(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の環状ポリオレフィン材料用塗工剤は、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂、塩基性化合物及び水性媒体を含有する。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分は特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが好ましく、これらの混合物を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分により酸変性されたものである。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。不飽和カルボン酸成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。
【0014】
不飽和カルボン酸成分の含有量は、環状ポリオレフィン材料や他材料との接着性のバランスから、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.5〜4質量%がさらに好ましく、1〜4質量%が特に好ましい。含有量が0.01質量未満の場合は、他材料のうち特にアルミニウム箔等の金属材料との接着性が十分な塗膜が得られないことがある。一方、10質量%を超える場合は、塗膜としたとき環状ポリオレフィン材料との接着性が低下することがある。
【0015】
本発明における酸変性ポリオレフィン樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有している必要がある。この成分を含有していないと、塗膜としたとき環状ポリオレフィン材料との十分な接着性が得られない。(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、入手の容易さと接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜又はメタクリル酸〜」を意味する。)
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、塗膜とした際、環状ポリオレフィンとの接着性や耐薬品性の向上の点から、0.1〜35質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましく、5〜25質量%であることがさらに好ましく、8〜25質量%であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が0.1質量%未満の場合は、塗膜としたとき環状ポリオレフィンとの接着性が低下する傾向にあり、35質量%を超える場合は、塗膜の耐薬品性が低下してしまう。また、(メタ)アクリル酸エステル成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。
【0017】
酸変性ポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体が最も好ましい。共重合体の形態はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよいが、入手が容易という点でランダム共重合体、グラフト共重合体が好ましい。
【0018】
乾燥後の塗膜の量(層量)は、特に限定されない。例えば、0.01〜50g/m
2の範囲とすることが好ましく、0.1〜20g/m
2であることがより好ましく、1〜15g/m
2であることがさらに好ましく、1〜10g/m
2であることが特に好ましい。0.01g/m
2未満では十分な接着性が得られず、50g/m
2を超える場合は経済的に不利である。
【0019】
酸変性ポリオレフィン樹脂の分子量については特に限定されるものでないが、高いほど塗膜の耐薬品性は良好となる傾向にある。したがって、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートは、1000g/10分以下が好ましく、500g/10分以下がより好ましく、0.001〜200g/10分がさらに好ましく、0.01〜100g/10分が特に好ましい。メルトフローレートが1000g/10分を超える場合は、塗膜の耐薬品性が低下する傾向にあり、0.001g/10分未満の場合は、樹脂を高分子量化する際の製造面に制約を受ける。
【0020】
なお、後述するように本発明の塗工剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体であることが好ましく、この場合、水性分散体を調製するための方法としては、例えば、国際公開02/055598号パンフレットに記載されたものが挙げられる。
【0021】
本発明の塗工剤は、必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂以外の樹脂を含有していてもよい。その他の樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0022】
中でも、環状ポリオレフィン材料への接着性向上の観点からポリウレタン樹脂を含有していることが好ましい。ポリウレタン樹脂とは、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子であり、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものである。接着性向上の点から、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。ポリオール化合物とは、ポリエーテルポリオールを含むものである。ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレンポリオール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリオキシエチレン/プロピレンポリオール等が挙げられ、中でもポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオールが入手し易いため好ましく、接着性が向上することからポリテトラメチレングリコールがより好ましい。ポリエーテルジオールの分子量は特に限定されないが、1000〜10000の範囲のものが好ましく、1000〜5000が特に好ましい。
【0023】
ポリエーテルポリオール以外のポリオールとして、本発明の効果を損なわない範囲で、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等を用いてもよい。
【0024】
一方、ポリウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族もしくは脂環族のジイソシアネート類の1種又は2種以上の混合物を用いることができる。ジイソシアネート類の具体例としては、トリレンジジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメチルジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、及びこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などが挙げられ、中でも接着性向上の点からイソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0025】
本発明の塗工剤において、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂との固形分質量比としては、塗膜としたときの環状ポリオレフィン材料との接着性と、耐薬品性とのバランスから、100/0.5〜100/100が好ましく、100/1〜100/80がより好ましく、100/1〜100/50がさらに好ましく、100/1〜100/40が特に好ましい。ポリウレタン樹脂の含有量が0.5質量部未満の場合は、接着性が向上し難く、一方、100質量部を超えると、塗膜の耐薬品性が低下する傾向にある。
【0026】
酸変性ポリオレフィン樹脂及びポリウレタン樹脂は、塗工剤中で均一に分散又は溶解していることが好ましく、特に均一に分散していることが好ましい。塗工剤中でこれらの樹脂が分散している、すなわち水性分散体に調製した場合、樹脂粒子の数平均粒子径は、塗膜の透明性が向上するという観点から、共に500nm(ナノメートル)以下が好ましく、5〜300nmがより好ましく、5〜200nmがさらに好ましく、5〜100nmが最も好ましい。
【0027】
本発明の塗工剤には、接着性を高めることを目的として、酸変性ポリオレフィン樹脂及び/又はウレタン樹脂を架橋するための架橋剤を添加してもよい。特に、塗工剤にウレタン樹脂を配合した際には、架橋剤を併用することにより、飛躍的に接着性を高めることができる。架橋剤としては、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ヒドラジド化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。架橋剤の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂と架橋剤との固形分質量比が100/1〜100/50となる範囲が好ましく、100/3〜100/30が特に好ましく、100/5〜100/20が最も好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して50質量部を超える場合は、接着性が低下する傾向となる。
【0028】
その他、無機化合物、濡れ剤、レベリング剤のような添加剤を含有していてもよい。
【0029】
本発明の塗工剤はさらに塩基性化合物、水性媒体を含有している。
【0030】
ここで、水性媒体とは、水を主成分とする液体からなる媒体であり、後述する水溶性の有機溶剤を含有していてもよい。
【0031】
塩基性化合物はポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂に存在するカルボキシル基等のイオン性基を中和するためのものである。特に水性分散体に調製する際、中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって樹脂粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。水性化の際に用いる塩基性化合物はカルボキシル基を中和できるものであれば良い。
【0032】
塩基性化合物としては、塗膜形成時に揮発するアンモニア又は有機アミン化合物が塗膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。一方、沸点が250℃を超えると塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難となり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0033】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0034】
また、本発明において使用される有機溶剤としては、環状ポリオレフィン材料への濡れ性や樹脂の分散安定性点から、ポーリング(Pauling)の電気陰性度が3.0以上の原子(具体的には酸素、窒素、フッ素、塩素)を分子内に1個以上有しているものを用いることが好ましい。さらにその中でも、20℃における水に対する溶解性が5g/L以上のものが好ましく用いられ、さらに好ましくは10g/L以上である。
【0035】
本発明において使用できる有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、中でも沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。これらの有機溶剤は2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
本発明の塗工剤は、耐水性及び接着性の向上、汚染性の低減の点から、界面活性剤の量が全樹脂100質量部に対して5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましく、0.5質量部以下が特に好ましく、0.1質量部以下が最も好ましい。
【0037】
次に、本発明の積層体について述べる。本発明の積層体は、上記の塗工剤から水性媒体を除去して得られる塗膜を、環状ポリオレフィン材料の少なくとも片面に設けたものである。本発明の塗工剤により得られる塗膜は、環状ポリオレフィン材料との接着性が良好である。
【0038】
環状ポリオレフィン材料としては、例えば、特開平10−120768号公報、特開平11−43566号公報、特開2004−51949号公報、特開2004−156048号公報等に記載されたものが挙げられる。環状ポリオレフィン材料の市販品としては、「ARTON」(JSR社製)、「ZEONOR」、「ZEONEX」(以上、日本ゼオン社製)、「OPTOREZ」(日立化成工業社製)、「APEL」(三井化学社製)などが挙げられる。
【0039】
同材料の形状としては特に限定されず、フィルム、成形品、織布などが挙げられる。本発明では、環状ポリオレフィン材料の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の特殊処理が施されていなくても、本発明の塗工剤により得られる塗膜を同材料表面に接着性よく接着させることができるが、接着性をさらに向上させるために予め同材料表面をコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等しておいてもよい。
【0040】
本発明の積層体を得るには、例えば、上記環状ポリオレフィン材料の少なくとも片面に上記塗工剤を塗布し、乾燥すればよい。
【0041】
塗布方法としては、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。環状ポリオレフィン材料表面への塗布は、一般に塗膜の厚みが均一となるように行うのが好ましく、均一に塗布した後は、必要に応じて室温付近でセッティングし、その後、乾燥処理又は乾燥のための加熱処理に供することにより、均一な塗膜を形成することができる。
【0042】
本発明の積層体では、塗膜の上にさらに他の材料を貼り合わせてもよい。貼り合わせるその他の材料としては、紙、合成紙、熱可塑性樹脂フィルム、成形品、プラスチック製品、鋼板、アルミ箔、木材、織布、編布、不織布、石膏ボード、木質ボード等を使用することができる。中でも、熱可塑性樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0043】
熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリグリコール酸やポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)等の脂肪族ポリエステル系樹脂に代表される生分解性樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、環状ポリオレフィン(前記)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂又はそれらの混合物等の熱可塑性樹脂よりなるフィルムやこれらの積層体が挙げられる。中でも、ポリエステル、ポリアミド、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、PPからなるフィルムが好適であり、環状ポリオレフィンが最適である。これらのフィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、その製法も限定されるものではない。また、フィルムの厚みも特に限定されるものではないが、通常は5〜1000μmの範囲であればよい。
【0044】
また、フィルムの表面に、前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等を施しておいてもよい。
【0045】
本発明の塗工剤を乾燥するときの温度、及び塗膜を介して環状ポリオレフィン材料や他の材料を貼り合わせるときの温度は特に制限されないが、貼り合わせる材料の種類や生産効率等を考慮し適宜設定すればよい。
【0046】
本発明の積層体は、包装材料、自動車材料、電材関係、光学材料、日用雑貨関係など様々な用途への適用が可能である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0048】
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂の構成
1H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。オルトジクロロベンゼン(d
4)を溶媒とし、120℃で測定した。
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)
JIS 6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
(3)ポリオレフィン樹脂及びポリウレタン樹脂の平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、数平均粒子径を求めた。
(4)塗膜の量(層量)
あらかじめ面積と質量を計測した基材に塗工剤を所定量塗布し、100℃で2分間乾燥した。得られた積層体の質量を測定し、塗工前の基材の質量を差し引くことで塗布量を求めた。塗布量と塗工面積から単位面積当りの層量(g/m
2)を計算した。
(5)ヘーズ(曇価)
JIS K7105に準じて、日本電色工業社製のNDH2000「濁度、曇り度計」を用いて「ヘーズ(%)」を測定した。ヘーズが1.0%のPETフィルムに、乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるように、マイヤーバーを用いて塗工剤を塗布した後、100℃で15秒間乾燥し、コートフィルムを作製した。このようにして作製したコートフィルム全体のヘーズを測定した。
(6)塗膜の密着性評価
環状ポリオレフィン材料(ZEONOR、日本ゼオン社製)の成形プレート上に、乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるように、メイヤーバーを用いて塗工剤を塗布し、100℃で1分間乾燥した。24時間、室温で放置後、JIS K5400 8.5.2の方法で密着性試験を行った。塗膜層をカットして1mm×1mm×100個の碁盤目部分を作製し、これを粘着テープにより引き剥がし、100個の碁盤目中で剥離せず残っている個数により評価した。「n/100」は、100個の碁盤目中のn個が剥離せず残っていることを示し、「100/100」は全く剥離していない、最も密着性の良いことを示す。
(7)接着強度
各種基材上に、乾燥後の塗膜の厚みが3μmになるように、メイヤーバーを用いて塗工剤を塗布し、100℃で1分間乾燥した。そして、得られた積層体の塗膜面同士が接するようにして、ヒートプレス機(シール圧0.3MPaで10秒間)にて120℃でプレスした。プレス後の積層体を15mm幅で切り出し、1日放置した後、引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度200mm/分、引張角度180度で塗膜の剥離強度を測定することで、ヒートシール性(ヒートシール強度)を評価した。
なお、基材として以下の材料を使用した。
・環状ポリオレフィン(COP)材料フィルム(ZEONORフィルム、厚さ100μm、日本ゼオン社製)
・PETフィルム(厚さ50μm、ユニチカ社製)
・ナイロン(Ny)フィルム(厚さ15μm、ユニチカ社製)
・未延伸ポロプロピレン(CPP)フィルム(厚さ50μm、東セロ社製)
・アルミニウム(Al)箔(厚さ25μm、三菱アルミニウム社製)
・未延伸ポリエチレン(PE)フィルム(厚さ40μm、タマポリ社製)
(8)耐薬品性試験
前記環状ポリオレフィン材料フィルム(ZEONORフィルム、日本ゼオン社製)上に、乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるように、メイヤーバーを用いて塗工剤を塗布し、100℃で1分間乾燥した。その後、積層体を24時間、室温で放置後、5質量%塩酸、5質量%水酸化ナトリウム水溶液又はエタノール中に25℃、1日浸漬し、水洗いした。そして、塗布面の状態を目視で評価した。
○:変化なし。
△:わずかに白化が見られる。
×:白化又は溶解が見られる。
【0049】
(市販のポリエーテル型ポリウレタン樹脂水性分散体U−1)
U−1として、楠本化成社製、NeoRezR−600(固形分濃度33質量%、水分67質量%)を用意した。数平均粒子径は50nmであった。
【0050】
(ポリウレタン樹脂水性分散体U−2)
U−2を以下の方法で作製した。攪拌機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器に、平均分子量1970のポリテトラメチレングリコールを345質量部、イソホロンジイソシアネートを77.8質量部、ジブチルチンジラウレートを0.03質量部仕込み、80℃で2時間反応させた。次いでこの反応液を50℃まで冷却した後、ジメチルプロパノールアミンを9.7質量部、トリエチルアミンを10.85質量部、アセトンを177質量部添加し3時間反応させた。さらにこの反応液にアセトンを175質量部加えて30℃まで冷却し、イソホロンジイソシアネートが13.4質量部、モノエタノ−ルアミンが1.07質量部、イソプロパノール(IPA)が87.9質量部、水が1039質量部からなる混合液を加えて高速攪拌し、この液よりアセトンとIPAを留去して、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂水性分散体U−2を得た。なお、数平均粒子径は350nmであった。
【0051】
(ポリカーボネート型ポリウレタン樹脂水性分散体U−3)
U−3として、三井武田ケミカル社製、タケラックW−6010(固形分濃度30質量%、水分70質量%)を用意した。数平均粒子径は60nmであった。
【0052】
(架橋剤:K−1)
日本触媒社製エポクロスWS−700(2−イソプロペニル−2−オキサゾリンを重合してなるオキサゾリン化合物の水性溶液、固形分濃度40質量%)を使用した。
【0053】
(架橋剤:K−2)
大塚化学社製ADH(アジピン酸ジヒドラジド)を水に溶解し、固形分濃度を8質量%とした溶液を使用した。
【0054】
(
参考例1)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(アルケマ社製、ボンダインHX−8210)、60.0gのイソプロパノール、3.0gのトリエチルアミン及び177.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を130℃に保ってさらに120分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な塗工剤E−1を得た。なお、数平均粒子径は70nmであった。
【0055】
(
参考例2)
酸変性ポリオレフィン樹脂としてボンダインHX−8290(アルケマ社製)を用いた以外は、
参考例1と同様の操作を行って、塗工剤E−2を得た。なお、数平均粒子径は80nmであった。
【0056】
(比較例1)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのエチレン−アクリル酸共重合体樹脂(ダウケミカル社製、プリマコール5980I)、16.8gのトリエチルアミン(TEA)、及び223.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140〜145℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の塗工剤H−1を得た。この際、フィルター上に樹脂はほとんど残っていなかった。なお、数平均粒子径は30nmであった。
【0057】
塗工剤E−1、E−2、H−1の製造に使用した酸変性ポリオレフィン樹脂の組成を表1に示した。
【0058】
【表1】
【0059】
(実施例3
、4、6〜8、10〜19、比較例2〜4
、参考例5、9、20、21)
表2〜4に記載の配合比率となるように、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、架橋剤の種類と量を用いて、室温で混合し、各塗工剤を得た。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
参考例1、2のように、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を使用した場合は環状ポリオレフィン材料との良好な接着性を示した。一方、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有しない樹脂を使用した比較例1は、ポリエチレンやポリエチレンテレフタレートへの接着性はある程度認められたが、環状ポリオレフィン材料との接着性はほとんど有していなかった。
さらに、ポリウレタン樹脂を所定量含有させることで環状ポリオレフィン材料との接着性は向上した(実施例3
、4、6〜8
、参考例5)。その添加量が100質量部を超えると、接着性向上の効果は低下傾向であったが、適度な接着性を示した(
参考例9)。
また、ウレタン樹脂としてポリエーテル型のものを使用すると、ポリカーボネート型のものよりも環状ポリオレフィン材料との接着性向上効果が大きかった(実施例3と
参考例5の比較)。また、粒子径が大きいポリウレタン樹脂を使用した場合は、添加量が同じでもヘーズが大きくなり、塗膜の透明性が悪化した(実施例4)。
実施例10〜19のように、酸変性ポリオレフィン樹脂とポリウレタン樹脂を含む塗液にさらに架橋剤が配合されることにより、環状ポリオレフィン材料との接着性は著しく向上した。この効果は、
参考例20、21のように、酸変性ポリオレフィン樹脂に架橋剤のみを配合するとむしろ接着力が低下傾向にあることを考慮すると、特異的である。
比較例2〜4のように、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有しない酸変性ポリオレフィンに対してポリウレタン樹脂および/または架橋剤を配合した場合でも、環状ポリオレフィン材料に対する接着力はほとんど改善しなかった。