数領域で重ね合わせされて逆フーリエ変換されることもある)や、適切に重み付けされて重ね合わせされる場合もあれば、単に接続される場合もある。格納された受信信号の数は、受信信号の取り込みのためのトリガー信号(制御ユニット34から届く指令信号)をカウントしてハードウェア又は制御プログラム内で確認することができるし、上記の通り、1フレーム毎に制御ユニット34が生成する1フレームのデジタル波動信号処理を開始させる指令信号を同様にして確認することができ、適切に1フレームのイメージ信号が連続的に生成される。
【0148】
実現できる最高のフレームレートは、実施するビームフォーミング形態に依存し、基本的に、波動の伝搬速度で決まるが、実際の応用上においては、1フレームのイメージ信号をデジタル計算するのに要する時間で決まる。従って、上記の部分的にイメージ信号を生成する処理を並列処理により実施することは有用である。また、上記の如く、本願の第1の発明者が過去に開発した多方向開口面合成や、1つの送信ビームに対して複数位置における受信ビームや複数方向の受信ビームを生成すること、また、マルチフォーカスを実施することは有用であり、それらを高速に実施するために、並列処理を行うことは有用である。いずれも、上記の送信と受信を行うことを基礎として、1フレーム分又は部分的にビームフォーミングするための受信信号を格納し、後に詳述する本発明におけるデジタル波動信号処理を実施すれば良い。また、実時間でイメージ信号を生成できない場合には、フレームレートを下げる場合もあるし、オフラインで処理されることもある。
【0149】
尚、受信アポダイゼーションは、各開口素子の受信チャンネルにおいて受信信号に対して重み付けを行うものであり、レンジ方向に関して可変であることがある。アナログ的に可変にすることも不可能ではないが、デジタル的に可変にすることは容易である。通常の受信ユニットにおいては、整相加算を行う際に、各位置や各レンジ位置等において実施され、可変であることが多いが、本発明における装置では、デジタル信号処理ユニット33において実施されることになる。一方、可変でないアポダイゼーションが実施されることは稀であるが、その場合には、開口素子によって生成した受信信号にアナログ的な増幅又は減衰によるレベル調整を行う際にアポダイゼーションが行われる。
【0150】
アポダイゼーションとは別の意味であるが、開口素子の駆動信号の波動への変換効率(変換能)の校正データに基づいて、少なくともレベル校正が行われることもあるし、レベル校正と同時にアポダイゼーションも行われることがある。それらの処理を目的にすることもあるし、受信アナログ信号の波形のダイナミックレンジを非線形的に拡大したり圧縮することもあり、各受信チャンネルにおいて、非線形素子等、他のアナログデバイスが使用されることもある。それらの増幅器等を含み、使用されるアナログデバイスがプログラマブルであることもあり、その設定方法は、様々な形態を取り得る。他のパラメータと同様に、各種入力装置を使用して直接的に設定されることもある。通常、ディレイとアポダーゼーションは、受信ユニット32内において、同じか異なる階層レベルにおいて同じか異なる形態で実現されたものが実施されるものであるが、通常は整相加算器において、本発明においてはデジタル信号処理ユニット33において、自由度高く実施され得るものである。
【0151】
受信有効開口内の各開口素子の受信チャンネルは、シフトレジスタやマルチプレクサ等のスイッチングデバイスを通じて切り替えられ、別の位置の有効開口が使用されてビームフォーミングを行いながら関心領域が走査されることがある。また、ディレイ素子のディレイ値が可変であることがあるし、ディレイパターン(ディレイ素子群)が切り換えられることもある。さらに、1つの有効開口において複数方向へのステアリングが行われることもあるし、適宜、開口位置や有効開口幅を変えながら、さらには、複数方向へステアリングも行われることもあり、単にメモリ、記憶装置、又は、記憶媒体を節約してアクセス時間を短縮することもある。頻繁に使用するデータを、適宜、読み書きの容易な小規模なメモリに格納する効果も大きい。
【0152】
本発明において、その節約とアクセス時間の短縮化の意味は大きい。アポダイゼーションパターンを構成するアポダイゼーション素子群が切り換えられることもある。開口位置やレンジ方向、ステアリング方向に依存してビーム形状が調整されることもある。詳細には、アポダイゼーション値が零の受信素子はアクティブではなくオフであることを意味し、アポダイゼーションは有効素子のスイッチをも担い、有効開口幅をも決め得るものである(開口素子アレイ方向のアポダイゼーションの関数が矩形(rectangular)窓であればスイッチはオンであり、一定値でないときは重みの掛かったオンである)。従って、アポダイゼーション素子は、スイッチと同レベルのものである。
【0153】
また、ディレイパターンやアポダイゼーションパターンが、複数のパターンを備える場合や、プログラマブルである場合に、送信対象からの応答やビームフォーミングの結果に基づいて、装置本体30内のデジタル信号処理ユニット33において、伝搬過程の媒体における波動の減衰や散乱(前方散乱や後方散乱等)、透過、反射、屈折、又は、音速の周波数分散や空間分布等が計算され、各開口から送信して各開口において受信する波動のディレイや強度、ビームや波面のステアリング方向、又は、アポダイゼーションパターン等が、最適化されることがある。
【0154】
尚、古典的な開口面合成においては、全受信素子が受信器32aを含む受信チャンネルを備えている場合もある。通常、開口面合成は、整相加算器において受信アポダイゼーションと同時に実施されるし、本発明においては、デジタル信号処理ユニット33において、開口面合成が受信アポダイゼーションと同時に実施されることもある。
【0155】
また、上記の送信ユニット31や受信ユニット32においてパラメータとなる超音波周波数や帯域幅、符号、ディレイパターン、アポダイゼーションパターン、信号処理を目的としたアナログデバイス、有効開口幅、フォーカス位置、ステアリング方向、及び、ビームフォーミングを実施する上で必要とする送信と受信の各々の回数等は、ユニット内の各機能デバイスにCD−ROMやDVD、フロッピー(登録商標)ディスク、又は、MO等の様々な媒体を通じてインストールされることもある。
【0156】
プログラムを起動して入力装置40からインターラクティブにそれらを選択できる場合もあるし、数値を直接に入力したり、入力装置40の操作パネルでそれらを選択したり、その他、データが記録されたファイルを読み込ませて設定する場合等、様々な場合がある。ディップスイッチ等を使用してそれらを定めることも可能である。ユニットの取り換えや切り替えによる場合もある。また、計測対象を選択したり、使用するトランスデューサを装置に装着すると、それらを認識して、推奨されたパラメータの下で装置が自動的に動作することもある。その後の調整も可能である。また、通常の受信ユニットの機能デバイスを搭載しておくと、適宜、本発明の装置を使用して得られるイメージ画像と、通常の整相加算を通じた特に補間近似を含む処理により得られるイメージ画像とを比較することが可能である。
【0157】
<入力装置>
入力装置40は、例えば、上記の如く各種パラメータ値を設定するために使用される。入力装置40そのものとしては、キーボード、マウス、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、又は、トラックボール等の様々なものがあり、それらに限られるものではない。汎用メモリ、USBメモリ、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、フロッピー(登録商標)ディスク、又は、MO等の記憶媒体からオペレーションシステム(OS)やデバイスソフトウェアをインストールしたり、バージョンアップしたり、各種パラメータ値を設定したり、更新したりすることもある。記憶媒体からデータを読み取れる各種デバイスを入力装置40が備えているか、又は、入力装置40がインターフェースを備えて、各種デバイスが必要に応じて装着して使用される。
【0158】
入力装置40は、本実施形態に係る装置の各種動作モードのパラメータを設定するだけでなく、動作モードの制御や切り替えにも使用される。操作者がヒトである場合には、それらの入力装置40は、いわゆる、マン・マシン・インターフェースにもなるが、必ずしもヒトにより制御されるとは限らない。上記の如く、パラメータ値やデータ、又は、制御信号を、他装置から各種規格及びコネクタを通じて受信して、あるいは、有線又は無線通信(即ち、少なくとも受信機能を持つ通信機器)を通じて受信して、同効果が得られること等もあり、上記の例に限られるものでもない。専用か通常のネットワークが使用されることもある。
【0159】
それらの入力されたデータは、装置内部又は外部のメモリ、記憶装置、又は、記憶媒体に格納され、装置内の機能デバイスは、その格納されたデータを参照して動作する。あるいは、装置内の機能デバイスが専用のメモリを搭載している場合には、それにデータが書き込まれて動作設定がソフト的に決められるか、若しくは更新され、又は、ハード的に設定されるか、若しくは変更されることもある。装置内の計算機能が動作して、入力されたデータを基に、時に装置のリソースを勘案し、最適化された設定パラメータが算出されて使用されることもある。動作するモードが指令によって定められることもある。また、計測対象の波動(波動の種類や特徴、強度、周波数、帯域幅、又は、符号等)や、伝搬する対象や媒体(伝搬速度、波動に関わる物性値、減衰、前方散乱、後方散乱、透過、反射、屈折等、又は、それらの周波数分散等)に関する付加情報が与えられ、適切に受信信号がアナログ処理又はデジタル処理されることもある。
【0160】
<出力装置>
出力装置50として代表的なものは表示装置であるが、表示装置は、生成されたイメージ信号を表示するだけでなく、その他、イメージ信号を基に計測された様々な結果を数値やイメージ等として表示するのに使用される。イメージ信号は、計算処理により画像表示又は動画又は静止画のフォーマットに変換(スキャンコンバート)されるが、グラフィックアクセレータが使用されることもある。輝度画像(グレー画像)又はカラー画像が表示され、輝度やカラーの表す意味が目盛り(bar)やロゴ表示されることがある。その他、結果は、鳥瞰図で表示されたり、グラフ表示されることもあるし、結果の表示方法はそれらに限られない。
【0161】
結果が表示される際には、各動作モードと共に、その動作モードが稼働している際の各種パラメータ値やパターン(名)が適切にロゴ又は文字として同時に表示されることもある。また、操作者又は他の装置から入力される計測対象に関する補足情報や各種のデータが表示されることもある。また、表示装置は、入力装置40を用いて各パラメータ値やパターンを設定する際に使用されるGUI(Graphical User Interface)を表示するために使用されることもあり、また、タッチコマンドスクリーンを使用することにより描出されるイメージの任意位置や任意範囲を指定して拡大表示させたり、各種の数値を表示させたりする際にも使用されて、入力装置40の一端を担うこともある。
【0162】
表示装置としては、CRT、液晶、又は、LEDを用いたもの等の様々なものが使用されるが、その他、専用の3次元表示装置等が使用される等、それらに限られない。また、出力データは、直接的にヒトが解釈や読影して使用するものとは限らず、装置本体(計算機)が所定の校正データや計算に基づいて出力データを理解してその結果を表示することもあるし(例えば、受信信号のスペクトル解析から計測対象の組成や構造を理解する等)、出力データが他装置に出力されて他装置で解釈され、さらには同装置(例えば、ロボット等)又は別の装置が出力データを応用することもある。
【0163】
1つの装置が複数種類の波動を受信してイメージ信号を生成し、データマイニングや統合(fusion)等が行われることもあるし、別の装置を使用してその種の処理が行われることもある。生成されたイメージ信号の特徴(強度、周波数、帯域幅、又は、符号等)が解析されることもある。このように、本実施形態に係る装置で得られたデータは、他装置において使用されることがあり、実質的に、少なくとも送信機能を持つ通信機器も出力装置50の1つとなることがある。専用又は通常のネットワークが使用されることもある。
【0164】
<記憶装置>
生成されたイメージ信号やイメージ信号を基に計測された様々な結果(数値やイメージ等)は、出力装置50にもなる装置内部又は外部のメモリ、記憶装置、又は、記憶媒体に格納される。ここでは、それらを「記憶装置」として、表示装置から区別する。
図2等には、外部記憶装置60も示されている。イメージ信号を格納する際には、動作モードや設定パラメータ値、操作者又は他の装置から入力される対象に関する補足情報、又は、各種のデータが、イメージ信号と共に格納されることがある。記憶装置としては、汎用又は特殊なメモリ、USBメモリ、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−R(W)、DVD−R(W)、ビデオレコーダ、又は、画像データ取り込み装置等が使用されるが、記憶装置はそれらに限られない。記憶装置は、格納するデータ量や書き込みや読み出し時間等を含め、その応用に合わせて適切に使用される。
【0165】
過去に格納したイメージ信号やその他のデータを記憶装置から読み出して再生することもあるが、主たるところとしては、記憶装置は、OSやデバイスソフトウェア、又は、設定パラメータが格納されるためのものとして重要である。各機能デバイスが専用の記憶装置を備えていることもある。脱着できる記憶装置は、他の装置で使用されることもある。
【0166】
装置本体30は、記憶装置に格納されたイメージ信号を読み出して高次のデジタル信号処理を施し、イメージ信号の再合成(線形処理や非線形処理による周波数変調や広帯域化、又は、マルチフォーカス等々)、イメージ信号の画像処理(超解像や強調、平滑化、分離、抽出、又は、CG化等)、対象の変位や変形、又は、その他の様々な時間変化等々、各種の計測を行い、イメージや計測結果を出力することもあり、それらが表示装置に表示されることもある。
【0167】
また、それらの格納される計測結果には、波動の減衰や散乱(前方散乱や後方散乱等)、透過、反射、屈折が含まれ、それらが読み出され、イメージ信号を生成する各種パラメータの最適化に使用され、記憶装置に格納されて使用されることもある。最適化は、制御ユニット34又はデジタル信号処理ユニット33に備えられる計算機能により行われる。
【0168】
<制御ユニット>
制御ユニット34は、装置全体の動作を制御する。制御ユニット34は、各種計算機や専用デジタル回路等で構成され、デジタル信号処理ユニット33を兼ねることもある。基本的には、制御ユニット34は、入力装置40を介して入力された各種要求に応じて、記憶装置から読み込んだ各種制御プログラムや各種データに基づき、波動の送受信及び波動デジタル信号処理を行ってイメージ信号を生成するように、送信ユニット31、受信ユニット32、及び、デジタル信号処理ユニット33を制御する。
【0169】
制御ユニット34が専用のデジタル回路で構成されている場合には、パラメータは可変であることもあるが、スイッチングして動作を切り替える場合を含め、決まった動作のみを実現できる場合がある。制御ユニット34として計算機を使用する場合には、バージョンアップを行う場合等を含めて、自由度が高い。制御ユニット34の基本は、送信と受信の開口素子数(各々のチャンネル数)や生成するビーム数、フレーム数(指定せずに停止させない限り動作を継続するものもある)、及び、フレームレート等に応じて、送信ユニット31及び受信ユニット32に繰り返し周波数や送受信位置情報等を提供することで、走査制御とイメージ信号の生成制御を行うことにあるが、上記の各種動作を実現させるべく、そのための制御も行う。また、様々なインターフェースが備えられ、様々なデバイスが連動して使用されることもある。
【0170】
本実施形態に係る装置は、一般的なネットワークやセンサーネットワーク等のデバイスの1つとして使用されることがあり、ネットワークシステムの制御装置により制御されることがあり、また、ネットワークデバイスを制御する制御装置として使用されることもあり、ローカルに構成されたネットワークを制御する制御装置となることもある。そのためのインターフェースが備えられていることもある。
【0171】
<ビームフォーミング方法>
次に、
図2に示す装置本体30のデジタル信号処理ユニット33において実施される、複数の送受信開口素子(アレイ状になったものを含む)を使用する場合のデジタルフーリエ変換を通じた有用な高速なデジタルビームフォーミング方法について説明する。デジタル信号処理においては、適宜、計算過程において生成される途中データや繰り返し使用するデータが記憶装置や備え付けのメモリに格納されることがあり、また、同時相において複数のイメージ信号を生成する場合においても、記憶装置が効率良く使用される。小規模サイズのメモリが重宝することもある。
【0172】
生成されたイメージ信号は、表示装置等の出力装置50に動画又は静止画として表示されたり、ハードディスク等の記録媒体を使用する外部記憶装置60に格納されることもある。尚、デジタル信号処理ユニット33が計算機である場合において、様々な言語を使用でき、アセンブラは有用であるが、特に、C言語やフォートラン(Fortran)等の高級言語プログラムの下で計算機を動作させる場合においては、コンパイル時に最適化や並列処理化を施して、高速な演算を実現することもある。マトラブ(MatLab)や各種の制御ソフトウェア、グラフィックインターフェースを備えたもの等、汎用性のものが使用されることもあるし、特殊なものが使用されることもある。
【0173】
以下においては、一例として、波動が超音波である場合を通じて、本願発明の装置において使用されるビームフォーミング方法について説明する。本実施形態において使用され得るビームフォーミング方法は、次の方法(1)〜(7)であり、方法(7)においては、各種のビームフォーミング法に加えて、デジタル信号処理ユニット33において生成される代表的な観測データについて開示する。
【0174】
方法(1)は、送信方向を偏向(ステアリング)する場合を含む平面波の送波及び/又は受信時の受信ビームフォーミングにおいて、フーリエ空間における波数マッチングを行うに当り、これまで必要とされてきた補間近似処理を要さない方法である。方法(1)は、偏向を実施した場合の波数マッチングにおいて、深さ方向と横方向とにおける波数マッチングを、偏向角度の余弦と正弦に関する複素指数関数を分けて受信信号に掛けることによって行う発明を含み、古典的なモノスタティック型の開口面合成と同様に計測結果が高精度化される。さらに、方法(2)として、モノスタティック型開口面合成による偏向ダイナミックフォーカシングの高速デジタル処理を開示する。
【0175】
さらに、方法(3)として、マルチスタティック型開口面合成の高速デジタル処理を開示する。偏向を行うデジタルモノスタティック型開口面合成は、生成されるイメージ信号の多次元スペクトルの重心(中心)又は瞬時周波数が、偏向角度と搬送周波数とを用いて理想的に表されるもの(後述の通り、波数ベクトルが搬送周波数に偏向角度の正弦と余弦をかけたものを成分とする)となる様に、方法(1)と同様に波数マッチングを行うことにより、補間近似を要さずに高精度に実現できる。一方、マルチスタティック型開口面合成は、送信位置に対して複数個存在する受信位置の同一位置において受信したエコー信号を含むエコーデータフレームを受信素子の数だけ生成し、周波数領域において、各々のエコーデータフレームに上記のモノスタティック型のデジタル開口面合成処理を施し、それらの処理結果を重ね合わせたものを逆フーリエ変換して高精度に実現する。結果的に、方法(3)は、受信開口のチャンネル数と等しい回数のデジタル開口面合成処理でエコーデータを生成でき、いわゆる低空間分解能イメージ信号フレームを生成して重ね合わせて高空間分解能イメージ信号フレームを生成する従来のDAS(Delay and Summation)法よりも格段に高速である。
【0176】
ちなみに、DAS法には、整相を空間領域において補間近似処理を交えて受信信号に高速に遅延(delay)を掛けるものと、周波数領域において遅延(delay)を高精度に掛けて実現するもの(本願の第1の発明者の過去の実績)とがあり、空間領域において受信信号を加算(summation)する。前者は、高速であるが精度が低く、後者は、精度が高いが至極低速である。
【0177】
方法(4)として、方法(1)や方法(3)のビームフォーミングを基礎として、送信固定フォーカス時におけるデジタルダイナミックフォーカス受信を高精度に行う方法を開示する。方法(5)として、コンベックスやセクタスキャン、又は、IVUSへの応用のために、極座標系において送受信したエコーデータに関してもヤコビ(Jacobi)演算を通じた処理を行い、補間近似処理なしに高精度に表示系のデカルト(Cartesian)座標系において直接的にエコーデータを生成できることを開示する。
【0178】
また、方法(6)として、マイグレーション処理においても、本発明を用いて同様に補間近似処理を施さずに高精度に且つ高速に処理できることを開示する。方法(1)〜方法(5)の全てのビームフォーミング処理をマイグレーション処理に基づいて実施できる。最後に、方法(7)として、これらのビームフォーミングを基礎とする応用について開示する。これらにより、フォーカシングとステアリングを基礎とする任意のビームフォーミングを実施できるこことを実証できる。
【0179】
方法(1):平面波送信及び/又は平面波受信のビームフォーミング
(i)平面波送波時のエコー信号(イメージ信号)
図5は、偏向平面波の送波の模式図である。平面波送波とは、リニアアレイ型トランスデューサにおいて全ての素子で同時に超音波を放射し、平面波を放射する方法である。波数がkであり、式(0)によって表される波数ベクトルの平面波を送波したときに(xは走査方向、yは深さ方向であり、受信有効開口素子アレイの位置をy座標の零とするデカルト直交座標系において)、位置(x,y)の音圧場は、式(1)によって表される。
【数7】
【数8】
【0180】
ここで、A(k)は、送波したパルスの周波数スペクトルであり、式(2)の関係がある。
【数9】
【0181】
深さy = y
iに反射係数f(x,y
i)の散乱体があるとき、この散乱体からのエコー信号は、式(3)によって表される。
【数10】
この式の角スペクトルは、式(4)によって表される。
【数11】
【0182】
探触子の周波数応答をT(k)とすると、角スペクトルの原理に基づき、深さy = y
iからのエコー信号の開口面(y = 0)における角スペクトルは、式(5)によって表される。
【数12】
【0183】
従って、それぞれの深さからの角スペクトルを加算することにより、式(6)によって表されるエコー信号の角スペクトルが得られる。
【数13】
【0184】
よって、式(7)及び式(8)として波数マッチングを行うことにより、この逆フーリエ変換により、エコー信号(イメージ信号)は、式(9)として表せる。
【数14】
【数15】
【0185】
送信と受信とを逆に考えると、任意の送信ビームフォーミング(例えば、偏向平面波、偏向された固定フォーカシングビーム、偏向していない波やビーム等、他に様々)を計測対象物に対して行った場合に、計測対象物から到来した波動を偏向角度θの平面波として受波した状況を実現できる。この考え方は、これまでに開示されていない。この様に考えると、任意のステアリング角度(零度又は非零度)の任意のビームや任意の波の送信時に、同一又は異なるステアリング角度θ(零度又は非零度)で波動を受信することが可能である。さらに、任意の波動源や、任意の送信有効開口アレイ(例えば、受信有効開口アレイと同一又は受信有効開口アレイとは別の任意形状で任意方向の開口を持つもの、別の位置に存在するもの、又は、同一の物理開口にはあるが異なる位置の有効開口等)から送信される任意の波動を対象にして、受信開口で定める座標系において受信ビームフォーミングを行うことができる。
【0186】
J.-y. Luらによって開示されている計算方法(非特許文献3、4)は、上記の理論に基づき、まず、受信信号を時間と空間に関して高速2次元フーリエ変換し、R(k
x,k)を計算し、次に、式(7)により波数マッチングを行い、高速2次元逆フーリエ変換を行う。波数マッチングは、線形補間近似や最も近傍のデータそのもので近似することを通じて行われており、精度を得るために受信信号をオーバーサンプリングすることが求められる。
【0187】
(ii)本発明による平面波の送信及び/又は受信時のエコー信号(イメージ信号)の計算手順
以下に、偏向角度θを有する平面波を送信及び/又は受信する場合について説明する。本発明において、波数のマッチングは、受信信号を空間(横方向)に関してフーリエ変換する前段階で、複素指数関数(式(9a))を掛けて、まず横方向に実施し、深さy方向に関しては、深さy方向に分解能を持たせるべく上記の横方向のマッチング処理を除いた複素指数関数(式(9b))を掛けると同時に、複素指数関数(式(9c))を掛けて行われる。無論、偏向角度θは、非零度だけでなく、零度のときでも使用できる。この処理は、先行技術文献には開示されていない。
【数16】
【数17】
【数18】
【0188】
図6は、偏向平面波送波時のデジタル信号処理を示すフローチャートである。計算手順は以下の通りである。まず、ステップS11において、式(10)に示すように、受信信号を時間tに関してフーリエ変換する(FFTがよい)。
【数19】
但し、ωが角周波数(角振動数)、cが音速であるときに、波数k=ω/cである。これより、解析信号を得る。ここでは、上記の説明に合わせて、フーリエ変換として複素指数関数の核の符号が正である処理を示しているが、通常のフーリエ変換と同様に複素指数関数の核の符号を負として計算することも可能である。いずれにせよ、後に計算する逆フーリエ変換においては、必ず符号がフーリエ変換時とは逆の複素指数関数が使用される。他の方法(2)〜(7)においても、同様である。
【0189】
次に、ステップS12において、偏向のための波数k
xに対してマッチング処理を施し、式(10)に式(11)を掛け、ステップS13において、受信信号を横方向xに関してフーリエ変換(FFTがよい)することにより、式(12)が得られる。尚、時間tに関する高速フーリエ変換の結果(10)と複素指数関数(11)の積の計算には、直接に計算結果を生成する専用の高速フーリエ変換が有用である。
【数20】
【数21】
ちなみに、式(12)の結果は、直接に計算することでも得られる。
【0190】
この2回のフーリエ変換により、受信信号は平面波成分に分解される。各平面波が任意の深さyに作る角スペクトルは、上記の通り、式(13)を掛けて位相をずらすことで求められる。
【数22】
【0191】
さらに、ステップS14において、式(14)を同時に掛けることで波数kyに対してマッチング処理を同時に行う。
【数23】
【0192】
ステップS15において、各深さyの角スペクトルを計算する。つまり、式(15)を掛けることにより、式(16)が得られる。
【数24】
【数25】
【0193】
各平面波成分が深さyに作る音圧場は、これを横方向xに関して逆フーリエ変換(IFFT)することにより、式(17)として求まる。
【数26】
これを複数の波数k成分(又は、周波数成分)を足し合わせることにより、イメージ信号が得られる。
【0194】
ここで、波数k(又は、周波数)と空間周波数kxの積分は、順序を入れ替えることができる。従って、ステップS16において角スペクトルの波数k成分を足し合わせ、ステップS17において横方向の波数k
xに関して逆フーリエ変換(IFFT)を行っても、ステップS18においてイメージ信号が得られる。この場合には、1回の逆フーリエ変換で計算ができ、計算がより高速である。他の方法(1)〜(6)についても同様である。偏向のための波数のマッチングは、式(11)及び式(14)によって行われる。周波数領域において補間近似を通じて波数マッチングする方法(非特許文献3、4)と異なり、本発明は、近似処理を行わないため、高精度に計算できる。物理的にも、数学的にも、最初のフーリエ変換時に波数マッチングを行うこともできるし、最後の逆フーリエ変換時に波数マッチングを行うことも可能である。他の方法(1)〜(6)についても同様である。
【0195】
また、2次元開口素子アレイを用いて、任意方向に位置する波動源から計測対象物に向けて任意の波動が送信されて、計測対象物から到来する波動を偏向角度θの平面波として受信して3次元の波動デジタル信号処理を行う場合には、例えば、平坦な受信開口素子アレイの開口の向きによって定まる軸方向y及びこれに直交する横方向x及びzの座標を用いるデカルト直交座標系(x,y,z)において、平面波として受信する方向と軸方向とが成す零度又は非零度の偏向角度が仰角θ及び方位角
φを用いて表される場合において、フーリエ変換は深さy方向と横方向xとzに関する3次元フーリエ変換が行われるが、前記の2次元の波動デジタル信号処理を行う場合と同様に、以下の如く処理される。
【0196】
まず、受信信号を軸方向yに関してフーリエ変換したものに波動の波数k及び虚数単位iを用いて表される複素指数関数(C21)を掛けることにより横方向x及びzに関する波数マッチングを行い、
【数27】
さらに、その積を、軸方向yに関して分解能を持たせるべく横方向x及びzに関してフーリエ変換して得られた角スペクトルに、横方向x及びzに行われた波数マッチングの効果を除いて実施できる複素指数関数(C22)を掛けると同時に、複素指数関数(C23)を掛けることにより軸方向に関する波数マッチングを行い、ここで、横方向の波数がk
x及びk
zで表され、
【数28】
【数29】
補間近似処理を行うことなく波数マッチングを行うことによって、直接的にデカルト座標系においてイメージ信号を生成することができる。即ち、各平面波成分が深さyに作る音圧場は、これを横方向xとzに関する2次元逆フーリエ変換(IFFT)を行い、複数の波数k成分(又は、周波数成分)を足し合わせることにより、イメージ信号を得る。無論、偏向角度が零度(即ち、仰角θ及び方位角
φが零度)のときにも使用できる。
【0197】
尚、上記の計算においては、送信信号で決まる帯域か、受信信号のSN比を勘案して定められる帯域内の信号成分のみが計算対象となる。例えば、式(10)を基に解析信号を生成する際に、必要な帯域内の信号だけが生成されて格納されることがある(ダウンサンプリングに該当する)。本発明の方法又は装置においては、波数マッチングを行う際に補間近似処理を行わないが、エコー信号を深さ方向や横方向にオーバーサンプリングすることによって、混入するノイズに対して頑強となる効果がある。他の方法(1)〜(6)でも同様である。
【0198】
また、式(13)〜(15)において、計算する深さy方向の位置座標や範囲、その座標の間隔等を定めることにより、任意の深さ位置や任意の深さ方向の範囲の、又は、深さ方向に任意の間隔や任意の密度の、イメージ信号を補間近似処理を行うことなく生成できる。また、式(17)の横方向の逆フーリエ変換において、計算する横x方向の位置座標や範囲を定めることにより(必要に応じて、本願の第1の発明者の過去の発明である複素指数関数の乗算を用いた位相回転によるアナログ的な空間のシフティングを施す)、任意の横方向の位置や任意の横方向の範囲のイメージ信号を補間近似処理を行うことなく生成でき、また、同逆フーリエ変換において、高周波帯域の周波数座標を除いて横方向に狭帯域化させたり(空間的に低密度化)、角スペクトルの零詰め処理によって横方向に広帯域化させること(空間的に高密度化)を通じて、横方向に任意の間隔や任意の密度のイメージ信号を補間近似を行うことなく生成できる。
【0199】
この様にして、所望する任意の位置や範囲、間隔、密度で、イメージ信号を生成できる。つまり、受信信号のサンプリング間隔よりも短く、また、受信開口素子の間隔よりもピッチの短い間隔で、イメージ信号を生成することもできる。また、各々の方向に関して、イメージ信号の間隔を粗くすることもできる(但し、ナイキスト(Nyquist)定理は満足されなければいけない)。他の方法(1)〜(6)においても同様である。
【0200】
コンベックス型トランスデューサやセクタスキャン、又は、IVUSにおいて、極座標の半径r方向に送信又は受信をして角度θ方向に広い波(円筒波)を生成する場合(
図7)や、他の開口形状において、後方に設置する仮想源を用いて同ビームフォーミング(円筒波)を行う場合(
図8)には、上記の方法において、デカルト座標(x,y)を極座標(r,θ)に読み替えて処理をすれば良く、極座標(r,θ)においてイメージ信号を生成することができる。球座標系における球面波に関しても同様である。
【0201】
図7は、極座標(r,θ)において角度θ方向に広い波を半径r方向に送波又は受波する場合(円筒波送波)の模式図である。
図7(a)は、コンベックス型開口素子アレイを用いた円筒波送波を示しており、
図7(b)は、セクタ型開口素子アレイを用いた円筒波送波を示しており、
図7(c)は、IVUS(円形型)開口素子アレイを用いた円筒波送波を示している。
【0202】
図8は、任意の開口形状の物理開口の後方に設置された仮想源を用いて極座標系(r,θ)の角度θ方向に広い波を半径r方向に送波する場合(円筒波送波)の模式図である。
図8(a)は、リニア型開口素子アレイを用いた円筒波送波を示しており、
図8(b)は、コンベックス型開口素子アレイを用いた円筒波送波を示しており、
図8(c)は、その他の任意開口素子アレイを用いた円筒波送波を示している。
【0203】
送信フォーカスする場合は、非特許文献6に報告があり、同様に、極座標(r,θ)において結果が得られる。例えば、広いFOVが得られる効果がある。非特許文献6とは別の方法として、本発明の1つの特徴として、本方法(1)を用いて、これらの極座標系(r,θ)の座標位置においてもステアリング角度を持つステアリングビームを生成することが可能であり、以下の方法(2)〜(4)及び(6)を用いる場合にも同様であり、それらにおいて、デカルト座標(x,y)を極座標(r,θ)に読み替えて処理をすればよい。但し、これらのビームフォーミングを行った場合は、表示系のデカルト座標系の座標位置における信号値を得るべく、補間処理を行う必要が有り、周波数領域における複素指数関数の積による位相の回転を用いた厳密な補間処理を時間をかけて行うか、又は、近似誤差を伴うが短時間の処理として補間近似処理が施される。球座標においても同様である。
【0204】
また、極座標系においてビームフォーミングを行うこれらの場合において、変位計測を行うこともでき、例えば、半径r方向又は角度θ方向の変位成分の計測を行うことができ、若しくは、両方向の変位成分から成る変位ベクトルを計測することができる。但し、計測後に表示系のデカルト座標系の座標位置における計測結果を得るべく、補間処理を行う必要が有り、エコー信号の補間時と同様に、周波数領域における複素指数関数の積による位相の回転を用いた厳密な補間処理を時間をかけて行うか、又は、近似誤差を伴うが短時間の処理として補間近似処理が施される。球座標系においても同様である。
【0205】
変位計測の結果から、微分フィルタを用いた偏微分処理により、歪や歪速度(テンソル)、速度(ベクトル)、加速度(ベクトル)が求められ、さらに、力学的な特性(例えば、体積弾性率やずり弾性率、その他、非等方性媒体の弾性率テンソル等)、温度等が演算を通じて求められることがある。補間近似を実施する場合には、近似処理を施してデカルト座標系でそれらの計算を行うと計算時間を短縮化できることが多いが、極座標系において演算を実施して結果を得、それを補間近似して表示すると良く、誤差の伝搬を小さくできる。つまり、変位計測後の処理過程において生じる誤差としては、最後の表示データを得る際の補間近似のみとなる(同一の変位データから複数の表示データを得る場合はある)。
【0206】
一方、同じく、コンベックス型トランスデューサやセクタスキャン、又は、IVUS等において、極座標(r,θ)において角度θ方向に広い波を半径r方向に送波又は受波(円筒波)する場合(
図7)と、任意の開口形状の物理開口の後方に設置された仮想源を用いて
図7と同一の極座標系(r,θ)の角度θ方向に広い波を半径r方向に送波(円筒波)する場合(
図8)とにおいて、直接にデカルト座標においてイメージ信号を生成する方法は、それぞれ、方法(5−1)及び(5−1')等として説明される。これらの場合には、エコー信号のイメージング及び変位計測等を、一貫して、同一のデカルト座標系において実施できる。極座標系においても同様である。
また、本方法(1)〜(7)においては、受信信号に対し、送信又は受信、又は、両方のアポダーゼーション処理は、線形処理であるがゆえに様々なタイミングで実施できる。つまり、受信時にハード的に行うか、又は、受信後においてソフト的に様々なタイミングで実施できる。
【0207】
尚、当然のことであるが、エコー信号ではなく、透過波を受信してビームフォーミングする場合には、座標yは、往復距離の半分(伝搬時間tを用いてct/2と表される)ではなく、受信開口素子アレイで決まる座標系において、開口素子からの距離(ct)である。
【0208】
次に、開口面合成を行う場合について説明する。開口面合成にはモノスタティック型とマルチスタティック型がある。
方法(2):モノスタティック型開口面合成
図9は、モノスタティック型開口面合成の模式図である。モノスタティック型開口面合成は、アレイの1つの素子から超音波を放射し、その素子自身でエコーを受信するものである。開口面合成においても、
図6の手順で波数マッチングを行うことにより、エコー信号(イメージ信号)を計算できる。
【0209】
モノスタティック型開口面合成では送受信を同一の素子で行うため、送信時の散乱体への音の伝播経路と、受信時の散乱体の反射音の伝播経路は同じである。よって、受信有効開口素子アレイの位置を軸方向y座標の零とするデカルト直交座標系において、ステアリングを実施しないとき(θが零度)は、式(18a)に示すように、波数kを2倍とし(s=2、以下、同様)、式(7)と式(8)で表される波数のマッチングを行う。透過波の場合には波数2kではなく、kを用いる(s=1、以下、同様)。
【数30】
【0210】
また、ステアリング角度θが非零度のときは、超音波信号の搬送周波数ω
0を用いて表される波数k
0(=ω
0/c)を持つ波数ベクトル(0,k
0)に対し、波数ベクトル(sk
0sinθ,sk
0cosθ)を多次元スペクトルの重心(中心)又は瞬時周波数として持つイメージ信号を生成するべくスペクトルのシフティングを行うビームフォーミングを行う(
図10参照)。即ち、式(7)と式(8)において、式(18b)と表される波数マッチングを行う。
【数31】
【0211】
信号処理は、方法(1)と同様に行われ、特に、波数マッチングは、受信信号を空間(横方向)に関してフーリエ変換する前段階において、複素指数関数(式(9a))の代わりに超音波信号の搬送周波数ω
0を用いて表される複素指数関数(式(19a))を掛けて、まず横方向に実施し、深さy方向に関しては、深さy方向に分解能を持たせるべく、複素指数関数(式(9b))の代わりに横方向のマッチング処理(式(19a))を除いた複素指数関数(式(19b))を掛けると同時に、複素指数関数(式(9c))の代わりに複素指数関数(式(19c))を掛けて行われる。無論、偏向角度が零度のときにも使用できる。この処理は、先行技術文献には開示されていない。
【数32】
【数33】
【数34】
【0212】
また、例えば、エコー法(反射法)においては、送信ビームと受信ビームの偏向角度が異なる場合があり、その場合においては、送信ビームと受信ビームの各々の偏向角度をθ
tとθ
rとすると、式(7)と式(8)において、s=2の下で、式(18c)と表される波数マッチングを行う。
【数35】
【0213】
信号処理は、上記の送信ビームと受信ビームの偏向角度が等しい場合と同様に行われ、特に、波数マッチングは、受信信号を空間(横方向)に関してフーリエ変換する前段階において、複素指数関数(式(19a))の代わりに超音波信号の搬送周波数ω
0を用いて表される複素指数関数(式(19d))を掛けて、まず横方向に実施し、深さy方向に関しては、深さy方向に分解能を持たせるべく、複素指数関数(式(19b))の代わりに横方向のマッチング処理(式(19d))を除いた複素指数関数(式(19e))を掛けると同時に、複素指数関数(式(19c))の代わりに複素指数関数(式(19f))を掛けて行われる。無論、偏向角度θ
tやθ
rが零度のときにも使用できる。この処理も、先行技術文献には開示されていない。
【数36】
【数37】
【数38】
【0214】
また、2次元開口素子アレイを用いて3次元の波動デジタル信号処理を行う場合には、例えば、平坦な受信開口素子アレイの開口の向きによって定まる軸方向y(受信有効開口素子アレイの位置のy座標を零とする)及びこれに直交する横方向x及びzの座標を用いるデカルト直交座標系(x,y,z)において、生成されるビームの方向と軸とが成す零度又は非零度の偏向角度が仰角θ及び方位角
φを用いて表される場合において、フーリエ変換は深さy方向と横方向xとzに関する3次元フーリエ変換を行い(軸方向y及び横方向x及びzの波数をそれぞれk
y、k
x、及び、k
zとする波数領域(k
x,k
y,k
z)を考える)、前記の2次元の波動デジタル信号処理を行う場合と同様に、以下の如く処理される。
【0215】
まず、波動の搬送周波数ω
0を用いて表される波数k
0(=ω
0/c)を有する波数ベクトル(0,
k0,0)に対し、波数ベクトル(sk
0sinθcos
φ,sk
0cosθ,sk
0sinθsin
φ)を多次元スペクトルの重心(中心)又は瞬時周波数とするイメージ信号を生成するべくスペクトルのシフティングを伴う送信及び受信のダイナミックフォーカシングを行うべく、受信信号を軸方向yに関してフーリエ変換したものに、送信開口素子のy座標が零のときに値が2であり送信開口素子のy座標が非零のときに値が1であるパラメータs、波動の重心(中心)周波数k
0、及び、虚数単位iを用いて表される複素指数関数(C41)を掛けることにより、横方向x及びzに関する波数マッチングを行い、
【数39】
さらに、その積を、軸方向yに関して分解能を持たせるべく横方向x及びzに関してフーリエ変換して得られる角スペクトルに、横方向x及びzに行われた波数マッチングの効果を除いて実施できる複素指数関数(C42)を掛けると同時に、複素指数関数(C43)を掛けることにより軸方向に関する波数マッチングを行い、
【数40】
【数41】
補間近似処理を行うことなく波数マッチングを行うことによって、直接的にデカルト座標系においてイメージ信号を生成することができる。即ち、各平面波成分が深さyに作る音圧場は、これを横方向xとzに関する2次元逆フーリエ変換(IFFT)を行い、複数の周波数k成分を足し合わせることにより、イメージ信号を得る。無論、偏向角度が零度(即ち、仰角θ及び方位角
φが零度)のときも計算できる。
【0216】
また、例えば、エコー法(反射法)においては、送信ビームと受信ビームの偏向角度が異なる場合があり、その場合において、各々の偏向角度が、(仰角,方位角)=(θ
t,
φt)と(θ
r,
φr)を用いて表されるとすると、信号処理は、s=2の下で、上記の送信ビームと受信ビームの偏向角度が等しい場合と同様に行われ、特に、波数マッチングは、受信信号を空間(横方向)に関してフーリエ変換する前段階において、複素指数関数(式(C41))の代わりに超音波信号の搬送周波数ω
0を用いて表される複素指数関数(式(D41))を掛けて、まず横方向に実施し、深さy方向に関しては、深さy方向に分解能を持たせるべく、複素指数関数(式(C42))の代わりに横方向のマッチング処理(式(D41))を除いた複素指数関数(式(D42))を掛けると同時に、複素指数関数(式(C43))の代わりに複素指数関数(式(D43))を掛けて行われる。無論、送信ビームと受信ビームの偏向角度が零度(即ち、θ
t、
φt、θ
r、及び、
φrが零度)のときにも使用できる。この処理も、先行技術文献には開示されていない。
【数42】
【数43】
【数44】
【0217】
開口面合成は、開口面合成用に収集したエコー信号(本方法(2)のモノスタティックだけでなく、方法(3)のマルチスタティックにおいても)を用いて任意のビームフォーミングを生成できる(実のところ、それらのデータに方法(1)や(4)〜(7)に記載の処理を施してもイメージ信号は生成できる)。方法(1)の平面波の処理においても、符号を用いることで、開口面合成処理を施すことができる。また、コンベックス型トランスデューサやセクタスキャン、又は、IVUS等において、極座標(r,θ)において角度θ方向に広い波を半径r方向に送波又は受波(円筒波)する場合(
図7)や、任意の開口形状の物理開口の後方に設置された仮想源を用いて
図7と同一の極座標系(r,θ)の角度θ方向に広い波を半径r方向に送波(円筒波)する場合(
図8)や、その極座標系において開口面合成用に収集したエコー信号に対して、方法(1)と同様に、デカルト座標(x,y)を極座標(r,θ)に読み替えて処理をすれば良く、デカルト座標系(x,y)や極座標(r,θ)においてイメージ信号を生成することができる。他の送信ビームフォーミングを行った場合や、それらを球座標系において実施した場合においても同様である。また、受信信号に対し、送信又は受信、又は、両方のアポダーゼーション処理は、線形処理であるがゆえに様々なタイミングで実施できる(受信時にハード的に、又は、受信後にソフト的に)。
【0218】
方法(3):マルチスタティック型開口面合成
図11は、マルチスタティック型開口面合成の模式図である。マルチスタティック型開口面合成は、アレイの1素子から超音波を放射し、エコーをその素子周辺の複数の素子で受信する方法である。1回の放射ごとに低分解能イメージ信号が得られ、複数に得られる低分解能イメージ信号を重ね合わせることにより高分解能のイメージ信号を生成する。
【0219】
上記の通り、通常は、各素子の放射毎に受信したエコー信号から低分解能エコー信号を生成し、それらを重ね合わせるのが従来の方法である。これに対し、本発明では、送受信位置の関係が同一の信号から成る信号群を1つのセットとして、1セット毎にデジタルのモノスタティック型開口面合成を施し、本方法(3)により複数に得られるそれらの低分解能イメージ信号を重ね合わせて処理を終える。実際には、線形処理である重ね合わせは逆フーリエ変換処理の前の周波数領域において実施でき、その方が高速であり、また、その重ね合わせを行うための横方向の位置合わせも、重ね合わせする際に、横方向のシフティング処理を行うための複素指数関数を掛けて横方向に位相を回転させることにより高速に行い、補間近似することなく、イメージ信号を生成できる。
【0220】
但し、重要なことは、モノスタティック型開口面合成処理のプログラムを応用するに当たり、受信位置と送信位置の距離をΔxとすると、Δxだけ離れた位置で受信するまでの伝播経路の換算距離y'を計算して使用することであり、偏向角度が零度の時は、式(20)によって表される換算距離を計算することである。
【数45】
【0221】
偏向角度がθ(零度を含む)の場合には、少なくとも受信のダイナミックフォーカシング(s=2のときは、送信のダイナミックフォーカシングも実現できる)が施されたビームを生成するマルチスタティックな開口面合成を行うビームフォーミング方法として、送信有効開口素子アレイ内の複数の送信開口素子の1つずつから波動を送信し、計測対象物から到来する波動を、異なる位置における複数の受信開口素子の少なくとも1つによって受信して受信信号を生成し(1つである場合も、本願発明の装置では処理可能である)、その送信開口素子は、波動が、計測対象物における少なくとも反射若しくは後方散乱によって生成されたもの(s=2)、又は、計測対象物における少なくとも透過、前方散乱、若しくは、屈折により生成されたもの(s=1)となる様に、受信信号を生成する受信開口素子のx座標に寄らずに任意のx座標を有し、さらに、零のy座標を有する、受信有効開口素子アレイ内のいずれかの受信開口素子を兼ねるか、又は、いずれの受信開口素子とも異なる複数の送信開口素子の1つずつ、又は、非零の一定のy座標を有する、受信有効開口素子アレイと対向する位置にある送信有効開口素子アレイ内の複数の送信開口素子の1つずつのことである。
【0222】
送信位置と受信位置との間の横方向座標における距離Δxが等しい受信信号を並べて得られる受信信号群の各々に対して、送信開口素子のy座標が零のときに
、送信開口の位置を含む関心点のy座標と距離Δxとを用いて表される送信開口素子と関心点と受信開口素子との間を結ぶ直線距離の半分の距離(式(
20))、又は、送信開口素子のy座標が非零のときに
、関心点のy座標と送信開口素子のy=Y座標と距離Δxとを用いて表される送信開口素子と関心点と受信開口素子との間の距
離を用いて、上記のモノスタティック開口面合成において偏向角度を
設定して得られるイメージ信号の各々を周波数領域において横方向の位置に関して補正し、それらを重ね合わせて補間近似処理を行うことなくイメージ信号を生成することができる。
【0223】
また、2次元開口素子アレイを用いて3次元の波動デジタル信号処理を行う場合には、例えば、平坦な受信開口素子アレイの開口の向きによって定まる軸方向y及びこれに直交する横方向x及びzの座標を用いるデカルト直交座標系において、同様に処理することができ、生成されるビーム方向と軸方向とが成す零度又は非零度の偏向角度が仰角θ及び方位角
φを用いて表される場合において、送信有効開口素子アレイ内の複数の送信開口素子の1つずつから波動を送信し、計測対象物から到来する波動を、異なる位置における複数の受信開口素子の少なくとも1つによって受信して受信信号を生成し、その送信開口素子は、波動が、計測対象物における少なくとも反射若しくは後方散乱によって生成されたもの(s=2)、又は、計測対象物における少なくとも透過、前方散乱、若しくは、屈折により生成されたもの(s=1)となる様に、受信信号を生成する受信開口素子のx座標及びz座標に寄らずに任意のx座標及びz座標を有し、さらに、零のy座標を有する、受信有効開口素子アレイ内のいずれかの受信開口素子を兼ねるか、又は、いずれの受信開口素子とも異なる複数の送信開口素子の1つずつ、又は、非零の一定のy座標を有する、受信有効開口素子アレイと対向する位置にある送信有効開口素子アレイ内の複数の送信開口素子の1つずつのことである。
【0224】
送信位置と受信位置との間の横方向のx座標及びz座標における距離Δx及びΔzが等しい受信信号を並べて得られる受信信号群の各々に対して、送信開口素子のy座標が零のときに
、送信開口位置を含む関心点のy座標と距離Δx及びΔzとを用いて表される送信開口素子と関心点と受信開口素子との間を結ぶ直線距離の半分の距離、又は、送信開口素子のy座標が非零のときに
、関心点のy座標と送信開口素子のy座標と距離Δx及びΔzとを用いて表される送信開口素子と関心点と受信開口素子との間の距離を用いて、前記のモノスタティック型開口面合成において偏向角度を
設定して得られるイメージ信号の各々を周波数領域において横方向の位置に関して補正し、それらを重ね合わせて補間近似処理を行うことなくイメージ信号を生成できる。
【0225】
また、未知の波動源又はそれが生成する波動の伝搬を表すイメージ信号を生成するべく(いわゆる、パッシブモード)、推定される未知波動源のy座標を送信開口素子のy座標に設定して、ビームフォーミングを行うと良い。試行錯誤的にy座標を変えながら、観測してみることも有効である。例えば、結像されるとか、空間分解能が高くなるとか、信号強度が強くなる、コントラストが増加するとか等の効果が得られるとよく、これらを判定基準として、一連の処理を自動的に行うことも可能である。
【0226】
後述の通り、波動源位置又は送信開口素子に関する情報として、受信開口素子に対する位置、存在する位置の方向若しくは距離、開口の方向、又は、生成される波動の伝搬方向が与えられることが
ある。また、任意の波動源によって波動が生成された時刻が与えられることもある。他装置によって観測されることもあるし、波動源から、その受信信号そのものか、それよりも高速に伝搬する波動が発せられて伝えられること等がある。
【0227】
受信信号に対して、多次元スペクトルの重心(中心)周波数又は瞬時周波数を求め、こりより、波動源の存在する方向又は波動の伝搬方向を求め、送信又は受信の偏向角度を調整して、ビームフォーミングが行われることもある。また、ビームフォーミングされたイメージ信号に対して、多次元スペクトルの重心(中心)周波数又は瞬時周波数を求め、これより、波動源の存在する方向又は波動の伝搬方向を求め、送信又は受信の偏向角度を調整して、ビームフォーミングが行われることがある。これらの処理を複数の受信開口又は受信有効開口において実施し、幾何学的に波動源の存在する位置又は方向求めることもできる。これらの処理は有用であり、他のビームフォーミングに応用されることもある。
【0228】
方法(2)のモノスタティック型開口面合成において説明した通り、本方法(3)のマルチスタティック型開口面合成においても、開口面合成用に収集したエコー信号を用いて任意のビームフォーミングを生成できる(実のところ、それらのデータに方法(1)や(4)〜(7)に記載の処理を施してもイメージ信号は生成できる)。モノスタティック型に比べてデータ量が豊富であることが有効であることがあるが、計算量は増大する。方法(1)の平面波の処理においても、符号を用いることで、開口面合成処理を施すことができる。また、コンベックス型トランスデューサやセクタスキャン、又は、IVUS等において、極座標(r,θ)において角度θ方向に広い波を半径r方向に送波又は受波(円筒波)する場合(
図7)や、任意の開口形状の物理開口の後方に設置された仮想源を用いて
図7と同一の極座標系(r,θ)の角度θ方向に広い波を半径r方向に送波(円筒波)する場合(
図8)や、その極座標系において開口面合成用に収集したエコー信号に対して、方法(1)と同様に、デカルト座標(x,y)を極座標(r,θ)に読み替えて処理をすれば良く、デカルト座標系(x,y)や極座標(r,θ)においてイメージ信号を生成することができる。他の送信ビームフォーミングを行った場合や、それらを球座標系において実施した場合においても同様である。
【0229】
また、上記の如く、偏向することが可能であるが、送信ビームフォーミングと受信ビームフォーミングのステアリング角度が異なる場合も同様に処理できる。送信開口素子と受信開口素子との距離、送信ステアリング角度と受信ステアリング角度、透過型の場合は送信開口素子と受信素子との距離も用いて換算距離を計算すればよい。また、送信時にアポダーゼーションを実施することもあるし、実施しないこともある。また、受信アポダーゼーション処理も線形処理であるがゆえに様々なタイミングで実施できるが(ハード的に、又は、ソフト的に)、ソフト的に実施する場合には、例えば、生成する低分解能エコー信号の数を決める有効開口幅等に依存する計算量を加味して適切なタイミングで容易に実施可能である。例えば、低分解能エコー信号の生成を開始するための各セットを重み付けするか、又は、生成された低分解能信号に周波数領域又は空間領域においてアポダーゼーションできる。
【0230】
方法(4):固定フォーカシング
図12は、リニア型アレイを用いた固定フォーカシングの模式図である。固定フォーカシングとは、1点をフォーカス点とし、フォーカス点に同時に超音波が到達する様に、各素子に遅延を与える方法である。アレイ型トランスデューサの物理開口の一部又は全てを有効開口として受信して、計測対象が走査される。無論、ステアリングを行うこともある。送信と受信のステアリング角度が異なることもある。
【0231】
固定フォーカシングは、イメージ信号の生成を、方法(1):平面波受信時のビームフォーミング、又は、方法(3):マルチスタティック型開口面合成により行う。その場合に、以下の3通りの方法がある。
(i)有効開口幅において得られた各受信信号を重ね合わせに対して、1回のイメージ信号生成処理を施す。
(ii)1回の送信毎の受信信号を用いていわゆる通常の低分解能イメージ信号を生成して、それらを重ね合わせる。
(iii)マルチスタティック型開口面合成と同様に、送受信の位置関係が同じものをセットにしてイメージ信号を生成して、それらを重ね合わせる。
【0232】
コンベックス型トランスデューサやセクタスキャン、又は、IVUSにおいて極座標の半径r方向に送信及び受信を行う場合や、任意の開口形状において後方に設置する仮想源を用いてビームフォーミングを行う場合には、デカルト座標(x,y)を極座標(r,θ)に読み替えて処理をすれば良く、極座標(r,θ)においてイメージ信号を生成することができる。そのイメージの生成後に補間近似を必要とすることがあることは前記の通りである。球座標系を使用する送信と受信においても同様である。送信フォーカスする場合に近似処理を交えて行う処理の報告(非特許文献6)があり、同様に、極座標(r,θ)において結果が得られる。本願の第1の発明者は、それらの極座標系や球座標系、また、任意の直交曲線座標系における送信又は受信のビームフォーミングの結果として、デカルト座標系において直接的にイメージ信号を生成する方法(5−1)、(5−1')、及び、(5−2)も発明した。送信時にアポダイゼーションされることもあるし、受信信号に対し、受信アポダーゼーション処理を行うこともある(受信時にハード的に、又は、受信後にソフト的に)。アポダイゼーションをソフト的に実施する場合には、方法(1)又は方法(3)に従って行う。
【0233】
方法(5):極座標系におけるイメージ信号生成
方法(5)は、コンベックスアレイやセクタスキャン、IVUS等の2次元極座標系(r,θ)で超音波円筒波(の一部)を送信又は受信した場合のデカルト座標系におけるイメージ信号の生成法である(
図7を参照)。
【0234】
以下に、フーリエ変換の極座標表示について説明する。2次元フーリエ変換は、式(22)によって表される。
【数48】
極座標系における受信エコー信号は、f(r,θ)と表されるので、式(23)が成立する。
【数49】
従って、ヤコビ(Jacobi)演算を通じて、式(24)が得られる。この様にして、極座標系において表される波動をデカルト座標系において平面波成分(k
x,k
y)に分解できる。任意の直交曲線座標において表される波動も同様に、デカルト座標系において平面波成分(k
x,k
y)に分解できる。
【数50】
【0235】
方法(5−1):円筒波送波又は受信のイメージ信号生成
図13は、円筒波送波時のデジタル信号処理を示すフローチャートである。式(24)より、開口上の角度θ方向のフーリエ変換は、式(25)によって表される。
【数51】
ここで、r
0はコンベックス探触子の
曲率半径である。ステップS21において、受信信号を時間tに関してフーリエ変換し、ステップS22において、受信信号を角度θに関してフーリエ変換(FFT)することにより、極座標系において受信した信号をデカルト座標系において平面波成分(k
x,k
y)に分解できる。
【0236】
従って、これに、式(26)によって表される波数マッチングを施し(ステップS23)、空間(x,y)に関して逆フーリエ変換することにより、イメージ信号を生成することができる。
【数52】
【0237】
例えば、ステップS24において、各深さyの角スペクトルが計算される。さらに、ステップS25において角スペクトルの周波数成分kを足し合わせ、ステップS26において横方向の波数kxに関して逆フーリエ変換(IFFT)を行うことにより、ステップS27においてイメージ信号が得られる。
【0238】
この方法は、極座標系(r,θ)の信号からデカルト座標系(x,y)のイメージ信号を得るに当り、波数マッチングと座標系の変換に補間処理を要さず、高速かつ高精度なビームフォーミングを行うものである。リニアアレイ型トランスデューサにおける平面波送波と同様に、円筒波を極座標系において偏向することもできる。アポダイゼーションも同様に実施できる。円筒波の場合、2次元極座標系と直交するz軸方向の異なる位置(即ち、円筒座標系(r,θ,z)におけるz軸)において、上記の送信を同時に行って受信するか、同一の時相ではあるが異なる時刻に上記の送信を行って受信したものを重ね合わせ、上記の処理を行うこともある。z軸方向には、アナログデバイス(レンズ)により、フォーカスされている場合もあるし、本願発明のデジタル信号処理により、任意の処理を行うことも可能である。波動の伝搬方向が中心方向にある場合も同様に計算できる(例えば、HIFU治療や対象物を囲む円形ベースのアレイトランスデューサによる各種イメージングやCT等に有用である)。無論、それらにおいて、受信のみのビームフォーミングが行われることもあり、同様に処理される。尚、極座標(r,θ)にて表される受信信号に対し、方法(1)のデカルト座標(x,y)を極座標(r,θ)に読み替えた処理を行うこともでき、極座標(r,θ)においてイメージ信号を生成できることは上記の通りであり、その後の処理にて、補間近似を行うことになる。これらにおいて、同様に、ステアリングを行うこともできる。
【0239】
方法(5−1'):仮想源と他の任意形状の開口アレイを用いたイメージ信号生成
円形開口アレイだけでなく、リニアアレイ型トランスデューサ等の任意開口形状から波動を送信する場合において、後方に設置された仮想源を用いて円筒波の一部を生成する場合(
図8)について説明する。
【0240】
(i)モノスタティック開口面合成用に取得した受信信号を用いる場合には、各素子において送受信してメモリ等に格納された受信信号に対して、必要があれば、フーリエ変換に複素指数関数を乗算し、仮想源から発せられた波動の応答を極座標(r,θ)にて表されるデジタル受信信号とし、その上で方法(5−1)を用いれば、直接的に(x,y)座標系においてイメージ信号を生成できる。また、同じく、受信した信号を極座標(r,θ)のデジタル信号として表し、方法(1)のデカルト座標(x,y)を極座標(r,θ)に読み替えた処理を行うこともでき、極座標(r,θ)においてイメージ信号を生成することもできる。無論、方法(2)のモノスタティック処理も極座標系(r,θ)において可能である。
【0241】
(ii)また、マルチスタティック開口面合成用に取得した受信信号を用いる場合には、各素子において送信して周囲の素子で受信してメモリ等に格納された受信信号に対して、必要があれば、フーリエ変換に複素指数関数を乗算し、仮想源から発せられた波動の応答を極座標(r,θ)にて表されるデジタル受信信号とし、方法(3)のマルチスタティック開口面合成を実施できる。別の処理としては、そのデジタル受信信号を各受信素子において重ね合わせ、その上で、方法(5−1)を用いれば、直接的に(x,y)座標系においてイメージ信号を生成できる。また、同じく、そのデジタル受信信号を各受信素子において重ね合わせ、その上で、方法(1)のデカルト座標(x,y)を極座標(r,θ)に読み替えた処理を行うこともでき、極座標(r,θ)においてイメージ信号を生成することもできる。無論、重ね合わせせずに、方法(3)のマルチスタティック処理も極座標系(r,θ)において実施できる。
【0242】
(iii)これらの処理において、物理開口アレイによって受信した信号を極座標系(r,θ)のデジタル信号に書き換える処理を省くために、元よりサンプリングが極座標系(r,θ)において行われる様に送信又は受信のディレイパターンを用いて、各開口素子より送信し、受信サンプリングされることがある。そして、方法(5−1)や、方法(2)や方法(3)に基づき、直接的に(x,y)座標系においてイメージ信号を生成できる。また、同じく、受信した信号を極座標(r,θ)のデジタル信号として表し、方法(1)〜(3)のデカルト座標(x,y)を極座標(r,θ)に読み替えた処理を行うこともでき、極座標(r,θ)においてイメージ信号を生成することもできる。
【0243】
(iv) また、同じく、任意開口形状において後方に設置された仮想源を用いて円筒波の一部を生成する場合(
図8)の上記(i)〜(iii)において、各素子によって受信してメモリ等に格納された受信信号のフーリエ変換に複素指数関数を乗算して、受信信号をデカルト座標(x,y)のデジタル信号として表し(但し、時間を要する)、方法(5−1)における式(22)とは逆に、f(x,y)を半径rと角度θに関してフーリエ変換して処理をし、結局のところ、極座標系(r,θ)においてイメージ信号を生成するか、又は、各方法を用いて、デカルト座標系(x,y)においてイメージ信号を生成することもできる。
(i)〜(iv)において、その他、方法(5−1)に記載した様々なビームフォーミング等を実施できる。
【0244】
方法(5−2):固定フォーカス時のイメージ信号生成
図14は、コンベックス型アレイを用いた固定フォーカシングの模式図である。コンベックスアレイにおいても、
図14に示すように固定フォーカシングを行うことができる。リニアアレイ型のとき(方法(4))と同様に、円筒波送波時と同じ計算処理でイメージ信号を生成することができる。即ち、方法(1)又は方法(3)の処理を基礎として、以下の3通りの方法がある。
(i)有効開口幅において得られた各受信信号を重ね合わせに対して1回のイメージ信号生成処理を施す。
(ii)1回の送信毎の受信信号を用いていわゆる通常の低分解能イメージ信号を生成して、それらを重ね合わせる。
(iii)マルチスタティック型開口面合成と同様に、送受信の位置関係が同じものをセットにしてイメージ信号を生成して、それらを重ね合わせる。
上記の如くして、デカルト座標系において直接にイメージ信号を生成できるが、極座標系の座標軸を用いて方法(4)を実施し、極座標系においてイメージ信号を生成できることも然りである。同様に偏向やアポダーゼーションも実施できる。z軸方向に関しては、(5−1)と同様に処理できる。
以上の如くして、方法(1)〜(4)のビームフォーミングを実施できるが、それらに限られずに、任意のビームフォーミングに適応させて、同効果を得ることができる。
【0245】
方法(5−3):球座標系における受信時のイメージ信号生成
球核状の波動開口素子アレイを使用する場合には、3次元のデジタル波動信号処理を行うこととなるが、例えば、受信開口素子アレイがそうである場合、波動の受信は、球座標系(r,θ,
φ)において行われるため、受信された波動の受信信号はf(r,θ,
φ)と表される。この場合も、ヤコビ(Jacobi)演算を通じて、2次元の極座標系(r,θ)の場合と同様に、様々なビームフォーミングを実施できる。
【0246】
具体的には、受信された波動をデカルト座標系(x,y,z)において平面波に分解するべく受信信号f(r,θ,
φ)に対して行う3次元フーリエ変換により、デカルト座標系(x,y,z)の波数領域又は周波数領域(k
x,k
y,k
z)において表される式(27)を、x=rsinθcos
φ、y=rcosθ
、及び
、z=rsinθsin
φを用いたヤコビ(Jacobi)演算により、式(28)のように計算し、補間近似処理を行うことなく直接的にデカルト座標系においてイメージ信号を生成することができる。無論、方法(1)〜(4)のビームフォーミングを実施できるが、それらに限られず、任意のビームフォーミングに適応して使用し、同効果が得られる。
【数53】
【数54】
【0247】
方法(5"): デカルト座標系にて送信又は受信した場合の任意直交曲線座標系におけるイメージ信号生成
上記の一連の方法とは逆に、デカルト座標系において、送信又は受信を行って得られる受信信号から、補間近似を行うことなく2次元極座標系又は球座標系によって表されるイメージ信号を直接的に得ることも可能であり、同様な計算により実現できる。例えば、受信信号がf(x,y,z)と表されるときに、rとθ、
φ方向にフーリエ変換して、デカルト座標系における平面波に該当する円形波や球面波に受信信号を分解する計算をヤコビ演算を通じて行えばよい。これらの方法は、FOVを変える場合にも使用されることがある(例えば、広くできる場合もある)。
【0248】
方法(6):マイグレーション法
マイグレーション処理においても、本発明の装置においては、波数マッチングにおいて補間近似処理を行うことなく処理することが可能である。マイグレーションの式(以下の式(M6'))そのものは、良く知られており、式の導出も良く知られているので、式の導出については、ここでは割愛する。
【0249】
非特許文献7には、1素子送信による1素子受信を基礎とする通常のマイグレーション処理(即ち、方法(2)のモノスタティック型開口面合成用の送受信データを用いた偏向しない処理)を基礎として、ステアリング無しと有りの場合の平面波送波及び/又は受信の場合(方法(1)に該当する処理)において、任意の同一の位置を対象として、任意の送信開口素子から波動が生成されてその送信開口素子を兼ねる受信開口素子によって波動を受信するまでの時間である伝搬時間がその通常のマイグレーションの場合と異なることから、伝搬速度とその対象位置の座標を読み替え(以下の式(M1))、同一の形(式(M6))で表される値を計算する方法が開示されている。
【0250】
しかしながら、他の方法(2)〜(5)の処理に関しては、非特許文献7に開示されていない(方法(2)においてステアリングを行う場合は、開示されていない)。さらに、式(M6')を計算する上で、従来は、波数マッチングを行う際に補間近似が行われてきた(式(M4)及び式(M4'))が、本発明の装置においては、補間近似をせずに高精度に波数マッチングが行われる(式(M7)及び式(M7'))。
【0251】
横方向をx軸、深さ方向をy軸とする2次元座標をとり、時間の座標をtとする。具体的には、その通常のマイグレーションでは、任意開口素子位置(x,0)と任意位置(x
s,y
s)の間を波動が往復するのに要する伝搬時間は、式(M0)によって表される。
【数55】
【0252】
これに対し、ステアリング角度がθ(0°を含む)の平面波送波においては、伝搬時間は、式(M0')によって表される。
【数56】
【0253】
従って、方法(1)の偏向平面波送波時にマイグレーション法に基づいて行う計算においては、搬速度cと対象の位置を表す座標系(x
s,y
s)の各々を式(M1)と読み替えて、通常のマイグレーションの式が計算される(式(M4)及び式(M5))。
【数57】
【0254】
纏めれば、方法(1)〜(5)の内で、方法(2)のモノスタティック型開口面合成用の送受信データを用いた偏向しない処理を行う通常のマイグレーション以外は、全て同様にしてマイグレーション処理できる。例えば、方法(1)の偏向平面波送波時(0°も含む)のマイグレーションの計算手順を主として説明する。
【0255】
図15は、偏向平面波を送信した場合のマイグレーション処理を示すフローチャートである。受信信号が、r(x,y,t)と表されるとき、開口素子アレイ位置における受信信号は、r(x,y=0,t)と表される。
【0256】
まず、式(M2)に示すように、受信信号を時間tと横方向xに関する2次元フーリエ変換する(2次元高速フーリエ変換が良い)。
【数58】
ここで、k=ω/cであり、波数kと角周波数(角振動数)ωは比例定数1/cで関係付けられ、1対1対応であり、kの代わりにωを用いて表したり計算できる。
【0257】
上記のように、特殊な2次元高速フーリエ変換法を使用することもできるが、一般的(popular)な方法としては、まず、ステップS31において、受信信号に対し、横方向座標xにおいて、時間tに関する高速フーリエ変換(FFT)を行って解析信号のスペクトルを得る。その上で、帯域k内の各周波数座標において、横方向xに関する高速フーリエ変換を行えば良い(2次元スぺクトルの各々を式(M2)に従って計算するよりは高速である)。
【0258】
平面波を偏向送波しない場合には、上記の計算で良いが、偏向する場合に対応するには、トリミングをせねばならず、そのためには、ステップS32において、トリミングのために、上記の時間tに関する高速フーリエ変換後のR'(x,0,k)に複素指数関数(M3)を掛ける(方法(1)における複素指数関数(11)と同様に、時間tに関する高速フーリエ変換と複素指数関数の掛け算の演算は一度に直接に計算することもできるし、そのような計算が可能な専用の高速フーリエ変換も有用である)。
【数59】
【0259】
その上で、ステップS33において、受信信号に対し、横方向xに関して高速フーリエ変換(FFT)が施される。その結果を、ここでは、R''(k
x,0,k)と表すことにする。ちなみに、トリミングを行える様にプログラムされていても、偏向せずに平面波を送波する場合(ステアリング角度0°)を処理できる。
【0260】
通常は、次に、波数マッチング(又は、マッピング)が行われる。ビームフォーミングが、通常のマイグレーション(方法(2)のステアリング無しのとき)以外の方法(1)〜(5)の場合には、伝搬速度cと座標系(x
s,y
s)を上記の式(M1)の如く、各々のビームフォーミングのための伝搬速度(E1)と座標系(E2)に読み替えて処理することになる。
【数60】
【数61】
【0261】
通常のマイグレーション(方法(2)のステアリング無しのとき)以外の方法(方法(1)を含む)の場合において計算された2次元フーリエ変換R''(k
x,0,k)に対して、又は、通常のマイグレーションにおいて計算された上記のR(k
x,0,k)に対して、補間近似(周波数座標の最も近い所の角スペクトルを使用する、バイリニア(bi-linear)補間等)を通じて、それぞれ、式(M4)又は式(M4')で表される波数マッチングが行われる。
【数62】
【数63】
【0262】
このように波数マッチングが施されて、次の関数(M4'')が求められる。
【数64】
さらに、関数(M4'')を用いて、次の式(M5)又は式(M5')が求められる。
【数65】
【数66】
【0263】
式(M5)又は(M5')に対して、式(M6)又は式(M6')によって表されるように、波数k
x及び波数(E3)に関する2次元逆フーリエ変換を施すことにより、イメージ信号f(x,y)が生成される。
【数67】
【数68】
【数69】
式(M6)及び式(M6')の計算における2次元逆フーリエ変換は、高速2次元逆フーリエ変換(IFFT)を施せば良く、特殊な高速2次元逆フーリエ変換を使用することもできるが、一般的(popular)な方法としては、式(M6)及び式(M6')の各々において、まず、信号帯域内の一方の波数k
xに対し、他方の波数(E3)に関する高速逆フーリエ変換を行い、その上で、生成された空間座標yの各座標に対し、(信号帯域内の)波数k
xに関する高速逆フーリエ変換を行えば良い(2次元のイメージ信号の各々を式(M6)又は式(M6')に従って計算するよりは高速である)。
【0264】
非特許文献7には、式中においてy
Sを用いる式(M6)は開示されておらず、y
Sでなくyを用いて計算し、計算後に、座標の補正を行うことが開示されている。座標の補正は、近似処理を行うか、本願の第1の発明者の過去の発明である複素指数関数の乗算に基づく時間を掛けて近似処理せずに行う。式(M6)は、偏向角度が0°の時にも使用することができる。
【0265】
本発明の装置においては、波数マッチングを2次元逆フーリエ変換と共に、又は、深さ方向の逆フーリエ変換と共に、補間近似することなく実施する。つまり、通常のマイグレーション法(方法(2)のステアリング無しのとき)以外の方法(方法(1)を含む)の場合において計算された2次元フーリエ変換R''(k
x,0,k)に対して、又は、通常のマイグレーション法において計算された上記のR(k
x,0,k)に対して、式(M7)又は式(M7')によって表されるように、まず、帯域内のそれぞれのk
xに対してkに関する積分を行って、深さ方向の波数E(3)の波数マッチングと逆フーリエ変換(IFFT)とを同時に行い(ステップS34)、その後に、横(x)方向の高速逆フーリエ変換を行う。
【数70】
【数71】
非特許文献7には、式中においてy
Sを用いる式(M7)は開示されていない。式(M7)は、偏向角度が0°のときにも使用できる。方法(1)〜(6)と同様、スペクトルの周波数k成分を足し合わせた上で、横方向の波数k
xに関する逆フーリエ変換(IFFT)を行い、1回の逆フーリエ変換で計算ができ、計算が高速である。
【0266】
さらに、通常のマイグレーション(方法(2)のステアリング無しのときと対応する処理)と異なる場合には、式(M6)や式(M7)を計算する過程において、横(x)方向の位置の補正を行うことができる。例えば、方法(1)の偏向平面波を送波したときは、まず、ステップS34において、上記の如く、波数E(3)に関する計算を行い、ステップS35において、位置補正のために、各々の結果として求まる関数(M8)に対して、複素指数関数(M9)を掛け、その後、ステップS36において、横方向の波数k
xに関する高速逆フーリエ変換(IFFT)を行う。あるいは、横方向の波数k
xに関する逆フーリエ変換の複素指数関数と共に式(M9)を掛けて計算するか、それ専用の高速逆フーリエ変換を実施しても良い。式(M9)は、偏向角度が0°のときにも使用できる。以上により、ステップS37において、イメージ信号f(x,y)が生成される。
【数72】
【数73】
纏めると、式(M6)、式(M7)、又は、式(M7')を使用して、新しい処理を行うことができ、補間近似による誤差を除き、高速に、イメージ信号f(x,y)を生成できる。
【0267】
ここでは、マイグレーション法を用いて、方法(1)のステアリング有りと無しの平面波送波時のビームフォーミングを波数マッチングにおいて補間近似無しに高速に実施することを主として説明したが、本発明の他の方法(2)(ステアリングを行う場合を含むモノスタティック開口面合成法)、方法(3)(ステアリング有り又は無しのマルチスタティック法)、方法(4)(ステアリング有り又は無しの送信固定フォーカス)、及び、方法(5)(極座標系や任意の直交曲線座標系におけるビームフォーミング)の各々において記載されている全てのビームフォーミングを同様に実施できる。送信と受信において、偏向角度が異なる場合も同様に処理できる。
【0268】
方法(7):その他
尚、上記の方法(1)〜(6)は、1次元アレイを用いた場合について説明したが、2次元アレイ又は3次元アレイの場合には、各々において、他の1つ又は他の2つの軸方向に、横方向に関して行った処理を同様に施せば良い。即ち、単純に、上記の方法(1)〜(6)を、より高次の次元に拡張すれば良い。
【0269】
また、上記においては、アポダーゼーション処理には演算量が少なく容易である重み値との積を計算することについて説明したが、本発明はこの限りではなく、線形システムにおいて空間領域と周波数領域とにおける積と畳み込み積分とが双対の関係に基づき、畳み込み積分が行われることがある。それぞれの深さ位置毎において、又は、それぞれの開口素子からの等距離毎において、適切にアポダーゼーションすることが可能である。
【0270】
方法(1)〜(6)を用いて本実施形態に係る装置によって生成される多方向の偏向ビームや平面波を重ね合わせる処理により、上記の横方向変調信号(イメージ信号)や、横方向に広帯域化されて横方向に高分解能化された信号(イメージ信号)が生成されることがある。また、搬送周波数の異なる波動を複数個使用して、軸方向に広帯域化されて軸方向に高分解能化された信号(イメージ信号)が生成されることもある。それらの場合に、スペクトルが重なる様に広帯域化されて高分解能化されることがある。これらの複数のビームは同時に並列的に生成されることがあるし、計測対象が同一の時相であるが、異なる時刻に生成されることもある。多方向の波動は、上記の多方向開口面合成によって生成されることもある。
【0271】
また、マルチフォーカス(ビーム伝搬方向の複数個所に送信フォーカスを形成する通常のマルチフォーカスに限らず、横方向を含めて、任意の複数の位置に送信フォーカスを取ることを含む)を形成するべく異なる位置にフォーカスした波動を複数個送波して受信ビームフォーミングを行う処理が行われることがある。また、1つの送信ビームに対して複数位置における受信ビームや複数方向の受信ビームを生成する処理が行われることがある。また、ステアリング角度の異なる複数方向への送信に基づくビームフォーミングが行われることがある。他には、干渉の少ない離れた位置におけるビームフォーミングや、送信と受信を行うことを基礎として1フレーム内にて分割されたそれぞれの部分においてビームフォーミングを行うことがあり、それらの複数のビームフォーミングを並列に処理すること等の並列ビームフォーミングを行い、各々において、複数のビームフォーミングの結果が得られた関心領域内の各位置においてそれらの結果を重ね合わせる処理が行われることがある。
【0272】
その他、波動の送信又は受信の開口は各々の専用開口であることがあるが、両者を兼ねることもあり、自ら送信した波動の応答を受信するのみとは限らず、他の開口より送信された波動を受信することもあり、やはり、並列処理される場合を含み、生成されたビームフォーミングの結果が重ね合わせされることがある。纏めてみれば、上記の重ね合わせは、同時、又は、波動を伝搬させる対象(通信対象)や観察対象の状態が同一又は略同一である同時相、又は、別の時刻、又は、別の時相において、各開口において1つ以上のビームフォーミング、又は、送信又は受信が行われることもあり、また、同様にして、開口の1つの組み合わせで1つ以上のビームフォーミング、又は、送信又は受信が行われることもある。また、同様にして、開口の複数の組み合わせの各々が1つ以上のビームフォーミング、又は、送信又は受信を行うこともある。また、それらにおいて、ビームフォーミング、又は、送信又は受信の結果が複数得られる場合において、それらの重ね合わせの演算を通じて新たなデータが生成されることがある。
【0273】
それらの重ね合わせ処理は、線形処理であるため、上記の方法(1)〜(6)の計算過程において、周波数領域で同一の周波数を持つ複数の複素スペクトル信号を重ね合わせることもでき、その場合には、重ね合わされた複素スペクトルを一度に逆フーリエ変換すれば良く、複数のビームフォーミングされた波動の生成後に空間領域で上記の如く重ね合わせる場合に、重ね合わせる波動の数だけの逆フーリエ変換を必要とするよりも、高速に処理を完了することができる。到来波等、これに限られないが、角スペクトルの状態で重ね合わされたものが、例えば、単一の方向や複数の方向に処理されることもある。処理そのものとしては、複数の波動を空間領域で重ね合わせてフーリエ変換を行い、重ね合わされた角スペクトルを求めると良い(フーリエ変換は一度で済む効果がある)。対象物の存在する位置等を確認できることがある。
【0274】
また、上記において、複数のビームフォーミングされた(少なくとも、所定の送信ディレイが掛けられ、さらに、送信アポダイゼーションが掛けられることもある)波動を送信する場合(方法(1)〜(6)の内、方法(2)及び(3)の開口面合成は除く別の方法)においては、物理的に同時に送信を行った場合に(送信される各波動の有効開口アレイ内の最初に励起される開口素子が同一時刻に励起される)、それぞれの受信信号は重なった状態でメモリ又は記憶装置(記憶媒体)に格納されているので、各方法に従って、1つのフレームのイメージ信号の生成処理を施せばよい(1フレームを分割してそれぞれの部分で処理する並列処理を行うことはある)。
【0275】
これに対し、ビームフォーミングを異なる時刻で複数回行う上記の別の場合においては、各受信開口素子のチャンネルにおいて、有効開口アレイ内の最初に励起される開口素子から送信されるタイミングを把握できる本実施形態に係る装置においては、デジタル信号処理ユニットにおいて、同時に複数の波動を送信したときの受信信号と同じ信号を得るべく複数の受信信号を適切に重ね合わせて、同様に処理することもできる(この場合も、1フレームを分割してそれぞれの部分で処理する並列処理を行うことがある)。これらの場合においては、実質的に、最初のフーリエ変換は1回で済む(それぞれの部分で分割して処理する場合はある)。
【0276】
この様なアクティブの場合は、開口面合成(方法(2)及び(3))を除くビームフォーミングにおいて、さらに、高速にビームフォーミングを完了できる。但し、方法(2)及び(3)用に収集された開口面合成用受信信号に必要に応じて送信のビームフォーミング(必要に応じて送信ディレイ又は送信アポダイゼーションが掛けられる)が施されて重ね合わせた上で処理され、同様に処理されることがある。ちなみに、送信ディレイをかけずに、受信信号を重ね合わせると、この場合、ステアリングせずに平面波送波したときの受信信号を生成できる。開口面合成処理においても、分割並列処理を行って、高速化されることがあるが、特に、本願の第一の発明者の過去の発明である多方向開口面合成を行う場合には、一つの時相において収集された信号から、複数方向のビームを生成でき、本願発明の装置又は方法において処理する場合においては、各方向の偏向角度の下で、1回のフーリエ変換にて得られた同一の角スペクトルデータを用いた計算を行い、最終的に、各々の偏向角度に関して得られた多次元スペクトルの逆フーリエ変換を複数回実施することなく、それらの多次元スペクトルを重ね合わせて、1回の逆フーリエ変換により高速に最終的なイメージ信号を生成することができる(分割処理を行うことはある)。しかし、開口面合成にせよ、受信の固定フォーカシングや他のビームフォーミングにおいても、パッシブな処理に行う場合は、上記の通り、重ね合わされた受信信号(すなわち、1つの角スペクトル)に対して、例えば、単一方向、又は、異なる複数方向に処理を行うことは有効である。
【0277】
また、これらの処理において得られ複数の波動の重ね合わせが得られる場合においては、例えば、伝搬方向や周波数、又は、帯域が異なるものであれば、スペクトルを分離して処理することも有効であり、その他に、符号化、MIMO(Multiple-input and Multiple-output:送信側及び受信側において複数のアンテナを組み合わせて送受信信号の帯域を広げる無線通信技術)、SIMO(Single-input and Multiple-output:送信側において1つのアンテナを用い、受信側において複数のアンテナを用いて受信信号の帯域を広げる無線通信技術)、MUSIC(Multiple Signal Classification:受信信号の相関行列の固有値又は固有ベクトルを用いる無線通信技術)、独立信号分離、符号、又は、パラメトリックな方法等を用いてデジタル信号ユニットにおいて分離することができる。尚、重ね合わせ処理は、それら以外においても有効となることがある(例えば、同時相において複数個得られた信号を用いることにより、SN比が向上する等)。
【0278】
一方で、方法(1)〜(6)において、スペクトルを周波数分割して、1フレームのイメージ信号を生成するべくメモリ又は記憶装置(記憶媒体)に格納した受信信号に対して、波数マッチング後に表される周波数領域においてスペクトルが分割された状況で処理された波動を複数個得ることが行われることもある。複数の波動が重なっている場合においても、スペクトルを周波数分割することもある。これらのスペクトルの周波数分割により、新たな波動パラメータ(周波数や帯域、伝搬方向等)を持つ物理的には疑似の波動が生成されたことに該当する。
【0279】
これらの処理において生成される複数の波動を用い、デジタル信号ユニットにおいて、任意方向に移動する変位ベクトル(多次元自己相関法や多次元自己ドプラ法等を使用して変位ベクトル成分に関する連立方程式を解くという方法で、本願の第1の発明者の過去の発明)や通常の1方向の変位が高精度に計測される(求める変位成分の数よりも多くの方程式を導出し、過剰決定(over-determined)的なシステムにおいて、最小二乗法や計算結果の平均値、波動が重なって高周波且つ広帯域である状態で精度の高い結果を得る等)。単一の波動そのものにドプラ法を施して変位が計測されることもある。変位(ベクトル)からは、空間又は時間に関する微分フィルタを用いた偏微分処理により、歪(テンソル)、歪速度(テンソル)、速度(ベクトル)、加速度(ベクトル)が得られる。
【0280】
尚、観測された波動を基に対象の動きを検出、イメージする様々な技法もあり、例えば、医用超音波の分野では、血流や組織の変位や変形に関して、平均速度や分散等を基に、速度情報、動きの有無、複雑さ等を表示できるものがある。積極的に造影剤(マイクロバブル)が使用され、血管内や心腔内の血液からの波動の強度を増強した状態で計測イメージングが行われることもある。形態学的な観測だけでなく、機能計測にも有効となることがある。自己発散(self-emanating)型の造影剤には、PET(陽電子放射型断層撮影法)で使用される放射性同位体が典型的な例であり、発生数のカウントに基づく観測が行われる。これは第2の実施形態のパッシブな装置で対象となるタイプのものであるが、例えば、磁性体(癌病変等のターゲットに親和性があることがある)を静脈注射し、そこに力学的振動を加えて磁場を発生させることもある(本願の第1の発明者の過去の発明)。従って、送信トランスデューサにより力学的に刺激し、その応答として電磁波を受信トランスデューサで観測することになる。また、上記の光音響(photoacoustic)等の例もある。
【0281】
また、波動を最後の逆フーリエ変換前に分離して検波(自乗検波や包絡線検波等)するか、最後の逆フーリエ変換後に分離して同検波するか、又は、元より分離されているものをフーリエ変換前後で検波すること(非特許文献1)が可能であり、各々の波動の強度分布を表す画像化を行うか、又は、それらの検波によりインコヒーレント信号になったものを重ね合わせて、決定的(deterministic)な信号(例えば、反射信号やスペキュラー信号)を強調し、確率的(stochastic)な信号(例えば、散乱信号やスペックル信号)を低減して、対象や媒体の構造の空間的な変化を効果的に描出することが行われる(本願の第1の発明者の過去の発明)。
【0282】
波動が重なっているコヒーレント信号を検波し、その強度分布の画像化を行うこともある。また、検波していないコヒーレント信号を画像化して、波打ちそのものを画像化することもあるし、信号の強度(振幅)の画像と共に得られる位相分布の画像を提示することも可能である。単一の波動に関しても同様に画像されることがある。
【0283】
表示方法は、グレー画像やカラー画像が一般的(popular)であるが、その際に、定量性が求められる場合には、表示されている輝度や色に対応する数値がバー表示されることもある。その他、鳥瞰図等で表示されることもあり、CGを併用して表示されることもある。それらは静止画又は動画として表示されることがあるし、動画はフリーズして表示されることもあるし、それらが実時間で表示されることもあるし、オフラインで処理されて表示されることもある。記憶装置(又は記憶媒体)に格納されている波動データ又は画像データが読みだされて表示されることもある。任意数値の経時的な変化がグラフとして表示されることもある。
【0284】
その他、例えば、マイクロ波や赤外線、又は、テラヘルツ帯域の信号を使用して、計測対象の温度分布を観測すること等も可能である。輻射しているものに送波した波動が変調を受け、これを検出する(尚、第2の実施形態に係るパッシブ型の装置においても、輻射される波動そのものから対象の温度分布の計測が行われることもある)。これらの観測された物理量や化学量を基に、逆問題的なアプローチ等の高次の処理が実施されて、粘弾性率や弾性率、粘性、熱物性、電気物性(導電率や誘電率)、透磁率、波動の伝搬速度(光速や音速等)、減衰、散乱(前方散乱や後方散乱等)、透過、反射、屈折、又は、波動源等が、周波数分散を含めて求められることがある。
【0285】
計測された変位や温度等の物理量も、同様に画像表示されることがあるが、同時に得られる形態学的画像に重畳されて表示されることもある。これらの分布を表す画像には定量性が求められることが多く、表示されている輝度や色に対応する数値がバー表示されることもある。その他、鳥瞰図等で表示されることもあるし、CGが併用されて表示されることもある。それらは静止画又は動画として表示されることがあるし、動画はフリーズして表示されることもあるし、それらが実時間で表示されることもあるし、オフラインで処理されて表示されることもある。記憶装置(又は記憶媒体)に格納されている波動データ又は画像データが読みだされて表示されることもある。任意数値の経時的な変化がグラフとして表示されることもある。
【0286】
また、他装置から、入力装置を通じて観察対象である波動に関する付加情報が提供されることがあり、また、他物理量や化学量の観測データが提供されることもあり、デジタル信号処理ユニットにおいて、上記の処理の他に、データマイニングや独立信号分離、符号、多次元スペクトル解析、MIMO、SIMO、MUSICによる信号分離、パラメトリックな方法による対象の同定に基づく信号分離、これらの方法を併用することのある超解像、又は、ISAR(Inverse synthetic aperture)等の高次の処理が行われることがある。
【0287】
第2の実施形態に係るパッシブ型の装置においても、これらの処理が行われるので、そこで詳述することにするが、パッシブ装置の場合と異なり、本実施形態に係るアクティブ型の装置では、波動を送信して走査するため、受波した受信信号において関心のある位置を特定できることが大きく異なり、また、送信フォーカス又はマルチフォーカスを行えば、それらのフォーカス位置の状態や機能、そこに波動源があれば波動源に関する情報で高分解能に波動を変調して復調してそれらを理解し、また、平面波(フラットなアレイ)や円筒波(リング状のアレイ)、球面波(球殻状のアレイ)に類する波動を使用すれば、高いフレームレートで高速にそれらを捉えることも可能である。
【0288】
通信を行う上では、送信トランスデューサから、通信先の位置を絞って、省エネと通信のセキュリティを向上させることができる。観察を行うに当たっては、計測系を構成する上で自由度が高い。また、それらのシステム論に基づく処理においては、生成する点拡がり関数を同定したり、また、目的に合わせて調整したりすることも容易である。送信トランスデューサや受信トランスデューサ(送信トランスデューサを兼ねることもある)の各々を複数使用することも可能であるし、送信と受信の対象となる波動が同種の物であることも異なることもあるし、時として、同期して稼働する複数のトランスデューサ専用の装置本体が複数台使用することもあるし、また、第2の実施形態に係るパッシブ型の装置が併用されることもあるし、それらが、それらを制御する装置を含む他の装置と、専用又は通常のネットワークを通じて結ばれていることもあるし、装置本体がネットワークの制御機能を有することがある。
【0289】
各種観測データを基に、材料や構造物の製造する装置、治療や修復するための装置、応用する装置(ロボット等)などの装置が連動して稼働することもあるが、それらに限られない。尚、これらの波動を用いた計測や高次の計算処理は、脱着可能な記憶装置(記憶媒体)に格納された波動データ等を用いて、別装置で実施されることもあるし、それらのデータが同タイプの記憶装置(記憶媒体)に格納されて、別の装置で使用されることもある。
【0290】
尚、受信してメモリ又は記憶装置(記憶媒体)に格納されている受信信号において、対象や媒体において生成される高調波成分を含んでいる場合に、ビームフォーミング処理を行う前に基本波や高調波(第2高調波だけのときもあればさらに高次の成分を無視することなく複数の高調波を扱うときもある)を分離してビームフォーミング処理(通常の整相加算)することもあるし、ビームフォーミングが実施された後に分離されることがある。その分離方法には、周波数領域において、スペクトルを分離するものがあるが、帯域が重なることがあり、いわゆる、医用超音波ではパルスインバージョン法と呼ばれる同時相において極性が逆の波動を生成し、本実施形態に係る装置において、各々の送信に対する受信信号をビームフォーミング前又は後で重ね合わせすると、第2次高調波成分を抽出できると共に、基本波も得ることができる。
【0291】
その他、多項式を用いて分離する方法も知られており、本実施形態に係る装置では、波動伝搬方向の1次元処理、もしくは横方向に変調されている場合や波動の伝搬方向が厳密には各位置において変化することを加味して多次元処理することが可能であり、ビームフォーミングの前又は後において実施できる。但し、分離してからビームフォーミングを行う場合において、基本波や高調波の各々のビームフォーミングを行う場合には、各々のビームフォーミング処理を行うことになるので、計算時間を要し、従って、並列処理が行われることもあるが、ビームフォーミング後の分離の方が、処理が高速である。
【0292】
一方、各送信開口から送信される波動が符号化されているときは、ビームフォーミングを行うに当たり、各受信開口素子によって受信した受信信号に対して、どの送信開口素子から送信されて生成された波動成分であるかをマッチドフィルタに基づく信号検出により分離し、受信のダイナミックフォーカシングだけでなく送信のダイナミックフォーカシングをも行うことがあり、これは広く知られている。これは、平面波送波による高速送信においても有効であるし、フォーカスビームやステアリングを行っている場合においても有効である。
【0293】
また、複数の波動又はビームを同時に送信する場合において、例えば、上記の複数の異なる周波数や複数の異なる伝搬方向を持つ波動等を、各々を符号化(coding)したものとして送波し、受信信号を同様に復号化(decoding)して、それらの各々の波動や送信ビームにより生じた受信信号に分離することにより、分離能を向上させることがある。これは、例えば、帯域が重なる波動や屈折や反射、透過、散乱等により伝搬方向が同一となる場合等において効果がある。分離する波を別のコード(code)で符号化する基本的な考え方に基づく。物理的なパラメータが同一である下で単純に符号化することもある。
【0294】
これらにおいて、連立方程式を解くことも可能であるが、処理が高速であり、マッチドフィルタの効果も得られる。対象や媒体に適したコード(code)も開発されている。しかしながら、使用する素子数が増えると、コード長が長くなり、信号のエネルギーは大きくなり、これを有効利用することは重要であるが、その反面、例えば、対象や媒体が変形する場合には精度が低下して適さなないこと等が知られており、チャープ信号圧縮においても同様の問題を生じる。
【0295】
通信においては、各送信開口素子から送信される波動に情報を符号化したもので符号化(coding)して送波し(ビームフォーミングとしては、例えば、平面波や円筒波、又は、球面波を使用して広く伝える場合や、複数位置であることのあるフォーカシングを行い、それらの位置における精度を保証し、また、局所又は特定の対象と通信するべくセキュリティを確保したり、省エネ化することもある)、受信信号に対してビームフォーミングを行った上で復号化(decoding)される。本実施形態に係る装置における符号化の応用は、それらに限られるものではないが、デジタル信号処理ユニット(メモリ内臓型もある)やメモリや記憶装置(記憶媒体)において、これらの処理が行われる。
【0296】
また、本実施形態に係る装置により観測される、又は、他より提供される、物理量(変位、速度、加速度、歪、歪速度等の大きさや方向、温度等)や化学量、又は、付加情報、また、逆問題的なアプローチ等の上記の高次の処理が実施されて得られる、波動に関連する粘弾性率や弾性率、粘性、熱物性、電気物性(導電率や誘電率)、透磁率、波動の伝搬速度(光速や音速等)、減衰、散乱、透過、反射、屈折、波動源、材料、構造、又は、それらの周波数分散等を基に、常時又は適宜、又は、決まった時間間隔で、ビームフォーミングパラメータ(送信強度、送信と受信のアポダイゼーション、送信と受信のディレイ、ステアリング角度、送信と受信の各々の時間間隔(スキャンレート)、フレームレート、走査線数、有効開口の数や形状と大きさと向きと位置、開口素子の形状や大きさや向き、物理開口の向き、又は、偏波モード等)が最適化されることがある。それにより、例えば、空間的に一様なクオリティー(空間分解能やコントラスト、スキャンレート等)を持つ、また、あるターゲットが(形や材料、構造、動きの特徴、温度、湿度等に基づいて)検出された位置やそれに関連する位置に高いクオリティー(空間分解能やコントラスト、スキャンレート等)を持つ、対象の動きや組成、構造に合わせて散乱波(前方散乱波又は後方散乱波)や透過波、反射波、又は、屈折波を適切に捉えたり、重点的に広い方向から観測する等、最適化ビームフォーミングが行われる。
【0297】
波動の伝搬速度は媒体の物性で決まるが、その物性は圧や温度、湿度等の環境条件によって変化し、また、媒体中で物性が不均質であることも多く、従って、伝搬速度は不均質である。伝搬速度は実時間で計測されることもあり、また、環境条件に対する校正データに基づき、観測される環境条件より、伝搬速度を求めることもできる。本実施形態に係る装置は、伝搬速度の不均質性を補正する位相収差補正ユニットをさらに備えており、実質的に、送信時に上記の各チャンネルの送信ディレイそのものか補正専用のディレイを調節して位相収差補正を行える。また、受信後においては、その送信及び/又は受信の伝搬経路における伝搬速度の不均質性を補正するべく、上記デジタル信号ユニットにおいて、周波数領域における複素指数関数の乗算による補正が可能である。若しくは、上記のフーリエ変換と逆フーリエ変換の計算において、直接に補正を施すことも可能である。計測された伝搬速度の信頼性は、計測対象そのものか、計測対象の近傍に存在するか設置した参照物を対象としてイメージング信号を生成し、結像の状態、空間分解能、信号強度、コントラスト等を指標として確認でき、これを基に、さらに、調整されることもある。後述のパッシブである第2の実施形態においても、受信後に、送信及び/又は受信の位相収差補正が行われることがある。
【0298】
波動は、減衰や散乱、透過、反射、屈折等の影響を受けながら伝搬して拡がるものであり、基本的には、伝搬距離にも伴い、波動の強度は弱くなる。従って、本実施形態に係る装置では、例えば、ランバートの法則に基づいて、ビームフォーミングの前又は後の信号に対して減衰の補正を行う機能が搭載されていたり、操作者が入力装置より減衰の補正を各位置や各距離において調整できる機能が備えられていることがあるが、上記の如く、対象に適応して最適な補正をビームフォーミング処理の前又は後において行う機能を備えることもある。これらの処理において、自由度は低いが、処理の高速性を重視して、デジタル処理ではなく、アナログデバイスや回路によるアナログ処理が行われることがある。
【0299】
上記の処理において、重ね合わせとスペクトル周波数分割は、線形処理であったが、上記の方法(1)〜(6)のビームフォーミングによる波動の生成又は生成後において、非線形の処理を施し、別の波動パラメータを持つ信号を生成することが行われる(本願の第1の発明者の過去の発明)。ビームフォーミングの過程において、受信信号がアナログ信号であるときにはアナログ回路(ダイオードやトランジスタ、増幅器、専用非線形回路等)を用いたアナログ信号処理に基づき、デジタル信号であるときにはデジタル信号処理ユニットを用いたデジタル信号処理に基づき、受信信号にべき乗演算や乗算演算、その他の非線形処理が施されることがある。
【0300】
その他、DASの変形として、本願の第1の発明者の過去の発明であるDAM(Delay and Multiplication)処理を本発明の装置において周波数領域において実施することがある。時空間領域におけるべき乗や乗算等の積の計算は、周波数領域では畳み込み積分で計算できる。信号を高周波化したり、広帯域化したり、高調波を模擬したり、ステアリングされた波動に関しては、少なくとも任意の1方向から全方向に検波した信号を得ることができ、例えば、その結果として得られる波動の画像を生成できるし、通常の1方向の変位計測法を用いて、変位ベクトルの計測が可能であることがある。
【0301】
また、仮想源を用いたイメージング信号の生成も可能である。仮想源については、過去に物理開口の手前に仮想源を設置するものや送信焦点位置に仮想源を設置するものが報告されており、また、本願の第1の発明者は、仮想源のみならず検出器を任意位置に設置することや、波動の物理的な源や検出器を適切な散乱体や
回折格子を任意位置に設置できること等を報告しており、本発明は、それらの仮想源や仮想検出器においても実施できる。高空間分解能化や視野領域(FOV)を広くすることが可能である。
【0302】
任意の波動源によって、波動が、受信開口素子アレイで決まる座標系を任意位置を中心として回転させたり、空間的にシフティングして表される座標系(例えば、送信開口の軸と横の座標で決まる座標であり、受信開口で決まるものとは異なる)において生成される場合に、受信信号に座標の補正をかけた上で、ビームフォーミングが行われることがある。例えば、前記の2次元のデカルト座標系(x,y)を原点を中心としてθだけ回転させた状態においてイメージング信号を直接に生成したい場合には、最初の時間方向のフーリエ変換
により得られる解析信号に対して、式(29)を乗じて計算を進めればよく、波数ベクトル(kx,√(k
2-kx
2))及び座標(x,y)の回転とヤコビアンの計算を行うよりも、本発明により達成される高速性を失うことなく、高速にイメージ信号を生成できる。
【数74】
【0303】
但し、反射波の場合には、s=2であり、透過波の場合には、s=1である。実質的に、送信分の補正であれば、s=1によって実施すればよい。空間的なシフティング(並進)も周波数領域において、複素指数関数を掛けて実施できる。上記の波数ベクトル(kx,√(k
2-kx
2))及び座標(x,y)の回転とヤコビアンの計算を行う方法は、受信開口素子アレイで決まる座標系への変換を伴う送信ビームフォーミング(s=1)を行うものであり、その状況の下で、受信ビームフォーミング(s=1)は行われ、低速である。
【0304】
本実施形態に係るアクティブ型の装置においては、後に説明する第2の実施形態に係るパッシブ型の装置においても同様であるが、アナログデバイスとして、その他、トランスデューサや装置本体に組み込まれることもある、レンズや反射体(鏡)、散乱体、偏向器、偏光器、偏波器、吸収体(減衰器)、乗算器、共役器、位相遅延デバイス、加算器、微分器、積分器、整合器、フィルタ(空間又は時間、周波数)、
回折格子、分光器、コリメータ、スプリッター、方向性結合器、又は、非線形媒体、波動の増幅器等の特殊なデバイスが併用されることがある。この他、光を対象とする場合は、偏光フィルタ、NDフィルタ、遮蔽物、光導波路、光ファイバー、光カー効果デバイス、非線形光ファイバー、光混合光ファイバー、変調用光ファイバー、光閉じ込めデバイス、光メモリ、分散シフト光ファイバー、バンドパスフィルタ、時間の反転器、又は、光学的マスク等による符号化等、また、それらを光制御(波長変換・スイッチング・ルーチング)するべく、光ノード技術、光クロスコネクト(OXC)、光分岐挿入多重(OADM)、光多重・分離装置、又は、光スイッチ素子が使用され、デバイスそのものが光伝達網や光ネットワークであることもある。この限りでは無い。ビームフォーミングにおいて、それらは、装置と共に、人義的に、又は、自然に、又は、上記の様な仕組みの下で同様に最適に、制御されるものである。
【0305】
また、その様な組み合わせの下で、本発明に係る装置は、波動を用いる通常の装置においても使用される。医療用の装置としては、例えば、超音波診断装置(エコー法と透過型等がある)、X線CT(減衰効果を増強する造影剤が使用されることがある)、X線レントゲン、アンギオグラフィー、マンモグラフィー、MRI(Magnetic resonance Imaging、造影剤が使用されることがある)、OCT(Optical Coherent Tomography)、PET(Positron Emission Tomography、第2の実施形態に該当)、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)、内視鏡(カプセル型もある)、腹腔鏡、各種センシング機能を装備したカテーテル、各種顕微鏡、各種放射線治療装置(治療効果増進のために化学療法を併用することがある)、及び、HIFU(High Intensity Focus Ultrasound)等が該当する。化学センサー等が使用されることもある。また、本発明に係る装置は、各種のレーダー、ソナー、及び、光学系装置等においても使用される。波動は、パルス波やバースト波に限らず、連続波が使用されることもある。また、自由度の高いデジタル処理を動作時間の速い専用のアナログ回路によって実現して使用することもあり、その逆もある。資源探査や非破壊検査、通信の分野等、各分野において各種の装置が存在し、それらにおいても、本発明に係る装置は使用される。本願発明の装置は、装置として、また、動作モード(例えば
、イメージングモード、ドプラモード、計測モード、通信モード等)に関して、通常の装置において使用されうるものであり、また、それらや上記のものに限られるものではない。
【0306】
<シミュレーション結果>
以下、主として、波動が超音波である場合に、上記のビームフォーミング方法(1)〜(7)について、実行可能性をシミュレーションによって確認した結果を示す(平面波送波やステアリング時のモノスタティック型開口面合成、マルチスタティック型開口面合成、固定フォーカシングによるイメージ信号の生成、極座標系における送受信時のデカルト座標系におけるイメージ信号生成に加え、マイグレーション法の結果)。
【0307】
図16は、シミュレーションにおいて用いられた数値ファントムを示す図である。ここでは、無エコー且つ無減衰媒体中において深さ30mmに2.5mm間隔で存在する5個の点散乱体を含む数値ファントムを扱った。エコー信号の生成には、Field II(非特許文献8を参照)を用いた。ここでは、深さ方向をz軸、横方向をx軸としている。
【0308】
平面波送波とマイグレーション法、モノスタティック型開口面合成では、1次元リニアアレイ型トランスデューサ(128素子、素子幅0.1mm、間隙0.025mm、スライス方向の厚み5mm)を用いた。固定フォーカシングとマルチスタティック型開口面合成では、1次元リニアアレイ型トランスデューサ(256素子、素子幅0.1mm、間隙0.025mm、スライス方向の厚み5mm、有効開口幅33〜129素子)を用いた。極座標系における送受信には、コンベックス型トランスデューサ(128素子、素子幅0.1mm、間隙0.025mm、スライス方向の厚み5mm、曲率半径30mm)を用いた。放射する超音波パルスの中心周波数は3MHzとし、その音圧波形を
図17に示す。偏向角度は、正面の深さ方向に対して定義し、以下においては、「θ」と表すことにする。
【0309】
(1)偏向平面波の送波
偏向角度θ=0°、5°、10°、15°の偏向平面波を送波したときのシミュレーション結果を
図18に示す。同一角度で受信を行った結果である。
図18において、横軸は、横方向(Lateral x)の位置[mm]を表しており、縦軸は、深さ(Depth)z[mm]を表している。
図18に示すように、結像したエコー画像が得られ、さらに、偏向されたことも確認できる。
【0310】
生成されたイメージ信号のスペクトルより、得られた偏向角度を算出した結果を
図19及び
図20に示す。この評価のために、数値ファントム内の散乱体を増やし、0〜40mmの深さにランダムに300個の散乱体を配置した。各散乱体の反射係数は−1〜1のランダム値にした。設定した偏向角度に寄らず、0.5〜0.8度の誤差が確認された。誤差は、生成された波動に対しての散乱体の位置に依存したものである。散乱体を多くすると精度は向上する(略)。
【0311】
異なる偏向角度で得られた画像を複数重ね合わせた結果を
図21に示す。偏向角度は1°間隔で設定し、1波(0°)、11波(−5°〜5°)、21波(−10°〜10°)、41波(−20°〜20°)をそれぞれ重ね合わせた。
図22は、生成されたイメージ信号から推定された点拡がり関数の横方向の分布をプロットした図である。
図22において、横軸は横方向(Lateral x)の位置[mm]を表しており、縦軸は輝度(Brightness)の相対値を表している。
図22に示すように、重ね合わせの数が多いほど分解能が向上することを確認できる。
【0312】
マイグレーション法[方法(6)を同偏向平面波送波時のビームフォーミングに応用]
本発明によるマイグレーション法でイメージ信号を生成した結果を
図23に示す。偏向角度は、
図18と同様に、θ=0°、5°、10°、15°とした。
【0313】
(2)偏向モノスタティック型開口面合成
方法(2)のモノスタティック型開口面合成による偏向時のシミュレーション結果を
図24に示す。
図18と同様に、偏向角度をθ=0°、5°、10°、15°とした。
図24に示すように、結像し、偏向されていることを確認できる。
【0314】
(3)マルチスタティック型開口面合成
方法(3)のマルチスタティック型開口面合成によるシミュレーション結果を
図25に示す。
図25(a)は、受信素子を送信素子と等しくして受信した信号のみ(即ち、1セット)を用いて生成された低分解能画像を示す(つまり、モノスタティック型と同じ)。
図25(b)は、送信位置の素子に加えて左右16素子を受信に用いた合計33セットの結果を重ね合わせた結果を示す。
図25(c)及び(d)は、それぞれ、65セット(送信素子の左右32素子)を重ね合わせた結果、及び、129セット(送信素子の左右64素子)を重ね合わせた結果を示す。
図25に示すように、結像されたことを確認できる。また、それぞれの点拡がり関数をプロットした結果を
図26に示す。
図25及び
図26より、重ね合わせた数が多いほどサイドローブが抑圧されており、高分解能であることも確認できる。
【0315】
(4)固定フォーカシング
固定フォーカシング送信の結果を
図27に示す。ここでは、方法(1)を用いた。
図27(a)は、各送信有効開口において受信したエコー信号を重ね合わせ、1回のエコー信号の生成処理を施した結果を示す。
図27(b)は、それぞれの有効開口幅毎に低分解能なエコー信号を生成して重ね合わせた結果を示す。
図27(c)は、マルチスタティック開口面合成と同様に送受信で同じ位置関係のものをセットとしてエコー信号を生成して重ね合わせた結果を示す。
図27に示すように、いずれにおいても結像され、特に違いは見られない。
【0316】
(5)極座標系における送受信のデカルト座標系におけるイメージ信号の生成
(5−1)円筒波送波
コンベックスアレイの全素子から超音波を同時に放射して円筒波を送波したときのエコー信号を周波数領域で処理した結果を
図28に示す。
図28に示すように、結像されたことを確認できる。
【0317】
(5−2)固定フォーカシング
コンベックスアレイを用いて深さ30mmを固定フォーカシングした受信信号を処理した結果を
図29に示す。
図29(a)は、各有効送信開口において得られる受信信号を重ね合わせ、1回のエコー信号生成処理を施した結果を示し、
図29(b)は、それぞれの送信毎に低分解能画像を生成して重ね合わせた結果を示す。
【0318】
以上のシミュレーションにおいて実施した本発明によるデジタルフーリエ変換を用いたビームフォーミングは、複素指数関数の乗算とヤコビ(Jacobi)演算を適切に使用することを基礎として、任意直交座標系における任意ビームフォーミング処理を補間近似なしに高精度に実現できることを実証した。いずれのビームフォーミングもDAS(Delay and Summation)法を用いて実現できるが、本発明によるビームフォーミングは、波数マッチングと横方向のフーリエ変換の違いにより高速化され、1次元アレイのときに、汎用のPCを使用した場合には、計算時間が100倍以上にも優位に高速である。開口素子が2次元又は3次元分布、2次元又は3次元のアレイを構成している場合には、上記の方法をさらに多次元化すれば良く、1次元の場合に比べてさらに多くの処理を要するという問題を解決し、その高速性はさらに有効となる。また、偏向角度の異なる平面波送波時の重ね合わせ等が有効になる実施例も記載した。高分解能化され、また、サイドローブが抑圧されて高コントラスト化される効果等を高速に得られる。
【0319】
上記の例において、任意のアレイ型開口面形状において、任意のフォーカス(フォーカスなしを含む)とステアリングを実施できることが確認され、任意直交座標系における任意ビームフォーミング処理を補間近似なしに高速に且つ高精度に実現できることが確認された。生成されるイメージ信号を基礎とした変位計測等の高次の計測結果を得る時間も短縮化され、その計測精度が向上する効果も得られる。
【0320】
以上、第1の実施形態における代表的なトランスデューサ、受信センサー、送信ユニットと受信ユニット、制御ユニット、出力装置、及び、外部記憶装置等を使用した例を説明した。方法(1)〜(7)のビームフォーミングが可能であったことは、任意直交座標系において、フォーカシングとステアリングを基礎とする任意のビームフォーミングを実施できることを実証したことになり、本発明の装置を使用して実現できるビームフォーミングや応用はその他に記載されたものを含めてもその限りではない。
【0321】
<<第2の実施形態>>
次に、本発明の第2の実施形態に係る計測イメージング装置及び通信装置の構成を説明する。
図1は、第1の実施形態に係る装置がアクティブ型であるときの構成例を示す代表的なブロック図であり、
図2は、その装置本体の構成例を詳しく示す代表的なブロック図であるが、第2の実施形態では、パッシブ型の装置が使用され、従って、第2の実施形態に係る装置は、
図1において、少なくとも、送信用のトランスデューサは備えず、さらに、制御ユニットから送信トランスデューサに駆動信号を送るための有線又は無線の経路を備えていないものである。
【0322】
第1の実施形態に係るアクティブ型の装置の場合には、
図1及び
図2を代表的な構成として、詳細な装置やユニットの構成例を説明したが、アクティブ型の装置は、任意開口形状の送信と受信トランスデューサアレイデバイス(トランスデューサは送信と受信の両方に使用されることもある)を必ず用いるものであるのに対し、パッシブ型の装置は、それらにおいて、任意開口形状の送信トランスデューサアレイデバイスを使用しない。
【0323】
つまり、第2の実施形態に係る装置の基本構成は、受信トランスデューサ(又は受信センサー)20と、装置本体30と、入力装置40と、出力装置(又は表示装置)50と、外部記憶装置60とを備える。装置本体30は、主として、受信ユニット32と、デジタル信号処理ユニット33と、制御ユニット34と、図示しない記憶ユニット(メモリ又は記憶装置又は記憶媒体)とを備える。さらに、装置本体30は、送信ユニット31を備えても良い。これらの構成要素についての第1の実施形態における説明は、第2の実施形態にも適用される。
【0324】
第1の実施形態と同様に、これらの各装置や装置本体30内の各ユニットは、離れた場所に設置され得るものである。装置本体30とは、それらの様な複数のユニットから構成されるものであり、便宜上、その様に呼ぶ。また、第1の実施形態と同様に、受信トランスデューサ20を機械的に走査して受信を行うこともある。一般的にアレイ型と称さない場合においても同様に処理されることがある。
【0325】
しかしながら、第2の実施形態に係る装置は、第1の実施形態に係る装置とは異なり、波動が生成されたタイミングを感知するべく、以下に詳細に説明するが如くに、任意波動源から到来した観察対象の波動そのものを受波してタイミング信号を生成するか、別の過程を経て生成されるタイミング信号を有線又は無線通信を通じて制御ユニットが感知し、受信ユニットのデータの取り込み(各受信チャンネルにおけるAD変換とメモリへの書き込み)を開始するためのトリガー信号として使用されることがある。
【0326】
波動が生成されたタイミングを知らせるタイミング信号を制御ユニットが感知する方法として、波動源から到来する波動そのものがタイミング信号として使用される場合に、本実施形態に係る装置の受信トランスデューサ(又は受信センサー)20の受信開口素子20aにより受信される受信信号そのものが使用されるか、又は、装置本体30に備えられることもある専用受信装置によって受信されるタイミング信号が使用される。
【0327】
この場合に、受信開口素子20a(全素子の場合もあるが、物理開口において、端部又は中央位置にある素子等が疎らに使用されることもある)又は専用受信装置(受信チャンネルが少なくとも複数であることがある)によって受信される信号が、時間的に継続的に検出され、例えば、上記の様な各種の入力手段を通じて、受信信号の信号強度や周波数、帯域、又は、符号等に関する情報が、制御ユニット34そのもの(内臓メモリ)やアナログ判定回路(この場合には、ソフト的にもハード的にも可変でなく、ハード的に固定のものもある)に設定される。あるいは、波動が生成されるタイミングの感知は、受信開口素子20a又は専用受信装置によって受信される信号を、メモリ又は記憶装置(記憶媒体)に記録された、閾値や値、観察対象の波動の特徴に関するデータベース等の判別データと照合することに基づく。
【0328】
受信信号をアナログ的に判別する場合には、備えられる専用のアナログ回路によって判別をし、観察対象の信号と判断された場合においてのみ、データ取り込みのためのトリガー信号が生成され、受信信号がAD変換されてメモリや記憶装置(記憶媒体)に格納され、ビームフォーミング処理が行われることがある。
【0329】
受信信号をデジタル的に判別する場合には、受信信号が時間的に継続的にAD変換されてメモリや記憶装置(記憶媒体)に格納され、常時又は随時(入力装置を通じて指令があった際等)、所定の時間間隔(入力装置を通じて設定される等)において、その格納された信号をデジタル信号処理ユニット33が読み出して同判別データとの照合を基に判別をし、観察対象の信号と判断された場合においてのみ、ビームフォーミング処理を行うことがある。
【0330】
メモリや記憶装置(記憶媒体)の記憶容量は有限であるため、デジタル的に判別する場合において、所定(入力装置を通じて設定される等)の時間内に観察対象の波動の信号が観測されなかった場合には、メモリのアドレスが初期化される様になっている。また、省エネの点では効率的でないが、随時、ビームフォーミングを行い、ビームフォーミングによって精度の高くなったイメージ信号を基に、同判別データを使用して、波動信号を判別することもある。通常の通信目的の波動が観察対象である場合においても、処理は同様である。
【0331】
また、専用受信装置は、他の装置のユニットとは離れた、例えば、計測対象である波動源近くの位置や、そのタイミング信号の受信環境の良い位置等の別の位置に設置されることもあり、受信開口で受波する波動よりも高速に伝搬する波動(タイミング信号となる波動)が使用され、その専用受信装置を介して装置本体内の制御ユニットにそのタイミング信号が伝えられることがある。中継局を使用することのある専用の回線(有線又は無線)が使用されることもある。この場合には、そのタイミング信号をトリガー信号として、受信信号の取り込み(AD変換とメモリや記憶装置や記憶媒体への格納)とビームフォーミングとを行う。
【0332】
また、本発明の装置が波動を受波した後に、波動が生成されたタイミング信号が届くこともある。つまり、伝搬速度が遅い、若しくは、その様な仕組みが使用されることもあるが、結果的にその様になることもある。その様な場合に対応するためには、常時、継続的に受信信号の取り込みを行って、メモリや記憶装置(記憶媒体)に格納されている受信信号を時間を遡って読み出し、ビームフォーミングを行う。その場合に、タイミング信号には、他の観察者や観察装置により得られた波動に関する情報が中継局等において付加情報として付加されて、付加情報が付加されたタイミング信号が伝送されて、専用受信装置によって付加情報を含む情報が読み取られ、本発明の装置だけでなく、他の装置において使用されることもある。尚、使用される回線は、専用の回線には限られず、通常のネットワークが使用されることもある。通常の通信目的の波動が観察対象である場合においても、同様なタイミング信号が使用されることもある。付加情報がタイミング信号とは別の波動又は信号で伝えられることもある。
【0333】
また、観察対象の波動の生成と共に、その生成前か、生成時、又は、生成後に、受信開口素子で受波する波動よりも高速又は低速に伝搬する波動(タイミング信号となる波動)が波動源において生成されて、その専用受信装置や専用回線が同様に設置されて使用されることもある。その場合に、タイミング信号となる波動には、観察対象の波動に関する情報が付加されることがあるし、他の観察者や観察装置により得られた波動に関する情報が中継局等によって付加されて伝送され、専用受信装置によって付加情報を含む情報が読み取られ、本発明の装置や他の装置によって使用されることもある。尚、使用される回線は、専用の回線には限られず、通常のネットワークが使用されることもある。通常の通信目的の波動が観察対象である場合においても、同様なタイミング信号が使用されることもある。付加情報がタイミング信号とは別の波動又は信号で伝えられることもある。
【0334】
これらの専用受信装置としては、タイミング信号を感知する、又は、付加情報を読み取ることのできる専用感知装置が使用されるわけであるが、任意の観察者、又は、任意の観察装置(観察対象の波動に関する任意のアクティブ型又はパッシブ型の観察装置又はそれに類する観測装置等、その他、その波動が生成される予兆となる、又は、その波動に伴って同時に生成される、又は、波動生成後の別の現象や波動に関する任意のアクティブ型又はパッシブ型の観察装置又はそれに類する観測装置等)が使用される。変則的に、専用受信装置がタイミング信号を受信するのみで、付加情報の読み取りそのものは、専用装置又は装置本体内の制御ユニットを介してデジタル信号処理ユニットで行われることもある。
【0335】
本発明のアクティブ型又はパッシブ型の装置そのものが感知装置として使用される場合においても、同様に、デジタル信号処理ユニット33によって付加情報が読み取られることがある。上記の如く、備えられる感知装置によりタイミング信号が生成される場合もある。いつ何時に、又は、何処で、又は、いつ何時に何処で、波動が生成されるか分からない場合において、データの取り込み動作及びビームフォーミング処理の高効率化や、電力の節約、メモリや記憶装置(記憶媒体)の節約に重要である。制御ユニット34の持つクロック信号を基に、データの取り込みとビームフォーミングが行われる。波動源がデジタルである場合には、同期が取れる方が良く、観察対象の波動のアナログ受信を基礎として、高クロック周波数及び高サンプリング周波数で装置が稼働することがある。タイミング信号がアナログ信号である場合も同様であるが、タイミング信号がデジタル信号である場合には、装置本体で同期が取られることがある。
【0336】
観察対象は、自己発散的(self-emanating)な波動源によって生成された波動そのものであり、波動源の特徴(強さやどの種の源であるか等)や位置、波動源として活動した時刻等が観測されることがある。また、装置がアクティブ型であるときと同様に、波動のスペクトルから対象の温度(分布)や変位、速度、加速度、歪、又は、歪速度等の分布が求められることがある。また、伝搬過程における媒体の特性(伝搬速度、波動に関わる物性値、減衰、散乱、透過、反射、屈折等、又は、それらの周波数分散等)が観測され、観測対象や媒体の構造や組成等が明らかにされることもある。例えば、放射性物質(PETにおける同位体等々)、非零の熱力学的温度を持つ物質、地震源、神経活動、天体観測、天候、到来物、移動物体、移動通信機器を含む通信機器、物理的又は化学的な刺激に対して反応するもの、電気源、磁気源、放射源、又は、各種エネルギー源等が観測され、観測対象はこれらに限られない。
【0337】
複数の異なる種類の波動の受信トランスデューサや受信センサーを使用して、マルチフィジックス又はマルチケノミクスを通じ、計測結果の統合(Fusion)やデータマイニングが行われることもる。例えば、力学的な波動として、同時に複数の圧縮波やずり波などが到来した場合に、モードや周波数、帯域、符号、伝搬方向等を用いてアナログの専用デバイスを使用するか、又は、デジタル信号処理ユニットを使用して、第一の実施形態と同様に波動を分離した上で、ビームフォーミングが行われることがある。電磁波の波動源が複数存在する場合には、それらの特徴が異なる複数の電磁波が重畳している場合があり、同様に、分離されることがある。若しくは、ビームフォーミングによる整相加算効果により、複数の波動が到来する場合においても、精度の高いイメージ信号が生成される場合がある(例えば、媒体が散乱媒体である場合等)。
【0338】
無論、ビームフォーミングが行われた後に、同処理に基づいて信号が分離されることもある。整相加算の効果を得るためには、波動の到来方向や、波動源の位置を求めることが必要であり、その方向にステアリングしたり、その位置にフォーカシングしたりすることがある。受信において、ダイナミックフォーカシングの他に、固定のフォーカシングも有用である。それらを求めるために、受信開口素子アレイによって受信した波動の多次元スペクトルの重心(中心)周波数や瞬時周波数、帯域、いわゆるMIMO、SIMO、MUSIC、独立成分分析、符号、又は、各種パラメトリックな方法等が使用されることもある。ビームフォーミングを行った上で同処理が行われることもあるが、その他に、特に、複数位置においてビームフォーミングを行った上で、幾何学的な情報を使用して波動が観測されることもある。処理方法は、これらに限られるものではなく、例えば、逆問題的アプローチの下で実施されること等もある。
【0339】
例えば、到来する波動の伝搬方向を受信信号の多次元スペクトル解析に基づいて求めたり(本願の第一の発明者の過去の業績)、さらに、本願発明の装置においては、異なる位置に備えられた複数のトランスデューサ又は受信有効開口を使用して、伝搬時間に関する情報が得られない場合(通常、複数位置において波動が観測された時間から波動源の位置や距離を割り出す)においても、幾何学的に波動源の位置や距離を割り出すことが可能である。波動がパルス波やバースト波ではなく連続波でも観測できる。如何なる処理を通じてでも、波動の到来方向が分かった場合において、その方向に、受信ビームをステアリング及びフォーカシングを行い(モノスタティック型やマルチスタティック型の開口面合成)、詳細に観測することも行える。必要に応じ、第一の実施形態のアクティブ型にして、送信ビームフォーミングも行うことがある。それらの処理において、常に、可能性の高い方向を重点的に、ステアリング角度を変えながら受信ビームフォーミングを行って、得られる像又は結像、空間分解能、コントラスト、信号強度等を観測する、又は、多次元スペクトル解析を通じ、波源の方向を特定することもできる。自動制御されることもある。
【0340】
超解像により、イメージ信号の高分解能化を行うことがある。波動源や、計測対象や媒体内の散乱や反射体の大きさや強度、位置等の計測が容易になることがある。物理的に生成される波動場により帯域は必ず制限されるが、超解像は、これを逆フィルタリングにより広帯域化して、オリジナル(original)の信号源又は信号としてそれらを復元するものである。また、通常、波動は周波数依存性のある減衰の影響を受けたり、焦点の合っていない場合もあるし、波動源が移動体であることもあるし、介在する媒体に擾乱を生じることもある。これらを補正するべく、超解像が実施されることもある。
【0341】
また、1つのイメージ信号を生成するために必要とする送信及び/又は受信を行っている間に計測対象等が移動することがあり、動き補償を行う必要があることがある。点拡がり関数が未知であることが多く、その場合には、上記の信号分離処理(特に、ブラインド・セパレーション)を併用する場合も含めて、ブラインド・デコンボリューションが行われることがある。何かしらの方法で、点拡がり関数を評価し、理想的にはコヒーレントな点拡がり関数を得ることが望ましいが、インコヒーレント信号から求められる場合を含めてスペクトル分布形状や帯域が求まっても逆フィルタリングは可能である。
【0342】
観測したいときに、点拡がり関数を求めることができない場合には、例えば、観測できるときに点拡がり関数を評価してデータベースとして保有しておくと良い。逆フィルタリングを行う1つの有効な方法としては、所望する点拡がり関数のスペクトル分布と同一になる様に、観測されたスペクトルを重み付けることが可能である。若しくは、信号そのもののパワースペクトルを用いて、inversionすることも可能である。波数マッチング前の角スペクトルか、波数マッチング後のスペクトルに、それらの処理を施すことができる。即ち、所望する点拡がり関数の角スペクトル若しくはスペクトル又は受信信号の角スペクトル若しくはスペクトルを用いて、超解像を施すことができる。尚、重み付けにおいて、零値や小さいスペクトルで割る場合は、注意が必要であり、特に、受信信号に含まれる各種のノイズを増幅することは有効ではなく、正則化や特異値分解等が有効である。
【0343】
上記のデジタル波動信号処理(1)〜(7)の過程においても、逆フィルタリングを行うことが可能である。イメージ信号が高分解能化され、定量性(数値)に関しても効果が得られることもあるが、画像として表示した場合においても同効果が得られることがある。ボケ画像が復元されたり、ピントが
合ったりする効果が得られる。逆フィルタリングは、インコヒーレント信号に対して実施されることもあるし、コヒーレント信号の状態で施されると効果的であり、特に、物性分布の空間的な変化等を理解できることがある。超解像の応用は、これらに限られない。
【0344】
また、検波は、生成されたイメージ信号に対して行うのが常套的手段であるが、周波数領域において、角スペクトル又はスペクトルの共役積による演算や、それも、加算処理前の各波数(周波数)成分に関するそれらの演算も有用である(本発明における非線形処理の一つ)。尚、ビームフォーミング(即ち、ディレイやアポダイゼーションが掛けられ実現されるフォーカスや偏向)が行われて得られたイメージ信号からフーリエ変換を通じて得られるものはスペクトルであるが、さらに、ビームフォーミングを施すに至った場合、軸方向と少なくとも1つの横方向にフーリエ変換されたものは、角スペクトルである。即ち、イメージ信号が生成された後に、さらに、ビームフォーミング処理が施されることがある。
【0345】
動作するモードが装置に入力される指令(信号)によって定められることもある。また、観察対象の波動(波動の種類や特徴、強度、周波数、帯域幅、又は、符号等)や伝搬する媒体(伝搬速度、波動に関わる物性値、減衰、散乱、透過、反射、屈折、又は、それらの周波数分散等)に関する付加情報が与えられ、適切に受信信号がアナログ処理又はデジタル処理されることもある。生成されたイメージ信号の特徴(強度、周波数、帯域幅、又は、符号等)が解析されることもある。本実施形態に係る装置で得られたデータは、他の装置において使用されることがある。本実施形態に係る装置は、ネットワークデバイスの1つとして使用されることがあり、ネットワークシステムの制御装置により制御されることがあり、また、ネットワークデバイスを制御する制御装置として使用されることもあり、ローカルに構成されたネットワークを制御する制御装置となることもある。
【0346】
本実施形態に係るパッシブ型の装置をアクティブ型の装置として使用する場合においては、送信トランスデューサ(又はアプリケータ)10を装置本体30の送信ユニット31に接続し、送信器31aがアナログ装置でトリガー信号の入力端子を持つ場合には、制御ユニット34によってトリガー信号を生成して印加するか、又は、送信器31aがデジタル装置で外部クロック信号に従って動作するモードがあれば、装置本体30内のいずれかから、又は、制御ユニット34からクロック信号を与えるか、又は、装置本体30が送信器31aのクロック信号で動作するかのいずれかの機構が設けられることがある。送信器31aがデジタル装置である場合においては、これらの内のいずれかの機構により、送信と受信のクロック信号が同期される。このことは、複数回の送信に基づいて、1つのイメージ信号を生成する場合に重要となる。同期を取れない場合には、クロック周波数やサンプリング周波数が高い状況において、誤差が低減されることがある。
【0347】
以上により、高速フーリエ変換を通じて、任意のビームフォーミングを、高速に補間近似を行わずにデジタル処理によって実現できる。実質的に、任意のフォーカシングと任意のステアリング(偏向)を、任意開口形状のトランスデューサアレイデバイスを用いて実施できる。第2の実施形態は、装置として、また、動作モード(例えば、イメージングモード、ドプラモード、計測モード、通信モード等)に関して、通常の装置において使用され得るものであり、また、それらや上記のものに限られるものではない。
【0348】
以上の第1及び第2の実施形態において、電磁波や、音波(圧縮波)やずり波、衝撃波、表面波等を含む振動波(力学的波)、又は、熱波等の波動を対象として、送信又は受信のフォーカシングや送信又は受信のステアリング、送信又は受信のアポダイゼーションの有無に依らず、送受信の座標系とビームフォーミングされた信号を生成する座標系が異なる場合を含め、任意のビームフォーミングをデジタル処理に基づいて補間近似を行うことなく高精度に且つ高速に実施できる。ビームフォーミングされた信号を画像表示する際のフレームレートが向上するだけでなく、画質に関して高い空間分解能と高いコントラストを得ることができ、さらに、ビームフォーミングされた信号を用いて変位や変形、又は、温度等を計測すれば、計測精度も向上する。本発明の応用は、この限りではない。処理の高速性は、多次元アレイを用いた多次元イメージングにおいて絶大な効果を奏する。本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、当該技術分野において通常の知識を有する者によって、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。
【0349】
計測対象は、有機物、無機物、固体、液体、気体、レオロジーに従うもの、生き物、天体、地球、環境等、様々であり、応用範囲は極めて広い。非破壊的検査、診断、資源探査、材料や構造物の生成や製造、物理的又は化学的な様々な修復や治療のモニタリング、明らかにした機能や物性等を応用すること等に貢献し、それらにおいては被測定対象に大きな擾乱を来さず、非侵襲的、低侵襲的、非観血的である条件が課された中で精度が求められることがある。理想的に対象を原位置でのありのままの状態(in situ)において観測できる場合がある。また、波動そのものの作用により対象に治療や修復を実施することもあり、その際の対象からの応答に対してビームフォーミングを実施してその状況が観測されることもある。また、衛星通信、レーダー、ソナー等においてビームフォーミングを実施し、省エネの下、情報的に安全な環境を実現し、正確な通信も可能である。アドホックな通信機器やモバイルを含む通常の通信においても、本発明は有効である。また、センサーネットワークにも応用できる。対象が動的である場合には実時間性が求められるが、本発明に依れば、デジタルビームフォーミングを短時間に高速に高精度に完了することが可能である。