(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記入口接続送液回路に設けられた送液手段の1時間あたりの送液量V1と、前記出口接続送液回路に設けられた送液手段の1時間あたりの返液量V2とが、0.9 x V1≦ V2 ≦1.1 x V1であり、前記細胞を含んだ前記細胞培養液の総量の変動が10%以内である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養システム。
前記入口接続送液回路に設置された、前記細胞培養槽内側端部に細胞又は細胞凝集塊を通過させず、前記細胞培養液を実質的に通過させるフィルターを更に備える、請求項3に記載の細胞培養システム。
前記第1の入口接続送液回路に設置された、前記細胞培養槽内側端部に細胞又は細胞凝集塊を通過させず、前記細胞培養液を実質的に通過させるフィルターを更に備える、請求項5に記載の細胞培養システム。
前記哺乳動物細胞が、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞、造血幹細胞、及び/又はこれらから分化誘導された細胞である、請求項12に記載の細胞培養システム。
前記細胞が浮遊培養可能な細胞、接着細胞、細胞凝集体を形成する細胞、及び/又は粒子状担体に接着可能な細胞である、請求項1〜8、及び10のいずれか1項に記載の細胞培養システム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0026】
本実施形態に係る細胞培養システムは、
図1に示すように、細胞を培養するための細胞培養槽1と、成分調整液貯留槽2と、細胞培養液9及び/又は成分調整液10の入口と出口とを有し、半透膜を備える培養液成分調整手段3と、細胞培養槽1及び/又は成分調整液貯留槽2から培養液成分調整手段3の入口に接続された入口接続送液回路5と、細胞培養槽1及び/又は成分調整液貯留槽2から培養液成分調整手段3の出口に接続された出口接続送液回路4と、入口接続送液回路5から培養液成分調整手段3を経て出口接続送液回路4に細胞培養液9及び/又は成分調整液10を灌流する手段7、6と、細胞培養槽1の液量を調整する手段と、を備える細胞培養システムであって、培養液成分調整手段3を介して細胞培養槽1内の細胞培養液9の成分と成分調整液貯留槽2内の成分調整液10の成分とを連続的に調整可能であると同時に、細胞培養槽1内の細胞培養液9の量を実質的に一定に調整可能である、細胞培養システムである。
【0027】
図2に示すように、細胞培養槽1内には、細胞又は細胞凝集隗が細胞培養液9とともに細胞培養槽1の外側に出てしまうことを防止するための手段として、フィルター8を入口接続送液回路5の端部に設けてもよい。フィルター8としては、細胞又は細胞凝集塊がフィルター表面に目詰まりし難い構造であればよく、素材や形は限定されないが、例えば細胞を対象とするならば平均孔径5〜10μmのステンレスやナイロン製のメッシュ、不織布等、また細胞凝集塊を対象とするならばポリエチレンの焼結体、不織布からなる平均孔径30μmの平板型膜等が使用可能である。材質がそれらを吸着しやすい性質を有している場合には、それらを別の材料でコートしたり、表面改質剤を用いたりすることで吸着を抑制することも可能である。
【0028】
本実施形態に係る細胞培養液とは、各種細胞とその細胞の生育可能な溶液成分と環境を少なくとも有する溶液をいう。その成分及び濃度は細胞の性質により設計される。また生理的なpHを維持しやすいように緩衝能を有するように設計されることや、pHの変化を色で判別しやすいようにpH指示色素を混合することもできる。一般的に市販されている各種細胞培養液をそのまま使用することやこれらに目的細胞の性質に応じて追加の成分を添加して用いることも可能である。
【0029】
本実施形態に係る細胞の培養システムで培養される細胞は、哺乳動物細胞等の細胞である。培養の結果、細胞の産生物を利用するのであれば、その物質を産生しやすい細胞や目的の物質を産生しやすいよう、特定の遺伝子を導入した細胞も選択できる。また、細培養の結果、特定の細胞を利用するのであれば、その細胞を増殖しやくなるように遺伝子改変した細胞なども用いることができる。
【0030】
また、細胞の成熟度に関してもいかなる制約もなく、成熟細胞、未分化細胞ともに用いることが可能である。よって、生体組織から酵素処理をして採取した細胞、血液に由来する細胞、間葉系幹細胞、ES細胞、iPS細胞等が例示される。また、接着細胞、浮遊細胞であることにも限定されない。さらに、細胞は単一種類の細胞に限定もされない。目的の細胞が生育しやすい物質を産生する他の細胞を混合させて共培養するということにも用いられうる。
【0031】
本実施形態に係る培養液成分調整手段とは、培養液成分の膜透過性がその分子量に依存する半透性の膜をいう。成分調整液は培養液成分調整手段を介して細胞培養液と接する。培養液成分調整手段の孔径は細胞培養槽に保持したい成分の分子量により設計される。すなわち、細胞培養槽内に保持したい成分のうち最小分子量物質が膜を透過しないように選択される。培養液成分調整手段の形状は、平膜形状、中空糸形状が用いられうるが、培養液や成分調整液を灌流する目的では中空糸形状が好ましい。
【0032】
培養液成分調整手段の材質は特に限定されないが、細胞培養槽内に保持したい成分が吸着、分解等されない材質が好ましく用いられる。また、材質がそれらを吸着しやすい性質を有している場合には、それらを別の材料でコートしたり、表面改質剤を用いたりすることで吸着を抑制することも可能である。培養液成分調整手段3は、
図3に示すように細胞培養槽1内に設置、または
図1及び
図2に示すように成分調整液貯留槽2に設置、または、
図4に示すように細胞培養槽1や成分調整液貯留槽2の外部に独立して設置されうる。
【0033】
このように、本実施形態に係る細胞培養システムは、1)培養液成分調整手段を成分調整液槽内に設置する、2)培養液成分調整手段を細胞培養槽内に設置する、3)培養液成分調整手段を細胞培養槽、及び成分調整液貯留槽の外部に独立して設置する、の少なくとも3種類をとりうるが、この形態は細胞の性質によっても選択される。例えば、培養する細胞が接着細胞であれば、細胞培養槽内に設置した培養液成分調整手段の半透膜に細胞が付着することを防ぐために1)や3)の形態が好ましく用いられる。また、培養細胞が浮遊細胞であり単一細胞のまま増殖する細胞であれば2)の形態が好ましく用いられる。
【0034】
図4に示す構成においては、送液手段7によって細胞培養槽1から吸引された細胞培養液9は、第1の入口接続送液回路5を経て、中空糸モジュールの第1の入り口から中空糸モジュールの内部に入り、中空糸3の内側を通過し、さらに中空糸モジュールの第1の出口から第1の出口接続送液回路4を経て細胞培養槽1に戻る。また、送液手段15によって成分調整液貯留槽2から吸引された成分調整液10は、第2の入口接続送液回路17を経て、中空糸モジュールの第2の入口から中空糸モジュールの内部に入り、中空糸3の外側を通過し、さらに中空糸モジュールの第2の出口から第2の出口接続送液回路16を経て成分調整液貯留槽2に戻る。
【0035】
本実施形態に係る成分調整液とは、細胞培養液の成分の培養液成分調整手段を実質的に透過可能な成分のうち少なくとも一つの成分を有する溶液をいう。培養液と成分調整液にそれぞれ含有する成分は、その分子量と両液間の濃度差により膜を介して調整される。
【0036】
分子量が膜の孔径よりも大きく実質的に膜を透過できない成分は両液間を移動しない。対して、分子量が膜の孔径よりよりも小さく実質的に膜を透過しうる成分はその濃度差が少なくなるように両液間で濃度調整される。細胞により産生され細胞培養液中に蓄積した代謝物は成分調整液側に移動することにより培養液中の濃度を低下させる。同時に、細胞生育に必要であり培養期間中に濃度が低下した成分については成分調整液から培養液へ移動し補充される。以上の原理から、成分調整液の内容と濃度を適切に設定することによって、培養液中の環境が維持され細胞の良好な生育環境が維持される。もちろん細胞培養液をそのまま使用することもできる。よって、成分調整液は細胞培養期間中に培養液中から失われていく成分をすべて有することが望ましい、さらに望ましくはそれらの成分の濃度が培養期間中に枯渇しないように濃度設定される。
【0037】
また、成分調整液の量は細胞代謝物の蓄積防止という観点からなるべく多く設定することが望ましい。望ましくは、培養液の5倍以上、より望ましくは10倍以上に設定される。しかし、成分調整液の量は培養コストに影響するため、培養期間と必要細胞数により決定されてもよい。また、成分調整液は細胞培養液と同様に生理的なpHを維持しやすいように緩衝能を有するように設計されることや、pHの変化を色で判別しやすいようにpH指示色素を混合することなども可能である。
【0038】
本実施形態に係る細胞培養槽とは、各種細胞とその細胞の生育可能な溶液成分を有する培養液とを保持したまま無菌的に培養が可能なように設計されたものであればよく、その形、大きさ、材質は問わない。一般にそれらのパラメータは細胞の特性と必要な細胞数により設計される。細胞が接着細胞であれば、細胞が重力により沈降し表面に接着しやすい広い平面構造を有する槽が設計されるし、浮遊細胞であれば深さがあり、
図1ないし
図4に示すような回転翼(攪拌翼)12による撹拌により培養液の成分や酸素濃度が均一化しやすい構造が設計される。
【0039】
また、接着細胞でも浮遊細胞用に設計された細胞培養槽に接着細胞と粒子担体を混合して培養することで、粒子担体に接着細胞を接着させこれを浮遊させながら培養することも可能である。さらに浮遊培養により細胞同士が会合しやすく細胞塊を形成するような接着細胞も浮遊細胞用に設計された槽により培養可能である。
【0040】
図1ないし
図4に示すように、細胞培養槽1には、通気フィルター11が設けられていてもよい。
【0041】
細胞培養槽には細胞培養液及び/又は成分調整液を槽から取り出す口と、成分調整された後槽内に戻るための口がそれぞれ設置される。
【0042】
本実施形態に係る成分調整液貯留槽とは、成分調整液を培養期間中に無菌的に保持できるように設計されるものであればよく、その形、大きさ、材質は問わない。一般にそれらのパラメータは成分調整液の量や槽内に培養液成分調整手段を設置するか否かにより適宜設計される。成分調整液貯留槽には細胞培養液及び/又は成分調整液を槽から取り出す口と、成分調整された後槽内に戻るための口がそれぞれ設置される。
【0043】
また、
図1ないし
図4に示すように、攪拌回転子13を成分調整液貯留槽2の底面においてもよい。さらに、成分調整液貯留槽2には、通気フィルター14を設けてもよい。
【0044】
本実施形態に係る送液回路とは、細胞培養槽、成分調整液貯留槽、培養液成分調整手段の間に設置され培養液又は成分調整液を無菌的に灌流することが可能な管腔構造を有するチューブをいう。材質としては、シリコン、ウレタン、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル等が用いられる。
【0045】
本実施形態に係る細胞培養液及び/又は成分調整液を灌流する手段とは、上記送液回路に接するように設置され、動力を用いて連続的に回路内の液を送液可能な手段をいう。一般的なポンプであれば使用可能であり、ペリスタポンプ、ダイヤフラムポンプ等が例示できる。
【0046】
本実施形態に係る細胞培養槽の液量を調整する手段は、培養中に細胞培養槽の液容量を実質的に一定に調整する手段をいう。このような機能を
図1ないし
図4に示す送液手段7、6に併せ持たせることも可能である。培養装置に中空糸上の半透膜が設置され、これを介して培養液と成分調整液との間で成分の交換が行われたり、膜にろ過圧がかかったりすると、結果として両液間の移動が起こる。そのため、特段の措置をとらないと、最初に設定した培養液と成分調整液のそれぞれの液量が変化する場合がある。しかし、培養液の液量が変化すると、培養液中の成分濃度や、細胞密度が変化することから安定な培養が達成されない傾向にある。そこで例えば半透膜の入口及び出口にそれぞれ独立にポンプ等の送液手段7、6を設置し、これらを独立に制御することで液容量を一定に保持することを達成できる。このような手段には培養槽や成分調整液貯留槽内の空気層の圧力を制御する方法などの方法もあるが、上記のように独立した少なくとも2台のポンプにより制御する方法がもっとも簡便に効果的に実施できる。
【0047】
図1及び
図2に示す本実施形態において、例えば、送液手段7は、細胞培養槽1の細胞培養液9を培養液成分調整手段3に送液する。送液手段6は、培養液成分調整手段3に送液され、細胞培養液9中の不要物質と成分調整液10中の有用物質の濃度を膜を介して調整したのち細胞培養液9を返液する返液手段として機能する。
【0048】
図3に示す本実施形態において、例えば、送液手段6は、成分調整液貯留槽2の成分調整液10を培養液成分調整手段3に送液する。送液手段7は、培養液成分調整手段3に送液され、細胞培養液9中の不要物質と成分調整液10中の有用物質を接触させた成分調整液を返液する返液手段として機能する。
【0049】
ここで、送液手段の1時間あたりの送液量V1と、返液手段の1時間あたりの返液量V2とは理想的にはV1=V2が望ましいが、まったく等しい送液量を実現するのは困難な場合が多い。また、V1とV2の差を非常に小さくすることは可能であるが、非常に高価な精度の高いポンプが必要となる場合もある。しかし、送液量V1とV2とを、0.9 xV1≦ V2 ≦1.1 x V1の範囲内にすれば、急激な液量変化をまねくことなく、V1とV2を個別に調整することで前記細胞培養液の総量の変動を10%以内にコントロールすることが容易となるので好適である。また、送液量V1とV2とを上記の範囲内にすることは、安価なポンプにより容易に実現可能である。
【0050】
上記のように少なくとも2台の独立したポンプを使用した場合、
図5に示すように、さらに細胞培養槽1の液量を検知する手段18を用いて液面が所望の高さより上又は下にある情報を情報伝達回路19を介して随時取得し、その情報から、コンピュータ等の送液手段調整器20によって、入口接続送液回路5と出口接続送液回路4に接続された各ポンプ7、6の流速に差をもたせることにより液面を制御するシステムとすることもできる。例えば各ポンプの実流速が設定値と若干誤差を生じた場合にでも、このような調整システムとすることで長時間の培養中に誤差が蓄積されて細胞培養槽の液面に大きな変化が生じてしまうことを防止できる。
【実施例1】
【0051】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(細胞培養システム)
培養装置としては、8連動動物培養装置Bio Jr.8(BJR−25NA1S−8C、エイブル株式会社)を使用した。本装置は、1台のコントローラーで8台の100mL容量の細胞培養槽を制御可能で、測定・制御項目は攪拌速度、温度、pH、及び溶存酸素濃度(DO)で各培養槽は独立に制御できる。
【0052】
(ES細胞の準備)
培養細胞としてはマウスES細胞(EMG7株)を選択した。
【0053】
(胚様体培養)
(培養0日目から培養3日目)
細胞培養槽としてガラス製の専用槽(エイブル株式会社)使用し、培養液を100mLとした。
マウスES細胞を密度1x10^5 cells/mLとし、培養を開始した。この時点を培養0日目とした。
培養液としては、Glasgow最少必須培地(GMEM、インビトロジェン社)に以下の成分を添加して使用した。
すなわち、10%ウシ胎児血清(FBS、株式会社ニチレイ)、0.1mM非必須アミノ酸(NEAA、インビトロジェン社)、1mMピルビン酸ナトリウム(Na−pyruvate、シグマ社)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(2−ME、インビトロジェン社)となるように培養液を調製した。
3日目までこのまま培養し、ES細胞の会合体である胚様体(EB:Embryoid body)を形成させた。
細胞培養槽には攪拌回転翼を設置し、回転数は85rpmとした。
細胞培養槽には、温度、pH、溶存酸素濃度をそれぞれ計測可能なセンサーを設置した。
また、溶存酸素濃度は40%に制御される設定とし、そのために酸素、窒素、空気の混合ガスが細胞培養槽内の培養液に対して上面通気となるようにガス導入ラインを設置した。さらにガスを槽から排出する導出ラインを設置した。
【0054】
(培養3日目から10日目)
培養3日目に得られた全細胞数を算出し、以下のように実施例1と比較例の培養方法に分割し培養を再開した。一つの培養槽あたりの細胞密度は1.8x10^5 cells/mLとした。
【0055】
実施例1においては、
図2に示したような細胞培養システムを作製した。すなわち、細胞培養槽は上記の培養槽の蓋部分に培養液の取り出しと返却が可能な口を設置した。
さらに、細胞培養槽内には細胞隗が培養液とともに培養槽の外側に出てしまうことを防止するための手段としてポリエチレンの焼結体からなる直径15mm、平均孔径30μmの平板型膜を設置した。
成分調整液槽は容量1Lのガラス製滅菌ビンを使用した。
槽の蓋の部分に通気ライン、培養液の入口、出口ラインを設置した。
培養液成分調整手段は、旭ポリスルホンダイアライザーAPS(旭化成クラレメディカル株式会社)の中空糸を400本束ねて有効長20cmとなるように中空糸両端部の管腔構造が解放されるようにウレタン接着剤にて固定したものを使用した。
培養液成分調整手段は、成分調整液貯留手段の内部に設置し、中空糸束の両端部と培養液の入口、出口ラインを回路にて接続した。
成分調整液としては、細胞培養液にFBSを添加していない培養液を1L使用した。
送液回路としては、シリコン製チューブ(内径1mmφ、外径4mmφ)を用いた。
培養液の送液手段としては、ペリスタポンプ IPC−N4(ISMATEC社)を2台使用した。2台のポンプはそれぞれ細胞培養槽と成分調整液貯留槽を接続する送液回路に接し送液可能な状態に設置した。
以上説明した方法により、
図2に示したような細胞培養システムを作製した。
ポンプの作動速度は、3日目から4日目は100mL/日、4日目から5日目までは400mL/日、5日目から10日目までは1,000mL/日とした。
細胞培養槽の液容量が実質的に同じレベルを維持できるようにしながら2台のポンプ流速を微調整し、10日目まで連続的に培養液を灌流しながら培養を実施した。
10日目に細胞培養を終了し、細胞数の測定をおこなった。
(細胞数の測定)
培養10日目に胚様体を細胞培養槽から回収し、0.25%トリプシン/EDTA(インビトロジェン社)にて処理し単細胞の状態とした後、トリパンブルー色素にて死細胞を染色し、生細胞のみを計算盤を用いてカウントした。
【0056】
(乳酸濃度の測定)
培養液中の乳酸濃度の変化は、細胞培養槽から少量の培養液を採取したのち、多機能バイオセンサBF−7(王子計測機器株式会社)を用いて測定した。
(EBの円相当径測定)
EBの円相当直径は、光学顕微鏡ECLIPSE Ti−U(株式会社ニコン)を用いてEBの画像を撮影したのち、画像解析ソフト(Nikon ElementsD、株式会社ニコン)を用いてEBの外周長を測定し、その値から真円の場合の円相当直径算出した。各サンプルから100個のEBの円相当直径を測定し、円相当直径の頻度分布を作成した。
(EB内部細胞のTUNEL染色)
EB内部の細胞がどの程度アポトーシスを生じているかについて判定するためにTUNEL染色を行った。
各サンプルから、EBの凍結切片を作製し、アポトーシス検出キット(タカラバイオ株式会社)をもちいて死細胞を染色した。
【0057】
(比較例1)
培養3日目までの装置を用いて、10日目まで培養を継続した。
4及び5日目に1回、6から9日目に2回の培養液の交換を実施した。
培養液の交換は、細胞培養槽の撹拌を止めて胚様体を沈降させた後、装置から細胞培養槽を切り離し、クリーンベンチ内で培養液上清を抜きとったのち、新鮮な培養液を添加する方法とした。
培養液交換は合計10回実施し、合計1Lの培養液を使用した。
【0058】
(比較例2)
実施例1で用いた装置から、成分調整液貯留槽から細胞培養槽に向かってつながる送液回路に設置されたポンプを取り外した装置を用いて培養を継続した。培養継続とともに細胞培養槽内の培養液量が減少し始め、培養継続が困難となり培養を中止した。
【0059】
(結果)
培養10日目の実施例1及び比較例1の培養により得られた総細胞数を以下に示す。
実施例1の総細胞数 4.6x10^8個
比較例1の総細胞数 3.4x10^8個
【0060】
培養10日間の実施例1及び比較例1の培養中のそれぞれの細胞培養槽のpH変化を
図6に示した。
培養10日間の実施例1及び比較例1の細胞培養槽内細胞培養液の乳酸濃度変化を
図7に示した。
培養10日目の実施例1及び比較例1の培養結果、得られたEBのそれぞれの円相当直径を
図8に示した。
培養10日目の実施例1及び比較例1の培養の結果、得られたEBの凍結切片の染色結果を
図9に示した。アポトーシス細胞が茶色に染色された。
【0061】
以上の結果から、実施例に係る細胞培養システムでは、培養液交換が不要で、高価な血清の使用量を1/10にまで低減できると同時に、最終的に回収される細胞数は約1.4倍と顕著な差がみられたことから有効な培養方法であることが示された。また、実施例の培養方法では比較例に比べて乳酸の蓄積が少ないこと、これに対応してpHの低下がないことが分かった。さらに、培養終了時のEBの直径は比較例に比べて小径で内部のアポトーシス細胞が少ない傾向が確認された。よって、実施例に係る細胞培養システムでは良好な培養環境の維持が可能であり、EB内細胞のアポトーシス発現抑制が達成されたものと考えられる。
【実施例2】
【0062】
(ES細胞の準備)
培養細胞としては実施例1と同様にマウスES細胞(EMG7株)を選択した。
(胚様体培養)
(培養0日目から培養3日目)
実施例1の培養0日目から培養3日目と同様の方法で細胞培養槽4個を使用しES細胞を培養した。
【0063】
(培養3日目から10日目)
実施例2においては、
図5に示したような細胞培養システムを作製した。すなわち、培養3日目に上記4個の細胞培養槽から得られた全細胞数を算出し、ひとつのガラス製の大型培養槽(エイブル株式会社)に細胞密度1.7x10^5cells/mLとし集めた。培養液容量を1Lとした。上記培養槽を動物細胞培養装置 BCP(BCP−03NP3S、エイブル株式会社)に設置して培養を開始した。
培養液としては、実施例1と同じものを用いた。
細胞培養槽には攪拌回転翼を設置し、回転数は60rpmとした。
細胞培養槽には、温度、pH、溶存酸素濃度をそれぞれ計測可能なセンサーを設置した。
また、溶存酸素濃度は40%に制御される設定とし、そのために酸素、窒素、空気の混合ガスが細胞培養槽内の培養液に対して上面通気となるようにガス導入ラインを設置した。さらにガスを槽から排出する導出ラインを設置した。
【0064】
細胞培養槽には上記の培養槽の蓋部分に培養液の取り出しと返却が可能な口を設置した。
さらに、細胞培養槽内には細胞隗が培養液とともに培養槽の外側に出てしまうことを防止するための手段としてポリエチレンの焼結体からなる直径47mm、平均孔径30μmの平板型膜を液上面に設置した。
成分調整液槽には容量10Lのポリプロピレン製タンクを使用した。
槽の蓋の部分に通気ライン、培養液の入口、出口ラインを設置した。
培養液成分調整手段は、持続緩徐式血液濾過器エクセルフローAEF-03(旭化成クラレメディカル株式会社)を使用した。
培養液成分調整手段は、細胞培養槽、成分調整液貯留槽の外部に独立して設置した。
細胞培養槽から上記平板型膜を通過して取り出された培養液が中空糸内側を流れるように培養液の入口ラインを回路にて接続した。次に中空糸内側を通過してきた培養液が培養槽に戻るように出口ラインを回路にて接続した。
続いて、成分調整液が成分調整液貯留槽から取り出されて培養液成分調整手段の中空糸外側を通過して、成分調整液貯留槽に戻るように入口ライン、出口ラインを接続した。
成分調整液としては、血清を加えていない細胞培養液を10L使用した。
送液回路としては、フロンチューブ(内径2mmφ、外径4mmφ)を用いた。
培養液の送液手段としては、ペリスタポンプ IPC−N4(ISMATEC社)を3台使用した。3台のポンプはそれぞれ細胞培養槽と培養液成分調整手段、培養液成分調整手段と成分調整液貯留槽を接続する送液回路に接し送液可能な状態に設置した。
さらに、細胞培養槽には液面検知手段としてレーザー式検知器(株式会社キーエンス)を取り付け、液面の上昇が起こったときには、ペリスタポンプの流速を止めるようにプログラムした調整器を出口ライン1の送液ポンプとの間に設置した。
以上説明した方法により、
図5に示したような細胞培養システムを作製した。
【0065】
ポンプの作動速度は、3日目から4日目は入口ライン1のポンプは1L/日、出口ラインポンプ1のポンプは1.1L/日、4日目から5日目までは入口ライン1のポンプは4L/日、出口ラインポンプ1は4.4L/日、5日目から10日目までは入口ライン1のポンプは10L/日、出口ライン1のポンプは11L/日とした。成分調整液を送液するポンプの作動速度は、入口ライン1のポンプの速度の4倍とした。
【0066】
本システムにより細胞培養槽の液容量が実質的に同じレベルを維持できるようにポンプ流速を微調整し、10日目まで連続的に培養液を灌流しながら培養を実施した。
【0067】
10日目に細胞培養を終了し、細胞数の測定をおこなった。
【0068】
(結果)
培養10日目の実施例及び比較例の培養により得られた総細胞数を以下に示す。
実施例2の総細胞数 5.7x10^9個
以上の結果から実施例に係る細胞培養システムによればスケールアップが容易であることが確認できた。
【実施例3】
【0069】
(細胞の準備)
培養細胞としては市販の浮遊細胞であるCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来、ライフテクノロジーズ社)を選択した。
【0070】
(培養0日目から培養7日目)
実施例3においては、
図3に示したような細胞培養システムを作製した。すなわち、細胞培養槽としてカルスターフラスコ(ダブルアーム型、撹拌セット付、柴田科学)を使用し、培養液を300mLとした。
CHO細胞を播種密度2x10^5 cells/mLとし、培養を開始した。この時点を培養0日目とした。
培養液としては、CD−CHO培地(ライフテクノロジーズ社)を使用した。
細胞培養槽には攪拌回転翼を設置し、回転数は80rpmとした。
細胞培養槽は上記の培養槽の蓋部分に培養液の取り出しと返却が可能な口を設置した。
成分調整液槽は容量500mLのガラス製滅菌ビンを使用した。
細胞培養槽の蓋の部分に通気ライン、成分調整液の入口、出口ラインを設置した。
培養液成分調整手段は、旭ポリスルホンダイアライザーAPS(旭化成クラレメディカル株式会社)の中空糸を100本束ねて有効長25cmとなるように中空糸両端部の管腔構造が解放されるようにウレタン接着剤にて固定したものを使用した。
培養液成分調整手段は、細胞培養槽の内部に設置し、中空糸束の両端部と成分調整液の入口、出口ラインを回路にて接続した。
成分調整液としては、CD−CHO培地を300mL使用した。
送液回路としては、シリコン製チューブ(内径1mmφ、外径4mmφ)を用いた。
上記の2槽を37℃、5%CO2雰囲気下のインキュベータ(IP400、ヤマト科学)内に設置した。
成分調整液の送液手段としては、ペリスタポンプ (SJ−121H、ATTO社)を2台使用した。2台のポンプはそれぞれ細胞培養槽と成分調整液貯留槽を接続する送液回路に接し送液可能な状態に設置した。
以上説明した方法により、
図3に示したような細胞培養システムを作製した。
ポンプの初期作動速度は、0日目から4日目は0.22mL/分、4日目から7日目までは0.62mL/分とした。
細胞培養槽の液容量が実質的に同じレベルを維持できるようにしながら2台のポンプ流速を微調整し、7日目まで連続的に培養液を灌流しながら培養を実施した。
(比較例3)
実施例の細胞培養槽のみとした装置(培養液成分調整手段もなし)を用いて、実施例と同様に7日目まで培養を継続した。
(結果)
培養7日目の実施例3及び比較例3の培養により得られた生細胞の密度を以下に示す。
実施例3の細胞密度 66.8x10^5cells/mL
比較例3の細胞密度 28.9x10^5cells/mL
以上のとおり単一細胞の形態で増殖する浮遊細胞においても実施例に係る細胞培養システムが有効であることが確認できた。