(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408758
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】ジャンパー素子
(51)【国際特許分類】
H01C 13/00 20060101AFI20181004BHJP
H01C 1/142 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
H01C13/00 J
H01C1/142
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-196548(P2013-196548)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-65197(P2015-65197A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092406
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 信太郎
(74)【復代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【復代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(74)【復代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 仁志
(72)【発明者】
【氏名】知久 里志
(72)【発明者】
【氏名】菊地 孝典
【審査官】
馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−111504(JP,A)
【文献】
特開2006−5327(JP,A)
【文献】
特開2003−168501(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/096386(WO,A1)
【文献】
特開2009−43958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 13/00
H01C 1/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の板状体からなる本体部と、
該本体部の両端に設けられた端子部を備え、
該端子部は前記本体部から突出しており、両端子部は実装面を備え、該実装面の周囲に曲面若しくはカット面を形成し、
前記実装面側にのみ前記端子部が突出し、前記実装面側の反対側は平坦面であり、
前記両端子部は、該両端子部の配置方向の内側に対向面を備え、該対向面においては、前記実装面から前記本体部にかけて厚みが減少した傾斜面が形成され、
前記実装面と前記傾斜面の境界部分は曲面とし、
一方の前記端子部、前記本体部および他の前記端子部に亘ってコーティングされた金属被膜を備えることを特徴とするジャンパー素子。
【請求項2】
前記両端子部は、該両端子部の配置方向の外側の端面を備え、該端面から前記実装面にかけて曲面若しくはカット面を形成したことを特徴とする請求項1に記載のジャンパー素子。
【請求項3】
前記両端子部は、該両端子部の配置方向に沿う側面を備え、該側面から前記実装面にかけて曲面若しくはカット面を形成したことを特徴とする請求項1に記載のジャンパー素子。
【請求項4】
前記金属被膜を構成する金属材料は、前記端子部の金属よりも比抵抗が高いことを特徴とする請求項1に記載のジャンパー素子。
【請求項5】
前記本体部と前記端子部は同一金属からなる一体構造であることを特徴とする請求項1に記載のジャンパー素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジャンパー素
子の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からプリント基板に実装する部品として、ジャンパー素子が用いられている。ジャンパー素子は、プリント基板において、配線を跨ぐ必要がある場合に用いられたり、設計時に必要とされた電子部品が不要となった場合に実装ランド間を短絡させたり、等の目的で使用されている。
【0003】
一方、電流を抵抗体に流し、その両端の電圧から電流の大きさを検出する電流検出用抵抗素子がプリント基板に実装する部品として用いられている。電流検出用抵抗素子は、自動車、パソコン、携帯機器などの電子機器において、過電流検出、電流制御、電源管理、等に用いられている。ジャンパー素子または電流検出用抵抗素子の一例として、下記特許文献に記載の構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−118701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらジャンパー素子や電流検出用抵抗素子は、電源周りなど、大電流の用途で用いられることが多くなっている。ジャンパー素子や上記抵抗素子に大電流を通電すると、実装部分において電流密度の増大によりエレクトロマイグレーションが発生し、接続不良を起こす可能性がある。
【0006】
図12は従来のジャンパー素子または電流検出用抵抗素子の実装状態を示す。導体または抵抗体11aの両端に配置した端子部12aの材料として一般にCuが用いられる。端子部12aはプリント基板40の配線パターン41にハンダ42で固定されている。この場合、一般に電流密度は端子部12aの端の符号PまたはQに示す個所で高くなる。このため、電流密度によっては、符号PまたはQの部分から徐々にエレクトロマイグレーションが進行し、断線にいたる場合がある。
【0007】
また、電流検出用抵抗素子の場合、一対の配線パターン41の間から電圧検出端子を引き出す場合があるが、特に符号Qに示す個所でエレクトロマイグレーションが進行した場合に、その付近で検出する電圧に誤差が生じ、電流検出精度に悪影響を及ぼす問題がある。
【0008】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたもので、エレクトロマイグレーションによる接続不良の発生を抑制したジャンパー素
子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のジャンパー素
子は、金属の板状体からなる本体部と、該本体部の両端に設けられた端子部を備え、該端子部は前記本体部から突出しており、両端子部は実装面を備え、該実装面の周囲に曲面若しくはカット面を形成した。
実装面側にのみ端子部が突出し、反対側は平坦面である。さらに、両端子部は、該両端子部の配置方向の内側に対向面を備え、該対向面においては、実装面から本体部にかけて厚みが減少し
た傾斜面が形成されている。
実装面と傾斜面の境界部分は曲面としている。一方の端子部、本体部および他の端子部に亘ってコーティングされた金属被膜を備える。
【0010】
本発明によれば、端子部は本体部から突出しており、両端子部は実装面を備え、該実装面の周囲に曲面若しくはカット面を形成したことで、実装時に電流密度分布を分散させることができ、実装面における局所的な電流集中が緩和され、エレクトロマイグレーションに対して高い耐性を有する部品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例のジャンパー素子または電流検出用抵抗素子の実装状態を示す図である。
【
図2】上記素子をひっくり返した状態での外観形状を示す斜視図である。
【
図4】上記素子の短手方向の断面図であり、左図は
図3のX1−X1断面を示し、右図は
図3のX0−X0断面を示す。
【
図6】本発明の他の実施例の上記素子の実装状態を示す図である。
【
図7】上記素子をひっくり返した状態での外観形状を示す斜視図であり、本体部裏面に保護膜を形成した状態を示す。
【
図8A】上記素子の変形例を示す長手方向の断面図である。
【
図8B】上記素子の変形例を示す長手方向の断面図である。
【
図8C】上記素子の変形例を示す長手方向の断面図である。
【
図9】上記素子の形成工程を示す図であり、断面円形の丸棒から断面矩形の角棒を形成し、さらに角棒に凹部を形成する工程を示す。
【
図12】従来の上記素子の実装状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、
図1乃至
図11を参照して説明する。なお、各図中、同一または相当する部材または要素には、同一の符号を付して説明する。下記実施例ではジャンパー素子または電流検出用抵抗素子について説明するが、両素子は本体部の材料が異なるのみで、同一の構造を有する。
【0013】
図1に示すように、本発明の一実施例の素子1は、ジャンパー素子として用いられ、プリント基板において、配線2が配線3を跨ぐ箇所に用いられている。この素子1は、
図2乃至
図4に示すように、Cu等の高導電率金属の板状体からなる本体部11と、該本体部の両端に設けられた端子部12を備え、該端子部12は本体部11から突出している。
【0014】
そして、端子部12にコーティングされた金属被膜を備え、少なくとも端子部12の底面には、プリント基板の配線ランドにハンダで接合する実装面13を備える。実装面13は、第1金属被膜13aおよび第2金属被膜13bを含む。本実施例において、第1金属被膜13aはNi層であり、第2金属被膜13bはSn層である。なお、この実施例では、本体部11と端子部12は同一金属(Cu)からなる一体構造であり、一方の端子部、本体部および他の端子部に亘ってコーティングされた金属被膜を備え、両端子部と本体部の全表面が実装面13と同様に、第1金属被膜13aおよび第2金属被膜13bにより被覆されている。
【0015】
金属被膜は、本体部および端子部のCuの母材に第1金属被膜13aとしてNiをメッキにより形成し、さらに、第2金属被膜13bとしてSn(もしくはハンダ)をメッキにより形成したものである。これらメッキの厚みは例えば2μmから10μmの範囲で適宜設定する。以降、符合13aについてNi層、符合13bについてSn層ということがある。Sn層13bはハンダ濡れ性を得るために形成される。第1金属被膜13aを構成する金属材料は、端子部の金属よりも比抵抗が高い。そして、第1金属被膜13aを構成する金属材料は、実装に用いるハンダ材よりも融点が高い。これにより、実装時のフロー、リフローのハンダ処理の加熱によって、本体部および/または端子部を直接被覆する金属被膜が影響を受けない。
【0016】
なお、上記実施例で用いる金属の電気抵抗率(比抵抗)/溶融温度は下記のとおりである。
Cu:1.7μΩ・cm/1084℃
Ni:8.5μΩ・cm/1455℃
Sn:11.4μΩ・cm/230℃
また、上記素子1のチップサイズは、一例として、長さ(L):1.6mm/幅(W):0.8mm/高さ(t):0.45mmである。
【0017】
母材のCuとSn層(もしくはハンダ層)13bの間にNi層13aが存在するため、Cuと比較し抵抗率の高いNi層は端子部12における電流密度分布を分散させるように作用し、端子部12へ局所的に電流集中することが緩和される。これにより、エレクトロマイグレーションに対して高い耐性を有する部品とすることができる。また、Cuの母材とSn層13bは特に高温条件下で合金を形成することがあり、これによるマイグレーションが生じることがあるが、Ni層13aを介在させることでこれを抑制することができる。
【0018】
Ni層13aとして、その代替に無電解Niめっきにより形成されるNi−P層でもよい。またNi−Cr系合金を用いてもよい。Ni層13aは、端子部12の底面およびその周辺(実装時にハンダが付着する部位)のみに形成してもよいが、本実施例のように端子部11から本体部12にかけてCu母材の全面に形成することで、Cu母材の変質防止およびSn層13bのCu母材への拡散防止を図ることができ、また部分めっきに比べてコスト上有利となる。
【0019】
本発明の素子1は端子部12の底面sを実装面13とし、その周囲に曲面若しくはカット面A,B,C,D,E,Fを形成している。すなわち、両端子部12は、該両端子部の配置方向の外側に端面a、bを備え、該端面a,bから実装面13にかけて曲面若しくはカット面A,Bを形成した。
【0020】
また、両端子部12は、両端子部の配置方向に沿う側面c,dを備え、該側面c,dから実装面13にかけて曲面もしくはカット面C,D,E,Fを形成した。また、両端子部12は、両端子部12の配置方向の内側の対向面G,Hを備え、該対向面においては、実装面13(底面c)から本体部11にかけて厚みが減少していて、傾斜面をなしている。本実施例においては、端面a、端面b、側面c、側面d、傾斜面Gおよび傾斜面Hのそれぞれの境界部分は全て曲面としている。
【0021】
実装面13の周囲に曲面またはカット面A,B,C,D,E,Fおよび傾斜面G,Hを形成することで、実装時に電流密度分布を分散させることができ、実装面における局所的な電流集中が緩和され、エレクトロマイグレーションに対して高い耐性を有する部品とすることができる。曲面の曲率半径は25μm以上とすることが好ましく、より好ましくは50μmから150μm程度である。この範囲は、第1金属被膜13aを形成した状態、第2金属被膜13bを形成した状態、第1金属被膜13aも第2金属被膜13bも形成していない状態、のいずれにおいても適用可能である。好ましくは、第1金属被膜13aも第2金属被膜13bも形成していない状態もしくは第1金属被膜13aを形成した状態において、上記の曲率半径とする。
【0022】
両端子部12の配置方向の内側に傾斜面G,Hを備えることで、
図5に示すように、ハンダ15の内側フィレット15aが形成されやすくなり、固着強度が向上し、電流が回り込みやすくなり、実装面13における局所的な電流集中が緩和される。特に、本体部11と端子部12の内側の境界部分が、例えば
図12に示す構造のように直角とした場合、この部分は電流が集中しやすく、ホットスポットになる。傾斜面G,Hにより、この電流集中が緩和され、電流検出用抵抗素子の場合、パルス耐性が向上し、検出精度の経年劣化を抑制できる。なお、実装面13(底面S)から傾斜面Gまたは傾斜面Hの境界部分は曲面としている。
【0023】
図6に示すように、配線パターン2aと直交する方向に素子1を実装する場合、端子部12の実装面13を流れる電流は素子1の側面c,dから実装面13にかけて形成した曲面D,Eに集中する。このように、実装状態での電流集中箇所は実装状態で異なるため、素子1の実装面13の周囲に曲面A,B,C,D,E,Fを設けておくことは、様々な実装状態での局所的な電流集中の緩和に有効である。
【0024】
また、
図7に示すように、本体部11の裏面(実装面)側にエポキシ樹脂等からなる保護膜14を設けることが好ましい。特に、素子1が電流検出用抵抗素子である場合に実装時のハンダの這い上がりによる抵抗値変動を防止できる。また、素子1をプリント基板にフロー工程でハンダ付けする場合、保護膜14を備えることで、接着剤で仮固定してハンダフローを行える。
【0025】
図8A乃至
図8Cは素子1の変形構造例を示す。
図8Aの左図は傾斜面G,Hを円弧状とした例であり、右図は傾斜面G,Hを緩やかな傾斜とした例である。
図8Bは曲面A,Bをカット面とした例を示す。カット面は底面sに対して約45°の角度とすることが好ましい。また、カット面の幅は25μm以上が好ましく、50μmから150μm程度がより好ましい。
【0026】
図8Cは素子1を電流検出用抵抗素子とした構造例であり、本体部11a(11b)と端子部12a(12b)を別体とし、これらを接合して形成した例である。左図はCu−Mn系またはCu−Ni系等の抵抗金属材料からなる本体部11aの下面にCu等の高導電率金属材料からなる端子部12aを接合して電流検出用抵抗素子を形成した例である。右図はCu−Mn系またはCu−Ni系等の抵抗金属材料からなる本体部11aの端面にCu等の高導電率金属材料からなる端子部12aを接合して電流検出用抵抗素子を形成した例である。なお、上述においてジャンパー素子として説明した構造のものを電流検出用抵抗素子として用いてもよく、電流検出用抵抗素子として説明した構造のものをジャンパー素子として用いてもよい。
【0027】
図9乃至
図11は素子1の製造方法の一例を示す。
図9に示すように、断面形状が円形の線材である金属材料(Cu、Cu−Mn系またはCu−Ni系等の金属材料)21を、ロール31,32,33および図示しないロールを用いて四方から圧延し、断面矩形状の角棒22を形成する。この時、出発材料の断面形状が円形のため、角棒22の角部は曲面となる。そして、ロール34を用い、凹部を圧延にて形成し、本体部11から突出する端子部12を形成すると共に、両端子部の配置方向の内側に傾斜面G,Hを備えた角棒23を形成する。
【0028】
次に、
図10に示すように、凹部が図において下向きに位置するように、ダイ35とガイド36を用いて角棒23を固定し(左図参照)、パンチ37を用いて打ち抜き、個別の金属材料からなる素子1に分離する(右図参照)。打ち抜く際にバリが出るが、平坦面(上面)側からパンチを当てるため、実装面(下面)側の角部は丸みを帯び、バリが生じない。以上の工程で、実装面の周囲に曲面A,B,C,D,E,Fと傾斜面G,Hを形成した金属材料からなる素子1を形成できる。
【0029】
次に、Niを電解メッキしてNi層13aを形成し、さらにSnを電解メッキしてSn層13bを形成し、金属被膜を備えた本発明の素子1が完成する。そして、テープ梱包材に収納する工程等において、チップの表裏を判別する必要があるが、
図11に示すように光センサ38を用いることで、素子1には傾斜部G,Hを備えることから光の反射状態により、表裏の判別を容易に行うことができる。
【0030】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施例に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、基板に面実装するジャンパー素子または電流検出用抵抗素子に利用可能であり、エレクトロマイグレーションによる接続不良の発生を抑制できる。