特許第6409333号(P6409333)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409333
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】回転工具支持装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/12 20060101AFI20181015BHJP
   F16F 15/10 20060101ALI20181015BHJP
   F16F 15/16 20060101ALI20181015BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   B23Q3/12 A
   F16F15/10 B
   F16F15/16 Z
   B23Q11/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-102984(P2014-102984)
(22)【出願日】2014年5月19日
(65)【公開番号】特開2015-217476(P2015-217476A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】松永 茂
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 良太
【審査官】 津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第3287998(US,A)
【文献】 特開2007−54929(JP,A)
【文献】 実開昭51−60589(JP,U)
【文献】 特開2000−79533(JP,A)
【文献】 特公昭47−35507(JP,B1)
【文献】 特開2007−290047(JP,A)
【文献】 特表2014−507298(JP,A)
【文献】 実開昭57−28836(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/12
B23Q 11/00
F16F 15/10
F16F 15/16
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具を保持して回転する本体と、
前記本体との径方向間に隙間を介して前記本体に支承され前記本体と共に回転する付加マスと、
前記本体内に設けられる流体経路と、
前記流体経路を介して前記本体と前記付加マスとの径方向隙間に供給される流体により構成される粘弾性ダンパと、を備え、
前記粘弾性ダンパは、前記本体の軸線方向に二個設けられ、
前記二個の粘弾性ダンパは、前記付加マスの内周面又は外周面に前記流体経路を介して前記流体が供給される油圧ポケットがそれぞれ設けられた二個の静圧流体ダンパであり、
前記流体経路は、前記二個の静圧流体ダンパに供給される前記流体の量がそれぞれ所望の量となるよう形成される第一固定絞りを各前記二個の静圧流体ダンパの上流側にそれぞれ備える、回転工具支持装置。
【請求項2】
前記付加マスは、前記本体に対し径方向及び軸方向の隙間を有して設けられる、請求項1に記載の回転工具支持装置。
【請求項3】
前記付加マスと前記本体との軸方向の隙間に弾性部材を備える、請求項1又は2に記載の回転工具支持装置。
【請求項4】
前記流体経路は、前記第一固定絞りとの間で前記流体経路内の圧力が予め設定された圧力となるように前記第一固定絞りよりも上流側に形成される第二固定絞りを備える、請求項1〜3の何れか1項に記載の回転工具支持装置。
【請求項5】
前記本体内には、前記流体経路の前記第二固定絞りの上流にて分岐された潤滑流体経路を備え、
前記潤滑流体経路は、前記本体内及び前記回転工具内を経由し、前記回転工具に設けられた開口から前記流体を加工点に供給する、請求項に記載の回転工具支持装置。
【請求項6】
前記潤滑流体経路における前記開口の上流側には、前記潤滑流体経路と分岐する前記流体経路に供給する前記流体の量が所望の量となるよう形成される第三固定絞りを備える、請求項に記載の回転工具支持装置。
【請求項7】
前記付加マスは、前記本体に対して回転不能に固定される、請求項1〜の何れか1項に記載の回転工具支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具が装着された工作機械の回転工具支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び、特許文献2に示すように、回転工具が装着された状態で、主軸装置に取り付けられる工具ホルダ(回転工具支持装置)がある。特許文献1及び、特許文献2のいずれの回転工具も、工作物を加工する際には、回転工具の円周上の1点が工作物に当接しながら、工作物の加工が行なわれる。このため、回転工具及び工具ホルダは、片持ち状態で工作物の加工点から荷重を受けることになる。これにより、回転工具及び工具ホルダには、加工中にびびり振動が発生する虞がある。これに対して、特許文献3には、上記で説明した、びびり振動を抑制する方法として、工具ホルダに動的アブソーバを装着することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−45687号公報
【特許文献2】特開平5−154735号公報
【特許文献3】特開2012−86358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、回転工具によって工作物が加工される際に発生するびびり振動をより効果的に抑制することができる回転工具支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(請求項1)本発明に係る回転工具支持装置は、回転工具を保持して回転する本体と、前記本体との径方向間に隙間を介して前記本体に支承され前記本体と共に回転する付加マスと、前記本体内に設けられる流体経路と、前記流体経路を介して前記本体と前記付加マスとの径方向隙間に供給される流体により構成される粘弾性ダンパと、を備え、前記粘弾性ダンパは、前記本体の軸線方向に二個設けられ、前記二個の粘弾性ダンパは、前記付加マスの内周面又は外周面に前記流体経路を介して前記流体が供給される油圧ポケットがそれぞれ設けられた二個の静圧流体ダンパであり、前記流体経路は、前記二個の静圧流体ダンパに供給される前記流体の量がそれぞれ所望の量となるよう形成される第一固定絞りを各前記二個の静圧流体ダンパの上流側にそれぞれ備える。
【0006】
このように、本体内に設けられる流体経路から供給された流体によって付加マスと本体との間に粘弾性ダンパを形成するという、従来にない構成によって、回転工具支持装置、延いては回転工具のびびり振動が、抑制できる。これにより、回転工具による工作物の加工面の加工精度が向上される。また、粘弾性ダンパは静圧流体ダンパである。このため、回転工具のびびり振動がより効果的に抑制される。また、回転工具支持装置、及び回転工具のびびり振動を抑制する際には、静圧流体ダンパに供給する油量等の調整により、静圧流体ダンパが最も回転工具支持装置、及び回転工具の振動抑制に適した減衰係数に容易に合わせ込まれ、びびり振動の抑制がより効果的に行われる。また、このように第一固定絞りを設けるという簡易で安価な方法によって、粘弾性ダンパに供給される流体の量が制御できる。これにより、粘弾性ダンパに適正な流体流量を流せるので、回転工具支持装置、及び回転工具のびびり振動の抑制が、効果的に行なえる。
【0007】
(請求項2)また、前記付加マスは、前記本体に対し径方向及び軸方向の隙間を有して設けられてもよい。このため、付加マスが径方向に移動した際、軸方向における付加マスと本体との間は接触せず移動可能となる。これにより、径方向の隙間に粘弾性ダンパを設けた場合、回転工具のびびり振動が、より効果的に抑制される。
【0009】
(請求項)また、前記付加マスと前記本体との軸方向の隙間に弾性部材を備えてもよい。このため、付加マスが径方向に移動した際、軸方向における付加マスと本体との間の接触が良好に防止される。
【0011】
(請求項)また、前記流体経路には、前記第一固定絞りとの間で前記流体経路内の圧力が予め設定された圧力となるように前記第一固定絞りよりも上流側に形成される第二固定絞りを備えてもよい。これにより、予め設定された圧力により、流体が、第一固定絞りを介して粘弾性ダンパに常に一定量供給される。よって、安定して回転工具支持装置、延いては回転工具のびびり振動が抑制される。
【0012】
(請求項)また、前記本体内には、前記流体経路の前記第二固定絞りの上流にて分岐された潤滑流体経路を備え、前記潤滑流体経路は、前記本体内及び前記回転工具内を経由し、前記回転工具に設けられた開口から前記流体を加工点に供給するようにしてもよい。
【0013】
これにより、共通の供給源から供給された一種類の流体が、粘弾性ダンパに供給され、回転工具支持装置、及び回転工具のびびり振動を抑制するとともに、工作物の加工点の潤滑を行ない効率的である。また、このように、潤滑流体経路の取り回しが、本体内で完結する。これにより、新たに配管を本体外に設ける必要がなく省スペース化が図られる。
【0014】
(請求項)また、前記潤滑流体経路における前記開口の上流側には、前記潤滑流体経路と分岐する前記流体経路に供給する前記流体の量が所望の量となるよう形成される第三固定絞りを備えてもよい。これにより、流体経路には、必要量の流体が、簡易かつ確実に分配される。また、開口から加工点に供給する流体の量が簡易に制御できる。
【0015】
(請求項)また、前記付加マスは、前記本体に対して回転不能に固定されてもよい。これにより、相対回転に伴う本体と付加マスとの間の摩耗が確実に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る第一実施形態の工具ホルダ(回転工具支持装置)を適用した主軸装置の軸方向断面図である。
図2図1における工具ホルダ及び回転工具の軸方向断面図である。
図3図2における静圧ダンパ部分の拡大図である。
図4】コンプライアンス−振動周波数グラフである。
図5】第二実施形態の工具ホルダの軸方向断面図である。
図6】第三実施形態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第一実施形態>
(主軸装置の構成)
以下、本発明の回転工具支持装置を適用した主軸装置を具体化した第一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以降の説明においては、回転工具支持装置を工具ホルダと称して説明する。主軸装置の構成について、図1を参照して説明する。図1に示すように、主軸装置は、ハウジング10、主軸20、モータ30、転がり軸受41〜45、回転工具50、及び工具ホルダ60を備える。なお、本実施形態では、回転工具50は、フライス用の回転工具であるものとする。ただし、フライス用の回転工具は一例として示すものであり、この態様には限らない。例えば、回転工具は、マシニングセンタ用のエンドミル、ピニオンカッタ、及び歯車加工用の回転工具であってもよい。
【0018】
ハウジング10は、中空筒状に形成され、その中に主軸20が挿通される。主軸20は、先端側(図1の左側)で、工具ホルダ60を保持する。工具ホルダ60は、先端側(図1の左側)に、回転工具50を保持する。モータ30は、ハウジング10の筒内に配置されている。モータ30は、ハウジング10にステータ31が固定され、主軸20にロータ32が固定されて構成される。
【0019】
転がり軸受41〜45は、ハウジング10に対して主軸20を回転可能に支持する。転がり軸受41〜45の内周面は、主軸20の外周面に係合される。転がり軸受41〜44は、例えば玉軸受を適用し、モータ30より回転工具50側(前側)に配置される。玉軸受はどのようなものでもよく、例えば、主軸20の軸線方向に与圧を付与するアンギュラ玉軸受であってもよい。なお、以降の説明においても、軸線方向とのみいった場合には、主軸20の軸線方向のことをいうものとする。
【0020】
一方、転がり軸受45は、例えば、ころ軸受を適用し、モータ30より回転工具50の反対側(後側)に配置される。つまり、転がり軸受41〜軸受44および軸受45は、モータ30を軸線方向中央で挟むように配置される。なお、主軸装置の説明においては、以降も、回転工具50が保持される図1の左側を前側と称し、図1の右側を後側と称す。
【0021】
図2に示すように、回転工具50は、貫通孔である嵌合孔51を回転軸中心に備える。嵌合孔51は、後述する工具ホルダ60の本体61が有する突設部61cと嵌合する。また、図2に示すように回転工具50は、内部に、後述する潤滑流体経路64の一部である潤滑流体経路64bを備える。潤滑流体経路64bは、回転工具50の外方と接続する開口53を備える。潤滑流体経路64a内には、潤滑用のクーラント(本発明の流体に相当する)が流通する。そして、クーラントは、図2において矢印の方向である流体供給方向に向かって流れるものとする。このとき、クーラントの流体供給方向において開口53の手前側の潤滑流体経路64b上には、開口径φCで形成された第三固定絞り54が設けられている。第三固定絞り54の詳細については後述する。
【0022】
(工具ホルダについて)
図2に示すように、工具ホルダ60は、本体61(本発明の他方に相当)と、付加マス62(本発明の一方に相当)と、流体経路63と、潤滑流体経路64と、静圧ダンパ65(本発明の静圧流体ダンパ及び粘弾性ダンパに相当)と、を備える。
本体61は、回転工具50を保持して回転する部材である。本体61は、前方傾斜面61a、後方傾斜面61b、前述の突設部61c、付加マス取付け面61d、及びATCチャック部61eを備える。前方傾斜面61aは、本体61の前方端面から軸線方向中央部に向かって外径が大きくなるよう形成される。ただし、前方傾斜面61aの最大外径は、円環状に形成される付加マス62の内周面の内径より小さく形成される。後方傾斜面61bは、本体61の後方端面から本体61の軸線方向中央部に向かって外径が大きくなるよう形成される。後方傾斜面61bは、主軸20の取り付け孔に挿入され固定される。
【0023】
本体61の外周面の軸線方向中央部には、前方から順に雄ねじ部61f、付加マス取付け面61d、及びATCチャック部61eが整列している。雄ねじ部61f、付加マス取付け面61d、及びATCチャック部61eの順に外径が大きくなるよう段差を有して形成される。雄ねじ部61fには、本体61の一部であるナット61gが、ねじ込まれる。具体的には、ナット61gが、隣接する付加マス取付け面61dとの間の段差の側面に当接するまで雄ねじ部61fにねじ込まれる。なお、ナット61gの後側端面には、Oリング溝が本体61の軸線周りに形成される。
【0024】
付加マス取付け面61dの軸方向長さは、円環状に形成される付加マス62の軸方向長さより若干長く形成される。また、雄ねじ部61fの最大外径は、付加マス62の内周面の内径より小さく形成される。これにより、付加マス62は、本体61の前側端面から付加マス取付け面61dまで挿入可能となる。
【0025】
ATCチャック部61eは、工具ホルダの交換時に自動工具交換装置である、ATC(Automatic Tool Changer)によって把持される部位である。ATCチャック部61eの外周面には、V字溝が形成される。ATCチャック部61eの前端面にはOリング溝が本体61の軸線周りに形成される。ATCについては、公知であるのでこれ以上の詳細な説明については省略する。
【0026】
本体61の円柱状の突設部61cの前側の端面の軸中心には、雌ねじ61c1が形成される。そして、前述したように、突設部61cは、回転工具50に設けられた嵌合孔51に嵌合される(図2参照)。このような状態で、ボルト55が回転工具50の前側から突設部61cの雌ねじ61c1にねじ込まれる。
【0027】
そして、ボルト55の頭部の後側端面と回転工具50の嵌合孔51の前側入口端面とが当接し、本体61と回転工具50とが固定される。このとき、回転工具50に形成される潤滑流体経路64b(潤滑流体経路64)と本体61側に形成される潤滑流体経路64a(潤滑流体経路64)とが、接続可能なように本体61と回転工具50とが回転方向の位相を合わせて組み付けられる。なお、潤滑流体経路64aと潤滑流体経路64bとの接続においては、両者の間から外部への漏れが発生しないよう図略のOリングによってシールされる。
【0028】
付加マス62は、前述したように円環状の部材である。付加マス62は、例えば鉄系材料で形成される。付加マス62は、付加マス取付け面61dの外周面に配置された状態において、本体61の付加マス取付け面61dの外周面と付加マス62の内周面との間、つまり径方向間に隙間を有している。また、前述したように、付加マス62は、軸方向における前後方向にも若干の隙間を有している。
【0029】
そして、付加マス62は、付加マス62の軸方向における前側端面と、前述したナット61gの後側端面との間の軸方向の隙間に弾性部材であるOリング69を備える。Oリング69は、ナット61gの後側端面のOリング溝に収容される。また、付加マス62の軸方向における後側の端面と、ATCチャック部61eの前側端面との間に弾性部材であるOリング69を備える。Oリング69は、ATCチャック部61eの前側端面のOリング溝に収容される。
【0030】
各Oリング69は、付加マス62の前側端面とナット61gの後側端面との接触の防止、及び付加マス62の後側端面とATCチャック部61eの前側端面との接触の防止を主な目的とする。このため、各Oリング69は、付加マス62の前側端面とナット61gの後側端面との間、及び付加マス62の後側端面とATCチャック部61eの前側端面との間に、若干の隙間を有して配置される。これにより、付加マス62は、前後の端面と、ナット61gの後側端面及びATCチャック部61eの前側端面とに接触することなく、良好に径方向に相対移動が可能となる。なお、上記の態様に限らず、各Oリング69は、付加マス62の前側端面とナット61gの後側端面との間、及び付加マス62の後側端面とATCチャック部61eの前側端面との間で各両者に若干接していてもよい。
【0031】
静圧ダンパ65は、付加マス62と、本体61の付加マス取付け面61dと、の間で構成される。静圧ダンパ65は、第一静圧ダンパ65aと、第二静圧ダンパ65bと、を備える。第一静圧ダンパ65aは軸線方向において前側の静圧ダンパであり、第二静圧ダンパ65bは後側の静圧ダンパである。第一、第二静圧ダンパ65a、65bは、例えばクーラントなどの流体が、後述する各油圧ポケット65a1、65b1に所定の流量だけ供給されることによりダイナミックダンパとして機能する。
【0032】
詳細には、静圧ダンパ65は、各油圧ポケット65a1、65b1に流体が供給されることにより、回転工具50及び工具ホルダ60の振動を抑制する減衰効果及びバネ効果が発揮される。減衰効果及びバネ効果は、各油圧ポケット65a1、65b1に供給される流体(クーラント)の流量に応じて変化する。減衰効果の大きさは減衰係数cで表し、バネ効果の大きさはバネ定数kで表す。
【0033】
ダイナミックダンパとして機能する第一、第二静圧ダンパ65a、65bは、所定の減衰係数cおよび所定のバネ定数kで、工具ホルダ60の本体61の振動を抑制する。ここで所定の減衰係数cおよび所定のバネ定数kは、実際に実験を行なって良好に振動抑制効果が得られるよう、各油圧ポケット65a1、65b1に供給する流体の流量を設定すればよい。
【0034】
例えば、静圧ダンパ65がない場合の、回転工具50と工具ホルダ60との一体部材80の振動周波数fとコンプライアンスCとの関係を図4のグラフ(実線)に示す。なお、図4において、振動周波数fは、一体部材80が図略の工作物を加工する際に発生する振動周波数である。コンプライアンスCは、下記式(数1)によって求められる。
【0035】
[数1]
C=Δx/F・・・(1)
C;コンプライアンス
Δx;一体部材80の振動の変位
F;付与される荷重
【0036】
図4における破線のグラフが、静圧ダンパ65(第一、第二静圧ダンパ65a、65b)に対し、所定の流量のクーラントを供給した場合の振動周波数f−コンプライアンスC特性である。破線のグラフによれば、ピーク値のコンプライアンスCが減少するのがわかる(矢印参照)。なお、所定の流量とは、前述したように所定の減衰係数cおよび所定のバネ定数kを得るための流量である。これにより、一体部材80の振動が抑制され、工作物の加工面精度が向上する。なお、第一、第二静圧ダンパ65a、65bは、付加する減衰係数cおよびバネ定数kに応じて、空気静圧ダンパ、磁気ダンパ、ゴム製Oリングなどの他の粘弾性ダンパに適宜変更することができる。
【0037】
本実施形態においては、第一静圧ダンパ65aおよび第二静圧ダンパ65bは同様の構成からなるものとする。よって、第一、第二静圧ダンパ65a、65bの有する各減衰係数cおよび各バネ定数kはそれぞれ同じであるものとする。
【0038】
(流体経路63)
流体経路63は、図2に示すように設けられる。流体経路63は、第一、第二静圧ダンパ65a、65bにクーラントを供給する流路である。流体経路63は、図2において流体経路63の後側(右側)に配置される図略のオイルポンプの吐出口に接続される。オイルポンプは、例えば、一例である2MPaの吐出圧でクーラントを吐出可能なポンプである。流体経路63は、クーラントを第一、第二静圧ダンパ65a、65bの各油圧ポケット65a1、65b1にそれぞれ供給可能に配設される(図2参照)。図2に示すように、各油圧ポケット65a1、65b1にそれぞれ供給可能とするため、流体経路63を構成する分岐流路63a、63b、63c、63dが設けられる。分岐流路63aと63b、及び63cと63dは軸線周りの円周方向に180deg離間してそれぞれ設けられる。ただし、この態様に限らず、各分岐流路は軸線周り円周方向に3箇所以上設けてもよい。また、1箇所のみでもよい。
【0039】
(第一固定絞り)
流体経路63における第一、第二静圧ダンパ65a、65b(粘弾性ダンパ)の流体供給方向の上流側(手前側)には、第一固定絞り66を備える。第一固定絞り66は、流体経路63(分岐流路63a、63b、63c、63d)から第一、第二静圧ダンパ65a、65bに供給されるクーラントの量に応じて形成される。つまり、第一、第二静圧ダンパ65a、65bが、所定の減衰係数c及び所定のバネ定数kを得るのに必要な所望のクーラント流量を得るために必要な開口径φAを有して第一固定絞り66が形成される。このとき、第一固定絞り66から第一、第二静圧ダンパ65a、65bに供給されるクーラントの流量は、流体経路63(分岐流路63a、63b、63c、63d)における各第一固定絞り66の流体供給方向の上流側(手前側)の圧力P1と各第一固定絞り66の開口径φAによって決定される。
【0040】
(第二固定絞り)
流体経路63は、流体供給方向(図2中矢印参照)において、分岐流路63c、63dが分岐する上流側(手前側)に第二固定絞り67を備える。第二固定絞り67は、上述した圧力P1を設定するために設ける絞りである。よって、第二固定絞り67は、図略のポンプから吐出される、例えば、圧力2MPaのクーラントを、圧力P1に減圧するのに必要な開口径φBを有して形成される。
【0041】
(潤滑流体経路64)
潤滑流体経路64は、図2に示すように設けられる。潤滑流体経路64は、流体経路63と同じ切断面では表せないので、破線にて示す。潤滑流体経路64は、回転工具50の加工点にクーラントを供給するための流路である。潤滑流体経路64は、流体供給方向(図2中矢印参照)において、流体経路63に設けられた第一固定絞り66の上流側(手前側)で分岐される。
【0042】
そして、潤滑流体経路64は、本体61の前側端面まで本体61内を連通される。なお、本体61の前側端面まで連通された潤滑流体経路64が、潤滑流体経路64aと称される。そして、前述した回転工具50内に形成された潤滑流体経路64bと周方向における位相を一致させて潤滑流体経路64aの流路と潤滑流体経路64bの流路とが接続される。これにより、本体61の潤滑流体経路64aと回転工具50の潤滑流体経路64bとが連通される。そして、潤滑流体経路64を流れるクーラントが、開口53に到達するとともに、開口53から噴出し加工点に供給される。
【0043】
(第三固定絞り)
なお、上記で説明したように、クーラントの供給方向において開口53の上流側(手前側)の潤滑流体経路64a上には、開口径φCで形成された第三固定絞り54が設けられる。第三固定絞り54の開口径φCは、クーラントが、流体経路63に所望量(必要量)だけ流通可能とせしめる開口径である。つまり、第三固定絞り54の開口径φCは、大きすぎると流体経路63(分岐流路63a、63b、63c、63d)を介して第一、第二静圧ダンパ65a、65bに必要なクーラント量を供給できない。そこで、第三固定絞り54の開口径φCは、開口53から加工点に十分な量のクーラントを供給可能な開口径とする。また、同時に、開口径φCは、流体経路63(分岐流路63a、63b、63c、63d)を介して第一、第二静圧ダンパ65a、65bに必要なクーラント量を供給可能とする開口径とする。
【0044】
(静圧ダンパ65の詳細構成)
静圧ダンパ65の構成について主に図2図3に基づいて説明する。前述したように静圧ダンパ65は、第一、第二静圧ダンパ65a、65bを有しており、両者は同一の構成によって形成されている。そこで、構成の説明については、代表として第一静圧ダンパ65aのみで説明する。図2図3に示すように、第一静圧ダンパ65aは、油圧ポケット65a1と、第一ドレン通路65a2と、第二ドレン通路65a3と、付加マス62側の対向面65a4と、本体61側の対向面である付加マス取付け面61dと、クーラントを供給する分岐流路63a(流体経路63)と、第一固定絞り66とを有する。分岐流路63a(流体経路63)及び第一固定絞り66は上記で説明したとおりである。
【0045】
油圧ポケット65a1は、本体61(他方)の付加マス取付け面61dの外周面と対向する付加マス62(一方)の内周面の全周に亘って凹状に刻設される。第一ドレン通路65a2は、付加マス62において、第一静圧ダンパ65aと第二静圧ダンパ65bの軸方向中間位置で外周面から内周面まで径方向に貫通している。なお、第一ドレン通路65a2は、第二静圧ダンパ65bが有する第一ドレン通路65a2と共用である。油圧ポケット65a1の軸方向両側には壁68、68を有する。壁68、68の各内周面には、付加マス取付け面61dの外周面と対向する前述の対向面65a4、65a4を備える。対向面65a4、65a4と、付加マス取付け面61dとは若干の隙間を有して対向する。当該隙間によって、油圧ポケット65a1に供給されたクーラントが油圧ポケット65a1から第一ドレン通路65a2及び下記第二ドレン通路65a3に向かって流れる流路が形成される。
【0046】
第二ドレン通路65a3は、油圧ポケット65a1と前側の壁68を隔てて軸線方向の前側に形成されている。つまり、第二ドレン通路65a3は、ナット61gと付加マス62の前端面との間の空間、及び付加マス62の前側端面とOリング69との間の空間(隙間)によって形成される。一方、第二静圧ダンパ65bの第二ドレン通路65b3は、付加マス62の後端面とATCチャック部61eとの間の空間、及び付加マス62の後側端面とOリング69との間の空間(隙間)によって形成される。
【0047】
油圧ポケット65a1、第一ドレン通路65a2及び第二ドレン通路65a3を通って流れるクーラントは、工具ホルダ60の外方に放出してもよい。また、この態様に限らず、第一ドレン通路65a2及び第二ドレン通路65a3を図略のドレン回収通路と接続し、クーラントが、図略のリザーバに回収されてもよい。
【0048】
前述のとおり、第二静圧ダンパ65bは、第一静圧ダンパ65aと同様の構成を有している。つまり、第一静圧ダンパ65aが有する、油圧ポケット65a1、第一ドレン通路65a2(共用)、第二ドレン通路65a3、対向面65a4、付加マス取付け面61d(対向面)、分岐流路63a、第一固定絞り66及び壁68、68が、第二静圧ダンパ65bが有する油圧ポケット65b1、第一ドレン通路65a2、第二ドレン通路65b3、対向面65b4、付加マス取付け面61d(対向面)、分岐流路63c、第一固定絞り66及び壁79,79にそれぞれ対応する。そして、前述したように、付加マス62は、付加マス62の軸方向における前側端面と、前述したナット61gの後側端面との間に弾性部材であるOリング69が、第二ドレン通路65a3を形成しうる隙間を有して介在される。また、付加マス62の軸方向における後側の端面と、ATCチャック部61eの前側端面との間にも弾性部材であるOリング69が、第二ドレン通路65b3を形成しうる隙間を有して介在される。
【0049】
(作動)
上記のように構成された主軸装置の工具ホルダ60に保持される回転工具50によって工作物が加工された場合の作動について説明する。
【0050】
(加工点へのクーラントの流れ)
加工が開始されると、クーラント(潤滑油)を工作物の加工点に供給するため、油圧ポンプが作動される。そして、油圧ポンプが流体経路63に、例えば2MPaの油圧を有したクーラントを供給する。流体経路63を流れるクーラントは、流体経路63の途中から分岐される潤滑流体経路64(潤滑流体経路64a)に流れ込み分流される。
【0051】
潤滑流体経路64に流れ込んだクーラントは、本体61内に形成された潤滑流体経路64a、回転工具50内に形成された潤滑流体経路64b及び潤滑流体経路64b上に形成された第三固定絞り54を介して開口53に達する。このとき、開口53から噴出するクーラントの量は、油圧ポンプの吐出圧と第三固定絞り54の開口径φCによって決まる。そして、開口53から噴出した所定量のクーラントが加工点に供給され、加工点が良好に潤滑される。
【0052】
(静圧ダンパ65へのクーラントの流れ)
上記説明において、油圧ポンプが流体経路63に吐出したクーラントのうち、潤滑流体経路64に流れ込んだクーラントを除く残りのクーラントは、第二固定絞り67を介して、流体経路63の各分岐流路63a、63b、63c、63dに流れ込む。このとき、各分岐流路63a、63b、63c、63dに流れ込むクーラントの量は、第二固定絞り67の開口径φBと、第三固定絞り54の開口径φCによって決まる。第三固定絞り54の開口径φCが大き過ぎると、多くのクーラントが潤滑流体経路64に流れ込み、残りのクーラントが少なくなってしまう場合がある。
【0053】
しかし、本実施形態においては、流体経路63の各分岐流路63a、63b、63c、63dに必要量(所望量)のクーラントが流し込めるよう第三固定絞り54の開口径φCが設定される。このため、各分岐流路63a、63b、63c、63dには、必要量のクーラントが流れ込む。そして、流体供給方向における静圧ダンパ65の上流側(手前側)に設けられた開口径φAを有する第一固定絞り66及び開口径φBを有する第二固定絞り67の作用によって、第一固定絞り66と第二固定絞り67との間の圧力が、所望の圧力P1となる。
【0054】
これにより、クーラントは、所望の圧力で第一固定絞り66から、静圧ダンパ65(第一静圧ダンパ65a、第二静圧ダンパ65b)に向かって押し出され所望の流量で流れる。そして、静圧ダンパ65(第一静圧ダンパ65a、第二静圧ダンパ65b)の各油圧ポケット65a1、65b1に供給されたクーラントが、各油圧ポケット65a1、65b1の軸方向両側に形成された対向面65a4と付加マス取付け面61d間の隙間、及び対向面65b4と付加マス取付け面61d間の隙間を適切な流量で通過する。その後、クーラントは、第一ドレン通路65a2(共通)、第二ドレン通路65a3、及び第二ドレン通路65b3を通って外方に放出される。これにより、静圧ダンパ65には、適切な減衰係数cおよびバネ定数kが得られ、回転工具50が工作物を加工する際のびびり振動が良好に抑制される(図3の破線グラフ参照)。
【0055】
なお、周知の事項であるが、上記のように第一、第二静圧ダンパ65a,65bによって、工具ホルダ60の本体61(回転工具50)のびびり振動を抑制する場合、回転工具50および本体61、さらには、主軸20等の形状、材質、重さ等に応じてもっとも効率よく振動を抑制することが可能な減衰係数cおよびバネ定数kの範囲がある。よって、第一、第二静圧ダンパ65a、65bには、これらの振動抑制効果が高い減衰係数cおよびバネ定数kの範囲が得られるのに適した流量の油が供給されることが好ましい。ただし、バネ定数kを考慮に入れず、振動抑制効果が高い減衰係数cの範囲のみが得られるよう、第一、第二静圧ダンパ65a、65bに所定の流量の油が供給されるだけでもよい。
【0056】
(効果)
上述から明らかなように、第一実施形態によれば、工具ホルダ60は、回転工具50を保持して回転する本体61と、本体61との径方向間に隙間を介して本体61に支承され本体61とともに回転する付加マス62と、本体61内に設けられる流体経路63と、流体経路63を介して本体61と付加マス62との径方向隙間に供給されるクーラント(流体)により構成される静圧ダンパ65(粘弾性ダンパ)と、を備える。このように、本体61内に設けられる流体経路63から供給されたクーラントによって付加マス62と本体61との間に静圧ダンパ65(粘弾性ダンパ)を形成するという、従来にない構成によって、工具ホルダ60、延いては回転工具50のびびり振動が、抑制できる。これにより、回転工具50による工作物の加工面の加工精度が向上される。また、回転工具50を直接支持する工具ホルダ60(回転工具支持装置)に静圧ダンパ65(粘弾性ダンパ)が設けられる。このため、回転工具50のびびり振動がより効果的に抑制される。
【0057】
また、第一実施形態によれば、粘弾性ダンパは、本体61の外周面と付加マス62の内周面との間に油圧ポケット65a1、65b1が設けられた静圧ダンパ65(静圧流体ダンパ)である。これにより、工具ホルダ60、及び回転工具50のびびり振動を抑制する際には、静圧ダンパ65に供給するクーラント量を調整することにより、最も工具ホルダ60、及び回転工具50に適した減衰係数c及びバネ定数kが、容易に合わせ込まれる。
【0058】
また、第一実施形態によれば、流体経路63における静圧ダンパ65(粘弾性ダンパ)の流体供給方向の上流側には、流体経路63から静圧ダンパ65に供給されるクーラント(流体)の量が所望の量となるよう形成される第一固定絞り66を備えている。このように、第一固定絞り66を設けるという簡易で安価な方法によって、静圧ダンパ65に供給されるクーラント(流体)の量が制御できる。
【0059】
また、第一実施形態によれば、流体経路63上には、第一固定絞り66との間で流体経路63a、63b、63c、63d内の圧力が予め設定された圧力P1となるよう形成される第二固定絞り67を備える。これにより、クーラント(流体)は、予め設定された圧力P1により、第一固定絞り66を介して静圧ダンパ65に常に一定量が供給されるので、安定して工具ホルダ60、延いては回転工具50のびびり振動が抑制される。
【0060】
また、第一実施形態によれば、共通の油圧ポンプから一種類クーラントが、静圧ダンパ65(粘弾性ダンパ)に供給され、工具ホルダ60、及び回転工具50のびびり振動を抑制するとともに、工作物の加工点の潤滑を行なう。これにより、静圧ダンパ65に供給する流体用の設備を設ける必要がなく効率的である。また、潤滑流体経路64の取り回しが、本体61内で完結する。これにより、新たに配管を本体61外に設ける必要がなく省スペース化が図られる。
【0061】
また、第一実施形態によれば、潤滑流体経路64における開口53の流体供給方向の上流側には、潤滑流体経路64と分岐する流体経路63に供給するクーラント(流体)の量が所望の量となるよう形成される第三固定絞り54が備えられる。これにより、流体経路63には、必要量(所望量)のクーラント(流体)が、簡易かつ確実に分配される。また、開口53から加工点に供給する流体の量も簡易に制御できる。
【0062】
また、第一実施形態によれば、付加マス62と本体61との間の軸方向隙間に弾性部材であるOリングを備えた。このように、安価なOリングによって、回転工具50のびびり振動を抑制するとともに、付加マス62が軸方向でナット61g及び61eと接触することを良好に防止することができる。
【0063】
<第二実施形態>
次に第二実施形態について図5に基づき説明する。第二実施形態は、第一実施形態に対して、工具ホルダ160を構成する付加マス162が本体161の外周ではなく本体161の内周側に設けられる点のみ異なる。よって、相違する部分のみ説明し、同様部分については詳細な説明を省略する。また、同じ部品には同じ符号を付して説明する。
【0064】
(工具ホルダについて)
図5に示すように、工具ホルダ160は、本体161(本発明の一方に相当)と、付加マス162(本発明の他方に相当)と、流体経路163と、潤滑流体経路164と、静圧ダンパ165(本発明の静圧流体ダンパ及び粘弾性ダンパに相当)と、を備える。
本体161は、後方傾斜面61b、付加マス挿入孔161d、及びATCチャック部61eを備える。
【0065】
工具ホルダ160と回転工具150との間には、第一実施形態の突設部61cに相当する介在突設部161cを備える。第二実施形態の工具ホルダ160では、付加マス162が、本体161の付加マス挿入孔161dに挿入される。そして、付加マス162は、付加マス挿入孔161dと介在突設部161cの後側端面との間に封入される。付加マス162と付加マス挿入孔161d及び介在突設部161cとの間では、軸方向、及び径方向にそれぞれ隙間を有している。そして、付加マス162の軸方向前側端面と介在突設部161cの後側端面との軸方向隙間に弾性部材であるOリング169が介在する。また、付加マス162の軸方向後側端面と付加マス挿入孔161dの底面との間に弾性部材であるOリング169が介在する。各Oリング169は、圧縮して介在させてもよいし、圧縮させず隙間を有して介在させてもよい。
【0066】
流体経路163は、本体161及び付加マス162の軸中心に設けられる。付加マス162内の流体経路163には、流体経路163から付加マス162の径方向外側に向かって4つの貫通孔が形成される。各貫通孔によって分岐流路163a〜163dが形成される。そして、各分岐流路163a〜163d上に第一固定絞り166がそれぞれ設けられる。付加マス162の各第一固定絞り166より、さらに外周には各分岐流路163a〜163dと接続する油圧ポケット165a1、165b1がそれぞれ形成される。
【0067】
各油圧ポケット165a1、165b1は、付加マス162(他方)の外周全周に渡って刻設される。付加マス162の外周面における各油圧ポケット165a1、165b1の間には、外周溝165dが外周全周に渡って刻設される。また、付加マス162の外周面における油圧ポケット165a1の前方(図5中、左方向)には、外周溝165cが外周全周に渡って刻設される。さらに付加マス162の外周面における油圧ポケット165b1の後方(図5中、右方向)には、外周溝165eが外周全周に渡って刻設される。
【0068】
そして、油圧ポケット165a1と外周溝165cとの間で壁168が形成される。また、油圧ポケット165a1と外周溝165dとの間でもう一つの壁168が形成される。また、外周溝165dと油圧ポケット165b1との間で壁179が形成される。さらに、油圧ポケット165b1と、外周溝165eとの間でもう一つの壁179が形成される。外周溝165c〜165eは、付加マス挿入孔161dの内周面との間で各ドレン通路を形成する。各ドレン通路はそれぞれ円周上の一箇所で、本体161内、及び介在突設部161cに設けられた排出ドレン通路161hと接続される(図5参照)。
【0069】
静圧ダンパ165(第一静圧ダンパ165a及び第二静圧ダンパ165b)は、上述の各油圧ポケット165a1、165b1、各壁168、168、179、179の外周面に形成された各対向面、及び付加マス挿入孔161dの内周面(対向面)等によって構成される。そして、静圧ダンパ165に供給されるクーラントが、外周溝165c〜165eによって形成された各ドレン通路及び排出ドレン通路161hを経由して外方に排出される。
【0070】
潤滑流体経路164、第二固定絞り167及び第三固定絞り154は、第一実施形態と同様に形成される。ただし、第一実施形態とは、本体161と回転工具150との間に介在突設部161cが介在されることのみ異なる。これらによって、第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0071】
<第三実施形態>
第一、第二実施形態においては、付加マス62、162と本体61、161との間には、隙間を設け、当該隙間にはOリングを介在させたのみである。しかし、このような態様には限らない。第三実施形態として、図6に示すように、付加マス62の後側端面に凹部62aを設け、ATCチャック部61eの前側端面に、凹部62aと嵌合する凸部61e1を設けてもよい。なお、図6の説明は、代表として第一実施形態に基づく。これにより、付加マス62とATCチャック部61eを有する本体61とが、周方向において相対回転を規制される。このため、付加マス62と、ATCチャック部61e及びナットとの間での相対回転に起因する摩耗が防止される。なお、付加マス62と、本体61との間の相対回転を規制する方法は、上記態様には限らず、どのような方法によってもよい。
【0074】
また、第一〜第三実施形態においては、流体経路63、163及び潤滑流体経路64、64がともに設けられた、しかし、この態様に限らず、潤滑流体経路64、64は設けなくともよい。これによっても、相応の効果は得られる。
【0075】
また、第一〜第三実施形態においては、それぞれ第一〜第三の固定絞りを設けた。しかし、この態様に限らず、第二、第三の固定絞りは設けなくともよい。この場合、オイルポンプの吐出圧力を圧力P1に調整すればよい。これによって、第一〜第三実施形態と同様の効果が得られる。
【0076】
また、第一、第三実施形態においては、付加マス62の前側端面とナット61gの後側端面との間、及び付加マス62の後側端面とATCチャック部61eの前側端面との間に各Oリング69を若干の隙間を有して介在させた。しかし、この態様には限らない。付加マス62の前側端面とナット61gの後側端面との間、及び付加マス62の後側端面とATCチャック部61eの前側端面との間に各Oリング69を圧縮させた状態で介在させてもよい。これによっても、相応の効果が期待できる。
【0077】
また、上記のように、各Oリング69を圧縮させた状態で介在させた場合において、ナット61g及びATCチャック部61eに軸線方向の貫通孔を設けてもよい。ナット61gにおいては、貫通孔は前側端面からナット61gと付加マス62の前側端面との間の空間に貫通させる。ATCチャック部61eにおいては、貫通孔は後側端面から付加マス62の後端面とATCチャック部61eの前側端面との間の空間に貫通させる。このようにして、各ドレン通路を設けてもよい。これによっても、第一〜第三実施形態と同様の効果が期待できる。
【0078】
さらに、第一〜第三実施形態においては、工具ホルダ60,160を回転工具支持装置として説明した。しかし、この態様には限らない。例えば、回転工具を直接支持するタイプの主軸の場合、主軸を回転工具支持装置として本発明が適用できる。これによっても上記と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0079】
10・・・ハウジング、 20・・・主軸、 50,150・・・回転工具、 53・・・開口、 54・・・第三固定絞り、 60,160・・・回転工具支持装置(工具ホルダ)、 61,161・・・本体、 61g・・・ナット、 62,162・・・付加マス、 63,163・・・流体経路、 63a〜63d・・・分岐流路、 64,164・・・潤滑流体経路、 64a・・・潤滑流体経路、 64b・・・潤滑流体経路、 65,165・・・粘弾性ダンパ、 静圧流体ダンパ(静圧ダンパ)、 65a,165a・・・第一静圧ダンパ、 65a1,165a1・・・油圧ポケット、 65b,165b・・・第二静圧ダンパ、 65b1,165b1・・・油圧ポケット、 161d・・・付加マス挿入孔、 66・・・第一固定絞り、 67・・・第二固定絞り、 P1・・・圧力、 c・・・減衰係数、 f・・・振動周波数、 k・・・バネ定数。
図1
図2
図3
図4
図5
図6