(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409161
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】溶融塩原子燃料モジュール
(51)【国際特許分類】
G21C 3/54 20060101AFI20181015BHJP
【FI】
G21C3/54
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-243620(P2013-243620)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-102436(P2015-102436A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】312012139
【氏名又は名称】株式会社 トリウムテックソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100083839
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】木下 幹康
(72)【発明者】
【氏名】千葉 文浩
(72)【発明者】
【氏名】古川 雅章
【審査官】
大門 清
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−256230(JP,A)
【文献】
特公昭35−007041(JP,B1)
【文献】
特開昭63−269093(JP,A)
【文献】
特開昭57−001991(JP,A)
【文献】
特開昭53−120086(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0293059(US,A1)
【文献】
特開2001−133572(JP,A)
【文献】
特開昭64−032189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C3/54
G21C1/22
G21C1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも核分裂物質としてのトリウムを含む溶融塩を燃料とする円筒状の溶融塩燃料チャネルと、前記溶融塩燃料チャネルを収納する溶融塩燃料キャスクと、前記溶融塩燃料キャスクの上部に配設され、前記溶融塩燃料チャネル内の溶融塩の酸化還元(REDOX)制御を行う電極を用いたREDOX制御装置と、前記REDOX制御装置の上部に配設され、溶融塩燃料チャネルから発生するフィッションガスを加圧・圧縮するガス加圧装置と、前記ガス加圧装置上部に配設され、圧縮されたガスを収納するガスプレナムとを具備した溶融塩燃料体。
【請求項2】
前記燃料チャネル内の溶融塩として、陽イオン(カチオン)に核物質としてのトリウム及びリチウム、ベリリウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、セシウム、バリウム及びアルミニウムのうちの少なくとも1つを、陰イオン(アニオン)にフッ素、または塩素を用いることを特徴とする請求項1に記載の溶融塩燃料体。
【請求項3】
前記燃料チャネル内であって、溶融塩燃料の循環を促進するための円筒状の流路分割筒を設けたことを特徴とする請求項1に記載の溶融塩燃料体。
【請求項4】
前記燃料チャネルの内側に溶融燃料の除熱促進用のフィンを取り付けた請求項1又は請求項3に記載の溶融塩燃料体。
【請求項5】
前記溶融塩燃料体に附属するものであって、前記溶融塩燃料チャネルの上部または下部または上部下部に配設された溶融塩の流れを起こすスクリュウと該スクリュウに動力を供給するための動力発生装置とを設けたことを特徴とする請求項1に記載の溶融塩燃料体。
【請求項6】
前記燃料チャネルに付属して溶融塩の流れ中の固形物を除去するフィルターと固形物蓄積検出装置をもうけたことを特徴とする請求項1に記載の溶融塩燃料体。
【請求項7】
前記燃料キャスクの周囲に放熱を促進する放熱板を備えたことを特徴とする請求項1に記載の溶融塩燃料体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料を成分に含む化合物塩を溶融状態で用いる溶融塩燃料体に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水炉や、高速炉の原子炉の燃料としては、ウランやプルトニウムを酸化物や金属の形で用いる固体燃料が主流となっている。一方、固体燃料が普及する以前には、液体燃料を用いた原子炉も開発され、1960年代に米国オークリッジ国立研究所で溶融塩炉の試験運転に成功している。
【0003】
稼働した溶融塩炉は、液体燃料としてフッ化物溶融塩に核分裂性物質として少量のウランフッ化物UF4.を混合した液体燃料炉で、この混合物(燃料塩)と黒鉛減速材とで炉心を構成し、燃料塩自体を循環ポンプにより炉心外に循環させ熱交換器を通して冷却熱除去する炉である。
【0004】
液体燃料は、固体燃料にはない優れた特徴がある。いくつかの特徴を示すと以下のようになる。液体燃料なので、燃料成型加工が不要であり、固体燃料では不可欠のさやとなる多数の被覆管が不要であり機械的損傷による燃料棒破損も起きない。また燃料の放射線損傷が起きず、使用温度では放射線分解も起きない。製造時に液体塩に溶解することによりトリウム、ウラン、プルトニウムやその他の超ウラン元素を均一に混合することができる。トリウムを溶媒に用いる燃料塩では核燃料資源をウラン以外に拡張できる。その結果、トリウム・ウラン原子燃料サイクルはもとより、軽水炉からの回収プルトニウムの燃料としての利用や、ネプツニウム・アメリシウムなど長寿命放射性物質(マイナーアクチニド )の燃焼・転換にも使える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許公開2001−133572
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在日本の原子燃料サイクルは、固体燃料をベースとしたウラン−プルトニウムサイクルであり、使用済み核燃料を、再処理工場で処理し、得られたプルトニウムを 高速増殖炉の燃料として使用している。もしくは、軽水炉の固体燃料として加工し軽水型発電炉で燃焼させる。現実には、高速増殖炉の開発遅れにより使用済み燃料から得られるプルトニウムを、燃料として利用することが滞っており、プルトニウムの保有量が増加している。同時に、使用済み燃料の再処理により発生する放射性廃棄物の処理も課題となっている。
すなわち、使用済み燃料から抽出される、プルトニウムや放射性廃棄物を燃焼・転換できる施設が必要とされている。
【0007】
使用済み燃料の再処理により発生する、プルトニウムや放射性廃棄物を効率的且つ経済的に燃焼・転換させる施設として、溶融塩炉が利用できる。しかし、溶融塩炉は、米国での実験炉が成功し、4年間の良好な運転実績を残したものの、実用炉を開発する為に必要な開発課題が残されており、原子炉としての実用化にはさらに十数年の開発を必要とする。このため、より早期に、プルトニウムの燃焼、放射性廃棄物の核種転換を行える機器の開発が必要とされている。
【0008】
本発明は上記に鑑み、既存の原子炉の炉心(在来炉心)に組み込み、プルトニウムと放射性廃棄物の燃焼・転換を行う、炉心組み込み型の溶融塩燃料を用いた液体燃料体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶融塩燃料体は、溶融塩を燃料とする円筒状の溶融塩燃料チャネルと、前記溶融塩燃料チャネルを収納する溶融塩燃料キャスクと、前記溶融塩燃料キャスクの上部に配設され、前記溶融塩燃料チャネル内の溶融塩の酸化還元を制御するREDOX制御装置と、前記REDOX制御装置の上部に配設され、溶融塩燃料チャネルから発生するフィッションガスを加圧・圧縮するガス加圧装置と、前記ガス加圧装置上部に配設され、圧縮されたガスを収納するガスプレナムとからなる。
【0010】
前記燃料チャネル内の溶融塩として、フッ化物または塩化物、例えばフリナック(LiF−NaF−KF)を用いることが好ましい。
【0011】
更に、前記燃料チャネル内に、溶融塩燃料の循環を促進するための円筒状の流路分割筒を設けることが好ましい。
【0012】
更にまた、前記燃料チャネルの内側に溶融燃料の除熱促進用のフィンを取り付けることが好ましい。
【0013】
更にまた、前記溶融塩燃料体に附属するものであって、前記燃料チャネル内の溶融塩を循環させるためのスクリュウと該スクリュウに動力を供給するための動力発生装置とを設けることが好ましい。
【0014】
更にまた、前記燃料キャスクの周囲に放熱を促進する放熱板を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶融塩燃料体は、在来炉心に装荷して燃料として使用しながら、燃料チャネル内の溶融塩に、プルトニウムや長寿命放射性廃棄物である超ウラン元素(マイナーアクチニド)を溶かし込んで、在来炉心に装荷することで、これらを燃焼・核転換させることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の溶融塩原子燃料モジュールに関わる溶融塩燃料体構成図。
【
図2】
図1の溶融塩燃料体の溶融燃料キャスク中に収納された燃料チャネルの構造を説明するための縦断面図。
【
図3】
図2の燃料チャネルの他の実施例を示す横断面図。
【
図4】
図2の燃料チャネルの他の実施例を示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1、2において、溶融塩燃料体の円筒形の燃料キャスク4に円筒形の燃料チャネル8が収納され、該燃料チャネル8には、溶融塩燃料7収納される。円筒形の燃料キャスク4は、周囲に放熱用の放熱板6を持ち、周囲を流れる冷却剤との熱交換を促進させる。燃料チャネル内の溶融塩7は、燃焼中に該溶融塩7の化学状態が変化するため、本体上部のREDOX制御装置3により、電極11を介して溶融塩7の酸化還元(REDOX)制御が行なわれる。溶融塩7に含まれる核燃料物質が核分裂することで発生するキセノンやクリプトンなどの希ガスから成るフィッションガスはガス分離・加圧装置2により溶融塩から分離され、燃料キャスク4の外部に配設されたガスプレナム1に蓄積される。ガスプレナム1は、配管によって燃料キャスクから離れた例えば燃料キャスクの上部やもしくは原子炉炉心の外側周辺に配設される。
【0018】
次に、燃料チャネル8の中に収納される溶融塩の流れを説明する。
図1の溶融塩燃料体は、在来原子炉の炉心に装荷することで、燃料チャネル8の中の溶融塩7に含まれる核分裂物質が核分裂を起こし熱が発生する。溶融塩7の中で発生した熱は、燃料チャネル8、燃料キャスク4を通して溶融塩燃料体の外側の冷却材(図示せず)に伝わり除熱される。
【0019】
燃料チャネル8に収納された溶融塩7は、燃料物質の核分裂により発生する熱により温度が上昇するが、燃料キャスク4の外側の冷却材により燃料キャスク4が 除熱されるため、燃料チャネル8の周辺部の溶融塩7は熱伝導により燃料キャスク4に熱が移動し、燃料チャネル中心部の溶融塩7に比べて温度が低くなる。このため燃料チャネル8内の溶融塩7には密度差による流れが生じ、燃料チャネル8内で溶融塩7が対流することになる。この対流は、燃料チャネル8周辺部で降下し、燃料チャネル8中心部で上昇する自然循環流となる。これにより、溶融塩7で発生した熱が効率よく燃料キャスク4外側の冷却材に伝達されると同時に、溶融塩の最高温度が低く抑えられる。
【0020】
図2の燃料チャネルの出力密度を高める設計で、自然対流に依る除熱だけでは不十分な場合には、(別途動力を得て)溶融塩内に撹拌プロペラ12を配設し、強制対流を発生させる。
【0021】
以上述べた実施形態によれば、本発明の溶融塩燃料体を在来炉の炉心に装荷することで、炉心の既設の燃料集合体と同様に燃料として発熱させることができると同時に、溶融塩7中に溶解させたプルトニウムや、超ウラン元素(長寿命放射性廃棄物)を燃焼・核転換させる事ができ、放射性廃棄物の消滅に寄与することができる。
【0022】
本発明の溶融燃料体で使用する溶融塩として用いられる塩は、トリウム、ウラン、プルトニウム、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどを核分裂する燃料または核燃料となる親物質として含む塩化物、フッ化物であり、塩の基材となるカチオンとしてトリウム、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、セシウム、バリウム、アルミニウムなどを用いる塩である。
【0023】
溶融塩7の対流をスムーズにするために、円筒型の流路分割筒9を燃料チャネル8の溶融塩7内の中央に設置することが好ましく、これにより自然循環の上昇流と下降流を分離することができ、効率よく自然循環を生じさせることができる。自然循環が促進されることで、溶融塩の最高温度を抑制することができる。
【0024】
燃料チャネル8は、
図3または
図4に示すような構造とすることが好ましい。燃料チャネル8は、これを収納する燃料キャスク4を通して燃料キャスク4の外側を流れる冷却材(図示せず)と熱交換するため、核分裂物質から発生する熱により加熱されている溶融塩7より温度が低く、前記冷却材の温度に近い。このため、燃料チャネル8を構成する円筒容器の周辺部から中心部に向けて燃料チャネルと一体化した放射状の冷却フィン10を設置することで、より効率よく溶融塩7の除熱が可能となる。なお、
図3においては、冷却フィン10の中心部に流路分割筒9が配置されているが、
図4に示すように流路分割筒9が必ずしも設けられなくてもよい。除熱が促進することから溶融塩7の温度を低く維持することができ、燃料チャネル8、燃料キャスク4を構成する構造材の温度を低く維持することが可能となり、各構造材の熱的強度を低下させないことに寄与する。
【0025】
溶融塩の循環のために、
図1に示す如く溶融塩燃料体に附属して動力発生装置5を配設し、溶融燃料体の外部から非接触にて電力を得て、燃料チャネル8の溶融塩7を循環させる、例えばスクリュウ12(
図2)などの動力源とする。これにより、溶融塩7を燃料チャネル8内で循環させることができ、溶融塩7の冷却を促進することができる。
【0026】
溶融塩の浄化のために
図2に示す如く、燃料チャネル8内に溶融塩中の固形物を除去するフィルタ及び固形物蓄積検出装置13を配設する。これにより、溶融塩をスムーズに循環させることができる。
【0027】
更に、燃料キャスク4の外側を流れ、燃料キャスク4を冷却する冷却材(図示せず)と燃料キャスク4との熱交換を促進するために、燃料キャスク4周辺部に熱交換促進用の放熱板6をとりつけることで、溶融塩内部で発生する熱を、より効率よく外部に取り出すことができる。これにより、溶融塩温度を低く抑えることが可能となり、燃料チャネル8、及び溶融塩燃料体の構造強度を維持することが可能となる。
【実施例】
【0028】
本発明の溶融燃料体は、例えば、沸騰水型原子炉や加圧水型原子炉や重水炉やナトリウム冷却ないしは鉛ビスマス冷却原子炉の燃料集合体の代わりに、燃料集合体を格納するチャンネルボックス内に置換設置することができる。これにより、既存原子炉の代替燃料として利用できる。さらに、既存の核燃料の再処理により取り出したプルトニウムや、超ウラン元素や選別した核分裂生成物を溶融塩中に溶解させ燃焼・核転換させることで、放射性廃棄物の低減を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の溶融塩燃料体の仕組みを、溶融塩炉として拡張することで、例えばトリウムを核分裂の親物質として用いるトリウム溶融塩炉を構成できる。
【符号の説明】
【0030】
1・・・ガスプレナム
2・・・ガス分離・加圧装置
3・・・REDOX制御を行う電極装置
4・・・溶融燃料キャスク
5・・・動力発生装置
6・・・放熱板
7・・・溶融塩
8・・・燃料チャネル
9・・・流路分離筒
10・・・放熱フィン
11・・・電極
12・・・スクリュウ
13・・・フィルター及び固形物蓄積検出装置