【実施例】
【0044】
次に実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
1.評価方法
(1)インヘレント粘度(ηinh)
フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合液
を溶媒として、濃度1g/dl、温度25℃の条件で相対粘度(ηrel)を測定した。得られた相対粘度より下記式よりインヘレント粘度を算出した。
ηinh(dl/g) = Ln(ηrel)/c (c:濃度)
【0046】
(2)ガラス転移温度
示差走査熱分析装置(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を使用し、昇温速度10℃/minで30℃から400℃まで昇温し、得られた昇温曲線中のガラス転移温度に由来する不連続変化の開始温度をガラス転移温度とした。
【0047】
(3)溶解性
内容量50mlのガラス製ねじ口瓶に所定濃度になるよう秤量した樹脂と有機溶剤の合計30gを密封し、23℃の室温でミックスローターを使用して70rpmでねじ口瓶を回転させた。回転を開始して24時間後に回転を停止した。その後ねじ口瓶の樹脂溶液を目視観察し、下記基準により溶解性を評価した。なお、有機溶剤として、クロロホルム、クロロベンゼン、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMP)、1,3−ジオキソラン、シクロヘキサノンおよびトルエンのそれぞれを用い、10、20、30質量%の各濃度になるように樹脂溶液を作製した。
〇:完全に溶解し、透明性を有した。
△:白濁した。
×:不溶物があった。
【0048】
(4)溶液安定性
(3)で溶解性の評価を行った各樹脂溶液について、回転を停止したねじ口瓶を23℃の室温下48時間静置した。その後ねじ口瓶の樹脂溶液を目視観察し、下記基準により溶液安定性を評価した。
〇:透明性が維持され、増粘もしなかった
△:白濁し、やや増粘した。ただし流動性は有した。
×:ゲル化した。流動性はなかった。
【0049】
(5)塗工性
後述の実施例において得られたポリアリレート樹脂を、固形分濃度が20質量%となるようにクロロホルムに溶解しワニスを得た。得られたワニスを、乾燥後の厚みが100μmとなるようアプリケータを用い、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム基材上に塗膜を形成後、150℃で乾燥させ、ポリアリレート樹脂フィルムを得た。得られたポリアリレート樹脂フィルムについて、下記基準により評価した。なお、(3)でクロロホルムを用い、固形分濃度20質量%での溶解性が×のものは、塗工性の評価は行わなかった。
〇:フィルム表面が平滑で、厚みが均一で、しかも透明である。
△:平滑性がやや劣る。
×:白濁した。
【0050】
実施例1
水冷用ジャケットと攪拌装置を備えた内容積100Lの反応容器中に、水酸化ナトリウム850gを30Lのイオン交換水に溶解し、ついで2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下BPA)3.00mol、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下BPTMC)3.00mol、および、p−tertブチルフェノール(以下PTBP)0.30molを溶解した。
別の容器でテレフタル酸ジクロリド(以下TPC)3.08mol、イソフタル酸ジクロリド(以下IPC)3.08molをジクロロメタン18Lに溶解した。
それぞれの液を20℃になるよう調節した後、前記水溶液を攪拌した反応容器中へ、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドの50%水溶液を15g添加し、さらに前記ジクロロメタン溶液を全量投入し、6時間攪拌を続けた後、攪拌機を停止した。
静置分離後に水相を抜き出し、残ったジクロロメタン相に酢酸20gを添加した。その後、イオン交換水30Lを投入し、20分間攪拌してから再度静置して水相を抜き出した。この水洗操作を水相が中性になるまで繰り返した後、ジクロロメタン相をホモミキサーを装着した容器に入った50℃の温水中に投入して塩化メチレンを蒸発させ、粉末状ポリアリレートを得た。
【0051】
この粉末状ポリアリレートを脱水した後、真空乾燥機を使用して、減圧下130℃で24時間乾燥してポリアリレート樹脂を得た。この樹脂のインヘレント粘度は0.52dl/gであり、DSC測定では結晶化および融解ピークは認められず、ガラス転移温度は225℃であった。さらに、得られたポリアリレート樹脂を分級し、平均粒径を100μm以下とした。
【0052】
得られたポリアリレート樹脂を用いて、溶解性、溶液安定性および塗工性を評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例2〜
5、比較例1、2
BPA、BPTMC、PTBP、TPCおよびIPCの配合比率を表2、3に記載のも
のにした以外は実施例1と同様の方法でポリアリレート樹脂を作製し、評価を行った。そ
の結果を表1、2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
実施例
6
実施例1と同じ装置を使用して、水酸化ナトリウム850gを30Lのイオン交換水に
溶解し、ついで2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(以下B
PC)3.00mol、BPTMC3.00mol、および、PTBP0.30molを
溶解した。別の容器でTPC3.08mol、IPC3.08molをジクロロメタン1
8Lに溶解した。
それぞれの液を20℃になるよう調節した後、前記水溶液を攪拌した反応容器中へ、ベ
ンジルトリメチルアンモニウムクロライドの50%水溶液を15g添加し、さらに前記ジ
クロロメタン溶液を全量投入し、6時間攪拌を続けた後、攪拌機を停止した。以降は実施
例1と同様の操作によりポリアリレート樹脂を得て、各種評価を行った。その結果を表2
に示す。
【0057】
参考例1
実施例1と同じ装置を使用して、水酸化ナトリウム850gを30Lのイオン交換水に
溶解し、ついでBPA3.00mol、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロ
ヘキサン(以下BPZ)3.00mol、および、PTBP0.30molを溶解した。
別の容器でTPC3.08mol、IPC3.08molをジクロロメタン18Lに溶解
した。
それぞれの液を20℃になるよう調節した後、前記水溶液を攪拌した反応容器中へ、ベ
ンジルトリメチルアンモニウムクロライドの50%水溶液を15g添加し、さらに前記ジ
クロロメタン溶液を全量投入し、6時間攪拌を続けた後、攪拌機を停止した。以降は実施
例1と同様の操作によりポリアリレート樹脂を得て、各種評価を行った。その結果を表2
に示す。
【0058】
参考例2
実施例1と同じ装置を使用して、水酸化ナトリウム850gを30Lのイオン交換水に
溶解し、ついでBPA3.00mol、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェ
ニル)シクロヘキサン(以下DMBPC)3.00mol、および、PTBP0.30m
olを溶解した。別の容器でTPC3.08mol、IPC3.08molをジクロロメ
タン18Lに溶解した。
それぞれの液を20℃になるよう調節した後、前記水溶液を攪拌した反応容器中へ、ベ
ンジルトリメチルアンモニウムクロライドの50%水溶液を15g添加し、さらに前記ジ
クロロメタン溶液を全量投入し、6時間攪拌を続けた後、攪拌機を停止した。以降は実施
例1と同様の操作によりポリアリレート樹脂を得て、各種評価を行った。その結果を表2
に示す。
【0059】
比較例
3〜
7
BPA、BPC、BPTMC、BPZ、PTBP、TPCおよびIPCの配合比率を表
3に記載のものにした以外は実施例1と同様の方法でポリアリレート樹脂を得て、各種評
価を行った。その結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
比較例
8
ポリアリレート樹脂に代えてポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチッ
クス社製ユーピロンS−3000)を用いて、各種評価を行った。その結果を表4に示す
。
なお、塗工性の評価については、クロロホルムに対し、固形分濃度10質量%で溶解し
たワニスを得て、評価を行った。乾燥温度は120℃とした。
【0062】
【表4】
【0063】
実施例1〜
6で得られたワニスは、所定構造を有するポリアリレート樹脂を用いたため
、各種有機溶剤に対する溶解性と溶液安定性に優れていた。このようなワニスから得られ
るフィルムは、耐熱性が向上し、フィルム表面が平滑で、厚みが均一で、しかも透明であ
った。
【0064】
比較例
3〜
6では、所定構造を有するポリアリレート樹脂を用いなかったため、特定の
有機溶剤に、比較的低濃度でしか溶解せず、溶液安定性も劣ったものとなった。
【0065】
比較例
7では、溶解性と溶液安定性に優れていたが、所定構造を有するポリアリレート
樹脂を用いなかったため、必要とするポリアリレート樹脂の耐熱性を有さなかった。
【0066】
比較例
8では、ポリアリレート樹脂以外の耐熱性樹脂を用いたため、特定のハロゲン系
溶媒以外では、溶解性、溶液安定性を有さなかった。用いたワニスでは不透明なフィルム
しか得られなかった。