特許第6409125号(P6409125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6409125印刷機のインキング装置、それを含む印刷機、及びバイブレーターローラーを作製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409125
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】印刷機のインキング装置、それを含む印刷機、及びバイブレーターローラーを作製する方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 31/14 20060101AFI20181004BHJP
   B41F 31/26 20060101ALI20181004BHJP
   B41F 31/05 20060101ALI20181004BHJP
   B41F 33/00 20060101ALI20181004BHJP
   B41F 11/02 20060101ALI20181004BHJP
   B41F 11/00 20060101ALI20181004BHJP
   B41F 7/02 20060101ALI20181004BHJP
   B41F 5/02 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   B41F31/14 C
   B41F31/26 Z
   B41F31/05
   B41F31/14 A
   B41F33/00 230
   B41F11/02
   B41F11/00 B
   B41F7/02 414
   B41F7/02 123
   B41F5/02
【請求項の数】23
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-511902(P2017-511902)
(86)(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公表番号】特表2017-532223(P2017-532223A)
(43)【公表日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】IB2015057093
(87)【国際公開番号】WO2016042482
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2018年9月3日
(31)【優先権主張番号】14185586.6
(32)【優先日】2014年9月19日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591031371
【氏名又は名称】カーベーアー−ノタシ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ブース,ブラッドリー
【審査官】 村石 桂一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−536256(JP,A)
【文献】 特開昭60−36168(JP,A)
【文献】 特開2009−56764(JP,A)
【文献】 特開2011−73415(JP,A)
【文献】 特表2010−519071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F31/00−35/06
B41F 5/00−13/70,476
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷機(100)の、特にオフセット又は凸版印刷機のインキング装置(10、20;10、20)であって:
インク供給ローラー(13、14)を有する少なくとも1つのインクダクト(11、12);
前記少なくとも1つのインクダクト(11、12)からインクを受ける少なくとも1つのインキングローラー(31;31、32)を含むインクローラートレイン(30;30);並びに
前記インク供給ローラー(13、14)と前記インキングローラー(31;31、32)との間に挿入され、前記インク供給ローラー(13、14)と前記インキングローラー(31;31、32)との間を前後に揺らされて、間欠的に前記インク供給ローラー(13、14)から前記インキングローラー(31;31、32)へインクを転移する少なくとも1つのバイブレーターローラー(15、16)
を含み、
前記バイブレーターローラー(15、16)の外周は、前記インキング装置(10、20;10、20)によってインキングされるべき印刷版(PP)の所望されるインキングプロファイル(IP;IP、IPa、IPb)を反映し、前記バイブレーターローラー(15、16)によって転移されるインクの量を調整するように設計されているインク転移構造(15a、16a)を示し、
前記バイブレーターローラー(15、16)の前記外周上の前記インク転移構造(15a、16a)は、前記バイブレーターローラー(15、16)の外周方向(y)に、決められた外周周期(Δy)で前記外周方向(y)に繰り返される整数(r)個の個別のインク転移部分(15b、16b)にサブ分割され、個別のインク転移部分(15b、16b)の各々は、前記インキング装置(10、20;10、20)によってインキングされるべき前記印刷版(PP)の前記所望されるインキングプロファイル(IP;IP、IPa、IPb)を反映しており、
記バイブレーターローラー(15、16)が前記インク供給ローラー(13、14)と接触して作動する接触長さ(CL)は、前記個別のインク転移部分(15b、16b)の前記定められた外周周期(Δy)に相当するか、又は前記個別のインク転移部分(15b、16b)の前記定められた外周周期(Δy)の整数倍に相当し、
並びに、前記インク転移構造(15a、16a)が、前記バイブレーターローラー(15、16)の軸線方向(x)に、決められた軸線周期(Δx)で前記軸線方向(x)に繰り返される整数(m)個の個別のインク転移部分(15c、16c)にサブ分割される
インキング装置。
【請求項2】
前記整数(r)個の前記外周方向(y)に繰り返される個別のインク転移部分(15b、16b)が、10個以下である、請求項1に記載のインキング装置。
【請求項3】
前記整数(r)個の前記外周方向(y)に繰り返される個別のインク転移部分(15b、16b)が、4から6個の範囲内である、請求項2に記載のインキング装置。
【請求項4】
前記バイブレーターローラー(15、16)の前記外周上の前記インク転移構造(15a、16a)が、前記バイブレーターローラー(15、16)の円柱状コア(15f、16f)の外周上に直接形成された構造化された外層(15e、16e)であるか、又は前記バイブレーターローラー(15、16)の円柱状ボディ(15h、16h)に保持される交換可能なプレート若しくはスリーブ媒体(15g、16g)の構造化された表面である、請求項1から3のいずれか一項に記載のインキング装置。
【請求項5】
前記バイブレーターローラー(15、16)の前記外周上の前記インク転移構造(15a、16a)が、凸状インク転移領域を示すレリーフ構造である、請求項1から4のいずれか一項に記載のインキング装置。
【請求項6】
少なくとも、前記インク転移構造(15a、16a)が、3D印刷された構造である、請求項5に記載のインキング装置。
【請求項7】
前記バイブレーターローラー(15、16)の前記外周上の前記インク転移構造(15a、16a)が、前記バイブレーターローラー(15、16)の外周全体にわたって前記外周方向(y)に伸びる少なくとも1つの連続支持部分を提供することによって、前記インク供給ローラー(13、14)又は前記インキングローラー(31;31、32)との接触時に連続的で途切れない外周の支持を前記インク転移構造(15a、16a)が保障する方法で構造化される、請求項1から6のいずれか一項に記載のインキング装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つのインクダクト(11、12)が、前記インク供給ローラー(13、14)と協働するインク壺ブレード(11a、12a)を含むインク壺デバイスであり、インク壺ブレード(11a、12a)は、前記インク壺ブレード(11a、12a)と前記インク供給ローラー(13、14)の前記外周との間に選択された間隔が残されるように前記インク供給ローラー(13、14)の外周に対して配置される、請求項1からのいずれか一項に記載のインキング装置。
【請求項9】
前記インク壺ブレード(11a、12a)と前記インク供給ローラー(13、14)の前記外周との間の前記選択された間隔が、前記インク供給ローラー(13、14)の全軸線方向長さにわたって均一に調節可能である、請求項に記載のインキング装置。
【請求項10】
第一のインク供給ローラー(13)を有する第一のインクダクト(11);
前記第一のインク供給ローラー(13)と前記インクローラートレイン(30)の第一のインキングローラー(31)との間に挿入され、前記第一のインク供給ローラー(13)と前記第一のインキングローラー(31)との間を前後に揺らされて、間欠的に前記第一のインク供給ローラー(13)から前記第一のインキングローラー(31)へインクを転移する第一のバイブレーターローラー(15);
第二のインク供給ローラー(14)を有する第二のインクダクト(12);及び
前記第二のインク供給ローラー(14)と前記第一のインキングローラー(31)との間に挿入され、前記第二のインク供給ローラー(14)と前記第一のインキングローラー(31)との間を前後に揺らされて、間欠的に前記第二のインク供給ローラー(14)から前記第一のインキングローラー(31)へインクを転移する第二のバイブレーターローラー(16)
を含み、
前記第一のバイブレーターローラー(15)の外周は、前記所望されるインキングプロファイル(IP、IPa、IPb)の第一の部分(IPa)を反映し、前記第一のバイブレーターローラー(15)によって転移されるインクの量を調整するように設計されている第一のインク転移構造(15a)を示し、
及び、前記第二のバイブレーターローラー(16)の外周は、前記所望されるインキングプロファイル(IP、IPa、IPb)の第二の部分(IPb)を反映し、前記第二のバイブレーターローラー(16)によって転移されるインクの量を調整するように設計されている第二のインク転移構造(16a)を示す、
請求項1からのいずれか一項に記載のインキング装置。
【請求項11】
第一のインク供給ローラー(13)を有する第一のインクダクト(11);
前記第一のインク供給ローラー(13)と前記インクローラートレイン(30)の第一のインキングローラー(31)との間に挿入され、前記第一のインク供給ローラー(13)と前記第一のインキングローラー(31)との間を前後に揺らされて、間欠的に前記第一のインク供給ローラー(13)から前記第一のインキングローラー(31)へインクを転移する第一のバイブレーターローラー(15);
第二のインク供給ローラー(14)を有する第二のインクダクト(12);
前記第二のインク供給ローラー(14)と前記インクローラートレイン(30)の第二のインキングローラー(32)との間に挿入され、前記第二のインク供給ローラー(14)と前記第二のインキングローラー(32)との間を前後に揺らされて、間欠的に前記第二のインク供給ローラー(14)から前記第二のインキングローラー(32)へインクを転移する第二のバイブレーターローラー(16);
を含み、
前記第一のバイブレーターローラー(15)の外周は、前記所望されるインキングプロファイル(IP、IPa、IPb)の第一の部分(IPa)を反映し、前記第一のバイブレーターローラー(15)によって転移されるインクの量を調整するように設計されている第一のインク転移構造(15a)を示し、
及び、前記第二のバイブレーターローラー(16)の外周は、前記所望されるインキングプロファイル(IP、IPa、IPb)の第二の部分(IPb)を反映し、前記第二のバイブレーターローラー(16)によって転移されるインクの量を調整するように設計されている第二のインク転移構造(16a)を示す、
請求項1からのいずれか一項に記載のインキング装置。
【請求項12】
前記インクローラートレイン(30;30)が、軸線方向(x)に振動する少なくとも1つの分布ローラー(35)を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のインキング装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つのバイブレーターローラー(15、16)の前記外周上の前記インク転移構造(15a、16a)が、インキングされるべき前記該当する印刷版(PP)のプレプレスデータから誘導される、請求項1から12のいずれか一項に記載のインキング装置。
【請求項14】
前記プレプレスデータが、CIP3 プリントプロダクションフォーマットに準拠する、請求項13に記載のインキング装置。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のインキング装置(10、20;10、20)を含む印刷機(100)。
【請求項16】
前記印刷機(100)が、オフセット印刷機である、請求項15に記載の印刷機。
【請求項17】
前記印刷機(100)が、セキュリティ文書の同時両面印刷のためのオフセット印刷機である、請求項16に記載の印刷機。
【請求項18】
請求項1から14のいずれか一項に記載のインキング装置の少なくとも1つのバイブレーターローラー(15、16)としての使用に適するバイブレーターローラーを作製する方法であって:
(a)インキングされるべき前記印刷版(PP)の所望されるインキングプロファイル(IP;IP、IPa、IPb)を提供する工程;及び
(b)前記バイブレーターローラー(15、16)の外周上に、前記所望されるインキングプロファイル(IP;IP、IPa、IPb)を反映し、前記バイブレーターローラー(15、16)によって転移されるインクの量を調整するように設計されたインク転移構造(15a、16a)を形成する工程
を含み、
前記バイブレーターローラー(15、16)の前記外周上の前記インク転移構造(15a、16a)は、前記バイブレーターローラー(15、16)の外周方向(y)に、決められた外周周期(Δy)で前記外周方向(y)に繰り返される整数(r)個の個別のインク転移部分(15b、16b)にサブ分割され、個別のインク転移部分(15b、16b)の各々は、インキングされるべき前記印刷版(PP)の前記所望されるインキングプロファイル(IP;IP、IPa、IPb)を反映し、
前記インク転移構造(15a、16a)が、前記バイブレーターローラー(15、16)の軸線方向(x)に、決められた軸線周期(Δx)で前記軸線方向(x)に繰り返される整数(m)個の個別のインク転移部分(15c、16c)にサブ分割される、方法。
【請求項19】
工程(b)が、前記バイブレーターローラー(15、16)の円柱状コア(15f、16f)の外周上に直接形成された外層(15e、16e)を構造化することを含むか、又は前記バイブレーターローラー(15、16)の円柱状ボディ(15h、16h)に保持されることになる交換可能なプレート若しくはスリーブ媒体(15g、16g)の表面を構造化することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記インク転移構造(15a、16a)が、凸状インク転移領域を示すレリーフ構造として形成される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも、前記インク転移構造(15a、16a)が、3D印刷によって作製される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
工程(a)が、インキングされるべき前記該当する印刷版(PP)のプレプレスデータから所望されるインキングプロファイル(IP;IP、IPa、IPb)を誘導することを含む、請求項18から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記プレプレスデータが、CIP3 プリントプロダクションフォーマットに準拠する、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機、特にオフセット又は凸版印刷機のインキング装置、及びそれを含む印刷機全般に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、インク供給ローラーを有する少なくとも1つのインクダクト、少なくとも1つのインクダクトからインクを受ける少なくとも1つのインキングローラーを含むインクローラートレイン、並びにインク供給ローラーとインキングローラーとの間に挿入された少なくとも1つのバイブレーターローラーを含むインキング装置に関し、バイブレーターローラーは、インク供給ローラーとインキングローラーとの間を前後に揺らされて、間欠的にインク供給ローラーからインキングローラーへインクを転移する。
【0003】
本発明はさらに、上述したインキング装置の少なくとも1つのバイブレーターローラーとして用いるのに適するバイブレーターローラーを作製する方法にも関する。
【背景技術】
【0004】
間欠的にインク供給ローラーからインキングローラーへインクを転移するためにインク供給ローラーとインクローラートレインのインキングローラーとの間を前後に揺らされるバイブレーターローラーを含むタイプのインキング装置は、それ自体本技術分野にて公知である。そのようなインク装置は、商業印刷用途に、さらには高セキュリティ印刷用途に用いられる様々なオフセット及び凸版印刷機で特に用いられる。
【0005】
上述したタイプのインキング装置(及びそれを用いた印刷機)は、"Handbook of Print Media / Technologies and Production Methods"(Helmut Kipphan, Springer-Verlag, 2001, ISBN 3-540-67326-1), Chapter 2.1.1.3, "Inking units"(pp. 213-217)で特に考察されている。
【0006】
例えば、米国特許第4,509,424号、米国特許第4,574,696号、米国特許第4,584,939号、米国特許第4,633,777号、米国特許第4,640,189号、米国特許第4,697,515号、米国特許第4,766,809号、米国特許第4,794,856号、米国特許第5,007,339号、米国特許第5,009,156号、米国特許第5,036,763号、米国特許第5,136,942号、米国特許第6,101,939号には、セキュリティ文書の作製、特に銀行券の作製に用いられるウェブ又はシートの同時両面印刷(simultaneous recto-verso printing)のためのオフセット印刷群(offset printing group)を含むタイプの印刷機について記載されており、オフセット印刷群は、上述したタイプの個別のインキング装置を含む。このような特定の例では、個別のインキング装置のうちの少なくとも一部は、同じインクローラートレインにインクを供給する2つの別個のインクダクト及びバイブレーターローラーを含み得る。2つのインクダクトは、少なくとも2つの異なるインクを同じ印刷版にインキングするために有用であり、これら2つの異なるインクは、さらに、いわゆるアイリス(又は虹色)効果を作り出すために、軸線方向に部分的に混合され得る。類似のオフセット印刷機のさらなる例は、国際公開第2007/042919(A2)号、国際公開第2007/105059(A1)号、国際公開第2007/105061(A1)号、国際公開第2012/049610(A1)号、国際公開第2013/001518(A1)号、国際公開第2013/001009(A1)号、国際公開第2013/001010(A2)号、及び国際公開第2014/056711(A1)号に開示されている。
【0007】
凸版印刷機、特に、セキュリティ文書の作製に用いられる番号印刷機も、典型的には、1又は2つのインクダクトを有する類似のインキング装置を利用している。その例は、国際(PCT)公開第2006/129245(A2)号に開示されている。
【0008】
バイブレータータイプのインキング装置を利用している印刷機のさらなる例は、欧州特許公開第0444227(A1)号、欧州特許公開第1149699(A2)号、欧州特許公開第1319509(A1)号、欧州特許公開第1738907(A2)号、及び日本特許出願特開昭57−123062、特開昭63−081045、特開2000−062134から公知である。
【0009】
図1及び2は、典型的には銀行券の作製に用いられるセキュリティ文書のシートの同時両面印刷のための公知の枚葉オフセット印刷機を示し、この印刷機は、全体として符号100で示される。そのような印刷機は、特に、Super Simultan(登録商標)IVの製品名称で、本出願者から市販されている。この印刷機の基本構成は、国際(PCT)公開第2007/105059(A1)号に既に記載されており、この公開は、その全内容が参照により本明細書に援用される。
【0010】
この印刷機100は、オフセット印刷群101を含み、これは、シートの同時両面オフセット印刷を行うように特に適合されており、及び本技術分野において典型的であるように、矢印で示される方向に回転する2つのブランケット胴(又は圧胴)110、120(図2に符号記載)を含み、シートがこれら両者の間に供給されて多色刷りを受ける。この例では、ブランケット胴110、120は、符号150で示される一対のサイドフレームの間に支持されている3セグメント胴である。ブランケット胴110、120は、ブランケット胴110、120の外周の一部分の周りに分布された版胴115及び125(各側に4つずつ)から、対応する色での異なるインクパターンを受け取り、集める。各々が対応する印刷版PPを保持するこれらの版胴115及び125自体は、それぞれ、対応するインキング装置10及び20によってインキングされる。インキング装置10、20の2つの群は、有利には、中央に位置する版胴115、125及びブランケット胴110、120に対する取り付け又は取り外しの動きが可能である2つのインキングキャリッジ151、152の中に配置される。
【0011】
本技術分野にて公知であるように、各印刷版PPは、対応する版胴115、125の周りに巻きつけられ、適切な版クランピングシステムによってその前端及び後端で固定されており、この版クランピングシステムは、版胴の対応する胴ピット(cylinder pit)に位置している(例えば、国際(PCT)公開第2013/001518(A1)号、国際公開第2013/001009(A1)号、及び国際公開第2013/001010(A2)号参照)。
【0012】
シートは、印刷群101の横に位置するシート供給群102(フィーダー及びフィーダーテーブルを含む)(図1及び2の右側)から、ブランケット胴110、120の上流に配置された連続する渡し胴103a、103b、103c(この例では3つの胴)へ供給される。例えば米国特許第6,101,939号及び国際(PCT)公開第2007/042919(A2)号に記載のように、渡し胴103bによって搬送される過程で、シートは、所望に応じて、追加の印刷群(図示せず)を用いてシートの片側に第一の刷りを受けてもよく、このような場合、渡し胴103bは、圧胴としての追加の機能を満たしている。シートが所望に応じて存在してよい追加の印刷群によって印刷される場合、シートは、乾燥又は硬化ユニット104によってまず乾燥され、その後、同時両面印刷のために、ブランケット胴110、120へと移送される。
【0013】
図1及び図2の例では、シートは、ブランケット胴120の表面に移送され、そこで、各シートの前端が、ブランケット胴120の各セグメント間の胴ピット中に位置する適切なグリッパー手段によって保持される。各シートは、こうして、ブランケット胴120により、ブランケット胴110と120との間の印刷ニップへ搬送され、そこで、同時両面印刷が行われる。両面が印刷されると、印刷されたシートは、次に、本技術分野にて公知であるように、複数の排出パイルユニット(この例では3つ)を含むシート排出ステーション180への排出のために、チェーングリッパーシステム160へ移送される。
【0014】
図1及び図2の例では、吸着ドラム又は吸着胴などの第一及び第二の渡し胴(符号なし)が、チェーングリッパーシステム160とブランケット胴120との間に挿入されている。これらの第一及び第二の渡し胴は、所望に応じて存在してよいものであり、国際出願公開第2007/105059(A1)号に記載のように、シートの表及び裏面の検査を行うように設計される。
【0015】
図3及び4は、図1及び2に示される印刷機のインキング装置10、20のうちの1つ、すなわち、印刷機100の左側にある最上部(第四の)インキング装置10をより詳細に示す。種々のインキング装置10、20の間で、その該当するコンポーネントの配列及び形状という点で相違が存在するが、すべてのインキング装置10、20は、同じ機能を有し、基本的に、同じ必須要素から成る。この意味において、図3に示されるように、各インキング装置10、20それぞれは、対応する版胴115、125それぞれのうちの1つによって保持される印刷版PPに続いてインキングを行うインクローラートレイン30にインクを供給する2つの別個のインクダクト11、12を含む。より正確には、インクダクト11、12は、いずれも、インク供給ローラー13、14のそれぞれとインクローラートレイン30のインキングローラー31との間を前後に揺らされるバイブレーターローラー15、16のそれぞれと協働するインク供給ローラー(又はダクトローラー)13、14のそれぞれを各々が含むインク壺装置として構成されている。バイブレーターローラー15、16は、典型的には、例えばゴム、ポリマー、又は適切な機械的及びインク転移特性を示すその他のいずれの材料から作られていてもよい外部被覆を備えた金属内部コアから作られる。
【0016】
図1から4の例では、2つのバイブレーターローラー15、16が、インクローラートレイン30の1つの同じインキングローラー31と協働する。しかし、インキング装置は、2つのバイブレーターローラー15、16がインクローラートレインの別個のインキングローラーと協働するように構成することも可能である(例えば、2つのバイブレーターローラー15、16が、それぞれ、インクローラートレイン30の第一のインキングローラー31及び第二のインキングローラー32と協働する図16参照)。
【0017】
図3にさらに示されるように、各インキング装置10、20のそれぞれは、所望に応じて、湿式オフセット印刷用に構成されてもよく、この場合、適切な湿しシステム40が、適切な湿式オフセット印刷版PPの表面に湿し溶液を適用するために備えられる。乾式オフセット印刷の場合、湿しシステム40は省略され、セキュリティ文書の作製に用いられる場合の乾式オフセット印刷版PPは、基本的に、凸状印刷領域を有する凸版印刷版として構成されることは理解されたい。
【0018】
図4にさらに示されるように、各インクダクト11、12のそれぞれは、さらに、インク壺ブレード11a、12aをそれぞれ含み、これは、インク供給ローラー13、14のぞれぞれの上のインク膜厚さを、すなわち、下流のバイブレーターローラー15、16のそれぞれに、続いてインクローラートレイン30(又は30)に転移されるインクの量を定める決められた間隔が残されるように、該当するインク供給ローラー13、14のそれぞれの外周に対して調節され、この間隔は、典型的には、調節可能である。そのような公知のインキング装置では、間隔の調節は、典型的には、インク供給ローラーの長さ方向に沿った軸線方向に分布され、個別に調節可能であるいくつかのインクキーによって、個別のインクゾーンで行われる。
【0019】
上述したタイプのインキング装置では、インクは、該当するインクダクト11、12のそれぞれから、バイブレーターローラー15、16のそれぞれを介して間欠的に供給される。このバイブレーターローラー15、16のそれぞれは、対応するインク供給ローラー13、14から比較的広いインクストライプを受け、このインクストライプの一部を、インクローラートレイン30(30のそれぞれ)のインキングローラー31(31、32のそれぞれ)に転移する。
【0020】
単一のインクダクト及び単一のバイブレーターローラーが用いられる用途では、バイブレーターローラーは、典型的には、平滑で均一な外側面を示す。対照的に、2つのインクダクト及び2つのバイブレーターローラーが用いられる用途では(図1から4の例のように)、バイブレーターローラーは、典型的には、軸線方向に分布された特定のゾーンでのみインクを転移するように設計された対応する環状セクションを示すように、軸線方向に構造化されている(例えば、国際(PCT)公開第2014/056711(A1)号、又は欧州特許公開第1149699(A2)号及び欧州特許公開第1738907(A2)号参照)。
【0021】
印刷版PPに転移されるインクの量は、各バイブレーターローラー15、16のそれぞれによって、すなわち、バイブレーターローラー15、16のそれぞれがインク供給ローラー13、14のそれぞれとインキングローラー31(31、32のそれぞれ)との間を前後に揺れる振動数を調節することによって、及び/又はバイブレーターローラー15、16のそれぞれがインク供給ローラー13、14のそれぞれと接触状態で作動する時間の長さ(又は「ドゥエル」)を調節することによって調節することができ、それによって外周方向の該当するインクストライプの幅/長さが増加される。
【0022】
公知のソリューションでは、印刷版に転移されるインクの量は、典型的には、インク壺ブレードの先端に備えられた複数のいわゆるインクキーによってさらに調節され、インクキーは、該当するインク供給ローラーの軸線長さ方向に沿って分布されて、インク壺ブレードとインク供給ローラーの外周との間の間隔の個別の調節が可能とされる。図1から4のオフセット印刷機では、典型的には、28個のそのようなインクキーが存在し、各々は、30mmのオーダーの幅(軸線方向に沿っての)を有する。そのような各インクキーは、該当するインク供給ローラーの軸線方向に沿って分布される対応するインクゾーンにおけるインクの量が変化されるように、個別に調節するこができる(例えば、国際(PCT)公開第2012/049610(A1)号参照)。そのようなインクゾーンシステムを用いたインキング装置は、本技術分野にて広く用いられており、例えば、ColorTronicの製品名でケーニッヒ&バウアー社(Koenig & Bauer AG)から市販されている。
【0023】
銀行券などのセキュリティ文書の作製という状況では、個別のシート(又は連続ウェブの連続する部分)は、典型的には、複数の列及び行(m×n)に配列される像の繰り返しの行列配列が示される方法で印刷される。図5は、銀行券及び類似のセキュリティ文書の作製という状況で用いられる印刷シートSを模式的に示しており、この印刷シートSは、典型的には、図5に矢印で識別される印刷機をシートSが通される経路に対して横切る方向x(以降、「軸線方向」と称する)の幅W820mm、印刷機をシートSが通される経路に対して平行である方向y(以降、「外周方向」yと称する)の長さL700mmを有する。
【0024】
既に述べたように、印刷シートSは、有効印刷領域E内に、複数の行及び列で横並びに配列される複数の像Pの行列配列を示すように印刷される。図示した例では、40個の像Pが、8(n=8)行及び5(m=5)列の行列配列で有効印刷領域Eに印刷されており、各像Pは、ある寸法L1(軸線方向x)及びL2(外周方向y)を示す。
【0025】
公知のインキング装置による限界は、像Pの該当する配列及び寸法が(状況によって様々であり得る)、該当するインキング装置のインクゾーンサブ区画に正確に適合していないことにあり、このインクゾーンサブ区画は、対応するインクゾーンシステムによって完全に決定される。特に、像Pの長さL1がインクゾーン幅の整数倍ではなくなるや否や、インクゾーンサブ区画と像Pの該当するレイアウトとの間の不適合が発生するため、インクキー設定を、像Pの各列に対して別々に調節することが必要である。そしてこのことは、オペレーターが、像Pの隣接する列間のインキングが大きく異なることのないように該当するインクゾーンでのインキングを調節するための適切なインクキー設定を見出すというタスクに直面することを意味し、このような調節プロセスは、時間を要するものである。
【0026】
さらに、オペレーターは、実際には、像Pの各列に対して独立して、及び別個にインキングを調節することは不可能であることから、インキングにおいて妥協が強いられる。妥協は、特に、像Pの2つの隣接する列が接触する領域で成される必要がある。このことは、図6に模式的に示されており、この図は、隣接する像P、P’、P’’(の列)、及び像P、P’、P’’の長さL1と正確には適合していない説明のためのインクゾーンサブ区画(インクゾーンZからZを有する)を示し、インクゾーンサブ区画が、このように、像P、P’、P’’の列によって異なっていることは理解されたい。
【0027】
この点において、例えば、像Pの列内のパターンAを考えると、パターンAが位置するインクゾーンZ及びZに対するインクキー設定は、隣接する像P’の列における同じパターンAが位置するインクゾーンZ及びZに対するインクキー設定と必然的に異なる。この説明のための例では3つのインクゾーン、すなわちインクゾーンZからZによってカバーされる像Pの列内のパターンB、及び4つのインクゾーン、すなわちインクゾーンZからZによってカバーされる隣接する像P’’の列内の同じパターンBに関しても同じことが当てはまる。
【発明の概要】
【0028】
実際には、公知のソリューションでは、従って、該当する印刷版の最適なインキングを達成し、最適な印刷結果を得ることは不可能である。さらに、可能な限り最良のインク設定を見出すことは、非常に時間を要し、生産コスト及び効率に負の影響を与える。
【0029】
従って、改善されたソリューションが求められている。
【0030】
本発明の全般的目的は、従って、間欠的なインクの転移及び供給に少なくとも1つのバイブレーターローラーを用いることに依存するタイプの公知のインキング装置を改善することである。
【0031】
より詳細には、本発明の目的は、インキングのより良好で均一な制御を可能とするソリューションを提供することである。
【0032】
本発明のなお別の目的は、印刷機のインキングの必要な調節を行う際のオペレーターの作業を容易とするソリューションを提供することである。
【0033】
これらの目的は、請求項に定められるインキング装置によって達成される。
【0034】
従って、インク供給ローラーを有する少なくとも1つのインクダクト、少なくとも1つのインクダクトからインクを受ける少なくとも1つのインキングローラーを含むインクローラートレイン、並びにインク供給ローラーとインキングローラーとの間に挿入された少なくとも1つのバイブレーターローラーを含む印刷機、特に、オフセット又は凸版印刷機のインキング装置が提供され、バイブレーターローラーは、インク供給ローラーとインキングローラーとの間を前後に揺らされて、間欠的にインク供給ローラーからインキングローラーへインクを転移する。本発明によると、バイブレーターローラーの外周は、インキング装置によってインキングされるべき印刷版の所望されるインキングプロファイルを反映し、バイブレーターローラーによって転移されるインクの量を調整するように設計されたインク転移構造を示す。バイブレーターローラーの外周のインク転移構造は、バイブレーターローラーの外周方向に、外周方向の決められた外周周期で繰り返される整数個の個別のインク転移部分にサブ分割され、各個別のインク転移部分は、インキング装置によってインキングされるべき印刷版の所望されるインキングプロファイルを反映している。さらに、バイブレーターローラーがインク供給ローラーと接触状態で作動する接触長さは、個別のインク転移部分の決められた外周周期に、又は個別のインク転移部分の決められた外周周期の整数倍に相当する。
【0035】
外周方向に繰り返される整数個の個別のインク転移部分は、有利には、10個以下であり、好ましくは、4から6個の範囲内である。
【0036】
好ましくは、バイブレーターローラーの外周上のインク転移構造は、バイブレーターローラーの円柱状コアの外周上に直接形成された構造化外層、又はバイブレーターローラーの円柱状ボディに保持された交換可能なプレート若しくはスリーブ媒体の構造化表面である。
【0037】
本発明の好ましい実施形態によると、バイブレーターローラーの外周上のインク転移構造は、凸状インク転移領域を示すレリーフ構造である。この状況において、少なくともインク転移構造は、有利には、3D印刷された構造であってよい。
【0038】
バイブレーターローラーの外周上のインク転移構造は、有利には、インク供給ローラー又はインキングローラーとの接触時に連続的で途切れない外周の支持をインク転移構造が保障する方法で構造化されてよい。このことによって、バイブレーターローラーとインク供給ローラー(及びインキングローラー)との適切な摩擦接触が、これら2つのローラーが互いに接触する位置に関わらず確保される。これは、例えば、バイブレーターローラーの外周全体にわたって外周方向に伸びる少なくとも1つの連続支持部分を提供することによって確保され得る。
【0039】
本発明の1つの実施形態では、インク転移構造は、バイブレーターローラーの軸線方向に、軸線方向の決められた軸線周期で繰り返される整数個の個別のインク転移セクションにサブ分割される。これによって、セキュリティ文書、特に銀行券の作製の場合など、行及び列の行列に配列された個別の像の印刷の場合に、印刷版の軸線方向に沿ったインクの量の適切な調節が可能となる。そのような軸線方向のインク転移構造のサブ区画は、単一の像又は像の単一の列がシート又はウェブ上に印刷される場合は必要ではない。そのような場合は、インク転移構造は、軸線方向に単一のインク転移セクションを示すことになる。
【0040】
少なくとも1つのインクダクトは、有利には、インク供給ローラーと協働するインク壺ブレードを含むインク壺デバイスであってよく、インク壺ブレードは、インク壺ブレードとインク供給ローラーの外周との間に選択された間隔が残されるようにインク供給ローラーの外周に対して配置される。この状況において、インク壺ブレードとインク供給ローラーの外周との間の選択された間隔は、調節可能であってよく、好ましくは、インク供給ローラーの全軸線方向長さにわたって均一に調節可能であってよい。
【0041】
本発明の有利な実施形態によると、インキング装置は、(i)第一のインク供給ローラーを有する第一のインクダクト、(ii)第一のインク供給ローラーとインクローラートレインの第一のインキングローラーとの間に挿入され、第一のインク供給ローラーと第一のインキングローラーとの間を前後に揺らされて、間欠的に第一のインク供給ローラーから第一のインキングローラーへインクを転移する第一のバイブレーターローラー、(iii)第二のインク供給ローラーを有する第二のインクダクト、及び(iv)第二のインク供給ローラーと第一のインキングローラーとの間に挿入され、第二のインク供給ローラーと第一のインキングローラーとの間を前後に揺らされて、間欠的に第二のインク供給ローラーから第一のインキングローラーへインクを転移する第二のバイブレーターローラーを含む。この状況において、第一のバイブレーターローラーの外周は、所望されるインキングプロファイルの第一の部分を反映し、第一のバイブレーターローラーによって転移されるインクの量を調整するように設計された第一のインク転移構造を示し、一方第二のバイブレーターローラーの外周は、所望されるインキングプロファイルの第二の部分を反映し、第二のバイブレーターローラーによって転移されるインクの量を調整するように設計された第二のインク転移構造を示す。
【0042】
本発明のさらなる実施形態によると、インキング装置は、(i)第一のインク供給ローラーを有する第一のインクダクト、(ii)第一のインク供給ローラーとインクローラートレインの第一のインキングローラーとの間に挿入され、第一のインク供給ローラーと第一のインキングローラーとの間を前後に揺らされて、間欠的に第一のインク供給ローラーから第一のインキングローラーへインクを転移する第一のバイブレーターローラー、(iii)第二のインク供給ローラーを有する第二のインクダクト、及び(iv)第二のインク供給ローラーとインクローラートレインの第二のインキングローラーとの間に挿入され、第二のインク供給ローラーと第二のインキングローラーとの間を前後に揺らされて、間欠的に第二のインク供給ローラーから第二のインキングローラーへインクを転移する第二のバイブレーターローラーを含む。この状況において、第一のバイブレーターローラーの外周は、同様に、所望されるインキングプロファイルの第一の部分を反映し、第一のバイブレーターローラーによって転移されるインクの量を調整するように設計された第一のインク転移構造を示し、一方第二のバイブレーターローラーの外周は、所望されるインキングプロファイルの第二の部分を反映し、第二のバイブレーターローラーによって転移されるインクの量を調整するように設計された第二のインク転移構造を示す。
【0043】
本発明のインキング装置のインクローラートレインは、さらに、軸線方向に振動する少なくとも1つの分布ローラー(distribution roller)を含んでよく、これは、いわゆるアイリス又は虹色効果を作り出すために特に興味深い。
【0044】
本発明に従うインキング装置を含む印刷機も請求される。そのような印刷機は、特に、オフセット印刷機であってよく、好ましくは、セキュリティ文書の同時両面印刷のためのオフセット印刷機であってよい。
【0045】
本発明はまた、本発明のインキング装置の少なくとも1つのバイブレーターローラーとしての使用に適するバイブレーターローラーを作製する方法にも関し、この方法は、(a)インキングされるべき印刷版の所望されるインキングプロファイルを提供する工程、及び(b)バイブレーターローラーの外周上に、所望されるインキングプロファイルを反映し、バイブレーターローラーによって転移されるインクの量を調整するように設計されたインク転移構造を形成する工程を含み、バイブレーターローラーの外周のインク転移構造は、バイブレーターローラーの外周方向に、外周方向の決められた外周周期で繰り返される整数個の個別のインク転移部分にサブ分割され、各個別のインク転移部分は、インキングされるべき印刷版の所望されるインキングプロファイルを反映している。
【0046】
工程(b)は、バイブレーターローラーの円柱状コアの外周上に直接形成された外層を構造化することを含んでよい。別の選択肢として、工程(b)は、バイブレーターローラーの円柱状ボディに保持されることになる交換可能なプレート若しくはスリーブ媒体の表面を構造化することを含んでもよい。
【0047】
有利には、インク転移構造は、凸状インク転移領域を示すレリーフ構造として形成される。好ましくは、少なくともインク転移構造は、3D印刷によって作製される。
【0048】
本発明の好ましい実施形態によると、インキングされるべき印刷版の所望されるインキングプロファイルは、例えばCIP3 プリントプロダクションフォーマットに準拠するプレプレスデータなど、インキングされるべき該当する印刷版のプレプレスデータから誘導される。
【0049】
本発明のさらなる有利な実施形態は、従属請求項の主題を形成し、以下で考察される。
【0050】
本発明のその他の特徴及び利点は、単に限定されない例として提示され、添付の図面によって説明される本発明の実施形態の以下の詳細な記述を読むことからより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、銀行券などのセキュリティ文書の作製に典型的に用いられるシートの同時両面印刷用に設計された印刷機の側面模式図である。
図2図2は、図1の印刷機の印刷群の部分側面模式図である。
図3図3は、図1及び2の印刷機のインキング装置のうちの1つ、すなわち、表(表面)側の最上部(第四の)インキング装置の側面模式図である。
図4図4は、図3のインキング装置の上流側端部のより詳細な側面図である。
図5図5は、銀行券などのセキュリティ文書の作製という状況で用いられる説明のための印刷シートの模式図である。
図6図6は、個別の説明のための像及び対応するインクゾーンサブ区画の部分図である。
図7図7は、図1及び2に示されるタイプの印刷機で印刷可能である説明のための銀行券デザインの特定のコンポジットオフセット背景の図である。
図8図8は、図7のコンポジットオフセット背景の一部を印刷するために用いられる印刷版の部分の説明図である。
図9図9は、図7のコンポジットオフセット背景の該当する部分を作製するためにインキングされるべき図8の印刷版の部分に対応する所望されるインキングプロファイルを説明する模式図である。
図10図10は、インキングされるべき印刷版の幅全体に沿って繰り返される図9の所望されるインキングプロファイルの説明図である。
図11図11は、本発明の第一の実施形態に従う印刷機のインキング装置の1つのバイブレーターローラーの外周上に備えられるべき対応するインク転移構造の説明図であり、インク転移構造は、図10のインキングプロファイルを表している。
図12図12は、本発明のインク転移構造の例が備えられたバイブレーターローラーのグレースケール写真による図である。
図13図13は、インキングされるべき印刷版の幅全体に沿って繰り返される図9の所望されるインキングプロファイルの説明図であり、インキングプロファイルは、この例では、第一及び第二の部分にサブ分割される。
図14図14は、本発明の第二の実施形態に従う印刷機のインキング装置の第一の1つのバイブレーターローラーの外周上に備えられるべき対応する第一のインク転移構造の説明図であり、第一のインク転移構造は、図13のインキングプロファイルの第一の部分を表している。
図15図15は、本発明の第二の実施形態に従う印刷機のインキング装置の第二の1つのバイブレーターローラーの外周上に備えられるべき対応する第二のインク転移構造の説明図であり、第二のインク転移構造は、図13のインキングプロファイルの第二の部分を表している。
図16図16は、図1から4に示されるインキング装置の代わりに、本発明の状況で用いられ得る別のインキング装置の上流側端部の詳細な側面図である。
図17図17a及び17bは、本発明の状況で用いられ得る異なるバイブレーターローラー構成の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明を、銀行券などのセキュリティ文書の作製に典型的に用いられるシートの同時両面印刷のための枚葉オフセット印刷機という特定の状況で記載するものであり、印刷機は、図1から4(及び16)を参照して本明細書の前文で既に考察した個別のバイブレータータイプのインキング装置を含む。しかし、本発明は、同様にバイブレータータイプのインキング装置の使用に依存するいずれの印刷機にも、すなわち、(i)インク供給ローラーを有する少なくとも1つのダクト、(ii)少なくとも1つのダクトからインクを受ける少なくとも1つのインキングローラーを含むインクローラートレイン、並びに(iii)インク供給ローラーとインキングローラーとの間に挿入され、インク供給ローラーとインキングローラーとの間を前後に揺らされて、間欠的にインク供給ローラーからインキングローラーへインクを転移する少なくとも1つのバイブレーターローラーを含む少なくとも1つのインキング装置を有するいずれの印刷機にも適用可能である。
【0053】
本発明の様々な実施形態の以下の記述から理解されるように、本発明の重要な要素は、バイブレーターローラーの外周上に、インキング装置によってインキングされるべき印刷版の所望されるインキングプロファイルを反映するインク転移構造を提供することにあり、インク転移構造は、バイブレーターローラーによって転移されるインクの量を調整するように設計される。
【0054】
図7は、図1及び2に示されるタイプの印刷機で典型的に印刷可能である特定の銀行券デザイン(表/表面側のみ)の像Pを形成するコンポジットオフセット背景の説明のための例を模式的に示す。特定の銀行券デザインは、シートの裏/裏面側に印刷される(図1及び2の例では、シートの表側の印刷と同時に行われる)別のコンポジットオフセット背景を含むことは理解されたい。そのようなコンポジットオフセット背景は、典型的には、異なるインク色で互いに正しい位置合わせで印刷される複数の個別のオフセット印刷像から成る。図1及び2に示されるタイプの印刷機では、シートの表(表面)側の印刷に少なくとも4つの異なる印刷版が用いられ、このことは、そのような場合、互いに正しい位置合わせで印刷される4つの個別のパターンの特定のコンポジットオフセット背景が形成されることを意味する。本明細書の前文で既に述べたように、追加の印刷群が、所望に応じて、図1及び2のオフセット印刷機の最上部、主印刷群の上流に備えられてよく、それによって、シートの表(表面)側の印刷に用いられる印刷版の数(及び、それに応じて個別のパターンの数)が増加される(特に、米国特許第6,101,939号、国際(PCT)公開第2007/042919(A2)号参照)。いずれの場合も、特定のデザインの印刷に用いられる個別の印刷版の数は、本発明の状況においてはそれほど重要ではない。
【0055】
さらに、シートに実際に印刷されるコンポジットオフセット背景が、m×nの像Pの特定の行列配列に従う図7に示されるコンポジットオフセット背景の繰り返しから成ることは理解される(例えば、限定されない説明のための例としてm=5及びn=8である図5に示されるように)。
【0056】
図8は、図7のコンポジットオフセット背景の一部を作製するために用いられる印刷版PPの1つの対応する部分PPを示す。これは、図1から3に示される版胴115(又は、場合によっては125)のいずれか1つに搭載される適切ないかなる印刷版PPであってもよい(湿式オフセット又は乾式オフセット印刷用に関わらず)。
【0057】
特定の例において、そのような印刷版PPは、ダクト11、12のうちの1つを用いてインキングされてよく、又はダクト11、12の両方を用いてもよく、その場合は、2つ(又は3つ以上)の異なるインクが、印刷版PPの対応する部分のインキングに用いられる。本発明の第一の実施形態の考察の目的のために、単一インクによる印刷版PPのインキングに、単一ダクト(例:図3のダクト11)が用いられると仮定する。しかし、本発明が、該当する印刷版PPのインキングに用いられるインクの数に関係なく適用可能であることは理解される。
【0058】
図9は、図8に示されるインキングされるべき印刷版PPの特定の部分PPに対応する所望されるインキングプロファイルIPを示す。図9は、軸線方向xに沿った1つのある像位置に対するインキングプロファイルを示すだけであるが、印刷版PP全体の所望されるインキングプロファイルが、基本的に、図9のインキングプロファイルIPの整数m回の繰り返しであることは理解される(mは、図5に示されるように、印刷されるべき像Pの列の数に等しい)。これは、図10に模式的に示されており、この場合、印刷版PP全体の所望されるインキングプロファイルIPは、この特定の例において、軸線方向xに沿った図9に示されるインキングプロファイルIPの5回の繰り返しから成る。インキングプロファイルIPの繰り返し周期(又は軸線周期)Δxが、該当する像Pの寸法L1に対応することは理解される。
【0059】
所望されるインキングプロファイルが、各特定のデザインの関数であること、及び図に示される所望されるインキングプロファイルIP、IPが、従って、単に説明のための例として見なされるべきであることは理解されたい。有利には、そのようなインキングプロファイルは、例えば、本技術分野で広く用いられるCIP3 プリントプロダクションフォーマットに準拠するプレプレスデータなど、該当する印刷版の典型的なプレプレスデータから誘導されてよい。本発明の状況において、所望されるインキングプロファイルIPが、基本的に、あるいずれかの印刷版PPのインキングに必要とされる該当するインクの量を表していると理解すれば充分であり、その量は、印刷版PP上にインキングする特定のデザインに依存する。図9に模式的に示されるように、所望されるインキングプロファイルIPは、典型的には、印刷版PPのインキングに必要とされるインクの量が多いことを表すピーク部、及び印刷版PPのインキングに必要とされるインクの量が相対的に少ないことを表す谷部を示す。
【0060】
本発明によると、印刷版PPは、基本的に本技術分野にて公知であるものと同じ構成を有するインキング装置、すなわち、例えば図3及び4に示されるようなバイブレータータイプのインキング装置によってインキングされる。しかし、公知のソリューションとは対照的に、印刷版PPは、その特定の印刷版PPの所望されるインキングプロファイルIPに実質的に適合する方法でインキングされる。
【0061】
本明細書の前文で既に述べたように、公知のインキング装置は、典型的には、個別のインクゾーン及び軸線方向に特定の指定された幅(例:30mm−ここでも図6を参照)を有する調節可能なインクキーによるいわゆるインクゾーンシステムに依存しており、このことは、正確なインキングプロファイルを達成することができないことを意味する。さらに、図5に示されるような像の行列配列の形態で印刷されるセキュリティ文書の作製という特定の場合、像の各該当する列は、典型的には、異なるインクキー設定を必要とし、このことにより、オペレーターは、印刷版のインキングにおいて妥協することになる。
【0062】
本発明によると、各印刷版PPは、その該当する印刷版PPの所望されるインキングプロファイルIPに従って正確にインキングすることができる。このことは、上述したタイプのインキング装置を用いることで達成され、この場合、バイブレーターローラーの外周が、インキング装置によってインキングされるべき該当する印刷版PPの所望されるインキングプロファイルIPを反映するインク転移構造を示し、このインク転移構造は、バイブレーターローラーによって転移されるインクの量を調整するように設計される。言い換えると、本発明によると、バイブレーターローラー外周上のインク転移構造を利用することで、印刷版に、その印刷版の所望されるインキングプロファイルに応じて供給されるべきインクの量及び分布が、正確に規定及び調整される。
【0063】
図11は、本発明の第一の実施形態に従う図3及び4のインキング装置のバイブレーターローラー15、16の1つの外周上に備えられてよいインク転移構造の例を示す。該当するインク転移構造は、一般的に、該当する構造がバイブレーターローラー15又はバイブレーターローラー16の外周上に備えられるかどうかに応じて、符号15a又は16aで示され、図10に示される所望されるインキングプロファイルIPを反映している。考察のために、該当する印刷版PPのインキングには、1つだけのインクダクトが用いられると仮定される(すなわち、インクダクト11又はインクダクト12)。
【0064】
バイブレーターローラー15(16)の外周上に備えられるインク転移構造15a(16a)は、好ましくは、凸状インク転移領域を示すレリーフ構造であり(図11において灰色領域として示される)、このレリーフ構造は、付随するインク供給ローラー13(14)の典型的には平滑である表面と接触する。インク転移構造15a(16a)は、付随するインク供給ローラー13(14)の外周との接触後にインクの選択的な転移を行うことができる適切なその他のいかなる構造であってもよく、インク受容性及び撥インク性ゾーンを有する構造などである。インク転移構造15a(16a)として作用するレリーフ構造が備えられたバイブレーターローラー15(16)の写真による図を、図12に示す。
【0065】
図11に模式的に示されるように、バイブレーターローラー15(16)の外周上のインク転移構造15a(16a)は、バイブレーターローラー15(16)の外周方向yに、決められた外周周期Δyで外周方向yに繰り返される整数r個の個別のインク転移部分15b(16b)にサブ分割され、個別のインク転移部分15b(16b)の各々は、インキング装置によってインキングされるべき印刷版PPの所望されるインキングプロファイルIPを反映している。図示した例では、6個(r=6)の個別のインク転移部分15b(16b)が、外周方向yに繰り返されており、決められた外周周期Δyは、バイブレーターローラー15(16)の外周方向長さ、すなわち、バイブレーターローラー15(16)の該当する直径にπを掛けて整数rで除したものに相当する。例えば、バイブレーターローラー15(16)が60mmの定格外径を有すると仮定すると、外周周期Δyは、図示した例では、約31.416mmに相当する。
【0066】
極端な場合では、整数rは、1に等しくてもよく、これは、バイブレーターローラー15(16)の外周上の該当するインク転移構造15a(16a)が、インク転移部分15b(16b)を1つしか含まないことを意味する。しかし、実際には、個別のインク転移部分15b(16b)の数rは、好ましくは、2よりも大きい。整数rは、有利には、10以下、さらにより好ましくは、4から6の範囲であってよい。
【0067】
本発明によると、バイブレーターローラー15(16)がインク供給ローラー13(14)と接触状態で作動する接触長さは、個別のインク転移部分15b(16b)の決められた外周周期Δyに、又は個別のインク転移部分15b(16b)の決められた外周周期Δyの整数倍に相当する。この接触長さは、外周方向yに寸法CLを有する横方向のバンドとして図11に模式的に示される。図示した例では、接触長さCLは、決められた外周周期Δyに相当するように選択される。
【0068】
所望される接触長さCLは、所望される接触長さCLに相当する指定された割合(又は「範囲(sweep)」)で間欠的に回転するように該当するインク供給ローラー13(14)を運転することによって選択することができ、バイブレーターローラー15(16)は、両方のローラーが互いに接触している場合、該当するインク供給ローラー13(14)の動作下の摩擦によって回転状態とされる。
【0069】
上記のソリューションによって、バイブレーターローラー15(16)が付随するインク供給ローラー13(14)と接触するバイブレーターローラー15(16)の外周上の特定の位置に関わらず、バイブレーターローラー15(16)は、該当するインク転移構造15a(16a)に応じて調整される部分インク「ストライプ」を保持し、転移する。より正確には、接触長さCLが外周周期Δyに等しい図示した例では、バイブレーターローラー15(16)は、いずれの場合においても、各個別のインク転移部分15b(16b)によって定められる該当するプロファイルと正確に適合する特定量のインクを取り上げる。接触長さCLが、例えば外周周期Δyの2倍に増加される場合は、バイブレーターローラー15(16)によって2倍の量のインクが取り上げられることになる。
【0070】
個別のインク転移部分15b(16b)の正確な数rは、特定のインキング要件に基づいて選択され、個別のインク転移部分15b(16b)の数rの増加が、インクストライプ及び接触長さCL(外周方向y)が短くなることを、従って、バイブレーターローラー15(16)によって取り上げられ転移されるインクの量が減少することを意味することは理解されたい。
【0071】
図11に示されるように、インク転移構造15a(16a)は、有利には、バイブレーターローラー15(16)の軸線方向xに、決められた軸線周期Δxで軸線方向xに繰り返される整数m個の個別のインク転移セクション15c(16c)にサブ分割され、すなわち、図示した例では5個(m=5)であり、インク転移構造15a(16a)は、従って、例えば図5に示されるように、像Pの列の特定の分布を反映している。上記で考察したように、これは、セキュリティ文書の作製という状況において特に有利である。実際、インク転移構造15a(16a)を、像Pの列の特定の分布に適合する個別のインク転移セクション15c(16c)へこのように軸線方向にサブ分割することにより、バイブレーターローラー15(16)が、像Pの各列に対して同一である正確な量のインクを取り上げ、転移することが確保される。単一の像P又は像Pの単一の列が印刷される場合(すなわち、m=1)、インク転移構造15a(16a)は、明らかに、単一のインク転移セクション15c(16c)から成ることになる。
【0072】
インク転移構造15a(16a)が凸状インク転移領域を示すレリーフ構造として設計される好ましい例では、インク転移構造15a(16a)を、インク供給ローラー14(15)又はインキングローラー31との接触時に連続的で途切れない外周の支持をそれが保障する方法で構造化することが特に有利である。このことは、例えば、インク転移構造15a(16a)が、バイブレーターローラー15(16)の外周全体にわたって外周方向yに伸びる少なくとも1つの連続支持部分15d(16d)を示すことを確保することによって保障することができ、それによって、インク転移構造15a(16a)のあるいずれかの部分が、常に、付随するインク供給ローラー13(14)の外周と接触されていることが保障される。このことにより、バイブレーターローラー15(16)とインク供給ローラー13(14)(及びインキングローラー31)との適切な摩擦接触が、これら2つのローラーが互いに接触する位置に関わらず確保される。図示した例では、5個のそのような連続支持部分15d(16d)が形成され、その連続支持部分15d(16d)は、該当するインキングプロファイルIPの最も高い部分と一致している。
【0073】
別の選択肢として、様々なインク転移セクション15c(16c)が、連続的で途切れない外周の支持が確保されるように、外周方向yに互いにずらされてもよい。バイブレーターローラー15(16)とインク供給ローラー13(14)との適切な摩擦接触はまた、バイブレーターローラー15(16)の両端部、インク転移構造15a(16a)の領域の外側に、適切な連続支持部分(例:ベアラリングとして作用する環状セクション)を提供することによっても保障することができ、この場合、インク転移構造15a(16a)は、外周方向yに非連続接触面を示し得る。
【0074】
図13から15は、インクダクト11、12の両方が、所望されるインキングプロファイルIPによるある印刷版PPへのインキングに用いられる本発明のさらなる実施形態の説明図である。図13に示されるように、所望されるインキングプロファイルIPは、このような場合、2つの部分IPa及びIPbから成り、各々は、それぞれ、第一及び第二のインクダクト11及び12によって供給されるべきインクの該当する量及び分布に相当する。本質的には、インキングの原理は、図10から12を参照して既に述べたものに類似しているが、主たる相違は、各バイブレーターローラー15、16が、その外周上に、例えば図14及び15に示されるような所望されるインキングプロファイルIPのそれぞれ第一の部分IPa、第二の部分IPbを反映する対応するインク転移構造15a、16aを示すことである。
【0075】
所望されるインキングプロファイルIPの第一及び第二の部分IPa、IPbへのサブ分割、並びに得られるインク転移構造15a、16aは、明らかに、印刷版PPで印刷されるべき特定のデザイン、並びに第一及び第二のインクダクト11、12を介して印刷版PPに供給されるべき2つ(又は3つ以上)のインクの該当する軸線方向の分布に依存する。
【0076】
この後者の例では、軸線方向xにインクを部分混合することによって、いわゆるアイリス又は虹色効果を作り出すことができ、この部分混合は、図3に模式的に示されるように、該当するインクローラートレイン30(又は30)に、軸線方向xに振動する適切な分布ローラー35を提供することによって達成することができる。
【0077】
本発明によって、インキングの調節が大きく改善される。実際、本発明によって、インクの量の適切な調整及び分布が、バイブレーターローラー15、16の外周上に備えられた該当するインク転移構造15a、16aにより確保される。インキング装置によって供給されるインクの全体量は、(i)バイブレーターローラー15(16)が付随するインク供給ローラー13(14)と接触される周期若しくは速度、(ii)対応する外周周期Δy及び接触長さCLに影響を与える個別のインク転移部分15b(16b)の数r、(iii)外周周期Δyに、若しくはその整数倍に相当し得る実際の接触長さCL、並びに/又は(iv)インク供給ローラー13(14)の外周上のインク膜厚さの全体的調節などのいくつかの単純なパラメーターを触ることによって容易に調節することができる。
【0078】
極端な場合では、インキング装置は、公知のソリューションの典型的なインクゾーンシステムを不要とすることによって、大きく単純化することができる。実際、本発明によって、個別のインクゾーンでのインキングの調節は、必要なインクの分布が、バイブレーターローラー15、16の外周上に備えられた該当するインク転移構造15a、16aによって確保されることから、もはや必要ではないであろう。言い換えると、各インクダクト11、12は、インク供給ローラー13、14と協働するインク壺ブレード11a、12aを含む非常に単純なインク壺デバイスとして設計することができるが、調節システムは非常に単純であり、すなわち、インク壺ブレード11a、12aとインク供給ローラー13、14の外周との間の間隔が、公知のソリューションの場合のような個別のインクキーによるのではなく、インク供給ローラー13、14の全軸線方向長さにわたって均一に調節可能である調節システムである。とは言え、軸線方向xにインクの量を個別に制御するさらなる能力をオペレーターに与えることが所望される場合は、個別のインクキーは依然として興味深いものであり得る。
【0079】
バイブレーターローラーの外周上に本発明のインク転移構造を形成するための異なるソリューションが採用されてもよい。図17aによって模式的に示される1つのソリューションは、例えばゴム、ポリマー、又はその他の適切ないずれかの材料から作られ、バイブレーターローラー15(16)の円柱状(例:金属製)コア15f(16f)の外周上に直接形成された外層15e(16e)を構造化することから成り得る。構造化は、例えば、外層15e(16e)の機械又はレーザー彫刻によって行われてよい。そのような場合、外層15e(16e)を使用後に取り除き、円柱状コア15f(16f)を新しい外層15e(16e)で再被覆し、さらなる使用のために再度構造化することができる。
【0080】
図17bによって模式的に示される別の選択肢としてのソリューションは、バイブレーターローラー15(16)の円柱状ボディ15h(16h)に保持されることになる交換可能なプレート若しくはスリーブ媒体15g(16g)の表面を構造化することから成り得る。交換可能なプレート若しくはスリーブ媒体15g(16g)は、特に、従来のレリーフ又は凸版印刷媒体に類似の方法で作製されてよい。この場合、交換可能なプレート若しくはスリーブ媒体15g(16g)は、今後の使用のために、付随する印刷版PPと一緒に保存されてよい。
【0081】
インク転移構造15a(16a)は、3D印刷技術によって形成されてもよく、この場合、適切なレリーフ構造は、例えば、円柱状コアの外周上に、又は交換可能プレート若しくはスリーブ媒体の表面上に直接形成されてよい。実際は、インク転移構造15a(16a)が一体化された完全なスリーブ媒体が、全体として3D印刷によって形成されてもよい。
【0082】
本発明のインク転移構造を作製するために用いられる材料は、適切なインク転移を確保するための適切な特性を示すべきである。この意味で、特に、適切な硬度特性を示す材料を用いることが好ましい。上記で考察した例では、インク供給ローラー13、14は、典型的には、セラミック被覆ローラーであり、バイブレーターローラー15、16の外周上のインク転移構造15a、16aは、好ましくは、37°〜40°のオーダーのショアA硬度を示すべきである。インク転移構造15a、16aの材料は、ゴム、ポリマー、又は類似の特性を示すその他のいずれの材料であってもよい。
【0083】
本発明のインキング装置の(少なくとも1つの)バイブレーターローラー15、16として用いるのに適するバイブレーターローラーの作製は、基本的に、以下の工程:
(a)インキングされるべき印刷版の所望されるインキングプロファイルを提供すること;及び
(b)バイブレーターローラーの外周上に、所望されるインキングプロファイルを反映し、上述した原理に従って、すなわち、バイブレーターローラーの外周上のインク転移構造を、外周方向の決められた外周周期で繰り返される整数r個の個別のインク転移部分にサブ分割(バイブレーターローラーの外周方向に)することによってバイブレーターローラーによって転移されるインクの量を調整するように設計され、各個別のインク転移部分が、インキングされるべき印刷版の所望されるインキングプロファイルを反映しているインク転移構造を形成すること、
を含む。
【0084】
添付の請求項によって定められる本発明の範囲から逸脱することなく、上述した実施形態に様々な改変及び/又は改善が成されてもよい。
【0085】
特に、ツインダクトインキング装置は、図1から4に示されるタイプのものであってよく、ここで、両方のバイブレーターローラー15、16が、インクローラートレイン30の同じインキングローラー31と協働するか、又は図16に示されるタイプの場合は、バイブレーターローラー15、16は、インクローラートレイン30の異なるインキングローラー31、32と協働する。
【0086】
加えて、図11、12、14、及び15の説明は、インキングされるべき印刷版PPの所望されるインキングプロファイルIPをおおよそ直接反映しているインク転移構造15a、16aを示すが、所望されるインキングプロファイルIPを反映するその他の適切ないかなるインク転移構造を選択してもよい。特に、インク転移構造は、所望されるインキングプロファイルに応じてインクの量を少しずつ調整するゾーンを有するスクリーン構造であってもよい。本質的に、所望されるインク量の0%から100%でインクの量を適切に調整することができるいかなる構造も可能である。
【0087】
本発明を、セキュリティ文書の作製という状況において記載してきたが、本発明がこの特定の用途に限定されるものではないことは理解されるべきである。
【符号の説明】
【0088】
10 印刷機100のインキング装置(表側に4つのインキング装置)
10 インキング装置の別の選択肢としての実施形態(図12
20 印刷機100のインキング装置(裏側に4つのインキング装置)
20 インキング装置の別の選択肢としての実施形態(図12
11 (第一の)インクダクト/インク壺デバイス
11a インク壺デバイス11のインク壺ブレード
12 (第二の)インクダクト/インク壺デバイス
12a インク壺デバイス12のインク壺ブレード
13 (第一の)インク供給ローラー(ダクトローラー)
14 (第二の)インク供給ローラー(ダクトローラー)
15 インク供給ローラー13と協働する(第一の)バイブレーターローラー
15a バイブレーターローラー15の外周上のインク転移構造(個別のインク転移部分15bから形成)
15b バイブレーターローラー15の外周方向yに整数(r)回繰り返される個別のインク転移部分
15c バイブレーターローラー15の軸線方向xに整数(m)回繰り返される個別のインク転移セクション
15d 外周方向yに伸びるインク転移構造15aの連続支持部分
15e 円柱状コア15fの外周上に直接形成され、構造化されてインク転移構造15aが形成されたバイブレーターローラー15の構造化外層(第一の変型例−図17a)
15f 外層15eを支持するバイブレーターローラー15の円柱状コア(第一の変型例−図17a)
15g その表面が構造化されてインク転移構造15aが形成されたバイブレーターローラー15の交換可能プレート又はスリーブ媒体(第二の変型例−図17b)
15h 交換可能プレート又はスリーブ媒体15gを有するバイブレーターローラー15の円柱状ボディ(第二の変型例−図17b)
16 インク供給ローラー14と協働する(第二の)バイブレーターローラー
16a バイブレーターローラー16の外周上のインク転移構造(個別のインク転移部分16bから形成)
16b バイブレーターローラー16の外周方向yに整数(r)回繰り返される個別のインク転移部分
16c バイブレーターローラー16の軸線方向xに整数(m)回繰り返される個別のインク転移セクション
16d 外周方向yに伸びるインク転移構造16aの連続支持部分
16e 円柱状コア16fの外周上に直接形成され、構造化されてインク転移構造16aが形成されたバイブレーターローラー16の構造化外層(第一の変型例−図17a)
16f 外層16eを支持するバイブレーターローラー16の円柱状コア(第一の変型例−図17a)
16g その表面が構造化されてインク転移構造16aが形成されたバイブレーターローラー16の交換可能プレート又はスリーブ媒体(第二の変型例−図17b)
16h 交換可能プレート又はスリーブ媒体16gを有するバイブレーターローラー16の円柱状ボディ(第二の変型例−図17b)
Δx 個別のインク転移セクション15c、16cが軸線方向xに繰り返される(軸線)周期
Δy 個別のインク転移部分15b、16bが外周方向yに繰り返される(外周)周期
30 インクローラートレイン(図1から4の実施形態)
30 インクローラートレイン(図12の別の選択肢としての実施形態)
31 バイブレーターローラー15、16と協働するインクローラートレイン30のインキングローラー
31 バイブレーターローラー15と協働するインクローラートレイン30の(第一の)インキングローラー
32 バイブレーターローラー16と協働するインクローラートレイン30の(第二の)インキングローラー
33 第一及び第二のインキングローラー31、32の間に挿入された中間インク転移ローラー
35 軸線方向xに振動するインク分布ローラー
40 (所望応じて存在してよい)湿しユニット
100 同時両面(「Simultan」)オフセット印刷機
101 印刷機100の印刷群
102 印刷機100のシートフィーダー群
103a シート渡し胴(1セグメント胴)
103b シート渡し胴(2セグメント胴)
103c シート渡し胴(1セグメント胴)
104 乾燥/硬化ユニット
110 (第一の)ブランケット胴(3セグメント胴)
115 (4つの)版胴(1セグメント胴)
120 (第二の)ブランケット胴(3セグメント胴)
125 (4つの)版胴(1セグメント胴)
150 ブランケット胴110、120を支持する一対のサイドフレーム
151 インキング装置10を支持する(第一の)可動型インキングキャリッジ
152 インキング装置20を支持する(第二の)可動型インキングキャリッジ
160 シート搬送システム(間隔を空けたグリッパーバー付き)
180 シート排出ステーション
S 印刷シート
E 印刷シートS上の有効印刷領域
P 有効印刷領域E内のセキュリティ(例:銀行券)像(コンポジットオフセット背景)
L シートSの長さ(典型的には700mm)
W シートSの幅(典型的には820mm)
L1 セキュリティ像Pの長さ(軸線方向x)
L2 セキュリティ像Pの長さ(外周方向y)
PP 版胴115、125それぞれによって保持される印刷版
A セキュリティ像P上の(第一の)パターン
B セキュリティ像P上の(第二の)パターン
IP 印刷版PPの所望されるインキングプロファイル
IPa 例えば第一のバイブレーターローラー15によって形成される所望されるインキングプロファイルIPの第一の部分
IPb 例えば第二のバイブレーターローラー16によって形成される所望されるインキングプロファイルIPの第二の部分
x 軸線方向(印刷シートの経路に対して横切る方向)
y 外周方向(印刷シートの経路に対して平行)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17a
図17b