特許第6408922号(P6408922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6408922-コンクリート構造物の表面改質方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408922
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/65 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   C04B41/65
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-13938(P2015-13938)
(22)【出願日】2015年1月28日
(65)【公開番号】特開2016-138018(P2016-138018A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢三
(72)【発明者】
【氏名】村田 和也
(72)【発明者】
【氏名】温品 達也
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 彩永佳
(72)【発明者】
【氏名】坂井 吾郎
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−113744(JP,A)
【文献】 特開平7−139082(JP,A)
【文献】 特開2004−2092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B41/00−41/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に色むら解消剤を塗布する色むら解消剤塗布工程を含んでなるコンクリート構造物の表面改質方法であって、
前記色むら解消剤は、pH2.0以上7.0以下の酸からなり、カルシウムの溶解度が0.2g/100mL以上であって、
前記色むら解消剤塗布工程における色むら解消剤の塗布を、前記色むら解消剤を凍結及び粉砕してなるフレークアイス状の色むら解消剤を、コンクリート構造物の表面に載置することによって行う、コンクリート構造物の表面改質方法。
【請求項2】
コンクリート構造物の表面に色むら解消剤を塗布する色むら解消剤塗布工程を含んでなるコンクリート構造物の表面改質方法であって、
前記色むら解消剤は、pH2.0以上7.0以下の酸からなり、カルシウムの溶解度が0.2g/100mL以上であって、
前記色むら解消剤塗布工程の後、0℃以上15℃以下の低温環境下で養生を行う、コンクリート構造物の表面改質方法。
【請求項3】
前記色むら解消剤の1気圧0℃におけるカルシウム溶解度が、15.0g/100mL以上である請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【請求項4】
前記色むら解消剤がpH3.0以上6.5以下の酸からなる請求項1から3のいずれかに記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【請求項5】
前記色むら解消剤を構成する酸が、塩酸、硝酸、又は、硫酸のうちのいずれか一の無機酸である請求項1からのいずれかに記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【請求項6】
前記コンクリート構造物がプレキャストコンクリートパネルである請求項1からのいずれかに記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の表面の色むらを解消する表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の表面は、通常、全面に渡って概ね灰色の外観を有する。しかし、この表面の一部が、周囲よりも黒色の濃い部分や、或いは白色の濃い部分となる色むらが、既設の多くのコンクリート構造物において発生している。コンクリート構造物の表面に発生するこのような色むら(本明細書において、以下、単に「色むら」とも言う)は、コンクリート構造物の意匠性を損なうため、その解消手段が求められている。
【0003】
色むらについての既往の検討結果の範囲においては、色むらは、コンクリート構造物の表層付近において、カルシウム系鉱物の生成に伴い、周囲よりも密実な層が黒みを帯び、周囲よりもポーラスな層が白みを帯びることによて発生するものと考えられている。但し、密実度の異なるそのような各層を構成するアルカリ成分の組成については、諸説あり定説が定まってはいない。例えば、上記の密実な黒色の濃い層を形成する主なカルシウム系鉱物は、水酸化カルシウム(Ca(OH))であるという説と、炭酸化カルシウム(CaCO)であるという説がある。
【0004】
又、色むらが発生する原因は、上記のようなコンクリート組成物中のアルカリ成分の挙動に由来する条件以外にも、その他のコンクリート材料や施工条件等が複雑に影響しあっていることもあり、単一の要因に色むらの原因を限定することはできない。よって、その完全な対応も困難であり、色むらの解消については、現状では決定的な対処方法がなく、様々な方法による試行錯誤が繰返されている状況である。
【0005】
このような状況下、色むらの解消を目的とした手段として、例えば、アニオン界面活性剤を含有した合成樹脂塗料を、セメント質硬化体に塗布して、表面に塗膜を被覆して、アルカリ成分の析出を防止する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法は、塗膜中に含まれるアニオン界面活性剤によって、時間の経過とともに表面の塗膜まで浸透してきたアルカリ成分を、水に対する溶解性が低い塩に変えて塗膜中にトラップすることで、アルカリ成分を表面に析出しないようにする方法である。
【0006】
しかしながら、この方法は、時間の経過とともにコンクリート構造物の表面まで浸透してきたアルカリ成分を塗膜中にトラップして色むらの発生を防止する方法であるため、養生終了時に、すでにアルカリ成分が表面に析出し、表面に不均一に白華が発生しているようなセメント質硬化体に対しては、色むらの発生を防止することができない。
【0007】
又、色むら解消を目的とした他の手段として、アルカリ金属炭酸水素塩及び/又はアルカリ金属炭酸塩を1質量%〜飽和濃度と、保水剤を5質量%〜飽和濃度と、増粘剤を0.3〜0.7質量%とを含む水溶液をコンクリート表面に塗布するという方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法は、炭酸塩、或いは、炭酸水素塩の作用によってコンクリート構造物表面の水酸化カルシウムを炭酸カルシウムに変質させ、表面を全体的に白っぽくすることによって色むらを解消する方法である。
【0008】
ここで、この方法は、脱型後、速やかに表面改質材料を塗布することを前提としている。脱型後速やかにとは、場所打ちの場合は打込みから数日後、2次製品の場合は打込みから翌日程度と短いことが多い。つまりセメントの水和反応が盛んな期間であることが多く、セメントの水和によって次々とCa(OH)が生成される期間に相当する。そのため、炭酸塩もしくは炭酸水素塩を含む表面改質剤を塗布しても、すぐに炭酸根を上回る水酸化カルシウムが生成され、結果として表面が黒っぽくなってしまう場合が多くあった。
【0009】
又、この方法は、表面改質剤の塗布量が、一般的な液体材料をコンクリートに塗布する場合と比較して極めて多量となる。この量を1回の塗布で均一に塗布するには材料に粘性を付与する必要がある。しかし、増粘剤をコンクリートに使用すると材料によっては将来的なカビの発生によってコンクリートが変色するという弊害が発生するおそれがある。
【0010】
コンクリート構造物の表層に発生する色むらについては、それ自体が、コンクリートの耐久性や強度等の品質に与える影響は小さい。しかしながら、美観や景観を考慮した場合、やはり、色むらのない意匠性に優れたコンクリートは強く求められている。それにもかかわらず、上述の通り、コンクリート構造物の色むらを解消する方法については、様々な手段が試みられているものの、いずれの方法も、未だ何らかの改善課題を抱えている。よって、コンクリート構造物の表面の色むらを解消する表面改質方法について更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−291768号公報
【特許文献2】特開2008−195549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンクリート構造物の表層に発生する色むらの解消を目的とした方法であって、その実施時に付随的に発生するコンクリート構造物への他の弊害が発生するリスクを抑えながら、コンクリート構造物の表層に発生する色むらを、従来手段よりも、より確実に解消することができる、コンクリート構造物の表面改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、色むらを解消するために、特定範囲のpHを有し、且つ、所定以上のカルシウム溶解度を有する酸を色むら解消剤として用いることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0014】
(1) コンクリート構造物の表面に色むら解消剤を塗布する色むら解消剤塗布工程を含んでなるコンクリート構造物の表面改質方法であって、前記色むら解消剤は、pH2.0以上7.0以下の酸からなり、カルシウムの溶解度が0.2g/100mL以上であるコンクリート構造物の表面改質方法。
【0015】
(1)の発明は、独自の知見に基づいて、pHとカルシウム溶解度を特定範囲に限定した酸を、コンクリート構造物の表面改質方法に用いる色むら解消剤として、用いることとした。この酸からなる色むら解消剤は、その他の添加剤等の調合を要せず、入手、取り扱いが容易なものでありながら、十分に色むらを解消することができる。又、酸のみからなる単純な組成であるため、使用時に付随的に発生するコンクリート構造物への他の弊害の発生リスクも抑えることができる。つまり、コンクリート構造物の品質を担保しながら、その表層に発生する色むらを、従来手段よりも、より確実に解消することができる
【0016】
(2) 前記色むら解消剤の1気圧0℃におけるカルシウム溶解度が、15.0g/100mL以上である(1)に記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【0017】
(2)の発明によれば、(1)の発明の効果を、より確実に、又、より好適に発現させることができる。
【0018】
(3) 前記色むら解消剤がpH3.0以上6.5以下の酸からなる(1)又は(2)に記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【0019】
(3)の発明によれば、(1)又は(2)の発明の効果を、より確実に、又、より好適に発現させることができる。
【0020】
(4) 前記色むら解消剤を構成する酸が、塩酸、硝酸、又は、硫酸のうちのいずれか一の無機酸である(1)から(3)のいずれかに記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【0021】
(4)の発明によれば、(1)から(3)のいずれかに記載の発明の効果を、より確実に、又、より好適に発現させることができる。又、色むら解消剤を、無機系の酸とすることは、水に溶けやすく濃度調整が容易である点、無臭である点、入手が容易である点において好ましい。
【0022】
(5) 前記色むら解消剤塗布工程における色むら解消剤の塗布を、前記色むら解消剤を凍結及び粉砕してなるフレークアイス状の色むら解消剤を、コンクリート構造物の表面に載置することによって行う(1)から(4)のいずれかに記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【0023】
(5)の発明によれば、色むら解消剤をフレークアイス状とすることよって、コンクリート構造物の低pH状態と低温状態を同時に実現して、(1)から(4)のいずれかに記載の発明の効果を、より確実に、又、より好適に発現させることができる。又、塗布時の作業性にも優れるので、意匠性に優れるコンクリート構造物の生産性の向上にも寄与することができる。
【0024】
(6) 前記色むら解消剤塗布工程の後、0℃以上15℃以下の低温環境下で養生を行う(1)から(5)のいずれかに記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【0025】
(6)の発明によれば、(1)から(5)のいずれかに記載の発明の効果を、より確実に、又、より好適に発現させることができる。
【0026】
(7) 前記コンクリート構造物がプレキャストコンクリートパネルである(1)から(6)のいずれかに記載のコンクリート構造物の表面改質方法。
【0027】
(7)の発明によれば、(1)から(6)のいずれかに記載の発明に係る色むら解消剤の塗布がパネルを水平に載置した状態で容易に実施できるため、コンクリート製品の品質向上効果を、より容易に発現させて、高い生産性の下で、意匠性に優れるプレキャストコンクリートパネルを製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、コンクリート構造物の表層に発生する色むらの解消を目的とした方法であって、その実施時に付随的に発生するコンクリート構造物への他の弊害が発生するリスクを抑えながら、コンクリート構造物の表層に発生する色むらを、従来手段よりも、より確実に解消することができる、コンクリート構造物の表面改質方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明のコンクリート構造物の表面改質方法の作業工程と当該工程の進行に伴うコンクリート構造物中のカルシウム成分の挙動の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0031】
<コンクリート構造物の表面改質方法>
[全体工程概要]
本発明のコンクリート構造物の表面改質方法(以下、単に「表面改質方法」とも言う)について、図1を参照しながら、その全体工程の概要を説明する。図1は、本発明のコンクリート構造物の表面改質方法の作業工程と当該工程の進行に伴うコンクリート構造物中のカルシウム成分の挙動の概略を示す図である。
【0032】
図1(a)に示す通り、表面改質方法は、コンクリートに色むら解消剤1を塗布する色むら解消剤塗布工程(a)を含む工程であり、この工程において、色むら解消剤1がコンクリート構造物10の内部に含浸される。この色むら解消剤塗布工程は、コンクリート構造物10の製造の全体プロセスにおいて、脱型後に行うことが好ましい。但し、特許文献2に記載の方法のように脱型後に、「速やかに」行うことは必須ではなく、概ね、脱型後から供用開始の間に、適宜行えばよく、全体工程の中での塗布のタイミングについて、選択できる幅が大きい。
【0033】
その後、図1(b)に示す通り、色むら解消剤1の蒸発に伴って、水分がコンクリート構造物10の内部から外部に向けて移動する。この水分移動に伴って、コンクリート構造物10の内部に含有されているカルシウムイオン(Ca2+)がコンクリート構造物10の表面に移動する。
【0034】
更にその後、図1(c)に示す通り、コンクリート構造物10の表面に移動したCa2+と大気中の二酸化炭素(CO)が反応することによってコンクリート表面に炭酸カルシウム(CaCO)が析出する。このCaCO層が形成されることにより、コンクリート構造物10の表面が均一に白色化され、色むらを解消することができる。
【0035】
尚、コンクリート構造物10に用いるセメント材料は特段限定されない。例えば、普通ポルトランドセメント等の一般的セメントであればよく、コンクリートの種類に特段の制限はなく、広く本発明の方法を適用することができる。尚、ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメントの他、早強、超早強、中庸熱、低熱等の種類があるが、これら種々のポルトランドセメントの1種又は2種以上を配合するものを用いたコンクリート構造物に対しても本発明の方法を適用することができる。
【0036】
[色むら解消剤塗布工程]
図1(a)に示す通り、色むら解消剤塗布工程は、本願特有のpH範囲にあり、且つ、本願特有のカルシウム溶解度を有する酸からなる、色むら解消剤1を、コンクリート構造物10の表面に塗布する工程である。
【0037】
色むら解消剤が、一般的な液体状の酸である場合においては、色むら解消剤の塗布方法は特に限定されない。噴霧器を用いて、成形体の表面に噴霧してもよいし、刷毛やローラー等を用いて、成形体の表面に塗布してもよい。又、不織布等の吸水性を有するシート或いは、マット状のものに含浸させてそれをコンクリートに接しておいてもよい。色むら解消剤の塗布量は、例えば、刷毛で、無機酸からなる色むら解消剤を塗布する場合で、概ね20〜100g/m程度の塗布量で、本発明の効果を十分に奏することができる。
【0038】
又、後述するフレークアイス状の色むら解消剤を採用する場合には、フレークアイス状の色むら解消剤をコンクリート構造物10の表面に適当な間隔をおいて載置することによって本工程を実施することができる。この方法によれば、上記のような液体状の色むら解消剤を塗布する場合よりも、より容易に、色むら解消剤1のコンクリート構造物10への塗布を行うことができる。コンクリート構造物10の生産性向上の観点からも有利である。この場合のフレークアイス状の色むら解消剤の載置量も概ね20〜500g/m程度であればよい。
【0039】
(色むら解消剤)
本発明のコンクリート構造物の表面改質方法に用いる色むら解消剤1は、pHとカルシウムの溶解度を所定範囲内に限定した酸からなる。酸は液体状であってもよいが、当該液体状の酸を凍結及び粉砕して得ることができるフレークアイス状であることがより好ましい。フレークアイスは、従来公知の工業用のフレークアイス製氷機等により色むら解消剤を製氷することによって容易に得ることができる。
【0040】
色むら解消剤1のpHは、2.0以上7.0以下、好ましくはpH3.0以上6.5以下である。このpHは、例えば酸を含む水溶液等の濃度調整により、適宜、上記pH範囲内の所望のpH範囲に調整した酸性の水溶液等を用いることができる。色むら解消剤1のpHが2.0未満であると、コンクリート構造物10が酸で侵食されて劣化するおそれがある。又、色むら解消剤1のpHが7.0を超えると、Ca2+の移動量が減少して、コンクリート構造物10の表面色の均一化が不十分となる。
【0041】
色むら解消剤1のカルシウム溶解度は、0.2g/100mL以上、好ましくは、15.0g/100mL以上である。尚、本明細書におけるカルシウム溶解度とは、1気圧、0℃における色むら解消剤への溶質(カルシウム塩)の溶解度(g/100mL)のことを言うものとする。
【0042】
上記範囲のカルシウム溶解度を有する色むら解消剤の成分として、無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等をあげることができる。中でも、pHを上記範囲内に調整した塩酸を、色むら解消剤1として好ましく用いることができる。尚、上記pH範囲にある無機酸であっても、リン酸については、カルシウム溶解度が小さいため、本発明の方法に用いる色むら解消剤としては不適切である。又、色むら解消剤1の成分として、上記の無機酸を使用することにより、上述の通り、濃度調整が容易である点等において、色むら解消剤を好ましいものとすることができる。
【0043】
上記範囲のカルシウム溶解度を有する酸として、有機酸としては、ギ酸、酢酸等をあげることができる。中でも、pHを上記範囲内に調整した酢酸を、色むら解消剤1として好ましく用いることができる。尚、上記pH範囲にある有機酸であっても、クエン酸、シュウ酸等は、カルシウム溶解度が小さいため、本発明の方法に用いる色むら解消剤としては不適切である。
【0044】
尚、上記の酸のほか,硝酸カリウム,次亜塩素酸等の酸化剤も、本願所定範囲のpH値とカルシウム溶解度を有するものであれば、適宜、色むら解消剤として用いることができる。本発明における「酸」とは、広義において、このような酸化剤までも含む概念である。
【0045】
ここで、図1(b)の段階において、より多くのCa2+が溶解できるように、酸性の色むら解消剤は、カルシウムの溶解度が大きいものであることが好ましい。色むら解消剤1のカルシウム溶解度を向上させるためには、色むら解消剤が低温である程よい。但し、色むら解消剤がコンクリート構造物10の内部に含浸可能な態様であることが必須であるため、色むら解消剤をその凝固点以下の温度で凍結させた場合には、屋外常温において容易に融解可能なフレークアイス状とすることが好ましい。
【0046】
又、コンクリート構造物10の温度が高いとCa2+の溶解量が小さくなりCa2+の移動量が減少して十分に均一な白色化が得られず、又、コンクリート構造物10の温度が低すぎるとコンクリート構造物10の表面で、色むら解消剤1が凍結したままとなりコンクリート構造物10内への含浸が阻害され、本発明の効果が十分に発現しない。具体的には、本発明の表面改質方法の実施時におけるコンクリート構造物10の表面温度は、35℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましく、0〜15℃の範囲であることが最も好ましい。
【0047】
色むら解消剤を、上記の通り、フレークアイス状とし、それをコンクリート構造物10の表面に載置することにより、フレークアイス状の色むら解消剤は、コンクリート構造物10の表面上で、その後徐々に融解しながら、コンクリート構造物10を適度に冷却し続ける効果も奏しうる。これにより、コンクリート構造物10の内部でのCa2+の溶解と移動を更に促進することができる。フレークアイス状の色むら解消剤を用いた実施態様は、塗布時の作業性に優れるのみならず、このように、低pH状態と低温状態を同時に実現できることから、本発明の基本的な作用をおおいに促進させることができる点において、本発明の表面改質方法の極めて優れた実施態様である。
【0048】
[その他の工程]
表面改質方法は、上記の色むら解消剤塗布工程後に、適切な温度条件下で追加的な養生工程を行うことにより、図1(c)に示す通り、コンクリート構造物10の表面にCaCO層が形成することができる。これにより、コンクリート構造物10の表面が均一に白色化し、色むらを解消することができる。養生時の温度条件は上述の通りのコンクリート構造物10の表面温度が保持できる温度条件であればよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明のコンクリート構造物の表面改質方法について、実施例を挙げて詳細に説明する。尚、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
本発明の表面改質方法による優れた色むら解消の効果を確認するために、下記の通り、実施例及び比較例のコンクリート硬化体の供試体を製造した。コンクリート供試体は、下記表1の材料を用いて、表2の配合でレディーミクストコンクリートを調整し、それを硬化させることにより製造した。コンクリート打込み後、脱型し、200mm×300mmの領域に、色むら解消剤を塗布しやすいように、供試体を、表面改質処理の対象面を上面として地面と平行に載置した。
【0051】
(実施例)
次に、供試体の改質対象面に、色むら解消剤の塗布を行った。各例の塗布条件は表3に示す通りである。表3中の温度(℃)は、コンクリート表面を非接触型温度で測定した温度を示す。色むら解消剤は、塩酸をpH7.0,6.5,5.2,3.5にそれぞれ調整し、液体のままの塗布と、フレークアイス状にして、供試体の改質対象面の表面に載置する方法による塗布を行った。色むら解消剤の塗布量は、上記広さの表面改質処理の対象面に対して、総量で2.4g〜24g(40〜400g/m)の色むら解消剤を、ほぼ均等に塗布もしくは載置した。
【0052】
上記のフレークアイス状の色むら解消剤の載置後、5日間、風雨の影響のない屋外に放置し、その後、1日間、同様の条件下の屋外で乾燥処理を行った。その結果、実施例の供試体においては、目視で認識できる程度の色むらは、全く発生しなかった(表3中でAと評価)。
【0053】
(比較例1)
一方、色むら解消剤としてカルシウム溶解度の小さいリン酸を、実施例の塩酸同様pH6.5に調整して用いた他は、実施例と同条件で比較例1の供試体を製造した。この比較例1の供試体については、僅かながら、目視で視認可能な色むらが観察された(表3中でBと評価)。尚、本明細書定義によるpH6.5の塩酸のカルシウム溶解度は、74.5g/100mLであり、pH6.5のリン酸の同カルシウム溶解度は0.0025g/100mLである。
【0054】
(比較例2)
又、色むら解消剤を添加しないで、その他の製造条件は実施例と同条件で比較例の供試体を製造した。この比較例2の供試体については、顕著な色むらの発生が観察された(表3中でCと評価)。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
以上より、本発明のコンクリート構造物の表面改質方法は、単純な組成の色むら解消剤を用いたものでありながら、コンクリート構造物の表層に発生する色むらを、従来手段よりも、より確実に解消することができる方法であることが分る。
【符号の説明】
【0059】
1 色むら解消剤
10 コンクリート構造物
図1