(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る照明システム1の構成の模式図である。
この照明システム1は、照射対象物3を演出照明に供されるシステムであり、照明装置の一例たる複数台の投光器2と、これらの投光器2による照明を制御するコントローラ4とを備えている。演出照明の例としては、屋外の建造物(例えば橋やタワー等)や看板等のライトアップ、又は、舞台の演出照明或いは特殊照明が挙げられる。
【0016】
投光器2は、照明光を出射する光源部6と、照明光の光量を可変する調光ユニット8とを備えている。この投光器2は、光源部6が三原色の赤色光、緑色光、及び青色光を照明光として個別に、又は混光して任意の色に変えて出射可能に構成されており、具体的には、赤色光源9A、緑色光源9B、及び青色光源9Cを備えている。これら赤色光源9A、緑色光源9B、及び青色光源9Cは、例えばLED等の発光素子で構成されており、赤色光源9Aには赤色光を発するLED、緑色光源9Bには緑色光を発するLED、及び青色光源9Cには青色光を発するLEDがそれぞれ用いられている。
【0017】
調光ユニット8は、光源部6を制御して、照明光の色、及び光量を可変するものである。具体的には、調光ユニット8は、赤色光源9A、緑色光源9B、及び青色光源9Cごとに個別に光量を調整可能に構成されている。赤色光、緑色光、及び青色光の混光比を調整することで、赤色、緑色、及び青色の単色、並びに、これらの混光により得られる白色を含め、任意の色の照明光が得られる。
調光ユニット8は、上記コントローラ4と通信線12を通じて接続され、当該コントローラ4より制御信号Cmを受信し、当該制御信号Cmに基づいて光源部6の照明光の色、及び光量を調整する。
【0018】
なお、この照明システム1が備える複数台の投光器2の各々は、その光源の種類、照明装置の定格光束、配光が必ずしも一致する必要はなく、その設置位置や照射範囲等に応じて適宜に異ならせることができる。
また、照明システム1における投光器2の台数は1台でも良い。
【0019】
コントローラ4は、投光器2の各々の照明を統括的に制御するものであり、色指定部14と、知覚明るさ指定部16と、光量決定部18と、を備えている。
色指定部14は、照明光の色または照射箇所の色度を指定する色指定値Baを光量決定部18に入力するものであり、例えば各種の操作子を有する操作部を備え、ユーザが操作部を操作して照明光の色または照射箇所の色度を指定可能になっている。照射箇所の色度は、既知の照明光の分光分布と照射箇所の分光反射率から求められるため、どちらを指定しても良い。また色指定部14の他の態様としては、色指定部14が予め設定された決定規則に基づいて自動的に照明光の色または照射箇所の色度を決定する構成も有り得る。この決定規則は、例えば照明光の色または照射箇所の色度と時間的要素との対応関係を規定したものである。この時間的要素には、例えば、季節、一年における時期、一日における時間帯、又は時刻等の任意の時間的要素が有り得る。色指定部14による色の指定により、単色、白色、又は混光色の任意色でのカラーライティングが可能になる。
【0020】
知覚明るさ指定部16は、ライトアップされた照射対象物3に対し人が感じる(知覚する)明るさの程度(以下、「知覚明るさ値D」と言う)をユーザが調整するために用いられる操作部であり、知覚明るさ値Dの調整後の値を知覚明るさ指定値Daとして光量決定部18に出力する。
この照明システム1では、知覚明るさ値Dの基準値が知覚明るさ基準値Dsとして予め設定されており、知覚明るさ指定部16は、この知覚明るさ基準値Dsを基準に知覚明るさ値Dを増減させる。
この知覚明るさ値Dは、詳細については後述するが、照明光の光量が同一である場合でも、照明光の色に応じて異なる値である。知覚明るさ値Dを基準として照明光の光量の調整に用いることで、測光量を基準として照明光の光量を調整する場合に比べ、照明光の色の違いに依らずに、人が感じる明るさを一定に維持した調整が可能となる。
知覚明るさ指定部16は、無段階、又は多段階の調整を可能な例えば回転ボリューム子やテンキー等を備え、これにより、ユーザが適宜に知覚明るさ値Dを可変できるようになっている。
【0021】
ここで、この実施形態の照明システム1では、知覚明るさ基準値Dsに用いる照明光の色を白色とし、照射対象物3の照度又は輝度の測光量が所望の設計値を満たしたときの知覚明るさ値Dが知覚明るさ基準値Dsに用いられている。
【0022】
光量決定部18は、色指定部14より入力される色指定値Baと、知覚明るさ指定部16により入力される知覚明るさ指定値Daとに基づいて、各投光器2による照明光の光量、すなわち照射対象物3を照らし出す合算の光量を決定する。
詳述すると、ヘルムホルツ−コールラウシュ効果によれば、同一輝度の色刺激において、知覚される色の明るさは、一部の色(黄色系)を除き、刺激純度又は彩度が高くなるほど大きくなると報告されている。したがって、
図2に示すように、xy色度座標において、白色に相当する座標P0を起点に、照射対象物3の色度に相当する座標Ptが黄色方向以外に離れるほど(刺激純度又は彩度が高くなるほど)、知覚明るさ値Dが大きくなる。このため、ライトアップにおいて、赤色、緑色、及び青色等の単色光での照明と白色光での照明では、照射箇所が同一輝度となる場合において、知覚明るさ値Dの違いが顕著となる。
換言すれば、各色の知覚明るさ値Dを一定に維持する場合には、これとは逆に色ごとの光量が大きく可変することになる。したがって、知覚される色の明るさが小さい白色の知覚明るさ値Dを基準とした場合、これと同程度の知覚明るさ値Dを他の色で得るには、照射箇所を同一輝度とする場合に比べて照明光の光量を下げることができ、特に単色光では、その光量を大きく下げることができる。
そこで、この照明システム1では、照明光の色が変わった場合でも、照射対象物3に対する知覚明るさ値Dを一定にするように、照明光の光量を調整することで、光量の増大を抑えることとしている。
【0023】
ここで、光の色と、その色刺激に対して人間が感じる明るさ(知覚明るさ値D)との関係を示す多数の式が知られている。
この照明システム1では、ライトアップされる照射対象物3の輝度L、及び色度と、その輝度L、及び色度に対して人が知覚する明るさ(知覚明るさ値D)とを関係付ける関係式(以下、「輝度・色度−知覚明るさ関係式G」と言う)を用いて知覚明るさ値Dを評価することとしている。
係る輝度・色度−知覚明るさ関係式Gには、例えばCIE(国際照明委員会:Commission Internationale de l'Eclairage)によって勧告された実験式を用いることができる。
すなわち、照射対象物3を異なる色の照明光で照射したときの輝度をそれぞれL1とL2とし、xy色度から成るfを補正係数とした場合、次の関係式(1)が成立することで、ライトアップされた照射対象物3の照射箇所の知覚明るさ値Dが同じであると評価できる。
【0024】
log(L1)+f1=log(L2)+f2 ・・・(1)
ただし、f=0.256−0.184y
−2.527xy+4.656x
3y+4.657xy
4
【0025】
なお、この関係式(1)は、照射対象物3の視野角θが0.5°以上、4°以下であり、輝度が2cd/m
2以上の場合に最も適合する。
この照明システム1では、上述の通り、白色光で照射対象物3をライトアップしたとき、照射対象物3の照度又は輝度の測光量が所望の設計値を満たしたときを基準とし、このときの輝度L1と、色度を用いて得られる上記(1)式の左辺の値(すなわち、log(L1)+f1)が上記知覚明るさ基準値Dsとして設定される。
したがって、この照明システム1では、上記(1)式の輝度・色度−知覚明るさ関係式Gは、次式(2)のように表される。
log(L2)+f2=知覚明るさ基準値Ds ・・・(2)
【0026】
照明光の色を変える場合には、そのときの照射対象物3の輝度L2と色度が、式(2)の輝度・色度−知覚明るさ関係式Gを満たすように照明光の光量を調整することで、知覚明るさ値Dが一定に維持されることとなる。
なお、本実施形態では、知覚明るさ基準値Dsの算出に用いる輝度L1と色度は、例えば投光器2の設置時の実測や照明設計時に、既知の白色光の分光分布と照射箇所の分光反射率との組み合わせに基づいて予め計算によって求められる。
【0027】
ここで、上記知覚明るさ基準値Dsの算出の際に、測定、又は計算によって得られている上記輝度L1、及び、そのときの出力光量等のデータに基づき、各色の照射対象物3の輝度L2と、その色の出力光量との対応を算出可能である。
光量決定部18は、各種データを記憶する記憶部19を備え、この記憶部19に、知覚明るさ基準値Ds、輝度L2と出力光量との対応関係を規定した光量−輝度対応データE、及び、上記(2)の輝度・色度−知覚明るさ関係式Gが予め格納されている。
光量−輝度対応データEは、例えば
図3に概念的に示すように、白色光を基準にした上記知覚明るさ基準値Dsに一定に維持できる光量を、照明光の色ごとに白色光の光量との相対値で規定したデータとして構成できる。すなわち、この光量−輝度対応データEでは、照射対象物3の色度が照明光の色に予め変換されており、これにより、照明光の色ごとに必要な光量を簡単に特定できるようになる。
【0028】
そして光量決定部18は、色指定部14によって照明光の色が指定された場合、その色の照明光でライトアップしたときの知覚明るさ値Dを知覚明るさ基準値Dsと等しくする光量を、光量−輝度対応データEとして、上記(2)式の輝度・色度−知覚明るさ関係式Gに基づいて特定する。この照明システム1では、知覚明るさ指定部16によって知覚明るさ値Dを増減指定可能に成されているため、より正確には、光量決定部18は、上記(2)式の知覚明るさ基準値Dsを、知覚明るさ指定部16による知覚明るさ指定値Daに置き換えて光量を特定することとなる。
【0029】
光量決定部18は、このようにしてライトアップに供する照明光の光量を決定した後、各投光器2が担う光量を割り振る。この割り振りは、投光器2の各々に等分であっても良く、また投光器2の配光や照射対象物3における照射箇所等に応じて異ならせても良い。
そして、コントローラ4は、光量決定部18が割り振った光量、及び照明光の色を、制御信号Cmとして各投光器2に出力する。
投光器2の各々は、係る制御信号Cmに基づいて調光制御し、これにより、照明光の色が任意に変わった場合でも、ユーザが知覚明るさ指定部16によって指定した知覚明るさ指定値Daを維持して照射対象物3がライトアップされることとなる。
【0030】
ここで
図4に示すように、緑色光の波長帯域FGに対し、赤色光の波長帯域FR、及び青色光の波長帯域FBは、分光視感効率に基づく測光量に寄与する割合が低い波長帯域である。このため、照射対象物3のライトアップにおいて、青色光、又は赤色光を照明光としたときに白色光と同程度の照度や輝度を得ようとすると、非常に大きな光量を要し、消費電力が増大する。
これに対し、この照明システム1によれば、青色光、又は赤色光を照明光とした場合でも、照度や輝度を白色光と同程度まで高めなくとも、それ以下の光量で、人が感じる明るさが同程度に維持される。これにより、その分、消費電力を大きく削減でき、省エネルギー性に優れた照明が可能になる。
【0031】
このように本実施形態によれば、照明光の色が変わる場合には、人が感じる明るさである知覚明るさ値Dが知覚明るさ指定値Daとなるように照明光の光量が調光制御されるため、分光視感効率に基づく測光量に寄与する割合が低い照明光の色で照明する場合であっても、消費電力の増大を抑えることができ、高い省エネルギー効果が得られる。
【0032】
また、本実施形態によれば、照射対象物3の知覚明るさ値Dを知覚明るさ指定部16によってユーザが調整できるようにした。これにより、照度や輝度を直接的に指定して明るさを変える場合に比べ、省エネルギー性効果を得つつ、明るさを効果的に変えることができる。
また、既知の照明光の分光分布と照射対象物3の分光反射率との組み合わせに基づいて、あらかじめ照射対象物3の輝度、及び色度を求め、求めた輝度、及び色度に基づいて照射対象物3に対して知覚明るさ値Dを求めるので、照射箇所の輝度、及び色度をより正確に求めることができ、知覚明るさ値Dをより正確に求めやすくなる。
【0033】
なお、本実施形態のコントローラ4が、照射対象物3の輝度L2、及び色度を測定する測定器を備え、この測定器により輝度L2、及び色度を実測し、この実測値と、輝度・色度―知覚明るさ関係式Gとに基づいて、知覚明るさ値Dを求めるようにしても良い。この場合、コントローラ4は、照明光の色が変わるときには、例えばフィードバック制御により、この知覚明るさ値Dが知覚明るさ指定値Daになるように、各投光器2の光量を可変制御する。
【0034】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係る照明システム51の構成の模式図である。
この照明システム51は、ライトアップされた照射対象物3に対し、人が感じる明るさ、及び目立ちを加味した強度である知覚強度の値PS(以下、知覚強度値PSと言う)が、予め設定された知覚強度基準値PS0となるように照明光の光量を調光制御する照明システムである。この照明システム51は、コントローラ54以外は第1実施形態に係る照明システム1と同様であり、同様の部分は同一の符号を付して重複説明を省略し、異なる部分を詳述する。
【0035】
コントローラ54は、色指定部14と、知覚強度指定部66と、光量決定部68と、を備えている。知覚強度指定部66は、知覚強度値PSをユーザが調整するために用いられる操作部であり、知覚強度値PSの調整後の値を知覚強度指定値PS1として光量決定部68に出力する。
この照明システム51では、知覚強度値PSの基準値が知覚強度基準値PS0として予め設定されており、知覚強度指定部66は、この知覚強度基準値PS0を基準に知覚強度値PSを増減させる。
また、知覚強度指定部66は、無段階、又は多段階の調整を可能な例えば回転ボリューム子やテンキー等を備え、これにより、ユーザが適宜に知覚強度値PSを可変できるようになっている。
【0036】
ここで、知覚強度値PSは、照明光の光量が同一である場合でも、照明光の色に応じて異なる値である。知覚強度値PSは、照明光の色が非常に刺激純度の高い色だった場合、「明るさ=白さ」と認識する人にとって、「明るさ」という感覚が受け入られない場合に受け入れやすい評価値である。
この知覚強度値PSを照明光の光量の調整に用いることで、測光量を基準として照明光の光量を調整する場合に比べ、照明光の色の違いに依らずに、人が感じる「明るさ」と「目立ち」を加味した強度を一定に維持した調整が可能となる。これにより、例えば、非常に刺激純度の高い色の照明光であっても、人が感じる明るさ、及び目立ちを加味した強度を一定に調整することができる。
【0037】
ここで、照射対象物3の視野角θは、詳細については後述するが、5°以上であり、照射対象物3に白色光を照射した場合の輝度LWに対し、背景輝度LBは、5%程度とされ、輝度LWについては、後述するように、例えば4、6、12cd/m
2とされる。なお、視野角θや輝度LW、LBは、上記値に限定されるものではない。
この前提の下、この照明システム51では、知覚強度基準値PS0に用いる照明光の色を白色とし、照射対象物3の照度又は輝度の測光量が所望の設計値を満たしたときの知覚強度値PSが知覚強度基準値PS0に用いられている。
【0038】
光量決定部68は、色指定部14より入力される色指定値Baと、知覚強度指定部66により入力される知覚強度指定値PS1とに基づいて、各投光器2による照明光の光量を決定する。
ここで、光量決定部68は、各種データを記憶する記憶部69を備え、この記憶部69に、知覚強度基準値PS0、輝度LCと出力光量との対応関係を規定した光量−輝度対応データE1、及び、後述する式(2)で表される輝度・色度−知覚強度関係式G1のデータが予め記憶されている。
【0039】
光量−輝度対応データE1は、白色光を基準にした上記知覚強度基準値PS0に一定に維持できる光量を、照明光の色ごとに白色光の光量との相対値で規定したデータとして構成できる。すなわち、この光量−輝度対応データE1では、照射対象物3の色度が照明光の色に予め変換されており、これにより、照明光の色ごとに必要な光量を簡単に特定できるようになる。
【0040】
そして光量決定部68は、色指定部14によって照明光の色が指定された場合、その色の照明光でライトアップしたときの知覚強度値PSを知覚強度基準値PS0と等しくする光量を、光量−輝度対応データE1として、後述する(2)式の輝度・色度−知覚強度関係式G1に基づいて特定する。この照明システム51では、知覚強度指定部66によって知覚強度値PSを増減指定可能に成されているため、より正確には、光量決定部68は、上記知覚強度基準値PS0を知覚強度指定値PS1に置き換えて光量を特定する。
【0041】
光量決定部68は、このようにしてライトアップに供する照明光の光量を決定した後、各投光器2が担う光量を割り振る。この割り振りは、投光器2の各々に等分であっても良く、また投光器2の配光や照射対象物3における照射箇所等に応じて異ならせても良い。
そして、コントローラ54は、光量決定部68が割り振った光量、及び照明光の色を、制御信号Cmとして各投光器2に出力する。
投光器2の各々は、係る制御信号Cmに基づいて調光制御し、これにより、照明光の色が任意に変わった場合でも、ユーザが知覚強度指定部66によって指定した知覚強度指定値PS1を維持して照射対象物3がライトアップされることとなる。
【0042】
次に、知覚強度値PSを求める主観評価実験について説明する。
発明者等は、白色光と有彩色光で照明したそれぞれの対象物の知覚強度値PSを等しく調節する主観評価実験を行った。
図6は実験装置の模式図を示す。被験者は暗室81内の椅子に座り、前方にある輝度LBに調整した黒紙82を観察し、5分間の順応を行う。黒紙82には予め視野中心から左右対称に同サイズの円形の穴82L、82Rを2つ開けており、順応中は同じ黒紙で塞いでいる。
黒紙82のさらに前方には白壁83を設けており、被験者から見て左側の白壁83Lには、左側に配置されたLED投光器84Lからの5000Kの白色光で一様に照明し、右側の白壁83Rには、右側に配置されたLED投光器84Rからの有彩色光で一様に照明している。左右の白壁83L、83Rの中心には隔壁85を設けており、左右の光が混光しないようにしている。
【0043】
順応後、穴82L、82Rを塞いでいた黒紙を取り去り、被験者に穴82L、82Rを通して白壁83Lに照明した白色光による刺激(以下、白色円形刺激)と有彩色光による刺激(以下、有彩色円形刺激)を呈示する。両円形刺激を観察する際は、顔を左右に振って左右の円の中心を見るように教示した。
図7は白色円形刺激と有彩色円形刺激の模式図を示す。なお、
図7中、右側が有彩色円形刺激であり、有彩色の領域をハッチングで示している。本実験では、白色円形刺激の輝度LWはCIE94の照射対象物の推奨輝度と同じく、4cd/m
2(周囲の明るさが暗い場合に相当)、6cd/m
2(周囲の明るさが中程度の場合に相当)、12cd/m
2(周囲の明るさが明るい場合に相当)の3条件とし、そのときの背景輝度LBは輝度LWの5%(それぞれ0.2、0.3、0.6cd/m
2)とした。また、呈示した円形刺激の視野角θは、実際にライトアップされた照射対象物を事前調査し、想定される視点場から照射対象物を見たときの視野サイズに基づいて、5°以上の5°、15°、30°の3サイズとした。
【0044】
白色円形刺激を参照刺激、有彩色円形刺激をテスト刺激とし、被験者に白色円形刺激と等しい強度(知覚強度値PS)と知覚されるように、有彩色円形刺激の輝度LCを手元の調光器86で調節させた。調節が終わると、そのときの有彩色円形刺激の輝度LCを測定し、再び異なる有彩色円形刺激を呈示し、調節作業を実施した。
ここで、
図8は、実験対象の白色円形刺激(No.0)、及び有彩色円形刺激(No.1〜17)をu’v’色度座標上に布置した図である。また、
図9は実験対象のu’v’色度の数値を示した図である。
図8及び
図9に示すように、実験対象の有彩色光は全部で17色とした。調節作業は全部で153回(=17色×3条件×3サイズ)、実験は白色円形刺激の輝度LWを異ならせて3回に分けて実施した。
【0045】
実験結果によれば、白色円形刺激の輝度LWと等しい強度(知覚強度値PS)と知覚された有彩色円形刺激の輝度LCとの比(以下、「等強度輝度比LC/LW」と言う)は、有彩色光の強度(以下、「色彩強度」と言う)に反比例する。つまり、LC/LW>1.0のとき白色光の強度よりも低い色彩強度となり、LC/LW=1.0のとき白色光の強度と等しい色彩強度となり、LC/LW<1.0のとき白色光の強度よりも高い色彩強度となる。
【0046】
図10は、等強度輝度比LC/LWの結果を示した箱ひげ図である。なお、
図10は輝度LW=4cd/m
2、視野角θ=5°の場合を示している。
等強度輝度比LC/LWは、白色円形刺激の輝度LW、及び円形刺激の視野角θの違いで結果に差異はほとんど見られなかった.
図8〜
図10より、同一主波長(例えば、No.11、12、13)では,刺激純度の高い色の方が等強度輝度比LC/LWは小さく、高い強度であることを示す結果となった。この結果は、刺激純度を増加させたときに知覚色の”明るさ”が変化するヘルムホルツ−コールラウシュ効果と同じ現象となる。
また、
図10から分かるように,等強度輝度比LC/LWの結果はある程度のばらつきをもつ。そこで、被験者10名から得られた結果の第3四分位をその有彩色の等強度輝度比LC/LWとし、カラーライティングの強度(知覚強度値PS)の導出を試みた。
【0047】
CIEでは、異なる有彩色光の輝度L1と輝度L2の明るさを比較する実験式(上述した式(1))を勧告している。式(1)が成り立つとき、輝度L1と輝度L2は同じ明るさである。式(1)は、輝度L1、L2とxy色度から成る係数fによって明るさを表し、白色のときfはほぼ零となるため、白色の明るさは輝度で表される。
式(1)の輝度L1を輝度LWとし、輝度L2を輝度LCとすると、色彩強度CS(Chromatic Strength,CS=知覚強度値PS)は、以下の関係式(2)に示すように、等強度の白色の輝度で表すことができる。
【0048】
LW=(10^f’)・LC → CS=10^(f’)・LC ・・・(2)
【0049】
このとき、係数f’=Log(LW/LC)となるので、右辺を被説明変数とし、実験で使用した有彩色円形刺激のu’v’色度から成る項を説明変数とし、重回帰分析によって係数f’を求める回帰式(3)を得た。
【0050】
f’=1.338−2.845v’−17.1u’v’+36.6u’
2v’
+111u’v’
3+703u’
3v’
2−571u’
2v’
3
−1536u’
4v’
2+1693u’
4v’
3 ・・・(3)
【0051】
このように、係数f’は、有彩色刺激のu’v’色度座標で定まる値である。
また、CIE94の照射対象物の推奨輝度4cd/m
2(周囲の明るさが暗い場合に相当)、6cd/m
2(周囲の明るさが中程度の場合に相当)、12cd/m
2(周囲の明るさが明るい場合に相当)となるように、照射対象物3を白色光で照明したときの知覚強度値PSを知覚強度基準値PS0としたときのカラーライティングの輝度LCは、次の関係式(4)により得られる。このとき、CS=4、6、12cd/m
2である。このように、知覚強度基準値PS0は周囲の明るさに応じて自動的に異ならせることもできる。
なお、色彩強度CS(知覚強度値PS)の算出に用いる輝度、及び色度は、例えば投光器2の設置時の実測や照明設計時に、既知の白色光の分光分布と照射対象物3の分光反射率との組み合わせに基づいて予め計算によって求められる。
【0052】
LC=CS/(10^f’) ・・・(4)
【0053】
以上説明したように、本実施形態の照明システム51では、照明光の色に応じて、照射箇所である照射対象物3の輝度、及び色度と、照射対象物3に対して人が感じる明るさ、及び目立ちを加味した知覚強度との間に成り立つ関係式(2)に基づいて、知覚強度値PSが知覚強度指定値PS1となるように照明光の光量が調光制御されるため、青色光、又は赤色光を照明光とした場合でも、照度や輝度を白色光と同程度まで高めなくとも、それ以下の光量で、知覚強度が同程度に維持される。
これにより、分光視感効率に基づく測光量に寄与する割合が低い照明光の色で照明する場合であっても、消費電力の増大を抑えることができ、高い省エネルギー効果が得られる、といった第1実施形態と同様の効果が得られるとともに、人が感じる「明るさ」と「目立ち」を加味した強度を一定に維持した調整が可能になる。このため、照明光の色を変えた場合に、意図せずに照射対象物3に対して「明るさ」と「目立ち」を加味した強度の変化が生じることを抑えることができる。
【0054】
また、知覚強度値PSを知覚強度指定部66によってユーザが調整できるので、照度や輝度を直接的に指定して「明るさ」と「目立ち」を変える場合に比べ、省エネルギー性効果を得つつ、「明るさ」と「目立ち」を効果的に変えることができる。
また、上記関係式(2)を、照射箇所の視野角が5°以上の所定角度の条件で求めた式としたため、実際の景観照明の状況におかれた人を基準にして、当該人の視点場から照射対象物3を見たときの視野サイズを考慮した調整が可能になる。
【0055】
また、既知の照明光の分光分布と照射対象物3の分光反射率との組み合わせに基づいて、あらかじめ照射対象物3の輝度、及び色度を求め、求めた輝度、及び色度に基づいて照射対象物3に対して知覚強度値PSを求めるので、照射箇所の輝度、及び色度をより正確に求めることができ、知覚強度値PSをより正確に求めやすくなる。
【0056】
また、本実施形態のコントローラ54が、照射対象物3の輝度、及び色度を測定する測定器を備え、この測定器により輝度、及び色度を実測し、この実測値と、輝度・色度―知覚明るさ関係式G1とに基づいて、知覚強度値PSを求めるようにしても良い。この場合、コントローラ4は、照明光の色が変わるときには、例えばフィードバック制御により、この知覚強度値PSが知覚強度指定値PS1になるように、各投光器2の光量を可変制御する。また、照射対象物3の周囲の明るさを測定し、知覚強度基準値PS0を自動的に増減させても良い。
【0057】
なお、上述した各実施形態は、あくまでも本発明の一実施の態様を例示するものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形、及び応用が可能である。
【0058】
例えば、上述した実施形態において、照射対象物3の表面の色を白色とし、その分光反射率K(λ)が波長λに依らずに一定であるものとして光量調整を行うようにしても良い。また、照射対象物3の分光反射率K(λ)を予め測定し、光量決定部18、68が、この測定データに基づいて、光量−輝度対応データE、E1を補正するようにしても良い。
【0059】
また例えば、上述した実施形態では、コントローラ4、54を投光器2とは別体に設けたが、これに限らず、各々の投光器2に設けても良い。
また、投光器2の光源はLEDに限らず、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、高圧ナトリウムランプ等の高輝度放電ランプ(HIDランプ)でも良い。
【0060】
また例えば、上述した実施形態では、光源部6が三原色の赤色光、緑色光、及び青色光を個別に照明可能に備える構成を例示したが、これに限らず、例えば、これら三原色に加えて他の色の光源を備えた構成でも良い。また例えば、光源部6は、三原色の全ての色を備える必要はなく、そのうちの2色のみを光源に備えても良い。すなわち、光源部6は、三原色、及びその他の色の中から2以上の任意の色の光源を備える構成であれば良い。
また上述した実施形態において、屋外の建物や看板をライトアップ等の演出照明に係る照明システム1、51に本発明を適用した場合を例示したが、これに限らない。すなわち屋外、及び屋内の任意の照明に本発明を用いることができる。