(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
亜鉛系触媒を含有し、前記亜鉛系触媒は、亜鉛アセテート、亜鉛アセテートジハイドレート、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、亜鉛シトレート、およびグルコン酸亜鉛からなる群より選択された1種以上の化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
チタニウム系化合物、ゲルマニウム系化合物、アンチモン系化合物、アルミニウム系化合物、およびスズ系化合物からなる群より選択された1種以上の重縮合反応触媒を、全体樹脂中、1〜100ppmの含有量でさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
亜鉛系化合物を含むエステル化反応触媒の存在下、ジオール成分を基準として、イソソルビド5〜60モル%、シクロヘキサンジメタノール10〜80モル%、および残量の脂肪族ジオール化合物からなるジオール成分と、ジカルボン酸成分を基準として、テレフタル酸50〜100モル%、および芳香族ジカルボン酸0〜50モル%からなるジカルボン酸成分とをエステル化反応させる段階と、
前記エステル化反応が80%以上進行した時点において、前記エステル化反応が進行している反応液にリン系安定剤を添加する段階と、
前記エステル化反応生成物を重縮合反応させる段階とを含み、
前記リン系安定剤は、合成される樹脂の重量対比、150ppm〜300ppmの量で使用され、
前記ジオール成分またはジカルボン酸成分中の、前記エステル化反応に参加しなかった未反応残量が20%未満であることを特徴とする、ポリエステル樹脂の製造方法。
製造されるポリエステル樹脂が0.5〜1.0dl/gの固有粘度を有し、280℃および剪断速度300rad/sでの前記ポリエステル樹脂の溶融粘度が、280℃および剪断速度1rad/sでの前記ポリエステル樹脂の溶融粘度対比、50%以下であることを特徴とする、請求項7に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
280℃の温度および0rad/sの剪断速度での溶融粘度が500Pa・s〜600Pa・sであることを特徴とする、請求項7に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
前記エステル化反応において、ジカルボン酸成分:ジオール成分のモル比は、1:1.05〜1:3.0であることを特徴とする、請求項7に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
前記重縮合反応段階は、150〜300℃の温度、および600〜0.01mmHgの減圧条件で、1〜24時間行われることを特徴とする、請求項7に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
前記重縮合反応に、チタニウム系化合物、ゲルマニウム系化合物、アンチモン系化合物、アルミニウム系化合物、およびスズ系化合物からなる群より選択された1種以上の触媒化合物を追加的に添加する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の具体的な実施形態にかかるポリエステル樹脂およびポリエステル樹脂の製造方法についてより詳細に説明する。
【0013】
発明の一実施形態によれば、テレフタル酸を含むジカルボン酸成分の残基;およびイソソルビド5〜60モル%、シクロヘキサンジメタノール10〜80モル%、および残量のその他のジオール化合物を含むジオール成分の残基を含み、0.5〜1.0dl/gの固有粘度を有し、280℃で、剪断速度300rad/sでの溶融粘度が、剪断速度1rad/sでの溶融粘度対比、50%以下であるポリエステル樹脂が提供できる。
【0014】
本発明者らは、より向上した物性を有するポリエステルの合成に関する研究を行い、後述する製造方法に示されているように、亜鉛系化合物を含むエステル化反応触媒を使用し、前記エステル化反応の末期に、例えば、反応が80%以上進行した時点で反応液にリン系安定剤を添加して前記エステル化反応の結果物を重縮合させると、高い耐熱性、耐化学性および耐衝撃性などの物性を示し、優れた外観特性、高透明度および優れた成形特性を有するポリエステル樹脂が提供できる点を、実験を通して確認して、発明を完成した。
【0015】
これまでに知られたように、イソソルビド(Isosorbide)は、低い反応性を示す二価アルコールであって、これを用いて製造されるポリエステル樹脂は、耐熱性などの物性が向上できるが、これを使用する場合、エステル化反応に参加せずに残留するイソソルビドが過剰発生し、合成結果物の最終ポリエステル樹脂が商用化可能な程度の物性を有することが容易でなかった。
【0016】
これに対し、前記ポリエステル樹脂は、後述する特定の製造方法を通じて合成され、イソソルビドの含有量を多様に調節して含むことができ、特に、相対的に高い含有量でイソソルビドを含みながらも、商用製品に適用可能な物性を確保することができる。
【0017】
前記ポリエステル樹脂の合成過程では、反応に参加しなかった未反応原料の量が相対的に小さく、高い反応効率および重合度を示すことができる。これにより、前記ポリエステル樹脂は、0.5〜1.0dl/gの固有粘度を有することができる。
【0018】
特に、前記ポリエステル樹脂は、高い耐熱性と共に、その分子構造的特徴によって、押出成形時、これまでに知られたポリエステル樹脂に比べて低い溶融粘度を有することができて、相対的に高い樹脂の加工性や成形性を示すことができる。
【0019】
具体的には、280℃の温度および300rad/sの剪断速度で前記ポリエステルが有する溶融粘度は、280℃の温度および1rad/sの剪断速度で前記ポリエステルが有する溶融粘度対比、50%以下であってよい。つまり、前記ポリエステルは、高温で押出成形時、溶融粘度が樹脂の成形に十分な程度に低下できる。
【0020】
前記ポリエステルは、280℃の温度および1rad/sの剪断速度で480Pa・s〜600Pa・sの溶融粘度を有することができ、280℃の温度および剪断速度300rad/sでは、200Pa・s〜280Pa・sの溶融粘度を有することができる。
【0021】
一方、前記ポリエステル樹脂は、上述のように、高温押出成形時、低い溶融粘度特性を有することができるのに対し、押出前または押出後の、剪断力が加えられていない状態、つまり、剪断速度が0rad/sの状態では、一定水準以上の溶融粘度、例えば、500Pa・s〜600Pa・sを有することができる。前記ポリエステル樹脂がこのような溶融粘度特性を有することにより、押出成形後に最終成形品が、より均一な厚さと共に、向上した形態安定性を有することができ、大容量または大面積の成形品の製造にも容易に適用可能である。
【0022】
前記溶融粘度は、高分子樹脂の加工過程中、特定温度の吐出部で製造結果物が有する溶融粘度を意味する。前記製造結果物の溶融粘度は、温度、剪断速度および剪断応力の依存性があることから、吐出されて出る温度領域での重合物の応力と剪断速度を測定し、下記の一般式1に適用して求めることができる。
【0023】
[一般式1]
η=σ/γ
ただし、ηは溶融粘度、σは剪断応力であり、γは剪断速度である。
【0024】
一方、前記ポリエステル樹脂は、テレフタル酸を含むジカルボン酸成分の残基;およびイソソルビド、シクロヘキサンジメタノール、および残量のその他のジオール化合物を含むジオール成分の残基;を含む。
【0025】
本明細書において、「残基」は、特定の化合物が化学反応に参加した時、その化学反応の結果物に含まれ、前記特定の化合物由来の一定の部分または単位を意味する。例えば、前記ジカルボン酸成分の「残基」またはジオール成分の「残基」それぞれは、エステル化反応または縮重合反応で形成されるポリエステルにおいて、ジカルボン酸成分由来の部分またはジオール成分由来の部分を意味する。
【0026】
前記「ジカルボン酸成分」は、テレフタル酸などのジカルボン酸、そのアルキルエステル(モノメチル、モノエチル、ジメチル、ジエチル、またはジブチルエステルなどの炭素数1〜4の低級アルキルエステル)、および/またはこれらの酸無水物(acid anhydride)を含む意味で使用され、ジオール成分と反応して、テレフタロイル部分(terephthaloyl moiety)などのジカルボン酸部分(dicarboxylic acid moiety)を形成することができる。
【0027】
前記ポリエステルの合成に使用されるジカルボン酸成分がテレフタル酸を含むことにより、製造されるポリエステル樹脂の耐熱性、耐化学性または耐候性(例えば、UVによる分子量減少現象または黄変化現象の防止)などの物性が向上できる。
【0028】
前記ジカルボン酸成分は、その他のジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分、またはこれらの混合物をさらに含むことができる。この時、「その他のジカルボン酸成分」は、前記ジカルボン酸成分中の、テレフタル酸を除いた成分を意味する。
【0029】
前記芳香族ジカルボン酸成分は、炭素数8〜20、好ましくは、炭素数8〜14の芳香族ジカルボン酸、またはこれらの混合物などであってよい。前記芳香族ジカルボン酸の例として、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、4,4’−スチルベンジカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、2,5−チオフェンジカルボン酸などがあるが、前記芳香族ジカルボン酸の具体例がこれらに限定されるものではない。
【0030】
前記脂肪族ジカルボン酸成分は、炭素数4〜20、好ましくは、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸成分、またはこれらの混合物などであってよい。前記脂肪族ジカルボン酸の例として、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などのシクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、セバシン酸、コハク酸、イソデシルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、グルタル酸、アゼライン酸などの線状、枝状または環状脂肪族ジカルボン酸成分などがあるが、前記脂肪族ジカルボン酸の具体例がこれらに限定されるものではない。
【0031】
一方、前記ジカルボン酸成分は、テレフタル酸50〜100モル%、好ましくは70〜100モル%;および芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸からなる群より選択された1種以上のジカルボン酸0〜50モル%、好ましくは0〜30モル%;を含むことができる。前記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸の含有量が小さすぎたり、大きすぎると、ポリエステル樹脂の耐熱性、耐化学性または耐候性などの物性が低下することがある。
【0032】
一方、前記ポリエステルの合成に使用されるジオール成分(diol component)は、イソソルビド5〜60モル%、シクロヘキサンジメタノール10〜80モル%、および残量のその他のジオール化合物を含むことができる。
【0033】
前記ジオール成分がイソソルビド(isosorbide、1,4:3,6−dianhydroglucitol)を含むことにより、製造されるポリエステル樹脂の耐熱性が向上するだけでなく、耐化学性、耐薬品性などの物性が向上できる。そして、前記ジオール成分(diol component)において、シクロヘキサンジメタノール(例えば、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、または1,4−シクロヘキサンジメタノール)の含有量が増加するほど、製造されるポリエステル樹脂の耐衝撃強度が大きく増加できる。
【0034】
また、前記ジオール成分は、前記イソソルビドおよびシクロヘキサンジメタノールのほか、その他のジオール成分をさらに含むことができる。前記「その他のジオール成分」は、前記イソソルビドおよびシクロヘキサンジメタンを除いたジオール成分を意味し、例えば、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、またはこれらの混合物であってよい。
【0035】
前記芳香族ジオールは、炭素数8〜40、好ましくは、炭素数8〜33の芳香族ジオール化合物を含むことができる。このような芳香族ジオール化合物の例としては、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.2)−ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(3.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのエチレンオキシド、および/またはプロピレンオキシドが付加されたビスフェノールA誘導体、ポリオキシエチレン−(n)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(n)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、またはポリオキシプロピレン−(n)−ポリオキシエチレン−(n)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられるが、芳香族ジオール化合物の具体例がこれらに限定されるものではない。前記nは、ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンユニット(unit)の個数(number)を意味する。
【0036】
前記脂肪族ジオールは、炭素数2〜20、好ましくは、炭素数2〜12の脂肪族ジオール化合物を含むことができる。このような脂肪族ジオール化合物の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールなど)、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール(1,6−ヘキサンジオールなど)、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、テトラメチルシクロブタンジオールなどの線状、枝状または環状脂肪族ジオール成分が挙げられるが、脂肪族ジオール化合物の具体例がこれらに限定されるものではない。
【0037】
上述のように、前記ポリエステル樹脂のジオール成分は、5〜60モル%、好ましくは8〜45モル%のイソソルビドを含むことができる。前記ジオール成分中のイソソルビドの含有量が5モル%未満であれば、製造されるポリエステル樹脂の耐熱性または耐化学性が不十分であり得、上述したポリエステル樹脂の溶融粘度特性が現れないことがある。また、前記イソソルビドの含有量が60モル%を超えると、ポリエステル樹脂または製品は外観特性が低下したり、黄変(yellowing)現象が発生することがある。
【0038】
一方、前記ポリエステル樹脂は、全体樹脂中、中心金属原子を基準として、1〜100ppmの亜鉛系触媒、および10ppm〜300ppmのリン系安定剤を含有することができる。
【0039】
前記ポリエステル樹脂の合成過程では、リン系安定剤が使用可能であり、これにより、前記ポリエステル樹脂には、リン系安定剤が10ppm〜300ppm、好ましくは20ppm〜200ppmを含有することができる。このようなリン系安定剤の具体例としては、リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルホスホノアセテート、またはこれらの2以上の混合物が挙げられる。
【0040】
前記ポリエステル樹脂は、全体樹脂中、中心金属原子を基準として、1〜100ppmの亜鉛系触媒を含むことができる。このような亜鉛系触媒の具体例としては、亜鉛アセテート、亜鉛アセテートジハイドレート、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、亜鉛シトレート、グルコン酸亜鉛、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0041】
一方、前記ポリエステル樹脂の合成過程の重縮合反応では、チタニウム系化合物、ゲルマニウム系化合物、アンチモン系化合物、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、またはこれらの混合物を含む重縮合触媒を使用することができる。これにより、前記ポリエステル樹脂は、全体樹脂中、中心金属原子を基準として、1〜100ppmの含有量の重縮合触媒を含むことができる。
【0042】
前記チタニウム系化合物の例としては、テトラエチルチタネート、アセチルトリプロピルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ポリブチルチタネート、2−エチルヘキシルチタネート、オクチレングリコールチタネート、ラクテートチタネート、トリエタノールアミンチタネート、アセチルアセトネートチタネート、エチルアセトアセチックエステルチタネート、イソステアリルチタネート、チタニウムジオキシド、チタニウムジオキシド/シリコンジオキシド共重合体、チタニウムジオキシド/ジルコニウムジオキシド共重合体などを例示することができる。
【0043】
前記ゲルマニウム系化合物の例としては、ゲルマニウムジオキシド(germanium dioxide、GeO
2)、ゲルマニウムテトラクロライド(germanium tetrachloride、GeCl
4)、ゲルマニウムエチレングリコキシド(germanium ethyleneglycoxide)、ゲルマニウムアセテート(germanium acetate)、これらを用いた共重合体、これらの混合物などが挙げられる。好ましくは、ゲルマニウムジオキシドを使用することができ、このようなゲルマニウムジオキシドとしては、結晶性または非結晶性のすべてを使用することができ、グリコール可溶性のものも使用することができる。
【0044】
一方、発明の他の実施形態によれば、亜鉛系化合物を含むエステル化反応触媒の存在下、イソソルビド5〜60モル%、シクロヘキサンジメタノール10〜80モル%、および残量のその他のジオール化合物を含むジオール成分と、テレフタル酸を含むジカルボン酸成分とをエステル化反応させる段階と、前記エステル化反応が80%以上進行した時点でリン系安定剤を添加する段階と、前記エステル化反応生成物を重縮合反応させる段階とを含むポリエステル樹脂の製造方法が提供できる。
【0045】
前記ポリエステル樹脂の製造方法により、亜鉛系化合物を含むエステル化反応触媒を使用し、前記エステル化反応の末期に、例えば、反応が80%以上進行した時点で反応液にリン系安定剤を添加し、前記エステル化反応の結果物を重縮合させると、高い耐熱性、耐化学性および耐衝撃性などの物性を示し、優れた外観特性、高透明度および優れた成形特性を有するポリエステル樹脂が提供できる。
【0046】
特に、前記製造方法により提供されるポリエステル樹脂は、高い耐熱性と共に、その分子構造的特徴によって、押出成形時、これまでに知られたポリエステル樹脂に比べて低い溶融粘度を有することができて、相対的に高い樹脂の加工性や成形性を示すことができる。
【0047】
具体的には、前記製造方法により提供されるポリエステル樹脂は、0.5〜1.0dl/gの固有粘度を有することができる。
【0048】
また、280℃の温度および300rad/sの剪断速度で前記ポリエステルが有する溶融粘度は、280℃の温度および1rad/sの剪断速度で前記ポリエステルが有する溶融粘度対比、50%以下であってよい。つまり、前記ポリエステルは、高温で押出成形時、溶融粘度が樹脂の成形に十分な程度に低下できる。
【0049】
また、前記製造方法により提供されるポリエステルは、280℃の温度および1rad/sの剪断速度で480Pa・s〜600Pa・sの溶融粘度を有することができ、280℃の温度および剪断速度300rad/sでは、200Pa・s〜280Pa・sの溶融粘度を有することができる。
【0050】
そして、前記製造方法により提供されるポリエステル樹脂は、上述のように、高温押出成形時、低い溶融粘度特性を有することができるのに対し、押出前または押出後の、剪断力が加えられていない状態、つまり、剪断速度が0rad/sの状態では、一定水準以上の溶融粘度、例えば、500Pa・s〜600Pa・sを有することができる。
【0051】
前記ポリエステル樹脂がこのような溶融粘度特性を有することにより、押出成形後に最終成形品が、より均一な厚さと共に、向上した形態安定性を有することができ、大容量または大面積の成形品の製造にも容易に適用可能である。
【0052】
一方、前記亜鉛系触媒を使用し、リン系安定剤を特定の時点で添加することにより、前記エステル化反応は、相対的に短時間内に、具体的には400分以内、好ましくは200分〜330分以内に、より好ましくは230分〜310分以内に行われながらも、高い反応効率を示すことができる。このように、前記エステル化反応時間が短くなるにつれ、高温での接触時間が短縮して、製造されるポリエステル樹脂の色が改善され得、反応時間の短縮に伴うエネルギー節減効果の面においても有利である。
【0053】
また、前記ポリエステル樹脂の製造方法では、前記ジオール成分またはジカルボン酸成分中の、前記エステル化反応に参加しなかった未反応残量が20%未満であってよい。このような高い反応効率は、前記亜鉛系触媒の使用およびリン系安定剤の添加時点によると見られる。このように、前記ポリエステル樹脂の製造方法では、反応原料のジオール成分またはジカルボン酸成分が大部分反応に参加して、残留する未反応物質の量が相対的に小さくなり、これにより、合成されるポリエステル樹脂が上述の優れた物性を有して、商用製品に容易に適用可能である。
【0054】
前記テレフタル酸を含むジカルボン酸成分、シクロヘキサンジメタノール、イソソルビド、およびその他のジオール化合物に関する具体的な内容は上述の通りである。
【0055】
前記エステル化反応では、前記ジカルボン酸成分とジオール成分を反応させることにより、一定のオリゴマーが形成できる。前記ポリエステル樹脂の製造方法では、前記亜鉛系触媒を使用し、リン系安定剤の添加時点を特定することにより、適切な物性および分子量を有するオリゴマーを高い効率で形成することができる。
【0056】
このようなエステル化反応段階は、ジカルボン酸成分およびジオール成分を、0〜10.0kg/cm
2の圧力、および150〜300℃の温度で反応させることにより行われてよい。前記エステル化反応条件は、製造されるポリエステルの具体的な特性、ジカルボン酸成分とグリコールのモル比、または工程条件などに応じて適切に調節可能である。具体的には、前記エステル化反応条件の好ましい例として、0〜5.0kg/cm
2、より好ましくは0.1〜3.0kg/cm
2の圧力;200〜270℃、より好ましくは240〜260℃の温度が挙げられる。
【0057】
そして、前記エステル化反応は、バッチ(batch)式または連続式で行われてよく、それぞれの原料は別途に投入されてよいが、ジオール成分にジカルボン酸成分を混合したスラリー形態で投入することが好ましい。そして、常温で固形分のイソソルビドなどのジオール成分は、水またはエチレングリコールに溶解させた後、テレフタル酸などのジカルボン酸成分に混合してスラリーとして作ることができる。あるいは、60℃以上でイソソルビドが溶融した後、テレフタル酸などのジカルボン酸成分とその他のジオール成分を混合してスラリーを作ってもよい。また、ジカルボン酸成分、イソソルビド、およびエチレングリコールなどの共重合ジオール成分が混合されたスラリーに水を追加的に投入して、スラリーの流動性の増大に寄与することもできる。
【0058】
前記エステル化反応に参加するジカルボン酸成分とジオール成分のモル比は、1:1.05〜1:3.0であってよい。前記ジカルボン酸成分:ジオール成分において、後者ののモル比が1.05未満であれば、重合反応時、未反応ジカルボン酸成分が残留して樹脂の透明性が低下することがあり、前記モル比が3.0を超える場合、重合反応速度が低くなったり、樹脂の生産性が低下することがある。
【0059】
一方、前記ポリエステル樹脂の製造方法では、前記第1および第2エステル化の末期、例えば、前記エステル化反応それぞれが80%以上進行した時点でリン系安定剤を添加することができる。前記エステル化反応が80%以上進行した時点は、ジカルボン酸成分が80%以上反応した時点を意味し、ジカルボン酸成分の末端基であるカルボン酸の含有量の分析を通じて測定することができる。
【0060】
前記リン系安定剤は、合成される樹脂の重量対比、10ppm〜300ppm、好ましくは20ppm〜200ppmの量で使用可能であり、このようなリン系安定剤の具体例としては上述の通りである。
【0061】
このように、前記エステル化反応が80%以上進行した時点でリン系安定剤が投入されることにより、未反応原料の量を大きく減少させることができ、樹脂の重合度を向上させることができて、製造されるポリエステルが、高い耐熱性と共に、高い粘度、優れた衝撃強度および特定の溶融粘度特性など、上述した特性を有することができる。
【0062】
一方、前記エステル化反応は、亜鉛系化合物を含むエステル化反応触媒の存在下で行われてよい。このような触媒は、合成されるポリエステル樹脂中、中心金属原子を基準として、1〜100ppmで使用可能であり、このような亜鉛系触媒の具体例としては、亜鉛アセテート、亜鉛アセテートジハイドレート、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、亜鉛シトレート、グルコン酸亜鉛、またはこれらの混合物が挙げられる。前記亜鉛系触媒の含有量が小さすぎると、エステル化反応の効率が大きく向上しにくく、反応に参加しなかった反応物の量が大きく増加することがある。また、前記亜鉛系触媒の含有量が多すぎると、製造されるポリエステル樹脂の外観物性が低下することがある。
【0063】
前記エステル化反応生成物を重縮合(poly−condensation)反応させる段階は、前記ジカルボン酸成分およびジオール成分のエステル化反応生成物を、150〜300℃の温度、および600〜0.01mmHgの減圧条件で、1〜24時間反応させる段階を含むことができる。
【0064】
このような重縮合反応は、150〜300℃、好ましくは200〜290℃、より好ましくは260〜280℃の反応温度;および600〜0.01mmHg、好ましくは200〜0.05mmHg、より好ましくは100〜0.1mmHgの減圧条件;で行われてよい。前記重縮合反応の減圧条件を適用することにより、重縮合反応の副産物のグリコールを系外に除去することができる。前記重縮合反応が400〜0.01mmHgの減圧条件の範囲を外れる場合、副産物の除去が不十分であり得る。
【0065】
また、前記重縮合反応が150〜300℃の温度範囲外で起こる場合、縮重合反応が150℃以下で進行すると、重縮合反応の副産物のグリコールを効果的に系外に除去することができず、最終反応生成物の固有粘度が低くて、製造されるポリエステル樹脂の物性が低下することがあり、300℃以上で反応が進行する場合、製造されるポリエステル樹脂の外観が黄変(yellow)される可能性が高まる。そして、前記重縮合反応は、最終反応生成物の固有粘度が適切な水準に達するまで必要な時間、例えば、平均滞留時間1〜24時間進行できる。
【0066】
一方、前記ポリエステル樹脂組成物の製造方法は、重縮合触媒を追加的に添加する段階をさらに含むことができる。このような重縮合触媒は、前記重縮合反応の開始前にエステル化反応またはエステル交換反応の生成物に添加されてよく、前記エステル化反応前にジオール成分およびジカルボン酸成分を含む混合スラリー上に添加することができ、前記エステル化反応段階の途中に添加してもよい。
【0067】
前記重縮合触媒としては、チタニウム系化合物、ゲルマニウム系化合物、アンチモン系化合物、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、またはこれらの混合物を使用することができる。前記チタニウム系化合物およびゲルマニウム系化合物の例は上述の通りである。
【0068】
[発明の効果]
本発明によれば、高い耐熱性、耐化学性および耐衝撃性などの物性を示し、優れた外観特性、高透明度および優れた成形特性を有するポリエステル樹脂およびそのポリエステル樹脂の製造方法が提供できる。
【実施例】
【0069】
発明を下記の実施例でより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0070】
[実施例および比較例:ポリエステル樹脂の製造]
1.実施例1〜4:ポリエステル樹脂の製造
7L容積の反応器に、表1の含有量で反応物および亜鉛アセテート(エステル化反応触媒)を添加して混合し、前記混合物を、2.0kg/cm
2の圧力、および255℃の条件で、下記の表1のES反応時間の間進行させた(エステル化反応)。
【0071】
そして、このようなエステル化反応が80%以上進行した時点から、リン酸塩系安定剤(トリエチルホスフェート)150ppmを投入した。
【0072】
前記エステル化反応が完了した後、副産物の水が系外に80〜99%流出した時、全体反応物の重量に対して、ゲルマニウム系触媒200ppmを投入(中心元素基準)し、0.5mmHgの真空、および275℃の条件で反応を進行させ(重縮合反応)、目標粘度に到達した時、反応を終了して、ポリエステル樹脂を得た。
【0073】
2.比較例1〜5:ポリエステル樹脂の製造
エステル化反応触媒を使用せず、下記の表2による反応物の組成でエステル化反応を進行させた。この時、比較例1、4および5ではリン系安定剤を添加せず、比較例2〜3では反応物にリン系安定剤を添加して(「反応初期」)、前記エステル化反応を進行させた。
【0074】
そして、前記実施例と同様の方法で重縮合反応を進行させて、ポリエステル樹脂を得た。
【0075】
<実験例:実施例および比較例におけるポリエステルの物性の測定>
前記実施例および比較例で得られたポリエステル樹脂の物性を下記の方法で測定し、その結果を表1および表2にそれぞれ示した。
【0076】
1.固有粘度(IV)
150℃のオルトクロロフェノール(OCP)に0.12%の濃度でポリマーを溶解させた後、35℃の恒温槽でウベローデ型粘度計を用いて測定した。
【0077】
2.溶融粘度の測定
(1)実施例および比較例で得られたポリエステル樹脂を、280℃で、5分間加熱(pre−heating)し、1mm gap plate−plate typeで5%strainを加え、0.01rad/sから500rad/sまでの溶融粘度を、Phsica機器(Anton Paar社、MCR301)を用いて測定した(shear rate sweep)。
【0078】
(2)0rad/sでの値は、測定されたshear rate別の粘度dataを用いて描かれたgraphで外挿を通じて確認した。
【0079】
3.耐熱性(Tg)
実施例および比較例で得られたポリエステル樹脂を、300℃で、5分間アニーリング(Annealing)し、常温に冷却させた後、昇温速度10℃/minで再びスキャン(2nd Scan)した時のガラス転移温度(Glass−rubber transition temperature:Tg)を測定した。
【0080】
4.モノマー反応率
未反応カルボン酸末端基の量を滴定法で測定して、実施例および比較例で使用したモノマー反応率を求めた。具体的には、実施例および比較例における試料0.1gをbenzyl alcohol10mLに添加し、約200℃で溶解した後、phenol red指示薬を添加し、0.1N−NaOHで滴定して、−COOH末端基の量を定量した。
【0081】
前記実施例および比較例の樹脂の組成と実験例の結果を、下記の表1および2に記載した。
【0082】
【表1】
【0083】
前記表1に示されているように、実施例のポリエステルの製造過程では、使用された反応物原料(モノマー)が80%以上反応に参加し、反応も259分〜310分内に完了したことが確認された。
【0084】
そして、実施例のポリエステルは、相対的に反応性に劣るイソソルビドの含有量を大きく増加させた場合にも、高い耐熱性と共に、相対的に高い固有粘度、例えば、ジオール成分中のイソソルビドが60重量%の場合にも、0.53dl/gの固有粘度を確保することができる。
【0085】
それだけでなく、280℃の温度および300rad/sの剪断速度で前記実施例のポリエステルの有する溶融粘度が、280℃の温度および1rad/sの剪断速度での溶融粘度対比、50%以下となり、つまり、実施例のポリエステルは、高温で押出成形時、溶融粘度が樹脂の成形に十分な程度に低下できる点が確認された。
【0086】
また、前記実施例のポリエステル樹脂は、押出前または押出後の、剪断力が加えられていない状態、つまり、剪断速度が0rad/sの状態では、511Pa・s〜545Pa・sの溶融粘度を示す点が確認された。つまり、前記実施例のポリエステル樹脂は、押出成形後に、最終成形品が、より均一な厚さと共に、向上した形態安定性を有することができ、大容量または大面積の成形品の製造にも容易に適用可能である。
【0087】
【表2】
【0088】
前記表2に示されているように、比較例では、反応性に劣るイソソルビドの含有量を大きく増加させると、合成されるポリエステルの固有粘度が大きく低下し、具体的には、ジオール成分中のイソソルビドを35wt%および70wt%でそれぞれ使用した比較例2、3の場合、ポリエステルの固有粘度が0.45dl/g未満に低下する点が確認された。
【0089】
また、リン系安定剤を使用する場合であっても、反応初期に添加する場合、反応時間を短縮させる効果がわずかであり、反応時間対比のモノマー反応率もそれほど高くないことが確認された(比較例2、3)。
【0090】
そして、280℃の温度および300rad/sの剪断速度で前記比較例のポリエステルが有する溶融粘度は、280℃の温度および1rad/sの剪断速度での溶融粘度と対比した時、それほど大きく低下しなかった点が確認された。つまり、比較例のポリエステルは、実施例のポリエステルに比べて、高温で押出成形時、より低い成形性または溶融粘度特性を有する。
【0091】
また、前記比較例のポリエステル樹脂は、押出前または押出後の、剪断力が加えられていない状態、つまり、剪断速度が0rad/sの状態では、ジオール成分中、イソソルビドを70wt%で含む場合に511Pa・sの溶融粘度を有し、他の場合に溶融粘度が500Pa・s未満となった。つまり、前記比較例のポリエステル樹脂を使用すると、最終成形品が相対的に不均一な厚さを有したり、形態安定性が低下することがあり、大容量または大面積の成形品の製造への適用に問題が現れることがある。