特許第6409264号(P6409264)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409264
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】アルデヒド類分解材
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/86 20060101AFI20181015BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20181015BHJP
   C07C 63/38 20060101ALI20181015BHJP
   C07C 229/76 20060101ALI20181015BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20181015BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20181015BHJP
   C07F 5/06 20060101ALN20181015BHJP
   C07F 7/28 20060101ALN20181015BHJP
【FI】
   B01D53/86 280
   B01J31/22 A
   C07C63/38
   C07C229/76
   A61L9/00 C
   A61L9/01 B
   !C07F5/06 D
   !C07F7/28 F
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-201259(P2013-201259)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-66483(P2015-66483A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年9月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西口 靖子
(72)【発明者】
【氏名】増森 忠雄
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−144284(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/019865(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00−53/96
B01J21/00−38/74
A61L9/01
C07C63/38
C07F5/06,7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属及び有機配位子から構成される多孔性金属錯体に貴金属触媒が担持されてなることを特徴とするアルデヒド類分解材において、
前記金属がAl、Tiのいずれかであって、前記有機配位子が2−アミノテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸のいずれかであることを特徴とするアルデヒド類分解材。
【請求項2】
多孔性金属錯体の水分吸着率が、温度30℃、相対湿度60%の条件において、5重量%〜50重量%であることを特徴とする請求項1に記載のアルデヒド類分解材。
【請求項3】
貴金属触媒が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金からなる群から選択される少なくとも一種類以上の貴金属を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルデヒド類分解材。
【請求項4】
貴金属触媒の平均粒子径が、10nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルデヒド類分解材。
【請求項5】
貴金属触媒の担持量が、10重量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルデヒド類分解材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアルデヒド類分解材からなる事を特徴とするアルデヒド類除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒド類分解材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の室内や自動車の車内等におけるタバコ臭の除去を主目的として、空気清浄機や脱臭剤が広く用いられている。これらはタバコ臭の主成分であるアセトアルデヒドあるいはシックハウスの原因物質であるホルムアルデヒド等の吸着除去等を目的とするものであり、多くの除去材の検討がなされている。
【0003】
一般に、ガス除去材としては、多孔性材料が使用される。選択性を上げるために細孔分布の狭い多孔性材料を用いたり、高吸着容量を得るため比表面積の大きなものを利用したりする。多孔性材料には、活性炭やゼオライト、活性炭素繊維、近年注目される金属イオンと有機配位子から形成される有機金属錯体或いは多孔性金属錯体(Porous Coordination Polymers、或いは、Metal Organic Frameworksとも称される)等がある。
【0004】
その中でも、活性炭は各種有機物質を吸着する材料として古くから知られているが、低分子で高極性の有機物(例えば、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)は十分吸着することができず、上述の用途に用いる場合は、活性炭にアミン類を担持させて吸着能を高めたものが用いられている。
【0005】
このように、アミン類を担持させたものとしては、例えば、アニリンを用いたもの(特許文献1)やエタノール系アミン等を用いたもの(特許文献2)が開示されている。
【0006】
しかしながら、アミン類を担持させる技術は、担持アミン類の状態は不安定であることから、熱的及び経時的な化学変化による失活が起こりやすく、長期に渡って満足すべき除去性能を発現することが困難であるという問題がある。さらに、アルデヒド類ガス吸着後に、再び性能を回復させることが困難である。
【0007】
一方、アルデヒド類ガスを除去する方法として、酸化触媒を用いる方法が近年注目を集めている。前記酸化触媒として、例えば、白金を担持したアルミナや活性炭がある。
【0008】
しかしながら、かかるアルミナ担体は白金の分散度が低く、触媒能向上に限界がある。そのため、十分な除去性能を発揮させるためには前記白金担持アルミナを高温に維持しなければならず、一般家庭用途では使用困難である等の用途の制限を受ける、あるいは、設備の補強が必要となる等の不具合が生じる。
また、白金担持活性炭触媒を用いたアルデヒド類ガスの除去方法も知られている(特許文献3)。しかしながら、前記白金担持活性炭は、白金が活性炭の内部、つまり、細孔深部に担持しており、活性炭に有機ガスが吸着する際は、細孔深部から吸着するため、細孔深部に担持している白金は、活性炭に吸着された有機ガスにより被毒されやすく、失活し、寿命が短くなるという問題がある。ここで言う有機ガスとは、アルデヒド類ガスが白金担持活性炭触媒により酸化されて生成するカルボン酸類ガス、および、大気中に存在するアルデヒド類ガス、カルボン酸類ガス、炭化水素、アンモニア、硫化水素、メルカプタン等を示す。
【0009】
また、金属酸化物及び炭素質材料に金属超微粒子を担持させた低温有害ガス浄化触媒についても開示されている(特許文献4)。担持方法として、高温高圧法、及び、超臨界法を用いることにより、金属超微粒子の担持、つまり、高分散担持を実現するものである。しかしながら、かかる担持方法では、金属超微粒子は担体の細孔深部に担持されるため、触媒である金属超微粒子が、吸着された有機ガスにより被毒されやすく、容易に失活し、寿命が短くなるという問題がある。ここで言う有機ガスとは、アルデヒド類ガスが金属担持活性炭触媒により酸化されて生成するカルボン酸類ガス、および、大気中に存在するアルデヒド類ガス、カルボン酸類ガス、炭化水素、アンモニア、硫化水素、メルカプタン等を示す。
【0010】
上述のとおり、一般生活における温湿度領域で、長期に渡ってアルデヒド類除去性能を維持できる分解材は見当たらないのが現状である。ここで言う、一般生活における温湿度領域とは、温度範囲でおおよそ−30〜50℃、湿度範囲でおおよそ20〜95%RHのことである。また 、ここで言うアルデヒド類としては、脂肪族、脂環族、芳香族のアルデヒド化合物のいずれでも良く、特にホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等の低級脂肪族アルデヒド化合物の除去が問題となる場合が多い。
【0011】
また、上述の担体として用いられている活性炭やアルミナ、金属酸化物は、その製造過程において、約600〜1100℃の高温で処理するため、膨大なエネルギーを消費すること、また、製造条件によっては製造時の重量収率が半分以下となること、大量の二酸化炭素を排出することから、環境負荷の高い材料となっており、環境に優しい材料が望まれている。
【0012】
環境負荷の低い材料として、約200℃以下で製造できる多孔性金属錯体がある。1次元若しくは3次元チャンネル構造を有する有機金属錯体からなるアルデヒド化合物含有気体の処理材が開示されている(特許文献5)。しかしながら、かかる処理材は、金属イオンとアルデヒド化合物のカルボニル基の配位結合を利用し吸着させており、一般生活における温湿度領域では金属イオンへの水分子の吸着が先に起こるため、十分な除去性能が得られず、また、触媒機能を持たないため、寿命が短いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭56−53744号公報
【特許文献2】特開昭60−202735号公報
【特許文献3】特開平9−108315号公報
【特許文献4】特開2001−239161号公報
【特許文献5】特開平9−323015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような状況の下、本発明では一般生活における温湿度領域で長期に渡って満足すべきアルデヒド類ガスの除去性能を発現することができ、かつ、貴金属触媒使用量を低減でき、 環境負荷を低減できるアルデヒド類分解材の提供を課題として掲げた。ここで言う低温とは、常温付近の温度のことを示す。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、設計性に優れた多孔性金属錯体が、高いアルデヒド類除去性能を有することを見出した。特に、多孔性金属錯体に貴金属触媒を担持することにより、低温でアルデヒド類ガスの除去性能に優れ、かつ長寿命の分解材が得られることを見出した。また、温度30℃、相対湿度60%の条件において、水分吸着率が5重量%〜50重量%である多孔性金属錯体を用いることにより、貴金属触媒との親和性を高め、貴金属触媒が多孔性金属錯体の表層付近に、かつ、高分散に担持され、結果として、吸着した有機ガスによる被毒の影響が小さく、長寿命、かつ、低温におけるアルデヒド類ガスの高い除去性能を実現できるのである。また、貴金属触媒は多孔性金属錯体上で安定した状態で存在するため、熱的および経時的変化に対して耐性が高い。加えて、多孔性金属錯体は、金属と有機配位子を溶液中、約−10℃〜200℃で加熱することにより製造できるため、多孔性金属錯体を用いることで環境へ大きな負荷をかけることなく優れたアルデヒド類除去材が得られることを見出し、本発明を完成した。ここで言う有機ガスとは、アルデヒド類ガスが貴金属担持活性炭触媒により酸化されて生成するカルボン酸類ガス、および、大気中に存在するアルデヒド類ガス、カルボン酸類ガス、炭化水素、アンモニア、硫化水素、メルカプタン等を示す。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.金属及び有機配位子から構成される多孔性金属錯体に貴金属触媒が担持されてなることを特徴とするアルデヒド類分解材。
2.多孔性金属錯体が、周期表の第2族、第4族および第7〜第14族元素から選ばれる少なくとも一種の金属と二座以上で配位可能な有機配位子から選ばれる少なくとも一種の有機配位子で構成される多孔性金属錯体であることを特徴とする1.に記載のアルデヒド類分解材。
3.多孔性金属錯体の水分吸着率が、温度30℃、相対湿度60%の条件において、5重量%〜50重量%であることを特徴とする1.または2.に記載のアルデヒド類分解材。
4.貴金属触媒が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金からなる群から選択される少なくとも一種類以上の貴金属を含有することを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載のアルデヒド類分解材。
5.貴金属触媒の平均粒子径が、10nm以下であることを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載のアルデヒド類分解材。
6. 貴金属触媒の担持量が、10重量%以下であることを特徴とする1.〜5.のいずれかに記載のアルデヒド類分解材。
7.金属がAl、Tiのいずれかであって、前記有機配位子が2−アミノテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸のいずれかであることを特徴とする1.〜6.のいずれかに記載のアルデヒド類除去材。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアルデヒド類分解材は、多孔性金属錯体に貴金属触媒を担持することにより、低温で長期に渡って満足すべきアルデヒド類ガスの除去性能を発現することができる。また、設計性に優れた多孔性金属錯体を用いることから、所望の性質を有するアルデヒド類分解材を作製することができる。さらに、多孔性金属錯体を用いることから、環境負荷を低減できるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で観察されたTEM像を示す写真である。
図2】実施例2で観察されたTEM像を示す写真である。
図3】比較例1で観察されたTEM像を示す写真である。
【符号の説明】
【0019】
1白金触媒
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の分解材は、アルデヒド類を含む被処理ガスと接触させて、前記アルデヒド類を吸着除去するための分解材であり、多孔性金属錯体と貴金属触媒とで構成されている。高吸着容量を得るため、また除去材製造時の環境負荷を低減させることができるため、多孔性金属錯体を使用することが好ましく、この多孔性金属錯体は、金属及び有機配位子から構成されることが望ましい。多孔性金属錯体としては、周期表の第2族、第4族および第7〜14族元素から選ばれる少なくとも一種の金属と、二座以上で配位可能な有機配位子から選ばれる少なくとも一種の有機配位子から構成される、いずれかの多孔性金属錯体が好ましい。さらに多孔性金属錯体の水分吸着率が、温度30℃、相対湿度60%の条件において、5重量%〜50重量%であることが好ましい。中でも、多孔性金属錯体形成時の化合物の湿熱 安定性が良い点や、温度30℃、相対湿度60%の条件において、水分吸着率が5重量%〜50重量%であり貴金属触媒との親和性が高い点で、Alと1,4−ナフタレンジカルボン酸、Tiと2−アミノテレフタル酸の組み合わせで構成させる、いずれかの多孔性金属錯体を使用するとアルデヒド類分解性能が高くなり好ましい。
【0021】
多孔性金属錯体の金属としては、周期表第2族、第4族、第7〜第14族に分類される金属の使用が好ましい。中でも、Mg、Ca、Sr、Baの第2族元素;Ti、Zrの第4族元素;Mn、Reの第7族元素;Fe、Ru、Osの第8族元素;Co、Rh、Irの第9族元素;Ni、Pd、Ptの第10族元素;Cu、Ag、Auの第11族元素;Zn、Cd、Hgの第12族元素;Al、Ga、In、Tlの第13族元素;B、Si、Ge、Sn、Pbの第14族元素が好ましく、さらに好ましくは第4族、第9族〜第14族の元素であり、中でも本発明には多孔性金属錯体形成時の化合物の湿熱安定性が良く、環境影響が低い金属であることから、Al、Tiの使用が最適である。
【0022】
また有機配位子としては、二座以上で配位可能な有機配位子を少なくとも一種使用することが望ましい。二座以上で配位可能な有機配位子としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2−アミノテレフタル酸、2,5−ジアミノテレフタル酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、フマル酸、マロン酸、アジピン酸等のジカルボン酸及びその誘導体;ビフェニル−3,4’,5−トリカルボン酸、1,3,5−トリス(4’−カルボキシ[1,1’−ビフェニル]−4−イル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸等のトリカルボン酸及びその誘導体;p−テルフェニル−3,3’,5,5’−テトラカルボン酸〔別名称:5,5’−(1,4−フェニレン)ビスイソフタル酸〕、1,2,4,5−テトラキス(4−カルボキシフェニル)ベンゼン等のテトラカルボン酸及びその誘導体;イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−アミノイミダゾール硫酸塩、2−フェニルイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール等のイミダゾール類及びその誘導体;4,4’−ビピラゾレート、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビピラゾレート、1,3,5−トリス(1H−1,2−ピラゾール−4−イル)ベンゼン等のピラゾール類及びその誘導体;1,3,5−トリス(1H−1,2,3−トリアゾール−5−イル)ベンゼン等のトリアゾール類及びその誘導体;5,5’−ビステトラゾール、5,5’−アゾビス−1H−テトラゾール、1,3,5−トリス(2H−テトラゾール−5−イル)ベンゼン等のテトラゾール類及びその誘導体;2−アミノピラジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、4,4’−ビピリジン等のピリジン類及びその誘導体;2−アミノピリミジン、4−アミノピリミジン、5−アミノピリミジン、2,4−ジアミノピリミジン、2,4,6−トリアミノピリミジン等のピリミジン類及びその誘導体;トリアジン、メラミン等のトリアジン類及びその誘導体;トリエチレンジアミン、アデニン、2−アミノイソニコチン酸等が挙げられる。中でも本発明には、多孔性金属錯体を形成した際に、最適な水分吸着率が得られる為1,4−ナフタレンジカルボン酸、2-アミノテレフタル酸の使用が好ましい。
【0023】
これらの多孔性金属錯体は、金属と有機配位子を溶液中、約−10℃〜200℃、120時間以下で反応させることにより製造できる。0℃〜約170℃、48時間以下の反応で製造できることがより好ましく、25℃〜150℃で24時間反応させることで製造できることがさらに好ましい。温度が低く反応時間が短いほど、熱エネルギーを削減できるため、望ましい。
【0024】
また、これらの多孔性金属錯体は、温度30℃、相対湿度60%の条件において、水分吸着率が5重量%〜50重量%であることが好ましい。親水性表面を有する多孔性金属錯体を用いることにより、貴金属触媒との親和性が高め、貴金属触媒をより高分散に担持することができる。結果として、吸着した有機ガスによる被毒の影響が小さく、長寿命、かつ、低温におけるアルデヒド類ガスの高い除去性能を実現できるのである。
【0025】
貴金属触媒としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金からなる群から選択される少なくとも一種類以上の貴金属を含有することが好ましい。その中でも、白金やパラジウムは触媒活性が高いため、少なくとも白金、もしくは、パラジウムが含有されることが好ましい。前記貴金属触媒の多孔性金属錯体への担持状態は特に定めるわけではなく、金属元素、金属酸化物、金属水酸化物、金属錯体等のいずれでもよい。また、前記貴金属触媒には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、銀、金等の遷移金属が含有されてもよい。これらの貴金属触媒は、低温でアルデヒド類ガスを吸着するために用いて好適だからである。
【0026】
貴金属触媒の担持量は、特に規定しないが、50重量%以下であることが好ましい。より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、さらに 好ましくは2重量%以下である。担持量が少ないほど、金属触媒をより小さく、高分散状態で担持できるため、高い性能が得られる。また、50重量%より多ければ、担持貴金属触媒による多孔性金属錯体の細孔閉塞が生じ、十分な除去性能を実現することができなくなるからである。
【0027】
貴金属触媒の担持方法に関しては、特に限定されないが、半乾燥担持法、沈殿担持法、溶媒蒸発法、平衡吸着法、イオン交換法等の従来公知の手法を用いることができるが、高分散担持の観点から、平衡吸着法が好ましい。また、クエン酸を添加することにより、クエン酸と貴金属触媒を競争的に吸着させ、より高分散化するという手法を用いることができる。平衡吸着法等で金属塩を多孔性金属錯体に吸着させた後に、還元処理を施してもよい。還元方法に関しては特に定めないが、水素気流下での高温焼成による還元、水素化ホウ素ナトリウムや水素化アルミニウムリチウム等による液相還元等を用いることができる。高分散担持という観点から、低温での液相還元が好ましい。
【0028】
貴金属触媒の平均粒子径に関しては、表面積増加により活性を上げるため、10nm以下であることが好ましく、より好ましくは8nm以下、さらに好ましくは6nm以下である。なお、平均粒子径の測定方法については、実施例の欄に詳述する。
【0029】
本発明により得られるガス分解材は、長期に渡って、アルデヒド類除去性能に優れるため、分解材として用いることにより、建物の室内や自動車の車内で発生するアルデヒド量を低減することができる。また、これらの用途に限定されず、化学品・電気機械器具の製造工場や自動車等からの排気ガスに含まれるアルデヒド類を低減する目的で広く用いることができる。さらに、本発明のガス分解材をフィルタ等に担持させることでアルデヒド類除去フィルタとしても使用可能である。アルデヒド類除去フィルタを空気清浄機等に搭載することにより、建物の室内や自動車の車内等のアルデヒド量を簡便に低減することができる。また、化学工業や電気機械器具製造業の事業所に設置することにより、大気へのアルデヒド類排出を抑制することができる。なお、本アルデヒド類除去フィルタの形状については特に限定しない。例えば、平面状、プリーツ状、ハニカム状に加工するという製造方法が好ましい。プリーツ状は直行流型フィルタとしての使用において、また、ハニカム状は平行流型フィルタとしての使用において、処理する気体との接触面積を大きくして除去効率を向上させるとともに、脱臭フィルタの低圧損化を同時に図ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、実施例及び比較例中における分析または評価は、以下のようにして行った。
【0031】
<粉末X線回折測定>
合成した多孔性金属錯体について、粉末X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製「NEW D8 ADVANCE」)を用いて、対称反射法で測定した。測定条件を以下に示す。
1)X線源:CuKα(λ=1.5418Å)40kV 200mA
2)ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
3)検出器:シンチレーションカウンター
4)回折角(2θ)範囲:3〜90°
5)スキャンステップ:0.05°
6)積算時間:0.5秒/ステップ
7)スリット:発散スリット=0.5°、受光スリット=0.15mm、散乱スリット=0.5°
【0032】
<窒素・二酸化炭素吸着測定>
<比表面積、細孔容積測定>
多孔性金属錯体サンプルを約100mg採取し、120℃で12時間真空乾燥した後、秤量した。高機能比表面積/細孔分布測定装置(Micromeritics社製「ASAP2020」)または自動比表面積/細孔分布測定装置(日本BEL株式会社製「BELSORP−miniII」)を使用し、液体窒素の沸点(−195.8℃)における窒素ガスまたは固形二酸化炭素の昇華点(−78.5℃)における二酸化炭素ガスの吸着量を相対圧が0.02〜0.95の範囲で徐々に高めながら40点測定し、前記サンプルの吸着等温線を作製した。解析ソフトウェア(Micromeritics社製「ASAP 2020 V3.04」)または日本BEL株式会社製「BELMasterTM」)を用い、相対圧0.02〜0.15での結果をBETプロットし、重量当たりのBET比表面積(m/g)を求めた。また、相対圧0.95のデータより全細孔容積[cc/g]を求めた。
【0033】
<水分吸着率測定>
多孔性金属錯体を120℃で12時間真空乾燥し、吸着水などを除去した。これをサンプル管に入れ重量を測定し、温度30℃、相対湿度60%に設定した恒温恒湿器(ナガノサイエンス株式会社製、LH33−12P)中、3時間静置した後の重量を測定した。水分吸着率は、下記式(i);
水分吸着率(%)={(3時間静置後の重量−3時間静置前の重量)/(3時間静置前の重量)}×100 ・・・(i)
に基づき算出した。
【0034】
<透過型電子顕微鏡(TEM)観察>
透過型電子顕微鏡(日立製作所製「HT7700」)を用いて、得られた貴金属担持多孔性金属錯体を観察した。
【0035】
<平均粒子径の測定方法>
貴金属触媒の粒子径は、前記TEM観察の結果を基に測定した。任意の100個の貴金属触媒の粒子径の平均値を平均粒子径とした。
【0036】
<アルデヒド類ガス流通系試験>
多孔性金属錯体0.088ccをカラムに充填し、試験ガスを0.2L/minで流通させた。試料の入口・出口でのガス濃度を、一定時間毎にホルムアルデメータhtV(株式会社ジェイエムエス)を用いて測定し、その比から除去率を算出した。ホルムアルデヒド供給量(濃度、流量、温度から計算)に対する除去率の曲線を積分することにより、ホルムアルデヒド除去量[mg]を求め、これを試料の重量で割ることにより、除去容量[mg/g]を算出した。この除去容量が10mg/gの時の除去率を求めた。なお、試料としては、120℃で12時間真空乾燥し、吸着物質を除去したものを使用した。評価条件の詳細を以下に示す。
1)測定雰囲気:25℃、50%RH空気下
2)圧力:常圧
3)試験ガス組成:ホルムアルデヒド濃度3ppm(25℃、50%RH空気希釈)
4)空間速度:1,350,000hr−1
5)平均粒子径:1〜5μm
【0037】
<実施例1>
≪多孔性金属錯体への0.1重量%Ptの担持≫
Alと1,4−ナフタレンジカルボン酸から形成された多孔性金属錯体Al(OH)(1,4−NDC)・2HOを、DMF中、120℃で合成した。得られた多孔性金属錯体について、粉末X線回折測定により同定し、二酸化炭素吸着測定により物性評価を行った。BET比表面積は350m/gであった。水分吸着測定の結果、水分吸着率は20.1重量%であった。この多孔性金属錯体を120℃で12時間真空乾燥させ、室温まで放冷した。この多孔性金属錯体1gをメタノール40mlに分散させ、ここへHPtCl・6HO2.6mgを含むメタノール溶液1mlを加えた。一晩攪拌した後、NaBH3mgを含むメタノール溶液1mlを滴下し、2時間攪拌を行った。得られた溶液をろ過し、固体をメタノールで洗浄した後、120℃で真空乾燥を行い、Ptが0.1重量%担持された貴金属担持多孔性金属錯体を得た(802mg、収率80%)。粉末X線回折測定及びTEM観察を行った。粉末X線回折測定からは、Ptのパターンが観測されなかったが、TEM観察により、2〜5nmのPt粒子が高分散状態で担持されている様子が観察された。TEM像を図1に示す。この貴金属担持多孔性金属錯体を用い、アルデヒド類ガス流通系試験を行った。結果を表1に示す。
【0038】
<実施例2>
≪多孔性金属錯体への1重量%Ptの担持≫
実施例1で合成した多孔性金属錯体Al(OH)(1,4−NDC)・2HO1gをメタノール40mlに分散させ、ここへHPtCl・6HO26mgを含むメタノール溶液5mlを加えた。一晩攪拌した後、NaBH24mgを含むメタノール溶液2mlを滴下し、2時間攪拌を行った。得られた溶液をろ過し、固体をメタノールで洗浄した後、120℃で真空乾燥を行い、Ptが1重量%担持された貴金属担持多孔性金属錯体を得た(1.0g、収率98%)。粉末X線回折測定及びTEM観察を行った。粉末X線回折測定からは、Ptのパターンが観測されなかったが、TEM観察により、2〜5nmのPt粒子が高分散状態で担持されている様子が観察された。TEM像を図2に示す。この貴金属担持多孔性金属錯体を用い、アルデヒド類ガス流通系試験を行った。結果を表1に示す。
【0039】
<実施例3>
≪多孔性金属錯体への0.1重量%Pdの担持≫
実施例1で合成した多孔性金属錯体Al(OH)(1,4−NDC)・2HO1gをメタノール40mlに分散させ、ここへPd(NO2.2mgを含むメタノール溶液3mlを加えた。一晩攪拌した後、NaBH3.3mgを含むメタノール溶液1mlを滴下し、2時間攪拌を行った。得られた溶液をろ過し、固体をメタノールで洗浄した後、120℃で真空乾燥を行い、Pdが0.1重量%担持された貴金属担持多孔性金属錯体を得た(1.0g、収率100%)。粉末X線回折測定を行ったところ、Pdのパターンが観測されなかったことから、Pd粒子は微粒子化しているといえる。この貴金属担持多孔性金属錯体を用い、アルデヒド類ガス流通系試験を行った。結果を表1に示す。
【0040】
<実施例4>
≪多孔性金属錯体への1重量%Pdの担持≫
実施例1で合成した多孔性金属錯体Al(OH)(1,4−NDC)・2HO1gをメタノール40mlに分散させ、ここへPd(NO21mgを含む水溶液2mlを加えた。一晩攪拌した後、NaBH30mgを含む水溶液1mlを滴下し、2時間攪拌を行った。得られた溶液をろ過し、固体をメタノールで洗浄した後、120℃で真空乾燥を行い、Pdが1重量%担持された貴金属担持多孔性金属錯体を得た(1.1g、収率100%)。粉末X線回折測定を行ったところ、Pdのパターンが観測されなかったことから、Pd粒子は微粒子化しているといえる。この貴金属担持多孔性金属錯体を用い、アルデヒド類ガス流通系試験を行った。結果を表1に示す。
【0041】
<実施例5>
≪多孔性金属錯体への0.1重量%Agの担持≫
実施例1で合成した多孔性金属錯体Al(OH)(1,4−NDC)・2HO1gをメタノール30mlに分散させ、ここへAgNO1.6mgを含むメタノール溶液1mlを加えた。一晩攪拌した後、NaBH3mgを含むメタノール溶液1mlを滴下し、2時間攪拌を行った。得られた溶液をろ過し、固体をメタノールで洗浄した後、120℃で真空乾燥を行い、Agが0.1重量%担持された貴金属担持多孔性金属錯体を得た(947mg、収率95%)。粉末X線回折測定を行ったところ、Agのパターンが観測されなかったことから、Ag粒子は微粒子化しているといえる。この貴金属担持多孔性金属錯体を用い、アルデヒド類ガス流通系試験を行った。結果を表1に示す。
【0042】
<実施例6>
≪多孔性金属錯体への0.1重量%Ptの担持≫
Tiと2−アミノテレフタル酸から形成された多孔性金属錯体MIL−125−NHを、DMF中、150℃で18時間合成した。得られた多孔性金属錯体について、粉末X線回折測定により同定し、窒素吸着測定により物性評価を行った。BET比表面積は1426m/gであった。水分吸着測定の結果、水分吸着率は36.2重量%であった。この多孔性金属錯体を120℃で12時間真空乾燥させ、室温まで放冷した。この多孔性金属錯体0.1gをメタノール5mlに分散させ、ここへ10mM HPtCl・6HOメタノール溶液0.05mlを加えた。一晩攪拌した後、NaBH1mgを含むメタノール溶液0.3mlを滴下し、2時間攪拌を行った。得られた溶液をろ過し、固体をメタノールで洗浄した後、120℃で真空乾燥を行い、Ptが0.1重量%担持された貴金属担持多孔性金属錯体を得た(101mg、収率100%)。粉末X線回折測定を行ったところ、Ptのパターンが観測されなかったことから、Pt粒子は微粒子化しているといえる。この貴金属担持多孔性金属錯体を用い、アルデヒド類ガス流通系試験を行った。結果を表1に示す。
【0043】
<比較例1>
≪活性炭への0.1重量%Ptの担持≫
ヤシガラ系活性炭(BET比表面積1500m/g、細孔容積0.7cc/g)1gをメタノール40mlに分散させ、ここへHPtCl・6HO2.6mgを含むメタノール溶液1mlを加えた。一晩攪拌した後、NaBH3mgを含むメタノール溶液1mlを滴下し、2時間攪拌を行った。得られた溶液をろ過し、固体をメタノールで洗浄した後、120℃で真空乾燥を行い、Ptが0.1重量%担持された貴金属担持多孔性金属錯体を得た(996mg、収率99%)。TEM観察により、12〜15nmのPt粒子が状態で担持されている様子が観察された。TEM像を図3に示す。この貴金属担持多孔性金属錯体を用い、アルデヒド類ガス流通系試験を行った。結果を表1に示す。
【0044】
<比較例2>
≪多孔性金属錯体への0.1重量%Ptの担持≫
Znと2−メチルイミダゾールから形成された多孔性金属錯体(BASF社製「Basolite(登録商標)Z1200」)について、粉末X線回折測定により同定し、窒素吸着測定により物性評価を行った。BET比表面積は1490m/gであった。水分吸着測定の結果、水分吸着率は1.8重量%であった。この多孔性金属錯体を120℃で12時間真空乾燥させ、室温まで放冷した。この多孔性金属錯体1gをメタノール40mlに分散させ、ここへHPtCl・6HO2.6mgを含むメタノール溶液1mlを加えた。一晩攪拌した後、NaBH3mgを含むメタノール溶液1mlを滴下し、2時間攪拌を行った。得られた溶液をろ過し、固体をメタノールで洗浄した後、120℃で真空乾燥を行い、Ptが0.1重量%担持された貴金属担持多孔性金属錯体を得た(1.01g、収率100%)。粉末X線回折測定を行ったところ、Ptのパターンが観測されなかったことから、Ptは微粒子化しているといえる。この貴金属担持多孔性金属錯体を用い、アルデヒド類ガス流通系試験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
<比較例3>
≪多孔性金属錯体への0.1重量%Cuの担持≫
実施例1で合成した多孔性金属錯体Al(OH)(1,4−NDC)・2HO1gをメタノール30mlに分散させ、ここへCu(NO・3HO3.8mgを含むメタノール溶液1mlを加えた。一晩攪拌した後、NaBH3mgを含むメタノール溶液1mlを滴下し、2時間攪拌を行った。得られた溶液をろ過し、固体をメタノールで洗浄した後、120℃で真空乾燥を行い、Cuが0.1重量%担持された金属担持多孔性金属錯体を得た(978mg、収率98%)。粉末X線回折測定を行った。粉末X線回折測定からは、Cuのパターンが観測されなかったことから、Cu粒子は微粒子化しているといえる。この金属担持多孔性金属錯体を用い、アルデヒド類ガス流通系試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の長寿命のアルデヒド類除去材によれば、室内や車内の浄化により、より快適な空間を提供し、シックハウス症候群等の疾病を減少させることができると期待される。また、大気中へ放出されるアルデヒド類を低減させられるため、環境汚染の抑制に寄与することができる。さらに多孔性金属錯体を用いることで活性炭やシリカ、アルミナ等の代替が可能となることから、製造時のエネルギー削減にも大きな効果をもたらし、環境負荷低減に大きく寄与することができる。加えて、貴金属使用量が少ない場合でも高い除去性能を発現できることから、資源の枯渇を抑制することができる。
図1
図2
図3