【発明が解決しようとする課題】
【0003】
圧電メッシュに基づくネブライザ(その1つの種類は、圧電素子及びメッシュからなる"平板"形状を使用してエアロゾルを生成する)は、上記薬物送達装置においてエアロゾルを発生させるのに通例は使用され、それにより、圧電素子はメッシュを用いて液体を振動させ、微細なエアロゾルのスプレーを生成する。メッシュは多数(例えば5000から15000個)の小さなノズル又は穴を含み、液滴を形成するために、液体がこれらノズル又は穴を通ることができる。メッシュはノズルプレート、開口プレート又は膜としても知られている。
【0004】
図1は、例示的なネブライザ2を示す。このネブライザ2は、ネブライザ2のユーザが排出口8を介して息を吸うとき、空気が吸入口6及び排出口8を介して、ネブライザ2に流入し、通過して、ユーザの身体内に流れるように配される吸入口6及び排出口8を持つ本体4を有する。排出口8は通例、マウスピース又は顔若しくは鼻マスクの形式で、又は別個の交換可能なマウスピース又は顔若しくは鼻マスクに接続するのに適した形式で設けられる。
【0005】
ネブライザ2は、吸入口6と排出口8との間に、噴霧される(すなわち、微細なミスト又はスプレーにされる)液体12、例えば薬剤又は薬物を蓄えるための噴霧室10を有する。ネブライザ2は、薬剤又は薬物をユーザに送るためにユーザが息を吸うとき、液体12の微細な液滴がネブライザ2に流入した空気と混合するように構成される。
【0006】
例えば圧電素子のようなアクチュエータ14は、噴霧室10に蓄えられる液体12を攪拌又は振動させるために、噴霧室10のある壁部に沿って設けられる。メッシュ16は、噴霧室10においてアクチュエータ14の向かい側に位置決められ、噴霧される液体12がアクチュエータ14とメッシュ16との間の空洞に保持される。メッシュは、多数のノズルを有し、液体12がこれらノズルを通過して、液滴を形成する。メッシュ16は、液体12及びアクチュエータ14に面している吸入側18と、液体12の液滴が現れる、吸入側18の反対側にある排出側20とを持つ。
【0007】
図1に示されていなくても、ネブライザ2は、他の噴霧される液体を保持する及び必要な量の液体12が噴霧室10に維持されるように噴霧室10に接続される貯留槽を有してもよい。
【0008】
アクチュエータ14は、液滴を作るためにメッシュ16にあるノズルを介して液体12を押す超音波圧力波を液体12に作るように動作する。
【0009】
患者は一般に、特定の治療投与において一定量の薬剤を投与しなければならないので、治療時間は主にネブライザにより発生する液滴の質量流量により決定される。特に、投薬量が多い新しい薬剤、例えば生物製剤にとって、治療時間は、現在利用可能なネブライザを用いて数時間にまでなり得る。
【0010】
息を吸うとき、薬が治療効果を持つように、及び特に薬が肺に蓄積されるようにするために、薬のエアロゾルの液滴のサイズは、治療上狭い範囲内にしなければならない。薬が肺の一部に蓄積される液滴のサイズが決定される。
図2のグラフは、粒子のサイズが口及び喉、気道並びに肺胞領域における蓄積率にどの位影響しているかを示す。
【0011】
薬が肺の奥深くに蓄積され、口及び喉の蓄積が最小となる場合、1−5μmのサイズの枠であることが
図2から分かる。多くの医用応用にとって、5μmの質量中央径(MMD)が液滴の上限と考えられる。5μmのMMDは、薬物の50%が5μmより小さな液滴で含まれることを意味している。
【0012】
メッシュにより形成される液滴のサイズは、ノズルの出口直径(すなわちメッシュの液滴が現れる側、すなわち
図1のネブライザ2のメッシュ16の排出側にあるノズルの直径)により決められる。液滴の直径は、
図3に示されるようにノズルの出口直径dの凡そ2倍である。これは、メッシュ16が2.5μmの平均出口直径を持つノズルを持つべきことを意味している。
【0013】
簡略化したモデルにおいて、全ノズルは、アクチュエータ14の各サイクル中に1つの液滴を作る。故に、より大きな液滴は、ネブライザ2からのより高い質量流量となる。
【0014】
ロバストな製品にとって、一定のアクチュエータ振動周波数でのエアロゾルの質量流量の製品毎の変動は低くなるべきである。故に、この出力変動に制限を規定することは、ノズルの出口直径に関する許容変動に影響を与える。
【0015】
ある実施例において、質量流量に関し±25%の変動が許容可能であると仮定される。圧力波の度にノズル毎に1つの液滴が作られると仮定すると、質量流量は、ノズルの出口直径dの3乗に依存する液滴の体積V
drop(V
drop=(4π/3)・(d/2)
3)に依存している。液滴の質量の25%の変化は従って液滴の直径の7.7%の変化に対応している。
【0016】
液体の1分当たりのグラム数に関してエアロゾルの出力は、規定制限内の1.64(90%)の標準偏差であるとみなすと仮定される。液滴のサイズに関し許される標準偏差σ
dropは、7.7/1.64=4.7%である。液滴の直径d
dropがある定数cで乗算されたノズルの出口直径dと等しいと仮定すると、σ
drop2=c
2・σ
nozzle2である。2.5μmの出口直径を持つノズルにより4.5μmの直径を持つ液滴が生成されると仮定すると、ノズルの出口直径dの0.065μmの変動である2.6%が得られる。従って、ノズルの出口直径dに厳密な許容誤差が存在する。
【0017】
ノズルの出口直径dの厳密な許容誤差に加え、メッシュ16は、効果的に動作するために、単位面積当たり一定の質量を持つ必要がある。メッシュ16の質量は、(
図1にt
meshと示される)メッシュ16の厚さが(
図1にt
separationと示される)アクチュエータ14からのメッシュ16の距離間隔よりも大幅に小さいと考えられる必要がある。アクチュエータ14により発生する圧力波がメッシュ16により反射され、アクチュエータ14に戻される場合、共振空洞が作られる。反射される圧力波は、圧力をさらに増大させるのに役立ち、エネルギーをシステム内に保持し、アクチュエータ14により液体に入力される必要があるエネルギーを僅かにする。場合によっては、単位面積当たり0.04グラム/cm
2の質量を持つメッシュ16がこの共振空洞を作るのに十分である。
【0018】
しかしながら、メッシュ16の厚さは小さくすべきであるという付加制約によって、メッシュ16の単位面積当たりの質量は、例えばステンレス鋼、プラチナ又はニッケルパラジウムのような高密度の金属からメッシュ16を形成することにより通常は唯一達成されることができる。
【0019】
従って、メッシュ16は、ノズルの出口直径に厳密な許容誤差を及び共振空洞を作るのに十分なメッシュの単位面積当たりの質量を用いて作られるべきであるという問題がある。加えて、メッシュ16は一般にネブライザの交換可能な部分であるため、このメッシュ16を製造するコストは低くなるべきである。現在市場にある製品は、(プラチナ又はニッケルパラジウムを使用する)電鋳法(electroformation)又は(ステンレス鋼に)レーザー穴あけ(laser-drilling)を使用して、メッシュ16を作っている。しかしながら、必要なノズルの出口直径及びこの直径の変動は、これらの技術を用いて達成するには難しく、0.065μmの標準偏差が達成される場合、製造工程による低い収益及び高コストとなる。
【0020】
従って、ノズルの出口直径に厳密な許容誤差を及び共振空洞を作るのに必要とされるメッシュの単位面積当たりの質量を持ち、高い収益の製造工程を用いて低いコストで製造され得るメッシュの必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、独立請求項の内容により解決され、他の実施例は、従属請求項に含まれている。本発明の以下に説明する態様は、ネブライザにおいて液滴を形成するのに使用するメッシュ、並びにネブライザにおいて液滴を形成するのに使用するメッシュを製造する方法にも応用することに注意すべきである。
【0022】
本質的により正確な製造方法を用いて、他の種類の材料でノズルの出口直径の厳密な許容誤差を達成することが可能であることは分かっている。例えば、化学エッチングするシリコンのノズル又はレーザーエッチングするポリマーのノズルは、前記要求される許容誤差を満すが、これらの材料から作られるメッシュは、質量の要件を満たすほどの十分な高密度ではない。
【0023】
故に、本発明に従って、2つの異なる種類の材料からの有用な特性が組み合わされてメッシュを形成するハイブリッド形状を有するメッシュを提供する。特に、メッシュのある部分は、必要なメッシュの単位面積当たりの質量を提供する第1の材料から作られる及びメッシュのもう1つの部分は、必要な出口直径を持つノズルを形成するのに使用される(第1の材料より低密度の)第2の材料から作られる。
【0024】
特に、本発明の第1の態様に従って、ネブライザにおいて液滴を形成するのに使用するメッシュを提供し、このメッシュは、貫通する複数の穴を持つ、第1の材料から作られる第1の部分、及びこの第1の部分と接触している第2の材料から作られる第2の部分を有し、第2の部分は、貫通する対応する複数の穴を持ち、第2の部分にある前記複数の穴は、メッシュの排出側に向けてノズルを形成し、前記第1の材料は前記第2の材料より高密度である。
【0025】
例に従って、第1の材料から作られる第1の部分にある複数の穴は、メッシュの吸入口を形成する第1の開口である。第2の材料から作られる第2の部分にある複数の穴は、メッシュの排出口を備えるノズルを形成する第2の開口である。第2の部分は、吸入口と排出口との間に遷移部を備える。排出口は、吸入口よりも小さい。
【0026】
例に従って、ノズルを形成する第2の開口は、流れる方向に減少する幅を持つ先細る断面を持つ。第2の材料は、ノズルの口を形成する増大する材料の厚さを備える。
【0027】
例に従って、第1の材料から作られる第1の部分にある複数の穴は、第1の開口径を持つ第1の穴形状を備える。第2の材料から作られる第2の部分にある複数の穴は、第2の開口径を持つ第2の穴形状を備える。第2の開口径は、第1の開口径より小さい。第1の部分にある複数の穴は、第1の供給口を備え、第2の部分にある複数の穴は、第1の供給口より下流に配される第2の排出口としてノズルを備える。
【0028】
例に従って、第1の材料は、8g/cm
3より高い及び/又は22g/cm
3より低い密度を持つ材料である。
【0029】
例に従って、第1の材料は、金属又は金属合金とすることができる。特に、第1の材料は、ステンレス鋼、プラチナ、コバルト、金、タングステン又はニッケルパラジウムとすることができる。
【0030】
例に従って、第2の材料は、0.8g/cm
3より高い及び/又は3g/cm
3より低い密度を持つ材料である。
【0031】
例に従って、第2の材料は、シリコン、ポリマー又はエポキシとすることができる。特に、第2の材料は、ポリカーボネート、ポリイミド又はエポテック(登録商標)353NDとすることができる。
【0032】
例において、各ノズルは、メッシュの排出側に既定の範囲内にある直径を持つ。
【0033】
例に従って、第2の部分にある複数の穴は、第1の部分にある穴の直径と概ね同じである直径から、メッシュの排出側に既定の範囲内にある直径に先細る直径を持つ。
【0034】
第2の部分の第2の材料は従って、ノズルを形成するのに第1の材料よりも多く貢献している。簡単に言うと、第1の材料は、基礎構造を提供するのに用いられるが、第2の材料は、正確なノズルの形状、寸法及び位置を提供するのに用いられる。
【0035】
幾つかの実施例において、第1の部分は第1の材料からなる層又はプレートである。
【0036】
幾つかの実施例において、第2の部分は第2の材料からなる層又はプレートである。
【0037】
幾つかの実施例において、第2の材料からなる層又はプレートは、第1の材料からなる層又はプレートに接合又は付着される。
【0038】
代替実施例において、第2の部分は、第1の部分の穴に置かれる第2の材料を有する。
【0039】
幾つかの実施例において、第1の部分にある複数の穴は、概ね一様な直径又はメッシュの吸入側にある直径から、メッシュの他方の側にあるより小さな直径に先細る直径を持つ。
【0040】
例に従って、第1の材料は、複数の穴を有する層又はプレートとして設けられ、第2の材料は、第1の部分の穴に少なくとも部分的に置かれる複数のインレー(inlay)として設けられ、各インレーは、第1の材料にある穴の1つを一部満たし、第2の材料で形成されるノズルを持つ。
【0041】
例に従って、第1の材料は、複数の穴を有する第1の層又はプレートとして設けられ、第2の材料は、そこにノズルか形成される第2の層又はプレートとして設けられる。
【0042】
例に従って、第1の部分は好ましくは、ネブライザにおいて共振空洞を作るのに十分な質量を持つ。
【0043】
例に従って、それに加え若しくはその代わりに、第1の部分は、少なくとも0.04g/cm2の単位面積当たりの質量を持つ。
【0044】
本発明の第2の態様に従って、上述したようなメッシュを有するネブライザを提供する。
【0045】
例に従って、ネブライザは、ネブライザのユーザが排出口を介して息を吸うとき、空気が吸入口及び排出口を介して、ネブライザに流入し、通過して、ユーザの身体内に流れるように配される吸入口及び排出口を持つ本体を有する。排出口は、マウスピース又は顔若しくは鼻マスクの形式で、又は別個の交換可能なマウスピース又は顔若しくは鼻マスクに接続するのに適した形式で設けられる。さらに、吸入口と排出口との間に、液体を蓄えるための噴霧室が設けられる。ネブライザは、薬剤又は薬物をユーザに送るためにユーザが息を吸うとき、微細な液滴がネブライザに流入した空気と混合するような、上述したメッシュと共に構成される。
【0046】
本発明の第3の態様に従って、ネブライザにおいて液滴を形成するのに使用するメッシュを製造する方法を提供する。この方法は、貫通して形成される複数の穴を持つ、第1の材料から作られる第1の部分を設けるステップa)及びメッシュの排出側に向けてノズルを形成するために、第1の材料より低密度の第2の材料から作られる第2の部分を使用するステップb)を有し、第2の部分は第1の部分と接触して置かれ、第2の部分は、貫通して形成される対応する複数の穴を持つ。
【0047】
例において、第1の材料は、8g/cm
3より高い及び/又は22g/cm
2より低い密度を持つ材料である。第1の材料は金属又は金属合金とすることができる。特に、第1の材料は、ステンレス鋼、プラチナ、コバルト、金、タングステン又はニッケルパラジウムとすることができる。
【0048】
例に従って、貫通して形成される複数の穴を持つ、第1の材料から作られる第1の部分を設ける前記ステップは、
a1)第1の材料から作られる第1の部分を設けるステップ、及び
a2)第1の部分を貫通する複数の穴を形成するステップ
を有する。
【0049】
幾つかの実施例において、第1の部分を貫通する複数の穴を形成する前記ステップは、レーザー穴あけを使用するステップを有する。
【0050】
代替実施例において、第1の部分を設ける前記ステップは、電鋳法を使用するステップを有する。
【0051】
例において、第2の材料は、0.8g/cm
3より高い及び/又は3g/cm
3より低い密度を持つ材料である。第2の材料は、シリコン、ポリマー又はエポキシとすることができる。特に、第2の材料は、ポリカーボネート、ポリイミド又はエポテック(登録商標)353NDとすることができる。
【0052】
幾つかの実施例において、第2の部分を貫通して形成される複数の穴は、化学エッチング、レーザーエッチング又はレーザー穴あけを使用して形成される。
【0053】
例に従って、貫通して形成される複数の穴を持つ、第1の材料から作られる第1の部分を設ける前記ステップは、
−メッシュの吸入口を形成する第1の開口として、第1の材料から作られる第1の部分に複数の穴を設けるステップ、
を有する。
【0054】
貫通して形成される複数の穴を持つ、第2の材料から作られる第2の部分を使用するステップは、
−前記メッシュの排出口を持つノズルを形成する第2の開口として、第2の材料から作られる第2の部分に複数の穴を設けるステップ、
を有する。
【0055】
第2の部分は、吸入口と排出口との間に遷移部を備える。さらに、排出口は吸入口よりも小さい。
【0056】
例に従って、ステップb)において、流れる方向に減少する幅を持つ先細る断面を持つ、前記ノズルを形成する第2の開口が設けられる、及びステップb)において、前記第2の材料は、前記ノズルの口を形成する増大する材料の厚さを備える。
【0057】
例に従って、ステップa)において、第1の材料から作られる第1の部分にある複数の穴は、第1の開口径を持つ第1の穴形状を備える。ステップb)において、第2の材料から作られる第2の部分にある複数の穴は、第2の開口径を持つ第2の穴形状を備え、第2の開口径は第1の開口径より小さい。
【0058】
ステップa)において、第1の部分にある複数の穴は、第1の供給口を設ける。
【0059】
ステップb)において、第2の部分にある複数の穴は、第1の供給口より下流に配される第2の排出口としてノズルを設ける。
【0060】
幾つかの実施例において、第1の部分を提供するステップは、第1の材料からなる層又はプレートを設けるステップを有する。
【0061】
例に従って、第1の材料は、複数の穴を有する層又はプレートとして設けられ、第2の材料は、第1の部分の穴に少なくとも部分的に置かれる複数のインレーとして設けられ、各インレーは、第1の材料にある穴の1つを一部満たし、第2の材料で形成されるノズルを持つ。
【0062】
例に従って、メッシュの排出側に向けてノズルを形成するために第2の部分を使用する前記ステップは、
b1)第2の材料の層又はプレートを設けるステップ、
b2)第2の材料に対応する複数の穴を形成するステップ、及び
b3)第1の部分を第2の部分に接合又は付着させるステップ
を有する。
【0063】
代替例に従って、メッシュの排出側に向けてノズルを形成するために第2の部分を使用する前記ステップは、
b4)第2の材料で第1の部分にある複数の穴を満たすステップ、及び
b5)第2の材料に複数のノズルを形成するステップ
を有する。
【0064】
好ましくは、第1の部分は、ネブライザに共振空洞を作るのに十分な質量を持つ。
【0065】
好ましくは、第1の部分は、少なくとも0.04g/cm
2の単位面積当たりの質量を持つ。