(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態の構成>
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す現在位置推定装置1は、本発明の移動距離推定装置としての機能を備える。この現在位置推定装置1は、GPS信号受信部10、加速度センサ20、ヨーレートセンサ30、および、制御部100を備えており、図示しない車両に搭載される。
【0020】
GPS信号受信部10は、衛星測位システムの一つであるグローバルポジショニングシステム(以下、GPS)が備えるGPS衛星が送信するGPS電波を受信する受信機である。このGPS電波は、搬送波にGPS信号が重畳されたものを意味する。GPS信号受信部10は、受信したGPS電波を復調してGPS信号を取り出し、制御部100に送る。また、搬送波、受信信号強度も制御部100に送る。GPS信号は請求項の衛星信号に相当する。
【0021】
周知のように、GPS衛星は複数存在している。GPS信号受信部10は、受信できるすべてのGPS衛星からのGPS電波を受信する。GPS信号には、GPS衛星の衛星番号、GPS衛星の軌道情報であるエフェメリス、GPS衛星が電波を送信した時刻などが含まれている。
【0022】
加速度センサ20は、3軸の加速度センサであり、z軸が車両の上下方向に平行になり、x軸が車両の幅方向と平行になり、y軸が車両の前後方向に平行になるように、加速度センサ20は向きが固定されている。なお、3軸の加速度センサに代えて、x軸、y軸の2軸の加速度を検出する加速度センサを用いてもよい。加速度センサ20は各軸の加速度の検出値を制御部100に送る。
【0023】
ヨーレートセンサ30は、このヨーレートセンサ30を通り、車両の垂直軸周りの回転角速度、すなわち、ヨーレートを検出する。そして、検出したヨーレートを制御部100に供給する。なお、車両の垂直軸とは、車両の車室床に対して垂直な軸であり、車両が水平な地面に位置している時の鉛直軸と平行になる軸である。
【0024】
制御部100は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータであり、CPUが、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに記憶されているプログラムを実行することで、制御部100は、
図1に示す各部102〜140として機能する。
【0025】
進行方向加速度決定部102は、加速度センサ20が検出した検出値から、車両の進行方向加速度を決定する。前述したように、加速度センサ20は車両に対する向きが予め定められた向きに固定されており、y軸が車両進行方向を向いている。したがって、加速度センサ20が検出したy軸の検出値を、進行方向加速度として抽出する。
【0026】
積算処理部104は、進行方向加速度決定部102が決定した進行方向加速度、すなわち、加速度センサ20のy軸の検出値を、逐次、積算する。積算した値を、以下、加速度積算値ΔV
Gという。また、この積算処理部104は、ヨーレートセンサ30の検出値を積算して、相対方位角θ
tgyroも算出する。相対方位角θ
tgyroは、基準時点における車両の進行方位に対する時刻tの相対方位角である。この相対方位角θ
tgyroは、(1)式から算出する。(1)式において、Δtはタイムステップ、ω
tは時刻tに検出されたヨーレートセンサ30の検出値である。
【数1】
【0027】
なお、これら加速度積算値ΔV
G、相対方位角θ
tgyroを算出するための加速度センサ20の検出値、ヨーレートセンサ30の検出値は、同じタイミングで取得する。取得するタイミングは、たとえば、一定時間時、あるいは、一定距離走行時である。
【0028】
衛星情報取得部106は、GPS信号受信部10からGPS信号および搬送波を取得する。GPS信号受信部10が複数のGPS衛星からGPS電波を受信している場合、GPS信号受信部10がGPS電波を受信したすべてのGPS衛星についてのGPS信号および搬送波を取得する。この衛星情報取得部106は請求項の衛星信号取得部として機能する。
【0029】
さらに、衛星情報取得部106は、これらGPS信号および搬送波から得られるGPS衛星iに関する情報である、GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)、擬似距離ρ
i、ドップラーシフト量D
iも算出する。
【0030】
各GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)は、各GPS衛星iのエフェメリスおよび電波を送信した時刻に基づいて算出する。擬似距離ρ
iは、GPS衛星iがGPS電波を送信した時刻と、GPS信号受信部10がGPS電波を受信した時刻との時刻差すなわち電波伝播時間に、光速を乗じることで算出する。
【0031】
ドップラーシフト量D
iは、GPS衛星iが送信した電波の搬送波の周波数と、受信したGPS電波の搬送波の周波数の周波数差である。GPS衛星が送信する電波の搬送波周波数は予め定まっており、この周波数は、制御部100が備える図示しない記憶部など、所定の記憶部に予め記憶されている。したがって、衛星情報取得部106は、記憶部からGPS電波の搬送波の周波数を取得し、この周波数と、GPS信号受信部10から取得した搬送波の周波数から、ドップラーシフト量D
iを算出する。なお、衛星情報取得部106が取得した搬送波の周波数は、公知の周波数解析手法、たとえば、高速フーリエ変換により決定する。
【0032】
相対速度算出部108は、衛星情報取得部106が算出したドップラーシフト量D
iに基づいて、GPS衛星iに対する車両の相対速度Vr
iを算出する。相対速度Vr
iは、下記(2)式から算出する。(2)式において、Vr
iはGPS衛星iに対する車両の相対速度、D
iは衛星情報取得部106が算出したドップラーシフト量、Cは光速、FはGPS衛星が送信する電波の搬送波の周波数である。
【数2】
【0033】
衛星速度算出部110は、衛星情報取得部106が算出した各GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)の時系列データから、ケプラーの方程式の微分を用いる公知の方法で、各GPS衛星iの速度ベクトル、すなわち、三次元速度Vxs
i、Vys
i、Vzs
iを算出する。
【0034】
現在位置算出部112は、衛星情報取得部106が算出した各GPS衛星iの擬似距離ρ
iを用いて、車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を算出する。
【0035】
GPS信号を用いた測位では、GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)と、各GPS衛星との間の擬似距離ρ
iとに基づいて、三角測量の原理に従って、車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を算出する。ここで、GPS衛星iまでの真の距離r
iは(3)式で表される。一方、擬似距離ρ
iは(4)式で表される。なお、(4)式において、sは時計誤差による距離誤差である。
【数3】
【0036】
上記(3)式、(4)式より、4つ以上のGPS衛星の擬似距離ρ
iから得られる以下の(5)式の連立方程式を解くことによって、車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)が算出できる。
【数4】
【0037】
なお、本実施形態では、車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)は、最終的な現在位置として用いる以外に、後述する衛星方向算出部114において、GPS衛星iの方向、すなわち、GPS衛星と自車両との角度を求めるためにも用いる。
【0038】
GPS衛星は遠方に存在するため、GPS衛星と自車両との角度を求めるために用いる現在位置は、精度が低くてもよい。また、車両の現在位置は、詳細は後述するが、推定移動距離L
teあるいは補正移動距離L
tcoと推定方位θ
teから求めることもできる。
【0039】
したがって、常に擬似距離ρ
iを用いて現在位置を決定する必要はなく、擬似距離ρ
iを用いた位置決定以外の精度の低い方法で車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を決定してもよい。システム等で許容される推定精度に依存するが、車両の位置誤差が数百mの範囲であれば、速度推定誤差は1m/sec以下となり大きな問題はない。そのため、たとえば、地図などから位置を決定してもよく、また、過去の位置の測定履歴やビーコンなどの情報などから、車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を決定してもよい。また、擬似距離ρ
iを用いて現在位置を決定する場合にも、その擬似距離ρ
iは、信号品質のよいGPS電波から算出する必要はない。信号品質がよいことの判定基準は、信号品質判定部120の説明において、説明する。
【0040】
視線ベクトル算出部113は、車両からGPS衛星iへの視線ベクトル(Gx
i、Gy
i、Gz
i)を算出する。視線ベクトルのx成分、y成分、z成分は、(6)式から算出する。
【数5】
【0041】
(6)式において、ρ
tiは時刻tにおけるGPS衛星iの擬似距離、(X
tsi、Y
tsi、Z
tsi)は時刻tにおけるGPS衛星iの位置座標である。これらは、衛星情報取得部106が算出している。(X
tV、Y
tV、Z
tV)は時刻tにおける現在位置であり、現在位置算出部112が算出している。
【0042】
衛星方向算出部114は、現在位置算出部112が算出した現在位置(X
v,Y
v,Z
v)、および、衛星情報取得部106が算出したGPS衛星の位置座標(X
si、Y
si、Z
si)に基づいて、各GPS衛星iの方向R
iを算出する。各GPS衛星iの方向R
iは、車両からGPS衛星iを見たときの、水平方向に対する仰角θ
i、北方向に対する方位角φ
iで表すものとする。
【0043】
衛星方向速度算出部116は、GPS衛星iの方向への車両の速度である衛星方向速度Vs
iを算出する。衛星方向速度Vs
iは、下記(7)式から算出する。
【数6】
【0044】
(7)式において、右辺第1項は相対速度Vrであり、相対速度算出部108が算出している。Gx、Gy、Gzは、視線ベクトルであり、視線ベクトル算出部113が算出している。Vxs、Vys、Vzsは、GPS衛星iの速度のx、y、z成分であり、衛星速度算出部110が算出している。(7)式の右辺の第1項は、GPS衛星iに対する車両の相対速度Vr
iであり、第2〜第4項は、GPS衛星iの車両方向への速度である。これらの和は、GPS衛星iの方向への車両の速度を意味することから、(7)式が成り立つのである。
【0045】
速度ベクトル算出部118は、車両の速度ベクトルを算出する。車両の速度ベクトルを(Vx,Vy,Vz)としたとき、衛星方向速度Vs
iと、車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)との関係は、以下の(8)式で表される。
【数7】
【0046】
各GPS衛星iについて得られる上記(8)式より、車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)およびCbvを未知数とした以下の(9)式で表される連立方程式が得られる。
【0047】
(9)式において、Vsat
iは、車両方向のGPS衛星iの速度であり、Vsat
i=R
i[Vxs
i,Vys
i,Vzs
i]
Tにより求める。Tは行列の転置を意味する。なお、(7)式の右辺第2〜第4項を計算して車両方向のGPS衛星iの速度Vsat
iを求めてもよい。CbvはGPS信号受信部10が備える時計のクロックドリフトである。
【数8】
【0048】
GPS電波を受信したGPS衛星が4個以上である場合に、上記(9)式の連立方程式を解くことができる。ただし、GPS電波を受信していても、信号品質がよいと判定できないGPS電波は除外する。よって、速度ベクトル算出部118は、信号品質がよいと判定したGPS電波を4個以上のGPS衛星から受信した場合に、(9)式から車両の速度ベクトルを算出する。信号品質の良否は、次に説明する信号品質判定部120が判定する。
【0049】
信号品質判定部120は、GPS信号受信部10が受信したGPS衛星iからのGPS電波の信号品質がよいか否かを判定する。信号品質の判定には、公知の種々の基準を用いることができる。
【0050】
たとえば、(判定条件1)S/Nが所定値以上であること、(判定条件2)擬似距離ρ
iの残差が判定基準距離以下であること、(判定条件3)仰角θ
iが判定基準角以上であること、(判定条件4)判定条件1〜3の組み合わせ、などにより信号品質がよいか否かを判定する。
【0051】
なお、擬似距離ρ
iの残差とは、GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)と車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)との間の距離と、擬似距離ρ
iとの差である。この残差が大きい場合には、マルチパス等の影響が考えられるので、信号品質が良くないと判定する。判定条件1は、S/Nが所定値以上であれば信号品質はよいと判定する。判定条件3は、仰角θ
iが判定基準角以上であれば信号品質はよいと判定する。
【0052】
停止判定部122は、車両が停止しているか否かを判定する。そして、車両が停止していると判定した場合には、車両の速度を0km/hとする。停止判定の方法は、公知の種々の手法を用いることができる。たとえば、加速度センサ20のz軸の検出値が停止判定値以下であれば、車両が停止していると判定する。車両が走行している場合には、多少の上下振動があるので、z軸の検出値により停止判定を行うことができるのである。z軸の検出値に代えて、y軸の検出値や、z軸の検出値の変化量、y軸の検出値の変化量を用いてもよい。加速度センサ20の検出値により停止判定を行えば、ブレーキ信号やシフト位置信号を取得するための配線が不要となる利点がある。もちろん、ブレーキ信号やシフト位置信号を取得できるようにして、それらの信号を用いて停止判定をしてもよい。
【0053】
初期設定値決定部126は、推定速度決定部128で用いる速度初期値V
0、推定方位決定部130で用いる方位初期値θ
0決定する。
【0054】
本実施形態では、すでに説明した速度ベクトル算出部118でも車両の速度を算出することができる。しかし、速度ベクトル算出部118は、信号品質がよいGPS電波を4個以上のGPS衛星から受信しなければ、車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を算出することができない。したがって、たとえば、高層ビルの多い都市部では、速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を算出できない時間が長く続くこともある。また、信号品質がよいGPS電波を4個以上受信できる環境であっても、速度ベクトル算出部118では、周波数解析を必要とするドップラーシフト量Dを用いるため、たとえば、100ms毎などの一定周期でしか、車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を算出することができない。
【0055】
これに対して、加速度センサ20の検出値は、走行環境に依存せずに一定周期で取得でき、しかも、たとえば20msごとなど、速度ベクトル算出部118が速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を算出するよりも短い周期で取得する構成とすることができる。
【0056】
そこで、速度ベクトル算出部118が車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を算出してから、次に、車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を算出するまでの間、加速度積算値ΔV
Gをもとにして速度推定を行えるようにする。
【0057】
加速度センサ20の検出値には常に誤差があり、その誤差は発散する性質を有する。
図2はそのことを示すグラフである。
図2は停止状態における加速度積算値ΔV
Gのグラフである。車両が停止状態であることから、この
図2における加速度積算値ΔV
Gは、加速度積算値ΔV
Gをそのまま速度とした場合の誤差を意味する。
図2から、加速度積算値ΔV
Gをそのまま速度とする場合、誤差が時間の経過により発散することが分かる。なお、
図2では、誤差は負の値であるが、これとは反対に誤差が正の値となることもある。
【0058】
このように、加速度積算値ΔV
Gをそのまま速度とすると、誤差が時間の経過により発散する。そこで、精度の高い速度を求めた時点で、その精度の高い速度を速度初期値V
0とする。
【0059】
この時点での加速度積算値ΔV
Gを、精度の高い速度から引いた値を速度初期値V
0とする。このようにして求める速度初期値V
0は、加速度積算値ΔV
Gを真の速度とみなす精度の高い速度にするためのオフセット分を意味する。よって、ΔV
G−V
0により推定速度Veを求める。
【0060】
加速度積算値ΔV
Gと真の速度との誤差は、時間の経過とともに増大する。したがって、速度初期値V
0の更新周期が短いほど、加速度積算値ΔV
Gを用いた速度の推定精度が向上する。
【0061】
そこで、本実施形態では、特許文献2において最終的な速度ベクトル算出式として開示されている下記(11)式を改良した(12)式により速度初期値V
0を算出する。また、同時に方位初期値θ
0も算出する。
【0062】
ただし、速度初期値V
0については、速度ベクトル算出部118が速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を算出できたときは、(10)式から速度初期値V
0を決定する。速度ベクトル算出部118が算出する速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)は精度がよいので、この速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を用いて速度初期値V
0を決定したほうが、速度初期値V
0の精度が向上するからである。また、停止判定部122が、車両が停止していると判定したときは、速度初期値V
0を−ΔV
Gとする。
【数9】
【0063】
(11)式において、tは時刻、V
wheelは車輪速センサの検出値、θ
0は初期時刻における車両の進行方向の方位角(以下、方位初期値)、θ
gyroは、車両の進行方向の方位角の積算値すなわち相対方位角、Cbv
0は初期時刻におけるクロックドリフト、Aはクロックドリフトの時間変化の傾き、Gx、Gyは、車両からGPS衛星iへの視線ベクトルのx成分、y成分である。
【0064】
また、(12)式において、V
0は初期時刻における車速である速度初期値、ΔV
Gは初期時刻以降の加速度積算値である。すなわち、(12)式は、(11)式における車輪速センサの検出値V
wheelを、速度初期値V
0と加速度積算値ΔV
Gの和に置き換えた式である。この(12)式が請求項の速度推定式に相当する。
【0065】
まず、(11)式の導出方法を説明する。特許文献2にも開示されているように、衛星方向速度Vs
tiと、車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)との関係は、(13)式で表すことができる。
【数10】
【0066】
この(13)式には、Vx
t、Vy
t、Vz
t、Cbv
tの4つの未知パラメータがある。この未知パラメータの数を少なくするために、特許文献2では、下記に示す拘束条件1〜3を(13)式に代入することで、前述した(11)式を導出している。
【数11】
【0067】
拘束条件1は、推定する速度ベクトルのx成分、y成分の大きさを車輪速で拘束し、かつx成分、y成分の時間変化分を方位角の時間変化で拘束したものである。拘束条件1のθ
0は初期時刻における車両の進行方向の方位角である。拘束条件2は、高さ方向速度の変化は常に微小であると仮定するものである。
【0068】
拘束条件3は、クロックドリフトの時間変化は緩やかであるため、短時間内における変化は線形であると仮定するものである。拘束条件3のCbv
0は初期時刻におけるクロックドリフト、Aはクロックドリフトの時間変化の傾きを示す。
【0069】
なお、拘束条件1および2では、二次元平面内の速度成分のみ時間変化で拘束しているが、3軸ジャイロセンサなどにより取得したピッチレートを用いて、z軸成分も時間変化で拘束してもよい。上記拘束条件1〜3を(13)式に取り入れることで(11)式が得られる。そして、(11)式における車輪速センサの検出値V
wheelを、速度初期値V
0と加速度積算値ΔV
Gの和に置き換えることで、(12)式が得られる。
【0070】
(12)式において、衛星方向速度Vs
tiは、時刻tにおけるGPS衛星i方向の衛星方向速度であり、衛星方向速度算出部116が算出する。ΔV
tGは、時刻tにおける加速度積算値であり、積算処理部104が算出する。(Gx
ti、Gy
ti、Gz
ti)は、時刻tにおける視線ベクトルであり、視線ベクトル算出部113が算出する。θ
tgyroは、ヨーレート積算値であり、積算処理部104が算出する。よって、(12)式において未知パラメータは、θ
0、Cbv
0、A、および、V
0の4つである。
【0071】
したがって、4つの式を立式できれば、未知パラメータになっている速度初期値V
0および方位初期値θ
0を求めることができる。しかも、未知パラメータθ
0、Cbv
0、A、V
0は、初期時刻以降であれば、時刻が異なっても同じである。そのため、同一時刻で4つの式を立式する必要はなく、複数の時刻において立式した式数が合計4式以上であれば、未知パラメータを求めることができる。たとえば、例えば、4時刻(t
0、t
1、t
2、t
3)の観測衛星数がそれぞれ1であったとしても、観測されたGPS衛星からのデータを用いて、速度初期値V
0および方位初期値θ
0を求めることができる。
【0072】
なお、速度初期値V
0は、前述したように、初期時刻における車速である。また、速度初期値V0を算出する(12)式は、ドップラーシフト量Dから算出する衛星方向速度Vsを用いる。したがって、初期設定値決定部126は、ドップラーシフト量に基づいて、初期時刻における車両の速度を算出していることにもなる。
【0073】
推定速度決定部128は、初期設定値決定部126が決定した速度初期値V
0に、積算処理部104が算出した加速度積算値ΔV
tGを加算して、推定速度V
teを加速度取得周期で逐次算出する。
【0074】
推定方位決定部130は、初期設定値決定部126が決定した方位初期値
0に、積算処理部104が算出した相対方位角θ
tgyroを加算して、車両の移動方位を示す推定方位θ
teを、相対方位角決定周期で逐次決定する。
【0075】
位置更新部140は、車両の現在位置を逐次更新する。この位置更新部140の詳細構成を
図3に示している。
図3に示すように、位置更新部140は、移動距離算出部141、過去速度補正部142、移動距離補正部143、位置決定部144を備える。
【0076】
移動距離算出部141は、車両の速度が更新されるごとに、車両の移動距離を算出する。車両の速度は、加速度取得周期で更新される。車両の速度は、推定速度決定部128、速度ベクトル算出部118、停止判定部122のいずれかが決定する。移動距離算出部141は、それら推定速度決定部128、速度ベクトル算出部118、停止判定部122が決定した速度に加速度取得周期を乗じて、加速度取得周期の間に車両が移動した距離の推定値である推定移動距離L
teを算出する。
【0077】
過去速度補正部142は、初期設定値決定部126が速度初期値V
0を更新するごとに、前回、速度初期値V
0が更新されてから、今回、速度初期値V
0が更新されるまでに推定速度決定部128が逐次推定した推定速度V
teを補正する。この補正対象となっている推定速度V
teを、以下、補正前過去推定速度V
t(i)eとする。なお、iはN〜0までの整数であり、t(N)は、前回、速度初期値V
0が更新された時刻、t(0)は、今回、速度初期値V
0が更新された時刻を意味する。また、補正前過去推定速度V
t(i)eを補正した値を補正過去速度V
t(i)coとする。この補正過去速度V
t(i)coは、下記式(14)式から算出する。
【数12】
【0078】
速度初期値V
0は精度のよい速度であるとみなすことができる。したがって、(14)式において、速度初期値V
0とその速度初期値V
0に更新された時点における補正前過去推定速度V
t(0)eとの差分(V
0−V
t(0)e)は、速度初期値V
0を更新した時点までに補正前過去推定速度V
t(0)eに累積した誤差を意味する。
【0079】
そして、(t(i)−t(N))/(t(0)−t(N))は、前回、速度初期値V
0が更新されてから、今回、速度初期値V
0が更新されるまでの期間(t(0)−t(N))に対する、前回、速度初期値V
0が更新されてから、それぞれの補正前過去推定速度V
t(i)eが推定されるまでの期間の比率を表す係数となっている。(14)式では、差分(V
0−V
t(0)e)にこの係数を乗じている。したがって、(14)式から算出する補正過去速度V
t(i)coは、補正前過去推定速度V
t(i)eを、その補正前過去推定速度V
t(i)eの誤差が線形に増加すると仮定して補正した値である。
【0080】
図4は、補正前過去推定速度V
t(i)eと補正過去速度V
t(i)coとを比較して示す図である。この
図4に示すように、t(0)時点では、速度初期値V
0と補正前過去推定速度V
t(0)eとの間に差分(V
0−V
t(0)e)がある。この差分は、推定速度V
teに累積した誤差を意味する。速度初期値V
0を更新した時点では、推定速度V
te=速度初期値V
0となる。したがって、推定速度V
teは速度初期値V
0を更新した時点で不連続になる。
【0081】
本実施形態では、(14)式を用いて補正前過去推定速度V
t(i)eを補正して補正過去速度V
t(i)coとする。この補正過去速度V
t(i)coは、
図4に示すように、t(0)以降の推定速度V
teとの間に連続性がある。実際の車両の速度変化には連続性があることから、(14)式を用いて算出した補正過去速度V
t(i)coは、補正前過去推定速度V
t(i)eよりも、より真の速度に近いと言える。
【0082】
移動距離補正部143は、過去速度補正部142が補正過去速度V
t(i)coを算出した場合、その補正過去速度V
t(i)coを推定速度V
teの代わりに用いて、移動距離算出部141と同様にして推定移動距離を再計算する。この推定移動距離を補正移動距離L
t(i)coとする。
【0083】
位置決定部144は、信号品質判定部120で信号品質がよいと判定されたGPS電波を用いて、現在位置算出部112が(5)式を用いて車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を算出した場合には、現在位置算出部112が算出した現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を、更新後の現在位置とする。
【0084】
現在位置算出部112が算出した現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を更新後の現在位置としない場合には、移動距離算出部141が算出した移動距離L
teと、推定方位決定部130が逐次決定した推定方位θ
teを用いて、現在位置(X
v,Y
v)を逐次算出する。
【0085】
具体的には、下記(15)式、(16)式を用いて、前回の現在位置(X
vt(−1),Y
vt(−1))と、今回の推定移動距離L
t(0)eと、今回の推定方位θ
t(0)eとから、現時点t(0)の現在位置(X
vt(0),Y
vt(0))を算出する。なお、この現在位置(X
vt(0),Y
vt(0))は、もちろん、前回の現在位置(X
vt(−1),Y
vt(−1))に対する相対位置でもある。
X
vt(0)=X
vt(−1)+L
t(0)e×cosθ
t(0)e (15)
Y
vt(0)=Y
vt(−1)+L
t(0)e×sinθ
t(0)e (16)
【0086】
さらに、位置決定部144は、移動距離補正部143が補正移動距離L
tcoを算出した場合には、前回、速度初期値V
0が更新された時点T(N)から、今回、速度初期値V
0が更新される時点t(0)までの位置(X
vt(i),Y
vt(i))を逐次補正して、現在位置(X
vt(0),Y
vt(0))を補正する。
X
vt(i)=X
vt(i−1)+L
t(i)e×cosθ
t(i)e (17)
Y
vt(i)=Y
vt(i−1)+L
t(i)e×sinθ
t(i)e (18)
【0087】
<制御部100の処理の流れ>
次に、制御部100の処理の流れの一例を
図5〜
図8のフロチャートを用いて説明する。
図5に示すフロチャートは、センサ値を取得する周期で繰り返し実行する。なお、特に明記している場合を除き、各パラメータは、最新の時刻、すなわち、時刻t=0における値を意味する。
【0088】
図5において、ステップS2では、加速度センサ20、ヨーレートセンサ30の検出値を取得し、RAMなどの記憶部に記憶する。この処理は、たとえば積算処理部104が行う。
【0089】
ステップS4は進行方向加速度決定部102が行う処理であり、ステップS2で取得した加速度センサ20の検出値から、進行方向加速度を決定する。
【0090】
ステップS6は積算処理部104が行う処理であり、ステップS2で取得したヨーレートセンサ30の検出値を、これまでの相対方位角θ
t(−1)gyroに加算して相対方位角θ
tgyroを更新する。また、ステップS2で決定した進行方向加速度をこれまでの加速度積算値ΔV
t(−1)Gに加算して加速度積算値ΔV
tGを更新する。
【0091】
ステップS8、S10は衛星情報取得部106が行う処理である。ステップS8では、GPS信号受信部10からGPS信号および搬送波を取得する。ステップS10では、ステップS8で取得したGPS信号および搬送波から、GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)、擬似距離ρ
i、ドップラーシフト量D
iを算出する。
【0092】
ステップS12は、停止判定部122の処理であり、たとえば、ステップS2で取得した加速度センサ20のz軸の検出値から、車両が停止しているか否かを判断する。停止中と判断した場合にはステップS14へ進み、移動中であると判断した場合にはステップS18へ進む。
【0093】
ステップS14も停止判定部122の処理であり、速度ベクトルを(0、0、0)とする。もちろん、速度も0となる。
【0094】
ステップS16は初期設定値決定部126の処理であり、速度初期値V
0を、最新の加速度積算値−ΔV
tGとする。ステップS16を実行したらステップS34の位置更新処理を実行する。ステップS34の位置更新処理は後述する。
【0095】
ステップS12において移動中と判断した場合に実行するステップS18は信号品質判定部120の処理であり、前述した判定条件に基づいて、GPS信号の信号品質がよいか否かを判定する。信号品質の判定は、取得したすべてのGPS信号に対して行う。
【0096】
ステップS20は速度ベクトル算出部118の処理であり、ステップS18で信号品質がよいと判定したGPS信号の数が4以上であるか否かを判断する。4以上である場合にはステップS22へ進む。
【0097】
ステップS22では、ドップラー速度を算出する。このドップラー速度とは、速度ベクトル算出部118が算出する速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)またはその速度ベクトルの大きさを意味する。この速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)は、ドップラーシフト量Dを用いて算出することから、ここでは、ドップラー速度と称している。
【0098】
ステップS22の詳細処理は
図6に示す。
図6において、ステップS222は現在位置算出部112の処理であり、ステップS10で算出した擬似距離ρi、GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)から、車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を算出する。
【0099】
ステップS224は衛星方向算出部114が行う処理であり、ステップS222で算出した車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)、および、ステップS10で算出したGPS衛星の位置座標(X
si、Y
si、Z
si)から、各GPS衛星iの方向R
i(θ
i、φ
i)を算出する。
【0100】
ステップS226は衛星速度算出部110が行う処理であり、ステップS10で算出した各GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)の時系列データから、各GPS衛星iの速度ベクトル(Vxs
i、Vys
i、Vzs
i)を算出する。
【0101】
ステップS228、S230は速度ベクトル算出部118の処理である。ステップS228では、ステップS224で算出した各GPS衛星iの方向R
iと、ステップS226で算出した各GPS衛星iの速度ベクトル(Vxs
i、Vys
i、Vzs
i)から、Vsat
i=R
i[Vxs
i,Vys
i,Vzs
i]
Tにより、車両方向のGPS衛星iの速度Vsat
iを求める。
【0102】
ステップS230では、(9)式に示した連立方程式を4つ以上立式し、その連立方程式を解く。これにより、車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)およびクロックドリフトCbv
tを求めることができる。
【0103】
説明を
図5に戻す。ステップS24は初期設定値決定部126の処理であり、ステップS22で算出した車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)から、(10)式により、速度初期値V
0を決定する。ステップS24を実行した場合にも、ステップS34の位置更新処理を実行する。ステップS34を説明する前に、先に、ステップS26以下を説明する。
【0104】
ステップS20において品質のよい信号が3以下であると判断した場合にはステップS26へ進む。ステップS26は初期設定値決定部126の処理であり、初期値を更新することができるか否かを判断する。この判断は、具体的には、速度初期値V
0を更新してからのGPS信号を用いて、(12)式を4つ以上、立式できるか否かを判断するものである。この判断がNOであればステップS30へ進み、YESであればステップS28へ進む。
【0105】
ステップS28では、タイトカップリング型推定式を用いて速度初期値V
0および方位初期値θ
0を決定する。タイトカップリング型推定式とは、具体的には(12)式のことである。
【0106】
ステップS28の詳細処理は
図7に示す。
図7において、ステップS282は衛星速度算出部110が行う処理であり、ステップS10で算出した各GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)の時系列データから、各GPS衛星iの速度ベクトル(Vxs
i、Vys
i、Vzs
i)を算出する。
【0107】
ステップS284は相対速度算出部108が行う処理であり、ステップS10で算出したドップラーシフト量D
iを前述した(2)式に代入して、GPS衛星iに対する車両の相対速度Vr
iを算出する。
【0108】
ステップS286は現在位置算出部112の処理であり、ステップS10で算出した擬似距離ρi、GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)から、車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を算出する。
【0109】
ステップS288は視線ベクトル算出部113が行う処理である。このステップS288では、前述した(6)式に、ステップS10で算出した擬似距離ρ
i、GPS衛星iの位置座標(X
si、Y
si、Z
si)、ステップS286で算出した車両の現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を代入して、視線ベクトル(Gx
i,Gy
i,Gz
i)を算出する。
【0110】
ステップS290は衛星方向速度算出部116が行う処理である。このステップS290では、前述した(7)式に、ステップS284で算出した相対速度Vr
i、ステップS288で算出した視線ベクトル(Gx
i,Gy
i,Gz
i)、ステップS282で算出したGPS衛星iの速度ベクトル(Vxs
i、Vys
i、Vzs
i)を代入して、GPS衛星iの方向への車両の衛星方向速度Vs
iを算出する。
【0111】
ステップS292は初期設定値決定部126が行う処理である。このステップS292では、前述した(12)式に、ステップS290で算出した衛星方向速度Vs
i、ステップS6で更新した加速度積算値ΔV
G、相対方位角θ
gyro、ステップS288で算出した視線ベクトル(Vxs
i、Vys
i、Vzs
i)を代入した式を4つ以上立式する。そして、それら4つ以上の式からなる連立方程式を解く。これにより、(12)式において未知パラメータとなっている速度初期値V
0、方位初期値θ
0を同時に求めることができる。
【0112】
説明を
図5に戻す。ステップS28を実行した場合、または、ステップS26の判断がNOであった場合には、ステップS30を実行する。ステップS30は推定速度決定部128が行う処理であり、最新の速度初期値V
0と、ステップS6で更新した加速度積算値ΔV
Gとから、推定速度V
eを算出する。
【0113】
図5のように、速度初期値V
0を更新しても加速度積算値ΔV
Gをリセットしない場合には、加速度積算値ΔV
Gに速度初期値V
0を加算することで推定速度V
eを算出する。なお、速度初期値V
0を更新したときに加速度積算値ΔV
Gをリセットする場合には、速度初期値V
0に加速度積算値ΔV
Gを加算することで、推定速度V
eを算出する。
【0114】
ステップS32は推定方位決定部130が行う処理であり、最新の方位初期値θ
0と、ステップS6で更新した相対方位角θ
gyroとから、推定方位θ
eを算出する。具体的な推定方位θ
eの計算方法は、速度初期値V
0と加速度積算値ΔV
Gから推定速度V
eを算出する方法において、速度初期値V
0を方位初期値θ
0に置き換え、加速度積算値ΔV
Gを相対方位角θ
gyroに置き換えた場合と同じである。ステップS32を実行した場合にも、ステップS34の位置更新処理を実行する。このステップS34は、位置更新部140が実行する。
【0115】
ステップS34の詳細処理は
図8に示す。なお、
図8において、ステップS348は移動距離算出部141が実行し、ステップS352は過去速度補正部142が実行し、ステップS354は移動距離補正部143が実行する。その他のステップは位置決定部144が実行する。
【0116】
ステップS342では、GPS現在位置を決定したか否かを判断する。GPS現在位置とは、信号品質判定部120で信号品質がよいと判定されたGPS電波を用いて、現在位置算出部112が(5)式から算出した現在位置(X
v,Y
v,Z
v)のことである。この判断がYESであれば、ステップS344に進む。ステップS344では、GPS現在位置(X
v,Y
v,Z
v)を、最新の現在位置とする。
【0117】
ステップS342の判断がNOである場合には、ステップS346に進む。ステップS346では、速度初期値V
0を更新したか否かを判断する。
図5のステップS16、S24、S28のいずれかを実行している場合には、このステップS346の判断がYESになる。これに対して、
図5のステップS26の判断がNOであった場合には、ステップS346の判断もNOになる。ステップS346の判断がNOである場合には、ステップS348に進む。
【0118】
ステップS348では、ステップS30で算出した推定速度V
eに加速度取得周期を乗じて推定移動距離L
eを算出する。ステップS350では、ステップS348で算出した推定移動距離L
eと、ステップS32で推定した推定方位θ
eと、式15、式16を用いて、最新の現在位置(X
v,Y
v)を算出する。なお、z座標は変化なしとする。
【0119】
ステップS346の判断がYESであった場合に実行するステップS352では、前回、速度初期値V
0を更新した時点t(N)から、今回、速度初期値V
0を更新した時点t(0)までの推定速度V
te、すなわち、補正前過去推定速度V
t(i)eを、(14)式で補正して、補正過去速度V
t(i)coを算出する。
【0120】
ステップ354では、ステップS352で算出した補正過去速度V
t(i)coに加速度取得周期を乗じて、補正移動距離L
t(i)coを算出する。
【0121】
ステップS356では、ステップS354で算出した補正移動距離L
t(i)coと、ステップS32で推定した推定方位θ
t(i)eと、式17、式18を用いて、現在位置(X
v,Y
v)を再算出する。なお、z座標は変化なしとする。
【0122】
<実施形態の効果>
本実施形態では、ドップラー速度を算出した場合(S22)には、そのドップラー速度を速度初期値V
0としており(S24)、車両の速度が0km/hである場合(S14)には、その速度を速度初期値V
0としている(S16)。また、タイトカップリング型推定式である(12)式を解くことができる場合、(12)式から求まる初期時刻における速度を速度初期値V
0としている(S28)。これらの方法で決定する速度初期値V
0は精度がよい。
【0123】
そして、推定速度V
eは、このようにして決定した速度初期値V
0と加速度積算値ΔV
Gとを用いて推定している(S30)。したがって、速度初期値V
0を更新した以後は、加速度積算値ΔV
Gの累積誤差により低下している推定速度V
eの精度が向上する。
【0124】
加えて、本実施形態では、速度初期値V
0を決定した場合、前回、速度初期値V
0を更新した時点t(N)から、今回、速度初期値V
0を更新する時点t(0)までの推定速度V
eである補正前過去推定速度V
t(i)eを、今回の速度初期値V
0と連続するように補正して補正過去速度V
t(i)coとする(S352)。これにより、加速度積算値ΔV
Gの累積誤差により低下している過去の推定速度V
eの精度も向上する。そして、補正過去速度V
t(i)coを決定した場合、その補正過去速度V
t(i)coを用いて、前回、速度初期値V
0を更新してから、今回、速度初期値V
0を更新するまでの推定移動距離を再計算した補正移動距離L
t(i)coを決定する(S354)。これにより、過去の推定速度V
eの精度低下により低下していた推定移動距離の精度も向上する。
【0125】
また、本実施形態では、補正移動距離L
t(i)を算出した場合には、その補正移動距離L
t(i)を用いて、現在位置を補正する(S356)。したがって、GPS現在位置が決定できない状況が継続している状況でも、現在位置を精度よく決定し続けることができる。
【0126】
このように、速度初期値V
0の更新時に、過去の推定速度である補正前過去推定速度V
t(i)eを補正して、現在位置を補正することに加えて、本実施形態では、以下の効果も得られる。
【0127】
車両の衛星方向速度Vs
iは、(13)式に示したように、車両からGPS衛星iへの視線ベクトル(Gx,Gy,Gz)と、車両の速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)と、クロックドリフトCbvに基づいて算出することができる。
【0128】
本実施形態では、この(13)式に対して、速度ベクトルのx成分、y成分を、車両の速度、および車両の進行方向の方位角の時間変化すなわち相対方位角θ
gyroで拘束している(拘束条件1)。初期設定値決定部126は、これにより得られる(12)式を用いて速度初期値V
0を決定する。
【0129】
このように(12)式は時間変化に関する条件で拘束されていることから、異なる複数の観測時点のGPS信号を用いた(12)式を連立方程式とすることができる。(12)式には、速度初期値V
0以外にも未知パラメータがあるため、未知パラメータの数に相当する複数の(12)式を連立方程式とする必要がある。しかし、本実施形態では、異なる複数の観測時点のGPS信号を用いた(12)式を連立方程式とすることができるので、未知パラメータを解くことができる数の(12)式からなる連立方程式を立式しやすい。
【0130】
よって、初期設定値決定部126は、速度初期値V
0を高頻度に求めることができる。そして、速度初期値V
0を高頻度に更新することで、加速度センサ20の検出値からドリフトの影響を除去する頻度が高くなるので、加速度積算値ΔV
Gと速度初期値V
0から算出する推定速度V
eの推定精度が向上する。従って、推定速度V
eを用いて決定する現在位置の精度も向上する。
【0131】
また、本実施形態では、拘束条件1に加えて、クロックドリフトの時間変化が線形であるとする拘束条件3も用いて(12)式を導出している。これにより、(12)式における未知パラメータの数をより少なくすることができる。その結果、未知パラメータを解く数の連立方程式を立式しやすくなるので、速度初期値V
0の更新頻度をさらに高くすることができる。
【0132】
また、(12)式は、車両の速度の項として、速度初期値V
0と加速度積算値ΔV
Gの項とを含んでいる。よって、未知パラメータの数の(12)式からなる連立方程式を解くことで、直接、速度初期値V
0を得ることができる。
【0133】
また、本実施形態では、加速度積算値ΔV
Gを用いないで速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を算出する速度ベクトル算出部118を備える。この速度ベクトル算出部118が速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を算出した場合、速度ベクトル算出部118が算出した速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)を用いて速度初期値V
0を決定する(S24)。速度ベクトル算出部118が算出した速度ベクトル(Vx,Vy,Vz)は精度がよいことから、このようにすれば、速度初期値V
0の精度が向上する。
【0134】
また、本実施形態では、停止判定部122が、車両が停止していると判定したときは、車両の速度がゼロであるとして、速度初期値V
0を決定する(S16)。これによっても、速度初期値V
0の精度が向上する。そして、速度初期値V
0の精度が向上する結果、速度初期値V
0と加速度積算値ΔV
Gから算出する推定速度Veの精度も向上する。
【0135】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0136】
<変形例1>
前述の実施形態では、拘束条件3により、時間変化が線形であるという条件でクロックドリフトを拘束していたが、この拘束条件3をなしにしてもよい。拘束条件3をなしにする場合、(12)式におけるCbv
0+Atを、未知パラメータであるCbv
tに置き換えることになる。
【0137】
<変形例2>
また、拘束条件3は残し、拘束条件1における方位角の時間変化による拘束をなしにしてもよい。この場合には、拘束条件1が、速度ベクトルの大きさを車両の速度で拘束したのみの条件となり、(12)式におけるθ
tgyroが未知パラメータになる。
【0138】
<変形例3>
前述の実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを利用していたが、その他の衛星測位システムを利用してもよい。また、GPSが備える衛星と、とその他の衛星測位システムが備える衛星を両方用いてもよい。
【0139】
<変形例4>
前述の実施形態では、移動体は車であったが、車以外の移動体にも、本発明は適用できる。