【文献】
Chem. Eur. J.,2014年,Vol.20, No.25,p.7803-7810
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
水蒸気は、プラント、機械、食品、医療等様々な産業において、発電用途のほか、除菌や洗浄等様々な用途で使用されている。ゴムOリング等のシール材は、これら水蒸気が流れる配管や装置に用いられ、水蒸気が外部に流出するのを防ぐ役割を果たしている。
【0003】
近年発電プラントでは、発電効率の向上を狙って、水蒸気の温度を従来よりも上げる傾向にあり、これに伴い、シール材にも高温水蒸気性が求められるようになってきている。このようなケースでは、フッ素ゴムやパーフルオロゴム等の架橋フルオロエラストマー製のシール材が用いられる。ところが、これら架橋フルオロエラストマー製のシール材は、耐蒸気性が劣る場合があり、改善が求められている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
架橋フルオロエラストマーの製造には架橋剤が用いられ、様々な架橋剤が知られている。例えば、トリアリルイソシアヌラート(TAIC)が一般的によく知られており(例えば、特許文献2〜6参照)、さらに、ジビニルベンゼン(例えば、特許文献2〜5参照)、ジビニルビフェニル(例えば、特許文献5参照)等が挙げられる。
しかしながら、架橋フルオロエラストマーの耐熱性と耐蒸気性を、さらに改善し得る新規な架橋剤が求められていた。
【0005】
一方、特許文献6には、含フッ素エラストマーの原料モノマーとして、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルが記載されている。
また、非特許文献1には、燃料電池分離膜として1,2,2−トリフルオロスチレン(パーフルオロビニルベンゼン)が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0012】
本発明の化合物は、下記式(1)で表わされる。
【化2】
【0013】
本発明の化合物は架橋剤として用いることができる。架橋剤として用いる場合、通常、組成物の一成分として用いる。
組成物は、例えば上記の架橋剤、フルオロエラストマー及び架橋開始剤(開始剤)を含有する。
【0014】
架橋剤は、フルオロエラストマー100gに対して、好ましくは0.5〜30mmol、より好ましくは1〜15mmol、より好ましくは1.5〜13mmol、より好ましくは2〜10mmol、さらに好ましくは2.5〜8mmol添加する。添加量が多い程、耐蒸気性、耐熱性が改善される傾向が有る。ただし多すぎると硬くなる恐れが有る。
【0015】
前記フルオロエラストマーは、パーフルオロエラストマーでもよく、また一部がフッ素化されているエラストマーでもよい。
例えば、以下のモノマー由来の繰返し単位を例示できる。1又は2以上のモノマー由来の繰返し単位を含むことができる。
CF
2=CH
2(ビニリデンフロライド)、
CF
2=CF
2(テトラフルオロエチレン)、
CF
2=CFCF
3(ヘキサフルオロプロピレン)、
CH
2=CH
2、
CH
2=CHCH
3
【0016】
フルオロエラストマーは、架橋(硬化)の際のラジカルのアタック部位として、好ましくはヨウ素及び/又は臭素、より好ましくはヨウ素を含む。過酸化物により硬化可能なパーフルオロエラストマーは、例えば特許文献1等に記載されている。
【0017】
パーフルオロエラストマーは一般に、全ポリマー重量に関して0.001重量%〜5重量%、好ましくは0.01重量%〜2.5重量%でヨウ素を含む。ヨウ素原子は鎖に沿って及び/又は末端位に存在し得る。
【0018】
パーフルオロエラストマーは、好ましくは末端位に、エチレンタイプの1つの不飽和を有するパーフッ素化オレフィン等のコポリマーから製造される。
コモノマーとして以下を例示できる。
・ CF
2=CFOR
2f (パー)フルオロアルキルビニルエーテル類(PAVE)
(式中、R
2fは炭素数1〜6の(パー)フルオロアルキル、例えばトリフルオロメチル又はペンタフルオロプロピルである。)
・ CF
2=CFOX
o (パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル類
(式中、X
oは1以上のエーテル基を含む炭素数1〜12の(パー)フルオロオキシアルキル、例えばパーフルオロ−2−プロポキシプロピルである。)
・ CFX
2=CX
2OCF
2OR’’
f (I−B)
(式中、R’’
fは、炭素数2〜6直鎖又は分枝(パー)フルオロアルキル、炭素数5,6の環状(パー)フルオロアルキル、又は酸素原子1〜3個を含む炭素数2〜6の直鎖又は分枝(パー)フルオロオキシアルキルであり、X
2はF又はHである。)
【0019】
式(I−B)の(パー)フルオロビニルエーテル類は、好ましくは、以下の式で表わされる。
CFX
2=CX
2OCF
2OCF
2CF
2Y (II−B)
(式中、YはF又はOCF
3であり、X
2は上記で定義した通りである。)
【0020】
下記式のパーフルオロビニルエーテル類がより好ましい。
CF
2=CFOCF
2OCF
2CF
3 (MOVE1)
CF
2=CFOCF
2OCF
2CF
2OCF
3 (MOVE2)
【0021】
好ましいモノマー組成物として、以下を例示できる。
テトラフルオロエチレン(TFE) 50〜85モル%、PAVE 15〜50モル%;
TFE 50〜85モル%、MOVE 15〜50モル%。
【0022】
フルオロエラストマーは、ビニリデンフルオライド由来のユニット、塩素及び/又は臭素を含んでもよい炭素数3〜8のフルオロオレフィン類、炭素数3〜8の非フッ化オレフィン類を含むこともできる。
【0023】
開始剤は、通常使用されるものを使用できる。例えば、過酸化物、アゾ化合物等を例示できる。
【0024】
開始剤は、フルオロエラストマー100gに対して、好ましくは0.3〜35mmol、より好ましくは1〜15mmol、さらに好ましくは1.5〜10mmol添加する。添加量が多い程、耐蒸気性、耐熱性が改善される傾向が有る。ただし多すぎるとスコーチや発泡する恐れが有る。
【0025】
上記フルオロエラストマー組成物は、架橋補助剤を含んでいてもよい、
架橋補助剤としては、酸化亜鉛、活性アルミナ、酸化マグネシウム、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、アミン等が挙げられる。架橋補助剤を含むことにより、架橋効率、耐熱性を向上できる。架橋補助剤は、フルオロエラストマー100gに対して、通常0.1〜10g添加する。
【0026】
上記フルオロエラストマー組成物には、機械的強度を高める目的で充填剤を配合することができる。充填剤は、本発明の効果を損なわない限り、エラストマーの充填剤として一般的に知られているものを使用できる。例えば、カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、二酸化チタン、半晶質フルオロポリマー、パーフルオロポリマーが挙げられる。
【0027】
また、必要に応じて、増粘剤、顔料、カップリング剤、酸化防止剤、安定剤等を適量配合することも可能である。
【0028】
上記の組成物を架橋させて、架橋フルオロエラストマーが得られる。
一段階加熱の場合は、架橋条件は、100〜250℃で10分〜5時間加熱するのが好ましい。
二段階加熱の場合は、通常、一次架橋として、金型に原料を入れプレス加工しながら架橋する。1次架橋は、例えば、150〜200℃で5〜60分加熱する。その後、金型から外して、2次架橋する。2次架橋は、例えば、150〜300℃で1〜100時間加熱する。架橋は電気炉等を用いて行うことができる。2次架橋で熱履歴を与えることにより、使用中の変形等を防ぐことができる。
【0029】
架橋は、不活性ガス雰囲気又は大気中で行ってよい。
不活性ガスとして、窒素、ヘリウム、アルゴン等を用いることができ、窒素が好ましい。不活性ガス雰囲気下において、酸素濃度は、好ましくは、10ppm以下、より好ましくは、5ppm以下である。
【0030】
上記の製法で得られる架橋フルオロエラストマーは、シール材として使用でき、ガスケット又はシールリング等の成形体にして使用できる。
【0031】
上記の製法によれば、実施例に記載の方法で測定した、300℃の飽和水蒸気に22時間晒す前後の重量膨潤変化率が、70%以下である成形体が得られる。重量膨潤変化率は好ましくは65%以下、より好ましくは55%以下である。
【実施例】
【0032】
実施例1
[化合物1の合成]
以下の手順によって化合物1を合成した。
撹拌機を具備した500mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で4,4’−ジアセチルビフェニル(5.22g,21.9mmol)、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(21.5g,131.4mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド(200mL)を仕込み、室温〜40℃下で撹拌しながら、ジフルオロジブロモメタン(20.6g,98.2mmol)をゆっくりフィードした。室温で一晩撹拌後、塩酸水溶液を加え、トルエン(200mL×3回)で抽出し、得られたトルエン層を20%食塩水(200mL×3回)で水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後に減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、白色固体の4,4’−ビス(2,2−ジフルオロ−1−メチルビニル)ビフェニル(化合物1)を2.60g得た(単離収率=38%)。
【化3】
【0033】
得られた化合物の融点は107〜109℃であった。
また、得られた化合物について、GC−MS、
1H−NMR及び
19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0034】
測定に用いた装置は以下の通りである。
GC−MS:島津製作所製GCMS−QP2010Plus
1H−NMR、
19F−NMR:BRUKER社製AVANCE II 400
【0035】
GC−MS(m/z):306(M
+),291,256,230,220,178,153,129
1H−NMR(Acetone−d
6,400MHz);1.88ppm(dd,6H,CH3),7.37ppm(d,4H,Ar−H),7.57ppm(d,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d
6,376MHz);−91.7ppm(m,4F)
【0036】
[組成物及び成形体の作製及び評価]
以下の成分を混合して組成物を調製した。
・フルオロエラストマー(ソルベイ社製、テクノフロンPFR94):100g
・受酸剤(日本アエロジル社製、アエロジルR972):1.0g
・開始剤(日本油脂株式会社製、パークミルD):2.6mmol
・架橋剤(化合物1):6.1mmol
【0037】
上記の組成物を型に入れて190℃の温度で30分間熱処理して、プレス成形しながら1次架橋した。次いで、型から外して、窒素中で290℃で8時間熱処理して架橋フルオロエラストマーの成形体を得た。成形体の形状はシート状(長さ30mm、幅20mm、厚さ1mm)とした。
【0038】
[成形体の評価]
得られた成形体について以下の評価を行った。
(1)耐熱性
上記で得られたシート状成形体から短冊形状(長さ20mm、幅10mm、厚さ1mm)を打ち抜き、この短冊について以下の方法で乾熱330℃耐熱試験を行った。結果を表1に示す。
【0039】
評価は、330℃のギヤーオーブンにて16時間加熱した前後での重量変化率を測定して行った。また外観変化を観察して行った。重量変化率は、以下の式により、計算にて求めた。
【数1】
【0040】
外観の評価について、変化が見られなかった場合を「変化なし」、溶解が観測され、形状を保持できなくなった場合を「溶解」とした。結果を表1に示す。
【0041】
(2)重量膨潤変化率(耐蒸気試験)
上記で得られたシート状成形体から短冊形状(長さ20mm、幅10mm、厚さ1mm)を打ち抜き、この短冊について以下の方法で耐蒸気性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0042】
(i)重量膨潤率の測定
まず、成形体について、耐蒸気試験(300℃)前の重量膨潤率を測定した。
各成形体を、パーフルオロカーボン溶液(フロリナートFC−3283(スリーエムジャパン社製))に、室温(21〜25℃)で、72時間浸漬させ、浸漬前後の重量膨潤率を、以下の式により、計算にて求めた。
【数2】
【0043】
(ii)耐蒸気試験(300℃)
続いて、各成形体について、耐蒸気試験(300℃)を行った。
各成形体を、300℃の飽和水蒸気に22時間晒した。
【0044】
(iii)耐蒸気試験(300℃)後の重量膨潤率の測定
上記耐蒸気試験(300℃)後の成形体を、(i)と同様に、パーフルオロカーボン溶液に、室温(21〜25℃)で、72時間浸漬し、耐蒸気試験(300℃)後の重量膨潤率を測定した。
【0045】
耐蒸気試験(300℃)前後における変化率(%)を、(耐蒸気試験前の重量膨潤率)及び(耐蒸気試験後の重量膨潤率)を用いて、以下の式により算出した。
【数3】
【0046】
また、耐蒸気試験(300℃)後に浸漬を行った各成形体の外観を観察した。結果を表2に示す。
【0047】
比較例1
架橋剤として化合物1の代わりに下記の1,6−ジビニル(パーフルオロヘキサン)(東ソー・エフテック社製)を用いた他は実施例1と同様にして組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1、2に示す。
【化4】
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】