(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409311
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】液化ガスタンクの残液排出方法
(51)【国際特許分類】
F17C 9/00 20060101AFI20181015BHJP
【FI】
F17C9/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-83246(P2014-83246)
(22)【出願日】2014年4月15日
(65)【公開番号】特開2015-203455(P2015-203455A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬高 裕智
【審査官】
佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−161593(JP,A)
【文献】
特開平08−261396(JP,A)
【文献】
特開平10−030795(JP,A)
【文献】
特開昭48−063314(JP,A)
【文献】
特開平08−285193(JP,A)
【文献】
特開平08−285192(JP,A)
【文献】
特開2003−021297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスタンクの内部に液体を注入し、該注入された液体の熱により前記液化ガスタンク内に残る貯留液を気化させて該液化ガスタンクから排出する液化ガスタンクの残液排出方法であって、
前記液体は水であり、
前記液化ガスタンクの内部にその上部から水を注入する注水工程と、
前記貯留液が全て気化した後も前記液化ガスタンクの内部への水の注入を継続し、前記貯留液の冷熱を奪って固化した氷を融かしつつ、液化ガスタンクの内部の温度を常温に戻すホットアップ工程と、
該ホットアップ工程で内部が常温に戻された液化ガスタンクの底部から排水しつつ、該液化ガスタンクの内部にその上部から不活性ガスを供給する排水工程と
が行われることを特徴とする液化ガスタンクの残液排出方法。
【請求項2】
前記注水工程とホットアップ工程との間に、前記注水工程で注入される水の熱により前記液化ガスタンク内に残る貯留液を気化させ、該液化ガスタンクの上部から排気する残液気化排気工程が行われる請求項1記載の液化ガスタンクの残液排出方法。
【請求項3】
前記残液気化排気工程で液化ガスタンクの上部から排出される気化ガスをフレアスタックで燃焼させる請求項2記載の液化ガスタンクの残液排出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガスタンクの残液排出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)、液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)等の液化ガスを貯蔵する液化ガスタンクにおいて経年劣化の影響確認のため、開放点検が実施される場合がある。
【0003】
このような開放点検は、液化ガスタンクの内部に作業員が入って実施されるため、開放点検に先立って液化ガスタンクから内容物である液化ガスを全て排出すると共に、人が立ち入れるように液化ガスタンクの内部に残存するガスを空気に置換するといった点検前の準備作業を実施する必要がある。
【0004】
従来、液化ガスタンクを開放する際は、可能な限り、貯留液の残液量を最小にし、外気からの入熱を利用して液化ガスタンク内の貯留液を気化させ、更に加温してガスを液化ガスタンクの外部へ排出するようにしていた。この残液排出方法は自然入熱方式と称されている。
【0005】
尚、液化ガスタンクの残液排出方法と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1及び特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−160098号公報
【特許文献2】特開2007−24300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、自然入熱に頼る従来の液化ガスタンクの残液排出方法では、全ての液化ガスを排出するまでにかなりの時間が必要であり、その後の不活性ガス並びに空気への置換に要する時間や開放点検作業自体に要する時間も含めると液化ガスタンクを休止させておく期間が長く必要であった。そのため、液化ガスタンクの運用効率が悪くなるという問題があった。
【0008】
尚、特許文献1に開示された方法では、液化ガスを加熱するために大量の窒素ガスが必要となっていた。又、特許文献2に開示された方法では、残存するガスを追い出す工程で加圧媒体として水を用いているため、加圧注水ポンプを特別に用意しなければならなかった。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、液化ガスタンクの内部に残る液化ガスの排出作業を特別な機器を用いることなく短期間で効率良く行うことができ、開放点検のために液化ガスタンクを休止させる期間を大幅に短縮し得る液化ガスタンクの残液排出方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、液化ガスタンクの内部に液体を注入し、該注入された液体の熱により前記液化ガスタンク内に残る貯留液を気化させて該液化ガスタンクから排出する
液化ガスタンクの残液排出方法であって、
前記液体は水であり、
前記液化ガスタンクの内部にその上部から水を注入する注水工程と、
前記貯留液が全て気化した後も前記液化ガスタンクの内部への水の注入を継続し、前記貯留液の冷熱を奪って固化した氷を融かしつつ、液化ガスタンクの内部の温度を常温に戻すホットアップ工程と、
該ホットアップ工程で内部が常温に戻された液化ガスタンクの底部から排水しつつ、該液化ガスタンクの内部にその上部から不活性ガスを供給する排水工程と
が行われることを特徴とする液化ガスタンクの残液排出方法にかかるものである。
【0011】
前記液化ガスタンクの残液排出方法において、
前記注水工程とホットアップ工程との間に、前記注水工程で注入される水の熱により前記液化ガスタンク内に残る貯留液を気化させ、該液化ガスタンクの上部から排気する残液気化排気工程
が行われることが好ましい。
【0012】
又、前記残液気化排気工程で液化ガスタンクの上部から排出される気化ガスをフレアスタックで燃焼させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液化ガスタンクの残液排出方法によれば、液化ガスタンクの内部に残る液化ガスの排出作業を特別な機器を用いることなく短期間で効率良く行うことができ、開放点検のために液化ガスタンクを休止させる期間を大幅に短縮し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の液化ガスタンクの残液排出方法の実施例を示す概要工程図である。
【
図2】本発明の液化ガスタンクの残液排出方法の実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1及び
図2は本発明の液化ガスタンクの残液排出方法の実施例であって、本実施例の特徴とするところは、液化ガスタンク1の内部に液体を注入し、該注入された液体の熱により前記液化ガスタンク1内に残る液体を気化させて該液化ガスタンク1から排出する点にある。
【0017】
本実施例の場合、前記液体は水であり、注水工程と、残液気化排気工程と、ホットアップ工程と、排水工程とが行われるようにしてある。
【0018】
前記注水工程では、前記液化ガスタンク1の内部にその上部から常温の水を注入するようにしてある。前記液化ガスタンク1の上部には、通常、安全弁接続用ノズルや各種予備ノズル等のノズル2が配設されているため、該ノズル2を利用して注水を行うようにする。
【0019】
前記残液気化排気工程では、前記注水工程で注入される水の熱により前記液化ガスタンク1内に残る貯留液を気化させ、該液化ガスタンク1の上部から排気するようにしてある。この排気も前記ノズル2を利用して行うようにする。前記残液気化排気工程で液化ガスタンク1の上部から排出される気化ガスはフレアスタック3で燃焼させるようにしてある。
【0020】
前記ホットアップ工程では、前記残液気化排気工程で前記貯留液が全て気化した後も前記液化ガスタンク1の内部への水の注入を継続し、前記残液気化排気工程で貯留液の冷熱を奪って固化した氷を融かしつつ、液化ガスタンク1の内部の温度を常温に戻すようにしてある。
【0021】
前記排水工程では、前記ホットアップ工程で内部が常温に戻された液化ガスタンク1の底部から排水しつつ、該液化ガスタンク1の内部にその上部から窒素等の不活性ガスを供給するようにしてある。前記液化ガスタンク1の底部側面には、通常、貯留液を液化ガスタンク1の内部へ導入するための導入ノズル4と、貯留液を液化ガスタンク1から外部へ排出するための排出ノズル5とが配設されているため、該排出ノズル5を利用して排水を行うようにする。
【0023】
液化ガスタンク1を開放する際、貯留液は排出ノズル5から最大限抜き出され、貯留液の残液量は最小とされている。
【0024】
この状態で、先ず、前記液化ガスタンク1の内部へその上部に配設されたノズル2から常温の水が注入される(注水工程)。
【0025】
前記注水工程で注入される水の熱(顕熱及び潜熱)により前記液化ガスタンク1内に残る貯留液は気化し、該液化ガスタンク1の上部に配設されたノズル2から排気される(残液気化排気工程)。前記残液気化排気工程で液化ガスタンク1の上部から排出される気化ガスはフレアスタック3で燃焼される。
【0026】
前記残液気化排気工程で前記貯留液が全て気化した後も前記液化ガスタンク1の内部への水の注入は継続され、前記残液気化排気工程で貯留液の冷熱を奪って固化した氷は徐々に融けていき、液化ガスタンク1の内部の温度は常温に戻される(ホットアップ工程)。尚、液化ガスタンク1の内部の温度は図示していない温度センサによって計測されており、該温度センサによって計測された液化ガスタンク1の内部の温度が0℃より高くなっていれば、氷は融けて水になったと判断できる。
【0027】
前記ホットアップ工程で内部が常温に戻されると、液化ガスタンク1の底部側面に配設された排出ノズル5から排水が行われつつ、該液化ガスタンク1の内部へその上部に配設されたノズル2から窒素等の不活性ガスが供給される(排水工程)。前記不活性ガスにより液化ガスタンク1の内部が真空になることが防止されると共に、万が一、液化ガスタンク1の内部に貯留液の気化ガスが残存していたとしても、該気化ガスが液化ガスタンク1の内部で燃焼することが防止される。
【0028】
この結果、本実施例の場合、自然入熱に頼る従来の液化ガスタンクの残液排出方法と比べ、全ての液化ガスを排出するまでに要する時間が大幅に短縮される。その後の不活性ガス並びに空気への置換に要する時間や開放点検作業自体に要する時間を含めても液化ガスタンク1を休止させておく期間が短くて済む。そのため、液化ガスタンク1の運用効率が良くなる。因みに、残液量が800klの場合、自然入熱に頼る従来の液化ガスタンクの残液排出方法では、残液処理及びホットアップに要する日数がおよそ150日(5ヶ月)程度であるのに対し、本実施例では、およそ10〜20日程度に短縮される。
【0029】
尚、本実施例の場合、特許文献1に開示された方法のように、液化ガスを加熱するために大量の窒素ガスは不要で常温の水を注入するだけで済む。又、特許文献2に開示された方法のように、残存するガスを追い出す工程で加圧媒体として水を用いるのではなく、本実施例では、あくまでも貯留液を強制的に気化させるための熱媒体として水を使用するため、加圧注水ポンプを特別に用意しなくて済む。
【0030】
こうして、液化ガスタンク1の内部に残る液化ガスの排出作業を特別な機器を用いることなく短期間で効率良く行うことができ、開放点検のために液化ガスタンク1を休止させる期間を大幅に短縮し得る。
【0031】
又、前記液体は水であり、注水工程と、残液気化排気工程と、ホットアップ工程と、排水工程とが行われる。前記注水工程では、前記液化ガスタンク1の上部に通常配設されている安全弁接続用ノズルや各種予備ノズル等のノズル2を利用して注水を行える。前記残液気化排気工程では、やはり前記ノズル2を利用して気化ガスの排気を行える。前記ホットアップ工程では、注水工程と同様に前記ノズル2を利用して注水を行える。前記排水工程では、前記液化ガスタンク1の底部側面に通常配設されている排出ノズル5を利用して排水を行える。つまり、既設の液化ガスタンク1を改造したり、特別な機器を追加装備したりすることなく、液化ガスの排出を行える。
【0032】
更に又、前記残液気化排気工程で液化ガスタンク1の上部から排出される気化ガスはフレアスタック3で燃焼されるため、気化ガスの処理が確実に行われ、気化ガスに引火して火災が発生する心配もない。
【0033】
尚、本発明の液化ガスタンクの残液排出方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 液化ガスタンク
2 ノズル
3 フレアスタック
5 排出ノズル