(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、空間に電波(マイクロ波等)を放射(送信)し、探知対象となる対象物(目標)からの反射波を受信することで、該目標を検出する捜索機能を備えている。また、レーダ装置には、対象物(目標)が搭載する電子機器を無力化するための妨害機能を備えた構成もある。
捜索機能では、他の装置に対する電磁干渉や相手(対象物)による電波出力の探知性を低減するために電波を低電力で送信することが望まれる。但し、その場合は、所要の捜索能力を確保するために比較的長い幅でパルス状に電波を送信する構成が一般的である。
一方、妨害機能では、安全な距離から確実に相手の電子機器に影響を与えることができるように電波を高電力で送信することが望まれる。但し、その場合は、消費電力を低減するために比較的短い幅でパルス状に電波を送信する構成が一般的である。
すなわち、捜索機能と妨害機能とでは、マイクロ波等の電波をパルス状に送信する点で共通するものの、送信機に要求される送信電力は1桁程度あるいはそれ以上異なる場合が多い。そのため、これまでのレーダ装置では捜索用と妨害用とでそれぞれ専用の送信機を備える構成が一般的であった。
【0003】
しかしながら、用途に応じて複数種類の送信機を備える構成はコストや保守作業等の増大を招くため、捜索用と妨害用の両方で利用可能な送信機が望まれている。
そのような捜索用と妨害用の両方で利用可能な送信機を備えたレーダ装置は、例えば特許文献1で提案されている。
特許文献1では、レーダ装置の捜索動作または妨害動作に応じて送信用の電力増幅器へ入力するRF(Radio Frequency)信号のパルス幅を変更し、併せて該電力増幅器へ供給する電源電圧を切替えて電力増幅器の出力電力を変更する構成が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1には、電力増幅器(特許文献1では「送信器」と記載)として「マイクロ波管」を用いることが記載されている。また、特許文献1では、該マイクロ波管に電源電圧として第1の高電圧を供給すると捜索用の電力でRF信号が出力され、該第1の高電圧よりも高い第2の高電圧を供給すると妨害用の電力でRF信号が出力されることが記載されている。しかしながら、特許文献1では、電源電圧を切替えることで出力電力の変更を可能にする、該電源電圧を印加するマイクロ波管の電極やその動作等について何も示していない。
捜索用と妨害用の両方で利用可能な送信機を実現する場合、上記マイクロ波管としては、一般にヘリックス型進行波管(以下、単に「進行波管」と称す)が用いられる。その場合、進行波管から出力するRF信号の電力は、該進行波管に供給するアノード電圧によって制御できる。
【0006】
しかしながら、進行波管は、アノード電圧を変化させると、入出力対象であるRF信号の小信号利得(以下、単に「利得」と称す場合がある)も変化することが知られている。
図7は、進行波管の飽和出力電力に対する小信号利得の変化の一例を示すグラフである。
図7では、進行波管のアノード電圧を最大に設定した時の飽和出力電力を基準に、アノード電圧を低下させて飽和出力電力を低下させた時の利得低下量の例を示している。
図7に示すように、例えば進行波管に供給するアノード電圧を低下させて飽和出力電力を1/2(−3dB)に低下させると、該進行波管の利得は約20dB低下する。このように、進行波管では、アノード電圧によって飽和出力電力を変化させると、該飽和出力電力の変化と比べて利得が大きく変動してしまう。特に、上述した捜索用及び妨害用の両方で利用可能な送信機に進行波管を用いる場合、出力電力を1桁程度あるいはそれ以上変化させるため、進行波管の利得の変動量も非常に大きくなる。
【0007】
したがって、電力増幅器として進行波管を用い、アノード電圧で出力電力を制御する構成では、出力電力を変化させると、該電力増幅器に入力するRF信号の電力も変化させる必要がある。そのため、該RF信号を生成して電力増幅器へ供給する励振器の出力段、または電力増幅器の入力段に、例えば多段の前置増幅器等を設ける必要がある。
よって、励振器あるいは電力増幅器の構成が複雑になり、レーダ装置のコストが増大してしまう。特に、アレイ状に配置された複数のアンテナ装置を備えるフェーズドアレイレーダ装置では、各アンテナ装置に対応して複数の電力増幅器を設けるため、レーダ装置のコストがさらに増大してしまう。
【0008】
本発明は上述したような背景技術の問題を解決するためになされたものであり、レーダ装置のコストの低減に寄与する、捜索用及び妨害用の両方で利用可能な送信機、該送信機を備えるレーダ装置及び送信電力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明の送信機は、外部から入力されたRF(Radio Frequency)信号をパルス状に変換するための変調回路と、
前記変調回路から出力されたRF信号を所要の送信用の電力まで増幅する、マイクロ波用電子管を備えた電力増幅器と、
外部から第1モードが指定されると、前記RF信号を予め設定された捜索用の第1のパルス幅に変換するための第1のパルス変調信号を前記変調回路に供給すると共に、前記電力増幅器から予め設定された捜索用電力で前記RF信号を出力させるための第1のアノード電圧及び第1のヘリックス電圧を前記マイクロ波用電子管に供給し、
外部から第2モードが指定されると、前記RF信号を前記第1のパルス幅よりも短い予め設定された妨害用の第2のパルス幅に変換するための第2のパルス変調信号を前記変調回路に供給すると共に、前記電力増幅器から前記捜索用電力よりも高い予め設定された妨害用電力で前記RF信号を出力させるための第2のアノード電圧及び第2のヘリックス電圧を前記マイクロ波用電子管に供給する送信電力切替器と、
を有し、 前記送信電力切替器は、
前記第1モード時、前記マイクロ波用電子管に前記第1のアノード電圧が供給された状態おいて、前記RF信号に対して最大の小信号利得である第1利得が得られるように設定された第1のヘリックス電圧を前記マイクロ波用電子管に供給し、
前記第2モード時、前記マイクロ波用電子管に前記第2のアノード電圧が供給された状態おいて、
前記RF信号に対して最大の小信号利得よりも低い小信号利得である第2利得が得られるように、前記最大の小信号利得が得られるヘリックス電圧よりも高い値に設定された前記第2のヘリックス電圧を前記マイクロ波用電子管に供給する構成である。
【0010】
また、本発明のレーダ装置は、上述した送信機と、
前記捜索用及び前記妨害用に用いる所要の種信号となるRF信号を生成して前記送信機へ供給する励振器と、
送信動作時に前記送信機から出力されたRF信号を電波に変えて空間へ放射し、受信動作時に電波を受信してRF信号に変換する空中線と、
前記空中線で受信されたRF信号に所定の処理を施す受信機と、
送信動作時に前記送信機から出力されたRF信号を前記空中線へ供給し、受信動作時に前記空中線で受信されたRF信号を前記受信機へ出力する送受切替器と、
を有する。
または、
本発明のレーダ装置は、アレイ状に配置された複数の空中線と、
上述した送信機、前記空中線で受信されたRF信号に所定の処理を施す受信機、並びに送信動作時に前記送信機から出力されたRF信号を前記空中線へ供給し、受信動作時に前記空中線で受信されたRF信号を前記受信機へ出力する送受切替器を備えた複数の送受信モジュールと、
前記捜索用及び前記妨害用に用いる所要の種信号となるRF信号を生成して前記送信機へ供給する励振器と、
を有し、
複数の空中線に前記送受信モジュールがそれぞれ個別に接続された構成である。
【0011】
一方、本発明の送信電力制御方法は、外部から入力されたRF(Radio Frequency)信号をパルス状に変換するための変調回路と、
前記変調回路から出力されたRF信号を所要の送信用の電力まで増幅する、マイクロ波用電子管を備えた電力増幅器と、
を備えた送信機による送信電力制御方法であって、
外部から第1モードが指定されると、前記RF信号を予め設定された捜索用の第1のパルス幅に変換するための第1のパルス変調信号を前記変調回路に供給すると共に、前記電力増幅器から予め設定された捜索用電力で前記RF信号を出力させるための第1のアノード電圧及び第1のヘリックス電圧を前記マイクロ波用電子管に供給し、
外部から第2モードが指定されると、前記RF信号を前記第1のパルス幅よりも短い予め設定された妨害用の第2のパルス幅に変換するための第2のパルス変調信号を前記変調回路に供給すると共に、前記電力増幅器から前記捜索用電力よりも高い予め設定された妨害用電力で前記RF信号を出力させるための第2のアノード電圧及び第2のヘリックス電圧を前記マイクロ波用電子管に供給し、 前記第1モード時、前記マイクロ波用電子管に前記第1のアノード電圧が供給された状態おいて、前記第1のヘリックス電圧を、前記RF信号に対して最大の小信号利得である第1利得が得られる値に設定し、
前記第2モード時、前記マイクロ波用電子管に前記第2のアノード電圧が供給された状態おいて、前記第2のヘリックス電圧を、
前記RF信号に対して最大の小信号利得よりも低い小信号利得である第2利得が得られるように、前記最大の小信号利得が得られるヘリックス電圧よりも高い値に設定する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レーダ装置のコストを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明について図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の送信機の一構成例を示すブロック図である。
図2は、第1の実施の形態のレーダ装置の一構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、第1の実施の形態の送信機は、外部から入力されたRF信号(種信号)をパルス状に変換する変調回路32と、変調回路32から出力されたRF信号を所要の送信用の電力まで増幅する電力増幅器3と、捜索動作または妨害動作に応じて、変調回路32に入力されたRF信号を異なるパルス幅の信号に変換するためのパルス変調信号を生成すると共に、電力増幅器3に対して、予め設定された捜索用電力または妨害用電力で出力させるための電源電圧を供給する送信電力切替器20とを有する構成である。
変調回路32は、送信電力切替器20から供給されるパルス変調信号を用いて、外部から入力されたRF信号(種信号)をパルス状に変換する。RF信号は、例えば周知のミキサ回路を用いてパルス状に変換すればよい。
電力増幅器3は、例えば進行波管を備えた構成である。電力増幅器3は、進行波管に限らず、例えばクライストロン等のその他の電力増幅用のマイクロ波用電子管を備えていてもよい。電力増幅器3のRF入力には、入力されたRF信号を増幅する前置増幅器を備えていてもよい。
送信電力切替器20は、パルス切替器6、第1のパルス変調器7、第2のパルス変調器8、アノード電圧切替器9、第1のアノード高圧電源10、第2のアノード高圧電源11、ヘリックス電圧切替器12、第1のヘリックス高圧電源13及び第2のヘリックス高圧電源14を備えている。
第1のパルス変調器7は、変調回路32に入力されたRF信号を予め設定された捜索用のパルス幅(第1のパルス幅)に変換するためのパルス変調信号(以下、第1のパルス変調信号と称す)を生成して出力する。
第2のパルス変調器8は、変調回路32に入力されたRF信号を、捜索用の信号よりもパルス幅が短い、予め設定された妨害用のパルス幅(第2のパルス幅)に変換するための第2のパルス変調信号を生成して出力する。
パルス切替器6は、後述するタイミング制御器1から供給される制御信号にしたがって、第1のパルス変調信号または第2のパルス変調信号のいずれか一方を変調回路32へ供給するスイッチである。
第1のアノード高圧電源10は、進行波管に所要の捜索用のアノード電圧(以下、第1のアノード電圧と称す)を生成して出力する。
第2のアノード高圧電源11は、進行波管に、捜索用のアノード電圧よりも高い所要の妨害用のアノード電圧(以下、第2のアノード電圧と称す)を生成して出力する。
アノード電圧切替器9は、後述するタイミング制御器1から供給される制御信号にしたがって第1のアノード電圧または第2のアノード電圧のいずれか一方を進行波管へ供給するスイッチである。
第1のヘリックス高圧電源13は、進行波管に所要の捜索用のヘリックス電圧(以下、第1のヘリックス電圧と称す)を生成して出力する。
第2のヘリックス高圧電源14は、進行波管に、捜索用のヘリックス電圧よりも高い所要の妨害用のヘリックス電圧(以下、第2のヘリックス電圧と称す)を生成して出力する。
ヘリックス電圧切替器12は、後述するタイミング制御器1からの制御信号にしたがって、第1のヘリックス電圧または第2のヘリックス電圧のいずれか一方を進行波管へ供給するスイッチである。
なお、進行波管の構成や該進行波管へ所要の高電圧を供給する電源装置の構成例については、例えば特開2012−216461号公報等に記載されている。
【0015】
図2に示すように、第1の実施の形態のレーダ装置は、タイミング制御器1、励振器2、送信機30、送受切替器4、空中線5、受信機31及び操作器19を有する構成である。
図2に示す送信機30には、
図1に示した送信機が用いられる。
操作器19は、レーダ装置の操作者による、捜索動作や妨害動作の指示入力に用いられる入力装置である。以下では、レーダ装置における捜索動作モードを第1モードと称し、レーダ装置における妨害動作モードを第2モードと称す。本発明のレーダ装置は、特許文献1に記載された背景技術のレーダ装置と同様に、捜索及び妨害の両方の動作が可能な構成である。
タイミング制御器1は、レーダ装置全体の動作タイミングを制御する装置であり、例えば周知の情報処理装置(コンピュータ)あるいは情報処理用のIC(Integrated Circuit)で実現される。タイミング制御器1は、操作器19を介して操作者から第1または第2モードが指定されると、パルス切替器6、アノード電圧切替器9及びヘリックス電圧切替器12へそれぞれの動作を制御するための制御信号を出力する。
励振器2は、捜索用及び妨害用に用いる所要のRF信号(種信号)を生成する周知の発振回路で構成される。励振器2には発振回路の出力信号を増幅するための前置増幅器等を備えていてもよい。
空中線5は、レーダ装置の送信動作時は入力されたRF信号を電波に変換して空間へ放射し、レーダ装置の受信動作時は対象物(目標)からの反射波等の電波を受信してRF信号に変換するアンテナ装置である。
送受切替器4は、レーダ装置の送信動作時は電力増幅器3から出力された増幅後のRF信号を空中線5へ供給し、レーダ装置の受信動作時は空中線5で受信された受信信号(RF信号)を受信機31へ出力する。送受切替器4の切替動作は、レーダ装置の送信動作または受信動作に合わせてタイミング制御器1により制御される。
受信機31は、空中線5で受信されたRF信号に所定の処理を施す装置であり、前置受信器18、信号処理器17、データ処理器16及び表示制御器15を備えている。
前置受信器18は、空中線5及び送受切替器4を介して受信した受信信号(RF信号)を増幅し、増幅後のRF信号をI(Intermediate Frequency)信号に変換する。
信号処理器17は、前置受信器
18から出力されたIF信号からドップラ情報を抽出すると共に、不要信号の除去処理や探知対象である目標信号の抽出処理等を実行する。
データ処理器16は、信号処理器17の出力信号から目標(探知対象)の方位を求める演算処理や目標の航跡追尾処理等を実行する。
表示制御器15は、データ処理器16の処理結果や地図等の情報を不図示の表示装置に表示させる。
【0016】
このような構成において、本実施形態の送信機は、レーダ装置の捜索動作(第1モード)時、タイミング制御器1からの制御信号にしたがってパルス切替器6により第1のパルス変調信号を変調回路32へ供給する。さらに、アノード電圧切替器9により第1のアノード電圧を電力増幅器3が備える進行波管へ供給し、ヘリックス電圧切替器12により第1のヘリックス電圧を進行波管へ供給する。
一方、レーダ装置の妨害動作(第2モード)時、タイミング制御器1からの制御信号にしたがってパルス切替器6により第2のパルス変調信号を変調回路32へ供給する。さらに、アノード電圧切替器9により第2のアノード電圧を電力増幅器3が備える進行波管へ供給し、ヘリックス電圧切替器12により第2のヘリックス電圧を進行波管へ供給する。
【0017】
以下、第1のアノード電圧及び第2のアノード電圧、並びに第1のヘリックス電圧及び第2のヘリックス電圧の設定方法について図面を用いて説明する。
図3はヘリックス電圧に対する進行波管の小信号利得の特性例を示すグラフであり、
図4はヘリックス電圧に対する進行波管の飽和出力電力の特性例を示すグラフである。
図3及び
図4では、進行波管に第1のアノード電圧が供給される場合と第2のアノード電圧が供給される場合の特性例をそれぞれ示している。また、
図3及び
図4では、進行波管に第1のアノード電圧が供給された状態を「第1のアノード高圧電源設定」と称し、第2のアノード電圧が供給された状態を「第2のアノード高圧電源設定」と称している。さらに、
図3及び
図4では、進行波管に第1のヘリックス電圧が供給された状態を「第1のヘリックス高圧電源設定」と称し、第2のヘリックス電圧が供給された状態を「第2のヘリックス高圧電源設定」と称している。
図3に示すように、進行波管では、ヘリックス電圧が変化すると、小信号利得も変化し、第1のアノード高圧電源設定時と第2のアノード高圧電源設定時とで小信号利得が最大となるヘリックス電圧が異なる。また、
図4に示すように、第1のアノード高圧電源設定時及び第2のアノード高圧電源設定時共に、ヘリックス電圧が高くなると飽和出力電力も高くなる。
本実施形態の送信機では、第1のアノード電圧を進行波管から所要の捜索用の電力が出力される値に設定し、第2のアノード電圧を進行波管から所要の妨害用の電力が出力される、第1のアノード電圧よりも高い値に設定する。
また、本実施形態の送信機では、第1のアノード高圧電源設定時において、小信号利得が最大となるように第1のヘリックス電圧を設定し、第2のアノード高圧電源設定時において、小信号利得が最大値よりも低下するように第2のヘリックス電圧を設定する。
【0018】
このように第1のヘッリクス電圧及び第2のヘリックス電圧を設定することで、捜索時と妨害時における電力増幅器3(進行波管)の利得差を低減できる。特に、第2のアノード高圧電源設定時において、第1のアノード高圧電源設定時における小信号利得との差が零(0)となるように第2のヘリックス電圧を設定すれば、捜索時及び妨害時における進行波管の利得差を無くすことができる。なお、第2のヘリックス電圧は、小信号利得が最大となるヘリックス電圧よりも高い値に設定する。
ここで、捜索時と妨害時における利得差が零(0)、すなわち捜索時と妨害時における利得が等しくなるように第2のヘリックス電圧を高い値に設定すると、妨害動作(第2モード)時における進行波管の動作効率が低下する。これは、小信号利得が最大値よりも低下するように第2のヘリックス電圧を設定するため、進行波管の増幅能力を最大限に利用していないことに起因する。
しかしながら、上述したように第2モードでは、電力増幅器3(進行波管)の増幅対象が幅の短いパルス状のRF信号であるため、進行波管の動作効率が低下してもレーダ装置全体の動作効率にはほとんど影響しない。
なお、電力増幅器3(進行波管)には、レーダ装置として許容できる範囲内で、捜索時と妨害時とで利得(小信号利得)に差を設けてもよい。例えば、励振器2の出力または電力増幅器3の入力に1段あるいは2段程度の前置増幅器を設けることが許容される場合、該前置増幅器の利得に相当する利得差を設けてもよい。
図3及び
図4では、捜索時と妨害時における出力電力の差が10dB程度のとき、利得差が14dB程度に抑制された例を示している。
すなわち、第1のヘリックス電圧は最大の小信号利得である第1利得が得られるように設定し、第2のヘリックス電圧は上記第1利得との利得差が許容範囲内となる小信号利得である第2利得が得られるように設定すればよい。
【0019】
次に、
図2に示した第1の実施の形態のレーダ装置の動作について説明する。
まず、レーダ装置の送信動作時、タイミング制御器1は送受切替器4により電力増幅器3と空中線5とを接続させる。変調回路32には、タイミング制御器1で生成されたタイミング信号に同期して励振器2で生成されたRF信号が入力される。また、変調回路32には、操作者が指定した動作モード(第1モードまたは第2モード)に応じて、第1または第2のパルス変調信号が入力される。
電力増幅器3には、タイミング制御器1で生成されたタイミング信号に同期して、第1または第2のアノード電圧が供給され、第1または第2のヘリックス電圧が供給される。
変調回路32は、第1または第2のパルス変調信号を用いて動作モードに対応したパルス状のRF信号に変換する。電力増幅器3は、変調回路32から出力されたパルス状のRF信号を、予め設定された所要の電力まで増幅する。電力増幅器3から出力されたRF信号は、送受切替器4を介して空中線5から送信される。
ここで、変調回路32へ入力するパルス変調信号、並びに電力増幅器3に供給する電源電圧の切替は以下の手順で実施される。
まず、操作者が操作器19を介して捜索動作モード(第1モード)を指定すると、タイミング制御器1は、アノード高圧切替器9、ヘリックス高圧切替器12及びパルス切替器6にそれぞれ第1モード用の制御信号を出力する。
パルス切替器6は、第1のパルス変調器7で生成された第1のパルス変調信号を変調回路32へ供給する。また、アノード電圧切替器9は第1のアノード高圧電源10で生成された第1のアノード電圧を電力増幅器3へ供給し、ヘリックス電圧切替器12は第1のヘリックス高圧電源13で生成された第1のヘリックス電圧を電力増幅器3へ供給する。
変調回路32は、第1のパルス変調信号により励振器2から入力されたRF信号を幅の長いパルス状の信号に変換する。電力増幅器3は、変調回路32から出力されたパルス状のRF信号を予め設定された比較的低い捜索用の電力まで増幅して出力する。その結果、空中線5を介して低電力・長パルスの捜索用の電波が送信される(
図5参照)。
また、操作者が操作器19を介して妨害動作(第2モード)を指定すると、タイミング制御器1は、アノード高圧切替器9、ヘリックス高圧切替器12及びパルス切替器6にそれぞれ第1モード用の制御信号を出力する。
パルス切替器6は、第2のパルス変調器8で生成された第2のパルス変調信号を変調回路32へ供給する。また、アノード電圧切替器9は第2のアノード高圧電源11で生成された第2のアノード電圧を電力増幅器3へ供給し、ヘリックス電圧切替器12は第2のヘリックス高圧電源14で生成された第2のヘリックス電圧を電力増幅器3へ供給する。
変調回路32は、第2のパルス変調信号により励振器2から入力されたRF信号を幅の短いパルス状の信号に変換する。電力増幅器3は、変調回路32から出力されたパルス状のRF信号を予め設定された比較的高い妨害用の電力まで増幅して出力する。その結果、空中線5を介して高電力・短パルスの妨害用の電波が送信される(
図5参照)。
【0020】
一方、レーダ装置の受信動作時、タイミング制御器1は送受切替器4により受信機31と空中線5とを接続させる。空中線5を介して送信された電波は空間を伝播し、対象物で反射した電波が空中線5で受信される。
空中線5で受信されたRF信号は前置受信器18で増幅され、IF信号に変換されて信号処理器17に入力される。信号処理器17は、前置受信器18から出力されたIF信号をアナログ信号からディジタル信号に変換し、該IF信号からクラッタや妨害電波等の不要な信号を除去した後、探知対象である目標信号を抽出する。データ処理器16は、信号処理器17で抽出された目標信号から目標(対象物)との距離、方位、仰角等を計測し、航跡追尾処理等を実行する。データ処理器16の処理結果(目標の位置等)は表示制御器15により不図示の表示装置に地図情報と共に表示される。
【0021】
本実施形態によれば、捜索動作と妨害動作時とで電力増幅器3として用いるマイクロ波用電子管(進行波管)の利得差を低減できる。そのため、励振器2または電力増幅器3として前置増幅器を含む複雑な構成を採用しなくて済む。そのため、捜索用と妨害用の両方で利用可能な送信機を低コストで実現することが可能であり、該送信機を備えるレーダ装置のコストを低減できる。特に、捜索動作と妨害動作時とでマイクロ波用電子管(進行波管)の利得差が零(0)となるように第2のヘッリクス電圧を設定すれば、励振器2または電力増幅器3に前置増幅器を備える必要が無い。その場合、捜索用と妨害用の両方で利用可能な送信機をより低コストで実現できる。
【0022】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態について図面を用いて説明する。
第2の実施の形態のレーダ装置は、複数のアンテナ装置(空中線)がアレイ状に配置されたフェーズドアレイレーダ装置に本発明を適用した例である。
図6は、第2の実施の形態のレーダ装置の一構成例を示すブロック図である。
図6に示すように、第2の実施の形態のレーダ装置は、複数の送受信モジュール21を備え、アレイ状に配置された複数のアンテナ装置(空中線)に送受信モジュール21がそれぞれ個別に接続された構成である。
レーダ装置の送信動作時、送受信モジュール21には、外部に備える不図示の励振器2で生成された励振信号(種信号)が供給される。また、レーダ装置の受信動作時、送受信モジュール21からは空中線で受信されて増幅された受信信号(IF信号)が出力される。送受信モジュール21から出力された受信信号は、第1の実施の形態で示した信号処理器17やデータ処理器16で処理され、その処理結果が表示制御器15により不図示の表示装置に表示される。さらに、送信モジュール21には、外部に備える不図示のタイミング制御器1から該送信モジュール21の動作を制御するための制御信号が供給される。
【0023】
図6に示すように、送受信モジュール21は、移相器22、変調回路33、電力増幅器23、送信電力切替器40、送受切替器24、前置受信器25、制御回路26及び電源回路27を備えている。
移相器22は、レーダ装置の送信動作時に不図示の励振器2で生成されたRF信号の位相をシフトさせて変調回路33に供給する。また、移相器22は、レーダ装置の受信動作時に前置受信器25で増幅された受信信号の位相をシフトさせて不図示の信号処理器に供給する。
変調回路33は、第1の実施の形態で示した変調回路32と同様の構成である。
電力増幅器23は、第1の実施の形態で示した電力増幅器3と同様に、進行波管等のマイクロ波用電子管が用いられる。
送信電力切替器40は、第1の実施の形態の送信電力切替器20と同様の構成である。送信電力切替器40は、移相器22から出力されたRF信号を捜索動作または妨害動作に応じて、変調回路33に入力されたRF信号を異なるパルス幅の信号に変換するためのパルス変調信号を生成する。また、送信電力切替器40は、電力増幅器23に対して、予め設定された捜索用電力または妨害用電力で出力させるための電源電圧を供給する。
送受切替器24は、第1の実施の形態の送受切替器4と同様に、レーダ装置の送信動作時は電力増幅器23から出力された増幅後のRF信号を空中線へ供給し、レーダ装置の受信動作時は空中線で受信したRF信号を前置受信器25へ出力する。
前置受信器25は、空中線及び送受切替器24を介して受信したRF信号を増幅し、IF信号に変換して移相器22へ出力する。
制御回路26は、送受信モジュール21の外部に備える不図示のタイミング制御器1から供給される制御信号にしたがって、移相器22、送信電力切替器40、前置受信器25及び送受切替器24の動作を制御する回路である。制御回路26は、移相器22におけるRF信号の位相シフト量、送受切替器24の切替動作及び前置受信器25の利得を制御する。また、制御回路26は、送信電力切替器40が備えるパルス切替器、アノード電圧切替器及びヘリックス電圧切替器の動作を、第1の実施の形態の送信電力切替器20と同様に制御する。制御回路26は、タイミング制御器1からの制御信号を受信し、移相器22、送信電力切替器40、前置受信器25及び送受切替器24の動作を制御するための信号を生成して出力できれば、どのような回路で構成してもよい。
電源回路27は、送受信モジュール21が備える移相器22、電力増幅器23、送信電力切替器40、前置受信器25及び制御回路26に、所要の電源電圧を生成して供給する周知の電源回路である。
【0024】
図6に示す複数の送受信モジュール21を備えるフェーズドアレイレーダ装置においても、第1の実施の形態と同様に、捜索動作と妨害動作時とで電力増幅器23として用いるマイクロ波用電子管(進行波管)の利得差を低減できる。そのため、電力増幅器23として前置増幅器を含む複雑な構成を採用しなくて済む。特に、本実施形態では、フェーズドアレイレーダ装置が備える複数の送受信モジュール21に本発明を適用するため、第1の実施の形態よりもコストの低減効果が大きい。