特許第6408659号(P6408659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6408659
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/08 20060101AFI20181004BHJP
   F02F 11/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   F16J15/08 P
   F02F11/00 L
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-138903(P2017-138903)
(22)【出願日】2017年7月18日
【審査請求日】2017年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198237
【氏名又は名称】石川ガスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】安田 紀章
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−097341(JP,A)
【文献】 特開平11−148556(JP,A)
【文献】 特開2003−139247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00−15/14
F02F 5/00、11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属板が積層してなり、一方向に並んだ複数の貫通孔と、この貫通孔を環状に囲繞するシール構造とを備えたガスケットにおいて、
前記シール構造は、平面視で、環径方向の外側に配置された第一のシールビードとこの第一のシールビードの内側に配置された第二のシールビードとの少なくとも二つのシールビードを有してなり、隣り合う前記貫通孔どうしの間の領域に存在する第一シール部とそれ以外の領域に存在する第二シール部とが環周方向に互い違いに配置されてなり、
前記第一シール部の平面形状は、環周方向の両端部から中央部に向って、前記シール構造の外側端が内側端に近づいて環幅が狭くなる形状を成し、前記第二シール部の平面形状は、環周方向に環幅が一定の形状を成し、
前記第一シール部の積層断面形状は、前記第二シール部の積層断面形状を環径方向にのみ縮小した形状を成すことを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記第一シール部は、平面視で、前記内側端が円弧状に形成され、前記外側端が楕円弧状又は弓形の弧状に形成されてなる請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記第一シール部の環幅の最小幅は、隣り合う前記貫通孔どうしの最小離間距離の半分となり、前記第一シール部の環幅の最大幅は、その最小幅に対して1.5倍以上、3倍以下となる請求項1又は2に記載のガスケット。
【請求項4】
前記シール構造は、前記第一のシールビードがハーフビードで形成されると共に前記第二のシールビードがフルビードで形成され、隣り合う前記貫通孔どうしの間の領域で一方の前記貫通孔を囲繞するハーフビードと他方の前記貫通孔を囲繞するハーフビードとが会合して、フルビードを成す請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットに関し、より詳細には、エンジンをダウンサイジング可能なガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟持されるガスケットには、隣り合う貫通孔どうしの間の領域に存在するビード幅を、それ以外の領域に存在するビード幅よりも狭くするものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−097341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンをダウンサイジングすることで、燃費を向上する試みが進められている。このエンジンのダウンサイジングに伴って、隣り合う貫通孔どうしが近接することになる。それ故、特許文献1に記載のようにシール構造を単純にすると共に、ビード幅を狭くする必要があった。
【0005】
しかし、シール構造を単純化すると、シリンダ内のガスの燃焼圧力が上昇してヘッドリフトが生じるとシリンダヘッドとシリンダブロックとの間が上下に広がるという問題や、シリンダブロックやシリンダヘッドにエンジン運転時の冷熱の影響による変形で窪みが生じるとガスケットのシール面が傾くという問題に対処できない。これらの上下の広がりやシール面の傾きなどは貫通孔の周縁の面圧の低下の要因となる。
【0006】
一方、貫通孔の周縁の面圧の低下を解消しようとして、シール構造を、例えば、環径方向に複数のビードを並べた複雑な構造にすると、特許文献1に記載のガスケットのようにビード幅のみを狭くするという技術思想を用いても、シール構造自体の環幅が広くなり、隣り合う貫通孔どうしの近接に対応することができない。
【0007】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その課題は、シール性能を低下させずに、隣り合う貫通孔どうしを近接可能にしてエンジンをダウンサイジングすることができるガスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明のガスケットは、複数の金属板が積層してなり、一方向に並んだ複数の貫通孔と、この貫通孔を環状に囲繞するシール構造とを備えたガスケットにおいて、前記シール構造は、平面視で、環径方向の外側に配置された第一のシールビードとこの第一のシールビードの内側に配置された第二のシールビードとの少なくとも二つのシールビードを有してなり、隣り合う前記貫通孔どうしの間の領域に存在する第一シール部とそれ以外の領域に存在する第二シール部とが環周方向に互い違いに配置されてなり、前記第一シール部の平面形状は、環周方向の両端部から中央部に向って、前記シール構造の外側端が内側端に近づいて環幅が狭くなる形状を成し、前記第二シール部の平面形状は、環周方向に環幅が一定の形状を成し、前記第一シール部の積層断面形状は、前記第二シール部の積層断面形状を環径方向にのみ縮小した形状を成すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガスケットは、隣り合う貫通孔どうしの間の領域に存在する第一シール部の環径方向の外側端を内側端に近づけて、第一シール部の積層断面形状を第二シール部の積層断面形状を環径方向にのみ縮小する。それ故、本発明によれば、第一シール部と第二シール部とで構造を複雑にしてシール性能を向上させつつ、貫通孔どうしが近接するに従って狭くなる領域に合わせて、第一シール部を狭くすることができる。これにより、貫通孔どうしを行き来する流体の漏れを確実に防ぎつつ、隣り合う貫通孔どうしを近接させるには有利になり、エンジンをダウンサイジングにすることができる。これに伴って、燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のガスケットの第一実施形態を例示する斜視図である。
図2図1のガスケットの要部の平面図である。
図3図1の矢印IIIで示す第一領域のシール構造の断面図である。
図4図1の矢印IVで示す第二領域のシール構造の断面図である。
図5】本発明のガスケットの第二実施形態を例示する第一領域のシール構造の断面図である。
図6】本発明のガスケットの第二実施形態を例示する第二領域のシール構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図中では、xを鉛直方向で、ガスケット20の厚さ方向(積層方向)とし、yをx方向に直交する方向で、シリンダボア14が並んでいる方向とし、zをx方向及びy方向に直交する方向とする。なお、図1図6は、構成が分かり易いように寸法を変化させており、寸法は必ずしも実際に製造するものの比率とは一致させていない。
【0012】
図1〜4に例示するように、第一実施形態のガスケット20は、エンジン10に組み付けられるものであり、シリンダブロック11及びシリンダヘッド12の間に介在し、ボルト13により締結されるシリンダヘッドガスケットである。
【0013】
図1に例示するように、シリンダブロック11は、シール対象孔として四つのシリンダボア14と、シリンダボア14の外周に形成されたウォータジャケット用の水孔や潤滑油用の油孔などの水油孔15とが形成されている。シリンダボア14の内部には、図示しないピストンが上下方向に往復自在に組付けられている。シリンダブロック11は、一つのシリンダボア14に対して四つのボルト孔16がシリンダボア14の外周に形成されている。
【0014】
シリンダヘッド12は、図示しないインジェクタや吸排気バルブが組付けられており、シリンダブロック11のボルト孔16に対応させたボルト孔17が貫通している。
【0015】
ガスケット20は、x方向下方に向って順に上層21、中間層22、及び下層23の三層が積層して平板状に形成されている。ガスケット20は、貫通孔24〜26が形成されている。貫通孔24はシリンダボア14に、貫通孔25は水油孔15に、貫通孔26はボルト孔16、17にそれぞれ対応しており、貫通孔24〜26は、上層21、中間層22、及び下層23の全ての層を貫通している。複数の貫通孔24は、y方向に並んでいる。ガスケット20は、貫通孔24のそれぞれを平面視で環状に囲繞する複数のシール構造30を有している。
【0016】
図2に例示するように、シール構造30は、平面視で、環径方向の内側端31から外側端32に向って少なくとも二つのシールビード33、34が並んでいる。また、シール構
造30は、平面視で、第一シール部35と第二シール部36とが環周方向に互い違いに配置されて構成されている。
【0017】
内側端31は、貫通孔24の周縁端であり、シール構造30の環周方向の全域に渡って円弧状に形成されている。外側端32は、ガスケット20がシリンダブロック11及びシリンダヘッド12の間に介在し、ボルト13により締結されたときにシール構造30により面圧が高くなる部位の環径方向の外側端である。外側端32は、第一シール部35と第二シール部36とで形状が異なっている。
【0018】
シールビード33は、上層21及び下層23のそれぞれに形成されているビードであり、シール構造30の内側端31の側に配置されていて、貫通孔24を囲繞している。シールビード34は、上層21及び下層23のそれぞれに形成されているビードであり、シール構造30の外側端32の側に配置されていて、貫通孔24及びシールビード33を囲繞している。シールビード33、34の詳細な説明については、後述する。
【0019】
第一シール部35は、シール構造30において隣り合う貫通孔24どうしの間の領域である第一領域A1に存在する部位である。第二シール部36は、シール構造30において第一領域A1以外の領域に存在する部位である。
【0020】
第一領域A1は、シリンダボア14に対応させた貫通孔24の中心P1とボルト孔16に対応させた貫通孔26の中心P2とを結ぶボルト軸線L1に囲まれた菱形の領域である。第一領域A1は、貫通孔24の中心P1と貫通孔26の中心P2との位置関係に基づいて設定される領域である。
【0021】
具体的に、y方向の両側のそれぞれに貫通孔24が隣り合う貫通孔24を囲繞するシール構造30(図中、左側のシール構造)では、平面視で、二つの第一シール部35と二つの第二シール部36とが環周方向に互い違いに配置されて構成されている。また、y方向の一方側にのみ貫通孔24が隣り合う貫通孔24を囲繞するシール構造30(図中、右側のシール構造)では、平面視で、一つの第一シール部35と一つの第二シール部36とが環周方向に配置されて構成されている。
【0022】
第一シール部35の平面形状は、環周方向の両端部37から中央部38に向って、外側端32が内側端31に近づいて環幅が狭くなる形状を成している。より具体的に、第一シール部35の平面形状は、内側端31が円弧状に形成されていて、外側端32が両端部37から中央部38に近づくに連れて内側端31に近づく楕円弧状又は弓形の弧状に形成されている。つまり、内側端31と外側端32との間が、両端部37で最も離間して、中央部38で最も近接する形状を成している。
【0023】
第一シール部35の環幅(内側端31と外側端32との間の長さ)が中央部38で最小幅B1となると共に両端部37で最大幅B2となっている。最小幅B1は、隣り合う貫通孔24どうしの最小離間距離B3の半分の幅になり、最大幅B2は、最小幅B1の1.5倍以上、3倍以下の幅になる。なお、本明細書において「以上」、「以下」はその境界値を含むものとする。
【0024】
第一シール部35は、環幅が環周方向において段階的に変化してもよいが、外側端が弧状を成すように、その環幅が両端部37から中央部38に向って最大幅B2から最小幅B1に滑らかに変化することが望ましい。
【0025】
第一シール部35の内側端31の円弧長は、z方向に並んだ貫通孔26の中心P2どうしの間が近接して、第一領域A1のz方向の長さが短くなるに連れて短くなり、中心P2
どうしの間が離間して、第一領域A1のz方向の長さが長くなるに連れて長くなる。第一シール部35の外側端32の楕円弧長又は弓形の弧長についても同様である。
【0026】
第二シール部36の平面形状は、環周方向に上述した両端部37の最大幅B2と同じ環幅が一定の形状を成している。第二シール部36は、円環形状を成していて、その環幅が環周方向の全域で上述した最大幅B2となっている。第二シール部36の円環の弧長は、z方向に並んだ貫通孔26の中心P2どうしの間が近接するに伴って長くなり、離間するに伴って短くなる。
【0027】
図3図4に例示するように、シール構造30は、上層21及び下層23の両方に少なくとも二つのシールビード33(33a、33b)、34(34a、34b)が形成されると共に、中間層22に折り返し部39が形成された複雑な構造を成している。
【0028】
中間層22は、積層断面視で、第一板材27と第二板材28との二枚がx方向下方に向って順に積層して構成されている。第一板材27及び第二板材28を構成する金属板としては、ステンレス鋼や鋼などの鉄合金からなる金属板、それらの金属板をアニール処理したものが例示でき、互いに異なる金属から構成されてもよい。
【0029】
第一板材27は、板厚D1の一枚の金属板から構成されている。第二板材28は、板厚D2の一枚の金属板から構成されている。第二板材28の板厚D2は、第一板材27の板厚D1の二倍の厚さよりも厚いことが望ましい。
【0030】
第一板材27は、貫通孔24側の周縁端29が曲げ加工等により第二板材28の貫通孔24側の端部を包み込むように折り返されて折り返し部39が形成されている。折り返し部39は、折り返されたその第一板材27が第二板材28の貫通孔24側の周縁端を内包して、グロメット状に形成されている。
【0031】
上層21及び下層23のそれぞれは少なくとも一枚の金属板で構成されている。上層21及び下層23は、それぞれの板厚を異ならせてもよく、それぞれが複数の金属板で構成されてもよい。上層21及び下層23を構成する金属板としては、ステンレス鋼などからなる弾性金属板が例示される。
【0032】
シールビード33(33a、33b)は、上層21及び下層23のそれぞれに形成されていて、平面視で環状を成し、周縁端29より環径方向内側に配置されて貫通孔24を囲繞している。シールビード34(34a、34b)は、上層21及び下層23のそれぞれに形成されていて、平面視で環状を成し、周縁端29より環径方向外側に配置されて貫通孔24及びシールビード33の両方を囲繞している。
【0033】
シールビード33は、環周方向全周に渡ってフルビードで形成されている。フルビードは、積層断面視で中央部の頂部が両端部よりもx方向に出っ張る凸形状を成しているビードをいう。
【0034】
上層21に形成されたシールビード33aは、x方向下方に向って頂部が突出していて、下層23に形成されたシールビード33bは、x方向上方に向って頂部が突出している。つまり、シールビード33a及びシールビード33bは互いに近接する方向に突出している。また、シールビード33aは、その頂部が折り返し部39の上端に接触し、シールビード33bは、その頂部が折り返し部39の下端に接触する。
【0035】
シールビード33a及びシールビード33bは、x方向一列に整列している。つまり、シールビード33a及びシールビード33bは、ビード幅方向であるy方向の中心位置が
一致している。
【0036】
この実施形態で、シールビード33は、フルビードの形状が積層断面視で等脚台形状を成しており、それぞれの頂部となる面はx方向に対向している。
【0037】
シールビード33a及びシールビード33bのビード形状は積層断面視における頂部の突出する方向以外は同一であることが望ましく、ビード高及びビード幅も同一であることが望ましい。具体的に、シールビード33a及びシールビード33bは中間層22を対象軸として上下対称形状を成している。
【0038】
シールビード34(34a、34b)は、環周方向全周に渡ってハーフビードで形成されている。ハーフビードは積層断面視で両端部のどちらか一方の端部が他方の端部に対してx方向に出っ張る段状を成しているビードをいう。
【0039】
上層21に形成されたシールビード34aは、内側端31の側の端部に対して外側端32の側の端部がx方向下方に向って突出している。下層23に形成されたシールビード34bは、内側端31の側の端部に対して外側端32の側の端部がx方向上方に向って突出している。つまり、シールビード34a及びシールビード34bは互いに近接する方向に突出している。また、シールビード34aは、その頂部が中間層22の第一板材27の上端に接触し、シールビード34bは、その頂部が中間層22の第二板材28の下端から離間している。なお、シールビード34bは、ガスケット20がシリンダブロック11及びシリンダヘッド12の間に介在し、ボルト13により締結されたときに第二板材28の下端に接触する。
【0040】
また、シールビード34a及びシールビード34bは、x方向一列に整列している。つまり、シールビード34a及びシールビード34bは、ビード幅方向であるy方向の中心位置が一致している。
【0041】
この実施形態で、シールビード34a及びシールビード34bは、ハーフビードの形状が積層断面視で「z」字状を成しており、それぞれの突出した端部となる面はx方向に対向している。
【0042】
シールビード34a及びシールビード34bのそれぞれのビード形状は積層断面視で頂部の突出する方向以外は同一であることが望ましく、ビード高及びビード幅も同一であることが望ましい。つまり、シールビード34a及びシールビード34bは中間層22に対して上下対称形状を成している。
【0043】
図3に例示するように、隣り合う貫通孔24どうしの間の領域である第一領域A1で、一方の貫通孔24を囲繞するシールビード34aと他方の貫通孔24を囲繞するシールビード34aとが会合している。同様に、シールビード34bどうしが会合している。
【0044】
この実施形態では、第一領域A1の中央部(第一シール部35の中央部38)を含む領域で、シールビード34aどうしが会合して、x方向下方に向って頂部が突出した一つのフルビードを成している。また、シールビード34bどうしが会合して、x方向上方に向って頂部が突出し一つのフルビードを成している。つまり、第一領域A1の中央部では、外側端32がy方向に隣接し、積層断面視で上下方向に二つのフルビードが形成されている。
【0045】
図3に例示するシール構造30の第一シール部35の積層断面形状は、図4に例示する第二シール部36の積層断面形状を環径方向にのみ縮小した形状を成している。
【0046】
図中において、H1は第一シール部35及び第二シール部36の高さを、H2は上層21の高さを、H3は中間層22の高さを、H4は下層23の高さを、それぞれ示している。
【0047】
また、B4〜B8は第一シール部35における環径方向の幅や距離を示しており、B4は内側端31からシールビード33の開始点までの距離を、B5はシールビード33のビード幅を、B6はシールビード33とシールビード34との間の距離を、B7はシールビード34のビード幅を、B8は内側端31から周縁端29までの折り返し幅を、それぞれ示している。
【0048】
B9〜B13は第二シール部36における環径方向の幅や距離を示しており、B9は内側端31からシールビード33の開始点までの距離を、B10はシールビード33のビード幅を、B11はシールビード33とシールビード34との間の距離を、B12はシールビード34のビード幅を、B13は内側端31から周縁端29までの折り返し幅を、それぞれ示している。
【0049】
第一シール部35の積層断面形状と第二シール部36の積層断面形状とを比較すると、x方向の高さ(H1〜H4)は等しくなる。一方、第一シール部35のy方向の距離や幅(B4〜B8)は、第二シール部36のy方向の距離や幅(B9〜B13)に比して短くなる。また、第一シール部35のy方向の距離や幅の比(B4:B5:B6:B7:B8)は、第二シール部36のy方向の距離や幅の比(B9:B10:B11:B12:B13)と等しくなる。
【0050】
以上のように、ガスケット20は、第一領域A1に存在する第一シール部35の外側端32を内側端31に近づけて、第一シール部35の積層断面形状を第二シール部36の積層断面形状を環径方向にのみ縮小する構成にしている。それ故、ガスケット20は、第一シール部35と第二シール部36とで構造を複雑にしてシール性能を向上させつつ、貫通孔24どうしが近接するに従って狭くなる第一領域A1に合わせて、第一シール部35を狭くすることができる。これにより、貫通孔24どうしを行き来する流体の漏れを確実に防ぎつつ、隣り合う貫通孔24どうしを近接させるには有利になり、エンジンをダウンサイジングにすることができる。これに伴って、燃費を向上することができる。
【0051】
ガスケット20は、平面視で、第一シール部35における内側端31が円弧状に形成され、外側端32が楕円弧状又は弓形の弧状に形成されている。つまり、第一シール部35における環周方向の両端部37から中央部38に向って外側端32を内側端31に滑らかに近づけている。それ故、第一シール部35における環周方向の両端部37から中央部38に向ってシールビード33、34、及び折り返し部39の剛性を滑らかに高めることができる。これにより、剛性を滑らかに高めることによって積層断面形状が狭くなることに伴って低下する面圧を補うには有利になり、環周方向における面圧を均一化することができる。
【0052】
ガスケット20は、内側端31から外側端32に向って少なくとも二つのシールビード33、34が並ぶシール構造30を備えている。それ故、ヘッドリフトにより貫通孔24の周縁の面圧が低下する事態が生じてシリンダボア14で燃焼したガスが内側のシールビード33を通り抜けたときにガスの燃焼圧力を減圧して、その圧力が減圧されたガスの通過を外側のシールビード34で確実に防ぐことができる。このように、シール構造30として複雑な構造にすることで、シール性能の向上には有利になる。
【0053】
なお、貫通孔24の周縁の面圧が低下する事態としては、この実施形態で例示したヘッ
ドリフト以外に、運転中の冷熱の影響によるシリンダブロック11やシリンダヘッド12の変形が例示される。
【0054】
また、ガスケット20は、中間層22に折り返し部39を形成することで、シール構造30の内側端31の側の面圧を高めるには有利になり、貫通孔24の周縁の面圧が低下する事態が生じたときのシールビード33による面圧の低下を効果的に抑制することができる。
【0055】
加えて、ガスケット20は、貫通孔24どうしの間の第一領域A1で、シールビード34どうしを会合させてフルビードにすることで、第一領域A1に複雑な構造のシール構造30を用いても、隣り合う貫通孔24どうしの間を狭くすることが可能になり、エンジンのダウンサイジングには有利になる。
【0056】
図5図6に例示する第二実施形態のガスケット20は、第一実施形態に対して中間層22の構成が異なっている。この実施形態の中間層22は、一枚のシムから構成されていて、そのシムはシール構造30から環径方向外側には延在していない。
【0057】
このように、シール構造30は、内側端31から外側端32に向って少なくとも二つのシールビード33、34が並んでいればよく、折り返し部を設けなくてもよい。また、中間層22は、シール構造30にのみ存在するシムから構成してもよい。
【0058】
既述した実施形態で、貫通孔24に水油孔に対応した貫通孔25が近接する場合が、貫通孔25をもう一方の貫通孔として、貫通孔24と貫通孔25との間を第一領域A1として、貫通孔25を囲繞するシール構造に第一シール部及び第二シール部を形成してもよい。
【0059】
既述した実施形態で、中間層22において、第一板材27を上側に、第二板材28を下側に積層した例を説明したが、中間層22は、上下を逆さまにしてもよい。また、シールビード33において、上層21に形成されたシールビード33aをx方向上方に向って頂部を突出させて、下層23に形成されたシールビード33bをx方向下方に向って頂部を突出させてもよい。その場合は、上層21に形成されたシールビード34aをx方向上方に向って頂部を突出させて、シールビード34bをx方向下方に向って頂部を突出させるとよい。
【0060】
シールビード33、34の積層断面視における形状については、特に限定されるものではない。シールビード33、34がフルビードの場合は、積層断面視で円弧状や三角形状を成してもよい。また、シールビード33、34がハーフビードの場合は、積層断面視で「s」字状を成してもよい。
【0061】
既述した実施形態で、貫通孔24どうしの間の最も狭くなる部位で、シールビード34どうしを会合させたが、シールビードどうしを会合させる長さを長くしてもよい。具体的に、平面視で、中央部38からz方向に会合したフルビードが延在するように、会合したフルビードを直線状に形成するとよい。
【符号の説明】
【0062】
20 ガスケット
24 貫通孔
30 シール構造
31 内側端
32 外側端
33、34 シールビード
35 第一シール部
36 第二シール部
37 両端部
38 中央部
A1 第一領域(隣り合う貫通孔どうしの間の領域)
【要約】
【課題】シール性能を低下させずに、隣り合う貫通孔どうしを近接可能にしてエンジンをダウンサイジングすることができるガスケットを提供する。
【解決手段】シール構造30は、平面視で、内側端31から外側端32に向って二つのシールビード33、34が並び、隣り合う貫通孔24どうしの間の第一領域A1に存在する第一シール部35とそれ以外の領域に存在する第二シール部36とが環周方向に互い違いに配置されてなり、第一シール部35の平面形状は、両端部37から中央部38に向って、外側端32が内側端31に近づいて環幅が狭くなる形状を成し、第二シール部36の平面形状は、環周方向に環幅が一定の形状を成し、第一シール部35の積層断面形状は、第二シール部36の積層断面形状を環径方向にのみ縮小した形状を成す。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6