特許第6408984号(P6408984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408984
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】液状食品組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/231 20160101AFI20181004BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20181004BHJP
   A23L 2/66 20060101ALI20181004BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20181004BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20181004BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   A23L29/231
   A23L2/00 F
   A23L2/00 J
   A23L2/38 B
   A23L29/256
   A61K47/36
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-522871(P2015-522871)
(86)(22)【出願日】2014年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2014065679
(87)【国際公開番号】WO2014200079
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2017年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-125292(P2013-125292)
(32)【優先日】2013年6月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】井上 博晶
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匡生
(72)【発明者】
【氏名】諸島 忠
(72)【発明者】
【氏名】上北 健
(72)【発明者】
【氏名】横田 真一
(72)【発明者】
【氏名】川島 唯
(72)【発明者】
【氏名】橋本 忠明
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 和也
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/074670(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/081725(WO,A1)
【文献】 特開2008−069090(JP,A)
【文献】 特開昭61−001358(JP,A)
【文献】 特開昭63−000269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/206
A61K 47/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価金属塩、リン酸塩及び/又は有機酸塩、タンパク質、並びに水溶性食物繊維を含有する液状食品組成物の製造方法であって、
(a)溶媒に二価金属塩を添加した後、次いで、リン酸塩及び/又は有機酸塩を添加し、pHがpH6.2〜9.5になるまで混合する工程、
(b)(a)の工程より得られた混合物にタンパク質を添加する工程、
(c)水溶性食物繊維を添加する工程
を含み、二価金属塩がカルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物であり、水溶性食物繊維が酸性条件において二価金属塩と反応して液状食品組成物を固形化するものである、製造方法。
【請求項2】
(b)の工程における混合物の温度が30〜80℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
リン酸塩及び/又は有機酸塩に由来するリン酸イオン及び/又は有機酸イオンと、二価金属塩に由来する二価金属イオンの配合比が0.5以上、12以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
(c)の工程において、タンパク質を0.25〜20g/100ml添加する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
二価金属塩が難溶性の二価金属塩である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
水溶性食物繊維がアルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムやマグネシウム等の二価金属塩、乳や大豆等に由来するタンパク質、及びアルギン酸ナトリウムやペクチン等の水溶性食物繊維を含む液状食品組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、現代人に不足しがちなミネラル等を配合し、栄養バランスを考慮した栄養食品が注目されている。それらは、簡便に摂取できる携帯食やダイエット食品としてだけではなく、高齢や傷病、障害により、経口摂取に困難をきたす者が栄養を摂取するための流動食などとしても利用されている。しかし、流動食は粘度の低い液体タイプが多用されているため、胃食道逆流症、誤嚥性肺炎、嘔吐、下痢等の発生が問題となっている。それらの問題を解決する手段として、あらかじめゲル化した栄養食品を投与する方法(特許文献1)、栄養食品を摂取する際にゲル化剤を添加し、胃内における栄養食品の流動性を低下させる方法(特許文献2)、多糖類、ミネラル、気体形成成分を含有し、胃の環境下においてゲル化する組成物(特許文献3)が開示されている。
【0003】
その他の食品では、タンパク質と二価金属塩の凝集、沈殿を抑制するために、リン酸又は有機酸等を添加する方法が提案されている。(例えば、特許文献4、5参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−182767号公報
【特許文献2】特開2007−176848号公報
【特許文献3】特表2009−524575号公報
【特許文献4】特開2000−83595号公報
【特許文献5】特開平10−136940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、特許文献1に記載の方法は、栄養食品の流動性が低下しているため、経管投与時に栄養食品がチューブを通過し難いとの特徴がある。そのため、栄養食品の摂取に長時間を要することになり、摂取者にとって負担となることや座位保持による褥瘡の発生及び悪化の原因になるなどの問題がある。また、特許文献2に記載の方法は、栄養食品に別途ゲル化剤を添加するものであり操作が煩雑となる。そのため、栄養食品の利用時には、調製に手間と時間が必要になる上、操作中の雑菌の混入等、衛生面においても問題が懸念される。一方、特許文献3に記載の組成物は、上述の問題に対してある程度の抑制効果を期待できるものの、タンパク質、二価金属塩、水溶性食物繊維を含有しているため、加熱殺菌処理後に発生する凝集、沈殿が製品の品質を低下させるといった問題がある。
【0006】
本発明者らは、上記の特許文献3における問題を解決するため、たとえば特許文献4に記載の通りに、タンパク質含有溶液に、リン酸又は有機酸を添加し、次いで二価金属塩を添加する方法を検討したところ、凝集物が大量に発生し、品質が悪化してしまった。また、特許文献5に記載の通りに、第1の容器に、温水、乳化剤、油を添加後、予備乳化を行い、次いでカゼインナトリウム(蛋白質)とその他の原料を添加し撹拌溶解させた。また、第2の容器に、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸、クエン酸Naをこの順序で添加し、3分間の撹拌により完全に溶解したことを確認後、次いで水溶性塩化カルシウム、水溶性グリセリン酸Ca、炭酸カリウムを添加撹拌溶解させた。さらに第3の容器にて、水にビタミン(調合総合ビタミン)を添加溶解した後、香料を添加溶解させ、最後に第3の容器に第1、第2の容器の物質を添加する方法を検討したところ、さらに水溶性植物繊維を添加した場合において、容器中の組成物の粘度が急激に増加し、液状食品組成物を得ることができなかった。
【0007】
以上の問題点を鑑みて、本発明の目的は、簡便に摂取及びチューブを介した投与が可能であり、組成物中に含まれる凝集物が軽減された液状食品組成物を提供することにある。さらに、中性領域では流動性を有し、胃環境下においては固形化する液状食品組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、さらに鋭意研究を重ねた結果、二価金属塩、リン酸塩及び/又は有機酸塩、タンパク質、及び水溶性食物繊維を含有する組成物を製造する際に、二価金属塩を含有する液にリン酸塩及び/又は有機酸塩を特定のpHになるまでで混合した後、次いで、得られた混合物にタンパク質、水溶性植物繊維を添加することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)二価金属塩、リン酸塩及び/又は有機酸塩、タンパク質、及び水溶性食物繊維を含有する液状食品組成物の製造方法であって、
(a)溶媒に二価金属塩を添加した後、次いで、リン酸塩及び/又は有機酸塩を添加し、pHがpH6.2〜9.5になるまで混合する工程、
(b)(a)の工程より得られた混合物にタンパク質を添加する工程、
(c)水溶性食物繊維を添加する工程
を含む製造方法。
(2)(b)の工程における混合物の温度が30〜80℃である、(1)に記載の製造方法。
(3)リン酸塩及び/又は有機酸塩に由来するリン酸イオン及び/又は有機酸イオンと、二価金属塩に由来する二価金属イオンの配合比が0.5以上、12以下である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)(c)の工程において、タンパク質を0.25〜20g/100ml添加する、(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)二価金属塩が難溶性の二価金属塩である、(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)二価金属塩がカルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物である、(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(7)水溶性食物繊維がアルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上である、(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る製造方法によれば、二価金属塩、タンパク質、水溶性食物繊維を含む液状食品組成物の製造工程における微細な粒子の発生を低減できることから、組成物の乳化安定性が向上するとともに、製造ライン間に設置したストレーナーへの微細な粒子及び/又は凝集物の目詰まりが解消され、前記液状食品組成物を効率的に製造することができる。さらに、本製造方法により得られた組成物は、中性領域では流動性を有し、胃環境下においては固形化することから、簡便に摂取及びチューブを介した投与が可能であり、さらに、胃食道逆流症、誤嚥性肺炎、下痢等の発生リスクを効果的に低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明により製造される液状食品組成物は、組成物のpHがpH5.5以上からpH10.0以下の範囲内では、その液状の物性が安定に維持され、さらに、摂取後の胃内で組成物のpHがpH5.5未満となった場合には、その性状が液状から固形状に変化する。すなわち、本発明の液体食品組成物は、調製中・流通中・保存中・摂取時等における組成物の形態としては液体である。さらに、摂取後の胃液との混合時には、固形状に形状変化する性質を有する。そのため、本発明の液状食品組成物は、摂取時にゲル化剤等を別途添加する手間が不要であり、また液体であるため経管栄養法においても簡便に摂取することができる。
【0012】
本発明における「液体」又は「液状の性状」とは、当該液状食品組成物が経管的(例えば、経鼻チューブ、胃瘻チューブ)に投与可能な状態を意味する。経管的に投与する際の簡便性が損なわれない範囲であれば、その粘度は特に限定されないものの、液状食品組成物の粘度(25℃)は、1000cP以下が好ましく、500cP以下がより好ましく、300cP以下がさらに好ましく、200cP以下がさらにより好ましい。なお、本発明で粘度を示したときは、特に記載した場合を除き、本明細書の実施例の項に記載した方法による測定値である。
【0013】
また、本発明により製造される液状食品組成物における「固形化」又は「固形状への形状変化」とは、当該液状食品組成物の液状の性状が酸性条件において変化した状態であり、液状食品組成物の不溶化、粘度の増加、ゾル化、ゲル化などの状態を意味し、固形化率で評価することができる。なお、固形化率は、前記液状食品組成物の胃内等の酸性条件における形状変化の効率を評価する指標である。固形化率が高い程、組成物が効率的に固形化又は固形状への形状変化し、胃内で液体(未固形分)の存在量が少なくなる。経管栄養法に伴う種々の問題では、胃内に存在する液体の量が重要であり、本発明における固形化率は、51%より大きいことが好ましく、56%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、65%以上が特に好ましい。なお、固形化率が51%以下であると、胃内での液体(未固形分)の存在量が多くなるため、胃食道逆流症、誤嚥性肺炎、嘔吐、下痢等の発生を十分に抑制できない場合がある。なお、本発明で固形化率を示したときは、特に記載した場合を除き、本明細書の実施例の<固形化率の確認試験>の項に記載した方法による測定値である。
【0014】
また、本発明における酸性とは、pH3.5より小さい領域を示し、pH3.0以下の領域が好ましく、pH2.5以下の領域がより好ましい。 また、本発明における中性とは、pH3.5〜pH12.5の領域を示し、pH3.5以上が好ましく、pH4.0以上がより好ましく、pH4.5以上がさらに好ましく、pH5.5以上が特に好ましい。また、pH12.5以下が好ましく、pH12.0以下がより好ましく、pH11.5以下がさらに好ましく、pH10.0以下が特に好ましい。
【0015】
本発明の二価金属塩とは、カルシウム及び/又はマグネシウムに由来する金属塩化合物であれば、特に限定されるものではない。例えば、カルシウムに由来する金属塩化合物では、水溶性食物繊維との反応による増粘を抑制する観点から、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等のカルシウム化合物の使用が好ましい。また、マグネシウムに由来する金属塩化合物では、水溶性食物繊維との反応による増粘を抑制する観点から、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、ケイ酸マグネシウム等のマグネシウム化合物の使用が好ましい。それらの中でも、食品添加物として使用可能な中性条件において難溶性の二価金属塩として炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの使用がより好ましい。また、これらのカルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物は単独又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。なお、本発明における難溶性とは、日本薬局方通則に記載されている溶解性の基準に従った場合、「やや溶けにくい」〜 「ほとんど溶けない」の範囲にあるものを意味する。より詳しくは、溶質を水中に入れ、20±5℃ で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、溶質1g又は1mlを30分以内に溶かすのに必要な水の量が30ml以上であることを意味する。さらに、本発明の難溶性カルシウム化合物及び/又は難溶性マグネシウム化合物は、20±5℃、pH7.0における溶解度が、100mg/100ml以下が好ましく、75mg/100mlがより好ましく、50mg/100ml以下がさらに好ましい。
【0016】
二価金属塩の添加量は、二価金属塩に由来する二価金属イオンに換算して添加する。ミネラル成分の補給の観点から、二価金属塩の添加量(2種以上を組み合わせて使用する場合は総量)は、二価金属イオンとして1mmol/l以上が好ましく、10mmol/l以上がより好ましく、15mmol/l以上がさらに好ましく、20mmol/l以上がさらにより好ましく、35mmol/l以上が特に好ましい。また、いずれの場合であっても、1000mmol/l以下が好ましく、500mmol/l以下がより好ましく、250mmol/l以下がさらに好ましく、100mmol/l以下がさらにより好ましく、65mmol/l以下が特に好ましい。二価金属イオンとして1mmol/l未満の添加量であると、ミネラル欠乏症を発症する場合があり好ましくない。また二価金属イオンとして1000mmol/lより大きい添加量であると、液状食品組成物の経管投与時に閉塞を生じやすくなる場合があり好ましくない。
【0017】
本発明に用いられるリン酸塩及び/又は有機酸塩は、水又は温水に添加した際に、その水溶液が酸性を呈さない原料を意味し、タンパク質、二価金属イオン、水溶性食物繊維等との反応に起因する凝集、沈殿の発生を抑制するものであれば、特に限定されるものではない。また、リン酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩が溶解した水溶液のpHは、pH3.5以上からpH12.5以下の領域にあることから水溶液が酸性を呈さない原料であり、水溶液のpHがpH3.5以下の領域を示すリン酸、クエン酸は含まれない。例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三アンモニウム等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩、また、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸に由来するアルカリ金属塩やアンモニウム塩、さらに、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等の有機酸に由来するアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の使用が好ましい。タンパク質と二価金属イオンの反応に起因する凝集、沈殿の発生をより効果的に抑制する観点から、リン酸塩、クエン酸塩の使用が特に好ましい。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0018】
また、リン酸塩及び/又は有機酸塩の添加量は、それらに由来するリン酸イオン及び/又は有機酸イオンに換算して添加する。凝集、沈殿の発生を効果的に抑制する観点から、リン酸塩及び/又は有機酸塩の添加量(2種以上を組み合わせて使用する場合は総量)は、リン酸イオン及び/又は有機酸イオンとして2.5mmol/l以上が好ましく、5mmol/l以上がより好ましく、10mmol/l以上がさらに好ましく、15mmol/l以上がさらにより好ましく、30mmol/l以上が特に好ましい。また、いずれの場合であっても、150mmol/l以下が好ましく、120mmol/l以下がより好ましく、100mmol/l以下がさらに好ましく、80mmol/l以下がさらにより好ましく、60mmol/l以下が特に好ましい。リン酸イオン及び/又は有機酸イオンとして2.5mmol/l未満、又は150mmol/lより大きい添加量の場合、凝集、沈殿の発生を効果的に抑制できないことがあり好ましくない。
【0019】
本発明で使用するタンパク質は、可食できるものであれば限定されないが、動物由来のタンパク質として、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、ホエータンパク質、乳タンパク質、卵タンパク質、卵白タンパク質、植物由来のタンパク質として、大豆タンパク質、えんどう豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、及び/又はそれらの加水分解物が挙げられる。蛋白消化率の観点から、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、ホエータンパク質、大豆タンパク質の使用が好ましく、大豆タンパク質としては、分離大豆タンパク質、濃縮大豆タンパク質等の使用がより好ましい。これらのタンパク質及び/又は加水分解物は、単独又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0020】
また、本発明におけるタンパク質の添加量は、組成物の摂取者や投与者が栄養的に満足し得る量であれば特に限定されるものではないが、タンパク質添加量(2種以上を組み合わせて使用する場合は総量)の下限は、0.25g/100ml以上が好ましく、0.5g/100ml以上がより好ましく、1.0g/100ml以上がさらに好ましく、2.0g/100ml以上がさらにより好ましく、4.0g/100ml以上が特に好ましい。また、タンパク質の添加量の上限は、下限がいずれの場合であっても、20.0g/100ml以下が好ましく、10.0g/100ml以下がより好ましく、7.5g/100ml以下がさらに好ましく、5.0g/100ml以下がさらにより好ましい。タンパク質添加量が0.25g/100ml未満では、タンパク質成分の補給の観点から好ましくない。また、前記添加量が20.0g/100mlより大きいと、組成物の粘度が増加するとの問題があり好ましくない。
【0021】
本発明では水溶性食物繊維として、アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上などを使用することができる。アルギン酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩の使用が適しているが、その中でもアルギン酸ナトリウムの使用が好適である。また、ペクチンは、高メトキシル化(HM)−ペクチン、低メトキシル化(LM)−ペクチンの使用が適しているが、その中でもLM−ペクチンの使用が好適である。また、それらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
水溶性食物繊維の添加量(2種以上を組み合わせて使用する場合は総量)の下限としては、0.3g/100ml以上が好ましく、0.5g/100ml以上がより好ましく、0.7g/100ml以上がさらに好ましく、1.0g/100ml以上が特に好ましい。0.3g/100ml未満の場合、酸性条件における液状食品組成物の固形化が不十分となる場合がある。また、水溶性食物繊維の添加量の上限は、下限がいずれの場合であっても、5.0g/100ml以下が好ましく、2.5g/100ml以下がより好ましく、2.0g/100ml以下がさらに好ましく、1.5g/100ml以下が特に好ましい。5.0g/100mlよりも多いと、液状食品組成物の粘性が増加するため、その液状の物性が損なわれる場合がある。
【0023】
本発明の製造方法は、溶媒に二価金属塩を添加した後、次いで、リン酸塩及び/又は有機酸塩等を添加し、pH6.2〜9.5になるまで混合する(a)の工程を含む。
【0024】
なお、本発明における溶媒とは、食品として使用可能な溶媒であれば特に限定されないが、水、温水、冷水、エタノール、油等を使用することができる。それらの中でも、組成物に投入する原料の効率的な分散及び/又は溶解の観点から、水、温水の使用が好ましい。
【0025】
本発明において溶媒中の二価金属塩は、溶解した状態でも良いし、分散された状態でも良い。本発明の効果を効率的に発揮させる観点から、二価金属塩は溶媒に分散された状態で存在することがより好ましい。また、(a)の工程におけるリン酸塩及び/有機酸塩は、製造過程における微細な粒子の発生をより効果的に抑制する観点から、溶解した状態であることが好ましい。
【0026】
本発明におけるpH6.2〜9.5になるまで混合するとは、撹拌機、乳化機、ホモジナイザー等を使用して、対象物が所定のpHになるまで混合及び/又は均一化を行うことを意味する。二価金属塩とリン酸塩及び/又は有機酸塩を含む混合物は、混合の過程においてpHが変化する。pHは、pH6.2以上であることが好ましく、より好ましくはpH6.8以上、さらに好ましくはpH7.0以上である。また、pHの上限としては、下限がいずれの場合であっても、pH9.5以下が好ましく、pH9.0以下がより好ましい。調製中の混合物のpHが上記pH範囲に到達した時点で、混合の工程が完了したと判断できる。なお、(a)の工程において、混合物のpHが6.2未満の場合、二価金属塩とリン酸塩及び/又は有機酸塩の反応が十分ではなく、液状食品組成物の殺菌処理後において凝集物が生じる場合がある。さらにpH3.5以下の場合、水溶性食物繊維を添加すると組成物中の粘度が急激に増加し、液状食品組成物を得ることができないため好ましくない。また、pHの上限がpH9.5より大きい場合、製造時間の長時間化の原因となるため好ましくない。本発明において混合は、二価金属塩、リン酸塩及び/又は有機酸塩の添加前、添加中、添加後のいずれにおいて実施してもよいが、本発明の効果を効果的に発揮する観点から、二価金属塩を添加する前より実施することが好ましい。
【0027】
なお、(a)の工程においては、ストレーナー閉塞の原因となる微細な粒子の発生を抑制する観点から、溶媒に二価金属塩を添加した後、次いで、リン酸塩及び/又は有機酸塩を添加することが好ましい。溶媒にリン酸塩及び/又は有機酸塩を添加した後、次いで、二価金属塩を添加した場合、微細な粒子の発生を効果的に抑制できず、ストレーナー閉塞が生じる可能性があるため好ましくない。
【0028】
さらに、本発明の製造方法は、(a)の工程より得られた混合物にタンパク質を添加する(b)の工程を含む。(b)の工程におけるタンパク質の添加は、(a)工程を経た、前記混合物にタンパク質を添加することで実施できる。また、別途調製しておいたタンパク質のスラリー液を、前記混合物に対して添加、混合すること(混合及び/又は均一化すること)で実施しても良い。なお、(b)工程においても、撹拌機、乳化機、ホモジナイザー等の使用により混合を実施することができる。
【0029】
また、本発明の製造方法は、水溶性食物繊維を添加する(c)工程を含む。(c)の工程における水溶性食物繊維の添加時期は、前記(a)、(b)の工程に対して、前、途中、後のいずれの段階において実施してよい。二価金属塩、リン酸塩及び/又は有機酸塩、タンパク質の混合を効率よく実施する観点からは、前記(a)から(b)の工程の後に、水溶性食物繊維の添加を実施することが好ましい。なお、(c)工程においても、撹拌機、乳化機、ホモジナイザー等の使用により混合を実施することができる。
【0030】
上記の通り、本発明の製造方法においては、工程(a)〜(b)における二価金属塩、リン酸塩及び/又は有機酸塩、タンパク質の添加順序、及び工程(a)におけるpHを指標としたタンパク質添加の操作管理が重要であり、これらを含む製造方法により、製造過程におけるストレーナー閉塞の発生を回避することが可能となり、さらに、タンパク質、二価金属イオン、水溶性食物繊維等に起因する殺菌処理後の凝集物の発生をより効果的に抑制できる。
【0031】
また、本発明の製造方法は、タンパク質と二価金属イオンの反応に起因する凝集、沈殿の発生をより効果的に抑制する観点から、(b)の工程における混合物の温度を管理することが好ましい。具体的には、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。また、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましい。上記の温度範囲内であれば適宜温度条件を選択のうえ実施できる。(b)の工程における温度が30℃より低い場合、原料資材等の分散性が低下し作業性が悪化する。また、80℃より高い場合、原料資材が変質する場合があり、好ましくない。
【0032】
また、本発明における二価金属塩とリン酸塩及び/又は有機酸塩の配合比は、二価金属塩に由来する二価金属イオン(カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと、リン酸塩及び/又は有機酸塩に由来するリン酸イオン、及び/又は有機酸イオンの配合比(=[リン酸イオン及び/又は有機酸イオン(mol/l)]/[二価金属イオン(mol/l)])より算出された値の下限が、0.5より大きいことが好ましく、0.75以上がより好ましく、1以上がさらに好ましい。また、12以下が好ましく、11以下がより好ましく、10以下がさらに好ましく、9以下がさらにより好ましく、8以下が特に好ましい。前記配合比が、0.5未満の場合、又は12より大きい場合には、二価金属塩とリン酸塩及び/又は有機酸塩の反応が不十分となり、殺菌処理後に凝集、沈殿が生じることがある。
【0033】
本発明における「ストレーナー」とは、液体や流動性のあるゾルから固形成分、不溶性成分を取り除くために用いる網状の器具を意味する。ストレーナーは、製品への異物混入の防止、製造工程中の乳化機や充填機等の機器の保護を目的として使用するものであり、その形態は特に限定されるものではない。また、ストレーナーのメッシュサイズは、製品への異物混入防止、製造工程中の各種機器の保護等の目的が達成されるものであれば、特に限定されるものではないが、18メッシュ(目開き:850μm)、22メッシュ(目開き:710μm)、26メッシュ(目開き:600μm)、30メッシュ(目開き:500μm)、36メッシュ(目開き:425μm)、40メッシュ(目開き:405μm)、42メッシュ(目開き:355μm)、50メッシュ(目開き:300μm)、60メッシュ(目開き:250μm)、70メッシュ(目開き:212μm)、83メッシュ(目開き:180μm)、100メッシュ(目開き:150μm)、149メッシュ(目開き:1000μm)のメッシュサイズを有するストレーナーの使用が挙げられる。製品への異物混入防止、製造過程中の各種機器の保護の目的の観点からは、36メッシュ(目開き:425μm)、40メッシュ(目開き:405μm)、42メッシュ(目開き:355μm)、50メッシュ(目開き:300μm)、60メッシュ(目開き:250μm)、70メッシュ(目開き:212μm)程度のメッシュサイズを有するストレーナーの使用が好ましい。
【0034】
ストレーナーは各種機器を接続する配管(ライン)に設置することが多く、例えば、各原料を混合する調合タンク、乳化機、充填機等の各種機器を接続する各配管に設置することが一般的である。なお、通常の製造設備では、各機器間(調合タンク、乳化機、充填機等)を配管で接続し、調製液を移送することで調合工程、乳化工程、充填工程等の各処理を実施してよい。
【0035】
本発明における「ストレーナーの閉塞」とは、組成物の製造過程で発生する微細な粒子により、ストレーナーの網目(メッシュ)部分に目詰まりを生じ、調製液を全く送液できない状態、又は調製液の送液速度が低下し、製造時の効率的なサイクルタイムから期待される所望の流速で調製液を送液できない状態を意味する。その結果、製品を製造できない、又は製造時間が長時間化するとの問題が生じる。
【0036】
本発明の製造方法では、上記のようなストレーナー閉塞の発生を回避できるため、原料等を添加する調合工程、乳化機やホモジナイザー等を使用する均質化工程や、容器への充填工程においても製造過程上の問題が生じない。そのため、製造時間の短縮が図れ、効率的な製造スケジュールのもとで組成物を製造でき、コストダウンを実現することができる。
【0037】
また、本発明の製造方法により得られた液状食品組成物では、ストレーナー閉塞の原因となる微細な粒子や、殺菌処理後に発生する凝集物等の"大きさ"を小さく維持できる。そのため、組成物を摂取した際に、前記の粒子、凝集物は胃酸・腸液による消化を受け易い状態となっており、二価金属塩に由来するミネラル成分やタンパク質等の栄養成分を効率よく吸収せしめることができる。
【0038】
本発明の液状食品組成物は、二価金属塩、リン酸塩及び/又は有機酸塩、タンパク質、水溶性食物繊維以外のその他の成分を含有しても良い。例えば、デキストリン等の糖質、植物油、動物脂、魚油等の油脂、レシチン、リゾレシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、食物繊維、カルシウム、マグネシウム以外のミネラル類及び/又は各種のミネラル類を含むミネラル含有酵母類、ビタミン類、香料等の成分を含有することができる。なお、これらの成分の添加順は特に限定されるものではないが、二価金属塩、リン酸塩及び/又は有機酸塩、タンパク質、水溶性食物繊維の反応を効率的に進めるためには、前記(a)から(c)の工程を経た後に、その他の成分、原料を添加することが好ましい。また、製造した液状食品組成物をソフトバック、アルミパウチ等のパウチ、紙パック、缶、ボトルなどの容器等に充填後、レトルト殺菌機による殺菌処理を実施することができる。また、各原料を混合した調製液をUHT殺菌機等の液体連続殺菌装置により殺菌処理したに後、別途殺菌しておいた容器に無菌充填することもできる。
【0039】
さらに発明における液状食品組成物は、一般的な食品、飲料として利用することができる。タンパク質等の主要な栄養成分と併せて、カルシウム、マグネシウム等のミネラル成分を手軽に摂取できることから、特に栄養補助食品、栄養補助飲料などへの利用が好適である。また、胃内等における固形化率がより向上された液状食品組成物が得られるため、それらの利点を活かした栄養食品、経腸栄養食品、濃厚流動食、糖尿病や腎臓病等の病者用食品、医薬品分類を含む経腸栄養剤などに利用することができる。なお、本発明の液状食品組成物は、経口、経管などの方法により摂取することができ、その摂取方法は特に限定されるものではないが、濃厚流動食、及び経鼻、胃瘻などのチューブを介して摂取する経腸栄養食品、経腸栄養剤としての使用が好適である。
【0040】
本発明の液状食品組成物は、経鼻カテーテル又は胃瘻カテーテルに接続可能な容器に所定の量(例えば、100ml以上500ml以下)が充填された、容器入り液状食品組成物とすることができる。
【0041】
本発明名の液状食品組成物は、高齢者、病者、手術前後の患者又は健常者に対して用いることができる。特に、流動食(医療食)又は経管栄養を必要とする疾患又は状態を有する者に対して用いるのに好適である。このような疾患又は状態には、高齢による噛む力や飲み込む力の不足、嚥下力の低下又は嚥下障害(脳卒中後遺症、筋萎縮性側索硬化症等)、中枢神経疾患による食思不振(痴呆性疾患等)、癌性悪液質などによる食思不振(末期癌症例等)、咽頭から噴門の狭窄(咽頭癌、食道癌、胃噴門部癌等)、成分栄養投与療法が有効な疾患(クローン病等)、胃食道逆流症(非びらん性胃食道逆流症、逆流性食道炎、及びバレット食道を含む。)が含まれる。
【0042】
本発明で「A及び/又はB」というときは、特に記載した場合を除き、AとBとの両方又はいずれか一方の意味で用いている。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)<マグネシウム塩添加後、リン酸塩を添加>
50℃に調整した温水に、炭酸マグネシウム22g(Mgイオン:65mmol/l)を添加し、370rpmで撹拌した。次いで、リン酸二水素カリウム23g(リン酸イオン:42mmol/l)とリン酸二水素ナトリウム・12水和物22g(リン酸イオン:15mmol/l)を、マグネシウム塩を含有する液に添加し、撹拌混合した。さらに、リン酸塩を添加した時刻から10分後(pH6.8)に大豆タンパク質10gを添加し、さらにアルギン酸ナトリウム20gを添加した後に最終液量を4000mlとした。次いで、全量を金属製メッシュ(JIS試験用ふるい60メッシュ:目開き250μm、Φ75mm)でろ過し、80℃、1時間の乾燥後、メッシュ上の残渣重量を測定した[(残渣重量)=(乾燥後メッシュ重量)−(メッシュ風袋重量)]。残渣重量は160mgであり、比較例1と比較してメッシュろ過後の残渣重量は低減され、組成物の通液性は良好であった(表1)。なお、pHは、事前に標準緩衝液(pH4.01±0.02、pH6.86±0.02、pH9.18±0.02:nacalai tesque社製)にて3点校正したpHメーター D−53(HORIBA社製)を反応容器内に設置し、約50℃の温度において測定した。以下の実施例において同じ。
【0045】
(比較例1)<リン酸塩添加後、マグネシウム塩を添加>
50℃に調整した温水に、リン酸二水素カリウム23g(リン酸イオン:42mmol/l)とリン酸二水素ナトリウム・12水和物22g(リン酸イオン:15mmol/l)を添加し、370rpmで撹拌した。次いで、炭酸マグネシウム22g(Mgイオン:65mmol/l)を、リン酸塩を含有する液に添加し、その後の操作は実施例1と同様の方法により実施した。なお、大豆タンパク質添加時のpHはpH6.8であった。その後、実施例1同様、全量を金属製メッシュ(JIS試験用ふるい60メッシュ:目開き250μm、Φ75mm)でろ過し、80℃、1時間の乾燥後、メッシュ上の残渣重量を測定した。比較例1では残渣重量250mgであり、メッシュの閉塞が生じたため、実施例1と比較し、組成物の通液性が非常に悪化した(表1)。
【0046】
【表1】
【0047】
(実施例2)<マグネシウム塩添加後、リン酸塩を添加>
実施例1と同様の方法によりマグネシウム塩(Mgイオン:65mmol/l)とリン酸塩(リン酸イオン:57mmol/l)を含有する液を調製した。さらに、リン酸塩を添加した時刻から60分後(pH7.5)に、アルギン酸ナトリウム20gを添加し、さらに大豆タンパク質10gを添加した。その後、最終液量を4000mlとした後、全量を金属製メッシュ(JIS試験用ふるい42メッシュ:目開き355μm、Φ75mm)でろ過し、80℃、1時間の乾燥後、メッシュ上の残渣重量を測定した。残渣重量は、30mgであり、比較例2と比較して残渣重量は低減され、調製した組成物の全量をろ過することができた(表2)。
【0048】
(比較例2)<リン酸塩添加後、マグネシウム塩を添加>
比較例1と同様の方法によりリン酸塩(リン酸イオン:57mmol/l)とマグネシウム塩(Mgイオン:65mmol/l)を含有する液を調製した。さらに、マグネシウム塩を添加した時刻から60分後(pH7.5)に、アルギン酸ナトリウム20gを添加し、さらに大豆タンパク質10gを添加した。その後、最終液量を4000mlとし、実施例2と同様の方法で、全量を金属製メッシュでろ過したところ、残渣重量は270mgであった。比較例2では、ろ過中にメッシュの目詰まりが生じたため、実施例2と比較し、組成物の通液性が非常に悪化した(表2)。
【0049】
【表2】
【0050】
(実施例3)
炭酸マグネシウム5.5g(Mgイオン:16mmol/l)、炭酸カルシウム7.6g(Caイオン:19mmol/l)を少量の温水に懸濁後、60℃に調整した温水に添加し、撹拌した。次いで、リン酸二水素カリウム5.8g(リン酸イオン:11mmol/l)とリン酸二水素ナトリウム・12水和物5.5g(リン酸イオン:4mmol/l)を少量の温水に溶解後、マグネシウム塩を含有する液に添加した。撹拌混合を継続し、混合物のpHが7.1に到達した時点で、タンパク質180gを添加した。さらに、アルギン酸ナトリウム40gを添加し、その他の原料を(表3)に示す処方量にて添加した後、最終液量を4000mlに調整した。その後、調製液の全量を金属製メッシュ(40メッシュ:目開き405μm、Φ75mm)でろ過し、80℃、1時間の乾燥後、メッシュ上の残渣重量を測定した。実施例3では、残渣重量は20mgであり、メッシュ閉塞を生じることなく全量をろ過可能であった(表4)。
【0051】
(比較例3)
リン酸二水素カリウム5.8g(リン酸イオン:11mmol/l)とリン酸二水素ナトリウム5.5・12水和物g(リン酸イオン:4mmol/l)を少量の温水に溶解後、60℃に調整した温水に添加し、撹拌した。次いで、炭酸マグネシウム5.5g(Mgイオン:16mmol/l)、炭酸カルシウム7.6g(Caイオン:19mmol/l)を少量の温水に懸濁後、リン酸塩を含有する液に添加した。以降の操作は実施例3と同様の原料と方法により実施した。なお、大豆タンパク質添加時のpHはpH7.1であった。調製液を金属製メッシュ(40メッシュ:目開き:405μm、Φ75mm)でろ過した。しかしながら、比較例3ではろ過中にメッシュの閉塞が生じ、全量をろ過することができなかった。なお、調製液の一部をろ過した際のメッシュ上残渣重量から推定した残渣重量は340mgであった(表4)。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
(実施例4)
<固形化率の確認試験>
(1)50ml容量のプラスチック製チューブに、37℃に保温した人工胃液(日本薬局方崩壊試験液第1液、詳しくは、塩化ナトリウム2.0gを塩酸7.0mL及び水に溶解して1000mLとしたもの。この液は無色澄明で、そのpHは約1.2である。)20gを添加した。(2)液状食品組成物10g(25℃)を人工胃液中に添加し、人工胃液と液状食品組成物を含むプラスチック製チューブ重量を測定(〔ろ過前チューブ重量〕とする)した。(3)プラスチック製チューブは、「HL−2000HybriLinker(UVP Laboratory Products社製)」により穏やかに撹拌した。詳しくは、チューブをチャンバー内の固定具に固定し、機器のMotor Controlつまみを"MIN"に設定の上、37℃、2分30秒の条件で撹拌した。(4)固形物をナイロン製網(40メッシュ;(株)相互理化学硝子製作所製)上にて吸引ろ過し、液部分を除いた後に、ナイロン製網ごとペーパータオル等の上に置いて、2分間、余分な水分を除去し、ナイロン製網を含む固形物の重量を測定(〔ろ過後固形物重量〕とする)した。さらに、内容液を払い出した後、風袋中に残存する水分を除去しプラスチック製チューブの重量を測定(〔ろ過後風袋重量〕とする)した。(5)ナイロン製網上に残存した固形物を確認し、固形化率を、式(1)にて計算した。
【0055】
【数1】
【0056】
<液状食品組成物の調製>
炭酸マグネシウム5.5g(Mgイオン:16mmol/l)、炭酸カルシウム7.6g(Caイオン:19mmol/l)を温水に添加し撹拌した。次いで、リン酸二水素カリウム5.8g(リン酸イオン:11mmol/l)とリン酸二水素ナトリウム・12水和物5.5g(リン酸イオン:4mmol/l)を、二価金属塩を含有する液に添加し、二価金属塩とリン酸塩を含む混合物を調製した。撹拌混合を継続し、混合物のpHが、条件1;pH6.2、条件2;pH6.8、条件3;pH7.2、条件4;pH9.5に到達した時点で、タンパク質180gを添加した。さらに、アルギン酸ナトリウム40gを添加後、その他の原料を(表3)に示す処方にて添加し、最終液量を4000mlに調整した。その後、液状食品組成物は、マントン・ゴーリン型高圧乳化機(Rannie2000:APV社製)により均質化処理後(1回目:20MPa、2回目:48MPa)、レトルト殺菌機にて殺菌処理(F値8)した。(表5)に各条件にて液状食品組成物を調製した際の、殺菌処理後の凝集物有無の評価結果、及び固形化率の評価結果を示した。その結果、いずれの条件においても、液状食品組成物中に凝集物の存在は観察されず、固形化率は60%以上となり液状食品組成物は良好に固形した。
【0057】
(比較例4)
炭酸マグネシウム5.5g(Mgイオン:16mmol/l)、炭酸カルシウム7.6g(Caイオン:19mmol/l)を温水に添加し撹拌した。次いで、リン酸11g(リン酸イオン:28mmol/l)を、二価金属塩を含有する水溶液に添加し、二価金属塩とリン酸を含む混合物を調製した。撹拌混合を継続し、混合物のpHが、pH3.5に到達した時点でタンパク質180gを添加した。次いで、アルギン酸ナトリウム40gを添加したところ、混合物の粘度が急激に上昇した。混合物の粘度は1000cPより大きくなり、液状食品組成物の液状の物性が損なわれたものであった。さらに、殺菌処理後の凝集物有無、及び固形化率を評価したところ、凝集物が多量に観察されるとともに、組成物はすでに増粘しており固形化率の評価には適さない物性であった(表5)。なお、液状食品組成物の粘度は、「B型粘度計(トキメック社製)」により測定した。詳しくは、内径60mmのガラス製容器に測定サンプルを投入し、液温度25℃、ロータNo.2、回転数60回転/分、保持時間30秒の条件で3回測定し、その平均値を測定値(粘度)とした。
【0058】
(比較例5)
炭酸マグネシウム5.5g(Mgイオン:16mmol/l)、炭酸カルシウム7.6g(Caイオン:19mmol/l)を温水に添加し撹拌した。次いで、リン酸二水素カリウム5.8g(リン酸イオン:11mmol/l)とリン酸二水素ナトリウム・12水和物5.5g(リン酸イオン:4mmol/l)を、二価金属塩を含有する水溶液に添加し、二価金属塩とリン酸塩を含む混合物を調製した。撹拌混合を継続し、混合物のpHがpH6.0に到達した時点で、タンパク質180gを添加し、その後の操作は(実施例4)と同様の方法により液状食品組成物を調製した。さらに、殺菌処理後の凝集物有無、及び固形化率を評価したところ、液状食品組成物中には凝集物の存在が観察され、さらに固形化率は47%となり低値であった(表5)。
【0059】
【表5】
【0060】
(実施例5)
温度条件を、条件1;20℃、条件2;30℃、条件3;70℃、条件4;80℃とし、(実施例3)と同様の方法により組成物の調製及び、評価を実施した。全量を金属製メッシュ(JIS試験用ふるい36メッシュ:目開き425μm、Φ75mm)でろ過した際の結果を(表6)に記載する。その結果、条件1では残渣重量が75mg以下であったが、条件2〜条件4では残渣重量が50mg以下となり、メッシュ目詰まりを生じることなく全量をろ過可能であった。
【0061】
【表6】
【0062】
(実施例6)
炭酸マグネシウム3.4g(Mgイオン:10mmol/l)に対して、条件1;リン酸二水素カリウム2.7g(リン酸イオン:5mmol/l)、条件2;リン酸二水素カリウム:5.4g(リン酸イオン:10mmol/l)、条件3;リン酸二水素カリウム:32.4g(リン酸イオン:60mmol/l)、条件4;リン酸二水素カリウム65.3g(リン酸イオン:120mmol/l)の添加量とし、二価金属塩とリン酸塩を含む混合物を調製した。撹拌混合を継続し、混合物のpHが、pH7.1を超えた時点で、タンパク質180gを添加した。次いで、その他の原料を(表3)に示す処方にて添加し、最終液量を4000mlに調整した。その後、高圧乳化機により均質化処理、さらに、レトルト殺菌処理した。(表7)に各条件にて調製した際の、殺菌処理後の凝集物の評価結果、及び固形化率の評価結果を示した。その結果、いずれの条件においても、液状食品組成物中に凝集物の存在は観察されず、固形化率は60%以上となり液状食品組成物は良好に固形した。
【0063】
(比較例6)
炭酸マグネシウム3.4g(Mgイオン:10mmol/l)に対して、リン酸塩を無添加(リン酸イオン:0mol/l)とし、実施例6の方法により液状食品組成物を調製した。殺菌処理後の凝集物有無、及び固形化率を評価したところ、液状食品組成物中には凝集物が多量に観察され、さらに固形化率は45%となり低値であった(表7)。
【0064】
【表7】