(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記着色ステップは、色相、明度、彩度のうち少なくとも一種が異なる違った色に着色された第1着色領域と第2着色領域とを、前記金属転写箔に対して定着性のないインキで印刷を施す工程であり、
前記厚盛りステップは、前記第2着色領域の後面側にのみ透明定着インキによる印刷を施す一方、前記第1着色領域の後面側には透明定着インキによる印刷を施さない工程であり、
前記加飾シートを前方から見た際、前記厚盛り部と前記第2着色領域と前記金属的反射層とのそれぞれの外縁が互いに略一致している外縁一致部を少なくとも一部に備えた加飾シートを製造することを特徴とする請求項8記載の加飾シートの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に記載のシートは、シートの後面側全体に金属反射層が配置されたものであり、前面が金属的反射を行うことによる視覚的効果を前提としたものであった。
特許文献1に記載のシートにあっては、着色層の後面に金属的反射層が配置され、着色層と金属的反射層とが重ねられている。その結果、着色層と金属的反射層との間の厚さ方向の距離は変化せず、前面からの入射光を着色層自体が反射する直接着色反射の反射位置と、金属的反射層による反射光が着色層を透過した金属着色反射の反射位置とが立体的に変化しない。
【0008】
特許文献2に記載のシートは、隠し陰影部と背景部との光反射条件が異なる結果を利用して、隠し陰影部とその背景部との光反射条件が異なる結果、隠し陰影部より暗く見えたり、隠し陰影部と背景部とが混然一体となって識別されないようにしたりするもので、シートの後面側全体に反射層を配置することによる視覚的効果を狙ったものであり、反射層の具体的手段も全面に配置するのに適した蒸着によるものを示している。
【0009】
特許文献3にあっても、凹凸層を含むシートの後面側全体に反射層を配置するもので、これによって光と影による視覚的効果を狙ったものであり、反射層の具体的手段も全面に配置するのに適した蒸着で形成することや、実施例では金属微粉末やパール粉からなる光反射材を混入させた樹脂を使用して形成するが示されているが、転写については、単に転写を用いてもよいと記載されているに止まる。また特許文献3では、光反射層での色彩に変化をもたせる場合には、図柄印刷層と光反射層との間に着色透明樹脂層を介在させることによっても行うことができる。例えば、図柄印刷層の外側に黄色の透明フィルムを介在させてアルミニウムを蒸着すると、金色の反射光が得られるとしており、図柄印刷層とアルミニウムの蒸着による反射層の全面に着色した透明フィルムを配置することを示すに止まり、金属的反射層との相乗効果を狙った提案はなされていない。
【0010】
一方、特許文献4に記載の加飾樹脂シートにあっては、実際に突出した立体的な装飾部を設けることを目的としたもので、加飾樹脂シートの前面に突出する加飾用凸部を備え、加飾用凸部は立体装飾部として前方へ突出している。この立体装飾部は着色層と金属的反射層と厚盛り部とを備え、金属的反射層の前面側に着色層が配置され、金属的反射層の後面に厚盛り部が配置される。着色層と金属的反射層とはバインダ層を介して重ねられたものであり、着色層と金属的反射層との間の厚さ方向の距離が変化しないものの、厚盛り部と着色層と金属的反射層とが平面視においてそれぞれの外縁が一致しているとともに立体装飾部の外縁に対して一致しており、立体屈曲面を備えた加飾用凸部全体の金属的反射効果により、立体的な装飾効果を奏するものである。
【0011】
このように特許文献4では、実際に突出する立体屈曲面を備えた加飾用凸部による凸レンズの反射効果を狙ったものであって、その表面を平面状とするものではなく、平面上の表面を得ようとすれば、別個の透明シートなどを粘着させる必要があった。
本発明は、立体的な装飾効果を高めた新たな加飾シートと、この加飾シートを備えた加飾品と、加飾シート及び加飾シートを備えた加飾品の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、透光性を有するシート本体と、前記シート本体の後面側に配置された金属的反射層とを備えた加飾シートに関するものである。この加飾シートは、透光性を有するシート本体と、前記シート本体の後面側に配置された透光性を有する着色インキによる着色層及び透光性を有する厚盛り部と、前記厚盛り部の後面側に配置された金属的反射層とを備える。前記金属的反射層は、前記着色層の少なくとも一部の後面を含む位置に配置され、前記厚盛り部の周縁と金属的反射層の周縁とが略一致している。前記厚盛り部の少なくとも周縁は、前記シート本体の厚さ方向の断面において、後方に向かって湾曲した凹曲部を備える。前記凹曲部の後面を含む位置に前記金属的反射層が配置され、前記凹曲部の後面に配置された前記金属的反射層が金属的凹曲反射面を構成する。
これにより、前記加飾シートを前方から見た際、前記金属的凹曲反射面からの反射光を視認できる。
【0013】
また本発明の加飾シートは、透光性を有するシート本体と、前記シート本体の後面側に配置された透光性を有する着色インキによる着色層及び透光性を有する厚盛り部と、前記厚盛り部の後面側に配置された金属転写箔からなる金属的反射層とを備える。前記厚盛り部の少なくとも後面は、前記着色層の少なくとも一部の後面を含む位置に配置された透明定着インキから構成され、前記透明定着インキは前記金属的反射層に対する定着性を備えているものである。
前記厚盛り部の外側周辺領域では、前記着色インキの後面自体が前記金属転写箔に対する定着性を備えていないか、又は、前記金属転写箔に対する定着性を備えていない非定着インキが前記着色インキの後側に配置される。
前記厚盛り部は前記着色層の後面側から後方に突出しており、前記金属転写箔は前記厚盛り部の後面に定着しており、前記厚盛り部の外側周辺領域では、前記着色インキの後面側に定着していない。
前記厚盛り部の少なくとも周縁は、前記シート本体の厚さ方向の断面において、後方に向かって湾曲した凹曲部を備え、前記凹曲部の少なくとも一部の後面に前記金属的反射層が配置される。前記凹曲部の少なくとも一部の後面に配置された前記金属的反射層が金属的凹曲反射面を構成するものである。
これにより、前記シート本体を前方から見た際、前記金属的凹曲反射面からの反射光を視認できる。
【0014】
前記着色層と、前記厚盛り部と、前記金属転写箔とは、この順で前記シート本体の後面側に配置されることができる。
前記金属転写箔は光反射性のあるメタリック層と前記メタリック層の前面側に配置された接着剤層とを備えたものとして実施できる。
前記厚盛り部は、前記着色層の少なくとも一部の後面を含む位置に前記着色層の後面側から後方に少なくとも30μm突出して印刷された透明定着インキから構成され、前記金属転写箔の前記接着剤層と前記透明定着インキとが接着されていることにより、前記金属転写箔が前記厚盛り部を介して前記着色層の後面側に定着しているものとして実施できる。
【0015】
また、前記着色層は、その後面側に前記厚盛り部が配置されていない第1着色領域と、その後面側に前記厚盛り部が配置されている第2着色領域とを備え、第1着色領域と第2着色領域とは、色相、明度、彩度のうち少なくとも一種が異なる違った色に着色されていてもよい。
さらにまた、前記着色層は、平面状の前記シート本体に沿って、平面状に配置された層であり、前記金属的凹曲反射面にあっては、平面方向に移行するに従って、前記着色層と前記金属的反射層との間の前記厚さ方向の距離が変化しているものとして実施することができる。
【0016】
本発明の加飾シートにおいては、着色層と金属的反射層との間に厚盛り部が配置され、且つ、金属的反射層が金属的凹曲反射面を構成することによって、着色層と金属的反射層との厚み距離が、漸次変化していく。
着色層からの反射光は、前面からの入射光を着色層自体が反射する直接着色反射と、金属的反射層による反射光が、着色層を透過した金属着色反射との2種類が生ずる。
【0017】
直接着色反射と金属着色反射とは、平面上の位置が変化することにより、着色層と金属的反射層との厚み距離が漸次変化していく。すなわち、加飾シートを前方から見た際、前方からの看者の目の位置が変化することにより、直接着色反射の反射位置と金属着色反射の反射位置とが、変化していくことによって、立体的な装飾効果を高めることができる。
【0018】
また、加飾シートを前方から見た際、厚盛り部と第2着色領域と金属的反射層とは、これら三者の外縁が略一致するものとすることによって、他の領域(第1着色領域)とは色が異なる第2着色領域に対して金属的な反射を効果的に与えることができ、第2着色領域に対して他の領域(第1着色領域)とは際立って異なった印象を与えることができ、シャープな装飾効果を生むことができる。
【0019】
なお、本発明は、特許文献4に係る加飾樹脂シートが有する立体的な装飾効果とは、凹凸の関係が逆転している結果、異なる装飾効果を有するものであり、また、特許文献4にあっては、加飾樹脂シートの製造にあたり、前面に加飾用凸部を形成するために真空成形又は圧空成形を行う必要があるが、本発明にあっては、加飾シートの形成にあたり成形工程は不要であり、手間がかからない。
【0020】
また、本発明は、前記加飾シートは、その最後面に調整層が配置され、前記調整層により前記加飾シートの後面の凹凸が緩和されているものとして実施することができる。
また、本発明は、前記加飾シートと加飾対象物とを備え、前方から見た際、前記加飾シートが視認される位置に配置されたことを特徴とする、加飾シートを備えた加飾品を提供することができる。
【0021】
また、本発明は、透光性を有するシート本体と、前記シート本体の後面側に配置された金属的反射層とを備えた加飾シートを製造する方法において、次の手段を備えたものを提供する。
本発明の製造方法は、透光性を有するシート本体の後面側に透光性を有する着色インキによる着色層を印刷によって形成する着色印刷ステップと、前記着色層の後面側に透光性を有する厚盛り部を、透明定着インキによる印刷によって形成する厚盛りステップと、前記厚盛り部の後面側に金属転写箔による金属的反射層を形成する装飾ステップとを含むものである。前記着色印刷ステップは、前記厚盛り部周辺の前記着色インキの後面自体が前記金属転写箔に対する定着性を備えていないインキで印刷を施すか、又は、前記着色インキの印刷の後に前記金属転写箔に対する定着性を備えていない非定着インキで印刷を施す工程である。前記厚盛りステップは、前記金属転写箔に対して定着性を有する前記透明定着インキで一回以上の印刷を施すことによって、前記着色層から後方側に少なくとも30μm突出して前記透明定着インキを厚盛りする工程である。前記装飾ステップは、前記厚盛り部の後面に対して前記金属転写箔を定着させる工程である。前記厚盛り部の少なくとも周縁は、前記シート本体の厚さ方向の断面において、後方に向かって湾曲した凹曲部を備え、前記凹曲部の少なくとも一部の後面に前記金属的反射層が形成される。前記凹曲部の少なくとも一部の後面に形成された前記金属的反射層が金属的凹曲反射面を構成し、前記加飾シートを前方から見た際、前記金属的凹曲反射面からの反射光を視認できるように構成された加飾シートを製造することができる。
【0022】
前記着色ステップは、前記厚盛りステップと前記装飾ステップとの間に行われるものとして実施することができる。
【0023】
前記着色ステップは、色相、明度、彩度のうち少なくとも一種が異なる違った色に着色された第1着色領域と第2着色領域とを、前記金属転写箔に対して定着性のないインキで印刷を施す工程であり、
前記厚盛りステップは、前記第2着色領域の後面側にのみ透明定着インキによる印刷を施す一方、前記第1着色領域の後面側には透明定着インキによる印刷を施さない工程であり、
前記加飾シートを前方から見た際、前記厚盛り部と前記第2着色領域と前記金属的反射層とのそれぞれの外縁が互いに略一致している外縁一致部を少なくとも一部に備えた加飾シートを製造することができる。
【0024】
また、本発明は、前記加飾シートの前面側又は後面側に加飾対象物を配置して一体化することを特徴とする、加飾シートを備えた加飾品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、立体的な装飾効果を高めた加飾シートと、加飾シートを備えた加飾品と、加飾シート及び加飾シートを備えた加飾品の製造方法を提供することができたものである。
特に、本発明は、加飾シートを前方から見た際、前方からの看者の目の位置が変化することにより、直接着色反射の反射位置と金属着色反射の反射位置とが、変化していくことによって、立体的な装飾効果を高めた加飾シートと、加飾シートを備えた加飾品と、加飾シート及び加飾シートを備えた加飾品の製造方法を提供することができたものである。
【0026】
また、本発明に係る加飾シートは、印刷技術の手法のみによっても、平面的な表面を備えたシートに効果的な立体装飾を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。なお
図1などの各図は、説明のための図であるため各層の厚みなどの寸法を正確に示したものではない。
また、以下、「後面側に」とは「よりも後方に」との意味で用いられるものであり、例えば、「部材Xの後面側に部材Yを配置する」とは、部材Xの後面に部材Yを直接配置してもよいし、部材Xの後面と部材Yの前面との間に第3の部材Zを介在させてもよい。「前面側に」も同様に「よりも前方に」との意味で用いられる。なおこの実施の形態では、前後方向は、加飾シート51の厚さ方向と同じ意味で用いられる。
【0029】
(加飾シート51について:第1実施形態)
図1(A)〜(F)に本発明の第1実施形態に係る加飾シート51の要部拡大断面図を示す。
この加飾シート51は、透光性を有するシート本体1と、シート本体1の後面側に配置された透光性を有する着色インキによる着色層52と、厚盛り部56及び金属的反射層57とを備える。ここで、本発明において、「透光性を有する」とは、光を透過する性質を有することをいい、透明や半透明の材質のものを用いることができる。
【0030】
(シート本体1について)
透光性を有するシート本体1には、セルロースアセテートブチレート(CAB)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂製のフィルムやシートのほか、ガラス板等を用いることができ、単層であってもよく、2層以上の積層体であってもよい。シート本体1の厚さは、特に限定されないが、一般に50〜転写シート0μm、望ましくは100〜200μm程度とされる。
【0031】
シート本体1は、透光性を有するものであって、後述するように、印刷や転写箔の手法等により、着色層52、厚盛り部56並びに金属的反射層57を形成できるものであれば、材質や厚みは問わない。基材として適切な強度や耐久性、印刷特性等を備えていることが望ましい。シート本体1は、加飾シート51並びに加飾シート51を備えた加飾品72の物性、同加飾品72を得るための加工方法に応じて最適なものを選択することができる。
【0032】
(着色層52について)
透光性を有する着色インキによる着色層52は、シート本体1の後面側に配置される。また、着色層52は、平面状のシート本体1に沿って、平面状に配置される。透光性を有する着色インキには、色を有しかつ透光性を有する印刷用のインキを用い、無色透明のインキを含んでもよい。着色層52の厚みは、1〜20μm程度の範囲が好ましいものであるが、適宜変更して実施し得る。着色層52は、加飾シート51の前面側に色彩を与えると共に文字、図形、模様などの視覚的表現をなすもので、従来の印刷技術の適用により1回または複数回の印刷が施されることによってモノクロームまたは多色の印刷層による着色層52が形成される。
【0033】
着色層52は、後述する厚盛り部56が後面側に配置されていない第1着色領域53と、厚盛り部56が後面側に配置されている第2着色領域54とを備えてもよく、第1着色領域53と第2着色領域54とは、色相、明度、彩度のうち少なくとも一種が異なる違った色に着色されていてもよい。第1着色領域53と第2着色領域54も含め着色層52は一色に限らず複数色を用いてもよい。
【0034】
着色層52は、透光性を有する着色インキを用いて、後述する金属的反射層57に対して入出力する光を前方の看者に届くようにするものであるが、一部には透光性のないインキを用いることもできるものであり、例えば、装飾効果を高める観点から金属的光沢のある部分とない部分とを混在させたい場合や、看者に見せたくない装置等を隠蔽するために、一部に透光性のないインキを用いることができる。
【0035】
(厚盛り部56について)
透光性を有する厚盛り部56は、着色層52の少なくとも一部の後面を含む位置に配置され、着色層52の後面側から後方に突出している。透光性を有する厚盛り部56は、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂やこれらの混合物又は化合物などの合成樹脂製の厚盛インキによって形成され、透光性を有するものであれば、透明であってもよく、着色インキと同様に顔料などで着色されたものであってもかまわない。
【0036】
厚盛り部56は、その厚み(t)や幅(l)が加飾シート51の装飾効果を左右する大きな要因となるため、厚み(t)は75μm以上であることが好ましく、80μm以上がより好ましい。この厚み(t)は、大きくすればするだけ立体的な装飾効果を高めることはできるが、大きくするに従ってその精度維持や量産が困難になったり、使用できる素材に制限が生じたりするため150μm以下が適当であり100μm以下がより安定するが、150μmを超える厚みで実施することを妨げるものではない。幅(l)は、シャープな装飾効果を高めるには0.3mm〜3mmが適当である。ただし、描かれる図形や文字によって決定されるものであるため、大きな面積に金属的反射や立体的な装飾効果を得る場合にはこれに限るものではない。なお、厚盛り部56の幅は、
図1(F)に示すように、着色層52の後面側に配設される厚盛り部56の基端側の幅を指す。
着色層52と金属的反射層57のみでは、その装飾効果は平面的に止まるものであるが、厚盛り部56が配置されることにより、立体的な装飾効果に高めることができる。
【0037】
(金属的反射層57について)
金属的反射層57は、金属箔やホログラム箔などの反射箔を含んでもよく、厚盛り部56の少なくとも一部の後面に配置される。金属的反射層57は、鏡面状の反射や金属的光沢を与える。
【0038】
金属的反射層57は、転写箔の手法により、金属箔やホログラム箔などの反射箔を転写して形成されるものであることが好ましい。また、金属的反射層57は、シルク印刷(銀ペーストインキやミラーインキ)やホットスタンプ、蒸着、スパッタリングで実施してもかまわないが、転写箔を用いる方が高い金属的反射の効果が得られる点で有利である。より詳しくは、転写箔は、シルク印刷(銀ペーストインキやミラーインキ)より鏡面性がより高く、シルク印刷には作れないホログラム箔の使用も可能である点で、転写箔を用いる方が有利である。また、転写箔の手法を用いて金属的反射層57を形成する際、転写用のバインダ層(図示せず)を形成してもよい。バインダ層は、反射箔を定着させるものであればよく、例えば透明なシルクインキで形成することができる。特に、経時変化でバインダ層の割れやクラックを起こさないインキを使用することが適当である。金属的反射層57の厚みは、適宜変更して実施し得るが、0.03〜0.05μm程度の範囲が好ましい。
【0039】
(金属的凹曲反射面59について)
厚盛り部56は、上述のとおり、着色層52の少なくとも一部の後面を含む位置に配置され、着色層52の後面側から後方に突出している。また、着色層52の後面側から後方に突出している厚盛り部56の、少なくともその周縁は、表面張力により、シート本体1の厚さ方向の断面において、後方に向かって湾曲した凹曲部58を備える。この凹曲部58の少なくとも一部の後面に金属的反射層57が配置され、金属的反射層57が金属的凹曲反射面59を構成する。従って、金属的凹曲反射面59は、シート本体1の厚さ方向の断面において、後方に向かって湾曲した面となる。金属的反射層57は、上述のとおり、凹曲部58の少なくとも一部の後面に配置すればよく(例えば、
図1(B)(E))、厚盛り部56の後面に配置してもよく(
図1(A)(D))、凹曲部58の少なくとも一部の後面と厚盛り部56に隣接する着色層52の少なくとも一部の後面に配置してもよい(例えば、
図1(C)(F))。
【0040】
加飾シート51を前方から見た際、金属的凹曲反射面59からの反射光が視認できるが、金属的反射層57は着色層52の後面側から後方に突出した厚盛り部56の少なくとも一部の後面に配置されることから、金属的凹曲反射面59からの反射光が奥行き感を持って視認される。
【0041】
また、金属的反射層57が凹曲部58の少なくとも一部の後面に配置されることによって、凹面鏡状の反射面が形成されるものであり、加飾シート51を前方から見た際、金属的凹曲反射面59の平面上の位置が変化するに従って、金属的凹曲反射面59までの深さが変化することから、この変化に応じて金属的凹曲反射面59から多様な方向に反射した光が視認され、看者の位置の変化により反射光が見える箇所が変化する。
【0042】
さらに、厚盛り部56及び金属的反射層57が後面側に配置された加飾シート51で着色された金属的反射効果を有する領域と、厚盛り部56及び金属的反射層57が後面側に配置されていない加飾シート51で金属的反射効果を有しない平面的な領域とでは、金属的反射において異なっているものとすることができ、装飾表現に差異が生じる。
【0043】
また、厚盛り部56が後面側に配置されていない第1着色領域53と、厚盛り部56が後面側に配置された第2着色領域54とを、色相、明度、彩度のうち少なくとも一種が異なる違った色に着色すると、厚盛り部56及び金属的反射層57が後面側に配置されていない加飾シート51で金属的反射効果を有しない平面的な領域と、厚盛り部56及び金属的反射層57が後面側に配置された加飾シート51で着色された金属的反射効果を有する領域との装飾表現の差異がさらに強調され、立体的な装飾効果をさらに高めることができる。
以上のことから、厚盛り部56及び金属的反射層57を上記のように構成することにより、加飾シート51に新たな装飾効果を発現させることができる。
【0044】
第2着色領域54と厚盛り部56と金属的反射層57は、第2着色領域54の後面側に厚盛り部56が配置され、金属的反射層57が凹曲部58の少なくとも一部の後面に配置されていれば、加飾シート51を前方から見た際、これら三者の外縁(平面視における外周線)は略一致していなくてもよく、平面視においてずれていてもよい。これら三者の外縁が平面視においてずれている例として、金属的反射層57が凹曲部58の一部の後面に配置される場合や、第2着色領域54が厚盛り部56の基端側の幅を超えて形成される場合が挙げられるが、そのずれ方には種々ある。
【0045】
加飾シート51を前方から見た際、これら三者の外縁が略一致していることが望ましく、これら三者の外縁が完全に一致することが最も望ましいものであるが、完全に一致しなくとも加飾シート51を前方から見た際に、第2着色領域54のみが金属的反射を伴う光を発していると認識されるものであれば、略一致していると言えるものであり、完全に一致している必要はない。この場合、より具体的には三者の外縁(外周線)の平面視におけるズレが3mm以内であることが好ましく、1mm以内であることがより好ましい。加飾シート51を前方から見た際、これら三者の外縁が略一致していることにより、第2着色領域54、厚盛り部56及び金属的反射層57の全体が金属的反射効果を備えることができる。
【0046】
着色層52、厚盛り部56及び金属的反射層57はシート本体1の後面側に配置する方が好ましいが、加飾シート51が複数層の積層体の場合には、その層間に配置してもかまわない。なお、着色層52、厚盛り部56及び金属的反射層57は、イラストや写真等の種々の絵柄や文字を加飾シート51の前面に表示するためのものである。
【0047】
(調整層2について)
また、加飾シート51は、その最後面に調整層2を配置してもよい。調整層2の色は問わない。透明であってもよく、着色インキと同様に顔料などで着色されたものであってもかまわない。調整層2は、粘着剤や接着剤の層とその後面に配置されたポリエチレンテレフタレート樹脂やポリカーボネート樹脂等の樹脂フィルムとから構成される。後述するような、加飾シート51を備えた加飾品72を形成する場合、加飾シート51の最後面に調整層2を配置することが望ましい。加飾シート51の最後面に調整層2を配置することにより、加飾対象物71の色流れを抑えることができる。調整層2の形成には、コーターでの塗布のほか、オフセット印刷やシルク印刷を用いることができる。調整層2を形成することにより加飾シート51の後面の凹凸(加飾シート51の厚盛り部56の有無による凹凸)を緩和し加飾シート51の前面の平滑性を維持する。また、経時変化により加飾シート51の後面の凹凸がその前面に出ることを防ぐ。また、反射箔にあるピンホールを目立たなくすることもできる。この調整層2は、加飾シート51の最後面に配置すればよいが、厚盛り部56の存在しない部分にのみ配置することによって凹凸の緩和をより一層効果的なものとしても良い。
【0048】
この調整層2や後述する粘着剤や接着剤は、加飾シート51の後面の凹凸(加飾シート51の厚盛り部56の有無による凹凸)を緩和することもできるものであり、加飾シート51又は粘着剤や接着剤の後面における凹凸の高さの差を、厚盛り部56による凹凸の差よりも小さくすることができるものであり、調整層2と粘着剤や接着剤とを併用することも可能である。
【0049】
(表面の平滑性について)
この実施の形態では、加飾シート51の表面が平滑であるため、表面が別個の平滑なシートを配置するなどしなくてもよい。また後述するように、加飾対象物71に加飾シート51を貼り付けて加飾品72を形成した場合、経時変化によって、後面の凹凸が表面側の平滑性に影響を与えることも考えられるが、前記のように加飾シート51の後面の凹凸を緩和させることによって、平滑性の影響の発生を抑制することができる。
【0050】
この実施の形態に係る加飾シート51は、135℃の高温にも耐え得る耐熱性を有するものなど、素材の選択の自由度が高いものである。例えば、特許文献3に記載された加飾樹脂シートは、前面に加飾用凸部を形成するために真空成形を行う必要があり、その成形性を良好にするために当該シートの耐熱性に制限が生じたが、この実施の形態に係る加飾シート51は、印刷シートに用いられている一般的なシートを採用することができ、品質安定性の高い加飾シート51を提供することができる。
【0051】
図2(A)に本発明の第1実施形態に係る加飾シート51の前方からの拡大写真を、
図2(B)に特許文献3の成形工程後の加飾樹脂シートの前方からの拡大写真を、
図2(C)にシート本体1の後面に着色層52を配置し、着色層52の後面側全体に転写箔による金属的反射層57を配置させたシートの前方からの拡大写真を示す。
【0052】
図2(A)にあっては、前面の平滑性を維持しつつ、後面側から後方に突出した厚盛り部56及び金属的反射層57の金属的反射効果により立体的な装飾効果を高めたものである。特に、網目状の部分を第2着色領域54とし、この第2着色領域54の後面部分にのみ厚盛り部56と金属的反射層57とが配置されていることによって、他の部分(第1着色領域53)との対比が明確となり、網目状の第2着色領域54の立体感が高まっている。
【0053】
図2(B)にあっては、第1と第2着色領域54の図柄は
図2(A)と同じであるが、立体屈曲面を備えた加飾用凸部の前面に金属的反射層57と第2着色領域54が配置されていることによって、網目状の第2着色領域54の立体感が高まっている。
両者は共に第2着色領域54の立体感が高まっているが、
図2(A)では金属的反射層57が凹曲面となっているのに対して、
図2(B)では金属的反射層57が凸曲面となっているため、光源(蛍光灯)との位置関係がほぼ同じであるにも関わらず、光源からの光を金属的に強く反射している部分(写真では部分的に白くなっている部分)が相違しており、異なる立体感を表現している。
【0054】
また、
図2(C)にあっては、第1と第2着色領域54の図柄は
図2(A)と同じであるが、着色層52の後面側の全体に金属的反射層57が配置されたもので、厚盛り部56は存在しないため、平面的な美観を得ることができるに止まる。また、全面に金属的反射層57が配置されたものであるため、光源(蛍光灯)との位置関係が
図2(A)(B)とほぼ同じであるにも関わらず、
図2(A)(B)のように光源からの光を金属的に強く反射している部分は存在せず、帯状に光源(蛍光灯)が映り込んでいるに止まる。
【0055】
(加飾シート51について:第2実施形態)
次に、加飾シート51を平面視した場合の装飾部60の外縁に目を向けて、加飾シート51を説明する。
図3(A)に上述した本発明の第1実施形態に係る加飾シート51の要部拡大断面図を示し、
図3(B)に本発明の第2実施形態に係る加飾シート51の要部拡大断面図を示す。
上述と同じ部材には同じ符号を付することにより、詳細な説明は省略する。
【0056】
図3(A)に示す本発明の第1実施形態に係る加飾シート51は、シート本体1の後面側に、着色層52、厚盛り部56、金属的反射層57の三者をその順番に配置したが、
図3(B)に示す本発明の第2実施形態に係る加飾シート51は、シート本体1の後面側に、厚盛り部56、着色層52、金属的反射層57の三者をその順番に配置した点が相違する。言い換えれば、本発明の第2実施形態に係る加飾シート51は、厚盛り部56の後面側に着色層52を配置し、着色層52の後面側に金属的反射層57を配置したものである。この第2実施形態にあっても、金属的反射層57が金属的凹曲反射面59を形成し、その反射光は着色層52を透過し、さらに厚盛り部56及びシート本体1を透過して前方の看者の目に届くことによって、立体的な装飾効果を発揮する。ただしこの第2の実施の形態にあっては、着色層52と金属的反射層57との間の厚さ方向の距離の変化がない点で、第1の実施の形態と相違する。
【0057】
(着色層52における領域と厚盛り部56と金属的反射層57との関係)
いずれの実施の形態にあっても、金属的凹曲反射面59からの立体的な装飾効果を、前方の看者に印象的に知覚させるためには、着色層52において他の領域(第1着色領域53)とは異なる色の第2着色領域54を設け、第2着色領域54と厚盛り部56と金属的反射層57との三者のそれぞれの外縁(平面視における外周線)を、互いに略一致させた外縁一致部を備えたものとすることが好ましい。これによって色彩的に他の領域(第1着色領域53)と区別される領域(第2着色領域54)のみが立体的な印象を与えることになり、第2着色領域54によって表された表現を、前方の看者にシャープに強く印象付けることができる。
【0058】
より具体的には、
図2(A)の例では網目状の部分が第2着色領域54であり、当該部分にのみ厚盛り部56と金属的反射層57とが配置されていることによって、他の部分(第1着色領域53)との対比が明確となり、全体として立体的な装飾効果を高めることができたものである。
【0059】
上記のように、着色層52は、前方から見て、厚盛り部56が存在しない位置にある第1着色領域53と、厚盛り部56が存在する位置にある第2着色領域54とを備え、第1着色領域53と第2着色領域54とは、色相、明度、彩度のうち少なくとも一種が異なる違った色に着色されることが望ましい。
【0060】
言い換えれば、厚盛り部56と第2着色領域54と金属的反射層57とは、加飾シート51を前方から見た際、それぞれの外縁(平面視における外周線)が互いに略一致しているものとする。最も望ましくは、上述したように、三者の外縁が完全に一致することではあるが、完全に一致しなくとも加飾シート51を前方から見た際に、第2着色領域54のみが金属的反射を伴う光を発していると認識されるものであれば、略一致していると言えるものであり、完全に一致している必要はない。より具体的には三者の外縁(外周線)の平面視におけるズレが3mm以内であることが好ましく、1mm以内であることがより好ましい。
【0061】
以上のように、厚盛り部56と第2着色領域54と金属的反射層57との3つの層から構成された装飾部60が後面側に配置された加飾シート51で着色された金属的反射効果を有する領域と、第1着色領域53の1つの層から構成された装飾部60が後面側に配置された加飾シート51で金属的反射効果を有しない平面的な領域とでは、色彩(色相、明度、彩度)及び金属的反射において異なっているものとすることができ、異なる装飾表現を奏することから、これらが組み合わされた本発明に係る加飾シート51は、際立った装飾効果を発揮することができる。装飾部60を上記のように構成することにより、加飾シート51に新たな装飾効果を発現させることができる。
【0062】
また、装飾部60の構成が、厚み方向において、前方から、第2着色領域54−厚盛り部56−金属的反射層57と配置され、第2着色領域54と金属的反射層57との間に厚盛り部56が介在している構成、即ち第1実施形態の構成と、厚盛り部56−第2着色領域54−金属的反射層57と配置され、第2着色領域54の後面に金属的反射層57が配置される構成、即ち第2実施形態の構成とでは、前方の看者が視認する、着色層52を透過した金属的反射層57からの反射光が異なるものと考えられることから、多彩な装飾効果を発現することが期待される。
【0063】
もちろん、装飾効果を高める点からは、前記の三者が一致しない領域を意図的に設けて、全体としての効果的な装飾を行うことを妨げるものではない。具体的には、第1着色領域53、厚盛り部56、金属的反射層57が一致している領域、第2着色領域54と金属的反射層57からなる領域、金属的反射層57のみからなる領域、厚盛り部56と金属的反射層57からなる領域等々、種々の層と領域を組み合わせて実施することができる。
【0064】
(加飾シート51の製造)
次に上述の加飾シート51の製造する工程について説明する。
(加飾シート51を製造する工程の概要:第1実施形態)
本願の第1実施形態に係る加飾シート51を製造する工程は、透光性を有するシート本体1の後面側に透光性を有する着色インキによる着色層52を形成する着色ステップと、着色層52の後面側に透光性を有する厚盛り部56を形成する厚盛りステップと、厚盛り部56の後面側に金属的反射層57を形成する装飾ステップとを行うものである。
【0065】
(着色ステップについて)
着色ステップは、透光性を有する着色インキを、種々の方法で、透光性を有するシート本体1の後面側に印刷することによって着色層52を形成する工程である。印刷にはオフセット印刷やシルク印刷やインクジェット印刷を用いることができるが、グラビア印刷等の他の印刷方法を用いることもできる。
【0066】
この着色層52の厚みは、オフセット印刷の場合には1μm前後、シルク印刷の場合には10μm前後が適当であり、1〜20μm程度の範囲が好ましく4〜20μm程度の範囲がより好ましいものであるが、適宜変更して実施し得る。
また、着色層52として、厚盛り部56が後面側に配置されていない第1着色領域53と、厚盛り部56が後面側に配置されている第2着色領域54を形成してもよく、第1着色領域53と第2着色領域54とは、色相、明度、彩度のうち少なくとも一種が異なる違った色に着色されてもよい。
【0067】
(厚盛りステップについて)
厚盛りステップは、着色層52の少なくとも一部の後面を含む位置に厚盛り部56を形成する工程である。
厚盛り部56は、着色層52と同様に透光性を有する厚盛インキを印刷することによって形成することができるが、他の手法によって形成してもよい。上述のとおり、厚盛り部56は、その厚み(t)や幅(l)が加飾シート51の装飾効果を左右する大きな要因となるため、厚み(t)好ましくは75〜150μm、より好ましくは80〜100μm、幅(l)0.3mm〜3mmが適当であるが、これに限るものではない。この厚みを得るために、層厚みの大きなシルクスクリ−ン印刷を行うことが有利である。その際、1回から、5回程度の複数回の印刷を施してもよい。部分的に印刷回数を変えるなどして厚みの異なる複数種類の厚盛り部56を形成してもよい。他方厚盛り部56の厚みを同じにすることによって、印刷を施す際の印刷の版を共通して用いることができ生産効率を高めることができる。
【0068】
(装飾ステップについて)
装飾ステップは、厚盛り部56の少なくとも一部の後面に金属的反射層57を形成する工程である。厚盛りステップにて形成された厚盛り部56は、着色層52の後面側から後方に突出しており、厚盛り部56の少なくともその周縁は、表面張力により、シート本体1の厚さ方向の断面において、後方に向かって湾曲した凹曲部58を備える。そして、装飾ステップにて、この凹曲部58の少なくとも一部の後面に金属的反射層57を形成し、形成された金属的反射層57が金属的凹曲反射面59を構成するものである。
【0069】
金属的反射層57は、転写箔の手法により、金属箔やホログラム箔などの反射箔を転写して形成されるものであることが好ましい。また、金属的反射層57は、シルク印刷(銀ペーストインキやミラーインキ)やホットスタンプ、蒸着、スパッタリングで実施してもかまわないが、転写箔を用いる方が高い金属的反射の効果が得られる点で有利である。より詳しくは、転写箔は、シルク印刷(銀ペーストインキやミラーインキ)より鏡面性がより高く、シルク印刷には作れないホログラム箔の使用も可能である点で、転写箔を用いる方が有利である。
【0070】
また、転写箔の手法を用いて金属的反射層57を形成する際、転写用のバインダ層(図示せず)を形成してもよい。バインダ層は、反射箔を定着させるものであればよく、例えば透明なシルクインキで形成することができる。特に、経時変化でバインダ層の割れやクラックを起こさないインキを使用することが適当である。
金属的反射層57の厚みは、適宜変更して実施し得るが、0.03〜0.05μm程度の範囲が好ましい。
【0071】
(加飾シート51を製造する工程の概要:第2実施形態)
本願の第2の実施形態に係る加飾シート51を製造する工程は、透光性を有するシート本体1の後面側に装飾部60を形成する工程であって、透光性を有する着色インキによる着色層52を形成する着色ステップと、透光性を有する厚盛インキによる厚盛り部56を形成する厚盛りステップと、厚盛り部56の後面側に金属的反射層57を形成する装飾ステップとを行うものである。
【0072】
そして、加飾シート51を製造する工程は、着色ステップ、厚盛りステップ、装飾ステップの順に実施する場合(以下、第1実施手順という)と、厚盛りステップ、着色ステップ、装飾ステップの順に実施する場合(以下、第2実施手順という)があり、第1実施手順で実施して得られた加飾シート51の一例を
図3(A)に示すものであり、第2実施手順で実施して得られた加飾シート51の一例を
図3(B)に示すものである。
【0073】
(着色ステップについて)
着色ステップは、透光性を有する着色インキを、種々の方法で、シート本体1の後面側に印刷することによって着色層52を形成する工程である。着色ステップにおいて、着色層52は、前方から見て、厚盛り部56が存在しない位置にある第1着色領域53と、厚盛り部56が存在する位置にある第2着色領域54とが形成され、第1着色領域53と第2着色領域54とは、色相、明度、彩度のうち少なくとも一種が異なる違った色に着色される。
【0074】
加飾シート51を製造する工程が第1実施手順で実施された場合、第1着色領域53、第2着色領域54ともにシート本体1の後面側に形成され、第2実施手順で実施された場合、第1着色領域53はシート本体1の後面側に形成され、第2着色領域54はシート本体1の後面側に形成された厚盛り部56の後面側に形成される。
着色層52を形成するための印刷方法や着色層52の厚みは、本願の第1実施形態と同じであり、説明を省略する。
【0075】
(厚盛りステップについて)
厚盛りステップは、シート本体1の後面側に厚盛り部56を形成する工程である。
【0076】
加飾シート51を製造する工程が第2実施手順で実施された場合、厚盛り部56はシート本体1の後面側に形成され、第1実施手順で実施された場合、厚盛り部56はシート本体1の後面側に形成された第2着色領域54の後面側に形成される。
厚盛り部56を形成するための方法や、厚盛り部56の厚みや幅は、本願の第1実施形態と同じであり、説明を省略する。
【0077】
(装飾ステップについて)
装飾ステップは、厚盛り部56の後面側に金属的反射層57を形成する工程である。金属的反射層57は前面側からの光を反射するものであり、また、装飾部60は、着色層52を透過した金属的反射層57からの反射光を前方の看者が視認するように構成されることから、金属的反射層57は、加飾シート51の最も後面側に形成される。
【0078】
加飾シート51を製造する工程が第1実施手順で実施された場合、金属的反射層57は厚盛り部56の後面側に形成され、第2実施手順で実施された場合、金属的反射層57は厚盛り部56の後面側に形成された第2着色領域54の後面側に形成される。
金属的反射層57を形成するための方法や、金属的反射層57の厚みは、本願の第1実施形態と同じであり、説明を省略する。
【0079】
転写箔の手法を用いて金属的反射層57を形成する際、厚盛り部56の後面側に形成された第2着色領域54と金属的反射層57との定着性を確保するために、両者の間に転写用のバインダ層(図示せず)を形成してもよい。バインダ層は、反射箔を定着させるものであればよく、例えば透明のシルクインキで形成することができる。特に、経時変化でバインダ層の割れやクラックを起こさないインキを使用することが適当である。
【0080】
(金属的反射層に金属転写箔を用いた場合の詳細)
図4を参照して、金属的反射層57に金属箔やホログラム箔などの金属転写箔を用いる場合について、より詳細に説明する。金属転写箔は、工業的には転写シート(図示せず)として供給されるもので、その基本構成は、キャリアフィルムの上に、離型層、必要に応じて積層される表面保護層、着色層やホログラム層、金属層、接着剤層の各層が順に積層された積層体である。
【0081】
金属層は、通常の金属箔の場合にはアルミニウムが用いられたり、ホログラムの場合には透明の酸化チタンなどが用いられたりして種々の構成の光反射性のある層として実施される。着色層についても求められる色彩に応じて省略される場合もあるなど種々変更して実施されるが、基本的の構成としては、定着時に取り去られる剥離層(キャリアフィルムや離型層などいずれも図示せず)と、メタリック層42(表面保護層、着色層やホログラム層を必要に応じて選択的に積層した層)と、ホットメルト接着剤などの接着剤層41とを備えたものである。転写シートは、接着剤層41を目的物の表面に接触させた状態で、加熱や加圧などのエネルギーを加えて転写するもので、目的物の表面には接着剤層41とメタリック層42が残されることによって、目的物の表面に接着剤層41とメタリック層42が積層された装飾を施すものである。
【0082】
本発明への適用に際しては、厚盛り部56の後面に金属的反射層57として透明な接着剤層41とメタリック層42が配置積層されるもので、他の部分に接着剤層41とメタリック層42が積層されない。
具体的な一例としては、
図4(A)に示すように、厚盛り部56を透明定着インキのみで構成して、この透明定着インキと接着剤層41とを接着することによって、メタリック層42を接着剤層41を介して厚盛り部56の後面に定着させることができる。その際、厚盛り部56の外側周辺領域における第1着色領域53は接着剤層41によっては接着されない非定着インキを用いておくことによって、第2着色領域54および厚盛り部56の後面に接着剤層41およびメタリック層42が定着しない状態となる。一般の転写シートを用いた加工にあっては、透明定着インキは、接着剤層41との定着を目的として施されるものであり、その厚みは極力小さなもの(具体的には数μm)であることが望ましいとされているが、この実施の形態にあっては、透明定着インキは数10μm、より好ましくは30μm以上の厚みにまで1回または複数回の厚盛り印刷によって厚盛り部56を形成するものである。
【0083】
厚盛り部56の透明定着インキと接着剤層41との接着性を高めて良好な定着を実現するには、透明定着インキと接着剤層41とに用いられる樹脂成分が同種の樹脂成分を含むものであることが好ましいが、含有される副成分や助剤によって調整することもできる。他方、第1着色領域53には、透明定着インキと接着剤層41と異なる樹脂成分を用いるなどした非定着インキを採用して、接着剤層41に対して接着されないようにしておく必要がある。
なお第2着色領域54については、透明定着インキと接着剤層41との接着性を問わないが、厚盛り部56との定着性が良好なインキを用いることが好ましい。
【0084】
また
図4(B)に示すように、第1着色領域53および第2着色領域54の後面に接着剤層41との定着性のない透明な非定着インキ43を印刷した上で、厚盛り部56を透明定着インキで印刷していて形成することもできるし、図示は省略するが厚盛り部56を複数回印刷して形成する場合には、少なくともその最後面のみを透明定着インキで印刷して形成することも妨げない。ただし、
図4(A)に示すように、形成する層の数は極力少なくする方が、製造コストの点はもちろん、良好な反射効果を得る点からも好ましい。なおこの
図4で示した例は、
図1〜
図3で示した各実施の形態と併用して実施することができるものであり、例えば
図1(B)などのように第1着色領域53のみで着色層52を構成することも可能である。
【0085】
(加飾シート51の応用)
加飾シート51は、それ単独又は他の物品と併用して、種々の利用が可能である。例えば、シート製のパッケージングケースの定法に従って箱体に形成することができる。また、加飾シート51を他の物品に貼り付けて加飾品72を形成してもよく、例えば、化粧料容器や石鹸ケースなどの容器の本体や蓋のほか、弾球遊技機の走行面を構成するための表面シートやスロットマシーン遊技機の回転するリール、遊技機(弾球遊技機やスロットマシーン遊技機)のケーシングやエンブレムシートとして用いることができる。以下、加飾シート51の応用品を取り上げて説明する。
【0086】
(加飾シート51からパッケージングケースの製造)
加飾シート51をトムソンなどの金型で打ち抜いたり木型に沿って切り抜くと共に折り目線の加工を施し、必要に応じて貼り付けなどの加工を施して、パッケージングケース(図示せず)を完成させることができる。折り目線を用いずに湾曲させてもよい。加飾シート51をパッケージングケースに加工する工程についてはシート製のパッケージングケースの製造における種々の方法を採用することができる。
【0087】
なお、加飾シート51からパッケージングケースを製造する場合、パッケージングケース全体に加飾シート51を用いてもよいし、パッケージングケースの一部に加飾シート51を用いてもよい。例えば、パッケージングケースの側面や蓋、底の全部や一部に加飾シート51を用いると、パッケージングケースを加飾シート51の前方から見た際、金属的凹曲反射面59からの反射光を視認することができ、立体的な装飾効果を奏する。
【0088】
(加飾シート51の貼り付けによる加飾品72の形成)
加飾シート51は、他の物品に貼り付けて用いることも可能である。言い換えれば、この加飾シート51は、樹脂成形体などの加飾対象物71を装飾するための表面装飾用シートとして実施することができるものである。
【0089】
貼り付けの方法は、特に問うものではなく接着剤や粘着剤を用いることもでき、成型技術を適用することも可能である。加飾対象物71の材質としては、金属、板材、紙材、合成樹脂やこれらの複合材料製など、種々の材質を選択して用いることができる。
合成樹脂による樹脂成形体を用いた加飾対象物71については、貼合成型技術を適用することが可能である。貼合成型技術の方法としては、インモールド成形とアウトモールド成形のいずれも適用することができる。以下、接着剤や粘着剤を用いた貼り付けの例、インモールド成形を用いた貼り付けの例、アウトモールド成形を用いた貼り付けの例を示す。
【0090】
(接着剤や粘着剤を用いた貼り付けの例)
図5(A)に示すように、加飾シート51の前面側に、加飾対象物71の一例である、アクリル板等のアクリルシートなどの透明被覆体を配置したものとして実施される。加飾対象物71(この例では透明被覆体)と加飾シート51との間は、粘着剤や接着剤などのシート間接合剤3によって接合される。粘着剤や接着剤は透明性の高いものが適当であり、且つ、シート間に気泡が混入し難いものを用いることが望ましい。例えば、接着剤としては、UV接着剤に代表される紫外線などの活性エネルギー線硬化型接着剤を用いることが有利である。
【0091】
透明被覆体の厚みは加飾シート51の厚みより大きなものであってもよく、小さなものであってもかまわない。
前面側に加飾対象物71を貼り付けた加飾シート51を前方から見た際、加飾シート51が視認される位置に配置されており、加飾対象物71(この例では透明被覆体)及びシート間接合剤を通して、金属的凹曲反射面59からの反射光を視認することができ、立体的な装飾効果を奏する。
【0092】
また、
図5(B)に示すように、加飾シート51の後面側に上述した種々の材質の加飾対象物71を配置したものとしても実施される。加飾シート51と加飾対象物71との関係で良好な接着を実現する、種々の粘着剤や接着剤などのシート間接合剤3を選択して用いることができる。加飾シート51の後面側にシート間接合剤3の層を形成することにより、加飾シート51の後面の凹凸を緩和し、加飾シート51の前面の平滑性を維持する。また、経時変化により加飾シート51の後面の凹凸がその前面に出ることを防ぐ。
【0093】
紙やポリエチレンテレフタレート樹脂やポリカーボネート樹脂等の樹脂フィルム等を介在させて、加飾シート51と加飾対象品とを貼り付ける場合、加飾シート51の後面側と加飾対象物71の前面側とでは、種類の異なる粘着剤や接着剤を用いてもよい。また、粘着剤や接着剤の代わりに加飾シート51の後面の凹凸を緩和するための樹脂成分等を含むインクを加飾シート51の後面に印刷してもよい。
後面側に加飾対象物71を貼り付けた加飾シート51を前方から見た際、加飾シート51が視認される位置に配置されており、金属的凹曲反射面59からの反射光を視認することができ、立体的な装飾効果を奏する。
【0094】
(インモールド成形を用いた貼り付けの例)
図6は、インモールド成形の説明図であり、
図6(A)に示すように、樹脂成型用の金型81、81を開き、金型の内部に加飾シート51を配置する。
【0095】
次に、
図6(B)に示すように、金型81、81を閉じて、溶融した合成樹脂を射出口82から、金型81、81内にて射出成型するとともに、その表面に加飾シート51を貼り付けるものである。射出口82から射出される合成樹脂は、透光性を有する合成樹脂が望ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。なお、
図6(A)に示すように、必要に応じて加飾シート51の後面に調整層2や接着剤などのシート間接合剤3を塗布したバッカーシート4を配置しておいてもよい。バッカーシート4を配置することにより、成型中の加飾シート51の形状を維持し、加飾シート51と射出口82から射出される合成樹脂との接着性を高めることができる。両者の接着性が確保される場合には、バッカーシート4を用いなくてもよい。
図6(B)(C)においては、加飾シート51の後面の凹凸(加飾シート51の厚盛り部56の有無による凹凸)の記載と、調整層2、並びにシート間接合剤3を塗布したバッカーシート4の記載を省略した。 これにより、
図6(C)に示すような、加飾対象物71(この例では合成樹脂による樹脂成形体)とその前面に配置された加飾シート51とが一体となったインサート成形品を得ることができる。インサート成形品の他の一例を
図7(A)(B)に示す。何れも容器の蓋が加飾対象物71である。
図7(A)に示す化粧料容器の蓋にあっては、加飾シート51が加飾対象物71である化粧料容器の蓋の前面に配置されている。加飾シート51自体は前面が上を向いた状態で配置されている。加飾シート51の前面が化粧料容器の蓋の前面(
図7(A)の上面)に露出した状態で配置される。その結果、化粧料容器の蓋を上方から見た際、加飾シート51の前面を直接見ることとなる。よって、加飾対象物71である化粧料容器の蓋を上方から見た際、金属的凹曲反射面59からの反射光を視認することができる。
図7(B)に示す石鹸ケースの蓋にあっては、加飾シート51が加飾対象物71である石鹸ケースの蓋の後面に配置されている。加飾シート51自体は前面が上を向いた状態で配置されている。加飾シート51の前面が石鹸ケースの蓋の後面(
図7(B)の下面)に配置される。その結果、石鹸ケースの蓋を上方から見た際、石鹸ケースの蓋を通して加飾シート51の前面を見ることとなる。よって、加飾対象物71である石鹸ケースの蓋を上方から見た際、加飾対象物71を通して金属的凹曲反射面59からの反射光を視認することができる。なお、
図7(A)(B)においては、加飾シート51の後面の凹凸(加飾シート51の厚盛り部56の有無による凹凸)の記載を省略した。また、
図7(A)の場合においては、加飾シート51の後面に調整層や接着剤を塗布したバッカーシートを配置してもよく、
図7(B)の場合においては、加飾シート51の前面に接着剤を塗布したバッカーシートを配置してもよく、加飾シート51の後面に調整層を配置してもよい。加飾シート51の前面に配置するシート間接合剤3を塗布したバッカーシートは、透光性を有するものが適当である。
なお、金型81内にインサートする加飾シート51は、射出される溶融樹脂の熱と圧力で賦形してもよいし、金型外で予備加熱しておいて金型81にインサートし、真空引きによって予備賦形した後に樹脂を射出するものであってもよく、賦形されない場合もある。
【0096】
(アウトモールド成形を用いた貼り付けの例)
次に、
図8は、アウトモールド成形の例を示すものである。アウトモールド成形は、加飾シート51の上下の差圧を利用して加飾対象物71に貼り付けて賦形するもので、種々の形態のものが提案され実用化されており、これらを適宜選択して用いることができる。
【0097】
図8を参照してその一例を説明すると、
図8(A)に示すように、チャンバー91内のテーブル92に加飾対象物71を配置し、加飾シート51の上下の空間であるチャンバー91内を、チャンバー91に接続された真空ポンプ(図示せず)などによって、減圧する。必要に応じて加飾シート51をヒーター93によって減圧下で加熱する。なお、
図8(A)に示すように、必要に応じて加飾シート51の後面に調整層2やシート間接合剤3を塗布したバッカーシート4を配置しておいてもよい。
図8(B)(C)においても、加飾シート51の後面の凹凸(加飾シート51の厚盛り部56の有無による凹凸)の記載と、調整層2、並びにシート間接合剤3を塗布したバッカーシート4の記載を省略した。
【0098】
次に、
図8(B)に示すように、テーブル92を必要に応じて上昇させると共にチャンバー91内の加飾シート51の上の空間に対して大気圧を導入あるいは加圧(圧空)することによって、加飾シート51を加飾対象物71に押しつけて貼り合わせする。これにより、
図8(C)に示すように、加飾シート51を加飾対象物71の表面に貼り付けることができる。加飾シート51を備えた加飾品72である成形品を前方から見た際、加飾シート51が視認される位置に配置されており、金属的凹曲反射面59からの反射光を視認することができ、立体的な装飾効果を奏する。なお、加飾対象物71がアンダーカットされている場合にも、圧力差によって加飾シート51がアンダーカット部分にも巻き付けられるため、貼り合わせが可能である。なお、ヒーター93による加熱に代えて又は併用して熱板を利用してもかまわないし、また、圧空の際に水蒸気を導入してもかまわないし、種々の方法を採用して実施することができる。
本発明の加飾シートは、透光性を有するシート本体1と着色層52と厚盛り部56と金属的反射層57とを備える。厚盛り部56は着色層52の後面を含む位置に配置され、着色層52の後面側から後方に突出する。金属的反射層57は厚盛り部56の後面に配置され、厚盛り部56の少なくとも周縁はシート本体1の厚さ方向の断面において後方に向かって湾曲した凹曲部58を備え、凹曲部58の少なくとも一部の後面に金属的反射層57が配置される。この金属的反射層57が金属的凹曲反射面59を構成し、加飾シート51を前方から見た際、金属的凹曲反射面59からの反射光を視認できる。