特許第6408906号(P6408906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6408906高分子材料のエネルギーロス及び耐摩耗性能を評価する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408906
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】高分子材料のエネルギーロス及び耐摩耗性能を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/201 20180101AFI20181004BHJP
   G01N 23/202 20060101ALI20181004BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20181004BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20181004BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   G01N23/201
   G01N23/202
   G01M17/02
   G01N33/44
   B60C19/00 H
【請求項の数】10
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-264607(P2014-264607)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-125844(P2016-125844A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間下 亮
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−102210(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065405(WO,A1)
【文献】 米国特許第06192103(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
B60C 1/00−19/12
G01M 17/00−17/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線又は中性子線を高分子材料に照射し、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより、高分子材料のエネルギーロスを評価する方法であって、
下記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対し、下記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる1nm〜100nmの相関長ξの標準偏差σを用いた高分子材料のエネルギーロスを評価する方法。
【数1】
【数2】
【請求項2】
X線散乱測定が小角X線散乱測定、中性子散乱測定が小角中性子散乱測定である請求項1記載の高分子材料のエネルギーロスを評価する方法。
【請求項3】
高分子材料が1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴム材料である請求項1又は2記載の高分子材料のエネルギーロスを評価する方法。
【請求項4】
ゴム材料がタイヤ用ゴム材料である請求項3記載の高分子材料のエネルギーロスを評価する方法。
【請求項5】
X線又は中性子線を用いて、上記(式1)で表されるqが10nm−1以下の領域で測定する請求項1〜4のいずれかに記載の高分子材料のエネルギーロスを評価する方法。
【請求項6】
X線又は中性子線を高分子材料に照射し、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより、高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法であって、
下記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対し、下記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξの標準偏差σを用いた高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法。
【数3】
【数4】
【請求項7】
X線散乱測定が小角X線散乱測定、中性子散乱測定が小角中性子散乱測定である請求項6記載の高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法。
【請求項8】
高分子材料が1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴム材料である請求項6又は7記載の高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法。
【請求項9】
ゴム材料がタイヤ用ゴム材料である請求項8記載の高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法。
【請求項10】
X線又は中性子線を用いて、上記(式1)で表されるqが10nm−1以下の領域で測定する請求項6〜9のいずれかに記載の高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料のエネルギーロス及び耐摩耗性能を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料などの高分子材料において、エネルギーロス、耐摩耗性能は製品の様々な特性に影響を及ぼす重要な物理量であり、例えば、ゴム製品であるタイヤにおいて、エネルギーロスは燃費性能やグリップ性能に、耐摩耗性能はタイヤの寿命に密接に関係している。
【0003】
高分子材料のエネルギーロスを評価する方法として、動的粘弾性測定から得られる損失正接(tanδ)の値を測定する手法が広く用いられている(特許文献1参照)。しかし、この手法は、誤差が大きく、測定精度として充分満足できるものではなく、更にサンプルごとの値の差が小さい場合、その差を再現性良く評価できないという問題もある。
【0004】
タイヤの耐摩耗性能は、例えば、所定距離走行後のタイヤトレッド部の溝深さを測定する実車テストの評価方法が広く実施されている。しかし、タイヤ成型や長距離走行が必要になるため、更に、短時間、低コストで耐摩耗性能を評価する方法として、ランボーン摩耗試験やDIN摩耗試験が知られているが、誤差が大きく、実車テストの結果との相関がある程度見られるものの、測定精度として充分満足できるものではない。サンプルごとの値の差が小さい場合、その差を再現性良く評価できないという問題もある(非特許文献1参照)。
【0005】
高分子材料のエネルギーロスや耐摩耗性能を評価する新たな方法として、小角中性子散乱測定による所定の式を用いて算出した特定ポリマーの架橋点間距離及び特定不均一網目構造サイズを持つ散乱体の単位体積あたりの個数を指標とする評価方法が提案されているが、未だ改善の余地がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−46088号公報
【特許文献2】特開2014−102210号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本ゴム協会誌(第69巻、第11号、第739頁、1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、測定精度に優れ、かつ各試料の性能差も充分に評価可能な高分子材料のエネルギーロスを評価する方法を提供することを目的とする。更に本発明は、前記課題を解決し、測定精度に優れ、かつ各試料の性能差も充分に評価可能な高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明は、X線又は中性子線を高分子材料に照射し、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより、高分子材料のエネルギーロスを評価する方法であって、下記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対し、下記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる1nm〜100nmの相関長ξの標準偏差σを用いた高分子材料のエネルギーロスを評価する方法に関する。
【数1】
【数2】
【0010】
上記第1の本発明において、上記X線散乱測定は小角X線散乱測定、上記中性子散乱測定は小角中性子散乱測定であることが好ましい。
上記第1の本発明において、上記高分子材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴム材料であることが好ましい。ここで、上記ゴム材料は、タイヤ用ゴム材料であることが好ましい。
【0011】
上記第1の本発明において、上記高分子材料のエネルギーロスを評価する方法としては、X線又は中性子線を用いて、上記(式1)で表されるqが10nm−1以下の領域で測定する方法が好ましい。
【0012】
第2の本発明は、X線又は中性子線を高分子材料に照射し、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより、高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法であって、下記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対し、下記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξの標準偏差σを用いた高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法に関する。
【数3】
【数4】
【0013】
上記第2の本発明において、上記X線散乱測定は小角X線散乱測定、上記中性子散乱測定は小角中性子散乱測定であることが好ましい。
上記第2の本発明において、上記高分子材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴム材料であることが好ましい。ここで、上記ゴム材料は、タイヤ用ゴム材料であることが好ましい。
【0014】
上記第2の本発明において、上記高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法としては、X線又は中性子線を用いて、上記(式1)で表されるqが10nm−1以下の領域で測定する方法が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
第1の本発明によれば、X線又は中性子線を高分子材料に照射し、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施する高分子材料のエネルギーロスの評価方法であって、上記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対し、上記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる1nm〜100nmの相関長ξの標準偏差σを用いて評価する方法である。従って、エネルギーロスの差が小さい材料の比較でも正確に判別することが可能となり、高い測定精度でエネルギーロスを評価できる。特に、ポリマーの架橋点間距離に相当する1nm〜100μmの相関長ξを用いた評価方法では、性能差を再現性良く評価できない試料間でも、エネルギーロスの差を精度良く評価できる。
【0016】
第2の本発明によれば、X線又は中性子線を高分子材料に照射し、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施する高分子材料の耐摩耗性能の評価方法であって、上記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対し、上記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξの標準偏差σを用いて評価する方法である。従って、耐摩耗性能の差が小さい材料の比較でも正確に判別することが可能となり、高い測定精度で耐摩耗性能を評価できる。特に、ポリマーの不均一網目構造サイズに相当する1nm〜100μmの相関長Ξを持つ散乱体の単位体積あたりの個数Nを用いた評価方法では、性能差を再現性良く評価できない試料間でも、耐摩耗性能の差を精度良く評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】SANS測定により得られた実施例1−4の試料の散乱強度曲線の一例。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の本発明は、X線又は中性子線を高分子材料に照射し、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより、高分子材料のエネルギーロスを評価する方法であって、上記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対し、上記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる1nm〜100nmの相関長ξの標準偏差σを用いたものである。
【0019】
ゴム材料などの高分子材料を小角X線散乱や小角中性子散乱の測定に供することにより、ポリマーの架橋点間距離に相当すると推察される1nm〜100μmの相関長ξを算出するとともに、この相関長ξが小さいほどエネルギーロスが小さい、すなわちこの相関長ξとエネルギーロスに高い相関性が存在することから、前記の測定により高分子材料のエネルギーロスの評価が可能になる。
【0020】
この点に関し、材料間のエネルギーロス差が極めて小さい場合、1nm〜100μmの相関長ξによる評価方法では、両ゴム材料のエネルギーロス差を精度良く評価できず、両材料を用いたタイヤの転がり抵抗差を精度良く評価できないことがある。
【0021】
そこで、第1の本発明の方法は、1nm〜100nmという狭小範囲の相関長ξの標準偏差σを算出するとともに、この標準偏差σとエネルギーロスに非常に高い相関性が存在すること、すなわちσが小さいほどエネルギーロスが小さくなることを見出し、完成したものである。従って、エネルギーロスの差が極めて小さい高分子材料でもその差を精度良く評価できる。
【0022】
ここで、標準偏差σとエネルギーロスに相関性がある理由は必ずしも明らかではないが、ポリマーの架橋点間距離ξの標準偏差σが小さいほど、架橋点が良好に分散し、応力集中を起こさずゴム材料全体に均一に力がかかるため、エネルギーロスが小さくなるものと推察される。
【0023】
第1の本発明では、高分子材料のエネルギーロスを評価するために、X線散乱測定として、高分子材料にX線を照射し散乱強度を測定するSAXS(Small−angle X−ray Scattering 小角X線散乱(散乱角:通常10度以下))測定を好適に採用できる。なお、小角X線散乱では、X線を物質に照射して散乱するX線のうち、散乱角が小さいものを測定することで物質の構造情報が得られ、高分子材料のミクロ相分離構造など、数ナノメートルレベルでの規則構造を分析できる。
【0024】
SAXS測定から詳細な分子構造情報を得るためには、高いS/N比のX線散乱プロファイルを測定できることが望ましい。そのため、シンクロトロンから放射されるX線は、少なくとも1010(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)以上の輝度を有することが好ましい。尚、bwはシンクロトロンから放射されるX線のband widthを示す。このようなシンクロトロンの例として、財団法人高輝度光科学研究センター所有の大型放射光施設SPring−8のビームラインBL03XU、BL20XUが挙げられる。
【0025】
上記X線の輝度(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)は、好ましくは1010以上、より好ましくは1012以上である。上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
【0026】
また、上記X線の光子数(photons/s)は、好ましくは10以上、より好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
【0027】
また第1の本発明では、高分子材料のエネルギーロスを評価するために、中性子散乱測定として、高分子材料に中性子線を照射し散乱強度を測定するSANS(Small−Angle Neutron Scattering 小角中性子散乱(散乱角:通常10度以下))測定を好適に採用できる。なお、小角中性子散乱では、中性子線を物質に照射して散乱する中性子線のうち散乱角が小さいものを測定して物質の構造情報が得られ、高分子材料のミクロ相分離構造など、数ナノメートルレベルでの規則構造を分析できる。
【0028】
SANS測定では、公知の磁気構造や重水素化法を利用した方法を用いることができる。重水素化法を採用する場合、例えば、高分子材料を重水素化溶媒により膨潤化し、重水素溶媒中で平衡状態にある高分子材料に中性子線を照射し、散乱強度を測定することができる。ここで、高分子材料を膨潤させる重水素化溶媒としては、重水、重水素化ヘキサン、重水素化トルエン、重水素化クロロホルム、重水素化メタノール、重DMSO((DC)S=O)、重水素化テトラヒドロフラン、重水素化アセトニトリル、重水素化ジクロロメタン、重水素化ベンゼン、重水素化N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0029】
SANSなどの中性子散乱測定に使用される中性子線は、独立行政法人日本原子力研究開発機構所有のJRR−3研究炉のビームラインSANS−Jなどを使用して得られる。
【0030】
SAXS測定と同様に、高いS/N比の中性子散乱プロファイルが得られるという点から、上記中性子線の中性子束強度(neutrons/cm/s)は、好ましくは10以上、より好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下の中性子束強度を用いることが好ましい。
【0031】
X線、中性子散乱測定は、下記(式1)で表されるqの領域で実施される。高分子材料のより微細な分子構造を測定する必要があるという点から、上記X線、中性子線を用いて、下記(式1)で表されるqが10nm−1以下の領域で測定することが好ましい。前記q(nm−1)の領域は、数値が大きくなるほどより小さな情報が得られる点から望ましいので、該qの領域は、20nm−1以下であることがより好ましい。
【数5】
【0032】
SAXS測定において散乱するX線は、X線検出装置によって検出され、該X線検出装置からのX線検出データを用いて画像処理装置などによって画像が生成される。
【0033】
X線検出装置としては、例えば、2次元検出器(X線フィルム、原子核乾板、X線撮像管、X線蛍光増倍管、X線イメージインテンシファイア、X線用イメージングプレート、X線用CCD、X線用非晶質体など)、ラインセンサー1次元検出器を使用できる。分析対象となる高分子材料の種類や状態などにより、適宜X線検出装置を選択すればよい。
【0034】
画像処理装置としては、X線検出装置によるX線検出データに基づき、通常のX線散乱画像を生成できるものを適宜使用できる。
【0035】
SANS測定でもSAXS測定と同様の原理により測定可能であり、散乱する中性子線を中性子線検出装置により検出し、該中性子線検出装置からの中性子線検出データを用いて画像処理装置などによって画像が生成される。ここで、前記と同様、中性子線検出装置としては、公知の2次元検出器や1次元検出器、画像処理装置としては、公知の中性子線散乱画像を生成できるものを使用でき、適宜選択すればよい。第1の本発明の効果が良好に得られるという点で、SANS測定が好ましい。
【0036】
そして、高分子材料について、SAXS測定やSANS測定等の測定を実施し、得られた散乱強度曲線を以下の方法で解析することにより、1nm〜100μmの相関長ξ(ポリマーの架橋点間距離)が得られ、特に本発明では、1nm〜100nmの相関長ξの標準偏差σを算出する。1nm〜100nmの相関長ξを用い、その標準偏差σを算出することにより、より精度良く評価することができる。
【0037】
図1などのSAXS測定、SANS測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対して、下記(式1−2)〜(式1−7)を用いてカーブフィッティングを行い、フィッティングパラメーターを最小2乗法で求める。
【数6】
【0038】
求められたフィッティングパラメーターのうち、1nm〜100μm相関長ξがポリマーの架橋点距離に相当し、相関長Ξがポリマーの不均一網目構造サイズに相当すると推定される。そして前記のとおり、特に1nm〜100nmの相関長ξの標準偏差σと、エネルギーロスの相関性が高く、σが小さいほどエネルギーロスが小さいことから、σがエネルギーロスに大きな影響を及ぼしていると考えられる。従って、SAXSなどのX線散乱測定やSANSなど中性子線散乱測定を実施し、(式1−2)〜(式1−7)を用いたカーブフィッティングで、1nm〜100nmの相関長ξを求め、更にその標準偏差σを求めることにより、エネルギーロス差が極めて小さい高分子材料間でも、その差の評価が可能となる。
【0039】
なお、相関長ξの分布を表す上記(式1−6)に関して、本発明では、相関長ξが正規分布するとして、ガウス関数を用いたが、分布関数としては、ガンマ関数、ワイブル関数等も挙げられる。上記標準偏差σとしては、好ましくはσ≦ξ/2、より好ましくはσ≦ξ/3、更に好ましくはσ≦ξ/4である。
【0040】
第1の本発明における高分子材料としては特に限定されず、従来公知のものが挙げられるが、例えば、1種類以上の共役ジエン系化合物を用いて得られるゴム材料、該ゴム材料と1種類以上の樹脂とが複合された複合材料を適用できる。共役ジエン系化合物としては特に限定されず、イソプレン、ブタジエンなどの公知の化合物が挙げられる。
【0041】
このようなゴム材料としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などの二重結合を有するポリマーが挙げられる。また、前記ゴム材料、複合材料などの高分子材料は、水酸基、アミノ基などの変性基を1つ以上含むものでもよい。
【0042】
上記樹脂としては特に限定されず、例えば、ゴム工業分野で汎用されているものが挙げられ、例えば、C5系脂肪族石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂などの石油樹脂が挙げられる。
【0043】
高分子材料としては、例えば、分子構造中に少なくとも1種の金属配位能を有する官能基を含むゴム材料及び複合材料などを好適に適用できる。ここで、金属配位能を有する官能基としては、金属配位能を持つものであれば特に限定されず、例えば、酸素、窒素、硫黄などの金属配位性の原子を含む官能基が挙げられる。具体的には、ジチオカルバミン酸基、リン酸基、カルボン酸基、カルバミン酸基、ジチオ酸基、アミノ燐酸基、チオール基などが例示される。上記官能基は1種のみ含まれても、2種以上含まれてもよい。
【0044】
なお、該官能基に対する配位金属としては、例えば、Fe,Cu,Ag,Co,Mn,Ni,Ti,V,Zn,Mo,W,Os,Mg,Ca,Sr,Ba,Al,Siなどが挙げられる。例えば、このような金属原子(M)を有する化合物が配合されかつ金属配位能を有する官能基(−COOなど)を含む高分子材料では、各−COOMが配位結合して多数の−COOMが重なることにより、金属原子が凝集したクラスターが形成される。なお、上記金属原子(M)の配合量としては、高分子材料中のポリマー成分100質量部に対して、0.01〜200質量部が好ましい。
【0045】
高分子材料としては、充填剤を含むゴム材料及び複合材料なども好適に適用できる。ここで、充填剤としては、カーボンブラック、シリカ;mM・xSiO・zHO(式中、Mはアルミニウム、カルシウム、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群より選択された少なくとも1種の金属、又は該金属の酸化物、水酸化物、水和物若しくは炭酸塩を示し、mは1〜5、xは0〜10、yは2〜5、zは0〜10の範囲の数値を示す。)、などが挙げられる。
【0046】
上記mM・xSiO・zHOで表される充填剤の具体例としては、水酸化アルミニウム(Al(OH))、アルミナ(Al、Al・3HO(水和物))、クレー(Al・2SiO)、カオリン(Al・2SiO・2HO)、パイロフィライト(Al・4SiO・HO)、ベントナイト(Al・4SiO・2HO)、ケイ酸アルミニウム(AlSiO、Al(SiO・5HOなど)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al・CaO・2SiO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、酸化カルシウム(CaO)、ケイ酸カルシウム(CaSiO)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、酸化マグネシウム(MgO)、タルク(MgO・4SiO・HO)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO・9HO)、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al)、チタン白(TiO)、チタン黒(Ti2n−1)などが挙げられる。このような充填剤を含む高分子材料では、充填剤が凝集したクラスターが形成される。なお、上記充填剤の配合量としては、高分子材料中のポリマー成分100質量部に対して、10〜200質量部が好ましい。
【0047】
上記ゴム材料、複合材料は、ゴム工業分野で汎用されている他の配合剤(シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイル、ワックス、加硫剤、加硫促進剤、架橋剤など)を含むものでもよい。このようなゴム材料や複合材料は、公知の混練方法などを用いて製造できる。このようなゴム材料、複合材料としては、例えば、タイヤ用ゴム材料として使用されるものが挙げられる。
【0048】
第1の本発明、特に1nm〜100nmの相関長ξの標準偏差σを用いる評価方法によれば、エネルギーロスの差が極めて小さいゴム材料間などのエネルギーロスも高精度で評価できる。また、動的粘弾性測定や、1nm〜100μmの相関長ξを用いた評価方法では、性能差を再現性良く評価できない異なる試料間についてもエネルギーロスの差を精度良く評価できる。
【0049】
次に、第2の本発明は、X線又は中性子線を高分子材料に照射し、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより、高分子材料の耐摩耗性能を評価する方法であって、上記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対し、上記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξの標準偏差σを用いたものである。
【0050】
ゴム材料などの高分子材料を小角X線散乱や小角中性子散乱の測定に供することにより、ポリマーの不均一網目構造サイズに相当すると推察される1nm〜100μmの相関長Ξ及びこの相関長Ξを持つ散乱体(不均一網目構造)の単位体積あたりの個数Nを算出するとともに、この個数Nが多いほど耐摩耗性能が良好になる、すなわちこの個数Nと耐摩耗性能に高い相関性が存在することから、前記の測定により高分子材料の耐摩耗性能の評価が可能になる。
【0051】
この点に関し、材料間の耐摩耗性能の差が極めて小さい場合、1nm〜100μmの相関長Ξを持つ散乱体の単位体積あたりの個数Nによる評価方法では、両ゴム材料の耐摩耗性能差を精度良く評価できず、両材料を用いたタイヤの耐摩耗性能差を精度良く評価できないことがある。
【0052】
そこで、第2の本発明の方法は、10nm〜100μmの相関長Ξの標準偏差σを算出するとともに、この標準偏差σと耐摩耗性能に非常に高い相関性が存在すること、すなわちσが小さいほど耐摩耗性能が良好になることを見出し、完成したものである。従って、耐摩耗性能の差が極めて小さい高分子材料でもその差を精度良く評価できる。
【0053】
ここで、標準偏差σと耐摩耗性能に相関性がある理由は必ずしも明らかではないが、10nm〜100μmの相関長Ξを持つ不均一網目構造が亀裂進展を抑える役割を担っており、そのサイズ分布が均一なほど応力が集中する箇所を低減させることができ、亀裂進展の抑制効果が高くなり、耐摩耗性能が向上するものと推察される。
【0054】
第2の本発明では、高分子材料の耐摩耗性能を評価するために、X線散乱測定として、高分子材料にX線を照射し散乱強度を測定するSAXS(Small−angle X−ray Scattering 小角X線散乱(散乱角:通常10度以下))測定を好適に採用できる。なお、小角X線散乱では、X線を物質に照射して散乱するX線のうち、散乱角が小さいものを測定することで物質の構造情報が得られ、高分子材料のミクロ相分離構造など、数ナノメートルレベルでの規則構造を分析できる。
【0055】
SAXS測定から詳細な分子構造情報を得るためには、高いS/N比のX線散乱プロファイルを測定できることが望ましい。そのため、シンクロトロンから放射されるX線は、少なくとも1010(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)以上の輝度を有することが好ましい。尚、bwはシンクロトロンから放射されるX線のband widthを示す。このようなシンクロトロンの例として、財団法人高輝度光科学研究センター所有の大型放射光施設SPring−8のビームラインBL03XU、BL20XUが挙げられる。
【0056】
上記第2の本発明において、上記X線の輝度、X線の光子数は、前述の第1の本発明と同様であることが好ましい。
【0057】
また第2の本発明では、高分子材料の耐摩耗性能を評価するために、中性子散乱測定として、高分子材料に中性子線を照射し散乱強度を測定するSANS(Small−Angle Neutron Scattering 小角中性子散乱(散乱角:通常10度以下))測定を好適に採用できる。なお、小角中性子散乱では、中性子線を物質に照射して散乱する中性子線のうち、散乱角が小さいものを測定することで物質の構造情報が得られ、高分子材料のミクロ相分離構造など、数ナノメートルレベルでの規則構造を分析できる。
【0058】
SANS測定では、上記第1の本発明と同様、公知の磁気構造や重水素化法を利用した方法を用いることができる。また、同様の中性子線の中性子束強度を使用できる。
【0059】
X線、中性子散乱測定は、下記(式1)で表されるqの領域で実施される。高分子材料のより微細な分子構造を測定する必要があるという点から、上記X線、中性子線を用いて、下記(式1)で表されるqが10nm−1以下の領域で測定することが好ましい。前記q(nm−1)の領域は、数値が大きくなるほどより小さな情報が得られる点から望ましいので、該qの領域は、20nm−1以下であることがより好ましい。
【数7】
【0060】
SAXS測定において散乱するX線、SANS測定において散乱する中性子線は、上記第1の本発明と同様の原理により測定可能である。第2の本発明の効果が良好に得られるという点で、SANS測定が好ましい。
【0061】
そして、高分子材料について、SAXS測定やSANS測定等の測定を実施し、得られた散乱強度曲線を以下の方法で解析することにより、1nm〜100μmの相関長Ξを持つ散乱体(不均一網目構造)の単位体積あたりの個数Nが得られ、特に本発明では、10nm〜100μmの相関長Ξの標準偏差σを算出する。10nm〜100μmの相関長Ξを用い、その標準偏差σを算出することにより、より精度良く評価することができる。
【0062】
図1などのSAXS測定、SANS測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対して、下記(式1−2)〜(式1−7)を用いてカーブフィッティングを行い、フィッティングパラメーターを最小2乗法で求める。
【数8】
【0063】
求められたフィッティングパラメーターのうち、1nm〜100μmの相関長ξがポリマーの架橋点距離に相当し、相関長Ξがポリマーの不均一網目構造サイズに相当すると推定される。そして前記のとおり、特に10nm〜100μmの相関長Ξの標準偏差σと、耐摩耗性能の相関性が高く、σが小さいほど耐摩耗性能が良好であるので、σが耐摩耗性能に大きな影響を及ぼしていると考えられる。従って、SAXSなどのX線散乱測定やSANSなど中性子線散乱測定を実施し、(式1−2)〜(式1−7)を用いたカーブフィッティングで、10nm〜100μmの相関長Ξを求め、更にその標準偏差σを求めることにより、耐摩耗性能の差が極めて小さい高分子材料間でも、その差の評価が可能となる。
【0064】
なお、相関長Ξの分布を表す上記(式1−7)に関して、本発明では、相関長Ξが正規分布するとして、ガウス関数を用いたが、分布関数としては、ガンマ関数、ワイブル関数等も挙げられる。上記標準偏差σとしては、好ましくはσ≦Ξ/2、より好ましくはσ≦Ξ/3、更に好ましくはσ≦Ξ/4である。
【0065】
第2の本発明における高分子材料としては特に限定されず、例えば、上記第1の本発明と同様のものが挙げられる。なお、金属原子(M)、充填剤の配合量も同一範囲が好ましい。
【0066】
また、上記第1の本発明と同様の他の配合剤を含むものでもよい。更に、同様の方法により製造でき、タイヤ用ゴム材料などに使用できる。
【0067】
第2の本発明、特に10nm〜100μmの相関長Ξの標準偏差σを用いる評価方法によれば、ゴム材料の耐摩耗性能を精密に考慮することが可能となり、耐摩耗性能の差が極めて小さいゴム材料間などの耐摩耗性能差も高精度で評価できる。また、ランボーン摩耗試験、DIN摩耗試験や、1nm〜100μmの相関長Ξを持つ散乱体の単位体積あたりの個数Nを用いた評価方法では、性能差を再現性良く評価できない異なる試料間についても耐摩耗性能の差を精度良く評価できる。
【実施例】
【0068】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0069】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
(使用試薬)
シクロへキサン:関東化学(株)製
ピロリジン:関東化学(株)製
ジビニルベンゼン:シグマアルドリッチ社製
1.6M n−ブチルリチウムへキサン溶液:関東化学(株)製
イソプロパノール:関東化学(株)製
スチレン:関東化学(株)製
ブタジエン:高千穂化学工業(株)製
テトラメチルエチレンジアミン:関東化学(株)製
変性剤:アヅマックス社製の3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン
2,6−tert−ブチル−p−クレゾール:大内新興化学工業(株)製
メタノール:関東化学(株)製
BR:宇部興産(株)製のBR150B
シリカ:デグッサ社製のウルトラジルVN3
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69
アロマオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH−24
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:東邦亜鉛製の銀嶺R
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD
【0070】
(モノマー(1)の合成)
十分に窒素置換した100ml容器に、シクロヘキサン50ml、ピロリジン4.1ml、ジビニルベンゼン8.9mlを加え、0℃にて1.6M n−ブチルリチウムヘキサン溶液0.7mlを加えて攪拌した。1時間後、イソプロパノールを加えて反応を停止させ、抽出・精製を行うことでモノマー(1)を得た。
【0071】
(重合体(1)の合成)
十分に窒素置換した1000ml耐圧製容器に、シクロヘキサン600ml、スチレン12.6ml、ブタジエン71.0ml、モノマー(1)0.06g、テトラメチルエチレンジアミン0.11mlを加え、40℃で1.6M n−ブチルリチウムヘキサン溶液0.2mlを加えて撹拌した。3時間後、変性剤を0.5ml加えて攪拌した。1時間後、イソプロパノール3mlを加えて重合を停止させた。反応溶液に2,6−tert−ブチル−p−クレゾール1gを添加後、メタノールで再沈殿処理を行い、加熱乾燥させて重合体(1)を得た。
【0072】
(重合体(2)の合成)
モノマー(1)を0.17gとし、上記重合体(1)と同様の方法で重合体(2)を得た。
【0073】
(重合体(3)の合成)
モノマー(1)を0.29gとし、上記重合体(1)と同様の方法で重合体(3)を得た。
【0074】
(成型品の製造方法)
表1〜4に示す配合処方にしたがい、バンバリー混練機及びロール混練機にて混練し、次いで、混練した材料を170℃で20分間プレス成型して成型品を得た。
【0075】
得られた成型品のエネルギーロス、耐摩耗性能を以下に示すSANS測定法(相関長ξの標準偏差σ、相関長Ξの標準偏差σ)、動的粘弾性測定法、ランボーン摩耗試験、実車テストの試験方法により評価し、結果を示した。また、以下の特開2014−102210号公報に記載のSANS測定法(相関長ξ、相関長Ξ)でも評価した。
【0076】
1−1.SANS測定法−相関長ξの標準偏差σ(実施例1−1〜1−8)
厚み約1mmのプレート状試料(成型品)を重水素化トルエンで平衡膨潤させた状態でサンプルホルダーに取り付け、室温にて試料に中性子線を照射した。試料から検出器までの距離が2.5m、10m、及びフォーカシングレンズ測定から得られた絶対散乱強度曲線を最小2乗法にて結合させた。3つの曲線の結合は、試料から検出器までの距離が2.5mの測定から得られる散乱強度曲線を固定し、10m、フォーカシングレンズ測定から得られる散乱強度曲線をシフトさせた。得られた散乱強度曲線I(q)に対して、(式1−2)〜(式1−7)を用いてカーブフィッティングを行い、フィッティングパラメーターξ(1nm〜100nmの相関長(ポリマーの架橋点間距離))を最小2乗法で求め、該相関長ξの標準偏差σを算出した。得られた相関長ξの標準偏差σの値について、実施例1−1及び1−7を100として下記計算式により指数表示した。数値が大きいほどエネルギーロスが小さいことを示す。
(標準偏差σ指数)=(実施例1−1又は1−7のσ)/(各配合例のσ)×100
【0077】
(SANS装置)
SANS:独立行政法人日本原子力研究開発機構所有のJRR−3研究炉のビームラインSANS−J付属のSANS測定装置
(測定条件)
中性子線の波長:6.5Å
中性子線の中性子束強度:9.9×10neutrons/cm/s
試料から検出器までの距離:2.5m、10m(なお、更に小角側の情報を得るために試料から検出器までの距離10mの条件下、フォーカシングレンズを用いた測定を行った。)
(検出器)
2次元検出器(He 2次元検出器及び2次元フォトマル+ZnS/LiF検出器)
【0078】
1−2.動的粘弾性測定法(比較例1−1〜1−6)
(株)上島製作所製のスペクトロメーターを用いて、動的歪振幅1%、周波数10Hz、温度60℃でtanδを測定した。得られたtanδの値について、比較例1−1を100として下記計算式により指数表示した。数値が大きいほどエネルギーロスが小さいことを示す。
(動的粘弾性指数)=(比較例1−1のtanδ)/(各配合例のtanδ)×100
【0079】
1−3.タイヤ転がり性能
実施例1−1〜1−8、比較例1−1〜1−8の各配合をタイヤ部材に適用した試供タイヤについて、転がり抵抗試験機を用い、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、実施例1−1及び1−7を100として下記計算式により指数表示した。指数が大きい方がタイヤの転がり性能が良く、エネルギーロスが小さいことを示している。
(タイヤ転がり性能指数)=(実施例1−1又は1−7の転がり抵抗)/(各配合例の転がり抵抗)×100
【0080】
1−4.SANS測定法−相関長ξ(比較例1−7、1−8)
上記1−1のSANS測定法と同様の条件で、特開2014−102210号公報に記載の下記(式2−2)〜(式2−3)を用いてカーブフィッティングを行い、フィッティングパラメーターξ(1nm〜100μmの相関長(ポリマーの架橋点間距離))を最小2乗法で求めた。得られた相関長ξの値について、比較例1−7を100として下記計算式により指数表示した。数値が大きいほどエネルギーロスが小さいことを示す。
(相関長ξ指数)=(比較例1−7のξ)/(各配合例のξ)×100
【数9】
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
表1、2から、SANS測定を用いた実施例において、(式1−2)〜(式1−7)を用いたカーブフィッティングで相関長ξの標準偏差σを求めることにより、エネルギーロスを評価できることが立証され、特に比較例と比較すると、動的粘弾性測定法、1nm〜100μmの相関長ξによる評価では試料によるエネルギーロスの差を評価しにくいものでも、微小な差を精度よく測定できることも明らかとなった。
【0084】
2−1.SANS測定法−相関長Ξの標準偏差σ(実施例2−1〜2−8)
前記SANS測定法で得られた散乱強度曲線I(q)に対して、(式1−2)〜(式1−7)を用いてカーブフィッティングを行い、フィッティングパラメーターΞ(10nm〜100μmの相関長(ポリマーの不均一網目構造サイズ))を最小2乗法で求め、該相関長Ξの標準偏差σを算出した。得られた標準偏差σの値について、実施例2−1を100として下記計算式により指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性能が高いことを示す。
(標準偏差σ指数)=(実施例2−1のσ)/(各配合例のσ)×100
【0085】
2−2.ランボーン摩耗試験(比較例2−1〜2−6)
ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で摩耗量を測定した。得られた摩耗量について、比較例2−1を100として下記計算式により指数表示をした。数値が大きいほど耐摩耗性能が高いことを示す。
(ランボーン摩耗指数)=(各配合例の摩耗量)/(比較例2−1の摩耗量)×100
【0086】
2−3.実車耐摩耗性能テスト
実施例2−1〜2−8、比較例2−1〜2−8の各配合をタイヤトレッド部に適用した試供タイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を国産FF車に装着し、走行距離8000km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定した。この溝深さからタイヤの溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し、下記式により比較例2−1を100として下記計算式により指数表示をした。指数が大きいほど、耐摩耗性能が良好である。
(実車耐摩耗性能指数)=(各配合例のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)/(比較例2−1のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0087】
2−4.SANS測定法−相関長Ξを持つ散乱体の単位体積あたりの個数N
上記2−1のSANS測定法と同様の条件で、特開2014−102210号公報に記載の下記(式3−2)〜(式3−6)を用いてカーブフィッティングを行い、フィッティングパラメーターΞ(1nm〜100μmの相関長(ポリマーの不均一網目構造サイズ))を最小2乗法で求め、更に得られた相関長Ξの値から、相関長Ξを持つ散乱体の単位体積あたりの個数Nを求めた。得られた個数Nの値について、比較例2−7を100として下記計算式により指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性能が高いことを示す。
(個数N指数)=(各配合例のN)/(比較例2−7のN)×100
【数10】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
表3、4から、SANS測定を用いた実施例において、(式1−2)〜(式1−7)を用いたカーブフィッティングで相関長Ξの標準偏差σを求めることにより、耐摩耗性能を評価できることが立証され、特に比較例と比較すると、ランボーン摩耗試験、相関長Ξの散乱体の単位体積あたりの個数Nによる評価では試料による耐摩耗性能の差を評価しにくいものでも、微小な差を精度よく測定できることも明らかとなった。
図1