特許第6408794号(P6408794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408794
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】弾性ブッシュの圧入構造
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/38 20060101AFI20181004BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   F16F1/38 F
   F16F15/08 K
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-119231(P2014-119231)
(22)【出願日】2014年6月10日
(65)【公開番号】特開2015-232361(P2015-232361A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2017年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大黒谷 智久
(72)【発明者】
【氏名】新野 弘典
(72)【発明者】
【氏名】徳田 智志
(72)【発明者】
【氏名】赤木 宏行
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/145566(WO,A1)
【文献】 特開2010−203526(JP,A)
【文献】 特開2005−299898(JP,A)
【文献】 特開2002−276714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/38
F16F 15/08
B60G 1/00− 9/00
B30B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログレッシブ加工法によって鋼板から成形された筒部材に、樹脂材からなる外筒を有する弾性ブッシュを圧入して取り付ける弾性ブッシュの圧入構造において、
上記筒部材の中心線方向の端部には、成形時に隣り合う鋼板から切り離されることによって形成された切断部が設けられており、
上記筒部材の内周面における上記切断部の周囲には、上記鋼板を内から外へ押し出すことにより凹部が形成され、
上記凹部における上記筒部材の周方向の寸法は、上記凹部における上記筒部材の中心線方向の寸法よりも長く設定され、
上記弾性ブッシュの上記外筒が上記筒部材に圧入されていることを特徴とする弾性ブッシュの圧入構造。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性ブッシュの圧入構造において、
上記筒部材の中心線方向の端部には、径方向内側に面取り部が形成され、
上記凹部は、上記面取り部と連続するように形成されていることを特徴とする弾性ブッシュの圧入構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の弾性ブッシュの圧入構造において、
上記凹部は、上記筒部材の周方向に延びていることを特徴とする弾性ブッシュの圧入構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のサスペンションアームの端部に設けられる筒部材に弾性ブッシュを圧入する弾性ブッシュの圧入構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のサスペンションアームの端部には、弾性ブッシュが圧入される筒部材が設けられており、この筒部材に圧入された弾性ブッシュを介してサスペンションアームが車体に揺動可能に支持されるようになっている。弾性ブッシュとしては、例えば特許文献1に開示されているように、外筒及び内筒と、外筒と内筒との間に設けられる弾性体とを備えたものが知られている。特許文献1では、外筒が樹脂製で内筒は金属製である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−203526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、サスペンションアームの端部の筒部材は一般に金属製であり、この筒部材に特許文献1のような樹脂製の外筒を有する弾性ブッシュを圧入すると外筒が筒部材の縁部によって削られてしまう恐れがあるので、筒部材の縁部には面取り部を設ける必要がある。
【0005】
ところが、筒部材の全周に亘って面取り部を設けることができない場合がある。すなわち、筒部材を成形する際、1枚の鋼板を円筒状に巻いて筒部材とすることができるのであるが、この場合、複数枚の鋼板を連続して加工して筒部材とする、いわゆるプログレッシブ加工法(順送プレス加工法)で製造するのが効率の面で有利である。このプログレッシブ加工法では、素材の供給装置から連続して送られてくる鋼板をプレス装置に取り付けた順送金型内で間欠送りしながら、曲げ加工を段階的に施すので隣り合う鋼板同士は繋げておく必要がある。
【0006】
プログレッシブ加工で筒状部を成形する場合、上述した面取り部を設けた後、曲げ加工して筒状にし、その後、繋げてあった部分を切断することになる。ところが、繋げてあった部分を切断した部位には面取り部が形成されておらず、切断端部が鋭い形状となっている。したがって、弾性ブッシュを圧入する際に、切断端部が外筒を削ってしまうという問題がある。
【0007】
また、弾性ブッシュを圧入する際には、圧入に要する力(圧入力)をできるだけ低減したいという要求がある反面、圧入後には弾性ブッシュが抜けないようにしなければならない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、プログレッシブ加工法によって鋼板から成形された筒部材に弾性ブッシュを圧入する場合に、弾性ブッシュが削られるのを抑制するとともに、圧入後の抜け抑止力を十分に確保しながら圧入力を低減できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、筒部材の内周面における切断部の周囲に凹部を形成するようにした。
【0010】
第1の発明は、
プログレッシブ加工法によって鋼板から成形された筒部材に、樹脂材からなる外筒を有する弾性ブッシュを圧入して取り付ける弾性ブッシュの圧入構造において、
上記筒部材の中心線方向の端部には、成形時に隣り合う鋼板から切り離されることによって形成された切断部が設けられており、
上記筒部材の内周面における上記切断部の周囲には、上記鋼板を内から外へ押し出すことにより凹部が形成され、
上記凹部における上記筒部材の周方向の寸法は、上記凹部における上記筒部材の中心線方向の寸法よりも長く設定され、
上記弾性ブッシュの上記外筒が上記筒部材に圧入されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、成形時に隣り合う鋼板から筒部材を切断する際に、筒部材の中心線方向の端部に切断した跡からなる切断部が設けられることになる。この切断部は切断部以外の部位に比べて鋭い形状となっていることが考えられるが、筒部材の内周面における切断部の周囲が凹部となっているので、弾性ブッシュの圧入時に切断部が外筒に接触しにくくなり、外筒が切断部によって削られてしまうのが抑制される。
【0012】
また、弾性ブッシュの圧入時、弾性ブッシュを筒部材の凹部が形成された側から圧入すると、圧入初期において弾性ブッシュの外筒と筒部材の内周面との接触面積が少なくなるので、圧入力が低減される。圧入が完了した後は、弾性ブッシュの外周面が筒部材の内周面の広い範囲に圧接するので、圧入後の抜け抑止力は十分に得られる。
【0013】
また、圧入開始時に弾性ブッシュの外筒と、筒部材との接触面積が少なくなるので、弾性ブッシュの圧入初期の圧入力を十分に低減することが可能になる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、
上記筒部材の中心線方向の端部には、径方向内側に面取り部が形成され、
上記凹部は、上記面取り部と連続するように形成されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、圧入開始時に弾性ブッシュの外筒を筒部材に容易に挿入することが可能になるとともに、圧入初期の圧入力が十分に低減される。
【0016】
第3の発明は、第1または2の発明において、
上記凹部は、上記筒部材の周方向に延びていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、弾性ブッシュの圧入初期の圧入力を十分に低減することが可能になる
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、筒部材の内周面における切断部の周囲に凹部を形成したので、圧入時の弾性ブッシュが筒部材によって削られるのを抑制でき、また、圧入後の抜け抑止力を十分に確保しながら圧入力を低減できる。
【0019】
また、凹部における筒部材の周方向の寸法を、凹部における筒部材の中心線方向の寸法よりも長く設定したので、弾性ブッシュの圧入初期の圧入力を十分に低減することができる。
【0020】
第2の発明によれば、凹部を面取り部と連続するように形成したので、圧入開始時に弾性ブッシュの外筒を筒部材に容易に挿入することができるとともに、圧入初期の圧入力を十分に低減できる。
【0021】
第3の発明によれば、凹部が筒部材の周方向に延びているので、弾性ブッシュの圧入初期の圧入力を十分に低減することができる
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る弾性ブッシュの圧入構造が適用されたサスペンション構成部材の斜視図である。
図2】実施形態に係るサスペンション構成部材を備えたトーションビームの斜視図である。
図3】サスペンション構成部材の分解斜視図である。
図4】筒部材の斜視図である。
図5】筒部材の側面図である。
図6】プログレッシブ成形法によって成形される過程を示す平面図である。
図7】プログレッシブ成形法によって成形される過程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る弾性ブッシュの圧入構造が適用されたサスペンション構成部材1の斜視図である。このサスペンション構成部材1は、弾性ブッシュ10と、弾性ブッシュ10が圧入された筒部材20とを備えており、図2に示すトーションビーム型サスペンション30の一部を構成するものである。トーションビーム型サスペンション30は、車幅方向に延びるクロスビーム31と、クロスビーム31の左右両端にそれぞれ取り付けられたアーム32、32とを備えている。また、アーム32の車両後側における車体内方には、スプリング(図示せず)を受けるスプリング受け部33が設けられる。さらに、アーム32の車両後側における車体外方には、車輪(図示せず)が取り付けられる車輪取り付け部34が設けられる。
【0025】
各アーム32の車両前端部に、上記サスペンション構成部材1が取り付けられている。サスペンション構成部材1は、アーム32の車両前端部を車体(図示せず)に対して揺動可能に取り付けるためのものである。サスペンション構成部材1の弾性ブッシュ10は、内筒11と外筒12と弾性体13とで構成されている。内筒11は金属製である。内筒11には、車体への取付時に図示しないボルトの軸部分が挿通するようになっている。内筒11がボルトによって車体に取り付けられる。
【0026】
外筒12は樹脂製である。外筒12の中心線方向の長さは、内筒11よりも短く設定されており、従って、内筒11の両端部が外筒12の両端部からそれぞれ突出している。図3にも示すように、外筒12の中心線方向の一端部には、径方向外方へ突出して環状に延びる鍔部12aが形成されている。
【0027】
内筒11の外周面と外筒12の内周面との間に上記弾性体13が設けられている。弾性体13は、例えばゴム等の弾性を有する材料で構成されており、弾性体13の内周面は内筒11の外周面に接着され、弾性体13の外周面は外筒12の内周面に接着されている。
【0028】
筒部材20は、プログレッシブ加工法によって鋼板から成形されたものであり、いわゆる1枚の鋼板を円筒状に巻いて成形した巻きパイプである。筒部材20の周方向の一部には、鋼板の両縁部を突き合わせた突き合わせ部21が位置している。筒部材20の中心線を挟んで筒部材20の突き合わせ部21と点対称となる位置には、円形の貫通孔22が形成されている。貫通孔22は、筒部材20の中心線方向(幅方向)の中央部近傍に位置している。貫通孔22は、後述する順送金型に設けたパイロットピンが挿通するパイロット孔P(図6に示す)である。
【0029】
筒部材20の中心線方向の両端部には、それぞれ、成形時に隣り合う鋼板から切り離されることによって形成された切断部23、23が設けられている。各切断部23は、貫通孔22の側方に並ぶように位置しており、筒部材22における中心線方向の縁部の一部を切り欠くことによってできた部位である。切断部23は、筒部材20の周方向に長く延びる形状である。この実施形態における切断部23の形状は、切断部23の中央部が最も深く切り欠かれ、その両側が浅く切り欠かれた形状となっているが、この形状に限定されるものではない。
【0030】
筒部材20の中心線方向の一端部には、径方向内側に面取り部24が形成されている。この面取り部24は、筒部材20の成形時に形成されたものであり、周方向に延びている。
【0031】
また、図4にも示すように、筒部材20の内周面における切断部23の周囲には、内周側凹部25が形成されている。内周側凹部25は、筒部材20を構成する鋼板をプレスすることによって内から外へ押し出して成形されている。内周側凹部25の内方に切断部23が位置することになり、切断部23の周縁部は内周側凹部25の周縁部から所定寸法以上離れている。内周側凹部25は、切断部23の形状に対応して筒部材20の周方向に長く延びる形状である。具体的には、内周側凹部25における筒部材20の周方向の寸法は、内周側凹部25における筒部材20の中心線方向の寸法よりも長く設定されている。内周側凹部25の長手方向の両側に位置する縁部はそれぞれ湾曲している。上記面取り部24と内周側凹部25とは連続するように形成されている。よって、筒部材20の一端部における内径は、筒部材20の中心線方向の中間部の内径よりも大きくなる。
【0032】
また、図5に示すように、筒部材20の外周面における切断部23の周囲には、外周側凸部26が形成されている。外周側凸部26は、上記内周側凹部25を形成することによってできたものである。従って、外周側凸部26は、筒部材20の周方向に長く延びる形状となる。
【0033】
次に、上記筒部材20を成形する場合について説明する。上述したように筒部材20は、プログレッシブ加工法により連続して成形されたものである。プログレッシブ成形法では、図示しないが、素材となる鋼板A(図6に示す)を連続して送る供給装置と、順送金型と、順送金型が取り付けられるプレス装置とを備えている。順送金型には、鋼板Aを徐々に成形して最終形状の筒部材20とするように複数の成形面が形成されている。さらに、順送金型の内部には、鋼板Aに形成されたパイロット孔P(図6に示す)に挿入するパイロットピンが設けられており、パイロットピンがパイロット孔Pに挿入された状態で鋼板Aが順送金型に対して位置決めされた状態となる。パイロット孔Pは、最終製品における貫通孔22となる。鋼板Aは、プレス装置に設けられた図示しないリフタによって幅方向にガイドされながら成形面から押し上げられて送り動作が行われる。
【0034】
具体的には、図6及び図7に示すように、左側の成形前の鋼板Aが右側へ順に送られて最終製品の形状となるのであるが、プログレッシブ成形法であるため、隣り合う鋼板A、Aが繋ぎ部40によって繋がれた状態で送られることになる。繋ぎ部40は、最終製品には残らない部分であり、図示しない切断機によって切断される。繋ぎ部40の切断線を符号41で示す。この切断線41は、最終製品における切断部23の周縁部の形状と同じである。送り方向の中間部にある成形面によって上記内周側凹部25及び外周側凸部26が形成されるようになっている。鋼板Aが円筒状になったら、繋ぎ部40を切断して最終製品となる。
【0035】
次に、以上のようにして得られた筒部材20に弾性ブッシュ10を圧入する場合について説明する。弾性ブッシュ10は、鍔部12aが形成された端部とは反対側の端部から筒部材20の面取り部24が形成された端部に挿入する。このとき、筒部材20の面取り部24と内周側凹部25とで筒部材20の端部の内径が弾性ブッシュ10の端部の外径よりも大きくなっているので、弾性ブッシュ10の端部を筒部材20の端部に容易に挿入することができる。そして、弾性ブッシュ10に圧入力を加えると、弾性ブッシュ10が筒部材20に圧入されていく。このとき、筒部材20の切断部23の周囲に内周側凹部25が形成されているので、弾性ブッシュ10の圧入時に切断部23が外筒12に接触しにくくなり、外筒12が切断部23によって削られてしまうのが抑制される。
【0036】
また、弾性ブッシュ10の圧入時、弾性ブッシュ10を筒部材20の内周側凹部25が形成された側から圧入すると、圧入初期において弾性ブッシュ10の外筒12と筒部材20の内周面との接触面積が少なくなるので、圧入力が低減される。圧入が完了した後は、弾性ブッシュ10の外周面が筒部材20の内周面の広い範囲に圧接するので、圧入後の抜け抑止力は十分に得られる。
【0037】
以上説明したように、この実施形態によれば、筒部材20の内周面における切断部23の周囲に内周側凹部25を形成したので、圧入時の弾性ブッシュ10が筒部材20によって削られるのを抑制でき、また、圧入後の抜け抑止力を十分に確保しながら圧入力を低減できる。
【0038】
尚、上記実施形態では、サスペンション構成部材1に本発明を適用した場合について説明したが、これに限らず、各種弾性ブッシュを筒部材に圧入する場合に広く本発明を適用することができる。
【0039】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上説明したように、本発明に係る弾性ブッシュの圧入構造は、例えば自動車のサスペンションアームの支持部分に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 サスペンション構成部材
10 弾性ブッシュ
11 内筒
12 外筒
13 弾性体
20 筒部材
23 切断部
24 面取り部
25 内周側凹部
A 鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7