(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408435
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】機能的電気刺激を用いた双方向遠隔制御システム
(51)【国際特許分類】
A61B 34/35 20160101AFI20181004BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
A61B34/35
G09B9/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-142500(P2015-142500)
(22)【出願日】2015年7月16日
(65)【公開番号】特開2017-23223(P2017-23223A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100918
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 公治
(72)【発明者】
【氏名】境野 翔
【審査官】
寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第01/38958(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/068716(WO,A1)
【文献】
特開2001−54507(JP,A)
【文献】
特開平11−210021(JP,A)
【文献】
特開2011−139728(JP,A)
【文献】
巌見武裕,機能的電気刺激により反力提示する新しいバイラテラル遠隔制御システムの開発,日本ロボット学会誌,日本,日本ロボット学会,2002年11月15日,Vol.20, No.8,844-851
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/35 − 34/37
B25J 3/00 − 3/04
G09B 9/00 − 9/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離れたヒト同士の同期した動作を可能にする双方向遠隔制御システムであって、
各々のヒトに機能的電気刺激を与えるための貼付け電極と、
各々のヒトの身体位置情報、力覚情報、筋電情報の少なくとも一つを含む検出データを検出する検出センサと、
前記検出センサの検出データを基に各々のヒトの前記貼付け電極に与える前記機能的電気刺激を生成する制御部と、
を備えることを特徴とする双方向遠隔制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の双方向遠隔制御システムであって、前記制御部は、前記機能的電気刺激を加える貼付け電極と、当該電極に前記機能的電気刺激を加えたときの身体の運動形態と、前記身体の運動量と前記機能的電気刺激の強さとの関係と、が記述された機能的電気刺激データベースを有し、前記検出センサの検出データを基に、前記機能的電気刺激データベースを参照して、前記貼付け電極に与える前記機能的電気刺激を算出する、ことを特徴とする双方向遠隔制御システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の双方向遠隔制御システムであって、前記検出データには、各々のヒトの身体位置情報が含まれ、前記制御部は、各々のヒトの前記検出データから各々のヒトの前記身体位置情報を取得して、それらの差分を算出し、前記差分を解消するように生成した前記機能的電気刺激を各々のヒトの前記貼付け電極に与える、ことを特徴とする双方向遠隔制御システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の双方向遠隔制御システムであって、前記検出データには、各々のヒトの身体位置情報と力覚情報とが含まれ、前記制御部は、各々のヒトの前記検出データから各々のヒトの前記身体位置情報を取得して、それらの差分を算出し、前記差分を解消するように生成した前記機能的電気刺激を一方のヒトの前記貼付け電極に与え、前記一方のヒトの前記検出データから取得した前記力覚情報に基づいて、他方のヒトの前記貼付け電極に与える前記機能的電気刺激を生成する、ことを特徴とする双方向遠隔制御システム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の双方向遠隔制御システムであって、前記検出データには、各々のヒトの身体位置情報と力覚情報とが含まれ、前記制御部は、各々のヒトの前記検出データから各々のヒトの前記身体位置情報を取得して、それらの差分を算出し、前記差分を解消するように生成した前記機能的電気刺激を一方のヒトの前記貼付け電極に与え、各々のヒトの前記検出データから各々のヒトの前記力覚情報を取得して、それらの和分を算出し、前記和分に基づいて、他方のヒトの前記貼付け電極に与える前記機能的電気刺激を生成する、ことを特徴とする双方向遠隔制御システム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の双方向遠隔制御システムであって、前記検出データには、各々のヒトの身体位置情報と力覚情報とが含まれ、前記制御部は、各々のヒトの前記検出データから各々のヒトの前記身体位置情報を取得して、それらの差分を算出し、前記差分を解消するように生成した前記機能的電気刺激を一方のヒトの前記貼付け電極に与え、前記一方のヒトの前記検出データから取得した前記力覚情報に基づいて、他方のヒトの前記身体位置を制御する前記機能的電気刺激を生成して、前記他方のヒトの前記貼付け電極に与える、ことを特徴とする双方向遠隔制御システム。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の双方向遠隔制御システムであって、前記検出データには、各々のヒトの身体位置情報と力覚情報とが含まれ、前記制御部は、各々のヒトの前記検出データから各々のヒトの前記身体位置情報を取得して、それらの差分を算出するとともに、各々のヒトの前記検出データから各々のヒトの前記力覚情報を取得して、それらの和分を算出し、前記身体位置情報の差分の加速度と前記力覚情報の和分との差分又は和分を解消するように生成した前記機能的電気刺激を各々のヒトの前記貼付け電極に与える、ことを特徴とする双方向遠隔制御システム。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の双方向遠隔制御システムであって、前記検出データには、一方のヒトの筋電情報が含まれ、前記制御部は、一方のヒトの前記検出データから前記筋電情報を取得して筋出力を推定し、該筋出力を生成する前記機能的電気刺激を他のヒトの前記貼付け電極に与える、ことを特徴とする双方向遠隔制御システム。
【請求項9】
請求項3から7のいずれかに記載の双方向遠隔制御システムであって、前記検出データには、さらに、一方のヒトの筋電情報が含まれ、前記制御部は、前記検出データから前記身体位置情報又は力覚情報を取得するまでの間、前記検出データから前記筋電情報を取得して筋出力を推定し、該筋出力を生成する前記機能的電気刺激を他のヒトの前記貼付け電極に与える、ことを特徴とする双方向遠隔制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離れたヒト同士が互いに遠隔制御を行う双方向遠隔制御システムであり、機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation:FES)を利用して、互いに同期する動作を行ったり、臨場感を共有したりできるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
FESは、筋肉に動作を起こさせる目的で生体の末梢神経と筋肉との接合部に直接加える電気的な刺激である。末梢神経と筋肉との接合部近辺に単一のパルス電流を与えると、筋肉は一度ピクンと収縮して直ぐに弛緩する。パルス電流を繰り返し与えると、収縮が加重されて筋肉が滑らかに収縮し、所定の動作が行われる。FESは、中枢神経からの運動指令伝達機能に障害を持つ患者の失われた動作を再建する技術として開発が進められている。
【0003】
下記特許文献1及び非特許文献1には、ロボット等の被制御装置(スレーブ)を遠隔操作するオペレータに対し、被制御装置からの反力情報をFESを利用してフィードバックするシステムが開示されている。
図17は、特許文献1に記載された図面を示している。このシステムでは、オペレータが操作装置3で被制御装置1を遠隔操作すると、被制御装置1からの反力信号12が制御装置2の変換手段22に送られ、変換手段22は、反力信号12を電気刺激信号13に変換する。電気刺激信号13は、オペレータの腕等に貼り付けられた刺激電極4に付与され、そのため、オペレータの筋肉が収縮し、オペレータは被制御装置1の反力を感じることができる。
また、特許文献1には、
図18に示すように、オペレータの腕に、刺激電極4とは別に、筋電位(Electromyography:EMG)を測定する測定電極5を設け、測定電極5で測定したEMGを制御装置2に戻し、電気刺激信号13にフィードバックすることも記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、操作者の腕をマスタとし、スレーブのマニピュレータにマスタと同様の動作を行わせるシステムが開示されている。
マスタとスレーブとの間で姿勢と力の状態を一致させるために行われる遠隔制御は“バイラテラル制御”と言われているが、このシステムでは、バイラテラル制御を実現するため、三次元位置センサを操作者の腕に取付けて、三次元位置センサで検出した腕の角度や動きをマニピュレータの運動指令に変換し、また、マニピュレータに6軸力センサを取付けて、マニピュレータと環境との干渉力を各関節軸周りの受動トルクに換算し、それをFESによる力覚フィードバック信号に変換して操作者に与えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−210021公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】巌見武裕他「機能的電気刺激により反力提示する新しいバイラテラル遠隔制御システムの開発,」日本ロボット学会誌, Vol. 20, No.8, pp. 844-851, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヒトが被制御機械を遠隔制御するシステムでは、被制御機械の操作を専らヒトが行い、被制御機械からは被制御機械と環境との干渉力がヒトにフィードバックされるだけであるが、ヒトが遠隔制御の技術を利用して離れたヒトと関わることができれば、バイラテラル制御により、お互いの動作を同期させたり、臨場感を共有したりすることが可能になる。
こうした双方向の遠隔制御システムでは、熟練作業者が遠隔地の初心者の作業を支援したり、遠隔地の機器の点検や修理を現地の担当者と同じ臨場感を体感しながら遠隔操作したりすることができる。また、無医村での遠隔医療や緊急時の遠隔手術等への応用の可能性も有している。
このように、ヒト同士の遠隔制御を可能にする双方向遠隔制御システムは、高い利便性を有し、広範囲の発展性を備えている。
【0008】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、離れたヒト同士の同期した動作を可能にする双方向遠隔制御システムであって、大型装置や複雑な装置を必要とせずに、簡単に構成できるシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、離れたヒト同士の同期した動作を可能にする双方向遠隔制御システムであって、各々のヒトにFESを与えるための貼付け電極と、各々のヒトの身体位置情報、力覚情報、筋電情報の少なくとも一つを含む検出データを検出する検出センサと、検出センサの検出データを基に各々のヒトの貼付け電極に与えるFESを生成する制御部と、を備えることを特徴とする。
このシステムでは、互いに離れているヒトの一方で行われた動作と同一の動作が他方のヒトでも行われるようにFESを用いて制御され、また、他方のヒトで行われた動作と同一の動作が一方のヒトでも行われるようにFESを用いて制御される。
【0010】
また、本発明の双方向遠隔制御システムでは、制御部が、FESを加える貼付け電極と、その電極にFESを加えたときの身体の運動形態(身体のどの部位がどの方向に動くか)と、その身体の運動量とFESの強さとの関係と、が記述されたFESデータベースを有し、制御部は、検出センサの検出データを基に、FESデータベースを参照して、貼付け電極に与えるFESを算出する。
【0011】
また、本発明の双方向遠隔制御システムでは、バイラテラル制御方法として、「位置対称型」「力逆送型」「力帰還形」「力順送型」あるいは「4ch型」の制御方法を用いることができる。
【0012】
また、本発明の双方向遠隔制御システムでは、検出データに、一方のヒトの筋電情報(EMG)を含め、制御部が、一方のヒトの検出データから筋電情報を取得して筋出力を推定し、その筋出力を生成する機能的電気刺激を他のヒトの貼付け電極に与えるようにしても良い。
この場合、筋電情報だけを用いて遠隔制御を行うことができる。
【0013】
また、本発明の双方向遠隔制御システムでは、検出データに、身体位置情報や力覚情報と共に、一方のヒトの筋電情報を含め、制御部が、検出データから身体位置情報や力覚情報を取得して「位置対称型」「力逆送型」「力帰還形」「力順送型」又は「4ch型」の遠隔制御を行うまでの間、検出データから筋電情報を取得して筋出力を推定し、その筋出力を生成する機能的電気刺激を他のヒトの貼付け電極に与えるようにしても良い。
筋電情報は、運動が開始する100ms程前に発生するので、筋電情報による遠隔制御と「位置対称型」「力逆送型」「力帰還形」「力順送型」又は「4ch型」の遠隔制御とを組み合わせることで、離れたヒト同士の動作を同期させる際の遅延を減らすことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の双方向遠隔制御システムは、簡単な構成で、離れたヒト同士の動作を同期させることを可能にする。このシステムに参加するヒトは、幾つかの電極を身体に張り付けるだけであるため、複雑な機械を装着する場合に比べて、拘束感や圧迫感を受けない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る双方向遠隔制御システムを模式的に示す図
【
図4】
図3のバイラテラル制御方法における制御手順を示すフロー図
【
図6】
図5のバイラテラル制御方法における制御手順を示すフロー図
【
図8】
図7のバイラテラル制御方法における制御手順を示すフロー図
【
図10】
図9のバイラテラル制御方法における制御手順を示すフロー図
【
図12】
図11のバイラテラル制御方法における制御手順を示すフロー図
【
図13】筋電情報のみを用いて行うバイラテラル制御方法の制御手順を示すフロー図
【
図14】筋電情報を用いるバイラテラル制御と「位置対称型」「力逆送型」「力帰還形」「力順送型」又は「4ch型」のバイラテラル制御とを組み合わせた制御手順を示すフロー図
【
図15】筋電情報から筋出力を推定する方法の一例を示す図
【
図16】本発明の双方向遠隔制御システムの実証実験の模様を示す図
【
図17】従来のFESを利用する遠隔制御システムを示す図
【
図18】
図17のシステムでの筋電情報を用いたフィードバック構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の双方向遠隔制御システムの実施形態を模式的に示している。
ここでは、腕10を備えるヒトをマスタ、腕20を備えるヒトをスレーブとして説明するが、この双方向遠隔制御システムでは、マスタとスレーブとが適宜入れ替わる。
このシステムは、マスタ側が、腕10の表面に貼付けられた電極11と、マスタの身体位置情報や力覚情報、筋電情報等を検出する検出センサ12と、電極11に加えるFESを生成する制御部40とを備え、スレーブ側が、同様に、腕20の表面に貼付けられた電極21と、スレーブの身体位置情報や力覚情報、筋電情報等を検出する検出センサ22と、電極21に加えるFESを生成する制御部50とを備えている。
【0017】
電極11、21は、末梢神経と筋肉との接合部近辺の表皮上に貼り付けられる。身体は600以上の筋肉で駆動されており、電極11、12の数を増やすことで、FESによる身体の複雑な運動の再現が可能になる。
身体位置情報を検出する検出センサ12、22には、非特許文献1に記載されているように、磁気式3次元位置センサを用いることができる。この場合、腕10、20にレシーバを取付けて身体位置情報を検出する。また、モーションキャプチャ等を用いても良い。
また、力覚を検出する検出センサ12、22には、6軸力センサ等を用いることができ、それを腕10、20に固定したり、手で把持する物体に取付けたりして力覚を検出する。
また、筋電情報を検出する場合は、
図18に示すように、測定電極5を腕10、20に貼り付ける。
なお、検出センサ12、22は、必ずしも、身体位置情報、力覚情報及び筋電情報の全てを検出する必要は無く、後述するように、採用するバイラテラル制御方法によっては、身体位置情報だけの検出、身体位置情報と力覚情報との検出、あるいは、筋電情報だけの検出で足りる場合がある。
【0018】
制御部40は、
図2に示すように、検出センサ12の検出データが入力するマスタ身体位置/力覚/筋電情報入力部43と、入力したマスタ側の身体位置/力覚/筋電情報をスレーブ側に送信するマスタ身体位置/力覚/筋電情報送信部46と、スレーブ側の身体位置/力覚/筋電情報を受信するスレーブ身体位置/力覚/筋電情報受信部45と、マスタ側及びスレーブ側の身体位置/力覚/筋電情報を用いて、バイラテラル制御を実現するためのFES生成信号を算出するFES生成信号算出部42と、FES生成信号算出部42が算出に際して参照するFESデータベース41と、FES生成信号を電極11に出力するFES生成信号出力部44と、を備えている。
スレーブ側の制御部50の構成は、マスタとスレーブが入れ替わっただけで、実質的に制御部40の構成と同じである。
また、ここでは、制御部40と制御部50との間でマスタ情報とスレーブ情報とを送受信しているが、制御部40及び制御部50の機能を一つに纏めた単一の制御部でマスタ及びスレーブの両方を制御しても良い。
【0019】
FESデータベース41には、電極11の識別情報と、各電極11にFESを加えたときの身体の運動形態(身体のどの部位がどの方向に動くか)と、その身体の運動量とFESの強さとの関係を表す参考データや数式等が記述されている。
FES生成信号算出部42は、FESデータベース41を参照して、バイラテラル制御を実現するためのFES生成信号の出力先電極11を決定し、そのFES生成信号の強さ(パルス信号の振幅)を算出する。
FES生成信号出力部44は、FES生成信号算出部42が算出した振幅のパルス信号を、FES生成信号算出部42が決定した電極11に出力する。
【0020】
次に、FES生成信号算出部42でのFES生成信号の算出手順について説明する。
図3は、「位置対称型」と呼ばれるバイラテラル制御方法を示している。(なお、
図3において、X1:マスタの位置、X2:スレーブの位置、U1:マスタの入力、U2:スレーブの入力、を表している。)
この制御方法を実施する場合、制御部40、50のFES生成信号算出部42は、
図4のフロー図に示すように、サンプリングタイムに(ステップ1)、マスタ及びスレーブの身体位置情報を取得して(ステップ2)、身体位置の差分を算出する(ステップ3)。そして、FESデータベース41を参照して、身体位置情報の差分を解消するために必要な運動を実現するFES生成信号を算出する(ステップ4)。算出されたFES生成信号は、マスタ側の電極11及びスレーブ側の電極21にそれぞれ出力される(ステップ5)。この動作が稼働時間の終了するまで繰り返される(ステップ6)。
この位置対称型のバイラテラル制御方法は、検出センサで検出された身体位置情報だけを用いて行うことができる。
【0021】
図5は、「力逆送型」と呼ばれるバイラテラル制御方法を示している。(なお、
図5において、X1:マスタの位置、X2:スレーブの位置、U1:マスタの入力、U2:スレーブの入力、F2:スレーブの力、を表している。)
この制御方法を実施する場合、制御部40(50)のFES生成信号算出部42は、
図6のフロー図に示すように、サンプリングタイムに(ステップ11)、マスタ及びスレーブの身体位置情報と、スレーブの力覚情報とを取得し(ステップ12)、身体位置の差分を算出する(ステップ13)。そして、FESデータベース41を参照して、身体位置の差分を解消するために必要な運動を実現するFES生成信号と、スレーブ側の力覚を生じるために必要なFES生成信号とを算出する(ステップ14)。身体位置差分解消のためのFES生成信号はスレーブの電極21に出力され、力覚生成のためのFES生成信号はマスタの電極11に出力される(ステップ15)。この動作が稼働時間の終了するまで繰り返される(ステップ16)。
この力逆送型のバイラテラル制御方法は、検出センサで検出された身体位置情報と力覚情報とを用いて行われる。
【0022】
図7は、「力帰還型」と呼ばれるバイラテラル制御方法を示している。(なお、
図7において、X1:マスタの位置、X2:スレーブの位置、U1:マスタの入力、U2:スレーブの入力、F1:マスタの力、F2:スレーブの力、を表している。)
この制御方法を実施する場合、制御部40(50)のFES生成信号算出部42は、
図8のフロー図に示すように、サンプリングタイムに(ステップ21)、マスタ及びスレーブの身体位置情報と、マスタ及びスレーブの力覚情報とを取得し(ステップ22)、身体位置の差分を算出し(ステップ23)、力覚の和を算出する(ステップ24)。そして、FESデータベース41を参照して、身体位置の差分を解消するために必要な運動を実現するFES生成信号と、力覚の和の解消に必要なFES生成信号とを算出する(ステップ25)。身体位置差分解消のためのFES生成信号はスレーブの電極11に出力され、力覚和分解消ためのFES生成信号はマスタの電極11に出力される(ステップ26)。この動作が稼働時間の終了するまで繰り返される(ステップ27)。
この力帰還型のバイラテラル制御方法は、検出センサで検出された身体位置情報と力覚情報とを用いて行われる。
【0023】
図9は、「力順送型」と呼ばれるバイラテラル制御方法を示している。(なお、
図9において、X1:マスタの位置、X2:スレーブの位置、U1:マスタの入力、U2:スレーブの入力、F1:マスタの力、を表している。)
この制御方法を実施する場合、制御部40(50)のFES生成信号算出部42は、
図10のフロー図に示すように、サンプリングタイムに(ステップ31)、マスタ及びスレーブの身体位置情報と、マスタの力覚情報とを取得し(ステップ32)、身体位置の差分を算出する(ステップ33)。そして、FESデータベース41を参照して、身体位置の差分を解消するために必要な運動を実現するFES生成信号と、マスタ側の力覚に対応する身体位置に制御するためのFES生成信号とを算出する(ステップ14)。身体位置差分解消のためのFES生成信号はマスタの電極11に出力され、力覚対応の身体位置に制御するためのFES生成信号はスレーブの電極21に出力される(ステップ35)。この動作が稼働時間の終了するまで繰り返される(ステップ36)。
この力順送型のバイラテラル制御方法は、検出センサで検出された身体位置情報と力覚情報とを用いて行われる。
【0024】
図11は、「4ch型」と呼ばれるバイラテラル制御方法を示している。(なお、
図11において、X1:マスタの位置、X2:スレーブの位置、U1:マスタの入力、U2:スレーブの入力、F1:マスタの力、F2:スレーブの力、を表している。)
この制御方法を実施する場合、制御部40、50のFES生成信号算出部42は、
図12のフロー図に示すように、サンプリングタイムに(ステップ41)、マスタ及びスレーブの身体位置情報及び力覚情報を取得し(ステップ42)、身体位置の差分(X2−X1)を算出し(ステップ43)、力覚の和(F1+F2)を算出する(ステップ44)。そして、FESデータベース41を参照して、身体位置の差分(X2−X1)の加速度と力覚の和(F1+F2)との差分や和分を解消するFES生成信号を算出する(ステップ45)。差分を解消するFES生成信号はマスタの電極11に出力され、和分を解消するFES生成信号はスレーブの電極21に出力される(ステップ46)。この動作が稼働時間の終了するまで繰り返される(ステップ47)。
この4ch型のバイラテラル制御方法は、検出センサで検出された身体位置情報と力覚情報とを用いて行われる。
【0025】
次に、筋電情報を用いるバイラテラル制御について説明する。
筋電情報(EMG)と筋出力との関係は、例えば、
図15のようにモデル化できる。ここで、横軸はEMGの電圧(V)であり、縦軸は筋出力(F)である。また、Vthは閾値であり、Kvfは、閾値を超えた状態でのF/Vの傾きである。
このモデルでは、筋出力(F)は、
V<Vthのとき、F=0
V≧Vthのとき、F=Kvf(V−Vth)
と表される。
【0026】
図13のフロー図は、筋電情報のみを用いてバイラテラル制御を行うときの手順を示している。
制御部40(50)のFES生成信号算出部42は、サンプリングタイムに(ステップ51)、マスタの検出データからEMGを取得し(ステップ52)、FESデータベース41に保持された
図15のモデルを参照して、EMGに対応する筋出力を算出し(ステップ53)、算出した筋出力を実現するFES生成信号を算出する(ステップ54)。このFES生成信号は、スレーブの電極21に出力される(ステップ55)。この手順が稼働時間の終了するまで繰り返される(ステップ56)。
なお、マスタとスレーブを入れ替えて、スレーブのEMGを取得し、算出したFES生成信号をマスタの電極11に出力するようにしても良い。
このバイラテラル制御方法は、筋電情報だけを用いて行うことができる。
【0027】
また、筋電情報を用いる遠隔制御と、「位置対称型」「力逆送型」「力帰還形」「力順送型」又は「4ch型」の遠隔制御とを組み合わせることもできる。
図14のフロー図は、組み合わせたバイラテラル制御の手順を示している。
制御部40(50)のFES生成信号算出部42は、サンプリングタイムに(ステップ61)、マスタの検出データからEMGを取得し(ステップ62)、FESデータベース41に保持された
図15のモデルを参照して、EMGに対応する筋出力を算出し(ステップ63)、算出した筋出力を実現するFES生成信号を算出する(ステップ64)。このFES生成信号は、スレーブの電極21に出力される(ステップ65)。
【0028】
その後、「位置対称型」の遠隔制御に切り替えて、
図4のステップ2〜ステップ5の手順を行い、または、「力逆送型」の遠隔制御に切り替えて、
図6のステップ12〜ステップ15の手順を行い、または、「力帰還形」の遠隔制御に切り替えて、
図8のステップ22〜ステップ26の手順を行い、または、「力順送型」の遠隔制御に切り替えて、
図10のステップ32〜ステップ35の手順を行い、または、「4ch型」の遠隔制御に切り替えて、
図12のステップ42〜ステップ46の手順を行う(ステップ66)。
筋電情報は、身体運動が開始する100ms程前に発生すると言われているので、このように、筋電情報を用いる遠隔制御を先行させることで、離れたヒト同士の動作を同期させる際の遅延を減らすことができる。
なお、筋電情報と筋出力との関係は、ニューラルネットワークを用いて構築しても良い。
【0029】
本発明の双方向遠隔制御システムでは、こうしたバイラテラル制御を行うことにより、互いに離れているヒトの一方で行われた身体動作と同一の身体動作を他方のヒトに行わせることができ、また、その逆に、他方のヒトで行われた身体動作と同一の身体動作を一方のヒトに行わせることができる。
【0030】
図16は、この双方向遠隔制御システムの実証実験の模様を示している。手前側の人物がマスタ(操作者)であり、奥の人物がスレーブである。マスタ及びスレーブの二の腕には電極が貼り付けられており、また、マスタ及びスレーブの腕には、肘関節の屈曲角を検出するセンサが装着されている。ここでは、一台のPCを、マスタ及びスレーブのバイラテラル制御を行う制御部として用いている。
スレーブはマスタ側を見ていない。この状態でマスタ側が自由に肘関節を折り曲げると、スレーブの肘は、マスタの肘と同じ角度で折れ曲がり、マスタとスレーブとの同期した身体動作が観測できた。
【0031】
この双方向遠隔制御システムでは、二人の身体運動を同期させることができるので、熟練者の身体の動きに初学者の身体の動きを合せることで、熟練者の技能を初学者に伝えることができる。
また、離れたヒトの間で力覚を伝え合うことで、触覚通信が実現できる。また、臨場感も共有できる。触覚や臨場感が共有できれば、熟練者は、遠隔地に赴かなくても、現地のヒトを通じて高度の技能を発揮できる。例えば、無医村での遠隔医療や遠隔手術、あるいは、遠隔地からの機器の点検や修理なども可能になる。
また、触覚通信は、ネットショッピングの商品に直接触れたときの感触を伝える手段としても応用できる。
また、本発明の双方向遠隔制御システムには、複数のヒトが同時に参加することができ、複数のヒトが臨場感を共有したり、商品に触れた感触を複数のヒトに伝えたりすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の双方向遠隔制御システムは、ヒト同士が遠隔制御を通じて臨場感を共有したり、触覚を伝え合ったりすることが可能であり、教育、文化、医療、サービス、商業、通信等の多岐に亘る分野で広く利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 腕
11 電極
12 検出センサ
20 腕
21 電極
22 検出センサ
40 制御部
41 FESデータベース
42 FES生成信号算出部
43 マスタ身体位置/力覚/筋電情報入力部
44 FES生成信号出力部
45 スレーブ身体位置/力覚/筋電情報受信部
46 マスタ身体位置/力覚/筋電情報送信部
50 制御部