特許第6408975号(P6408975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社椿本チエインの特許一覧

<>
  • 特許6408975-チェーンテンショナ 図000002
  • 特許6408975-チェーンテンショナ 図000003
  • 特許6408975-チェーンテンショナ 図000004
  • 特許6408975-チェーンテンショナ 図000005
  • 特許6408975-チェーンテンショナ 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408975
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20181004BHJP
【FI】
   F16H7/08 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-220383(P2015-220383)
(22)【出願日】2015年11月10日
(65)【公開番号】特開2017-89749(P2017-89749A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】榑松 勇二
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−061736(JP,A)
【文献】 特開2009−180359(JP,A)
【文献】 特開2009−210088(JP,A)
【文献】 特開2011−179622(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0015069(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、該プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャ収容穴とプランジャとの間に形成される圧油室に伸縮自在に収納されてプランジャを突出方向に付勢する付勢手段とを備えたチェーンテンショナであって、
前記圧油室に流入するオイルの逆流を抑制するチェックバルブユニットと、前記圧油室の所定以上の高圧でオイルを開放する第1リリーフバルブユニット及び第2リリーフバルブユニットとを備え、
前記第2リリーフバルブユニットの開弁圧が、前記第1リリーフバルブユニットの開弁圧よりも大きいことを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記チェックバルブユニットが、前記第1リリーフバルブユニットのバルブ要素として配置され、
前記第1リリーフバルブユニットと前記チェックバルブユニットが、一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記プランジャが、内部にオイル供給孔と連通する貯油室を有し、
前記第1リリーフバルブユニットが、前記貯油室と前記圧油室の間にリリーフバルブシート部を前記圧油室側に向けて配置され、
前記第1リリーフバルブユニットの外周と前記プランジャの内面との間に、開放されたオイルが前記貯油室に還流するオイル還流流路が形成され、
前記第2リリーフバルブユニットが、前記プランジャ収容穴の底部に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記オイル還流流路が、オイルの流量を規制するオリフィス部を有することを特徴とする請求項3に記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記プランジャ収容穴の底部には、第2リリーフバルブユニットの開弁時に開放されたオイルを供給側に還流する底部還流流路が形成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、該プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャ収容穴とプランジャとの間に形成される圧油室に伸縮自在に収納されてプランジャを突出方向に付勢する付勢手段とを備え、チェーンの張力を適正に保持するチェーンテンショナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーンの張力を適正に保持するチェーンテンショナを用いることは慣用されており、例えば、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンを走行案内シューによって摺動案内を行うチェーンガイド機構において、張力を適正に保持するためにチェーンテンショナによって走行案内シューを有する揺動チェーンガイドを付勢するものが公知である。
例えば、図4に示すように、タイミングチェーンCHがエンジンルーム内のクランク軸に取付けた駆動スプロケットS1とカム軸に取付けた一対の従動スプロケットS2、S3との間に無端懸回されており、このタイミングチェーンCHが揺動チェーンガイドG1と固定チェーンガイドG2とによってガイドされてチェーンガイド機構が構成されている。
固定チェーンガイドG2は、2つの取付軸B1、B2でエンジンルーム内に固定され、揺動チェーンガイドG1は、取付軸B0を中心にタイミングチェーンCHの懸回平面内で揺動可能にエンジンルーム内に取付けられている。
チェーンテンショナ500は、揺動チェーンガイドG1を押圧することでタイミングチェーンCHの張力を適正に保持するとともに振動を抑制している。
【0003】
このようなチェーンガイド機構に用いられる公知のチェーンテンショナ500は、例えば図5に模式的に示すように、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴511を有するテンショナボディ510と、該プランジャ収容穴511の円筒面部513に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャ520と、プランジャ収容穴511からプランジャ520を突出方向に付勢する付勢手段を備えている。
付勢手段は、円筒状のプランジャ520の筒状凹部521に収容されてプランジャ収容穴511の底部512との間で圧縮されるコイルばね540で構成されている。
【0004】
プランジャ収容穴511に設けられたオイル供給孔514からオイルが供給されることで、プランジャ収容穴511とプランジャ520との間に形成された圧油室501がオイルで満たされ、オイルによりプランジャ520を突出方向に付勢するとともに、チェックバルブ550(模式的にチェックボールのみを図示。)でオイル供給孔514からのオイルの流出が阻止されている。
このことで、プランジャ520の往復動にともなってプランジャ520とプランジャ収容穴511の間の僅かな隙間をオイルが流れ、その流路抵抗によってプランジャ520の往復動を減衰させるダンピング効果を得ている。
【0005】
このようなチェーンテンショナにおいて、使用時にタイミングチェーンの過大な緊張力や過大なエンジン油圧が発生した場合、圧油室の圧力が過大となり、騒音、振動が発生したり、タイミングチェーンの損傷を与える虞れがあった。
このような自体を防止するために、圧油室が所定の圧力以上となった時に開放するリリーフバルブを備えたものが公知である(特許文献1乃至特許文献5等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−327810号公報
【特許文献2】特開2011−226534号公報
【特許文献3】特開2002−130401号公報
【特許文献4】特開2002−235818号公報
【特許文献5】特開2006−125430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1乃至5等のものを含め公知のチェーンテンショナでは、リリーフバルブの開弁圧の設定において、エンジン油圧に対しての適正化が厳しく、回転数に対する狙った反力やダンピング特性を出すことが容易ではないという問題があった。
開弁圧を高くし過ぎた場合、低油圧時で押し過ぎによる騒音、張力、フリクションの悪化を招き、開弁圧を低くし過ぎた場合、高油圧時のバタつきによるチェーン張力、テンショナ挙動悪化等の問題があった。
また、特許文献1、2等で公知のチェーンテンショナは、リリーフバルブがプランジャ収容穴内に配置されず、テンショナボディに別途のオイル流路を介して設けられているため、大型化するとともに、加工箇所が増加し、組立工数も増大するという問題があった。
【0008】
特許文献3、4、5等で公知のチェーンテンショナは、リリーフバルブがプランジャ内部に設けられており、大型化は回避できるものの、プランジャの内部構造が複雑となり、組立工数が増大するという問題があった。
また、リリーフバルブにより開放されたオイルは外部に流出することとなるため、オイル消費が多くなりオイルポンプの強化が必要となる。
さらに、特許文献1乃至5等のものを含め公知のチェーンテンショナでは、チェックバルブ内でチェックボールが移動する構造であることから、圧油室内の圧力が急激に上昇するような動作となった場合、リリーフバルブにより圧力を開放する直前に、チェックボールがチェックバルブシート部に大きな衝撃で着座し、チェックボールやチェックバルブシート部が損傷してチェックバルブとしての機能が低下する虞れがあった。
【0009】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、広範なエンジン油圧に対して圧油室の圧力を適正に保ち、回転数に対する狙った反力やダンピング特性を出すことが可能であり、大型化することなく、加工箇所や組立工数を減少し、オイルの外部への流出を減少するとともに、チェックバルブの損傷を防止するチェーンテンショナを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のチェーンテンショナは、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、該プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャ収容穴とプランジャとの間に形成される圧油室に伸縮自在に収納されてプランジャを突出方向に付勢する付勢手段とを備えたチェーンテンショナであって、前記圧油室に流入するオイルの逆流を抑制するチェックバルブユニットと、前記圧油室の所定以上の高圧でオイルを開放する第1リリーフバルブユニット及び第2リリーフバルブユニットとを備え、前記チェックバルブユニットが、前記第2リリーフバルブユニットの開弁圧が、前記第1リリーフバルブユニットの開弁圧よりも大きいことにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本請求項1に係るチェーンテンショナによれば、圧油室の所定以上の高圧でオイルを開放する第1リリーフバルブユニット及び第2リリーフバルブユニットとを備え、第2リリーフバルブユニットの開弁圧が、第1リリーフバルブユニットの開弁圧よりも大きいことにより、ある程度の低油圧時でも第1リリーフバルブユニットが開弁するように設定し、第1リリーフバルブユニットが開弁した場合でもさらなるエンジン油圧の上昇で圧油室の圧力が上昇して第2リリーフバルブユニットが開弁するように設定することが可能となる。
このことで、第1リリーフバルブユニットの開弁により、低油圧時で押し過ぎによる騒音、張力、フリクションの悪化を防止でき、高油圧時のバタつきによるチェーン張力、テンショナ挙動悪化を防止することができるとともに、さらなる高圧時の第2リリーフバルブユニットの開弁により、エンジンが高回転の時のチェーン張力を下げることができ、広範なエンジン油圧に対して圧油室の圧力を適正に保ち、回転数に対する狙った反力やダンピング特性を出すことが可能となる。
【0012】
本請求項2に記載の構成によれば、チェックバルブユニットが第1リリーフバルブユニットのバルブ要素として配置され、第1リリーフバルブユニットとチェックバルブユニットが一体に形成されていることにより、3つのバルブユニットを組み込んでも、2つのバルブユニットを持つものと同等で大型化することなく、加工箇所が増加することもない。
また、チェックバルブユニットが第1リリーフバルブユニットのバルブ要素として配置され、第1リリーフバルブユニットとチェックバルブユニットが一体に形成されていることにより、第1リリーフバルブユニットを予め組み立てた後に、一体として内部に組み込むことが可能となるため、組立工数を減少させることが可能となる。
また、第1リリーフバルブユニットによる圧力の開放をオイルの供給側に向かって行う構造となるため、オイルの外部への流出を減少することができるとともに、圧油室と開放側との差圧が小さくなり、第1リリーフバルブユニットの閉鎖状態への復帰速度を向上することができる。
さらに、エンジンの始動時等のオイル供給が開始される前の状態で第1リリーフバルブユニットが作動した場合でも、圧力の開放をオイルの供給側に向かって行う構造となるため、オイルが外部へ流出せずに循環し、始動時のバタつきを抑制することが可能となる。
【0013】
本請求項3に記載の構成によれば、プランジャが、内部にオイル供給孔と連通する貯油室を有し、第1リリーフバルブユニットが、前記貯油室と前記圧油室の間にリリーフバルブシート部を前記圧油室側に向けて配置され、リリーフスリーブの外周とプランジャの内面との間に、開放されたオイルが貯油室に還流するオイル流路が形成されることにより、プランジャ内部に貯油室を有する形式のチェーンテンショナにおいて、大型化することなく、加工箇所や組立工数を減少し、オイルの外部への流出を減少するとともに、チェックバルブの損傷を防止することが可能となる。
さらに、チェックバルブが開放した際に、オイルを貯油室に還流させることができるため、貯油室のオイルの減少を抑制することが可能となる。
【0014】
本請求項4に記載の構成によれば、オイル還流流路が、オイルの流量を規制するオリフィス部を有することにより、圧油室の圧力が第1リリーフバルブユニットの開弁圧を超え、第2リリーフバルブユニットの開弁圧を超えない状態で、オリフィス部によって圧油室の圧力とダンピング特性が所定の範囲で維持され、オリフィス部の効果を越えてオイル流量が増加し圧油室の圧力がさらに高まった際には、第2リリーフバルブユニットが開弁し高回転の時のチェーン張力をさらに下げることができ、より広範なエンジン油圧に対して圧油室の圧力を適正に保ち、回転数に対する狙った反力を出すことが可能となる。
本請求項5に記載の構成によれば、プランジャ収容穴の底部には、底部還流流路が形成されていることにより、所定以上の高圧で第2リリーフバルブユニットが開弁して開放されたオイルが供給側に還流することとなるため、オイルの外部への流出を減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナの断面図。
図2図1の第1リリーフバルブユニットの拡大断面図。
図3】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナの特性説明図。
図4】エンジンのチェーンガイド機構に用いられるチェーンテンショナの説明図。
図5】従来のチェーンテンショナの概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100及びリリーフバルブユニット160について図面に基づいて説明する。
チェーンテンショナ100は、図1に示すように、プランジャ120が、内部にオイル供給孔114から供給路122、プランジャ供給孔121を介して連通する貯油室123を有し、第1リリーフバルブユニット160が、貯油室123と圧油室101の間に配置され、第1リリーフバルブユニット160のリリーフスリーブ161の外周とプランジャ120の内面との間に、開放されたオイルが貯油室123に還流するオイル還流流路166が形成されている。
【0017】
プランジャ120を突出方向に付勢する付勢手段であるコイルばね140は、一方の端部をテンショナボディ110のプランジャ収容穴111の底部112で受けて押圧するように形成されており、底部112側に圧油室101が形成されている。
テンショナボディ110のプランジャ収容穴111の底部112には、第2リリーフバルブユニット170が配置され、第2リリーフバルブユニット170の開弁時に開放されたオイルを供給側に還流する底部還流流路115が形成されている。
【0018】
第1リリーフバルブユニット160は、図2に示すように、チェックバルブユニット150を摺動可能に内挿するリリーフスリーブ161と、チェックバルブユニット150の摺動により開閉するリリーフバルブシート部162と、チェックバルブユニット150をリリーフバルブシート部162側に押圧するユニット押圧機構であるユニット押圧バネ163と、ユニット押圧バネ163の一方の端部を支持固定するユニット押圧バネ押え164とを有している。
リリーフスリーブ161は、リリーフバルブシート部162の後方に、所定以上の高圧で開放されたオイルを外周面側に流出させる開放部である開放孔165を有しており、開放孔165より貯油室123側にはオリフィス部167を介してオイル還流流路166が形成されている。
【0019】
チェックバルブユニット150は、チェックボール151と、チェックボール151の着座により開閉するチェックバルブシート部153と、チェックボール151をチェックバルブシート部153内に内挿するためのリテーナー152と、チェックボール151をチェックバルブシート部153側に軽く押圧するボール押えバネ154とを有している。
チェックバルブシート部153は、外形が円筒形に形成され、リリーフバルブユニット160のリリーフバルブシート部162に着座するように構成されている。
第2リリーフバルブユニット170はいかなる形式でもよく、本実施形態では、ボール式のものを使用している。
第2リリーフバルブユニット170の開弁圧は、第1リリーフバルブユニット160の開弁圧よりも大きく設定されている。
【0020】
以上のように構成された、本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の動作について説明する。
オイルは、オイル供給孔114から供給路122、プランジャ供給孔121を通って貯油室123に供給される。
プランジャ120が突出側に移動する際には、貯油室123内のオイルがチェックボール151をチェックバルブシート部153から押し下げて、圧油室101内に流入する。
プランジャ120が没入側に押圧されると、圧油室101の圧力が上昇し、チェックボール151がチェックバルブシート部153に押し付けられて、チェックバルブユニット150からのオイルの流出は阻止され、その圧力によって、チェックバルブユニット150自体をユニット押圧バネ163の押圧力に抗して押し上げるように働く。
【0021】
圧油室101の圧力が第1リリーフバルブユニット160の開弁圧以上の高圧になると、図2bに示すように、ユニット押圧バネ163が圧縮されてチェックバルブユニット150全体が後退し、第1リリーフバルブユニット160のリリーフバルブシート部162から離れて圧油室101の圧力が開放される。
なお、本実施形態では、図示のように、リリーフバルブシート部162が凹状に形成され、チェックバルブユニット150が所定量嵌入して閉鎖状態としているため、チェックバルブユニット150の嵌入が解除されるまで後退した後に圧油室101の圧力が開放される構造とし、閉鎖時の圧力漏れを抑制している。
【0022】
チェックバルブユニット150がリリーフバルブシート部162から離れ、圧油室101の圧力が開放されることによって、オイルは圧油室101から開放孔165、オリフィス部167を通ってリリーフスリーブ161の外周面側のオイル還流流路166に流出し、外部に流出することなく貯油室123に還流する。
圧油室101の圧力が所定値以下まで低下すると、再びユニット押圧バネ163によってチェックバルブユニット150が移動してリリーフバルブシート部162に着座し、内部の圧力を保つ閉鎖状態を維持する。
この時、第1リリーフバルブユニット160による圧力の開放をオイルの供給側である貯油室123に向かって行う構造となるため、従来のようなリリーフバルブにより圧力を外部に開放するものに比べて、圧油室101との貯油室123との差圧が小さく、リリーフバルブユニット160の閉鎖状態への復帰速度を向上する。
また、第1リリーフバルブユニット160が開弁して圧力が開放されても、流出するオイルの流量がオリフィス部167によって制限されるため、急激な圧力の低下や、さらなるエンジン油圧の上昇による圧力の上昇が抑制されるとともに、所定のダンピング特性が維持される。
【0023】
なお、圧油室101の圧力が急激に高圧まで上昇した場合には、チェックボール151とチェックバルブシート部153との接触圧が急激に上昇する。
チェックボール151がチェックバルブシート部153と接触していない状態から圧力が急激に所定以上の高圧まで上昇した場合には、チェックボール151がチェックバルブシート部153に衝突することとなる。
この時、チェックバルブシート部153が後退することで、チェックボール151とチェックバルブシート部153の急激な接触圧の上昇や衝突による衝撃を和らげることができ、チェックボールやチェックバルブシート部が損傷してチェックバルブとしての機能が低下することを防止できる。
また、図2に示すように、第1リリーフバルブユニット160が、チェックバルブユニット150と一体となり、予め1つの部品として構成することができるため、テンショナボディ110やプランジャ120等の加工箇所や、チェーンテンショナ100を組み立てる際の組立工数を大きく減少させることができる。
【0024】
圧油室101の圧力が第1リリーフバルブユニット160の開弁圧以上の高圧が持続し、さらにエンジン油圧が上昇して、第2リリーフバルブユニット170の開弁圧以上に上昇すると、第2リリーフバルブユニット170が開弁し、プランジャ収容穴111の底部112に設けられた底部還流流路115から開放されたオイルが供給側に還流する。
圧油室101の圧力が第2リリーフバルブユニット170の開弁圧以下まで低下すると、第2リリーフバルブユニット170が閉弁し、内部の圧力を保つ閉鎖状態を維持する。
この時、第2リリーフバルブユニット170による圧力の開放をオイルの供給側に向かって行う構造となるため、従来のようなリリーフバルブにより圧力を外部に開放するものに比べて、圧油室101とのオイルの供給側との差圧が小さく、リリーフバルブユニット170の閉鎖状態への復帰速度を向上する。
【0025】
エンジン回転数と圧油室101内の油圧及びダンピング特性の変化の関係を図3に示す。
エンジン回転数が上昇すると、供給されるオイルの圧力も上昇するため、圧油室101内の油圧も上昇する。
エンジン回転数が図3のaまで上昇すると、圧油室101内の油圧が第1リリーフバルブユニット160の開弁圧に達し、第1リリーフバルブユニット160が開弁する。
流出するオイルはオリフィス部167、オイル還流流路166を介してオイルの供給側である貯油室123に還流することとなるが、貯油室123側にも供給側からの油圧がかかっているため、圧油室101内の油圧は低下することなく維持される。
また、オリフィス部167の流路抵抗によるダンピング特性が働くため、ダンピング特性も所定の値までしか低下しない。
【0026】
エンジン回転数が図3のaからbまでの間は、第1リリーフバルブユニット160が開弁状態、第2リリーフバルブユニット170が閉弁状態であり、圧油室101内の油圧とダンピング特性は、オリフィス部167によりほぼ所定の値に保たれる。
エンジン回転数が図3のbに近づくと、エンジンから供給される油圧がさらに上昇してオリフィス部167による安定効果が得られなくなり圧油室101内の油圧が上昇する。
エンジン回転数が図3のbまで上昇すると、圧油室101内の油圧が第2リリーフバルブユニット170の開弁圧に達し、第2リリーフバルブユニット170が開弁する。
流出するオイルは底部還流流路115を介してオイルの供給側に還流することとなるが、供給側からの油圧がかかっているため、圧油室101内の油圧は低下することなく維持される。
また、ダンピング特性は第2リリーフバルブユニット170の流路抵抗によるもののみしか生じないため、大きく低下する。
【0027】
リリーフバルブが存在しない場合には、図3の小点線で示すように、圧油室の油圧はエンジン回転数が上昇に応じて上昇を続け、ダンピング特性は初期の高い値で一定である。
この場合、回転数に応じた適正な圧力やダンピング特性を得ることは不可能である。
また、第2リリーフバルブユニット170と同じ開弁圧のもの1つのみの場合には、図3の大点線で示すように、エンジン回転数が図3のbまで、圧油室の油圧はエンジン回転数が上昇に応じて上昇を続け、ダンピング特性は初期の高い値で一定であり、エンジン回転数が図3のbまで上昇すると、圧油室内の油圧の上昇はなくなり、ダンピング特性は、大きく低下する。
リリーフバルブが1つのみの場合では、開弁圧を調整し、図3のbに相当する回転数を変化させることは可能であり、回転数に応じた圧油室の油圧の上昇限度を設定することは可能であるが、広範なエンジン油圧に対して適正な圧力やダンピング特性を得ることはできない。
これに対し、本発明のチェーンテンショナによれば、第1リリーフバルブユニット160及び第2リリーフバルブユニット170の開弁圧を設定することで、回転数に応じた圧油室の油圧の変化点を調整することが可能であり、オリフィス部167の設定により、第1リリーフバルブユニット160が開弁した際の適正なダンピング特性を調整することが可能となるため、広範なエンジン油圧に対して圧油室の圧力を適正に保ち、回転数に対する狙った反力やダンピング特性を出すことが可能である。
【0028】
以上説明した実施形態は、本発明に係るチェーンテンショナの具体例であるが、本発明に係るチェーンテンショナがこれに限定されるものではなく、各構成部材の形状、位置、寸法、配置関係等、様々な変形が可能である。
また、本発明のチェーンテンショナは、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンを走行案内シューによって摺動案内を行うチェーンガイド機構に適用するものに限らず、プランジャの先端で直接チェーンの摺動案内を行ってもよい。
さらに、チェーンによる伝動機構に限らず、ベルト、ロープ等の類似の伝動機構に適用されてもよく、種々の産業分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
100、500 ・・・ チェーンテンショナ
101、501 ・・・ 圧油室
110、510 ・・・ テンショナボディ
111、511 ・・・ プランジャ収容穴
112、512 ・・・ 底部
113、513 ・・・ 円筒面部
114、514 ・・・ オイル供給孔
115 ・・・ 底部還流流路
120、520 ・・・ プランジャ
121 ・・・ プランジャ供給孔
122 ・・・ 供給路
123 ・・・ 貯油室
140、540 ・・・ コイルばね(付勢手段)
150、550 ・・・ チェックバルブユニット
151 ・・・ チェックボール
152 ・・・ リテーナー
153 ・・・ チェックバルブシート部
154 ・・・ ボール押えバネ
160 ・・・ 第1リリーフバルブユニット
161 ・・・ リリーフスリーブ
162 ・・・ リリーフバルブシート部
163 ・・・ ユニット押圧バネ(ユニット押圧機構)
164 ・・・ ユニット押圧バネ押え
165 ・・・ 開放孔
166 ・・・ オイル還流流路
167 ・・・ オリフィス部
170 ・・・ 第2リリーフバルブユニット
S1 ・・・ 駆動スプロケット
S2 ・・・ 従動スプロケット
S3 ・・・ 従動スプロケット
CH ・・・ タイミングチェーン
G1 ・・・ 揺動チェーンガイド
G2 ・・・ 固定チェーンガイド
B0、B1、B2 ・・・ 取付軸
図1
図2
図3
図4
図5