(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408566
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】多糖類繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 2/02 20060101AFI20181004BHJP
D03D 15/00 20060101ALI20181004BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20181004BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20181004BHJP
C08B 37/00 20060101ALN20181004BHJP
【FI】
D01F2/02
D03D15/00 A
D04B1/14
D04B21/00 B
!C08B37/00 P
【請求項の数】14
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-520184(P2016-520184)
(86)(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公表番号】特表2016-529405(P2016-529405A)
(43)【公表日】2016年9月23日
(86)【国際出願番号】AT2014000122
(87)【国際公開番号】WO2014201481
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年4月21日
(31)【優先権主張番号】A490/2013
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】500077889
【氏名又は名称】レンツィング アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】クラフト、 グレゴール
(72)【発明者】
【氏名】クロナー、 ガート
(72)【発明者】
【氏名】ローダー、 トーマス
(72)【発明者】
【氏名】フィーゴ、 ハインリヒ
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0161861(US,A1)
【文献】
特表2002−535501(JP,A)
【文献】
米国特許第07000000(US,B1)
【文献】
特開昭54−052793(JP,A)
【文献】
米国特許第04306059(US,A)
【文献】
特開昭61−239018(JP,A)
【文献】
特表2014−534294(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0087938(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/052730(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/177348(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
9/00−9/04
D03D 15/00
D04B 1/14
21/00
C08B 1/00−37/18
Japio−GPG/FX
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α(1→3)−グルカンを紡糸溶液としての水酸化ナトリウム水溶液に溶解させる直接溶解法を含む、繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンである多糖類繊維の製造方法。
【請求項2】
紡糸溶液におけるNaOH濃度が、前記紡糸溶液の総量に対して4.0重量%〜5.5重量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
紡糸浴におけるH2SO4濃度が、200g/l〜500g/lである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
紡糸浴におけるH2SO4濃度が、20g/l〜60g/lである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
紡糸された多糖類繊維は続いて酸再生浴で延伸される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記α(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、前記ヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記多糖類繊維がステープルファイバーまたは連続フィラメントである、請求項1〜請求項6のうちいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンである多糖類繊維であって、水酸化ナトリウム水溶液中での直接溶解法を用いて製造される、多糖類繊維。
【請求項9】
前記α(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、前記ヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している、請求項8に記載の多糖類繊維。
【請求項10】
前記多糖類繊維がステープルファイバーまたは連続フィラメントである、請求項8又は請求項9に記載の多糖類繊維。
【請求項11】
繊維製品の製造のための、請求項8に記載の多糖類繊維の使用。
【請求項12】
前記繊維製品が糸、織布、または編地である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
不織布の製造のための、請求項8に記載の多糖類繊維の使用。
【請求項14】
前記多糖類繊維がステープルファイバーまたは連続フィラメントである、請求項11〜請求項13のうちいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維形成性物質としてα(1→3)−グルカンを含み、溶媒として水酸化ナトリウム水溶液を用いた多糖類繊維を製造するための直接溶解法、それからなる繊維、ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類は、それらが再生可能な原料から得ることが可能な材料であることから、ますます重要になりつつある。最も多く存在する多糖類の一つはセルロースである。ほぼセルロースのみからなる綿繊維は、多糖類の重要性の一例である。しかしながら、他のセルロース系原料から得られた材料、例えば、セルロース系合成繊維もまた、重要性が高まり続けている。
【0003】
一般名「ビスコース繊維」および「モダール繊維」は、BISFA(国際化繊協会)によって、水酸化ナトリウム水溶液および二硫化炭素(CS
2)を用いたセルロースの化学的誘導体化によって製造されたセルロース繊維に与えられた。
【0004】
「モダール繊維」という名前は、BISFAによって定義された総称であって、規定の高湿潤強度および同様に規定の高湿潤モジュラス(すなわち、湿潤状態で繊維の伸びを5%生じさせるのに必要な力)を有するセルロース繊維を表す。
【0005】
しかしながら、今日まで、ビスコースおよびモダール型の繊維の大規模生産については、ただ一つの方法のみが受け入れられており、すなわち、ビスコース法とその変形である。
【0006】
多くの特許明細書およびその他の出版物から、どのようにこの方法が行われるか、当業者にはかなり前から一般に知られている。モダール繊維の製造方法は、例えば、AT287.905Bから知られる。
【0007】
すべてのビスコース法の大きな欠点は、回収に大いに手間がかかるに違いないCS
2の使用である。
【0008】
一般名「リヨセル繊維」は、BISFAによって、有機溶媒溶液から誘導体を形成することなく製造されたセルロース繊維に与えられた。
【0009】
しかしながら、今日まで、リヨセル型の繊維の大規模生産については、ただ一つの方法のみが受け入れられており、すなわち、アミン‐オキシド法である。この方法では、第三級アミンオキシド、好ましくは、N‐メチルモルホリン‐N‐オキシド(NMMO)が溶媒として使用される。
【0010】
第三級アミンオキシドは長い間セルロースの代替溶媒として用いられている。例えば、US2,179,181から、第三級アミンオキシドは、パルプを誘導体化することなく溶解させることが可能で、セルロースの成型体、例えば繊維は、これら溶液から作製できることが知られる。US3,447,939は、セルロースの溶媒として用いられた環状アミンオキシドを記載している。
【0011】
多くの特許明細書およびその他の出版物から、どのようにこの方法が行われるか、当業者にはかなり前から知られている。例えばEP356419B1には、どのように溶液が製造されるかが記載され、EP584318B1には、かかるセルロースの第三級アミンオキシド水溶液がどのように紡糸されるかが記載されている。
【0012】
直接溶解法であるため、リヨセル法は、生態学的観点からビスコース法よりも著しく安全であるものの、ほぼ完全に閉鎖された工程を与える経済的必要性のため、物質がこれら工程に堆積し得るので、工程技術の観点から欠点を伴う。
【0013】
US7,000,000は、α(1→3)‐グリコシド結合によって結合したヘキソースの繰り返し単位から実質的になる多糖類の溶液を紡糸することによって得られた繊維を記載している。これらの多糖類は、サッカロースの水溶液をStreptococcus salivariusから単離したグルコシルトランスフェラーゼ(GtfJ)と接触させることによって製造することが可能である(Simpson et al.,Microbiology,vol.41,pp 1451−1460(1995))。この文脈では、「実質的に」とは、この多糖鎖内では、他の結合形態も存在し得る偶発的な欠陥位置が存在していてもよいことを意味する。本発明では、これらの多糖類を「α(1→3)−グルカン」と呼ぶことにする。
【0014】
US7,000,000は、第一に、単糖類からのα(1→3)−グルカンの酵素的製造の可能性を開示している。この方法で、比較的短鎖の多糖類が、モノマー単位の損失なくこれらポリマー鎖がこれらモノマー単位から構築されたように製造することができる。短鎖セルロース分子の製造と比較して、このα(1→3)−グルカンの製造は、ポリマー鎖が短いほど、この場合における反応器での必要とされるであろう滞留時間が短時間になるので、より安価になり続ける。
【0015】
US7,000,000によれば、このα(1→3)−グルカンは、誘導体化、好ましくはアセチル化されるものである。好ましくは、その溶媒は有機酸、有機ハロゲン化合物、フッ素化アルコール、またはかかる成分の混合物である。これら溶媒は、高価であり、かつ再生には手間がかかる。
【0016】
しかしながら、α(1→3)−グルカンが希水酸化ナトリウム水溶液に溶解することも研究で示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
かかる従来技術を考慮して、本目的は、したがって、ビスコース法では必要なCS
2なしで、リヨセル法の、労力を消費する工程閉鎖をすることなく対処可能な、多糖類繊維製造のための代替直接溶解法を提供することである。
【0018】
上述した目的は、繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンである多糖類繊維製造のための新規な直接溶解法であって、水酸化ナトリウム水溶液に基づく前記直接溶解法よって解決される。
【0019】
したがって、本発明の主題は、一方では、繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンである多糖類繊維の製造方法であって、その方法は直接溶解法であり、その溶媒は水酸化ナトリウム水溶液である。
【0020】
意外にも、ビスコース法で使用されるような標準の紡糸浴(H
2SO
4約100g/lおよびNa
2SO
4約250g/lを含む)は、極めて悪い結果を生じるが、他の2つの、大変異なる紡糸浴組成は、著しく良い結果を生じることが分かった。
1.高酸紡糸:フィラメントの形成および再生フィラメントの延伸性は、紡糸浴の硫酸濃度の増加で顕著に良くなることが発見された。良好な紡糸性が観察された範囲は、紡糸浴1リットル当たり硫酸200グラム〜500グラムに及ぶ。
2.低酸紡糸:著しく良好な紡糸信頼性を示した第二の紡糸範囲は、紡糸浴1リットル当たり60グラム未満、好ましくは20g/l〜60g/lの非常に低い酸濃度である。良好な結果は、2浴系を用いても得られたが、ここでは、第一浴が非常に高い塩含量であり、かつ非常に低い酸濃度であって、それによって、紡糸されたフィラメントは最初は凝固されるのみで、第二の、酸再生浴でのみ再生される。
【0021】
本発明の方法の好ましい実施形態において、紡糸浴のH
2SO
4濃度は、それ故200g/l〜500g/lである。
【0022】
本発明の方法の第二の好ましい実施形態において、紡糸浴のH
2SO
4濃度は、それ故20g/l〜60g/lである。
【0023】
本発明の方法の好ましい実施形態において、紡糸繊維は続いて酸再生浴で延伸される。
【0024】
本発明によれば、紡糸
溶液のNaOH濃度は、紡糸溶液の総量に対して4.0重量%〜5.5重量%であるべきである。この範囲外では、グルカンの溶解性は十分には確保されない。
【0025】
本発明では、「繊維」という用語は、規定の繊維長を備えるステープルファイバーおよび連続フィラメントの両方を含むものとする。後述する本発明の原則はすべて、概してステープルファイバーおよび連続フィラメントの両方に適用する。
【0026】
本発明の繊維の単繊維の繊度は、0.1dtex〜10dtexであり得る。好ましくは、0.5dtex〜6.5dtexであり、より好ましくは、0.9dtex〜6.0dtexである。ステープルファイバーの場合、その繊維長は、通常0.5mm〜120mmであり、好ましくは20mm〜70mmであり、より好ましくは35mm〜60mmである。連続フィラメントの場合、このフィラメント糸の中の個々のフィラメントの本数は、50〜10,000であり、好ましくは、50〜3000である。
【0027】
前記α(1→3)−グルカンは、サッカロースの水溶液をStreptococcus salivariusから単離したグルコシルトランスフェラーゼ(GtfJ)と接触させることによって製造することが可能である(Simpson et al.,Microbiology,vol.41,pp 1451−1460(1995))。
【0028】
本発明の方法の好ましい実施形態において、α(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、これらヘキソース単位の少なくとも50%はα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している。
【0029】
本発明の繊維の製造方法は、以下のステップからなる。
1.希水酸化ナトリウム水溶液中でα(1→3)−グルカン溶液を調製する。
2.前記α(1→3)−グルカン含有紡糸溶液を、紡糸口金から硫酸紡糸浴に押し出し、この繊維を酸再生浴で延伸し、後処理する。
【0030】
紡糸溶液中での繊維形成性物質の濃度は、4重量%〜18重量%でよく、好ましくは、4.5重量%〜12重量%である。
【0031】
本発明の方法に使用されるα(1→3)−グルカンの重量平均DP
wとして表される重合度は、200〜2000でよく、500〜1000の値が好ましい。
【0032】
好ましい実施形態において、本発明の多糖類繊維のα(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、これらヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している。
【0033】
繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンである上述した多糖類繊維であり、同様に上述した水酸化ナトリウム水溶液中での直接溶解法を用いて製造された多糖類繊維もまた、本発明の主題である。
【0034】
様々な乾式および湿式紙、不織布、衛生製品、例えば止血栓、おりものシート、およびおむつ等、ならびにその他の不織布、特に吸収性不織布製品の製造のためだけでなく、糸、織布、または編地等の繊維製品の製造のための本発明の繊維の使用もまた、本発明の主題である。
【0035】
以下、実施例を参照しながら本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に明確に限定されないだけでなく、同一の発明の概念に基づく他の実施形態のすべてをも含む。
【0036】
実施例
α(1→3)−グルカン類の重合度は、GPCによってDMAc/LiCl中で測定した。次に、特定された重合度は常に重量平均重合度(DP
w)である。
【0037】
(実施例1)
DP
w800のα(1→3)−グルカン9%およびNaOH4.5重量%を含むグルカン水溶液を3℃に冷却し、濾過し、さらに脱気した。紡糸口金を用いて、この溶液を、硫酸300g/l、および硫酸ナトリウム50g/lを含む35℃の紡糸浴に押し出した。この紡糸口金は直径50μmの穿孔を53有していた。適切な繊維の強度を出すために、再生浴(97℃、25g/lのH
2SO
4)での延伸を行った。この延伸速度は30m/分であった。
得られた繊維の特性を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
DP
w1000のα(1→3)−グルカン9%およびNaOH4.8重量%を含むグルカン水溶液を0℃に冷却し、濾過し、さらに脱気した。紡糸口金を用いて、この溶液を、硫酸35g/l、硫酸ナトリウム280g/l、および硫酸亜鉛45g/lを含む20℃の紡糸浴に押し出した。この紡糸口金は直径40μmの穿孔を53有していた。適切な繊維の強度を出すために、再生浴(92℃、55g/lのH
2SO
4)での延伸を行った。この延伸速度は25m/分であった。得られた繊維の特性を表1に示す。