特許第6409255号(P6409255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許6409255-デュプレクサ 図000002
  • 特許6409255-デュプレクサ 図000003
  • 特許6409255-デュプレクサ 図000004
  • 特許6409255-デュプレクサ 図000005
  • 特許6409255-デュプレクサ 図000006
  • 特許6409255-デュプレクサ 図000007
  • 特許6409255-デュプレクサ 図000008
  • 特許6409255-デュプレクサ 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409255
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】デュプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/46 20060101AFI20181015BHJP
   H03H 7/38 20060101ALI20181015BHJP
   H04B 1/50 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   H03H7/46 A
   H03H7/38 Z
   H04B1/50
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-158439(P2013-158439)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-29238(P2015-29238A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2016年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 一也
【審査官】 鬼塚 由佳
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0256702(US,A1)
【文献】 特開2007−281768(JP,A)
【文献】 特開2002−344276(JP,A)
【文献】 特開2010−206375(JP,A)
【文献】 特開平09−069799(JP,A)
【文献】 特開平11−251956(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/099084(WO,A1)
【文献】 特開平09−307331(JP,A)
【文献】 特開2003−174367(JP,A)
【文献】 特開2012−010083(JP,A)
【文献】 特開平10−322105(JP,A)
【文献】 特開平09−232909(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0300817(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 7/46
H03H 7/38
H04B 1/50
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信端子、受信端子、および共通端子を備え、前記送信端子から入力される送信信号を前記共通端子から出力し、前記共通端子から入力される受信信号を前記受信端子から出力するデュプレクサであって、
前記送信端子と前記共通端子との間に接続された第1のインダクタと第1のキャパシタを含む第1移相回路と、
前記受信端子と前記共通端子との間に接続された第2のインダクタと第2のキャパシタを含む第2移相回路と、
前記第1移相回路と前記第2移相回路との接続点と前記共通端子を接続する伝送ラインとグランドとの間に接続された第1の可変キャパシタを少なくとも備えるインピーダンス補償回路と、
前記送信端子と前記受信端子との間に接続された終端抵抗と、
前記インピーダンス補償回路の第1の可変キャパシタと離れた分岐接続点と前記グランドとの間に接続された第2の可変キャパシタと、
前記送信端子に伝送される前記送信信号のモニタ信号と前記受信端子に伝送される前記送信信号の漏れ信号と、を比較して、該比較の結果から前記第2の可変キャパシタのキャパシタンスを調整するキャパシタンス調整回路と、
を備え
前記インピーダンス補償回路は、さらに、
前記接続点と前記共通端子との間に直列接続されているインダクタと、
前記接続点と前記共通端子との間に直列接続されており、かつ、前記インダクタと並列接続されている第3の可変キャパシタと、
を有する、デュプレクサ。
【請求項2】
前記キャパシタンス調整回路は、
前記送信端子に接続するモニタ信号用のキャパシタを介して前記モニタ信号が入力され、
前記受信端子に接続する漏れ信号用のキャパシタを介して前記漏れ信号が入力される、
請求項1に記載のデュプレクサ。
【請求項3】
前記接続点と前記グランドとの間に接続されたインダクタとキャパシタの直列回路からなり、前記送信信号の高調波周波数を共振周波数とするトラップ回路を備える、
請求項1または請求項2に記載のデュプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信端子、受信端子、および共通端子を備え、送信端子から入力された高周波信号は共通端子から出力し、共通端子から入力された高周波信号は受信端子から出力するデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯通信機器のような無線で高周波信号を送受信する装置では、送信信号と受信信号において共通のアンテナを用いることが一般的である。この場合、送信回路からの送信信号をアンテナに供給し、アンテナから受信信号を受信回路に伝送するために、デュプレクサが多く用いられている。
【0003】
例えば、非特許文献1のFIG22.7.2には、ディバイダ(分配器)の回路構成を用いて、デュプレクサを実現することが記載されている。このデュプレクサは、所謂ウィルキンソン型ディバイダの構成を用いている。このような構成では、デュプレクサの回路構成要素が少なく、低損失な送受信が可能になる。この場合、分配損失が生じるため、送信周波数と受信周波数が異なる場合には、フィルタ構成のデュプレクサが用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】22.7 A Tunable Integrated Duplexer with 50dB Isolation in 40nm CMOS, M.Mikhemar,H.Darabi,A.Abidi, ISSCC 2009/SESSION 22/PA AND ANTENNA INTERFACE/ 22.7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、現在では、マルチバンド化が進んできており、その結果、デュプレクサの数が増えてしまう、という問題がある。また、上述の従来の回路構成では、単一の狭い周波数帯域で送受信を行う場合には、各通信信号、すなわち送信信号および受信信号を低損失に伝送できるが、異なる周波数帯域を利用する複数の通信信号を、それぞれ低損失に伝送することは難しい。
【0006】
例えば、異なる周波数帯域を利用する複数の通信信号をそれぞれ低損失で送受信するためには、通信信号毎に上述のディバイダの回路構成を備えなければならず、デュプレクサが大型化してしまう。
【0007】
また、非特許文献1のFIG22.7.3に示すような回路構成を用いることにより、伝送する周波数を可変できることが記載されているが、回路構成が複雑になるとともに、伝送しようとする複数の通信信号の周波数帯域間で損失の差が大きくなってしまい、実用性に欠ける。さらに、共通端子に接続されるアンテナのインピーダンスが人体などの影響で変化した場合、送信信号と受信信号のアイソレーションが劣化する、という問題がある。
【0008】
本発明に目的は、複数の周波数帯域でそれぞれ低損失に通信信号を送受信でき、且つ従来よりも簡単な回路構成で、送信信号と受信信号のアイソレーションを改善できるデュプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、送信端子、受信端子、および共通端子を備え、送信端子から入力される送信信号を共通端子から出力し、共通端子から入力される受信信号を受信端子から出力するデュプレクサに関するものであり、次の特徴を有する。この発明のデュプレクサは、第1移相回路、第2移相回路、インピーダンス補償回路、および終端抵抗を備える。第1移相回路は、送信端子と共通端子との間に接続された第1のインダクタと第1のキャパシタを含む。第2移相回路は、受信端子と共通端子との間に接続され、第2のインダクタと第2キャパシタを含む。インピーダンス補償回路は、第1の可変キャパシタを備える。第1の可変キャパシタは、第1移相回路と第2移相回路との接続点と共通端子を接続する伝送ラインまたはインダクタとグランドとの間に接続されている。終端抵抗は、送信端子と受信端子との間に接続されている。
【0010】
この構成では、第1、第2移相回路、インピーダンス補償回路および終端抵抗によって決まる第1の周波数の送信信号において、送信端子と受信端子との間のアイソレーションを確保できる。さらに、インピーダンス補償回路の第1の可変キャパシタのキャパシタンスを調整することで、第1の周波数とは異なる周波数においても、送信端子と受信端子との間のアイソレーションを確保できる。この際、共通端子と送信端子との間のインピーダンス、および共通端子と受信端子との間のインピーダンスもインピーダンス補償回路で調整することができるので、第1の周波数のみでなく、複数の周波数で低損失な送受信が可能になる。すなわち、周波数可変デュプレクサを構成することができる。
【0011】
また、この発明のデュプレクサは、インピーダンス補償回路の第1の可変キャパシタと離れた分岐接続点とグランドとの間に接続された第2の可変キャパシタをさらに備えていることが好ましい。
【0012】
この構成では、第2の可変キャパシタのキャパシタンスを調整することで、共通端子に接続されるアンテナのインピーダンスが変化しても低損失に送受信を行うことができる。
【0013】
また、この発明のデュプレクサは、送信端子および受信端子に伝送される送信信号および受信信号をモニタリングして、第2の可変キャパシタのキャパシタンスを調整するキャパシタンス調整回路を備えることが好ましい。
【0014】
この構成では、送信信号の受信端子への漏れを観測して、インピーダンス補償回路にフィードバックできるので、受信端子に接続される受信回路部への送信信号の漏洩による受信回路部のS/N比の劣化を抑制するようにインピーダンスを最適化することができる。
【0015】
また、この発明のデュプレクサは、接続点とグランドとの間に接続されたインダクタとキャパシタの直列回路からなり、送信信号の高調波周波数を共振周波数とするトラップ回路を備えることが好ましい。
【0016】
この構成では、送信信号の高調波が共通端子から外部へ出力されることを抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、従来よりも簡単な回路構成でありながら、複数の周波数帯域でそれぞれ低損失に通信信号を送受信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの送信端子と受信端子との間のアイソレーション特性を示すグラフである。
図3】本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの送信信号および受信信号の挿入損失特性を示すグラフである。
図4】本発明の第2の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。
図5】共通端子Pcomに接続する外部回路のインピーダンスが変化した場合の送受信間のアイソレーション特性の変化を示す図である。
図6】本発明の第3の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。
図7】本発明の第4の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。
図8】本発明の第5の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサについて、図を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの送信端子と受信端子との間のアイソレーション特性を示すグラフである。図3は、本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの送信信号および受信信号の挿入損失特性を示すグラフである。
【0020】
周波数可変デュプレクサ10は、送信端子Ptx、受信端子Prx、および共通端子Pcomを備える。送信端子Ptxには、第1移相回路21が接続されており、受信端子Prxには、第2移相回路22が接続されている。第1移相回路21における送信端子Ptxに接続する側と反対側の端部と、第2移相回路22における受信端子Prxに接続する側と反対側の端部は、接続点Aで接続されている。接続点Aと共通端子Pcomとの間には、インピーダンス補償回路30が接続されている。また、送信端子Ptxと第1移相回路21との途中点と、受信端子Prxと第2移相回路22との途中点とは、終端抵抗器23によって接続されている。
【0021】
第1移相回路21は、インダクタ211およびキャパシタ212を備える。インダクタ211は、送信端子Ptxと接続点Aとの間に接続されている。キャパシタ212は、インダクタ211の送信端子Ptx側の端部とグランドとの間に接続されている。
【0022】
インダクタ211のインダクタンスおよびキャパシタ212のキャパシタンス、すなわち、第1移相回路のインピーダンスは、第1送信信号と第1受信信号からなる第1通信信号の周波数に基づいて決定されている。具体的には、第1移相回路は、送信端子Ptxから入力される第1送信信号を、当該第1の送信信号の波長の1/4だけ移相変化させるように設定されている。
【0023】
第2移相回路22は、インダクタ221およびキャパシタ222を備える。インダクタ221は、受信端子Prxと接続点Aとの間に接続されている。キャパシタ222は、インダクタ221の受信端子Prx側の端部とグランドとの間に接続されている。
【0024】
インダクタ221のインダクタンスおよびキャパシタ222のキャパシタンスは、インダクタ211のインダクタンスおよびキャパシタ212のキャパシタンスとほぼ同じである。すなわち、第2移相回路は第1移相回路とほぼ同じである。
【0025】
終端抵抗器23のインピーダンスは、例えば、高周波回路における受信回路の特性インピーダンスの略2倍に設定されている。
【0026】
インピーダンス補償回路30は、インダクタ301およびキャパシタ302を備える。キャパシタ302は可変容量素子である。インダクタ301は、接続点Aと共通端子Pcomとの間に接続されている。キャパシタ302は、インダクタ301の共通端子Pcom側の端部とグランドとの間に接続されている。
【0027】
このような回路構成は、所謂ウィルキンソン型ディバイダの接続点と共通端子Pcomとの間に、インピーダンス補償回路30を接続した構成となる。
【0028】
このような回路構成では、第1通信信号を構成する第1送信信号および第1受信信号は、次のように伝送される。
【0029】
送信端子Ptxから入力された第1送信信号は、第1移相回路21、接続点A、インピーダンス補償回路30を介して、共通端子Pcomへ伝送される。
【0030】
また、送信端子Ptxから受信端子Prxへの伝送経路を考えると、第1移相回路21、接続点A、第2移相回路22を伝送する第1伝送経路と、抵抗器23を伝送する第2伝送経路がある。第1送信信号における第1伝送経路を伝送する成分は、波長の1/2(半波長)位相が進む。したがって、第1送信信号における第1伝送経路を伝送する成分と、第2伝送経路を伝送する成分は、逆位相となる。これにより、第1伝送経路を伝送する成分と、第2伝送線路を伝送する成分とが相殺され、第1送信信号は、受信端子Prxに伝送されない。すなわち、第1送信信号の周波数において、送信端子Ptxと受信端子Prxとのアイソレーションを確保することができる。
【0031】
また、第1受信信号の周波数において、接続点Aから第1移相回路21側を見たインピーダンスと、接続点Aから第2移相回路22側を見たインピーダンスは、受信端子Prxに接続する受信回路のインピーダンスの2倍である。したがって、接続点Aから第1、第2移相回路21,22側を見たインピーダンスは、受信回路のインピーダンスに一致する。これにより、共通端子Pcomからインピーダンス補償回路30を介して接続点Aに達した第1受信信号は、第1移相回路21、第2移相回路22に低損失で伝送される。
【0032】
そして、第1位相回路21と第2移相回路22はほぼ同じ回路構成であるので、抵抗器23の両端では、第1受信信号における第1移相回路21を伝送した成分と、第1受信信号における第2移相回路22を伝送した成分とは、位相が一致する。したがって、これらの成分は相殺されない。これにより、受信端子Prxに、第1受信信号が低損失で伝送される。
【0033】
このように、本実施形態の構成を用いれば、第1通信信号(第1送信信号および第1受信信号)に対して、分配損失を除けば低損失なデュプレクサを構成することができる。
【0034】
さらに、本実施形態の構成を用いれば、第1通信信号と周波数帯域が比較的近い他の周波数帯域を利用する通信信号に対しても、低損失なデュプレクサを実現できる。例えば、第1通信信号が略800MHzを利用している場合に、略700MHzから略900MHzの周波数帯域を利用する通信信号に対しても、低損失な周波数可変の送受デュプレクサ(周波数可変デュプレクサ)を実現できる。
【0035】
第1通信信号(第1送信信号および第1受信信号)と異なる周波数帯域を利用する第2通信信号(第2送信信号および第2受信信号)の場合、インピーダンス補償回路30のキャパシタ302のキャパシタンスを変化させる。このように、キャパシタ302のキャパシタンスを変化させると、送信端子Ptxから第1,第2移相回路21,22を介して受信端子Prxに伝送する伝送経路のインピーダンスを変化させることができる。したがって、第2送信信号に対して、送信端子Ptxから第1,第2移相回路21,22を介して抵抗器23の受信端子Prx側の端部に達するまでの位相変化量を、当該第2送信信号の波長の略1/2にすることができる。これにより、第2送信信号の周波数における送信端子Ptxと受信端子Prxとの間のアイソレーションを確保することができる。
【0036】
また、第1位相回路21と第2移相回路22は同じ回路構成であり、第1受信信号の周波数が第2受信信号の周波数に近いため、第2受信信号の周波数においても、接続点Aから第1移相回路21側を見たインピーダンスと、接続点Aから第2移相回路22側を見たインピーダンスは、受信端子Prxに接続する受信回路のインピーダンスの略2倍にすることができる。したがって、接続点Aから第1、第2移相回路21,22側を見たインピーダンスは、受信回路のインピーダンスに略一致する。この際、インピーダンス補償回路30を経由することで、共通端子Pcomから受信端子Prxおよび送信端子Ptx側を見たインピーダンスを、受信回路のインピーダンスにさらに近づけることができる。これにより、共通端子Pcomから入力された第2受信信号は、第1移相回路21、第2移相回路22に低損失で伝送される。
【0037】
そして、抵抗器23の両端では、第2受信信号における第1移相回路21を伝送した成分と、第2受信信号における第2移相回路22を伝送した成分とは、位相が一致する。したがって、これらの成分は相殺されない。これにより、第2受信信号は受信端子Prxに低損失で伝送される。
【0038】
このように、本実施形態の構成を用いれば、単一の回路構成を用いて、インピーダンス補償回路30のキャパシタンスを変化させるだけで、異なる複数種類の周波数の通信信号に対して、送信端子Ptxと受信端子Prx間のアイソレーションを確保でき、且つ、共通端子Pcomと送信端子Ptx、受信端子Prxとの間での挿入損失を抑制できる。これにより、周波数可変型で低損失なデュプレクサを構成することができる。
【0039】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの送信端子と受信端子との間のアイソレーション特性の一例を示すグラフである。図2におけるC=C1で表される特性曲線は、上述のキャパシタ302のキャパシタンスがデフォルト値、すなわち、第1送信信号の周波数f1に対応する値となる場合の特性曲線を示す。また、C=C2で表される特性曲線は、第1送信信号の周波数f1よりも低周波数である周波数f2の第2送信信号を用いる場合のキャパシタ302のキャパシタンスで得られる特性曲線である。また、C=C3で表される特性曲線は、第1送信信号の周波数f1よりも高周波数である周波数f3の第3送信信号を用いる場合のキャパシタ302のキャパシタンスで得られる特性曲線である。なお、他の特性曲線は、キャパシタ302が、C1,C2,C3以外の所定値である場合を示している。
【0040】
図2に示すように、第1送信信号に対しては、当該第1送信信号の周波数f1(略800MHz)を中心とする略60MHzの幅の周波数帯域内において、−30dB以上のアイソレーションを確保することができる。
【0041】
また、第2送信信号に対しては、当該第2送信信号の周波数f2(略720MHz)を中心とする略50MHzの幅の周波数帯域内において、−30dB以上のアイソレーションを確保することができる。
【0042】
また、第3送信信号に対しては、当該第3送信信号の周波数f3(略920MHz)を中心とする略70MHzの幅の周波数帯域内において、−30dB以上のアイソレーションを確保することができる。
【0043】
このように、本実施形態の構成を用いることで、周波数帯域の異なる複数の通信信号に対して、送信端子Ptxと受信端子Prxとの間のアイソレーションを確保することができる。
【0044】
図3は本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの送信信号および受信信号の挿入損失特性を示すグラフである。図3においても、C=C2で表される特性曲線は、第1送信信号の周波数f1よりも低周波数である周波数f2の第2送信信号を用いる場合のキャパシタ302のキャパシタンスで得られる特性曲線である。また、C=C3で表される特性曲線は、第1送信信号の周波数f1よりも高周波数である周波数f3の第3送信信号を用いる場合のキャパシタ302のキャパシタンスで得られる特性曲線である。また、Txで表される特性曲線が送信信号の挿入損失であり、Rxで表される特性曲線が受信信号の挿入損失である。
【0045】
図3に示すように、本実施形態の構成を用いることで、周波数f2を含む周波数帯域BAND(f2)と、周波数f3を含む周波数帯域BAND(f3)とのそれぞれにおいて、送信信号の挿入損失および受信信号の挿入損失を低くすることができる。すなわち、周波数帯域BAND(f2),BAND(f3)の両周波数帯域で低損失な周波数可変デュプレクサとして機能させることができる。
【0046】
次に、本発明の第2の実施形態に係る周波数可変デュプレクサについて、図を参照して説明する。図4は、本発明の第1の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。
【0047】
本実施形態の周波数可変デュプレクサ10Aは、第1の実施形態に示した周波数可変デュプレクサ10に対して、インピーダンス補償用のキャパシタ40を追加したものであり、他の構成は、第1の実施形態に示した周波数可変デュプレクサ10と同じである。したがって、異なる箇所のみを具体的に説明する。
【0048】
キャパシタ40は、可変容量素子である。キャパシタ40は、接続点Aとグランドとの間に接続されている。このような構成では、キャパシタ40のキャパシタンスを変化させることで、共通端子Pcomに接続する外部回路(具体的には、例えばアンテナ)のインピーダンス変化による送受信間のアイソレーションの劣化を抑制することができる。
【0049】
図5は、共通端子Pcomに接続する外部回路のインピーダンスが変化した場合の送受信間のアイソレーション特性の変化を示す図である。図5(A)は、本実施形態のキャパシタ40による補償を行わなかった場合を示し、図5(B)は、本実施形態のキャパシタ40による補償を行った場合を示す。図5は、インピーダンスが50Ωの時に、各特性が最適化されるように、周波数可変デュプレクサ10Aの各素子の素子値が決定されている。また、図5では、インピーダンスが6.25Ωから200Ωまで離散的に変化した状態を示している。
【0050】
図5(A)に示すように、本実施形態の構成を用いなければ、共通端子Pcomに接続する外部回路のインピーダンスの変化に伴って、アイソレーション特性が変化する。そして、図5(A)に示すように、インピーダンスの変化に伴って、アイソレーションを必要とする周波数f4でのアイソレーションが劣化する。
【0051】
一方、図5(B)に示すように、本実施形態の構成を用いれば、すなわち、キャパシタ40のキャパシタンスを調整することで、共通端子Pcomに接続される外部回路のインピーダンスの変化に伴ってアイソレーション特性は変化するものの、アイソレーションを必要とする周波数f4でのアイソレーションは高く維持することができる。また、アイソレーションが最も得られる周波数を、略維持することができる。
【0052】
なお、図5では、周波数f4が略860MHzの場合を示したが、当該周波数以外においても、同様にアイソレーション特性を調整することができる。
【0053】
このように、本実施形態の構成を用いれば、上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ながら、さらに、共通端子Pcomに接続する外部回路のインピーダンス変化の影響も抑圧でき、低損失で送受信間のアイソレーションが高いデュプレクサを安定して実現することができる。
【0054】
次に、本発明の第3の実施形態に係る周波数可変デュプレクサについて、図を参照して説明する。図6は、本発明の第3の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。
【0055】
本実施形態に係る周波数可変デュプレクサ10Bは、第2の実施形態に示した周波数可変デュプレクサ10Aに対して、周波数可変とは別に、アンテナ端のインピーダンス変化による送受信間のアイソレーション劣化を補償するために、キャパシタ40のキャパシタンスを調整するキャパシタンス調整回路を追加したものであり、他の構成は第2の実施形態に示した周波数可変デュプレクサ10Aと同じである。したがって、第2の実施形態に係る周波数可変デュプレクサ10Aと異なる箇所のみを、具体的に説明する。
【0056】
周波数可変デュプレクサ10Bでは、送信端子Ptxと抵抗器23とを接続する伝送ラインに対して、送信信号の受信端への漏れをモニタする微小容量のキャパシタ51が接続されている。また、受信端子Prxと抵抗器23とを接続する伝送ラインに対して、受信端へ漏れた送信信号と比較するための送信信号のモニタ信号取り出し用として、微小容量のキャパシタ52が接続されている。モニタ信号取り出し用キャパシタ51,52は、キャパシタンス調整回路50に接続されている。この構成により、キャパシタンス調整回路50は、送信端子Ptxから出力される送信信号のレベルと、受信端子Prxに漏洩する送信信号のレベルから、送受信間のアイソレーションを補償することができる。
【0057】
キャパシタンス調整回路50は、送信端子Ptxから出力される送信信号のレベルを基準とした、受信端子Prxに漏洩する送信信号のレベルから、送信端子Ptxと受信端子Prxとの間のアイソレーション劣化量を推定検出する。キャパシタンス調整回路50は、検出したアイソレーション劣化量に基づいて、アイソレーションが高くなるように、キャパシタ40のキャパシタンスを調整する。
【0058】
このような構成とすることで、送信端子Ptxと受信端子Prx間のアイソレーションを経時的に観測することができ、略リアルタイムで、送信端子Ptxと受信端子Prx間のアイソレーションが高くなるように調整することができる。これにより、低損失で送受信間のアイソレーションが高いデュプレクサを、さらに安定して実現することができる。また、受信端子に接続される受信回路部への送信信号の漏洩による受信回路部のS/N比の劣化を抑制できる。
【0059】
次に、本発明の第4の実施形態に係る周波数可変デュプレクサについて、図を参照して説明する。図7は、本発明の第4の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。
【0060】
本実施形態に係る周波数可変デュプレクサ10Cは、第2の実施形態に示した周波数可変デュプレクサ10Aに対して、さらにキャパシタ60を追加したものであり、他の構成は第2の実施形態に示したデュプレクサ周波数可変10Aと同じである。したがって、第2の実施形態に係る周波数可変デュプレクサ10Aと異なる箇所のみを、具体的に説明する。
【0061】
キャパシタ60は、可変容量素子である。キャパシタ60は、インピーダンス補償回路30のインダクタ301に並列接続されている。このような構成では、キャパシタ60のキャパシタンスを調整することで、上述のキャパシタ40とともに、共通端子Pcomに接続される外部回路のインピーダンス変化による送受信間のアイソレーションへの影響を抑圧することができる。この際、キャパシタ60は、接続点Aと共通端子Pcomとの間に直列接続されているので、接続点Aとグランドとの間に接続されているキャパシタ40とは異なる軌跡でインピーダンスを変化させることができる。したがって、より精度良く所望の周波数に対するインピーダンスの補償を行うことができる。
【0062】
また、キャパシタ60は、インピーダンス補償回路30の一部としても利用することができ、キャパシタ60のキャパシタンスを適宜調整することで、送受信間のアイソレーションを高く保ち、さらに低損失な送受信が可能な周波数可変型のデュプレクサを実現することができる。
【0063】
次に、本発明の第5の実施形態に係る周波数可変デュプレクサについて、図を参照して説明する。図8は、本発明の第5の実施形態に係る周波数可変デュプレクサの回路図である。
【0064】
本実施形態に係る周波数可変デュプレクサ10Dは、第2の実施形態に示した周波数可変デュプレクサ10Aに対して、トラップ回路を追加したものであり、他の構成は第2の実施形態に示した周波数可変デュプレクサ10Aと同じである。したがって、第2の実施形態に係る周波数可変デュプレクサ10Aと異なる箇所のみを、具体的に説明する。
【0065】
周波数可変デュプレクサ10Dは、トラップ回路70を備える。トラップ回路70は、インダクタ701およびキャパシタ702を備え、インダクタ701とキャパシタ702が直列接続された回路である。トラップ回路70は、接続点Aとグランドとの間に接続されている。言い換えれば、インダクタ701とキャパシタ702が、接続点Aとグランドとの間に直列接続されている。インダクタ701のインダクタンスおよびキャパシタ702のキャパシタンスは、送信信号の2倍高調波の周波数が共振周波数となるように設定されている。例えば、上述の第1通信信号における第1送信信号の2倍高調波の周波数が共振周波数になるように設定されている。
【0066】
このような構成とすることで、送信端子Ptxから入力された送信信号の2倍高調波信号がトラップ回路70を介してグランドに導かれる。
【0067】
本発明の実施形態に係る周波数可変デュプレクサは、ウィルキンソン型ディバイダを基本構成としているので、2倍高調波信号も、比較的損失せずに伝送されてしまうことがある。しかしながら、本実施形態の構成に示すトラップ回路70を備えることで、送信信号の2倍高調波信号は、共通端子Pcomに伝送されず、当該共通端子Pcomから外部へ出力されない。
【0068】
なお、本実施形態の構成では、1種類の送信信号の2倍高調波信号をトラップするトラップ回路を用いた例を示した。しかしながら、デュプレクサ10Dで伝送する全ての送信信号の2倍高調波信号に対するトラップ回路を追加してもよい。また、トラップ回路を構成するキャパシタを可変容量素子とすることで、周波数可変型のトラップ回路にしてもよい。
【0069】
なお、上述の各実施形態に示した回路構成は、必要に応じて適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0070】
10,10A,10B,10C,10D:周波数可変デュプレクサ
21:第1移相回路
22:第2移相回路
23:終端抵抗器
30:インピーダンス補償回路
40:キャパシタ(可変容量素子)
50:キャパシタンス調整回路
51,52:モニタ信号取り出し用のキャパシタ
60:キャパシタ(可変容量素子)
70:トラップ回路
211,221,301,701:インダクタ
212,222,702:キャパシタ
302:キャパシタ(可変容量素子)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8