特許第6409132号(P6409132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409132
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】脂肪酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/62 20060101AFI20181004BHJP
   C12N 9/20 20060101ALN20181004BHJP
【FI】
   C12P7/62
   !C12N9/20
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-527433(P2017-527433)
(86)(22)【出願日】2016年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2016069694
(87)【国際公開番号】WO2017006876
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2017年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-134782(P2015-134782)
(32)【優先日】2015年7月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502059825
【氏名又は名称】Bio−energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 真司
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−527154(JP,A)
【文献】 特表2008−526265(JP,A)
【文献】 特開2007−274942(JP,A)
【文献】 Biotechnology and Bioengineering, 2014, Vol. 111, No. 12, PP. 2446-2453
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸エステルの製造方法であって、原料油脂と、液体酵素と、炭素数1から8を有するアルコールとを水および電解質の存在下で混合して、エステル交換反応を行う工程;を包含し、
該電解質が、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、および塩化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の塩を含み、そして
該液体酵素がリパーゼである、方法。
【請求項2】
前記水および前記電解質が、予め調製された電解質水溶液の形態で添加されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解質水溶液が、30mS/mから5000mS/mの導電率を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体酵素が、前記水および前記電解質とともに、予め調製された酵素液の形態で添加されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素液が、10mSから20000mS/mの導電率を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記原料油脂が、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油からなる群から選択される少なくとも1種の油脂である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記原料油脂が、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油からなる群から選択される少なくとも1種の油脂を、酵素触媒法由来のグリセリンと混合して得られた改質油脂である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸エステルの製造方法に関し、より詳細には液体酵素を用いる脂肪酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は、グリセリンと脂肪酸とが結合した基本構造を有し、工業用に様々な用途で利用されている。さらに、油脂は生活に欠かせない食品の1つでもある。
【0003】
近年、油脂は燃料や化学品へ変換するための原料としても注目されている。特に、化学反応によって動物性油脂および/または植物性油脂から長鎖脂肪酸エステルを合成し、これを軽油と代替可能なバイオディーゼル燃料として利用する試みが積極的になされている。
【0004】
バイオディーゼル燃料の製造には、例えば、リパーゼのような液体酵素を触媒に用いた酵素触媒法によるエステル交換反応を利用することが提案されている。液体酵素は、培養液を濃縮かつ精製したものから構成されている点で、固定化酵素と比較して安価である。また、当該酵素は、上記エステル交換反応により生成する副生成物グリセリンに残存するため、これを次バッチの反応に用いることができる。これにより、液体酵素の繰り返し利用が可能となり、バイオディーゼル燃料の製造に要するコストの節減が可能となる(非特許文献1)。
【0005】
液体酵素を用いるエステル交換反応は、油層と水層との二相系によって行われるため、例えば、反応系の重量を基準として5重量%程度となるように水を反応系に添加することが必要とされる。
【0006】
しかし、当該エステル交換反応においては、反応効率を高めるために、反応物の高速撹拌によりエマルジョンを形成することが必要とされている。また、モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG)のような未反応グリセリドが残存しやすいことも報告されている(非特許文献1)。
【0007】
一方、これまでに、エステル交換反応の際に緩衝液(例えば、pHを調整したリン酸緩衝液)を油脂に添加することによって、酵素触媒の活性が向上し、反応効率が改善されるという報告がなされている(非特許文献2)。しかし、この方法によれば、使用する緩衝液が、バイオディーセル燃料の製造に要するコストを増加させることが懸念されている。
【0008】
また、エステル交換反応の反応系に界面活性剤のような両親媒性物質を添加することによりエマルジョン形成を高め、反応効率を向上させることも報告されている(非特許文献3)。しかし、この方法では、両親媒性物質が高価であり、かつ反応終了後に副生成物グリセリンとの分離を困難にすることが懸念されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M. Nordbladら、Biotechnology and Bioengineering, 2014, Vol.11, No.12, pp.2446-2453
【非特許文献2】R. R. Nasaruddinら、Afr. J. Biotechnol., 2013, Vol.12(31), pp.4966-4974
【非特許文献3】K. Nieら、Fuel, 2015, Vol.146, pp.13-19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、エステル交換反応における油層と水層とのエマルジョン形成を高め、反応効率を改善することができる脂肪酸エステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、脂肪酸エステルの製造方法であって、原料油脂と、液体酵素と、炭素数1から8を有するアルコールとを水および電解質の存在下で混合する工程;を包含する、方法である。
【0012】
1つの実施形態では、上記水および上記電解質は、予め調製された電解質水溶液の形態で添加されている。
【0013】
さらなる実施形態では、上記電解質水溶液は、30mS/mから5000mS/mの導電率を有する。
【0014】
1つの実施形態では、上記液体酵素は、上記水および上記電解質とともに、予め調製された酵素液の形態で添加されている。
【0015】
1つの実施形態では、上記酵素液は、10mS/mから20000mS/mの導電率を有する。
【0016】
1つの実施形態では、上記電解質は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、およびリン酸三ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の塩である。
【0017】
1つの実施形態では、上記原料油脂は、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油からなる群から選択される少なくとも1種の油脂である。
【0018】
1つの実施形態では、上記原料油脂は、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油からなる群から選択される少なくとも1種の油脂を、酵素触媒法由来のグリセリンと混合して得られた改質油脂である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高価な緩衝液や両親媒性物質を用いることなく、エステル交換反応において脂肪酸エステルを効率的に製造することができる。さらに、反応の際、必ずしも反応物を高速で撹拌しなくてもよく、種々の製造設備や条件に適合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】参考例1で行った撹拌速度の異なる条件下でのエステル交換反応における反応系の成分含量の変化を示すグラフであり、(a)は生成したメチルエステル(ME)含量の変化を示すグラフであり、(b)は反応系に存在するモノグリセリド(MG)含量の変化を示すグラフであり、(c)は反応系に存在するジグリセリド(DG)含量の変化を示すグラフであり、そして(d)は反応系に存在するトリグリセリド(TG)含量の変化を示すグラフである。
図2】実施例1〜3ならびに比較例1および2で行ったエステル交換反応における、生成したメチルエステル(ME)含量の変化を示すグラフである。
図3】実施例4および比較例3で行ったエステル交換反応における反応系の成分含量の変化を示すグラフであり、(a)は生成したメチルエステル(ME)含量の変化を示すグラフであり、(b)は反応系に存在するモノグリセリド(MG)含量の変化を示すグラフであり、(c)は反応系に存在するジグリセリド(DG)含量の変化を示すグラフであり、そして(d)は反応系に存在するトリグリセリド(TG)含量の変化を示すグラフである。
図4】実施例5および比較例4で行ったエステル交換反応における、生成したメチルエステル(ME)含量の変化を示すグラフである。
図5】実施例6で行った第1バッチから第4バッチのエステル交換反応における、生成したメチルエステル(ME)含量の変化を、実施例5で得られた第1バッチから第4バッチの同反応より得られたME含量の変化に重ねて示すグラフである。
図6】実施例7および比較例5で行ったエステル交換反応における、生成したメチルエステル(ME)含量の変化を示すグラフである。
図7】実施例8および9ならびに比較例6で行ったエステル交換反応における、反応系の成分含量の変化を示すグラフであり、(a)は生成したメチルエステル(ME)含量の変化を示すグラフであり、(b)は反応系に存在するモノグリセリド(MG)含量の変化を示すグラフであり、(c)は反応系に存在するジグリセリド(DG)含量の変化を示すグラフであり、そして(d)は反応系に存在するトリグリセリド(TG)含量の変化を示すグラフである。
図8】実施例10および比較例7で行ったエステル交換反応における、生成したメチルエステル(ME)含量の変化を示すグラフであって、当該反応を阻害する界面活性剤を含有する油脂を用いた際の当該反応によるME含量の変化を示すグラフである。
図9】実施例19および比較例16で行ったエステル交換反応における、生成したメチルエステル(ME)含量の変化を示すグラフである。
図10】実施例20および比較例17で行ったエステル交換反応における、生成したメチルエステル(ME)含量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳述する。
【0022】
本発明の脂肪酸エステルの製造方法では、まず、原料油脂と、液体酵素と、炭素数1から8を有するアルコールとが水および電解質の存在下で混合される。
【0023】
本発明に用いられる原料油脂は、例えば、バイオディーゼル燃料用の脂肪酸エステルの製造において使用され得る油脂である。原料油脂は、予め精製された油脂、または不純物を含む未精製油脂のいずれであってもよい。
【0024】
原料油脂の例としては、食用油脂およびその廃食用油脂、原油、および他の廃棄物系油脂、ならびにそれらの組合せが挙げられる。
【0025】
食用油脂およびその廃食用油脂の例としては、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油、ならびにこれらの混合物(混合油脂)が挙げられる。植物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、大豆油、菜種油、パーム油、およびオリーブ油が挙げられる。動物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、牛脂、豚脂、鶏脂、鯨油、および羊脂が挙げられる。魚油としては、必ずしも限定されないが、イワシ油、マグロ油、およびイカ油が挙げられる。微生物生産油脂の例としては、必ずしも限定されないが、モルティエレラ属(Mortierella)またはシゾキトリウム属(Schizochytrium)などの微生物によって生産される油脂が挙げられる。
【0026】
ここで、本明細書中に用いられる用語「廃油」とは、食品工業における食品の製造過程、あるいは家庭用または飲食店用の調理過程において生じる使用済の油脂を言う。廃油の例としては、天ぷら、フライドチキン、フライドポテトなどの加工食品の製造または調理において生じる使用済の油が挙げられる。1つの実施形態では、廃油は、一定の使用を通じてすでに高温に晒されている場合が多い。このため、廃油は、多くの場合において水素化され、酸化され、あるいは過酸化された油脂成分、ならびに不純物(例えば、水分、塩分、極性化合物、各種ポリマー、その他固形の夾雑物等)を含有する。当該不純物は、上記エステル交換反応の阻害物質として機能することがある。しかし、当該廃油もまた、本発明における原料油脂として使用することができる。
【0027】
本発明に用いられ得る原油は、例えば、従来の食用油脂の搾油工程から得られる未精製または未加工の油脂であり、例えば、リン脂質および/またはタンパク質などのガム状不純物、遊離脂肪酸、色素、微量金属および他の炭化水素系の油可溶性不純物、ならびにこれらの組合せを含有し得る。原油に含まれる当該不純物の含有量は特に限定されない。
【0028】
本発明に用いられ得るその他の廃棄物系油脂としては、例えば、食品油脂の製造過程で生じる粗油をアルカリの存在下で精製することにより得られる油滓、熱処理油、プレス油、および圧延油、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0029】
本発明に用いられ得る原料油脂は任意の酸価を有していてもよい。「酸価」は油脂の化学分析値の1種であり、油脂の酸価は、油脂1g中に存在する遊離脂肪酸を中和するために要する水酸化カリウムのmg数で表される。このため、酸価が高い油脂ほど、一般に劣化していることを示し、酸価が低い油脂ほど高品質であると考えられている。例えば、バイオディーゼル燃料の製造において、アルカリ触媒を用いる単一のエステル交換反応に採用することができる油脂の酸価は、2.0mg−KOH/g油脂以下であり、このような酸価を満たす原料油脂の種類は極めて限られている。これに対し、本発明に用いられ得る原料油脂は、例えば、2.0mg−KOH/g油脂を上回るものも使用され得る。本発明においては、入手の容易さや製造コストを抑制することができる等の理由から、より広範囲の酸価を有する油脂、例えば、50mg−KOH/g油脂以下、好ましくは10mg−KOH/g油脂以下の酸価を有する油脂を使用することができる。
【0030】
本発明における原料油脂は、油脂本来の性質を阻害しない範囲において任意の量の水分を含有していてもよい。さらに、原料油脂は、別途脂肪酸エステルの生成反応において使用した溶液中に残存する未反応の油脂を用いてもよい。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、原料油脂は、上記のような油脂を、酵素触媒法由来のグリセリンと混合することにより得られたもの(以下、改質油脂ともいう)であってもよい。
【0032】
酵素触媒法由来のグリセリンは、上記油脂と、後述するような液体酵素およびアルコールとの脂肪酸エステル生成反応(別途予め行われた脂肪酸エステルを生成するためのエステル反応;以下「先の反応」と言うことがある)を通じて脂肪酸エステルとともに得られた副生成物、好ましくは当該脂肪酸エステル生成反応の粗生成物である。酵素触媒法由来のグリセリンを得るために行われた先の反応で使用した原料油脂、液体酵素およびアルコールの種類および量は特に限定されない。
【0033】
改質油脂を得るために使用され得る酵素触媒法由来のグリセリンの量は、例えば、上記油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、油脂100重量部に対し、好ましくは1重量部〜100重量部、好ましくは4重量部〜50重量部である。当該グリセリンの使用量が1重量部を下回ると、得られる油脂の酸価を充分に低減させることが困難となるおそれがある。当該グリセリンの使用量が100重量部を上回ると、得られる油脂の酸価には変化がなく、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0034】
上記油脂と酵素触媒法由来のグリセリンとの混合は、例えば、1つの反応容器に同時または任意の順序で添加され、好ましくは撹拌下で混合される。当該混合において付される温度は、必ずしも限定されないが、例えば、5℃〜100℃、好ましくは10℃〜80℃、より好ましくは25℃〜80℃である。混合に要する時間は、使用する油脂および酵素触媒法由来のグリセリンの種類および量、原料油脂に含まれる不純物の種類および量等によって変動するため必ずしも限定されず、当業者によって任意の時間が選択され得る。
【0035】
このようにして得られた改質油脂もまた、本発明において原料油脂として使用され得る。当該改質油脂は、製造にあたり使用した原料油脂の酸価に関わらず、その酸価が低く抑制されている。このため、本発明の脂肪酸エステルの製造方法において反応系内での鹸化が起きる可能性、および/または反応効率の低下が起きる可能性を低減することができる。
【0036】
本発明に用いられる液体酵素としては、脂肪酸エステルの生成反応に使用され得る任意の酵素触媒のうち、室温において液体の性状を有するものが挙げられる。液体酵素の例としては、リパーゼ、クチナーゼ、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0037】
ここで、本明細書中に用いられる用語「リパーゼ」とは、グリセリド(アシルグリセロールともいう)に作用して、当該グリセリドをグリセリンまたは部分グリセリドと脂肪酸とに分解する能力を有し、かつ直鎖低級アルコールの存在下ではエステル交換により脂肪酸エステルを生成する能力を有する酵素を言う。
【0038】
本発明に用いられ得るリパーゼは、1,3−特異的であっても、非特異的であってもよい。脂肪酸の直鎖低級アルコールエステルを製造することができるという点においては、当該リパーゼは、非特異的であることが好ましい。本発明に用いられ得るリパーゼの例としては、リゾムコール属(リゾムコール・ミーハエ(Rhizomucor miehei))、ムコール属、アスペルギルス属、リゾプス属、ペニシリウム属などに属する糸状菌に由来するリパーゼ;キャンディダ属(カンジダ・アンタルシティカ(Candida antarcitica),カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa),カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea))、ピヒア(Pichia)などに属する酵母に由来するリパーゼ;シュードモナス属、セラチア属などに属する細菌に由来するリパーゼ;および豚膵臓などの動物に由来するリパーゼが挙げられる。液体リパーゼは、例えば、これらの微生物が産生したリパーゼを含む該微生物の培養液を濃縮かつ精製することによって、あるいは粉末化したリパーゼを水に溶解することによって得ることができる。市販の液体リパーゼもまた用いられ得る。市販の液体リパーゼとしては、例えば、サーモマイセス・ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)由来のリパーゼ(Callera Trans L;ノボザイム社製)が挙げられる。
【0039】
本発明における上記液体酵素の使用量は、例えば、原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、使用する原料油脂100重量部に対し、好ましくは0.1重量部〜50重量部、好ましくは0.2重量部〜30重量部である。液体酵素の使用量が0.1重量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を触媒することができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。液体酵素の使用量が50重量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0040】
本発明において、上記液体酵素は、エステル交換反応において繰り返し利用することが可能である。すなわち、一旦本発明の方法によるエステル交換反応に供された後、反応系から所望の生成物(脂肪酸エステル)を除去した後の残渣には、副生成物であるグリセリンとともに当該液体酵素が残存する。これを例えば、当該グリセリンとともに取り出して、次の新たなエステル交換反応に使用することが可能である。これにより、液体酵素を、例えば2回〜20回、好ましくは2回〜10回繰り返して当該エステル交換反応に使用することができる。
【0041】
本発明に用いられるアルコールは、直鎖または分岐鎖の低級アルコール(例えば、炭素数1〜8のアルコール、好ましくは炭素数1〜4のアルコール)である。直鎖の低級アルコールが好ましい。本発明に用いられ得る直鎖の低級アルコールの例としては、必ずしも限定されないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、およびn−ブタノール、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0042】
本発明における上記アルコールの使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100重量部に対し、好ましくは5重量部〜100重量部、好ましくは10重量部〜30重量部である。アルコールの使用量が5重量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。アルコールの使用量が100重量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0043】
本発明に用いられる水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、純水のいずれであってもよい。
【0044】
本発明における上記水の使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100重量部に対し、好ましくは0.1重量部〜50重量部、好ましくは2重量部〜30重量部である。水の使用量が0.1重量部を下回ると、反応系内に形成される水層の量が不足し、上記原料油脂、液体酵素およびアルコールによる効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。水の使用量が50重量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0045】
本発明に用いられる電解質は、上記水に溶解して所定の導電率を示す物質である。電解質を構成するアニオンとしては、必ずしも限定されないが、例えば、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、水酸化物イオン、クエン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、およびリン酸イオンならびにこれらの組合せが挙げられる。電解質を構成するカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、およびアルカリ土類金属イオンならびにそれらの組合せが挙げられ、より具体的な例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびカルシウムイオン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。本発明において、電解質の例としては、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、およびリン酸三ナトリウム、ならびにそれらの組合せが好ましい。汎用性に富み、入手が容易である等の理由から、炭酸水素ナトリウム(重曹)がより好ましい。
【0046】
本発明においては、水および上記電解質は、予めこれらを混合することによって所定濃度の電解質水溶液が調製され、当該電解質水溶液の形態で、上記原料油脂、液体酵素およびアルコールを含む反応系に添加されていることが好ましい。
【0047】
さらに添加され得る電解質水溶液は所定の導電率を有していることが好ましい。調製され得る電解質水溶液は、好ましくは30mS/m〜5000mS/m、より好ましくは100mS/m〜4500mS/m、さらにより好ましくは200mS/m〜4000mS/mである。添加される電解質水溶液の導電率が30mS/m未満であると、反応系内で油層と水層とが適切にエマルジョンを形成することが困難となる場合がある。添加される電解質水溶液の導電率が5000mS/mを上回ると、原料油脂の鹸化、および/または反応効率の低下が生じる場合がある。
【0048】
あるいは、本発明においては、反応系に添加される成分のうち、液体酵素が、水および電解質とともに、予めこれらを混合することによって酵素液が調製され、当該酵素液の形態で、上記原料油脂およびアルコールを含む反応系に添加されていることが好ましい。なお、本発明において、上記酵素液は、水および電解質に液体酵素が加えられている点で、上記電解質水溶液の一種であるということもできる。
【0049】
さらに添加され得る酵素液は所定の導電率を有していることが好ましい。調製され得る電解質水溶液は、好ましくは10mS/m〜20000mS/m、より好ましくは100mS/m〜10000mS/m、さらにより好ましくは130mS/m〜5000mS/mである。添加される酵素液の導電率が10mS/m未満であると、反応系内で油層と水層とが適切にエマルジョンを形成することが困難となる場合がある。添加される酵素液の導電率が20000mS/mを上回ると、原料油脂の鹸化、および/または反応効率の低下が生じる場合がある。
【0050】
本発明において、上記原料油脂、触媒、およびアルコール、ならびに上記水および電解質(上記電解質水溶液または酵素液の形態で添加される場合も包含する)は、1つの反応槽に同時または任意の順序で添加され、好ましくは撹拌下で混合することにより、エステル交換反応を通じて脂肪酸エステルの生成が行われる。このようなエステル交換反応において付される温度は、必ずしも限定されないが、例えば、5℃〜80℃、好ましくは15℃〜80℃、より好ましくは25℃〜50℃である。
【0051】
なお、本発明において、反応物の撹拌は必ずしも高速(例えば、600rpm以上)で行われなくてもよい。例えば、低速(例えば、80rpm以上300rpm未満)または中速(例えば、300rpm以上600rpm未満)で撹拌されてもよい。さらに、反応時間は、使用する原料油脂、触媒、およびアルコール、ならびに水および電解質(上記電解質水溶液または酵素液の形態で添加される場合も包含する)の各量によって変動するため、必ずしも限定されず、任意の時間が当業者によって設定され得る。
【0052】
上記エステル交換反応の終了後、反応液は、例えば、当業者に周知の手段を用いて脂肪酸エステルを含む層と、副生成物グリセリンを含む層とに分離される。その後、脂肪酸エステルを含む層はさらに、必要に応じて当業者に周知の方法を用いて脂肪酸エステルが単離かつ精製され得る。
【0053】
上記のようにして得られた脂肪酸エステルは、例えばバイオディーゼル燃料またはその構成成分として使用され得る。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
(参考例1:エステル交換反応における撹拌速度の依存性)
まず、油水二相系でのエステル交換反応が撹拌速度によって受ける影響を確認した。
【0056】
5つの50mLネジ口瓶に、0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)、蒸留水0.5mL(予め測定した導電率は0.3mS/mであった)、およびメタノール3M当量をそれぞれ添加し、これらを35℃にて100rpm、400rpm、600rpm、800rpmおよび1000rpmのいずれかの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量を、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−2010)により測定した。得られた結果を図1に示す。
【0057】
図1の(a)に示すように、反応時間が経過するにつれ、いずれの撹拌速度で撹拌した場合も反応系内にメチルエステルが多く生成するが、特に、同じ時間におけるメチルエステルの含量は、撹拌速度が高いほど、大きい値を示していることがわかる。一方、図1の(b)〜(d)に示すように、未反応グリセリドのうちジグリセリドおよびトリグリセリドは、100rpmを除くより高い撹拌速度ほど同じ時間における含量が低い値を示していた。以上のことから、本参考例1で行ったエステル交換反応において、撹拌速度は生成物であるメチルエステルの含量や未反応グリセリドの含量に大きな影響を及ぼし、通常は低速の撹拌よりも高速の撹拌を行う方が目的のメチルエステルをより多く生成することができるとわかる。
【0058】
(実施例1:低速撹拌条件でのエステル交換反応によるメチルエステルの製造)
蒸留水(導電率0.3mS/m、pH6.5)に炭酸水素ナトリウムを添加して炭酸水素ナトリウム水溶液(0.12M)を調製した。得られた炭酸水素ナトリウム水溶液の導電率は860mS/mであり、pHは8.0であった。なお、当該導電率については、導電率計(株式会社堀場製作所製LAQAtwin COND)で測定し、pHについては、pHメーター(株式会社堀場製作所製LAQUAtwin pH)で測定した。
【0059】
50mLネジ口瓶に、0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、上記で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量をそれぞれ添加し、これを35℃にて100rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−2010)により測定した。得られた結果を図2に示す。
【0060】
(実施例2および3:低速撹拌条件でのエステル交換反応によるメチルエステルの製造)
蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)にリン酸二水素ナトリウムを添加してリン酸二水素ナトリウム水溶液(0.1M)を調製した(実施例2)。得られたリン酸二水素ナトリウム水溶液の導電率は520mS/mであり、pHは4.5であった。
【0061】
一方、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)にリン酸三ナトリウムを添加してリン酸三ナトリウム水溶液(0.1M)を調製した(実施例3)。得られたリン酸二水素ナトリウム水溶液の導電率は4000mS/mであり、pHは11.7であった。
【0062】
実施例1で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、上記リン酸二水素ナトリウム水溶液0.5mLまたはリン酸二水素ナトリウム水溶液0.5mLを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を図2に示す。
【0063】
(比較例1および2:低速撹拌でのエステル交換反応によるメチルエステルの製造)
実施例1で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mL(比較例1)、またはアルカリイオン水(導電率;15mS/m、pH9)0.5mL(比較例2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を図2に示す。
【0064】
図2に示すように、エステル交換反応にあたり、電解質水溶液として、炭酸水素ナトリウム水溶液(実施例1)、リン酸二水素ナトリウム水溶液(実施例2)およびリン酸三ナトリウム(実施例3)を存在させた系では、これらの水溶液の代わりに蒸留水(比較例1)およびアルカリイオン水(比較例2)を用いた系と比較して、反応開始直後からメチルエステルが多く生成されていることがわかる。なお、実施例1〜3はいずれも、撹拌速度が100rpmという比較的遅いものであったにも関わらず、効率良くメチルエステルが形成されていたことがわかる。
【0065】
(実施例4:高速撹拌条件でのエステル交換反応によるメチルエステルの製造)
50mLネジ口瓶に、0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液(導電率860mS/m、pH8.0)0.5mL、およびメタノール3M当量をそれぞれ添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−2010)により測定した。得られた結果を図3に示す。
【0066】
(比較例3:高速撹拌条件でのエステル交換反応によるメチルエステルの製造)
実施例4で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例4と同様にしてエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を図3に示す。
【0067】
図3に示すように、エステル交換反応にあたり、電解質水溶液として、炭酸水素ナトリウム水溶液を存在させた系(実施例4)では、この水溶液の代わりに蒸留水を用いた系(比較例3)と比較して、反応開始直後からメチルエステルが多く生成されていた(図3の(a))。一方、未反応グリセリド含量(図3の(b)〜(d)は、総じて同じ反応時間では比較例4の反応系の方が高い値を示していた。このことから、800rpmという比較的早い撹拌速度の条件下において、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いた実施例4の反応系では、蒸留水を用いた比較例3の反応系と比較して、効率良くメチルエステルが形成されていたことがわかる。
【0068】
(実施例5:液体酵素の繰り返し利用による低速撹拌でのエステル交換反応)
50mLネジ口瓶に、0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液(導電率860mS/m、pH8.0)0.5mL、およびメタノール3M当量をそれぞれ添加し、これを35℃にて100rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−2010)により測定した。反応開始後72時間で反応が終了した。以上を第1バッチのエステル交換反応とした。
【0069】
次に第2バッチのエステル交換反応として、以下を行った。
【0070】
第1バッチの反応終了後、一晩静置分離を行うことにより、メチルエステルとグリセリン層を分離し、その上清であるメチルエステルを除去し、得られたグリセリン層(反応残渣)に、新たに0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液(導電率860mS/m、pH8.0)0.5mL、およびメタノール3M当量をそれぞれ添加し、これを再び35℃にて100rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。また、当該反応中のサンプリングも行い、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を測定した。以上を第2バッチのエステル交換反応とした。
【0071】
さらに上記と同様にして、得られたグリセリン層(反応残渣)を用いて第3バッチ〜第5バッチまでのエステル交換反応を行い、各反応中のサンプリングを通じて反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を測定した。得られた結果を図4に示す。
【0072】
(比較例4:液体酵素の繰り返し利用による低速撹拌でのエステル交換反応)
実施例5で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例5と同様にして第1バッチのエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0073】
その後、実施例5と同様にして生成したメチルエステルを除去し、得られたグリセリン層(反応残渣)について第2バッチのエステル交換反応を試みた。しかし、第2バッチ以降は、反応系内にメチルエステルの存在を観察することができなかった。得られた結果を図4に示す。
【0074】
図4に示すように、撹拌速度が100rpmという比較的遅いものであったにも関わらず、エステル交換反応にあたり、電解質水溶液として炭酸水素ナトリウム水溶液を存在させた実施例5の反応系では、第2バッチ以降、少なくとも第5バッチまで液体酵素を繰り返し利用しても、メチルエステルを75%以上の含量まで効率良く生成することができたことがわかる。これに対し、炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに蒸留水を用いた反応系(比較例4)では、当該撹拌速度では第1バッチの段階からメチルエステルの生成は充分とはいえず、かつ第2バッチ以降の液体酵素の繰り返し使用も困難であった。
【0075】
(実施例6:液体酵素の繰り返し利用による低速撹拌でのエステル交換反応)
実施例5と同様にして、第1バッチのエステル交換反応を行った。
【0076】
次に第2バッチのエステル交換反応として、以下を行った。
【0077】
第1バッチの反応終了後、一晩静置分離を行うことにより、メチルエステルとグリセリン層を分離し、その上清であるメチルエステルを除去し、得られたグリセリン層(反応残渣)に、新たに0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mL、およびメタノール3M当量をそれぞれ添加し、これを再び35℃にて100rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。また、当該反応中のサンプリングも行い、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を測定した。以上を第2バッチのエステル交換反応とした。
【0078】
さらに上記第2バッチと同様にして、得られた反応残渣を用いて第3バッチおよび第4バッチまでのエステル交換反応を行い、各反応中のサンプリングを通じて反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を測定した。得られた結果を、実施例5で得られた結果に重ねて図5に示す。
【0079】
図5に示すように、第1バッチから第4バッチを通じて実施例6で得られたメチルエステル含量は、実施例5で得られたものと同様の変化を示していた。これにより、第2バッチ以降は、反応系に炭酸水素ナトリウム水溶液(電解質水溶液)を用いなかったとしても、比較的低い撹拌速度(100rpm)の条件でも液体酵素を繰り返し使用しながら、メチルエステルを効率的に生成し得たことがわかる。
【0080】
(実施例7:液体酵素の繰り返し利用による高速撹拌でのエステル交換反応)
50mLネジ口瓶に、0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液(導電率860mS/m、pH8.0)0.5mL、およびメタノール3M当量をそれぞれ添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−2010)により測定した。反応開始後72時間で反応が終了した。以上を第1バッチのエステル交換反応とした。
【0081】
次に第2バッチのエステル交換反応として、以下を行った。
【0082】
第1バッチの反応終了後、一晩静置分離を行うことにより、メチルエステルとグリセリン層を分離し、その上清であるメチルエステルを除去し、得られたグリセリン層(反応残渣)に、新たに0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液(導電率860mS/m、pH8.0)0.5mL、およびメタノール3M当量をそれぞれ添加し、これを再び35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。また、当該反応中のサンプリングも行い、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を測定した。以上を第2バッチのエステル交換反応とした。
【0083】
さらに上記と同様にして、得られたグリセリン層(反応残渣)を用いて第3バッチ〜第12バッチまでのエステル交換反応を行い、各反応中のサンプリングを通じて反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を測定した。得られた結果を図6に示す。
【0084】
(比較例5:液体酵素の繰り返し利用による高速撹拌でのエステル交換反応)
実施例7で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例7と同様にして第1バッチのエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0085】
その後、実施例7と同様にして生成したメチルエステルを除去し、得られたグリセリン層(反応残渣)について第2バッチ〜第4バッチのエステル交換反応を試みた。しかし、第5バッチ以降は、反応系内にメチルエステルの存在を観察することができなかった。得られた結果を図6に示す。
【0086】
図6に示すように、比較例5では、第1バッチにて最終的に約90重量%のメチルエステル含量を達成したものの、第2バッチ(最終的に約80重量%)および第3バッチ(最終的に約35重量%)を通じて徐々に各バッチの最大含量の値が低下し、第4バッチではほとんどメチルエステルの生成が見出されなかった。これに対し、実施例7では、少なくとも12回ものエステル交換反応を繰り返すことができ、特に第1バッチ〜第6バッチのそれぞれにおいて最終的に80重量%以上のメチルエステル含量を達成し、かつ第1バッチ〜第12バッチのすべてにおいて最終的に約70重量%以上のメチルエステル含量を達成することができた。これにより、比較的早い撹拌速度(800rpm)の条件では液体酵素の繰り返し使用を一層延長することができ、メチルエステルをさらに効率的に生成し得たことがわかる。
【0087】
(実施例8:改質油脂を用いるエステル交換反応)
既報の文献(生物工学会誌,2014年,第92巻,第6号,pp.262−269)に記載の方法に基づいて、循環式エステル交換反応用装置を作製し、廃食用油から脂肪酸エステルおよび副生成物グリセリンを以下のようにして製造した。
【0088】
まず、循環式エステル交換反応用装置として、原料タンク(容量250L)と、原料タンクから供給される材料をエステル交換反応に供するための触媒反応管(長さ1.7m、内径210.0mm、および内容積58851.5mLのステンレススチール製パイプで構成されており、内部には担体(イオン交換樹脂)に固定化された酵素触媒(カンジダ・アンタルシティカ(Candida Antarctica) B由来リパーゼ(ノボザイム435:ノボザイム社製)))が充填されている)と、触媒反応管から得られた反応液を内容成分に応じて相分離しかつ分離した一方の成分をオーバーフローさせるための分離槽(容量40L)と、分離槽のオーバーフローによって分離槽内に沈殿した副生成物グリセリンを、粗グリセリンとして回収する装置を作製した。
【0089】
次いで、当該循環式エステル交換反応用装置の原料タンクに、廃食用油200L、メタノール(反応開始時に油脂(廃食用油)に対して0.5モル当量分を手動で添加)添加し、適切に混合かつ撹拌した後、これを触媒反応管に供給し、30℃にてエステル交換反応を行った。エステル交換を経た反応液を、触媒反応管から分離槽に移動し、生成した脂肪酸エステルを含む層をオーバーフローさせ、分離槽内に沈殿した副生成物グリセリンを、粗グリセリンとして回収した。また、原料タンクには反応開始後13.5時間まで定量ポンプで2.1kg/時間の割合でメタノールを供給した。このようにして装置内での反応液の循環を行った。
【0090】
反応液が触媒反応管から原料タンクへと循環する運転を約24時間継続した後、分離槽から一部のグリセリン(粗グリセリン)を回収した。この粗グリセリンには、全体重量を基準として約80%の純粋グリセリン、約10%のメタノール、およびその他脂肪酸エステルなどの油分を含有していたことを確認した。粗グリセリンのpHは幾分酸性を呈し、バイオディーゼル燃料用pHチェッカー(Filtertechnik社製)を使用して確認したpHは4.5であった。以上のことから得られた粗グリセリンは、アルカリ性不純物を実質的に含んでいないグリセリン(酵素触媒法由来のグリセリン)であることを確認した。
【0091】
さらに、30mLのネジ口瓶に、0.9mg−KOH/g油脂の酸価を有する廃食用油9gと、上記で得られた粗グリセリン0.84gとを添加し、さらにスターラーバーを入れ、25℃で10分間撹拌し、13,000rpmにて3分間遠心分離することにより改質油脂を得た。得られた改質油脂の酸価は、水酸化カリウムを用いた中和滴定法(JIS K 250)で測定したところ、0.4mg−KOH/g油脂であった。
【0092】
次いで、50mLネジ口瓶に、上記で調製した0.4mg−KOH/gの酸価を有する改質油9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液(導電率860mS/m、pH8.0)0.5mL、およびメタノール3M当量をそれぞれ添加し、これを35℃にて100rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−2010)により測定した。得られた結果を図7に示す。
【0093】
(実施例9)
実施例8で使用した改質油脂の代わりに、0.9mg−KOH/g油脂の酸価を有する廃食用油9gを用いたこと以外は、実施例8と同様にしてエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を図7に示す。
【0094】
(比較例6)
実施例8で使用した改質油脂の代わりに、0.9mg−KOH/g油脂の酸価を有する廃食用油9gを用い、かつ実施例8で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例8と同様にしてエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を図7に示す。
【0095】
図7の(a)に示すように、エステル交換反応において炭酸水素ナトリウム水溶液を用いた反応系(実施例8および9)は、当該水溶液を用いなかった反応系(比較例6)と比較して、比較的低速(100rpm)の撹拌速度であっても、メチルエステル含量を高めることができた。これに対し、図7の(d)に示すように、比較例6の反応系では、未反応トリグリセリド含量が実施例8および9のものと比較して高くなっていたことがわかる。また、上記改質油脂を用いた反応系(実施例8)は、未改質の油脂を用いた反応系(実施例9)と比較して、一層高いメチルエステル含量を達成しており(図7の(a))、その一方で実施例8の未反応グリセリド含量は、実施例9のものよりも常に低い値を示していたことがわかる(図7の(b)〜(d))。このことから、エステル交換反応に、炭酸水素ナトリウム水溶液とともに、副生成グリセリンを用いて得られた改質油脂を用いることにより、得られるメチルエステルの生成効率を一層向上させることができたとわかる。
【0096】
(実施例10:阻害物に対する効果)
エステル交換反応を阻害する界面活性剤を含有する廃食用油を用いて、当該反応の阻害の有無を確認した。
【0097】
0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油に、逆ミセルを形成可能な陰イオン性界面活性剤AOT(エアロゾルOT;和光純薬工業株式会社製)を1重量%の濃度となるように溶解させて、界面活性剤含有油脂を調製した。
【0098】
50mLネジ口瓶に、上記で調製した界面活性剤含有油脂9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量を添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−2010)により測定した。得られた結果を図8に示す。
【0099】
(比較例7:阻害物に対する効果)
実施例10で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例4と同様にして界面活性剤含有油脂に対するエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を図8に示す。
【0100】
図8に示すように、蒸留水を用いた場合(比較例7)、界面活性剤含有油脂を含む反応系では、メチルエステルの生成がほとんど観察されなかった(図8)。このため、廃食用油に添加した陰イオン性界面活性剤がエステル交換反応の阻害物質として機能し、メチルエステルの生成を抑制または遮断していたことがわかる。これに対し、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いた場合(実施例10)、界面活性剤含有油脂を含む反応系においてもメチルエステルの生成が確認され、反応時間の経過とともにその含量が増大していたことがわかる(図8)。このことから、例え、原料油脂に陰イオン性界面活性剤のような阻害物質が含まれていたとしても、炭酸水素ナトリウム水溶液のような電解質水溶液を用いることにより、当該阻害物質の影響を低減して所望の脂肪酸エステルの製造が可能になることがわかる。
【0101】
(実施例11:種々の原料油脂の影響(1))
50mLネジ口瓶に、菜種油(導電率;4.3mS/m;未精製油脂)9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量を添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌して72時間かけてエステル交換反応を行った。当該反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表1に示す。
【0102】
(比較例8:種々の原料油脂の影響(1))
実施例11で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例11と同様にしてエステル交換反応を行い、反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量ならびに未反応グリセリド含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
(実施例12:種々の原料油脂の影響(2))
50mLネジ口瓶に、加熱油脂劣化度酸価4の廃食用油(導電率;8.7mS/m)9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量を添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌して72時間かけてエステル交換反応を行った。当該反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表2に示す。
【0105】
(比較例9:種々の原料油脂の影響(2))
実施例12で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例12と同様にしてエステル交換反応を行い、反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量ならびに未反応グリセリド含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
(実施例13:種々の原料油脂の影響(3))
50mLネジ口瓶に、加熱油脂劣化度酸価6の廃食用油(導電率;11.3mS/m)9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量を添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌して72時間かけてエステル交換反応を行った。当該反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表3に示す。
【0108】
(比較例10:種々の原料油脂の影響(3))
実施例13で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例13と同様にしてエステル交換反応を行い、反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量ならびに未反応グリセリド含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
(実施例14:種々の原料油脂の影響(4))
50mLネジ口瓶に、加熱油脂劣化度酸価8の廃食用油(導電率;9.0mS/m)9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量を添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌して72時間かけてエステル交換反応を行った。当該反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表4に示す。
【0111】
(比較例11:種々の原料油脂の影響(4))
実施例14で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例14と同様にしてエステル交換反応を行い、反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量ならびに未反応グリセリド含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
(実施例15:種々の原料油脂の影響(5))
50mLネジ口瓶に、非加熱牛脂固体4.5g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量を添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌して72時間かけてエステル交換反応を行った。当該反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表5に示す。
【0114】
(比較例12:種々の原料油脂の影響(5))
実施例15で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例15と同様にしてエステル交換反応を行い、反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量ならびに未反応グリセリド含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表5に示す。
【0115】
【表5】
【0116】
(実施例16:種々の原料油脂の影響(6))
50mLネジ口瓶に、リン脂質を5重量%の割合で添加した廃食用油(導電率;4.7mS/m)9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量を添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌して72時間かけてエステル交換反応を行った。当該反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表6に示す。
【0117】
(比較例13:種々の原料油脂の影響(6))
実施例16で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例16と同様にしてエステル交換反応を行い、反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量ならびに未反応グリセリド含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表6に示す。
【0118】
【表6】
【0119】
(実施例17:種々の原料油脂の影響(7))
50mLネジ口瓶に、リン脂質を10重量%の割合で添加した廃食用油(導電率;4.0mS/m)9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量を添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌して72時間かけてエステル交換反応を行った。当該反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表7に示す。
【0120】
(比較例14:種々の原料油脂の影響(7))
実施例17で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例17と同様にしてエステル交換反応を行い、反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量ならびに未反応グリセリド含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表7に示す。
【0121】
【表7】
【0122】
(実施例18:種々の原料油脂の影響(8))
50mLネジ口瓶に、未精製パーム油(導電率;2.2mS/m)9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、実施例1で調製した炭酸水素ナトリウム水溶液0.5mL、およびメタノール3M当量を添加し、これを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌して72時間かけてエステル交換反応を行った。当該反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量、ならびに未反応グリセリド(モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、およびトリグリセリド(TG))含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表8に示す。
【0123】
(比較例15:種々の原料油脂の影響(8))
実施例18で使用した炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに、蒸留水(導電率;0.3mS/m、pH6.5)0.5mLを用いたこと以外は、実施例18と同様にしてエステル交換反応を行い、反応終了後、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量ならびに未反応グリセリド含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を表8に示す。
【0124】
【表8】
【0125】
表1〜8に示すように、種々の原料油脂を用いたエステル交換反応にあたり、電解質水溶液として、炭酸水素ナトリウム水溶液を存在させた系(実施例11〜18)では、この水溶液の代わりに蒸留水を用いた系(比較例8〜15)と比較して、いずれも多くのメチルエステルが生成され、その一方で、未反応グリセリド含量が低い値を示していた。このことから、種々の原料油脂に対して、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いた実施例11〜18の反応系は、蒸留水を用いた比較例8〜15の反応系よりも、未反応グリセリドを減らしつつ効率良くメチルエステルを形成することができたとわかる。
【0126】
(実施例19:エステル交換反応における電解質濃度の依存性)
4つの50mLネジ口瓶に、0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mg、蒸留水0.5mL(予め測定した導電率は0.3mS/mであった)、およびメタノール3M当量と、電解質として炭酸水素ナトリウム0.9mg、4.5mg、9mgまたは90mg(それぞれの添加濃度は0.01重量%、0.05重量%、0.10重量%および1.00重量%に相当)とをそれぞれ添加し、これらを35℃にて100rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−2010)により測定した。得られた結果を図9に示す。
【0127】
(比較例16:エステル交換反応における電解質濃度の依存性)
炭酸水素ナトリウムの添加を行わなかったこと以外は、実施例19と同様にしてエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を図9に示す。
【0128】
図9に示すように、予め電解質水溶液を調製することなく、反応系に直接電解質(炭酸水素ナトリウム)を添加しても、添加しなかった反応系(比較例16)と比較して、いずれも多くのメチルエステルが生成された。このことから、反応系への電解質の添加は、固体または水溶液の形態のいずれを問わず可能であり、効率良くメチルエステルを形成することができたことがわかる。
【0129】
(実施例20:エステル交換反応における酵素液の導電率依存性)
10重量%の炭酸水素ナトリウム水溶液0.5gを液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)50mgに添加して酵素液を調製した。得られた酵素液の導電率は1800mS/mであった。
【0130】
次いで、2つの50mLネジ口瓶に、0.9mg−KOH/gの酸価を有する廃食用油9g、およびメタノール3M当量と、上記で調製した酵素液(全量)とをそれぞれ添加し、これらを35℃にて800rpmの撹拌速度で撹拌してエステル交換反応を行った。当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−2010)により測定した。得られた結果を図10に示す。
【0131】
(比較例17:エステル交換反応における酵素液の導電率依存性)
炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに水0.5gを用いたこと以外は、実施例20と同様にして酵素液を調製した。得られた酵素液の導電率は129mS/mであった。
【0132】
上記酵素液を用いたこと以外は実施例20と同様にして、廃食用油およびメタノールとともにエステル交換反応を行い、当該反応中、反応系内の反応液を適宜サンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量をガスクロマトグラフィーにより測定した。得られた結果を図10に示す。
【0133】
図10に示すように、電解質水溶液の代わりに、予め調製した高い導電率を有する酵素液を、反応系に添加した場合(実施例20)でも、導電率の低い酵素液を添加した反応系(比較例17)と比較して、残存トリグリセリドの量が減少した。また、この減少に伴って、メチルエステルも多く生成されたことを確認した。このことから、反応系への電解質の添加は、酵素液の導電率を上げることでも、効率よくメチルエステルを形成することができたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明によれば、脂肪酸エステルを効率良く製造することができる。本発明により得られた脂肪酸エステルは、例えば、バイオディーゼル燃料またはその構成成分として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10