特許第6409027号(P6409027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409027
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20181004BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
   H02M3/155 Y
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-135233(P2016-135233)
(22)【出願日】2016年7月7日
(65)【公開番号】特開2018-7506(P2018-7506A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2017年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】西部 祐司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康善
(72)【発明者】
【氏名】和田 賢介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 進一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 忠史
(72)【発明者】
【氏名】長尾 雅行
(72)【発明者】
【氏名】村上 義信
(72)【発明者】
【氏名】川島 朋裕
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−149825(JP,A)
【文献】 特開2003−174782(JP,A)
【文献】 特開2014−054114(JP,A)
【文献】 特開2013−106503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電位側の端子と低電位側の端子との間に直列に接続された第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子、第1スイッチング素子と逆並列に接続された第1整流素子、第2スイッチング素子と逆並列に接続された第2整流素子を含み、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子の中点に接続された出力端子が電池の高電位側に接続され、前記低電位側の端子が前記電池の低電位側に接続された半導体モジュールと、
前記出力端子と前記低電位側の端子との間に直列に接続された第1容量素子及び第2容量素子を含み、前記第1容量素子及び前記第2容量素子の中点の電位が、モールド樹脂により封止された状態の前記半導体モジュールが絶縁板を介して設けられた冷却器と同電位である調整部と、
を含むコンバータ回路を備えた電力変換装置。
【請求項2】
前記冷却器は、前記半導体モジュールの両面に絶縁板を介して設けられている、
請求項に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第1容量素子の容量及び前記第2容量素子の容量が異なっている、
請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
高電位側の端子と低電位側の端子との間に直列に接続された第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子、第1スイッチング素子と逆並列に接続された第1整流素子、第2スイッチング素子と逆並列に接続された第2整流素子を含み、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子の中点に接続された出力端子が、第1電池及び第2電池が直列に接続された電源部の高電位側に接続され、前記低電位側の端子が前記電源部の低電位側に接続された第1半導体モジュールを含むコンバータ回路と、
高電位側の端子と低電位側の端子との間に直列に接続された第3スイッチング素子及び第4スイッチング素子、第3スイッチング素子と逆並列に接続された第3整流素子、第4スイッチング素子と逆並列に接続された第4整流素子を含み、前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子の中点に接続された出力端子がモータに接続された第2半導体モジュールを複数含むインバータ回路と、
モールド樹脂により封止された状態の前記第1半導体モジュール及び前記第2半導体モジュール毎に絶縁板を介して設けられ、前記電源部の前記第1電池及び前記第2電池の中点の電位と同電位である複数の冷却器と、
を備えた電力変換装置。
【請求項5】
前記冷却器は、モールド樹脂により封止された状態の前記第1半導体モジュール及び前記第2半導体モジュールの両面に絶縁板を介して設けられている、
請求項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両等において、車両等の駆動に用いるモータに、電池の電圧を電力変換装置で昇圧して供給することが行われている。
【0003】
このような電力変換装置は、インバータ回路及びコンバータ回路を備える。インバータ回路及びコンバータ回路には、いわゆるパワーカードと呼ばれる半導体モジュールが用いられる。当該半導体モジュールは、直列に接続された2つのスイッチング素子と、当該スイッチング素子の各々に逆並列に接続された整流素子を含む。
【0004】
また、半導体モジュールは、一般的に樹脂モールドにより封止される。封止された状態の半導体モジュールは、絶縁板を介して冷却器に積層されている。
【0005】
電力変換装置では、半導体モジュールに含まれるスイッチング素子のオン、オフの動作や配線の寄生インダクタンス等によりサージ電圧や、ノイズが発生するという問題がある。この問題に対して、特許文献1には、電力変換装置において、正電極フレーム及び負電極フレームと冷却器との間に配置され、正電極フレーム及び負電極フレームと冷却器とを容量結合するノイズバイパス手段を備えることにより、発生するノイズを低減する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、電力変換装置において、バスバーの間にスナバ回路を設けることにより、サージ電圧やリンギングを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−106503号公報
【特許文献2】特開2015−95963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の技術では、半導体モジュールを小型化すると、半導体モジュールと電池やモータ等を接続するために半導体モジュールに設けられた端子と、冷却器との距離が近付くため、絶縁性能が低下する場合があった。このように、従来の技術では、半導体モジュールの絶縁性能と半導体モジュールの大きさとが相反関係にあるため、半導体モジュールの小型化に障害があった。
【0009】
本発明は上記の技術を考慮してなされたものであり、絶縁性能を向上させることにより、従来よりも半導体モジュールを小型化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の電力変換装置は、高電位側の端子と低電位側の端子との間に直列に接続された第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子、第1スイッチング素子と逆並列に接続された第1整流素子、第2スイッチング素子と逆並列に接続された第2整流素子を含み、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子の中点に接続された出力端子が電池の高電位側に接続され、前記低電位側の端子が前記電池の低電位側に接続された半導体モジュールと、前記出力端子と前記低電位側の端子との間に直列に接続された第1容量素子及び第2容量素子を含み、前記第1容量素子及び前記第2容量素子の中点の電位が、モールド樹脂により封止された状態の前記半導体モジュールが絶縁板を介して設けられた冷却器と同電位である調整部と、を含むコンバータ回路を備える。
【0012】
また、本発明の電力変換装置の冷却器は、半導体モジュールの両面に絶縁板を介して設けられていてもよい。
【0013】
また、本発明の電力変換装置は、前記第1容量素子の容量及び前記第2容量素子の容量が異なっていてもよい。
【0014】
本発明の電力変換装置は、高電位側の端子と低電位側の端子との間に直列に接続された第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子、第1スイッチング素子と逆並列に接続された第1整流素子、第2スイッチング素子と逆並列に接続された第2整流素子を含み、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子の中点に接続された出力端子が、第1電池及び第2電池が直列に接続された電源部の高電位側に接続され、前記低電位側の端子が前記電源部の低電位側に接続された第1半導体モジュールを含むコンバータ回路と、高電位側の端子と低電位側の端子との間に直列に接続された第3スイッチング素子及び第4スイッチング素子、第3スイッチング素子と逆並列に接続された第3整流素子、第4スイッチング素子と逆並列に接続された第4整流素子を含み、前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子の中点に接続された出力端子がモータに接続され、前記低電位側の端子が前記電源部の低電位側に接続された第2半導体モジュールを複数含むインバータ回路と、モールド樹脂により封止された状態の前記第1半導体モジュール及び前記第2半導体モジュール毎に絶縁板を介して設けられ、前記電源部の前記第1電池及び前記第2電池の中点の電位と同電位である複数の冷却器と、を備える。
【0015】
また、本発明の電力変換装置の冷却器は、モールド樹脂により封止された状態の前記第1半導体モジュール及び前記第2半導体モジュールの両面に絶縁板を介して設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁性能を向上させることにより、従来よりも半導体モジュールを小型化することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を表すブロック図である。
図2】第1実施形態に係る電力変換装置の斜視図である。
図3】第1実施形態に係る積層ユニットを図2のx軸方向に切断した断面を模式的に表した模式図である。
図4】第1実施形態に係る調整部の容量素子により分割される電圧を説明する説明図である。
図5】第1実施形態に係る電力変換装置のP端子と冷却器との間で発生するサージ電圧の波形の一例を示す波形図である。
図6】第1実施形態に係る電力変換装置のO端子と冷却器との間で発生するサージ電圧の波形の一例を示す波形図である。
図7】第1実施形態に係る電力変換装置のN端子と冷却器との間で発生するサージ電圧の波形の一例を示す波形図である。
図8】第1実施形態に係る電力変換装置で発生するサージ電圧の波形を示す波形図である。
図9図8に示したサージ電圧のA点における電荷の挙動を説明する説明図である。
図10図8に示したサージ電圧のB点における電荷の挙動を説明する説明図である。
図11図8に示したサージ電圧のC点における電荷の挙動を説明する説明図である。
図12図8に示したサージ電圧のD点における電荷の挙動を説明する説明図である。
図13】比較例として、マイナス電圧領域をもたないサージ電圧の波形を示す波形図である。
図14図13に示したサージ電圧のE点における電荷の挙動を説明する説明図である。
図15図13に示したサージ電圧のF点における電荷の挙動を説明する説明図である。
図16図13に示したサージ電圧のG点における電荷の挙動を説明する説明図である。
図17】第2実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を表すブロック図である。
図18】第3実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1に示した本実施形態の電力変換装置10Aは、電池14の電力を変換してモータ12の駆動電力として供給する。図1に示すように、本実施形態の電力変換装置10Aは、インバータ回路20、コンバータ回路21A、及び平滑化コンデンサ22を備える。モータ12は、例えば、車両の走行に用いられる。
【0019】
本実施形態のコンバータ回路21Aは、電池14の電圧を昇圧してインバータ回路20へ供給する昇圧動作と、インバータ回路20側から入力される直流電力(モータ12が発生した電力)を降圧して電池14へ供給する降圧動作の両方を行う。
【0020】
コンバータ回路21Aは、パワーカードPC4を備える。パワーカードPC4は、スイッチング素子T41、T42、及び整流素子D41、D42を含む。スイッチング素子T41の一端は、P端子P4(電池14の高電位側)に接続されている。スイッチング素子T41の他端と、スイッチング素子T42の一端とは接続されており、スイッチング素子T41、T42により直列回路を形成している。直列回路の中点は、出力端子O4に接続されている。また、スイッチング素子T42の他端は、N端子N4(電池14の低電位側)に接続されている。整流素子D41は、スイッチング素子T41に逆並列に接続されている。また、整流素子D42は、スイッチング素子T42に逆並列に接続されている。
【0021】
また、コンバータ回路21Aは、スイッチング素子T41及びスイッチング素子T42による直列回路の中点(出力端子O4)に一端が接続され、他端が電池14の高電位側に接続されたリアクトル23を備える。また、コンバータ回路21Aは、電池14の高電位側と低電位側の間に接続されたフィルタコンデンサ24を備える。
【0022】
さらに、本実施形態のコンバータ回路21Aは、冷却器30の電位を固定してサージ電圧の波形を調整する調整部25Aを備えている。調整部25Aは、出力端子O4(リアクトル23の他端)とN端子N4との間に直列に接続された容量素子26及び容量素子28を含む。容量素子26と容量素子28との中点29は、冷却器30(図2、3参照、詳細後述)に接続されており、冷却器30の電位をGND(グランド)電位としている。
【0023】
また、本実施形態のインバータ回路20は、コンバータ回路21Aにより昇圧された直流電力を交流電力に変換する。 図1に示すように、インバータ回路20は、パワーカードPC1、PC2PC3を備える。
【0024】
パワーカードPC1〜PC3は、上述したパワーカードPC4と同様の構成をしている。具体的には、パワーカードPC1は、スイッチング素子T11、T12、及び整流素子D11、D12を含む。スイッチング素子T11の一端は、P端子P1(電池14の高電位側)に接続されている。スイッチング素子T11の他端と、スイッチング素子T12の一端とは接続されており、スイッチング素子T11、T12により直列回路を形成している。直列回路の中点は、出力端子O1に接続されている。また、スイッチング素子T12の他端は、N端子N1(電池14の低電位側)に接続されている。整流素子D11は、スイッチング素子T11に逆並列に接続されている。整流素子D12は、スイッチング素子T12に逆並列に接続されている。また、パワーカードPC2は、スイッチング素子T21、T22、及び整流素子D21、D22を含む。スイッチング素子T21の一端は、P端子P2(電池14の高電位側)に接続されている。スイッチング素子T21の他端と、スイッチング素子T22の一端とは接続されており、スイッチング素子T21、T22により直列回路を形成している。直列回路の中点は、出力端子O2に接続されている。また、スイッチング素子T22の他端は、N端子N2(電池14の低電位側)に接続されている。整流素子D21は、スイッチング素子T21に逆並列に接続されている。整流素子D22は、スイッチング素子T22に逆並列に接続されている。さらに、パワーカードPC3は、スイッチング素子T31、T32、及び整流素子D31、D32を含む。スイッチング素子T31の一端は、P端子P3(電池14の高電位側)に接続されている。スイッチング素子T31の他端と、スイッチング素子T32の一端とは接続されており、スイッチング素子T31、T32により直列回路を形成している。直列回路の中点は、出力端子O3に接続されている。また、スイッチング素子T32の他端は、N端子N3(電池14の低電位側)に接続されている。整流素子D31は、スイッチング素子T31に逆並列に接続されている。整流素子D32は、スイッチング素子T32に逆並列に接続されている。
【0025】
出力端子O1〜O3は、モータ12に接続されており、出力端子O1〜O3の各々からは、モータ12のU相、V相、及びW相(いずれも図示省略)に対応する交流が出力される。
【0026】
また、平滑化コンデンサ22は、コンバータ回路21Aの出力に重畳しているノイズを除去する。平滑化コンデンサ22は、インバータ回路20(P端子P1〜P3、N端子N1〜N3)に並列に接続されており、また、コンバータ回路21A(P端子P4、N端子N4)にも並列に接続されている。
【0027】
スイッチング素子T11、T12、T21、T22、T31、T32、T41、T42の各々は、制御回路2から出力される制御信号に応じて、オン、オフが制御される。スイッチング素子T11、T12、T21、T22、T31、T32、T41、T42は、トランジスタ素子であり、具体例としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が挙げられる。なお、IGBTに限らず、大電流の電力の変換に用いることが可能な、いわゆるパワー半導体素子であれば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等の他のトランジスタ素子であってもよい。
【0028】
整流素子D11、D12、D21、D22、D31、D32、D41、D42の具体例としては、PINダイオードが挙げられるが、他のダイオードであってもよい。
【0029】
次に、本実施形態の電力変換装置10Aのハードウエア構成を説明する。
【0030】
パワーカードPC1〜PC4は、いわゆるパワーモジュールであり、半導体モジュールである。以下では、パワーカードPC1〜PC4を区別せずに総称する場合は、個々を区別するための1〜4の符号を省略して記載する。また、スイッチング素子T11、T12、T21、T22、T31、T32、T41、T42についても、区別せずに総称する場合は、個々を区別するための11〜42の符号を省略して記載する。
【0031】
図2に電力変換装置10Aの斜視図を示す。パワーカードPCと冷却器30とは交互に積層されており、各パワーカードPCは、両面に平板型の冷却器30が積層された積層ユニット49として設けられている。 積層ユニット49は、図2に示すx軸方向に積層されている。各積層ユニット49の冷却器30には、貫通孔が設けられ、冷却器水路31により冷媒が循環供給される。
【0032】
容量素子26、28の中点29は、接続配線32により、冷却器水路31に接続されている。このように本実施形態の電力変換装置10Aでは、容量素子26、28の中点29は、接続配線32及び冷却器水路31を介して、冷却器30に接続されている。
【0033】
図3には、積層ユニット49を図2のx軸方向に切断した断面を模式的に表した模式図を示す。パワーカードPCは、スイッチング素子T及び当該スイッチング素子Tに逆並列に接続された整流素子Dの組合せ毎に、電極板41の間に積層され、モールド樹脂42により封止されている。図3に示すようにモールド樹脂42の両面(パワーカードPCの積層方向の両側の面)には、絶縁板43を介して冷却器30が設けられている。
【0034】
モールド樹脂42の内部から外部に突出したリードフレーム端子40は、P端子P、N端子N、及び出力端子Oの各々を電池14やモータ12等と接続するための端子である。図3では記載を省略したが、中点29と冷却器30とを接続する接続配線32も、リードフレーム端子40と同様に、モールド樹脂42の内部から外部に突出している。
【0035】
次に、本実施形態の電力変換装置10Aの作用を説明する。
【0036】
本実施形態の調整部25Aは、パワーカードPC4に入力される電池14の電圧を容量素子26及び容量素子28により分割し、中点29を冷却器30に接続することにより、冷却器30の電位を固定する。容量素子26及び容量素子28により分割される電圧について説明する。
【0037】
図4に示すように、容量素子26の静電容量をC1、容量素子28の静電容量をC2、容量素子26及び容量素子28の各々が蓄えられる電荷の大きさをQ、電池電圧をV、容量素子26により分圧された電圧をV1、及び容量素子28により分圧された電圧をV2とすると、下記(1)〜(3)式が成り立つ。
【0038】
Q=C1×V1 ・・・(1)
Q=C2×V2 ・・・(2)
V=V1+V2 ・・・(3)
上記(1)式及び(2)式より、下記(4)式が得られる。下記(4)式は、下記(5)式及び(6)式に書き換えられる。
【0039】
C1×V1=C2×V2 ・・・(4)
V1=C2×V2/C1 ・・・(5)
V2=C1×V1/C2 ・・・(6)
上記(3)式及び(5)式より、下記(7)式が得られる。下記(7)式は、下記(8)式に書き換えられる。
【0040】
V=V2+C2×V2/C1 ・・・(7)
V2=C1/(C1+C2)×V ・・・(8)
上記(3)式及び(6)式より、下記(9)式が得られる。下記(9)式は、下記(10)式に書き換えられる。
【0041】
V=V1+C1×V1/C2 ・・・(9)
V1=C2/(C1+C2)×V ・・・(10)
上記(8)式及び(10)式から、容量素子26の静電容量C1が大きくなると電圧V2が大きくなることがわかる。また、逆に、容量素子28の静電容量C2が大きくなると電圧V1が大きくなることがわかる。従って、容量素子26の静電容量C1及び容量素子28の静電容量C2(容量比)に応じて、冷却器30を固定する電位が変化する。
【0042】
次に、冷却器30との間で発生するサージ電圧について説明する。図5には、本実施形態の電力変換装置10AのP端子P4と冷却器30との間で発生するサージ電圧の波形の一例を示す。また、図6には、本実施形態の電力変換装置10AのO端子O4と冷却器30との間で発生するサージ電圧の波形の一例を示す。さらに、図7には、本実施形態の電力変換装置10AのN端子N4と冷却器30との間で発生するサージ電圧の波形の一例を示す。なお、図5〜7は、電池14の電圧が200V、コンバータ回路21Aにより昇圧された電圧(P端子P1〜P4とN端子N1〜N4との間の電圧)が数百V程度の場合の具体例を示している。
【0043】
図5図7に示すように、本実施形態の電力変換装置10Aにおいて、冷却器30との間で発生するサージ電圧の波形には、いずれも、マイナス電圧(オフセット電圧)が印加されるマイナス電圧印加領域が現れている。
【0044】
本実施形態の電力変換装置10Aでは、このようにサージ電圧の波形をマイナス電圧(オフセット電圧)印加領域が現れる波形とすることにより、電力変換装置10Aの沿面絶縁性を向上させている。なお、本実施形態において「沿面」とは、図3に「沿面」として示したように、リードフレーム端子40と冷却器30との間のモールド樹脂42の表面のことをいい、「沿面絶縁性」とは、当該沿面の絶縁性のことをいう。なお、図3では、「沿面」として、リードフレーム端子40と一方の冷却器30との間を表しているが、リードフレーム端子40と他方の冷却器30との間も同様に「沿面」ということはいうまでもない。
【0045】
サージ電圧の波形をマイナス電圧印加領域が現れる波形とすることにより、沿面絶縁性を向上させることができるメカニズムを、図8に示した波形のサージ電圧が発生した場合を例として、図9〜12を参照して説明する。
【0046】
サージ電圧の発生が開始して、最初のサージピーク電圧が印加されるA点では、図9に示すように、検出感度以下の部分放電により、正(+)負(−)の電荷がモールド樹脂42の表面に帯電する。この際、サージピーク電圧はスパイク的に発生するため印加時間が短い。そのため、正負の電荷の移動量はわずかであり、対極に到達しない。
【0047】
電荷が消滅せずに外部電界(図10のサージ・DC電圧発生回路参照)によって保持電圧が印加された状態となるB点では、図10に示すように、負電荷は高電圧電極(H.V.)側に、正電荷はGND電極側へ移動する。
【0048】
オフセット電圧が印加された状態となるC点では、図11に示すように、正電荷は高電圧電極側、負電荷はGND電極側に移動するため中和される。なお、正負ともに一部の電荷が対極付近まで移動する。
【0049】
さらに、再びサージピーク電圧が印加されるD点では、図12に示すように、高電圧電極側では正電荷が発生し、GND電極側では負電荷が発生する。発生した正負の電荷は、各々ホモ電荷として作用して各電極近傍の電界が緩和される。なお、ホモ電荷とは、電極の近傍に存在する当該電極と同極性の電荷のことをいう。
【0050】
このように、本実施形態の電力変換装置10Aでは、繰り返しサージピーク電圧が印加されても、ホモ電荷の発生により電界が緩和されるため、火花放電の発生を抑制することができる。
【0051】
ここで、比較のため、本実施形態の電力変換装置10Aにおいて発生するサージ電圧と異なり、サージ電圧の波形にマイナス電圧印加領域が無く、オフセット電圧の印加が生じない場合のメカニズムを、図13に示した波形のサージ電圧が発生した場合を例として、図14〜16を参照して説明する。
【0052】
サージ電圧の発生が開始して、最初のサージピーク電圧が印加されるE点では、図14に示すように、上述したA点の場合と同様に検出感度以下の部分放電により、正負の電荷が表面に帯電する。この際、サージピーク電圧はスパイク的に発生するため印加時間が短い。そのため、正負の電荷の移動量はわずかであり、対極に到達しない。なお、図8図13とを比較するとわかるように、この場合のサージピーク電圧(E点の電圧)は、A点の電圧よりも高い。図13に例示したサージ電圧では、マイナス電圧領域をもたないため、サージピーク電圧が本実施形態の電力変換装置10Aにおいて発生するサージ電圧よりも高くなる。
【0053】
電荷が消滅せずに外部電界(図15のサージ・DC電圧発生回路参照)によって保持電圧が印加された状態となるF点では、上述したB点と同様に図15に示すように、負電荷は高電圧電極側に、正電荷はGND電極側へ徐々に移動し、各々電極の近くに到達する。
【0054】
さらに、再びサージピーク電圧が印加されるG点では、図16に示すように、さらに電荷が移動し、対極まで到達した電荷は、ヘテロ電荷として作用して、各電極近傍の電界が強調される。なお、ヘテロ電荷とは、電極の近傍に存在する当該電極と逆極性の電荷のことをいう。
【0055】
このように、図13〜16に示した場合では、繰り返しサージピーク電圧が印加されることにより、ヘテロ電荷が蓄積されていくため、火花放電が発生し易くなる。
【0056】
これに対して、本実施形態の電力変換装置10Aでは、調整部25AがパワーカードPC4に入力される電池14の電圧を直列に接続された容量素子26及び容量素子28により分割し、その中点29を冷却器30に接続することにより、冷却器30の電位を固定する。
【0057】
そのため、本実施形態の電力変換装置10Aによれば、リードフレーム端子40と冷却器30との間の沿面に発生するサージ電圧の波形をマイナス電圧領域(オフセット電圧を印加する領域)を有する波形とすることができる。
【0058】
これにより、本実施形態の電力変換装置10Aでは、絶縁性能を向上させることができる。また、絶縁性が向上することによりリードフレーム端子40と冷却器30との間の距離(沿面の距離)を短くすることができるため、従来よりも半導体モジュールを小型化することができる。
【0059】
なお、サージ電圧の波形(サージピーク電圧、保持電圧、保持時間、及び繰り返し周期等)に応じて、マイナス電圧領域のパターン(オフセット電圧)を調整してもよい。この場合、上述したように容量素子26の静電容量C1及び容量素子28の静電容量C2を調整して容量比を変化させることにより、冷却器30を固定する電位を調整してやればよい。例えば、サージピーク電圧の値及び保持電圧の少なくとも一方が大きい場合、オフセット電圧の値を大きくすることにより、絶縁寿命を向上させることができる。
【0060】
なお、容量素子26及び容量素子28に可変コンデンサを適用し、容量素子26の静電容量C1及び容量素子28の静電容量C2(容量比)を、制御回路2等の制御に応じて可変としてもよい。
[第2実施形態]
本実施形態の電力変換装置は、冷却器30の電位を固定してサージ電圧の波形を調整する調整部が第1実施形態と異なる位置に設けられている。
【0061】
本実施形態の電力変換装置は、第1実施形態の電力変換装置(図1等参照)と同様の構成を含むため、同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0062】
図17に示すように、本実施形態の電力変換装置10Bのコンバータ回路21Bには、第1実施形態の電力変換装置10A(図1参照)と異なり、調整部25Aが設けられていない。本実施形態の電力変換装置10Bでは、第1実施形態の調整部25Aと同等の機能を有する調整部25Bが第1実施形態の平滑化コンデンサ22(図1参照)の代わりに設けられている。なお、図17では、制御回路2の図示を省略している。
【0063】
図17に示すように、調整部25Bは、インバータ回路20のP端子(P1、P2、P3)とN端子(N1、N2、N3、N4)との間に直列に接続された平滑化コンデンサ22A、22Bを含む直列回路である。平滑化コンデンサ22Aと平滑化コンデンサ22Bとの中点29は、冷却器30に接続されており、冷却器30の電位をGND(グランド)電位としている。
【0064】
そのため、本実施形態の電力変換装置10Bにおいても、第1実施形態の電力変換装置10Aと同様に、冷却器30の電位が安定した電位に固定され、また、サージ電圧の波形をマイナス電圧領域を有する波形とすることができる。
【0065】
従って、本実施形態の電力変換装置10Bにおいても、第1実施形態の電力変換装置10Aと同様に、絶縁性能を向上させることができる。また、絶縁性が向上することによりリードフレーム端子40と冷却器30との間の距離(沿面の距離)を短くすることができるため、従来よりも半導体モジュールを小型化することができる。
[第3実施形態]
図18に示すように、本実施形態の電力変換装置は、冷却器の電位を固定する場所(冷却器を接続する接続先)が上記各実施形態と異なっている。なお、本実施形態の電力変換装置10Cは上記各実施形態の電力変換装置(図1、17等参照)と同様の構成を含むため、同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0066】
本実施形態の電力変換装置10Cでは、上記各実施形態の電池14に代わり、電源部15から電圧が供給される。
【0067】
電源部15は、直列に接続された電池14A及び電池14Bを備えた直列回路である。電池14Aの高電位側及び電池14Bの低電位側が、電力変換装置10Cのコンバータ回路21Bに接続されている。電源部15は、上記各実施形態における調整部25A、25Bと同等の機能を有する。
【0068】
電池14Aと電池14Bとの中点29は、冷却器30に接続されており、冷却器30の電位をGND(グランド)電位としている。すなわち、本実施形態の電力変換装置10Cでは、上記各実施形態の電池14の電圧を電池14A及び電池14Bによる直列回路とすることにより分圧し、分圧した電圧に、冷却器30の電位を固定している。
【0069】
そのため、本実施形態の電力変換装置10Cにおいても、上記各実施形態の電力変換装置10A、10Bと同様に、冷却器30の電位が安定した電位に固定され、また、サージ電圧の波形をマイナス電圧領域を有する波形とすることができる。
【0070】
従って、本実施形態の電力変換装置10Cにおいても、上記各実施形態の電力変換装置10A、10Bと同様に、絶縁性能を向上させることができる。また、絶縁性が向上することによりリードフレーム端子40と冷却器30との間の距離(沿面の距離)を短くすることができるため、従来よりも半導体モジュールを小型化することができる。
【0071】
以上説明したように、上記各実施形態の電力変換装置10A、10B、10Cでは、冷却器30の電位を電力変換装置10A、10B、10Cにより作り出した安定した電位に固定することにより、発生するサージ電圧の波形を、マイナス電圧領域(オフセット電圧を印加する領域)を有する波形としている。
【0072】
そのため、上記各実施形態の電力変換装置10A、10B、10Cでは、各パワーカードPCにおける沿面絶縁性を向上させることができる。そして、絶縁性を向上させたことにより、従来よりも半導体モジュールを小型化することができる。
【0073】
また、上記各実施形態の電力変換装置10A、10B、10Cによれば、電力変換装置10A、10B、10Cにより作り出した安定な電位に固定することにより、冷却器30を接地等することなく電位を安定させることができる。
【0074】
なお、上記各実施形態の電力変換装置10A、10B、10Cでは、パワーカードPCの両面に冷却器30が積層されている場合(図3参照)について説明したが、冷却器30は、片面のみに積層されていてもよい。
【0075】
なお、本実施の形態で説明した電力変換装置10A、10B、10C等の構成及び動作等は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において状況に応じて変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0076】
2 制御回路
10A、10B、10C 電力変換装置
14、14A、14B 電池
20 インバータ回路
21A、21B コンバータ回路
22、22A、22B 平滑化コンデンサ
25A、25B 調整部
26、28 容量素子
29 中点
30 冷却器
40 リードフレーム端子
49 積層ユニット
PC1、PC2、PC3、PC4 パワーカード
TC11、TC12、TC21、TC22、TC31、TC32、TC41、TC42 スイッチング素子
D11、D12、D21、D22、D31、D32、D41、D42 整流素子
P1、P2、P3、P4 P端子
N1、N2、N3、N4 N端子
O1、O2、O3、O4 O端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18