特許第6408410号(P6408410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6408410-成形体の製造方法 図000003
  • 特許6408410-成形体の製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408410
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/14 20060101AFI20181004BHJP
   B29C 43/56 20060101ALI20181004BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20181004BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   B28B1/14 G
   B29C43/56
   C08G18/08
   C08J5/00CFF
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-68129(P2015-68129)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-187886(P2016-187886A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2017年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水木 一博
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 邦彦
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−046002(JP,A)
【文献】 特表2012−514857(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/108222(WO,A1)
【文献】 特開昭63−295639(JP,A)
【文献】 特開平09−155838(JP,A)
【文献】 特開平01−306209(JP,A)
【文献】 特開平05−004204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58
B29C 39/00−39/44
C08J 5/00
B28B 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体、分散媒、及び、混合により架橋反応が発生する2種類の樹脂前駆体のうちの第1樹脂前駆体を含むスラリー前駆体と、前記2種類の樹脂前駆体のうちの硬化剤としての第2樹脂前駆体と、と混合して得られるスラリーを、成形型の成形空間に充填して成形する成形工程と、
前記成形空間内に充填・成形された前記スラリーを硬化して成形体を得る硬化工程と、
を含む、成形体の製造方法であって、
前記硬化工程において、せん断速度が0.01(-1)における前記スラリーの粘度が1×104(mPa・s)から1×107(mPa・s)まで上昇するのに要する時間をΔt(s)とし、前記硬化工程において、せん断速度が0.01(-1)における前記スラリーの粘度が1×104(mPa・s)から1×107(mPa・s)まで上昇する間に亘って前記成形型を取り巻く雰囲気を加圧することで前記成形空間を加圧する圧力をP(MPa)としたとき、f(Δt)≦P、ただし、f(Δt)=(6.03/Δt)−0.0123(MPa)、Δt≦450(s)、0.01(MPa)≦P≦0.15(MPa)という関係が成立する、成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成形体の製造方法において、
前記第2樹脂前駆体として、イソシアネートが使用された、成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の成形体の製造方法において、
前記第1樹脂前駆体として、ポリオールが使用された、成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の成形体の製造方法において、
前記混合時における前記スラリー中における前記第2樹脂前駆体の体積濃度が2〜15体積%である、成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の成形体の製造方法において、
前記混合時における前記スラリー中における前記第1樹脂前駆体の体積濃度が0.2〜5体積%である、成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の成形体の製造方法において、
前記スラリーは、前記架橋反応を促進する触媒を含み、
前記混合時における前記スラリー中における前記触媒の体積濃度が0.1〜3体積%である、成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の成形体の製造方法において、
前記混合時における前記スラリー中における前記分散媒の体積濃度が35〜65体積%である、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、成形体の製造方法の1つとして、「無機粉体、分散媒、及び、混合により架橋反応が発生する2種類の樹脂前駆体のうちの第1樹脂前駆体(例えば、ポリオール)を含むスラリー前駆体と、前記2種類の樹脂前駆体のうちの硬化剤(ゲル化剤)としての第2樹脂前駆体(例えば、イソシアネート)と、を混合して得られるスラリーを、成形型の成形空間に充填して成形する成形工程」と、「前記成形空間内に充填・成形された前記スラリーを硬化して成形体を得る硬化工程」とを含む、成形体の製造方法が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。通常、この硬化工程は、常圧(大気圧)下にて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2004/035281号公報
【発明の概要】
【0004】
上記製造方法における硬化工程に要する時間を短くするためには、スラリーの硬化速度(スラリーの粘度の増加勾配)を大きくすればよい。スラリーの硬化速度を大きくするためには、例えば、スラリー中における第1、第2樹脂前駆体の体積濃度を大きくする、或いは、スラリー中における「架橋反応を促進する触媒」の体積濃度を大きくすればよい。
【0005】
しかしながら、常圧下で硬化工程が行われる場合、スラリーの硬化速度を大きくすると、硬化工程中において、成形体にクラックが発生し易くなることが判明した。本発明者は、この問題に対処するため日々研究・実験を重ねた。その結果、本発明者は、硬化工程中において成形体にクラックが発生し難くするために有効な条件を見出した。
【0006】
以上より、本発明は、上述した成形体の製造方法であって、硬化工程中において成形体にクラックが発生し難いものを提供することを目的とする。
【0007】
本発明に係る成形体の製造方法は、上述と同じ成形工程と、上述と同じ硬化工程を含む。前記第2樹脂前駆体としてイソシアネートが使用され、前記第1樹脂前駆体としてポリオールが使用されることが好適である。
【0008】
本発明に係る製造方法の特徴は、前記硬化工程において、せん断速度が0.01(s―1)における前記スラリーの粘度が1×10(mPa・s)から1×10(mPa・s)まで上昇するのに要する時間(硬化時間)をΔt(s)とし、前記硬化工程において、せん断速度が0.01(s―1)における前記スラリーの粘度が1×10(mPa・s)から1×10(mPa・s)まで上昇する間に亘って前記成形空間を加圧する圧力(加圧圧力)をP(MPa)としたとき、f(Δt)≦P、ただし、f(Δt)=(6.03/Δt)−0.0123(MPa)、Δt≦450(s)という関係が成立する、ことにある。
【0009】
本発明者は、硬化工程において、前記成形空間を常圧(大気圧)に維持するのではなく、前記成形空間を(常圧から)加圧することに着目した。そして、本発明者は、上記関係が成立するように加圧圧力を調整する場合、そうでない場合と比べて、硬化工程中において成形体にクラックが発生し難いこと、を見出した(詳細は後述する)。より具体的には、硬化時間Δtが短いほど(従って、硬化速度が大きいほど)、クラック発生の抑制に必要な加圧圧力が大きいこと、を見出した。
【0010】
本発明に係る製造方法において、前記混合時における前記スラリー中における前記第2樹脂前駆体の体積濃度が2〜15体積%であること、前記混合時における前記スラリー中における前記第1樹脂前駆体の体積濃度が0.2〜5体積%であること、及び、前記混合時における前記スラリー中における前記分散媒の体積濃度が35〜65体積%であること、が好ましい。
【0011】
また、前記スラリーが、前記架橋反応を促進する触媒を含む場合、前記混合時における前記スラリー中における前記触媒の体積濃度が0.1〜3体積%であること、が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】硬化工程における、経過時間と、スラリーの粘度との関係の一例を示したグラフである。
図2】表1の結果を硬化時間Δtと、加圧圧力Pと、の関係で表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る成形体の製造方法について説明する。
【0014】
本実施形態に係る製造方法では、以下の手順によって、成形体(焼成前の状態にあるグリーン成形体)が製造される。この成形体は、後に焼成され、製品として利用され得る。
【0015】
<離型剤塗布>
先ず、成形体を成形するために使用される成形型の内部に形成された成形空間の内壁(成形面、スラリーが接触する凹部の内側面)に、離型剤として、フッ素系離型剤を有機溶剤で分散させたものを塗布する。塗布方法は周知の手法の中から適宜選択され得る。塗布後、有機溶剤は直ちに揮発し、この結果、成形面にフッ素系離型剤が固着される。これにより、離型の際、成形体の残渣が成形型の成形面に付着・残存し難くなる。従って、型の離型の際の成形体の表面の破損を抑制することができる。加えて、型の成形面に成形体の残渣が付着・残存していても、これを容易に除去できる。
【0016】
<スラリー調製>
次に、「無機粉体、分散媒、及び、混合により架橋反応が発生する2種類の樹脂前駆体のうちの第1樹脂前駆体を含むスラリー前駆体」と、「2種類の樹脂前駆体のうちの硬化剤としての第2樹脂前駆体」と、を混合して、スラリーの調製を行う。スラリーには、必要に応じて分散助剤、触媒が含まれる。
【0017】
スラリーとしては、例えば、無機粉体として、ジルコニア粉末100重量部、分散媒として、脂肪族多価エステルと多塩基酸エステルの混合物27重量部、第1樹脂前駆体として、エチレングリコール(ポリオール)0.3重量部、第2樹脂前駆体(硬化剤、ゲル化剤)として、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート5.3重量部、分散助剤として、ポリカルボン酸系共重合体3重量部、触媒として、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール0.05重量部、を混合したものが使用され得る。
【0018】
なお、無機粉体として、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化カルシウム、酸化錫、二酸化珪素、酸化イットリウム、酸化コバルト、酸化銅、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化クロム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等のような焼成により所望の組成を有するセラミックスを構成するための金属化合物や、窒化珪素、窒化チタン、窒化アルミニウム等の窒化物や、炭化ケイ素、炭化チタン等の炭化物、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅、タングステン、モリブデンやこれらの合金からなる粉末等が使用され得る。これらの無機粉末は、1種単独で用いられても良く、或いは、2種類以上が組み合わされて使用されてもよい。分散媒として、アルコール類(メタノール、エタノール、イソピルアルコール、ブタノール、2−エチルヘキサノール等)、エーテル類(2−メトキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレンエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチン、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、炭化水素類(トルエン、キシレン、シクロヘキサン等)、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、スルフォラン等の有機溶剤が使用されてもよい。これらの分散媒は、1種単独で用いられても良く、或いは、2種類以上が組み合わされて使用されてもよい。架橋反応によって得られる樹脂バインダとして、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂などが使用されてもよい。即ち、第1、第2樹脂前駆体として、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂などの前駆体が使用されてもよい。分散助剤として、ポリカルボン酸系共重合体、ソルビタン系エステル、ポリカルボン酸塩、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン酸エステル塩系共重合体、スルホン酸塩系共重合体、3級アミンを有するポリウレタンポリエステル系共重合体などの有機化合物が使用されてもよい。触媒として、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール、トリエチレンジアミン、ヘキサンジアミンなどのアミン化合物が使用されてもよい。
【0019】
第1樹脂前駆体に使用され得るポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0020】
第2樹脂前駆体に使用され得るイソシアネートとしては、例えば、MDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)系イソシアネート(樹脂)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系イソシアネート(樹脂)、TDI(トリレンジイソシアネート)系イソシアネート(樹脂)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)系イソシアネート(樹脂)、イソチオシアネート(樹脂)、あるいはこれらの変性物等が挙げられる。
【0021】
<成形工程>
次に、成形型を取り巻く雰囲気が室温、且つ常圧(大気圧)に維持された状態において、成形型の導入口から、調製したスラリーが成形型の成形空間内に注入・充填される。このスラリー注入は、スラリーの調製後、直ちに開始される。上述した架橋反応(即ち、スラリーの硬化)がスラリーの調製後直ちに開始されるからである。
【0022】
<硬化工程>
次に、成形空間内に充填・成形されたスラリーが硬化される。硬化工程では、成形型を取り巻く雰囲気(従って、スラリーが充填されている成形空間)が、室温に維持される一方で、(常圧から)加圧される。以下、常圧からの圧力の増加分を「加圧圧力P」と呼ぶ。加圧圧力Pの大きさについては、後に詳述する。
【0023】
図1は、硬化工程における、スラリーの充填完了からの経過時間(min)と、せん断速度が0.01(s―1)におけるスラリーの粘度(mPa・s)と、の関係の一例を示す。図1から理解できるように、一般に、架橋反応によって得られる樹脂バインダを含むスラリーの粘度は、1×10未満から1×10までは、急激に増大し、その後の一定期間に亘って1×10近傍に維持され、その後、緩やかに増大していく。
【0024】
以下、せん断速度が0.01(s―1)におけるスラリーの粘度(mPa・s)が、1×10から1×10まで上昇するのに要する時間を「硬化時間Δt(s)」と定義する。スラリーの硬化速度(スラリーの粘度の増加勾配)が大きいほど、硬化時間Δtが短くなる。スラリーの硬化速度を大きくする(従って、硬化時間Δtを短くする)ためには、例えば、スラリー中における第1、第2樹脂前駆体の体積濃度を大きくする、或いは、スラリー中における「架橋反応を促進する触媒」の体積濃度を大きくすればよい。
【0025】
硬化工程では、少なくともこの硬化時間Δtの期間に亘って、成形空間が加圧される。成形空間の加圧は、硬化時間Δtの期間の開始前から既に開始されてもよいし、硬化時間Δtの期間の終了後もなお継続されてもよい。
【0026】
この硬化工程は、成形空間に充填されているスラリーが固化するまで継続される。ここで、「固化」とは、上述した架橋反応、或いは、分散媒の揮発によって成形体の形状が保持されること、を指す。具体的には、例えば、「スラリーの固化」とは、「スラリーの粘度(mPa・s)が、5×10以上の状態」を指す。この硬化工程が終了すると、スラリーが成形空間内で固化されて成形体となる。
【0027】
<離型>
次に、成形型の成形空間内にて形成された成形体から成形型が取り除かれる(離型)。
【0028】
<最終乾燥>
最後に、離型後の成形体が、100℃に設定されたオーブンに載せて180分間加熱される。この最終乾燥工程により、架橋反応、及び分散媒の揮発が更に進み、成形体の強度がより一層大きくなる。これにより、成形体の取り扱いが容易となる。なお、この最終乾燥は省略可能である。以上、本発明の実施形態に係る成形体の製造方法について説明した。
【0029】
(クラックの発生防止のための硬化工程における加圧)
上述したように、硬化時間Δtを短くするためには、スラリーの硬化速度を大きくすればよい。しかしながら、成形空間を常圧(大気圧)に維持した状態で硬化工程が行われる場合、スラリーの硬化速度を大きくすると、硬化工程中において、成形体にクラックが発生し易くなることが判明した。
【0030】
本発明者は、この問題に対処するため、硬化工程において、成形空間を常圧に維持するのではなく、成形空間を(常圧から)加圧することに着目した。そして、本発明者は、硬化工程における成形体のクラックの発生の有無が、硬化時間Δt、及び、加圧圧力Pと強い相関があることを見出した。以下、このことを確認した試験について説明する。
【0031】
(試験)
この試験では、スラリー中の成分、スラリー中の第1樹脂前駆体、第2樹脂前駆体、触媒、及び、分散媒のそれぞれの体積濃度、硬化時間Δt、加圧圧力Pの組み合わせが異なる複数の実施例が検討された。具体的には、表1に示すように、13種類の実施例が検討された。各実施例のサンプル数は200であった。各実施例において、成形型の成形空間(従って、成形体)の形状は、円柱であり、そのサイズは、直径50mm、高さ5mmであった。また、スラリー中の各成分の体積濃度は、スラリー調製時(混合時)における値である。
【0032】
【表1】
【0033】
表1において、スラリーA(実施例No.1〜No.5)として、無機粉体として、酸化ジルコニウム(粒径0.5μm、比表面積7m/g)を100重量部、分散媒として、脂肪族多価エステルと2塩基酸エステルの混合物を28.5重量部、第1樹脂前駆体として、エチレングリコールを1.3重量部、第2樹脂前駆体(硬化剤、ゲル化剤)として、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを7.8重量部、分散助剤として、ポリマレイン酸共重合体を2.0重量部、触媒として、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノールを0.93重量部、を混合したものが使用された。スラリーB(実施例No.6〜No.10)として、無機粉体として、酸化アルミニウム(粒径0.46μm、比表面積 4.3m/g)を100重量部、分散媒として、脂肪族多価エステルと2塩基酸エステルの混合物を24.8重量部、第1樹脂前駆体として、エチレングリコールを3.6重量部、第2樹脂前駆体(硬化剤、ゲル化剤)として、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを11.9重量部、分散助剤として、ポリマレイン酸共重合体を2.0重量部、触媒として、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノールを1.7重量部、を混合したものが使用された。スラリーC(実施例No.11〜No.12)として、無機粉体として、酸化ジルコニウム(粒径0.5μm、比表面積7m/g)を100重量部、分散媒として、脂肪族多価エステルと2塩基酸エステルの混合物を41.5重量部、第1樹脂前駆体として、エチレングリコールを0.13重量部、第2樹脂前駆体(硬化剤、ゲル化剤)として、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを1.43重量部、分散助剤として、ポリマレイン酸共重合体を3.0重量部、触媒として、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノールを0.05重量部、を混合したものが使用された。スラリーD(実施例No.13)として、無機粉体として、酸化ジルコニウム(粒径0.5μm、比表面積7m/g)を100重量部、分散媒として、脂肪族多価エステルと2塩基酸エステルの混合物を27重量部、第1樹脂前駆体として、エチレングリコールを0.2重量部、第2樹脂前駆体(硬化剤、ゲル化剤)として、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを1.65重量部、分散助剤として、ポリマレイン酸共重合体を2.5重量部、触媒として、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノールを0.02重量部、を混合したものが使用された。
【0034】
硬化時間Δtは、スラリー中における第1、第2樹脂前駆体の体積濃度、及び、触媒の体積濃度によって決定される。従って、表1から理解できるように、Δtは、スラリーA、B、C、D間で異なる。加圧圧力Pは、成形型を取り巻く雰囲気を常圧からの加圧分を調整することによって調整された。各実施例において、少なくとも硬化時間Δtの期間に亘って加圧圧力Pは一定に維持された。各実施例について、硬化工程は、室温下にて、成形空間に充填されているスラリーが固化するまで、即ち、スラリーの粘度が、5×10(mPa・s)以上となるまで継続された。
【0035】
この試験では、硬化工程後における離型後の成形体におけるクラックの発生の有無が確認された。この確認は、目視、並びに、顕微鏡を使用した観察によってなされた。この結果は、表1の「不良率」及び「判定」の欄に示すとおりである。各実施例について、「不良率」とは、「(クラックが発生していたサンプル数)/(全サンプル数=200)」と表される。「判定」の欄において、「○」は、クラックが発生していたサンプル数がゼロであったことを示し、「×」は、クラックが発生していたサンプル数が少なくとも1つあったことを示す。
【0036】
図2は、表1の「判定」の欄の結果を、硬化時間Δtと、加圧圧力Pと、の関係で表したグラフである。図2に示すグラフにおいて、f(Δt)は、クラックが発生する領域と、クラックが発生しない領域と、を区画する曲線である。ここで、f(Δt)=(6.03/Δt)−0.0123(MPa)である。この数式は、最少二乗法を用いて算出された。
【0037】
なお、実施例13は、図2に示すグラフ内にて最も右に位置する「○」に対応している。実施例13は、判定が「○」になっているが、加圧圧力P=0であるので、本実施形態に係る製造方法(P>0)の対象外である。従って、図2に示すグラフ内にて、本実施形態に係る製造方法(P>0)の対象内における硬化時間Δtの最長値は、450(s)である。
【0038】
この試験では、実施例1〜12において、第1樹脂前駆体の体積濃度が0.2〜5体積%、第2樹脂前駆体の体積濃度が2〜15体積%、触媒の体積濃度が0.1〜3体積%、並びに、分散媒の体積濃度が35〜65体積%の範囲内であった。
【0039】
以上より、硬化工程では、Δt≦450(s)の範囲内おいて、「f(Δt)≦P」が成立するように加圧圧力P(>0)を調整する場合、そうでない場合と比べて、成形体にクラックが発生し難い、といえる。より具体的には、硬化時間Δtが短いほど(従って、硬化速度が大きいほど)、クラック発生の抑制に必要な加圧圧力Pが大きい、といえる。
図1
図2