特許第6408518号(P6408518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408518
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】アルミ製ステアリングナックル
(51)【国際特許分類】
   B62D 7/18 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   B62D7/18 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-135798(P2016-135798)
(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2018-2103(P2018-2103A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128749
【弁理士】
【氏名又は名称】海田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】岩国 信夫
(72)【発明者】
【氏名】澤井 敏
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−91468(JP,A)
【文献】 特開2010−202060(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第10212873(DE,A1)
【文献】 特開2015−54554(JP,A)
【文献】 特開2007−22250(JP,A)
【文献】 特開2006−82637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に用いられるアルミ製ステアリングナックルであって、
略円形空洞と、当該略円形空洞の周囲に配置される複数のボルト孔とを有することで、車輪支持体の取り付け箇所となる本体部と、
前記本体部の周囲に設けられて外部部材に連結される複数の連結部と、
前記複数の連結部の間にそれぞれ立設される複数のリブ壁面と、
を有し、
前記複数のリブ壁面が前記複数のボルト孔の周囲を取り囲むように立設され、さらに、
前記複数のリブ壁面の一つが、
一の連結部であるダンパー連結部又はラテラルフロント連結部側に接続して立設される一のリブ壁面と、
前記一の連結部であるダンパー連結部又はラテラルフロント連結部と隣り合う他の連結部であるロワアーム連結部又はラテラルリア連結部側に接続して立設される他のリブ壁面と、
によって構成されるとともに、
前記一のリブ壁面の一部分と前記他のリブ壁面の一部分が、前記本体部上であって前記複数のボルト孔の間の位置で並列して設けられ
前記一のリブ壁面は、接続する前記一の連結部であるダンパー連結部又はラテラルフロント連結部から前記他の連結部であるロワアーム連結部又はラテラルリア連結部の方向に向けてリブ壁面高さを漸減する傾斜面を有して形成されており、
前記他のリブ壁面は、接続する前記他の連結部であるロワアーム連結部又はラテラルリア連結部から前記一の連結部であるダンパー連結部又はラテラルフロント連結部の方向に向けてリブ壁面高さを漸減する傾斜面を有して形成されており、
前記一のリブ壁面と前記他のリブ壁面は、互いに並列した後、さらにリブ壁面高さを漸減してなくなるように構成され、
前記一の連結部であるダンパー連結部又はラテラルフロント連結部に接続する前記一のリブ壁面の壁面高さがなくなる位置は前記他の連結部であるロワアーム連結部又はラテラルリア連結部寄りの位置であり、前記他の連結部であるロワアーム連結部又はラテラルリア連結部に接続する前記他のリブ壁面の壁面高さがなくなる位置は前記一の連結部であるダンパー連結部又はラテラルフロント連結部寄りの位置であることを特徴とするアルミ製ステアリングナックル。
【請求項2】
請求項に記載のアルミ製ステアリングナックルにおいて、
前記一のリブ壁面と前記他のリブ壁面は、両リブ壁面の全体を面側から見たときに、当該両リブ壁面の外郭形状が広角に開いた略V字形の稜線を描いて形成されていることを特徴とするアルミ製ステアリングナックル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられるアルミ製ステアリングナックルの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、通常、ディスク式ブレーキ機構等の摩擦ブレーキ機構が設けられている。摩擦ブレーキ機構は、車輪と一体に回転するブレーキローターと、ブレーキキャリパーに保持されたブレーキパッド等の摩擦部材とを摺接させて、ブレーキローターと摩擦部材との間に摩擦力を生じさせることで、車輪の回転を制動する。このような摩擦ブレーキ機構において、通常、ブレーキローターはホイールハブと一体に回転し、ブレーキキャリパーはステアリングナックルやアクスルキャリア(アクスルハウジング)等、ホイールハブを回転可能に支持する部材にボルト等により結合されている。当該支持部材の端部は、一般的に、ゴムブッシュ等を介してサスペンションアームに接続されており、車両用の懸架装置を構成している。
【0003】
このような摩擦ブレーキ機構を含む懸架装置の構成部材は、車両の安全性を維持する必要があるため、重要保安部品として位置付けられており、例えばステアリングナックルについては、鉄系材料を鋳造又は鍛造して製造されることが一般的であった。なぜなら、鉄系材料であれば、高い剛性を容易に得ることができるからである。
【0004】
一方、車両の燃費向上などを目的に、車両を構成する重要保安部品についても、鉄系材料に替えて例えばアルミ合金のような軽量化金属材料を採用することが、近年になって実施されてきている。具体的には、高い燃費性能が求められるハイブリッド自動車などにおいて、アルミ製のステアリングナックルを採用する動きもみられる。
【0005】
なお、アルミニウムやアルミニウム合金等の軽量化金属材料を用いてステアリングナックル等の部材を製造する場合には、例えば下記特許文献1に開示されるような重力鋳造や傾斜重力鋳造などといった従来公知の鋳造方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−104613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アルミ製のステアリングナックルは、軽量化の面で非常に有利な効果を得られるものの、剛性の面では鉄系材料を用いたステアリングナックルには劣るといった課題が存在していた。すなわち、従来の技術では、剛性の向上と軽量化という相反する効果を両立できる技術は存在しておらず、かかる効果を両立可能な技術の実現が求められていた。
【0008】
本発明は、上述した従来技術に存在する課題の存在に鑑みて成されたものであり、その目的は、軽量であるという特性を維持しながらも鉄系材料で得られる剛性と同等以上の高い剛性を有するアルミ製のステアリングナックルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照番号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明に係るアルミ製ステアリングナックル(20,60)は、車両に用いられるアルミ製ステアリングナックル(20,60)であって、略円形空洞(21a,61a)と、当該略円形空洞(21a,61a)の周囲に配置される複数のボルト孔(21b,61b)とを有することで、車輪支持体の取り付け箇所となる本体部(21,61)と、前記本体部(21,61)の周囲に設けられて外部部材に連結される複数の連結部(22,23,25,63,64,65,66)と、前記複数の連結部(22,23,25,63,64,65,66)の間にそれぞれ立設される複数のリブ壁面(31,71)と、を有し、前記複数のリブ壁面(31,71)が前記複数のボルト孔(21b,61b)の周囲を取り囲むように立設され、さらに、前記複数のリブ壁面(31,71)の一つが、一の連結部であるダンパー連結部(22)又はラテラルフロント連結部(64)側に接続して立設される一のリブ壁面(31a,71a)と、前記一の連結部であるダンパー連結部(22)又はラテラルフロント連結部(64)と隣り合う他の連結部であるロワアーム連結部(23)又はラテラルリア連結部(66)側に接続して立設される他のリブ壁面(31b,71b)と、によって構成されるとともに、前記一のリブ壁面(31a,71a)の一部分と前記他のリブ壁面(31b,71b)の一部分が、前記本体部(21,61)上であって前記複数のボルト孔(21b,61b)の間の位置で並列して設けられ、前記一のリブ壁面(31a,71a)は、接続する前記一の連結部であるダンパー連結部(22)又はラテラルフロント連結部(64)から前記他の連結部であるロワアーム連結部(23)又はラテラルリア連結部(66)の方向に向けてリブ壁面高さを漸減する傾斜面を有して形成されており、前記他のリブ壁面(31b,71b)は、接続する前記他の連結部であるロワアーム連結部(23)又はラテラルリア連結部(66)から前記一の連結部であるダンパー連結部(22)又はラテラルフロント連結部(64)の方向に向けてリブ壁面高さを漸減する傾斜面を有して形成されており、前記一のリブ壁面(31a,71a)と前記他のリブ壁面(31b,71b)は、互いに並列した後、さらにリブ壁面高さを漸減してなくなるように構成され、前記一の連結部であるダンパー連結部(22)又はラテラルフロント連結部(64)に接続する前記一のリブ壁面(31a,71a)の壁面高さがなくなる位置は前記他の連結部であるロワアーム連結部(23)又はラテラルリア連結部(66)寄りの位置であり、前記他の連結部であるロワアーム連結部(23)又はラテラルリア連結部(66)に接続する前記他のリブ壁面(31b,71b)の壁面高さがなくなる位置は前記一の連結部であるダンパー連結部(22)又はラテラルフロント連結部(64)寄りの位置であることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明に係るアルミ製ステアリングナックル(20,60)において、前記一のリブ壁面(31a,71a)と前記他のリブ壁面(31b,71b)は、両リブ壁面(31a,31b,71a,71b)の全体を面側から見たときに、当該両リブ壁面(31a,31b,71a,71b)の外郭形状が広角に開いた略V字形の稜線を描いて形成されていることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルミニウムやアルミニウム合金等の軽量化金属材料が有する軽量であるという特性を維持しながらも、鉄系材料で得られる剛性と同等以上の高い剛性を有するアルミ製のステアリングナックルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックルが用いられる一般的な車両用懸架装置の概略構成を説明する概略図である。
図2】本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックルの正面図であり、取付時において車両本体側を向く面を示している。
図3】本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックルの側面図であり、取付時において車両前方側を向く面を示している。
図4】本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックルの外観斜視図である。
図5】本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックルの、図4とは別方向から見た場合の外観斜視図である。
図6】本発明に係るアルミ製ステアリングナックルが取り得る多様な形態例のうちの一例を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
まず、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20が設置される一般的な車両用懸架装置1の構成について、図1を用いて説明する。ここで、図1は、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックルが用いられる一般的な車両用懸架装置1の概略構成を説明する概略図である。なお、図1は、あくまで本発明の使用態様を説明するための概略図であるため、図1中に示されるアルミ製ステアリングナックル120については、本発明の構成とは異なる一般的なものが描かれている。
【0018】
この車両用懸架装置1は、前輪(フロント)用の懸架装置であり、不図示のホイールハブを回転可能に支持する支持部材としてアルミ製ステアリングナックル120が設けられている。また、この車両用懸架装置1は、マクファーソン・ストラット形式の懸架装置であり、支持部材としてのアルミ製ステアリングナックル120は、ホイールハブ(不図示)等の車輪支持体の取り付け箇所となる本体部121と、本体部121の上方に設けられてダンパー2に連結されるダンパー連結部122と、本体部121の下方に設けられてロワアーム3に連結されるロワアーム連結部123と、本体部121から車両後方向に伸びて形成されるアーム124の先端に設けられてタイロッド5に連結されるタイロッド連結部125と、本体部121から車両前方向に形成されてブレーキキャリパー6が設置されるブレーキキャリパー設置部126と、を有して構成されている。なお、図1では、車両用懸架装置1が前輪に用いられる場合を例示しているが、マクファーソン・ストラット形式の懸架装置については、ロワアーム3の前後幅を広くとったり、ロワアーム3を2本にするパラレルリンク式を採用したりする等の対策を取ることで、後輪(リア)にも用いることができる。
【0019】
また、車両用懸架装置1は、摩擦ブレーキ機構(ディスク式ブレーキ)を構成する部品として、不図示のホイールハブに係合して、車輪15と一体に回転するディスクローター10を有している。ホイールハブ(不図示)には、ロータ回転軸を中心とする周方向に複数のハブボルト(不図示)が配設されており、当該ハブボルトを用いることで、ディスクローター10は、車輪15と共に、ホイールハブ(不図示)にボルト結合される。これにより、ディスクローター10は、車輪15及びホイールハブ(不図示)と一体に回転する。
【0020】
また、車両用懸架装置1には、摩擦ブレーキ機構を構成する部品として、ディスクローター10の摺接面と接して摩擦力を生じさせる摩擦部材としての不図示のブレーキパッドと、当該ブレーキパッドを介してディスクローター10を両側から挟みこむブレーキキャリパー6とを有している。ブレーキキャリパー6は、ディスクローター10を挟み込むよう配置された2箇所のブレーキパッドを保持しており、図示しないホイールシリンダによりブレーキパッドを押圧して、当該ブレーキパッドに作動力を伝達することで、ブレーキパッドとディスクローター10との間に摩擦力を生じさせることができるようになっている。当該摩擦力は、ロータ回転軸の周方向に作用して、ディスクローター10に結合された車輪15の接地面に制動力を生じさせる。
【0021】
このように構成された車両用懸架装置1は、車輪15と一体にディスクローター10が回転しているときに、ブレーキキャリパー6が不図示のブレーキパッドに作動力を伝達すると、当該ブレーキパッドとディスクローター10との摺接面には、ロータ回転軸の周方向に摩擦力が作用する。この摩擦力は、車輪15の接地面に制動力を生じさせる一方、その反力としてロータ回転軸の周方向の力(力のモーメント)が、ブレーキパッドから、ブレーキキャリパー6等を介してアルミ製ステアリングナックル120に伝達される。つまり、不図示のブレーキパッドとディスクローター10との間に摩擦力が生じると、ブレーキキャリパー6からアルミ製ステアリングナックル120に、ロータ回転軸まわりの力のモーメントが伝達されることとなる。
【0022】
以上、一般的なアルミ製ステアリングナックル120が設置される車両用懸架装置1の概略構成について、図1を用いて説明を行った。そして、本発明に係るアルミ製ステアリングナックルは、この種の一般的な車両用懸架装置1に対して用いることが可能である。そこで、次に、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20の詳細な形態的特徴について、図2図5を用いて説明を行う。ここで、図2は、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20の正面図であり、取付時において車両本体側を向く面を示している。また、図3は、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20の側面図であり、取付時において車両前方側を向く面を示している。さらに、図4は、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20の外観斜視図であり、図5は、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20の、図4とは別方向から見た場合の外観斜視図である。
【0023】
図2図5に示す本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20は、重力鋳造や傾斜重力鋳造などといった従来公知の鋳造方法によって製造されており、その形態的な形状に有意な特徴を有している。まず、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20の基本構成を説明する。
【0024】
本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20は、その中央部分に上述したホイールハブ(不図示)等の車輪支持体の取り付け箇所となる本体部21を有している。本体部21の中央には、略円形空洞21aが形成されており、さらに、この略円形空洞21aの周囲には、4つのボルト孔21bが形成されている。
【0025】
略円形空洞21aには、車輪支持体を構成する不図示のハブベアリングが配置される。一方、4つのボルト孔21bには、ハブボルト(不図示)が螺合接合される。つまり、不図示のハブボルトが4つのボルト孔21bに螺合されることで、上述した車輪支持体や車輪15等がアルミ製ステアリングナックル20の本体部21に設置されることとなる。
【0026】
本体部21の上方には、ダンパー2を連結するための連結部として機能するダンパー連結部22が形成されている。ダンパー2は、バネとピストンロッドとを有して構成されており、図1にて例示したように、ピストンロッドの下端側がダンパー連結部22に対して連結部材を介してボルトにより連結接合されることとなる。したがって、ダンパー連結部22は、主として本体部21に向かう方向のモーメントを受けることとなる。
【0027】
本体部21の下方には、ロワアーム3を連結するための連結部として機能するロワアーム連結部23が形成されている。このロワアーム連結部23についても、図1にて例示したロワアーム3をボルト等の締結手段を用いることでロワアーム連結部23に対して確実に連結できるように構成されている。
【0028】
本体部21の車両後方向(図2における紙面右方向)には、アーム24が伸びて形成されており、このアーム24の先端には、図1にて例示したタイロッド5を連結するための連結部として機能するタイロッド連結部25が形成されている。本実施形態に係るタイロッド連結部25には、車両の上下方向を向く開口孔が形成されており、タイロッド5が有する凸部をこの開口孔に嵌め込むことで、タイロッド5とアルミ製ステアリングナックル20との連結が実現するように構成されている。
【0029】
一方、本体部21の車両前方向(図2における紙面左方向)には、ブレーキキャリパー6を設置するためのブレーキキャリパー設置部26が形成されている。なお、本実施形態に係るブレーキキャリパー設置部26は、2つのボルト孔として構成されており、ボルト等の締結手段を用いることで、ブレーキキャリパー6をアルミ製ステアリングナックル20に対して確実に固定できるようになっている。
【0030】
以上のような基本構成を有する本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20であるが、このアルミ製ステアリングナックル20は、軽量であるという特性を維持しながらも、鉄系材料で得られる剛性と同等以上の高い剛性を獲得するために、種々の有意な形態的特徴を備えている。以下に、その具体的な構成を説明する。
【0031】
まず、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20には、上述したように、本体部21の周囲に設けられて外部部材に連結される複数の連結部(ダンパー連結部22、ロワアーム連結部23、タイロッド連結部25)が形成されているが、これら複数の連結部(ダンパー連結部22、ロワアーム連結部23、タイロッド連結部25)の間のそれぞれには、複数のリブ壁面31が立設されている。これら複数のリブ壁面31については、複数のボルト孔21bの周囲を取り囲むように形成されており、さらに、これらのリブ壁面31は、車両本体側に向けて立設して設けられている。
【0032】
本実施形態に係るリブ壁面31が、前述のような構成を備えることで、リブ壁面31の立設方向、すなわち車両本体側の方向に加わる内向きの剛性を向上させることが可能となる。かかる効果は、特に、旋回時に加わるモーメントを好適に受容できることにつながるため、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20が、アルミの有する軽量であるという特性を維持しながらも、鉄系材料で得られる剛性と同等以上の高い剛性を獲得することを可能としている。
【0033】
なお、アルミ製ステアリングナックル20の前方に設けられたブレーキキャリパー設置部26の形成位置には、ブレーキキャリパー6が設置されていることから、このブレーキキャリパー6からは、車輪15の回転方向の力の他、ブレーキのモーメントや車両前後方向の力や内向きの力などが加わることになるが、本体部21に対して形成されたリブ壁面31が好適に回転方向の力等を受容することに寄与するので、かかる点からも、本実施形態に係るリブ壁面31が、アルミ製ステアリングナックル20の剛性を高めることを実現している。
【0034】
さらに、本実施形態に係る複数のリブ壁面31において、ダンパー連結部22とロワアーム連結部23をつなぐ位置に形成されたリブ壁面31は、さらなる形態的特徴を有している。すなわち、ダンパー連結部22とロワアーム連結部23をつなぐ位置に形成されたリブ壁面31は、一の連結部であるダンパー連結部22側に接続して立設される一のリブ壁面31aと、一の連結部であるダンパー連結部22と隣り合う他の連結部であるロワアーム連結部23側に接続して立設される他のリブ壁面31bとの組み合わせによって構成されている。
【0035】
そして、図3および図4にてより詳細に示されるように、一のリブ壁面31aは、接続する(一の連結部である)ダンパー連結部22から(他の連結部である)ロワアーム連結部23の方向に向けてリブ壁面高さを漸減する傾斜面を有して形成されており、また、他のリブ壁面31bは、接続する(他の連結部である)ロワアーム連結部23から(一の連結部である)ダンパー連結部22の方向に向けてリブ壁面高さを漸減する傾斜面を有して形成されている。
【0036】
さらに、一のリブ壁面31aの一部分と他のリブ壁面31bの一部分は、本体部21上で並列するように設けられている。すなわち、両リブ壁面31a,31bは、リブ壁面同士が交わらずに横並びの並列状態で接続するように配置されている。したがって、一のリブ壁面31aに接続する(一の連結部である)ダンパー連結部22からの力と、他のリブ壁面31bに接続する(他の連結部である)ロワアーム連結部23からの力は、並列配置された両リブ壁面31a,31bの形状の作用によって力同士が合成されることがなく、互いに交わらない逸れた方向で力が分散されることとなる。
【0037】
またさらに、一のリブ壁面31aと他のリブ壁面31bは、図1にてより詳細に示されるように、2つのボルト孔21bが形成された位置の略中間の位置で並列するように設けられている。不図示のハブボルトが4つのボルト孔21bに螺合されることで、車輪支持体や車輪15等がアルミ製ステアリングナックル20の本体部21に設置されることとなるが、さらに、一のリブ壁面31aと他のリブ壁面31bとが並列する位置を2つのボルト孔21bが形成された位置の略中間とすることで、両リブ壁面31a,31bを介して伝達される応力の集中を好適に防止することができる。
【0038】
さらにまた、本実施形態に係る一のリブ壁面31aと他のリブ壁面31bは、図1図4にて示されるように、互いに並列した後、さらにリブ壁面高さを漸減してなくなるように構成されている。すなわち、ダンパー連結部22に接続する一のリブ壁面31aの壁面高さがなくなる位置はロワアーム連結部23寄りの位置であり、一方、ロワアーム連結部23に接続する他のリブ壁面31bの壁面高さがなくなる位置はダンパー連結部22寄りの位置となっている。かかる壁面形状によって、連結部であるダンパー連結部22とロワアーム連結部23から両リブ壁面31a,31bを伝って伝播する荷重は、それぞれ別の連結部に近い位置まで分散されることとなる。つまり、本実施形態によれば、荷重分散点を連結部付近にすることができるので、より高い剛性を有するアルミ製のステアリングナックルを提供することが可能となっている。
【0039】
さらに、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20において、一のリブ壁面31aと他のリブ壁面31bは、両リブ壁面31a,31bの全体を面側から見たときに(すなわち、図2の視点で見たときに)、当該両リブ壁面31a,31bの外郭形状が広角に開いた略V字形の稜線を描いて形成されている。つまり、上述したような応力集中を避けつつ荷重分散点を連結部付近にするといった作用効果を得ながらも、両リブ壁面31a,31bの外郭形状を必要最低限の範囲で形成する構成が採られているので、より高い剛性を有しつつ軽量化をも実現した、従来にはないアルミ製のステアリングナックルが実現されている。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0041】
例えば、上述した本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20は、前輪(フロント)用の車両用懸架装置1に用いられる場合を想定した形態を有するものであった。しかしながら、本発明は、後輪(リア)用のアルミ製ステアリングナックルに対しても適用可能である。ここで、後輪(リア)用のアルミ製ステアリングナックルの具体例として、図6を示す。図6は、本発明に係るアルミ製ステアリングナックルが取り得る多様な形態例のうちの一例を示す外観斜視図である。
【0042】
別形態に係るアルミ製ステアリングナックル60は、その中央部分に上述したホイールハブ(不図示)等の車輪支持体の取り付け箇所となる本体部61を有している。本体部61の中央には、略円形空洞61aが形成されており、さらに、この略円形空洞61aの周囲には、4つのボルト孔61bが形成されている。
【0043】
本体部61の周囲には、複数の連結部が形成されている。すなわち、本体部61の上方にはアッパーアーム連結部63が、本体部61の前方(図6における紙面左側)にはラテラルフロント連結部64が、本体部61の下方にはトレーリングアーム連結部65が、本体部61の後方斜め下方(図6における紙面右下側)にはラテラルリア連結部66が、形成されている。そして、別形態に係るアルミ製ステアリングナックル60には、本体部21の周囲に設けられて外部部材に連結される複数の連結部(アッパーアーム連結部63、ラテラルフロント連結部64、ラテラルリア連結部66)の間のそれぞれに、複数のリブ壁面71が立設されている。これら複数のリブ壁面71については、複数のボルト孔61bの周囲を取り囲むように形成されており、さらに、これらのリブ壁面71は、車両本体側に向けて立設して設けられている。
【0044】
またさらに、図6で示した別形態に係るアルミ製ステアリングナックル60では、ラテラルフロント連結部64とラテラルリア連結部66との間に設置されたリブ壁面が一のリブ壁面71aと他のリブ壁面71bとで構成されるとともに、これら両リブ壁面71a,71bの一部分同士が、本体部61上で並列して設けられている。かかる構成を有することで、後輪(リア)用のアルミ製ステアリングナックル60についても、上述した本実施形態に係る前輪(フロント)用のアルミ製ステアリングナックル20と同様の作用効果を発揮することができる。
【0045】
また、例えば、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20では、本体部21の車両後方向(図1における紙面右方向)に対してアーム24とタイロッド連結部25が形成され、本体部21の車両前方向(図1における紙面左方向)に対してブレーキキャリパー設置部26が形成されていた。しかしながら、アーム24及びタイロッド連結部25の形成位置と、ブレーキキャリパー設置部26の形成位置については、本実施形態の場合と左右逆に形成されていてもよい。
【0046】
さらに、上述した本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20は、マクファーソン・ストラット形式の懸架装置に使用されるものであったが、本発明の適用範囲は、この形式に限定されるものではない。例えば、ダブルウイッシュボーン式やマルチリンク式などといったその他のあらゆる形式に対して、本発明の技術思想を適用することが可能である。
【0047】
またさらに、本実施形態に係るアルミ製ステアリングナックル20の製造方法については、背景技術の欄で例示した重力鋳造や傾斜重力鋳造などといった鋳造技術だけではなく、鍛造などのその他の製法によっても製造することが可能である。
【0048】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0049】
1 車両用懸架装置、2 ダンパー、3 ロワアーム、5 タイロッド、6 ブレーキキャリパー、10 ディスクローター、15 車輪、20,60,120 アルミ製ステアリングナックル、21,61,121 本体部、21a,61a 略円形空洞、21b,61b ボルト孔、31,31a,31b,71,71a,71b リブ壁面、22,122 ダンパー連結部、23,123 ロワアーム連結部、24,124 アーム、25,125 タイロッド連結部、26,126 ブレーキキャリパー設置部、63 アッパーアーム連結部、64 ラテラルフロント連結部、65 トレーリングアーム連結部、66 ラテラルリア連結部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6