特許第6408957号(P6408957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6408957顔料組成物及びインクジェット用水性インク組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408957
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】顔料組成物及びインクジェット用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20181004BHJP
   C09D 11/324 20140101ALI20181004BHJP
【FI】
   C09C1/48
   C09D11/324
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-103746(P2015-103746)
(22)【出願日】2015年5月21日
(65)【公開番号】特開2016-216625(P2016-216625A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】相良 園子
(72)【発明者】
【氏名】藤森 義久
(72)【発明者】
【氏名】森川 聡一郎
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−331143(JP,A)
【文献】 特開2000−169772(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/039312(WO,A1)
【文献】 特開2004−292816(JP,A)
【文献】 特表2009−516035(JP,A)
【文献】 特開2007−224079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
C09D 11/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、前記カーボンブラックの顔料分散剤として下記化学式(1)で表されるポリソルベートのみからなるもの、分散媒とを含み、
前記カーボンブラックと前記ポリソルベートとの含有比が、質量基準で1:0.4〜1:3であり、
分散している前記カーボンブラックの平均分散粒子径D50が50nm〜200nmである顔料分散液
【化1】
(式中、前記w、x、y及びzはそれぞれ整数であり、w+x+y+z=20を満たす。また、前記Rは炭素数が11〜17の親油性基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の顔料分散液であって、
前記カーボンブラックのD99が100nm〜500nmである顔料分散液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の顔料分散液を含み、かつ、可食性を有するインクジェット用水性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顔料組成物及びインクジェット用水性インク組成物に関し、より詳細には、顔料の平均分散粒子径が小さく、分散性に優れ、医薬品や食品等の錠剤等に対して、インクジェット方式で直接印刷することが可能な可食性の顔料組成物及びインクジェット用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤の医薬品やサプリメント等の食品に対しては、パッケージだけでなく錠剤本体にも製品情報を表示することによって、それらの識別性を向上させ、調剤ミスや誤飲防止などが図られている。表面がコーティングされた錠剤は、グラビア印刷などの接触方式で印刷できるため、識別性の高い情報表示が行われている半面、表面の平滑性が悪い素錠やOD(口腔内崩壊)錠では接触方式による印刷が困難となっている。そのため、これらの錠剤に対しては、簡単な文字しか表示できない刻印方式が主流となっている。その結果、特に製薬業界では、素錠やOD錠等に対しても識別性の高い情報表示が可能な、新たな印刷方法に対するニーズが高まっている。
【0003】
そのような印刷方法としては、例えば、染料を用いた水性インク組成物によるインクジェット方式の印刷が挙げられる(下記特許文献1参照)。しかしながら、前記水性インク組成物を用いて医薬品の錠剤等に印刷すると、印刷画像が滲み耐光性に劣るという問題がある。このような問題を解決する方法の一つとして、染料等に代えて顔料を用いたスタンプ印刷を行うことにより、耐光性を向上させて、滲みの問題を解消する方法が挙げられる。
【0004】
しかし、顔料を用いたスタンプ印刷の場合、印刷版の作成が必要であり、小ロット生産では作業性が悪いという問題を有している。そのため、インクジェット方式により直接印刷する方法が考えられるが、スタンプ印刷に用いられる水性インク組成物の顔料は平均分散粒子径D50が400nm〜2000nm(D99では2000nm〜10000nm)程度と大きく、当該インクジェット方式での印刷には適さないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−236279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、顔料の平均分散粒子径が小さく、分散性に優れ、かつ、医薬品や食品等の錠剤等に対してインクジェット方式で直接印刷することが可能な可食性の顔料組成物及びインクジェット用水性インク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者等は、前記問題点を解決すべく、顔料組成物及びインクジェット用水性インク組成物について検討した。その結果、下記構成を採用することにより前記の問題点を解決できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明に係る顔料組成物は、前記の課題を解決する為に、カーボンブラックと、下記化学式(1)で表されるポリソルベートとを含み、前記カーボンブラックと前記ポリソルベートとの含有比が、質量基準で1:0.4〜1:3であり、分散している前記カーボンブラックの平均分散粒子径D50が50nm〜200nmであることを特徴とする。
【0009】
【化1】
(式中、前記w、x、y及びzはそれぞれ整数であり、w+x+y+z=20を満たす。また、前記Rは炭素数が11〜17の親油性基を表す。)
【0010】
前記の構成によれば、染料の代わりにカーボンブラックからなる顔料を用いるので、本発明の顔料組成物を、例えば、インクジェット用水性インク組成物に用いた場合には、染料を用いたインク組成物と比較して、耐光性の向上が図れる。
【0011】
また、前記の構成によれば、カーボンブラックの顔料分散剤として前記化学式(1)で 表されるポリソルベートを用い、かつ、カーボンブラックとポリソルベートとの含有比を質量基準で1:0.4〜1:3の範囲内にすることにより、顔料組成物中でのカーボンブラックの平均分散粒子径を50nm〜200nmの範囲内に制御することができ、分散性に優れたものにできる。これにより、例えば、医薬品等の錠剤に対してもインクジェット方式での印刷を可能にする。また、上述の通り、耐光性にも優れているので、印刷画像の滲みの発生も防止することができる。
【0012】
本発明に係るインクジェット用水性インク組成物は、前記の課題を解決する為に、前記に記載の顔料組成物を含み、かつ、可食性を有するものであることを特徴とする。
【0013】
前記の構成によれば、染料の代わりにカーボンブラックからなる顔料を用いているので、例えば、医薬品等の錠剤表面にインクジェット方式で印刷しても、印刷画像は耐光性に優れ、かつ、滲みの発生を防止することができる。
【0014】
また、前記の構成によれば、カーボンブラックの顔料分散剤としてポリソルベートを用い、かつ、カーボンブラックとポリソルベートとの含有比を質量基準で1:0.4〜1:3の範囲内にしているので、カーボンブラックの平均分散粒子径を50nm〜200nmの範囲内に制御することができ、医薬品や食品等の錠剤に対し、インクジェット方式で直接印刷することが可能な水性インク組成物を提供することができる。尚、可食性とは、医薬品若しくは医薬品添加物として経口投与が認められている物質、及び/又は食品若しくは食品添加物として認められている物質のみからなることを意味する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カーボンブラックからなる顔料に対し良好な分散性を付与するポリソルベートを、当該カーボンブラックとポリソルベートが1:0.4〜1:3の配合比となる様に含有させ、さらにカーボンブラックの平均分散粒子径D50を50nm〜200nmの範囲内にしているので、医薬品や食品等の錠剤等に対し、インクジェット方式での印刷を可能にする顔料組成物及びインクジェット用水性インク組成物を提供することができる。また、カーボンブラックからなる顔料を用いたインクジェット用水性インク組成物は、染料等を用いたものと比較して耐光性に優れ、印刷画像の滲みも防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(顔料組成物)
本実施の形態に係る顔料組成物は、顔料としてのカーボンブラックからなる顔料と、顔料分散剤としてのポリソルベートを少なくとも含む組成物である。
【0017】
前記カーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられる。また、本実施の形態のカーボンブラックとしては市販品を用いることも可能であり、そのような市販品としては、例えば、#900、#970、#100、#2200、#2300、#2350、#2600、MA−7、MA−8、MA−100、MA−11、MCF88、#45L、#50、#10、#33、#40、#4000、#52、CF9等(商品名、いずれも三菱化学株式会社製)、ニテロン、HTC(商品名、いずれも新日鉄住金化学社製)、旭#55、旭#51、旭#50U、旭#50、旭#35、旭#15、アサヒサーマル(商品名、いずれも旭カーボン社製)、Raven700、5750、5250、5000、3500、1255(商品名、いずれもコロンビア社製)、REGAL400R、330R、660R、MogulL、Monarch700、800、880、900、1000、1100、1300、Monarch1400(商品名、いずれもキャボット社製)、Color Black FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170(商品名、いずれもデグッサ社製)、PRINTEX35、U、V、140U、140V(商品名、いずれもデグッサ社製)、Special Black6、5、4A、4(商品名、いずれもデグッサ社製)、TOKABLACK #8500、#8300、#7550、#7400、#7350、#7240、#7100、#7050、#5500、#4500、#4400、#4300(商品名、いずれも東海カーボン社製)等を例示できる。これらの顔料は適宜必要に応じて、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。但し、本実施の形態の顔料組成物を医薬品やサプリメント等の錠剤表面への印刷用として用いる場合、カーボンブラックは、薬事法で定める医薬添加物又は食品衛生法で定める食品添加物であることが好ましい。
【0018】
前記カーボンブラックの平均一次粒子径は10nm〜40nmが好ましい。尚、平均一次粒子径とは、分散剤と共に溶媒に入れて分散させる前の当該カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均粒子径を意味する。
【0019】
前記カーボンブラックの含有量は画像濃度に直接影響するものであり、後述の水性インク組成物の保存性や粘度、pH、錠剤等に印刷する場合はその印刷濃度等に影響を及ぼすものであることから、これらの点を考慮して適宜設定すればよい。通常は、顔料組成物の全質量に対し0.5質量%〜20質量%の範囲が好ましく、1質量%〜15質量%の範囲内がより好ましく、1質量%〜3質量%の範囲が特に好ましい。カーボンブラックの含有量を0.5質量%以上にすることにより、画像濃度の低下を抑制することができる。その一方、カーボンブラックの含有量を20質量%以下にすることにより、光沢性の低下やノズルの目詰まり、吐出安定性の低下を防止することができる。
【0020】
分散状態にある前記カーボンブラックの平均分散粒子径D50は、50nm〜200nmの範囲内が好ましく、85nm〜140nmの範囲内がより好ましい。また、前記カーボンブラックの粒度分布の累積99%の値(D99)は、100nm〜500nmの範囲内が好ましい。前記D50を50nm以上にすることにより、分散安定性、耐光性及び吐出安定性の悪化を防止し、印刷濃度の低下も防止することができる。その一方、前記D50を200nm以下にすることにより、前記カーボンブラックの分離や沈降を防止し、分散安定性の維持が図れる。尚、カーボンブラックの平均分散粒子径D50又はD99は、マイクロトラックUPA−EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定した値である。
【0021】
前記ポリソルベートは、顔料としてのカーボンブラックの分散性の向上を図るものである。また、ポリソルベートは、薬事法で定める医薬添加物及び第十六日本薬局方の基準に適合するものであるので、医薬品又は食品等の錠剤等への印刷用に好適に用いることができる。
【0022】
前記ポリソルベートは、下記化学式(1)で表される。
【0023】
【化2】
(式中、前記w、x、y及びzはそれぞれ整数であり、w+x+y+z=20を満たす。また、前記Rは炭素数が11〜17の親油性基を表す。)
【0024】
前記ポリソルベートにおける親油性基Rは、炭素数が11〜17の範囲内のものである。前記親油性基Rは、具体的には、例えば、ウンデシル基(−C1123)、ペンタデシル基(−C1531)、ヘプタデシル基(−C1735)、ヘプタデセニル基(−C1733)等が挙げられる。
【0025】
前記ポリソルベートとしては、具体的には、例えば、ポリソルベート20(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート40(モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート60(モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))等が挙げられる。
【0026】
前記ポリソルベート20の市販品としては、例えば、ニューカルゲンD−941(商品名、竹本油脂(株))、イオネットT−20−C(商品名、三洋化成工業(株))、オイムルギン SML20(商品名、ヘンケルジャパン(株))、レオドール TW−L120(商品名、花王(株))、ニッコールTL−10(商品名、日光ケミカルズ(株))、アデカエストールT−2(商品名、旭電化工業(株))を用いることができる。
【0027】
前記ポリソルベート40の市販品としては、例えば、ニッコール TP−10EX(商品名、日光ケミカルズ(株))、レオドールTW−P120(商品名、花王(株))、ニューカルゲン D−943−D(商品名、竹本油脂(株))を用いることができる。
【0028】
前記ポリソルベート60の市販品としては、例えば、ニッコール TS−10MV(商品名、日光ケミカルズ(株))、ノニオン(商品名、日本油脂(株))、レオドール TW−S120(商品名、花王株式会社)、オイムルギン SMS20(商品名、ヘンケルジャパン(株))、ニューカルゲン D−944(商品名、竹本油脂(株))、アデカエストール T−62(商品名、旭電化工業(株))を用いることができる。
【0029】
前記ポリソルベート80の市販品としては、例えば、ニッコール TO−10MV(商品名、日光ケミカルズ(株))、レオドール TW−0120(商品名、花王(株))、オイムルギン SMO20(商品名、ヘンケルジャパン(株))、ニューカルゲン D−945(商品名、竹本油脂(株))、アデカエストール T−82(商品名、旭電化工業(株))を用いることができる。
【0030】
前記カーボンブラックと前記ポリソルベートとの含有比は、質量基準で1:0.4〜1:3であることが好ましい。前記含有比が1:0.4以上であると、カーボンブラックの分散性の低下を防止することができる。その一方、前記含有比が1:3以下であると、例えば、インクジェット用水性インク組成物に用いた場合に、ノズルプレートの付着に起因する吐出安定性の低下を防止することができる。
【0031】
本実施の形態に係る顔料組成物に於いては、カーボンブラックを分散させるための分散媒が含まれる。分散媒としては水が挙げられ、より詳細には、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水等のイオン性不純物を除去したものが挙げられる。特に、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間にわたってカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。また、分散媒の含有量としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0032】
また、前記分散媒としては、前記水と水溶性有機溶剤の混合溶液を用いてもよい。前記水溶性有機溶剤としては特に限定されず、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−へキサントリオール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどの多価アルコール類;N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。また、前記に列挙した水溶性有機溶剤のうち、本実施の形態に於いては、エチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンが好ましい。さらに、分散媒に水溶性有機溶剤を用いる場合の配合量としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0033】
本実施の形態の顔料組成物の製造方法においては、カーボンブラック、ポリソルベート、分散媒及び必要に応じて配合するその他の添加剤の混合方法や添加順序は、特に限定されない。例えば、カーボンブラック、ポリソルベート及び分散媒としての水等を一度に混合し、この混合液に対し通常の分散機を用いて分散処理を施せばよい。このときの分散時間は特に限定されないが、顔料の平均分散粒子径が前記の数値範囲内となるように設定するのが好ましい。例えば、ペイントシェーカーを用いた場合には、顔料組成物の質量にもよるが2時間〜48時間の範囲内が好ましく、6時間〜20時間の範囲内がより好ましい。分散時間を2時間以上にすることにより、カーボンブラックの粗大粒子が大量に残存するのを低減し、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのカーボンブラック表面への吸着が不十分となって分散安定性や保存安定性が悪くなるのを防止することができる。その一方、分散時間を48時間以下にすることにより、平均分散粒子径が前記数値範囲よりも小さい顔料微粒子が多く発生するのを低減し、分散安定性、保存安定性、更には吐出安定性の低下を防止することができる。また、印刷濃度の低下も抑制することができる。尚、顔料の分散処理の際に使用される分散機としては特に限定されず、一般に使用されるものを用いることができる。具体的には、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、ナノマイザー等が挙げられる。
【0034】
尚、本実施の形態の顔料組成物は、最終製品たるインクジェット用水性インク組成物(詳細については後述する)の形態のほか、当該水性インク組成物を調製するための顔料分散液の形態をも包含するものである。
【0035】
(インクジェット用水性インク組成物)
本実施の形態に係るインクジェット用水性インク組成物(以下、「水性インク組成物」という。)は、少なくとも前記顔料組成物を含み、主溶媒が水である水性インクである。また、本実施の形態の水性インク組成物は可食性を有し、インクジェット記録用として好適に用いられるものである。さらに、水性インク組成物は色材として顔料が用いられることから、染料を用いたインク組成物と比較して発色性や耐光性、耐水性等の点で優れている。
【0036】
前記顔料組成物の含有量は、水性インク組成物の全質量に対し固形分換算で0.5質量%〜20質量%の範囲が好ましく、1質量%〜15質量%の範囲内がより好ましい。顔料組成物の含有量を0.5質量%以上にすることにより、着色力を向上させることができる。その一方、顔料組成物の含有量を20質量%以下にすることにより、分散性を向上させることができる。
【0037】
本実施の形態に係る水性インク組成物に於いては、水(主溶媒としての水)を含有する。前記水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水等のイオン性不純物を除去したものを用いるのが好ましい。特に、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間にわたってカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。また、水の含有量としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0038】
本実施の形態の水性インク組成物においては、その他の添加剤が配合されていてもよい。但し、医薬品等の錠剤に対するインクジェット用インクとして用いる場合には、薬事法等で定める医薬添加物及び第十六日本薬局方の基準に適合するもの、又は食品添加物に該当するものであることが好ましい。前記添加剤としては、表面張力調整剤、湿潤剤、水溶性樹脂、有機アミン、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0039】
前記添加剤のうち表面張力調整剤としては、医薬添加物及び第十六日本薬局方の基準に適合するもの、あるいは食品衛生法で定める食品添加物に該当するものであって、水性インク組成物の表面張力を調整することが可能なものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、カプリル酸デカグリセリンエステル、カプリン酸デカグリセリンエステル、ラウリン酸デカグリセリンエステル、オレイン酸デカグリセリンエステル、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル、オレイン酸ヘキサグリセリンエステル、縮合リノレン酸テトラグリセリンエステル、脂肪酸エステルヤシパーム、カプリン酸デカグリセリンエステル、ラウリン酸デカグリセリンエステル、ミリスチン酸デカグリセリンエステル、ステアリン酸デカグリセリンエステル、オレイン酸デカグリセリンエステル、ミリスチン酸ヘキサグリセリンエステル、グリセリン脂肪酸エステル混合物、ステアリン酸グリセリンエステル(自己乳化型)、ピログルタミン酸POE、モノラウリン酸ポリエチレングリコール(10EO)、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(6EO)、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(20EO)、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO)、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO)、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO)、POE(4.2)ラウリルエーテル、POE(9)ラウリルエーテル等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
これらの表面張力調整剤のうち、良好な吐出性を維持する観点からは、カプリル酸デカグリセリンエステル(商品名;リョートーポリグリエステルCE19D、三菱化学フーズ(株)製)、カプリル酸デカグリセリンエステル(商品名;SYグリスターMCA750、坂本薬品工業)、ラウリン酸デカグリセリンエステル(商品名;NIKKOL DECAGLYN 1−L、日光ケミカルズ(株)製)、ラウリン酸デカグリセリンエステル(商品名;SYグリスターML−750、坂本薬品工業(株)製)、オレイン酸デカグリセリンエステル(商品名;NIKKOL DECAGLYN 1−OV、日光ケミカルズ(株)製)、オレイン酸デカグリセリンエステル(商品名;SYグリスターMO−7S、坂本薬品工業(株)製)、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル(商品名;NIKKOL HEXAGLYN 1−L、日光ケミカルズ(株)製)、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル(商品名;SYグリスターML−500、坂本薬品工業(株)製)、オレイン酸ヘキサグリセリンエステル(商品名;SYグリスターMO−5S、坂本薬品工業(株)製)、縮合リノレン酸テトラグリセリンエステル(商品名;SYグリスターCR−310、坂本薬品工業(株)製)、脂肪酸エステルヤシパーム(商品名;チラバゾール W−01、太陽化学(株)製)等の市販品を用いるのが好ましい。
【0041】
前記表面張力調整剤の含有量は、水性インク組成物の全質量に対し0.2質量%〜10質量%の範囲が好ましく、1質量%〜4質量%の範囲内がより好ましい。表面張力調整剤の含有量を0.2質量%以上にすることにより、吐出性能の低下を抑制することができる。その一方、表面張力調整剤の含有量を10質量%以下にすることにより、保存安定性を確保することができる。
【0042】
また、前記添加剤のうち湿潤剤としては、前述の水溶性有機溶剤が挙げられる。湿潤剤の含有量は、水性インク組成物の全質量に対し3質量%〜50質量%の範囲が好ましく、10質量%〜40質量%の範囲内がより好ましい。湿潤剤の含有量を3質量%以上にすることにより、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを防止し、吐出性能の向上が図れる。その一方、湿潤剤の含有量を50質量%以下にすることにより、水性インク組成物の粘度を適性に制御することができる。
【0043】
本実施の形態の水性インク組成物は、前述の各成分を適宜な方法で混合することよって製造することができる。即ち、例えば、顔料組成物の分散液に、別途前記添加剤等を加え、更に水にて希釈する。その後、十分に撹拌し、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒径及び異物を除去するための濾過を行う。これにより、本実施の形態に係る水性インク組成物を得ることができる。
【0044】
各材料の混合方法としては特に限定されず、例えば、ディスパー、ホモミキサー、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合を行う。また、濾過方法としては特に限定されず、例えば、遠心濾過、フィルター濾過等を採用することができる。
【0045】
本実施の形態の水性インク組成物は、インクや塗料に適用することができる。また、本実施の形態の水性インク組成物は、顔料であるカーボンブラックの分散性に優れているので、インクジェット用インクに好適に使用することができる。特に、本実施の形態の水性インク組成物は、薬事法等で定められている医薬添加物及び第十六日本薬局方の基準に適合し又は食品添加物に該当する、カーボンブラック及び顔料分散剤を用いているので、可食性を有しており、医薬品やサプリメント等の錠剤の表面に直接印刷することが可能である。また、素錠やOD錠など表面の平滑性が悪い錠剤に対しても、インクジェット方式による非接触印刷が可能にする。さらに、水性インク組成物は耐光性にも優れているので、医薬品やサプリメント等の錠剤の表面に直接印刷しても滲みの発生を防止することができる。
【実施例】
【0046】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、下記の実施例に記載されている材料や含有量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。また、下記の実施例及び比較例に記載されている各材料は、何れも薬事法で定める医薬添加物及び第十六日本薬局方の基準に適合するもの、又は食品添加物に該当するものである。
【0047】
(実施例1〜6)
下記表1に示す配合組成にて、実施例1〜6の顔料組成物を調製した。また、各実施例の顔料組成物の調製は、次の操作によって調製した。即ち、表1に示す各材料を容器中に入れ、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社製)にて常温で7時間(分散時間)分散させた。これにより、各実施例の顔料組成物を得た。尚、下記表1中の数値は、特に記載がない場合は全て質量%で表したものである。
【0048】
【表1】
【0049】
(比較例1〜4)
下記表2に示す配合組成にて、比較例1〜4の顔料組成物を調製した。これらの比較例は、カーボンブラックとポリソルベートとの含有比が、質量基準で1:0.4〜1:4の範囲を満たさない場合の実験例である。尚、各比較例の顔料組成物は、表2に示す各材料を容器中に入れ、分散機にて常温で7時間(分散時間)分散させて得られたものである。また、下記表2中の数値は、特に記載がない場合は全て質量%で表したものである。
【0050】
【表2】
【0051】
(比較例5、6)
前記表2に示す配合組成にて、比較例4及び5の顔料組成物を調製した。これらの比較例は、カーボンブラックの分散剤としてポリソルベート以外のものを使用した場合の実験例である。尚、各比較例の顔料組成物は、表2に示す各材料を容器中に入れ、分散機にて常温で7時間(分散時間)分散させて得られたものである。
【0052】
(実施例7〜10)
下記表3に示す配合組成にて、実施例7〜10の水性インク組成物を調製した。また、各実施例の水性インク組成物の調製は、次の操作によって調製した。先ず、実施例1と同様の手順により顔料組成物を調製し、その後、下記表3に示す配合組成になるように、表面張力調整剤、湿潤剤及び水を添加し混合して、各実施例7〜10の水性インク組成物を得た。尚、下記表3中の数値は、特に記載がない場合は全て質量%で表したものである。
【0053】
【表3】
【0054】
(顔料の平均分散粒子径の測定)
各実施例及び比較例の顔料組成物や水性インク組成物における顔料の平均分散粒子径D50及びD99は、マイクロトラックUPA−EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定した。結果を前記表1〜表3に示す。
【0055】
(飛翔性)
記録媒体としてマット紙(商品名:スーパーファイン紙、エプソン(株)製)を用意し、実施例7〜10で調製した水性インク組成物を用いて印刷を行った。印刷は、インクジェットプリンタを用いて行った。
【0056】
ノズル抜け及びかすれの評価は、ヘッドから水性インク組成物を吐出させた後、インクジェットプリンタを停止させ、その後、再度印刷したときの印刷画像にノズル抜けやかすれが観察されるか否かにより行った。結果を前記表3に示す。表中の○はノズル抜け及びかすれの何れも観察されなかった場合を意味する。尚、ノズル抜けとは目詰まりが発生したノズルから水性インク組成物からなるインク滴が吐出されないことを意味する。かすれとは、印刷の初期における画像のかすれを意味する。
【0057】
(結果)
表1に示す実施例1〜6の実験結果から分かる通り、カーボンブラックからなる顔料の分散剤として、炭素数が11〜17の親油性を有するポリソルベートを用い、さらに、カーボンブラックとポリソルベートとの含有比を、質量基準で1:0.4〜1:3の範囲内にした場合、カーボンブラックの平均分散粒子径D50及びD99の値を小さくすることができ、分散性に優れた顔料組成物を製造できることが確認された。
【0058】
一方、表2に示す比較例1〜4の実験結果から分かる通り、分散剤としてポリソルベートを用いた場合でも、カーボンブラックとポリソルベートとの含有比が1:0.4〜1:3の範囲外である場合には、カーボンブラックの平均分散粒子径D99の値が大きくなった。これにより、比較例1〜4の水性インク組成物を用いてインクジェット方式で印刷した場合には、ノズルの目詰まりが発生し、吐出安定性が不良となる可能性があることが確認された。
【0059】
また、表2に示す比較例5及び6の実験結果から分かる通り、分散剤としてポリソルベート以外のものを用いた場合には、カーボンブラックと分散剤の含有比が1:0.4〜1:3の範囲内であっても、カーボンブラックの平均分散粒子径D50及びD90の何れも値が大きくなることが確認された。
【0060】
また、表3に示す実施例7〜10の実験結果から分かる通り、表面張力調整剤を添加した水性インク組成物においても、カーボンブラックの平均分散粒子径D50及びD99の値を小さくすることができ、分散性に優れた水性インク組成物を製造できることが確認された。さらに、各実施例の水性インク組成物が優れた分散性を示す他、インクジェット方式での印刷の際の飛翔性も良好であることが確認された。