特許第6409152号(P6409152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6409152多孔質セラミック粒子および多孔質セラミック構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6409152
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】多孔質セラミック粒子および多孔質セラミック構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/06 20060101AFI20181004BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20181004BHJP
   F02B 23/00 20060101ALI20181004BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20181004BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20181004BHJP
   F02F 3/10 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C04B38/06 D
   C04B41/85 C
   F02B23/00 H
   F02F1/00 E
   F02F1/24 C
   F02F3/10 B
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-537691(P2018-537691)
(86)(22)【出願日】2018年3月1日
(86)【国際出願番号】JP2018007845
【審査請求日】2018年7月18日
(31)【優先権主張番号】特願2017-64525(P2017-64525)
(32)【優先日】2017年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】織部 晃暢
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇弘
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/010185(WO,A1)
【文献】 特開平6−144958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00−38/10
C04B 41/00−41/91
F02B 23/00
F02F 1/00
F02F 1/24
F02F 3/10
Japio−GPG/FX
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な一対の主面を有する板状の多孔質セラミック粒子であって、
前記一対の主面の一方の主面から他方の主面に向かって、前記一対の主面間の距離である粒子厚さの1/4の範囲の平均気孔率が、前記一対の主面の間の中央に位置する前記粒子厚さの1/2の範囲の平均気孔率よりも高い。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質セラミック粒子であって、
前記一方の主面に、前記一方の主面に開口する気孔よりも大きい複数の凹部が存在し、
厚さ方向において前記複数の凹部が存在する範囲が、0.5μm以上、かつ、前記粒子厚さの1/4以下である。
【請求項3】
請求項1に記載の多孔質セラミック粒子であって、
前記一方の主面を含み、実質的に気孔が均一に存在する第1多孔質部と、
前記第1多孔質部に接し、前記一対の主面の間の中央に位置する前記粒子厚さの前記1/2の範囲を含み、実質的に気孔が均一に存在する第2多孔質部と、
を備え、
前記第1多孔質部の平均気孔率が、前記第2多孔質部の平均気孔率よりも高い。
【請求項4】
請求項1に記載の多孔質セラミック粒子であって、
前記一方の主面を含み、実質的に気孔が均一に存在する第1多孔質部と、
前記第1多孔質部に接し、前記一対の主面の間の中央に位置する前記粒子厚さの前記1/2の範囲を含み、実質的に気孔が均一に存在する第2多孔質部と、
を備え、
前記第1多孔質部の平均気孔径が、前記第2多孔質部の平均気孔径よりも大きい。
【請求項5】
請求項3または4に記載の多孔質セラミック粒子であって、
前記第1多孔質部の厚さが、0.5μm以上、かつ、前記粒子厚さの1/4以下である。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれか1つに記載の多孔質セラミック粒子であって、
前記第1多孔質部の平均気孔率が、30%以上95%以下であり、
前記第2多孔質部の平均気孔率が、30%以上、かつ、前記第1多孔質部の平均気孔率よりも低い。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の多孔質セラミック粒子であって、
前記他方の主面の50%以上が、緻密層の表面である。
【請求項8】
多孔質セラミック構造体であって、
支持部材と、
前記支持部材上に貼着された多孔質セラミック集合体と、
を備え、
前記多孔質セラミック集合体が、それぞれが請求項1ないし7のいずれか1つに記載の多孔質セラミック粒子と同様の構造を有する複数の多孔質セラミック粒子を含み、
前記複数の多孔質セラミック粒子が、
互いに側面を対向させつつ配置され、前記複数の多孔質セラミック粒子の前記他方の主面が前記支持部材上に貼着される。
【請求項9】
請求項8に記載の多孔質セラミック構造体であって、
前記多孔質セラミック集合体は対象物上に設置される部材であって、
前記多孔質セラミック集合体を上面から見た平面形状は、前記対象物のうち、前記多孔質セラミック集合体が設置される予定の領域を上面から見た平面形状と同じである。
【請求項10】
請求項8または9に記載の多孔質セラミック構造体であって、
前記多孔質セラミック集合体において隣接する多孔質セラミック粒子間の隙間が0.01μm以上かつ20μm以下である。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれか1つに記載の多孔質セラミック構造体であって、
前記多孔質セラミック集合体内での多孔質セラミック粒子の個数密度が異なり、
前記個数密度の最大値の最小値に対する割合が1.2よりも大きい。
【請求項12】
請求項8ないし11のいずれか1つに記載の多孔質セラミック構造体であって、
前記支持部材の材質が、樹脂、布、ゴム、木材、紙、カーボン、金属、セラミック、ガラス、または、これらから選択された2以上の材質の複合材料である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミック粒子および多孔質セラミック構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの燃焼室内壁には、低熱伝導率の断熱膜が設けられる。例えば、国際公開第2015/080065号(文献1)では、マトリックス中に多孔質材料がフィラーとして分散された断熱膜が開示されている。国際公開第2015/115667号(文献2)では、フィラーの気孔にマトリックス成分が浸透して断熱効果が減少することを抑制するために、フィラーの中心部の表面全体を、中心部よりも気孔率が低い外周部で被覆する技術が開示されている。
【0003】
国際公開第2013/125704号(文献3)では、エンジンの燃焼室内壁に断熱層を形成し、当該断熱層の表面に表面緻密層を形成する技術が開示されている。断熱層では、マトリックス中に中空粒子または多孔質粒子がフィラーとして分散されている。断熱層は、フィラーを含むマトリックス材料を、エンジンの燃焼室内壁に塗布し、乾燥後、熱処理を行うことにより形成される。表面緻密層は、セラミックスを含む材料を断熱層の表面に塗布し、乾燥後、熱処理を行うことにより形成される。
【0004】
ところで、文献1ないし文献3のように、マトリックス中にフィラーを分散させた断熱膜では、フィラーを均一に分散させることは容易ではない。その結果、断熱膜において、フィラーよりも熱伝導率が高いマトリックスのみが集まった領域が多くなるため、断熱膜の断熱性能の向上に限界がある。また、文献3のようにエンジンの燃焼室内壁に断熱層および表面緻密層を順に形成する場合、各層の形成に要する時間が増大するとともに、各層の厚さを均一にすることも容易ではない。さらに、文献2では、フィラーの表面全体を熱伝導率が比較的高い外周部により被覆しているため、熱伝導率の低下に限界がある。
【0005】
一方、熱伝導率を低くするために単純に断熱材料の気孔率を高くすると、断熱材料の機械的強度が低下してしまう。上記課題は、断熱以外の用途においても、気孔率をある程度維持しつつ強度を確保する必要がある材料に共通である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、多孔質セラミック粒子に向けられており、低熱伝導率かつ低熱容量であり、機械的強度の低下が抑えられた多孔質セラミック粒子を提供することを目的としている。
【0007】
本発明に係る多孔質セラミック粒子は、互いに平行な一対の主面を有する板状である。多孔質セラミック粒子は、前記一対の主面の一方の主面から他方の主面に向かって、前記一対の主面間の距離である粒子厚さの1/4の範囲の平均気孔率が、前記一対の主面の間の中央に位置する前記粒子厚さの1/2の範囲の平均気孔率よりも高い。
【0008】
本発明の一の好ましい実施の形態では、前記一方の主面に、前記一方の主面に開口する気孔よりも大きい複数の凹部が存在する。厚さ方向において前記複数の凹部が存在する範囲が、0.5μm以上、かつ、前記粒子厚さの1/4以下である。
【0009】
本発明の他の一の好ましい実施の形態では、多孔質セラミック粒子は、前記一方の主面を含み、実質的に気孔が均一に存在する第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接し、前記一対の主面の間の中央に位置する前記粒子厚さの前記1/2の範囲を含み、実質的に気孔が均一に存在する第2多孔質部とを備える。前記第1多孔質部の平均気孔率は、前記第2多孔質部の平均気孔率よりも高い。
【0010】
本発明のさらに他の一の好ましい実施の形態では、多孔質セラミック粒子は、前記一方の主面を含み、実質的に気孔が均一に存在する第1多孔質部と、前記第1多孔質部に接し、前記一対の主面の間の中央に位置する前記粒子厚さの前記1/2の範囲を含み、実質的に気孔が均一に存在する第2多孔質部とを備える。前記第1多孔質部の平均気孔径は、前記第2多孔質部の平均気孔径よりも大きい。
【0011】
好ましくは、前記第1多孔質部の厚さは、0.5μm以上、かつ、前記粒子厚さの1/4以下である。好ましくは、前記第1多孔質部の平均気孔率は、30%以上95%以下であり、前記第2多孔質部の平均気孔率は、30%以上、かつ、前記第1多孔質部の平均気孔率よりも低い。さらに好ましくは、前記他方の主面の50%以上が、緻密層の表面である。
【0012】
本発明は、多孔質セラミック構造体にも向けられている。本発明に係る多孔質セラミック構造体は、支持部材と、前記支持部材上に貼着された多孔質セラミック集合体とを備える。多孔質セラミック集合体は、それぞれが上記多孔質セラミック粒子と同様の構造を有する複数の多孔質セラミック粒子を含む。前記複数の多孔質セラミック粒子は、互いに側面を対向させつつ配置され、前記複数の多孔質セラミック粒子の前記他方の主面が前記支持部材上に貼着される。
【0013】
本発明の一の好ましい実施の形態では、多孔質セラミック構造体は、前記多孔質セラミック集合体は対象物上に設置される部材であって、前記多孔質セラミック集合体を上面から見た平面形状は、前記対象物のうち、前記多孔質セラミック集合体が設置される予定の領域を上面から見た平面形状と同じである。
【0014】
好ましくは、前記多孔質セラミック集合体において隣接する多孔質セラミック粒子間の隙間が0.01μm以上かつ20μm以下である。好ましくは、前記多孔質セラミック集合体内での多孔質セラミック粒子の個数密度が異なり、前記個数密度の最大値の最小値に対する割合が1.2よりも大きい。好ましくは、前記支持部材の材質は、樹脂、布、ゴム、木材、紙、カーボン、金属、セラミック、ガラス、または、これらから選択された2以上の材質の複合材料である。
【0015】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】多孔質セラミック構造体の斜視図である。
図2】多孔質セラミック粒子の断面図である。
図3】多孔質部の一例を示す断面図である。
図4】成形体とポリエステルフィルムとの境界を拡大して示す断面図である。
図5】対象物上に多孔質セラミック粒子を設置する様子を示す側面図である。
図6】対象物上に多孔質セラミック粒子を設置する様子を示す側面図である。
図7】多孔質セラミック粒子の他の例を示す図である。
図8】多孔質セラミック粒子の製造方法を説明するための図である。
図9】多孔質セラミック粒子の製造方法を説明するための図である。
図10】多孔質セラミック粒子のさらに他の例を示す図である。
図11】複数の多孔質セラミック粒子の平面図である。
図12】複数の多孔質セラミック粒子の平面図である。
図13】複数の多孔質セラミック粒子の平面図である。
図14】多孔質セラミック構造体の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る多孔質セラミック構造体10を示す斜視図である。多孔質セラミック構造体10は、シート12と、多孔質セラミック集合体14とを備える。多孔質セラミック集合体14は、シート12上に貼着される。換言すれば、多孔質セラミック集合体14は、剥離可能な状態でシート12上に固定されている。シート12は多孔質セラミック集合体14を支持する支持部材の一形態である。
【0018】
多孔質セラミック集合体14は、例えば、シート12の粘着力によりシート12上に固定される。シート12は、例えば、粘着力を有する樹脂製シートまたは樹脂製フィルムである。シート12の粘着力(JIS Z0237)は、好ましくは、1.0N/10mm以上である。これにより、多孔質セラミック集合体14を強固に固定することができる。多孔質セラミック集合体14は、貼着界面で一時的にシート12に強固に固定されていてもよい。多孔質セラミック集合体14は、粘着剤等を介してシート12に固定されてもよい。
【0019】
シート12の粘着力は、例えば、熱、水、溶剤、電気、光(紫外光を含む。)、マイクロ波もしくは外力等をシート12に付与することにより、または、経時変化等により低下する。これにより、多孔質セラミック集合体14のシート12に対する固定状態を容易に解除し、多孔質セラミック集合体14をシート12から剥離させることができる。多孔質セラミック集合体14の剥離時におけるシート12の粘着力は、好ましくは、0.1N/10mm以下である。これにより、多孔質セラミック集合体14をシート12から容易に剥離させることができる。
【0020】
多孔質セラミック集合体14は、複数の多孔質セラミック粒子16を含む。実際には、多孔質セラミック集合体14に含まれる多孔質セラミック粒子16の数は、図1に示す例よりも多い。多孔質セラミック集合体14に含まれる多孔質セラミック粒子16の数は、図1に示す例よりも少なくてもよい。図1に示す例では、複数の多孔質セラミック粒子16の平面視における形状(すなわち、平面形状)は互いに異なる。多孔質セラミック集合体14は、平面形状が略同様の2つ以上の多孔質セラミック粒子16を含んでいてもよい。
【0021】
上述の多孔質とは、緻密でもなく、中空でもない状態を意味する。多孔質構造は、例えば、複数の気孔および複数の微粒子で構成される。緻密構造とは、複数の微粒子が多孔質構造に比べて近接した状態で存在する状態である。緻密構造における気孔率は、多孔質構造における気孔率よりも低い。緻密構造では、複数の微粒子が、ほとんど隙間なく結合していてもよい。換言すれば、緻密構造は、内部に気孔をほとんど有しなくてもよい。中空構造とは、外殻部が緻密構造を有し、外殻部の内側が空洞である状態である。
【0022】
図2は、一の多孔質セラミック粒子16の縦断面図である。図2では、シート12の一部も併せて図示する。多孔質セラミック集合体14に含まれる複数の多孔質セラミック粒子16(図1参照)はそれぞれ、図2に示すものと略同様の構造を有する。
【0023】
多孔質セラミック粒子16は、互いに平行な一対の主面161,162を有する板状である。多孔質セラミック粒子16は、多孔質部61と、緻密層62とを備える。多孔質部61は、互いに略平行な一対の主面611,610を有する板状の部位である。緻密層62は、多孔質部61の一方の主面610を略全面に亘って被覆する。
【0024】
多孔質セラミック粒子16の上側の主面161は多孔質部61の上側の主面611である。多孔質セラミック粒子16の下側の主面162は緻密層62の表面621である。緻密層62は多孔質部61の主面611の全体を覆う必要はなく、好ましくは、50%以上を覆う。すなわち、多孔質セラミック粒子16の下側の主面の50%以上が、緻密層62の表面であることが好ましい。図2に示す例では、緻密層62は、多孔質部61の下側の主面610を略全面に亘って被覆する。緻密層62は、多孔質部61の下側の主面610のみを覆う。
【0025】
なお、多孔質セラミック粒子16において緻密層は省かれてもよい。この場合、多孔質セラミック粒子16の上側の主面161は多孔質部61の上側の主面611であり、下側の主面162は多孔質部61の下側の主面610である。
【0026】
多孔質部61の表面のうち主面610を除く部位は、緻密層62から露出している。具体的には、図2に示すように、多孔質部61の側面612の略全体が、緻密層62により被覆されることなく、緻密層62から露出している。多孔質部61の上側の主面611も緻密層62から露出している。
【0027】
多孔質部61の厚さ方向の厚さ(以下、「多孔質厚さ」という。)は、好ましくは50μm以上かつ500μm以下であり、さらに好ましくは55μm以上かつ400μm以下である。多孔質厚さは、より好ましくは60μm以上かつ300μm以下であり、特に好ましくは70μm以上かつ200μm以下である。上述の厚さ方向は、多孔質部61の主面611に垂直な方向である。
【0028】
多孔質部61は、第1多孔質部613と、第2多孔質部614とを含む。第1多孔質部613の平均気孔率は第2多孔質部614の平均気孔率よりも高い。後述するように、第1多孔質部613と第2多孔質部614との境界が判別できない形態もある。「気孔率」は、電子顕微鏡にて断面画像を取得した際に、骨格粒子が存在しない領域の割合を指すものとする。気孔率は、断面画像に直線を引き、直線上において骨格粒子が存在しない範囲の割合を指すものと定められてもよい。
【0029】
図3は、多孔質部61の一例を示す断面図である。図3に示す例では、多孔質部61の上側の主面611に、当該主面611に開口する気孔よりも大きい複数の凹部615が存在する。「開口する気孔よりも大きい」とは、平均気孔径に等しい直径の球体が容易に入ることを意味する。本明細書において「平均気孔径」は、水銀ポロシメータ(水銀圧入法)を用いて測定した値である。平均気孔径が10nm以下の場合は、ガス吸着法にて測定が行われる。
【0030】
図3の例では、厚さ方向、すなわち、主面611に垂直な方向において、複数の凹部615が存在する範囲を第1多孔質部613と定める。多孔質部61の第1多孔質部613以外の部位を第2多孔質部614と定める。凹部615の存在を除いて考えた場合、多孔質部61はほぼ一定の気孔率である。すなわち、多孔質部61の凹部615以外の領域では、気孔がほぼ均一に存在する。「気孔が均一に存在する」とは、気孔の大きさに対して十分に大きな任意の領域において、気孔径の分布が同じであることを指す。凹部615の存在により、第1多孔質部613の平均気孔率は、第2多孔質部614の平均気孔率よりも高い。
【0031】
第1多孔質部613の厚さ、すなわち、凹部615の深さは、0.5μm以上であることが好ましい。これにより、凹部615を微細気孔の開口よりも明りょうに大きくし、かつ、断熱性向上効果を得ることができる。より好ましくは、凹部615の深さは、1μm以上である。多孔質セラミック粒子16の強度を確保するために、第1多孔質部613の厚さは、多孔質セラミック粒子16の厚さ(以下、「粒子厚さ」という。)の1/4以下であることが好ましい。粒子厚さは、多孔質セラミック粒子16の両主面161,162の間の距離である。さらに好ましくは、第1多孔質部613の厚さは、15μm以下である。
【0032】
多孔質セラミック粒子16の厚さ方向における主面161、162の位置は、例えば、断面画像において、主面161,162に接する予め定められた長さの直線を引き、直線を多孔質セラミック粒子16の内部へと漸次移動させつつ直線上での骨格粒子の存在範囲の割合が予め定められた値以上となる位置として定められる。予め定められた値は、例えば、5%である。主面161,162のおよその位置が特定されるのであれば、他の手法が採用されてもよい。多孔質部61の厚さ方向における主面611,610の位置も同様にして定められる。
【0033】
主面161を平面視した場合の主面161の面積に対する凹部615の面積の割合は、10%以上かつ50%以下であることが好ましい。より好ましくは、20%以上かつ50%以下である。平面視した場合の凹部615の形状は円形や楕円形には限定されず、多角形でもよく線状でもよい。好ましくは、凹部615の幅は0.1μm以上かつ30μm以下であり、さらに好ましくは、0.5μm以上かつ30μm以下である。凹部615の幅は、例えば、最大内接円の直径として定められる。
【0034】
第1多孔質部613の平均気孔率は、好ましくは、30%以上かつ95%以下であり、より好ましくは40%以上かつ95%以下であり、特に好ましくは、50%以上かつ95%以下である。第2多孔質部614の平均気孔率は、第1多孔質部613の平均気孔率よりも低く、かつ、75%以下であり、より好ましくは、70%以下であり、特に好ましくは、65%以下である。第2多孔質部614の平均気孔率は、好ましくは、30%以上である。
【0035】
多孔質部61の気孔には、多孔質部61の表面にて開口する開気孔が含まれる。多孔質部61の気孔には、閉気孔が含まれてもよい。多孔質部61の気孔の形状は、特に限定されず、様々である。
【0036】
多孔質部61の凹部615を除く部位の平均気孔径は、好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは、10nm以上かつ500nm以下である。これにより、多孔質部61において、熱伝導の主因である格子振動(フォノン)の発生が好適に阻害される。
【0037】
多孔質部61の凹部615を除く部位は、微粒子が三次元に繋がった構造を有する。当該微粒子は、多孔質部61の骨格を形成する粒子であり、以下、「骨格粒子」とも呼ぶ。多孔質部61の骨格粒子の粒径は、好ましくは、1nm以上かつ5μm以下であり、さらに好ましくは、50nm以上かつ1μm以下である。これにより、多孔質部61において、熱伝導の主因である格子振動(フォノン)の発生が好適に阻害され、多孔質セラミック粒子16の熱伝導率が低くなる。多孔質部61の骨格粒子は、1つの結晶粒からなる粒子(すなわち、単結晶粒子)であってもよく、多数の結晶粒からなる粒子(すなわち、多結晶粒子)であってもよい。骨格粒子の粒径は、例えば、多孔質部61の骨格を構成する粒子群に含まれる1つの微粒子の大きさ(例えば、微粒子が球状であれば直径、球状でなければ最大径)を、電子顕微鏡観察の画像等から計測したものである。
【0038】
第2多孔質部614の熱伝導率は、好ましくは1.5W/mK未満であり、さらに好ましくは0.7W/mK以下である。第2多孔質部614の熱伝導率は、より好ましくは0.5W/mK以下であり、特に好ましくは0.3W/mK以下である。
【0039】
第1多孔質部613の熱伝導率は、好ましくは1.3W/mK未満であり、さらに好ましくは0.5W/mK以下である。第1多孔質部613の熱伝導率は、より好ましくは0.3W/mK以下であり、特に好ましくは0.1W/mK以下である。
【0040】
第2多孔質部614の熱容量は、好ましくは1200kJ/mK以下であり、さらに好ましくは1000kJ/mK以下である。第2多孔質部614の熱容量は、より好ましくは800kJ/mK以下であり、特に好ましくは500kJ/mK以下である。
【0041】
第1多孔質部613の熱容量は、好ましくは1000kJ/mK以下であり、さらに好ましくは800kJ/mK以下である。多孔質部61の熱容量は、より好ましくは600kJ/mK以下であり、特に好ましくは400kJ/mK以下である。
【0042】
多孔質部61は、金属酸化物を構成材料として含むことが好ましく、金属酸化物のみからなることがさらに好ましい。金属酸化物は、金属の非酸化物(例えば、炭化物や窒化物)に比べて、金属と酸素との間のイオン結合性が強い。このため、多孔質部61が金属酸化物を含むことにより、多孔質部61の熱伝導率が低くなる。
【0043】
多孔質部61に含まれる酸化物は、好ましくは、Zr、Y、Al、Si、Ti、Nb、Sr、La、Hf、Ce、Gd、Sm、Mn、Yb、ErおよびTaからなる群から選ばれる1つの元素の酸化物、または、2つ以上の元素の複合酸化物である。これにより、多孔質部61において、格子振動(フォノン)による熱伝導が起こりにくくなる。
【0044】
多孔質部61の具体的な材料としては、ZrO−YにSiO、TiO、La、Gd、Yb、Er等を添加したものが挙げられる。さらに具体的には、ZrO−HfO−Y、ZrO−Y−La、ZrO−HfO−Y−La、HfO−Y、CeO−Y、GdZr、SmZr、LaMnAl1119、YTa、Y0.7La0.3Ta、Y1.08Ta2.76Zr0.24、YTi、LaTa、YbSi、YSi、Ti等が、多孔質部61の材料として挙げられる。
【0045】
緻密層62は、第2多孔質部614よりも低い気孔率を有する。緻密層62は、例えば、気孔をほとんど含まない。緻密層62の表面621(すなわち、多孔質部61と反対側の主面)は、平滑な面である。緻密層62の表面621の算術平均粗さ(Ra)は、好ましくは、50nm以上かつ800nm以下である。
【0046】
緻密層62は、好ましくは、Siを構成材料として含み、さらに好ましくは、Siの酸化物を主成分とする。これにより、緻密層62の表面621を容易に平滑化することができる。なお、緻密層62の構成材料である緻密層材料は、多孔質部61と同様の組成であってもよい。
【0047】
緻密層62の厚さは、好ましくは、10nm以上かつ1000nm以下である。緻密層62の厚さは、好ましくは、多孔質部61の厚さの0%よりも大きく、かつ、1%以下である。図2では、緻密層62の厚さを実際よりも大きく描いている。緻密層62の厚さは、好ましくは、多孔質部61の骨格粒子の平均粒径の0.1倍以上かつ10倍以下である。緻密層62の厚さは、好ましくは、多孔質部61の平均気孔径の0.05倍以上かつ5倍以下である。
【0048】
緻密層62の厚さとは、緻密層62の表面621と、多孔質部61の主面610との間の厚さ方向の距離である。多孔質部61の主面610は、緻密層62と多孔質部61との間の境界面でもある。緻密層62と多孔質部61との間の境界面の決定方法は、次の通りである。
【0049】
まず、電子顕微鏡等を利用して多孔質セラミック粒子16の縦断面の画像を取得する。続いて、当該縦断面の画像において、緻密層62の表面621と平行な複数の直線(以下、「境界面候補線」という。)を、多孔質セラミック粒子16上に10nm間隔で設定する。次に、緻密層62の表面621に最も近い境界面候補線に注目し、注目された境界面候補線上において緻密層62と重なる線分の合計長さであるLdense、多孔質部61の骨格粒子と重なる線分の合計長さであるLgrain、および、気孔と重なる線分の合計長さであるLporeを求める。そして、Ldense、LgrainおよびLporeの合計に対するLporeの割合(すなわち、Lpore/(Ldense+Lgrain+Lpore)であり、以下、「気孔長割合」という。)を求める。
【0050】
気孔長割合が、所定の閾値未満の場合は、現在の注目境界面候補線の次に緻密層62の表面621に近い境界面候補線(すなわち、表面621とは反対側において注目境界面候補線に隣接する境界面候補線)を、新たな注目境界面候補線として気孔長割合を求める。そして、注目境界面候補線の気孔長割合が上述の閾値以上となるまで、注目境界面候補線を順番に変更しつつ気孔長割合が求められる。当該決定方法では、気孔長割合が初めて上述の閾値以上となった境界面候補線の位置が、緻密層62と多孔質部61との境界面の位置として決定される。換言すれば、気孔長割合が当該閾値以上となる境界面候補線のうち、緻密層62の表面621に最も近い境界面候補線の位置が、緻密層62と多孔質部61との境界面の位置として決定される。当該閾値は、例えば、0.3である。
【0051】
上述の境界面の決定方法において、気孔長割合が当該閾値以上となる境界面候補線のうち、緻密層62の表面621に最も近い境界面候補線の気孔長割合が当該閾値よりも大きい場合、当該境界面候補線と、当該境界面候補線の表面621側に隣接する境界面候補線との間で、気孔長割合が当該閾値に等しくなる位置が補間により求められ、当該位置が緻密層62と多孔質部61との境界面の位置として決定されてもよい。
【0052】
緻密層62を構成する材料である緻密層材料が、緻密層62から上記境界面を越えて多孔質部61の内部(すなわち、多孔質部61の気孔内)に進出している場合、緻密層62と多孔質部61との境界面よりも多孔質部61側に存在する緻密層材料の厚さは、好ましくは、緻密層62の厚さの0%よりも大きく、かつ、10%以下である。なお、緻密層62と多孔質部61との境界面よりも多孔質部61側に存在する緻密層材料の厚さは、緻密層62の厚さの10%よりも大きい場合もあり、この場合、当該緻密層材料の厚さは、例えば数μmである。
【0053】
図1に示す多孔質セラミック粒子16のアスペクト比は、好ましくは3以上であり、さらに好ましくは5以上であり、より好ましくは7以上である。多孔質セラミック粒子16のアスペクト比とは、多孔質セラミック粒子16の粒子厚さtaに対する多孔質セラミック粒子16の主面161(または図2の主面162、以下、アスペクトの説明において同様)における最大長Laの割合(すなわち、La/ta)である。当該主面161は、多孔質セラミック粒子16を構成する複数の面のうち最も広い面であり、図2に示す例では、多孔質部61の上側の主面611または緻密層62の表面621である。
【0054】
主面161が正方形、長方形、台形、平行四辺形、多角形(例えば、五角形または六角形)の場合、最大長Laは、主面161の最も長い対角線の長さである。主面161が円形の場合、最大長Laは、主面161の直径である。主面161が楕円形の場合、最大長Laは、主面161の長径である。
【0055】
粒子厚さtaは、好ましくは50μm以上かつ500μm以下であり、さらに好ましくは55μm以上かつ300μm以下である。多孔質セラミック集合体14における粒子厚さtaのばらつきは、好ましくは10%以下である。換言すれば、粒子厚さtaの最大値と最小値との差は、粒子厚さtaの最大値および最小値の平均値の10%以下である。これにより、後述するように、複数の多孔質セラミック粒子16を対象物上に設置して断熱膜を形成する場合、断熱膜の厚さの均一性を向上することができる。その結果、断熱膜の断熱性能を向上することができる。
【0056】
多孔質セラミック粒子16の熱伝導率は、好ましくは1.5W/mK未満であり、さらに好ましくは0.7W/mK以下である。多孔質セラミック粒子16の熱伝導率は、より好ましくは0.5W/mK以下であり、特に好ましくは0.3W/mK以下である。
【0057】
多孔質セラミック粒子16の熱容量は、好ましくは1200kJ/mK以下であり、さらに好ましくは1000kJ/mK以下である。多孔質セラミック粒子16の熱容量は、より好ましくは800kJ/mK以下であり、特に好ましくは500kJ/mK以下である。
【0058】
次に、多孔質セラミック粒子16の製造方法の例について説明する。まず、多孔質部61の構成材料の粉末に、造孔材、バインダ、可塑剤、溶剤等を加えて混合することにより、成形用スラリーが調製される。続いて、成形用スラリーに真空脱泡処理を施すことにより粘度調整が行われた後、テープ成形により成形体(グリーンシート)が作製される。例えば、ポリエステルフィルム上に成形用スラリーが載置され、焼成後の厚さが所望の厚さとなるように、ドクターブレード等を用いて成形体が作製される。
【0059】
図4は、成形体31とポリエステルフィルム32との境界を拡大して示す断面図である。フィルム32上には、多数の微小な凸部321が形成されている。そのため、成形体31の下面には凸部321に倣う微小な凹部が形成される。凸部は点状でも線状でもよい。
【0060】
次に、成形体31がポリエステルフィルム32から剥離されて回収される。回収された成形体31を焼成することにより、板状の焼結体が形成される。成形体31の剥離面に存在する多数の微小な凹部は、焼成により図3の凹部615となる。
【0061】
上記焼結体が形成されると、緻密層62の構成材料を含む原料液が、焼結体の一の主面に塗布される。焼結体に対する原料液の塗布は、例えば、ディッピング、スプレー塗布、スピンコーティングまたはロールコーティングにより行われる。続いて、軽度の焼成等を行うことにより、緻密層62の構成材料の架橋、焼成、重合等が進行し、緻密構造を有する表面層が焼結体の主面上に設けられた元部材が形成される。当該表面層は緻密層62となる予定の部位である。また、元部材は、複数の多孔質セラミック粒子16となる予定の部材である。緻密層62に相当する表面層は、他の手法により形成されてもよい。
【0062】
元部材の形成では、焼結体に原料液が塗布されるよりも前に、焼結体の主面に、原料液の架橋等を促進する液体が塗布されてもよい。これにより、焼結体の内部に原料液が進入することを防止または抑制することができる。例えば、原料液がセラミック前駆体(SiやAl等の金属のアルコキシドやポリシラザン等)を含む場合、原料液の塗布よりも前に焼結体の主面にセラミック化を促進する添加剤(水等)が塗布される。
【0063】
次に、当該元部材が、表面層をシート12の表面に対向させた状態で、シート12上に貼着される。緻密構造を有する表面層は、シート12に強固に貼着される。その後、元部材をシート12上において分割することにより、シート12上に複数の多孔質セラミック粒子16(すなわち、多孔質セラミック集合体14)が貼着された多孔質セラミック構造体10が形成される。上述のように、元部材はシート12に強固に貼着されているため、元部材の分割時に多孔質セラミック粒子16がシート12から剥離することが防止または抑制される。元部材の分割は、様々な方法により行われてよい。例えば、元部材に刃物を押し当てて切る(または、割る)ことにより、複数の多孔質セラミック粒子16が形成されてもよい。あるいは、元部材がレーザ等で切断されることにより、複数の多孔質セラミック粒子16が形成されてもよい。
【0064】
上述の例では、多孔質部61となる予定の焼結体を形成した後に、緻密層62となる予定の表面層を形成しているが、焼結体と表面層とは略同時に形成されてもよい。例えば、焼結体となる予定の成形体上に原料液を塗布した後に焼成することにより、元部材が形成されてもよい。この場合、多孔質セラミック粒子16において、緻密層62の構成材料である緻密層材料が、多孔質部61の内部に進入することを防止(または、抑制)することができる。
【0065】
図1に示すように、多孔質セラミック構造体10では、複数の多孔質セラミック粒子16の各多孔質セラミック粒子16が、側面163同士を対向させつつ他の多孔質セラミック粒子16と隣接して配置される。換言すれば、各多孔質セラミック粒子16は、緻密層62(図2参照)から露出する多孔質部61の側面612(図2参照)同士を対向させつつ、他の多孔質セラミック粒子16と隣接して配置される。各多孔質セラミック粒子16の一の主面162である緻密層62の表面621(図2参照)は、シート12上に貼着される。
【0066】
次に、多孔質セラミック構造体10を用いて対象物上に複数の多孔質セラミック粒子16を設置する方法について説明する。当該対象物は、例えば、エンジンの燃焼室の内壁である。まず、図5に示すように、対象物22上に接着剤44が塗布される。続いて、多孔質セラミック構造体10が、多孔質セラミック集合体14の複数の多孔質セラミック粒子16と接着剤44とを対向させた状態で対象物22上に設置される。これにより、図2に示す多孔質部61の主面611が接着剤44により対象物22上に固定される。そして、図6に示すように、シート12が複数の多孔質セラミック粒子16から剥離されて除去されることにより、多孔質セラミック集合体14が対象物22上に設置され(すなわち、転写され)、対象物22上に断熱膜が形成される。シート12の剥離は、例えば、シート12を加熱した後に行われる。図6に示す状態において、多孔質セラミック粒子16の上面は、緻密層62の表面621である。
【0067】
このように、多孔質セラミック構造体10を用いることにより、多孔質セラミック粒子16を1つずつ個別に対象物22上に設置する場合に比べて、複数の多孔質セラミック粒子16を容易に対象物22上に設置することができる。また、複数の多孔質セラミック粒子16の隙間(すなわち、隣接する多孔質セラミック粒子16間の間隔)を容易に、かつ、精度良く制御することができる。対象物22上では、多孔質セラミック集合体14の全体が、接着剤等の樹脂材により被覆されてもよい。
【0068】
以上に説明したように、多孔質セラミック粒子16は、多孔質部61と、緻密層62とを備える。多孔質部61は、互いに平行な一対の主面611,610を有する板状である。多孔質部61は、第1多孔質部613と第2多孔質部614とを有し、第1多孔質部613の平均気孔率は第2多孔質部614の平均気孔率よりも高い。緻密層62は、第2多孔質部614よりも低い気孔率を有し、第2多孔質部614の第1多孔質部613とは反対側の主面610を被覆する。
【0069】
断熱特性を向上するために、使用時に表面になり得る箇所に開気孔を増やすと、気孔に異物が進入して断熱特性が劣化する虞がある。また、多孔質部全体の気孔や空隙を増やすと、強度が低くなり、実使用条件下での耐久性が不足する場合がある。
【0070】
多孔質セラミック粒子16では、使用時に表側の面ではなく裏側の面となる第1多孔質部613の主面611に開気孔を増やす、または、開気孔を大きくすることにより、開気孔への異物の侵入が抑制される。また、第1多孔質部613の平均気孔率は高いが、多孔質部61の大部分は第2多孔質部614であるため、多孔質セラミック粒子16の強度の低下が抑えられる。また、多孔質セラミック粒子16の表側の面の強度は維持される。一方、第1多孔質部613の存在により、第2多孔質部614のみの場合に比べて、熱伝導率および熱容量を低下させることができる。その結果、低熱伝導率かつ低熱容量であり、機械的強度の低下が抑えられた多孔質セラミック粒子を提供することができる。
【0071】
成形体を成形する際に、シートに凸部を設けることにより、多孔質部61に容易に凹部615を設けることができる。なお、凹部615は、滑らかな凹部には限定されず、鋭く切り込むような凹部であってもよい。シートの表面を荒らす、あるいは、傷つけることにより凹凸を形成し、凹凸が成形体に転写されることにより、多孔質部61に凹部615が設けられてもよい。また、成形体を凸部または凹凸を有する部材に押し当てることにより、成形体に凹部が形成されてもよい。成形体にレーザ光を照射することにより、点状または線状の凹部が形成されてもよい。さらには、シートに凸部を設けずに、焼成後に焼成体を凸部または凹凸を有する部材に押し当てることにより、多孔質部61に凹部が形成されてもよい。焼成体にレーザ光を照射することにより、点状または線状の凹部が形成されてもよい。
【0072】
また、多孔質部61の側面612上に緻密層62が非存在であるため、緻密層62を介した厚さ方向における熱伝達を防止することができる。その結果、多孔質セラミック粒子16の断熱性能を向上することができる。
【0073】
緻密層62により、多孔質部61の対象物22とは反対側の主面610から、異物が多孔質部61の内部に進入することを防止または抑制することができる。その結果、異物進入による多孔質セラミック粒子16の断熱性能の低下を防止、または、さらに抑制することができる。
【0074】
多孔質セラミック粒子16では、緻密層62の厚さが、多孔質部61の厚さの1%以下である。これにより、多孔質セラミック粒子16全体に占める緻密層62の体積割合を小さくすることができ、緻密層62による熱伝導率および熱容量の増大を抑制することができる。
【0075】
緻密層62の厚さは1000nm以下である。これにより、多孔質セラミック粒子16全体に占める緻密層62の体積割合を小さくすることができ、緻密層62による熱伝導率および熱容量の増大を抑制することができる。また、緻密層62の厚さは10nm以上である。これにより、緻密層62の形成を容易とすることができる。
【0076】
上述のように、緻密層62の厚さは、多孔質部61の骨格粒子の平均粒径の10倍以下である。これにより、多孔質セラミック粒子16全体に占める緻密層62の体積割合を小さくすることができ、緻密層62による熱伝導率および熱容量の増大を抑制することができる。また、緻密層62の厚さは、多孔質部61の骨格粒子の平均粒径の0.1倍以上である。これにより、緻密層62の形成を容易とすることができる。
【0077】
緻密層62の厚さは、多孔質部61の平均気孔径の5倍以下である。これにより、多孔質セラミック粒子16全体に占める緻密層62の体積割合を小さくすることができ、緻密層62による熱伝導率および熱容量の増大を抑制することができる。また、緻密層62の厚さは、多孔質部61の平均気孔径の0.05倍以上である。これにより、緻密層62の形成を容易とすることができる。
【0078】
緻密層62を構成する材料である緻密層材料が、緻密層62から多孔質部61の内部に進出している場合、緻密層62と多孔質部61との境界面よりも多孔質部61側に存在する緻密層材料の厚さは、緻密層62の厚さの10%以下である。このように、多孔質部61の内部に緻密層材料が進入することを抑制することにより、多孔質セラミック粒子16の断熱性能の低下を防止または抑制することができる。
【0079】
緻密層62の表面621の算術平均粗さは800nm以下である。このように、緻密層62の表面621の平滑度を高くすることにより、緻密層62と周囲の高温ガスとの接触面積を小さくすることができる。その結果、当該高温ガスから緻密層62への熱伝達を抑制することができる。また、緻密層62の表面621の算術平均粗さは50nm以上である。これにより、緻密層62の形成を容易とすることができる。
【0080】
多孔質セラミック構造体10では、多孔質セラミック集合体14を上面(すなわち、シート12とは反対側の面)から見た平面形状は、好ましくは、上述の対象物22のうち、多孔質セラミック集合体14が設置される予定の領域を上面(すなわち、多孔質セラミック集合体14が設置される予定の面)から見た平面形状と同じである。これにより、材料の損失(多孔質セラミック粒子16の損失)を防止または抑制しつつ、様々な形状の対象物22上に複数の多孔質セラミック粒子16を転写することができる。
【0081】
なお、多孔質セラミック集合体14の上述の平面形状は、対象物22のうち多孔質セラミック集合体14が設置される予定の領域(以下、「集合体設置領域」という。)の上記平面形状と、実質的に同じであればよい。具体的には、多孔質セラミック集合体14の平面形状は、集合体設置領域の平面形状と厳密に同一であってもよく、集合体設置領域の平面形状と相似の関係を有していてもよい。例えば、多孔質セラミック集合体14の平面形状は、集合体設置領域を1.1倍以上かつ2.0倍以下の範囲で拡大または縮小した相似形状であってもよい。
【0082】
多孔質セラミック粒子16および多孔質セラミック集合体14に関する上記説明は、矛盾しない範囲内で以下に説明する多孔質セラミック粒子16の例においても同様である。
【0083】
次に、多孔質セラミック粒子16の他の2つの例について図7を参照して説明する。これらの例では、図3に示す凹部615は設けられず、多孔質部61は2層構造を有する。多孔質セラミック粒子16の1つの好ましい例(以下、「第1の2層例」という。)では、第1多孔質部613において実質的に気孔が均一に存在する。第2多孔質部614においても実質的に気孔が均一に存在する。第1多孔質部613は多孔質セラミック粒子16の一方の主面611を含む。第2多孔質部614は第1多孔質部613の下、すなわち、主面611とは反対側にて第1多孔質部613に接する。第1多孔質部613の平均気孔率は、第2多孔質部614の平均気孔率よりも高い。
【0084】
好ましくは、第1多孔質部613の平均気孔径と第2多孔質部614の平均気孔径とはほぼ同じである。第1多孔質部613および第2多孔質部614の平均気孔径は0.01μm以上かつ2μm以下であり、好ましくは、0.1μm以上かつ2μm以下である。
【0085】
多孔質セラミック粒子16の両主面161,162の間の中央、すなわち、主面611と緻密層62の表面621との間の中央に位置する粒子厚さの1/2の範囲632は、第2多孔質部614に含まれる。換言すれば、両主面611,621の中央に位置する仮想的な面631を想定した場合、第2多孔質部614は、面631の両側に粒子厚さの1/4の範囲を超えて存在する。既述のように、多孔質セラミック粒子16から緻密層62が省略されてもよく、この場合、上記説明において、主面162には多孔質部61の下側の主面610が対応する。
【0086】
第1多孔質部613の存在により、主面161から主面162に向かって、粒子厚さの1/4の範囲633の平均気孔率は、一対の主面161,162の間の中央に位置する粒子厚さの1/2の範囲632の平均気孔率よりも高い。
【0087】
多孔質セラミック粒子16のさらに他の好ましい例(以下、「第2の2層例」という。)においても、図7の第1多孔質部613において実質的に気孔が均一に存在し、第2多孔質部614において実質的に気孔が均一に存在する。第1多孔質部613は多孔質セラミック粒子16の一方の主面161を含む。第2多孔質部614は第1多孔質部613の下に接する。第1多孔質部613の平均気孔率は、第2多孔質部614の平均気孔率よりも高い。
【0088】
ここで、第1多孔質部613の平均気孔径は、第2多孔質部614の平均気孔径よりも大きい。換言すれば、平均気孔径が大きいために、第1多孔質部613の平均気孔率は第2多孔質部614の平均気孔率よりも高い。多孔質セラミック粒子16の両主面161,162の間の中央に位置する粒子厚さの1/2の範囲632は、第2多孔質部614に含まれる。第1多孔質部613の平均気孔径は0.05μm以上かつ20μm以下であり、好ましくは、0.1μm以上かつ20μm以下である。第2多孔質部614の平均気孔径は0.03μm以上かつ2μm以下であり、好ましくは、0.05μm以上かつ2μm以下である。
【0089】
第1多孔質部613の存在により、主面161から主面162に向かって、粒子厚さの1/4の範囲633の平均気孔率は、一対の主面161,162の間の中央に位置する粒子厚さの1/2の範囲632の平均気孔率よりも高い。
【0090】
上記2つの2層例において、第1多孔質部613の厚さは、0.5μm以上であることが好ましい。これにより、第1多孔質部613の存在が明りょうとなり、かつ、断熱性向上効果を得ることができる。より好ましくは、第1多孔質部613の厚さは1μm以上である。多孔質セラミック粒子16の強度を確保するために、第1多孔質部613の厚さは、多孔質セラミック粒子16の粒子厚さの1/4以下であることが好ましい。さらに好ましくは、第1多孔質部613の厚さは、1/6以下である。
【0091】
第1多孔質部613の平均気孔率は、好ましくは、30%以上かつ95%以下であり、より好ましくは、40%以上かつ95%以下であり、特に好ましくは、50%以上かつ95%以下である。第2多孔質部614の平均気孔率は、第1多孔質部613の平均気孔率よりも低く、かつ、75%以下であり、より好ましくは、70%以下であり、特に好ましくは、65%以下である。第2多孔質部614の平均気孔率は、好ましくは、30%以上である。
【0092】
第1多孔質部613および第2多孔質部614における骨格粒子の好ましい平均粒径、並びに、第1多孔質部613および第2多孔質部614の好ましい熱伝導率および熱容量は、図3の例の場合と同様である。
【0093】
図8および図9は、2つの2層例に係る多孔質セラミック粒子16の製造方法を説明するための図である。まず、図8に示すように、ポリエステルフィルム32上に成形用スラリーが供給され、焼成後の厚さが所望の厚さとなるように、ドクターブレード等を用いてスラリーが広げられ、乾燥により第1成形体311が得られる。次に、図9に示すように、第1成形体311上に他の成形用スラリーが供給される。焼成後の厚さが所望の厚さとなるように、ドクターブレード等を用いてスラリーが広げられ、乾燥により第2成形体312が得られる。上記作業により、2層の成形体であるグリーンシートが完成する。第2成形体312を成形する他の手法としては、スクリーン印刷が利用可能である。第1成形体311は図7の第2多孔質部614に対応し、第2成形体312は第1多孔質部613に対応する。
【0094】
スラリーの製造方法は、図4の場合と同様である。第1の2層例の場合、第1成形体311の成形に用いられる第1スラリーの造孔材と、第2成形体312の成形に用いられる第2スラリーの造孔材とは同じである。第1スラリーの造孔材の単位体積当たりの量は、第2スラリーの構造材の単位体積当たりの量よりも少ない。第2の2層例の場合、第1成形体311の成形に用いられる第1スラリーの造孔材の平均粒径は、第2成形体312の成形に用いられる第2スラリーの造孔材の平均粒径よりも小さい。
【0095】
2層の成形体の焼成、緻密層62の形成、元部材のシート12への貼付、および、元部材の分割は、図3の例の場合と同様である。多孔質セラミック集合体14の対象物22への配置や個々の多孔質セラミック粒子16および多孔質セラミック集合体14の形態等も上述の説明と同様である。
【0096】
第1および第2の2層例の場合においても、多孔質セラミック粒子16では、使用時に裏側の面となる第1多孔質部613の主面611に開気孔を増やす、または、開気孔を大きくすることにより、開気孔への異物の侵入が抑制される。また、第1多孔質部613では気孔率は高く、かつ、多孔質部61の大部分は第2多孔質部614であるため、多孔質セラミック粒子16の強度の低下が抑えられる。また、多孔質セラミック粒子16の表側の面の強度は維持される。一方、第1多孔質部613の存在により、第2多孔質部614のみの場合に比べて、熱伝導率および熱容量を低下させることができる。その結果、低熱伝導率かつ低熱容量であり、機械的強度の低下が抑えられた多孔質セラミック粒子16を提供することができる。緻密層62の形態および緻密層62の存在により得られる様々な効果も図3の例と同様である。
【0097】
また、第1成形体311および第2成形体312における造孔材の密度を相違させることにより、または、造孔材の平均粒径を相違させることにより、上述の多孔質セラミック粒子16を容易に製造することができる。
【0098】
図7では、多孔質部61は、気孔率が異なる2層を有するが、2つの層の境界は明確に存在しなくてもよい。図10は、破線の間隔にて多孔質部61における気孔率の相違を表現する図である。図10の例に係る多孔質セラミック粒子16では、緻密層62は省かれているが、下面に緻密層62が設けられてもよい。
【0099】
多孔質部61では、上側の主面611に向かって気孔率が漸次増加する。好ましくは、上側の主面611近傍にて気孔率が増大する。図10の多孔質部61の場合も、多孔質部61の大部分は上側の主面611近傍に比べて気孔率が低いため、多孔質セラミック粒子16の強度の低下が抑えられる。また、多孔質セラミック粒子16の表側の面の強度は維持される。一方、上側の主面611近傍では気孔率が高いため、熱伝導率および熱容量を低下させることができる。その結果、低熱伝導率かつ低熱容量であり、機械的強度の低下が抑えられた多孔質セラミック粒子16を提供することができる。
【0100】
気孔率が漸次変化する構造は、成形体において造孔材の密度や粒径を漸次変化させることにより、容易に実現することができる。気孔率が異なる3以上の層を多孔質部61に設けることにより、上側の主面611に向かって気孔率が漸次増加するようにしてもよい。
【0101】
多孔質部61において気孔率が高い範囲は、粒子厚さに比べて十分に小さいことが好ましい。具体的には、図10に示すように、多孔質セラミック粒子16の上側の主面161から下側の主面162に向かって、粒子厚さの1/4の範囲633の平均気孔率は、一対の主面161、162の間の中央に位置する粒子厚さの1/2の範囲632の平均気孔率よりも高い。より好ましくは、多孔質セラミック粒子16の上側の主面161から下側の主面162に向かって、粒子厚さの1/8の範囲の平均気孔率は、一対の主面161、162間の中央に位置する粒子厚さの3/4の範囲の平均気孔率よりも高い。気孔率が高い領域を一方の主面161近傍に限定することにより、多孔質セラミック粒子16を低熱伝導率かつ低熱容量とし、機械的強度の低下を抑えることが実現される。上側の主面161は、対象物22上に配置される面である。
【0102】
上記説明では粒子厚さを基準に範囲632,633を定めているが、緻密層62は非常に薄いため、粒子厚さに代えて多孔質部61の厚さを用いて範囲632,633が定められてもよい。この場合、多孔質部61の上側の主面611から下側の主面610に向かって、多孔質厚さの1/4の範囲633の平均気孔率は、一対の主面611、610の間の中央に位置する多孔質厚さの1/2の範囲632の平均気孔率よりも高い。より好ましくは、多孔質部61の上側の主面611から下側の主面610に向かって、多孔質厚さの1/8の範囲の平均気孔率は、一対の主面611、610間の中央に位置する多孔質厚さの3/4の範囲の平均気孔率よりも高い。
【0103】
多孔質セラミック構造体10では、図11に示すように、好ましくは、多孔質セラミック集合体14に含まれる複数の多孔質セラミック粒子16のうち、上面からみた平面形状が複数の直線で囲まれた多角形状である多孔質セラミック粒子16が、少なくとも1つ存在する。換言すれば、多孔質セラミック集合体14は、平面形状が多角形状の1つ、または、2つ以上の多孔質セラミック粒子16を含むことが好ましい。また、多孔質セラミック集合体14に含まれる全ての多孔質セラミック粒子16の平面形状が多角形状であってもよい。多孔質セラミック集合体14が、平面形状が多角形状の2つ以上の多孔質セラミック粒子16を含む場合、平面形状が多角形状の各多孔質セラミック粒子16の上面の頂点の数は、平面形状が多角形状の他の多孔質セラミック粒子16の上面の頂点の数と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0104】
図12に示すように、多孔質セラミック集合体14は、例えば、上面から見た平面形状に曲線を含む多孔質セラミック粒子16を含んでいてもよい。好ましくは、多孔質セラミック集合体14に含まれる複数の多孔質セラミック粒子16のうち、上面から見た平面形状に曲線を含む多孔質セラミック粒子16の割合は、0%よりも大きく、かつ、50%以下である。多孔質セラミック集合体14では、上記曲線を挟んで隣接する多孔質セラミック粒子16同士の位置ずれが抑制される。これにより、多孔質セラミック集合体14を対象物22上に転写する際に、複数の多孔質セラミック粒子16を対象物22上に位置精度良く設置することができる。
【0105】
図13に示すように、多孔質セラミック集合体14は、例えば、5つ以上の多孔質セラミック粒子16がそれぞれ1つの頂点を対峙させて配置された部分を有していてもよい。これにより、対象物22の表面に局所的に曲面(例えば、凸面、凹面または凹凸面)が存在する場合であっても、複数の多孔質セラミック粒子16を、対象物22の表面形状に沿わせて容易に配置することができる。
【0106】
図14に示すように、多孔質セラミック集合体14では、隣接する多孔質セラミック粒子16間の隙間dは、好ましくは、0.01μm以上かつ20μm以下である。これにより、複数の多孔質セラミック粒子16を、対象物22上に容易に、かつ、均等に転写することができる。上記隙間dは、隣接する多孔質セラミック粒子16間の隙間のうち、最も狭い部分の間隔である。当該隙間dは、例えば、シート12上に貼着された多孔質セラミック集合体14において、隣接する多孔質セラミック粒子16間を光学顕微鏡等で測定したものである。
【0107】
多孔質セラミック集合体14では、隣接する多孔質セラミック粒子16の側面163同士が平行に対向する場合、当該隣接する多孔質セラミック粒子16の1つの側面163の傾斜角θは、シート12の法線28に対して45度以下である部分を含む。換言すれば、傾斜角θは、0度以上かつ45度以下であることが好ましく、0度よりも大きく、かつ、45度以下であることがさらに好ましい。仮に、傾斜角θが45度よりも大きいと、多孔質セラミック粒子16の側面163近傍の部位が欠けてしまう可能性がある。そこで、上述のように、傾斜角θが45度以下である部分を含むことにより、多孔質セラミック粒子16を対象物22に転写する際、または、多孔質セラミック構造体10をハンドリングする際等に、多孔質セラミック粒子16が欠けることを防止または抑制することができる。
【0108】
当該傾斜角θは、例えば、シート12上に貼着された多孔質セラミック集合体14において、隣接する多孔質セラミック粒子16間を光学顕微鏡等で測定したものである。また、隣接する多孔質セラミック粒子16間の隙間が、屈曲しつつ厚さ方向に延びている場合、傾斜角θは、縦断面における多孔質セラミック粒子16の側面163の上端と下端とを結ぶ仮想的直線と、法線28との成す角度である。
【0109】
多孔質セラミック構造体10では、好ましくは、多孔質セラミック集合体14内での多孔質セラミック粒子16の個数密度が異なる。当該個数密度の最大値の最小値に対する割合(すなわち、最大個数密度/最小個数密度)は、好ましくは、1.2よりも大きい。これにより、多孔質セラミック構造体10の多孔質セラミック集合体14を対象物22上に転写する際に、複数の多孔質セラミック粒子16を対象物22の表面に容易に、かつ、精度良く追従させて配置することができる。
【0110】
多孔質セラミック構造体10では、好ましくは、複数の多孔質セラミック粒子16のそれぞれの平面形状の大きさが異なる。当該平面形状の大きさの最大値の最小値に対する割合(すなわち、最大面積/最小面積)は、好ましくは、1.2よりも大きい。この場合も同様に、多孔質セラミック構造体10の多孔質セラミック集合体14を対象物22上に転写する際に、複数の多孔質セラミック粒子16を対象物22の表面に容易に、かつ、精度良く追従させて配置することができる。
【0111】
具体的には、例えば、多孔質セラミック集合体14において、対象物22の表面が平坦な領域に転写される部位では、個数密度を小さくして多孔質セラミック粒子16の平面形状を大きくし、対象物22の表面が曲面である領域に転写される部位では、個数密度を大きくして多孔質セラミック粒子16の平面形状を小さくすることにより、複数の多孔質セラミック粒子16を対象物22の表面に追従させて配置することができる。
【0112】
上述の個数密度は、例えば、シート12上に貼着された多孔質セラミック集合体14において、光学顕微鏡等により複数箇所の任意の視野を観察し、各視野に含まれる多孔質セラミック粒子16の個数を、視野の面積で除算することにより求められる。また、上述の平面形状の大きさは、上述の複数の視野のそれぞれについて1つ求められる。具体的には、例えば、上述の各視野に複数本の任意の直線を引き、当該直線と交わる多孔質セラミック粒子16内の線分の長さの平均値が、各視野における多孔質セラミック粒子16の平面形状の大きさとして求められる。
【0113】
多孔質セラミック構造体10では、シート12の引張伸度(JIS K7127)は、好ましくは0.5%以上である。これにより、対象物22の表面が曲面である場合であっても、シート12上の複数の多孔質セラミック粒子16を、対象物22の表面に容易に、かつ、精度良く追従させて配置することができる。また、シート12の厚さは、好ましくは、0mmよりも大きく、かつ、5mm以下である。これにより、対象物22の表面が曲面である場合であっても、シート12上の複数の多孔質セラミック粒子16を、対象物22の表面に容易に、かつ、精度良く追従させて配置することができる。
【0114】
上述の多孔質セラミック構造体10および多孔質セラミック粒子16では、様々な変更が可能である。
【0115】
支持部材であるシート12は、粘着力を有する樹脂製シートまたは樹脂製フィルムには限定されず、様々な材質が採用可能である。好ましくは、シート12は、樹脂、布(織物や不織布等)、ゴム、木材、紙、カーボン、金属、セラミック、ガラス、または、これらから選択された2以上の材質の複合材料である。もちろん、シート12の材質はこれらには限定されない。
【0116】
シート12の構造も様々なものが採用可能である。例えば、シート12は、基材上に接着剤等が塗布されることにより形成されてもよい。シート21は、基材上に他の部材を接着または接合したものでもよい。基材上に接着または接合されるシート状の部材の材質は、好ましくは、樹脂、布(織物や不織布等)、ゴム、木材、紙、カーボン、金属、セラミック、ガラス、または、これらから選択された2以上の材質の複合材料である。基材上に設けられる層は、1層には限定されず、複数層であってもよい。
【0117】
対象物22の表面が曲面である場合、シート12の基材は、好ましくは、布、ゴムシートまたは発泡体等である。このように、比較的柔らかく伸縮性を有する基材を利用することにより、シート12上の複数の多孔質セラミック粒子16を、対象物22の表面に容易に、かつ、精度良く追従させて配置することができる。
【0118】
対象物22の表面が平坦である場合、シート12の基材は、好ましくは、フィルム、金属箔または紙等である。対象物22の表面が平坦である場合においても、シート12の基材には様々な材質が採用可能であり、好ましくは、樹脂、木材、金属、セラミック、または、これらから選択された2以上の材質の複合材料である。このように、比較的硬い基材を利用することにより、複数の多孔質セラミック粒子16を対象物22の表面に転写する際に、シート12に皺が生じて多孔質セラミック粒子16の位置がずれることを防止または抑制することができる。シート12の基材の材質は、対象物22の表面が曲面の場合も平面の場合も、上記例には限定されない。
【0119】
また、上記実施の形態では、多孔質セラミック集合体14を支持する支持部材はシート状であるが、支持部材はシート状には限定されない。例えば、支持部材は立体的な型材であってもよい。対象物22の表面が曲面である場合、当該曲面に一致する曲面状の支持面を型材に設け、支持面上にて多孔質セラミック集合体14が支持される。支持面は、平面、曲面、球面等であってよく、さらに複雑な形状であってもよい。型材の材質としては、様々なものが採用可能である。型材の材質は、好ましくは、樹脂、ゴム、木材、金属、セラミック、ガラス、布(織物や不織布等)、紙、カーボン、または、これらから選択された2以上の材質の複合材料である。型材の材質はこれらには限定されない。
【0120】
多孔質セラミック粒子16の製造方法、および、多孔質セラミック構造体10の製造方法は、上述のものには限定されず、様々に変更されてよい。
【0121】
上記実施の形態では、多孔質セラミック集合体14および多孔質セラミック粒子16は、例えば、対象物上に断熱膜を形成するために利用されるが、多孔質セラミック粒子16の構造は、断熱以外の用途の多孔質セラミック集合体や多孔質セラミック粒子に利用されてよい。例えば、多孔質セラミック粒子にて形成された膜において、気孔率をある程度維持しつつ強度を確保する必要がある場合に、上記多孔質セラミック集合体14および多孔質セラミック粒子16は適している。
【0122】
上記実施の形態に係る多孔質セラミック集合体14または多孔質セラミック粒子16は、2つの対象物に挟まれて対象物間の断熱を目的として使用されてもよい。さらに、対象物間の断熱を目的とすることなく、他の目的で対象物間に挟まれて使用されてもよい。
【0123】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0124】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【符号の説明】
【0125】
10 多孔質セラミック構造体
12 シート(支持部材)
14 多孔質セラミック集合体
16 多孔質セラミック粒子
22 対象物
62 緻密層
161,162 (多孔質セラミック粒子の)主面
615 凹部
613 第1多孔質部
614 第2多孔質部
【要約】
多孔質セラミック粒子(16)は、互いに平行な一対の主面(161,162)を有する。一方の主面(161)から他方の主面(162)に向かって、主面間の距離である粒子厚さの1/4の範囲(633)の平均気孔率は、一対の主面の間の中央に位置する粒子厚さの1/2の範囲(632)の平均気孔率よりも高い。上側の主面(161)は、対象物上に配置される面である。気孔率が高い領域を一方の主面(161)近傍に限定することにより、多孔質セラミック粒子(16)を低熱伝導率かつ低熱容量とし、機械的強度の低下を抑えることが実現される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14