【文献】
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【文献】
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【文献】
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【文献】
Mol. Immunol.,1995年,Vol. 32, No. 13,pp. 931-940
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
30EGln、52Ser、53Thr、54Arg、65Ser、および67Serからなる群より選択される、前記軽鎖のアミノ酸位置に、前記遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位が配置されている、請求項1に記載の抗体。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、可変領域中のグリカン修飾により、モノクローナル抗体の機能が向上し得ることを初めて実証した。特に、本発明において、抗CD4モノクローナル抗体の軽鎖の可変領域上にグリカンを接合させることにより、該抗体とHIVとの間のグリカン介在性相互作用が回復し得、それによって、グリカン修飾を有する該抗体は、(グリカン修飾のない)親抗体の活性から通常逃れるウイルス分離株の感染を強力に抑制し得ることが発見された。
【0021】
したがって、本発明は、グリカン修飾された抗CD4モノクローナル抗体、そのような抗体の産生に有用な発現ベクターおよび細胞株などの構成成分、ならびにHIVの防止および療法のためのそのような抗体の使用を提供する。
【0022】
定義
「抗原」とは、1種または複数種のエピトープを含有し、かつ免疫応答を惹起し得る分子を指す。「抗原分子」もまた、本明細書において開示されるグリカン修飾されたタンパク質の結合標的である分子を指すように、一般的な意味で用いられる。
【0023】
抗原決定基としても公知である「エピトープ」とは、免疫系、すなわちB細胞、T細胞、または抗体によって認識される1つまたは複数の抗原分子の一部である。エピトープは、立体構造的エピトープまたは直線状エピトープであり得る。立体構造的エピトープは、抗原分子の断続的部分によって形成されるか、または複数の分子によって形成される。抗原がタンパク質である場合、立体構造的エピトープは、同じタンパク質分子の断続的アミノ酸残基によって形成され得るか、または該タンパク質の異なる分子上のアミノ酸残基によって形成され得る(例えば、タンパク質の多量体によって形成される四次エピトープ)。直線状エピトープは、抗原の連続的部分、例えばタンパク質抗原のアミノ酸の連続的配列によって形成される。
【0024】
「抗体」という用語は、本明細書において広く用いられ、無傷のポリクローナル、モノクローナル、単一特異性、多特異性、キメラ、ヒト化、ヒト、霊長類化、一本鎖、単一ドメイン、合成による、および組換えによる抗体を含む、無傷の抗体分子、ならびに所望の活性または機能を有する抗体断片を包含する。
【0025】
本明細書において用いられる「抗体断片」という用語は、特に、無傷抗体の抗原結合断片を含む。抗原結合断片の例には、Fab断片(VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる)、Fab'断片(抗体ヒンジ領域由来の1個または複数個のシステインを含む、CH1ドメインのC末端におけるさらなるいくつかの残基を有することによってFab断片とは異なる)、(Fab')
2断片(ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋によって連結された2つのFab'断片によって形成される)、Fd断片(VHおよびCH1ドメインからなる)、Fv断片(完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含有する、強固な非共有結合で結び付いた1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体を指す)、dAb断片(VHドメインからなる)、単一ドメイン断片(VHドメイン、VLドメイン、VHHドメイン、またはVNARドメイン)、単離CDR領域、scFv(または「一本鎖Fv」、リンカーを介して一緒に連結された、VLおよびVHドメインの融合体を指す)、および抗原結合機能を保持する他の抗体断片が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0026】
「可変領域」という用語は、異なる抗体分子間で大きく変動する、抗体の抗原結合領域を指す。同じように変動せずかつ免疫系のエフェクター機能に一般的に関わる抗体の領域は、「定常領域」と称される。免疫グロブリン鎖(成熟形態)の最初のおよそ110個のアミノ酸がその可変ドメインを構成する。重鎖(VH)の2つの可変ドメインおよび軽鎖(VL)の2つの可変ドメインが、抗体の可変領域を形成する。重鎖の6つの定常ドメイン(CH
1、CH
2、およびCH
3)、および軽鎖の2つの定常ドメイン(CL)が、抗体の定常領域を形成する。
【0027】
「CDR」または「相補性決定領域」という用語は、抗体の可変ドメイン内の超可変領域を指す。重鎖および軽鎖の可変ドメインのそれぞれに3つのCDRがあり、抗原結合に関与するアミノ酸残基から構成される。「フレームワーク領域」または「FR」という用語は、可変ドメインのより保存された部分を指し、超可変領域残基以外の残基から構成される。
【0028】
抗体の「抗原結合部位」という用語は、抗原が結合する抗体のアミノ酸によって形成される立体構造および/または立体配置を意味する。例えば、VHおよびVLドメインのそれぞれの3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を画定する。まとめると、6つのCDRが、抗体に対する抗原結合特異性を付与する。しかしながら、6つすべてのCDRを有する結合部位全体よりはしばしば低い効率ではあるが、単一可変ドメイン(すなわち、VHまたはVL)も、抗原を認識しかつ該抗原を結合させ得ることに留意すべきである。
【0029】
「キメラ抗体」という用語は、異なる供給源、例えば異なる種または異なる抗体クラスもしくはサブクラス由来のポリペプチドを含有する抗体を指す。キメラ抗体の例には、ヒト免疫グロブリンのFc断片を融合させたマウスモノクローナル抗体の抗原結合部分が含まれる。キメラ抗体を作製するための方法は、当技術分野において公知であり、例えばBossらに対する米国特許第4,816,397号、およびCabillyらに対する米国特許第4,816,567号による特許において記載されている方法である。
【0030】
「ヒト化抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン骨格またはフレームワーク内に非ヒト配列エレメントを含有する抗体を指す。一般的に、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有する、マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種の超可変領域(ドナー抗体)由来の残基によって置き換えられている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基も、非ヒト残基によって置き換えられている。ヒト化抗体は、ある場合には、レシピエント抗体またはドナー抗体に見出されず、かつ抗体性能をさらに高めるために導入される残基も含有し得る。一般的に、超可変領域のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、かつフレームワーク領域のすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列のものである、実質的にすべてまたは少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメインをヒト化抗体は含有する。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも任意で含有する。ヒト化抗体を作製するための方法は、当技術分野において文書化されており、例えばWinterに対する米国特許第5,225,539号、およびBossらに対する米国特許第4,816,397号によるものを参照されたい。
【0031】
「非ヒト霊長類化抗体」という用語は、非ヒト霊長類免疫グロブリンの骨格内またはフレームワーク内にヒト配列エレメントまたは非霊長類配列エレメントを含有する抗体を指す。例えば、非ヒト霊長類化抗体は、レシピエント抗体の超可変領域(CDR)における残基を、所望の特異性、親和性、および能力を有する、ヒト由来の、またはマウス、ラット、もしくはウサギなどの非霊長類種由来のドナー抗体の超可変領域由来の残基で置き換えることによって、非ヒト霊長類免疫グロブリン(レシピエント抗体)から作製され得る。あるいは、非ヒト霊長類化抗体は、ヒトもしくは非霊長類の配列または異なる霊長類種由来の配列を有するレシピエント免疫グロブリンを用い、かつ所望の霊長類由来のFc断片、および/または特にフレームワーク領域残基を含む残基を、該レシピエント免疫グロブリン内に導入することによって、該所望の霊長類種への投与に適したものになり得る。非ヒト霊長類化抗体の例には、実施例の節で本明細書において開示される「サル化」抗体が含まれる。
【0032】
「単一特異性抗体」という用語は、1種のエピトープを認識しかつ該エピトープに結合する抗体を指す。
【0033】
「多特異性抗体」という用語は、少なくとも2種の別個の抗体から形成され、かつ複数の(すなわち、2種またはそれ以上の)別個のエピトープに結合する抗体を指す。
【0034】
「中和抗体」という用語は、HIV-1感染症を抑制するか、軽減させるか、または完全に予防する、抗体を指す。抗体が中和抗体であるかどうかは、本明細書における下記の実施例の節に記載されるインビトロアッセイ法によって判定され得る。
【0035】
「強力な中和抗体」という用語は、低濃度で用いられた場合に、HIV-1感染症を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、またはそれを上回って軽減させる抗体を指す。50μg/mlを下回る、1〜50μg/mlの、またはさらに1μg/mlを下回る濃度は、「低濃度」と見なされる。いくつかの態様において、低濃度は、10〜900ng/mlなどのピコモル範囲にある濃度であり、800、700、600、500、400、300、200、100、75、50、25、10ng/ml、またはさらに10ng/ml未満など、その範囲にある任意の濃度を含む。
【0036】
「広域中和抗体」という用語は、(100種超の)HIV-1エンベロープシュードタイプウイルスおよびウイルス分離株の大集団、例えば組織的配列、クレード、指向性、および感染のステージによってエンベロープ多様性を表す分離株の大集団の50%における、60%における、70%における、80%における、90%における、95%における、99%における、またはそれを上回るインビトロでの感染の50%抑制によって定義される、HIV-1感染を抑制する抗体を指す。
【0037】
本明細書において用いられる「断片」という用語は、生体分子の一次構造の物理的に連続した部分を指す。タンパク質の場合、断片は、タンパク質のアミノ酸配列の連続部分によって画定され得、少なくとも3〜5個のアミノ酸、少なくとも6〜10個のアミノ酸、少なくとも11〜15個のアミノ酸、少なくとも16〜24個のアミノ酸、少なくとも25〜30個のアミノ酸、少なくとも30〜45個のアミノ酸、およびタンパク質の全長−数個までのアミノ酸であり得る。ポリヌクレオチドの場合、断片は、ポリヌクレオチドの核酸配列の連続部分によって画定され、少なくとも9〜15個のヌクレオチド、少なくとも15〜30個のヌクレオチド、少なくとも31〜45個のヌクレオチド、少なくとも46〜74個のヌクレオチド、少なくとも75〜90個のヌクレオチド、および少なくとも90〜130個のヌクレオチドであり得る。いくつかの態様において、生体分子の断片は免疫原性断片である。
【0038】
「融合タンパク質」とは、1つまたは複数のリンカーを介して互いに接続された、異なる起源の2個またはそれ以上のペプチドを指す。例えば、融合タンパク質には、抗体にコンジュゲートしたタンパク質が含まれ得る。他の例には、異なる抗体にコンジュゲートした抗体、またはFab断片にコンジュゲートした抗体が含まれる。Fab断片は、抗体の重鎖もしくは軽鎖のN末端もしくはC末端、または抗体内の他の領域にコンジュゲートされ得る。
【0039】
「ペプチド」とは、アミド(ペプチド)結合によって2個またはそれ以上数のアミノ酸の連結によって形成される任意の化合物、通常、各アミノ酸残基のα-アミノ基(NH2末端を除く)が隣の残基のα-カルボキシル基に直鎖状に連結しているα-アミノ酸のポリマーである。ペプチド、ポリペプチド、およびポリ(アミノ酸)という用語は、そうでないと示されていない限り、サイズに関する制限なくこのクラスの化合物を指すために、本明細書において同義的に用いられる。大きいサイズを有するこのクラスのメンバーは、タンパク質とも呼ばれ、抗体を含む。
【0040】
グリカン修飾された抗CD4モノクローナル抗体
本明細書において開示されるこのグリカン修飾手法は、単一特異性、多特異性、キメラ、ヒト化、ヒト、非ヒト霊長類化、一本鎖、および/または単一ドメインの抗体であるモノクローナル抗体であり得る、抗CD4モノクローナル抗体に適用可能である。本手法は、抗CD4モノクローナル抗体の断片、とりわけ抗CD4モノクローナル抗体の抗原結合断片にも適用可能である。
【0041】
抗CD4抗体は当技術分野において記載されており、CD4受容体のタンパク質配列は当業者にとって入手可能であるため、容易に生成もされ得る。CD4は、細胞の細胞外表面上に配置されている4つの免疫グロブリンドメイン(D1〜D4)を有し、かつそのD1ドメインを用いて、MHCクラスII分子のβ
2-ドメインと相互作用する。いくつかの態様において、抗CD4抗体は、D1、D1-D2接合部、D2、D2のBCもしくはFGループ、またはそれらの任意の組み合わせのうちの1つまたは複数に結合する。具体的な態様において、本開示において用いられる抗CD4抗体は、CD4受容体の第2の免疫グロブリン様ドメイン(D2)(アミノ酸位置98〜180)に主に指向されている。CD4のD2ドメインに指向された抗体は、CD4と主要組織適合複合体(MHC)クラスII分子との相互作用によって媒介される免疫機能を妨げることなく、HIV感染を遮断するという望ましい特性を有する。他の態様において、本発明において用いられる抗CD4抗体は、CD4受容体のD1-D2接合部付近のD2のBCループ(アミノ酸121〜127)に配置されたエピトープに結合する。さらに他の態様において、抗CD4抗体は、D2のFGループ(アミノ酸163〜165)およびD1の一部(アミノ酸77〜96)に結合する。アミノ酸番号付けは、シグナルペプチドを含まない、CD4受容体の成熟形態の位置に対応する。ヒトCD4受容体のアミノ酸配列はSEQ ID NO: 1に示されており、アミノ酸1〜25はシグナルペプチドを表し、アミノ酸26〜122はD1を構成するし、かつアミノ酸123〜205はD2を構成する。
【0042】
具体的な態様において、抗CD4モノクローナル抗体は、ヒト化抗体のイバリズマブまたは「iMab」(以前はTNX-355、またはhu5A8として公知であった)である。イバリズマブは、CD4と主要組織適合複合体(MHC)クラスII分子との相互作用によって媒介される免疫機能を妨げることなく、広域スペクトルのHIV-1分離株による感染を強力に遮断し、かつCD4受容体のD1-D2接合部付近のD2のBCループに配置されたエピトープを標的とする。抗CD4抗体の一例は、参照により本明細書に完全に組み入れられる、米国特許第5,871,732号に提供されているものである。
【0043】
別の態様において、抗CD4抗体またはその断片は、向上した安定性を有する、イバリズマブの変異体である。一例は、鎖内ジスルフィド結合形成を阻止し、驚くほどに向上した二価安定性を有する抗体分子をもたらす、ヒンジ領域中の1個または複数個の置換を有する抗CD4抗体、例えば、参照により本明細書に組み入れられる、2007年4月27日に公開されたWO2008134046(A1)に提供されているものである。
【0044】
本発明の態様によれば、抗CD4抗体は、IgG 4またはIgG 1によって生成され得る。本発明の一例において、CD4に対する結合親和性を有する抗CD4 IgG 1抗体を調製し、MV1と命名した。MV1は、IgG 1定常領域の位置234におけるロイシンからフェニルアラニンへの変化、位置235におけるロイシンからグルタミン酸への変化、および位置331におけるプロリンからセリンへの変化を有する。MV1は、それぞれSEQ ID NO: 2および3に示される重鎖および軽鎖に対するアミノ酸配列を有する。
【0045】
本発明のいくつかの例において、抗CD4抗体は、抗CD4抗体のリサイクリングを向上させる、重鎖のFc領域中またはFcRn領域中に1つまたは複数の修飾を含み得る。特定の一例は、SEQ ID NO: 5に示される重鎖のアミノ酸配列を含む抗CD4抗体である。
【0046】
本明細書において開示されるグリカン修飾は、抗CD4抗体の可変領域内の遺伝子操作されたN結合型グリコシル化部位にグリカンを付加する工程を伴う。真核細胞において、グリカンは、それらがリボソームから現れる際に、新たに合成されたポリペプチドのコンセンサス配列Asn-X-Ser/Thr内のアスパラギン残基に結合されている。このN結合型グリコシル化過程は、ERおよびゴルジ装置で生じる、酵素により指揮される過程である。本発明の意図に関して、コンセンサス配列Asn-X-Ser/Thr内のAsn残基を「N結合型グリコシル化部位」と呼ぶ。当業者であれば、様々な分子クローニング技術を使用して、抗CD4モノクローナル抗体の可変領域内のN結合型グリコシル化部位を遺伝子操作し得、それには、N結合型グリコシル化コンセンサス配列Asn-X-Ser/Thrを獲得するための、アミノ酸の1個または複数個の挿入、欠失、および/または置換が含まれ得る。
【0047】
いくつかの態様において、N結合型グリコシル化部位は、抗CD4モノクローナル抗体の軽鎖(VL)のVドメイン内で遺伝子操作されている。N結合型グリコシル化部位に対する、抗体内の適切なまたはより望ましい位置の決定を容易にするために、関連抗体、CD4受容体、およびHIV gp120タンパク質についての3-Dモデリング解析を行うことが考慮され得る。例証されるように、本発明は、イバリズマブまたは他の抗CD4抗体に関して、CD4ドメイン1に結合しているHIV gp120タンパク質のV5ループに近接している位置にN結合型グリコシル化部位を導入し得ることを3-Dモデリング解析において実証している。
【0048】
いくつかの態様において、N結合型グリコシル化部位は、残基30E、52、53、54、60、65および67および76、ならびにそれらの組み合わせより選択される、イバリズマブの軽鎖またはその対応する位置のアミノ酸位置において遺伝子操作されている。特に、アミノ酸位置は、位置 30E Gln、52Ser、53Thr、54Arg、60Asp、65Ser、67Ser、および76Serからなる群より選択される。本発明に従って、これらの位置のそれぞれにおいて新たなN結合型グリコシル化部位を導入する、「30E Gln」、「52Ser」、「53Thr」、「54Arg」、「60Asp」、「65Ser」、「67Ser」、および「76Ser」によって表される配列に対して加えられるアミノ酸変化のそれぞれを、下記に示す:
30E Gln: 30E Gln、31Lys、32Asnから30E Asn、31Ala、32Thrへの変化、
52Ser: 52Ser、53Thr、54Argから52Asn、53Ser、54Thrへの変化、
53Thr: 53Thr、54Arg、55Gluから53Asn、54Ala、55Thrへの変化、
54Arg: 54Arg、55Glu、56Serから54Asn、55Ala、56Thrへの変化、
60Asp: 60Asp、61Arg、62Pheから60Asn、61Ala、62Thrへの変化、
65Ser: 65Ser、66Gly、67Serから65Asn、66Ala、67Thrへの変化、
67Ser: 67Ser、68Gly、69Thrから67Asn、68Ala、69Thrへの変化、
76Ser: 76Ser、77Ser、78Valから76Asn、77Ala、78Thrへの変化。
【0049】
本発明の例において、位置 30EGln、52Ser、53Thr、54Arg、65Ser、および67Serのいずれかまたは組み合わせにおけるN結合型グリコシル化のN結合型グリコシル化は、活性の向上を提供し得る。具体的な一例において、位置は位置 52Serである。これらの位置の番号付けは、イバリズマブの軽鎖の成熟形態(最初の16個のアミノ酸シグナル配列を欠く)またはその対応する位置に基づく。具体的な態様において、N結合型グリコシル化部位は、イバリズマブ軽鎖の30E Gln、52Ser、または53Thrのうちの1つで遺伝子操作されている。特定の例において、N結合型グリコシル化部位は、位置 52Serで遺伝子操作されている。
【0050】
本発明の特定の例において、安定性を向上させる修飾を有した、MV1と称される、イバリズマブの誘導体IgG1型を用いて、グリカン修飾された抗CD4抗体を生成した。MV1の重鎖および軽鎖は、それぞれSEQ ID NO: 2および3に示されるアミノ酸配列を有する。軽鎖は、位置 52に遺伝子操作されたN結合型糖鎖部位を有し、それはSEQ ID NO: 4に示されるアミノ酸配列を有する。MV1は、抗体のリサイクリングを向上させる、重鎖のFc領域中またはFcRn領域中のさらなる修飾を有し得る。本発明の特定の例は、向上した活性および安定性を有し、SEQ ID NO: 4に示される軽鎖のアミノ酸配列とSEQ ID NO: 5に示される重鎖のアミノ酸配列とを含む、グリカン修飾された抗CD4抗体を提供する。
【0051】
N結合型グリコシル化部位が、抗CD4モノクローナル抗体の可変領域内で遺伝子操作されると、そのような抗体のグリカン修飾形態は、適切な組換え発現システムを用いて容易に産生され得る。例えば、軽鎖の少なくとも可変ドメインがN結合型グリコシル化部位を含むように遺伝子操作されている、抗CD4抗体の軽鎖をコードする発現ベクターを、抗体分子の組換え発現に適しかつN結合型グリコシル化が可能な細胞株にトランスフェクトし得る。抗体を含有する培養上清を回収し得、かつ任意の適切なクロマトグラフィーに供して、実質的に精製された抗体調製物を獲得し得る。
【0052】
抗体分子の組換え発現に適した細胞株は、当業者にとって容易に入手可能であり、一般的にN結合型グリコシル化が可能である。真核生物において、N結合型グリコシル化過程は同時翻訳的に生じ、初期工程はER膜の内腔側で起こり、新生ポリペプチド鎖へのGlc
3Man
9GlcNAc
2オリゴ糖の転移を伴う。次いで、この前駆体構造は、一連のグリコシダーゼおよびグリコシルトランスフェラーゼによってさらに修飾される。グルコシダーゼIおよびIIによる3個のグルコース残基の除去後、特異的末端の1個のα-1,2-マンノースがマンノシダーゼIによって除去される。これらの反応は、ほとんどの下等および高等な真核生物の間でよく保存されている。この時点で、正しく折り畳まれたMan
8GlcNAc
2 N結合型グリコシル化タンパク質は、グリコシル化機構から脱出し得るか;あるいは、それらは継続し得、かつ一連の酵素によって触媒されるさらなる種特異的および細胞タイプ特異的プロセシングを受けて、ハイブリット型および/または複合型のグリカンを産生し得る。
図7Aを参照されたい。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、WrightおよびMorrisonによる総説、TIBTECH 15:26-32 (1997);米国特許第6,602,684号;ならびに米国特許第7,029,872号も参照されたい。高等な真核生物において、Man
8GlcNAc
2構造は、いくつかのα-1,2-マンノシダーゼによってさらにトリミングされる。結果として生じたMan
5GlcNAc
2 N結合型グリカンは、その後、GlcNAcトランスフェラーゼI(GnT-I)によって触媒される反応において、β-1,2-結合型GlcNAc残基の付加によって修飾され、結果として生じたGlcNAcM
8GlcNAc
2構造は、最終的に、「ハイブリッド型」N結合型グリカンの形成につながる。あるいは、GlcNAcM
8GlcNAc
2構造は、マンノシダーゼII(Man-II)による作用を受けて2個のマンノースを移動させ、次いで、GnT-IIによる作用を受けて第2のβ-1,2-GlcNAcを付加する。両方のコア-α-マンノース残基が少なくとも1個のGlcNAc残基によって修飾されている、結果として生じた構造を有するグリカンは、「複合型」N結合型グリカンと称される。さらなる分枝は、GnT-IV、GnT-V、およびGnT-VIによって開始され得る。ガラクトースおよびシアル酸残基が、それぞれガラクトシルトランスフェラーゼおよびシアリルトランスフェラーゼによってさらに付加される。
【0053】
本発明によれば、抗CD4抗体の可変領域に付加されたN結合型グリカンは、少なくとも7、8、9、10、11、または12個の炭水化物単位または「環」を含むべきである。「炭水化物単位」という用語は、真核細胞において互いに連結して天然型N-グリカンを形成する個々の単糖類分子を指し、すなわち、それらには、グルコース、マンノース、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、およびシアル酸が含まれる。抗体上のN-グリカンの正確な構造(すなわち、組成および逐次的連結)は、N-グリカンが少なくとも7個の単位を含む限り、完全には重大ではあり得ない。N結合型グリカンの例には、哺乳類細胞に典型的に見られるもの、例えばMan
8GlcNAc
2(Asnに連結されている、末端におけるGlcNAc)、Man
5GlcNAc
2、GlcNAcMan
5GlcNAc
2、GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2、Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2、(シアル酸)
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2、GalGlcNAcMan
5GlcNAc
2、ならびに、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,602,684号(例えば、その中の
図1)に記載されている、二分された2分岐(bi-antennary)複合体型、3分岐複合体型、3'分岐複合体型、および4分岐複合体型のN-グリカンが含まれる。
【0054】
本発明によれば、グリカン修飾された抗体の組換え発現のための適切な細胞株は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、(マウス骨髄腫)NSO細胞、マウス骨髄腫SP2/0細胞、ヒト胎児腎臓293(HEK293または293)細胞、マウス胎仔線維芽細胞3T3細胞、および派生細胞が、N結合型グリコシル化を有する組換え抗体を効率的に発現し得る限りはそれらに由来する細胞株など、とりわけ哺乳類細胞株を含む真核細胞である。これらの細胞の多くは、アメリカン・ティッシュ・カルチャー・コレクション(American Tissue Culture Collection)(ATCC)または商業的供給源を通じて入手可能である。変更したグリコフォームを有する糖タンパク質、例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,602,684号に記載されている、二分するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)で修飾された特定のクラスのN結合型グリカン(2分岐複合体型のN結合型オリゴ糖)を有する糖タンパク質を産生する遺伝子改変された細胞を使用して、本発明の抗体を産生することもできる。適切であり得る他の真核細胞には、昆虫細胞、ならびに、特にヒトN-グリカン形態を有するタンパク質を産生するように遺伝子改変された酵母系統を含む、パン酵母S. セレビシエ(S. cerevisiae)、およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのメチロトローフ酵母などの酵母細胞が含まれる。例えば、両方とも参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第7,029,872号および米国特許第7,449,308号を参照されたい。
【0055】
本発明の例によれば、細胞培養物から単離された抗体分子を酵素(例えば、PNGase)で処理することによって、細胞から産生される抗体分子にN結合型グリカンを結合されている。処理の結果としての、抗体の見かけの分子量のシフト(SDS-PAGE、ウェスタンブロット等で検出され得る)は、N結合型グリカンが抗体分子に実際に結合されていることを示す。N結合型グリカンのサイズは、公知のサイズのN結合型グリカンと比較することによって概算され得る。より詳細な解析に関して、抗体に結合されたN結合型グリカンは、例えばDNAシーケンサー支援による(DSA)、蛍光体支援糖質電気泳動(fluorophore assisted carbohydrate electrophoresis)(FACE)、またはMALDI-TOF MSによって解析され得、それらのすべては当技術分野において十分に立証された技術である。例えば、DSA-FACE解析では、N結合型グリカンを、グリコシル化された抗体ペプチドから切り離す。N-グリコシダーゼF(PNGase F)。次いで、切り離されたN結合型グリカンを、還元的アミノ化によって、フルオロフォア8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホネート(APTS)で誘導体化する。過剰なAPTSの除去後、標識されたN結合型グリカンを、ABI 3130 DNAシーケンサーで解析する。組換えにより産生されたタンパク質上のN結合型グリカンについてのMALDI-TOF MS解析に関しては、例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Laroyら(Nat Protoc. 1:397-405 (2006))、米国特許第6,602,684号を参照されたい。
【0056】
グリカン修飾された抗体を、実施例の節に記載される、ウイルス分離株の大集団に対する抗体の広域性および有効性を判定するアッセイ法を含む種々の機能アッセイ法で評価して、HIVを中和するそれらの有効度を確認することができる。
【0057】
本発明の態様において、gp120のN末上のグリカンは、イバリズマブのL鎖とgp120 V5との間の空いている空間を埋め、かつHIV-1侵入に対するイバリズマブの効果は、このグリカンの質量効果によって立体的に媒介されることが確認されている。インビトロでのHIV-1感染力を中和し得る能力に関する、L鎖の種々の位置にPNGSを有するイバリズマブ変異体の集団についての試験において、イバリズマブ-CD4-gp120複合体におけるV5の近傍に配置されたグリカンを担持しているイバリズマブ変異体は、HIV-1を効率的に中和することが見出された。これらのイバリズマブ変異体は、野生型イバリズマブに対して耐性であるHIV-1系統も中和した。本発明の特定の一例において、イバリズマブ変異体LM52は、感染の80%を中和するのに必要とされる抗体濃度である幾何平均IC
80によって判断すると、野生型イバリズマブよりも10倍高い有効性で、試験された118種のHIV-1分離株の100%を中和した。イバリズマブは立体障害メカニズムによりHIV-1侵入を遮断することが示されており、N結合型グリコシル化部位のどのような戦略的配置を用いて、モノクローナル抗体の活性を向上させ得るかの例が提供されている。
【0058】
本発明における知見に基づき、モノクローナル抗体のそれらの機能的活性を増強するように、グリカン付加手法を適応させ得ることが示されている。構造活性相関(SAR)を用いると、抗体上の主要な位置でかさを増加させることは、活性の向上につながって、優れたモノクローナル抗体産物を生成させ得ると想定される。
【0059】
本発明のいくつかの態様において、実質的に均一なN結合型グリカンまたは1つのクラスのN結合型グリカンを有する抗体を産生することが望ましくあり得る。「実質的に均一な」とは、調製物中の抗体分子上のN結合型グリカンの少なくとも50%、60%、75%、80%、85%、90%、またはさらに95%が、同じ構造、同じサイズ(すなわち、同じ分子量、もしくはその代わりとして同じ数の炭水化物「環」)、または同じ範囲のサイズ(例えば、9〜12個の「環」、または10〜11個の「環」)および/もしくはタイプのものであることを意味する。これは、N-グリコシル化に関与する選択された一連の酵素を発現するもしくは過剰発現するように遺伝子工学で遺伝子操作された細胞株を用いることによって(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,602,684号および米国特許第7,029,872号を参照されたい)、またはN-グリコシル化経路における中間段階にある酵素を中断させることによって(例えば、GnT1ノックアウト系統)、または特異的プロセシング酵素を標的とする1種もしくは複数種の阻害剤を用いることによって、あるいはそれらの組み合わせによって達成され得る。阻害剤の例には、キフネンシン、DMJ(「ジオキシマンノジリマイシン」について)、およびスワインソニンが含まれる。
【0060】
薬学的組成物
本明細書において開示されるグリカン修飾された抗体を含む薬学的組成物は、該抗体と1種または複数種の任意の薬学的に許容される担体とを混合することによって調製され得る。薬学的に許容される担体には、溶媒、分散媒、等張剤等が含まれる。担体は、液体、半固体、例えばペースト、または固体の担体であり得る。担体の例には、水、生理食塩溶液もしくは他の緩衝液(リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液など)、油、アルコール、タンパク質(血清アルブミン、ゼラチンなど)、炭水化物(単糖類、二糖類、およびグルコース、スクロース、トレハロース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、もしくデキストリンを含む他の炭水化物)、ゲル、脂質、リポソーム、樹脂、多孔質マトリックス、結合剤、充填剤、コーティング、安定剤、防腐剤、アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤、EDTAなどのキレート剤;ナトリウムなどの塩形成対イオン;TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0061】
薬学的組成物は、HIV感染症を抑制、予防、および治療するための1種または複数種のさらなる有益な化合物と組み合わせて、2種以上の活性化合物、例えば1種または複数種の抗体を含有し得る。
【0062】
活性成分を、任意の好都合かつ実践的な様式で、例えば混和、溶解、懸濁、乳化、カプセル化、吸収等によって担体と合わせることができ、かつ注射、摂取、注入等に適している錠剤、カプセル、粉末(凍結乾燥粉末を含む)、シロップ、懸濁液などの製剤に作製することができる。持続放出性調製物も調製することができる。
【0063】
治療および予防の方法
さらなる局面において、薬学的に許容される担体中に任意で提供される、本明細書において開示されるグリカン修飾された抗体を、対象におけるHIV感染症の治療および予防、ならびにHIV伝播の予防のために使用する。
【0064】
HIV感染症の「治療」という用語は、発症を遅延させるような、進行を遅らせるような、ウイルス負荷を低下させるような、かつ/またはHIV感染症によって引き起こされる症状を緩和するような、HIV感染症の有効な抑制を指す。
【0065】
「HIV感染症の予防」という用語は、HIV感染症の発症を遅延させること、および/またはHIV感染症の発生もしくは可能性を低下させるもしくは排除することを意味する。
【0066】
「HIV伝播の予防」という用語は、一方の個体から別の個体へ(例えば、妊娠、陣痛もしくは分娩、または授乳中にHIV陽性の女性から子どもへ;あるいはHIV陽性の対象からHIV陰性のパートナーへ)伝播されるHIVの発生または可能性を低下させるかまたは排除することを意味する。
【0067】
「対象」という用語は、ヒトおよび非ヒト対象(例えば、アカゲザル対象)を含む任意の霊長類対象を指す。
【0068】
HIV感染症を抑制、治療、および/または予防するために、本明細書において開示されるグリカン修飾された抗体の治療的有効量を、必要としている対象に投与する。
【0069】
「治療的有効量」という用語は、HIV感染症を治療および/または予防するように、HIV感染症の抑制をもたらすのに必要とされる用量を意味する。抗体の投薬量は、疾患状態、ならびに対象の重量および状況、療法に対する対象の応答、製剤のタイプ、ならびに投与の経路などの他の臨床的因子に依存する。治療的に有効でありかつ有害でない正確な投薬量は、当業者によって決定され得る。一般的法則として、成人への非経口での投与のための、抗体の適切な用量は、1週間に1回、またはさらに1ヶ月に1回、1日あたり患者体重に対して約0.1〜20mg/kgの範囲内であり、用いられる典型的な初回範囲は約2〜10mg/kgの範囲内である。抗体は最後には血流から一掃されると考えられるため、再投与が要求され得る。あるいは、制御放出性マトリックス中に提供された抗体の埋め込みまたは注射が使用され得る。
【0070】
抗体は、経口、経皮、または非経口(例えば、静脈内、腹腔内、皮内、皮下、または筋肉内)を含む標準的な経路によって、対象に投与され得る。加えて、抗体は、注射によって、または相当量の望ましい抗体が制御放出性形式で血流に入り得るような外科的な埋め込みもしくは取り付けによって、身体内に導入され得る。
【0071】
配列表
SEQ ID NO: 1: ヒトCD4受容体のアミノ酸配列(シグナルペプチドであるアミノ酸1〜25、D1を構成するアミノ酸26〜122、およびD2を構成するアミノ酸123〜205):
SEQ ID NO: 2: MV1の重鎖のアミノ酸配列(リーダー配列を構成する最初の19個のアミノ酸残基を含む471個のアミノ酸):
SEQ ID NO: 3: MV1の軽鎖のアミノ酸配列(リーダー配列を構成する最初の19個のアミノ酸を含む238個のアミノ酸):
SEQ ID NO: 4: LM52の軽鎖のアミノ酸配列:
SEQ ID NO: 5: 抗体のリサイクリングが向上した、修飾されたMV1の重鎖のアミノ酸配列(2つの修飾を有する452個のアミノ酸):
【0072】
いくつかの具体的な態様の説明は、他者が、現在の知識を適用することによって、包括的概念から逸脱することなく、そのような具体的な態様を容易に改変し得るかまたは種々の適用に適応させ得る十分な情報を提供するものであり、したがって、そのような適応および改変は、開示される態様の意義およびその同等物の範囲の中に包含されるべきでありかつ包含されることを意図する。本明細書において使用される語句または用語は、説明を目的とするものであり、限定を目的とするものではない。図面および説明において、例示的な態様が開示されており、具体的な用語が使用されている可能性があるが、別様に明記されていない限り、それらは包括的かつ記述的な意味でのみ用いられており、限定を目的とするものではなく、したがって、特許請求の範囲はそのように限定されない。さらに、当業者であれば、本明細書において考察される方法のある特定の工程を代替的順序で配列し得るか、または工程を組み合わせ得ることを理解するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本明細書において開示される特定の態様に限定されないことが意図される。
【実施例】
【0073】
材料および方法
1.細胞株、試薬、およびシュードタイプウイルス
TZM-bl細胞(カタログ番号8129)を、NIH、NIAID、AIDS部門、エイズ研究および参照試薬プログラム(AIDS Research and Reference Reagent Program)(ARRRP)から得た。これは、CD4、CXCR4、およびCCR5を発現し、かつHIV-1の長い末端反復の制御下にルシフェラーゼおよびβ-ガラクトシダーゼに対するTat応答性レポーター遺伝子を含有する、遺伝子改変されたHeLa細胞株である。急性かつ初期の感染由来のサブタイプB HIV-1 Envクローンの標準的な参照集団およびEnv欠損骨格プラスミド(SG3ΔEnv)も、NIH ARRRPから得た。Env発現プラスミドおよびSG3ΔEnvによる293A細胞(Invitrogen)の同時トランスフェクションによって、HIV-1 envシュードタイプウイルスを調製した。ヒトCD4の全長細胞外ドメインを含む組換えsCD4を、Progenics Pharmaceuticals, Inc.(Tarrytown, NY)から得た。イバリズマブタンパク質は、TaiMed Biologics(Irvine, CA)によって提供された。それぞれイバリズマブのH鎖およびL鎖をコードするプラスミドpMV1およびpLCを、cDNAから増幅し、かつpCDNA3.1(+)(Invitrogen)内にクローニングした。N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI陰性のGnT1(-)ヒト胎児腎臓(HEK)293S細胞を、ATCC(カタログ番号CRL-3022)から得た。
【0074】
2.抗CD4抗体L鎖へのN結合型グリコシル化部位の付加
Asn-Ala-Thr(LM30E、LM53、LM54、LM60、LM65、LM67、およびLM76)またはAsn-Ser-Thr(LM52)配列を突然変異誘発によって導入して、WTイバリズマブまたはMV1など、抗CD4抗体の軽(L)鎖における変異体を作製した。突然変異誘発を、Quikchange mutagenesis kit(Stratagene, Santa Clara, VA)を用いて実施した。L(軽)鎖変異体(LM)構築物を、抗CD4 IgG1抗体から生成し(MV1など)、次いで配列決定し、かつポリエチレンイミン(PEI)-DNA複合体をHEK293A細胞に一過的にトランスフェクションした(1:1比の重鎖およびL鎖のプラスミド)。トランスフェクションの5日後に上清を回収し、かつLMタンパク質をプロテイン-Aアガロース(Thermo Scientific, Rockford, IL)カラムで精製した。SDS-PAGEによる解析の前に、WTイバリズマブ、ならびにLM30E、LM52、およびLM53を、変性条件下にてPNGase F(New England Biolabs, Ipswich, MA)で処理した。
【0075】
3.TZM-bl細胞を用いたウイルス中和アッセイ法
改変を有するWeiら
37の方法
38に基づいて、中和アッセイ法を行った。簡潔には、96ウェルプレート中、10%ウシ胎仔血清を補給したDMEM(D10)の100μL/ウェル中に、1ウェルあたり10,000個の細胞を播種し、かつ一晩インキュベートした。翌日、連続希釈したイバリズマブまたはLMタンパク質を細胞に添加し、かつ1時間インキュベートした。次いで、DEAE-デキストラン(Sigma, St. Louis, MO)を含有するD10中で、200×の50%組織培養感染量(TCID
50)の、複製能を有するHIV-1またはシュードタイプのHIV-1を調製し、かつ細胞に添加した。細胞を48時間インキュベートし、かつGalacto-Star System(Applied Biosystems, Cedarville, OH)を用いてβ-ガラクトシダーゼ活性を測定した。ウイルス感染力の阻害の百分率を、抗体処理ウェル対未処理-感染ウェルの比を1から差し引き、100を掛けたものとして算出した。IC
50およびIC
80の値(それぞれ、50%および80%の中和をもたらす抗体濃度)を非線形回帰分析によって算出した。
【0076】
4.表面プラズモン共鳴
Biacore T3000光学バイオセンサー(GE Healthcare, Piscataway, NJ)を用いて、結合親和性解析を行った。標準的なアミンカップリング手順に従って、イバリズマブおよびすべてのグリカン変種の固定化を行った。簡潔には、0.2M N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N-エチルカルボジイミドおよび0.05M N-ヒドロキシコハク酸イミドを含有する溶液35μLの5μL/分の流速でのインジェクションによって、センサーチップ表面上のカルボキシル基を活性化した。次に、10mM酢酸ナトリウム緩衝液pH4.5中に2μg/mLの濃度のイバリズマブまたはその変異体変種を、反応タンパク質についての所望のレベルの応答単位(150〜200RU)が得られるまで、10μL/分の速度でチップ表面上を流した。未反応タンパク質を洗い流した後、35μLの1MエタノールアミンpH8.0の5μL/分の流速でのインジェクションによって、センサー表面上の過剰な活性エステル基をキャッピングした。装置および緩衝液の人為的影響を補正するためのバックグラウンドとして、タンパク質リガンドを除外した同じ条件下で、参照を作製した。HBS-EP緩衝液(0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% 容積/容積 界面活性剤P20(GE Healthcare))中25℃で、結合実験を行った。チップ表面の上を種々の濃度の分析物(ヒトsCD4タンパク質)を30μL/分の流速で3分間通過させることによって、結合反応速度を測定した。結合している分析物の解離を、表面を10分間洗いながらモニターした。残存する分析物を、50μL/分の流速での10mMグリシン-HCl pH2.0の2回の30秒間インジェクションにより除去した。反応速度データ解析に関して、BIAevaluation 4.1ソフトウェアを局所的に用いて、重ね合わせたセンサーグラムを、1:1 Langmuir結合モデルにひとまとめにしてフィッティングさせることによって、反応速度パラメーターを決定した。
【0077】
5.LM52上のN結合型グリコシル化の同定
3μgのLM52タンパク質を、50mM炭酸水素アンモニウム(ABC)/50%テトラフルオロエチレン中に溶解させ、かつ40mMジチオトレイトール(DTT)を添加することによって還元した。65℃で1時間のインキュベーション後、タンパク質サンプルを、40mMヨードアセトアミドを添加しかつ室温で1時間暗所においてインキュベートすることによって、アルキル化の過程に供した。40mM DTTを添加し、その後に1時間のインキュベーションが続くことによって、反応を抑えた。次いで、トリプシン消化の前に25mM ABCを添加した。次いで、タンパク質サンプルを0.2μgトリプシン(Promega)で一晩処理した。消化されたタンパク質サンプルを乾燥させ、かつLC-MS/MS解析の前に、20μLの水で再溶解させた。抗体上のN-グリカンの割り当てに関して、トリプシン消化された抗体についての測定された質量を、予測されるトリプシンペプチドおよびN結合型グリカンを組み合わせたデータベースと比較した。MS/MSスペクトルにおけるグリカン断片の出現によって、割り当てされた糖ペプチドを確認した。PNGase消化に関して、LM52をPNGase F(New England Biolabs)で一晩処理した。
【0078】
6.統計解析
GraphPad Prism v5.03ソフトウェアを用いた、50%および80%阻害濃度についてのパラメーター(対応スチューデントt検定)解析によって、
図S2およびS3に示される抗体有効性の差異を査定した。P≦0.05の場合、統計的有意性が得られた。
【0079】
結果
実施例1.
118種のウイルス分離株の集団についての配列解析により、イバリズマブ耐性は、gp120のV5ループにおける潜在的N結合型グリコシル化部位(PNGS)の数と関連していたことが示唆されている(Pace et al., J. Acquir. Immune Defic. Syndr. Epub ahead of print: Sept. 2012)。
図1に示されるように、V5に2つのN結合型グリコシル化部位を有するウイルスはイバリズマブに対して感受性であり、一方でV5にN結合型グリコシル化部位を有しないウイルスは耐性であった。バーは中央値を表す。興味深いことに、イバリズマブ単一療法に対して耐性を生じている臨床的ウイルス分離株も、潜在的V5グリコシル化部位の喪失を呈する(Toma et al., J. Virology 85(8):3872-2880, 2011)。
【0080】
集団における1種の野生型ウイルス(AC10.0.29)は、V5に2つのN結合型グリコシル化部位を有し、天然にイバリズマブに対して感受性である。このウイルスにおけるV5 N結合型グリコシル化部位を、部位特異的突然変異誘発を用いて体系的に欠失させ、結果として生じた変異体ウイルスは、イバリズマブに対して耐性になった(
図2を参照されたい)。
【0081】
集団における別の野生型ウイルス(RHPA4259.7)は、V5にN結合型グリコシル化部位を有しておらず、天然にイバリズマブに対して耐性である。このウイルスを改変して、V5にN結合型グリコシル化部位を体系的に付加した。
図3に示されるように、結果として生じた変異体ウイルスは、イバリズマブに対して感受性になった。
【0082】
イバリズマブ、CD4、およびHIV gp120の重ね合わせた結晶構造についての解析により、gp120のV5ループは、イバリズマブの軽鎖とCD4との間の相互作用部位に隣接していることが明らかとなった。さらなるモデリング解析により、イバリズマブは、通常、立体障害によりHIVを阻害し得ること、およびgp120 V5上のグリカンの喪失は、ウイルスがこの立体障害を迂回しかつイバリズマブの抗HIV活性を逃れるのを可能にし得ることが示唆された。本発明において、gp120 V5に近接している領域(例えば、V5のN末端付近)におけるイバリズマブ上へのN結合型グリカン部位の付加は、修飾されたイバリズマブが、通常イバリズマブに対して耐性であるウイルスを中和するのを可能にし得るという仮説を立てた。以下の実験を行って、この仮説を検証した。
【0083】
イバリズマブ-CD4複合体の結晶構造に基づき、イバリズマブの軽鎖におけるいくつかの部位を、gp120のV5に対するそれらの推定上近接した距離に基づいて選択した。これらには、アミノ酸位置30E、67、65、52、53、54、60、および76が含まれ、番号付けは、19個のアミノ酸シグナル配列(すなわち、リーダー配列)を欠く軽鎖の成熟型に基づき、かつ元の番号付けにおいて説明されていないアミノ酸残基を説明するKabatおよびChothia番号付けスキームに従っている。例えば、位置「30E」は、もともとは30および31として番号付けされた位置の間の一続きのアミノ酸(30A、30B、30C、30D、30E、...)における5番目のアミノ酸を指す。潜在的N結合型グリコシル化部位を、これらの位置のそれぞれに導入した(
図4A)。
図4Bに示されるように、変異体軽鎖はすべて、野生型軽鎖よりも高い分子量を有し(上のパネル)、これらの変異体における付加されたグリカンの存在を示唆している。変異体軽鎖を、脱グリコシル化剤PNGase Fで処理した場合(下のパネル)、それらの分子量は、通常のイバリズマブ野生型軽鎖のものまで低くなった。これらのデータは、N結合型グリコシル化部位が、変異体軽鎖に実際に付加されたことを裏付けた。
【0084】
実施例2.イバリズマブ変種の設計
イバリズマブ耐性HIV-1系統の調査により、耐性は、HIV-1 Env gp120のV5ループからのグリカンの喪失によって主に付与されることが明らかとなった。イバリズマブ感度におけるV5グリコシル化の役割をさらに調べるために、本発明者らは、蛋白質構造データバンクに報告されている構造(アクセッション番号2NXYおよび3O2D)を用いて、gp120、CD4、およびイバリズマブの間の相互作用をモデル化した。V5 N末グリカンは、イバリズマブL鎖に最も近接して位置付けされ(
図5A)、一方でV5 C末グリカンはイバリズマブからさらに離れている(
図5B)。このモデルは、gp120とイバリズマブとの間の空間内へのN末グリカンの適合がgp120に対して質量効果を及ぼし、それによって、標的細胞内へのHIV-1侵入に必須であるその立体構造変化(ねじれおよび回転)が妨害される可能性を高める。このモデルは、イバリズマブL鎖への同程度のサイズのグリカンの導入により、それらのV5 N末グリカンを喪失しているHIV-1系統の侵入を阻害し得るその能力が強化され得ることも示唆する。
【0085】
したがって、本発明者らは、gp120のV5ループに最も近いイバリズマブL鎖の可変領域中の残基(30E、52、53、54、60、65、67、および76)にPNGSを導入した。これらのイバリズマブL鎖変異体(LM)を構築し、配列決定し、かつ293A細胞にトランスフェクトして、変異体タンパク質を産生した。本発明者らは、プロテイン-Aアガロースクロマトグラフィーによって変種mAbを精製し、かつそれらをSDS-PAGEによって解析した(
図6A)。293A細胞における一過性発現によるLMの産出量は、野生型イバリズマブのものと同等であった。野生型L鎖と比較して、LMのそれぞれにおいて、わずかにより大きなL鎖が観察された。より大きなサイズはグリコシル化によるものであることを裏付けるために、LMの30E、52、および53を変性条件下でPNGase Fで処理し、かつSDS-PAGEによって解析した(
図6B)。予想されたとおり、PNGase F処理後のこれら変種のL鎖のサイズは、野生型のサイズまで減少した。次に、本発明者らは、質量分析法を用いて、293A細胞においてルーチン的に産生されるLM52のL鎖に導入されるN-グリカンの形態を同定した。8〜12個の環を有する、6種超の形態の複合型N-グリカンがL鎖上で同定され、これらの形態の80%は9〜11個の環を有した(
図6C)。それらのグリカンサイズのみが異なるLM52変異体を、中和アッセイ法で試験した。試験された3種のウイルスのすべてにおいて、より大きなN結合型グリカンを有するLM52変異体タンパク質に関して、より高い中和活性が観察された(
図6D)。まとめると、これらのデータは、N結合型グリカンが、イバリズマブL鎖の所望の残基に導入されたことを裏付けた。
【0086】
実施例3.LMによるCD4結合およびHIV-1中和
次に、本発明者らは、ヒト可溶性CD4(sCD4)へのこれらイバリズマブLMの結合の反応速度を表面プラズモン共鳴によって評価した。分析物としてsCD4を用いたBiacoreアッセイ法において、WTイバリズマブおよびLMは、同程度の結合反応速度でsCD4に結合した。sCD4に結合したこれらLMのうちの6種のK
Dは0.19nM〜0.8nMの範囲にあり(表1)、これらの数字は、野生型イバリズマブのK
D(0.43nM)の2倍以内であった。これらのデータは、イバリズマブのL鎖のこれらの選択位置におけるN結合型グリカンの付加が、CD4に結合し得るその能力に著しい影響を及ぼさないことを示した。
【0087】
(表1)ヒトCD4に対するイバリズマブおよびそのLMの結合反応速度
【0088】
次に、本発明者らは、WTイバリズマブと比較した、LMのHIV-1中和能を調べた。この目的のために、本発明者らは、複製能を有する3種のHIV-1系統を含む、イバリズマブに耐性であるかまたは部分的に耐性であるHIV-1ウイルスの集団に対してLMを試験した(
図7)。イバリズマブ耐性ウイルスのこの集団を用いたところ、最高2μg/mLまでWTイバリズマブを試験した場合、75%の平均MPIおよび1.43μg/mLのIC
80が観察された。4種のLM(LM30E、LM52、LM53、およびLM67)に関して、中和活性の著しい向上が観察され、91〜99%の平均MPIおよび0.05〜0.14μg/mLのIC
80を有した(
図7および表2)。これらの中で、LM52は最高のHIV-1中和有効性を有すると考えられる。他の2種の変種(LM54およびLM65)は、イバリズマブと比較して、ウイルス中和活性のより穏やかな向上をもたらした。興味深いことに、HIV-1中和活性の向上を示した6種のLMにおけるPNGSは、また、WTイバリズマブのものと同等のHIV-1中和活性を示したLM60およびLM76におけるPNGSよりも、gp120のV5(459)により近接している(表2)。したがって、N-グリカンをV5により近接して位置付けすることは、イバリズマブ変種の中和プロファイルを向上させると考えられる。しかしながら、本発明者らは、V5までの距離に加えて、グリカンの方向付けも重大な役割を担い得ることに留意している。
【0089】
(表2)イバリズマブおよびその軽鎖変異体の比較
【0090】
実施例4.グリカンサイズはLM52活性に影響を与える
グリカンサイズが、LMのHIV-1中和活性の向上に影響を与えるかどうかを調査した。調査は、その優れたHIV-1中和プロファイルが理由でLM52に焦点を合わせた(
図7)。いかなるN結合型グリカンも欠くLM52の型を産生するために、GlcNAcホスホトランスフェラーゼを阻害するツニカマイシンを、LM52構築物による一過性トランスフェクションの直後に293A細胞に添加した。同様に、10〜11個の環のグリカン(高Man型のN-グリカンMan
8GlcNAc
2(Man8)またはMan
9GlcNAc
2(Man9))をタグ付けされたLM52の型を産生するために、本発明者らは、293A細胞にキフネンシンを添加した。最後に、7環グリカン(高マンノース(Man)型のN-グリカンMan
5GlcNAc
2(Man5))を担持するLM52の型を産生するために、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI陰性のGnT1(-) HEK293S細胞を用いた。SDS-PAGEによって示されるように、キフネンシンの添加はL鎖のサイズを顕著には変化させなかったが、ツニカマイシンの添加またはGnT1(-)細胞の成長は、L鎖のサイズを顕著に低下させた(
図8A)。同様に、3種のHIV-1系統に対する中和活性は、キフネンシンの存在下で産生された抗体に対してよりも、ツニカマイシンの存在下でまたはGnT1(-)細胞において産生された抗体に対してより極度に低下した(
図8B)。ゆえに、より大きなグリカンがL鎖の残基52に存在している場合に、より強いHIV-1中和活性が観察された。モデリングにより、より大きなグリカンほど、L鎖とgp120との間の空間をよりよく埋めるが(
図4C)、グリカンの分枝の性質も、LM52のHIV-1中和活性に影響を及ぼし得ることが示唆される。
【0091】
実施例5.LM52に関する中和の広域性および有効性
次いで、本発明者らは、11個のクレードを網羅する118種の多様なHIV-1ウイルス系統の集団に対して、LM52のHIV-1中和活性を試験した。この単一サイクルTZM-blアッセイ法において、LM52は、WTイバリズマブと比較して、有意に向上した中和の広域性および有効性を示した(
図9および表3)。LM52は陰性対照(マウス白血病ウイルス)に対して中和活性を有しなかったが(表3)、それは、WTイバリズマブに関する92%の系統と比較して、試験されたすべてのHIV-1系統を中和した(≧50%阻害によって定義される)。実際、LM52は、WTイバリズマブに関するほんの31%と比較して、≧95%阻害に対して97%のウイルスを中和した(
図5、上のパネル)。LM52は、また、WTイバリズマブに関する75%のウイルスと比較して、118種すべてのウイルスに関して<0.1μg/mLというIC
50値を呈した(
図9、中央のパネル)。実際に、ウイルスのすべてが<0.3μg/mLのIC
80でLM52によって中和され、一方でWTイバリズマブでは10μg/mLの濃度でさえ、36%のウイルスが80%まで中和されなかった(
図9、下のパネル)。
【0092】
(表3)IC
50(μg/mL)、IC
80(μg/mL)、およびMPI(%)によって表される、イバリズマブおよびLM52についてのインビトロ中和プロファイル
【0093】
全体として、WTイバリズマブに関する74ng/mLと比較して、LM52に関する幾何平均IC
50値は14ng/mLであり、かつWTイバリズマブに関する510ng/mLと比較して、LM52に関する幾何平均IC
80値は37ng/mLであった(
図11)。イバリズマブ感受性系統(MPI>80%)およびイバリズマブ耐性系統(MPI≦80%)にウイルスを分けた場合、LM52の有効性の増強はイバリズマブ耐性ウイルスにおいて最も明らかであった(
図12)。イバリズマブ耐性ウイルスにおいて、WTイバリズマブに関するほぼ10,000ng/mLと比較して、LM52に関する幾何平均IC
80は50ng/mLであった。LM52の有効性は、イバリズマブ感受性ウイルスにおいてでさえ約3倍増強した。
【0094】
LM52の活性の向上は、増加する抗体濃度にわたってそのHIV-1系統網羅率(coverage)を比較したプロットにおいても明白であった(
図10)。WTイバリズマブを上回る向上は、それらの広域かつ強力なHIV-1中和活性で公知であるmAb(PG9、VRC01、10E8、およびNIH45-46G54W)を上回ってそれが優位であるように、容易に明らかであった。LM52は>0.01μg/mLの全濃度で最大のウイルス網羅率を有し、それは0.1μg/mL未満の濃度で100%に達した。0.01μg/mLを下回る濃度でのみ、LM52網羅率は、gp120上のCD4結合部位に指向されたヒトmAbの改変型であるNIH45-46G54Wより劣った。しかしながら、イバリズマブはCD4に結合することによってHIV-1感染症を抑制し、一方でVRC01、PG9、10E8、およびNIH45-46G54Wはウイルスに直接結合することによってHIV-1感染症を抑制することに留意すべきである。それでもなお、これらのmAbがウイルスエンベロープまたはCD4に結合するかどうかにかかわらず、それらはすべて、ウイルス侵入を遮断することによってHIV-1感染を中和する。
【0095】
実施例6.複数のグリカンの効果
次に、本発明者らは、イバリズマブL鎖における関心対象の領域中の2つまたは3つのグリカンの配置の効果を検討した。本発明者らは、293A細胞において、LM30E-52、LM30E-53、およびLM52-67二重変異体、ならびにLM30E-52-67およびLM30E-53-67三重変異体を産生し、次いで精製し、かつSDS-PAGEによって抗体を解析した(
図13A)。野生型(WT)イバリズマブまたは単一変異体LMと比較して、二重変異体のそれぞれにおいてわずかにより大きなL鎖が観察され、かつ三重変異体のそれぞれにおいてさらにより大きなL鎖が観察された。次に、本発明者らは、イバリズマブに対して完全にまたは部分的に耐性であることが知られるHIV-1系統の集団に対する、これら変種mAbのHIV-1中和プロファイルを調べた。概して、二重および三重変異体は、LM52のものと同等の中和活性を示した(表4;
図13B、左のパネル)。実際、幾何平均IC
80値は、三重変異体が、LM52と比較してわずかに強力でない可能性があることを示唆する。留意された唯一の例外は、LM52に対してよりも二重および三重変異体に対してより感受性のウイルスであるSHIVsf162P3Nに関してであった(表4;
図13B、右のパネル)。全般的に言えば、本発明者らは、2つ以上のグリカンを付加することが、イバリズマブ感受性ウイルスに対するLM52のHIV-1中和プロファイルをさらに向上させるという証拠を見出さなかった。第2のグリカンの付加によるLM52の向上は、LM52に対して耐性であるかまたは部分的に耐性であるウイルスに関してのみ明らかであり得る。
【0096】
(表4)イバリズマブ、ならびにその単一、二重、および三重LMについてのIC
80(μg/mL)の比較
【0097】
実施例7.LM52多反応性についての解析
いくつかのHIV-1中和mAbに共通する特性は、自己抗原とのそれらの交差反応性である
29, 30。LM52もイバリズマブも、10μg/mLの濃度でさえ、HEp-2上皮細胞抽出物に結合しなかった(
図14A)。加えて、LM52もイバリズマブも、一本鎖DNA、二本鎖DNA、インスリン、リポ多糖、またはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)との反応性を示さなかった(
図14B)。イバリズマブの意図される標的であるヒトCD4タンパク質は、LM52によって認識される、試験された唯一の自己抗原であった。ゆえに、本発明者らは、LM52が自己抗原と多反応性であるという証拠を見出していない。
【0098】
結論
本発明において、変種LM52と称される、MV1から生成された優れたHIV-1侵入遮断mAb産物が提供され、それは、試験されたすべての試験されたHIV-1系統を比較的低濃度で中和し得た。LM52のウイルス中和特性は、イバリズマブの野生型のもの、ならびに現在までに報告されているいくつかの最良の抗Env mAb、例えばVRC01、PG9、10E8、およびNIH45-46G54Wのものよりも明らかに優れていた。ヒトにおけるイバリズマブについての確立された安全記録と合わせると、これらの観察結果は、LM52が、HIV-1の治療または防止のための臨床開発の良好な候補であろうことを示唆する。この修飾抗体は、(非経口イバリズマブの公知の薬物動態特性に基づいた)その予想される月1回投与のスケジュールを考慮すると、長時間作用型PrEP剤として特に適切であり得る。
【0099】
これらの知見は、イバリズマブの作用のメカニズムについての洞察も提供する。そのHIV-1は、gp120 V5のN末端におけるグリカンを喪失して、イバリズマブに対して耐性になる。イバリズマブ作用のメカニズムは、抗体L鎖とウイルスエンベロープ糖タンパク質との間の立体衝突をもたらすグリカンによって媒介され、それによって、HIV-1侵入における工程を立体的に妨害すると示唆されている。本発明において、L鎖上のグリカンは、イバリズマブ耐性系統に対するイバリズマブの抗ウイルス活性を回復させること、V5に空間的に最も近接した主要な残基上にこのグリカンを位置付けすることは、最大の抗ウイルス効果をもたらしたこと、およびより大きなグリカンほど、ウイルス中和に対してより大きな効果を付与したことが示されており、イバリズマブは、立体障害メカニズムを介してHIV-1感染を遮断することを集合的に支持する。
【0100】
本明細書において引用されるすべての刊行物、ならびに特許、特許出願公報、および特許出願は、あたかもそれらがそれぞれ参照により個々に組み入れられているかと同程度に、参照により本明細書によって組み入れられる。