(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
経口投与、脂肪内投与(intraadiposally)、動脈内投与、関節内投与、頭蓋内投与、皮内投与、病巣内投与、筋肉内投与、鼻内投与、眼内投与、心腔部内投与、腹腔内投与、肋膜内投与、前立腺内投与、直腸内投与、髄腔内投与、気管内投与、腫瘍内投与、臍内投与、膣内投与、静脈内投与、小胞内投与、硝子体内投与、リポソームによる投与、局部投与、粘膜投与、非経口投与、直腸投与、結膜下投与、皮下投与、舌下投与、局所投与、経頬投与、経皮投与、膣投与、クリームとしての投与、脂質組成物としての投与、カテーテルを介する投与、胃洗浄を介する投与、連続的注入を介する投与、注入を介する投与、吸入を介する投与、注射を介する投与、局部送達を介する投与、局所灌流を介する投与用に製剤化されている、請求項9に記載の医薬組成物。
硬または軟カプセル剤、錠剤、シロップ剤、懸濁剤、固体分散剤、ウエハ剤またはエリキシル剤として製剤化されている、請求項9から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
状態が、皮膚疾患もしくは障害、敗血症、皮膚炎、骨関節炎、癌、炎症、自己免疫疾患、炎症性腸疾患、電離放射線への局部もしくは全身暴露による合併症、粘膜炎、急性もしくは慢性臓器不全、肝疾患、膵炎、眼疾患、肺疾患または糖尿病である、請求項27から29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
皮膚疾患または障害が、皮膚炎、熱的または化学的火傷、慢性創傷、挫瘡、脱毛症、毛包の他の障害、表皮水泡症、日焼け、日焼けの合併症、皮膚色素沈着の障害、老化関連皮膚疾患、外科的処置後の創傷、皮膚の傷害もしくは火傷からの瘢痕、乾癬、自己免疫疾患または移植片対宿主病の皮膚科学的兆候、皮膚癌、皮膚細胞の過剰増殖が関与する障害である、請求項31に記載の医薬組成物。
眼疾患が、ぶどう膜炎、黄斑変性、緑内障、糖尿病性黄斑浮腫、眼瞼炎、糖尿病性網膜障害、角膜内皮の疾患または障害、外科的処置後炎症、ドライアイ、アレルギー性結膜炎またはある型の結膜炎である、請求項45に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、1つの態様において、本明細書中においてRTA408ともいう、化合物:N−((4aS,6aR,6bS,8aR,12aS,14aR,14bS)−11−シアノ−2,2,6a,6b,9,9,12a−ヘプタメチル−10,14−ジオキソ−1,2,3,4,4a,5,6,6a,6b,7,8,8a,9,10,12a,14,14a,14b−オクタデカヒドロピセン−4a−イル)−2,2−ジフルオロプロパンアミドを提供する。他の非限定的態様において、本発明は、それらの溶媒和物を含めたそれらの多形体も提供する。他の非限定的態様において、本発明は、それらの医薬として許容される塩も提供する。他の非限定的態様において、これらの化合物およびそれらの多形体の調製方法、医薬組成物、ならびにキットおよび製品も提供する。
【0045】
I.定義
化学基の文脈で用いられる場合:「水素」は−Hを意味し;「ヒドロキシ」は−OHを意味し;「オキソ」は=Oを意味し;「カルボニル」は−C(=O)−を意味し;「カルボキシ」は(−COOHまたは−CO
2Hとも書かれる)−C(=O)OHを意味し;「ハロ」は、独立して、−F、−Cl、−Brまたは−Iを意味し;「アミノ」は−NH
2を意味し;「ヒドロキシアミノ」は−NHOHを意味し;「シアノ」は−CNを意味し;「シアネート」は−N=C=Oを意味し;「アジド」は−N
3を意味し;一価の文脈では、「ホスフェート」は−OP(O)(OH)
2またはその脱プロトン化形態を意味し;二価の文脈では、「ホスフェート」は−OP(O)(OH)O−またはその脱プロトン化形態を意味し;「チオ」は=Sを意味し;「スルホニル」は−S(O)
2−を意味する。本出願で示される構造の原子についてのいずれの定義されていない原子価も、黙示的に、原子に結合した水素原子を表す。
【0046】
単語「a」または「an」の使用は、特許請求の範囲および/または明細書において用語「含む」と共に用いられる場合、「1つ」を意味することができるが、それは、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、および「1または1を超える」の意味とも合致する。
【0047】
本出願全体を通じて、用語「約」は、値がデバイスについての誤差の固有の変動を含むことを示すのに用いられ、該方法は、該値、または実験対象中に存在する変動を決定するのに使用される。X線粉末回折の文脈で用いられる場合、用語「約」は、報告された値から±0.2°の2θの値、好ましくは、報告された値から±0.1°の2θの値を示すのに用いられる。示差走査熱量測定またはガラス転移温度の文脈で用いられる場合、用語「約」は、ピークの最大に対して±10℃の値、好ましくは、ピークの最大に対して±2℃の値を示すのに用いられる。もう1つの文脈で用いられる場合、用語「約」は、報告された値の±10%の値、好ましくは、報告された値の±5%の値を示すのに用いられる。用語「約」が用いられる場合は常に、示される正確な数値への具体的な言及も含まれると理解されるべきである。
【0048】
用語「含む」、「有する」および「包含する」は制約がない連結動詞である。「含む」、「含んでいる」、「有する」、「有している」、「包含する」および「包含している」のようなこれらの動詞の1つ以上のいずれの形態または時制もやはり制約がない。例えば、1つ以上の工程を「含む」、「有する」または「包含する」いずれの方法も、それらの1つ以上の工程のみの保有に限定されず、他のリストされていない工程も網羅する。
【0049】
用語「有効な」は、その用語が明細書および/または特許請求の範囲で用いられるように、所望の、期待された、または意図された結果を達成するのに適切なことを意味する。「有効量」、「治療上有効量」または「医薬として有効な量」は、化合物で患者または対象を治療する文脈で用いられる場合、疾患を治療するために対象または患者に投与される場合に、疾患に対してそのような治療を行うのに十分な化合物の量を意味する。
【0050】
用語「水和物」は、化合物に対する修飾語として用いられる場合、化合物が、1つ未満の(例えば、半水和物)、1つの(例えば、一水和物)、または1を超える(例えば、二水和物)、化合物の固体形態におけるような、各化合物分子に会合した水分子を有することを意味する。
【0051】
本明細書中で用いる場合、用語「IC
50」とは、最大応答の50%が得られる阻害的用量をいう。この定量的な尺度は、所与の生物学的、生化学的または化学的プロセス(またはプロセスの構成成分、すなわち、酵素、細胞、細胞受容体または微生物)を半分だけ阻害するのに、どれくらい多くの特定の薬物または他の物質(阻害剤)が必要とされるかを示す。
【0052】
第一の化合物の「異性体」は、各分子が第一の化合物と同一の構成原子を含有するが、三次元においてそれらの原子の立体配置が異なる、別の化合物である。
【0053】
本明細書中で用いる場合、用語「患者」または「対象」とは、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、またはそれらの遺伝子導入種のような、生きている哺乳類生物をいう。ある実施形態において、患者または対象はヒトではない哺乳動物である。ある実施形態において、患者または対象は霊長類である。ある実施形態において、患者または対象はヒトである。ヒト対象の非限定的例は成人、年少者、幼児および胎児である。
【0054】
本明細書中で一般的に用いる場合、「医薬として許容される」とは、健全な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または合理的なリスク・ベネフィット比にふさわしい他の問題または複雑化要因なくして、ヒトおよび動物の組織、臓器および/または体液と接触して用いられるのに適した化合物、物質、組成物および/または剤形をいう。
【0055】
「医薬として許容される塩」は、先に定義されたように、医薬として許容され、所望の薬理学的活性を保有する、本発明の化合物の塩を意味する。そのような塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等のような無機酸とで;または1,2−エタンジスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、3−フェニルプロピオン酸、4,4’−メチレンビス(3−ヒドロキシ−2−エン−1−カルボン酸)、4−メチルビシクロ[2.2.2]オクタ−2−エン−1−カルボン酸、酢酸、脂肪族モノおよびジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、ショウノウスルホン酸、炭酸、桂皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコへプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、フェニル置換アルカン酸、プロピオン酸、p−トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、第三級ブチル酢酸、トリメチル酢酸等のような有機酸とで形成された酸付加塩を含む。医薬として許容される塩は、存在する酸性プロトンが無機または有機塩基と反応することができる場合に形成され得る塩基付加塩も含む。許容される無機塩基は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化カルシウムを含む。適当な有機塩基は、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N−メチルグルカミン等を含む。本発明のいずれかの塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、全体として、塩が薬理学的に許容される限りは臨界的ではないと認識されるべきである。医薬として許容される塩およびそれらの調製および使用の方法の追加の例は、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,and Use(P.H.Stahl & C.G.Wermuth編,Verlag Helvetica Chimica Acta,2002)に示されている。
【0056】
「予防」または「予防する」は:(1)疾患の危険性があり、および/または疾患の素因があり得るが、疾患の病状または総体症状のいずれかまたは全てを未だ経験したことがない、または見せたことがない対象または患者における疾患の開始を阻害すること、および/または(2)疾患の危険性があり、および/または疾患の素因があり得るが、疾患の病状または総体症状のいずれかまたは全てを未だ経験したことがない、または見せたことがない対象または患者における疾患の病状または総体症状の開始を遅らせることを含む。
【0057】
「プロドラッグ」は、インビトロにて代謝により本発明による阻害剤に変換可能な化合物を意味する。プロドラッグそれ自体は、所与の標的タンパク質に関して活性を有すことができ、または有することができない。例えば、ヒドロキシ基を含む化合物は、インビボにて加水分解によってヒドロキシ化合物に変換されるエステルとして投与することができる。インビボにてヒドロキシ化合物に変換することができる適当なエステルは、アセテート、シトレート、ラクテート、ホスフェート、タルトレート、マロネート、オキサレート、サリシレート、プロピオネート、スクシネート、フマレート、マレエート、メチレン−ビス−β−ヒドロキシナフトエート、ゲンチセート、イセチオネート、ジ−p−トルオイルタルトレート、メタンスルホネート、エタンスルホネート、ベンゼンスルホネート、p−トルエンスルホネート、シクロヘキシルスルファメート、キネート、アミノ酸のエステル等を含む。同様に、アミン基を含む化合物は、インビボにて加水分解によってアミン化合物に変換されるアミドとして投与することができる。
【0058】
「立体異性体」または「光学異性体」は、同一の原子が同一の他の原子に結合されているが、三次元において、それらの原子の立体配置が異なる所与の化合物の異性体である。「エナンチオマー」は、左手および右手のように、相互の鏡像である所与の化合物の立体異性体である。「ジアステレオマー」は、エナンチオマーではない所与の化合物の立体異生体である。キラル分子は、いずれかの2つの基の相互交換が立体異性体を生じるような基を担う分子において、必ずしも原子ではないが、いずれかの点である、立体中心またはステレオジェニック中心ともいうキラル中心を含む。他の原子が有機および無機化合物において立体中心となることも可能であるが、有機化合物において、キラル中心は、典型的には、炭素、リンまたは硫黄原子である。分子は多数の立体中心を有することができ、それに多くの立体異性体を与える。その立体異性が四面体中心(例えば、四面体炭素)による化合物において、仮定的に可能な立体異性体の合計数は2nを超えず、ここで、nは四面体立体中心の数である。対称性を持つ分子は、頻繁に、最大可能な数よりも小ない立体異性体を有する。エナンチオマーの50:50混合物は、ラセミ混合物という。または、エナンチオマーの混合物は、1つのエナンチオマーが50%よりも大きな量で存在するように、エナンチオマー的に豊富化され得る。典型的には、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーは、当該分野で公知の技術を用いて分割または分離することができる。立体化学が定義されていないキラルティーのいずれかの立体中心または軸については、キラルティーの立体中心または軸は、ラセミ混合物および非ラセミ混合物を含めて、そのR形態、S形態にて、またはRおよびS形態の混合物として存在することができると考えられる。本明細書中で用いる場合、フレーズ「他の立体異性体を実質的に含まない」は、組成物が≦15%、より好ましくは≦10%、なおより好ましくは≦5%、または最も好ましくは≦1%のもう1つの立体異性体を含有することを意味する。
【0059】
「治療」または「治療する」は、(1)疾患の病状または総体症状を経験している、または示している対象または患者において疾患を阻害すること(例えば、病状および/または総体症状のさらなる発生を阻止すること)、(2)疾患の病状または総体症状を経験している、または示している対象または患者において疾患を改善すること(例えば、病状および/または総体症状を逆行させること)、および/または(3)疾患の病状または総体症状を経験している、または示している対象または患者において疾患のいずれかの測定可能な減少を行うことを含む。
【0061】
【化2】
は、同一の構造を表す。点が炭素上に描かれている場合、点は、その炭素に結合した水素原子が頁の面から外に出ていることを示す。
【0062】
上記定義は、参照により本明細書に組み込む文献のいずれかにおけるいずれの矛盾する定義よりも優先する。しかしながら、ある用語が定義されているという事実は、定義されていないいずれかの用語が不明確であることを示すと考えるべきではない。むしろ、用いる全ての用語は、当業者が範囲を認識し、本発明を実施することができるような用語で発明を記載していると考えられる。
【0063】
II.RTA408および合成方法
RTA408は、以下のセクションに記載された方法に従って調製することができる。これらの方法は、当業者によって適用される有機化学の原理および技術を用いてさらに修飾し、最適化することができる。そのような原理および技術は、例えば、参照により本明細書に組み込む、March’s Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms, and Structure(2007)に教示されている。
【0064】
本発明のいずれかの塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、全体として、塩が薬理学的に許容される限り、臨界的ではないと認識されるべきである。医薬として許容される塩およびこれらの調製および使用方法の追加の例は、参照により本明細書に組み込む、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,and Use(2002)に示されている。
【0065】
RTA408はプロドラッグ形態で存在してもよい。プロドラッグは、医薬の多数の望ましい性質、例えば、溶解性、生物学的利用性、製造性等を高めることが知られているので、本発明のいくつかの方法で使用される化合物は、必要に応じて、プロドラッグ形態で送達することができる。かくして、本発明では、本発明の化合物のプロドラッグならびにプロドラッグを送達する方法が考えられる。本発明で使用される化合物のプロドラッグは、修飾がルーチン的な操作で、またはインビボにて親化合物に切断されるように、化合物に存在する官能基を修飾することによって調製することができる。従って、プロドラッグは、例えば、ヒドロキシ、アミノまたはカルボキシ基が、プロドラッグが患者に投与された場合に、切断されて、各々、ヒドロキシ、アミノまたはカルボン酸を形成するいずれかの基に結合されている、本明細書中に記載された化合物を含む。
【0066】
RTA408は、1つ以上の非対称に置換された炭素または窒素原子を含有してよく、光学的に活性なまたはラセミ形態に単離してよい。かくして、具体的な立体化学または異性形態が具体的に示されているのでなければ、全てのキラル、ジアステレオマー、ラセミ形態、エピマー形態および構造の全ての幾何異性形態が意図されている。RTA408はラセミ化合物およびラセミ混合物、単一のエナンチオマー、ジアステレオマー混合物および個々のジアステレオマーとして存在することができる。いくつかの実施形態において、単一のジアステレオマーが得られる。本発明によるRTA408のキラル中心は、SまたはR立体配置を有することができる。
【0067】
加えて、本発明のRTA408を構成する原子は、そのような原子の全ての同位体形態を含むことが意図されている。同位体は、本明細書中で用いる場合、同一の原子番号を有するが、異なる質量数を有する原子を含む。一般的な例として、限定されるものではないが、水素の同位体はトリチウムおよびジュウテリウムを含み、炭素の同位体は
13Cおよび
14Cを含む。同様に、本発明の化合物の1つ以上の炭素原子はケイ素原子によって置き換えることができると考えられる。さらに、RTA408の1つ以上の酸素原子は、硫黄またはセレン原子によって置き換えることができると考えられる。
【0068】
RTA408およびその多形体は、それらは、本明細書中で述べられた適応症で用いられる先行技術で知れられた化合物よりも効果的であり、毒性が低く、長く作用し、有力であり、少ない副作用を生じ、容易に吸収され、および/または良好な薬物状態プロフィール(例えば、より高い経口生物学的利用性および/またはより低いクリアランス)を有し、および/または他の有用な薬理学的、物理的または化学的利点を有する利点を有することもできる。
【0069】
III.RTA408の多形体
いくつかの実施形態において、本発明は、それらの溶和異物を含めた、RTA408の異なる固体形態を提供する。多形実験を行い、RTA408は2つの実質的に溶媒を含まない結晶形(形態Aおよび形態B)で見出された。種類の記載については、以下の表1参照。結晶形Aは準安定であり、181.98℃の融点およびΔH融解=42.01J/gを有する。この形態は、RTA408の非晶形を得るための、または押出製剤における利用性を有し得る。結晶形Aはわずかに吸湿性であり得る(TGA−MSにおいてほぼ0.5wt%の質量喪失、
図55)。結晶形Bは、より高い融点(250.10℃)およびより大きな融解のエンタルピー(ΔH融解=47.85J/g)によって示される形態Aよりも大きな熱力学的安定性を有する。形態Aと比較して、より大きな化学的および物理的安定性が、雰囲気温度および上昇した温度の双方において、形態Bで予期される。TGA−MSによって示されるように、最小量の表面水が形態Bに存在し得る(
図58)。
【0070】
新しい形態はPXRDによって特徴付けられた(表8および表9)。
【0072】
IV.炎症および/または酸化ストレスに関連する疾患
炎症は、感染性もしくは寄生性生物に対する抵抗性、および損傷された組織の修復を提供する生物学的過程である。炎症は、通常、局所血管拡張、発赤、腫れ、および痛み、白血球の感染または傷害の部位への動員、TNF−αおよびIL−1のような炎症性サイトカインの生産、および過酸化水素、超酸化物およびペルオキシナイトライトのような反応性酸素もしくは窒素種の生産によって特徴付けられる。炎症のより遅い段階において、組織再形成、血管形成および瘢痕形成(線維症)が、創傷治癒過程の一部として起こり得る。正常な状況下では、炎症応答は調節され、一時的であり、感染または傷害が適切に扱われると、組織的に解決される。しかしながら、急性炎症は過剰となりかねず、もし調節メカニズムが失敗すれば、生命を脅かしかねない。または、炎症は慢性となりかねず、累積的な組織損傷または全身合併症を引き起こしかねない。少なくとも本明細書中に示される証拠に基づくと、RTA408は、炎症または炎症に伴う疾患の治療または予防で用いることができる。
【0073】
多くの深刻で難治性のヒトの疾患は、伝統的には、炎症性状態として検討されなかった、癌、アテローム性動脈硬化症および糖尿病のような疾患を含めた、炎症過程の調節異常を含む。癌の場合には、炎症過程は腫瘍の形成、進行、転移、および療法に対する抵抗性に関連付けられる。脂質代謝の障害として長い間検討されたアテローム性動脈硬化症は、今日では、主として、アテローム斑の形成および結果として起こる破裂で重要な役割を演じる活性化マクロファージが原因の炎症性状態であると理解されている。炎症シグナリング経路の活性化は、インスリン抵抗性の発生、ならびに糖尿病性高血糖症に関連する末梢組織損傷において役割を演じることも示されている。超酸化物、過酸化水素、一酸化窒素、およびペルオキシナイトライトのような反応性酸素種および反応性窒素種の過剰な生産は、炎症性状態のホールマークである。調節不全ペルオキシナイトライト生産の証拠は、広く種々の疾患で報告されている(Szabo et al.,2007;Schulz et al.,2008;Forstermann,2006;Pall,2007)。
【0074】
関節リウマチ、狼瘡、乾癬および多発性硬化症のような自己免疫疾患は、免疫系における自己対非自己認識および応答メカニズムの機能障害から起こる、患部組織での炎症過程の不適切な慢性的活性化を含む。アルツハイマー病およびパーキンソン病のような神経変性疾患において、神経損傷は、小膠細胞の活性化および誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)のような炎症誘発性タンパク質の上昇したレベルに相関する。腎不全、心不全、肝不全および慢性閉塞性肺疾患のような慢性臓器不全は、慢性酸化ストレスおよび炎症の存在と密接に関連しており、線維症の発生および結果として起こる臓器機能の喪失に導く。主たるおよび従たる血管を裏打ちする血管内皮細胞における酸化ストレスは内皮機能障害に導きかねず、全身心血管疾患、糖尿病の合併症、慢性腎疾患および他の形態の臓器不全、および中枢神経系および網膜の変性疾患を含めた多数の他の老化関連疾患の発生において重要な寄与因子であると考えられている。
【0075】
多くの他の障害は、炎症性腸疾患;炎症性皮膚疾患;放射線療法および化学療法に関連する粘膜炎および皮膚疾患;ぶどう膜炎、緑内障、黄斑変性、および種々の形態の網膜症のような眼疾患;移植の失敗および拒絶;虚血再灌流傷害;慢性疼痛;骨関節炎および骨粗鬆症を含めた骨および関節の変性疾患;喘息および膿胞性線維症;発作障害;および統合失調症、鬱病、二極障害、外傷後ストレス障害、注意力欠如障害、自閉症スペクトラム障害を含めた神経精神疾患、および神経性食欲不振のような摂食障害を含めた、患部組織における酸化ストレスおよび炎症を含む。炎症性シグナリング経路の調節異常は、筋ジストロフィーおよび種々の形態の悪液質を含めた、筋肉消耗疾患の病理学において主な因子であると考えられている。
【0076】
種々の生命を脅かす急性疾患は、膵臓、腎臓、肝臓または肺に関与する急性臓器不全、心筋梗塞または急性冠症候群、脳卒中、敗血症ショック、外傷、重度火傷、およびアナフィラキシーを含めた、調節異常炎症シグナリングも含む。
【0077】
感染性疾患の多くの合併症は、炎症応答の調節異常も含む。炎症応答は、侵入する病原体を殺すことができるが、過剰な炎症応答はかなり破壊的であり、いくつかの場合において、感染した組織における損傷の主たる源であり得る。さらに、過剰な炎症応答は、TNF−αおよびIL−1のような炎症性サイトカインの過剰生産による全身合併症にも至り得る。これは、重症インフルエンザ、重症急性呼吸器系症候群、および敗血症に起因する死亡率において因子であると考えられている。
【0078】
iNOSまたはシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)いずれかの異常なまたは過剰な発現は、多くの疾患過程の病因に関連付けられてきた。例えば、NOが強力な突然変異原(Tamir and Tannebaum,1996)であり、一酸化窒素はCOX−2を活性化することもできる(Salvemini et al.,1994)のは明瞭である。さらに、発癌物質であるアゾキシメタンによって誘導されたラット結腸腫瘍においてiNOSの顕著な増加がある(Takahashi et al.,1997)。オレアノール酸の一連の合成トリテルペノイドアナログは、マウスマクロファージにおける誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)の、およびCOX−2のIFN−γによる誘導のような、細胞炎症過程の強力な阻害剤であることが示されている。全てを参照により本明細書に組み込む、Honda et al.(2000a)、Honda et al.(2000b)、およびHonda et al(2002)参照。
【0079】
1つの態様において、本明細書中で開示されるRTA408は、部分的には、γ−インターフェロンへの暴露によって誘導されたマクロファージ由来RAW264.7細胞における一酸化窒素の産生を阻害するその能力によって特徴付けられる。RTA408は、さらに、NQO1のような抗酸化タンパク質の発現を誘導し、COX−2および誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)のような、炎症誘発性タンパク質の発現を低下させる能力によって特徴付けられる。これらの特性は、癌を含めた、酸化ストレスおよび炎症過程の調節異常、電離放射線への局所的または全身暴露による合併症、放射線療法または化学療法によって生じる粘膜炎および皮膚炎、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症を含めた心血管疾患、虚血再灌流傷害、腎不全および心不全を含めた急性および慢性臓器不全、呼吸器系疾患、糖尿病および糖尿病の合併症、重症アレルギー、移植拒絶、移植片対宿主病、神経変性疾患、目および網膜の疾患、急性および慢性疼痛、骨関節炎および骨粗鬆症を含めた変性骨障害、炎症性腸疾患、皮膚炎および他の皮膚疾患、敗血症、火傷、発作障害、および神経精神障害に関連する幅広い疾患および障害の治療に関連する。
【0080】
もう1つの態様において、RTA408は、眼疾患のような状態を有する対象を治療するのに用いることができる。例えば、ぶどう膜炎、黄斑変性(乾燥形態および湿潤形態の双方)、緑内障、糖尿病性黄斑浮腫、眼瞼炎、糖尿病性網膜障害、フックス角膜内皮ジストロフィーのような角膜内皮の疾患および障害、外科的処置後炎症、ドライアイ、アレルギー性結膜炎および他の形態の結膜炎は、RTA408で治療できる眼疾患の非限定的例である。
【0081】
もう1つの態様において、RTA408は、皮膚の疾患または障害のような状態を有する対象を治療するのに用いることができる。例えば、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、化学的暴露による皮膚炎、放射線誘発皮膚炎を含めた皮膚炎;熱的または化学的火傷;糖尿病性潰瘍、褥瘡、および静脈性潰瘍を含めた慢性創傷;挫瘡;禿頭症および薬物誘発脱毛症を含めた脱毛症;毛包の他の障害;表皮水疱症;日焼けおよびその合併症;白斑を含めた皮膚色素沈着の障害;老化関連皮膚疾患;外科的処置後創傷治癒;皮膚傷害、外科的処置、または火傷からの瘢痕の予防または低下;乾癬;自己免疫疾患または移植片対宿主病の皮膚科学的兆候;皮膚癌の予防または治療;過角化症のような皮膚細胞の過剰増殖に関する障害は、RTA408で治療することができる皮膚疾患の非限定的例である。
【0082】
理論に拘束されるつもりはないが、抗酸化剤/抗炎症Keapl/Nrf2/ARE経路の活性化は、本明細書中に開示される化合物の抗炎症および抗癌腫特性の双方に関連していると考えられる。
【0083】
もう1つの態様において、RTA408は、1つ以上の組織における上昇したレベルの酸化ストレスによって引き起こされる状態を有する対象を治療するのに用いることができる。酸化ストレスは、超酸化物、過酸化水素、一酸化窒素およびペルオキシナイトライト(一酸化窒素および超酸化物の反応によって形成)のような、異常に高いまたは延長されたレベルの反応性酸素種に由来する。酸化ストレスには、急性または慢性いずれかの炎症が伴う。酸化ストレスは、ミトコンドリア機能障害によって、マクロファージおよび好中球のような免疫細胞の活性化によって、電離放射線または細胞傷害性化学療法剤(例えば、ドキソルビシン)のような外用剤への急性暴露によって、外傷または他の急性組織傷害によって、虚血症/再灌流によって、貧弱な循環または貧血によって、局部的もしくは全身低酸素症または高酸素症によって、上昇したレベルの炎症性サイトカインおよび他の炎症関連タンパク質によって、および/または高血糖症または低血糖症のような他の異常な生理学的状態によって引き起こされ得る。
【0084】
多くのそのような状態の動物モデルにおいて、誘導性ヘムオキシゲナーゼ(HO−1)、Nrf2経路の標的遺伝子の刺激性発現は、心筋梗塞、腎不全、移植不全および拒絶、脳卒中、心血管疾患、および自己免疫疾患のモデルにおける場合を含めて、有意な治療効果を有することが示されている(例えば、Sacerdoti et al,2005;Abraham & Kappas,2005;Bach,2006;Araujo et al.,2003;Liu et al.,2006;Ishikawa et al.,2001;Kruger et al.,2006;Satoh et al.,2006;Zhou et al.,2005;Morse and Choi,2005;Morse and Choi,2002)。この酵素は遊離ヘムを鉄、一酸化炭素(CO)、およびビリベルジンに分解し(これは、引き続いて、強力な抗酸化分子であるビリルビンに変換される)。
【0085】
もう1つの態様において、RTA408は、炎症によって悪化された酸化ストレスに由来する、急性および慢性の組織損傷または臓器不全を予防するまたは治療するのに用いることができる。この範疇に入る疾患の例としては、心不全、肝不全、移植不全および拒絶、腎不全、膵炎、線維性肺疾患(とりわけ、膿胞性線維症、COPD、および特発性肺線維症)、(合併症を含めた)糖尿病、アテローム性動脈硬化症、虚血再灌流傷害、緑内障、脳卒中、自己免疫疾患、自閉症、黄斑変性および筋ジストロフィーが挙げられる。例えば、自閉症の場合には、実験は、中枢神経系における増加した酸化ストレスが疾患の発生に寄与し得ることを示唆する(Chauhan and Chauhan,2006)。
【0086】
証拠は、酸化ストレスおよび炎症を、精神病、大鬱病および二極障害のような精神障害;癲癇のような発作障害;偏頭痛、神経障害性疼痛または耳鳴りのような疼痛および感覚症候群;および注意欠陥障害のような挙動症候群を含めた、中枢神経系の多くの他の障害の発生および病理学に結び付ける。例えば、全てを参照により本明細書に組み込む、Dickerson et al.,2007;Hanson et al.,2005;Kendall−Tackett,2007;Lencz et al.,2007;Dudhgaonkar et al.,2006;Lee et al.,2007;Morris et al.,2002;Ruster et al.,2005;McIver et al.,2005;Sarchielli et al.,2006;Kawakami et al.,2006;Ross et al.,2003参照。例えば、TNF、インターフェロン−γ、およびIL−6を含めた、上昇したレベルの炎症性サイトカインは、主な精神病と関連付けられている(Dickerson et al.,2007)。小膠細胞の活性化も主な精神病に関連付けられている。従って、炎症性サイトカインのダウンレギュレーションおよび小膠細胞の過剰な活性化の阻害は、統合失調症、大鬱病、二極障害、自閉症スペクトラム障害、および他の神経精神障害を持つ患者で有益であり得る。
【0087】
その結果、酸化ストレス単独、または炎症により悪化された酸化ストレスを含む病状において、治療は、対象に、上記した、または本明細書全体を通じて記載したもののような治療上有効量の本発明の化合物を投与することを含むことができる。治療は、酸化ストレスの予測可能な状態より前に予防的に投与することができ(例えば、臓器移植または癌患者への放射線療法の投与)、またはそれは、確立された酸化ストレスおよび炎症に関連する状況において治療的に投与することができる。放射線療法または化学療法(または双方)を受けている癌患者のようないくつかの例において、本発明の化合物は、放射線または化学療法の前および後の双方に投与することができ、または他の療法と組み合わせて投与することができる。放射線療法または化学療法の性質に依存して、治療前、治療後または本発明の化合物の同時投与の種々の組合せを用いることができる。本発明の化合物は、放射線療法または化学療法に関連する副作用の重症性を予防するまたは低下させることができる。そのような副作用は用量制限的であるので、それらの低下または予防は、より高いまたはより頻繁な放射線療法または化学療法の投与を可能とすることができ、その結果、最大の効能がもたらされる。別法として、本明細書中に示されるように、放射線療法または化学療法と組み合わせた本発明の化合物の使用は、所与の用量の放射線または化学療法の効能を増強することができる。部分的には、この組合せ効能は、本発明の化合物による炎症誘発性転写因子NF−κBの活性の阻害に由来し得る。NF−κBは、しばしば、癌細胞において慢性的に活性化され、そのような活性化には療法に対する抵抗性および腫瘍進行の促進に関連する(例えば、Karin M,Nature.2006年5月25日;441(7092):431−6;Aghajan et al.,J Gastroenterol Hepatol.2012年3月27日 Suppl 2:10−4)。STAT3のような、炎症および癌を促進する他の転写因子(例えば、He G and Karin M,Cell Res.2001 Jan:21(1):159−68;Grivennikov Si and Karin M,Cytokine Growth Factor Rev.2010 Fed;21(1):11−9)は、本発明の化合物によってやはり阻害され得る。
【0088】
RTA408を用いて、敗血症、皮膚炎、自己免疫疾患および骨関節炎のような炎症性状態を治療し、または予防することができる。RTA408を用いて、例えば、Nrf2を誘導し、および/またはNF−κBを阻害することによって、炎症性疼痛および/または神経障害性疼痛を治療し、または予防することもできる。
【0089】
RTA408を用いて、癌、炎症、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、自閉症、筋委縮性側索硬化症、ハンチントン病、関節リウマチ、狼瘡、クローン病および乾癬のような自己免疫疾患、炎症性腸疾患、その病因が、一酸化窒素またはプロスタグランジンいずれかの過剰な生産を含むと考えられる全ての他の疾患、および酸化ストレス単独または炎症によって悪化された酸化ストレスに関連する病状のような疾患を治療または予防することもできる。
【0090】
炎症のもう1つの態様は、プロスタグランジンE.のような炎症性プロスタグランジンの生産である。RTA408を用いて、血管拡張、血漿の浸出、局部疼痛、上昇した温度、および炎症の他の症状を促進することができる。酵素COX−2の誘導性形態はそれらの生産に関連し、高レベルのCOX−2が膨張した組織で見出される。その結果、COX−2の阻害は、炎症の多くの症状を軽減することができ、多数の重要な抗炎症薬物(例えば、イブプロフェンおよびセレコキシブ)は、COX−2活性を阻害することによって作用する。あるクラスのシクロペンテノンプロスタグランジン(cyPG)(例えば、15−デオキシプロスタグランジンJ2,a.k.a.PGJ2)は、炎症の組織的解決を刺激することにおいて役割を演じることが示されている(例えば、Rajakariar et al.,2007)。COX−2は、シクロペンテノンプロスタグランジンの生産にも関連している。結果として、COX−2の阻害は、炎症の完全な解決に干渉し、潜在的に、組織中の活性化された免疫細胞の持続性を促進し、慢性「くすぶり」炎症に至る。この効果は、選択的COX−2阻害剤を長期間用いる患者において心血管病の増大した発生の原因であり得る。
【0091】
1つの態様において、RTA408を用いて、酸化還元感受性転写因子の活性を調節するタンパク質上の調節性システイン残基(RCR)を選択的に活性化することによって、細胞内の炎症誘発性サイトカインの生産を制御することができる。cyPGによるRCRの活性化は、抗酸化剤および細胞保護転写因子Nrf2の活性が強力に誘導され、酸化促進剤および炎症誘発性転写因子NF−κBおよびSTATの活性が抑制される、炎症収束プログラムを開始させることが示されている。いくつかの実施形態において、RTA408を用いて、抗酸化剤および還元性分子(NQO1、HO−1、SOD1、γ−GCS)の生産を増加させ、酸化ストレス、および酸化促進剤および炎症誘発性分子(iNOS、COX−2、TNF−α)の生産を減少させることができる。いくつかの実施形態において、RTA408を用いて、炎症事象の役を務める細胞に、炎症の解決を促進し、および宿主への過剰な組織損傷を制限することによって、非炎症状態に戻させることができる。
【0092】
A.癌
さらに、RTA408を用いて、腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導し、細胞分化を誘導し、癌細胞の増殖を阻害し、炎症応答を阻害し、および/または化学的予防能力において機能することができる。例えば、RTA408は1つ以上の以下の特性を有する:(1)アポトーシスを誘導し、悪性および非悪性細胞の双方を分化させる能力、(2)多くの悪性または前悪性細胞の増殖の阻害剤としてのマイクロモル以下またはナノモルのレベルにおける活性、(3)炎症性酵素誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)のデノボ合成を阻害する能力、(4)NF−κB活性化を阻害する能力、および(5)ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)の発現を誘導する能力。
【0093】
ある種の癌では、iNOSおよびCOX−2のレベルは上昇し、発癌に関連付けられており、COX−2の阻害剤は、ヒトにおいて原発性結腸腺腫の発生を低下させることが示されている(Rostom et al.,2007;Brown and DuBois,2005;Crowel et al.,2003)。iNOSは脊髄由来サプレッサー細胞(MDSC)で発現され(Angulo et al.,2000)、癌細胞におけるCOX−2活性は、MDSCにおいてアルギナーゼの発現を誘導することが示されてきたプロスタグランジンE2(PGE2)の生産をもたらすことが示されてきた(Sinha et al.,2007)。アルギナーゼおよびiNOSは、基質としてL−アルギニンを利用し、各々、L−オルニチンおよび尿素、およびL−シトルリンおよびNOを生産する酵素である。NOおよびペルオキシナイトライトの生産と組み合わせられた、MDSCによる腫瘍微小環境からのアルギニンの枯渇は、T細胞の増殖を阻害し、T細胞のアポトーシスを誘導することが示されている(Bronte et al.,2003)。COX−2およびiNOSの阻害は、MDSCの蓄積を低下させ、腫瘍関連T細胞の細胞傷害性活性を回復させ、および腫瘍の成長を遅らせることが示されている(Sinha et al.,2007;Mazzoni et al.,2002;Zhou et al.,2007)。
【0094】
NF−κBおよびJAK/STATシグナリング経路の阻害は、癌上皮細胞の増殖を阻害し、それらのアポトーシスを誘導する戦略として関係付けられてきた。STAT3およびNE−κBの活性化は、結果として、癌細胞におけるアポトーシスの抑制、および増殖、侵入、および転移の促進をもたらすことが示されている。これらの過程に関与する標的遺伝子の多くは、NF−κBおよびSTAT3双方によって、転写段階で調節されることが示されている(Yu et al.,2007)。
【0095】
癌上皮細胞におけるそれらの直接的な役割に加えて、NF−κBおよびSTAT3は、腫瘍微小環境内で見出された他の細胞においても重要な役割を有する。動物モデルでの実験は、NF−κBが、癌の開始および進行に対する炎症の効果を増加させるのに、癌細胞および造血細胞の双方で必要とされることを示している(Greten et al.,2004)。癌および骨髄細胞におけるNF−κB阻害は、得られた腫瘍の、各々、数およびサイズを低下させる。癌細胞におけるSTAT3の活性化の結果、腫瘍関連樹状細胞(DC)の成熟を抑制するいくつかのサイトカイン(IL−6、IL−10)の生産がもたらされる。さらに、STAT3は、樹状細胞それ自体において、これらのサイトカインによって活性化される。癌のマウスモデルにおけるSTAT3の阻害はDC成熟を回復させ、抗腫瘍免疫を促進し、腫瘍の成長を阻害する(Kortylewski et al.,2005)。
【0096】
B.多発性硬化症および他の神経変性疾患の治療
本発明の化合物および方法は、患者を多発性硬化症(MS)について治療するのに用いることができる。MSが中枢神経系の炎症疾患であることは公知である(Williams et al.,1994;Merrill and Benvenist,1996;Genain and Nauser,1997)。いくつかの調査に基づき、炎症、酸化、および/または免疫メカニズムがアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋委縮性側索硬化症(ALS)およびMSの病因に関与することを示唆する証拠がある(Bagasra et al.,1995;McGeer and McGeer,1995;Simonian and Coyle,1996;Kaltschmidt et al.,1997)。反応性星状膠細胞および活性化された小膠細胞の双方は、神経変性疾患(NDD)および神経炎症疾患(NID)の原因に関連付けられており;NOおよびプロスタグランジンの双方を各酵素iNOSおよびCOX−2の産物として合成する細胞として、小膠細胞に特別な強調がなされている。これらの酵素のデノボ形成は、インターフェロン−γまたはインターロイキン−1のような炎症性サイトカインによって駆動され得る。次々に、NOの過剰な生産は、神経系のニューロンおよび稀突起神経膠細胞を含めた、多くの臓器の細胞および組織での炎症カスケードおよび/または酸化損傷に導き、結果として、ADおよびMS、および恐らくはPDおよびALSにおける兆候が伴い得る(Coyle and Puttfarcken,1993;Beal,1996;Merrill and Benvenist,1996;Simonian and Coyle,1996;Vodovotz et al.,1996)。疫学データは、アラキドネートからのプロスタグランジンの合成をブロックするNSAIDの慢性的使用は、ADの発生の危険性を顕著に低下させることを示す(McGeer et al.,1996;Stewart et al.,1997)。かくして、NOおよびプロスタグランジンの形成をブロックする薬剤は、NDDの予防および治療に対するアプローチで用いることができる。そのような疾患を治療するための成功した治療剤候補は、典型的には、血液脳関門に侵入する能力を必要とする。例えば、その全体を参照により本明細書に組み込む、米国特許公開第2009/0060873号参照。
【0097】
C.神経炎症
本発明の化合物および方法は、神経炎症を持つ患者を治療するのに用いることができる。神経炎症は、中枢神経系における小膠細胞および星状膠細胞の応答および作用が、基本的には、炎症様特徴を有し、これらの応答が、広く種々の神経学的障害の病因および進行に対して重要であるという考えを要約するものである。この考えはアルツハイマー病の分野に由来し(Griffin et al.,1989;Rogers et al.,1988)、それはこの疾患の我々の考えを根本的に改めた(Akiyama et al.,2000)。これらの考えは、他の神経変性疾患まで(Eikelenboom et al.,2002;Ishizawa and Dickson,2001)、虚血性/毒性疾患まで(Gehrmann et al.,1995;Touzani et al.,1999)、腫瘍生物学まで(Graeber et al.,2002)、および正常な脳の発生までさえ拡大された。
【0098】
神経炎症は、小膠細胞および星状膠細胞の活性化、およびサイトカイン、ケモカイン、補体タンパク質、急性相タンパク質、酸化傷害、および関連する分子過程の誘導を含む、広いスペクトルの複雑な細胞応答を合体させたものである。これらの事象は、ニューロンの機能に対して有害な効果を有し、ニューロンの傷害、さらには、神経膠の活性化、最後には、神経変性に至る。
【0099】
D.腎不全の治療
本発明の化合物および方法は、腎不全を持つ患者を治療するのに用いることができる。その全体を参照により本明細書に組み込む、米国特許出願第12/352,473号参照。本開示のもう1つの態様は、腎疾患の治療および予防のための新しい方法および化合物に関する。結果として、血液からの代謝廃棄物の不適切なクリアランス、および血液中での電解質の異常な濃度をもたらす腎不全は、世界中で、特に、先進国において重大な医療の問題である。糖尿病および高血圧は、慢性腎不全の最も重要な原因の中でも、慢性腎疾患(CKD)としても知られているが、それは狼瘡のような他の状態とも関連付けられている。急性腎不全はある種の薬物(例えば、アセトアミノフェン)または毒性化学物質への暴露から、またはショックが伴う虚血再灌流傷害、または移植のような外科的手法から生じ、その結果、慢性腎不全をもたらし得る。多くの患者において、腎不全は、患者が生き続けるために規則的な透析または腎臓移植を必要とする段階まで進行する。これらの手法の双方はかなり侵襲的であり、かなりの副作用および生活の質の問題に関連している。副甲状腺機能亢進症のような腎不全のいくつかの合併症については効果的な治療があるが、利用可能な治療で、腎不全の根本的な進行を停止させ、または逆行させることが示されているものはない。かくして、損なわれた腎臓機能を改良することができる薬剤は、腎不全の治療においてかなりの進歩を表し得る。
【0100】
炎症は、CKDの病状にかなり寄与する。また、酸化ストレスおよび腎臓機能障害の間には強いメカニズム的なリンクがある。NF−κBシグナリング経路は、CKDの進行において重要な役割を演じている。というのは、NF−κBが、結局は腎臓を傷める炎症応答をもたらす単球/マクロファージの動員の原因であるケモカインであるMCP−1の転写を調節するからである(Wardle,2001)。Keapl/Nrf2/ARE経路は、ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)を含めた抗酸化酵素をコードするいくつかの遺伝子の転写を制御する。雌マウスにおけるNrf2遺伝子の切除は、その結果、狼瘡様糸球体腎炎の発生をもたらす(Yoh et al.,2001)。さらに、いくつかの研究は、HO−1の発現が腎臓の損傷および炎症に応答して誘導され、この酵素およびその産物であるビリルビンおよび一酸化炭素が、腎臓において保護的な役割を演じていることを示した(Nath et al.,2006)。
【0101】
糸球体および周りのボーマン嚢は、腎臓の基本的な機能単位を構成する。糸球体の濾過速度(GFR)は、腎臓機能の標準的な尺度である。クレアチニンクリアランスは、通常、GFRを測定するのに用いられる。しかしながら、血清中クレアチニンのレベルが、通常は、クレアチニンクリアランスの代用尺度として用いられる。例えば、過剰なレベルの血清中クレアチニンは、不適切な腎機能を示すことが一般的に受け入れられており、経時的な血清中クレアチニンの低下が、改良された腎機能の示度として受け入れられている。血液中でのクレアチニンの正常なレベルは、成人の男性では、デシリットル(dl)当たりほぼ0.6−1.2ミリグラム(mg)、成人女性では、デシリットル当たり0.5−1.1ミリグラムである。
【0102】
急性腎臓損傷(AKI)は、虚血症−再灌流、シスプラチンおよびラパマイシンのようなある種の薬理学的剤での治療、および医療画像で用いられる放射腺造影剤の静脈内注射に続いて起こり得る。CKDにおけるように、炎症および酸化ストレスはAKIの病状に寄与する。放射腺造影剤誘発腎症(RCN)の根底にある分子メカニズムはよく理解されていないが、延長された血管収縮、損なわれた腎臓自己調節、および造影剤の直接的な毒性を含めた事象の組合せは、全て、腎不全に寄与するようである(Tumlin et al.,2006)。血管収縮の結果、腎臓血液流の減少がもたらされ、虚血再灌流および反応性酸素種の産生を引き起こす。これらの条件下で、HO−1は強く誘導され、腎臓を含めたいくつかの異なる臓器において虚血再灌流傷害を妨げることが示されている(Nath et al.,2006)。具体的には、HO−1の誘導は、RCNのラットモデルにおいて保護的であることが示されている(Goodman et al.,2007)。再灌流も、部分的には、NF−κBシグナリングの活性化を通じて、炎症応答を誘導する(Nichols,2004)。NF−κBの標的化は、臓器損傷を妨げるための治療的戦略として提案されている(Zingarelli et al.,2003)。
【0103】
E.心血管疾患
本発明の化合物および方法は、心血管疾患を持つ患者を治療するのに用いることができる。その全体を参照により本明細書に組み込む、米国特許出願第12/352,473号参照。心血管(CV)疾患は、世界中で、死亡率の最も重要な原因の中にあり、多くの先進国において死亡の主な原因である。CV病の病因は複雑であるが、原因の大部分は、食料の非常に重要な臓器または組織への不適切なまたは完全に混乱した供給に関する。頻繁には、そのような状態は、非常に重要な血管中での血流をブロックする血栓の形成に導く、1つ以上のアテローム斑の破裂によって生じる。そのような血栓は心臓発作の主たる原因であり、ここで、1つ以上の冠動脈がブロックされ、心臓自身への血流が中断される。結果としての虚血症は、虚血事象の間における酸素の欠乏から、および血流が回復された後におけるフリーラジカルの過剰な形成から、の双方から、心臓組織に対して大いに損傷を与える(虚血再灌流傷害として知られて現象)。脳動脈または他の主たる血管が血栓形成によってブロックされると、同様な損傷が血栓性発作の間に脳で起こる。出血性発作は、対照的に、血管の破裂、および周囲の脳組織への出血を含む。これは、大量の遊離ヘムおよび他の反応性種の存在のため、出血の直近の領域の酸化ストレスを、および損なわれた血流のため、脳の他の部分で虚血症を生じさせる。脳血管麻痺が頻繁に伴うくも膜下出血も、脳において虚血症/再灌流傷害を引き起こす。
【0104】
または、アテローム性動脈硬化症は、非常に重要な血管において余りにも広域にわたるので、狭窄(動脈が狭まること)が発生し、(心臓を含めた)非常に重要な臓器への血流が慢性的に不十分となりかねない。そのような慢性的虚血症は、鬱血性心不全に関連する心肥大を含めた、多くの種類の末端臓器損傷に導きかねない。
【0105】
心血管病の多くの形態に至る根本的な欠陥であるアテローム性動脈硬化症は、動脈の裏打ち(内皮)に対する物理的欠陥または損傷が血管平滑筋細胞の増殖に関する炎症応答および患部領域への白血球の浸潤をトリガーする場合に起こる。最後には、コレステロール担持リポタンパク質および他の物質の沈積物と組み合わせられた上記細胞から構成される、アテローム斑として知られた複雑な病巣が形成され得る(例えば、Hansson et al.,2006)。
【0106】
心血管疾患についての医薬での処置は、血圧またはコレステロールおよびリポタンパク質の循環レベルを低下させることが意図された薬物の使用のような予防的処置、ならびに血小板および他の血液細胞の接着性傾向を低下させ(それにより、プラーク進行の速度および血栓形成の危険性を低下させる)ように設計された処置を含む。より最近では、ストレプトキナーゼおよび組織プラスミノーゲンアクチベーターのような薬物が紹介されており、血栓を溶解させ、血流を回復させるために用いられている。外科的処置は、代替血液供給を生じさせるための冠動脈バイパス移植術、プラーク組織を圧縮し、動脈内腔の直径を増加させるためのバルーン血管形成術、および頸動脈中のプラーク組織を除去するための頸動脈内膜切除術を含む。そのような処置、特に、バルーン血管形成術には、患部において動脈壁を支持し、血管を開いて保つように設計された伸縮式メッシュチューブであるステントの使用が伴ってよい。最近、薬物溶出ステントの使用は、患部において外科的処置後再狭窄(動脈を再度狭めること)を予防するのに普通となった。これらのデバイスは、細胞増殖を阻害する薬物(例えば、パクリタキセルまたはラパマイシン)を含有する生体適合性ポリマーマトリックスで被覆されたワイヤーステントである。ポリマーは、非標的組織の最小限の暴露でもって患部領域における薬物の遅い局部的放出を可能とする。そのような処置によって提供されたかなりの利点にも拘わらず、心血管疾患からの死亡率は高いままであり、心血管疾患の処置においてかなり満足されない要望が残っている。
【0107】
上記したように、HO−1の誘導は、種々の心血管疾患のモデルにおいて有益であることが示されており、低レベルのHO−1発現はCV疾患の上昇した危険性と臨床的に相関付けられてきた。従って、本発明の化合物は、限定されるものではないが、アテローム性動脈硬化症、高血圧、心筋梗塞、慢性心不全、脳卒中、くも膜下出血、および再狭窄を含めた、種々の心血管障害を治療し、または予防することにおいて用いることができる。
【0108】
F.糖尿病
本発明の化合物および方法は、糖尿病を持つ患者を治療するのに用いることができる。その全体を参照により本明細書に組み込む、米国特許出願第12/352,473号参照。糖尿病は、身体がグルコースの循環レベルを調節できないことによって特徴付けられる複雑な疾患である。この調節できないことは、種々の組織におけるグルコースの生産および吸収の双方を調節するペプチドホルモンであるインスリンの欠如に由来し得る。欠乏したインスリンは、グルコースを適切に吸収する筋肉、脂肪および他の組織の能力を落とし、高血糖症(血液中のグルコースの異常に高いレベル)に導く。最も普通には、そのようなインスリン欠乏は、膵臓の島細胞における不適切な生産に由来する。大部分の場合には、これは、これらの細胞の自己免疫破壊、1型または若年発病糖尿病として知られた疾患によって生じるが、物理的外傷またはいくつかの他の原因によるものもあり得る。
【0109】
糖尿病は、筋肉および脂肪細胞がインスリンに余り応答性でなくなり、グルコースを適切に吸収せず、その結果、高血糖症がもたらされる場合にも生じ得る。この現象はインスリン抵抗性として知られ、結果としての疾患は2型糖尿病として知られている。最も普通の型である2型糖尿病は、肥満および高血圧に大いに関連付けられている。肥満は、インスリン抵抗性の発生において主な役割を演じていると考えられる脂肪組織の炎症状態に関連付けられている(例えば、Hotamisligil,2006;Guilherme et al.,2008)。
【0110】
主に、高血糖症(および過剰なまたは不適切なタイミングのインスリンの量から由来し得る低血糖症)は酸化ストレスの重要な源であるという理由で、糖尿病には多くの組織に対する損傷に関連する。慢性腎不全、網膜症、末梢神経障害、末梢血管炎、およびゆっくりと治癒される、または全く治癒されない皮膚潰瘍の発生は、糖尿病の通常の合併症の中にある。特に、HO−1発現の誘導によって酸化ストレスに対して保護するそれらの能力のため、本発明の化合物は、糖尿病の多くの合併症のための治療で用いることができる。上記で指摘したように(Cai et al.,2005)、肝臓における慢性炎症および酸化ストレスは、2型糖尿病の発生における主たる寄与因子であると疑われている。さらに、チアゾリジンジオンのようなPPARγアゴニストはインスリン抵抗性を低下させることができ、2型糖尿病のための有効な治療であることが知られている。
【0111】
糖尿病の治療の効果は以下のように評価することができる。可能であれば、治療様式の生物学的効力ならびに臨床的効力の双方が評価される。例えば、該疾患は増加した血糖によって現れるゆえに、従って、治療の生物学的効力は、例えば、評価した血中グルコースの正常に向けての復帰の観察によって評価することができる。A1cまたはHbA1cとも呼ばれるグリコシル化ヘモグロビンの測定が、血中グルコース制御のもう1つの通常に用いられるパラメータである。例えば、6カ月の期間の後においてb細胞再生の兆候を与えることができる臨床的評価項目の測定は、治療計画の臨床的効力の兆候を与えることができる。
【0112】
G.関節リウマチ
本発明の化合物および方法は、RAを持つ患者を治療するのに用いることができる。典型的には、関節リウマチ(RA)の最初の兆しは、滑膜線維芽細胞の増殖および関節縁における関節表面へのそれらの付着を伴って、滑膜裏打ち層に出現する(Lipsky,1998)。続いて、マクロファージ、T細胞および他の炎症細胞が関節に補充され、そこで、それらは、骨および軟骨の破壊に導く慢性後遺症に寄与するサイトカインのインターロイキン−1(IL−1)、および炎症において役割を演じる腫瘍壊死因子(TNF−α)を含めた、多数のメディエータを生産する(Dinarello,1998;Arend and Dayer,1995;van den Berg,2001)。血漿中のIL−1の濃度は、健康な個体におけるよりもRAを持つ患者において有意に高く、顕著には、血漿中IL−1レベルはRA病活性と相関する(Eastgate et al.,1988)。さらに、IL−1の滑膜流体中レベルは、RAの種々のレントゲン写真および組織学的特徴と相関付けられている(Kahle et al.,1992;Rooney et al.,1990)。
【0113】
正常な関節において、これらおよび他の炎症誘発性サイトカインの効果は、種々の抗炎症サイトカインおよび調節因子によってバランスされている(Burger and Dayer,1995)。このサイトカインバランスの重要性は、1日を通じて発熱の周期的増加を有する若年性RA患者において説明されている(Prieur et al.,1987)。発熱における各ピーク後に、IL−1の効果をブロックする因子が血清および尿に見出されている。この因子は単離され、クローン化され、IL−1遺伝子ファミリーのメンバーであるIL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)として同定されている(Hannum et al.,1990)。IL−1raは、その名称が示すように、1型IL−1受容体への結合についてIL−1と競合し、その結果、IL−1の効果をブロックする天然受容体アンタゴニストである(Arend et al.,1998)。IL−1raの10−100倍過剰が、IL−1を効果的にブロックするのに必要とされ得る;しかしながら、RAを持つ患者から単離された滑膜細胞は、IL−1の効果を妨害するのに十分なIL−1raを生産するように見えない(Firestein et al.,1994;Fujikawa et al.,1995)。
【0114】
H.乾癬性関節炎
本発明の化合物および方法は、乾癬性関節炎を持つ患者を治療するのに用いることができる。乾癬は、1.5〜3%の有病率を持つ炎症性および増殖性皮膚障害である。乾癬を持つ患者のほぼ20%は、いくつかのパターンを有する特徴的な形態の関節炎を発症する(Gladman,1992;Jones et al.,1994;Gladman et al.,1995)。多少の個人では関節の症状を伴って最初は現れるが、大部分において、皮膚乾癬が最初に現れる。患者の約1/3では、同時に、彼らの皮膚および関節の疾患の悪化があり(Gladman et al.,1987)、爪と末端側指節間関節疾患との間には局所解剖学的関係がある(Jones et al.,1994;Wright,1956)。皮膚、爪および関節疾患をリンクさせる炎症過程は依然として捉え所がないが、免疫媒介病理学が関連付けられている。
【0115】
乾癬性関節炎(PsA)は、関節炎および乾癬の関連によって特徴付けられる慢性炎症性関節症であり、1964年に、関節リウマチ(RA)から区別される臨床的存在として認識された(Blumberg et al.,1964)。引き続いての研究は、PsAが、強直性脊椎炎、反応性関節炎および腸疾患性関節炎を含む疾患の群である他の脊椎関節症(SpAs)と多数の遺伝的、病原的および臨床的特徴を共有することを明らかにした(Wright,1979)。PsAがSpA群に属するという見解は、最近、RAではなくPsAを含めた、蔓延した腱付着部炎を示す画像化研究からのさらなる裏付けを獲得した(McGonagle et al.,1999;McGonagle et al.,1998)。より具体的には、腱付着部炎は、SpAsで起こり、脊柱において骨再形成および強直症に、ならびに膨張した腱付着部炎が末梢関節に近い場合は関節滑膜炎に導く、最も早い事象の内の1つであると仮定されてきた。しかしながら、PsAにおける腱付着部炎と臨床的兆候との間のリンクはかなり不明瞭なままである。というのは、PsAは、関節と可変度の重症度との関連性のかなり不均一なパターンを伴って出現し得るからである(Marsal et al.,1999;Salvarani et al.,1998)。かくして、他の因子が、(軸疾患と強く関連付けられているHLA−B27分子の発現のような)そのうち少数のみが同定されている、PsAの多種多様な特徴を説明するのに推測されなければならない。その結果、特異的な病因メカニズムに対して疾患の兆候をマップするのは依然として困難であり、これは、この状態の治療が依然として大いに経験的であることを意味する。
【0116】
家系調査は、PsAの発生に対する遺伝的寄与を示唆した(Moll and Wright,1973)。強直性脊椎炎および関節リウマチのような関節の他の慢性炎症形態は、複雑な遺伝子基礎を有すると考えられる。しかしながら、PsAの遺伝的構成成分は、いくつかの理由で評価するのは困難であった。PsAの発生について重要な遺伝的因子をマスクすることができる乾癬単独に対する遺伝的素因についての強力な証拠がある。ほとんどの者はPsAを区別される疾患の存在として受け入れるが、時々、関節リウマチおよび強直性脊椎炎と重複する表現型がある。また、PsAそれ自体は同質の状態ではなく、種々の亜群が提案されている。
【0117】
TNF−αの増大した量が乾癬性皮膚(Ettehadi et al.,1994)および滑液(Partsch et al.,1997)双方で報告されている。最近の試験は、PsA(Mease et al.,2000)および強直性脊椎炎(Brandt et al.,2000)双方において抗TNF治療の積極的利点を示している(Brandt et al.,2000)。
【0118】
I.反応性関節炎
本発明の化合物および方法は、反応性関節炎を持つ患者を治療するのに用いることができる。反応性関節炎(ReA)において、関節損傷のメカニズムは不明瞭であるが、サイトカインは臨界的な役割を演じるようである。インターフェロンガンマ(IFN−γ)のより蔓延しているTh1プロフィール高レベルおよびインターロイキン4(IL−4)の低レベルが報告されており(Lahesmaa et al.,1992;Schlaak et al.,1992;Simon et al.,1993;Schlaak et al.,1996;Kotake et al.,1999;Ribbens et al.,2000)、しかしながら、いくつかの研究は、関節リウマチ(RA)患者と比較して、反応性関節炎患者の滑膜(Simon et al.,1994;Yin et al.,1999)および滑液(SF)(Yin et al.,1999;Yin et al.,1997)におけるIL−4およびIL−10の相対的優位およびIFN−γおよび腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)の相対的欠如を示した。RA患者におけるよりも反応性関節炎におけるより低いレベルのTNF−α分泌が、末梢血液単核細胞(PBMC)のエクスビボ刺激後にやはり報告されている(Braun et al.,1999)。
【0119】
反応性関節炎関連細菌のクリアランスは適当なレベルのIFN−γおよびTNF−αの生産を必要とし、他方、IL−10はこれらの応答を抑制することによって作用することが議論されている(Autenrieth et al.,1994;Sieper and Braun,1995)。IL−10は、活性化されたマクロファージによるIL−12およびTNF−γの(de Waal et al.,1991;Hart et al.,1995;Chomarat et al.,1995)、およびT細胞によるIFN−γの(Macatonia et al.,1993)合成を阻害する調節性サイトカインである。
【0120】
J.腸疾患性関節炎
本発明の化合物および方法は、腸疾患性関節炎を持つ患者を治療するのに用いることができる。典型的には、腸疾患性関節炎(EA)は、クローン病または潰瘍性結腸炎のような炎症性腸疾患(IBD)と組合せで起こる。それは脊柱および仙腸骨関節にも影響し得る。腸疾患性関節炎は、通常、膝または踝のような下部四肢において末梢関節に関連する。それは、通常、少数のまたは限定された数の関節のみに関連し、腸疾患に密接に従う。これは、潰瘍性結腸炎を持つ患者のほぼ11%、およびクローン病を持つ患者の21%で起こる。滑膜炎は、一般には、自己限定的で、非変形性である。
【0121】
腸疾患性関節症は、GI病状へのリンクを共有するリウマチ学的疾患のコレクションを構成する。これらの状態は細菌(例えば、シゲラ(Shigella)、サルモネラ(Salmonella)、カンピロバクター(Campylobacter)、エルシニア属種(Yersinia species)、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile))、寄生虫(例えば、ストロンギロイデス・ステルコラリス(Strongyloides stercoralis)、テニア・サギナタ(Taenia saginata)、ジアルジア・ランブリア(Giardia lamblia)、アスカリス・ルンブリコイデス(Ascaris lumbricoides)、クリストスポルジウム属種(Cryptosporidium species))による反応性(すなわち、感染関連)関節炎、および炎症性腸疾患(IBD)に関連する脊椎関節症を含む。他の状態および障害は、腸バイパス(空腸回腸)、関節炎、セリアック病、ウィップル病、およびコラーゲン蓄積結腸炎を含む。
【0122】
K.若年性関節リウマチ
本発明の化合物および方法は、JRAを持つ患者を治療するのに用いることができる。子供における関節炎の最も頻繁にある形態に対する用語である若年性関節リウマチ(JRA)は、滑膜の慢性炎症および肥大によって特徴付けられる病気のファミリーに適用される。該用語は、欧州における若年性慢性関節炎および/または若年性特発性関節炎という病気のファミリーと重複するが、それと完全に同義ではない。
【0123】
先天性および適応免疫系の双方は、多数の細胞型、細胞表面および分泌されたタンパク質の膨大な配置、および正および負のフィードバックの相互に連結されたネットワークを用いる(Lo et al.,1999)。さらに、思考では分離可能である一方で、免疫系の先天性および適応ウィングは、機能的に交差しており(Fearon and Locksley,1996)、これらの交差した点で起こる病理学的事象は、慢性関節炎の成人および子供の形態の病因の我々の理解とかなり関連するようである(Warrington,et al.,2001)。
【0124】
多関節JRAは、手の小さな関節を含めた、多数の関節(4以上)における炎症および滑膜増殖によって特徴付けられる区別される臨床的サブタイプである(Jarvis,2002)。JRAのこのサブタイプは、その多数の関節の関係、および経時的に迅速に進行するその能力の双方のため重症であり得る。臨床的には区別されるが、多関節JRAは均一ではなく、患者は、疾患の兆候、発病の年齢、予後、および治療的応答において変化する。これらの差は、この疾患で起こり得る免疫および炎症の攻撃の性質の変動のスペクトルを非常に反映するようである(Jarvis,1998)。
【0125】
L.初期炎症性関節炎
本発明の化合物および方法は、初期炎症性関節炎を持つ患者を治療するのに用いることができる。異なる炎症性関節症の臨床症状は、疾患の経過が同様に早期である。その結果、その関節炎がより自己限定的な患者から、糜爛性関節損傷に至る、重症および執拗な滑膜炎を発症する危険性がある患者を区別するのはしばしば困難である。療法を適切に標的化し、糜爛性疾患を持つ患者を積極的に治療し、より自己限定的疾患を持つ患者において不必要な毒性を回避するには、そのような区別は臨界的である。関節リウマチ(RA)のような糜爛性関節症を診断するための現在の臨床的基準は、早期の疾患において余り効果的でなく、関節カウントおよび急性期応答のような疾患活動の伝統的なマーカーは、貧弱な結果を有するような患者を適切には同定しない(Harrison et al.,1998)。滑膜で起こる病理学的事象を反映するパラメータは、重要な予後値のものであるように見える。
【0126】
初期の炎症性関節炎における貧弱な結果の予測因子を同定する最近の努力は、RA特異的自己抗体、特に、シトルリン化ペプチドに向けた抗体の存在が、初期の炎症性関節炎コホートにおける糜爛性で執拗な疾患と関連することを確認した。これに基づいて、環状シトルリン化ペプチド(CCP)が、患者血清中の抗CCP抗体の同定を助けるために開発されている。このアプローチを用い、抗CCP抗体の存在はRAに対して特異的で感受性であることが示されており、RAを他の関節症から区別することができ、これらの結果が臨床的に現れるようになる前に、執拗な糜爛性滑膜炎を潜在的に予測することができる。重要なことには、抗CCP抗体は、臨床的症状に何年も先立って血清中でしばしば検出可能であり、それらは無症状免疫事象を反映できることを示唆する(Nielen et al.,2004;Rantapaa−Dahlqvist et al.,2003)。
【0127】
M.強直性脊椎炎
本発明の化合物および方法は、強直性脊椎炎を持つ患者を治療するのに用いることができる。ASは、脊椎関節症のより広い疾患分類内にある疾患の部分集合である。脊椎関節症の種々の部分集合に罹った患者は、細菌感染から遺伝までの範囲の、しばしば非常に異なる病因を有する。その上、全てのサブグループにおいて、疾患過程の最終結果は軸関節炎である。種々の患者の集団で見られる初期の臨床的差に拘わらず、それらの多くは、10から20年の疾患経過後には、ほとんど同一で終わる。最近の研究は、疾患の開始から強直性脊椎炎の臨床的診断までの平均時間は7.5年であることを示唆する(Khan,1998)。これらの同一研究は、脊椎関節症が、関節リウマチのそれに近い有病率を有し得ることを示唆する(Feldtkeller et al.,2003;Doran et al.,2003)。
【0128】
ASは、骨格外兆候を伴うまたは伴わない、中軸骨格の慢性全身性炎症性リウマチ障害である。仙腸骨関節および脊柱が主として冒されるが、臀部および肩関節はそうではなく、末梢関節、または目、血管系、神経系および胃腸系のような、一般的ではないが、ある種の関節外構造も関係し得る。その病因は未だ十分に理解されていない(Wordsworth,1995;Calin and Taurog,1998)。それは、主要組織適合性クラスI(MHCI)HLA−B27対立遺伝子と強く関連付けられている(Calin and Taurog,1998)。ASは、その人生の絶頂期における個人に影響し、慢性疼痛、および腱、靭帯、関節および骨の不可逆的損傷を引き起こすその潜在的能力のため恐れられている(Brewerton et al.,1973a;Brewerton et al.,1973b;Schlosstein et al.,1973)。ASは単独で、または反応性関節炎、乾癬、乾癬性関節炎、腱付着部炎、潰瘍性結腸炎、過敏性腸疾患またはクローン病のような脊椎関節症の別の形態に伴って起こり得るが、その場合、それは二次的ASと分類される。
【0129】
典型的には、冒された部位は、脊柱の椎間板椎骨、骨端、肋椎および肋横突関節、および傍脊椎靭帯構造を含む。骨への筋腱および靭帯付着の部位である腱・靭帯付着部の炎症は、この疾患においてやはり顕著である(Calin and Taurog,1998)。腱付着部炎の部位は、原形質細胞、リンパ球、および多形核細胞によって浸潤されるのが知られている。炎症過程の結果、しばしば、漸次の繊維状および骨性強直がもたらされる(Ball,1971;Khan,1990)。
【0130】
症状はしばしばより普通の背中の問題に帰せられるゆえに、遅れた診断は普通である。腰椎における柔軟性の劇的な喪失は、ASの初期の兆候である。他の通常の症状は、背中下部における慢性疼痛および凝りを含み、これは、通常、脊柱下部が骨盤、または臀部に連接されている所で開始する。ほとんどの症状は腰部および仙腸骨領域で開始するが、それらは、同様に、首および背中上部も含み得る。関節炎は、肩、臀部および脚でも起こり得る。いくらかの患者は目の炎症を有し、より重症の場合が心臓弁関連で観察されるに違いない。
【0131】
最も頻繁な症状は背中疼痛であるが、疾患は、非典型的には、特に、子供および女性において末梢関節で開始し、稀には、急性虹彩炎(前部ぶどう膜炎)を伴い得る。追加の初期の症状および兆候は、広範性肋椎障害からの減少した胸郭拡大、低悪性度発熱、疲労、食欲不振、体重減少、および貧血である。しばしば、夜間の、種々の強度の再発性背中疼痛は、典型的には、活動によって緩和される朝の凝りがそうであるように、結果としての病状である。膝を曲げたまたは前屈姿勢は背中疼痛および傍脊椎筋肉痙攣を和らげ;かくして、ある程度の後弯症は、治療していない患者において普通である。
【0132】
全身兆候は患者の1/3で起こる。再発性の、通常は自己限定的急性虹彩炎(前部ぶどう膜炎)は、稀には、長期化し、視力を損なうのに十分重症である。神経学的兆候は、時折、圧迫性神経根炎または坐骨神経痛、脊椎骨折または亜脱臼、および(陰萎、夜間尿失禁、減少した膀胱および直腸の感覚および踝反射の不存在からなる)馬尾症候群に由来し得る。心血管兆候は、大動脈機能不全、狭心症、心膜炎、およびECG伝導異常を含み得る。稀な肺知見は、時折、TBに間違えられる可能性があり、アスペルギルス(Aspergillus)の感染によって複雑化され得るキャビテーションが伴う、上葉線維症である。
【0133】
ASは、ほとんどまたは全く不活発な炎症の期間と交互に現れる活動的な脊椎炎の軽度なまたは中程度の激発によって特徴付けられる。ほとんどの患者での適切な治療の結果、身体障害は最小限または全く起こらず、および背中の凝りに拘わらず、十分な生産的な生活がもたらされる。時折、経過はひどく、進行性であり、その結果、顕著な動けないほどの肢体不自由がもたらされる。予後は、難治性虹彩炎を持つ患者について、および二次的アミロイド症を持つ稀な患者について厳しい。
【0134】
N.潰瘍性結腸炎
本発明の化合物および方法は、潰瘍性結腸炎を持つ患者を治療するのに用いることができる。潰瘍性結腸炎は、大腸の裏打ちにおいて、潰瘍と呼ばれる炎症および糜爛を引き起こす疾患である。炎症は、通常、直腸および下部結腸で起こるが、それは結腸全体に影響し得る。潰瘍性結腸炎は、稀には、回腸末端と呼ばれる最後のセクションを除いて小腸に影響する。潰瘍性結腸炎は結腸炎または直腸炎とも呼ぶことができる。炎症は頻繁に結腸を空にし、下痢を引き起こす。炎症が結腸を裏打ちする細胞を殺した場所で潰瘍が形成される;潰瘍は出血し、膿を生じる。
【0135】
潰瘍性結腸炎は、小腸および結腸において炎症を引き起こす疾患についての一般的な名称である、炎症性腸疾患(IBD)である。潰瘍性結腸炎は診断するのが困難であり得る。なぜならば、その症状は他の腸の障害、およびもう1つのタイプのIBDであるクローン病に似ているからである。クローン病は腸壁内でより深く炎症を引き起こすゆえに、それは潰瘍性結腸炎とは異なる。また、クローン病は、通常、小腸で起こるが、それは口、食道、胃、十二指腸、大腸、虫垂、および肛門でも起こり得る。
【0136】
潰瘍性結腸炎は、いずれの年齢の人々でも起こり得るが、最も頻繁には、それは15歳および30歳の間で開始し、または50歳および70歳の間では余り頻繁には開始しない。子供および若者は、時々、該疾患を発症する。潰瘍性結腸炎は、男性および女性に同等に罹るが、いくつかの家系で広まっているように見える。何が潰瘍性結腸炎を引き起こすかについての理論は多いが、いずれも証明されていない。最もポピュラーな理論は、腸壁中で進行する炎症を引き起こすことによって、身体の免疫系がウイルスまたは細菌に反応するというものである。潰瘍性結腸炎を持つ人々は免疫系の異常を有するが、医師は、これらの異常が疾患の原因であるのか、結果であるのか分からない。潰瘍性結腸炎は、ある種の食料または食品に対する情緒的苦悩または感受性によっては引き起こされないが、これらの因子は幾人かの人々において症状をトリガーし得る。
【0137】
潰瘍性結腸炎の最も普通の症状は、腹部疼痛および出血性下痢である。患者は、疲労、体重減少、食欲の喪失、直腸出血、および体液および栄養素の喪失を起こし得る。患者の約半数は軽度の症状を有する。頻繁な発熱、出血性下痢、嘔吐、およびひどい腹部の激しい痛みに罹る患者もいる。潰瘍性結腸炎は、関節炎、目の炎症、肝疾患(肝炎、硬変、および原発性硬化性胆管炎)、骨粗鬆症、皮膚発疹、および貧血のような問題も引き起こし得る。なぜ問題が結腸の外側で起こるかを誰も確実には知らない。科学者は、これらの合併症は、免疫系が身体の他の部分において炎症をトリガーする場合に起こり得ると考えている。これらの問題のいくつかは、結腸炎が治療されると無くなる。
【0138】
潰瘍性結腸炎を診断するには、徹底的な身体検査および一連の検査が必要とされ得る。結腸または直腸において出血を示し得る貧血についてチェックするには、血液検査を行うことができる。血液検査は、身体のどこかでの炎症の兆候である、高い白血球細胞数を明らかにすることもできる。便試料を検査することによって、医師は、結腸または直腸における出血または感染を検出することができる。医師は、結腸内視鏡検査またはS状結腸鏡検査を行うことができる。いずれかの検査のために、医師は、コンピュータおよびTVモニターに連結された長い柔軟性の照明付きチューブである内視鏡を肛門に挿入して、結腸および直腸の内側を見る。医師は、結腸壁の何らかの炎症、出血、または潰瘍を見ることができる。検査の間に、医師は、結腸の裏打ちから組織の試料を採取して顕微鏡で観察する生検を行うことができる。結腸のバリウム浣腸X線も必要とされ得る。この手法は、結腸に白亜白色溶液であるバリウムを充填することを含む。バリウムはX線フィルム上で白色で目立ち、医師が、そこに存在し得るいずれの潰瘍または他の異常も含めた、結腸の明瞭な観察を行うのを可能とする。
【0139】
潰瘍性結腸炎についての治療は、疾患の重症度に依存する。ほとんどの人々は投薬で治療される。重症の場合には、患者は疾患となった結腸を摘出するための外科的処置を必要とし得る。外科的処置は、潰瘍性結腸炎のための唯一の治療法である。その症状がある種の食料によってトリガーされる幾人かの人々は、かなり味付けした食料、生の果実および野菜、または乳糖(ラクトース)のような彼らの腸を狂わせる食料を避けることによって、症状を制御することができる。各人は、潰瘍性結腸炎を異なって経験し得るので、治療は各個人に対して調整される。情緒的および精神学的支持は重要である。幾人かの人々は、症状が無くなる期間である数カ月または数年さえ継続する寛解を有する。しかしながら、ほとんどの患者の症状は、結局は、戻ってしまう。疾患のこの変化するパターンは、いつ治療が役に立ったかを常には告げることができないことを意味する。潰瘍性結腸炎を持つ幾人かの人々は、時々、状態をモニターするための定期的な通院と共に、医療的ケアを必要とし得る。
【0140】
O.クローン病
本発明の化合物および方法は、クローン病を持つ患者を治療することができる。免疫抑制が試みられたもう1つの障害はクローン病である。クローン病の症状は、腸の炎症、および腸狭窄およびフィスチュラの発生を含み;神経障害が、しばしば、これらの症状に伴う。5−アミノサリシレート(例えば、メサラミン)またはコルチコステロイドのような抗炎症薬物が典型的には処方されるが、常には効果的ではない(Botoman et al.,1998にレビューされている)。サイクロスポリンでの免疫抑制は、時々、コルチコステロイドに抵抗性である、またはコルチコステロイドに不耐性である患者で有益である(Brynskov et al.,1989)。
【0141】
クローン病に対する診断および治療ツールを開発する努力は、サイトカインの中枢的な役割に焦点を当ててきた(Schreiber,1998;van Hogezand and Verspaget,1998)。サイトカインは、細胞間の相互作用、細胞間通信、または他の細胞の挙動に対して特異的な効果を有する小さな分泌されたタンパク質または因子(5−20kD)である。サイトカインはリンパ球、特に、TH1およびTH2リンパ球、単球、腸マクロファージ、顆粒球、上皮細胞、および線維芽細胞によって生産される(Rogler and Andus,1998;Galley and Webster,1996でレビューされている)。いくつかのサイトカインは炎症誘発性であり(例えば、TNF−α、IL−1(αおよびβ)、IL−6、IL−8、IL−12または白血病阻害因子[LIF]);他のものは抗炎症性である(例えば、IL−1受容体アンタゴニスト、IL−4、IL−10、IL−11およびTGF−β)。しかしながら、ある炎症条件下では、それらの効果において重複および機能的冗長があり得る。
【0142】
クローン病の活動的な場合には、上昇した濃度のTNF−αおよびIL−6が血液循環に分泌され、TNF−α、IL−1、IL−6およびIL−8が、粘膜細胞によって過剰に局部的に生産される(id.;Funakoshi et al.,1998)。これらのサイトカインは、骨発生、造血、および肝臓、甲状腺、および神経精神病学的機能を含めた、生理学的系に対して広範囲にわたる効果を有することができる。また、炎症誘発性IL−1βに有利な、IL−1β/IL−1ra比のアンバランスが、クローン病を持つ患者において観察されている(Rogler and Andus,1998;Saiki et al.,1998;Dionne et al.,1998;ただし、Kuboyama,1998も参照)。1つの研究は、便試料におけるサイトカインプロフィールがクローン病についての有用な診断ツールとなり得ることを示唆した(Saiki et al.,1998)。
【0143】
クローン病について提案されてきた治療は、種々のサイトカインアンタゴニスト(例えば、IL−1ra)、(例えば、IL−1β変換酵素および抗酸化剤の)阻害剤および抗サイトカイン抗体の使用を含む(Rogler and Andus,1998;van Hogezand and Verspaget,1998;Reimund et al.,1998;Lugering et al.,1998;McAlindon et al.,1998)。特に、TNF−αに対するモノクローナル抗体は、クローン病の治療において、いくらかの成功を伴って試みられた(Targan et al.,1997;Stack et al.,1997;van Dullemen et al.,1995)。これらの化合物は、本開示の化合物との組合せ療法で用いることができる。
【0144】
クローン病の治療に対するもう1つのアプローチは、炎症応答をトリガーし、それを非病原性群落と置き換えている細菌群落を少なくとも部分的に根絶することに焦点を当ててきた。例えば、米国特許第5,599,795号は、ヒト患者におけるクローン病の予防および治療のための方法を開示する。それらの方法は、腸管を少なくとも1つの抗生物質および少なくとも1つの抗真菌剤で滅菌して、存在するフローラを殺傷除去し、それらを、正常な人から採取された異なる選択されよく特徴付けられた細菌で置き換えることに向けられる。Borodyは、クローン病を、洗浄、および疾患がスクリーニングされた人ドナーからの糞便接種物によって、またはバクテロイデス(Bacteroides)およびエシェリキア・コリ(Escherichia coli)種を含む組成物によって導入された新しい細菌群落での置き換えによる存在する腸微生物叢の少なくとも部分的除去によってクローン病を治療する方法を教示した(米国特許第5,443,826号)。
【0145】
P.全身性紅斑性狼瘡
本発明の化合物および方法は、SLEを持つ患者を治療するのに用いることができる。全身性紅斑性狼瘡のような自己免疫疾患についての原因もまた知られていなかった。全身性紅斑性狼瘡(SLE)は、組織損傷に導く自己抗体および免疫複合体の組織中への沈積によって特徴付けられる自己免疫リウマチ疾患である(Kotzin,1996)。MSおよび1型真性糖尿病のような自己免疫疾患とは対照的に、SLEは、潜在的に、多数の臓器系に直接的に関わり、その臨床的兆候は多様であり、可変である(Kotzin and O’Dell,1995によってレビューされている)。例えば、幾人かの患者は、主として、皮膚発疹および関節痛を示し、自然寛解を示し、投薬をほとんど必要としない。スペクトルの他端には、高用量のステロイド、およびシクロホスファミドのような細胞傷害性薬物での療法を必要とする重症および進行性腎臓病変を示す患者がいる(Kotzin,1996)。
【0146】
SLEの血清学的ホールマーク、および利用可能な主要診断試験は、二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ssDNA)およびクロマチンのような細胞核の構成要素に対するIgG抗生物質の上昇した血清中レベルである。これらの自己抗体の中では、IgG抗dsDNA抗体は、狼瘡性糸球体腎炎(GN)の発生において主要な役割を演じる(Hahn and Tsao,1993;Ohnishi et al.,1994)。糸球体腎炎は、腎臓の血液を精製する糸球体の毛細血管壁が糸球体基底膜の上皮側の付着物によって厚くなる重症疾患である。該疾患は、しばしば、慢性であり、進行性であり、最終的な腎不全に至り得る。
【0147】
Q.過敏性腸症候群
本発明の化合物および方法は、過敏性腸症候群(IBS)を持つ患者を治療するのに用いることができる。IBSは、腹部疼痛および排便習慣の変化によって特徴付けられる機能的症害である。この症候群は若い成人時代に開始し、かなりの身体障害に関連し得る。この症候群は、均一な障害ではない。むしろ、IBSのサブタイプは、主な症状である下痢、便秘または疼痛に基づいて記載されてきた。発熱、体重減少および胃腸出血のような「警告」症状の不存在下で、限定的精密検査が必要とされる。IBSの診断がなされると、総合的な治療アプローチが症状の重症度を効果的に低下させることができる。その有病率は変化してきたが、IBSはよく見られる障害である。一般に、IBSは合衆国の成人約15%に影響し、男性におけるよりも女性において約3倍より頻繁に起こる(Jailwala et al.,2000)。
【0148】
IBSは、毎年、240万回および350万回の間の医師への訪問を占める。それは、胃腸学者によって見られる最も普通の状態であるのみならず、かかりつけの医師によって見られる最も普通の胃腸疾患の1つでもある(Everhart et al.,1991;Sandler,1990)。
【0149】
IBSは費用のかかる障害でもある。腸の症状を有しない人々と比較して、IBSを持つ人々は、3倍多くの就業日を失っており、余りにも病的であって仕事することができないと報告されているようである(Drossman et al.,1993;Drossman et al.,1997)。さらに、IBSを持つ者は、腸障害がない人々よりも医療費が数百万ドル余計にかかる(Talley et al.,1995)。
【0150】
具体的な異常性で、IBSを持つ患者によって経験される腹部疼痛および排便習慣の変化の悪化および寛解の主原因であるものはない。IBSの発展し続ける理論は、脳腸軸の多数のレベルにおける異常調節を示唆する。運動障害、内臓過敏、中枢神経系(CNS)の異常な変調、および感染は、全て、関連付けられてきた。加えて、心理社会的因子は、重要な修飾役割を演じる。異常な腸運動性が、長い間、IBSの病因における因子と考えられてきた。食事後の小腸を通る通過時間は、便秘支配的または疼痛支配的サブタイプを有する患者におけるよりも下痢支配的IBSを持つ患者においてより短いことが示されてきた(Cann et al.,1983)。
【0151】
絶食の間における小腸の実験において、区別されるクラスター化収縮および延長され伝搬された収縮の双方の存在が、IBSを持つ患者で報告されてきた(Kellow and Phillips,1987)。彼らは、健康な人々よりもしばしば不規則な収縮を伴う疼痛も経験する(Kellow and Phillips,1987;Horwitz and Fisher,2001)。
【0152】
これらの運動性の知見は、IBSを持つ患者における全症状群を説明せず;事実、これらの患者のほとんどは実証できる異常を有しない(Rothstein,2000)。IBSを持つ患者は、内臓疼痛に対して増大した感受性を有する。直腸S状結腸のバルーン膨張に関する実験は、IBSを持つ患者が対照対象よりもかなり低い圧力および用量で疼痛および腫脹を経験することを示している(Whitehead et al.,1990)。これらの患者は体細胞刺激の正常な知覚を維持している。
【0153】
この現象を説明するために、多くの理論が報告されている。例えば、内臓における受容体は、膨脹または管腔内内容物に応答して増大した感受性を有し得る。脊髄後角中のニューロンは増大した興奮性を有し得る。加えて、感覚のCNS処理における改変が関与し得る(Drossman et al.,1997)。機能的磁気共鳴画像法実験は、最近、対照者と比較して、IBSを持つ患者が、痛い直腸刺激に応答して、重要な疼痛中心である前帯状皮質の増大した活性化を有することを示している(Mertz et al.,2000)。
【0154】
感染性腸炎と引き続いてのIBSの発生の間との関係を示唆する証拠が増えつつある。炎症性サイトカインが役割を演じ得る。確認された細菌性胃腸炎の病歴を持つ患者の調査において(Neal et al.,1997)、25%が排便習慣の持続性変化を報告した。症状の持続性は、急性感染の時点における精神的ストレスによるものであり得る(Gwee et al.,1999)。
【0155】
最近のデータは、小腸における細菌の過剰成長は、IBS症状において役割を有し得ることを示唆する。ある研究(Pimentel et al.,2000)では、水素呼気テストについて言及された202人のIBS患者のうち157人(78%)では、細菌過剰成長について陽性であるという試験の知見が得られた。追跡試験を受けた47人の対象のうち、25人(53%)は、抗生物質治療での症状(すなわち、腹部疼痛および下痢)の改善を報告した。
【0156】
IBSは一定範囲の症状を伴って出現し得る。しかしながら、腹部疼痛および排便習慣の変化は、依然として、初期の特徴のままである。腹部の不快感は、しばしば、性質が痙攣性と記載されており、左重症度および位置は大いに異なり得るが、左下腹部に位置している。患者は、下痢、便秘、または下痢および便秘の交互の症状発現を報告し得る。下痢の症状は、典型的には、小容量の軟便と記載されており、便には、時々、粘液性排出が伴う。患者は、腫脹、排泄の切迫、不完全な排出および腹部膨張も報告し得る。胃食道反射、消化不良または吐き気のような胃腸上部症状も存在し得る(Lynn and Friedman,1993)。
【0157】
症状の持続性は、さらなる試験についての兆候ではなく;それはIBSの特徴であり、それ自体、症候群の予期された症状である。より広い診断的評価が、その症状が悪化している、または変化している患者で示されている。さらなる試験のための兆候は、警告症状、50歳後における症状の開始、および結腸癌の家族の病歴も含む。試験は、結腸内視鏡検査、腹部および骨盤のコンピュータ断層撮影、および小腸もしくは大腸のバリウム実験を含むことができる。
【0158】
R.シェーグレン症候群
本発明の化合物および方法は、シェーグレン症候群を持つ患者を治療するのに用いることができる。原発性シェーグレン症候群(SS)は子供時代を含めた全ての年齢で見ることができるが、それは圧倒的に中年女性に影響する慢性で、ゆっくりと進行する全身自己免疫疾患である(女性対男性の比9:1)(Jonsson et al.,2002)。それは、CD4+、CD8+リンパ球およびB細胞を含めた単核細胞によって浸潤される、外分泌腺のリンパ球浸潤および破壊によって特徴付けられる(Jonsson et al.,2002)。加えて、腺外(全身)兆候が、患者の1/3で見られる(Jonsson et al.,2001)。
【0159】
腺リンパ球浸潤は、広範囲の場合、臓器の大部分を置き換え得る進行性特徴である(Jonsson et al.,1993)。興味深いことには、幾人かの患者における腺浸潤物は、(異所性胚中心として示される)唾液腺における異所性リンパ微細構造によく似ている(Salomonsson et al.,2002;Xanthou et al.,2001)。SSにおいて、異所性GCは、小胞樹状細胞および活性化された内皮細胞のネットワークを伴う増殖性細胞のTおよびB細胞凝集体と定義される。標的組織内で形成されたこれらのGC様構造は、自己抗体(抗Ro/SSAおよび抗La/SSB)の生産と共に機能的特性も表す(Salomonsson and Jonsson,2003)。
【0160】
RAのような他の全身自己免疫疾患において、異所性GCについて臨界的な因子が同定されている。GCを持つリウマチ滑膜組織は、(小胞中心および外套帯B細胞で検出される)ケモカインCXCL13、CCL21およびリンホトキシン(LT)−βを生産することが示されている。これらの分析物の多変数回帰分析は、CXCL13およびLT−βを、リウマチ滑膜においてGCを予測する孤立性サイトカインとして同定した(Weyand and Goronzy,2003)。最近、唾液腺中のCXCL13およびCXCR5が、BおよびT細胞を補充し、従って、SSにおけるリンパ新生および異所性GC形成に寄与することによって、炎症過程で必須の役割を演じることが示されている(Salomonsson et al.,2002)。
【0161】
S.乾癬
本発明の化合物および方法は、乾癬を持つ患者を治療するのに用いることができる。乾癬は、合衆国の人口の2〜2.6パーセント、または580万人および750万人の間の人々に影響するスケーリングおよび炎症の慢性皮膚疾患である。該疾患は全ての年齢群で起こるが、それは、主として、成人に影響する。それは男性および女性でほぼ同等に現れる。乾癬は、皮膚細胞が皮膚の表面下方のそれらの起源から生じ、それらが成熟する機会を有する前に表面に積み重なる場合に起こる。通常、(代謝回転とも呼ばれる)この運動は約1カ月かかるが、乾癬において、それはほんの数日以内に起こり得る。その典型的な形態では、乾癬の結果、銀色の鱗屑で被覆された厚く赤色の(膨張した)皮膚の斑点が生じる。時々、プラークというこれらの斑点は、通常、痒い、または痛む。それらは、最もしばしばは、肘、膝、脚の他の部分、頭皮、背中下部、顔、手のひら、および足の裏に起こるが、それらは身体のどこにおいても皮膚に起こり得る。該疾患は、指の爪、足指の爪、性器の柔軟な組織、および口の内側も冒し得る。冒された関節の周りの皮膚にひびが入るのは珍しいことではないが、乾癬を持つほぼ100万人の人々は、関節炎の症状を生じる関節炎症を経験する。この疾患は乾癬性関節炎と呼ばれる。
【0162】
乾癬は、特に、T細胞と呼ばれる型の白血球細胞に関与する免疫系によって駆動される皮膚障害である。通常、T細胞は感染および疾患に対して身体を保護するのを助ける。乾癬の場合には、T細胞は誤って作用させられ、それらは、皮膚細胞の炎症および迅速な代謝回転に導く他の炎症応答をトリガーするほど活動的となる。症例の約1/3において、乾癬の家系的病歴がある。研究者は、乾癬および該疾患にリンクした同定された遺伝子によって冒される非常に多数の家族を調べた。乾癬を持つ人々は、彼らの皮膚が悪化し、改善される時があるのに気が付き得る。突然の再発を引き起こし得る状態は、感染、ストレス、および皮膚を乾燥させる気候の変化を含む。また、高血圧で処方される、リチウムおよびベータブロッカーを含めたある種の医薬は、該疾患の発症をトリガーし、悪化させ得る。
【0163】
T.感染性疾患
本開示の化合物は、ウイルスおよび細菌感染を含めた、感染性疾患の治療で有用であり得る。上記したように、そのような感染には、重症の局部的もしくは全身炎症反応に関連し得る。例えば、インフルエンザは肺のひどい炎症を起こし得、細菌感染は、敗血症のホールマークである多発性炎症性サイトカインの過剰な生産を含めた、全身過炎症反応を引き起こし得る。加えて、本発明の化合物は、ウイルス病原体の複製を直接的に阻害することにおいて有用であり得る。従前の研究は、CDDOのような関連化合物がマクロファージにおいてHIVの複製を阻害できることを示している(Vazquez et al.,2005)。他の研究は、NF−カッパBシグナリングの阻害がインフルエンザウイルスの複製を阻害することができ、シクロペンテノンプロスタグランジンがウイルスの複製を阻害することができることを示している(例えば、Mazur et al.,2007;Pica et al.,2000)。
【0164】
本発明は、化合物RTA408またはそれらの医薬として許容される塩、または(例えば、本明細書中において先にまたは後に記載された多形体のいずれか1つのような)この化合物の多形体、または(例えば、本明細書中で先にまたは後に記載された医薬組成物を含めた)上記した構成要素のいずれかおよび医薬として許容される担体を含む医薬組成物を用いる、セクションIVにおいて上記で言及された疾患/障害/状態の各々の治療または予防に関する。
【0165】
V.医薬製剤および投与の経路
RTA408は、種々の方法によって、例えば、経口的に、または注射によって(例えば、皮下、静脈内、腹腔内等)投与することができる。投与の経路に依存して、活性な化合物を物質中で被覆して、化合物を、酸および該化合物を不活化し得る他の天然条件の作用から保護することができる。それらは、疾患または創傷部位の連続的灌流/注入によって投与され得る。
【0166】
RTA408を非経口投与以外によって投与するには、化合物を、その不活化を防ぐための物質で被覆し、または該化合物をこの物質と共に投与する必要があり得る。例えば、治療化合物は、適切な担体、例えば、リポソームまたは希釈剤中にて患者に投与され得る。医薬として許容される希釈剤は生理食塩水および水性緩衝溶液を含む。リポソームは、水中油中水型CGFエマルジョンならびに慣用的なリポソームを含む(Strejan et al.,1984)。
【0167】
RTA408は、非経口、腹腔内、髄腔内または脳内投与することができる。分散液剤は、グリセロール、液状ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中で、および油中で調製することができる。貯蔵および使用の通常の条件下で、これらの製剤は、微生物の成長を妨げるために保存剤を含有することができる。
【0168】
滅菌注射液剤は、必要な量のRTA408を、必要に応じて、先に挙げた成分の1つまたは組合せと共に適当な溶媒に配合し、続いて、濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液剤は、治療化合物を、基本的な分散媒体、および先に挙げたものからの必要な他の成分を含有する滅菌担体に配合することによって調製される。滅菌注射液剤の調製用の滅菌粉末の場合には、調製の好ましい方法は、有効成分(すなわち、治療化合物)+それらの先に滅菌濾過された溶液からのいずれかの追加の所望の成分の粉末を生じる、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0169】
RTA408は、直接的噴霧乾燥手法を用いて十分に非晶質とされ得る。RTA408は、例えば、不活性な希釈剤または吸収可能な食用担体と共に経口投与することができる。治療化合物および他の成分は、硬もしくは軟シェルゼラチンカプセルに包み、圧縮して錠剤とし、または患者の規定食に直接的に配合することもできる。経口治療投与では、治療化合物は賦形剤と共に配合し、摂食可能な錠剤、頬錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハ剤等の形態で用いることができる。組成物および製剤中の治療化合物のパーセンテージは、勿論、変化させ得る。そのような治療上有用な組成物中の治療化合物の量は、適切な用量が得られるようなものである。
【0170】
非経口組成物は、投与の容易性および用量の均一性のために投与単位形態に製剤化するのが特に有利である。本明細書中で用いる投与単位形態とは、治療すべき患者のための単位の用量として適合する物理的に区別される単位をいい、各単位は、必要な医薬担体と組み合わせて所望の治療効果を生じさせるように計算された所定量の治療化合物を含有する。本発明の投与単位形態についての仕様は、(a)治療化合物のユニークな特徴および達成されるべき特別な治療効果および(b)患者における選択された疾患の治療のためにそのような治療化合物を調合する分野に固有の制限によって指示され、直接的にそれに依存する。
【0171】
RTA408は、皮膚、目または粘膜に局所投与することもできる。別法として、もし肺への局部送達が望まれれば、治療化合物は、乾燥粉末またはエアロゾル製剤中にて吸入によって投与することができる。
【0172】
RTA408は、典型的には、所与の患者に関連する疾患を治療するのに十分な治療上有効な用量で投与される。例えば、化合物の効能は、実施例および図面に示されるモデル系のような、ヒトにおける疾患を治療するにおける効能を予測することができる動物モデル系で評価することができる。
【0173】
患者に投与されるRTA408またはRTA408を含む組成物の現実の投与量は、年齢、性別、体重、状態の重症度、治療されるべき疾患のタイプ、従前のまたは同時の治療的介入、患者の特発性および投与の経路のような物理的および生理学的因子によって決定され得る。これらの因子は当業者によって決定され得る。投与を担当する実施者は、典型的には、個々の患者について、組成物中の有効成分の濃度および適切な用量を決定する。用量は、いずれの複雑な事態の場合にも個々の医師によって調整され得る。
【0174】
有効量は、典型的には、(投与の態様のクールおよび先に議論した因子に依存して)1日または数日の間、1つ以上の用量投与において、約0.001mg/kgから約1000mg/kg、約0.01mg/kgから約750mg/kg、約100mg/kgから約500mg/kg、約1.0mg/kgから約250mg/kg、約10.0mg/kgから約150mg/kgで変化する。他の適切な用量範囲は、1日当たり1mgから10000mg、1日当たり100mgから10000mg、1日当たり500mgから10000mgおよび1日当たり500mgから1000mgを含む。いくつかの特別な実施形態において、該量は1日当たり10,000mg未満であり、1日当たり750mgから9000mgの範囲である。
【0175】
有効量は1mg/kg/日未満、500mg/kg/日未満、250mg/kg/日未満、100mg/kg/日未満、50mg/kg/日未満、25mg/kg/日未満または10mg/kg/日未満とすることができる。別法として、それは1mg/kg/日から200mg/kg/日の範囲とすることができる。いくつかの実施形態において、該量は、ゴマ油中の懸濁剤として投与された10、30、100または150mg/kgとすることができる。いくつかの実施形態において、該量は、強制経口投与を介して毎日投与される3、10、30または100mg/kgとすることができる。いくつかの実施形態において、該量は、経口投与される10、30または100mg/kgとすることができる。例えば、糖尿病患者の治療に関しては、単位用量は、未治療患者と比較して、少なくとも40%だけ血中グルコースを低下させる量とすることができる。もう1つの実施形態において、単位用量は非糖尿病患者の血中グルコースレベルの±10%であるレベルまで血中グルコースを低下させる量である。
【0176】
他の非限定的例において、用量は、投与当たり、約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重から約1000mg/kg/体重、またはそれ以上、およびその中で誘導できるいずれかの範囲含むこともできる。ここにリストされた数字から誘導可能な範囲の非限定的例において、約5mg/kg/体重から約100mg/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重から約500マイクログラム/kg/体重等の範囲を、上記した数字に基づいて投与することができる。
【0177】
ある実施形態において、本開示の医薬組成物は、例えば、少なくとも約0.01%のRTA408を含むことができる。他の実施形態において、RTA408は該単位の約0.01重量%から約重量75%の間または約0.01重量%から約5重量%の間、例えば、その中で誘導可能ないずれかの範囲を構成することができる。いくつかの実施形態において、RTA408は、0.01、0.1または1%のゴマ油中の懸濁剤のような製剤中で用いることができる。
【0178】
RTA408を含む薬剤の単回または多数回用量が考えられる。多数回用量の送達のための所望の時間間隔は、わずかにルーチン的実験を使用して当業者によって決定され得る。例として、患者には、ほぼ12時間間隔で毎日2回の用量を投与することができる。いくつかの実施形態において、薬剤は1日につき1回投与される。薬剤はルーチン的スケジュールで投与することができる。本明細書中で用いる場合、ルーチン的スケジュールとは、所定の設計された期間をいう。ルーチン的スケジュールは、スケジュールが予め決定される限り、長さが同一であるまたは異なる期間を含むことができる。例えば、ルーチン的スケジュールは、1日につき2回の、毎日の、2日毎の、3日毎の、4日毎の、5日毎の、6日毎の、毎週の、毎月のまたはそれらの間の設定されたいずれかの日数または週数毎の投与を含むことができる。別法として、所定のルーチン的スケジュールは、最初の1週間は毎日2回、続いて、数カ月の間は毎日等の投与を含むことができる。他の実施形態において、本発明は、薬剤を経口的に服用することができ、そのタイミングが食物の摂取に依存し、または依存しないように規定する。かくして、例えば、薬剤は、患者がいつ食べてしまった、または食べるかに拘わらず、毎朝および/または毎夕方服用することができる。
【実施例】
【0179】
VI.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含める。以下の実施例に開示される教示は、本発明の実施でよく機能するように発明者によって見出された技術を表し、かくして、その実施のために好ましい態様を構成すると考えられることができるのは当業者によって認識される。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らして、開示される具体的な実施形態において多くの変形をなすことができ、本発明の精神および範囲を逸脱することなくよく似たまたは同様な結果を依然として得ることができるのを認めるはずである。
【0180】
A.RTA408(63415)の合成
【0181】
【化3】
試薬および条件:(a)(PhO)
2PON
3(DPPA)、トリエチルアミン、トルエン、0℃5分間、次いで、雰囲気温度で一晩、ほぼ94%;(b)ベンゼン、80℃2時間;(c)HCl、CH
3CN、雰囲気温度1時間;(d)CH
3CF
2CO
2H、ジシクロヘキシルカルボジイミド、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、CH
2Cl
2、雰囲気温度一晩、RTA401から73%(4工程)。
【0182】
化合物1:RTA401(20.0g、40.6ミリモル)、トリエチルアミン(17.0mL、122.0ミリモル)、およびトルエン(400mL)をリアクターに加え、撹拌しつつ0℃まで冷却した。ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)(13.2mL、61.0ミリモル)を、撹拌しつつ、0℃にて5分間かけて加え、混合物を室温にて一晩継続的に撹拌した(HPLC−MSチェックはRTA401が残っていないことを示す)。反応混合物をシリカゲルカラムに直接負荷し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CH
2Cl
2中0%から5%酢酸エチル)によって精製して、化合物1(19.7g、ほぼ94%、化合物2に部分的に転化)を白色フォームとして得た。
【0183】
化合物2:化合物1(19.7g、ほぼ38.1ミリモル)およびベンゼン(250mL)をリアクターに加え、2時間撹拌しつつ、80℃に加熱した(HPLC−MSチェックは化合物1が残っていないことを示す)。反応混合物を減圧下で濃縮して、粗製化合物2が固体残渣として得られ、これを精製することなく次の工程で用いた。
【0184】
化合物3:粗製化合物2(≦38.1ミリモル)およびCH
3CN(200mL)をリアクターに加え、撹拌しつつ、0℃まで冷却した。HCl(12N、90mL)を0℃にて1分間かけて加え、混合物を室温にて1時間継続的に撹拌した(HPLC−MSチェックは化合物2が残っていないことを示す)。反応混合物を0℃まで冷却し、撹拌しつつ、10%NaOH(ほぼ500mL)を加えた。次いで、飽和NaHCO
3(1L)を撹拌しつつ加えた。水性相を酢酸エチル(2×500mL)によって抽出した。合わせた有機相をH
2O(200mL)、飽和NaCl(200mL)によって洗浄し、Na
2SO
4で脱水し、濃縮して、粗製化合物3(16.62g)が淡黄色フォームとして得られ、これを精製することなく次の工程で用いた。
【0185】
RTA408:粗製アミン3(16.62g、35.9ミリモル)、CH
3CF
2CO
2H(4.7388g、43.1ミリモル)およびCH
2Cl
2(360mL)を、撹拌しつつ、室温にてリアクター中に加えた。次いで、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(11.129g、53.9ミリモル)および4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)(1.65g、13.64ミリモル)を加え、混合物を室温にて継続的に一晩撹拌した(HPLC−MSチェックは化合物3が残っていないことを示す)。反応混合物を濾過して、固体副産物を除去し、濾液をシリカゲルカラムに直接負荷し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン中0%から20%酢酸エチル)によって2回精製して、化合物RTA408(16.347g、4工程にわたってRTA401から73%)を白色フォームとして得た;
1H NMR(400MHz,CD
3Cl)δppm 8.04(s,1H)、6.00(s,1H)、5.94(s,br,1H)、3.01(d,1H,J=4.8Hz)、2.75−2.82(m,1H)、1.92−2.18(m,4H)、1.69−1.85(m,7H)、1.53−1.64(m,1H)、1.60(s,3H)、1.50(s,3H)、1.42(s,3H)、1.11−1.38(m,3H)、1.27(s,3H)、1.18(s,3H)、1.06(s,3H)、1.04(s,3H)、0.92(s,3H);m/z555(M+1)。
【0186】
B.薬力学
RTA408の主たる薬物動態効果を評価するためのインビトロおよびインビボ実験のまとめを以下に掲げる。
【0187】
1.インビトロでのRTA408のKeap1−Nrf2およびNF−κBに対する効果
AIMによるIFNγ誘発NO産生の阻害は、Nrf2依存的である(Dinkova−Kostova,2005)。RAW264.7マウスマクロファージをジメチルスルホキシド(ビヒクル)またはRTA408で2時間予備処理し、続いて、20ng/mLのマウスIFNγで24時間処理した。一酸化窒素についての代用として、媒体中の亜硝酸塩(NO
2−)レベルを、グリース(Griess)試薬アッセイを用いて測定した。細胞の生存能力は、WST−1アッセイを用いて評価された。RTA408での処理の結果、IFNγ誘発NO産生の用量依存的抑制がなされ、平均IC
50値は3.8±1.2nMであった。代表的な実験からの結果は
図1に示される。RTA408についてのIC
50値は、化合物63170(8±3nM)、63171(6.9±0.6nM)、63179(11±2nM)、および63189(7±2nM)よりも45%から65%低いことが判明した。63170、63171、63179および63189は式:
【0188】
【化4】
の化合物である。
【0189】
2.Nrf2標的遺伝子に対するRTA408の効果
RTA408は、2つの異なるレポーターアッセイでテストして、抗酸化応答エレメント(ARE)の活性化を評価した。試験された最初のレポーターは、ヒトNQO1遺伝子に由来するAREによって制御された。HuH−7ヒト肝腫瘍細胞系はNQO1−AREルシフェラーゼレポータープラスミドで一過的にトランスフェクトされ、細胞はRTA408で18時間処理された。
図2aはこの細胞系におけるRTA408によるルシフェラーゼ活性の用量依存的誘導を示す。値は、3回の独立した実験の平均値を表す。63189(14.9nM)よりも20パーセント少ないRTA408(12nM)が、HuH−7細胞におけるNQO1 AREからの転写を2倍だけ増加させるのに必要であった。同様に、各々、63170(25.2nM)および63179(29.1nM)よりも2.1〜2.4倍少ないRTA408が、HuH−7細胞におけるNQO1 AREからの転写を2倍だけ増加させるのに必要であった。ルシフェラーゼレポーター活性化に対するRTA408の効果は、AREc32レポーター細胞系でも評価した。この細胞はヒト乳房癌腫MCF−7細胞に由来し、ラットGSTA2 ARE配列の8コピーの転写制御下で、ルシフェラーゼレポーター遺伝子で安定にトランスフェクトされる。18時間のRTA408での処理に続き、AREc32レポーター細胞系において同様な用量依存的応答が観察された(
図2b)。ルシフェラーゼ活性のほぼ2倍誘導が、双方のレポーターアッセイにおいて、15.6nM RTA408での処理に続いて明らかであった。
【0190】
RTA408は、HFL1ヒト肺線維芽細胞およびBEAS−2Bヒト気管支上皮細胞系において、公知のNrf2標的遺伝子の転写体レベルを増加させることも示された。RTA408でのHFL1肺線維芽細胞の18時間の処理の結果、定量的PCRによって測定して、NQO1、HMOX1、GCLMおよびTXNRD1を含めた、いくつかのNrf2標的遺伝子の発現の増大が得られた(
図3a−d)。試験された全ての遺伝子で、RTA408による誘導は用量依存的であり、わずか15.6nMの低い濃度において明らかであった。BEAS−2B気管支上皮細胞のRTA408での18時間の処理の結果、評価された全てのNrf2標的遺伝子の同様な用量依存的増加が得られた(
図4a−d)。RTA408は、正常なヒト糸球体間質細胞(nHMC)、マウスBV2小膠細胞系およびヒトSH−SY5Y神経線維芽細胞系において、同様の濃度にて、Nrf2標的遺伝子の発現を増加させた。
【0191】
RTA408での処理もまた、SH−SY5Y細胞におけるNQO1タンパク質レベルを用量依存的に増加させた(
図5a)。HMOX1タンパク質は、未処理またはRTA 40S処理SH−SY5Y細胞において検出されなかった。BV2細胞では、RTA 408での処理は、125nMまでの濃度でNQO1およびHMOX1タンパク質レベルを増加させた(
図5b)。RTA408(56.4nM)によるSK−N−SH細胞におけるNrt2タンパク質発現の誘導についてのEC
50値は、63171(122nM)、63189(102nM)および63179(126nM)についてのEC
50値よりも45%から65%低かった。同一量の63170(54.6nM)が必要とされた。
【0192】
EC
50は、細胞を評価下で化合物と共に3日間インキュベートした、インセルウエスタン(in−cell western)NQO1アッセイを用いて測定された。注目する化合物とのインキュベーションの後、細胞をマウスNQO1抗体と反応させ、次いで、翌日、細胞をIRDye−800CW−抗マウスIgG抗体と反応させた。標的シグナルは可視化され、次いで、分析された。
【0193】
Nrf2標的遺伝子および対応するタンパク質産物の誘導と整合して、RAW264.7マウスマクロファージ細胞の24時間の処理は、用量依存的にNQO1酵素活性を増加させ、7.8nMにおいて明らかな増加があった(
図6)。
【0194】
まとめると、多数の細胞系からのこれらのデータは、RTA408での処理が抗応答エレメントによって制御された転写活性を増加させ、Nrf2標的遺伝子の発現を増加させ、Nrf2標的遺伝子産物であるNQO1の活性を増加させることを示す。
【0195】
3.細胞酸化還元能力のマーカーに対するRTA408の効果
グルタチオンおよびNADPHは、細胞酸化還元能力の維持に必要な臨界的な因子である。グルタチオン(例えば、GCLCおよびGLCM)およびNADPH[例えば、ヘキソース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(H6PD)およびリンゴ酸酵素1(ME1)]の合成に関与するいくつかの遺伝子は、Nrf2によって調節されることが示されている(Wu,2011)。全グルタチオンレベルに対するRTA408処理の効果は、マウスAML−12肝細胞系において評価された。24時間の、AML−12細胞のRTA408での処理は、用量依存的に全細胞グルタチオンレベルを増加させた(
図7)。示されたデータは、2つの独立した実験を表す。全グルタチオンの>2倍の増加がわずか15.6nMのRTA408濃度で観察された。RTA408(9.9nM)によるグルタチオンレベルの誘導のためのRAW264.7マウスモデルを用いるEC
50値は、63170(12.1nM)、63171(23.2nM)および63189(16nM)についてのEC
50値よりも22%〜57%低かった。
【0196】
酸化還元感受性染料WST−1の吸光度によって測定された、NADPHのレベルに対するRTA408処理の効果が、HCT−116細胞において評価された。24時間のRTA408処理は、用量依存的にWST−1吸光度を増加させ、(
図8)、NADPHレベルが増加したことを示唆する。
【0197】
NADPH合成経路に関与する遺伝子の発現に対するRTA408の効果がやはりこの実験で評価された。HCT−116細胞がRTA408で24時間処理され、H6PD、ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(PGD)、トランスケトラーゼ(TKT)、およびME1のmRNAレベルが定量的PCRを用いて測定された。RTA408での処理の結果、NADPH合成に関与する遺伝子の発現の用量依存的増加がもたらされた(
図9a−d)。
【0198】
まとめると、RTA408での処理は、AML−12肝細胞において、全グルタチオンレベルを増加させ、HCT−116細胞において、NADPH生産のマーカーであるWST−1吸光度を増加させた。この観察は、NADPH合成に関与する酵素をコードするいくつかの鍵となる遺伝子の発現の増加と相関した。
【0199】
4.TNFα誘発NF−κBシグナリングに対するRTA408の効果
NF−κBは、多くの免疫および炎症応答の調節において中枢的な役割を演じる転写因子である。RTA402および他のAIMは、種々の細胞系において炎症誘発性NF−κBシグナリングを阻害することが示されている(Shishodia,2006;Ahmad,2006;Yore,2006)。TNFα誘導NF−κBシグナリングに対するRTA408の効果は、多数のNF−κB転写応答エレメントの制御下でルシフェラーゼレポーター構築体で安定にトランスフェクトされたヒト子宮頸部頚物腺癌腫細胞系であるHeLa/NF−κB−Luc細胞において評価された。HeLa/NF−κB−Luc細胞はRTA408で1時間予備処理され、続いて、TNFα(10ng/mL)でさらに5時間処理された。処理後、ルミネセンスが測定され、THFα誘導ルシフェラーゼに対するRTA408の予備処理の効果が決定された。3つの独立した実感からの平均の結果および標準偏差は
図10に示される。RTA408は、517±83nMのIC
50値でもって、用量依存的にTNFα誘導NF−κB活性化を阻害した。同様な結果がもう1つのNK−κBレポーター細胞系(A549/NK−κB−Luc)で観察され、そこでは、RTA408は、627nM(範囲614〜649nM)のIC
50値でもって、TNFα誘導NF−κB活性化を阻害した。RTA408は、各々、63189(854nM)および63170(953nM)よりも、HeLa/NF−κB−Luc細胞におけるNF−κBプロモーターレポーターからの発現を低下させることにおいて、1.6倍から1.8倍より効果的であった。
【0200】
NF−κB経路の活性化における鍵となる工程である、IκBαのTNFα誘導リン酸化に対するRTA408の効果も、HeLa細胞において評価された。HeLa細胞はRTA408で6時間予備処理され、続いて、TNFα(20ng/mL)で5分間処理された。IκBαの合計およびリン酸化レベルはウエスタンブロットによって評価された。ルシフェラーゼレポーターアッセイからの結果と整合して、RTA408は用量依存的にIκBαのTNFα誘導リン酸化を阻害した(
図11)。
【0201】
RTA408は、転写3(STAT3)リン酸化のIL−6誘導シグナルトランスデューサーおよびアクチベーターおよびNF−κBリガンド(RANKL)誘導破骨細胞形成の受容体アクチベーターのような、他の炎症誘発性シグナリング経路を阻害することも示されている。HeLa細胞において、1μMのRTA408での6時間の予備処理は、IL−6によって誘導されたSTAT3のリン酸化を阻害した。破骨細胞形成は、造血起源の細胞に関する、RANKLのその受容体RANKへの結合によって生じる多工程分化過程である。この結果、NF−κBおよびMAPKが活性化され、これは、今度は、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)を含めた、骨芽細胞特異的標的遺伝子の転写を増加させる。RANKL誘導骨芽細胞形成に対するRTA408の効果は、マウスマクロファージ細胞系RAW264.7において評価された。RAW264.7細胞はRTA408で2時間予備処理され、次いで、50ng/mL組換えマウスRANKLで処理された。RTA408は、ほぼ5から10nMのIC
50でもって、用量依存的に、RANKL誘導TRAP活性および骨芽細胞の形成を阻害した。
【0202】
5.トランスアミナーゼ酵素をコードする遺伝子の発現に対するRTA408の効果
トランスアミナーゼの上昇は、ラットにおいてRTA408での28日毒性実験で観察され、および、程度はかなり低いが、サルにおいて観察された。同様な知見は、ヒトにおける関連するAIM(バルドキソロンメチル)の経口投与に続いて観察されている(Pergola,2011)。この効果についての1つの仮説は、AIMが、細胞毒性の不存在下でトランスアミナーゼ遺伝子発現を直接的にまたは間接的に増加させるというものである。RTA408での処理がトランスアミナーゼmRNAレベルに影響するか否かを評価するために、マウスAML−12肝細胞がRTA408で18時間処理され、トランスアミナーゼをコードする遺伝子のmRNAレベルが、定量的PCRを用いて測定された。RTA408での処理は、アラニントランスアミナーゼ1(Alt1またはGpt1)およびアスパラギン酸トランスアミナーゼ1(Ast1またはGot1)のmRNAレベルを増加させた(
図12a、c)。RTA408はアラニントランスアミナーゼ2(Alt2またはGpt2)mRNAレベルに対して効果を有さず、アスパラギン酸トランスアミナーゼ2(Ast2またはGot2)のmRNAレベルを低下させた(
図12b、d)。これらの結果は、RTA408が、試験された濃度(250nMまたは500nM)において、AIMクラスにおける他の化合物の効果と合致して、インビトロにてトランスアミナーゼ遺伝子発現に影響することを示す。しかしながら、どのようにして試験されたRTA408濃度においてこのインビトロ系からの結果が、ヒトにおいて臨床的に関連する用量レベルにおけるトランスアミナーゼに対する潜在的効果に関連するかは明らかでない。
【0203】
6.解糖中間体のレベルに対するRTA408の効果
糖尿病マウスにおける実験は、バルドキソロンメチルが筋肉特異的インスリン刺激グルコース取込みを増加させることを示している(Saha,2010)。ヒトにおいて、バルドキソロンメチルを受けている患者のより高いパーセンテージが、プラセボを受けている患者と比較して、筋痙攣を経験することを報告した(Pergola,2011)。筋痙攣は、インスリン投与に続いて糖尿病患者でやはり報告されており、筋肉グルコース代謝との潜在的関連を示唆する。解糖代謝に対するRTA408の効果は、培養された齧歯類C2C12筋肉細胞における乳酸およびピルビン酸レベルの評価を介して評価された。インスリンでの処理と同様に、1μMまたは2μMのRTA408での分化したC2C12筋管の3時間の処理は、用量依存的に細胞内および細胞外乳酸レベルを有意に増加させた。
【0204】
250nMまたは500nMのRTA408でのC2C12分化筋管の18時間の処理もまた、用量依存的に細胞内ピルビン酸レベルを有意に(P<0.0001、星印によって示される)増加させた(
図13)。まとめると、これらの結果は、RTA408が、試験した濃度において、インビトロにて筋肉解糖中間体に影響し得ることを示す;しかしながら、どのようにして試験されたRTA408濃度におけるこのインビトロ系からの結果が、ヒトにおいて臨床的に関連する用量レベルにおいてグルコース代謝に対する潜在的効果に関連するかは明瞭でない。
【0205】
7.MRP−1によるRTA408流出のインビトロ評価
RTA408についての流出比MRP−1(1.3)は、63170(10)および63171(11.2)よりもほぼ10倍低く、63189(57.1)よりも40倍超えてより低いと実験的に決定された。RTA408について決定された値は、それがMRP−1の基質ではなく、他方、他の成分がそうであることを示す。
【0206】
C.肺疾患の動物モデルにおけるRTA408の保護効果
RTA408を肺疾患のいくつかの動物モデルにおいて試験して、肺におけるその潜在的効能を評価した。全ての実験について、RTA408が、3から150mg/kgの範囲の全ての用量レベルで、ゴマ油中にて毎日経口投与された。ほとんどの場合に、RTA408は、肺損傷応答の誘導に数日先立って開始して、投与された。
【0207】
1.マウスにおけるLPS誘発肺炎症
RTA408は、マウスにおいて、LPS誘発肺炎症の2つの実験で試験された。予備的な用量範囲を見つけることが意図された最初の実験では、RTA408(30、100、または150mg/kg)が3日間毎日1回投与され、続いて、最終投与から1時間後にLPSが投与された。気管支肺胞洗浄液(BALF)がLPS投与から20時間後に(RTA408の最初の投与から21時間後に)収集され、炎症誘発性マーカー(すなわち、IL−6、IL−12p40、TNF−α、およびRANTES)のレベルについて評価された。RTA408処理の結果、全ての用量においてIL−12p40の、および100および150mg/kg用量においてTMFαの有意な低下がもたらされた(
図14)。第二の実験において、RTA408(10、30または100mg/kg)が6日間毎日投与され、続いて、最終投与から1時間後にLPSが投与された。この実験において、100mg/kg用量レベルで、3日目から体重の有意な増加が観察された。TNFαの有意な低下が10mg/kg用量で観察され、IL−12p40、TNFαおよびRANTESの有意な低下が30mg/kg用量で観察された(
図15a)。この実験におけるマウスからの肺のさらなる評価は、NQO1酵素活性の有意な誘導および10および30mg/kgにおける全GSHの増加を含めた、関連Nrf2標的遺伝子の有意義な深い関係を明らかとした(
図15d)。
【0208】
8.ブレオマイシン誘発肺線維症
RTA408の効果は、マウスおよびラットにおける、ブレオマイシン誘発肺線維症のモデルにおいても評価された。最初の予備実験において、39日間の強制経口投与を介して、RTA408(10、30または100mg/kg)がマウスに投与され、10日目にブレオマイシン負荷(鼻内)を行った。投与の最終日に、肺組織を収集し、組織学実験を行って、炎症および間質性線維症の程度を評価した。このモデルにおいて、統計学的に有意な効果は試験されたRTA408用量で観察されなかった(
図16aおよびb)。追加の評価が、ラブレース呼吸器研究所(Lovelace Respiratory Research Institute)において広く特徴付けられてきた肺線維症のラットモデルを用いて行われた。この実験において、ラットは、0日目に、気管内投与によってブレオマイシンまたは生理食塩水を負荷した。負荷に続き、動物は、28日間の強制経口投与を介してRTA408(3、10または30mg/kg)を毎日受けた。30mg/kg用量の投与は、動物における過剰な脱水および下痢のため14日目に停止された。残りの動物については、気管支肺胞洗浄液は炎症誘発性浸潤物の評価のために28日目に収集され、肺組織はヒドロキシプロリンレベルおよび組織病理学について分析された。ブレオマイシン硫酸での負荷は、好中球の実質的な放出およびBALFにおける可溶性コラーゲンの増加、ならびに肺におけるヒドロキシプロリンの増加を誘導した。3および10mg/kgのRTA408での処理は、肺への多形核(PMN)細胞浸潤を有意に抑制し、また、ヒドロキシプロリン沈積の有意義な低下(ほぼ10%から20%)も生じた(
図17aおよびb)。
【0209】
重要なことには、組織病理学的評価は、RTA408で処理されたラットにおいて、トリクローム染色によって評価して、コラーゲン沈積の有意な減少を明らかとした。ブレオマイシン対照動物は、主として、中程度の染色を呈したのに対し、10mg/kgのRTA408で処理された動物は圧倒的に最小から軽度の染色を有した(表2)。
【0210】
【表2】
【0211】
本実験におけるラットからの肺のさらなる評価は、関連Nrf2標的遺伝子の有意義な深い関連も明らかとした(
図18)。RTA408は、有意に、用量依存的に、ブレオマイシンに暴露されたラットの肺において、NQO1、Txnrd、GsrおよびGst酵素活性を増加させ、この疾患状況における、RTA408によるNrf2活性化を示す。
【0212】
9.マウスにおける煙草煙誘発COPD
RTA408は、煙草煙誘発COPDのマウスモデルにおいても試験された。マウスは、2週間の間、強制経口投与を介して、RTA408(3、10または30mg/kg)を毎日受け、RTA408投与期間の間、1週間当たり煙草煙に5日間暴露された。実験の最後に、肺組織およびBALFが、炎症浸潤物およびサイトカインの分析のために収集された。この実験では、わずか3mg/kgRTA408の用量におけるRTA408の多用量投与の結果、KC(ヒトIL−8の機能的マウスホモログ)およびTNFαを含めた、炎症誘発性サイトカインの有意な抑制がもたらされた。この実験からの結果のまとめは、
図19a−eに示される。AIMアナログ(63355)は比較のために同一実験で試験された。63355は、式:
【0213】
【化5】
の化合物である。
【0214】
本実験におけるマウスからの肺のさらなる評価は、関連Nrf2標的遺伝子の意義深い、深い関係も明らかにした(
図20)。肺におけるNQO1酵素活性は、煙草煙への暴露によって有意に減少し;RTA408の投与はこの喪失を救済した。Txnrd酵素活性は、30mg/kg用量のRTA408によって誘導された。一般に、Gsr酵素活性は変化せず、Gst酵素活性は処理で減少し−この双方は、これらの酵素についての一過的応答の結果のようであった。
【0215】
10.マウスにおけるオボアルブミン誘発喘息
RTA480の潜在的活性は、オボアルブミン誘発喘息のマウスモデルにおけるパイロット実験でも評価された。マウスは、0日目および14日目に、オボアルブミンおよび水酸化アルミニウムのIP注射で感作され、14、25、26および27日目に、生理食塩水中のオボアルブミンで鼻内負荷した。マウスは、1から13日目および15から27日目に、強制経口投与を介してRTA408(3、10または30mg/kg)を毎日受けた。オボアルブミンでの感作および負荷に続き、ビヒクル処理マウスは、陽性対照(デキサメタゾン)処理マウスと比較して、白血球の合計数の有意な増加を有した。T細胞およびB細胞の数の増加もまたビヒクル処理マウスにおいて観察された。30mg/kgのRTA408での処理は、気道内のB細胞の数およびパーセンテージを有意に低下させた。また、RTA408(3および30mg/kg)はマクロファージの数を有意に低下させたが、気道で検出されるマクロファージの平均パーセンテージは低下させなかった。これらの観察は、このモデルにおける潜在的効能を示唆する。
【0216】
11.マウスにおけるLPS誘発敗血症に対するRTA408の効果
敗血症は、0日目に、LPS(21mg/kg)のIP注射で誘導され、4日目まで生存が追跡された。RTA408(10、30または100mg/kg)は、−2日目から2日目に、強制経口投与を介して毎日投与された。ビヒクル対照群において、動物の60%が4日目まで生存した(このモデルで期待されたほぼ40%生存率よりも高い)。RTA408処理群において、10mg/kg用量群における動物の80%および30mg/kg用量群における動物の90%が4日目まで生存した(
図21cおよびd)。100mg/kg用量群では、動物の90%が4日目まで生存し、4日目にただ1匹の死亡が起こったに過ぎなかった。これらのRTA408誘発効果はこのモデルでかなりの効能を示すが、ビヒクル対照群における比較的高い生存率は、対照とRTA408処理群との間の統計学的に有意な差を排除した。化合物RTA405を用いて得られた結果も示される(
図21aおよびb)。RTA405は、式:
【0217】
【化6】
の化合物である。
【0218】
12.放射線誘発口腔粘膜炎に対するRTA408の効果
ハムスターの頬袋に向けられた急性放射線への暴露は、ヒトにおける口腔潰瘍性粘膜炎で観察されたのと同様な効果を生じる。これらの効果は、重症紅斑および血管拡張、表在粘膜の糜爛および潰瘍の形成によって特徴付けられる中程度から重症の粘膜炎を含む。単回実験を行って、このモデルにおけるRTA408の効果を評価した。0日目に、各ハムスターに、左頬袋に向けられた40Gyの急性放射線量が与えられた。RTA408(10、30または100mg/kg)は、−5日目から−1日目、および1日目から15日目に、毎日2回経口投与された。6日目に開始し、隔日に28日目まで継続し、口腔粘膜炎は、標準6点スコアリング等級を用いて評された。30および100mg/kgの双方の用量のRTA408は、潰瘍性粘膜炎の持続時間の有意な低下を引き起こした(
図22)。さらに、粘膜炎スコア≧3を持つ動物のパーセンテージの用量依存的な減少も観察された。しかしながら、30または100mg/kgにおけるRTA408の投与は、照射されたハムスターにおいて体重増加の有意な用量依存的な減少を引き起こした。過剰な20%の体重減少のため、100mg/kg用量群における8匹のハムスターのうち2匹は2日目に安楽死させた。
【0219】
13.インビボでのNrf2バイオマーカーの誘導に対するRTA408の効果
上記したように、RTA408の鍵となる分子標的は、抗酸化的細胞保護の中枢的な転写レギュレータであるNrf2である。Nrf2の活性化は、NQO1、GSH合成に関与する酵素[すなわち、グルタミン酸−システインリガーゼ触媒およびモディファイアサブユニット(GclcおよびGelm)]、解毒に関与する酵素(すなわち、グルタチオンS−トランスフェラーゼ[Gsts])、および流出トランスポーター[すなわち、多剤耐性関連タンパク質(Mrps)]を含めた、細胞保護遺伝子のバッテリーのアップレギュレーションを誘導する。これらの遺伝子の誘導の結果、増大した抗酸化能力によって強調される酸化的傷害に対して保護するための協調的細胞取組み、グルタチオン合成の誘導、および細胞からの潜在的に有害な分子のコンジュゲーションおよび輸出がもたらされる。上記した種々の動物モデルにおいて評価された効能評価項目およびNrf2標的遺伝子発現に加えて、Nrf2標的遺伝子の発現を誘導するRTA408の能力は、健康なRTA408処理マウス、ラット、およびサルから収集された組織を用いても評価された。
【0220】
マウス、ラットおよびサルにおけるRTA408の非GLP14日毒性実験の一部として、選択されたNrf2標的遺伝子のmRNAおよび酵素活性レベルを測定する目的で、組織が収集された。マウスおよびラットでは、肝臓試料が、14日目に、最終投与から4時間後に収集された。サルでは、(PBMC単離のための)血液、肝臓、肺および脳組織が、14日目に、最終投与から24時間後に収集された。NQO1、Gstおよびグルタチオンレダクターゼ(Gsr)についての酵素活性は、組織ホモゲネートにおいて測定された。mRNAのレベルは、mRNA標的の直接的定量のために、xMAP(登録商標)Luminex(登録商標)磁性ビーズを用いるハイブリダイゼーションベースのアッセイを含むQuantigene Plex2.0技術を用いて測定された。加えて、RTA408濃度は、LC/MS/MS法によって血漿中および組織中で測定された。
【0221】
RTA408は、一般に、10、30および100mg/kgの用量において、種々のNrf2標的遺伝子の発現を用量依存的に増加させた(
図23、
図24a、
図25aおよびb)。RTA408によるNrf2標的遺伝子の転写アップレギュレーションの結果、齧歯類肝臓、ならびにサル肝臓および肺におけるNQO1、GstおよびGsr酵素活性の用量依存的増加によって表されるように、抗酸化的応答の機能的増大も得られた(
図26aおよびb、
図27aおよびb、
図28aおよびb)。さらに、齧歯類肝臓において、RTA408の暴露は、Nrf2についてのプロトタイプの標的遺伝子であるNQO1の酵素活性のレベルに相関した(
図29b、
図30b)。サルにおいて、NQO1およびスルフィレドキシン1(SRXN1)双方のPBMCにおけるmRNA発現のレベルは、RTA48への血漿暴露に相関した(
図34aおよびb)。総じて、RTA408はNrf2標的のmRNAレベルおよび活性を増加させ、そのような増加は、一般に、組織および血漿暴露に相関しており、Nrf2標的はNrf2活性化のための実行可能なバイオマーカーとして働くことができ(
図31aおよびb)、健康なヒト対象においてRTA408の薬理学的活性を評価するのに有用であり得る。
【0222】
D.安全性薬理学
GLP適合安全性薬理プログラムがRTA408を用いて完成された。これは、心血管系に関するインビトロおよびインビボ(サル)実験、ならびにラットにおける呼吸器系および中枢神経系に関する実験を含むものであった。
【0223】
2.HEK293細胞で発現されたクローン化hERGチャネルに対するRTA408の効果の評価
この実験を行って、ヒト胚腎臓(HEK293)細胞系で安定に発現されたhERG(ヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル関連遺伝子)チャネルによって伝導された迅速に活性化する内向き整流カリウム電流(I
Kr)に対するRTA408の効果を評価した。hERG関連カリウム電流に対するRTA408の効果は、全細胞パッチクランプ電気生理学法を用いて評価された。RTA408は、hERG QPatch_Kv11.1アッセイにおいて12.4μMのIC
50値を有すると決定された。この値は、各々、63170(4.9μM)および63189(3.8μM)についての値よりも2.5から3倍高かった。RTA408のIC
50値は63171値(15.7μM)と同様であった。
【0224】
3.カニクイザルにおけるRTA408の心血管評価
単回実験を行って、意識がある自由行動カニクイザルにおけるRTA408の潜在的心血管効果を評価した。同一の4匹の雄および4匹の雌カニクイザルに、ラテン方格法設計に従って、ビヒクル(ゴマ油)および10、30および100mg/kgの用量レベルのRTA408が投与され、各動物が全ての処理を受けるまで、各週に1回の動物/性別/処理の投与を行い、続いて、投与の間に14日洗浄期間を設けた。ビヒクルおよびRTA408は、5mL/kgの投与容量にて強制経口投与を介して全ての動物に投与された。
【0225】
動物には、体温、血圧、心拍および心電図(ECG)評価の測定のためのテレメトリ送信機が装着された。体温、収縮期、弛緩期および平均動脈血圧、心拍、およびECGパラメータ(QRS持続時間およびRR、PRおよびQT間隔)は、投与前少なくとも2時間から投与後少なくとも24時間まで、連続的にモニターされた。ECG追跡は、心血管モニタリングデータから指定された時点において印刷され、資格を有する動物心臓専門家によって定量的に評価された。調査での最初の投与に先立って、未処理動物は、少なくとも24時間、心血管評価項目について連続的にモニターされ、これらのデータは、実験を通じて修正されたQT間隔の計算で用いられた。
【0226】
罹患率、死亡率、損傷、および食料および水の入手可能性についての観察は、全ての動物について毎日少なくとも2回行われた。臨床的観察は投与前、投与後ほぼ4時間、および心血管モニタリング期間の完了に続いて行われた。体重が測定され、各治療投与に先立つ日に記録された。
【0227】
10、30および100mg/kgの用量レベルのRTA408は、死亡率、有害な臨床的兆候を生じず、または結果として、体重(
図32)、体温、血圧または定性的もしくは定量的(PR、RR、QRS、QT間隔)ECGパラメータの有意義な変化が得られた。100mg/kg用量群において、修正されたQT間隔の小さい(平均1.6%)が、統計学的に有意な増加が観察された;しかしながら、個々の動物データは、被検物質関連効果を示すQTcの一貫した増加を示さなかった。その結果、個々の動物における一貫した応答の小さな大きさの変化および欠如のため、QTcのこれらのわずかな増加は、RTA408処理に関連すると考えられなかった。従って、RTA408の経口投与は、最高100mg/kgまでの用量においてカニクイザルにおける心血管機能に対して効果を生じなかった。
【0228】
4.ラットにおけるRTA408の神経行動学的評価
RTA408の潜在的急性神経行動学的毒性はラットにおいて評価された。10匹の雄および10匹の雌CD(登録商標)[Crl.CD(登録商標)(SD)]ラットの3つの処理群は、3、10または30mg/kgの用量レベルのRTA408を受けた。10匹の動物/性別の1つの追加の群は対照としての機能を果たし、ビヒクル(ゴマ油)を受けた。ビヒクルまたはRTA408は、10mL/kgの用量容量において、1日目に、強制経口投与を介して全ての群に1回投与された。
【0229】
罹患率、死亡率、損傷、および食料および水の入手可能性について観察は、全ての動物について毎日2回行った。臨床的兆候の観察は、1日目の投与に先立って、および各機能的観察バッテリー(FOB)評価に続いて行われた。FOB評価は投与前(−1日)および投与後ほぼ4および24時間に行われた。体重は、第1日に、投与前に測定され、記録された。
【0230】
3、10および30mg/kgの用量のRTA408は、死亡率、有害な臨床的観察または試験された神経行動学的尺度のいずれかに対する効果を生じなかった。体重増加のわずかな減少が、潜在的に被検物質関連であり得る30mg/kg群において投与からほぼ24時間後に観察された。この調査において評価された基本的な神経行動学的評価項目に関して、RTA408は、最高30mg/kgまでの用量で、ラットにおいていずれの有害な効果も生じなかった。
【0231】
5.ラットにおけるRTA408の肺評価
肺機能に対するRTA408の潜在的効果はラットにおいて評価された。8匹の雄および8匹の雌CD(登録商標)[Crl:CD(登録商標)(SD)]ラットの3つの処理群は、3、10または30mg/kgの用量レベルのRTA408を受けた。8匹の動物/性別の1つの追加の群は対照としての機能を果たし、ビヒクル(ゴマ油)を受けた。ビヒクルまたはRTA408は、10mL/kgの用量容量にて、第1日に、強制経口投与を介して全ての群に1回投与された。
【0232】
死亡率、罹患率、損傷、および食料および水の入手可能性についての観察は、全ての動物について毎日2回行われた。臨床的観察は投与に先立って、投与後ほぼ4時間に、および8時間の肺モニタリング期間の完了に続いて行われた。RTA408投与の日に、体重が測定され、記録された。肺機能(呼吸速度、呼吸容量および毎分容量)は、ベースラインを確立するための投与に少なくとも1時間先立って、および投与後少なくとも8時間モニターされた。
【0233】
3、10および30mg/kgの用量のRTA408は死亡率、有害な臨床的観察、または評価された肺パラメータのいずれかに対する効果を生じなかった。従って、この実験で評価された基本的肺評価項目に関しては、RTA408は、最高30mg/kgまでの用量でラットにおいていずれの有害な効果も生じなかった。
【0234】
E.非臨床的概観
1.薬物動態
RTA408はインビトロおよびインビボ双方で調査されて、そのPKおよび代謝特性を評価した。インビトロ実験が行われて、RTA408血症中タンパク質結合および血液/血症分配、チトクロームP450(CYP450)阻害および誘導を決定し、マウス、ラット、サルおよびヒトの肝臓ミクロソームによって形成された代謝産物を同定した。RTA408の反復された投与に続いてのインビボ吸収および分布に関するデータは、主として、血漿および毒性学実験からの厳選組織における薬物レベルのモニタリングを介して得られた。高感度の選択的液体クロマトグラフィー−質量分析に基づく生物分析方法(LC/MS/MS)が用いられて、適切な精度および精密性で、血漿、血液および組織中のRTA408の濃度を測定した。
【0235】
a.吸収
RTA408の吸収および全身薬物動態挙動は、単回および反復(毎日の)経口投与に続いて、マウス、ラットおよびサルにおいて実験された。10から100mg/kgの用量での懸濁製剤の経口投与に続き、最大濃度がマウスにおいて1から2時間内に、およびラットおよびサルにおいて1から24時間内に観察された。RTA408への全身暴露は、ラットにおいて最高となる傾向があり、より低いレベルはマウスおよびサルで観察された。経口投与後に観察されたRTA408の見掛けの最終半減期の見積もりは、一般に、6から26時間の範囲であるが、いくつかの例における見掛けの延長された吸収相は決定的な半減期見積もりの計算を排除した。
【0236】
RTA408への全身暴露は、一般に、雄および雌において同様であった。反復された毎日の経口投与に続いてのRTA408への暴露は、単回用量後に観察された暴露よりもわずかに高い(≦2倍)傾向があった。懸濁製剤中での3から100mg/kgの用量範囲にわたってのRTA408の投与の結果、一般に、全身暴露の用量比例増加が得られた。しかしながら、より高い用量(サルにおいて100から800mg/kg;ラットにおいて500から2000mg/kg)の投与の結果、暴露において同様な増加は得られず、100mg/kgを超える用量での吸収の飽和を示唆する。サルへのRTA408(3mg/kg)への最適化されていない(ゆるく充填された)カプセル製剤の経口投与に続き、用量正規化全身暴露は、懸濁製剤で観察されたものよりも幾分低い傾向であった。
【0237】
RTA408の吸収および全身薬物動態的挙動は、単回および反復局所投与を用いてラットにおいて実験された。0.01から3%の範囲にわたってのRTA408の投与は、同様な経口投与に対してより低い血漿中濃度を示した。RTA408への全身暴露は、一般に、用量依存的に増加した。局所投与はゴマ油中の懸濁剤として製剤化された。
【0238】
ウサギを用い、RTA408の眼吸収および全身薬物動態的挙動が評価された。RTA408は、5日間、1日当たり1回、目に局所投与された。眼投与は、RTA408が経口投与される時に対してRTA408のより低い血漿中濃度を示した(
図33)。5連続日後においてさえ、血漿中のRTA408の量は、血漿中濃度がほとんど100倍高い、RTA408が経口投与された時に対し、最初の投与後の濃度と比較して、小さな変化を示したに過ぎなかった(
図33)。
【0239】
b.分布
RTA408の血漿中タンパク質結合は、超遠心分離法を用い、10から2000ng/mLのRTA408濃度において、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ミニブタ、サルおよびヒト血漿中で評価された。RTA408は血漿中タンパク質に広く結合された。非臨床的種における血漿中タンパク質結合は93%(マウス)から>99%(ミニブタ)の範囲であり、結合は毒性学種(ラットおよびサル)において95%、ヒトにおいて97%であった。試験されたいずれの種においても、濃度依存的タンパク質結合の証拠はなかった。血液対血漿分配実験からの結果は、RTA408が、直線状に血液の血漿画分に主として分配される傾向があり、試験された全ての種および全ての濃度について、血液:血漿比は<1.0であった。
【0240】
RTA408の組織への分布は、マウス、ラットおよびサルへの経口投与後に調べた。14日非GLP毒性実験において、厳選組織(肝臓、肺および脳)が、実験の最終用量が投与された後に、単一の時点(ラットおよびマウスでは4時間;サルでは24時間)で収集され、LC/MS/MSを用いてRTA408について分析された。RTA408は容易に肺、肝臓および脳に分布する。肺において、マウスおよびラットにおける4時間でのRTA408濃度は、血漿中濃度と同様であり、またはこれよりもわずかに高く(<2倍)、他方、サルにおいて24時間において、肺中のRTA408濃度は、血漿中濃度よりも6から16倍高かった。同様なパターンが脳で観察された。対照的に、肝臓におけるRTA408濃度は、4時間において、マウスおよびラットでは血漿よりも5から17倍高く、サルにおいて24時間では血漿よりも2から5倍高かった。
【0241】
組織中でのRTA408の薬力学効果は、14日毒性実験からの薬物暴露について収集された同一の組織におけるNrf2標的遺伝子の誘導をモニターすることによって、マウス、ラットおよびサルにおいて評価された。RTA408によるNrf2標的遺伝子の誘導の結果、調べた組織におけるNQO1、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(Gst)およびグルタチオンレダクターゼ(Gsr)酵素活性の用量依存的増加によって示されるように、抗酸化応答の増加が得られた。さらに、齧歯類において、RTA408肝臓含有量は、Nrf2についてのプロトタイプの標的遺伝子であるNQO1についての酵素活性のレベルと相関した。サルにおいて、NQO1およびスルフィレドキシン(SRXN1)双方についての末梢血液単核細胞(PBMC)におけるmRNA発現のレベルは、RTA408の血漿暴露に相関した(
図34aおよびb)。総じて、RTA408は齧歯類およびサルにおいてNrf2のバイオマーカーを誘導し、そのような誘導は、一般に、RTA408への組織および血漿暴露によく相関した。
【0242】
RTA408が眼局所投与を介してウサギに投与されると、化合物の最高濃度が角膜、網膜または虹彩で見出され、他方、硝子体体液、水性体液および血漿は、RTA408の有意により低い濃度を示した(
図35)。
【0243】
c.代謝
RTA408の代謝は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)再生系およびウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)反応混合物の存在下で、マウス、ラット、サルおよびヒトからの肝臓ミクロソームと共にRTA408を60分間インビトロインキュベートした後に調べられた。RTA408の大きい代謝回転が霊長類ミクロソームで観察され、親分子の<10%はサルおよびヒト双方のミクロソームにおける60分のインキュベーションの最後に残っていた。対照的に、代謝の程度は、齧歯類ミクロソームにおいてより低く、親分子の>65%はインキュベーションの最後に残っていた。RTA408の種々の潜在的代謝産物についての入手可能な標準品の欠如は、観察された代謝産物の定量的評価を排除した。定性的視点から、RTA408代謝産物の同様なパターンが種の全域で観察され、RTA408の低下およびヒドロキシル化、ならびにRTA408の、またはその還元/ヒドロキシル化代謝産物のグルクロン酸化と合致する質量を持つピークを含んだ。ユニークなヒト代謝産物は観察されず、ヒトミクロソームインキュベーションにおける全てのピークは、前臨床種の1つ以上でも観察された。特に、インビトロ・ミクロソームデータに基づき、全てのヒト代謝産物はラットまたはサル、選択された齧歯類および非齧歯類動物毒性種に存在した。
【0244】
d.薬物動態的薬物相互作用
チトクロームP450(CYP450)媒介代謝を阻害するRTA408についての潜在能力は、特異的CYP450酵素についてのプールされたヒト肝臓ミクロソームおよび標準基質を用いて評価された。RTA408は、各酵素について、ほぼ0.5μMのK
i値にて、CYP2C8およびCYP3A4/5を直接的に阻害した。有意義な阻害は試験された他の酵素(CYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19またはCYP2D6)について観察されず、試験された最高濃度(3μM)において阻害<50%であった。加えて、試験された酵素のいずれの代謝依存性阻害の証拠はほとんどまたは全くなかった。CYP3A4/5媒介薬物間相互作用についての潜在能力を調べるさらなる実験は、これらのデータ、および経口投与後に胃腸(GI)管において局部的に達成することができる潜在的に高い濃度に基づいて保証することができる。
【0245】
CYP450酵素発現を誘導するRTA408についての潜在能力は、培養されたヒト肝細胞を用いて評価された。プロトタイプのインデューサーがCYP活性の予期された増加を引き起こした条件下で、(3μMまでの)RTA408は、培養されたヒト肝細胞において、CYP1A2、CYP2B6またはCYP3A4酵素活性のインデューサーではなかった。
【0246】
F.急性放射線皮膚炎に対するRTA408の効果
急性放射線皮膚炎用の局所または経口予防剤としてのRTA408の効果が調べられた。雄BALB/cマウスを用い、30Gy量の放射線が0日目に投与された(表3)。ゴマ油ビヒクルまたはRTA408が、−5日目から−1日目に、および1から30日目に、ラットに投与された。RTA408は、ゴマ油中にて3、10および30mg/kgで経口投与され、およびゴマ油中にて0.01、0.1および1%のパーセンテージ組成物中にて局所投与された。皮膚炎は、4日から30日に、1日おきに盲検評価された。12日目に、皮膚炎の典型的なピークが観察され、用量の投与から4時間後に4匹のマウスが犠牲にされた。残りのマウスは、投与後4時間に、30日目に犠牲にされた。mRNAおよび組織学的調査のために、血漿ならびには照射された皮膚試料が12および30日目に収集された。
【0247】
【表3】
【0248】
マウスがRTA408で処理された試験群において、皮膚炎の発生は、RTA408が経口または局所投与いずれかで与えられた場合に、重症度がわずかに減少したように見えた(
図36から39)。さらに、時間の関数として試験群についての平均皮膚炎臨床スコアをプロットする曲線は、特に、RTA405が経口投与を通じて与えられた場合、未処理群からの、経口または局所いずれかの形態であるRTA408の投与でのいくらかの変化を示す(
図40から42)。さらに以下の表4および5で分かるように、3を超える臨床スコアを持つ皮膚炎に罹ったマウスのパーセンテージは、経口投与を通じてRTA408で処理されたマウスでは有意により低く、他方、2を超える臨床スコアを持つ皮膚炎に罹ったマウスのパーセンテージは、RTA408の局所投与が与えられた試験群についてはわずかにより低かった。
【0249】
【表4】
【0250】
【表5】
【0251】
G.分割照射放射線皮膚炎に対するRTA408の効果
局所投与を介してRTA408を利用し、分割照射放射線皮膚炎の効果を緩和するに向けられたRTA408の効果が測定された。Balb/cマウスを用い、局所製剤中のRTA408は、0.01から1%の範囲の3つの用量で、−5日目から30日目に、毎日マウスに投与された。マウスには、0から2日目、および5から7日目に、1日当たり6回の10Gy量が照射された。マウスについての臨床皮膚炎スコアは、4日目から実験の最後まで、2日毎に盲検評価された。
図43において、グラフは、各群についての平均臨床スコアの変化が時間の関数としてプロットされたことを示す。グラフは、RTA408の0.1−1%局所製剤で処理されたマウスについてのスコアの統計学的に有意な改良を示す。実験および処理パラメータは表6に見出すことができる。
【0252】
【表6】
【0253】
図43に示される平均臨床スコアを分析することによって、曲線下面積(AUC)分析が行われ、これは、どれくらい長く皮膚炎が続いたかに対する皮膚炎の重症度を与えた。このAUC分析は、マウスの異なる群とRTA408の異なるパーセンテージ組成物の効果との間の直接的比較を可能とした(
図44および表7)。局所RTA408製剤の投与は、悪性度2および悪性度3病巣を、マウスがビヒクルに暴露されたに過ぎない場合の60%および33%から、各々、1%濃度のRTA408での21%および6%まで低下させた。他のRTA組成物は、いくらかの活性を示したが、1%製剤によって示されるのとは同程度に著しくはなかった。
【0254】
【表7】
【0255】
H.眼炎症のモデルに対するRTA408の効果
眼炎症に対するRTA408の効果の実験は、ニュージーランド(New Zealand)アルビノ株のウサギを用いて行われた。ウサギは12匹のウサギの5つの群に分割され、それに3つの異なる濃度のRTA408(0.01、0.1および1%)、0.1%のボルタレン(Voltarene)(著作権)コリーレ(collyre)およびビヒクル(ゴマ油)が与えられた。各ウサギには、穿刺の誘導前60分以内に3回の点眼、および穿刺の誘導後30分以内に2回の点眼が与えられた。各点眼は50μLであり、両方の目に与えられた。時点当たり6匹の動物についての水性体液が穿刺の誘導後の30分間、および再度、2時間に収集された。炎症の量は、水性体液中のタンパク質濃度によって決定された。
図45に示されるように、RTA408は、製剤中の0.01%RTA408のみにおいて、他の参照化合物(マキシデックス(MaxiDex)またはマプラコラト)のいずれかの最高濃度のそれと同様な水性体液タンパク質の低下を示した。RTA408の濃度を増加させる効果は、無視できるように見えた。というのは、全ての濃度のRTA408は、水性体液タンパク質濃度を低下させることにおいて、誤差内で比較的同様な効果を示すように見えたからである。
【0256】
1.RTA408の多形
RTA408多形体A
[実施例1]
17gのRTA408を68gのアセトンに溶解させた。620gの脱イオン水を500mLのジャケット付きのリアクターに加え、2℃まで冷却した。水が7℃未満となると、RTA408溶液を、滴下漏斗を介してリアクターに加えた。固形物のスラリーが形成された。窒素をパージしつつ、スラリーをリアクター中で撹拌した。固形物を、真空濾過を用いて濾過し、室温にて、真空下で乾燥して、形態Aを得た。
【0257】
[実施例2]
300mgのRTA408を1mLの酢酸エチルに溶解させた。透明な溶液に、2mLのヘプタンを加えた。結晶化が30分以内に起こった。スラリーを一晩撹拌し、固形物を真空濾過によって単離し、雰囲気温度にて1時間乾燥した。次いで、固形物を真空オーブン中で50℃にて一晩乾燥して、形態Aを得た。
【0258】
粉末X線回折(PXRD)パターンが、および相対強度と共にピークリストが、各々、
図53および表8に示される。示差走査熱量分析(DSC)が、および質量分析と共に熱重量分析(TGA−MS)が、各々、
図54および55に示される。
【0259】
形態AのDSCは、181.98℃の融点および42.01J/gの融解のエンタルピーを持ち、実質的に溶媒を含まない形態を示した。形態AのTGA−MSは、25および200℃の間で、圧倒的には160℃を超えて、痕跡量のH
2Oでのほぼ0.5wt%の喪失を示し、RTA408多形体Aはわずかに吸湿性であり得ることを示す。
【0260】
【表8】
【0261】
RTA408多形体B
[実施例3]
1.0gのRTA408を1.5mLのアセトンに溶解させた。シンチレーションバイアル中で、10mLの脱イオン水を50℃まで加熱し、RTA408溶液をバイアルに滴下した。2時間の撹拌により、固形物のスラリーが形成された。次いで、スラリーを室温まで冷却した。得られた固形物を濾過によって単離し、真空オーブン中で、50℃にて一晩乾燥して、形態Bを得た。
【0262】
[実施例4]
2.9gのRTA408を、還流状態で、20mLのイソプロピルアルコールに溶解させた。20mLのヘプタンを還流状態で溶液に加えた。溶液を室温まで冷却し、1時間混合した。固形物のスラリーが形成された。固形物を真空濾過によって単離し、雰囲気温度にて、真空下で乾燥して、形態Bを得た。
【0263】
粉末X線回折(PXRD)パターンが、および相対強度と共にピークリストが、各々、
図56および表7に示される。示差走査熱量測定(DSC)が、および質量分析と共に熱重量分析(TGA−MS)が、各々、
図57および58に示される。
【0264】
形態BのDSCは、250.10℃の融点および42.01J/gの融解のエンタルピーを持ち、実質的に溶媒を含まない形態を示した。形態BのTGA−MSは、25および200℃の間で、痕跡量のH
2Oでのほぼ0.2wt%のわずかな喪失を示し、RTA408多形体Bは非常にわずかに吸湿性であり得ることを示す。
【0265】
【表9】
【0266】
J.機器−典型的な測定条件
粉末X線回折測定(PXRD)
PXRDデータは、湾曲型位置敏感検出器および平衡ビーム光学系を備えたG3000回折計(Inel Corp.,Artenay,フランス国)を用いて収集された。回折計は、40kVおよび30mAにおいて、銅陽極管(1.5kW高精度焦点)で作動させた。入射ビームゲルマニウムモノクロモメーター(monochromometer)は単色放射線を提供した。回折計は、1度間隔で減衰した直接ビームを用いて較正された。較正は、ケイ素粉末線位置参照標準(NIST 640c)を用いてチェックされた。機器はシンフォニックス(Symphonix)ソフトウェア(Inel Corp.,Artenay,フランス国)を用いてコンピュータ制御され、データはジェイド(Jade)ソフトウェア(バージョン9.0.4,Materials Data,Inc.,Livermore,CA)を用いて分析された。試料はアルミニウム試料ホールダーに負荷され、スライドグラスで平らとされた。
【0267】
熱重量分析/質量分析
TGAはTA機器で実行され、データは、データアナライザー(Universal Analysis2000,バージョン4.5A,TA Instruments,New Castle,DE)を備えた熱天秤(Q−5000,TA Instruments,New Castle,DE)で収集された。実験の間、炉に60mL/分で窒素をパージし、他方、天秤チャンバーは40mL/分でパージした。TGA炉の温度は、アルミニウムおよびニッケルのキュリー点を用いて較正された。試料のサイズは2から20mgの範囲であり、10℃/分の加熱速度が用いられた。
【0268】
TGA−MSでは、熱重量分析部品は上記と同一であった。発生したガスの質量はPFEIFFER GSD 301 T3 ThermoStar(PFEIFFER Vacuum,Asslar,ドイツ国)で分析された。機器を作動させ、Software Quadstar 32−bit(V7.01,Inficon,LI−9496 Balzers,リヒテンシュタイン国)でデータ評価した。
【0269】
示差走査熱量分析
Universal Analysis 2000ソフトウェア(バージョン4.5A,TA Instruments,New Castle,DE)を備えたDSC(Q−2000,TA Instruments,New Castle,DE)を用いて、DSC熱的痕跡を決定した。温度軸はビフェニル、インジウムおよびスズ標準で較正された。セル定数はインジウムで較正された。特に断りのない限り、試料(2から5mg)は通気アルミニウムパン中に包まれ、実験の間、50mL/分の窒素ガス流下で10℃/分の速度にて加熱した。
【0270】
略語
方法:
AUC 曲線下面積分析
DSC 示差走査熱量分析
1H−NMR プロトン核磁気共鳴分光分析
HPLC−MS 質量分析にカップリングされた高速液体クロマトグラフィー
LC/MS/MS 液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析
PXRD 粉末X線回折
TGA−MS 質量分析にカップリングされた熱重量分析
【0271】
遺伝子、タンパク質および生物学的パラメータ:
AIM 抗酸化炎症モジュレーター
ARE 抗酸化応答エレメント
ALP アルカリ性ホスファターゼ
ALT アラニントランスアミナーゼ
ARE 抗酸化剤応答エレメント
AST アスパラギン酸トランスアミナーゼ
AUC 曲線下面積
BAL 気管支肺胞洗浄
BALF 気管支肺胞洗浄液
COPD 慢性閉塞性肺疾患
COX−2 シクロオキシゲナーゼ−2
Cr クレアチニン
CYP450 チトクロームP450
Gclc グルタミン酸−システインリガーゼ、触媒サブユニット
Gclm グルタミン酸−システインリガーゼ、モディファイアサブユニット
Glu グルコース
GOT グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ
GPT1 グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ
GSH グルタチオン
GSR グルタチオンレダクターゼ
GST グルタチオン−S−トランスフェラーゼ
Gy グレイ
H6PD ヘキソース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ
hERG ヒト遅延整流型カリウムイオンチャネル遺伝子
HMOX1 ヘムオキシゲナーゼ(デサイクリング)1
HO−1 ヘムオキシゲナーゼ
IFNγ インターフェロン−ガンマ
IL インターロイキン
iNOS 誘導性一酸化窒素合成酵素
IκBα B細胞阻害剤におけるカッパ軽ポリペプチド遺伝子エンハンサーの核因子、アルファ
KC マウスIL−8関連タンパク質
Keap1 Kelch様ECH関連タンパク質−1
LPS リポ多糖
ME1 リンゴ酸酵素1
MPCE 微小核多染性赤血球
Mrps 多剤耐性関連タンパク質
NADPH ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、還元型
NF−κB 活性化B細胞のカッパ−軽鎖−エンハンサーの核因子
NO 一酸化窒素
NQO1 NAD(P)Hキノンオキシドレダクターゼ−1
Nrf2 核因子(赤血球由来)様2
p−IκBα リン酸化IκBα
PBMC 末梢血液単核細胞
PCE 多染性赤血球
PGD ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ
PMN 多形核
RANTES ランテス(regulated and normal T cell expressed and secreted)
SOD1 スーパーオキシドジスムターゼ1
SRXN1 スルフィレドキシン−1
TG 全グリセリド
TKT トランスケトラーゼ
TNFα 腫瘍壊死因子アルファ
TXNRD1 チオレドキシンレダクターゼ1
【0272】
雑:
min 分
m.p. 融点
Ph フェニル
T 温度
wt.−% 重量パーセント
【0273】
K.さらなる表
【表10】
【0274】
【表11】
【0275】
【表12】
【0276】
【表13】
【0277】
【表14】
【0278】
【表15】
【0279】
【表16】
【0280】
【表17】
【0281】
ここに開示され特許請求される化合物、多形、製剤および方法の全ては、本開示に照らして過度な実験無くして行い、実行することができる。本発明の化合物、多形、製剤および方法を、好ましい実施形態の見地から記載してきたが、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、変形は、化合物、多形、製剤および方法に、ならびに本明細書中に記載された方法の工程のシークエンスにおいて適用することができるのは当業者に明らかである。より具体的には、化学的におよび生理学的に関連するある種の薬剤は、同一または同様な結果が達成されつつ、本明細書中に記載された薬剤に代えて置換することができるのは明らかである。当業者に明らかな全てのそのような同様な置換および修飾は、添付の請求の範囲によって定義される発明の精神、範囲および概念の範囲内にあるとみなされる。
【0282】
参考文献
以下の参考文献は、それらが典型的な手法、または本明細書中に記載されたものを補充する他の詳細を提供する程度に、具体的に、参照により本明細書に組み込む。
【0283】
【表18】