(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光変調用素子と、前記光変調用素子の電極パッドに接合された駆動回路と、前記駆動回路に接続された駆動電源とを備える光変調器。
【背景技術】
【0002】
家庭用光ファイバおよびローカル・エリア・ネットワーク(LAN)などに接続される光通信デバイスは、様々なシステム用の1310nmおよび1550nm波長で機能する。当該シリコンベース光通信デバイスは、CMOS技術を利用して、光機能素子および電子回路をシリコンプラットフォーム上に集積化可能とする非常に有望な技術である。
【0003】
シリコンベースの光通信デバイスとしては、導波路、光結合器、波長フィルタ、光変調器などの様々なデバイスが幅広く研究されており、中でも能動的なデバイスとして光変調器が注目されている。光変調器は、電気信号を光信号に変換することができるデバイスであり、屈折率変化を利用した構造としては、マッハツェンダ干渉計を利用したものが一般的である。このマッハツェンダ干渉計を利用した光変調器は、二本の光導波路からなるアームの光の位相差を干渉させて、光の強度変調信号を得る。
【0004】
図11は、マッハツェンダ干渉計を利用した光変調用素子を模式的に図示したものである。光変調器は、第1のアームA1および第2アームA2からなり、これに入力側で分岐する光分岐構造A3と、出力側で結合する光結合構造A4とが接続されている。光分岐構造A3に入力した光は、第1アームA1および第2アームA2を導波する間に光の位相が変化し、光結合構造A4で再度合成される。第1アームA1および第2アームA2はシリコンベース電気光学素子からなり、電圧を印加することにより電気光学効果または熱光学効果等により光の位相が変化する。
【0005】
第1アームA1および第2アームA2の長さが同一で、かつ電圧が印加されなかった場合、位相差はゼロとなり、光結合構造A4から出力される光は、同波調の光が重畳されるため最大となる。一方、第1アームA1および第2アームA2で位相がπだけずれた場合は、光結合構造A4で合成された際にそれぞれの光が打ち消し合い、出力される光は最小となる。
なお一般に、出力される光の消光比を最大とするために、出力光の強度が最大になる電圧と出力光の強度が最小になる電圧の、中間の電圧を印加した時の出力光強度を動作点として設定する。すなわち、いずれか一方のアームに、光の位相差が半波長分だけずれる電圧を印加した状態を初期状態とし、その時の光強度を基準(動作点)とする。
【0006】
上記のように、二本のアームの光の位相差は、二本のアームの少なくとも一方に電圧を印加することにより生じる。二本のアームは、例えばシリコンベース電気光学素子からなり、電圧を印加することで、電気光学効果または熱光学効果等により光導波部の屈折率が変化する。光導波部の屈折率が変化すると光の導波条件が変化し、二本のアームが同一長さでも光の位相差が生じる。
この位相差を生み出す電圧は、光変調用素子の電極パッ
ドに駆動電源からの電圧が加えられることで生じる。このとき電極パッ
ドと駆動電源との接続は、電極パッ
ドが設けられた駆動回路基板を介して行われ、駆動回路基板の電極パッ
ドと光変調用素子の電極パッ
ドとが接合される。
【0007】
このような光変調器では、小型化および低電圧駆動の検討が進められている。
例えば、特許文献1に記載のシリコンベース電気光学変調器は、第1導電型半導体層と第2導電型半導体層との間に、誘電体層を挟んでいる。そのため、PINダイオード構造となり、応答速度を向上させ小型化を実現させている。
また特許文献2に記載の光変調器は、電極パッドを分割することで低電圧駆動の光変調器を実現している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態である光変調用素子および光変調器について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る光変調用素子を模式的に示した図である。また、
図2は、2本のアームにおけるシリコンベース電気光学素子の断面模式図である。
本発明の光変調用素子100は、千鳥配置された複数の電極パッ
ド10と、電極パッ
ド10を避けるように折り曲げられ、かつ各電極パッ
ド10から入力される駆動電圧によって、複数の部分で光位相変調する2つのアーム20と、2つのアーム20が光の入力側で分岐する光分岐構造30と、2つのアームが光の出力側で結合する光結合構造40とを備える。
また2つのアーム20は、シリコンベース電気光学素子からなり、基板上に、基板と反対側に矩形に突出するリブ導波路構造1aを有する第1導電型半導体層1と、リブ導波路構造1aの上に積層された誘電体層2と、誘電体層2上に積層された第2導電型半導体層3とを有する。第1導電型半導体層1は、第1導電型の不純物が他の部分より高濃度にドープされた第1コンタクト部4を介して、第1電極配線5に接続される。また、第2導電型半導体層3は、第2導電型の不純物が他の部分より高濃度にドープされた第2コンタクト部6を介して、第2電極配線7に接続される。さらに、第1コンタクト部4は、第1導電型半導体層1のスラブ部1cに対して矩形に突出している。なお、スラブ部1cは、第1導電型半導体層1の突出していない部分を意味する。
電極パッ
ド10に接続された駆動電源からの電圧は、シリコンベース電気光学素子において第1電極配線5及び第2電極配線7を介して印加される。この印加された電圧により、第1導電型半導体層1と第2導電型半導体層3の界面において、キャリアが注入または空乏化することで光の導波部の屈折率が変化する。ここで、光の導波部は、第1導電型半導体層1(主にリブ導波路構造1a)、誘電体層2、第2導電型半導体層3である。
【0019】
(光変調用素子)
図1に示すように、本発明の光変調用素子100は、千鳥配置された複数の電極パッ
ド10と、電極パッ
ド10を避けるように折り曲げられ、かつ各電極パッ
ド10から入力される駆動電圧によって、複数の部分で光位相変調する2つのアーム20と、2つのアーム20が光の入力側で分岐する光分岐構造30と、2つのアームが光の出力側で結合する光結合構造40とを備える。また光変調用素子100は、出力信号を2つに分岐し、一方を出力し、もう一方をモニター用のフォトダイオード101で検出し、動作時の動作点のずれ等を測定してもよい。さらに、2つのアームには、動作点のずれを補正するための光変調部21を有していてもよい。
図1では、光変調用素子100は基板上に複数配列され、それぞれが125μm〜250μmの幅で並べられ、高密度に集積されている。
【0020】
複数の電極パッ
ドが千鳥配置にされていると、隣接する光変調用素子10同士が、基板上に高い密度で集積化された光変調用素子を得ることができる。
例えば、
図3(a)に示すように、複数の電極パッ
ドが並列に配置されていると、第1の光変調用素子Aと、第2の光変調用素子Bの間隔は、駆動回路と接合する際の精度の関係上dだけ離す必要がある。この場合、第1の光変調用素子Aと第2の光変調用素子Bの間には、距離dだけ無駄な空間が生じる。
一方、
図3(b)に示すように、複数の電極パッ
ドを千鳥配置にすると、この距離dは斜めに設定することができる。すなわち、第1の光変調用素子Aと第2の光変調用素子Bの間隔は距離dより短くすることができ、無駄な空間を削減することができる。すなわち、千鳥配置にすることで、基板上に隣接する光変調用素子10同士を高い密度で集積化することができる。
【0021】
また
図3(a)に示すように、電極パッ
ド10を並列に配置した場合、駆動回路の電極パッ
ドとの接続精度の関係上、その最短距離はaとなる。例えば、
図3(a)で示すように、5つの電極パッ
ド10を並列に配置した場合、電極パッ
ド10の幅をwとすると、光変調用素子の全長は5w+4aとなる。
一方、
図3(b)に示すように、電極パッ
ド10を千鳥配置にすると、電極パッ
ド10間の最短距離aは斜め方向となる。そのため、1つの電極パッ
ドの端面へ最も隣接する電極パッ
ドの端面から引いた垂線の長さはbとなる。例えば、
図3(b)で示すように、5つの電極パッ
ドが千鳥配置されている場合に、電極パッ
ドの幅をwとすると、光変調用素子の全長は5w+4bとなる。
図3(a)の並列配置と、
図3(b)の千鳥配置とを比較すると、aはbよりも長いことは明らかであるため、電極パッ
ドを千鳥配置にすることで、光変調用素子の全長を短くすることができる。すなわち、基板上に高い密度で集積化することができる。
【0022】
また、光変調用素子100は、各電極パッ
ド10からの駆動電圧によって、複数の部分で光位相変調する。そのため、1つの電極パッ
ドのみを用いて一度に光位相を変調する場合と比較して、各電極パッ
ドに加える電圧を低減することができ、光変調用素子100を低電圧駆動することができる。すなわち、光変調用素子100の低消費電力化を実現することができる。
【0023】
(シリコンベース電気光学素子)
また、2つのアーム20は特定のシリコンベース電気光学素子からなることが好ましい。以下に、このシリコンベース電気光学素子について説明する。
【0024】
このシリコンベース電気光学装置は、電気光学効果(自由キャリアプラズマ効果)を利用するものである。以下に、半導体層がシリコンからなる場合を例にして、シリコンベース電気光学素子における動作原理である、光の位相変調メカニズムの概要を説明する。
【0025】
純粋な電気光学効果はシリコン内では得られない、または得られにくいため、自由キャリアプラズマ効果と熱光学効果だけが光変調動作に利用出来る。本発明が目的とする高速動作(Gb/秒以上)を得るためには、自由キャリアプラズマ効果だけが有効であり、以下の関係式(1)、(2)の1次近似値で説明される。
【0028】
式(1)のΔnおよび式(2)のΔkは、それぞれ、シリコン層の屈折率変化の実部および虚部を表わしており、eは電荷、λは光の波長、ε
0は真空中の誘電率、nはシリコン層の屈折率、m
eは電子キャリアの有効質量、m
hはホールキャリアの有効質量、μ
eは電子キャリアの移動度、μ
hはホールキャリアの移動度、ΔN
eは電子キャリアの濃度変化、ΔN
hはホールキャリアの濃度変化を表している。
【0029】
シリコン層の電気光学効果の実験的な評価が行われており、光通信システムで使用する1310nmおよび1550nmの波長でのキャリア密度に対する屈折率変化は、Drudeの式と良く一致することが分かっている。また、これを利用した電気光学素子においては、位相変化量Δθは以下の式で定義される。
【0031】
式(3)のLは、シリコンベース電気光学素子の光伝播方向に沿ったアクティブ層(有効変調領域)の長さである。Δn
effは、ΔnおよびΔkから得ることができる実効屈折率である。式(3)からわかるように、実効屈折率の変化Δn
effが大きければ、アクティブ長さLが短くても、大きな位相変化を生み出すことができる。
【0032】
図2に示すように、シリコンベース電気光学素子は、基板9の上に、基板9と反対側に矩形に突出したリブ導波路構造1aを有する第1導電型半導体層1と、リブ導波路構造1aの上に積層された誘電体層2と、誘電体層2上に積層された第2導電型半導体層3とを有する。第1導電型半導体層1は、第1導電型の不純物が他の部分より高濃度にドープされた第1コンタクト部4を介して、第1電極配線5に接続する。また、第2導電型半導体層3は、第2導電型の不純物が他の部分より高濃度にドープされた第2コンタクト部6を介して、第2電極配線7に接続する。さらに、第1コンタクト部4は、第1導電型半導体層1のスラブ部1cに対して矩形に突出している。
なお、
図2では、電気光学素子を構成する基板9として、シリコン基板9a上に酸化膜9bが積層されたSOI(シリコン・オン・インシュレーター)基板を用いる例を示しているが、基板はシリコンベースのものであればよい。
【0033】
このシリコンベース電気光学素子は、リブ導波路構造1aを有する。そのため、光導波部と屈折率が変化する領域とが重なるため、シリコンベース電気光学装置の駆動電圧に対する、光の変調効率が高くなる。すなわち、光変調のアクティブ層の長さを短くすることができ、光変調用素子を小型化することができる。
ここで、屈折率が変化する領域は、キャリア密度が変化する領域であり、第1導電型半導体層1及び第2導電型半導体層3のうち、誘電体層2との接合界面付近となる。
【0034】
また、このリブ導波路構造1aを有することで、高濃度でドーピングした領域と、光導波部との重なりを低減することもできる。
ここで、高濃度でドーピングした領域とは、
図1の第1コンタクト部4および第2コンタクト部6であり、この領域に光が伝播するとドーパントによる光吸収が生じてしまう。リブ導波路構造1aをもたせることにより、高濃度でドーピングした領域での光吸収による損失を低減することができる。
【0035】
ここで、キャリア密度が変化する領域の厚みを(最大空乏層厚)Wは、熱平衡状態では下記数式で与えられる。
【0037】
ε
sは半導体層の誘電率、kはボルツマン定数、Ncはキャリア密度、n
iは真性キャリア濃度、eは電荷量である。例えば、Ncが10
17/cm
3の時、最大空乏層厚は0.1μm程度であり、キャリア密度が上昇するに伴い、空乏層厚、すなわちキャリア密度の変調が生じる領域の厚みは薄くなる。
そのため、リブ導波路構造1aの基板9からの高さはW以上であることが好ましい。リブ導波路構造1aの高さがW以上であれば、キャリア密度が変化する領域をリブ導波路構造1a内とすることができ、光導波部との重なりを高くすることができる。
【0038】
また、第1導電型半導体層1は、第1導電型の不純物が他の部分より高濃度にドープされた第1コンタクト部4において、第1電極配線5に接続している。同様に、第2導電型半導体層3は、第2導電型の不純物が他の部分より高濃度にドープされた第2コンタクト部6において、第2電極配線7に接続している。高濃度ドープを行うことにより、第1導電型半導体層1と第1電極配線5の界面、第2導電型半導体層3と第2電極配線7の界面における接触抵抗を低減することができる。その結果として、直列抵抗成分を小さくし、RC時定数を小さくすることができる。すなわち、光変調動作の速度を向上することができる。
【0039】
さらに、第1コンタクト部4は、第1導電型半導体層1のスラブ部1cに対して矩形に突出している。そのため、より第1コンタクト部4内のドーピング密度を上昇させることができ、半導体と導電体との界面の接触抵抗をより低減することができる。すなわち、RC時定数が小さく、より光変調動作の速度が高くすることができる。
【0040】
また、第1コンタクト部4を矩形に突出させることで、スラブ部1cの幅を短くすることができる。スラブ部1cは、高濃度でドーピングした領域と、光導波部との重なりを低減するために、約0.1μmと薄くしている。しかしながら、スラブ部1cを広範囲に渡って、均一に薄く形成することは難しい。
【0041】
第1導電型半導体層1及び第2導電型半導体層3は、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、歪シリコン、単結晶シリコン、Si
1−xGe
xからなる群から選択される少なくとも一層からなることが好ましい。
【0042】
このシリコンベース電気光学素子は、光変調効率が高く、長い位相変調長を必要としない。そのため、光変調用素子の小型化を実現することができる。このように小型化された光変調用素子を高集積化するためには、上述の配置の光変調用素子構造とすることは特に重要である。
【0043】
また、このシリコンベース電気光学素子において、第1コンタクト部4が、光の導波方向に対し連続して形成され、第2導電型半導体層3が、光の導波方向に対して分割されていることが好ましい。
図4は、シリコンベース電気光学素子の一例を平面視した模式図を示す。
図4に示すように、基板上に第1コンタクト部4は、光の導波方向に対して連続に形成されている。一方、第2導電型半導体層3は分割されている。第1導電型半導体層1と第2導電型半導体層3の界面で光変調は生じるため、第2導電型半導体層3を分割することで、光変調が生じる部分を分割することができる。そのため、シリコンベース電気光学素子を駆動するための電圧を分割することができ、光変調用素子の駆動電圧を低減することができる。
これに対し、第1コンタクト部4は連続しているため、光変調する部分が分割された光変調用素子においても、バイアス電圧を共通化することができる。そのため、集積化された光変調用素子でも、制御端子の増加を防ぐことができる。
【0044】
またこのシリコンベース電気光学素子において、第1コンタクト部4および第2導電型半導体層3が、分割されていることも好ましい。
図5は、シリコンベース電気光学素子のその他の例を平面視した模式図を示す。第1導電型半導体層1と第2導電型半導体層3の界面で光変調は生じるため、第2導電型半導体層3を分割することで、光変調が生じる部分を分割することができる。そのため、シリコンベース電気光学素子を駆動するための電圧をそれぞれの部分に印加することができ、光変調用素子の駆動電圧を低減することができる。
また、第1導電型半導体層は、光の導波する部分を確保するために連続して形成しているが、第1のコンタクト部4を分割している。これに伴い、第1コンタクト部4を介して接続される第1電極配線5も分割されるため、各部分を電気的に分離することができる。そのため、光変調用素子内での性能バラツキの補正や出力波形の整形が可能となる。
【0045】
また、シリコンベース電気光学素子からなる2つのアームが、隣接して同一基板上に形成され、隣接面側の第1電極配線及び第1コンタクト層を共有していることが好ましい。
図6は、隣接する2つのアームが第1電極配線5および第1コンタクト層4を共有するように接続したシリコンベース電気光学素子の断面図である。シリコンの光学屈折率の熱光学係数は、1.8×10
−5/℃であり、酸化膜クラッド層などに使用されているシリコン酸化膜と比較して1桁程度大きい。そのため、2つのアーム間で環境温度差があると、光位相差が生じる。この環境温度差による位相変化は、ノイズとなるため抑制する必要がある。
これに対し、
図5で示すシリコンベース電気光学素子は基板が繋がっているため、各アームが熱的に互いに繋がることで、環境温度差を抑制することが可能とする。そのため、2つのアーム間における環境温度変化による動作点のずれや、光位相誤差を非常に小さくすることができる。また第1電極配線及び第1コンタクト層を共有しているため、光変調用素子をより小型化することができる。
【0046】
(シリコンベース電気光学素子の製造方法)
図7に示したシリコンベース電気光学素子20の製造方法について、
図7(a)〜(g)を用いて説明する。まず、
図7(a)に示すように、厚さが100〜1000nm程度の埋め込み酸化膜9bが内部に形成された基板9を準備する。基板9は、SOI基板であり、少なくとも埋め込み酸化膜9bより積層面に近い側の部分が、p型、n型のいずれかの導電型を有しているものとする。基板9は、一般の方法で作製してもよく、市販品を購入してもよい。
【0047】
積層面に近い側の半導体層(第1導電型半導体層)1に対するホウ素、リン、ヒ素等の不純物ドープ(イオン注入)は、基板9を製造する前に行ってもよいし、後に行ってもよい。
【0048】
次に、
図7(b)で示すように、フォトリソグラフィ法を用いて、矩形の突出部1a、1bとの間の部分を選択的にエッチングし、スラブ部1cを形成する。これにより、矩形の突出部1a、第1コンタクト部4に相当する部分が、他の部分に対して矩形に突出した形状となる。
【0049】
ここで行うエッチングは、ウェットエッチング、ドライエッチングの何れであってもよい。ただし、スラブ部1cに相当する部分が完全に除去されてしまわないように、エッチング条件を調整する必要がある。エッチング条件の調整は、温度等を変えることによって行うことができる。スラブ部1cの厚さは、50〜150nmとするのが好ましい。
【0050】
次に、
図7(c)で示すように、第1導電型半導体層1の突出した矩形の突出部1bに、イオン注入法により、第1導電型の不純物をドーピングし、第1コンタクト部4を形成する。これにより、第1コンタクト部4は、第1導電型の不純物が他の部分より高濃度でドープされた状態となる。続いて、第1導電型半導体層1の矩形に突出したリブ導波路構造1a上に、誘電体層2を積層する。
【0051】
次に、プラズマCVD法などの成膜法により、第1導電型半導体層1、誘電体層2上を覆うように酸化膜クラッド層8を一旦形成する。そして、
図7(d)で示すように、第1導電型半導体層1、誘電体層2の形状に伴って、酸化膜クラッド層8の突出した突出部をCMP法によって除去することにより、平坦化する。
【0052】
次に、
図7(e)に示すように、多結晶半導体層を0.1〜0.3μmの厚みで積層し、第2導電型をイオン注入することにより、第2導電型半導体層3を形成する。不純物の注入は、成膜中に行っても良い。さらに、第2導電型半導体層3の両端に、第2導電型の不純物のイオン注入を行い、当該不純物が他の部分より高濃度でドープされた第2コンタクト部6を形成する。
【0053】
次に、
図7(f)に示すように、再度、酸化膜クラッド層8をプラズマCVD法などにより積層し、反応性エッチングによりコンタクトホールを形成する。そして、
図7(g)に示すように、スパッタ法やCVD法によりコンタクトホールを埋めるようにTi/TiN/Al(Cu)あるいはTi/TiN/Wなどの金属層を形成し、コンタクトホールの外部に延びる金属層に対して、反応性エッチングによるパターニングを行い、第1電極配線5、第2電極配線7を形成することにより、シリコンベース電気光学素子を得ることができる。なお、第1電極配線5および第2電極配線7の形成により、駆動回路との電気的な接続が可能になる。
【0054】
(光変調器)
図8は、本発明の一実施形態に係る光変調器を模式的に示した図である。本発明の光変調器1000は、前述の光変調用素子100の電極パッ
ド10に接合された駆動回路200と、駆動回路200に接続された駆動電源300とを備える。光変調用素子100の電極パッ
ド10は、駆動回路200の電極パッ
ド210と接合されている。これらの電極パッ
ドは、フリップチップボンディングによって接合されることが好ましい。
【0055】
図9は、本発明の一実施形態に係る光変調器の回路を模式的に示した図である。
図9では、駆動回路200に信号遅延部220を有するものとして図示している。入力された光は、各電極パッ
ド10からの電圧印加によって位相差が生じる。電極パッ
ド10での電圧印加は、駆動回路200によって制御されている。また、駆動回路200には、動作点を制御するためのバイアス電圧V
bも印加されている。駆動電源から電圧INP,INNが、駆動回路200へ印加される。駆動回路200へ印加された電圧は、信号遅延部220で制御され、OUT1PおよびOUT1Nから出力される。OUT1Pから出力された電圧は、電極パッ
ド10を介して、2つのアームの一方に印加される。また、OUT1Nから出力された電圧は、隣接する電極パッ
ド10を介して、もう一方のアームに電圧を印加される。これら、OUT1PおよびOUT1Nから出力された電圧によって、光の位相が変化する。
図9では、OUT1P〜4P、OUT1N〜OUT4Nの4分割された場合を図示したが、本発明はこの例に限られない。
【0056】
駆動回路200には、信号遅延部220が設けられていることが好ましい。1つ目の光位相変調領域で位相を変調された光は、2つ目の光位相変調領域でさらに位相が変調される。このとき、光の進行速度に対し駆動回路からの電気信号にずれが生じると、位相の変調を効率的に重畳していくことが難しくなる。このようなずれは、出力される光の波形では時間軸のずれや揺らぎであるジッタとして発生する。位相変調領域の数が多くなればそれだけ、このずれに伴う影響は大きくなる。
信号遅延部220を有することで、光変調用素子に入力された光の速度と、駆動電源から印加される電気信号の速度の整合をとることができる。すなわち、光変調器の出力波形に生じる時間軸のずれや揺らぎであるジッタを抑制することができる。
【0057】
また駆動回路200に、クロック信号源が接続され、信号遅延部220にクロック信号が加えられていることが好ましい。
図10は、クロック信号源を備える光変調器の回路を模式的に示した図である。クロック信号源Cからのクロック信号は、信号遅延部220での電気信号の遅延時間を調整することができる。これにより、各電極パッ
ド10に印加される高速電気信号の遅延時間を光速度と整合させることが可能である。
【0058】
また複数の電極パッ
ドにより光位相変調される光変調部間のアームを、駆動回路からの電気信号の速度と、光変調用素子内を導波する光の速度が整合するように調整することが好ましい。
前述の遅延回路およびクロック信号は、駆動回路側で電気信号を調整することで、電気信号の速度と光信号の速度の整合性を得ていた。これに対し、光変調用素子側で整合性を得ることもできる。すなわち上述のように、光変調用素子内を導波する光の速度や導波距離を変化させることで、駆動回路からの電気信号が印加されるタイミングとの整合をとることができる。具体的には、光変調用素子内の光導波部の太さを太くすると、導波する光の速度を早くすることができる。また逆に細くすると、導波する光の速度を遅くすることができる。また各光変調部間のアームの長さを長くすれば、導波する光が隣接する光変調部まで到達する時間を長くすることができる。一方、短くすれば到達時間を早くすることができる。すなわち、複数の電極パッ
ドにより光位相変調される光変調部間のアームの長さや太さ等を調整することにより、駆動回路からの電気信号の速度と、光変調用素子内を導波する光の速度が整合するように調整することができる。これらの整合性をとることができると、光変調器の出力波形に生じる時間軸のずれや揺らぎであるジッタを抑制することができる。