特許第6409173号(P6409173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6409173-蛍光標識セット 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409173
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】蛍光標識セット
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20181015BHJP
   G01N 33/533 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   G01N21/64 F
   G01N33/533
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-30228(P2014-30228)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155813(P2015-155813A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2017年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】半田 宏
(72)【発明者】
【氏名】坂本 聡
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−300763(JP,A)
【文献】 特表2001−520323(JP,A)
【文献】 特開2013−113735(JP,A)
【文献】 特開2008−127454(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0304421(US,A1)
【文献】 高発光性有機固体,Organic Square,和光純薬株式会社,2011年 6月,No.36,第20頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/83
G01N 33/48−33/98
C09K 11/00−11/89
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種のバイオマーカーを同時検出するために用いられる蛍光標識のセットであって、
ポリマー層で磁性微粒子が被覆されてなる6種類の蛍光性ポリマー微粒子で構成され,
各種の前記蛍光性ポリマー微粒子の前記ポリマー層には、365nmの励起波長に対して異なる蛍光波長を有する異なる蛍光物質が保持され、
各前記蛍光物質は、下記構造式(1)〜(6)で表される化合物の群(ただし、各構造式において、Mesはメシチル基を示す。)から選択される1種の蛍光性有機化合物またはその誘導体である、蛍光標識セット。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光標識セットに関し、より詳細には、マルチバイオマーカーの標識に適した蛍光標識セットに関する。
【背景技術】
【0002】
血液や尿に含まれる様々な物質のうち、生体の状態を反映してその量が変化する物質(たんぱく質など)は、病気の進行や薬の効果などを定量的に把握するための指標として用いることができる。従来、“バイオマーカー”と呼ばれるこのような指標物質を使用して疾患診断の精度を向上させることが研究されてきたが、これまでの研究結果から、単一のバイオマーカーだけで精度の高い疾患診断を行うことは難しいことがわかってきた。
【0003】
この点に関し、近年、1つの疾患に関連して複数種のバイオマーカーを同時に測定し、その結果を網羅的に解析するバイオアッセイ手法が注目を集めており、疾患診断精度の向上が期待されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gil Mor, Irene Visintin, Yinglei Lai, Hongyu Zhao, Peter Schwartz, Thomas Rutherford, Luo Yue, Patricia Bray-Ward, and David C. Ward, “Serum protein markers for early detection of ovarian cancer.” Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102(21), 7677-7682 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、蛍光発光を利用して複数種のバイオマーカーを同時に測定するためには、各バイオマーカーを異なる蛍光物質で標識しなければならず、その場合、バイオマーカーの数だけ励起光(発光源)が必要になる。その結果、測定装置の構成は複雑なものにならざるを得ず、また、測定の度に各蛍光物質に対応する至適励起光を探索する必要があるため、作業が煩雑になり、測定に時間がかかるという問題があった。
【0006】
本発明は上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は複数種バイオマーカーを同時検出するのに適した蛍光標識のセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は複数種バイオマーカーを標識するのに適した蛍光標識のセットについて検討する中で、有機ポリマー微粒子のポリマー層に容易に導入することができ、且つ、所定の励起波長に対して異なる蛍光波長を有する有機化合物群を探索した。その結果、ジチオフェン系π共役系化合物群が所定の単一励起波長によって異なる蛍光を発光する現象に着目し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、複数種の蛍光性有機ポリマー微粒子で構成される蛍光標識のセットであって、各種の前記蛍光性有機ポリマー微粒子には異なる蛍光物質が封入され、該蛍光物質は、所定の励起波長に対して異なる蛍光波長を有するジチオフェン系π共役系化合物の群から選択される1種の蛍光性有機化合物である、蛍光標識セットが提供される。
【0009】
本発明においては、各前記蛍光性有機ポリマー微粒子に封入される前記蛍光物質は、下記構造式(1)〜(6)で表される化合物群から選択される1種の蛍光性有機化合物またはその誘導体とすることができる。
【0010】
【化1】
【0011】
【化2】
【0012】
【化3】
【0013】
【化4】
【0014】
【化5】
【0015】
【化6】
【発明の効果】
【0016】
本発明は所定の励起波長に対して異なる蛍光波長を有する蛍光標識のセットであり、複数種のバイオマーカーを所定の単一励起光源(至適励起光とは限らない)の下で同時に測定することができる。よって、従来よりも短時間のバイオアッセイが可能になるので、複数種バイオマーカーを標識するのに適した蛍光標識のセットとなる。また、本発明の蛍光標識セットの使用を前提にすれば、至適励起光の探索が不要になるため、測定装置の構成を簡略化できる。
【0017】
さらに本発明による蛍光体が封入されたポリマー層に磁性粒子が被覆されてなる蛍光性ポリマー磁性微粒子で構成された蛍光標識のセットが提供されることにより、蛍光標識を強制的に磁気誘導できるため、アフィニティ反応を好適に促進させることが期待でき、より短時間でのバイオアッセイが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】蛍光性有機ポリマー微粒子の作製方法を示すフローチャート。
図2】蛍光物質として使用することができる6種類のジチオフェン系π共役系化合物の構造式を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態の蛍光標識セットは異なる蛍光物質が封入された複数種の蛍光性有機ポリマー微粒子で構成される。ここで、各種の蛍光性有機ポリマー微粒子は、有機ポリマー微粒子を各種の蛍光物質の有機溶液に浸漬し、当該蛍光物質を被覆ポリマー層の内部に吸収・保持させることで作製される。ここでは、本実施形態の蛍光標識セットを構成する蛍光性有機ポリマー微粒子の作製方法につき、本出願人が先に出願した特願2010−528640号に開示される方法を使用した場合を例にとって説明する。
【0021】
図1は蛍光性有機ポリマー微粒子の作製方法を示すフローチャートである。まず、工程101では、有機ポリマー微粒子の水分散液を調製する。ここで、有機ポリマー微粒子の代わりに有機ポリマー被覆磁性微粒子を使用してもよい。この有機ポリマー被覆磁性微粒子は市販の有機ポリマー被覆磁性ビーズを使用してもよいし、本出願人が先に出願した特願2004−280679号に開示される以下の方法で調製してもよい。
【0022】
まず、フェライトなどの親水性の磁性微粒子に界面活性物質を吸着させて疎水化させた後、スチレンやグリシジルメタクリレートなどのラジカル付加重合可能なモノマー液と非イオン性の親水基を有する界面活性剤を加え、さらに適量の水を添加して混合し、超音波処理で乳化させる。このようにして調製された乳化液を60〜80℃に加熱した後、親水性開始剤を添加して乳化重合によりモノマーを重合させる。最後に、重合を終えた乳化粒子から界面活性剤を洗浄除去することにより、磁性微粒子が有機ポリマーで被覆された有機ポリマー磁性微粒子の水分散液が得られる。
【0023】
続く工程102では、調製した有機ポリマー磁性微粒子の水分散液の溶媒(すなわち水)を有機溶媒で置換した後、固相分離する。具体的には有機ポリマー磁性微粒子の水分散液を、遠心分離機を用いて固液分離して水を除去し、残ったペレットにメタノール等のアルコールを加え、さらに固液分離するという操作を数回繰り返す。このアルコール洗浄によって、被覆ポリマー層に付着している親水性物質が除去され、被覆ポリマー層の膨潤が促進される。
【0024】
続く工程103では、工程102で得られた有機ポリマー磁性微粒子のペレットに対し、所定の蛍光物質を有機溶媒(好ましくはアセトン)に溶解してなる溶液(以下、蛍光物質溶液という)を加えてよく振とうする。その結果、有機ポリマー磁性微粒子の被覆ポリマー層が有機溶媒によって膨潤し、この膨潤した被覆ポリマー層に蛍光物質が有機溶媒とともに浸入する。
【0025】
続く工程104では、被覆ポリマー層への蛍光物質の移行が飽和状態になった時点で、反応系に対して、有機溶媒と等量程度の水(好ましくは超純水)を添加する。
【0026】
続く工程105では、反応系から有機溶媒を蒸発除去する。その結果、被覆ポリマー層に吸収された有機溶媒が除去され、被覆ポリマー層内に蛍光物質が封入される。なお、このとき、先の工程103で添加した水が反応系に残るので、有機ポリマー磁性微粒子の乾燥が防止され、高い分散性を維持した状態で、本実施形態の蛍光性有機ポリマー被覆磁性微粒子が得られる。
【0027】
なお、上述した手順はあくまで例示であって、有機ポリマー被覆磁性微粒子の被覆ポリマー層内への蛍光物質の封入は、この他にも、先に出願した特願2006−313493号に開示される方法を使用して行ってもよいし、その他の任意の方法で行ってもよい。
【0028】
以上、本実施形態の蛍光標識セットを構成する蛍光性有機ポリマー微粒子の作製方法について説明してきたが、続いて、上述した工程103において、有機ポリマー微粒子の被覆ポリマー層内へ封入する蛍光物質について説明する。
【0029】
本実施形態においては、蛍光物質として、ジチオフェン系π共役系化合物群から選択される蛍光性有機化合物またはその誘導体を使用する。図2は本実施形態において蛍光物質として使用することができる6種類のジチオフェン系π共役系化合物の構造式を示す。なお、各構造式において“Mes”はメシチル基を示す。
【0030】
図2に示す6種類のジチオフェン系π共役系化合物は、いずれも蛍光性有機化合物であり、それぞれが異なる蛍光を発光する。下記表1は、図2に示した6種類のジチオフェン系π共役系化合物の励起波長(365nm)に対する蛍光波長(中心波長)をまとめて示す。
【0031】
【表1】
【0032】
本実施形態では、蛍光物質として、上述した6種類の蛍光性有機化合物またはその誘導体を使用することによって、発光波長が異なる6種類の蛍光性ポリマー微粒子を得ることができる。上記表1に挙げた蛍光性有機化合物は、疎水性であるため有機ポリマーに対して親和性が高い点、および、蛍光発光を合成化学的にチューニングできる点において、有機ポリマー微粒子に封入する蛍光物質として、従来用いられてきた蛍光物質よりも優位である。本実施形態においては、上述した6種類の蛍光性ポリマー微粒子からなる群より選択されるn種(nは2以上6以下の整数)の蛍光性ポリマー微粒子を用いて、マルチバイオマーカー用の蛍光標識セットを構築することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の蛍光標識セットについて、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0034】
(蛍光物質溶液の調製)
図2に示した6種類の蛍光性有機化合物のそれぞれをアセトンに溶解し、6種類の蛍光物質溶液(10mM)を調製した。
【0035】
(蛍光物質包含磁性微粒子の作製)
有機ポリマー被覆磁性微粒子(FGビーズ、多摩川精機株式会社製。以下、磁性ビーズ)1.0 mgをメタノールに分散させた後、遠心分離機を用いて固液分離して上澄みを除去し、残ったペレットにメタノール/アセトン混合液(1:1)を加えて磁性ビーズを分散させた後、遠心分離機を用いて固液分離して上澄みを除去し、さらに、残ったペレットにアセトンを加えて磁性ビーズを分散させた後、遠心分離機を用いて固液分離して上澄みを除去した。
【0036】
次いで、残ったペレットに、予め調製しておいた蛍光物質溶液(10mM)を100μL加えて磁性ビーズを分散させた後、遮光下で混合した(1時間、室温)。その後、この磁性ビーズの分散溶液に対して超純水(900μL)を加えて混合した後、遠心分離機を用いて固液分離して上澄みを除去した。その後、残ったペレットに、超純水を加えて磁性ビーズを分散させた後、遠心分離機を用いて固液分離して上澄みを除去するという操作を3回繰り返して行った。
【0037】
次いで、残ったペレットに、バッファ(50mM HEPES[pH 7.9]、0.1% Tween 20)を加えて磁性ビーズを分散させた後、遠心分離機を用いて固液分離して上澄みを除去するという操作を3回繰り返して行った。
【0038】
最後に、残ったペレットに、超純水を加えて磁性ビーズを分散させた後、遠心分離機を用いて固液分離して上澄みを除去するという操作を、上澄みに各蛍光物質由来の色が見られなくなるまで繰り返し、6種類の蛍光性磁性ビーズを得た。
【0039】
(蛍光測定)
上述した手順で作製した6種類の蛍光性磁性ビーズを試験管に分取し、それぞれに超純水を加えて6種類の蛍光性磁性ビーズ水分散液を調製した。その後、暗室中で、6種類の蛍光性磁性ビーズ水分散液に対して、同時に、紫外線(365nm)を照射したところ、各水分散液において、磁性ビーズ内に封入した蛍光性有機化合物に由来する蛍光が観察された。
図1
図2