(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
直列に接続された一対のスイッチング素子が各相で上下アームを構成して3相モータを駆動するインバータについて故障が発生しているか否かを診断する、インバータの故障診断装置であって、
複数の第1抵抗の一端を互いに接続してその接続点を第2抵抗を介してグランドと接続するとともに、前記複数の第1抵抗の他端をそれぞれ各相の前記上下アーム間に一対一で接続して、前記接続点の電圧を検出するように構成された電圧検出回路と、
電源と上アーム側スイッチング素子とを接続する正極母線に設けられた第1スイッチと、
前記第1スイッチと並列に、かつ、第3抵抗と直列に設けられた第2スイッチと、
前記電源と前記接続点との間で第4抵抗と直列に設けられた第3スイッチと、
前記上アーム側スイッチング素子及び前記下アーム側スイッチング素子、並びに前記第1スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチのオン・オフを制御するように構成され、かつ、前記接続点と電気的に接続された制御部と、
前記グランドと前記上アーム側スイッチング素子とを接続する負極母線に設けられ、前記3相モータに流れる電流を検出する電流センサと、
を含んで構成され、
前記制御部は、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチをオンにするとともに、前記第1スイッチをオフにする制御を行ったうえで、前記上アーム側スイッチング素子及び前記下アーム側スイッチング素子を全てオフにする制御を行った場合に検出される前記接続点の電圧に基づいて、前記上アーム側スイッチング素子及び前記下アーム側スイッチング素子にオン固着が発生しているか否かを診断し、前記接続点の電圧が正常範囲である場合には、さらに前記電流センサにより検出された電流に基づいて、前記上アーム側スイッチング素子及び前記下アーム側スイッチング素子にオン固着が発生しているか否かを診断するように構成されたインバータの故障診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるインバータの故障診断装置を適用した、ブラシレスモータの駆動制御装置の例示的な回路構成図である。
【0011】
ブラシレスモータ10は、3相の直流同期電動機であり、U相、V相及びW相の3相のコイル10u,10v,10wを、図示省略した円筒状のステータ(固定子)に備え、各相のコイル10u,10v,10wの一端を互いに接続して中性点N
0が形成されたスター結線を構成している。また、ステータの中央部に形成した空間に図示省略したロータ(永久磁石回転子)を回転可能に備えている。
【0012】
ブラシレスモータ10は、本実施形態において、ボールねじを用いて直接ブレーキマスタシリンダーに油圧を発生させる車載用電動ブレーキの電動アクチュエータに適用されることを前提としているが、適用例はこれに限られず、例えば、VTC(Valve Timing Control)、VCR(Variable Compression Ratio)、電動オイルポンプ、電動ウォータポンプ、電動パワーステアリング、ラジエータファンなど、あらゆる車載システムの電動アクチュエータに適用することができる。
【0013】
ブラシレスモータ10の3相のコイル10u,10v,10wの他端と、それぞれ端子22u,22v,22wで電気的に、かつ、着脱可能に接続される駆動制御装置20には、ブラシレスモータ10を駆動する駆動回路を有するインバータ30と、ブラシレスモータ10に流れる電流を検出する電流センサ40と、ロータの磁極位置を検出する磁極位置検出センサ50と、ブラシレスモータ10の中性点N
0に対応する仮想中性点Nの電圧を検出するための電圧検出回路60と、第1スイッチSW1と、第2スイッチSW2と、第3スイッチSW3と、インバータ30を制御する制御器70と、が含まれる。
【0014】
インバータ30は、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wが3相ブリッジ接続されたスイッチング素子群を有し、このスイッチング素子群には、電源80から電圧Vccが供給されている。より詳しくは、インバータ30は、直列に接続された一対のスイッチング素子32u,34uがU相で上下アームを構成し、直列に接続された一対のスイッチング素子32v,34vがV相で上下アームを構成し、直列に接続された一対のスイッチング素子32w,34wがW相で上下アームを構成してなる。上アームは、高電位側である上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wで構成され、下アームは、低電位側である下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wで構成されている。そして、U相の上下アーム間のA点が端子22uと接続され、V相の上下アーム間のB点が端子22vと接続され、W相の上下アーム間のC点が端子22wと接続されている。
【0015】
インバータ30において、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wは、例えば、FET(Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、又はバイポーラトランジスタなど、スイッチ動作を行わせることができる半導体素子で構成され、それぞれ、逆起電力によるサージ電流を還流するために逆並列に接続されたダイオード32ud,32vd,32wd,34ud,34vd,34wdを含む。スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wの制御端子(ゲート端子)は制御器70に接続され、後述のように、制御器70からゲート制御信号を入力することでオン・オフが制御されるように構成されている。
【0016】
電流センサ40は、インバータ30と電源80とを結ぶ正極母線24p及び負極母線24nのうち、低電位側の負極母線24nに抵抗器を直列に設けてブラシレスモータ10に流れる電流を検出するシャント抵抗式センサであり、電流センサ40の両端と制御器70とが電気的に接続されている。
【0017】
磁極位置検出センサ50は、レゾルバ、ホール素子、ホールIC、磁気抵抗素子、ロータリーエンコーダなど、接触式又は非接触式を問わず、様々なセンサを用いることが可能であり、ブラシレスモータ10の回転するロータの磁極位置に応じた磁極位置検出信号を制御器70へ出力する。
【0018】
電圧検出回路60は、複数の第1抵抗R1の一端を互いに接続して、その接続点Nを、第2抵抗R2を介してグランドと接続するとともに、複数の第1抵抗R1の他端を、それぞれ、U相の上下アーム間のA点、V相の上下アーム間のB点及びW相の上下アーム間のC点に一対一で接続してなる。電圧検出回路60は、接続点Nの電圧をブラシレスモータ10の中性点N
0に対応する仮想中性点Nの電圧として、この仮想中性点Nの電圧を検出できるように構成されている。第1抵抗R1及び第2抵抗R2は、それぞれ、電流センサ40と比較すると、十分大きな抵抗値を有している。
【0019】
第1スイッチSW1、第2スイッチSW2及び第3スイッチSW3は、外部からの信号に基づいてオン・オフのいずれか一方に制御されるように構成された、トランジスタや電磁リレーなどのスイッチング素子である。
【0020】
第1スイッチSW1は、インバータ30と電源80とを結ぶ正極母線24p及び負極母線24nのうち、高電位側の正極母線24pに設けられ、第2スイッチSW2は、正極母線24pと並列にインバータ30と電源80とを結ぶラインで、第1スイッチSW1と並列に、かつ、第3抵抗R3と直列に設けられ、第3スイッチSW3は、電源80と仮想中性点Nとの間で第4抵抗R4と直列に設けられている。
【0021】
第3抵抗R3及び第4抵抗R4は、それぞれ、電流センサ40と比較すると、十分大きな抵抗値を有している。特に、第3抵抗R3は、上下アーム両方にオン固着が発生し、電源80とグランドとの間に第2スイッチSW2及びインバータ30を介した過大な短絡電流が発生した場合でも、インバータ30の過熱による2次故障を抑制できる程度に、インバータ30の印加電圧をVccから降下させる抵抗値を有している。
【0022】
制御器70は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを含むマイクロコンピュータを有し、電流センサ40の両端における電圧、磁極位置検出センサ50からの磁極位置信号、電圧検出回路60の仮想中性点Nの電圧、さらに、例えば、電動ブレーキシステムにおける上位の制御装置など、外部の制御装置90から出力されたブラシレスモータ10に対する駆動要求信号を入力し、これらに基づいて、インバータ30のスイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wに対して、これらをオン・オフさせるためのゲート制御信号を個別に出力するとともに、スイッチSW1,SW2,SW3に対して、これらをオン・オフさせるための設定信号を個別に出力する。これにより、制御器70は、通常時、ブラシレスモータ10のロータを回転駆動させるための制御を行う一方、所定のタイミングでインバータ30に故障が発生しているか否かを診断する、駆動制御装置20の制御部をなす。
【0023】
図2は、制御器70の機能を示す機能ブロック図である。
制御器70は、電流演算部70a、目標電流演算部70b、デューティ演算部70c、磁極位置演算部70d、通電モード設定部70e、ゲート制御信号生成部70f、仮想中性点電圧演算部70g、故障診断部70h、及び、スイッチ設定部70iで示される機能を有している。
【0024】
電流演算部70aは、電流センサ40の両端における電圧(電流検出信号)をそれぞれA/D変換して両電圧間の電位差を算出し、この電位差と電流センサ40の既知の抵抗値とからブラシレスモータ10に実際に流れる電流である実電流値を算出する。なお、電流センサ40の両端の電圧は差動増幅器を介して求められた電位差を電流演算部70aに入力してもよい。
【0025】
目標電流演算部70bは、外部の制御装置90から、例えば、ブレーキペダルの踏力に対して必要とされるブラシレスモータ10の要求トルクなど、ブラシレスモータ10に対する要求出力についての駆動要求信号を入力し、この駆動要求信号に基づいて、ブラシレスモータ10に供給する電流の目標値である目標電流値を算出する。
【0026】
デューティ演算部70cは、実電流値と目標電流値との偏差に基づいて、ゲート制御信号生成部70fにおいてゲート制御信号を生成するために行うPWM(Pulse Width Modulation)動作のデューティ(%)を演算する。デューティは、例えば、実電流値と目標電流値との偏差に基づく比例積分制御(PI制御)により、下式に従って演算することができる。
【0027】
電流偏差ΔI=目標電流値−実電流値
デューティ=(ΔI×比例ゲイン+ΔIの積分値×積分ゲイン)/電源電圧×100
なお、デューティの演算処理を比例積分制御に限定するものではなく、比例積分微分制御(PID制御)など公知の演算処理方法を適宜採用可能である。
【0028】
磁極位置演算部70dは、入力した磁極位置検出信号に基づいて、ロータの磁極角度(磁極位置)を算出する。
【0029】
通電モード設定部70eは、磁極位置演算部70dで算出されたロータの磁極角度に基づいて、通電モードを設定する。
通電モードとは、ブラシレスモータ10のU相コイル10u、V相コイル10v、W相コイル10wの3相のコイルのうち通電する2相の選択パターンを示し、U相からV相に向けて電流を流す第1通電モード、U相からW相に向けて電流を流す第2通電モード、V相からW相に向けて電流を流す第3通電モード、V相からU相に向けて電流を流す第4通電モード、W相からU相に向けて電流を流す第5通電モード、W相からV相に向けて電流を流す第6通電モードの6種類の通電モードからなる。
【0030】
ゲート制御信号生成部70fは、デューティ演算部70cにより算出されたデューティと通電モード設定部70eにより設定された通電モードとに基づいて、あるいは、故障診断部70hからの指示に基づいて、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wのゲート制御信号を生成し、これをスイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wへ出力するように構成されている。
【0031】
仮想中性点電圧演算部70gは、電圧検出回路60の仮想中性点Nから入力した電圧をA/D変換してデジタル値として算出する。
【0032】
故障診断部70hは、仮想中性点電圧演算部70gで算出された仮想中性点Nの電圧値に基づいて、インバータ30に故障が発生しているか否かを診断する故障診断処理を実行する。故障診断処理は、主に、第1診断、第2診断及び第3診断から構成されている。
【0033】
スイッチ設定部70iは、故障診断部70hからの指示に基づいて、第1スイッチSW1、第2スイッチSW2及び第3スイッチSW3のオン・オフ設定を、インバータ30の故障診断を実施しない通常時とインバータ30の故障診断処理を実行する故障診断時とで切り替えるように構成されている。
【0034】
具体的には、スイッチ設定部70iは、
図3に示すように、インバータ30の故障診断を実施しない通常時には、第1スイッチSW1をオン(ON)にし、かつ、第2スイッチSW2及び第3スイッチSW3をオフ(OFF)にする設定信号を出力するように構成されている(
図1のSW1,SW2,SW3参照)。これにより、通常時には、電源80からインバータ30へ正極母線24pを介して電流が流れるようにするとともに、ブラシレスモータ10の駆動制御を妨げないようにしている。一方、インバータ30の故障診断処理を実行する故障診断時には、スイッチ設定部70iは、第1スイッチSW1をオフにし、かつ、第2スイッチSW2及び第3スイッチSW3をオンにする設定信号を出力するように構成されている。
【0035】
なお、インバータ30の故障診断装置は、電圧検出回路60、制御器70、第1スイッチSW1、第2スイッチSW2とこれに直列に接続された第3抵抗R3、及び、第3スイッチSW3とこれに直列に接続された第4抵抗R4により構成され、制御器70の各部は、CPUがROMに記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することで具現化される。
【0036】
図4は、制御器70において、イグニッションキーのオンを契機として、車両の運転状態に応じて適宜実行される、インバータ30の故障診断処理を示すフローチャートである。
【0037】
ステップ101(図中、「S101」と略記する。以下、同様)では、インバータ30の故障診断処理を実行するために、第1スイッチSW1、第2スイッチSW2及び第3スイッチSW3のオン・オフ設定を切り替える。具体的には、例えば、故障診断部70hが、イグニッションキーがオフからオン状態に変化したことを検知して、スイッチ設定部70iに対して故障診断時のスイッチ設定に切り替えるよう指示し、これにより、スイッチ設定部70iが、
図3に示すように、第1スイッチSW1をオフにし、かつ、第2スイッチSW2及び第3スイッチSW3をオンにする設定信号を出力する。
【0038】
ステップ102では、第1診断を実施するためにスイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wのオン・オフ設定を行う(第1診断設定)。
【0039】
第1診断は、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wのいずれかにオン固着が発生しているか否か、すなわち、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wが正常にオフするか否かを診断するものである。
【0040】
したがって、第1診断設定では、
図5に示すように、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wに対するゲート制御信号を全てオフにする。具体的には、例えば、デューティ演算部70cによりデューティが算出され、通電モード設定部70eにより通電モードが設定されているとしても、故障診断部70hが、ゲート制御信号生成部70fに対して、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wに対するゲート制御信号を全て強制的にオフにするように指示する。
【0041】
そして、第1診断設定の下、仮想中性点電圧演算部70gで算出された仮想中性点Nの電圧値Vnを、RAM等の書き込み可能なメモリに保存する。
【0042】
ステップ103では、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wにオン固着が発生しているか否かを診断する。
【0043】
具体的には、故障診断部70hは、第1診断設定の下、仮想中性点電圧演算部70gで算出され保存された仮想中性点Nの電圧値Vnと、ROM等のメモリに予め保存された閾値と、の比較に基づいて、オン固着が発生しているか否かを診断する。
【0044】
故障診断処理における第1診断設定の下では、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wにオン固着が発生していない場合、第1スイッチSW1、第2スイッチSW2を介してインバータ30さらには第2抵抗R2へ電流が流れないようになっている。このため、第2抵抗R2には、第3スイッチSW3から第4抵抗R4を通って電流が流入するので、仮想中性点Nの電圧値Vnは、第4抵抗R4及び第2抵抗R2の抵抗値をそれぞれR2及びR4とすると、電源80の電圧Vccを分圧した分圧値V
R2-R4{=Vcc×R2/(R2+R4)}に抵抗値R2及びR4のばらつき等の誤差(±α)を考慮した所定範囲に含まれると予想される。
【0045】
しかし、故障診断処理における第1診断設定の下で、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオン固着が発生している場合、第2抵抗R2には、第3スイッチSW3のみならず第2スイッチSW2を介した電流が流入するので、仮想中性点Nの電圧Vnは上昇する。一方、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオン固着が発生している場合、第3スイッチSW3を介して第4抵抗R4を流れた電流は、第2抵抗R2を介してグランドへ向かうだけでなく、第1抵抗R1、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wのうちオン固着が発生したもの、及び、電流センサ40を通ってグランドへ向かい、第2抵抗R2に流入する電流が減少するため、仮想中性点Nの電圧値Vnは低下する。
【0046】
したがって、ステップ103において、故障診断処理における第1診断設定の下で、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wにオン固着が発生していないときに予想される仮想中性点Nの電圧値Vnの所定範囲に、実際に検出・算出された仮想中性点Nの電圧値Vnが含まれる場合、例えば、V
R2-R4−α≦Vn≦V
R2-R4+αである場合には、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wにオン固着は発生していないと診断できるので、次にオフ固着の発生を診断すべく、ステップ104へ進む(Yes)。一方、仮想中性点Nの電圧値Vnが第1の所定範囲に含まれない場合、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wのいずれかにオン固着が発生していると診断できるので、ステップ109へ進み(No)、インバータ30に故障が発生していると診断して故障診断処理を終了する。なお、例えば、Vn>V
R2-R4+αである場合には上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオン固着が発生していると診断する一方、Vn<V
R2-R4−αである場合には、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオン固着が発生していると診断するように、アームの上下を区別してオン固着の発生を診断することもできる。
【0047】
ここで、故障診断処理において、仮に、第1スイッチSW1から正極母線24pを介してインバータ30へ電圧を印加すると、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wの上下アームのいずれにもオン固着が発生しているときには、上下アームが短絡し、電源80とグランドとの間にインバータ30を介して過大な電流が流れる可能性もあった。
【0048】
これに対して、本実施形態の故障診断処理では、第3抵抗R3を介してインバータ30へ電流を供給するようにしているので、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wの上下アームの両方にオン固着が発生していても、インバータ30に印加される電圧は第3抵抗R3で適度に電圧降下させることが可能であるので、電源とグランドとの間における過大な短絡電流の発生を抑制しつつ、インバータ30の故障診断処理を実行できる。
【0049】
また、本実施形態の故障診断処理において、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wの上下アームの両方にオン固着が発生しているときには、仮想中性点Nの電圧値Vnが偶然第1の所定範囲に含まれる可能性もあるので、故障診断部70hにおいて電流演算部70aにより算出した実電流値を併せて監視することで、上下アーム両方にオン固着が発生しているか否かを診断してもよい(
図2の点線矢印参照)。
【0050】
ステップ104では、第2診断を実施するためにスイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wのオン・オフ設定を行う(第2診断設定)。
【0051】
第2診断は、第1診断の診断結果により、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wが正常にオフすることを前提として、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生しているか否か、すなわち、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wが正常にオンするか否かを診断するものである。
【0052】
したがって、第2診断設定では、
図6に示すように、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wに対するゲート制御信号を全て強制的にオフにした状態で、下アーム側スイッチング素子34uに対するゲート制御信号のみをオンにするパターン1A、下アーム側スイッチング素子34vに対するゲート制御信号のみをオンにするパターン2A、及び、下アーム側スイッチング素子34wに対するゲート制御信号のみをオンにするパターン3Aを任意の順番で行う。具体的には、例えば、デューティ演算部70cによりデューティが算出され、通電モード設定部70eにより通電モードが設定されているとしても、故障診断部70hが、ゲート制御信号生成部70fに対して、順次、パターン1A、パターン1B及びパターン1Cのゲート制御信号を出力するように指示する。そして、第2診断設定の各パターンの下、仮想中性点電圧演算部70gで算出された仮想中性点Nの各電圧値Vnを順次RAM等の書き込み可能なメモリに保存する。
【0053】
ステップ105では、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生しているか否かを診断する。
【0054】
具体的には、故障診断部70hは、パターン1A、パターン2A及びパターン3Aでそれぞれ保存された仮想中性点Nの各電圧値Vnと、ROM等のメモリに予め保存された閾値と、の比較に基づいて、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生しているか否かを診断する。
【0055】
第1診断の診断結果により、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wが正常にオフとなることは確認されているので、故障診断処理における第2診断設定の下では、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生している場合、第3スイッチSW3から第4抵抗R4を介して流れた電流は、インバータ30へは流入せず、第2抵抗R2を介してグランデへ流れるので、仮想中性点Nにおける電圧値Vnは、前述の分圧値V
R2-R4{=Vcc×R2/(R2+R4)}に抵抗値R2及びR4のばらつき等の誤差(±α)を考慮した所定範囲に含まれると予想される。一方、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生していない場合、第3スイッチSW3を介して第4抵抗R4を流れた電流は、第2抵抗R2を介してグランドへ向かうだけでなく、第4抵抗R4、第1抵抗R1、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wのうちオンに設定されたもの、及び、電流センサ40を介してグランドへ向けて流れる。このため、仮想中性点Nにおける電圧値Vnは、前述の分圧値V
R2-R4{=Vcc×R2/(R2+R4)}に対して、電流が第2抵抗R2の他に別の経路でグランドに流出した分だけ低い電圧値となる。
【0056】
したがって、ステップ105において、故障診断処理における第2診断設定の下で、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生しているときに予想される仮想中性点Nの電圧値Vnの所定範囲に、パターン1A、パターン2A及びパターン3Aでそれぞれ実際に検出された仮想中性点Nの各電圧値Vnが含まれる場合、例えば、V
R2-R4−α≦Vn≦V
R2-R4+αである場合には、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生していると診断できる。この場合、ステップ109へ進み(No)、インバータ30に故障が発生していると診断して故障診断処理を終了する。一方、パターン1A、パターン2A及びパターン3Aでそれぞれ実際に検出された仮想中性点Nの各電圧値Vnが前述の所定範囲に含まれない場合、例えば、Vn<V
R2-R4−αである場合には、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生していないと診断できるので、次に上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生しているか否かを診断すべくステップ106へ進む(Yes)。
【0057】
ステップ106では、第3診断を実施するためにスイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wのオン・オフ設定を行う(第3診断設定)。
【0058】
第3診断は、第1診断の診断結果により、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wが正常にオフすることを前提として、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生しているか否か、すなわち、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wが正常にオンするか否かを診断するものである。
【0059】
したがって、第3診断設定では、
図7に示すように、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wに対するゲート制御信号を全て強制的にオフにした状態で、上アーム側スイッチング素子32uに対するゲート制御信号のみをオンにするパターン1B、上アーム側スイッチング素子32vに対するゲート制御信号のみをオンにするパターン2B、及び、上アーム側スイッチング素子32wに対するゲート制御信号のみをオンにするパターン3Bを任意の順番で行う。具体的には、例えば、デューティ演算部70cによりデューティが算出され、通電モード設定部70eにより通電モードが設定されているとしても、故障診断部70hが、ゲート制御信号生成部70fに対して、順次、パターン1A、パターン1B及びパターン1Cのゲート制御信号を出力するように指示する。そして、第3診断設定の各パターンの下、仮想中性点電圧演算部70gで算出された仮想中性点Nの各電圧値Vnを順次RAM等の書き込み可能なメモリに保存する。
【0060】
ステップ107では、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生しているか否かを診断する。
【0061】
具体的には、故障診断部70hは、パターン1B、パターン2B及びパターン3Bでそれぞれ保存された仮想中性点Nの各電圧値Vnと、ROM等のメモリに予め保存された閾値と、の比較に基づいて、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生しているか否かを診断する。
【0062】
第1診断の診断結果により、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wが正常にオフとなることは確認されているので、故障診断処理における第3診断設定の下では、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生している場合、電流は上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wを通って第2抵抗R2へ流れず、第2抵抗R2には、第3スイッチSW3を介して第4抵抗を流れた電流が流入する。このため、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生している場合には、仮想中性点Nにおける電圧Vnは、前述の分圧値V
R2-R4{=Vcc×R2/(R2+R4)}に抵抗値R2及びR4のばらつき等の誤差(±α)を考慮した所定範囲に含まれると予想される。一方、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生していない場合、第2抵抗R2には、第2スイッチSW2から上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wのうちオンに設定されたものを通って流入する電流と、第3スイッチSW3から第4抵抗R4を介して流入する電流と、2つの電流が合流するので、仮想中性点Nの電圧値Vnは、前述の分圧値V
R2-R4{=Vcc×R2/(R2+R4)}に対して上昇する。
【0063】
したがって、ステップ107において、故障診断処理における第3診断設定の下で、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生しているときに予想される仮想中性点Nの電圧値Vnの所定範囲に、パターン1B、パターン2B及びパターン3Bでそれぞれ実際に検出された仮想中性点Nの各電圧値Vnが含まれる場合、例えば、V
R2-R4−α≦Vn≦V
R2-R4+αである場合には、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生していると診断できる。この場合、ステップ109へ進み(No)、インバータ30に故障が発生していると診断して故障診断処理を終了する。一方、パターン1B、パターン2B及びパターン3Bでそれぞれ実際に検出された仮想中性点Nの各電圧値Vnが前述の所定範囲に含まれない場合、例えば、Vn>V
R2-R4+αである場合には、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生していないと診断できるので、ステップ108へ進み(Yes)、第1診断、第2診断及び第3診断の診断結果に基づいて、総合的に、インバータ30に故障が発生していないと診断し、故障診断処理を終了する。
【0064】
このようなインバータ30の故障診断装置及び故障診断方法によれば、前述のように、故障診断処理において、第1スイッチSW1から正極母線24pを介してインバータ30へ電流を供給せずに、第2スイッチSW2から第3抵抗R3を介してインバータ30へ電流を供給しているので、上下アーム両方にオン固着が発生し、第2スイッチSW2を介した電源80とグランドとの間に過大な短絡電流が発生した場合であっても、インバータ30に印加される電圧は、第3抵抗R3により、インバータ30の過熱による2次故障を抑制できる程度まで降下させることができる。したがって、本実施形態によるインバータ30の故障診断装置及び故障診断方法によれば、インバータ30を介した電源80とグランドとの間における過大な短絡電流の発生を抑制しつつ、インバータ30の故障診断処理を実行できる。
【0065】
また、インバータ30の故障診断装置及び故障診断方法によれば、第1診断でスイッチング素子にオン固着が発生していないことが確認されているので、第2診断及び第3診断では、上下アーム両方がオンとなることはなく、インバータ30を介した電源80とグランドとの間における過大な短絡電流の発生を抑制しつつ、インバータ30の故障診断処理を実行することができる。
【0066】
なお、前述の実施形態において、第2診断及び第3診断では、各パターンの下、それぞれ保存された仮想中性点Nの各電圧値Vnと、ROM等のメモリに予め保存された閾値と、の比較に基づいて、スイッチング素子32u,32v,32w,34u,34v,34wにオフ固着が発生しているか否かを診断していたが、これに替えて、ステップ105及びステップ107を以下のようにすることができる。すなわち、ステップ105では、第2診断設定の各パターンで保存された仮想中性点Nの各電圧値Vnが、第1診断設定で保存された仮想中性点Nの電圧値Vnと比較して殆ど変化しない場合には、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生していると診断する一方、変化している場合には、下アーム側スイッチング素子34u,34v,34wにオフ固着が発生していないと診断してもよい。また、ステップ107では、第3診断設定の各パターンで保存された仮想中性点Nの各電圧値Vnが、第1診断設定で保存された仮想中性点Nの電圧値Vnと比較して殆ど変化しない場合、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生していると診断する一方、変化していない場合には、上アーム側スイッチング素子32u,32v,32wにオフ固着が発生していないと診断してもよい。
【0067】
前述の実施形態において、故障診断処理は、第1診断、第2診断、第3診断の順番で実行するようにしていたが、これに限定されず、第2診断と第3診断の前後を入れ替えて、第1診断、第3診断、第2診断の順番で実行するようにしてもよい。
【0068】
前述の実施形態において、インバータ30が端子22u,22v,22wを介してブラシレスモータ10に電気的に接続された状態で故障診断処理を実行していた。しかし、第1診断でオン固着が発生していないときに予想される仮想中性点Nの電圧値Vn、第2診断で下アームにオフ固着が発生しているときに予想される仮想中性点Nの電圧値Vn、及び、第3診断で上アームにオフ固着が発生しているときに予想される仮想中性点Nの電圧値Vnは、インバータ30とブラシレスモータ10とが接続されているか否かによって殆ど変化しないので、インバータ30からブラシレスモータ10を電気的に分離した状態で故障診断処理を実行することもできる。
【0069】
前述の実施形態において、故障診断処理は、車載電動ブレーキの動作を妨げないように、イグニッションキーのオンを契機として、車両の運転状態に応じて適宜実行されるものとして説明したが、ブラシレスモータ10が適用される車載システムに応じて、様々なタイミングで実行することができる。ブラシレスモータ10が電動ウォータポンプの駆動源として適用される場合には、例えば、エンジンの冷却水温が目標値よりも低いときなど、電動ウォータポンプの動作が要求されていないときに故障診断処理を実行するようにしてもよい。さらに、ブラシレスモータ10とインバータ30とが電気的に分離した状態である場合には、適用する車載システムを考慮せずに、任意のタイミングで故障診断処理を実行してもよい。
【0070】
前述の実施形態において、ロータの磁極位置を磁極位置検出センサ50により検出していたが、ブラシレスモータ10が適用される車載システムに応じて、磁極位置検出センサ50を用いずにセンサレス駆動を行うことができる。例えば、ブラシレスモータ10が電動ウォータポンプの駆動源に適用される場合には、電圧検出回路60から検出・算出された仮想中性点Nの電圧値Vnが0ボルトになったときを通電モードの切り替えタイミングとしてもよい。