(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
がん治療のため、手術によりリンパ節を切除し、或いは放射線治療を行うと、リンパ浮腫やリンパ漏が発症し易いことが知られている。リンパ浮腫とは、リンパ管におけるリンパ液の吸収、運搬、及び排除機能の低下により、皮下組織に組織間液が溜まった状態のことをいう。また、リンパ漏とは、皮膚直下のリンパ管が拡張し、水泡状になった部分からリンパ液が漏れ出してくる状態をいう。リンパ浮腫は、一旦発症すると完治は困難であり、患者はほぼ一生リンパ浮腫と付き合って行かなければならない。特に、婦人科手術により骨盤内リンパ節切除や鼠径リンパ節切除などを行った後に発症する外陰部や恥骨部におけるリンパ浮腫は、悪化すると外陰部からリンパ液が漏れ出る外陰部リンパ漏の症状を呈する。このような状態に至ると、患者の肉体的・精神的苦痛は並大抵のものではない。また、定期的な治療が必要となるため、経済的な負担も非常に大きい。
【0003】
その一方で、恥骨部や外陰部におけるリンパ浮腫は、早期にケアを行うことで発症を予防し、症状を軽減し、又は悪化を抑制できる可能性がある。そのため、リンパ浮腫の発症前又は症状が初期の段階で適切なケアを行うことが非常に重要である。
【0004】
ここで、国立研究開発法人国立がん研究センターによる日本の最新がん統計まとめ(非特許文献1参照)では、2012年に新たに診断されたがん(罹患全国推計値)は865,238例(男性503,970例、女性361,268例)と報告されている。また、手術後に発症するリンパ浮腫は、毎年、上肢で約2,000人、下肢で約3,500人のペースで増加しており、リンパ浮腫の患者数は、原因が不明な原発性と、リンパ節郭清等により後天的に引き起こされる二次性とを合わせると、10〜15万人と推定されている。中でも、子宮がん治療などによる婦人科手術後のリンパ浮腫は4人に1人の割合で発症すると言われており、リンパ浮腫の発症の予防と、発症した患者へのケアが喫緊の課題となっている。
【0005】
リンパ浮腫の治療法としては、リンパ浮腫療法士による用手的リンパドレナージ、圧迫療法、圧迫下での運動療法、弾性着衣の選択や装着の指導、スキンケアなどが挙げられる。用手的リンパドレナージ(以下「ドレナージ」という)とは、手の平を皮膚に密着させた状態で皮膚の表面を優しく撫で、リンパ液を流そうとする方向にゆっくりと圧をかけ皮膚を2〜3秒に1回程度伸張させることにより、正常に機能するリンパ節にリンパ液を誘導して浮腫みを改善させるための医療用のマッサージである。
【0006】
しかしながら、ドレナージの効果は一時的であり、短時間しか継続しないため、効果を持続させるためには、ドレナージ後の圧迫療法が不可欠である。圧迫療法には、皮下組織内の圧力を高め、リンパ液の毛細血管からの漏れ出しやリンパ液の滞留を防ぐ効果があるため、これをドレナージ後に行うことで、ドレナージにより誘発されたリンパ液の流れを維持し、表在リンパ管から深部リンパ管への誘導を補助促進して症状を改善することができる。このような圧迫療法は、一般的に、弾性スリーブ、弾性グローブ、弾性ストッキング等の弾性着衣や弾性包帯などを用いて行なわれる。
【0007】
圧迫療法に関連する技術として、例えば、特許文献1には、平面視略逆三角形状に形成された2枚のクッションを備えるリンパ浮腫治療用腹部パッド(特許文献1の段落0065〜0070及び
図7参照)、及び、平面視略菱形状に形成された本体及び羽根部を備えるリンパ浮腫治療用陰部パッド(同段落0077〜0083及び
図8参照)が開示されている。これらのリンパ浮腫治療用腹部パッド及びリンパ浮腫治療用陰部パッドには、装着時に縦方向となる縫目が形成されており、それにより、縫目と縫目との間に凸形状が形成され、縦方向の蒲鉾形状が並列に存するようになっている。
【0008】
また、非特許文献2には、キューブ型のスポンジを不織布によって挟んだテープ状(帯状)の圧迫用品が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現在のところ、恥骨部や外陰部を適切に圧迫することができる専用の製品は市販されていない。例えば、上述したようなテープ状の圧迫用品は、通常、ケアすべき部分に巻き付け、バンドなどを用いて当該部分に固定することにより用いられるが、このような圧迫用品を恥骨部や外陰部に巻き付けることは困難であり、バンドなどを用いたとしても、よじれやずれが生じてしまい、恥骨部や外陰部を適切に圧迫し続けることが困難である。
【0012】
また、上述したように、恥骨部や外陰部のリンパ浮腫の症状の改善には、表在リンパ管から深部リンパ管に向けてリンパ液を誘導することが有効であり、そのためには、縦方向(上下方向)の流れだけでなく、身体の左右の中心から左右の骨盤部に向かう流れを誘発することが重要である。この点に関し、上記特許文献1においては、ベルトを用いてリンパ浮腫治療用腹部パッドを装着することにより下腹部を加圧し、それによって縦方向(特許文献1の
図7の矢印F方向)にリンパ液の流れを補助することとしている。また、ベルトを用いてリンパ浮腫治療用陰部パッドを装着することにより陰部を加圧し、それによって縦方向(特許文献1の
図8の矢印G−H方向)にリンパ液の流れを補助することとしている。つまり、特許文献1においては、リンパ液の1つの方向(縦方向又は上下方向)における流れしか考慮されていない。
【0013】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、恥骨部及び外陰部におけるリンパ浮腫を予防し、症状を改善し、又は悪化を抑制することができるリンパ浮腫ケア用パッド及びショーツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の一態様であるリンパ浮腫ケア用パッドは、細長いシート状をなし、着用者の少なくとも肛門前部から外陰部を経て恥骨部にわたる領域を覆うように形成された第1のパッド部と、前記第1のパッド部側の端部から反対側の端部に向かって広がる形状を少なくとも一部に有するシート状をなし、前記着用者の恥骨部から下腹部にわたる領域を覆うように形成された第2のパッド部と、を備え、前記第1及び第2のパッドの各々の前記着用者側の面の少なくとも一部に、凹凸が分散して設けられているものである。
【0015】
上記リンパ浮腫ケア用パッドにおいて、前記凹凸は、前記第1及び第2のパッド部の各々の前記面の少なくとも一部に、弾性を有する材料によって形成された複数の突起体を配置することにより設けられても良い。
【0016】
上記リンパ浮腫ケア用パッドにおいて、前記複数の突起体は、前記第1のパッド部において、該第1のパッド部の長手方向に沿って少なくとも1つの列状に配置され、前記第2のパッド部の左右の中央領域において、前記第1のパッド部の長手方向と同じ方向に沿って少なくとも1つの列状に配置され、前記第2のパッド部の前記中央領域の左右の領域において、前記長手方向に対して斜め方向に少なくとも1つの列状に配置されていても良い。
【0017】
上記リンパ浮腫ケア用パッドにおいて、前記複数の突起体の各々の頂点は、球面状又は非球面状に湾曲していても良い。
上記リンパ浮腫ケア用パッドにおいて、前記複数の突起体は、高さが異なる複数種類の突起体を含んでも良い。
【0018】
上記リンパ浮腫ケア用パッドにおいて、前記第1及び第2のパッド部並びに前記複数の突起体は、シリコーンゴムにより形成されていても良い。
上記リンパ浮腫ケア用パッドにおいて、前記第1及び第2のパッド部並びに前記複数の突起体は、一体的に形成されていても良い。
【0019】
上記リンパ浮腫ケア用パッドにおいて、前記第1及び第2のパッド部に、複数の貫通孔が形成されていても良い。
【0020】
本発明の別の態様であるショーツは、リンパ浮腫ケア用のショーツであって、ショーツ本体と、細長いシート状をなし、着用者の少なくとも肛門前部から外陰部を経て恥骨部にわたる領域を覆うように形成された第1のパッド部と、前記第1のパッド部側の端部から反対側の端部に向かって広がる形状を少なくとも一部に有するシート状をなし、前記着用者の恥骨部から下腹部にわたる領域を覆うように形成された第2のパッド部とを収納する少なくとも1つのポケットと、を備えるものである。
【0021】
上記ショーツにおいて、前記少なくとも1つのポケットの後端部に開口が設けられていても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1及び第2のパッド部により着用者の少なくとも肛門前部から外陰部を経て恥骨部にわたる領域と、恥骨部から下腹部にわたる領域との両方を、分散して設けられた凹凸によって加圧することができる。それにより、リンパ液の1つの方向における流れだけでなく、2次元的に広がる流れを誘発し、恥骨部及び外陰部におけるリンパ浮腫を予防し、症状を改善し、又は悪化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係るリンパ浮腫ケア用パッド及びショーツについて、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。以下の説明において参照する図面は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、比率、及び位置関係を概略的に示しているに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、比率、及び位置関係のみに限定されるものではない。
【0025】
本出願において、リンパ浮腫の「ケア」とは、リンパ浮腫及びそれに伴うリンパ漏の症状の軽減、改善、及び悪化の抑制、並びに、リンパ浮腫の発症を防ぐ予防を含むものとする。
【0026】
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係るリンパ浮腫ケア用パッド(以下、単に「パッド」という)を示す模式図である。このうち、
図1は、同パッドの表側を示し、
図2は同パッドの裏側を示している。ここで、パッドの表側とは、パッドを着用した際に着用者側を向く側のことである。また、
図3は、
図1に示すリンパ浮腫ケア用パッドを装着した際のパッドと骨盤との位置関係を示す模式図である。
図4は、同パッドの一部を拡大して示す斜視図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係るパッド100は、全体として細長いシート状の第1パッド部101と、この第1パッド部101の端部と接続されたシート状の第2パッド部102とを備える。第2パッド部102は、全体として、第1パッド部101の端部側(図の下側)から反対側(図の上側)に向かって広がる形状を有している。第1パッド部101及び第2パッド部102の少なくとも表側の面の少なくとも一部(
図1においては全体)には、凹凸が分散して設けられており、このうちの凸の部分により、該パッド100を着用した着用者の皮膚を加圧するようになっている。
【0028】
パッド100の形状及びサイズは、第1パッド部101及び第2パッド部102により着用者の必要な部位(下腹部や外陰部など)を加圧できるように定められている。パッド100により加圧する部位の大きさは、着用者の体形、リンパ浮腫の発症の有無、発症の度合などにより大きく異なっている。例えば元の体形が同程度の着用者同士であっても、リンパ浮腫がまだ発症していない着用者と、リンパ浮腫の症状が進行した着用者とでは、下腹部の径や下腹部から肛門前部にかけての長さが大幅に異なってくる。そのため、個々の着用者の体形を計測し、その計測結果に合わせてパッド100の形状及びサイズを決定すると良い。或いは、汎用性を高めるため、Sサイズ、Mサイズ、Lサイズなどと、パッド100のサイズを段階的に設定し、着用者の体形や症状に応じて適切なサイズを選択することとしても良い。後者の場合、例えば骨盤外計測法(大骨盤の外側の2点間を皮膚の上から計測する方法)による骨盤の寸法の平均値を目途に、リンパ浮腫の発症によるサイズの増加を考慮して、各サイズを設定すると良い。
【0029】
パッド100のうち、第1パッド部101は、着用者の少なくとも肛門前部から外陰部301を経て恥骨部302にわたる領域を覆う部分である。第1パッド部101の長さL1は、肛門前部から恥骨部にかけての領域を覆うことができるように、13cm〜16cm程度にすると良い。もちろん、第1パッド部101が肛門前部を超え、肛門後部或いはその先の背中側に至っても何ら問題はない。即ち、第1パッド部101は、着用者の肛門の一部を覆うものであっても良いし、肛門全体を覆うものであっても良い。また、第1パッド部101の幅W1は、外陰部の幅を十分にカバーしつつ、歩行などの妨げにならないよう、概ね股間の幅に相当する5cm〜9cm程度にすると良い。なお、
図1においては、第1パッド部101のうち、第2パッド部102と接続されていない側の端部103を略半円状としているが、端部103の形状はこれに限定されず、例えば、矩形状としても良いし、矩形の角を面取りした形状としても良い。ただし、着用者の皮膚への刺激を考慮し、端部103はできるだけ角のない形状とすることが好ましい。
【0030】
第2パッド部102は、着用者の恥骨部302から下腹部303にわたる領域を覆う部分である。本実施形態においては、この領域に合わせて、第2パッド部102の形状を全体として逆三角形状にしている。詳細には、第2パッド部102に互いに所定の角度をなす2つの辺104、105を設け、これらの辺104、105を第1パッド部101の長手方向の2つの辺とそれぞれ接続することにより、第2パッド部102が第1パッド部101の側から末広がりとなるようにしている。2つの辺104、105のなす角度は特に限定されないが、着用者の下腹部(恥骨部)を幅広く覆うためには概ね80°以上とすることが好ましい。第2パッド部102の長さL2は、恥骨部302から下腹部303にかけての領域を覆うことができるように、10cm〜15cm程度にすると良い。また、第2パッド部102の幅W2は、できるだけ腸骨稜間距離k1及び前腸骨棘間距離k2をカバーし、ほぼ腸骨を覆うことができるように、22cm〜27cm程度にすると良い。
【0031】
なお、
図1においては、逆三角形の底辺にあたる辺(
図1の上側の辺)106の左右の角を丸くしているが、左右の端部の形状はこれに限定されない。例えば、辺106の左右の端部を逆三角形の角のままとしても良いし、これらの角を面取りしても良い。後者の場合、第2パッド部102は、全体として六角形又は八角形などの多角形状となる。また、
図1における辺106を凸状又は凹状に湾曲させても良い。例えば、第2パッド部102を、全体として扇形状にしても良い。もっとも、第1パッド部101と同様、着用者の皮膚への刺激を考慮し、第2パッド部102についてもできるだけ角のない形状とすることが好ましい。
【0032】
図5は、パッド100の拡大縦断面図である。
図5に示すように、本実施形態においては、シート110の表側の面に複数の突起体111を設けることにより、第1パッド部101及び第2パッド部102に凹凸を形成している。シート110と突起体111とは、同時に一体的に形成しても良いし、別に作製した突起体111に対してシート110を後から一体化させることとしても良い。後者の場合、シート110と突起体111の組成は必ずしも同一でなくても良い。また、シート110のうち、突起体111が設けられていない領域には、複数の貫通孔112が形成されている。なお、本実施形態においては、シート110の裏側の面を平滑面としている。
【0033】
シート110は、着用者がパッド100を装着した際に、着用者の体形に沿って容易に変形する柔軟性を有する材料によって形成されている。また、突起体111は、着用者の体表に押し付けられた際に、着用者に痛みを感じさせず、且つ、程よく着用者の皮膚を圧迫することができる柔軟性及び弾性を有する材料によって形成されている。
【0034】
シート110及び突起体111の材料としては、天然ゴムや合成ゴムなどの弾性ゴム、特に軟質の弾性ゴムを用いることが好ましい。中でも、ゴム状のシリコーン樹脂であるシリコーンゴムは、柔軟性と、程よい一定の力で着用者の皮膚を圧迫し続けることができる弾性とを有している。シート110及び突起体111は、例えば、人の皮膚に近い柔軟性及び弾性を有していることが好ましく、シリコーンゴムの場合、配合するシリコーンオイルの量を調整することにより柔軟性や弾性を制御できるという利点がある。
【0035】
このシリコーンゴムは、高い安全性が認められているため、医療分野や食品分野などでも使用されており、皮膚にとって優しい素材である。また、皮膚と接触した状態で長時間連続して使用することも可能である。さらに、シリコーンゴムは、繰り返し使用に耐え得る耐久性を有している、温度による物性の変化が少ないため、着用者の体温が変化しても一定の押圧力を維持できる、洗浄に強いため衛生的に使用できる、といった利点もあるため、シート110及び突起体111の材料として好適である。本実施形態においては、シート110及び突起体111を、シリコーンゴムにより形成している。
【0036】
シート110の厚さtは、使用する材料の特性(柔軟性)にもよるが、好ましくは0.5mm〜2mm程度にすると良い。厚さtがこの範囲よりも薄い場合、パッド100の耐久性が低下する可能性が生じると共に、パッド100の扱いが困難になる。反対に、厚さtがこの範囲よりも厚い場合、着用者が装着時にごわつきなどの違和感を覚える可能性があると共に、重さが負担になるおそれがある。
【0037】
各突起体111の形状は特に限定されないが、好ましくは着用者の皮膚に対する押圧力が1点に集中し易い形状、具体的には、球面状又は非球面状のように先端部が凸に湾曲した形状にすると良い。このような形状にすることにより、各突起体111の弾性と相俟って、着用者の皮膚に直接又は薄手の布などを介して接した突起体111の先端領域が、皮膚から離れることなく、概ね一定の圧力で皮膚をなでたりさすったり、或いは皮膚に沿って揺れながら加圧し、皮膚を軽くゆするようなマッサージ作用が生じる。
【0038】
各突起体111の基端部における直径φ1は、好ましくは7mm〜13mm程度である。直径φ1が上記範囲よりも小さい場合、着用者が突起体111から受ける圧力が強くなり過ぎる可能性がある。反対に、直径φ1が上記範囲よりも大きい場合、着用者が突起体111から受ける圧力が分散し易くなると共に、着用者の皮膚への押圧点となる突起体111の先端同士の間隔が離れすぎてしまい、複数の突起体111によるリンパ液の誘導作用が十分に発揮されなくなるおそれがある。
【0039】
各突起体111の高さ(シート110の裏側の面から測定した場合の高さ)hは、好ましくは3mm〜7mm程度である。直径φ1との比率にもよるが、高さhが上記範囲よりも低い場合、上述したマッサージ作用が十分に発揮されなくなるおそれがある。反対に、高さhが上記範囲よりも高い場合、着用者の皮膚に対する圧力が強くなり過ぎる可能性がある。本実施形態においては、突起体111を、直径約11mm、高さ約5mmの略半球状としている。
【0040】
ここで、突起体111の高さhは、全ての突起体111の間で揃える必要はない。高さが異なる複数種類の突起体111を混在させることで、パッド100の表面(突起体111の頂点を接続した面)に全体として微妙な凹凸が生じるので、着用者の皮膚をより効果的に加圧することができる。この場合、突起体111の高さhを、例えば約3mm〜約7mmの範囲で変化させれば良い。
【0041】
隣接する突起体111同士の間隔dは、好ましくは2mm〜15mm程度である。間隔dが上記範囲よりも狭い場合、着用者の皮膚を個々の突起体111が加圧するというよりも、複数の突起体111で面状に押さえつけるような状態となり、リンパ液を誘導する作用が低減してしまうおそれがある。また、後述する貫通孔112を設けるスペースもなくなってしまう。反対に、間隔dが上記範囲よりも広い場合、着用者の皮膚への押圧点となる突起体111の先端同士の間隔が離れすぎてしまい、やはり、リンパ液の誘導作用が十分に発揮されなくなるおそれがある。
【0042】
貫通孔112は、直径φ2が例えば3mm〜9mm程度の孔であり、シート110を穿孔することにより形成されている。貫通孔112の配置は特に限定されないが、突起体111を囲むように、シート110全体に分散させるように配置すると良い。このように、シート110に多数の貫通孔112を設けることで、パッド100に通気性を付与することができ、着用者は、蒸れを感じることなくパッド100を使用することができる。本実施形態においては、貫通孔112の直径φ2を、約6mmとしている。
【0043】
次に、第1パッド部101及び第2パッド部102における突起体111の好ましい配置について説明する。
図6〜
図8は、突起体111の配列を説明するための模式図である。
【0044】
表在リンパ管系には属性があり、集合リンパ管のような太いリンパ管では、どのリンパ管を流れてきたリンパ液がどのリンパ節に入るかが決まっている。また、身体の左右の中心、臍の高さ、鎖骨の高さなどの位置においては、集合管同士のつながりが少なくなる境界線が引かれる。この境界線は、リンパ分水嶺と呼ばれている。通常、リンパ液がリンパ分水嶺を越えて流れることは難しく、リンパ液は、リンパ分水嶺により区分けされた各領域内において、組織の間隙から毛細リンパ管を介して集合リンパ管内に流入し、当該集合リンパ管が属するリンパ節に至る。さらに、リンパ液は、身体のより深部(筋膜下)に運ばれ、深部リンパ管を通って左右の鎖骨上窩に流入する。
【0045】
従って、ある領域内におけるリンパ節を郭清したことによってリンパ浮腫が生じている場合、当該領域からリンパ分水嶺を超えて、別の領域に属するリンパ節に流れ込むようにリンパ液を誘導することができれば、リンパ浮腫の症状を改善することができる。当該領域においてリンパ節が郭清されているために、このリンパ節に属する集合リンパ管からリンパ液を流出させることができなくても、皮膚直下の毛細リンパ管を通じて、リンパ分水嶺を越えるようにリンパ液を誘導することにより、リンパ液を別のリンパ節に属する集合リンパ管に流入させることができる。
【0046】
皮膚直下に存在する表在リンパ管におけるリンパ末端の毛細リンパ管は、非常に細かく分岐し、皮下脂肪の中に網目状に張り巡らされている。また、毛細リンパ管は弁構造を有しないため、リンパ液がどの方向にも流れていくという特徴がある。そのため、パッド100においては、このような毛細リンパ管の特性を考慮し、毛細リンパ管内においてリンパ液が必要な方向に流れ易くなるように、突起体111を配置している。
【0047】
上述したように、パッド100は、第1パッド部101が外陰部301から恥骨部302にわたる領域に当てられ、第2パッド部102が恥骨部302から下腹部303にわたる領域に当てられるように装着される(
図3参照)。それにより、外陰部301、恥骨部302、及び下腹部一帯を圧迫し、毛細静脈からリンパ管へのリンパ液の流動を誘発すると共に、外陰部301側から恥骨部302側にリンパ液を誘導し、さらに、恥骨部302側から左骨盤部305及び右骨盤部304付近にリンパ液を誘導して、リンパ液が正常に機能する(郭清されていない)リンパ節に流入するように補助促進する。
【0048】
このとき、鼠径リンパ節や骨盤内リンパ節が郭清されていなければ、外陰部301側から恥骨部302側に誘導されたリンパ液はそのまま鼠径リンパ節や骨盤内リンパ節に流れ込むことができる。しかし、鼠径リンパ節や骨盤内リンパ節が郭清されている場合、加圧の刺激により誘発されたリンパ液の流動性は高まるが、恥骨部302や下腹部303付近ではリンパ液の行き場のない状態となる。しかし、この場合であっても、骨盤部で背部リンパ節及び腋窩リンパ節への流れが生じていれば、リンパ液が流れ出すことにより骨盤部におけるリンパ管内の圧力が低下する。それにより、外陰部301から恥骨部302、下腹部303にかけて誘導されたリンパ液が押し出されるようにしてリンパ分水嶺を越え、背部リンパ節及び腋窩リンパ節に流れ込むことができる。
【0049】
このようなリンパ液の流れを効率的に誘発するため、第1パッド部101及び第2パッド部102の各々においては、突起体111が所定の配列で配置されている。
まず、第1パッド部101においては、外陰部301から恥骨部302へのリンパ液の流れを生じさせるため、
図6に示すように、複数の突起体111を、縦方向(第1パッド部101の長手方向)に少なくとも1つの列(
図6においては5列)をなすように配列する。この際、外陰部301から恥骨部302さらには股関節部306に向かう方向に流れを誘発するため、
図7に示すように、中央領域113から図の左右の斜め上方向に突起体111を配列すると、より好ましい。つまり、第1パッド部101においては、
図6に示す縦方向の列と、
図7に示す斜め上方向の列との交点に突起体111を配置することが好ましい。
【0050】
また、第2パッド部102においては、第1パッド部101により外陰部301から恥骨部302に誘導されたリンパ液を、下腹部303からさらに骨盤上部307に誘導するため、
図6に示すように、複数の突起体111を、縦方向(第1パッド部101の長手方向と同じ方向)に少なくとも1つの列(
図6においては13列)をなすように配列する。また、恥骨部302から上方向に誘導されたリンパ液を骨盤上部307、右骨盤部304、及び左骨盤部305の上方にも誘導するため、
図7に示すように、複数の突起体111を、中央領域113から図の左右の斜め上方向に向かって少なくとも1つの列をなすようにも配列する。さらに、恥骨部302から上方向に誘導されたリンパ液を右骨盤部304及び左骨盤部305に誘導するため、
図8に示すように、複数の突起体111を、中央領域113から弧を描くように左右に向かって少なくとも1つの列をなすように配列する。つまり、第2パッド部102においては、
図6に示す縦方向の列と、
図7に示す斜め上方向の列と、
図8に示す左右方向の列との交点に突起体111を配置することが好ましい。
【0051】
図9及び
図10は、突起体111のさらなる配置方法を説明するための模式図である。突起体111は、上述したように規則的に配列した上で、さらに、不規則に配置しても良い。詳細には、パッド100の中央領域113に配置された突起体111と、
図6〜
図8に示す3つの方向の交点に配置された突起体111の周囲に、突起体111の半径rよりは近づかず、且つ、突起体111の直径2rよりは離れない範囲に、突起体111を順次配置していく。言い換えると、ある突起体111の中心点Oの周囲に半径rの同心円、半径2rの同心円、及び半径3rの同心円を描き、半径2rの同心円と半径3rの同心円とによって囲まれる領域S上に、突起体111を配置する。領域S上であれば突起体111の位置は限定されず、例えば、領域Sの内周円と接する位置(突起体111a参照)でも良いし、領域Sに一部がかかる位置(突起体111b参照)でも良いし、領域Sの外周円と接する位置(突起体111c参照)でも良い。このようにして新たな突起体111(突起体111a〜111c参照)の位置を決定すると、さらに、その中心点Oを基準に、同様にして次の突起体111の位置を決定する。それにより、
図10に示すように、突起体111の不規則な配置を形成することができる。
【0052】
このように、リンパ液を流す方向を考慮して規則的に配列した突起体111の間に、突起体111を不規則に配置することにより、リンパ液の分散的な流れを補助促進することが可能となる。
【0053】
次に、本実施形態に係るショーツについて説明する。
図11は、本実施形態に係るショーツの裏面(前側)を示す模式図である。
図12は、同ショーツの裏面(後ろ側)を示す模式図である。
図13は、同ショーツを着用者に装着させた状態を示す模式図である。
【0054】
図11及び
図12に示すように、本実施形態に係るショーツ200は、ショーツ本体201と、ショーツ本体201の裏面に設けられたポケット202とを備える。ショーツ本体201の構造は一般的な女性用のショーツと同様であるが、浮腫みを考慮して、一般的なものよりも大きめにサイズを設定することが好ましい。また、ショーツ本体201の素材としては、着用者の皮膚への刺激を考慮し、綿100%の生地を用いることが好ましい。
【0055】
ポケット202は、
図1に示すパッド100の収納部であり、ショーツ本体201に対するパッド100の位置を固定するためのものである。ポケット202は、パッド100の形状に合わせて形成されており、ショーツ本体201の前側から後側にかけて設けられ、第1パッド部101を収納する細長い第1収納部203と、ショーツ本体201の前側に設けられ、第2パッド部102を収納する第2収納部204とを含む。ポケット202は、一部を除き、周縁部においてショーツ本体201に縫い付けられている。
【0056】
第2収納部204の上端205は、左右の所定範囲(例えば、左右それぞれ4〜5cm程度の範囲)のみにおいてショーツ本体201に縫い付けられており、一部を縫い残すことにより開口206が設けられている。この開口206がパッド100の出入口となっている。開口206の幅は、パッド100を挿入することができれば特に限定されず、例えば15cm程度あれば良い。
【0057】
第1収納部203の後端207は、左右の所定範囲(例えば、左右それぞれ3〜5cm程度の範囲)のみにおいてショーツ本体201に縫い付けられており、一部を縫い残すことにより開口208が設けられている。ここで、上述したように、パッド100は柔軟な材料により形成されているので、パッド100を開口206から押し込むだけでは、パッド100がポケット202の途中で曲がったり詰まったりして、平らな状態でパッド100をポケット202に収納することが困難である。そこで、開口208から指などを挿入してパッド100を引っ張ることで、パッド100をポケット202に容易に収納することができる。開口208の幅は、指などを挿入してパッド100を掴むことができれば特に限定されず、例えば3〜5cm程度あれば良い。
【0058】
なお、ポケット202を設ける側は、ショーツ本体201の裏面に限定されない。ショーツ本体201を編成する生地にもよるが、パッド100の突起体111による圧力を着用者の皮膚に伝えることができる程度にショーツ本体201の生地が薄ければ、ショーツ本体201の表側にポケット202を設けても良い。
【0059】
パッド100を装着する際には、突起体111が設けられている側をショーツ200の内側に向け、パッド100をポケット202に挿入する。このようにパッド100が収納されたショーツ200を履くことにより、パッド100が、着用者の骨盤部、下腹部、恥骨部、外陰部、及び肛門前部にそれぞれ正確に押し当てられる。本実施形態において、パッド100はシリコーンゴムによって形成されているので、ポケット202の中でもパッド100が滑り難く、ずれ難い。そのため、ショーツ200の着用者が歩いたり動き回ったりしても、着用者の各部にパッド100が適切に押し当てられた状態を維持することができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、細長いシート状の第1パッド部101と、第1パッド部101から広がるように形成されたシート状の第2パッド部102とにより、着用者の少なくとも肛門前部から外陰部を経て恥骨部及び下腹部にわたる領域を覆い、これらの領域を適切に加圧することができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、パッド100に凹凸を分散して設けるので、このうちの凸部によって皮膚を概ね点状に加圧することができる。つまり、皮膚を連続的な線状に加圧する場合と異なり、加圧した箇所を起点として四方八方にリンパ液を流すことができる。それにより、身体の上下方向に沿ったリンパの流れだけでなく、身体の中央から左右の側に向かう2次元的なリンパの流れを誘発することができる。従って、恥骨部及び外陰部におけるリンパ浮腫の発症を予防し、リンパ浮腫及びリンパ漏の症状を改善し、又はそれらの悪化を抑制することが可能となる。
【0062】
なお、パッド100を使用した結果、浮腫の症状が改善すると、パッド100のサイズに対して着用者の体形が小さくなるため、パッド100が着用者の肛門前部を越え、肛門後部から背中側に当たるようになる。しかしながら、この部分をパッド100で圧迫したとしても、肛門後部側のリンパ液は分水嶺により背中側に流れるため、リンパ液の停滞が生じるおそれはない。そのため、リンパ浮腫の予防(再発防止)のため、当該着用者が同じサイズのパッド100を引き続き使用したとしても問題はない。もちろん、リンパ浮腫が発症している間であっても、着用者の体形に対してサイズが大きいパッド100を使用しても問題ない。この場合も、上述した分水嶺により、肛門前部側と肛門後部側とにおいて、それぞれ所定の方向に向けてリンパ液が流れるので、浮腫の症状の軽減効果を得ることができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、第1パッド部101及び第2パッド部102に、着用者の身体に当てられる部位に応じた配列で複数の突起体111を設けるので、好ましい方向へのリンパ液の流れを補助促進することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態によれば、弾性を有する材料によって複数の突起体111を形成するので、単に着用者の皮膚を圧迫するだけでなく、突起体111によるマッサージ作用を得ることができる。従って、リンパ液の流動をさらに促進することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態によれば、シリコーンゴムによってパッド100を形成するので、着用者の患部や体形に自然に沿って皮膚を優しく加圧し、マッサージ作用及び圧迫作用を得ることができる。また、長期の繰り返し使用や洗浄に対する耐久性等をパッド100に付与することもできる。
【0066】
また、本実施形態によれば、シート110に複数の貫通孔112を形成するので、通気性を確保することができる。従って、パッド100の着用中であっても、リンパ浮腫及びリンパ漏の発症部における蒸れを抑制することができ、着用者は快適にパッド100を使用することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、ショーツ本体201にポケット202を設けたショーツ200にパッド100を収納することにより、着用者はこのショーツ200を履くだけで、骨盤部、下腹部、恥骨、外陰部、及び肛門前部一帯に対してパッド100を適切に当てて加圧することができると共に、着用者が動いてもその状態を維持することができる。
【0068】
このようなパッド100及びショーツ200を用いることにより、着用者はリンパ浮腫及びリンパ漏に対するセルフケアを容易に行うことができる。
【0069】
本実施形態に係るリンパ浮腫ケア用パッド及びショーツの開発段階において、リンパ浮腫療法士の指導の下、リンパ浮腫を発症している3名の患者A〜Cに当該パッド及びショーツを試着してもらったところ、以下のように症状の改善が見られた。なお、本実施形態に係るリンパ浮腫ケア用パッドは、恥骨部や外陰部という非常にデリケートな部位における症状の改善を目的としているため、以下に示す効果はいずれも着用者本人の申告によるものである。
【0070】
患者Aは、リンパ浮腫がなかなか改善しないため複数の病院を転々としており、リンパ浮腫を発症してからの期間が長かった。大腿部にリンパ浮腫の重い症状が現れていたため、当初は、リンパドレナージの施術を受けた後、弾性ストッキングを着用していた。しかし、治療の過程で、本人より、外陰部においてもリンパ浮腫が発症している旨の訴えがあったため、リンパ浮腫ケア用パッド及びショーツを試着してもらったところ、着用後2〜3日で、本人が外陰部における浮腫の軽減を実感した。また、外陰部の症状が重篤であるときには、大腿部の浮腫も重く、脚を動かすこと自体が非常に困難であったため、階段の上り下りにも苦労していたが、リンパ浮腫ケア用パッド及びショーツの着用開始後、気が付くと楽に階段を上り下りできるようになっていたという。
【0071】
患者Bは、比較的重量のある荷物を運ぶことの多い業務に従事しており、普段から弾性ストッキングを着用していた。しかし、仕事中にリンパ漏を発症しため、医師の指示に従い、仕事を休み回復を待っていた。しかし、自宅で横になっていても、一向に症状は改善しなかった。患者Bは、リンパ漏の急性期にあったが、リンパ浮腫ケア用パッド及びショーツを試着してもらったところ、2日後にリンパ漏の症状が治まった。
【0072】
患者Cは、恥骨部にリンパ浮腫の症状が見られたため、リンパ浮腫ケア用パッド及びショーツを試着してもらった。患者Cは、病状により生活の中での活動量が非常に少ない状態であるが、恥骨部の浮腫は収まった。
【0073】
このように、本実施形態に係るリンパ浮腫ケア用パッド及びショーツを着用することにより、リンパ浮腫やリンパ漏の症状をわずかな期間で改善することができた。それにより、患者本人の肉体的及び精神的な苦痛を軽減し、生活の質の向上を図ることができる。また、病院や治療院での受診回数や受診費用を抑制することができ、仕事に復帰した場合には収入を確保することもできるので、結果として、経済的負担の軽減につながる可能性もある。
【0074】
以上説明した本発明の実施形態においては、第1パッド部101と第2パッド部102とが一体化されている場合を説明したが、両者は分離されていても良い。この場合、ショーツ200を用いて、第1収納部203に第1パッド部101を収納し、第2収納部204に第2パッド部102を収納しても良いし、ショーツ200の代わりに、第1パッド部101を収納するためのポケットと、第2パッド部102を収納するためのポケットとが別々に設けられたショーツを用いても良い。いずれにしても、第1パッド部101と第2パッド部102とを隣接させることにより、両者に設けられた突起体111の配列の連続性を確保できれば良い。
【0075】
また、上記実施形態においては、第1パッド部101及び第2パッド部102の表側の全面に突起体111を分散して配置したが、突起体111を配置する領域は表側の面の一部であっても良い。例えば、第2パッド部101を、下腹部全体を覆うような大きめのサイズに形成し、そのうち、着用者の恥骨部から下腹部を覆う略逆三角形の領域にのみ突起体111を配置することとしても良い。