(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
主軸方向が互いに異なる複数の偏光素子と対応付けられた複数の画素を1つの画素ユニットとし、前記画素ユニットが二次元的に配列された撮像素子によって、当該撮像素子における、被写体の実効的な放射輝度値である実効放射輝度値を当該被写体から取得する輝度値情報取得ステップと、
前記被写体から取得した実効放射輝度値を用いて前記被写体の像を含む撮像画像を生成する画像生成ステップとを含み、
前記画像生成ステップにおいて、前記被写体の少なくとも一部に対応する前記画素ユニットごとに、当該画素ユニットに含まれる複数の画素の実効放射輝度値から、前記被写体の表面での正反射光成分の少なくとも一部を除去し、得られた輝度値を有する単位領域の集合としての前記撮像画像を生成し、
前記輝度値情報取得ステップにおいて取得した前記実効放射輝度値に含まれる、前記被写体の表面での正反射光成分が所定の強度以下であるか否かを判定する映り込み判定ステップと、
前記映り込み判定ステップにおいて、前記被写体の表面での正反射光成分が所定の強度以下であると判定された場合に、前記被写体に対して偏光を照射した状態で前記実効放射輝度値を取得する輝度値情報再取得ステップとをさらに含み、
前記輝度値情報再取得ステップが実行された場合には、前記画像生成ステップにおいて、前記輝度値情報再取得ステップにて取得した前記実効放射輝度値に含まれる、前記被写体の表面での正反射光成分の少なくとも一部を除去することを特徴とする画像処理方法。
前記画像生成ステップにおいて、前記画素ユニットのそれぞれに含まれる前記複数の画素の実効放射輝度値のうちの最小値を、前記単位領域のそれぞれの輝度値として決定することを特徴とする請求項1に記載の画像処理方法。
前記画像生成ステップにおいて、前記画素ユニットのそれぞれに含まれる前記複数の画素の前記実効放射輝度値に対して、前記偏光素子の主軸方向の角度を変数とする三角関数または多項式を適用することにより、前記最小値を推定することを特徴とする請求項3に記載の画像処理方法。
主軸方向が互いに異なる複数の偏光素子と対応付けられた複数の画素を1つの画素ユニットとし、該画素ユニットが二次元的に配列された撮像素子によって撮影された被写体の画像を取得するステップと、
前記撮像素子における前記画素ユニットの二次元的位置と対応する前記被写体上の位置により決まる前記被写体への入射角に依存したS偏光の輝度分布を、前記撮像素子の出力を用いて算出するステップと、
を有し、
前記S偏光の輝度分布を算出するときに、前記画素ユニットに含まれる画素の輝度値の最大値から最小値を減算することで、当該画素ユニットにおけるS偏光の輝度値を算出することを特徴とする画像処理方法。
主軸方向が互いに異なる複数の偏光素子と対応付けられた複数の画素を1つの画素ユニットとし、前記画素ユニットが二次元的に配列された撮像素子を備える画像処理装置であって、
前記撮像素子によって当該撮像素子における被写体の実効的な放射輝度値である実効放射輝度値を当該被写体から取得する輝度値情報取得部と、
前記被写体から取得した実効放射輝度値を用いて前記被写体の像を含む撮像画像を生成する画像生成部とを含み、
前記画像生成部は、前記被写体の少なくとも一部に対応する前記画素ユニットごとに、当該画素ユニットに含まれる複数の画素の実効放射輝度値から、前記被写体の表面での正反射光成分の少なくとも一部を除去し、得られた輝度値を有する単位領域の集合としての前記撮像画像を生成し、
前記輝度値情報取得部が取得した前記実効放射輝度値に含まれる、前記被写体の表面での正反射光成分が所定の強度以下であるか否かを判定する映り込み判定部と、
前記被写体の表面での正反射光成分が所定の強度以下であると前記映り込み判定部が判定した場合に、前記被写体に対して偏光が照射された状態で前記実効放射輝度値を取得する輝度値情報再取得部とをさらに含み、
前記輝度値情報再取得部が被写体の実効放射輝度値を取得した場合には、前記画像生成部は、前記輝度値情報再取得部が取得した前記実効放射輝度値に含まれる、前記被写体の表面での正反射光成分の少なくとも一部を除去することを特徴とする画像処理装置。
前記画像生成部は、前記画素ユニットのそれぞれに含まれる前記複数の画素の実効放射輝度値のうちの最小値を、前記単位領域のそれぞれの輝度値として決定することを特徴とする請求項13に記載の画像処理装置。
前記画像生成部は、前記画素ユニットのそれぞれに含まれる前記複数の画素の実効放射輝度値に対して、前記偏光素子の主軸方向の角度を変数とする三角関数または多項式を適用することにより、前記最小値を推定することを特徴とする請求項15に記載の画像処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。本実施形態の画像処理装置は、人間の眼球の、虹彩の画像に基づいて認証を行う装置である。
【0014】
(画像処理装置10の概要)
まず、画像処理装置10の概要について説明する。
図2は、画像処理装置10の概要を説明するための図である。画像処理装置10は、被写体を撮影した画像に対して画像処理を行うものである。具体的には、画像処理装置10は、被写体からの反射光に含まれる拡散反射成分と鏡面反射成分とを分離する処理を行う。画像処理装置10は、本実施形態では携帯情報端末1に搭載されている。
【0015】
携帯情報端末1は、例えば、ユーザの眼球E(被写体)の画像について上記2つの反射成分を分離し、当該分離した画像を用いて当該ユーザの虹彩認証を行うことが可能な端末であり、
図2に示すように、上述した画像処理装置10とカメラ20とを備えている。画像処理装置10の詳細については後述する。なお、本発明の一態様における被写体は眼球に限定されず、映り込みが発生する可能性のある被写体であればどのようなものでもよい。
【0016】
カメラ20は、ユーザ操作に基づいて被写体を撮影する。本実施形態では、
図2に示すように、カメラ20はユーザの眼球Eを撮影して、眼球Eの画像を取得する。また、カメラ20は、主として、集積偏光子21と受光素子22(撮像素子)(
図3参照)と備えており、カメラ20に光が入射する方向から見て、集積偏光子21および受光素子22の順に積層されている。
【0017】
集積偏光子21は、複数の偏光素子から構成され、複数の偏光素子の主軸方向は異なる。本実施形態では、集積偏光子21は、1画素につき1つの偏光素子が対応している。そして本実施形態では、
図2に示すように、隣接する9つの画素にそれぞれ対応する9つの偏光素子21a〜21iを備えている。具体的には、9つの偏光素子21a〜21iは、各画素において、それぞれ0°、20°、40°、60°、80°、100°、120°、140°および160°の偏光角を有する。
【0018】
受光素子22は、上記9つの偏光素子21a〜21iと対応付けられた複数の画素を1つの画素ユニットとし、当該画素ユニットが二次元的に配列された構成を有する。
【0019】
携帯情報端末1においてユーザの虹彩認証を行う場合、カメラ20によってユーザの眼球Eが撮影される。
図2に示すように、ユーザの眼球Eに外光または室内光が照射されると、当該光は眼球Eの表面において反射され、反射光Lrがカメラ20に入射することになる。
【0020】
カメラ20は、ユーザの眼球Eに外光(太陽光)または室内光が照射され、虹彩において当該外光または室内光を反射した反射光Lrを取得することにより、ユーザの虹彩の像を含む画像を取得し、携帯情報端末1は、当該虹彩の像を解析することによりユーザ認証を行う。一方、ユーザの視界に物体Oが存在する場合、
図2に示すように、外光または室内光の影響により物体Oが眼球Eに映り込み、眼球Eには映り込み像Irが形成される。すなわち、物体Oに照射され、物体Oで反射した外光または室内光が眼球Eに照射されることにより、眼球Eに映り込み像Irが形成される。そして、カメラ20は、この映り込み像Irにおいて外光または室内光を反射した反射光Lrを取得することにより、映り込み像Irを含む画像を取得する。携帯情報端末1は、取得した虹彩の像および映り込み像Irを含む画像から映り込み像Irを除去する処理を行わなければ、虹彩の画像解析において映り込み像Irの影響を受けてしまい、正確な虹彩認証ができない可能性がある。
【0021】
特に、太陽光の照射下においてはユーザの眼球Eに強い映り込みが生じるため、屋外での正確な虹彩認証は困難を伴う。太陽光の強度よりも高い強度を有する光をユーザの眼球Eに照射することで、虹彩認証における太陽光の影響を低減することはできるが、このような強度の高い光を眼球Eまたは肌に照射した場合には、眼球Eまたは肌の状態が悪化してしまう可能性がある。
【0022】
本実施形態の携帯情報端末1は、集積偏光子21と画像処理装置10とを備えることにより、上記のような強度の高い光を眼球Eに照射することなく、虹彩の画像解析における上記映り込み像Irの影響を低減し、正確な虹彩認証を行うことを可能とする。
【0023】
次に、上記影響を低減するための画像処理装置10における処理の概要について、
図3を用いて説明する。
図3は、画像処理装置10における画像処理の概要を説明するための図である。なお、
図3では、集積偏光子21の図示を簡略化している。
【0024】
図3に示す例では、太陽光の照射下において、虹彩認証のためにユーザの眼球Eの撮影を行っている。また、ユーザの眼球Eには物体Oの映り込み像Irが形成されている。
【0025】
虹彩認証を行うために、カメラ20によってユーザの眼球Eが撮影されると、ユーザの眼球Eからの反射光Lrは、集積偏光子21を介して受光素子22によって受光される。
【0026】
ここで一般に、画像処理に用いる像を形成する光(ここでは、認証処理に用いられる虹彩を示す反射光Lr)の強度は、そのほとんどが拡散反射成分から構成される。本実施形態では、当該光は、認証処理において必要となる眼球E(具体的には虹彩)の表面を示す表面情報を示すものとして処理される。一方、上記画像処理において除去すべきノイズとなる像を形成する光(ここでは、認証処理に悪影響を与える物体Oを示す反射光Lr)の強度は、そのほとんどが鏡面反射成分から構成される。この鏡面反射成分は、S偏光光源成分(S偏光成分)とP偏光光源成分(P偏光成分)とを含む。
【0027】
図3では、映り込み像Irおよび虹彩を含む眼球Eが撮影されているので、上記3種類の反射成分を含む反射光Lrが集積偏光子21を介して受光素子22によって受光される。したがって、受光素子22が受光した反射光LrからS偏光成分およびP偏光成分を除去する必要がある。
【0028】
本実施形態では、受光素子22が受光した反射光Lrに対してデジタル変換処理を行い、デジタル信号化された反射光Lrに対して、S偏光成分およびP偏光成分を除去する処理(S波P波除去)が行われる。これにより、
図3に示すように、認証処理において必要となる眼球Eの画像から、映り込み像Irが除去される。携帯情報端末1は、この映り込み像Irが除去された画像(すなわち、眼球Eの虹彩の像のみを含む画像)についてコード化を行うことにより、認証用の眼球Eのデータを生成する。これにより、携帯情報端末1は、正確な虹彩認証を行うことができる。
【0029】
なお、更に精度良く虹彩認証を行うために、S偏光成分およびP偏光成分を除去する処理後に、既知の独立成分分析(Independent Component Analysis;ICA)処理が行われてもよい。
【0030】
(携帯情報端末1の構成)
図4は、本実施形態の画像処理方法を実行する画像処理装置10を備える携帯情報端末1の構成を示すブロック図である。
図4に示すように、携帯情報端末1は、画像処理装置10と、カメラ20と、カメラ20からユーザの眼球Eの表面の各点までの距離を測定して後述するS偏光算出部12へ送信するする測距装置30と、を備える。
【0031】
なお、本実施形態では、画像処理装置10、カメラ20および測距装置30を一体に備える携帯情報端末1を例に挙げて説明するが、これらの部材は一体に設けられている必要は無い。すなわち、画像処理装置10が、当該画像処理装置10とは別装置であるカメラ20から撮像された画像を取得でき、かつ、当該画像処理装置10とは別装置である測距装置30から測定された上記距離を取得できればよい。
【0032】
本実施形態のカメラ20は、画素としてCCD(Charge Coupled Device)を用いている。なお、カメラ20は、画素としてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を用いるものであってもよい。
【0033】
図5の(a)および(b)は、カメラ20が備える集積偏光子の別の例を示す図である。本実施形態のカメラ20は、
図2において説明した通り、9種の偏光素子21a〜21iを備える集積偏光子21を備える。しかし、本発明の一態様において用いられるカメラは、例えば
図5の(a)に示すような、4種の偏光素子21j、21k、21l(エル)および21mを備える集積偏光子21Aを備えていてもよい。また、本発明の一態様において用いられるカメラは、例えば
図5の(b)に示すような、2種の偏光素子21nおよび21oを備える集積偏光子21Bを備えていてもよい。
【0034】
(画像処理装置10)
画像処理装置10は、黒目検出部11と、S偏光算出部12と、P偏光算出部13と、拡散光算出部14と、認証部15と、を備える。
【0035】
黒目検出部11は、カメラ20が撮影した画像を取得し、当該画像に含まれる、ユーザの黒目に対応する領域を特定する。黒目検出部11における処理は、例えば虹彩の画像による認証の分野においては公知であるため、本明細書では説明を省略する。
【0036】
S偏光算出部12は、画像に含まれるS偏光の輝度分布を算出する。S偏光算出部12による処理については後述する。
【0037】
P偏光算出部13は、画像に含まれるP偏光の輝度分布を算出する。P偏光算出部13は、S偏光の輝度分布、およびフレネルの法則に基づいて、P偏光の輝度分布を算出する。
【0038】
拡散光算出部14は、画像に含まれる拡散光の輝度分布を算出する。具体的には、拡散光算出部14は、各画素の輝度値から、当該画素におけるS偏光およびP偏光の輝度値を減算する。上記減算処理により、S偏光およびP偏光の成分が除去された、拡散光の成分のみの画像を得ることができる。
【0039】
認証部15は、拡散光のみの画像に含まれる虹彩の画像を用いて、ユーザの認証を行う。認証部15における、虹彩による認証は公知技術であるため、本明細書では説明を省略する。
【0040】
(S偏光算出部12における処理)
図6は、画像処理装置における処理に用いる値について説明するための図である。以下の説明においては、各数値を以下のように規定する。
・R:カメラ20のレンズから眼球Eの中心までの距離
・r:眼球Eの半径
・θ:眼球Eへの光の入射角((i)光が入射した眼球上の位置Pと眼球の中心とを結ぶ直線L1(第1の仮想線)と、(ii)当該位置Pとカメラ20のレンズの中心とを結ぶ直線L2(第2の仮想線)と、がなす角)
・φ:(i)カメラ20のレンズの中心と眼球Eの中心とを結ぶ直線と、(ii)上記直線L1と、がなす角
S偏光算出部12は、画素ユニットの二次元的位置に対応する眼球E上の位置Pにより決まる入射角θに依存したS偏光の輝度分布を、受光素子22の画素の輝度値(出力)を用いて算出する。S偏光算出部12における処理について、以下に説明する。
【0041】
(S偏光算出部12による第1の処理)
まず、S偏光算出部12は、入射角θがブリュースター角になる眼球上の点(以下、必要に応じて「ブリュースター点」と記す)に対応する、受光素子22における画素を特定する。具体的には、以下の式(1−1)に基づいて角度φを算出する。式(1−2)は、式(1−1)を変形したものである。
【0044】
式(1−1)および(1−2)において、Rは測距装置30により測定される。より正確には、測距装置30は、カメラ20のレンズから眼球Eの表面までの距離、すなわちRからrを引いた距離を測定する。人体における眼球の場合、rの値は7.4mmでほぼ一定である。したがって、測距装置30による測定データからRを算出することができる。さらに、眼球の角膜の屈折率nが1.376であることから、本実施形態ではブリュースター角(=θ)は53.1°であるものとする。これらの数値から、S偏光算出部12は、式(1−1)または(1−2)を用いて角度φを算出できる。
【0045】
ここで、カメラ20と眼球Eの中心とを結ぶ直線上に存在する、眼球Eの表面に対応する画素は、眼球Eの領域内でもっともカメラに近い画素である。当該画素の位置と上記距離から、眼球Eの画像における、ブリュースター点に対応する画素を特定することができる。なお、ブリュースター点に対応する画素は、画像中で複数特定される。
【0046】
次に、S偏光算出部12は、カメラ20の受光素子22に含まれる、特定した各々の画素を含む画素ユニットを特定する。画素ユニットは、複数の偏光素子と対応付けられている一群の画素である。本実施形態では、画素ユニットは、主軸方向が互いに異なる9つの偏光素子と対応付けられている。その画素ユニットが、カメラ20の受光素子22に二次元的に配列されている。
図6において、眼球上の位置Pとカメラ20のレンズの中心とを結ぶ直線L2上の、受光素子22における画素ユニットの二次元的位置において、当該位置Pに入射された光を受ける。
【0047】
次に、S偏光算出部12は、特定した画素ユニットに含まれる画素の輝度値の最大値から最小値を減算することで、ブリュースター点におけるS偏光の輝度値を算出する。このとき、例えば特定した全ての画素ユニットについて画素の輝度値の最大値から最小値を減算した差の平均値をブリュースター点におけるS偏光の輝度値としてもよい。または、任意の画素ユニットについてのみ画素の輝度値の最大値から最小値を減算し、算出された差をブリュースター点におけるS偏光の輝度値としてもよい。
【0048】
図7は、偏光角(主軸方向の角度)に対する、画素において受光される光の受光強度を示すグラフである。
図7に示すグラフにおいて、横軸は偏光角であり、縦軸は受光強度である。上記受光強度は、認証処理に必要となる虹彩像を示す拡散反射成分(k−term)と、認証処理においてノイズとなる外光の映り込み像Irを示す鏡面反射成分とを含む。鏡面反射成分は、上述したように、S偏光成分(f−term)とP偏光成分(g−term)とを含む。S偏光成分は、略余弦関数(cos(θ+ψ)(ψは任意の定数))または略正弦関数を形成する。
【0049】
拡散反射成分は、偏光角によらず一定である。したがって、
図7に示すグラフにおける、偏光角に対する受光強度の変動は、鏡面反射成分、特にS偏光成分の変動である。
【0050】
図8は、入射角θに対するS偏光およびP偏光の反射係数(フレネルの法則)を示すグラフである。
図8に示すグラフにおいて、横軸は眼球Eへの光の入射角θ(
図6参照)であり、縦軸は反射係数である。反射係数とは、反射強度を示す相対的な値である。また、眼球EにおけるS偏光およびP偏光の反射強度は、画素におけるそれぞれの受光強度と1対1に対応する。また、以下の式(2−1)および(2−2)は、眼球Eへの光の入射角θと、反射光に含まれるS偏光およびP偏光の反射係数との関係を示す式である。式(2−1)および(2−2)において、上述した通りn=1.376である。
【0053】
図8に示すように、P偏光の反射係数は、入射角θがブリュースター角近傍である場合においてほぼ0になる。すなわち、ブリュースター点に対応する画素を含む画素ユニットに含まれる画素においては、偏光角に対する受光強度の変動は、S偏光の変動であるとみなすことができる。
【0054】
S偏光の強度は、偏光角の変動に対して正弦関数的な変化を示すことが知られている。したがって、特定した画素ユニットに含まれる画素の輝度値の最大値から最小値を減算することで、当該画素ユニットにおけるS偏光の反射強度(振幅)を求めることができる。
【0055】
その後、S偏光算出部12は、ブリュースター角におけるS偏光の反射係数および反射強度、ならびにブリュースター点に対応する画素ユニット以外におけるS偏光の反射係数から、特定した画素ユニット以外の画素ユニットにおけるS偏光の反射強度を算出する。具体的には、ブリュースター角におけるS偏光の反射係数と反射強度との比率を算出し、当該比率を用いてブリュースター角以外の入射角θにおける反射係数に対応する反射強度を算出する。すなわち、S偏光算出部12は、入射角θがブリュースター角である画素におけるS偏光の輝度値を起点とし、ブリュースター角以外の入射角θにおけるS偏光の輝度値を算出する。
【0056】
なお、画像内における眼球Eの領域において外光の映り込みが発生していない場合、各画素の輝度値は鏡面反射成分を含まない。この場合、画素ユニット内における画素ごとの輝度値は、S偏光成分を含まないため、偏光角に対して正弦関数的な変化を示さない。
【0057】
そこで、本発明の一態様に係る画像処理装置は、S偏光算出部12による処理の前に、画素ユニット内における画素ごとの輝度値が偏光角に対して正弦関数的な変化を示すか否かを判定する映り込み判定部をさらに備えてもよい。映り込み判定部による判定の対象となる画素ユニットは、画像処理装置の製造者が任意に設定すればよい。
【0058】
画素ユニット内における画素ごとの輝度値が偏光角に対して正弦関数的な変化を示さない場合には、眼球Eへの外光の映り込みが発生していないと考えられる。この場合、画像処理装置10は、S偏光およびP偏光の算出を行わず、各画素ユニットに含まれる画素の内で最小の輝度値を拡散反射成分の輝度値として、認証部15における認証を行ってよい。
【0059】
(S偏光算出部12における第2の処理)
上述したブリュースター点に対応する画素は、画像における黒目の領域の外周に位置することが多い。このため、ユーザの目の開き具合、または撮影の角度などによっては、ブリュースター点に対応する画素が上記黒目の領域に含まれないことがある。
【0060】
このような場合には、上記第1の処理を正常に行うことができないため、虹彩による認証は失敗する。そこで、S偏光算出部12は、上述した第1の処理により生成された虹彩画像による認証が失敗した場合には、ブリュースター角に対応する画素が受光素子22上の眼球Eの領域に含まれていなかったものとして、以下に説明する第2の処理を行う。
【0061】
第2の処理では、画素ユニットに含まれる画素の輝度値の最大値から最小値を減算することでS偏光の輝度値を算出することを、受光素子22に含まれる複数の画素ユニットについて繰り返す。そして、特定した各々の画素ユニットに含まれる画素の輝度値の最大値から最小値を減算することで、当該画素ユニットにおけるS偏光の輝度値を算出する。その後、式(2−1)を用いて各画素ユニットに対応する入射角θとS偏光の輝度値との関係についてフィッティングを行い、nの値を算出する。
【0062】
なお、本実施形態の画像処理装置においては、S偏光算出部12は、上述した第1の処理と第2の処理とのうち、どちらを先に行ってもよい。また、どちらか一方の処理だけを行ってもよい。
【0063】
(P偏光算出部13における処理)
図8、式(2−1)および(2−2)に示すとおり、フレネルの法則により、S偏光とP偏光との強度比は、入射角θに応じて決まっている。このため、S偏光算出部12が上述した第1の処理を行った場合には、P偏光算出部13は上述した通り、S偏光の輝度分布、およびフレネルの法則に基づいて、P偏光の輝度分布を算出することができる。
【0064】
また、S偏光算出部12が上述した第2の処理を行った場合には、nの値が算出されている。したがってP偏光算出部13は、上述した式(2−2)によりP偏光の強度を算出することができる。
【0065】
(画像処理装置10による第1の処理)
図1は、本実施形態の画像処理方法における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0066】
まず、カメラ20が、ユーザの眼球Eを含む画像を撮影するとともに、測距装置30が、カメラ20から眼球Eまでの距離を測定する(S1)。画像処理装置10は、当該画像および距離を示すデータを取得する。そしてまず、撮影された画像に対し、黒目検出部11が黒目領域を検出する処理を実行する(S2)。
【0067】
次に、S偏光算出部12は、検出された黒目領域において、カメラ20へ向けて反射される光の入射角θがブリュースター角である点における、S偏光の輝度値を算出する(SA1)。さらにS偏光算出部12は、ステップSA1で算出したS偏光の輝度値およびフレネルの法則に基づき、カメラ20へ向けて反射される光の入射角θがブリュースター角以外の角度である点における、S偏光の輝度値(輝度分布)を算出する(SA2)。
【0068】
その後、P偏光算出部13は、ステップSA1およびSA2で算出したS偏光の輝度分布、およびフレネルの法則に基づいて、P偏光の輝度値(輝度分布)を算出する(SA3)。さらに、拡散光算出部14は、S偏光の輝度分布およびP偏光の輝度分布に基づいて、拡散光の輝度分布を算出する(SA4)。
【0069】
ステップSA4により得られた拡散光の輝度分布を示す画像(拡散光の画像と称することもある)を用いて、認証部15が認証を行う(SA5)。その後、認証部15は、拡散光の画像によりユーザを認証できたか否か判定する(S3)。認証できた場合(S3、Y)、画像処理装置10は画像処理を終了する。
【0070】
一方、認証できなかった場合(S3、N)、画像処理装置10は、認証の精度を向上させるため、ステップSA1〜SA5とは異なる処理により、再度ユーザの認証を試みる。具体的には、まずS偏光算出部12は、検出された黒目領域内の各画素ユニットについてS偏光輝度値を算出する(SB1)。次に、P偏光算出部13は、ステップSB1において算出したS偏光輝度値に基づいて、P偏光輝度値を算出する(SB2)。そして、拡散光算出部14は、S偏光輝度値およびP偏光輝度値に基づいて、拡散光輝度値を算出する(SB3)。ステップSB3により得られた拡散光の画像を用いて、認証部15が認証を行う(SB4)。なお、ステップSB4において認証が失敗した場合には、認証部15は、認証が失敗したことを、例えば携帯情報端末1が備える表示部(不図示)等を介してユーザに報知する。
【0071】
なお、
図1に示したフローチャートにおける処理のうち、ステップSA1〜SA4の処理が、上述したS偏光算出部12における第1の処理に当たる。また、ステップSB1〜SB3の処理が、上述したS偏光算出部12における第2の処理に当たる。
【0072】
(画像処理装置10による第2の処理)
図9は、本実施形態の画像処理方法における処理の流れの、別の例を示すフローチャートである。
図9に示す処理によれば、
図1に示す処理と比較して高速にユーザの認証を行うことを期待できる。
【0073】
図9に示す処理ではまず、
図1に示した例と同様に、ステップS1およびS2が実行される。次に、画像処理装置10は、ステップSA1より先にステップSB1〜SB4による認証を実行する。その後、認証部15がユーザを認証できたか否か判定する(S3)。認証できなかった場合(S3、N)には、画像処理装置10は、ステップSA1〜SA5による認証を実行する。
【0074】
ステップSB1〜SB4による認証は、ステップSA1〜SA5による認証と比較して短時間で処理を行うことができる。したがって、
図9に示す処理によれば、ステップSB1〜SB4によりユーザの認証ができる場合には、
図1に示す処理と比較して高速にユーザの認証を行うことができる。
【0075】
(画像処理装置10による第3の処理)
図10の(a)は、本実施形態の画像処理方法における処理の流れの、さらに別の例を示すフローチャートである。
図10の(a)に示す処理によれば、
図1および
図9に示す処理と比較して信頼度が低下する代わりに、
図10に示す処理よりさらに高速にユーザの認証を行うことができる。
【0076】
図10の(a)に示す処理では、
図9に示した処理と同様、画像処理装置10は、ステップS1およびS2の後に、ステップSB1〜SB4による認証を実行する。その後、認証部15は、ステップS3の判定を行わない。
【0077】
図10の(a)に示す処理によれば、仮にステップSA1〜SA5による認証を行えば認証に成功する場合であっても、ステップSB1〜SB4による認証に失敗すれば認証自体が失敗となるため、認証の信頼度が低下する。一方で、ユーザは、撮影した画像による認証の成否を迅速に知ることができる。
【0078】
(画像処理装置10による第4の処理)
図10の(b)は、本実施形態の画像処理方法における処理の流れの、さらに別の例を示すフローチャートである。
図10の(b)に示す処理は、
図10の(a)に示す処理と比較して、ステップSB2が省略されている点で異なる。すなわち、
図10の(b)に示す処理によれば、画像処理装置10はS偏光のみを除去し、P偏光を除去しない。したがって、
図10の(b)に示す処理によれば、ステップSB4において、認証部15は、映り込み像IrのP偏光成分が除去されていない画像を用いて認証を行う。このため、
図10の(a)に示す処理と比較して、認証の信頼度がさらに低下する代わりに、処理速度をさらに高速化することができる。
【0079】
(実験例1)
上述したS偏光算出部12による第2の処理によって、画像処理装置10により画像内に映り込んだノイズとなる像(映り込み像)の除去を行うことができる理由について、ゴムボールを用いた実験例により以下に説明する。実験に用いたカメラ20はCCDセンサーを用いたカメラであり、画素数は1900×900(約130万画素)である。カメラ20が備える集積偏光子は、偏光角が互いに異なる4種類の偏光素子を有する。以下の説明では、4種類の偏光素子の偏光角について、それぞれ0°、45°、90°、および135°とする。
【0080】
偏光素子の製造方法は以下のとおりである。まず、CCDセンサーを構成するフォトダイオードの上にSiO
2層間膜を介して膜厚40nmのAlCuを成膜し、300nmピッチで150nmのスリット(AlCuが存在しない帯状の領域)をドライエッチングにより形成する。その後、膜厚50nmのSiO
2および膜厚40nmのAlCuを順に成膜し、新たなAlCuに、先に成膜したAlCuと互い違いになるようにスリットを形成する。
【0081】
ゴムボールの直径は10cmであり、パターン像として表面に「G」の文字が書かれている。それぞれの図の基となった写真においては、パターン像と重なる位置に映り込みが発生していた。ゴムボールとカメラ20のレンズとの間の距離は30cm〜50cmである。
【0082】
偏光角45°の偏光により形成された画像においては、パターン像は比較的明瞭であった。一方、偏光角0°および90°の偏光により形成された画像においては、パターン像が不明瞭であった。偏光角135°の偏光により形成された画像においては、パターン像がさらに不明瞭であった。すなわち、この集積偏光子では、4つの偏光素子を透過した光において、偏光角45°の偏光素子を透過した光の輝度が最も高く、偏光角135°の偏光素子を透過した光の輝度が最も低い。そのため、下記の実測値には、これらの2つの光の輝度の差を算出した結果を用いている。
【0083】
図11は、ゴムボールへの光の入射角に対する、S偏光の反射係数を示すグラフである。
図11において、横軸はゴムボールからの光が入射する各画素における、ゴムボールの半径に対する、ゴムボールの中心からの光が入射する画素から当該画素までの距離の比であり、ゴムボールへの光の入射角に対応する値である。また、縦軸は、S偏光の反射係数である。
【0084】
図11において、各データ点は実測値である。一方、実線は式(2−1)を用いた、ゴムボールの屈折率(n=2.2)における、反射係数の理論値を示すグラフである。S偏光算出部12による実測値は、理論値と合致している。さらに、上述した式(2−2)と、フィッティングにより算出したnの値から、入射角θに対するP偏光の輝度分布を求めることができる。
【0085】
以上の通り、本実験では、主軸方向が互いに異なる4つの偏光素子を通して撮影した画像に基づいて、画像に含まれるS偏光成分およびP偏光成分を算出することができる。元の画像からS偏光成分を減算することで、元の画像よりパターン像が明確になった画像を得ることができる。また、元の画像からS偏光成分およびP偏光成分の両方を減算することで、パターン像がさらに明確になった画像を得ることができる。
【0086】
なお、実際にユーザが携帯情報端末1により目の画像を撮影する場合には、眼球Eが画像の中心からずれることが考えられる。眼球Eが画像の中心からずれている場合には、式(1−1)および(1−2)に示したような簡単な関係は成り立たない。
【0087】
このような場合には、入射角がブリュースター角である画素の位置を特定することで、上記のずれを判定することができる。
【0088】
具体的には、各画素ユニットにおける画素の輝度の、偏光角への依存性を算出する。上述した通り、ブリュースター角に対応する画素ユニットにおいてはP偏光成分が0となるため、当該画素ユニットの輝度に占めるS偏光成分の比率が大きくなる。その結果、当該画素ユニットに含まれる画素の輝度は、偏光角に依存しての変動が大きくなる。
【0089】
したがって、偏光角に対する依存性が特に大きい画素ユニットを、ブリュースター角に対応する画素であるとみなすことができる。そして、ブリュースター角に対応する画素の位置から、カメラ20の位置のズレを判定することができる。
【0090】
(実験例2)
図12は、本実施形態の画像処理装置による画像処理の実験結果を示す画像の概略を示す図である。本実験では、互いに異なる7種類の偏光角を有する偏光素子を備える集積偏光子を用いた。また、本実験では、上述したフローチャートにおける、ステップSB1〜SB3によって画像処理を行った。
【0091】
本実験に用いた画像は、画像処理前には、
図12において矢印の前に示すように、黒目領域への外光の映り込み像Irを含んでいた。これに対し、画像処理後には、
図12において矢印の後に示すように、黒目領域への外光の映り込み像Irが除去されていた。
【0092】
(画像処理装置10の効果)
発明者は、本願発明に先駆けて、様々な条件下での従来の虹彩認証システムによる認証の実験を行った。実験においては、スマートフォンのカメラにより撮影を行った。スマートフォンの位置は眼球に対して「正面」および「下」の2種類とした。また、目の開き具合を、スマートフォンの位置が「正面」の場合には「大」、「中」および「小」の3種類とし、スマートフォンの位置が「下」の場合には「中」の1種類とした。
【0093】
撮影環境は「屋内」および「屋外」の2種類とした。「屋内」についてはさらに「窓なし」、「窓あり(日陰)」、「窓あり(直射日光)」および「暗室」の4種類に分けた。また、「屋外」についてはさらに「晴天(逆光線)」、「晴天(順光線)」および「晴天(側光線)」の4種類に分類した。なお、「逆光線」とは、太陽光がカメラと逆の側から被写体に入射することを意味する。また、「順光線」とは、太陽光がカメラと同じ側に入射することを意味する。また、「側光線」とは、太陽光がカメラの側方から被写体に入射することを意味する。
【0094】
それぞれの条件で10回ずつ認証実験を行った結果を以下に説明する。スマートフォンの位置が「正面」である場合、目の開き具合が「中」以上であれば、「屋内」では「窓あり(直射日光)」以外では認証の失敗はなかった。一方で、「窓あり(直射日光)」では、認証はほとんど成功しなかった。また、目の開き具合が「小」である場合には、いずれの環境においても認証はほとんど成功しなかった。
【0095】
一方、スマートフォンの位置が「下」である場合には、「屋内」では「窓あり(直射日光)」以外では認証の失敗はなかった。さらに、「窓あり(直射日光)」における失敗もわずかであった。
【0096】
このように、屋内では、窓からの直射日光が当たる場所でなければ、目の開き具合が小さくなければ認証の失敗はほとんどなかった。
【0097】
しかし、「屋外」においては、スマートフォンの位置が「正面」であった場合、認証は全く成功しなかった。スマートフォンの位置が「下」であった場合には、「晴天(側光線)」では問題なく認証が行えたものの、「晴天(逆光線)」および「晴天(順光線)」においては認証の成功回数は半分以下であった。
【0098】
以上説明したように、従来の虹彩認証システムによる認証は、屋外では成功しにくいという問題があった。これは、上述した通り、眼球への外光などの映り込みが原因である。
【0099】
特許文献1には、鏡面反射成分の輝度分布を求めることにより、上記反射成分を分離すること、ひいては被写体である眼球に映り込んだ他の物体の像を除去して虹彩認証を行うことについての開示は無い。また、上記物体の像を除去する処理以外の虹彩認証のための処理を行うことについての開示は無い。
【0100】
本実施形態の画像処理装置によれば、S偏光算出部12によって入射角θに依存したS偏光成分の輝度分布を求めることにより、眼球の画像に含まれる映り込み像Irに起因したS偏光成分を算出し、除去することができる。また、本実施形態の画像処理装置によれば、S偏光成分に基づいて映り込み像Irに起因したP偏光成分を算出し、除去することができる。
【0101】
すなわち、本実施形態の画像処理装置によれば、眼球への外光の映り込みを除去することができる。外光の映り込みを除去した画像により虹彩認証を行うことで、環境を問わず、かつ精度の高い認証を行うことができる。
【0102】
また、特許文献1の画像処理方法では、上述の(5)の処理において拡散反射成分および鏡面反射成分を分離するために、上述の(1)〜(4)の処理を行う必要がある。そのため、特許文献1の画像処理方法では、上記2つの反射成分を分離するためのアルゴリズムが複雑化し、その結果、画像処理の演算速度が低下する可能性がある。本実施形態の画像処理装置10においては、上述のとおり、上記(1)〜(4)の処理を行うことなく、上記2つの反射成分を分離することが可能である。したがって、特許文献1の画像処理方法に比べ、画像処理の演算速度を向上させることができる。
【0103】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、
図4および
図5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0104】
実施形態1のカメラ20は、集積偏光子21として9つの偏光素子21a〜21iを有している。一方、
図5の(a)に示すように、本実施形態のカメラ20は、隣接する4つの画素にそれぞれ対応する4つの偏光素子21j〜21mを有する集積偏光子21Aを備えている。4つの偏光素子21j、21k、21lおよび21mは、各画素において、135°、90°、45°、0°の偏光角を有する。このように、本実施形態では、集積偏光子21の代わりに集積偏光子21Aを用いる。この場合も、実施形態1と同様、
図1、
図9および
図10に示すステップSA1およびSB1においてS偏光輝度値の算出を行うことができる。すなわち、実施形態1と同様、反射光Lrから鏡面反射成分を除去することができる。
【0105】
ただし、本実施形態の集積偏光子21Aは、4つの偏光素子21j〜21mとその数が実施形態1よりも少ない。
【0106】
一般に、集積偏光子の偏光角と画素が受ける反射光Lrの受光強度との特性において、当該受光強度は略正弦関数または略余弦関数を形成する。実施形態1では、1つの画素ユニットにおいて、9つの偏光素子21a〜21iにおける反射光Lrの受光強度を取得している。そのため、
図7に示すように、上記特性における受光強度が示す波形を、上記略正弦関数または略余弦関数にフィッティングさせることができる。したがって、例えば
図1に示すステップSA1で用いられる、1つの画素ユニットにおける受光強度の最大値(最大輝度値)および最小値(最小輝度値)は、当該画素ユニットにおける最大輝度値および最小輝度値と略一致している可能性が高い。
【0107】
一方、本実施形態では、補間して上記略正弦関数または略余弦関数にフィッティングさせるが、実施形態1よりも、フィッティングの精度が低下し、上記最大輝度値および最小輝度値から離れてしまう可能性がある。
【0108】
しかしながら、本実施形態では、集積偏光子21Aに対応する1つの画素ユニットが4つの画素で構成されている。すなわち、実施形態1よりも集積偏光子21Aの数が多くなる。そのため、例えばブリュースター角に対応する画素を、実施形態1よりも細分化して取得することが可能となる。すなわち、当該画素をより精度良く特定することが可能となる。
【0109】
このように、本実施形態では、実施形態1と比較し、フィッティングの精度が低下する可能性があるものの、ブリュースター角に対応する画素を精度良く特定することができる。したがって、虹彩認証を行ったときの精度を検証することにより、実施形態1の集積偏光子21、および本実施形態の集積偏光子21Aのいずれを用いるかを決定すればよい。
【0110】
なお、上記検証を行うことで、集積偏光子21Aの代わりに、
図5の(b)に示す集積偏光子21B(偏光角が90°である偏光素子21nと偏光角が0°である偏光素子21oとを2つずつ備える)を使用してもよい。また、偏光角、および1つの画素ユニットに対応する偏光素子の数は、上記検証に応じて適宜変更可能である。
【0111】
〔実施形態3〕
本発明の実施形態3について
図13および
図14に基づいて説明すれば、以下のとおりである。虹彩画像を用いた認証においては、眼球Eの偽造物を用いることにより、ユーザ本人になりすまして認証を行うケースが考えられる。したがって、このなりすましを防止することを検討する必要がある。
【0112】
図13は、本実施形態の画像処理装置10Aを備える携帯情報端末1Aの構成を示すブロック図である。
図13に示すように、画像処理装置10Aは、画像処理装置10と比較して、認証部15がなりすまし判定部15aを備える点で相違する。
【0113】
一般に、生体の眼の角膜の屈折率はn=1.376である。一方、眼の偽造物の場合には、生体の眼を構成する成分とその素材が異なるゆえ、屈折率が生体の眼とは異なる。なりすまし判定部15aは、この違いを利用して、眼が生体であるか偽造物であるかを判定する。
【0114】
具体的には、なりすまし判定部15aは、ステップSB1においてS偏光算出部12が算出したnの値を参照する。nの値が1.376と同一かそれに近い値(すなわち所定の範囲内、例えば±5%以内の値)であれば、なりすまし判定部15aは撮影された画像について、生体の眼球Eであると判定する。一方、算出されたnの値が1.376から離れた値(すなわち所定の範囲外、例えば±5%を超えて離れた値)であれば、なりすまし判定部15aは撮影された画像について、眼球Eの偽造物であると判定する。
【0115】
図14は、画像処理装置10Aにおける処理の流れを示すフローチャートである。
図14に示すように、画像処理装置10Aにおける処理は、
図1に示す処理と比較して、ステップSB3とステップSB4との間にステップSB5が実行される点においてのみ異なる。
【0116】
ステップSB5において、なりすまし判定部15aは、ステップSB1においてS偏光算出部12が算出したnの値が所定の範囲内であるか判定する。所定の範囲内である場合(SB5、Y)、なりすまし判定部15aは、撮影された画像が生体の眼球Eであると判定し、SB4の処理を行う。一方、所定の範囲内でない場合(SB5、N)、なりすまし判定部15aは、撮影された画像が眼球Eの偽造物であると判定し、SB4の処理を行うことなく認証を終了する。
【0117】
以上の通り、本実施形態に係る画像処理方法によれば、S偏光算出部12によって入射角θに依存したS偏光成分の輝度分布を求めることにより、当該S偏光の輝度分布を、被写体が眼球なのか、偽造物であるかの判別に利用することができる。
【0118】
なお、なりすまし判定部15aは、ステップSB2においてP偏光算出部13により算出されたP偏光成分の輝度分布について、輝度値が最小となる角度をブリュースター角とみなしてもよい。そして、当該角度が53.1°に近い値であるか否かによって、生体の眼球Eであるか、眼球Eの偽造物であるかを判定してもよい。すなわち、なりすまし判定部15aは、上記角度が、生体の眼球Eであると推定されるブリュースター角を含む所定の範囲内にあるか否かに基づいて、上記判定を行ってもよい。
【0119】
また、
図9および
図10の処理においても、ステップSB3とステップSB4との間にステップSB5を実行することで、上記判別を行うことができる。
【0120】
(変形例)
偽造物によるなりすましを防止する別の方法について、以下に説明する。
【0121】
屈折率が生体の眼球Eとは異なる偽造物に対して、ブリュースター角を53.1°として映り込み除去を行った場合、当該偽造物への外光などの映り込みが適切には除去されない。したがって、外光などの映り込みが存在する場合には、屈折率の算出を行わなくても、当該映り込みによって虹彩パターンが変化し、認証に失敗する可能性が高い。
【0122】
しかし、例えば暗室など、映り込みが発生しない環境で認証を行った場合、虹彩パターンが変化せず、認証に成功する虞がある。
【0123】
そこで、偽造物によるなりすましを防止する方法として、眼球Eに映り込みを意図的に発生させるための光源を画像処理装置に備えてもよい。発生した映り込み(光源の像)は、生体の眼球Eであれば、画像処理装置により適切に除去されるため、認証に影響しない。一方、眼球Eの偽造物であれば、画像処理装置は当該映り込みを除去できないため、認証に失敗する。なお、このような光源が発する光の強度は、映り込みが発生しさえすればよい。したがって、例えば人体に悪影響を及ぼすような高い強度である必要はない。
【0124】
〔実施形態4〕
本発明の実施形態4について
図15〜
図17に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0125】
図15は、本実施形態に係る画像処理装置10Bを備える電子情報機器2の構成を示すブロック図である。
図15に示すように、電子情報機器2は、画像処理装置10B、カメラ20、および記憶部90を備える。また、画像処理装置10Bは、輝度値情報取得部16、最小輝度値選択部17(画像生成部)、黒目検出部11、および認証部15を備える。
【0126】
輝度値情報取得部16は、カメラ20が備える撮像素子によって、当該撮像素子における、被写体の実効的な放射輝度値である実効放射輝度値を当該被写体から取得する。具体的には、輝度値情報取得部16は、カメラ20が備える撮像素子の画素のそれぞれにおいて被写体で反射された光を受光したときの当該光の強度を、各画素における実効放射輝度値として取得する。なお、本実施形態および以後の実施形態において、「被写体」は、片目の眼球Eまたは両目の眼球Eのいずれであってもよく、また眼球Eの周囲の物体を含んでいてもよい。
【0127】
最小輝度値選択部17は、被写体の黒目から取得した実効放射輝度値を用いて、黒目の像を含む撮像画像を生成する。具体的には、最小輝度値選択部17は、被写体の黒目に対応する画素ユニットごとに、当該画素ユニットに含まれる複数の画素の実効放射輝度値から、被写体の黒目の表面での正反射光成分の少なくとも一部を除去し、得られた輝度値を有する単位領域の集合としての撮像画像を生成する。また、上述した拡散光算出部14、並びに後述する最小輝度値推定部17Aおよび拡散反射光成分算出部18も同様である。
【0128】
より具体的には、本実施形態の最小輝度値選択部17は、画素ユニットに含まれる複数の画素の実効放射輝度値のうちの最小値を、当該画素ユニットに対応する単位領域における輝度値として決定する。被写体の黒目に対応する画素ユニットは、予め黒目検出部11により特定される。単位領域とは、カメラ20が備える画素ユニットのそれぞれに対応する、被写体の画像における領域である。
【0129】
本実施形態および後述の実施形態では、映り込み像を形成する反射光の成分を正反射光成分と称する。正反射光成分は、画素に対応して設けられた偏光素子の主軸方向に依存する成分を含む。画素ユニットにおける実効放射輝度値の最小値は、当該画素ユニットにおいて、偏光素子の主軸方向に依存する成分が最もよく除去された実効放射輝度値であるといえる。したがって、最小輝度値選択部17は、画素ユニットにおける実効放射輝度値の最小値を単位領域の輝度値として決定することで、被写体の角膜の表面での正反射光成分の少なくとも一部を除去し、得られた輝度値を有する単位領域の集合としての撮像画像を生成する。
【0130】
記憶部90は、画像処理装置10Bが実行する処理に必要な情報を格納する記憶装置である。なお、電子情報機器2は記憶部90を備えず、電子情報機器2の外部に設けられた記憶装置と通信可能に構成されていてもよい。
【0131】
図16は、画像処理装置10Bにおける処理を示すフローチャートである。画像処理装置10Bにおいては、まず、輝度値情報取得部16は、カメラ20により、黒目を含む被写体の実効放射輝度値を取得する(SC1、輝度値情報取得ステップ)。次に、黒目検出部11は、実効放射輝度値から黒目領域を検出する(SC11)。最小輝度値選択部17は、黒目検出部11が検出した黒目領域を、画像処理を実行する範囲として決定する(S12)。最小輝度値選択部17は、黒目領域内の画素ユニットに含まれる複数の画素の実効放射輝度値のうちの最小値を、当該画素ユニットに対応する単位領域の輝度値として決定することで、角膜の表面での正反射光成分の少なくとも一部を除去する(SC2、画像生成ステップ)。さらに最小輝度値選択部17は、ステップSC2において決定した輝度値を有する単位領域の集合としての撮像画像を生成する(SC3、画像生成ステップ)。
【0132】
黒目検出部11は、最小輝度値選択部17が生成した撮像画像に対して黒目領域を検出する処理を実行する(SC4)。黒目検出部11は、ステップSC11における黒目領域の検出結果を、そのままステップSC4における検出結果として用いてもよい。認証部15は、検出された黒目領域を用いて、本人認証を行う(SC5)。その後、認証部15は、ユーザを認証できたか否か判定する(SC6)。認証できた場合(SC6でY)、画像処理装置10Bは処理を終了する。認証できなかった場合(SC6でN)、黒目検出部11は、再度黒目領域の検出を行う。
【0133】
ステップSC6でNとなった場合、黒目検出部11がユーザの黒目領域を正しく検出できていない可能性がある。そこで、ステップSC6でNとなった後のステップSC4では、黒目検出部11は、検出する黒目領域を前回のステップSC4において検出した黒目領域とは異ならせることが好ましい。黒目領域を異ならせる方法の具体例としては、黒目領域の径を拡大または縮小することが挙げられる。このように、登録されているユーザの眼球のコードと撮像した眼球Eのコードとのハミングディスタンスが最小となるように、黒目検出部11による黒目領域の検出処理にフィードバックをかけることが好ましい。
【0134】
図17は、画素ユニットにおける画素の実効放射輝度値の例を示すグラフである。
図17に示すグラフにおいては、横軸がカメラ20の画素ユニットに含まれる各画素に対応する偏光素子の主軸の角度、縦軸が画素ユニットにおける画素の実効放射輝度値を示す。
図17に示す例では、画素ユニットは9つの画素を含み、それぞれの画素は主軸方向が10°を起点として20°ずつ異なる9つの偏光素子に対応する。
【0135】
図17に示す例では、画素ユニットにおける画素の実効放射輝度値は、対応する偏光素子の主軸方向が90°である画素において最小値を取り、対応する偏光素子の主軸方向が170°である画素において最大値を取る。この場合、最小輝度値選択部17は、主軸方向が90°である偏光素子に対応する画素の実効放射輝度値を、当該画素ユニットに対応する単位領域の輝度値として選択する。
【0136】
画像処理装置10Bにおいては、画素ユニットのそれぞれに含まれる画素の実効放射輝度値のうちの最小値を、当該画素ユニットに対応する単位領域の輝度値として決定する。これにより、複雑な計算処理を必要とせず、単位領域の輝度値を簡易に決定し、撮像画像を生成することができる。
【0137】
なお、画像処理装置10Bは、上述したフローチャートのステップのうち、ステップSC11・SC12を省略してもよい。この場合、最小輝度値選択部17は、全ての画素ユニットのそれぞれについて、対応する単位領域の輝度値を決定すればよい。また、後述する実施形態5の画像処理装置10Cも、ステップSC11・SC12を省略してもよい。ただし、後述する実施形態6〜8の画像処理装置10D・10Eは、ステップSC11・SC12を省略できない。また、処理速度の観点からは、黒目領域に対応する画素ユニットについてのみ、当該画素ユニットに対応する単位領域の輝度値を決定する方が好ましいため、画像処理装置10B・10CにおいてもステップSC11・SC12を実行することが好ましい。
【0138】
また、実施形態4および5の画像処理装置10B・10Cは、ステップSC2の前に黒目ではなく別の領域、例えば黒目より所定の範囲だけ広い領域、または眼球E全体に対応する領域などを特定する処理を行ってもよい。この場合、最小輝度値選択部17または最小輝度値推定部17A(実施形態5参照)は、特定した上記領域について画像処理を実行すればよい。すなわち、画像処理装置10B・10Cは、被写体の少なくとも黒目(少なくとも一部)に対応する画素ユニットに含まれる複数の画素の実効放射輝度値に基づいて、当該画素ユニットに対応する単位領域における輝度値を決定すればよい。
【0139】
〔実施形態5〕
本発明の実施形態5について
図18〜
図20に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0140】
図18は、本実施形態に係る画像処理装置10Cを備える電子情報機器2の構成を示すブロック図である。
図18に示すように、画像処理装置10Cは、最小輝度値選択部17の代わりに最小輝度値推定部17A(画像生成部)を備える点で画像処理装置10Bと相違し、その他の点で画像処理装置10Bと一致する。
【0141】
最小輝度値推定部17Aは、画素ユニットのそれぞれに含まれる複数の画素の実効放射輝度値に基づいて、当該画素ユニットにおいて取り得る実効放射輝度値の最小値を推定する。最小値の具体的な推定方法の例については後述する。
【0142】
さらに最小輝度値推定部17Aは、推定した実効放射輝度値の最小値から、単位領域の輝度値を決定する。ここで、最小輝度値推定部17Aは、推定した最小値を単位領域の輝度値としてもよく、推定した輝度値について所定の計算を行って算出される値を単位領域の輝度値としてもよい。例えば最小輝度値推定部17Aは、推定した実効放射輝度値の最小値に所定の値を加算、減算、乗算または除算した値を単位領域の輝度値としてもよい。
【0143】
図19は、画像処理装置10Cにおける処理を示すフローチャートである。画像処理装置10Cにおける処理は、ステップSC2の代わりにステップSC7(画像生成ステップ)が実行される点を除いて、画像処理装置10Bにおける処理と同じである。ステップSC7において、最小輝度値推定部17Aは、眼球Eに対応する画素ユニットのそれぞれについて、取り得る実効放射輝度値の最小値を推定する。
【0144】
図20は、画素ユニットにおける画素の実効放射輝度値の例を示すグラフである。
図20に示すグラフにおいては、横軸が画素ユニットに含まれる画素に対応する偏光素子の主軸の角度、縦軸が実効放射輝度値を示す。
図20に示す例では、画素ユニットは、主軸方向が10°を起点として45°ずつ異なる4つの偏光素子に対応する4つの画素を含む。
【0145】
図20に示す例では、画素ユニットに含まれる画素が取得する実効放射輝度値は、対応する偏光素子の主軸方向が100°である画素において最も小さくなる。しかし、主軸方向と実効放射輝度値との関係が、例えば
図20に破線で示される関数である場合、画素ユニットに含まれる画素は、当該画素に対応する偏光素子の主軸方向次第で、より小さい実効放射輝度値を取り得るといえる。この場合において、画素ユニットにおける画素の実際の実効放射輝度値の最小値を単位領域の輝度値として決定した場合、当該輝度値には偏光素子の主軸方向に依存する正反射光成分が残った状態となる。画像処理装置10Cは、画素ユニットが取り得る実効放射輝度値の最小値を最小輝度値推定部17Aにより推定することで、画像処理装置10Bが生成する撮像画像と比較して、正反射光成分の少ない撮像画像を生成することができる。
【0146】
以下に示す例では、最小輝度値推定部17Aは、画素ユニットのそれぞれに含まれる複数の画素の実効放射輝度値に対して、当該画素に対応する偏光素子の主軸方向の角度を変数とする三角関数を適用することにより、前記最小値を推定する。したがって、最小輝度値推定部17Aは、三角関数の最小値により単位領域が取り得る輝度値の最小値を推定することができる。
【0147】
(第1の推定方法)
最小輝度値推定部17Aによる、単位領域における輝度値の最小値の推定方法の一例を以下に説明する。ある画素ユニットに含まれる各画素の実効放射輝度値をYとした場合、Yは以下の式(5−1)により表せるものと仮定する。
Y=Asin(2x+B)+C (5−1)
ここで、AおよびBはそれぞれ画素ユニットに固有の定数である。xは画素に対応する偏光素子の主軸の角度である。また、画素ユニットに含まれる画素に対応する偏光素子の主軸方向が等角度間隔である場合、Cは画素ユニットに含まれる各画素の実効放射輝度値の平均E(Y)と一致する。
【0148】
Yの2乗平均をE(Y
2)とすると、E(Y
2)は以下の式(5−2)により表される。
E(Y
2)=A
2×E(sin
2(2x+B))+2A×E(C)×E(sin(2x+B))+(E(C
2)) (5−2)
ここで、ウォリスの公式から、以下の式(5−3)および(5−4)が成り立つ。
E(sin
2(2x+B))=1/2 (5−3)
E(sin(2x+B))=1/π (5−4)
したがって、式(5−2)を以下の式(5−5)のように変形できる。
E(Y
2)=A
2/2+2A×E(C)/π+(E(C
2)) (5−5)
E(Y
2)は画素ユニットに含まれる各画素の実効放射輝度値の2乗平均と等しいため、E(C)を各画素の実効放射輝度値の最小値、E(C
2)を各画素の実効放射輝度値の最小値の二乗値に近似し、式(5−5)をAについて解くことで、Aの値を算出することができる。
【0149】
式(5−5)を解いて算出したAの値、および式(5−1)から、Yが取り得る値の最小値Yminを、以下の式(5−6)により求めることができる。
Ymin=E(Y)−A (5−6)
したがって、最小輝度値推定部17Aは、上記の式(5−5)および(5−6)の計算だけで、画素ユニットに含まれる画素の実効放射輝度値が取り有る最小値を推定することができる。
【0150】
図21は、式(5−1)に含まれるパラメータを示すグラフである。
図21に示すグラフにおいて、横軸はカメラ20の画素ユニットにおける偏光素子の主軸の角度、縦軸は画素ユニットにおける画素の実効放射輝度値を示す。
図21に示す例では、画素ユニットは、主軸方向が10°を起点として45°ずつ異なる4つの偏光素子に対応する4つの画素を含む。
【0151】
図21に示すように、式(5−1)におけるCの値は、画素ユニットの画素の実効放射輝度値の中央値であり、画素ユニット内の画素の実効放射輝度値の平均値と略等しい。また、式(5−1)におけるAの値は、上記平均値と、単位領域内の画素が取り得る輝度の最小値との差である。また、式(5−1)におけるBの値は、横軸方向におけるグラフの位置を決定する値である。すなわち、Bの値が変動すると、グラフ全体が横軸に平行にシフトする。Bの値はYminに影響しないため、第1の推定方法ではBの値を算出しない。
【0152】
(第2の推定方法)
最小輝度値推定部17Aによる、単位領域における輝度値の最小値の推定方法の第2の推定方法を以下に説明する。第2の推定方法においても、ある画素ユニットに含まれる各画素の実効放射輝度値Yは上記の式(5−1)により表せるものと仮定する。
【0153】
第2の推定方法では、xの値とsin2xの値との対応関係を示すルックアップテーブルが、予め記憶部90に格納されている。最小輝度値推定部17Aは、上記の式(5−1)におけるAの初期値を以下の(i)および(ii)の平均に設定し、上記ルックアップテーブルを参照して、xの値に対応するYのテーブルを作成する。
(i)画素ユニットに含まれる各画素の実効放射輝度値の最大値と平均値との差
(ii)画素ユニットに含まれる各画素の実効放射輝度値の平均値と最小値との差
作成したテーブルにおけるxとYとの対応関係は、式(5−1)におけるBの値を変化させることでシフトさせることができる。
【0154】
次に最小輝度値推定部17Aは、作成したテーブルと画素ユニットに含まれる各画素の実効放射輝度値とを比較する。最小輝度値推定部17Aは、Bの値を変化させ、画素ユニットに含まれる各画素の実効放射輝度値と、当該各画素に対応する偏光素子の角度におけるテーブルの値との差の合計が最小になるようにする。最小輝度値推定部17Aは、テーブルの値と実効放射輝度値との差が最小である場合における、各画素の実効放射輝度値に対するテーブルの値と各画素の実効放射輝度値との差の比率の平均が所定の比率以下であれば、Aの値が適切であると推定する。この場合、最小輝度値推定部17Aは、上記式(5−6)により最小値を推定する。上記所定の比率は、好ましくは10%であり、より好ましくは5%であり、さらに好ましくは1%である。
【0155】
テーブルの値と実効放射輝度値との差が所定の比率以下でない場合には、最小輝度値推定部17Aは、式(5−1)におけるAの値を上述した初期値から変化させて同様の比較を行う。
【0156】
図22の(a)は、ルックアップテーブルの例を示す図である。
図22の(b)は、最小輝度値推定部17Aが作成するテーブルの例を示す図である。
図22の(c)は、実効放射輝度値を示す信号強度の例を示す図である。
図22の(d)は、
図22の(c)に示した信号強度の例、および最小輝度値推定部17Aが推定した実効放射輝度値を示す信号強度の例を示すグラフである。
【0157】
図22の(d)に示すグラフにおいて、横軸はカメラ20の画素ユニットにおける偏光素子の主軸の角度、縦軸は画素ユニットにおける画素の実効放射輝度値を示す信号強度を示す。
図22の(d)に示す例では、画素ユニットは、主軸方向が0°を起点として45°ずつ異なる4つの偏光素子に対応する4つの画素を備える。また、
図22の(d)に示す例は、光が空気(屈折率n1=1.0)と角膜(屈折率n2=1.376)との界面に、入射角15°で入射した場合のものである。
【0158】
記憶部90には、
図22の(a)に示すようなルックアップテーブルが予め格納されている。最小輝度値推定部17Aは、式(5−1)におけるAの値を上述したとおりに設定し、
図22の(b)に示すようなYのテーブルを作成する。さらに最小輝度値推定部17Aは、
図22の(c)に示すような、画素ユニットに含まれる画素の実効放射輝度値のそれぞれに最も近い値をYのテーブルから抽出する。抽出した値、および、当該値に対応する偏光子の主軸方向は、
図22の(d)において「*」で示されている。一方、画素ユニットに含まれる各画素の実際の実効放射輝度値、および各画素に対応する偏光子の主軸方向は、
図22の(d)において「○」で示されている。
【0159】
図22の(d)において、0°近傍および90°近傍の「*」の位置は、「○」の位置とよく合致している一方、65°近傍および155°近傍の「*」の位置は、45°および135°における「○」の位置から大きく外れている。このため、上記の比率は、10%より大きくなる。この場合、最小輝度値推定部17Aは、式(5−1)におけるAの値を変化させて再度Yのテーブルを作成し、実際の実効放射輝度値のそれぞれに最も近い値をYのテーブルから抽出し、同様の比較を行う。
【0160】
(他の推定方法)
最小輝度値推定部17Aは、上述した第1及び第2の推定方法以外の推定方法によって、画素ユニット内の画素が取り得る実効放射輝度値の最小値を推定してもよい。例えば最小輝度値推定部17Aは、画素ユニットのそれぞれに含まれる複数の画素の実効放射輝度値に対して、当該画素に対応する偏光素子の主軸方向の角度を変数とする多項式を適用することで上記最小値を推定してもよい。この場合、多項式の例としては、三角関数をテイラー展開した多項式が挙げられる。テイラー展開によれば、sinxおよびcosxは、それぞれ以下の式(5−7)および(5−8)のように表すことができる。
【0163】
式(5−7)および(5−8)において、xは偏光素子の主軸方向であり、nは任意の整数である。nは3以上であることが好ましい。
【0164】
また、例えば最小輝度値推定部17Aは、任意の補間法によって画素ユニットに含まれる各画素の実効放射輝度値を示す関数を推定し、当該関数を用いて上記最小値を推定してもよい。補間法の例としては、スプライン補間、多項式補間、三角関数補間、またはキュービック補間などが挙げられる。
【0165】
〔実施形態6〕
本発明の実施形態6について
図23〜
図25に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0166】
図23は、本実施形態に係る画像処理装置10Dを備える電子情報機器2の構成を示すブロック図である。
図23に示すように、画像処理装置10Dは、最小輝度値選択部17の代わりに拡散反射光成分算出部18(画像生成部)を備える点で、画像処理装置10Bと相違する。
【0167】
拡散反射光成分算出部18は、画素ユニットのそれぞれにおける実効放射輝度値の最大値Ioutmaxおよび最小値Ioutminを特定する。さらに拡散反射光成分算出部18は、以下の式(6−1)により、画素ユニットのそれぞれにおける拡散反射光成分Ikを算出する。
Ik=(Ioutmin−a×Ioutmax)/(1−a) (6−1)
ここで、IoutminおよびIoutmaxはそれぞれ、画素ユニットに含まれる画素の実効放射輝度値の最小値および最大値である。IoutminおよびIoutmaxは、実施形態5と同様にして推定した値であってもよく、実際の画素の実効放射輝度値であってもよい。
【0168】
また、式(6−1)におけるaは、S偏光成分の反射率に対するP偏光成分の反射率の比率である。上述した通り、aは、眼球Eへの光の入射角に依存する。カメラ20のレンズから眼球Eの中心までの距離Rと、眼球Eの半径rとにより、眼球Eの画像上の各点における上記入射角を算出することができる。本実施形態では、眼球Eにピントが合った場合における距離Rが予め記憶部90に記憶され、拡散反射光成分算出部18は当該距離Rを用いて上記入射角、およびaを算出する。
【0169】
距離Rの求め方は、具体的には以下の通りである。カメラ20が固定焦点レンズのカメラである場合、ユーザが電子情報機器2を手に持って画面を見る場合にユーザの顔に焦点が合うように設計されている。この場合において、カメラ20が撮像する画像の所定の範囲に眼球Eの画像が含まれるように、ユーザが自身の目を含む領域を撮像した場合に、カメラ20のレンズと眼球Eとの距離Rがカメラ20のレンズの焦点距離と略等しくなる。また、カメラ20がオートフォーカス機能を有する場合、眼球Eが結像する2種類のレンズ間距離を求め、ベッセル法を用いて距離Rを算出することができる。また、カメラ20が2つの撮像素子を備え、異なる位置から複数の画像を同時に撮像可能なカメラである場合、それぞれの撮像素子が撮像した画像から、三角測量により距離Rを算出することができる。
【0170】
ここで、入射角が小さい場合、S偏光成分とP偏光成分との反射率の差は数10%程度と小さい。このため、画素間またはショット間でのバラツキの影響で、aの値を正しく算出できず、式(6−1)における計算結果がIk≦0となる(拡散反射光成分が消失する)場合がある。
【0171】
この場合、aの値を、実際の入射角より大きい角度に対応するaの値に変えて、式(6−1)による計算を実行すればよい。例えば、実際の入射角より所定の角度(例えば10°)ずつ大きい角度に対応するaの値について順に式(6−1)による計算を再度実行すればよい。ただし、この場合には、映り込み像の除去の精度は低下する。このような、aの値を変化させての再計算は、例えば認証部15による認証が失敗した場合に実行されてよい。また、このような再計算において、aの値を、実際の入射角より大きい角度に対応する値に変える代わりに、実際の半径rまたは距離Rより小さい半径または距離に対応する値に変えてもよい。
【0172】
また、距離Rについて、予め想定した値を用いて上記入射角およびaを算出してもよい。例えば電子情報機器2がスマートフォンであれば、ユーザは電子情報機器2を手に持った状態で認証を行うことが想定される。その場合、距離Rは20cm〜30cm程度と予想される。したがって、測距装置などにより実際に距離Rを測定しなくても、予想される距離Rを用いて上記入射角を算出できる。
【0173】
この場合、距離Rは複数種類用意されていてもよい。つまり、複数種類のRごとに入射角およびaを算出し、さらに拡散反射光成分Ikを算出して認証を実行してもよい。上記の例であれば、画像処理装置10Dは、距離Rを20cmとした場合および30cmとした場合のそれぞれについて認証を実行してもよく、さらに距離Rを25cmとした場合について認証を実行してもよい。
【0174】
式(6−1)について、以下に説明する。画素ユニットに含まれる画素の実効放射輝度値には、拡散反射光成分および正反射光成分が含まれる。本実施形態では、正反射光成分は、第1正反射光成分と、第2正反射光成分とを含むものとする。また、本実施形態では、第1正反射光成分および第2正反射光成分がともに、偏光素子の主軸方向に依存する成分を有するものとする。この場合、第1正反射光成分Isおよび第2正反射光成分Ipはそれぞれ以下の式(6−2)および(6−3)により表される。
Is=Is0+Is0×cos2x (6−2)
Ip=Ip0+Ip0×cos2(x−π/2) (6−3)
ここで、Is0およびIp0はそれぞれ、第1正反射光成分および第2正反射光成分の、偏光素子の主軸方向に依存しない成分である。また、第2正反射光成分の位相は第1正反射光成分の位相より90°遅れているため、式(6−3)においてはxからπ/2が減算される。なお、式(6−2)および(6−3)において、cos関数をsin関数に置き換えてもよい。
【0175】
画素ユニットに含まれる画素の実効放射輝度値Ioutは、以下の式(6−4)により表される。
Iout=Ik+Is+Ip=Ik+Is0+Ip0+(Is0−Ip0)cos2x (6−4)
Ioutは、cos2x=1で最大となり、cos2x=−1で最小となる。したがって、式(6−1)におけるIoutmaxおよびIoutminは、それぞれ以下の式(6−5)および(6−6)で表される。
Ioutmax=Ik+2×Is0 (6−5)
Ioutmin=Ik+2×Ip0 (6−6)
また、フレネルの法則から、Is0とIp0との関係は以下の式(6−7)で表される。
Ip0=a×Is0 (6−7)
したがって、式(6−6)に式(6−7)を代入することで、以下の式(6−8)が得られる。
Ioutmin=Ik+2×a×Is0 (6−8)
式(6−5)および(6−8)からなる連立方程式を、Ikについて解くことで、式(6−1)が得られる。
【0176】
図24は、画像処理装置10Dにおける処理を示すフローチャートである。画像処理装置10Dにおける処理は、ステップSC2の代わりにステップSC8(画像生成ステップ)が実行される点を除いて、画像処理装置10Bにおける処理と同じである。ステップSC8において、拡散反射光成分算出部18は、式(6−1)により画素ユニットのそれぞれについて拡散反射光成分Ikを算出し、算出した値を画素ユニットに対応する単位領域の輝度値として決定する。
【0177】
また、上述した、aの値を変更しての再計算について、例えば以下のように実行されてよい。すなわち、映り込み像が除去された眼球の画像のコードと、登録されているコードとのハミングディスタンスに、認証に用いられる閾値(以下、認証閾値と記す)より大きい閾値(以下、分岐閾値と記す)が設けられる。
図24のステップSC6において、上記ハミングディスタンスが分岐閾値以上であれば、拡散反射光成分算出部18がステップSC8の処理を再度実行する。このときに、上述した、aの値を変更しての再計算が実行される。一方、ステップSC6において、上記ハミングディスタンスが認証閾値以上かつ分岐閾値未満であれば、黒目検出部11がステップSC4の処理を再度実行する。なお、上記ハミングディスタンスが認証閾値未満であれば認証に成功する。
【0178】
以上の通り、本実施形態の拡散反射光成分算出部18は、画素ユニットのそれぞれに含まれる複数の画素の実効放射輝度値に基づいて、当該画素ユニットにおける実効放射輝度値の最大値および最小値を特定する。拡散反射光成分算出部18は、特定した最大値および最小値と、当該画素ユニットに対応する眼球Eの表面における、S偏光成分の反射率に対するP偏光成分の反射率の比率aとを用いて、当該画素ユニットにおける拡散反射光成分Ikを算出する。さらに拡散反射光成分算出部18は、算出した拡散反射光成分を、画素ユニットに対応する単位領域の輝度値として決定する。これにより、画像処理装置10Dは、反射光成分の少なくとも一部が除去された拡散反射光成分を、単位領域のそれぞれの輝度値として決定することができる。
【0179】
図25は、画素ユニットに含まれる画素の実効放射輝度値、当該画素ユニット含まれる画素が取り得る実効放射輝度値の推定値、および拡散光成分の推定値の例を示すグラフである。
図25の(a)は、眼球Eへの入射角が30°である光が眼球Eで反射された反射光が入射する画素ユニットのグラフである。
図25の(b)は、眼球Eへの入射角が20°である光が眼球Eで反射された反射光が入射する画素ユニットのグラフである。
図25の(c)は、眼球Eへの入射角が10°である光が眼球Eで反射された反射光が入射する画素ユニットのグラフである。
図25の(a)〜(c)に示すグラフにおいて、横軸は画素ユニットに含まれる画素のそれぞれに対応する偏光素子の主軸方向であり、縦軸は画素の実効放射輝度値である。また、
図25に示す例においては、空気の屈折率を1.0、眼球Eの角膜の屈折率を1.376としている。
【0180】
まず、
図25の(a)に示す、眼球Eへの入射角が30°である光の反射光に対応する画素ユニットについて考える。このとき、Ioutmax=1として実効放射輝度値を規格化すると、Ioutmin=0.60となった。また、入射角が30°である光の反射光においては、a=0.40である。
【0181】
この場合、拡散反射光成分Ikは式(6−1)を用いて以下のとおり算出される。
Ik=(Ioutmin−a×Ioutmax)/(1−a)
=(0.60−0.40×1.0)/(1.0−0.40)
≒0.33
次に、
図25の(b)に示す、眼球Eへの入射角が20°である光の反射光に対応する画素ユニットについて考える。このとき、Ioutmax=1として実効放射輝度値を規格化すると、Ioutmin=0.79となった。また、入射角が20°である光の反射光においては、a=0.688である。
【0182】
この場合、拡散反射光成分Ikは式(6−1)を用いて以下のとおり算出される。
Ik=(Ioutmin−a×Ioutmax)/(1−a)
=(0.79−0.688×1.0)/(1.0−0.688)
≒0.33
次に、
図25の(c)に示す、眼球Eへの入射角が10°である光の反射光に対応する画素ユニットについて考える。このとき、Ioutmax=1として実効放射輝度値を規格化すると、Ioutmin=0.94となった。また、入射角が20°である光の反射光においては、a=0.91である。
【0183】
この場合、拡散反射光成分Ikは式(6−1)を用いて以下のとおり算出される。
Ik=(Ioutmin−a×Ioutmax)/(1−a)
=(0.94−0.91×1.0)/(1.0−0.91)
≒0.33
したがって、
図25に示す例では、眼球Eへの光の入射角が10°、20°、および30°のいずれの場合においても、拡散反射光成分Ikは、Ioutmax=1として規格化した場合において0.33となる。いずれの角度でもIkの値が略一致していることから、上記のIkの値は正しいと考えられる。
【0184】
〔実施形態7〕
本発明の実施形態7について以下に説明する。本実施形態の画像処理装置は、拡散反射光成分算出部18による処理の内容を除いて画像処理装置10Dの構成と同様であるため、ブロック図およびフローチャートの図示を省略する。
【0185】
本実施形態の拡散反射光成分算出部18は、以下の式(7−1)により、画素ユニットのそれぞれにおける拡散反射光成分Ikを算出する。
Ik=Ioutmin−Ip (7−1)
式(7−1)について、以下に説明する。
【0186】
本実施形態では、第1正反射光成分Isは偏光素子の主軸方向に依存する成分を有する一方で、第2正反射光成分Ipは偏光素子の主軸方向に依存しないものとする。具体的には、本実施形態では、拡散反射光成分算出部18はIsを以下の式(7−2)により算出する。
Is=Ioutmax−Ioutmin (7−2)
また、Ikは以下の式(7−3)で表される。
Ik=Ioutmax−(Is+Ip) (7−3)
式(7−2)を用いて式(7−3)を変形することで、以下の式(7−4)が得られる。
Ik=Ioutmin−Ip (7−4)
Ipは、式(6−7)を用いて算出することができる値である。したがって、拡散反射光成分算出部18は、式(7−4)および(6−7)により拡散反射光成分Ikを算出できる。
【0187】
以上の通り、本実施形態の拡散反射光成分算出部18は、2種類の正反射光成分を算出し、算出した正反射光成分を、画素ユニットに含まれる画素の実効放射輝度値の最大値から減じた値を、当該画素ユニットに対応する単位領域の輝度値に決定する。拡散反射光成分算出部18がこのような処理を実行する場合にも、画像処理装置10Dは、正反射光成分の少なくとも一部が除去された拡散反射光成分を、単位領域のそれぞれの輝度値として決定することができる。
【0188】
〔実施形態8〕
本発明の実施形態8について
図26および
図27に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0189】
図26は、本実施形態の画像処理装置10Eを備える電子情報機器3の構成を示すブロック図である。
図26に示すように、電子情報機器3は、画像処理装置10Dの代わりに画像処理装置10Eを備える点、および偏光照射部40を備える点で、実施形態7の電子情報機器2と相違する。
【0190】
偏光照射部40は、被写体に対して偏光を照射する。例えば偏光照射部40は、LEDなどの光源と、特定の方向の偏光だけを透過させる偏光フィルタとを備えていてよい。
【0191】
画像処理装置10Eは、映り込み有無判定部19を備える点で画像処理装置10Dと相違する。映り込み有無判定部19は、被写体の表面での正反射光成分が所定の強度以下であるか否かを判定する。換言すれば、映り込み有無判定部19は、被写体に映り込みが発生しているか否かを判定する。
【0192】
映り込み有無判定部19は、被写体に映り込みが発生していないと判定した場合には、偏光照射部40により被写体に対して偏光を照射する。またこのとき、輝度値情報取得部16(輝度値情報再取得部)は、偏光照射部40が被写体に偏光を照射した状態で、被写体の実効放射輝度値を再度取得する。
【0193】
本実施形態では、映り込み有無判定部19は、眼球Eに対応する画素ユニットのそれぞれについて、実効放射輝度値の最大値に対する最小値の比を算出する。さらに、映り込み有無判定部19は、眼球Eに対応する画素ユニット全体での上記比の平均を算出し、当該平均が所定の値以上であれば映り込みが発生していないと判定し、所定の値未満であれば映り込みが発生していると判定する。
【0194】
被写体への光の入射角が小さいと、当該入射角に対応する画素ユニットに含まれる画素の実効放射輝度値の、最大値に対する最小値の比率が大きくなる。上記所定の値は、被写体への入射角として想定される最小の角度における、実効放射輝度値の最大値に対する最小値の比率であってよい。具体的には、上記所定の値は、例えば0.94であってよい。この値は、眼球Eへの入射角が10°である光の反射光について、フレネルの法則を用いて算出した実効放射輝度値の最大値に対する最小値の比率である。
【0195】
図27は、画像処理装置10Eにおける処理を示すフローチャートである。
図27に示すように、画像処理装置10Eにおいては、輝度値情報取得部16が被写体の実効放射輝度値を取得した(SC1)後、映り込み有無判定部19が、映り込みが発生しているか否かを判定する(SD1、映り込み判定ステップ)。映り込みが発生している場合(SD1でY)、画像処理装置10Eは、画像処理装置10Bと同様に、ステップSC2以降の処理を行う。
【0196】
一方、映り込みが発生していない場合(SD1でN)、輝度値情報取得部16は、偏光照射部40から被写体に対して偏光を照射した状態で、被写体の実効放射輝度値を再度取得する(SD2、輝度値情報再取得ステップ)。この場合、画像処理装置10Eは、ステップSD2において取得した被写体の実効放射輝度値を用いてステップSC2以降の処理を行う。
【0197】
画像処理装置10Eにおいては、眼球Eに映り込みが発生していない場合に、偏光照射部40により映り込みを発生させた状態で、輝度値情報取得部16が眼球Eを含む被写体の実効放射輝度値を取得する。拡散反射光成分算出部18は、輝度値情報取得部16が取得した実効放射輝度値から、フレネルの法則により算出される比率aを用いて正反射光成分を除去して撮像画像を生成し、認証を行う。したがって、眼球Eが本物の眼球とは異なる物質、具体的には角膜の屈折率(n=1.376)とは異なる屈折率を有する物質により形成された偽造物である場合に、個人認証が失敗しやすくなる。
【0198】
なお、電子情報機器3は、必ずしも偏光照射部40を備える必要はない。例えば、電子情報機器3と無線または有線により通信可能に接続された別の装置が偏光照射部40を備えていてもよい。また、上述した処理ではステップSC1およびSD2のいずれにおいても、輝度値情報取得部16が被写体の実効放射輝度値を取得した。しかし、ステップSD2において被写体の実効放射輝度値を取得する機能ブロック(輝度値情報再取得部)は、輝度値情報取得部16とは異なっていてもよい。
【0199】
また、上述したとおり、画像処理装置10Eは、映り込み有無判定部19を備える点で画像処理装置10Dと相違する。換言すれば、画像処理装置10Eは、画像処理装置10Dに映り込み有無判定部19が追加された構成を有する。しかし、本実施形態の画像処理装置は、フレネルの法則を用いる他の画像処理装置、例えば画像処理装置10・10Aに映り込み有無判定部19が追加された構成を有していてもよい。
【0200】
〔実施形態9〕
本発明の一態様に係る画像処理装置は、上述した処理のうち、2つ以上の処理を実行してもよい。
【0201】
例えば、本発明の一態様に係る画像処理装置は、実施形態1、2、4〜7で説明した画像処理のうち1つを実行し、認証に失敗した場合には、実行した画像処理、または実行した画像処理以外の他の画像処理を実行して再度認証を行ってもよい。再度の認証によっても認証に失敗した場合、画像処理装置は被写体の実効放射輝度分布を再度取得、または被写体の画像を再度撮影し、さらに必要があれば被写体までの距離を再度測定してもよい。また、画像処理装置は、さらに他の画像処理を並行または順行で実行し、被写体の実効放射輝度分布を複数回取得、または被写体の画像を撮影しても認証に成功しない場合には、当該他の画像処理により生成した撮像画像により認証を行ってもよい。
【0202】
また、上述した各実施形態においては、認証が失敗した場合に、黒目検出部11により検出する黒目の範囲を変更して再度認証を行った。しかし、本発明の一態様に係る画像処理装置は、認証に1回以上失敗した場合に、輝度値情報取得部16が再度被写体の実効放射輝度値を取得(撮影)するように構成されていてもよい。また、画像処理装置は、他の画像処理を並行または順行で実行し、被写体の実効放射輝度分布を複数回取得しても認証に成功しない場合には、当該他の画像処理により生成した撮像画像により認証を行ってもよい。
【0203】
また、本発明の一態様に係る画像処理装置は、実施形態6の画像処理と他の実施形態(すなわち実施形態1、2、4、5、または7のいずれか1つ以上)の画像処理とを並行して実行してもよい。
【0204】
図29は、実施形態6の画像処理と他の画像処理とを並行して実行する画像処理装置における処理の流れを示すフローチャートである。
図29に示す処理において、ステップSC1、SC5およびSC6の処理は、上述した実施形態で説明したものと同じであるため、ここでは詳細には説明しない。
【0205】
図29に示す処理においては、画像処理装置は、被写体の輝度値情報を取得(SC1)した後、実施形態6の画像処理により各単位領域の輝度値が決定された第1の除去後画像の生成(SD1)と、他の実施形態の画像処理により各単位領域の輝度値が決定された第2の除去後画像の生成(SD2)とを並行して行う。その後、画像処理装置は、第1の除去後画像の各単位領域について、輝度値が所定の閾値以上であるか判定する(SD3)。輝度値が閾値以上である場合(SD3でY)、当該単位領域の輝度値は変更されない。一方、輝度値が閾値以上でない場合(SD3でN)、当該単位領域の輝度値は、第2の除去画像における対応する位置の単位領域の輝度値に変更される。画像処理装置は、全ての単位領域に対してステップSD3の判定を実行し、判定結果に応じてステップSD4の処理を実行した後、得られた画像を用いて認証を行う(SC5)。さらに画像処理装置は、認証できたか否かの判定を行い(SC6)、認証できた場合(SC6でY)には処理を終了し、できなかった場合(SC6でN)には再度ステップSD1に戻り、第1の除去後画像を再度生成する。具体的には、ステップSC6でNの場合、画像処理装置は、
図24に示すステップSC11以降の処理を再度実行する。なお、ステップSC6でNの場合、ステップSD1だけに戻り、第1の除去後画像を再度生成するのではなく、ステップSD1およびSD2の両方に戻り、第1の除去後画像および第2の除去後画像の両方を再度生成してもよい。
【0206】
上述したとおり、実施形態6の画像処理においては、眼球への光の入射角が小さい単位領域において、拡散反射光成分が消失する虞がある。そこで、この画像処理装置は、実施形態6の画像処理によって各単位領域の輝度値を決定した後、各単位領域の輝度値が所定の閾値以上であるか否かを判定する。輝度値が上記閾値以上の単位領域については、当該輝度値をそのまま採用する。一方、輝度値が上記閾値以上でない単位領域については、上記他の実施形態の画像処理による輝度値を当該単位領域の輝度値として採用する。これにより、この画像処理装置は、拡散反射光成分の消失を防止できる。
【0207】
〔付記事項〕
通常、「鏡面反射光」との語は、視点(例えばユーザの目、または撮像素子など)の方向に出射される可視光についてのみ用いられる。しかし本明細書では、「鏡面反射光」との語について、視点の方向に出射される可視光の他に、赤外光も含む概念を表わす用語として使用している。
【0208】
また、上述した実施形態1〜3においては、画像処理装置10などが携帯情報端末1などに搭載されているものとして説明を行っている。しかし、これらの実施形態に係る画像処理装置10などについても、他の実施形態に係る画像処理装置10Bなどと同様、携帯情報端末1などとは異なる電子情報機器2などに搭載されてもよい。電子情報機器2・3は、上述したスマートフォンの他、個人認証機能を有するインターフォンまたは自動車のドアなどであってもよい。
【0209】
また、上述した実施形態1〜3においては、S偏光算出部12は、測距装置30が測定した、カメラ20のレンズから眼球Eの表面までの距離を用いて画素に対応する眼球Eへの光の入射角を特定した。しかし、S偏光算出部12は、例えば眼球Eにピントが合った状態における眼球Eの画像の大きさに基づいて上記距離を算出し、当該距離を用いて画素に対応する眼球Eへの光の入射角を特定してもよい。また、例えばS偏光算出部12は、カメラ20のレンズから眼球Eの表面までの距離(例えば携帯情報端末1がスマートフォンである場合、20cm〜30cm)を予め想定し、想定した距離を用いて画素に対応する眼球Eへの光の入射角を特定してもよい。この場合には、上記距離を複数想定し、それぞれの距離を用いて画素に対応する眼球Eへの光の入射角を特定して映り込み除去を行ってもよい。また、この場合には、携帯情報端末1は、必ずしも測距装置30を備える必要はない。
【0210】
また、
図3を参照しての説明においては、映り込み像について、「除去する」との記載がある。さらに
図3自体にも、「S波P波除去」との記載がある。しかし、本発明の一態様においては、画像処理装置は必ずしも映り込み像を完全に除去する必要はなく、映り込み像を形成する正反射光成分の少なくとも一部を除去、すなわち映り込みを低減できればよい。
【0211】
また、
図28は、カメラ20における画素ユニットの配置を示す図である。
図28の(a)は、9つの画素からなる画素ユニットが互いに重ならないように配置された状態を示す図である。
図28の(b)は、4つの画素からなる画素ユニットが互いに重ならないように配置された状態を示す図である。
図28の(c)は、9つの画素からなる画素ユニットが部分的に重なるように配置された状態を示す図である。
図28の(d)は、4つの画素からなる画素ユニットが部分的に重なるように配置された状態を示す図である。
図28の(a)〜(d)においては、点線で囲まれた領域、破線で囲まれた領域、および一点鎖線で囲まれた領域が、それぞれ別個の画素ユニットを示す。
【0212】
上述した各実施形態では、カメラ20において、1つの画素は1つの画素ユニットにのみ含まれていた。換言すれば、
図28の(a)および(b)に示すように、画素ユニット同士は互いに重ならないように配置されていた。しかし、本発明の一態様においては、1つの画素が2つ以上の画素ユニットに含まれていてもよい。すなわち、
図28の(c)および(d)に示すように、画素ユニットが部分的に重なるように配置されていてもよい。
【0213】
画素ユニットが部分的に重なり合っている場合、画素ユニットが重なり合っていない場合と比較して、画素ユニットの数が多くなる。したがって、画素ユニットが部分的に重なり合っている場合、正反射光成分を、より多く除去することが期待できる。
【0214】
また、1つの画素ユニットに含まれる画素に対応する偏光素子の、主軸方向の種類は、多ければ多いだけ、正反射光成分を適切に除去することができる。しかし、1種類の主軸方向に対応して少なくとも1つの画素が必要になるため、主軸方向の種類が多いと、画素ユニットに含まれる画素の数が増大する。
【0215】
画素ユニットに含まれる画素の数が増大すると、
図28の(a)および(b)に示すように、画素ユニットが互いに重ならないように配置される場合に、撮像画像の解像度が低下するという問題が生じる。実用的には、1つの画素ユニットに含まれる画素に対応する偏光素子の、主軸方向の種類は、2種類以上かつ9種類以下であることが好ましい。
【0216】
また、上述した各実施形態において、画像処理装置10、10A〜10Eは、黒目領域を特定する黒目検出部11を備えていた。しかし、画像処理装置10、10A〜10Eは、黒目検出部11の代わりに、ユーザの角膜、虹彩または瞳孔領域を特定する、角膜・虹彩・瞳孔検出部を備えていてもよい。虹彩・瞳孔検出部が角膜、虹彩または瞳孔領域を特定する処理は、黒目検出部11が黒目領域を検出する処理と同様であり、虹彩認証などの分野において既知である。角膜・虹彩・瞳孔検出部は、特定した角膜、虹彩または瞳孔領域に対応する画素の位置情報を、実施形態に応じて、最小輝度値選択部17・17Aまたは拡散反射光成分算出部18、および認証部15などに送信する。画像処理装置10、10A〜10Eが備える他のブロックにおける処理は、上述した各実施形態において説明した処理と同様である。
【0217】
黒目検出部11(または角膜・虹彩・瞳孔検出部)が黒目領域(または角膜、虹彩または瞳孔領域)を検出する処理の例について、以下に簡潔に説明する。まず、黒目検出部11(または角膜・虹彩・瞳孔検出部)は、撮像素子の各画素が取得した実効放射輝度値に対して、先鋭化、エッジ検出、および2値化を行う。エッジ検出には、例えばsobelフィルタを用いることができる。また、2値化には、例えば移動平均法または部分画像分割法を用いることができる。黒目検出部11(または角膜・虹彩・瞳孔検出部)は、2値化された実効放射輝度値に対してHough変換を行い、円形の領域を黒目(または角膜・虹彩・瞳孔領域)として検出する。
【0218】
また、上述した各実施形態においては、半径rを眼球Eの半径として説明した。しかし、半径rは、角膜の曲率半径であってもよい。
【0219】
また、実施形態1において被写体が両目の眼球Eを含む場合について、以下に説明する。この場合において、各数値を以下のように規定する。
・Rd:2つの眼球Eの中心同士を結ぶ線分の中間点とカメラ20のレンズとの間の距離
・R1:一方の眼球Eの中心とカメラ20のレンズとの間の距離
・L:一方の眼球Eの中心と上記中間点との間の距離
ここでは、Rdについては測距装置30により測定される既知の値であり、R1については測距装置30により直接測定できないものとする。また、Lの算出方法については後述する。なお、Rdについては、必ずしも測距装置30によって測定する必要はなく、実施形態6で説明したRと同様、カメラ20のみを用いた算出方法により算出してもよい。
【0220】
図30は、被写体が両目の眼球Eを含む場合について説明するための図である。この場合、R1の値は次の式(10−1)により算出できる。
R1=sqrt(Rd
2+(L/2)
2) (10−1)
ここで、sqrt(Rd
2+(L/2)
2)はRd
2+(L/2)
2の平方根を示す。上述した式(1−1)および(1−2)におけるRにR1を代入し、R1を式(10−1)により算出することで、実施形態1の画像処理装置10において、被写体が両目の眼球Eである場合の処理が可能となる。
【0221】
Lの算出方法について以下に説明する。Lの算出に当たって、各数値を以下のように規定する。
・α:眼球Eの中心に対して、角膜の中心と端部とがなす角
・H1:画像における、一方の眼球Eの角膜の半径の画素数
・H2:画像における、両方の眼球Eの角膜の中心間の距離の画素数
これらの値のうち、αは、半径rの円において一般に角膜が占める割合から、例えば35°とすることができる。なお、αの値は別の値、例えば20°以上50°以下の範囲内の任意の値であってもよい。また、H1およびH2は画像から求めることができる。
【0222】
この場合、Lの値は次の式(10−2)により算出できる。
L=H2×(r×sinα)/H1 (10−2)
式(10−2)により算出したLの値を式(10−1)に代入することでR1の値を算出できる。
【0223】
また、上述した各実施形態においては、角膜の屈折率をn=1.376として説明した。しかし、角膜の屈折率の値は上記の例に限らず、例えば1.335、1.337、1.3375、1.37、または1.38としてもよく、さらに別の値としてもよい。
【0224】
〔ソフトウェアによる実現例〕
画像処理装置10、10A〜10Eは、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0225】
後者の場合、画像処理装置10、10A〜10Eは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の一態様の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0226】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る画像処理方法は、主軸方向が互いに異なる複数の偏光素子(21a〜21o)と対応付けられた複数の画素を1つの画素ユニットとし、該画素ユニットが二次元的に配列された撮像素子(受光素子22)によって撮影された被写体(眼球E)の画像を取得するステップ(S1)と、前記撮像素子における前記画素ユニットの二次元的位置と対応する前記被写体上の位置により決まる前記被写体への入射角(θ)に依存したS偏光の輝度分布を、前記撮像素子の出力を用いて算出するステップ(SA1、SA2、SB1)と、を有する。
【0227】
上記の方法によれば、例えば被写体を眼球とした場合、その眼球を撮影するときの眼球への入射角は、眼球上の位置によって決まる。すなわち、眼球上の位置と眼球の中心とを結ぶ第1の仮想線(
図6に示す直線L1)と、眼球上の上記位置と上記撮像素子を備えるカメラのレンズの中心とを結ぶ第2の仮想線(
図6に示す直線L2)とを考えた場合、第1の仮想線と第2の仮想線とがなす角度が、眼球への入射角となる。
【0228】
一方、撮像素子には、主軸方向が互いに異なる複数の偏光素子と対応付けられた複数の画素を単位とする画素ユニットが二次元的に配列されている。眼球上の位置と、その位置における眼球への入射角と、撮像素子における画素ユニットの二次元的位置とは対応している。また、画素ユニットは、主軸方向が互いに異なる複数の偏光素子と対応付けられているから、画素ユニットを構成する複数の画素の出力は、眼球からの反射光に含まれる偏光の眼球上の分布状態によって変化する。特に、主軸方向が互いに異なる複数の偏光素子と対応付けられた複数の画素の出力には、S偏光の輝度が反映されている。すなわち、撮像素子の出力には、眼球からの反射光に含まれるS偏光の眼球上の分布状態が反映されている。したがって、眼球への入射角に依存したS偏光の輝度分布を、前記撮像素子の出力を用いて算出することができる。
【0229】
こうして求めたS偏光の輝度分布は、生体の眼球と眼球の模造品とで異なる分布を示す。これにより、例えば眼球の模造品を被写体として撮影した場合、そのS偏光の輝度分布は眼球の分布と異なるため、被写体は眼球ではないと判定することができる。したがって、態様1の画像処理方法は、例えば、被写体が眼球なのか、眼球ではないのかの判別に利用することができる。
【0230】
また、上記のように算出したS偏光の輝度分布は、例えば、外光の影響により眼球に映り込んだ物体の像を除去することにも利用することができる。
【0231】
したがって、態様1の画像処理方法によれば、虹彩認証の精度を向上させることができる。
【0232】
本発明の態様2に係る画像処理方法は、上記態様1において、前記画像の輝度分布から、前記S偏光の輝度分布を減算するステップをさらに含むことが好ましい。
【0233】
上記の方法において、眼球に景色または人物のような他の物体が映り込んだ場合、眼球からの反射光のうち、他の物体に対応した反射光は、主に鏡面反射光であり、この鏡面反射光に上記S偏光が含まれている。したがって、上記の方法によれば、眼球の画像の輝度分布からS偏光の輝度分布を減算することによって、眼球に映り込んだ不要なノイズ画像を減らすことができる。
【0234】
本発明の態様3に係る画像処理方法は、上記態様1または2において、前記S偏光の輝度分布から、フレネルの法則により、前記被写体への入射角に依存したP偏光の輝度分布を算出するステップをさらに含むことが好ましい。
【0235】
上記の方法において、眼球に他の物体が映り込んだ場合における眼球からの上記鏡面反射光には、S偏光だけではなくP偏光も含まれていることが多い。P偏光の輝度分布もまた、生体の眼球と眼球の模造品とで異なる分布を示す。したがって、上記の方法によれば、例えば、被写体が眼球なのか、眼球ではないのかの判別の精度を高めることができる。
【0236】
本発明の態様4に係る画像処理方法は、上記態様3において、前記画像の輝度分布から、前記S偏光の輝度分布および前記P偏光の輝度分布を減算するステップをさらに含むことが好ましい。
【0237】
上記の方法によれば、眼球の画像の輝度分布からS偏光の輝度分布およびP偏光の輝度分布を減算することによって、眼球に映り込んだ不要なノイズ画像をさらに減らすことができる。
【0238】
本発明の態様5に係る画像処理方法は、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記S偏光の輝度分布を算出するステップにおいて、前記入射角をブリュースター角とした場合に、ブリュースター角に対応する前記画素ユニットを特定し、特定した画素ユニットに含まれる画素の輝度値の最大値から最小値を減算することでブリュースター角におけるS偏光の輝度値を算出し、フレネルの法則により、前記ブリュースター角におけるS偏光の輝度値を起点とし、ブリュースター角以外の入射角におけるS偏光の輝度値を算出することが好ましい。
【0239】
上記の方法において、ブリュースター角では、鏡面反射光にP偏光がほとんど含まれず、主にS偏光が含まれることがわかっている。したがって、ブリュースター角に対応する画素ユニットを構成する複数の画素の出力、すなわち輝度値には、主軸方向が互いに異なる複数の偏光素子に対するS偏光の透過率の変化が反映されている。このため、その輝度値の最大値から最小値を減算することでブリュースター角におけるS偏光の輝度値を算出することができる。
【0240】
眼球において、入射角に対するS偏光の輝度分布を表す関数は、フレネルの法則に従っており既知なので、ブリュースター角におけるS偏光の輝度値を算出できれば、ブリュースター角以外の入射角におけるS偏光の輝度値を理論に基づいて算出することができる。
【0241】
本発明の態様6に係る画像処理方法は、上記態様1から5のいずれかにおいて、前記画素ユニットに含まれる画素の輝度値の最大値から最小値を減算することでS偏光の輝度値を算出するステップを、前記撮像素子に含まれる複数の画素ユニットについて繰り返し、算出したS偏光の輝度値の各々を、複数の画素ユニットに対応する前記入射角と対応づけることによって、前記S偏光の輝度分布を算出することが好ましい。
【0242】
上記の方法によれば、既に説明したとおり、画素ユニットに含まれる画素の輝度値の最大値から最小値を減算することでS偏光の輝度値を算出することができる。このステップを撮像素子に含まれる複数の画素ユニットについて繰り返し、算出したS偏光の輝度値の各々を、複数の画素ユニットに対応する入射角と対応づけることによって、前記S偏光の輝度分布を実測値に基づいて算出することができる。
【0243】
なお、S偏光の輝度分布を実測値に基づいて算出する本態様の方法は、S偏光の輝度分布を理論に基づいて算出する前記態様の方法がうまく行かない場合に実行してもよい。
【0244】
本発明の態様7に係る画像処理装置(10)は、主軸方向が互いに異なる複数の偏光素子と対応付けられた複数の画素を1つの画素ユニットとし、該画素ユニットが二次元的に配列された撮像素子(受光素子22)により撮影された被写体(眼球E)の画像について、前記画素ユニットの二次元的位置と対応する前記被写体上の位置により決まる前記被写体への入射角に依存したS偏光の輝度分布を、前記撮像素子の出力を用いて算出するS偏光算出部(12)を備える。
【0245】
上記の構成によれば、態様1と同様の効果を奏する。
【0246】
本発明の態様8に係る画像処理プログラムは、上記態様7の画像処理装置としてコンピュータを機能させるための画像処理プログラムであって、上記S偏光算出部としてコンピュータを機能させるための画像処理プログラムである。
【0247】
本発明の各態様に係る画像処理装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記画像処理装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより上記画像処理装置をコンピュータにて実現させる画像処理プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の一態様の範疇に入る。
【0248】
本発明の一態様は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。