特許第6408927号(P6408927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408927
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】フッ素含有芳香族化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 22/08 20060101AFI20181004BHJP
   C08K 5/02 20060101ALN20181004BHJP
【FI】
   C07C22/08CSP
   !C08K5/02
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-22366(P2015-22366)
(22)【出願日】2015年2月6日
(65)【公開番号】特開2016-145166(P2016-145166A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2018年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 智也
(72)【発明者】
【氏名】前澤 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】関元 友理子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 典久
(72)【発明者】
【氏名】宮内 英紀
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6374867(JP,B2)
【文献】 国際公開第2016/017187(WO,A1)
【文献】 特開2016−145277(JP,A)
【文献】 特開2016−145167(JP,A)
【文献】 特開2000−327846(JP,A)
【文献】 特表平4−500367(JP,A)
【文献】 Chem. Eur. J.,2014年,Vol.20, No.25,p.7803-7810
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 22/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる化合物。
【化5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有芳香族化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気は、プラント、機械、食品、医療等様々な産業において、発電用途のほか、除菌や洗浄等様々な用途で使用されている。ゴムOリング等のシール材は、これら水蒸気が流れる配管や装置に用いられ、水蒸気が外部に流出するのを防ぐ役割を果たしている。
【0003】
近年発電プラントでは、発電効率の向上を狙って、水蒸気の温度を従来よりも上げる傾向にあり、これに伴い、シール材にも高温水蒸気性が求められるようになってきている。このようなケースでは、フッ素ゴムやパーフルオロゴム等の架橋フルオロエラストマー製のシール材が用いられる。ところが、これら架橋フルオロエラストマー製のシール材は、耐蒸気性が劣る場合があり、改善が求められている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
架橋フルオロエラストマーの製造には架橋剤が用いられ、様々な架橋剤が知られている。例えば、トリアリルイソシアヌラート(TAIC)が一般的によく知られており(例えば、特許文献2〜6参照)、さらに、ジビニルベンゼン(例えば、特許文献2〜5参照)、ジビニルビフェニル(例えば、特許文献5参照)等が挙げられる。
しかしながら、架橋フルオロエラストマーの耐熱性と耐蒸気性を、さらに改善し得る新規な架橋剤が求められていた。
【0005】
一方、特許文献6には、含フッ素エラストマーの原料モノマーとして、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルが記載されている。
また、非特許文献1には、燃料電池分離膜として1,2,2−トリフルオロスチレン(パーフルオロビニルベンゼン)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−9010号公報
【特許文献2】特開2009−242782号公報
【特許文献3】特開平11−199743号公報
【特許文献4】WO1998/036901号公報
【特許文献5】特開2000−327846号公報
【特許文献6】特開2012−211347号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Raghavanpillai,et al., J.Org.Chem.,2004,vol.69,pp.7083−7091
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、架橋剤として使用できる新規なフッ素含有芳香族化合物を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、下記式(1)で表わされる化合物が提供される。
【化1】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、架橋剤として使用できる新規なフッ素含有芳香族化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0012】
本発明の化合物は、下記式(1)で表わされる。
【化2】
【0013】
本発明の化合物は架橋剤として用いることができる。架橋剤として用いる場合、通常、組成物の一成分として用いる。
組成物は、例えば上記の架橋剤、フルオロエラストマー及び架橋開始剤(開始剤)を含有する。
【0014】
架橋剤は、フルオロエラストマー100gに対して、好ましくは0.5〜30mmol、より好ましくは1〜15mmol、より好ましくは1.5〜13mmol、より好ましくは2〜10mmol、さらに好ましくは2.5〜8mmol添加する。添加量が多い程、耐蒸気性、耐熱性が改善される傾向が有る。ただし多すぎると硬くなる恐れが有る。
【0015】
前記フルオロエラストマーは、パーフルオロエラストマーでもよく、また一部がフッ素化されているエラストマーでもよい。
例えば、以下のモノマー由来の繰返し単位を例示できる。1又は2以上のモノマー由来の繰返し単位を含むことができる。
CF=CH(ビニリデンフロライド)、
CF=CF(テトラフルオロエチレン)、
CF=CFCF(ヘキサフルオロプロピレン)、
CH=CH
CH=CHCH
【0016】
フルオロエラストマーは、架橋(硬化)の際のラジカルのアタック部位として、好ましくはヨウ素及び/又は臭素、より好ましくはヨウ素を含む。過酸化物により硬化可能なパーフルオロエラストマーは、例えば特許文献1等に記載されている。
【0017】
パーフルオロエラストマーは一般に、全ポリマー重量に関して0.001重量%〜5重量%、好ましくは0.01重量%〜2.5重量%でヨウ素を含む。ヨウ素原子は鎖に沿って及び/又は末端位に存在し得る。
【0018】
パーフルオロエラストマーは、好ましくは末端位に、エチレンタイプの1つの不飽和を有するパーフッ素化オレフィン等のコポリマーから製造される。
コモノマーとして以下を例示できる。
・ CF=CFOR2f (パー)フルオロアルキルビニルエーテル類(PAVE)
(式中、R2fは炭素数1〜6の(パー)フルオロアルキル、例えばトリフルオロメチル又はペンタフルオロプロピルである。)
・ CF=CFOX (パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル類
(式中、Xは1以上のエーテル基を含む炭素数1〜12の(パー)フルオロオキシアルキル、例えばパーフルオロ−2−プロポキシプロピルである。)
・ CFX=CXOCFOR’’ (I−B)
(式中、R’’は、炭素数2〜6直鎖又は分枝(パー)フルオロアルキル、炭素数5,6の環状(パー)フルオロアルキル、又は酸素原子1〜3個を含む炭素数2〜6の直鎖又は分枝(パー)フルオロオキシアルキルであり、XはF又はHである。)
【0019】
式(I−B)の(パー)フルオロビニルエーテル類は、好ましくは、以下の式で表わされる。
CFX=CXOCFOCFCFY (II−B)
(式中、YはF又はOCFであり、Xは上記で定義した通りである。)
【0020】
下記式のパーフルオロビニルエーテル類がより好ましい。
CF=CFOCFOCFCF (MOVE1)
CF=CFOCFOCFCFOCF (MOVE2)
【0021】
好ましいモノマー組成物として、以下を例示できる。
テトラフルオロエチレン(TFE) 50〜85モル%、PAVE 15〜50モル%;
TFE 50〜85モル%、MOVE 15〜50モル%。
【0022】
フルオロエラストマーは、ビニリデンフルオライド由来のユニット、塩素及び/又は臭素を含んでもよい炭素数3〜8のフルオロオレフィン類、炭素数3〜8の非フッ化オレフィン類を含むこともできる。
【0023】
開始剤は、通常使用されるものを使用できる。例えば、過酸化物、アゾ化合物等を例示できる。
【0024】
開始剤は、フルオロエラストマー100gに対して、好ましくは0.3〜35mmol、より好ましくは1〜15mmol、さらに好ましくは1.5〜10mmol添加する。添加量が多い程、耐蒸気性、耐熱性が改善される傾向が有る。ただし多すぎるとスコーチや発泡する恐れが有る。
【0025】
上記フルオロエラストマー組成物は、架橋補助剤を含んでいてもよい、
架橋補助剤としては、酸化亜鉛、活性アルミナ、酸化マグネシウム、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、アミン等が挙げられる。架橋補助剤を含むことにより、架橋効率、耐熱性を向上できる。架橋補助剤は、フルオロエラストマー100gに対して、通常0.1〜10g添加する。
【0026】
上記フルオロエラストマー組成物には、機械的強度を高める目的で充填剤を配合することができる。充填剤は、本発明の効果を損なわない限り、エラストマーの充填剤として一般的に知られているものを使用できる。例えば、カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、二酸化チタン、半晶質フルオロポリマー、パーフルオロポリマーが挙げられる。
【0027】
また、必要に応じて、増粘剤、顔料、カップリング剤、酸化防止剤、安定剤等を適量配合することも可能である。
【0028】
上記の組成物を架橋させて、架橋フルオロエラストマーが得られる。
一段階加熱の場合は、架橋条件は、100〜250℃で10分〜5時間加熱するのが好ましい。
二段階加熱の場合は、通常、一次架橋として、金型に原料を入れプレス加工しながら架橋する。1次架橋は、例えば、150〜200℃で5〜60分加熱する。その後、金型から外して、2次架橋する。2次架橋は、例えば、150〜300℃で1〜100時間加熱する。架橋は電気炉等を用いて行うことができる。2次架橋で熱履歴を与えることにより、使用中の変形等を防ぐことができる。
【0029】
架橋は、不活性ガス雰囲気又は大気中で行ってよい。
不活性ガスとして、窒素、ヘリウム、アルゴン等を用いることができ、窒素が好ましい。不活性ガス雰囲気下において、酸素濃度は、好ましくは、10ppm以下、より好ましくは、5ppm以下である。
【0030】
上記の製法で得られる架橋フルオロエラストマーは、シール材として使用でき、ガスケット又はシールリング等の成形体にして使用できる。
【0031】
上記の製法によれば、実施例に記載の方法で測定した、300℃の飽和水蒸気に22時間晒す前後の重量膨潤変化率が、70%以下である成形体が得られる。重量膨潤変化率は好ましくは65%以下、より好ましくは55%以下である。
【実施例】
【0032】
実施例1
[化合物1の合成]
以下の手順によって化合物1を合成した。
撹拌機を具備した500mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で4,4’−ジアセチルビフェニル(5.22g,21.9mmol)、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(21.5g,131.4mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド(200mL)を仕込み、室温〜40℃下で撹拌しながら、ジフルオロジブロモメタン(20.6g,98.2mmol)をゆっくりフィードした。室温で一晩撹拌後、塩酸水溶液を加え、トルエン(200mL×3回)で抽出し、得られたトルエン層を20%食塩水(200mL×3回)で水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後に減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、白色固体の4,4’−ビス(2,2−ジフルオロ−1−メチルビニル)ビフェニル(化合物1)を2.60g得た(単離収率=38%)。
【化3】
【0033】
得られた化合物の融点は107〜109℃であった。
また、得られた化合物について、GC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0034】
測定に用いた装置は以下の通りである。
GC−MS:島津製作所製GCMS−QP2010Plus
H−NMR、19F−NMR:BRUKER社製AVANCE II 400
【0035】
GC−MS(m/z):306(M),291,256,230,220,178,153,129
H−NMR(Acetone−d,400MHz);1.88ppm(dd,6H,CH3),7.37ppm(d,4H,Ar−H),7.57ppm(d,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−91.7ppm(m,4F)
【0036】
[組成物及び成形体の作製及び評価]
以下の成分を混合して組成物を調製した。
・フルオロエラストマー(ソルベイ社製、テクノフロンPFR94):100g
・受酸剤(日本アエロジル社製、アエロジルR972):1.0g
・開始剤(日本油脂株式会社製、パークミルD):2.6mmol
・架橋剤(化合物1):6.1mmol
【0037】
上記の組成物を型に入れて190℃の温度で30分間熱処理して、プレス成形しながら1次架橋した。次いで、型から外して、窒素中で290℃で8時間熱処理して架橋フルオロエラストマーの成形体を得た。成形体の形状はシート状(長さ30mm、幅20mm、厚さ1mm)とした。
【0038】
[成形体の評価]
得られた成形体について以下の評価を行った。
(1)耐熱性
上記で得られたシート状成形体から短冊形状(長さ20mm、幅10mm、厚さ1mm)を打ち抜き、この短冊について以下の方法で乾熱330℃耐熱試験を行った。結果を表1に示す。
【0039】
評価は、330℃のギヤーオーブンにて16時間加熱した前後での重量変化率を測定して行った。また外観変化を観察して行った。重量変化率は、以下の式により、計算にて求めた。
【数1】
【0040】
外観の評価について、変化が見られなかった場合を「変化なし」、溶解が観測され、形状を保持できなくなった場合を「溶解」とした。結果を表1に示す。
【0041】
(2)重量膨潤変化率(耐蒸気試験)
上記で得られたシート状成形体から短冊形状(長さ20mm、幅10mm、厚さ1mm)を打ち抜き、この短冊について以下の方法で耐蒸気性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0042】
(i)重量膨潤率の測定
まず、成形体について、耐蒸気試験(300℃)前の重量膨潤率を測定した。
各成形体を、パーフルオロカーボン溶液(フロリナートFC−3283(スリーエムジャパン社製))に、室温(21〜25℃)で、72時間浸漬させ、浸漬前後の重量膨潤率を、以下の式により、計算にて求めた。
【数2】
【0043】
(ii)耐蒸気試験(300℃)
続いて、各成形体について、耐蒸気試験(300℃)を行った。
各成形体を、300℃の飽和水蒸気に22時間晒した。
【0044】
(iii)耐蒸気試験(300℃)後の重量膨潤率の測定
上記耐蒸気試験(300℃)後の成形体を、(i)と同様に、パーフルオロカーボン溶液に、室温(21〜25℃)で、72時間浸漬し、耐蒸気試験(300℃)後の重量膨潤率を測定した。
【0045】
耐蒸気試験(300℃)前後における変化率(%)を、(耐蒸気試験前の重量膨潤率)及び(耐蒸気試験後の重量膨潤率)を用いて、以下の式により算出した。
【数3】
【0046】
また、耐蒸気試験(300℃)後に浸漬を行った各成形体の外観を観察した。結果を表2に示す。
【0047】
比較例1
架橋剤として化合物1の代わりに下記の1,6−ジビニル(パーフルオロヘキサン)(東ソー・エフテック社製)を用いた他は実施例1と同様にして組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1、2に示す。
【化4】
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のフッ素含有芳香族化合物はフルオロエラストマーの架橋剤として使用できる。