特許第6408979号(P6408979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧 ▶ 上海錦湖日麗塑料有限公司の特許一覧

特許6408979熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び複写機やプリンター用外装部品の製造方法
<>
  • 特許6408979-熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び複写機やプリンター用外装部品の製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408979
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び複写機やプリンター用外装部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20181004BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20181004BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C08J3/20 ZCFD
   C08L69/00
   C08L67/00
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-240967(P2015-240967)
(22)【出願日】2015年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-186067(P2016-186067A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2017年2月10日
(31)【優先権主張番号】201510142210.9
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513014536
【氏名又は名称】上海錦湖日麗塑料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間簑 雅
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 啓太
(72)【発明者】
【氏名】木谷 龍二
(72)【発明者】
【氏名】辛 敏▲チ▼
(72)【発明者】
【氏名】▲ルオ▼ 明▲フア▼
(72)【発明者】
【氏名】李 文▲チアン▼
(72)【発明者】
【氏名】高 磊
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲チアン▼
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102604352(CN,A)
【文献】 特開2015−117376(JP,A)
【文献】 特開2013−147651(JP,A)
【文献】 特表2009−500518(JP,A)
【文献】 特開2007−302845(JP,A)
【文献】 特開2009−013410(JP,A)
【文献】 特開2004−281277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28、99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステル樹脂50〜80質量部及び非晶性ポリエステル樹脂20〜50質量部を、押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(A)を得る工程(1)と、
結晶性ポリエステル樹脂90〜99質量部及びスチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマー1〜10質量部を、押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(B)を得る工程(2)と、
前記ポリエステル樹脂混合物(A)1〜10質量部及び前記ポリエステル樹脂混合物(B)1〜10質量部、ポリカーボネート樹脂10〜90質量部、難燃剤1〜40質量部、ドリップ防止剤0.1〜1質量部、酸化防止剤0.1〜1質量部、滑剤0.1〜2質量部及び増靭剤1〜20質量部を混合する工程(3)と、
を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂混合物(A)のDSC融解曲線における吸熱熱量(ΔHA)が、結晶性ポリエステル樹脂のDSC融解曲線における吸熱熱量(ΔHB)に対して、70%以下である(ΔHA/ΔHB≦0.7)ことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記結晶性ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートのうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記非晶性ポリエステル樹脂が、PETG樹脂、PCTG樹脂及びPCTA樹脂のうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂について、重量平均分子量(Mw)が、20000〜70000の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記スチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマーが、メタクリル酸グリシジルの含有量が1〜5質量%の範囲内であり、アクリロニトリルの含有量が20〜33質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて作製することを特徴とする複写機やプリンター用外装部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び複写機やプリンター用外装部品の製造方法に関し、特に、難燃性、耐衝撃性、耐熱性を損なわずに、高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物を製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂及びその樹脂組成物は、優れた成形加工性、機械的物性、耐熱性、耐候性、外観性、衛生性及び経済性などの観点から、容器、包装用フィルム、家電機器、OA機器、AV機器、電気・電子部品及び自動車部品などの成形材料として幅広い分野で使用されている。これらの用途に用いられる樹脂成型品は難燃性であることが要求される。
【0003】
近年、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」や「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」などの法律が相次いで施行されることにより、このような熱可塑性樹脂及びその樹脂組成物の成形加工品のマテリアルリサイクル技術に対する関心が高まってきている。
特に、使用量が急速に増加しているポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう。)樹脂を材料とするPETボトルのマテリアルリサイクル技術の確立は急務とされている。
また、CD、CD−R、DVD及びMDなどのようなポリカーボネート(以下、「PC」ともいう。)樹脂を材料とする光学記録媒体製品(光ディスク)の普及に伴い、これらの成形加工時に排出される端材の再利用方法や廃棄物となった光ディスクから反射層、記録層などを剥離した後に得られるポリカーボネート樹脂を再利用する方法の検討がなされている。
【0004】
市場から回収された使用済みのPETボトルなどのPET樹脂に代表される結晶性ポリエステル樹脂や光ディスクなどのPC樹脂の成形加工品を粉砕した樹脂を再度成形する場合、特に射出成形法により再度成形する場合においては、様々な成形体に適用できるようにするために、樹脂の特性として成形時に流動性が高いことが求められる。
特に最近大型製品において、薄肉難燃化の要求に対応する検討がなされてきており、加えて、製品の薄肉化に伴い熱変形に耐えうる耐熱性も必要になってきている。
さらに樹脂組成物が家電機器やOA機器(複写機やプリンター)などの構成部材にポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂を用いる場合には、高い衝撃強度が必要とされる。
【0005】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐衝撃性、難燃性等に優れている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂は、流動性が低く成形性が劣るため、様々な成形体に適用出来ないという問題があった。
そこで、ポリカーボネートの流動性を向上する試みが様々なされており、例えば、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂等とをポリマーアロイ化する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、従来のABS樹脂等とのポリマーアロイだけでは、流動性が向上する一方で耐熱温度の大幅な低下、耐衝撃強度と高難燃化への改良ができないなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−293102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、熱可塑性樹脂及びその樹脂組成物において、難燃性、流動性、靱性、耐熱性が互いにトレードオフの関係にあるという前記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、難燃性、耐衝撃性、耐熱性を損なわずに、高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び複写機やプリンター用外装部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく、結晶性ポリエステル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂を所定の分量で用いて溶融混練する2つの工程と、当該2つの工程を経て得られたポリエステル樹脂混合物にその他の添加物を加えて混合する工程を有することで、難燃性、耐衝撃性、耐熱性を損なわずに、高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供できることを見出し、本発明に至った。
本発明に係る前記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.結晶性ポリエステル樹脂50〜80質量部及び非晶性ポリエステル樹脂20〜50質量部を、押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(A)を得る工程(1)と、
結晶性ポリエステル樹脂90〜99質量部及びスチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマー1〜10質量部を押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(B)を得る工程(2)と、
前記ポリエステル樹脂混合物(A)1〜10質量部及び前記ポリエステル樹脂混合物(B)1〜10質量部、ポリカーボネート樹脂10〜90質量部、難燃剤1〜40質量部、ドリップ防止剤0.1〜1質量部、酸化防止剤0.1〜1質量部、滑剤0.1〜2質量部及び増靭剤1〜20質量部を混合する工程(3)と、
を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0010】
2.前記ポリエステル樹脂混合物(A)のDSC融解曲線における吸熱熱量(ΔHA)が、結晶性ポリエステル樹脂のDSC融解曲線における吸熱熱量(ΔHB)に対して、70%以下である(ΔHA/ΔHB≦0.7)ことを特徴とする第1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0011】
3.前記結晶性ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートのうち少なくとも1種であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0012】
4.前記非晶性ポリエステル樹脂が、PETG樹脂、PCTG樹脂及びPCTA樹脂のうち少なくとも1種であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0013】
5.前記ポリカーボネート樹脂について、重量平均分子量(Mw)が、20000〜70000の範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0014】
6.前記スチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマーが、メタクリル酸グリシジルの含有量が1〜5質量%の範囲内であり、アクリロニトリルの含有量が20〜33質量%の範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0015】
7.第1項から第6項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて作製することを特徴とする複写機やプリンター用外装部品の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、難燃性、耐衝撃性、耐熱性を損なわずに、高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び複写機やプリンター用外装部品の製造方法を提供することができる。
本発明によれば、熱可塑性樹脂組成物における、難燃性、流動性、靱性、耐熱性が互いにトレードオフの関係にあることを解決でき、本発明の製造方法による熱可塑性樹脂組成物は、難燃性、耐衝撃性、耐熱性を損なわずに、高い流動性を有する。そのため、本発明の製造方法は、高い衝撃強度が必要とされる複写機やプリンター用外装部品の製造に好適であり、難燃性、耐衝撃性、耐熱性に優れた複写機やプリンター用外装部品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法の手順を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、結晶性ポリエステル樹脂50〜80質量部及び非晶性ポリエステル樹脂20〜50質量部を、押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(A)を得る工程(1)と、結晶性ポリエステル樹脂90〜99質量部及びスチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマー1〜10質量部を押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(B)を得る工程(2)と、前記ポリエステル樹脂混合物(A)1〜10質量部及び前記ポリエステル樹脂混合物(B)1〜10質量部、ポリカーボネート樹脂10〜90質量部、難燃剤1〜40質量部、ドリップ防止剤0.1〜1質量部、酸化防止剤0.1〜1質量部、滑剤0.1〜2質量部及び増靭剤1〜20質量部を混合する工程(3)と、を有することを特徴とする。この特徴は、各請求項に係る発明に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0019】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
本発明における複写機やプリンターとは、原稿画像を読み取るスキャナー、スキャナーで読み取った原稿画像を印刷する複写機、外部から入力された画像データを印刷するプリンターやファクシミリ装置、又はこれらの機能を兼ね備えたMFP(Multi Function Peripheral)と称される復合機を指す。
【0020】
以下、図1を用いて本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法の実施形態につき説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、結晶性ポリエステル樹脂50〜80質量部及び非晶性ポリエステル樹脂20〜50質量部を、押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(A)を得る工程(1)と、結晶性ポリエステル樹脂90〜99質量部及びスチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマー1〜10質量部を押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(B)を得る工程(2)と、前記ポリエステル樹脂混合物(A)1〜10質量部及び(B)1〜10質量部、ポリカーボネート樹脂10〜90質量部、難燃剤1〜40質量部、ドリップ防止剤0.1〜1質量部、酸化防止剤0.1〜1質量部、滑剤0.1〜2質量部及び増靭剤1〜20質量部を混合する工程(3)と、を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法である。以下、各工程について説明する。
【0021】
「工程(1)」
工程(1)では、結晶性ポリエステル樹脂50〜80質量部及び非晶性ポリエステル樹脂20〜50質量部を、押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(A)を得る。
【0022】
溶融混練は、押出機を用いて行う。高いせん断性を付与でき、エステル交換が進行しやすいことから、溶融混練は多軸混練押出機を用いることが好ましく、二軸混練押出機を用いることがより好ましい。
【0023】
結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂を溶融混練することで、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂の分子鎖が切れ、互いの分子鎖を交換するエステル交換反応が起こり、結晶性ポリエステル樹脂の結晶化度を小さくすることが出来る。結晶性ポリエステル樹脂の結晶化度が小さくなることで、耐衝撃性と流動性は向上する。
なお、耐衝撃性向上のメカニズムは、以下のように考えられる。即ち、結晶化度が大きく、結晶体中の分子鎖が緊密に配列すると、樹脂は脆くなり耐衝撃性は低下する。一方、結晶化度が小さく、分子鎖が変形しやすい方が耐衝撃性は高いためである。流動性向上のメカニズムは、以下のように考えられる。即ち、結晶化度が小さい方が降温過程における粘度上昇が穏やかになり、樹脂を金型に流して成形する際(降温過程)、粘度上昇が穏やかな方が樹脂は金型の隅々まで行き渡ることができ、流動性に優れる。
【0024】
また、工程(1)で得られたポリエステル樹脂混合物(A)のDSC融解曲線における吸熱熱量(ΔHA)が、結晶性ポリエステル樹脂のDSC融解曲線における吸熱熱量(ΔHB)に対して、70%以下である(ΔHA/ΔHB≦0.7)ことが好ましい。ΔHA/ΔHBはエステル交換の度合いを示す一指標であり、ΔHA/ΔHB≦0.7であることで、流動性がより向上する。ΔHA/ΔHBはより好ましくは0.5以下である。ΔHA/ΔHBの下限は特に限定されるものではないが、通常0以上である。
【0025】
前記のように、ポリエステル樹脂混合物(A)は、結晶性ポリエステル樹脂50〜80質量部と非晶性ポリエステル樹脂20〜50質量部とを溶融混練することによって得られる。非晶性ポリエステル樹脂が50質量部を超えると、樹脂組成物の難燃性が低下する。また、非晶性ポリエステル樹脂が20質量部未満であると、結晶性ポリエステル樹脂の結晶化を抑制することができなくなる。
【0026】
(結晶性/非晶性ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂混合物(A)を得るために用いられる結晶性/非晶性ポリエステル樹脂は、特に制限されないが、好ましくは芳香族ジカルボン酸又はそのエステル誘導体成分と、脂肪族ジオールや脂環族ジオールなどのジオール成分とがエステル反応により連結した構造を有する芳香族ポリエステルである。ポリエステル樹脂は、例えば、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル誘導体成分と、脂肪族ジオール又は脂環族ジオールなどとを公知の方法で重縮合して得られるものを用いることができる。
【0027】
結晶性ポリエステル樹脂とは、上記ポリエステル樹脂のうち、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、実施例の結晶性ポリエステル樹脂の吸熱ピーク温度の測定方法に記載の示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
【0028】
結晶性ポリエステル樹脂は、上記定義したとおりであれば特に限定されず、例えば、結晶性ポリエステル樹脂による主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂について、この樹脂が上記のように明確な吸熱ピークを示すものであれば、本発明でいう結晶性ポリエステル樹脂に該当する。
結晶性ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられる。結晶性ポリエステル樹脂としては、広く使用されており、本発明の方法によって流動性が高く、衝撃耐性の高い樹脂にリサイクルしやすいことから、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートのうち少なくとも1種であることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂としては、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0029】
非晶性ポリエステル樹脂は、上記結晶性ポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂である。つまり、通常は融点を有さず、比較的高いガラス転移点温度(Tg)を有するものである。より具体的には、ガラス転移温度(Tg)は、40〜90℃であることが好ましく、特に45〜85℃であることが好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、実施例の非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)の測定方法に記載の方法で測定する。
非晶性ポリエステル樹脂としては、少なくともテレフタル酸、エチレングリコール及び1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を単量体成分とする共重合体が好ましく、具体的には、PETG樹脂(コポリエステル)、PCTG樹脂(ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、PETのエチレングリコールの一部をCHDMに置換)、PCTA樹脂(テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール及びCHDMからなる共重合体、PCTG樹脂の酸成分の一部をイソフタル酸で置き換えた樹脂)、などが挙げられる。
【0030】
なお、本発明において、ポリエチレンテレフタレート(PET)のジオール成分(エチレングリコール)を1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に置き換えた時に、CHDMへの置換割合が、0.0001mol%以上50mol%未満である樹脂をPETG樹脂、50mol%以上100mol%以下である樹脂をPCTG樹脂(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)と呼ぶ。
【0031】
PETG樹脂としては、米国イーストマン・ケミカル社やスカイグリーン社などから製造販売されているものが好ましく用いられる。PETG樹脂としては、米国イーストマン・ケミカル社の商品名イースターGN−071、イースター6763などが挙げられる。PCTG樹脂としては、米国イーストマン・ケミカル社の商品名イースターDN−001などが挙げられる。
【0032】
PCTA樹脂は、1,4−シクロヘキサンジメタノールと、テレフタル酸及びイソフタル酸との重縮合により得られる熱可塑性飽和コポリエステルである。PCTA樹脂としては、米国イーストマン・ケミカル社の商品名コダール・サーメックス6761(KODAR THERM X6761)、イースターAN−004などが挙げられる。
非晶性ポリエステル樹脂としては、1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0033】
本実施形態においては、結晶性ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートの少なくとも1種であり、非晶性ポリエステル樹脂がPETG樹脂、PCTG樹脂及びPCTA樹脂のうち少なくとも1種であることが好ましい。これらの樹脂は、互いに構造が似ており、互いのSP値が近いため、相溶性が高く、エステル交換を起こしやすいため好ましい。結晶性ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレートを、非晶性ポリエステル樹脂としてPETG樹脂/PCTG樹脂/PCTA樹脂を、それぞれ用いることによって、非晶性ポリエステル樹脂中のCHDM基が結晶性ポリエステル樹脂に導入され、エステル交換が起こるものと考えられる。
【0034】
「工程(2)」
工程(2)では、結晶性ポリエステル樹脂90〜99質量部及びスチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマー1〜10質量部を、押出機を用いて溶融混練してポリエステル樹脂混合物(B)を得る。
【0035】
溶融混練は、押出機を用いて行う。高いせん断性を付与でき、エステル交換が進行しやすいことから、溶融混練は多軸混練押出機を用いることが好ましく、二軸混練押出機を用いることがより好ましい。
【0036】
結晶性ポリエステル樹脂とスチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマー(SAN−GMA)を溶融混練することで、結晶性ポリエステル樹脂の末端基とSAN−GMAのGMAが反応する。これにより結晶性ポリエステル樹脂の鎖が伸長し増粘効果を発揮する。さらに結晶性ポリエステル樹脂の末端がエンドブロッキングされ結晶性ポリエステル樹脂の加水分解反応を抑制する作用も発揮する。結晶性ポリエステル樹脂が増粘し加水分解反応を抑制されることで耐衝撃性が向上する。
【0037】
結晶性ポリエステル樹脂としては、工程(1)に用いた結晶性ポリエステル樹脂と同じものが用いられる。
【0038】
スチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマーにおいて、メタクリル酸グリシジルの含有量が1〜5質量%の範囲内であり、アクリロニトリルの含有量が20〜33質量%の範囲内であることが好ましく、メタクリル酸グリシジルの含有量が1〜5質量%の範囲内であり、アクリロニトリルの含有量が27〜30質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
「工程(3)」
工程(3)では、前記ポリエステル樹脂混合物(A)1〜10質量部及び(B)1〜10質量部、ポリカーボネート樹脂10〜90質量部、難燃剤1〜40質量部、ドリップ防止剤0.1〜1質量部、酸化防止剤0.1〜1質量部、滑剤0.1〜2質量部及び増靭剤1〜20質量部を混合する。
【0040】
一般的に耐熱性と流動性は二律背反の関係にある。しかしながら、本発明ではポリエステル樹脂混合物(A)とポリエステル樹脂混合物(B)を併用したことにより、耐熱性を維持しつつ流動性を向上させることが出来た。ポリエステル樹脂混合物(B)は、結晶性ポリエステル樹脂が増粘されているので耐熱性が高い。
しかし、その増粘効果により流動性は低下する(同じ温度で比べると増粘した結晶性ポリエステル樹脂の方が溶融しにくくなる。)と予想したが、流動性は向上した。
詳細なメカニズムは不明だが、その増粘効果により結晶性ポリエステル樹脂とPC(ポリカーボネート)の粘度差が小さくなり、PC(海相)に対する結晶性ポリエステル樹脂(島相)の分散性が向上した。流動性を阻害する増粘した結晶性ポリエステル樹脂(島相)が微分散化することで、結晶性ポリエステル樹脂(島相)の表面積が増し、溶融しやすくなり、結晶性ポリエステル樹脂の増粘という流動性阻害効果は無くなった。逆に、結晶性ポリエステル樹脂が溶融しやすくなり流動性が向上した。したがって、増粘した結晶性ポリエステル樹脂により耐熱性と流動性を両立できたと考えられる。
【0041】
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート樹脂とは、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲン又は炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる、芳香族ホモ又はコポリカーボネート樹脂でありうる。このようなポリカーボネート樹脂の製造方法としては特に制限されず、公知の方法を採用することができ、例えば、芳香族二価フェノール系化合物にホスゲンなどを直接反応させる方法(界面重合法)や、芳香族二価フェノール系化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステルとを溶融状態でエステル交換反応させる方法(溶液法)などが挙げられる。
【0042】
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、20000〜70000であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量を20000以上とすることで、耐衝撃性が一層向上し、また、70000以下とすることで、高い流動性となるため好ましい。より好ましくは、ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、30000〜55000である。
重量平均分子量は、下記実施例に記載の測定方法により測定されるものである。本実施形態の製造方法によれば、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性が抑制されることから、通常の結晶性ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂との併用系では耐衝撃性が低下していた比較的低分子量(例えば、重量平均分子量が20000〜45000程度)のポリカーボネート樹脂を用いても耐衝撃性が確保される。
また、本実施形態の製造方法によれば、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性が抑制されることから、通常の結晶性ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂との併用系では流動性が低下していた比較的高分子量(例えば、重量平均分子量が40000〜70000程度)のポリカーボネート樹脂を用いても高い流動性が確保される。
【0043】
ポリカーボネート樹脂として、廃棄されたポリカーボネート樹脂製品を粉砕して得られる樹脂片を用いてもよい。特に、上記分子量の範囲にあるポリカーボネートとして、廃棄された光ディスク等の粉砕品も好適に用いることができる。CD、CD−R、DVD、MD等の光ディスクや光学レンズを成形加工した時に出る端材や廃棄物となった光ディスクから反射層、記録層等を剥離したものなどを10mm以下の適当な大きさに粉砕した樹脂片であれば特に限定なく、本発明において使用できる。廃棄されたポリカーボネート樹脂製品のポリカーボネート樹脂片は、粉砕洗浄後、一旦、180℃以上260℃以下の温度で混練し、冷却・粉砕して得ることもできる。
【0044】
バージン(未使用)のポリカーボネート樹脂はペレット状の形態で市販されているが、これらをガラス転移温度以上の温度でプレスしたり、又は押出機等で一旦溶融させ、溶融ストランドを冷却水中でローラーに通して押し潰し、通常のペレタイザーでカッティングしたりすることで、樹脂片として用いることができる。
【0045】
(難燃剤)
難燃剤は、有機系難燃剤であっても、無機系難燃剤であってもよい。有機系難燃剤の例には、ブロモ化合物、リン化合物が含まれる。無機系難燃剤の例には、アンチモン化合物や金属水酸化物が含まれる。難燃剤の少なくとも一部はリン系化合物であることが好ましい。リン系化合物は、樹脂組成物に高い難燃性を付与しやすく、かつ環境毒性もないからである。リン系化合物は、典型的にはリン酸エステル化合物であり、リン酸エステルの具体例には、トリフェニルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、トリブチルホスフェート、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステルなどが挙げられ、その内、芳香族縮合リン酸エステルが特に好ましい。
難燃剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0046】
(ドリップ防止剤)
ドリップ防止剤は、燃焼時に樹脂材料の滴下(ドリップ)を防止し、難燃性を向上させる目的で添加されるものであり、ドリップ防止剤としては、フッ素系ドリップ防止剤やシリコンゴム類、層状ケイ酸塩等が挙げられる。
ドリップ防止剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0047】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、亜リン酸エステル類酸化防止剤又は両方の混合系が挙げられる。
【0048】
(滑剤)
滑剤としては、脂肪酸塩、脂肪酸アミド、シランポリマー、固体パラフィン、液体パラフィン、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アミド、シリコーン粉末、メチレンビスステアリン酸アミド及びN,N′−エチレンビスステアリン酸アミドからなる群より選ばれる1種又は2種以上のものが挙げられる。
【0049】
(増靭剤)
増靭剤は、樹脂組成物の柔軟性や加工性、耐衝撃性などを向上させる。増靭剤は、例えば、ゴム弾性を有する樹脂である。増靭剤は、ブタジエンを含むモノマーの重合体で構成されるソフトセグメントと、スチレンのような芳香族基を有するモノマーの重合体で構成されるハードセグメントとを含む熱可塑性エラストマーであることが好ましく、上記熱可塑性エラストマーの例には、メチルメタアクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、スチレンブタジエンスチレン共重合体(SBS)、及び、ブチルアクリレート−メチルメタアクリレート共重合体、が含まれる。中でも、増靭剤がMBS及びABSからなる群から選ばれる一以上であることは、熱可塑性樹脂組成物の相溶化性及び難燃性や、熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性エラストマーの分散性の観点から好ましい。
増靭剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において、「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0051】
[測定方法]
(重量平均分子量(MW)の測定)
4〜7μgの範囲で試料を秤量して、THFに添加した後、超音波を30分かけ、溶けた部分をGPC装置の測定に用いた。重量平均分子量(MW)(ポリスチレン換算)は、GPC装置として、東ソー(株)製HLC−8120GPC、SC−8020装置を用い、カラムはTSKgei,SuperHM−H(6.0mmID×15cm×2)を用い、溶離液として和光純薬社製クロマトグラフ用THF(テトラヒドロフラン)を用いた。
実験条件としては、流速0.6ml/min、サンプル注入量10μl、測定温度40℃、IR検出器を用いて実験を行った。また、検量線は東ソー社製「polystylene標準試料TSK standard」:A−500、F−1、F−10、F−80、F−380、A−2500、F−4、F−40、F−128、F−700の10サンプルから作製した。また試料解析におけるデータ収集間隔は300msとした。
【0052】
(結晶性ポリエステル樹脂の吸熱ピーク温度及び非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg))
結晶性ポリエステル樹脂の吸熱ピーク温度及び非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ASTM D3418に準拠して、示差走査熱量計(島津製作所製:DSC−60A)を用いて得た。この装置(DSC−60A)の検出部の温度補正はインジウムと亜鉛との融点を用い、熱量の補正にはインジウムの融解熱を用いた。サンプルは、アルミニウム製パンを用い、対照用に空パンをセットし、昇温速度10℃/分で昇温し、200℃で5分間ホールドし、200℃から0℃まで液体窒素を用いて−10℃/分で降温し、0℃で5分間ホールドし、再度0℃から200℃まで10℃/分で昇温を行った。2度目の昇温時の吸熱曲線から解析を行い、非晶性ポリエステル樹脂についてはオンセット温度をTgとした。
【0053】
(ポリエステル樹脂混合物(A)のDSC融解曲線における吸熱熱量(ΔHA))
ポリエステル樹脂のDSC融解曲線における吸熱熱量(ΔHA)は、ASTM D3418に準拠して、示差走査熱量計(島津製作所製:DSC−60A)を用いて得た。この装置(DSC−60A)の検出部の温度補正はインジウムと亜鉛との融点を用い、熱量の補正にはインジウムの融解熱を用いた。サンプルは、アルミニウム製パンを用い、対照用に空パンをセットし、30℃から270℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、270℃で5分間ホールドし、270℃から30℃まで液体窒素を用いて−10℃/分で降温を行った。降温時の吸熱曲線から解析を行った。吸熱熱量は熱ピークの面積とした。
なお、結晶性ポリエステル樹脂のDSC融解曲線における吸熱熱量(ΔHB)についても同様に求めた。
【0054】
[使用材料]
・ポリエチレンテレフタレート:固有粘度[η]=0.780dl/g、商品名ダイヤナイトMA521H−D25、三菱レイヨン社製
・ポリブチレンテレフタレート:固有粘度[η]=1.41dl/g、商品名トレコン1100M、東レ社製
・PCTG樹脂:ガラス転移温度87℃、商品名イースターDN−011、イーストマン・ケミカル社製
・PCTA樹脂:商品名イースターAN−004、イーストマン・ケミカル社製
・PETG樹脂:ガラス転移温度80℃、商品名イースターGN−071、イーストマン・ケミカル社製
・ポリカーボネート樹脂:重量平均分子量20,000(商品名novarex7020R、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
・ポリカーボネート樹脂:重量平均分子量70,000(商品名novarex7027U、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
【0055】
[実施例1]
(1)工程(1)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度[η]=0.780dl/g、商品名ダイヤナイトMA521H−D25、三菱レイヨン社製)80質量部及びPCTG樹脂((ガラス転移温度87℃、商品名イースターDN−011、イーストマン・ケミカル社製))20質量部を、V型混合機を用いてドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で80℃、4時間乾燥させた。
乾燥させた混合物を二軸混練押出機の原材料供給口から投入し、シリンダー温度270℃及び吐出量30kg/時の条件にて溶融混練した。二軸混練押出機から吐出した混練物を30℃の水に浸漬することによって急冷し、ペレタイザーによりペレット状に粉砕して、ポリエステル樹脂混合物(A)を得た。得られたポリエステル樹脂混合物(A)は、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で80℃、4時間乾燥させた。
【0056】
(2)工程(2)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度[η]=0.780dl/g、商品名ダイヤナイトMA521H−D25、三菱レイヨン社製)95質量部及びスチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマー(SAN−GMA、GMAの含有量が2%、アクリロニトリルの含有量が28%;Shanghai KUMHO−SUNNY Plastic社製)5質量部を、V型混合機を用いてドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で80℃、4時間乾燥させた。
乾燥させた混合物を二軸混練押出機の原材料供給口から投入し、シリンダー温度260℃及び吐出量30kg/時の条件にて溶融混練した。二軸混練押出機から吐出した混練物を30℃の水に浸漬することによって急冷し、ペレタイザーによりペレット状に粉砕して、ポリエステル樹脂混合物(B)を得た。得られたポリエステル樹脂混合物(B)は、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で80℃、4時間乾燥させた。
【0057】
(3)工程(3)
工程(1)で得られたポリエステル樹脂混合物(A)7.4質量部、工程(2)で得られたポリエステル樹脂混合物(B)4.9質量部、ポリカーボネート樹脂(重量平均分子量50,000、商品名タフロンA−1900、出光興産社製)61.4質量部、難燃剤(縮合リン酸系化合物;商品名BDP、Great Lakes社製)15.8質量部、ドリップ防止剤(ASコート、PTFEの含有量が50%、市販)0.4質量部、酸化防止剤(IRGAFOS168、IRGANOX1076の1:1(質量比)混合物)0.2質量部、滑剤(DOW CORNING MB−50)0.2質量部及び増靭剤(MBS;商品名EM500、LG Chemical社製及びABS;ブタジエンの含有量が54%、スチレンの含有量が34%、アクリロニトリルの含有量が12%、韓国錦湖石油化学製の1:1(質量比)混合物)9.7質量部を、V型混合器を用いてドライブレンドした。
混合物を二軸混練押出機の原材料供給口から投入し、吐出量30kg/時の条件にて260℃、混練圧力1.0MPaにて溶融混練した。二軸混練押出機から吐出した混練物を30℃の水に浸漬することによって急冷し、ペレタイザーによりペレット状に粉砕して、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0058】
[実施例2]
工程(1)において、PCTG樹脂の代わりにPCTA樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0059】
[実施例3]
工程(1)において、PCTG樹脂の代わりにPETG樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0060】
[実施例4]
工程(1)において、ポリエチレンテレフタレート樹脂70質量部及びPETG樹脂30質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0061】
[実施例5]
工程(1)において、ポリエチレンテレフタレート樹脂50質量部及びPETG樹脂50質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0062】
[実施例6]
工程(2)において、ポリエチレンテレフタレート樹脂98質量部及びスチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマー(SAN−GMA)2質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0063】
[実施例7]
工程(2)において、ポリエチレンテレフタレート樹脂92質量部及びスチレン−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジルターポリマー(SAN−GMA)8質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0064】
[実施例8]
工程(3)において、ポリカーボネート樹脂(重量平均分子量50,000、商品名タフロンA−1900、出光興産社製)の代わりにポリカーボネート樹脂の重量平均分子量を20,000(商品名novarex7020R、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0065】
[実施例9]
工程(3)において、ポリカーボネート樹脂(重量平均分子量50,000、商品名タフロンA−1900、出光興産社製)の代わりにポリカーボネート樹脂の重量平均分子量を70,000(商品名novarex7027U、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0066】
[実施例10]
工程(3)において、工程(1)で得られたポリエステル樹脂混合物(A)6.2質量部、工程(2)で得られたポリエステル樹脂混合物(B)6.1質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0067】
[実施例11]
工程(3)において、工程(1)で得られたポリエステル樹脂混合物(A)4.9質量部、工程(2)で得られたポリエステル樹脂混合物(B)7.4質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0068】
[実施例12]
工程(1)及び(2)において、ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度[η]=0.780dl/g、商品名ダイヤナイトMA521H−D25、三菱レイヨン社製)の代わりにポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度[η]=1.41dl/g、商品名トレコン1100M、東レ社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0069】
[実施例13]
工程(1)及び(2)において、ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度[η]=0.780dl/g、商品名ダイヤナイトMA521H−D25、三菱レイヨン社製)の代わりにポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度[η]=1.41dl/g、商品名トレコン1100M、東レ社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0070】
[実施例14]
工程(1)及び(2)において、ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度[η]=0.780dl/g、商品名ダイヤナイトMA521H−D25、三菱レイヨン社製)の代わりにポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度[η]=1.41dl/g、商品名トレコン1100M、東レ社製)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0071】
[比較例1,2(PET/PETG比に関する比較例)]
実施例1において、その工程(1)におけるPET/PETGの質量比をそれぞれ4/6と9/1に変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0072】
[比較例3,4(PET/SAN−GMA比に関する比較例)]
実施例1において、その工程(2)におけるPET/SAN−GMAの質量比をそれぞれ10/0と8/2に変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0073】
[比較例5,6(ポリエステル樹脂混合物(A)の添加状態に関する比較例)]
実施例1において、ポリエステル樹脂混合物(A)の替わりに、工程(1)において溶融混練を行わず、ドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で80℃、4時間乾燥させた混合品(ΔHA/ΔHBが1.0であった)を用いたこと(比較例5)、又はポリエステル樹脂混合物(A)を用いていないこと(比較例6)以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0074】
[比較例7,8(ポリエステル樹脂混合物(B)の添加状態に関する比較例)]
実施例1において、ポリエステル樹脂混合物(B)の替わりに、工程(2)において溶融混練を行わず、ドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で80℃、4時間乾燥させた混合品を用いたこと(比較例7)、又はポリエステル樹脂混合物(B)を用いていないこと(比較例8)以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0075】
[比較例9(ポリエステル樹脂混合物(A)、ポリエステル樹脂混合物(B)の添加状態に関する比較例)]
実施例1において、ポリエステル樹脂混合物(A)の替わりに、工程(1)において溶融混練を行わず、ドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で80℃、4時間乾燥させた混合品(ΔHA/ΔHBが1.0であった)を用い、ポリエステル樹脂混合物(B)の替わりに、工程(2)において溶融混練を行わず、ドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で80℃、4時間乾燥させた混合品を用いた以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0076】
各実施例及び比較例で得た熱可塑性樹脂組成物について以下の評価を行った。
【0077】
[評価方法]
(1)アイゾット衝撃強度(耐衝撃性)
樹脂組成物を80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機「J55ELII」(日本製鋼所社製)を用いて、シリンダー設定温度250℃、金型温度50℃で、80mm×10mm×4mmの短冊型試験片を成形し、「JIS−K7110−1998」に準拠してアイゾット衝撃試験を行い、下記評価基準により評価した。
◎:42kJ/m以上
○:32kJ/m以上42kJ/m未満
△:7kJ/m以上32kJ/m未満(実用上問題なし)
×:7kJ/m未満(実用上問題あり)
【0078】
(2)流動性
樹脂組成物を80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機「ROBOSHOT_S−2000i 50BP」(FANUC社製)を用い、アルキメデススパイラルフロー試験片(流路厚さ2mm、流路幅10mm)にて流動長を下記自社評価基準により評価した。条件は、射出速度60mm/s、シリンダー温度250℃、金型温度50℃、射出圧力860MPaとした。流動長が大きいほど流動性が良い。
◎:340mm以上
○:320mm以上340mm未満
△:300mm以上320mm未満(実用上問題なし)
×:300mm未満(実用上問題あり)
【0079】
(3)難燃性
樹脂組成物を80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機((株)日本製鋼所製、J55ELII)を用いて、シリンダー設定温度250℃、金型温度50℃で、100mm×10mm×1.6mmの短冊型試験片を成形した。
上記試験片を上記方法で得られたUL試験用試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法である。そして、以下の評価基準にしたがって、各試験片を評価した。
◎:5VA、5VB
○:V0
△:V1,V2,HB
×:規格外(実用上問題あり)
【0080】
(4)耐熱性
樹脂組成物を80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機「J55ELII」(日本製鋼所社製)を用いて、シリンダー設定温度250℃、金型温度50℃で、80mm×10mm×4mmの短冊型試験片を成形し、「JIS K 7191−1」に準拠して荷重たわみ温度測定(フラットワイズ、A法)を行い、下記評価基準により評価した。
◎:74℃以上
○:72℃以上74℃未満
△:70℃以上72℃未満
×:70℃未満(実用上問題あり)
【0081】
(5)外装部品の作製
得られたペレットを80℃で4時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した。乾燥後、射出成形機(株式会社日本製鋼所製J1300E−C5)を使用し、図に示す大型複写機外装部品模擬成形品をシリンダー温度250℃及び金型温度50℃にて成形し、中央部分よりサンプルを採取した。これらの成形品、サンプルを用いて各特性を測定した。結果を表3に示す。
ここでは、成形品の外観評価について、複写機の外装部品の模擬成形品を、目視にて外観を観察し、以下の基準で評価を行なった。
◎:外観不良無し
〇:僅かに、「やけ」又は「バリ」が認められるが、製品として問題なし
×:「やけ」又は「バリ」が認められ、製品として不可
【0082】
各実施例及び比較例の製造条件を表1に、評価結果を表2と表3に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
本発明の実施例1〜14の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性、難燃性及び耐熱性のいずれの項目においても△以上の評価であり、すべての項目の物性が良好であることが示された。
【0087】
これに対して、比較例1と2の評価結果から分かるように、PETG比が増えすぎると難燃性が低下し、PET比が増えすぎると流動性が低下する。
また、比較例3と4の評価結果から分かるように、SAN−GMAが無いと耐衝撃性が低下し、SAN−GMAが増えすぎると流動性と難燃性が低下する。
また、比較例5と6の評価結果から分かるように、工程(1)のように溶融混練しないと耐衝撃性と流動性が低下し、ポリエステル樹脂混合物(A)が無いと流動性が低下する。
また、比較例7と8の評価結果から分かるように、工程(2)のように溶融混練しないと耐熱性が低下し、ポリエステル樹脂混合物(B)が無いと耐熱性が低下する。
また、比較例9の評価結果から分かるように、工程(1)と工程(2)のように予め溶融混練しないと耐衝撃性と流動性が低下する。
【0088】
また、実施例と比較例から、実施例の樹脂組成物を使用して成形された複写機外装部品の模擬成形品は、外観が良く形成されていることが分かる。
【0089】
以上、本発明の好適な実施形態や実施例を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
図1