特許第6408309号(P6408309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

<>
  • 特許6408309-分散強化銅含有材料の製造方法 図000004
  • 特許6408309-分散強化銅含有材料の製造方法 図000005
  • 特許6408309-分散強化銅含有材料の製造方法 図000006
  • 特許6408309-分散強化銅含有材料の製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408309
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】分散強化銅含有材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20181004BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20181004BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20181004BHJP
   C25D 21/10 20060101ALI20181004BHJP
   C22C 1/10 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C25D15/02 G
   C25D1/04 311
   C25D5/48
   C25D21/10 301
   C22C1/10 A
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-178702(P2014-178702)
(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公開番号】特開2016-53190(P2016-53190A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 明子
(72)【発明者】
【氏名】桑原 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】中井 由弘
(72)【発明者】
【氏名】千星 聡
(72)【発明者】
【氏名】正橋 直哉
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭48−043785(JP,B1)
【文献】 特開平05−148689(JP,A)
【文献】 特開昭62−276247(JP,A)
【文献】 特開平11−061294(JP,A)
【文献】 特開2009−185319(JP,A)
【文献】 米国特許第04666568(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンと硬質粒子とを含む電解液が貯留された貯留槽と、この貯留槽に配置されたアノードおよびカソードとを備える電析装置を準備する準備工程と、
前記電析装置へ通電することで、銅を母材とし、この母材中に前記硬質粒子が分散した分散強化銅を前記カソードの表面に電析させて分散強化銅含有材料を得る電析工程とを備え
前記カソードが長尺体で、
前記長尺体の横断面の包絡円の直径をD1、製造される分散強化銅含有材料における前記長尺体の横断面と同一面の包絡円の直径をD2とし、(D2―D1)/D1>1となるように前記電析工程を行う分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項2】
前記分散強化銅の厚さが0.1mm超である請求項1に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項3】
前記硬質粒子の平均一次粒子径が1000nm以下である請求項1または請求項2に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項4】
前記硬質粒子が金属酸化物系セラミックス粒子である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物系セラミックス粒子が酸化チタン粒子および酸化アルミニウム粒子の少なくとも一方である請求項4に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項6】
前記電解液中における前記硬質粒子の含有量が1.0g/L以上30g/L以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項7】
前記硬質粒子が酸化チタン粒子および酸化アルミニウム粒子の少なくとも一方であり、
前記硬質粒子の平均一次粒子径が0.1nm以上50nm以下で、
前記電解液中における前記硬質粒子の含有量が1.0g/L以上30g/L以下である請求項1または請求項2に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項8】
前記長尺体の材質が銅、銅合金、および分散強化銅のいずれかである請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項9】
前記電解液が、前記硬質粒子を前記電解液中に分散させるための分散剤を含まない請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項10】
前記電析工程において、前記電解液を撹拌する請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【請求項11】
さらに、前記分散強化銅含有材料を塑性加工する塑性加工工程を備える請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の分散強化銅含有材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散強化銅含有材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電線用導体や端子金具といった導電部材の材料などとして、分散強化銅が用いられている。分散強化銅は、銅を母材とし、この母材中に硬質粒子が分散した複合材料である。硬質粒子は、銅よりも硬い材質で構成される粒子である。具体的な硬質粒子の材質としては、金属炭化物、金属酸化物、および金属ホウ化物などのセラミックスが挙げられる。
【0003】
分散強化銅の製造方法としては、母材である銅の溶湯に硬質粒子の粉末を混合して鋳造する方法(溶製法)や、母材である銅粉末と硬質粒子の粉末とを混合して焼結する方法(粉末焼結法)などが知られている。また、上記の製造法以外の製造方法として、特許文献1には、溶湯に金属元素と炭素ホウ素源を加え、溶湯中で硬質粒子を生成させる分散強化銅の製造方法(鋳造法)が開示されている。特許文献2では、以下の(1)から(4)の工程を備えるアルミナ分散強化銅合金の製造方法が開示されている。
(1)銅−アルミニウム合金の粉末と酸化剤とを混合した混合粉末を作製する工程
(2)混合粉末を純銅などからなる容器に封入する工程
(3)非酸化性雰囲気下で混合粉末が封入された容器を加熱することで硬質粒子(アルミナ粒子)を生成させる(内部酸化させる)工程
(4)容器ごと熱間加工する工程
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−185319号公報
【特許文献2】特開平11−061294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、従来とは全く異なる手法により分散強化銅を得る技術が望まれている。例えば、上述した各分散強化銅の製造方法においては、焼結や溶湯の作製、内部酸化や熱間加工といった原材料を高温で処理する工程が含まれるため、高温への加熱機構や、高い耐熱性や耐火性を備えた設備が必要となる。このような設備は、大掛かりで高価な場合が多く、その維持や管理などが容易とは言い難い。
【0006】
また、分散強化銅は、含まれる硬質粒子の質量が同じであれば、材料中に分散する硬質粒子の数密度(分散強化銅の単位体積当たりの硬質粒子の粒子数)が大きいほど強度に優れると考えられる。一方で、硬質粒子の材質が同一であれば、その総質量が多くなるほど、分散強化銅の導電率が低下する。よって、高い強度と導電率とを両立させるには、適切な量の微細な(望ましくはナノオーダーの)硬質粒子を母材の中にできるだけ均一に分散させることが考えらえる。
【0007】
しかし、上述した溶製法では、母材中に微細な硬質粒子が均一に分散し難い。硬質粒子は溶融した銅との濡れ性が乏しいため、溶湯中での混合の際や凝固の際に硬質粒子の凝集が起こりやすいからと考えられる。上述した粉末焼結法では、硬質粒子が銅の結晶粒界に偏析しやすく均一な分散が難しいと考えられるばかりか、不純物が混入しやすいという問題もある。特に、いずれの製造方法においても、硬質粒子が微細となるほど、凝集や偏析などの問題の発生が顕著になると考えられ、微細な硬質粒子を母材中に均質に分散させることが難しいと考えられる。
【0008】
この点、特許文献1に記載の鋳造法では、微細な硬質粒子が均一に分散した分散強化銅を製造できるとしているものの、より均一により微細な硬質粒子を母材中に分散でき、ひいてはより高い水準の強度と導電率とを備える分散強化銅の製造方法が求められている。一方、特許文献2に記載のアルミナ分散銅の製造方法では、銅に微細な硬質粒子(アルミナ粒子)を分散させることができるが、上述したように多段階の煩雑な工程を経る必要があり、効率よく分散強化銅を製造できるとは言い難い。また、各工程に用いる設備も大がかりで高価になり、その維持や管理が容易とは言い難い。
【0009】
そこで、本発明の目的の一つは、従来とは全く異なる手法により分散強化銅含有材料を得ることができる分散強化銅含有材料の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的の一つは、微細な粒子がより均一に分散した分散強化銅含有材料を簡易な方法で製造することができる分散強化銅含有材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る分散強化銅含有材料の製造方法は、準備工程と、電析工程とを備える。準備工程では、銅イオンと硬質粒子とを含む電解液が貯留された貯留槽と、この貯留槽に配置されたアノードおよびカソードとを備える電析装置を準備する。電析工程では、電析装置へ通電することで、銅を母材とし、この母材中に硬質粒子が分散した分散強化銅をカソードの表面に電析させる。
【発明の効果】
【0011】
上記発明の分散強化銅含有材料の製造方法によれば、従来とは全く異なる手法により分散強化銅含有材料を製造することができる。また、本発明の分散強化銅含有材料の製造方法によれば、微細な粒子が分散した分散強化銅含有材料を簡易な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一態様に係る分散強化銅含有材料の製造方法を示す説明図である。
図2】本発明の一態様に係る剥離工程を備える分散強化銅含有材料の製造方法を示す説明図である。
図3】本発明の一態様に係る塑性加工工程を備える分散強化銅含有材料の製造方法を示す説明図である。
図4】長尺体の基材と分散強化銅とを備える分散強化銅含有材料の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0014】
<1>本発明の一態様に係る分散強化銅含有材料の製造方法は、準備工程と、電析工程とを備える。準備工程では、銅イオンと硬質粒子とを含む電解液が貯留された貯留槽と、この貯留槽に配置されたアノードおよびカソードとを備える電析装置を準備する。電析工程では、電析装置へ通電することで、銅を母材とし、この母材中に硬質粒子が分散した分散強化銅をカソードの表面に電析させる。
【0015】
上記の分散強化銅含有材料の製造方法は、常温で実施可能なものであり、溶解や焼結、熱間加工といった原材料を高温で処理する工程が含まれない。よって、本発明の一態様に係る分散強化銅含有材料の製造方法によれば、大掛かりで高価な場合が多い高温への加熱機構や、高い耐熱性や耐火性を備えた設備を不要とできるので、設備の維持や管理などを容易に行うことができる。
【0016】
<2>上記の分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、分散強化銅の厚さが0.1mm超である形態が挙げられる。
【0017】
電析させる分散強化銅の厚さが0.1mm超であることで、得られる分散強化銅含有材料を、塑性加工材の素材などとして好適に利用できる。
【0018】
<3>上記の分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、硬質粒子の平均一次粒子径が1000nm以下である形態が挙げられる。
【0019】
硬質粒子の平均一次粒子径が1000nm以下であることで、引張強さなどの機械的特性に優れた分散強化銅含有材料を製造することができる。
【0020】
<4>上記の分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、硬質粒子が金属酸化物系セラミックス粒子である形態が挙げられる。
【0021】
金属酸化物系セラミックス粒子は、電析工程において母材中に取り込まれやすい。よって、硬質粒子が金属酸化物系セラミックスであることで分散強化銅を電析させやすく、ひいては分散強化銅含有材料を製造しやすい。
【0022】
<5>上記<4>に係る分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、金属酸化物系セラミックス粒子が酸化チタン粒子および酸化アルミニウム粒子の少なくとも一方である形態が挙げられる。
【0023】
金属酸化物系セラミックス粒子の中でも、酸化チタン粒子および酸化アルミニウム粒子は特に母材中に取り込まれやすい。よって金属酸化物系セラミックス粒子が酸化チタン粒子および酸化アルミニウム粒子の少なくとも一方であることで分散強化銅を電析させやすく、ひいては分散強化銅含有材料を製造しやすい。
【0024】
<6>上記の分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、電解液中における硬質粒子の含有量が1.0g/L以上30g/L以下である形態が挙げられる。
【0025】
電解液中における硬質粒子の含有量が1.0g/L以上であることで、電析工程の際に硬質粒子が母材へ取り込まれやすく、ひいては、製造される分散強化銅含有材料の引張強さなどの機械的特性が向上しやすい。一方、電解液中における硬質粒子の含有量が30g/L以下であることで、電解液中で硬質粒子が凝集しにくく、電析工程において凝集した硬質粒子が取り込まれることを抑制できる。これにより、分散強化銅含有材料の導電率などの電気的特性や伸びなどの機械的特性が低下することを抑制できる。
【0026】
<7>上記の分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、カソードに電析された分散強化銅をカソードの表面から剥離する剥離工程を備える形態が挙げられる。
【0027】
剥離工程を行うことで、分散強化銅のみから構成される分散強化銅含有材料を製造することができる。
【0028】
<8>上記<7>に係る分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、カソードの材質がステンレス、アルミニウム、またはアルミニウム合金である形態が挙げられる。
【0029】
カソードの材質をステンレス、アルミニウム、またはアルミニウム合金とすることで、剥離工程を行いやすい。よって、分散強化銅のみから構成される分散強化銅含有材料を生産性良く製造することができる。
【0030】
<9>上記の分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、カソードが長尺体である形態が挙げられる。
【0031】
カソードを長尺体とすることで、このカソードを基材とし、この基材上に分散強化銅が電析により形成された長尺の分散強化銅含有材料を製造することができる。このような長尺の分散強化銅含有材料は、伸線材などの素材として好適に利用できる。
【0032】
<10>上記<9>に係る分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、長尺体の横断面の包絡円の直径をD1、製造される分散強化銅含有材料における長尺体の横断面と同一面の包絡円の直径をD2とするとき、(D2―D1)/D1>1となるように電析工程を行う形態が挙げられる。
【0033】
上記の式(D2―D1)/D1>1を満たすことで、分散強化銅の厚さが長尺体の厚さよりも厚い分散強化銅含有材料とすることができる。分散強化銅の厚さが長尺体の厚さよりも厚いことで、引張強さなどの機械的特性に優れた長尺の分散強化銅含有材料を製造することができる。
【0034】
<11>上記<9>または<10>に係る分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、長尺体の材質が銅、銅合金、および分散強化銅のいずれかである形態が挙げられる。
【0035】
長尺体の材質を、銅、銅合金、および分散強化銅のいずれかとすることで、引張強さなどの機械的特性や導電率などの電気的特性に優れた長尺の分散強化銅含有材料を製造することができる。
【0036】
<12>上記の分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、電解液が、硬質粒子を電解液中に分散させるための分散剤を含まない形態が挙げられる。
【0037】
電解液が、硬質粒子を電解液中に分散させるための分散剤を含まないことで、電析する分散強化銅に分散剤由来の不純物が含まれることを抑制できる。よって、分散強化銅が不純物を含有することにより、引張強さなどの機械的特性が低下することを抑制でき、ひいては機械的特性に優れた分散強化銅含有材料を製造することができる。
【0038】
<13>上記の分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、電析工程において、電解液を撹拌する形態が挙げられる。
【0039】
電析工程において電解液を撹拌することで、硬質粒子が電解液中で均等に分散することを促進できると共に、沈降することを防ぐことができる。これにより、母材中に硬質粒子が均一に分散した分散強化銅を電析させることができる。
【0040】
<14>上記の分散強化銅含有材料の製造方法の一形態として、さらに、分散強化銅含有材料を塑性加工する塑性加工工程を備える形態が挙げられる。
【0041】
塑性加工工程を行うことで、目的の形状の分散強化銅含有材料を製造できる。また、引張強さなどの機械的特性に優れた分散強化銅含有材料を製造することができる。
【0042】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係る分散強化銅含有材料の製造方法、および、この製造方法により得られる分散強化銅含有材料について順に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内の全ての変更が含まれることを意図する。
【0043】
<分散強化銅含有材料の製造方法>
《概要》
実施形態に係る分散強化銅含有材料の製造方法は、所定の電解液や電析装置を準備する準備工程と、準備された部材を用いて分散強化銅を電析する電析工程とを備える。これにより、銅を母材とし、この母材中に硬質粒子が分散した分散強化銅を備える分散強化銅含有材料を製造することができる。以下、両工程について詳細に説明する。
【0044】
《準備工程》
準備工程S1では、電析装置を準備する。図1に示すように、電析装置1は、銅イオン111と硬質粒子113とを含む電解液11が貯留された貯留槽12と、この貯留槽12に配置されたアノード13およびカソード14とを備える。電析装置1では、アノード13が電源Pの正極に、カソード14が電源Pの負極に接続される。以下、電析装置1を構成する各部材について説明する。
【0045】
〔貯留槽〕
貯留槽12は、後述する電解液11が貯留されると共に、アノード13と、カソード14とが配置される容器である。
【0046】
貯留槽12の形状や大きさは、製造される分散強化銅含有材料の大きさや形状などにより任意に選択すればよい。
【0047】
貯留槽12の材質は、少なくともその内面が電解液11に対して反応しない材質であることが好ましい。貯留槽12の内面が電解液11に反応して腐食することを防止できるからである。特に、貯留槽12に貯留される電解液11は、後述するように、硫酸浴などの酸性の溶液である場合が多い。また、電解液11は、ピロリン酸塩やシアン化合物などを含むアルカリ性の溶液の場合もある。これらの場合、貯留槽12の内面を構成する材質を耐酸性の材質や耐アルカリ性の材質とすることで、貯留槽12の内面が腐食することを防止できる。このような電解液に対して反応しない材質としては、ガラスなどのセラミックス、および耐酸性と耐アルカリ性との少なくとも一方を備える樹脂を挙げることができる。このような樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)といったポリオレフィン樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)などの塩素系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、フェノール樹脂、およびユリア樹脂などが挙げられる。
【0048】
〔電解液〕
電解液11は、銅イオン111と硬質粒子113とを含む溶液であり、代表的には、銅イオン111と硬質粒子113とを含む水溶液である。以下、電解液11に含まれる銅イオン111および硬質粒子113、ならびに電解液11のpHについて説明する。
【0049】
(銅イオン)
銅イオン111は、電解液11を製造する際に、溶媒に溶解することで銅イオン111を生成する化合物を溶媒に加えることで生成する。ここでは、溶媒として水を用いている。この電解液11中の銅イオン111は、後述する電析工程によりカソード14の表面に銅211として析出し、硬質粒子分散強化銅21の母材となる。銅を含む化合物としては、硫酸銅(II)無水物(CuSO)、硫酸銅(II)5水和物(CuSO(HO))、過塩素酸銅(II)6水和物(Cu(ClO(HO))、塩化銅(II)無水物(CuCl2))、塩化銅(II)2水和物(CuCl(HO)2))、硝酸銅(II)(Cu(No)、および硝酸銅(II)2.5水和物(Cu(No(HO)2.5)、シアン化銅(I)(CuCN)などが挙げられる。図1では、電解液11を製造する際に、銅イオン111を生成する化合物としてCuSOを用いた例を示している。よって、ここでの電解液は、硫酸イオン(SO2−)112が含まれる硫酸浴である。
【0050】
電解液11中の銅イオン111の濃度は、0.1mol/L以上2.0mol/L以下とすることができる。銅イオン111の濃度の下限を0.1mol/L以上とすることで、生産性よく分散強化銅含有材料を製造することができる。より好ましい銅イオン111の濃度の下限は、0.5mol/L以上である。一方、銅イオン111の濃度の上限を2.0mol/L以下とすることで、余剰の銅イオンに起因する副生成物の発生を抑制できる。より好ましい銅イオン111の濃度の上限は、1.5mol/L以下である。
【0051】
(硬質粒子)
硬質粒子113は、電解液11を製造する際に、硬質粒子113から構成される粉末(以下、単に硬質粉末という)を銅イオン11の溶解した溶液や銅イオン111を溶解させる前の溶媒に分散させることで電解液11中に含まれる。電解液中11で分散した硬質粒子113は、後述する電析工程の際に母材211に取り込まれることで母材211中に分散され、分散強化材として機能する。
【0052】
硬質粒子113には、電解液11中で表面電位(ゼータ電位とも呼ばれる)がプラスにチャージするものを用いることが望ましい。後述する電析工程において、硬質粒子113が母材211中に取り込まれやすいからである。この点については、後述する電析工程において詳細に説明する。
【0053】
硬質粒子の一例としては、金属酸化物系セラミックス粒子、金属炭化物系セラミックス粒子、金属ホウ化物系セラミックス粒子などが挙げられる。電解液中には、2以上の異なる材質の硬質粒子が含まれてもよい。
【0054】
具体的な金属酸化物系セラミックス粒子の材質としては、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉄(II)(Fe)、酸化セリウム(CeO)、および酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化シリコン(SiO)などが挙げられる。特に、TiO粒子とAl粒子は、電解液11中で表面電位がプラスにチャージしやすいので好ましい。また、これらの粒子は、純銅と比較して硬度が著しく高く、高強度な分散強化銅含有材料とすることができる。
【0055】
具体的な金属炭化物系セラミックス粒子の材質としては、炭化チタン(TiC)、炭化シリコン(SiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、2炭化3クロム(Cr)、2炭化モリブデン(MoC)、および炭化タングステン(WC)などが挙げられる。
【0056】
具体的な金属ホウ化物系セラミックス粒子の材質としては、ホウ化チタン(TiB)、2ホウ化ハフニウム(HfB)、ホウ化バナジウム(VB)、ホウ化クロム(III)(CrB)、2ホウ化クロム(CrB)、2ホウ化モリブデン(MoB)、5ホウ化2モリブデン(Mo)、ホウ化モリブデン(MoB)、および2ホウ化5タングステン(W)などが挙げられる。
【0057】
電解液11中での硬質粒子113の平均一次粒子径は、0.1nm以上1000nm以下であることが好ましい。硬質粒子113の平均一次粒子径の下限を0.1nm以上とすることで、電解液11中での分散性が良く、電解液11中で硬質粒子113同士が凝集したり沈降したりしにくいからである。一方、硬質粒子113の平均一次粒子径の上限を1000nm以下とすることで、後述する電析工程により析出する分散強化銅を、引張強さなどの機械的特性に優れた分散強化銅とすることができる。硬質粒子113の平均一次粒子径の上限は100nm以下、さらには50nm以下とすることが挙げられる。硬質粒子は、その粒度分布が2以上のピークを有してもよい。
【0058】
電解液11中での硬質粒子113の濃度は、1.0g/L以上30g/L以下とすることが好ましい。電解液11中の硬質粒子113の濃度の下限を、1.0g/L以上とすることで、後述する電析工程の際に硬質粒子113が母材211へ取り込まれやすく、電析する分散強化銅の引張強さなどの機械的特性が向上しやすい。電解液11中の硬質粒子113の濃度の下限は、3.0g/L以上とすることが挙げられる。一方、電解液11中の硬質粒子113の濃度の上限を30g/L以下とすることで、電析工程において凝集した硬質粒子が取り込まれることを抑制できたり、硬質粒子113が取り込まれすぎ、電析する分散強化銅の導電率などの電気的特性や伸びなどの機械的特性が低下したりすることを抑制できる。
【0059】
(pH)
電解液11が上述した硫酸浴の場合、電解液11のpHは、0.1以上2.0以下とすることが好ましい。電解液11のpHを0.1以上2.0以以下とすることで、電解液11中で硬質粒子が凝集することを抑制することができる。これにより、電析工程において電析される分散強化銅中に、凝集することで粗大化した硬質粒子が取り込まれることを抑制できる。
【0060】
(その他)
電解液11は、その成分として、硬質粒子113を電解液11中に分散させるための分散剤を含まないことが好ましい。電解液11が上記の分散剤を含まないことで、後述する電析工程において、分散剤由来の不純物が生成すること、および、この不純物が分散強化銅の母材に取り込まれることを抑制できる。この不純物が母材に取り込まれると、分散強化銅における引張強さなどの機械的特性や導電率などの電気的特性が低下する場合がある。
【0061】
ただし、電解液11は、その成分として、上記の分散剤を含んでもよい。電解液11中で硬質粒子113同士が凝集することを防ぐことができ、微細な硬質粒子が分散した分散強化銅を電析できるからである。このような分散剤としては、硫黄(S)、酸素(O)、および炭素(C)などの元素を含む化合物が挙げられる。
【0062】
(電解液の製造方法)
電解液11の製造方法は特に限定されない。例えば、銅イオン111を含む化合物と、硬質粒子113と、水とを計量して所定の容器に投入して撹拌することで製造することができる。この撹拌は、硬質粒子113が電解液11中に均一に分散するように十分に行う。電解液11のpHは、公知の手法により調整すればよい。例えば、硫酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、および炭酸ナトリウム水溶液などを用いて調整することが挙げられる。
【0063】
〔アノード〕
アノード13は、電源Pの正極側に接続され、電解液11を貯留した貯留槽12内に配置される。アノード13の材質としては、純銅(赤銅)、ならびに、黄銅、青銅、白銅、洋白、キュプロニッケル、およびベリリウム銅などの銅合金、ならびに分散強化銅などの銅系材料を挙げることができる。アノード13の形状は、作製する分散強化銅の形状に依存することなく、種々の形状が選択できる。一例としては、板状、長尺体形状などが挙げられる。長尺体形状の場合、その断面形状は、円形、楕円形、多角形などの任意の形状とすることができる。アノード13は中実体でも中空体でもよい。図1では、棒状のアノード13の断面を図示している。
【0064】
〔カソード〕
カソード14は、電源Pの負極側に接続され、アノード13と対向するように電解液11を貯留した貯留槽12内に配置される。カソード14の材質としては、アノード13と同様の銅系材料やステンレス、アルミニウム、およびアルミニウム合金などが挙げられる。カソード14の形状は、上記のアノード13と同様とすることができる。カソード14の形状は、作製する分散強化銅の形状に応じて適宜選択することができる。分散強化銅はカソード14上に析出されるからである。上記のアノード13と同様の板状、長尺体形状を選択することが好ましい。図1では、棒状のカソード14の断面を図示している。
【0065】
カソード14には、その表面の一部にマスキングを行ってもよい。例えば、カソード14の形状が平板の場合、一面のみが露出するようにマスキングを行っておくと、この露出した一面にのみ分散強化銅を析出させることができる。この場合、カソード14を基材とし、この基材の一面にのみに分散強化銅が積層された積層体の箔や板を効率よく製造できる。また、この積層体の基材から分散強化銅を容易に剥離することができ、分散強化銅の単層からなる箔や板を効率的に製造できる。マスキングの方法は、カソード14のマスキングを行いたい部分に対して絶縁性の材料を張り付けたり塗布したりすることで行うことができる。
【0066】
《電析工程》
電析工程S2では、電析装置1へ通電することで、銅211を母材とし、この母材中に硬質粒子213(113)が分散した分散強化銅21をカソード14の表面に電析させる。これにより、分散強化銅含有材料α1を製造することができる。以下、電析工程の条件について説明する。
【0067】
〔通電条件〕
(電流密度)
電析工程における電流密度は、0.1mA/mm以上1.0mA/mm以下とすることができる。電流密度の下限を0.1mA/mm以上とすることで、生産性良く分散強化銅含有材料α1を製造することができる。より好ましい電流密度の下限は、0.5mA/mm以上である。一方、電流密度を1.0mA/mm超としても、得られる分散強化銅含有材料α1の生産性はさほど向上しない。よって、電流密度の上限は、1.0mA/mm以下とすることが好ましい。
【0068】
(通電時間)
電析工程における通電時間は、電析で作製したい分散強化銅21の厚さと電流密度とにより適宜調整すればよい。一例としては、電流密度が0.5mA/mm以上0.8mA/mm以下の場合において、24時間の通電を行うことで、平均厚さが1.5mm以上2.0mm以下の分散強化銅を電析させることができる。
【0069】
〔撹拌〕
電析工程では、電解液11を撹拌することが好ましい。硬質粒子113が、電解液11中で均等に分散することを促進できると共に、沈降することを防ぐことができるからである。これにより、母材211中に硬質粒子113が均一に分散した分散強化銅21を電析させることができる。撹拌は手動で行っても自動で行ってもよく、公知の撹拌方法を適用できる。撹拌の開始時間や停止時間についても特に限定されない。電析工程の開始から終了まで電解液11を撹拌してもよいし、任意のタイミングで撹拌の開始、停止、および再開を行ってもよい。図1に示す電析装置1には、自動で撹拌を行うための撹拌装置の一部として、貯留槽12の底面に撹拌翼121が設けられている。撹拌装置は、図示しない駆動モータにより回転させられる。撹拌翼の形状や回転数などは適宜調整すればよい。
【0070】
〔その他〕
上述したように、硬質粒子113が電解液11中での表面電位がプラスにチャージするものであると、一定量の硬質粒子113を効率的に母材中に分散させることができる。電析工程では、カソード14付近の硬質粒子113が銅イオン111と共に電析(共析)されることにより分散強化銅21が電析される。表面電位がプラスにチャージする硬質粒子113は、電析工程において銅イオン111と共にカソード14付近へ電気泳動しやすく、カソード14付近の硬質粒子113の濃度(存在量)が高くなる。このため、硬質粒子113が電解液11中での表面電位がプラスにチャージするものであると、一定量の硬質粒子113を効率的に母材211中に分散させることができる。一方で、硬質粒子113の表面電位がマイナスにチャージしている場合もある。このような場合でも、比較的大きな硬質粒子113を用いたり、上述の攪拌を適切に行ったりすることで、硬質粒子113を母材211中に分散させることができる場合がある。
【0071】
《他の工程》
実施形態に係る分散強化銅含有材料の製造方法は、下記に示す各工程を備えてもよい。
【0072】
〔剥離工程〕
図2に示すように、剥離工程では、カソード14に電析された分散強化銅21をカソード14の表面から剥離する。ここでは、カソード14の形状は平板である。剥離工程により、分散強化銅21から構成される分散強化銅含有材料α2を製造することができる。換言すれば、剥離工程を行うことにより、電析させた分散強化銅21それ自体を分散強化銅含有材料α2として扱うことができる。
【0073】
剥離工程は、カソード14に電析された分散強化銅21をカソード14の表面から剥離できる方法であれば特に限定されない。一例としては、カソード14が平板状の場合は、この平板状のカソード14を屈曲させることで、カソード14と分散強化銅21との間に隙間をつくり、この隙間を起点として分散強化銅21をカソード14から剥ぎ取る方法が挙げられる。この際、カソード14の材質がステンレス、アルミニウム、およびアルミニウム合金であると、剥離工程を行いやすいので好ましい。
【0074】
〔塑性加工工程〕
塑性加工工程では、分散強化銅含有材料を塑性加工する。塑性加工工程により、任意の形状の分散強化銅含有材料に加工することができる。例えば、図3に示すように、塑性加工工程では、分散強化銅21と基材22とから構成される平板状の分散強化銅含有材料α3を圧延加工することで、塑性加工された分散強化銅含有材料α4が得られる。このように、塑性加工工程を行うことにより、所望の形状の分散強化銅含有材料が得られる。また、塑性加工工程により、分散強化銅含有材料の強度などの機械的特性を向上させることができる。
【0075】
塑性加工の方法は特に限定されない。一例としては、上述した圧延加工のほか、伸線加工、押出し加工、およびプレス加工などの方法が挙げられる。塑性加工工程は、常温で行ってもよいし、加熱環境下で行ってもよい。
【0076】
<分散強化銅含有材料>
《概要》
上述した実施形態に係る分散強化銅含有材料の製造方法によれば、銅を母材とし、この母材中に硬質粒子が分散した分散強化銅を含む分散強化銅含有材料が得られる。この分散強化銅含有材料の構成の一態様としては、(1)分散強化銅の単層材、(2)基材上に分散強化銅が形成された積層材、特に分散強化銅の方が基材よりも厚みが大きい積層材が挙げられる。この分散強化銅含有材料は、純銅よりも優れた強度を備えると共に、純銅と同程度の伸びや導電率を備える。
【0077】
《分散強化銅》
〔組成〕
分散強化銅21は、銅211を母材とし、この母材211中に硬質粒子213が分散した構成を備える(図1の拡大図を参照)。以下、分散強化銅21を構成する銅211、および硬質粒子213、ならびに分散強化銅21に含まれうる不純物について説明する。
【0078】
(銅)
銅211は、分散強化銅の母材(主成分)である(図1の拡大図を参照)。ここで、主成分とは、分散強化銅中において銅の含有量が80質量%以上であることをいう。銅211の含有量の一例としては81質量%以上99.994質量%以下とすることができる。銅211の含有量の下限を81質量%以上とすることで、分散強化銅21の引張強さなどの機械的特性や導電率などの電気的特性が低下することを抑制できるので好ましい。より好ましい銅211の含有量の下限は90質量%以上、さらには95質量%以上である。一方、銅211の含有量の上限を99.994質量%以下とすることで、分散強化銅21の機械的特性を純銅よりも向上させることができるので好ましい。より好ましい銅211の含有量の上限は99.9質量%以下、さらには99.5質量%以下である。
【0079】
(硬質粒子)
上述した実施形態に係る分散強化銅含有材料の製造方法により電析する分散強化銅21に含まれる硬質粒子213の含有量は、0.006質量%以上19質量%以下とすることができる。硬質粒子213の含有量の下限を0.006質量%以上とすることで、分散強化銅21の強度を純銅よりも向上させることができるので好ましい。より好ましい硬質粒子213の含有量の下限は0.1質量%以上、さらには0.5質量%以上である。一方、硬質粒子213の含有量の上限を19質量%以下とすることで、分散強化銅21の引張強さなどの機械的特性や導電率などの電気的特性が低下することを抑制できるので好ましい。より好ましい硬質粒子213の含有量の上限は10質量%以下、さらには5質量%以下である。
【0080】
分散強化銅21に含まれる硬質粒子213の平均粒子径は、0.1nm以上1000nm以下であることが好ましい。硬質粒子213の平均粒子径が0.1nm以上1000nm以下であることで、引張強さなどの機械的特性に優れた分散強化銅21とすることができる。より好ましい硬質粒子213の平均粒子径は0.1nm以上100nm以下、さらには0.1nm以上50nm以下である。
【0081】
分散強化銅21中の硬質粒子213の平均粒子径は、分散強化銅含有材料の製造の際に用いた電解液11に分散していた硬質粒子113の平均一次粒子径が維持される。分散強化銅21中の硬質粒子213の形状は、球形状(断面円形状)、断面楕円状、断面矩形状などの種々の形状が存在する。分散強化銅21中の硬質粒子213の平均粒子径の測定は、分散強化銅含有材料α1の分散強化銅部分の断面における30000倍の透過型電子顕微鏡写真(TEM)のうち5μm四方の領域を画像解析することにより行う。より具体的には、この断面における全粒子の直径を測定し、その平均値とする。各粒子の直径は、断面における粒子の面積から、この面積と等しい円の径(円相当径)を算出し、この円相当径を直径とし、この直径に基づいて平均粒子径を求めるものとする。
【0082】
(不純物)
分散強化銅21において、電解液11が分散剤を含まない場合には、分散強化銅21中の不純物の合計含有量を0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下とすることができる。このような不純物の合計含有量が低減されている分散強化銅を含む分散強化銅含有材料は、引張強さなどの機械的特性や導電率などの電気的特性に優れる。
【0083】
分散強化銅の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析やX線光電子分光法(XPS)により調べることができる。分散強化銅中の硬質粒子の存在は、例えば、X線回折(XRD)やTEMにより調べられる。
【0084】
〔厚さ〕
分散強化銅の厚さは、0.1mm超、特には0.5mm以上、さらには1mm以上とすることができる。分散強化銅含有材料が基材上に分散強化銅が形成された積層材の場合、基材の種類やその厚みにもよるが、分散強化銅の厚さがある程度厚いことで、分散強化銅の厚みが大きい分散強化銅の積層材とすることができるからである。また、分散強化銅含有材料が分散強化銅の単層材の場合には、厚みの大きい単層材とすることができるからである。このような積層材や単層材などは、塑性加工材の素材などとして好適に利用できる。
【0085】
特に、分散強化銅含有材料α1が長尺体の基材221と分散強化銅21とから構成される場合には、長尺体の基材221の横断面の包絡円e1の直径をD1、分散強化銅含有材料α1における長尺体の基材221の横断面と同一面の包絡円e2の直径をD2とするとき、(D2―D1)/D1>1となるようにすることができる(図4を参照)。このような分散強化銅含有材料α1は、長尺体の基材221よりも分散強化銅21の厚みが十分に厚いといえ、塑性加工材の素材として好適に利用できる。
【0086】
分散強化銅の厚さの測定方法は特に限定されない。例えば、分散強化銅それ自体を分散強化銅含有材料とする場合は、その厚みや径をノギスなどで計測すればよい。また、基材と分散強化銅とから構成される分散強化銅含有材料の場合は、分散強化銅含有材料の断面を光学顕微鏡などで観察することで測定できる。
【0087】
《基材》
基材22は、その表面の少なくとも一部に分散強化銅21が形成される部材である(図1の拡大図を参照)。基材22としては、例えば、カソード14をそのまま用いることができる。よって、基材22の材質および形状は、上述したカソード14の材質および形状と同様である。基材22の形状が長尺体であったり、基材22の材質が銅、銅合金、および分散強化銅のいずれかあったりする場合、銅線などの素材に好適に用いられる分散強化銅含有材料α1とできる。
【0088】
基材22(カソード14)を長尺体の基材221とした場合、その材質を、銅、銅合金、および分散強化銅のいずれかとすることで、引張強さなどの機械的特性や導電率などの電気的特性に優れた長尺の分散強化銅含有材料α1とすることができる(図4を参照)。基材自体が銅や銅合金であれば、得られた分散強化銅含有材料は、横断面の内周側が銅又は銅合金で、外周側が分散強化銅で構成される。一方、基材自体が分散強化銅であれば、得られた分散強化銅含有材料は、横断面の中心から外周までの全域が分散強化銅で構成される。
【0089】
《形状》
分散強化銅含有材料の形状は、特に制限されず、任意の形状とすることができる。分散強化銅含有材料が分散強化銅それ自体の場合の形状の一例としては、薄膜や板とすることが挙げられる。分散強化銅含有材料が分散強化銅と基材とから構成される場合の形状としては、棒、薄膜および板とすることが挙げられる。また、分散強化銅含有材料が分散強化銅のみの単層材の場合、板を作製して細く切断することで棒状に加工してもよい。
【0090】
《表面性状》
分散強化銅含有材料が含む分散強化銅は、その表面性状が粗面になりやすい。よって、表面が平滑な分散強化銅含有材料が必要な場合には、その表面を機械的に研磨したり切削したり、その表裏を挟むローラに通して分散強化銅の表面を平滑化したりすることで、表面性状が平滑な分散強化銅含有材料とできる。
【0091】
《特性》
以上説明した、実施形態に係る分散強化銅含有材料の製造方法により製造される分散強化銅含有材料の特性の一例として、分散強化銅含有材料が分散強化銅のみの単層材の場合に以下の特性を備える。
【0092】
・0.2%耐力:240MPa以上
・引張強さ:300MPa以上
・破断伸び:15%以上
・導電率:85%IACS以上
【0093】
また、実施形態に係る分散強化銅含有材料の製造方法において電析される分散強化銅は、従来の分散強化銅の製造方法により製造される分散強化銅よりも、硬質粒子が均一に分散されていると考えられる。このため、従来の製造方法により製造される分散強化銅よりも、高い強度と導電率とを両立できると考えられる。
【0094】
<試験例1>
試験例1では、分散強化銅含有材料を製造し、その特性を調べた。
【0095】
《分散強化銅含有材料の製造》
〔準備工程〕
準備工程では、以下の構成の電析装置を準備した。電析装置を構成する各部材の詳細は、下記のとおりである。
【0096】
(電解液)
銅イオンの濃度が0.88mol/L、硬質粒子の濃度が4.2g/L、pHが0.7の電解液を用意した。この電解液は、次のようにして製造した。まず、溶媒として1000mlの水を用意し、この水に140gの硫酸銅と、1cm(4.2g)のTiO粉末とを加えた。このTiO粉末を構成するTiO粒子の平均一次粒子径は15nmである。その後、1mol/Lの硫酸水溶液を用いて硫酸銅とTiO粉末とを含む水溶液のpHを0.7に調整した。硫酸水溶液の添加量は70mlであった。このpHを調整した水溶液を、市販の撹拌装置により、撹拌速度:250rpm、時間:1時間の条件で撹拌し電解液とした。
【0097】
(貯留槽)
貯留槽には、市販のガラス容器を用いた。
【0098】
(アノード)
アノードには、リン酸銅製の平板を用いた。この平板の大きさは、長さ:50mm、幅:30mm、厚み:1mmである。
【0099】
(カソード)
カソードには、ステンレス製(SUS304)の平板を用いた。この平板の大きさは、上述したカソードと同様である。カソードには、平板の一面にのみ分散強化銅が析出するように、他方の面や側面に市販の絶縁テープでマスキングを施した(マスキング工程)。
【0100】
〔電析工程〕
電析工程では、上記の電析装置へ通電することで、分散強化銅をカソード上に電析させ、分散強化銅含有材料を製造した。電析装置への通電条件は、電流密度:0.5mA/mm、時間:24時間である。通電中は、貯留槽内に配置したスターラにより常時電解液の撹拌を行った。
【0101】
〔剥離工程〕
剥離工程では、カソード上に電析した分散強化銅をカソードから剥離した。剥離にあたっては、分散強化銅が電析したカソードを屈曲させることで分散強化銅とカソードとの間の一部に隙間を形成し、この隙間を起点として分散強化銅をカソードから引き剥がした。このようにして得られた分散強化銅の単層材である分散強化銅含有材料を試料1−1とした。試料1−1の大きさは、長さ:50mm、幅:30mm、平均厚み:1.5mmであった。
【0102】
《比較用試料の製造》
電解液にTiO粉末を加えなかった以外は試料1−1を製造する際に用いた電解液と同一の組成の電解液を準備した。この電解液を、試料1−1の電析工程と同様の条件で電析した。これにより、カソード上には、銅と不可避的不純物から構成される純銅(赤銅)が電析した。この赤銅を、試料1−1で行った剥離工程と同様にして剥離し、試料1−11とした。試料1−11の大きさは、試料1−1と同様であった。
【0103】
《特性の測定》
両試料をそれぞれ複数製造し、各試料のカソードと密着していなかった面を研磨して平滑にした。この結果、両試料の平均厚みは1mmとなった。その後、試料1−1および試料1―11について、以下に示す機械的特性と電気的特性とを測定した。
【0104】
[機械的特性]
両試料の機械的特性として、0.2%耐力(MPa)、引張強さ(MPa)、破断伸び(%)、およびヤング率(GPa)を測定した。より詳細には、まず、市販の引張試験機を用いて、研磨後の各試料から平行部が長さ:10mm、幅:2mmの引張試験片を切り出した。そして、この引張試験片を用いて、温度:室温(約20℃)、標点距離GL:10mm、引張速度:1mm/minの条件で、引張強さ、0.2%耐力、および破断伸びを測定した。また、上記の引張試験片と同様にして、長さ:25mm、幅:3mmの短冊状試験片を両試料から切り出し、共振法にてヤング率を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0105】
[電気的特性]
両試料の電気的特性として、導電率を測定した。導電率の測定方法は、四端子法にて両試料の電気抵抗率を測定することにより求めた。この結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1から明らかなように、試料1−1は、試料1−11よりも0.2%耐力、引張強さ、およびヤング率が高い。また、試料1−1は、赤銅である試料1−11と同等の破断伸びおよび導電率を備える。
【0108】
<試験例2>
試験例2では、母材中に分散させる硬質粒子の材質の違いにより、得られる分散強化銅含有材料のビッカース硬さがどのように変化するかを調べた。ビッカース硬さの測定方法は、JIS Z 2244(2009)に準拠した。
【0109】
《試料2−1》
試験例1で製造した試料1−1を、試料2−1とした。試料2−1のビッカース硬さを表2に示す。
【0110】
《試料2−2》
電解液に分散させる硬質粒子として、平均一次粒子径が25nmのAl粉末を1cm(4.0g)用いた以外は試験例1の試料1−1と同様にして分散強化銅をカソード上に電析させた。その後、得られた分散強化銅を試験例1と同様の剥離工程により剥離して試料2−2とし、そのビッカース硬さを測定した。この結果を表2に示す。
【0111】
《試料2−3》
電解液に分散させる硬質粒子として、平均一次粒子径が10nmのCeO粉末を1cm(7.3g)用いた以外は試料2−1と同様にして試料2−4を作製し、そのビッカース硬さを測定した。この結果を表2に示す。
【0112】
《試料2−4》
電解液に分散させる硬質粒子として、平均一次粒子径が15nmのSiO粉末を1cm(2.2g)用いた以外は試料2−1と同様にして試料2−5を作製し、そのビッカース硬さを測定した。この結果を表2に示す。
【0113】
《試料2−5》
電解液に分散させる硬質粒子として、平均一次粒子径が15nmのZrOを1cm(6.0g)用いた以外は試料2−1と同様にして試料2−6を作製し、そのビッカース硬さを測定した。この結果を表2に示す。
【0114】
《試料2−11》
試験例1で製造した試料1−11を、試料2−11とした。試料2−11のビッカース硬さを表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2から明らかなように、ビッカース硬さは、高い順に言うと、硬質粒子としてTiOを用いた試料2−1が最も高い値を示し、次いで、硬質粒子としてAlを用いた試料2−2、硬質粒子としてCeOを用いた試料2−3、硬質粒子としてZrOを用いた試料2−5となっている。これは、試料2−1から試料2−3、および試料2−5では、分散強化銅が析出する際に、各硬質粒子が母材に十分に取り込まれたためと考えられる。一方、この試験例では、試料2−4のビッカース硬さは、純銅である試料2−11と同程度である。この主な理由は、分散強化銅が電析する際に、母材に取り込まれた硬質粒子(SiO)が他の試料よりも極端に少なかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の分散強化銅含有材料の製造方法によれば、高強度、高靭性、高導電率であることが求められる部材の材料、例えば、自動車用ワイヤーハーネスの電線用導体や金属端子といった部材の材料に好適な分散強化銅含有材料を提供することができる。
【符号の説明】
【0118】
1 電析装置
11 電解液
111 銅イオン 112 硫酸イオン
113,213 硬質粒子
12 貯留槽
121 撹拌翼
13 アノード
14 カソード 22 基材
P 電源
α1,α2,α3,α4 分散強化銅含有材料
21 分散強化銅
211 銅(母材)
221 長尺体の基材
図1
図2
図3
図4