(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
以下に説明する応力計測システム10(
図2参照)は、計測対象物である転がり軸受50の外輪51に発生する応力を、赤外線カメラ(赤外線サーモグラフィ)21による画像を用いて計測することができる。
【0017】
〔測定対象物について〕
まず、測定の対象となる転がり軸受50について、
図1により説明する。転がり軸受50は、外輪51と、内輪52と、これら外輪51と内輪52との間に介在する複数の転動体(玉)53と、これら複数の転動体53を周方向に沿って等間隔で保持する環状の保持器54とを備えている。外輪51の内周面には外輪軌道面(外輪軌道溝)55が形成されており、内輪52の外周面には内輪軌道面(内輪軌道溝)56が形成されている。外輪51、内輪52及び転動体53は、例えば軸受鋼等の金属製である。保持器54は、金属製又は樹脂製である。
【0018】
外輪51に対して内輪52がシャフト18と共に回転すると、外輪51と内輪52との間に介在する複数の転動体53は外輪軌道面55及び内輪軌道面56を転動する。この時、各転動体53は、外輪軌道面55及び内輪軌道面56に沿って自転しながら公転する。
【0019】
複数の転動体53は保持器54によって等間隔に保持されており、各転動体53は外輪軌道面55の代表する一部(任意の一部)を周期的に通過する。このため、外輪51の各部には、複数の転動体53によって周期的な負荷が作用し周期的な応力が発生する。
そこで、外輪51の各部に発生する周期的な応力に起因して、各部には熱弾性効果に因る発熱(温度上昇)又は吸熱(温度降下)が生じることから、本実施形態の応力計測システム10(
図2参照)では、この発熱及び吸熱に起因する軌道輪(本実施形態では外輪51)の温度変化を赤外線カメラ21が画像として捉え、この画像を処理装置30が処理することで軌道輪の各部に発生する応力(応力絶対値)を求めることができる。
【0020】
〔応力計測システム10について〕
応力計測システム10の構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態の応力計測システム10は、赤外線カメラ21及びこの赤外線カメラ21の取得画像を処理する処理装置30の他に、モニタからなる表示部13、支台15及び動力機構16を備えている。
【0021】
本実施形態では、転がり軸受50の外輪51が応力測定の対象物(測定対象物)であるため、赤外線カメラ21はこの外輪51に向けて設置されている。
転がり軸受50の少なくとも外輪51の表面(外周面)には、合成樹脂等からなる艶消し黒色の塗料が塗布されている。この塗料の厚さは、20〜25μmである。この塗料により、外輪51の表面(測定対象表面)の熱放射率は、黒体を1.0とした場合、約0.94となる。このように、外輪51の表面の熱放射率を高くすることにより、熱放射により放出される熱量が多くなる。したがって、外輪51の表面の温度変化をより確実に検出することが可能となる。
【0022】
本実施形態の支台15は、チャックにより外輪51を回転不能に固定している。
動力機構16は、変速機付きモータ17を備えている。このモータ17の出力軸にはシャフト18が連結されており、このシャフト18に転がり軸受50の内輪52が外嵌して固定されている。以上より、固定状態にある外輪51に対して、モータ17の回転により内輪52を所定回転速度で回転させることができる。
【0023】
赤外線カメラ21は、レンズ及び赤外線センサ(図示略)を有している。赤外線センサは多数のセンサ素子を備えており、これらセンサ素子は例えば格子状に配列されている。赤外線センサは、物体の表面から放出される赤外線を受光すると、その赤外線の強度に応じた電気信号を出力する。赤外線カメラ21は、赤外線センサの電気信号を画像信号に変換して処理装置30に出力する。以上より、赤外線カメラ21は、測定対象物である外輪51を撮像し、外輪51の温度の時間変化を示す時系列画像を取得することができる。
【0024】
前記時系列画像は、例えば8200フレームの画像データから構成される。この場合、時系列画像を取得するための赤外線カメラ21による撮像時間は、フレーム間隔(サンプリング間隔)を0.005[sec]とすれば、41[sec]となる。
【0025】
処理装置30は、赤外線カメラ21により得られた外輪51の温度の時間変化を示す時系列画像を構成するデータ(後述の第1時系列データ)の処理を行う。
図3は、処理装置30を説明するためのブロック図である。処理装置30は、コンピュータにより構成されており、メモリ等から構成されている記憶部31と、処理部(プロセッサ)とを備えている。処理装置30は、機能部として、情報取得部32と、フーリエ変換部(FFT部)33と、フィルタ処理部34と、逆フーリエ変換部(逆FFT部)35と、応力算出部36と、表示処理部37とを備えている。これら機能部は、前記処理部(プロセッサ)が記憶部31に記憶されているコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0026】
また、応力計測システム10は、測定対象物(本実施形態では外輪51)についての幾何計算を実行する演算部40を備えている。本実施形態では、処理装置30が機能部として演算部40を備えている。つまり、演算部40の機能は、前記処理部(プロセッサ)が記憶部31に記憶されているコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
なお、演算部40は、コンピュータからなる処理装置30とは別のコンピュータ(演算器)から構成されていてもよく、この場合、双方のコンピュータはデータの受け渡しが可能であり、演算部40の計算結果の情報を処理装置30が取得し処理できる。
【0027】
そして、処理装置30は、赤外線カメラ21の画像信号及び演算部40による情報に基づいて応力分布を算出するように構成されている。
表示部13は、処理装置30により算出された応力分布を表示する。
【0028】
処理装置30の各機能部について説明する。なお、各機能部が行う処理の具体例については、後に説明する応力計測方法と共に示す。
情報取得部32は、赤外線カメラ21から前記時系列画像GA1を取得して記憶部31に格納する。具体的に説明すると、情報取得部32は、赤外線カメラ21から入力される時系列画像GA1の画像信号をデジタルデータに変換して記憶部31に格納する。特に、情報取得部32は、時系列画像GA1を構成する各フレームに含まれる画素毎に画像信号をデジタルデータに変換して記憶部31に格納する。このように画像信号がデジタルデータに変換されて生成された画素毎のデータを、第1時系列データと呼ぶ。この第1時系列データの一例を
図4に示す。
図4に示すように、第1時系列データP1は、一つの画素に関する温度の時間変化を示すデータである。
【0029】
フーリエ変換部33は、前記第1時系列データP1に対してフーリエ変換処理して周波数毎の信号強度(振幅値)を示す第1周波数データを生成する。この第1周波数データの一例を
図5に示す。
図5に示すように、第1周波数データS1は、一つの画素に関する周波数毎の信号強度(振幅値)を示すデータである。
【0030】
フィルタ処理部34は、前記第1周波数データS1に対してフィルタ処理を行い、ノイズを除去する。これにより、ノイズが除去された第2周波数データが生成される。この第2周波数データの一例を
図6に示す。
図6に示すように、第2周波数データS2は、一つの画素に関する周波数毎の信号強度(振幅値)を示すデータであって、第1周波数データS1からノイズが除去されたデータである。なお、後にも説明するが、このフィルタ処理部34が行うフィルタ処理では、演算部40が幾何計算により求めた外輪51に生じる応力発生頻度を示す基本周波数及びこの基本周波数の整数倍の高次周波数の情報が用いられる。
【0031】
逆フーリエ変換部35は、第2周波数データS2に対して逆フーリエ変換処理を行うことにより、外輪51の温度の時間変化を示す第2時系列データを生成する。この第2時系列データの一例を
図7に示す。
図7に示すように、第2時系列データP2は、一つの画素に関する温度の時間変化を示すデータである。
【0032】
応力算出部36は、前記第2時系列データP2を、外輪51に発生している応力を示す応力データに変換する。この応力データの一例を
図8に示す。
図8に示すように、応力データは、一つの画素に関する応力の時間変化を示すデータである。
この応力データは画素毎の応力値を示しており、また、前記各機能部は、時系列画像GA1に含まれる全ての画素について各処理を実行する。そこで、応力算出部36は、これら画素の応力データに基づいて外輪51に作用している応力分布を示すデータを生成する。そして、表示処理部37は、この応力分布を示すデータを表示部13に画像として出力させる。
【0033】
演算部40について説明する。記憶部31には、演算部40が幾何計算を実行するためのプログラム7が記憶されている。なお、本実施形態の前記プログラムは演算式のプログラムである。演算部40は、この記憶部31のプログラム7に基づいて、外輪51の特定部XS(
図1参照)に生じる応力発生頻度を示す基本周波数F0、及び、この基本周波数F0の整数倍の高次周波数F1、F2・・・を算出する。
なお、外輪51の特定部XSは、外輪51の内の任意に設定される部分であり、例えば、発生応力が最も高くなると推定される部分とすることができるが、本実施形態では、外輪51の外周面の内の、外輪軌道面55の底部55a(
図1参照)の径方向外側に対応する部分を、特定部XSとしている。このため、この特定部XSを含む領域を、赤外線カメラ21は撮像する必要がある。
【0034】
〔応力計測方法について〕
以上の構成を備えている応力計測システム10が行う応力計測方法について説明する。
図9は、応力計測方法を示すフローチャートである。この応力計測方法は、計算工程(ステップSt21)、撮像工程(ステップSt11)、第1変換工程(ステップSt12)、フィルタ処理工程(ステップSt13)、第2変換工程(ステップSt14)、第3変換工程(ステップSt15)、判定工程(ステップSt16)及び表示工程(ステップSt17)を備えている。
【0035】
計算工程(ステップSt21)では、測定対象物である外輪51を構成部材として含む転がり軸受50の運動条件及び転がり軸受50の機構(構成)を示す仕様に基づいて、演算部40が、外輪51の前記特定部XSにおける基本周波数F0及び高次周波数F1,F2・・・を演算により求める。
この演算のために、記憶部31には、予め、転がり軸受(深溝玉軸受)の特性値である外輪に発生する応力変動の周波数、つまり、転がり軸受の回転による応力発生頻度を示す基本周波数F0を算出するためのプログラム7として、幾何計算に関する関係式(幾何計算式)が記憶されている。基本周波数F0[Hz]を算出するための第1の幾何計算式は、次の式(1)で表される。
【0037】
また、この式(1)中の転動体の公転速度fc[Hz]を幾何計算により求めるための第2の幾何計算式は、次の式(2)で表される。
【0039】
このような幾何計算を実行するために演算部40には、転がり軸受50の前記仕様を示す仕様情報8が入力される。この仕様情報8の入力は、コンピュータからなる処理装置30が備えている入力部(入力インタフェース)38(
図3参照)を通じて、計測作業者により行われる。入力された仕様情報8は記憶部31に記憶される。
そして、演算部40は、仕様情報8が示す値を前記関係式(第1及び第2の幾何計算式)に代入して演算することにより、転がり軸受50の特定部XSに生じる応力発生頻度を示す基本周波数F0[Hz]を算出する。更に、演算部40は、この基本周波数F0[Hz]を整数倍し、高次周波数F1,F2・・・[Hz]を算出する。高次周波数は、基本周波数F0に整数N(Nは、2以上の整数)を乗じることで算出される。
【0040】
本実施形態の場合、仕様情報8が示す各値は、次のとおりであり、前記関係式(第1及び第2の幾何計算式)により、基本周波数F0=4.958[Hz]が算出される。そして、整数倍高調波である高次周波数として、F1=9.916[Hz]、F2=14.874[Hz]が算出される。これら基本周波数F0及び高次周波数F1,F2は、記憶部31に記憶される。
【0041】
<仕様情報8が示す各値>
内輪52の回転速度 : fr=1.383[Hz]
外輪51の回転速度 : fd=0[Hz]
転動体(玉)53の平均直径 : DW=7.938(mm)
転動体(玉)53のピッチ円直径 : dm=39(mm)
転動体(玉)53の接触角 : α=0(度)
転動体(玉)53の数 : Q=9(個)
【0042】
このように幾何計算によって求められた周波数は、外輪51の特定部XSにおいて生じる応力に起因する発生周波数として推定することができる。
なお、この計算工程(ステップSt21)を、撮像工程(ステップSt11)等と、同じタイミングで行うことができるが、別のタイミングで行ってもよい。すなわち、撮像工程開始前に計算工程を行ってもよい。
【0043】
図9に示す撮像工程(ステップSt11)では、先ず、転がり軸受50を回転させる。つまり、固定状態にある外輪51に対して内輪52を動力機構16によって回転させる。そして、内輪52が回転している状態で、赤外線カメラ21がこの外輪51の前記特定部XSを含む領域を撮影する。これにより、外輪51の温度の推移、つまり外輪51の温度の時間変化を示す時系列画像GA1が赤外線カメラ21から処理装置30に入力される。
【0044】
そして、情報取得部32は、この時系列画像GA1を記憶部31に格納する。この際、情報取得部32は、画素毎に処理を行う。つまり、画素毎の温度の時間変化を示す第1時系列データP1(
図4参照)が記憶部31に格納される。なお、
図4に示す第1時系列データP1は、外輪51の外周面側の特定部XSに含まれる画素のデータである。
【0045】
図4に示す第1時系列データP1は、ノイズを含む複雑な波形となっている。すなわち、第1時系列データP1は、外輪51の特定部XSに生じる応力に基づく温度(温度変化)以外の要因により外輪51の特定部XSの温度が変化していると考えられる。なお、外輪51において、転動体53からの荷重に基づく応力に起因する温度変化以外に温度変化に影響を与える要因としては、例えば、転動体53と外輪軌道面55との間の摩擦熱、応力計測システム10を設置した計測室内の空調設備による外輪51への送風、及び、支台15、動力機構16、処理装置30が放出する熱が外輪51に伝達されることが挙げられる。
これらの要因による特定部XSの温度変化が、ノイズとして第1時系列データP1に含まれることとなる。これらの要因による外輪51の特定部XSの温度変化は、赤外線カメラ21の温度分解能以上となる場合が多い。
【0046】
第1変換工程(ステップSt12)では、フーリエ変換部33が、記憶部31に記憶されている画素毎の前記第1時系列データP1を取得して、この第1時系列データP1に対して高速フーリエ変換処理を実行する。この処理の結果、第1時系列データP1が周波数毎の信号強度(振幅値)に分解されて、
図5に示す周波数と信号強度(振幅値)との関係を示す第1周波数データS1が生成される。第1周波数データS1では、ある周波数(3つの周波数)において、信号強度のピークが発生している。
【0047】
フィルタ処理工程(ステップSt13)では、フィルタ処理部34が、
図5に示す第1周波数データS1から特定周波数のデータを抽出し、
図6に示す第2周波数データS2を生成する。つまり、フィルタ処理工程では、外輪51の特定部XSに生じる応力に基づく温度変化以外の要因を、第1周波数データS1から取り除き、第2周波数データS2を生成する。
【0048】
このフィルタ処理部34が行うフィルタ処理について説明する。フィルタ処理部34は、前記計算工程(ステップSt21)において幾何計算により求められた前記基本周波数F0(4.958[Hz])及び前記高次周波数F1,F2(9.916[Hz],14.874[Hz])を示す周波数情報を、記憶部31から取得する。前記のとおり、これら周波数F0,F1,F2は、外輪51の特定部XSにおいて生じる応力に起因する発生周波数として推定することができる。
【0049】
そこで、フィルタ処理部34は、フィルタ処理として、これら基本周波数F0及び高次周波数F1,F2それぞれに対応する周波数のデータを、
図5に示す第1周波数データS1から抽出する処理を行う。
【0050】
フィルタ処理部34が、第1周波数データS1から周波数F0,F1,F2それぞれに対応する周波数のデータを抽出する具体的方法は、様々あるが、例えば、第1周波数データS1を所定幅の周波数帯毎に区画し、この区画した周波数帯(区画周波数帯Δf)が、前記周波数F0,F1,F2いずれかの値を含むか否か判定する。区画周波数帯Δfに、前記周波数F0,F1,F2いずれかの値が含まれると判定した場合、その区画周波数帯Δfのデータは第2周波数データS2として残される。これに対して、区画周波数帯Δfに、前記周波数F0,F1,F2いずれかの値が含まれないと判定した場合、その区画周波数帯のデータの信号強度(振幅値)を低減する。なお、このデータの信号強度の低減には、データの信号強度をゼロにする場合も含まれており、本実施形態では、ゼロとして、データを削除する。
これにより、周波数F0,F1,F2の値を含む区画周波数帯Δfのみが残され、それ以外の周波数帯のデータは削除される。なお、第1周波数データS1を区画する前記所定幅(区画周波数帯Δf)は、例えば、0.25〜0.75Hzとすることができる。
【0051】
この結果、
図5に示す第1周波数データS1から、基本周波数F0(4.958[Hz])と同期(略同期)する成分、及び、高次周波数F1,F2(9.916[Hz],14.874[Hz])と同期(略同期)する成分が抽出され、その他の成分が削除され、
図6に示す第2周波数データS2が生成される。なお、周波数F0,F1,F2と同期(略同期)するデータは、振幅値のピークを有しているデータである。
【0052】
以上より、このフィルタ処理工程(ステップSt13)では、基本周波数F0及び高次周波数F1,F2それぞれと一致(略一致)する周波数(を含む周波数帯)のデータが、
図5に示す第1周波数データS1から抽出される。なお、前記「略一致する」場合としては、基本周波数F0及び高次周波数F1,F2それぞれと前記所定幅の範囲内で近傍の周波数であって、信号強度(振幅値)にピーク値を有している周波数(特定周波数)のデータが、第1周波数データS1から抽出される。
【0053】
そして、第2変換工程(ステップSt14)では、逆フーリエ変換部35が、前記第2周波数データS2に対して逆高速フーリエ変換処理を実行する。この処理の結果、温度の時間変化を示す第2時系列データP2(
図7参照)が得られる。この第2時系列データP2は、第1時系列データP1と比較してノイズが除去されている。
【0054】
前記各処理は、画素毎に実行されていることから、この第2時系列データP2も、画素毎のデータとして生成される。
図7は、外輪51の特定部XSに含まれる画素の第2時系列データP2を示している。この第2時系列データP2は、温度の推移、つまり、温度の時間変化を示すグラフである。
【0055】
第3変換工程(ステップSt15)では、応力算出部36が、
図7に示す第2時系列データP2を、外輪51の特定部XSに生じる応力の変化を示す応力データ(
図8参照)に変換する。温度を応力に変換する関数は、熱弾性効果の特性に基づいて既知であり、応力算出部36は、この関数を用いて第2時系列データP2に示される温度変化から応力変化を算出することができる。
【0056】
そして、全ての画素に対して、第1変換工程(ステップSt12)、フィルタ処理工程(ステップSt13)、第2変換工程(ステップSt14)、及び第3変換工程(ステップSt15)が実行される(ステップSt16)。これにより、応力算出部36は、外輪51の特定部XS及びそれ以外の部分についての温度分布を求めることができ、そして、外輪51の特定部XS及びそれ以外の部分で生じる応力分布を求めることができる。これら温度分布及び応力分布の情報は、記憶部31に記憶される。
【0057】
そして、表示工程(ステップSt17)では、表示処理部37が、外輪51の前記応力分布を表示部13に表示させる。例えば、表示部13に、外輪51の応力分布を、外輪51の画像に含まれる各画素の濃淡により示すことができる。
【0058】
〔本実施形態の応力計測システム及び応力計測方法に関して〕
以上のように、本実施形態に係る応力計測システム10によって実行される応力計測方法は、転がり軸受50の外輪(測定対象物)51に発生する応力を計測する方法であって、計算工程(ステップSt21)では、外輪51の特定部XSに生じる応力発生頻度を示す基本周波数F0及びこの基本周波数F0の整数倍の高次周波数F1,F2・・・が、幾何計算により求められる。
そして、撮像工程(ステップSt11)では、外輪51が赤外線カメラ21により撮像され、第1変換工程(ステップSt12)では、この赤外線カメラ21により得られた外輪51の特定部XSの温度の時間変化を示す第1時系列データP1をフーリエ変換して周波数毎の信号強度を示す第1周波数データS1が生成される。
フィルタ処理工程(ステップSt13)では、この第1周波数データS1に対してフィルタ処理を行うことにより第2周波数データS2が生成される。
第2変換工程(ステップSt14)では、第2周波数データS2に対して逆フーリエ変換処理を行うことにより外輪51の特定部XSの温度の時間変化を示す第2時系列データP2が生成され、第3変換工程(ステップSt15)では、この第2時系列データP2が、外輪51の特定部XSに発生している応力を示す応力データに変換される。
【0059】
そして、前記フィルタ処理工程(ステップSt13)では、第1周波数データS1から、計算工程(ステップSt21)において幾何計算により外輪51の物性値として求められた基本周波数F0及び高次周波数F1,F2それぞれに対応する(同期する)周波数以外の周波数のデータの信号強度(振幅値)が低減され(信号強度がゼロにされ)、これら周波数F0,F1,F2それぞれに対応する(同期する)周波数のデータ(成分)が抽出される。
【0060】
したがって、フィルタ処理工程(ステップSt13)によれば、第1周波数データS1から不要な成分(ノイズ成分)が除去される。これにより、第3変換工程(ステップSt15)では、不要な成分が除去されたデータを用いて外輪51の温度分布及び応力分布を求めることができ、外輪51についての応力計測の精度を高めることが可能となる。
この結果、転がり軸受50が回転している実用状態において、この転がり軸受50を構成する外輪51にどのような応力が発生しているかを精度よく把握することが可能となり、転がり軸受50の最適設計に貢献できる。
【0061】
ここで従来技術として、赤外線カメラにより撮影された画像からノイズを除去する処理として、ロックイン処理が知られている。ロックイン処理は、赤外線カメラが出力する画像信号から、一定周期により入力荷重が変動するsin波状の荷重信号の成分を抽出することにより、赤外線カメラが出力する画像信号に含まれるノイズを除去する。
【0062】
これに対して、
図2に示す本実施形態に係る応力計測システム10の場合、動力機構16は、転がり軸受50の内輪52を一定速度で回転させるために、シャフト18に回転力を付与しているが、入力荷重は変動させていない。このため、一定周期により入力荷重が変動するsin波状の荷重信号は生まれない。したがって、本実施形態のように回転する転がり軸受50の構成部材の応力を計測する場合、ロックイン処理を実行して画像信号に含まれるノイズを除去することができない。
また、外輪51に生じる応力には、その応力に起因する1次成分の他に、高調波成分(高次周波数)が含まれる。従来のロックイン処理は、荷重信号に基づいて応力を算出するため、1次成分のみが考慮された応力の算出であり、高調波成分を考慮した応力の算出が不可能である。
【0063】
これに対して、本実施形態の応力計測システム10では、赤外線カメラ21により取得した転がり軸受50の外輪51の温度を示す第1時系列データからその周波数特性を示す第1周波数データを生成し、この第1周波数データから、応力に起因する1次成分の基本周波数F0及びその高次成分の周波数以外のデータを除去している。これにより、赤外線カメラ21により取得した外輪51の温度のデータは、外輪51の応力に起因したものとなる。以上より、本実施形態では、ロックイン処理を用いずに赤外線カメラ21が出力する画像信号に含まれるノイズを除去することができ、また、1次成分の他に、高調波成分(高次周波数)が考慮された計測が可能となる。
【0064】
なお、本発明の応力計測システム及び応力計測方法は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、前記実施形態では、転がり軸受50の外輪51を測定対象物として説明したが、内輪52を対象としてもよい。また、本発明の応力計測システム及び応力計測方法は、転がり軸受以外に、等速ジョイント、ハブユニット、ステアリングシャフト、ボールねじ等の転送面を転動する転動体を介して回転する機構の応力計測にも適用可能であり、これらの構成部材を測定対象物とすることができる。
【0065】
また、前記実施形態では、フーリエ変換部33等の各機能部は、時系列画像GA1に含まれる全ての画素について各処理を実行する場合について説明したが、外輪51の特定部XSに含まれる全ての画素についてのみ各処理を実行するように構成してもよい。
また、フーリエ変換部33及び逆フーリエ変換部35は、FFTや逆FFTとは異なる他の離散型フーリエ変換アルゴリズムを用いた処理を行う構成であってもよい。更に、高速フーリエ変換処理や逆高速フーリエ変換処理が行われる前に、窓関数(例えばハニング窓関数等)を用いた処理が行われてもよい。
また、処理装置30を構成する前記各機能部は、それぞれ専用の集積回路から構成されていてもよい。また、これら機能部の一部を纏めて1つの集積回路から構成してもよい。