(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン含有率が20〜40モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A1)と、エチレン含有率40〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体(A2)である請求項1に記載の樹脂組成物。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A1)と前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A2)との配合比率(重量比)が、90/10〜60/40である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
ガスバリア層としてエチレン含有率が異なる2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する樹脂組成物の層を少なくとも一層含む積層体の二次成形品に現れるスジを防止する方法であって、
前記2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体として、エチレン構造単位の含有率が20〜60モル%、且つエチレン構造単位の含有率の差(ΔEt)が10〜25モル%である2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体を使用し、前記樹脂組成物に高級脂肪酸の亜鉛塩を、前記2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体の含有量に対して、50〜800ppm配合することを特徴とする方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0019】
<EVOH樹脂組成物>
本発明のEVOH樹脂組成物は、エチレン構造単位の含有率が異なる2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH樹脂)及び高級脂肪酸の亜鉛塩を含有し、前記EVOH樹脂のエチレン構造単位の含有量の差ΔEtが10〜25モル%であるEVOH樹脂組成物である。
【0020】
[EVOH樹脂]
本発明で用いられる2種類のEVOH樹脂について説明する。
EVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーの共重合体(エチレン−ビニルエステル共重合体)をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーは、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン−ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
すなわち、EVOH樹脂は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
EVOH樹脂におけるエチレン含有率は、通常、20〜60モル%である。一般に、エチレン含有率が高いほど、成形性に優れているが、ガスバリア性が低下する。一方、エチレン含有率が20モル%未満(ビニルアルコール含有率は80モル%以上)では、融点と分解温度が接近して、溶融成形の適用が困難になる傾向にある。
【0021】
本発明に用いられるEVOH樹脂には、エチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位(未ケン化のビニルエステル構造単位を含む)の他、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。前記コモノマーとしては、プロピレン、イソブテン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、3−ブテン−1、2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などのヒドロキシ基含有α−オレフィン誘導体;不飽和カルボン酸又はその塩,部分アルキルエステル,完全アルキルエステル,ニトリル,アミド若しくは無水物;不飽和スルホン酸又はその塩;ビニルシラン化合物;塩化ビニル;スチレン等が挙げられる。
【0022】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂を用いることもできる。
【0023】
以上のような変性物の中でも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたEVOH樹脂は、延伸処理や真空・圧空成形などの二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも1,2−ジオール構造を側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
【0024】
本発明で用いられる2種類のEVOH樹脂は、以上のようなEVOH樹脂から選択される、エチレン構造単位の含有量差(ΔEt)が10〜25モル%、好ましくは10〜23モル%、特に好ましくは10〜20モル%となる組み合わせである。エチレン含有率の差が小さすぎる場合には、成形性とガスバリア性のバランス保持が困難となる傾向があり、大きすぎる場合には互いの相溶性が低下し、伸び率の違いから二次成形の際にスジが発生しやすくなる傾向があり、ひどい場合には透明な成形品が得られない。
【0025】
具体的には、下記のようなエチレン含有率が低い方のEVOH樹脂(低エチレンEVOH樹脂)とエチレン含有率が高い方のEVOH樹脂(高エチレンEVOH樹脂)との組み合わせが好ましく用いられる。
【0026】
上記低エチレンEVOH樹脂は、エチレン含有率が20〜40モル%、好ましくは22〜38モル%、特に好ましくは25〜33モル%である。エチレン含有率が低すぎる場合、分解温度と融点が接近しすぎて樹脂組成物の溶融成形が困難になる傾向があり、逆に高すぎる場合は、低エチレンEVOH樹脂によるガスバリア性付与が不足する傾向がある。
【0027】
また、低エチレンEVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、通常90モル%以上、好ましくは95〜99.99モル%、特に好ましくは98〜99.99モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合には、低エチレンEVOH樹脂によるガスバリア性付与効果が不足する傾向がある。
【0028】
さらに、低EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常1〜100g/10分であり、好ましくは3〜50g/10分、特に好ましくは3〜10g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、成形物の機械強度が低下する傾向があり、小さすぎる場合には押出加工性が低下する傾向がある。
【0029】
一方、上記高エチレンEVOH樹脂のエチレン含有率は、通常40〜60モル%、好ましくは42〜56モル%、特に好ましくは44〜53モル%である。エチレン含有率が低すぎる場合は、高エチレンEVOH樹脂による延伸性の改善効果が小さいため、結果として二次成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、エチレン含有率差を所定範囲内にするために、低エチレンEVOH樹脂のエチレン含有率を高くせざるを得ず、結果として樹脂組成物層のガスバリア性が不足することになる。
【0030】
また、高エチレンEVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、通常90モル%以上、好ましくは93〜99.99モル%、特に好ましくは98〜99.99モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合には高エチレンEVOH樹脂のガスバリア性が不足する傾向がある。
【0031】
さらに、高エチレンEVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常1〜100g/10分であり、好ましくは3〜50g/10分、特に好ましくは3〜30g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、成形物の機械強度が低下する傾向があり、小さすぎる場合には押出加工性が低下する傾向がある。
【0032】
なお、低エチレンEVOH樹脂と高エチレンEVOH樹脂との組み合わせについては、溶融成形時の樹脂流れ性が同程度となるように、MFR(210℃、荷重2160g)の差(ΔMFR)が5g/10分以下とすることが好ましく、より好ましくは1g/10分以下となるように、EVOH樹脂のケン化度等を調整することが好ましい。
【0033】
エチレン含有率は、例えば、ISO14663に準じて、ビニルアルコール構造単位の含有量を計測することにより、算出することができる。
ビニルエステル部分のケン化度は、例えば、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に準じて計測することができる。
【0034】
低エチレンEVOH樹脂(A1)と高エチレンEVOH樹脂(A2)の配合比率(A1/A2)(重量比)としては、通常90/10〜60/40であり、好ましくは85/15〜65/35、特に好ましくは80/20〜70/30である。低エチレンEVOH樹脂(A1)の比率が小さすぎる場合には、組成物層のガスバリア性が不足する傾向があり、大きすぎる場合には、高エチレンEVOH樹脂による延伸改善効果が低下する傾向がある。
【0035】
[(B)高級脂肪酸の亜鉛塩]
高級脂肪酸の亜鉛塩に用いられる高級脂肪酸は、炭素数8以上(好ましくは炭素数12〜30、より好ましくは炭素数12〜20)の脂肪酸をいい、具体的には、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、オレイン酸、カプリン酸、ベヘニン酸、リノール酸等を挙げることができる。これらの中でも、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸が好適に用いられる。
【0036】
このような高級脂肪酸の亜鉛塩は、エチレン含有率差(ΔEt)が10〜25モル%の2種類のEVOH樹脂が共存する樹脂組成物の二次成形性を改善する。特に真空圧空成形のように、部位によりかかる張力が異なり、拡径加工のように張力があらゆる方向から加わるような処理に供されても、スジの発生が抑制された成形品を得ることができる。
理由は明らかではないが、高級脂肪酸の亜鉛塩は、エチレン含有率が異なる2種類のEVOH樹脂の溶融時の混和性を高め、他の樹脂との共押出し時に発生する微小な界面乱れを抑制すると思われる。このような抑制効果は、高級脂肪酸の他の金属塩、あるいは低級脂肪酸の亜鉛塩では見られない効果であり、驚くべきことである。
【0037】
高級脂肪酸の亜鉛塩(B)の配合量としては、2種類のEVOH樹脂の合計量に対して、通常50〜800ppmであり、好ましくは100〜700ppm、特に好ましくは250〜600ppmである。高級脂肪酸の亜鉛塩の配合量が少なすぎる場合には、二次成形時のスジ発生の抑制効果が低下し、ひどい場合には、成形品の透明性が損なわれる。一方、高級脂肪酸の金属塩は、一般に溶融状態にあるEVOH樹脂の分解を触媒するため、高級脂肪酸の亜鉛塩の濃度が高くなりすぎると、EVOH樹脂の分解によりガスが発生し、溶融成形、共押出しによる積層体の製造に、悪影響を及ぼすおそれがある。
【0038】
〔その他の添加物〕
本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば1重量%以下)において、上記成分以外に可塑剤、フィラー、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、着色剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0039】
<EVOH樹脂組成物の調製方法>
本発明の樹脂組成物の調製方法については、特に限定しない。2種類のEVOH樹脂、高級脂肪酸の亜鉛塩を所定割合で配合して、溶融混練等により樹脂組成物を調製してもよいし、各成分を所定割合でドライブレンドするだけでもよい。ドライブレンドによる調製方法は、必要に応じてEVOH樹脂の組合せを適宜選択することができ、高級脂肪酸の亜鉛塩を必要に応じて添加することで調製できるので、生産上有利である。また、ドライブレンドによる調製方法は、溶融状態のEVOH樹脂に対する高級脂肪酸の亜鉛塩による分解抑制という観点から好ましい。すなわち、本発明の樹脂組成物の調製方法は、ドライブレンドによって、各EVOH樹脂表面に、高級脂肪酸の亜鉛塩が付着して存在している状態が好ましい。
【0040】
ドライブレンドの方法としては、例えば、低エチレンEVOH樹脂と高エチレンEVOH樹脂をドライブレンドしたものに、高級脂肪酸の亜鉛塩を配合してもよいし、予め作成した2種類のEVOH樹脂混合物のコンパウンドに、高級脂肪酸の亜鉛塩を配合してもよい。2種類のEVOH樹脂及び高級脂肪酸の亜鉛塩をドライブレンドで配合してもよい。
また、いずれか一方のEVOH樹脂と高級脂肪酸の亜鉛塩をドライブレンドしたものに、他方のEVOH樹脂を配合してもよいし、予め作成した一方のEVOH樹脂と高級脂肪酸の亜鉛塩とのコンパウンドに、他方のEVOH樹脂を配合してもよい。
さらに、一方のEVOH樹脂と高級脂肪酸の亜鉛塩とをドライブレンドしたものに、他方のEVOH樹脂と高級脂肪酸の亜鉛塩とをドライブレンドしたものを配合してもよいし、予め作成した一方のEVOH樹脂と高級脂肪酸の亜鉛塩とのコンパウンドに、予め作成した他方のEVOH樹脂と高級脂肪酸の亜鉛塩とのコンパウンドを配合してもよい。
【0041】
<樹脂組成物の用途>
本発明の樹脂組成物は、溶融成形により例えばフィルム、シート、カップやボトルなどに成形することができる。かかる溶融成形方法としては、押出成形法(T−ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法を採用することができる。溶融成形温度は、通常150〜300℃の範囲から選ぶことが多い。
【0042】
本発明の樹脂組成物を単独で成形した成形品を、各種用途に供してもよいが、さらに強度を上げたり他の機能を付与したりするために他の基材を積層した積層体として好ましく用いられる。特に、本発明の樹脂組成物は、共押出時に生じる界面乱れを抑制しているので、他の熱可塑性樹脂層との積層体として好ましく用いることができる。
【0043】
また、本発明の樹脂組成物の用途として、ガスバリア層としてエチレン含有率が異なる2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する樹脂組成物の層を少なくとも一層含む積層体の二次成形品に現れるスジを防止することにも利用できる。
すなわち、本発明の二次成形におけるスジの発生防止方法は、ガスバリア層としてエチレン含有率が異なる2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する樹脂組成物の層を少なくとも一層含む積層体の二次成形品に現れるスジを防止する方法であって、前記2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体として、エチレン構造単位の含有率の差(ΔEt)が10〜25モル%である2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体を使用し、前記樹脂組成物に高級脂肪酸の亜鉛塩を配合する。
前記高級脂肪酸の亜鉛塩は、ドライブレンドにより前記2種類のエチレン−ビニルアルコール共重合体と混合されることが好ましい。
【0044】
<積層体>
本発明の積層体は、上記本発明のEVOH樹脂組成物の層を少なくとも1層するものである。好ましくは、本発明の樹脂組成物層の少なくとも一面に、接着性樹脂層を介して、EVOH樹脂以外の熱可塑性樹脂(他の熱可塑性樹脂)の層が積層されている。
【0045】
ここで用いられる他の熱可塑性樹脂(「基材樹脂」と称する)としては例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン類、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィン類;これらポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したグラフト化ポリオレフィン類;アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等のエチレン−ビニル化合物共重合体;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む);ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン;ビニルエステル系樹脂;ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等のエラストマー;アクリル系樹脂;ポリスチレン;芳香族または脂肪族ポリケトン、更にこれらを還元して得られるポリアルコール類等が挙げられるが、積層体の物性(特に強度)等の実用性の点から、ポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂が好ましく、特にはポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく用いられる。
【0046】
これら基材樹脂には、従来知られているような酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を適宜含んでいても良い。
【0047】
EVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との積層は公知の方法にて行うことができる。例えば、EVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法;基材樹脂のフィルム、シートに、EVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法;EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法;EVOH樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法;基材樹脂のフィルム又はシート上にEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。
【0048】
積層体の層構成は、本発明のEVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/bの二層構造のみならず、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。また、該積層体を製造する過程で発生する端部や不良品当等を再溶融成形して得られる、該EVOH樹脂組成物と基材樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。
【0049】
なお、上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を設けることができ、かかる接着性樹脂としては、公知のものを使用すればよい。かかる接着性樹脂は基材樹脂の種類によって異なるため、適宜選択すればよいが、代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。中でも、接着性樹脂として、無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましく、基材樹脂としてポリオレフィン、特にポリプロピレンとの組み合わせが好ましい。
【0050】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等であり、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物が好ましい。
またこれらの接着性樹脂には、本発明のEVOH樹脂組成物、当該樹脂組成物に用いたEVOH樹脂以外のEVOH樹脂、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分、さらにはb層の樹脂等をブレンドすることも可能である。特に、接着性樹脂の母体のポリオレフィン系樹脂と異なるポリオレフィン系樹脂をブレンドすることにより、接着性が向上することがあり有用である。
【0051】
積層体の基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材として用いる熱可塑性樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性などにより一概に言えないが、基材樹脂層は通常0.1〜5000μm、好ましくは1〜1000μm、接着性樹脂層は0.1〜500μm、好ましくは1〜250μm程度の範囲から選択される。
【0052】
また、EVOH樹脂組成物層の厚みは要求されるガスバリア性などによって異なるが、通常は0.1〜500μmであり、好ましくは0.1〜250μm、特に好ましくは0.1〜100μmであり、かかる厚みが薄すぎると十分なガスバリア性が得られない傾向があり、逆に厚すぎるとフィルムの柔軟性が不足する傾向にある。
【0053】
さらに、積層体における樹脂組成物層と基材樹脂層との厚みの比(樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99〜50/50、好ましくは5/95〜45/55、特に好ましくは10/90〜40/60である。また、積層体における樹脂組成物層と接着性樹脂層の厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90〜99/1、好ましくは20/80〜95/5、特に好ましくは30/70〜90/10である。
【0054】
以上のような構成を有する積層体は、通常、加熱延伸処理を施して用いられる。本発明のEVOH樹脂組成物層がガスバリア層として優れたガスバリア性を有し、しかも積層界面における界面乱れが低減されていると考えられるので、公知の種々の加熱延伸処理を適用することができる。
【0055】
例えば具体的には、積層体シートの両耳を把んで拡幅する一軸延伸、二軸延伸;積層体シートを加熱軟化させ、プレス等を用いて有底容器を成形する絞り成形加工;真空吸引又は圧縮空気の吹き込み等により積層体シートを金型に密着させる真空成形、圧空成形、真空圧空成形;パリソン等の予備成形された積層体を、チューブラー延伸法、延伸ブロー法等で加工する方法が挙げられる。本発明のEVOH樹脂組成物を有する積層体は、隣接する層との界面における乱れが低減され、優れた加熱延伸性を有しているので、一軸延伸、逐次的に異なる方向に延伸する二軸延伸だけでなく、同時に放射方向に延伸されることになる金型密着による延伸加工成形やブロー成形にも適している。
【0056】
上記加熱延伸成形を行う温度は、積層体の温度(積層体近傍温度)で、通常40〜300℃、好ましくは50〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸倍率は、面積比にて、通常2〜50倍、好ましくは2〜10倍である。
【0057】
また、積層体の加熱は、熱風オーブン、加熱ヒーター式オーブン又は両者の併用などにより均一に加熱することが好ましく、延伸成形方法の種類により適宜選択する。
【0058】
共押出、さらには熱延伸処理により得られた積層体に、さらに他の基材を押出コートしたり、他の基材のフィルム、シート等を、接着剤を用いてラミネートしてもよい。かかる基材としては、基材樹脂として前述した熱可塑性樹脂だけでなく、延伸性に乏しい基材(紙、金属箔、織布、不織布、金属綿状、木質等)も使用可能である。さらに、積層体上に、蒸着等により、金属、金属酸化物からなる無機物層を形成してもよい。
【0059】
上記のようにして得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器等の成形品は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料、包装容器や蓋材として有用である。
【0060】
〔真空成形・圧空成形による二次成形品の製造〕
本発明の積層体は、真空成形、圧空成形により二次成形品、特にカップやトレイ等の有底容器の製造に適している。本発明の樹脂組成物を用いた積層体は、2種類のEVOH樹脂の混合物を含むEVOH樹脂組成物を用いているにもかかわらず、積層界面での微小な樹脂流れ乱れが少ないと考えられることから、外観に優れた二次成形品を得ることができる。
【0061】
すなわち、本発明のガスバリア性及び外観に優れた有底容器を製造する方法は、上記本発明の積層体のシート又はフィルムを成形型近傍で加熱軟化させる工程;真空吸引及び/又は圧縮空気により、前記シート又はフィルムを前記成形型に密着させる工程;及び冷却後、離型して、有底容器を得る工程を含む。
【0062】
有底容器の形状としては、特に限定せず、円筒有底容器、角筒有底容器、さらには異形有底容器、開口部から底部にむけて縮径又は拡径している円錐形有底容器、開口部面積より底面積が小さい角錐有底容器、半球状の容器、開口部から2段階で底部が小さくなっている段付き有底容器、さらには、これらの容器にフランジや凸部が形成されたものであってもよい。
【0063】
カップやトレイ等の、絞り比(成形品の深さ(mm)/成形品の最大直径(mm))が通常0.1〜3である成形物を目的とする場合、特に、急激な延伸処理が含まれる真空圧空成形が採用されるが、真空圧空成形する場合、カップ側面部分と底面部分とでは、樹脂にかかる張力の大きさが異なるため、優れた外観の成形品を製造することが難しい。しかしながら、本発明の樹脂組成物を用いた積層体では、成形加工時に付加される張力が部位によって異なる、真空圧空成形法によるカップ状の成形に供しても、ガスバリア性を損なうことなく、優れた外観を有する成形品を得ることができる。
【0064】
加熱軟化工程における加熱温度は、積層体の温度(積層体近傍温度)で、通常40〜300℃、好ましくは50〜170℃、特に好ましくは60〜160℃程度の範囲から選ばれる。かかる加熱温度が低すぎる場合は軟化不十分で、優れた外観を有する成形品を得られない傾向があり、高すぎる場合は、各層の溶融粘度のバランスがくずれ、優れた外観を有する成形品を得られないおそれがある。
【0065】
加熱時間は、成形に必要十分な軟化状態を達成できる程度にまで、積層体温度を加熱することができる時間であり、積層体の層構成、積層体を形成する各層の成分組成、加熱に用いるヒーター温度等により適宜設定される。
【0066】
真空圧空成形の絞り比(成形品の深さ(mm)/成形品の最大直径(mm))は、目的とする有底容器の形状にもよるが、通常0.1〜3、好ましくは0.2〜2.5、特に好ましくは0.3〜2とすることが好ましい。かかる値が大きすぎる場合、EVOH樹脂組成物層のクラック等が入りやすくなり、小さすぎる場合は壁面の厚みに偏肉が生じやすくなる。
【0067】
上記のような二次成形後の積層体の熱可塑性樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、熱可塑性樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性などにより一概に言えないが、熱可塑性樹脂層は通常0.1〜3000μm、好ましくは1〜500μm、接着性樹脂層は0.1〜300μm、好ましくは1〜100μm程度の範囲から選択される。
【0068】
また、上記延伸処理後の本発明の樹脂組成物含有層の厚みは要求されるガスバリア性などによって異なるが、通常は0.1〜300μmであり、好ましくは0.1〜100μm、特に好ましくは0.1〜50μmであり、かかる厚みが薄すぎると十分なガスバリア性が得られない傾向があり、逆に厚すぎるとフィルムの柔軟性が不足する傾向にある。
【0069】
さらに、EVOH樹脂組成物層と接着性樹脂層の厚み比、EVOH樹脂組成物層の厚み総計と熱可塑性樹脂層の厚み総計比は、加熱延伸前後で大きく変化するものではなく、上記した積層体の場合と同様の値となる。
【0070】
本発明の方法により製造される有底容器は、EVOH樹脂組成物層が本来有する優れたガスバリア性を保持しつつ、透明性に優れ、偏肉がない。さらに、成形品である容器に目視で認められるようなスジの発生が抑制されている。原料として用いた積層体のEVOH樹脂組成物層は、2種類のEVOH樹脂を含むことによる流動性の差異、混和性が高められ、結果として、積層体における隣接する層との間の界面での乱れが抑制され、スジの原因となるような微小な界面乱れが低減されているためと考えられる。よって、外観も優れているので、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0072】
〔EVOH樹脂組成物No.1−10の製造〕
以下に示す4種類のEVOH樹脂から2種類を選択し、エチレン含有率が低い方のEVOH樹脂を80部、高い方のEVOH樹脂を20部配合し、表1に示すカルボン酸金属塩を表1に示す濃度で配合し、ドライブレンドすることにより、EVOH樹脂組成物を調製した。
・EVOH樹脂1:エチレン構造単位の含有率29モル%、ケン化度99.6モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2160g)
・EVOH樹脂2:エチレン構造単位の含有率44モル%、ケン化度98.5モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2160g)
・EVOH樹脂3:エチレン構造単位の含有率25モル%、ケン化度99.7モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2160g)
・EVOH樹脂4:エチレン構造単位の含有率51モル%、ケン化度94.0モル%、MFR25g/10分(210℃、荷重2160g)
【0073】
〔積層体の製造〕
3種5層共押出しTダイシート製膜装置に、上記で調製したEVOH樹脂組成物、ポリプロピレン(日本ポリプロ社製「EG47FT」)、接着性樹脂(三井化学社製「Admer QF551」)を供給して、共押出により、ポリプロピレン層/接着性樹脂層/EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層/ポリプロピレン層の3種5層構造の積層体(フィルム)を得た。積層体の各層の厚み(μm)は、450/25/50/25/450である。
成形装置のダイ温度は、全て210℃に設定した。
【0074】
[積層体の二次成形]
真空圧空成形機(浅野研究所製プラグアシスト型真空圧空成形機)の金型温度50℃・ヒーター温度500℃に設定し、上記で得た3種5層の積層フィルム(縦×横=40mm×40mm、厚み1000μm、EVOH樹脂層の厚み50μm)を用いて、開口部よりも底面の方が広がっている円錐形有底容器(上面径48mm、底面径80mm、深さ52mm、絞り比(成形品の深さ(mm)/成形品の最大直径(mm))が0.65)を作製した。
積層フィルムの加熱軟化のための加熱時間(ヒーター温度500℃)を、24秒間又は26秒間として、各場合について成形品を得た。
【0075】
〔二次成形性の評価〕
得られた成形品(カップ)の外観を目視観察して、スジの発生度合いを評価した。
A:スジがない、もしくは僅かにスジ(太さ200μm未満)がみられる程度
B:部分的に太さ200〜300μmのスジがある。
C:部分的に太さ300〜500μmのスジがある。
D:太さ300〜500μmのスジが成形品全体にわたって発生した。
E:スジが発生しただけでなく、透明な成形品が得られなかった。
【0076】
【表1】
【0077】
No.2,6−9は、カルボン酸金属塩を含まない又はステアリン酸亜鉛以外の金属塩を含有するEVOH樹脂組成物を用いた積層体の場合であり、得られる有底容器は、スジが発生し、エチレン含有率の差が大きいEVOH樹脂の組合せを用いた場合には透明な容器自体を得ることができなかった。
No.10は、ステアリン酸亜鉛を含有するが、2種類のEVOH樹脂のエチレン含有率差(ΔEt)が大きすぎるために、スジの発生を十分に抑制することができなかった。
【0078】
No.1、3−5は、エチレン含有率差(ΔEt)が10〜25モル%の2種類のEVOH樹脂を含有し、且つステアリン酸亜鉛を含有するEVOH樹脂組成物を用いた積層体である。いずれもスジの発生が抑制ないし、全く発生せず、真空圧空成形によるスジの発生抑制効果が発揮されていることがわかる。ただし、ステアリン酸亜鉛の含有量が少ないと十分なスジ発生の抑制効果が得られない(No.1,3)。したがって、ステアリン酸亜鉛の含有量は100ppm超、好ましくは250ppm以上とすることが望ましい。