特許第6408439号(P6408439)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408439
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】消臭性樹脂容器
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/00 20060101AFI20181004BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20181004BHJP
   B65D 81/26 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   A61L9/00 C
   A61L9/01 B
   B65D81/26 L
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-155212(P2015-155212)
(22)【出願日】2015年8月5日
(65)【公開番号】特開2017-29578(P2017-29578A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198477
【氏名又は名称】石塚硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 尊嗣
(72)【発明者】
【氏名】石川 綾子
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勇治
(72)【発明者】
【氏名】小田 達明
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−005194(JP,A)
【文献】 特開平03−081375(JP,A)
【文献】 特開2011−104274(JP,A)
【文献】 特開2004−008518(JP,A)
【文献】 特開昭52−093687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00− 9/22
B01D 53/34− 53/96
B01J 21/00− 38/74
B65D 67/00− 79/02
B65D 81/18− 81/30
B65D 81/38− 81/38
B65D 85/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス質消臭剤を含有または保持させた樹脂により構成された消臭性樹脂容器であって、
このガラス質消臭剤は銅成分を含有し、Alの含有率を0〜5.5モル%としたアルカリ−アルカリ土類−ホウケイ酸ガラスまたは銅成分を含有し、Alの含有率を0〜5.5モル%としたアルカリ−アルカリ土類−ケイ酸塩ガラスからなり、
銅成分をガラス中に保持させたまま、ガラス中に保持された銅成分の触媒作用により、容器内の空気中の悪臭成分を分解する機能を有することを特徴とする消臭性樹脂容器。
【請求項2】
ガラス質消臭剤の含有率を0.1〜15質量%としたことを特徴とする請求項1記載の消臭性樹脂容器。
【請求項3】
ガラス質消臭剤が、D96=40μm以下の粉体であることを特徴とする請求項1または2記載の消臭性樹脂容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス質消臭剤を含有または保持させた樹脂により構成された消臭性樹脂容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂容器は各種の食品容器、飲料容器等として広く用いられているほか、ごみ容器、おむつ容器、簡易トイレ等としても広く用いられている。内容物が臭気を発生するものである場合には、樹脂容器自体に消臭効果を付与することが考えられ、例えば特許文献1、特許文献2等にその例が示されている。
【0003】
特許文献1では、消臭剤としてハイドロタルサイト及びシリカ系消臭剤が使用されており、特許文献2では無機多孔質粒子に機能剤を担持させたものが使用されている。しかしこのような悪臭成分を物理吸着あるいは化学吸着して消臭効果を発揮する吸着剤の消臭効果は、吸着剤の表面露出量に依存する。このため、消臭効果の持続性は消臭剤の露出量に依存することとなり、露出量によって消臭限界が決定される。従って、消臭効果の持続性に乏しいという問題がある。
【0004】
また、本出願人は銀を含有するリン酸ガラスからなる水溶性のガラス質消臭剤(特許文献3)を先に開発している。このガラス質消臭剤は水分と接触すると徐々に銀イオンを放出するため、比較的長期間にわたり消臭効果を発揮できる利点がある。
【0005】
しかし、一般にこのガラス質消臭剤は粒径がD96=40μm以下の微細な粉体であるから、銀の総含有量も小さく、しかもその効果はやはり表面露出量に依存する。このため、特許文献3のガラス質消臭剤も、銀イオンの放出が進行すると次第に消臭効果が低下することが避けられない。また、銀イオンは抗菌効果があるために菌が生成する悪臭を防ぐ効果があるが、低級脂肪酸や体臭成分等の悪臭物質に対する消臭効果はなく、これらの臭気が問題となる場合には適さないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−67705号公報
【特許文献2】特開2001−192563号公報
【特許文献3】特開平5−202227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、消臭効果の持続性に優れ、硫化水素、メチルメルカプタン等の硫黄系悪臭物質のみならず、低級脂肪酸や体臭成分等の悪臭物質をも消臭する機能を備えた消臭性樹脂容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、ガラス質消臭剤を含有または保持させた樹脂により構成された消臭性樹脂容器であって、このガラス質消臭剤は銅成分を含有し、Alの含有率を0〜5.5モル%としたアルカリ−アルカリ土類−ホウケイ酸ガラスまたは銅成分を含有し、Alの含有率を0〜5.5モル%としたアルカリ−アルカリ土類−ケイ酸塩ガラスからなり、銅成分をガラス中に保持させたまま、ガラス中に保持された銅成分の触媒作用により、容器内の空気中の悪臭成分を分解する機能を有することを特徴とするものである。
【0009】
なお請求項2のように、ガラス質消臭剤の含有率を0.1〜15質量%とすることが好ましく、また請求項3のように、ガラス質消臭剤が、D96=40μm以下の粉体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の消臭性樹脂容器は、銅成分を含有し、Alの含有率を0〜5.5モル%としたアルカリ−アルカリ土類−ホウケイ酸ガラスまたは銅成分を含有し、Alの含有率を0〜5.5モル%としたアルカリ−アルカリ土類−ケイ酸塩ガラスからなるガラス質消臭剤を含有または保持させた樹脂により構成されたものであり、銅成分をガラス中に保持させたまま、ガラス中に保持された銅成分の触媒作用により、容器内の空気中の悪臭成分を分解することができる。具体的には、食品包装用容器として用いれば内部の臭気を軽減することができ、また樹脂容器のまま冷蔵庫に収納した場合には、冷蔵庫の内部の臭気をなくすことできる。さらに、トイレ用消臭容器として用いれば、内容物である消臭液体や消臭ゲルだけではなく、容器にも消臭効果を発揮させることできる。本発明の消臭性樹脂容器は消臭効果の持続性が高いので、中身は詰め替えが必要であるが、容器はそのまま使用しても消臭効果が継続する利点がある。本発明の消臭性樹脂容器は、後記するその他の用途にも広く適用可能である。
【0011】
特許文献3に示すように、溶解性ガラスを用い、銀イオンと悪臭成分との化学反応を利用して消臭する消臭剤は開発されていたのに対し、従来、「触媒作用による消臭効果を示すガラス剤」は知られていなかった。本発明者らは、長年による研究の結果、上記組成のガラス中に含有させた銅成分が触媒として機能して、硫黄系悪臭物質の分解反応を促進し、硫黄系悪臭物質の消臭効果を奏するという新たな知見を見出した。
【0012】
本発明では、このように、ガラス中に含まれる銅成分を触媒として硫黄系悪臭物質の分解反応を促進するメカニズムを有するものであるため、化学吸着、物理吸着を利用した従来技術に比べて、消臭容量を増大させることができ、消臭効果を長期間に亘って安定して発揮することができる。すなわち、従来の化学吸着、物理吸着は何れも吸着剤の表面露出量に依存し、露出量によって消臭限界が決定されるのであるが、本発明では触媒反応を利用するため、露出量が少量であっても大きい消臭総量を得ることができる。このため消臭量のみに着目すればガラス質消臭剤の量は少量添加でもよいが、消臭スピードを加えるためには0.1〜15質量%とすることが好ましい。
【0013】
本発明で用いたガラス質消臭剤は、特にメチルメルカプタンに対し、優れたな消臭効果を発揮することができる。すなわちこのガラス質消臭剤は、メチルメルカプタンを触媒的に酸化分解し、二量体のジメチルジスルフィドを生成する。このときラジカルが発生し、酸化分解される。同様に、他のガスに対しても同様の酸化分解が可能である。なお、この点については後記する実施例においても言及する。しかし、消臭可能な悪臭は硫黄系悪臭物質に限られるものではない。具体的には、低級脂肪酸や、体臭(汗、足臭)として知られる酢酸、イソ吉草酸を始め、悪臭防止法で定められるプロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸や、中鎖脂肪酸のカプロン酸、エナント酸や、加齢臭として知られるトランス−2−ノネナールも消臭可能である。一般的に、炭素数2〜4個のものを短鎖脂肪酸(低級脂肪酸)というが、本明細書においては炭素数1個の酢酸、5個の吉草酸も低級脂肪酸として取り扱う。
【0014】
なお、食品が傷んだ際の臭い成分や、タマネギ、チーズ、キャベツ等の臭い成分は、硫化水素、メチルメルカプタン、低級脂肪酸が主であり、本発明の樹脂容器は、これら特定食品向けの樹脂容器として適している。また、体臭成分としては、例えば、酢酸やイソ吉草酸、トランス−2−ノネナールが知られているが、本発明はこれらの臭気を分解できるので、おむつ用容器として適している。本発明はこれらの臭気を分解できるので、おむつ用容器、ペット用トイレや非常用簡易トイレ等として適している。またオムツ用容器のみならず、冷蔵庫や冷蔵庫内の容器類、空気清浄器などの家電製品、ゴミ箱、三角コーナー、生ごみ処理器などの生活用品にも広く適用することができる。
【0015】
特にゴミ袋に関して、最近ではゴミの分別化が進んだことから、自治体等のゴミ焼却施設でゴミが燃えにくいという事例がある。本発明のガラス質消臭剤は、後記する実施例Cに示すように、ラジカルによる酸化分解を促進することから、消臭効果のみならず、燃焼促進触媒としての機能も有している。つまり、ゴミ袋のみならず可燃ゴミに分類される樹脂組成物への利用に適している。ガラス質消臭剤の基本特性は、樹脂に練りこんでも、当然保持される。
【0016】
このほか、医薬品や電子部品・精密機器の技術分野でも悪臭成分の除去が求められることがある。すなわち、製造工程で使用される薬剤や医薬品自体からのアウトガスで硫化水素や酢酸が発生することがあり、これらは悪臭であるのみならず、金属腐食、製品劣化につながる腐食ガスでもある。本発明の消臭機能を持つ容器を用いることにより、製品寿命の延長や製品品質の安定化に寄与することができる。さらに、医薬品に臭気のある硫黄化合物を用いているものがあり、医薬品用容器としても適している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態の消臭性樹脂容器を示す模式的な断面図である。
図2】第2の実施形態の消臭性樹脂容器を示す模式的な断面図である。
図3】実施例Bの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1に示されるように、第1の実施形態の消臭性樹脂容器は、ガラス質消臭剤1を含有させた樹脂により成形された食品用の広口壜2である。ガラス質消臭剤1は、銅成分を含有するアルカリ−アルカリ土類−ホウケイ酸ガラスまたは銅成分を含有するアルカリ−アルカリ土類−ケイ酸塩ガラスからなる。キャップは図示されていないが、キャップにもガラス質消臭剤1を含有させることができる。
【0019】
ガラス質消臭剤1の含有率は、樹脂容器の質量の0.1〜15%程度が好ましい。ガラス質消臭剤1が少なすぎると消臭効果が不十分となる。より好ましい含有率は0.1〜10質量%である。本発明において、ガラス質消臭剤1は触媒効果によって消臭機能を発揮するため、消臭量がガラス質消臭剤1の露出量に依存しない。このため長期的には、少量が表面に露出していればよい。
【0020】
ガラス質消臭剤1の粒径は、D96=40μm以下であることが望ましい。ここでD96は粒度分布測定を行い、累積分布させたときの積分値が96%に当たる粒径を意味する。D96が40μmを超えると樹脂中への均一分散が困難化するとともに、樹脂本来の機械的強度や成形性等が損なわれるおそれがある。なお、粒径が1μm未満になるとガラスの粉砕や分級の効率が極端に低下するので、製造上好ましくない。1〜40μm程度の粒径が実用的である。このようなガラス質消臭剤1は、調合原料を溶融したうえ急冷してプレ成形体を得た後、粉砕を行なう方法で製造することができる。粉砕には一般的に知られる粉砕機(例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、CFミル等)を用いることができ、乾式でも湿式でも構わない。
次に、ガラス質消臭剤1の組成について説明する。
【0021】
(アルカリ−アルカリ土類−ホウケイ酸ガラス)
上記した銅成分を含有するアルカリ−アルカリ土類−ホウケイ酸ガラスは、SiO:46〜70モル%、B+RO(R:アルカリ金属):15〜50モル%、R´O(R´:アルカリ土類金属):0〜10モル%、Al:0〜5.5モル%、CuO:0.01〜23モル%含有するガラスである。ここで、B:5〜20モル%、RO:10〜30モル%とすることができる。
【0022】
このガラス質消臭剤1の好ましい組成は、SiO:51〜63モル%、B+RO:21〜39モル%、R´O:2〜7モル%、Al:0〜5.5%、CuO:1〜13モル%である。ここで、B:8〜17モル%、RO:13〜22モル%とすることができる。またこのガラス質消臭剤1の最も好ましい組成は、SiO:53〜62モル%、B:10〜17モル%、RO:13〜19モル%、R´O:3〜6モル%、Al:0〜4.5%、CuO:4〜13モル%である。以下に、各ガラス組成について詳細に説明する。
【0023】
(SiO
SiOは、ガラスの構造骨格を形成する主成分であり、その含有量は46〜70モル%、好ましくは、51〜63モル%、更に好ましくは53〜62モル%とする。46モル%未満の場合、ガラスの化学的耐久性が不十分となり、またガラスが失透しやすくなり好ましくない。更に、46モル%未満の場合、ガラスの耐水性が不十分となり、水分存在下(大気中の水分を含む)で銅イオンが溶出しやすくなる結果、触媒作用による消臭効果よりも、イオン溶出によって起こる硫化反応による消臭効果が強くなるため好ましくない。70モル%を超える場合、融点が上昇することにより、ガラスの溶融性が困難となる他、粘度上昇も起こるため好ましくない。
【0024】
(B
は、ガラスの溶解性、清澄性を向上させる成分であり、特定の組成においてはガラスの構造骨格を形成する成分ともなる。Bは、その含有量によって、ガラスの安定性を大きく左右するものであり、本願発明ではガラスの融剤としての意味合いが大きい。その含有量は、Bの揮発量を勘案して、5〜20モル%、好ましくは8〜17モル%、さらに好ましくは10〜17モル%とする。20モル%を超える場合、Bは溶融過程において揮発しやすく、組成制御が困難となるため好ましくない。
【0025】
(RO)
O(R=Li、Na、K)は、ガラスの構造骨格におけるSiとOの結合を切断して非架橋酸素を形成し、その結果、ガラスの粘性を低下させ、成形性や溶解性を向上させる成分であり、B同様の融剤である。その含有量は、ROの一種もしくは二種以上を、多成分との含有比も考慮しつつ、合計10〜30モル%、好ましくは13〜22モル%、更に好ましくは13〜19モル%とする。30モル%を超える場合、ガラスの化学的耐久性が不十分となる。具体的には、ガラス剤と大気中の水分が反応してブルームと称される白化現象が引き起こされる。ブルームが発生することにより、悪臭ガスとの接触面積が減少するため望ましくない。
【0026】
(B+RO)
前記のように、BとROは、共に、融剤として使用される。BとROの合計含有量が、15〜50モル%、好ましくは21〜39モル%の範囲が、安全に消臭効果を示す領域となる。15モル%未満の場合、ガラスの溶融性が不十分となり、成形の際に失透が発生しやすくなるため好ましくない。50モル%を超えると、ガラスの耐水性が不十分となり、水分存在下(大気中の水分を含む)で銅イオンが溶出しやすくなる結果、触媒作用による消臭効果よりも、イオン溶出によって起こる硫化反応による消臭効果が強くなるため好ましくない。また、50モル%を超えると、溶融の際に分相を起こしやすく、それに伴いガラス剤の消臭効果が不十分となるため好ましくない。
【0027】
(R´O)
R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)は、ガラスの化学的耐久性を向上させる成分である。その含有量は、R´O(R´=Mg、Ca、Sr、Ba)の一種もしくは二種以上を、合計0〜10モル%、好ましくは2〜7モル%、更に好ましくは3〜6モル%とする。10モル%を超えると溶融時の粘性が高くなるとともに、ガラスが失透しやすくなるため好ましくない。なおR´Oは発明の消臭剤において必須成分ではなく、その含有量は0モル%でもよいが、2モル%以上とすることが好ましい。
【0028】
(Al
Alは、ガラスの化学的耐久性を向上させ、結晶構造安定性に影響を与える成分である。また、Alは、ガラスの分相を抑制しガラス剤の均質性を高める働きをする。粘性を上げること、添加によってガラス中の銅イオンの酸化還元状態に影響を与える可能性があることから、その含有量は5.5モル%以下、最も好ましくは4.5モル%以下とする。
【0029】
(CuO)
CuOは、触媒として機能して、硫黄系悪臭物質の分解反応を促進し、硫黄系悪臭物質の消臭効果を奏するものである。その含有量は、0.01〜23モル%、好ましくは1〜13モル%、さらに好ましくは4〜13モル%とする。23モル%を超えると未溶解物が残留しやすくなる他、急冷の際や加工時に金属銅が析出しやすくなるため好ましくない。金属銅の析出に伴いガラスに変色を生じるため、ガラスの変色が問題となる用途には適さない。また、金属銅として析出した場合、被毒が進行してしまう。これに対し、CuOをガラス成分として含ませれば被毒が進行し難く、触媒機能を長期間に亘って安定して発揮することができる。
【0030】
(その他の微量成分)
上記成分以外にも、微量成分として、ZnO、SrO、BaO、TiO、ZrO、Nb、P、CsO、RbO、TeO、BeO、GeO、Bi、La、Y、WO、MoO、またはFe等も含めることができる。さらに、F、Cl、SO、Sb、SnO、あるいはCe等を清澄剤として添加してもよい。
【0031】
(アルカリ−アルカリ土類−ケイ酸塩ガラス)
また本発明ではガラス質消臭剤1として、銅成分を含有するアルカリ−アルカリ土類−ケイ酸塩ガラスを用いることもできる。このガラスは、SiO:50〜70モル%、RO:10〜33モル%、R´O:0〜15モル%、Al:0〜5.5%、CuO:0.01〜23モル%含有するガラスである。
【0032】
このガラス質消臭剤1の好ましい組成は、SiO:55〜70モル%、RO:12〜24モル%、R´O:2〜10モル%、Al:0〜5.5%、CuO:1〜20モル%である。またこのガラス質消臭剤1の最も好ましい組成は、SiO:55〜65モル%、RO:12〜20モル%、R´O:3〜7モル%、Al:0〜5%、CuO:4〜13モル%である。
【0033】
アルカリ−アルカリ土類−ケイ酸塩ガラスは、上記したアルカリ−アルカリ土類−ホウケイ酸ガラスとは異なりBを含有しないため組成の数値範囲が多少変化しているが、数値限定の理由はアルカリ−アルカリ土類−ホウケイ酸ガラスと同様である。
【0034】
上記した銅成分を含有するアルカリ−アルカリ土類−ホウケイ酸ガラスまたは銅成分を含有するアルカリ−アルカリ土類−ケイ酸塩ガラスからなるガラス質消臭剤1は、樹脂容器を構成する樹脂中に含有され、消臭効果を発揮する。前記したようにこのガラス質消臭剤1はガラス中に保持された銅成分の触媒作用により、悪臭成分を分解する機能を有するものである。溶解性ガラスとは異なり、銅成分はガラス中に保持されたままで触媒作用により悪臭成分を分解するため、長期間にわたり消臭効果が維持され、持続性に優れる。また、溶解性ガラスは酸性ガラスであるため酸性悪臭である低級脂肪酸に対する消臭効果はないが、本発明におけるガラス質消臭剤1は、低級脂肪酸や体臭成分等の悪臭物質に対する消臭効果を持つ。
【0035】
なお、樹脂容器を構成する樹脂の種類は特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アルキド樹脂、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルナイロン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリメチルペンテン、ポリメタクリロ酸メチル、ポリビニルブチラール、アイオノマー、ポリウレタン及びセルロール誘導体等の合成樹脂などを用いることができる。またこれらの各種樹脂の一種もしくは二種以上を混練、複層してもよい。このような樹脂で容器の一部を構成してもよく、結晶化する場合も消臭効果には問題ない。
【0036】
上記したほか、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)といった汎用エンプラを始め、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES),ポリアリレート(PAR)、耐熱ポリアミド(ナイロン6T、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン9T、ナイロン46T)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、熱硬化系樹脂などの耐熱性の樹脂も用いることができる。これらの各種樹脂についても、一種もしくは二種以上を混練、複層してもよい。このような樹脂で容器の一部を構成してもよく、結晶化する場合も消臭効果には問題ない。
【0037】
なお、上記した実施形態ではガラス質消臭剤1を単独で使用したが、汎用のシリカゲル、ゼオライト、活性炭、粘土鉱物、光触媒(二酸化チタン)等の無機系消臭剤と複合使用することもできる。また特許文献1に記載の銀を含有するリン酸ガラスとともに使用することもできる。このような複合使用により、消臭速度のスピードアップや消臭対象ガス拡大、コストダウン等の効果を狙うことが可能となる。
【0038】
図2は本発明の第2の実施形態である、簡易トイレ用の樹脂容器3を示す斜視図である。この簡易トイレ用の樹脂容器3もガラス質消臭剤1を含有したものである。4は便座、5は樹脂製の袋である。トイレ臭の主成分であるメチルメルカプタン及びアンモニアは、樹脂容器3に含有されるガラス質消臭剤1により消臭される。なお、本発明はペット用のトイレ容器にも用いるに適している。
【0039】
何れの実施形態においても、ガラス質消臭剤1を樹脂中に含有させた。樹脂中への混合は、ガラス質消臭剤1をマスターバッチとして樹脂中に添加する方法や、ガラス質消臭剤1の粉末を直接樹脂中に混合する方法を採用することができる。しかしガラス質消臭剤1を樹脂容器の表面に保持させることもできる。この場合には、ガラス質消臭剤1を樹脂容器の表面にスプレーや印刷によって保持させることができる。しかし容器の耐久性を考慮すると、樹脂中に練り込むことが好ましい。
【0040】
以下に本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0041】
表1に示す組成となるようにガラス原料を調合し、びんガラスなどの汎用ガラス組成同様の常法により溶融、成形、必要に応じて粉砕してガラス質消臭剤を製造した。得られたガラス質消臭剤を表2に示すように樹脂容器(図1状容器、500mL)に保持させ、消臭性樹脂容器を成形した。この消臭性樹脂容器を用いて消臭効果の確認試験を行った。試験は樹脂容器に悪臭成分を封入し、室温で経過時間に伴う樹脂容器内の悪臭濃度を測定した。悪臭成分としては、硫化水素、メチルメルカプタン、低級脂肪酸、トランス−2−ノネナールを使用した。なお比較のために、表3に示す組成の溶解性ガラス1〜4をPEに1質量%添加し、同形状の樹脂容器を製造した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
(実施例A:消臭効果の確認)
表2の実験例1〜29の樹脂容器、溶解性ガラス1〜4の樹脂容器に悪臭成分を封入し、室温で、経過時間に伴う容器内の悪臭濃度を測定した。硫化水素、酢酸、プロピオン酸、イソ吉草酸はガス検知管で、メチルメルカプタンはガスクロマトグラフで、トランス−2−ノネナールは高速液体クロマトグラフで測定した。その結果を表4〜5に示す。なお、銅成分を含まないブランクは、実験例7に該当する。その結果、表4の通り、実験例7を除いて全て消臭効果が確認された。また、表5の通り、溶解性ガラスは消臭限界に達したのに対し、銅成分を含ませたものは消臭総量が大きいことが確認された。溶解性ガラスは、露出量に応じて消臭量が決定するのに対し、実験例は触媒作用を示すため、少量でも消臭総量が期待できる。しかし、ガラスは組成によって連続的に変化し、その効果も触媒反応から溶解性ガラスの吸着反応まで連続的に変化する。実験例9は耐久性が低下した組成のため、溶解性ガラス同様に吸着反応を示し、消臭限界に達したことが確認された。
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
(実施例B:ガラス質消臭剤の基本特性・分解作用)
50=4.2μmまで粉砕した表1の組成番号6からなるガラス1gとメチルメルカプタンを5Lのテドラーバッグに封入し、室温で、経過時間に伴う袋内のメチルメルカプタン、ジメチルジスルフィドをガスクロマトグラフで測定した。またブランクとして、ガラス質消臭剤なしで同様の操作を行った。なお、事前にガスクロマトグラフ質量分析計にて、袋内に存在するガス成分がこの二成分のみであることを確認していた。その結果、図3に示すように、本発明のガラス質消臭剤がメチルメルカプタンを分解し、ジメチルジスルフィドを生成する作用を示すことを確認した。ガラス質消臭剤の基本特性は、樹脂に練りこんでも、当然保持される。また、実施例Aのとき、ガラス質消臭剤が露出していることを確認している。
【0049】
(実施例C:ガラス質消臭剤の基本特性・ラジカル発生)
50=5.0μmまで粉砕した表1の組成番号6、9、表3の溶解性ガラス1からなるガラス200mgに対し、pH=7.4の0.1mоl・L−1のリン酸緩衝溶液200μLを添加した。そこに9.2mоl・L−1のDMPO(LABOTEC.製、LM−2110)10μLを添加し、シェイクした。DMPO添加時点から10秒後、1分後、5分後にシェイクをやめ、溶液のみをヘマトクリット管で採取し、ESR(日本電子株式会社製、FR−30、Xバンド)測定を実施した。また、ガラスを除いたものをブランクとした。全て、室温、蛍光灯下で実施した。当手法は、ラジカル測定の一般的手法であるスピントラップ法に該当し、DMPOがラジカルを補足するとスピンアダクトが生成する。この生成物(DMPO−OH)をESRで検出した。なお、検出値の単位は、基準物質Mn2+に対するピーク面積値比率(エリアシングル/エリアマンガン、S/M)である。その結果を表6に示す。組成番号6のガラスはDMPO−OHの生成が確認されたのに対し、組成番号9、溶解性ガラス1はブランクと同様にバックグラウンドの値を示しただけであった。本発明のガラス質消臭剤がラジカルを発生する可能性が高いことが確認された。
【0050】
【表6】
【0051】
(実施例D:ガラス質消臭剤の基本特性・触媒劣化の抑制)
50=4.2μmまで粉砕した表2の組成番号6からなるガラス0.1gとCuO試薬(平均粒径4μm)0.1gのそれぞれを1Lのテドラーバッグに封入し、室温で、経過時間に伴う袋内のメチルメルカプタン濃度をガスクロマトグラフで測定した。メチルメルカプタンの初期濃度は55ppmとし、繰返し10回まで実施した。また、ブランクとしてガラスなしで同様の操作を行った。その結果、表7に示すように、CuO試薬は、繰返しに伴い消臭効果が低減している。これは、一般的に知られるCuOの触媒劣化(硫黄吸着)である。それに対し、ガラスは消臭効果を維持しており、持続性が高いことが確認された。このメカニズム解明は課題が残るが、ガラス化することで触媒劣化が抑制されることが確認された。このときのガラス表面をXPS(アルバックファイ(株)製、PHI 5000 VersaProbe)で解析したところ、表8に示すように、確かに消臭後に硫黄の吸着がないことが確認された。ガラス質消臭剤の基本特性は、フィルム等に練りこんでも、当然保持される。
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【符号の説明】
【0054】
1 ガラス質消臭剤
2 広口壜
3 簡易トイレ用の樹脂容器
4 便座
5 樹脂製の袋
図1
図2
図3