特許第6409187号(P6409187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409187
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】電気音響変換器
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20181015BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   H04R1/10 101Z
   H04R1/02 101Z
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-233917(P2014-233917)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-100649(P2016-100649A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100177367
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 崇
(72)【発明者】
【氏名】本田 洋二
(72)【発明者】
【氏名】築比地 健三
(72)【発明者】
【氏名】田上 孝一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 健二
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−017485(JP,A)
【文献】 特開2011−155331(JP,A)
【文献】 特開2013−042382(JP,A)
【文献】 特開2013−251660(JP,A)
【文献】 特開2011−015338(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0002475(US,A1)
【文献】 特開2011−087993(JP,A)
【文献】 特開2010−087993(JP,A)
【文献】 特開2011−087048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部により駆動されて振動し音声を出力する振動板と、
前記振動板を保持するバッフルと、
前記バッフルの表裏面を貫通させている開口部と、
前記バッフルの表面において前記開口部の位置に設けられている音響抵抗材と、
を有し、
前記振動板から生じた音声を前記バッフルの裏面方向に通過させる経路が複数ある、
電気音響変換器。
【請求項2】
前記振動板から生じた音声を前記バッフルの裏面方向に通過させる複数の経路は、少なくとも前記振動板から前記開口部を通過する第1経路と前記振動板から前記音響抵抗材を経由して前記開口部を通過する第2経路とを含む、
請求項1記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記バッフルにおいて前記開口部が設けられている位置より平面方向外側の位置に設けられている第2開口部を有し、
前記振動板から生じた音声を前記バッフルの裏面方向に通過させる複数の経路は、前記振動板から前記第2開口部を通過する第3経路を含む、
請求項2記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記バッフルにおいて前記第2開口部の位置に設けられている第2音響抵抗材を有する、
請求項3記載の電気音響変換器。
【請求項5】
前記音響抵抗材と前記第2音響抵抗材は、音響抵抗値が異なる、
請求項4記載の電気音響変換器。
【請求項6】
前記バッフルは、平面方向外側の位置に段差部を有し、
前記音響抵抗材は、前記段差部より平面方向内側に設けられている、
請求項1乃至5のいずれかに記載の電気音響変換器。
【請求項7】
前記音響抵抗材の表裏面を貫通させている第3開口部を有する、
請求項1乃至6のいずれかに記載の電気音響変換器。
【請求項8】
前記駆動部は、
磁界を発生させている磁石と、
前記磁界内に配置されていて電気信号により駆動されるボイスコイルと、
を有する、
請求項1乃至7のいずれかに記載の電気音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気信号を音声に変換する、ヘッドホンやスピーカなどの電気音響変換器が知られている。電気音響変換器では、振動板を保持するバッフルの厚さ方向(以下「背面方向」ともいう。)を貫通する孔を設けて振動板から出力される音声を背面方向に逃がして振動板の歪を防いでいる。このようにすることで、電気音響変換器では、振動板の音声出力方向(前面方向)に生じる音響抵抗成分を低下させて振動板の安定的な動作を得ている。
【0003】
また、電気音響変換器では、バッフルに設けられている孔に周波数依存による減衰特性を有する音響抵抗材を設けることにより、音声が孔を通過する際に抵抗が生じ振動板の特定の周波数に対する動作が改善される。このようにすることで、電気音響変換器では、駆動部と振動板とにより構成されるドライバユニットの平滑な周波数特性を得ることができる。
【0004】
しかし、上述の構成を採用しても、電気音響変換器では、波長の異なる様々な音声を発生するため、それぞれの波長に対応した広い帯域幅で平滑な周波数特性を得ることは難しいという問題がある。
【0005】
なお、ヘッドホンにおいて、後部空気室の空気を外部空間に漏洩させる漏洩孔と、前部空気室の空気を外部空間に漏洩させる第2漏洩孔を有している技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている技術であっても、広い帯域幅で平滑な周波数特性を得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−087993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、広い帯域幅で平滑な周波数特性を得ることができる電気音響変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、駆動部により駆動されて振動し音声を出力する振動板と、振動板を保持するバッフルと、バッフルの表裏面を貫通させている開口部と、バッフルの表面において開口部の位置に設けられている音響抵抗材と、を有し、振動板から生じた音声をバッフルの裏面方向に通過させる経路が複数あることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、広い帯域幅で平滑な周波数特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る電気音響変換器の実施の形態であるヘッドホンを示す斜視図である。
図2図1のヘッドホンのバッフル組立体を示す断面斜視図である。
図3図2のバッフル組立体のバッフルを示す斜視図である。
図4図2のバッフル組立体の正面図と断面図である。
図5図1のヘッドホンの音響等価回路図である。
図6】本発明に係る電気音響変換器の別の実施の形態であるヘッドホンのバッフル組立体を示す断面斜視図である。
図7図6のバッフル組立体の正面図と断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る電気音響変換器の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
●ヘッドホン(1)●
図1図2に示すように、本発明に係る電気音響変換器の実施の形態であるヘッドホン1は、電気信号により駆動されて音声を出力するドライバユニット10と、ドライバユニット10が取り付けられているバッフル組立体20とを有する。また、ヘッドホン1は、バッフル組立体20と組み合わせることによりヘッドホンユニットを形成するハウジング30と、ヘッドホン1を使用者の頭部に保持させるヘッドバンド40とを有する。また、ヘッドホン1は、ヘッドバンド40と接続しハウジング30を保持する支持部材50と、使用者の耳周辺に接触するイヤーパッド60を有する。ヘッドホンユニットは、使用者の耳の周囲を覆うことができるように、略長円筒状の形状を有している。
【0014】
図2は、ドライバユニット10の音声出力方向から見たバッフル組立体20の断面斜視図である。以下の説明において、ドライバユニット10の音声出力方向をバッフル組立体20とバッフル21の表面方向とし、その反対方向を裏面方向とする。同図に示すように、バッフル組立体20は、振動板13を含むドライバユニット10を保持するバッフル21の表面に、ドライバユニット10、第1音響フィルタ22、あるいは第2音響フィルタ23などが取り付けられている。
【0015】
バッフル組立体20に取り付けられているドライバユニット10は、駆動部として、磁界を発生させている磁石11と磁石11により生じる磁界内に配置されていて電気信号により駆動されるボイスコイル12とを有する。また、ドライバユニット10は、ボイスコイル12が取り付けられていてボイスコイル12とともに振動して音声を出力する振動板13を有する。ドライバユニット10の表面方向には、振動板13などを保護して音声を通過させる孔が複数設けられているプロテクタ14を有する。
【0016】
図3は、バッフル21を裏面方向から見た斜視図である。同図に示すように、バッフル21は、略長円筒状のヘッドホンユニットの形状を構成するため、略長円板状の形状である。バッフル21は、ドライバユニット10が取り付けられる部分に略円形状に開口しているドライバユニット取付部24を有する。バッフル21は、ドライバユニット取付部24よりも外周側に設けられていてバッフル21の表裏面を貫通させている第1開口部25を有する。また、バッフル21は、第1開口部25の外周(平面方向外側)に設けられていてバッフル21の表裏面を貫通させている第2開口部26を有する。
【0017】
第1開口部25は、バッフル21のドライバユニット取付部24よりも外周側に複数設けられている例えば矩形スリット状の開口である。また、第2開口部26は、バッフル21の第1開口部25よりも外周側に複数設けられている例えば矩形スリット状の開口である。第1開口部25と第2開口部26は、それぞれバッフル21の中心から放射状(半径方向)に設けられている。なお、本発明において、第1開口部25と第2開口部26の形状は、上述の形状には限定されず、バッフル21の表裏面を貫通する形状であればよい。
【0018】
図4のバッフル組立体20の(a)正面図と(b)断面図に示すように、第1音響フィルタ22は、第1開口部25を覆うように設けられていて、振動板13から出力して第1開口部25を通過する音声を減衰させる音響抵抗材である。また、第2音響フィルタ23は、第2音響抵抗材に相当し、第2開口部26を覆い振動板13から出力して第2開口部26を通過する音声を減衰させる音響抵抗材である。また、バッフル21の裏面には、第1開口部25を覆う第3音響抵抗材として、第3音響フィルタ27が設けられている。つまり、第3音響フィルタ27はバッフル21と第1音響フィルタ22によって挟持される。第1音響フィルタ22、第2音響フィルタ23、第3音響フィルタ27は、音声を減衰させつつ通過させるために、ともにフェルトなどの所定の空気透過率(音響抵抗値)を有する材料により形成される。
【0019】
第1音響フィルタ22と第2音響フィルタ23の音響抵抗値は、必要な減衰特性を得るために所定の値を取ることができる。本実施の形態では、材料のフェルトの密度を変えることにより、第1音響フィルタ22の音響抵抗値を第2音響フィルタ23の音響抵抗値より高く設定している。
【0020】
また、バッフル21には、第1音響フィルタ22の平面方向外側の位置に段差部28が設けられている。つまり、第1音響フィルタ22は、段差部28より位置決めされて平面方向内側(ドライバユニット10側)に設けられている。また、第2音響フィルタ23は第1音響フィルタ22の外周側に設けられている。
【0021】
ヘッドホン1には、振動板13から生じた音声をバッフル21の裏面の後部空気室方向に通過させる経路が複数形成されている。複数の経路には、第1音響フィルタ22の側壁から第1音響フィルタ22に入り第1開口部25を通過する第1経路R1がある。また、上記複数の経路には、第1音響フィルタ22の表面から第1音響フィルタ22に入り第1開口部25を通過する第2経路R2がある。また、上記複数の経路には、第2音響フィルタ23の表面から第2音響フィルタ23に入り第2開口部26を通過する第3経路R3がある。
【0022】
ヘッドホン1は、音声出力方向にイヤーパッド60がある。振動板13の振動によってイヤーパッド60内の前部空気室内の圧力が高くなると、圧力によって振動板13が押し返されるため、歪が大きくなり、濁ったような音声になってしまう。そのため、ヘッドホン1は、バッフル21に第1開口部25と第2開口部26を設けて表面から裏面に向けて音声を通過させることで前部空気室内の圧力変化を抑えて振動板13の歪を低減している。音域によって必要な振動板13の振動中心からの距離が異なるため、前部空気室から音声を通過させるための経路は、距離の異なる複数を設けることが望ましい。これにより、ヘッドホン1によれば、広い音声帯域幅で平滑な周波数特性を得ることができる。
【0023】
図5に示すヘッドホン1の音響等価回路図は、図4(b)のバッフル組立体20の断面図に付した符号と対応している。音響等価回路において、使用者の耳のインピーダンスをZe、イヤーパッド60内の前部空気室の容積のスチフネスをsf、バッフル21の裏面方向の後部空気室の容積のスチフネスをsbとする。また、音響等価回路において、振動板13の質量をmo、振動板13のスチフネスをsoとする。また、音響等価回路において、第1経路R1の音響抵抗をr1、第2経路R2の音響抵抗をr2、第3経路R3の音響抵抗をr3とする。また、等価回路において、第1経路R1から後部空気室方向への放射インピーダンスをZa1、第2経路R2から後部空気室方向への放射インピーダンスをZa2、第3経路R3から後部空気室方向への放射インピーダンスをZa3とする。
【0024】
図5に示すように、ヘッドホン1では、振動板13から生じた音声が後部空気室に到達するまでの経路が、第1経路R1と第2経路R2と第3経路R3の複数ある。それぞれの経路には、第1音響フィルタ22および第2音響フィルタ23それぞれの特性(フィルタの厚さと面積の違い)により、音響抵抗r1,r2,r3が付与されている。ヘッドホン1では、音響抵抗r1が第1音響フィルタ22により付与される。また、ヘッドホン1では、音響抵抗r2が第音響フィルタ27により付与される。また、ヘッドホン1では、音響抵抗r3が第音響フィルタ23により付与されている。
【0025】
上述のように、ヘッドホン1では、振動板13から生じた音声を後部空気室の方向に距離が異なる複数の経路で通過させることで、経路ごとに異なる音声帯域の周波数特性を改善することができる。このため、ヘッドホン1によれば、広い音声帯域で平滑な周波数特性を得ることができる。
【0026】
ヘッドホン1によれば、振動板13から生じた音声が後部空気室に到達するまでの経路の数が増えるため、音声の解像度を高めることができる。また、ヘッドホン1によれば、特に音声信号が矩形波であるフルデジタル方式の場合に、音声の立ち上がりの過渡特性を向上させることができる。
【0027】
また、ヘッドホン1では、第1経路R1と第2経路R2と第3経路R3のそれぞれの経路中に音響抵抗材を設けているため、振動板の音声出力方向に生じる音響抵抗成分を低下させて振動板の安定的な動作を得ている。また、第1音響フィルタ22と第2音響フィルタ23と第3音響フィルタ27の音響抵抗値(音声の通過しやすさ)を異なる値とすることで、それぞれの音声帯域において周波数特性を向上させることができる。
【0028】
また、バッフル21に段差部28を設けることにより、ヘッドホン1では、第2経路R2が明確に形成され、平滑な周波数特性を得ることができる。
【0029】
●ヘッドホン(2)●
本発明に係る電気音響変換器の別の実施の形態について、先に説明した実施の形態との相違点のみを説明する。
【0030】
図6は、本実施の形態のヘッドホン1のバッフル組立体20Aを示す断面斜視図である。バッフル組立体20Aと上述の実施の形態のバッフル組立体20との相違点は、第1音響フィルタ22に表裏面を貫通させている第3開口部29を有する点である。
【0031】
図7のバッフル組立体20Aの(a)正面図と(b)断面図に示すように、第1音響フィルタ22に第3開口部29が設けられていることにより、振動板13から生じた音声をバッフル21の裏面の後部空気室方向に通過させる第4経路R2−2が形成される。第4経路R2−2は、第1音響フィルタ22の表面方向から第3開口部29を経由して第1開口部25を通過する。
【0032】
以上説明したような第3開口部29を設けることにより、ヘッドホン1をこれまで説明した密閉式のヘッドホンではなくオープン式のヘッドホンとして適用する場合に、後部空気室方向への音声の抜けをよくすることができる。また、第3開口部29を設けることにより、振動板13から生じた音声をバッフル21の裏面の後部空気室方向に通過させる経路の数を増やすことができるため、周波数特性を改善できる帯域を増やすことができる。
【0033】
以上説明した実施の形態は、ドライバユニット10の振動板13の駆動部の駆動方式として磁石11とボイスコイル12とを有するダイナミック型を用いた例である。本発明に係る電気音響変換器に用いる駆動部は、振動板とその駆動部とを有するものであればダイナミック型に限定されず任意である。本発明に係る電気音響変換器の駆動部として、例えばコンデンサ型を用いてもよい。
【0034】
以上説明した本実施の形態では、本発明をヘッドホンに適用した例を説明したが、本発明はこれに限定されず例えばスピーカなどの他の電気音響変換器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 ヘッドホン
10 ドライバユニット
11 磁石
12 ボイスコイル
13 振動板
14 プロテクタ
20 バッフル組立体
21 バッフル
22 第1音響フィルタ
23 第2音響フィルタ
24 ドライバユニット取付部
25 第1開口部
26 第2開口部
27 第3音響フィルタ
28 段差部
29 第3開口部
30 ハウジング
40 ヘッドバンド
50 支持部材
60 イヤーパッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7