(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
本発明のトナーは、非晶性樹脂および結晶性樹脂よりなる結着樹脂、着色剤並びに離型剤を含有するトナー粒子よりなり、結晶性樹脂が、特定の炭素数の直鎖脂肪族ジオールおよび直鎖脂肪族ジカルボン酸を重縮合して得られた、融点50〜85℃の脂肪族結晶性ポリエステル樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0018】
〔脂肪族結晶性ポリエステル樹脂〕
本発明において、結晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱量変化ではなく、明確な溶融ピークを有する樹脂をいう。明確な溶融ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定によって得られたDSC曲線において、二回目の昇温過程における融解ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
【0019】
本発明に係る脂肪族結晶性ポリエステル樹脂は、具体的には、当該脂肪族結晶性ポリエステル樹脂を形成するための直鎖脂肪族ジオールに由来する構造単位の炭素数をC
diol、脂肪族結晶性ポリエステル樹脂を形成するための直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位の炭素数をC
diacidとしたとき、関係式(1)および関係式(2)を満たすものである。
関係式(1):13≦C
diol+C
diacid≦24
関係式(2):0.4≦C
diol/C
diacid≦2.0
【0020】
関係式(1)に係るC
diol+C
diacidの値は、より好ましくは15≦C
diol+C
diacid≦22である。また、関係式(2)に係るC
diol/C
diacidの値は、より好ましくは0.5≦C
diol/C
diacid≦1.8である。
【0021】
C
diolは、4〜10であることが好ましい。
【0022】
本発明に係る脂肪族結晶性ポリエステル樹脂は、特に、直鎖脂肪族ジカルボン酸および直鎖脂肪族ジオールとして、それぞれ1種を重縮合したものであることが好ましい。それぞれ複数種の直鎖脂肪族ジオールおよび直鎖脂肪族ジカルボン酸が重縮合して得られる脂肪族結晶性ポリエステル樹脂は、非晶性樹脂と相溶しやすくなってしまう。
【0023】
直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などが挙げられる。
【0024】
直鎖脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。
【0025】
〔脂肪族結晶性ポリエステル樹脂の融点〕
脂肪族結晶性ポリエステル樹脂の融点は、50〜85℃であり、60〜80℃であることが好ましい。
脂肪族結晶性ポリエステル樹脂の融点が50℃以上であることにより、熱定着時に溶融が生じるタイミングが早くなりすぎることなく、非晶性樹脂と混合されて発揮されるシャープメルト性を有効に得ることができて十分な低温定着性が得られ、さらに、トナーの保管時の温度上昇による溶融を抑制することができて十分な耐熱保管性が得られる。一方、脂肪族結晶性ポリエステル樹脂の融点が85℃以下であることにより、熱定着時に溶融が生じるタイミングが遅くなりすぎることなく、非晶性樹脂と混合されて発揮されるシャープメルト性を有効に得ることができて十分な低温定着性が得られる。
【0026】
ここに、脂肪族結晶性ポリエステル樹脂の融点は、脂肪族結晶性ポリエステル樹脂単独の示差走査熱量測定によって得られたDSC曲線から求められた、0℃から200℃まで昇温する二回目の昇温過程における融解ピークのピークトップ温度である。なお、当該DSC曲線において融解ピークが複数存在する場合は、最大の吸熱量を有する融解ピークのピークトップ温度を融点とする。
【0027】
脂肪族結晶性ポリエステル樹脂の示差走査熱量測定は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用い、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温し、1分間200℃で等温保持する一回目の昇温過程、冷却速度10℃/minで200℃から0℃まで冷却し、1分間0℃で等温保持する冷却過程、および昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する二回目の昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって行われるものである。測定手順としては、トナー3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。
【0028】
脂肪族結晶性ポリエステル樹脂単独の示差走査熱量測定は、トナーから単離・抽出した脂肪族結晶性ポリエステル樹脂単体を測定試料として用いて上記と同様に行われるものである。トナーからの脂肪族結晶性ポリエステル樹脂の単離・抽出方法としては、例えば特許第3869968号等に記載の方法を採用することができる。
【0029】
本発明に係る脂肪族結晶性ポリエステル樹脂は、上記の直鎖脂肪族ジカルボン酸および直鎖脂肪族ジオールが重縮合されてなる脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントとウレタン重合セグメントとが結合してなるウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂は、ウレタン変性されていない結晶性ポリエステル樹脂と比較して、ウレタン結合の存在によって分子間相互作用が強く得られる。従って、結着樹脂を構成する脂肪族結晶性ポリエステル樹脂がウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂であることによって、熱定着時に高温となった場合にも結着樹脂全体として十分な粘弾性が維持されるので、形成された定着画像の光沢度が過度に高くなることが抑制される。また、この強い分子間相互作用のために、トナーの保管時および熱定着後の冷却された定着画像において非晶性樹脂との相分離性が確保されて、十分な耐熱保管性および耐ドキュメントオフセット性が得られる。
以下、脂肪族結晶性ポリエステル樹脂がウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂である場合について説明する。
【0030】
〔ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の酸価〕
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、7〜20mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは10〜17mgKOH/gである。
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の酸価が上記の範囲にあることによって、熱定着時に生じる、結着樹脂を構成する非晶性樹脂とこのウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂との相溶を、当該ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂のカルボキシル基による極性によって、促進させることができる。また、後述のトナーの製造方法において、水系媒体中における当該ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の微粒子の分散安定性を適正に制御することができる。
【0031】
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、JIS K 0070の酸価の測定方法に準拠して行われる。具体的には、アセトン:水=1:1の混合溶媒にウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を溶解し、常法に従い、水酸化カリウムを用い中和滴定を行い、中和の終点に達するまでに用いられた水酸化カリウムの上記樹脂のグラムあたりの重量で示される。単位はmgKOH/gである。
【0032】
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂においては、カルボキシル基が当該ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の分子末端および/または当該ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を構成するウレタン重合セグメントに導入されていることにより、当該ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂が酸価を有するものとなる。
具体的には、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の分子末端にカルボキシル基が導入されたものとして構成する場合は、多価カルボン酸化合物を、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を形成すべき脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントとウレタン重合セグメントとの結合体の分子末端の水酸基にエステル化反応させることにより、導入することができる。多価カルボン酸化合物としては、フマル酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、アジピン酸などの二価のカルボン酸;トリメリット酸、クエン酸などの三価のカルボン酸およびこれらの酸無水物などを用いることができる。多価カルボン酸化合物としては、三価のカルボン酸を用いることが好ましく、特に無水トリメリット酸を用いることが好ましい。エステル化反応は、触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、テトラブトキシチタネート、ジブチルチンオキサイド、p−トルエンスルホン酸などを用いることができる。
また、ウレタン重合セグメントにカルボキシル基が導入されたものとして構成する場合は、ウレタン重合セグメントを形成すべき多価アルコールとしてカルボキシル基を有するジオール化合物を用いてウレタン化反応を行うことにより、導入することができる。カルボキシル基を有するジオール化合物としては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジヒドロキシコハク酸、酒石酸、グリセリン酸、ジヒドロキシ安息香酸などを用いることができる。
エステル化反応やウレタン化反応を行うときの反応溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒を用いることができる。また、ジオール化合物の溶解のために、N−メチルピロリドンなどを用いることも好ましい。反応溶媒は、副反応を防ぐために脱水精製したものであることが好ましい。
【0033】
〔ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の分子量〕
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布から算出された重量平均分子量(Mw)は25,000〜65,000であることが好ましく、より好ましくは28,000〜60,000である。
【0034】
GPCによる分子量測定は、以下のように行った。すなわち、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料(ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出する。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×10
2 、2.1×10
3 、4×10
3 、1.75×10
4 、5.1×10
4 、1.1×10
5 、3.9×10
5 、8.6×10
5 、2×10
6 、4.48×10
6 のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成した。また、検出器には屈折率検出器を用いた。
【0035】
また、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を構成する脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布から算出された重量平均分子量(Mw)は6,000〜20,000であることが好ましく、より好ましくは6,500〜15,000である。
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を構成する脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントの重量平均分子量(Mw)が6,000以上であることによって、十分な結晶性が得られ、これにより所期のシャープメルト性が得られる。一方、重量平均分子量(Mw)が20,000以下であることによって、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂において分子内のウレタン結合の数が十分に確保されて十分な分子間相互作用が得られる。
脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントのGPCによる分子量分布測定は、測定試料として脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントを用いたことの他は上記と同様にして行われるものである。
【0036】
また、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を構成するウレタン重合セグメントのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布から算出された重量平均分子量(Mw)は500〜50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜10,000である。
ウレタン重合セグメントのGPCによる分子量分布測定は、測定試料としてウレタン重合セグメントを用いたことの他は上記と同様にして行われるものである。
【0037】
本発明においては、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂における脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントの含有割合は50〜99.5質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜96質量%、特に好ましくは60〜90質量%である。
脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントの含有割合は、具体的には、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる樹脂材料の全質量、すなわち、脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントとなる直鎖脂肪族ジカルボン酸および直鎖脂肪族ジオールと、ウレタン重合セグメントとなる多価アルコールおよび多価イソシアネートとを合計した全質量に対する、脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントとなる直鎖脂肪族ジカルボン酸および直鎖脂肪族ジオールの質量の割合である。
脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントの含有割合が50質量%以上であることによって、十分なシャープメルト性が得られ、従って、優れた低温定着性を得ることができる。一方、99.5質量%以下であることによって、熱定着時に高温となった場合にも結着樹脂全体として十分な粘弾性が維持されるので、形成された定着画像の光沢度が過度に高くなることが抑制されると共に十分な耐ドキュメントオフセット性が得られる。
【0038】
〔ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の合成方法〕
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂は、予め、脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントとなる、両末端に水酸基を有するプレポリマー(後述の脂肪族結晶性ポリエステルジオールなど)、および、末端にイソシアネート基を有するポリウレタンユニットを、それぞれ合成し、両者を混合して反応させる(合成反応A)ことによって、合成することができる。
また、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂は、まず、脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントとなる、両末端に水酸基を有するプレポリマー(後述の脂肪族結晶性ポリエステルジオールなど)を合成し、次いで、当該プレポリマーの両末端の水酸基に多価イソシアネート化合物のみ、または、多価イソシアネート化合物および多価アルコールを反応させる(合成反応B)ことによってウレタン重合セグメントを形成することにより、合成することもできる。
上記の合成反応Aは、両末端に水酸基を有するプレポリマーおよび末端にイソシアネート基を有するポリウレタンユニットを共に溶解することができる溶媒中で行う。同様に、上記の合成反応Bは、両末端に水酸基を有するプレポリマーと多価イソシアネート化合物および多価アルコールを溶解することができる溶媒中で行う。このような反応溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒を挙げることができる。反応溶媒は、副反応を防ぐために脱水精製したものであることが好ましい。
また、上記の合成反応A,Bは、合成反応を促進するために加温下で行うことが好ましい。反応温度としては、溶媒の沸点によっても異なるが、50〜80℃とすることが好ましい。
【0039】
〔脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメント〕
脂肪族結晶性ポリエステル重合セグメントは、脂肪族結晶性ポリエステルジオールからなることが好ましい。
【0040】
脂肪族結晶性ポリエステルジオールの製造方法としては、特に制限はなく、上述の直鎖脂肪族ジカルボン酸と直鎖脂肪族ジオールとを触媒下で反応させる一般的なポリエステルの重合法を用いて製造することができ、例えば直接重縮合やエステル交換法を、モノマーの種類によって使い分けて製造することが好ましい。
脂肪族結晶性ポリエステルジオールの製造に使用することのできる触媒としては、例えばチタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシドなどのチタン触媒や、ジブチルスズジクロライド、ジブチルスズオキシド、ジフェニルスズオキシドなどのスズ触媒などが挙げられる。
【0041】
上記の直鎖脂肪族ジカルボン酸と直鎖脂肪族ジオールとの使用比率は、直鎖脂肪族ジオールの水酸基[OH]と直鎖脂肪族ジカルボン酸のカルボキシル基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、好ましくは1.5/1〜1/1.5、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2である。
直鎖脂肪族ジカルボン酸と直鎖脂肪族ジオールとの使用比率が上記の範囲にあることにより、両末端に水酸基を有する結晶性ポリエステルジオールを得ることができる。
【0042】
〔ウレタン重合セグメント〕
ウレタン重合セグメントは、多価アルコールと多価イソシアネートとから得られるものである。
【0043】
ウレタン重合セグメントを形成するために用いることのできる多価アルコールとしては、脂肪族ジオールや脂肪族ジオール以外の多価アルコールを用いることができる。
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオールなどを挙げることができる。
脂肪族ジオール以外の多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールを挙げることができる。
ウレタン重合セグメントを形成するための多価アルコールは、1種単独で、または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0044】
ウレタン重合セグメントを形成するために用いることのできる多価イソシアネートとしては、炭素数6〜20(ただしNCO基中の炭素は除く)の芳香族ジイソシアネート、炭素数2〜18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4〜15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8〜15の芳香脂肪族ジイソシアネート、およびこれらのジイソシアネートの変性物などが挙げられる。
ウレタン重合セグメントを得るためのジイソシアネート成分としては、上記のジイソシアネートと共に3価以上のポリイソシアネートを用いてもよい。
ウレタン重合セグメントを形成するための多価イソシアネートは、1種単独で、または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0045】
芳香族ジイソシアネートとしては、1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリアリルポリイソシアネート(PAPI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−およびp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどが挙げられる。
脂肪族ジイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジシアナトヘキサノエートなどが挙げられる。
脂環式ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−および/または2,6−ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
芳香脂肪族ジイソシアネートは、m−および/またはp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α、α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートが挙げられる。
ジイソシアネートの変性物としては、ウレタン基、カルボジイミド基、アロファネート基、ウレア基、ビューレット基、ウレトジオン基、ウレシイミン基、イソシアヌレート基、オキサゾリドン基による変性物などが挙げられる。具体的には、ウレタン変性MDI、ウレタン変性TDI、カルボジイミド変性MDI、トリヒドロカルビルホスフェート変性MDIなどが挙げられ、これらは1種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
〔非晶性樹脂〕
非晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において、明確な吸熱ピークが認められないものをいう。
結着樹脂を構成する非晶性樹脂としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体(カルボキシル基含有ビニルモノマー)を用いて形成されたビニル樹脂であることが好ましく、より好ましくはスチレン系樹脂(スチレン樹脂またはスチレンアクリル樹脂)である。
非晶性樹脂がビニル樹脂であることによって、トナー粒子の保管時に脂肪族結晶性ポリエステル樹脂と非相溶の状態となり、従って、熱定着時に両樹脂が相溶することによって脂肪族結晶性ポリエステル樹脂に係る所期のシャープメルト性が得られて優れた低温定着性が得られると共に、得られた定着画像においてドキュメントオフセットの発生を抑制することができる。
【0047】
ビニル樹脂を形成するためのエチレン性不飽和単量体としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、メトキシスチレン、メトキシアセトキシスチレンなどのスチレン類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基含有ビニルモノマーおよびこれらのハーフアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類などを用いることができる。
これらの中でも、スチレン類、(メタ)アクリレート類、カルボキシル基含有ビニルモノマーを用いることが好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
〔非晶性樹脂の分子量〕
非晶性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、重量平均分子量(Mw)が10,000〜70,000であることが好ましい。
非晶性樹脂の分子量が上記の範囲にあることにより、十分な低温定着性および優れた耐熱保管性が確実に両立して得られる。
【0049】
非晶性樹脂のGPCによる分子量測定は、測定試料として非晶性樹脂を用いたことの他は上記と同様にして行われるものである。
【0050】
〔非晶性樹脂のガラス転移点〕
非晶性樹脂のガラス転移点(TgAm)は、40〜80℃であることが好ましく、より好ましくは45〜70℃である。
非晶性樹脂のガラス転移点が40℃以上であることにより、トナーに十分な熱的強度が得られて十分な耐熱保管性が得られる。また、非晶性樹脂のガラス転移点が80℃以下であることにより、十分な低温定着性が確実に得られる。
【0051】
非晶性樹脂のガラス転移点(TgAm)は、測定試料として非晶性樹脂を用いて、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418−82に規定された方法(DSC法)によって測定された値である。
【0052】
結着樹脂における結晶性樹脂と非晶性樹脂との含有割合は、(結晶性樹脂の質量:非晶性樹脂の質量)が10:90〜50:50であることが好ましく、より好ましくは20:80〜40:60、特に好ましくは25:75〜35:65である。
結着樹脂における結晶性樹脂の含有割合が10質量%以上であることにより、十分なシャープメルト性が得られて低温定着性を確実に得ることができる。また、結着樹脂における結晶性樹脂の含有割合が50質量%以下であることにより、トナー粒子の表面への結晶性樹脂の露出が抑制されて耐熱保管性および耐ブロッキング性が確実に得られる。
【0053】
〔離型剤〕
離型剤としては、特に限定されるものではなく、公知の種々のものを用いることができ、例えば、鉱物系ワックスとしてはモンタンワックス、石油系ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、合成ワックスとしてはフッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、合成エステルワックスとしては、脂肪酸とアルコールをエステル化反応で合成したものが挙げられる。合成エステルワックスの具体例としては、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネートなどが挙げられる。
離型剤の含有割合は、結着樹脂100質量部に対して1〜30質量部であることが好ましく、より好ましくは5〜20質量部である。離型剤の含有割合が上記範囲内であることにより、十分な定着分離性が得られる。
【0054】
離型剤のトナー粒子への導入方法としては、後述のトナーの製造方法の凝集、融着工程において、離型剤のみよりなる微粒子を非晶性樹脂微粒子、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子などと共に水系媒体中で凝集、融着する方法が挙げられる。離型剤微粒子は、離型剤を水系媒体に分散させた分散液として得ることができる。離型剤微粒子の分散液は、界面活性剤を含有する水系媒体を離型剤の融点以上に加熱し、溶融した離型剤溶液を加えて機械的撹拌などの機械的エネルギーや超音波エネルギーなどを付与して微分散させた後、冷却することによって調製することができる。
また、非晶性樹脂が例えばビニル樹脂である場合には、当該非晶性樹脂を形成するためのエチレン性不飽和単量体中に、離型剤を溶解または加熱溶融させ、これを界面活性剤水溶液中に添加し、機械的撹拌などの機械的エネルギーや超音波エネルギーなどを付与して乳化させた後、ラジカル重合開始剤を加えて重合を行うことによって、離型剤と非晶性樹脂との複合微粒子を得、これを凝集、融着工程に供してもよい。
【0055】
離型剤の融点(TmW)は、60〜90℃であることが好ましい。
離型剤の融点は、測定試料として離型剤を用いたことの他は上記と同様にして行われるものである。
【0056】
本発明のトナーにおいて、離型剤の融点(TmW)は、非晶性樹脂のガラス転移点(TgAm)および結晶性樹脂の融点(TmCl)よりも高いことが好ましく、さらに下記関係式(3)を満たすことが好ましい。
関係式(3):TgAm<TmCl<TmW
上記関係式(3)を満たすことにより、十分なシャープメルト性が得られながら、定着画像における耐ドキュメントオフセット性、耐タッキング性などを両立して得ることができる。
【0057】
〔着色剤〕
着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
黒色のトナーを得るための着色剤としては、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、マグネタイト、フェライトなどの磁性体、染料、非磁性酸化鉄を含む無機顔料などの公知の種々のものを任意に使用することができる。
カラーのトナーを得るための着色剤としては、染料、有機顔料などの公知のものを任意に使用することができ、具体的には、有機顔料としては例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:2、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントブルー15:3、同60、同76などを挙げることができ、染料としては例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同68、同11、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同69、同70、同93、同95などを挙げることができる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の含有割合は、結着樹脂100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは4〜15質量部である。
【0058】
〔トナー粒子を構成する成分〕
本発明に係るトナー粒子中には、結着樹脂、着色剤および離型剤の他に、必要に応じて荷電制御剤などの内添剤が含有されていてもよい。
【0059】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤としては、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤の含有割合は、結着樹脂100質量部に対して通常0.1〜5.0質量部とされる。
【0060】
〔トナーの平均粒径〕
本発明のトナーの平均粒径は、例えば体積基準のメジアン径で3〜9μmであることが好ましく、更に好ましくは3〜8μmとされる。この平均粒径は、例えば後述する乳化凝集法を採用して製造する場合には、使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、重合体の組成などによって制御することができる。
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、転写効率が高くなってハーフトーンの画質が向上し、細線やドットなどの画質が向上する。
【0061】
トナー粒子の体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。具体的には、トナー0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を50μmにし、測定範囲である1〜30μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
【0062】
〔トナーの粒度分布〕
本発明に係るトナーは、トナー粒子の体積基準の粒度分布における変動係数(Cv値)が2〜25%であること好ましく、より好ましくは5〜23%である。
体積基準の粒度分布における変動係数(Cv値)は、トナー粒子の粒度分布における分散度を体積基準で表したもので、下記式(Cv)によって定義されるものである。
式(Cv):Cv値(%)=(個数粒度分布における標準偏差)/(個数粒度分布におけるメジアン径)×100
このCv値の値が小さい程、粒度分布がシャープであることを示し、トナー粒子の大きさが揃っていることを意味する。すなわち、Cv値が上記範囲にあることにより、大きさの揃ったトナー粒子が得られることになるので、電子写真方式の画像形成において求められる微細なドット画像や細線をより高精度に再現することができる。
【0063】
〔トナー粒子の平均円形度〕
本発明のトナーは、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、転写効率の向上の観点から、平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、より好ましくは0.950〜0.995である。
【0064】
本発明において、トナー粒子の平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定されるものである。
具体的には、試料(トナー粒子)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)により、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式(T)に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出される。
式(T):円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0065】
〔トナーの軟化点〕
トナーの軟化点は、当該トナーに低温定着性を得る観点から、80〜120℃であることが好ましく、より好ましくは90〜110℃である。
【0066】
トナーの軟化点は、下記に示すフローテスターによって測定されるものである。
具体的には、まず、20℃、50%RHの環境下において、試料(トナー)1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所社製)によって3820kg/cm
2 の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作成し、次いで、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所社製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度T
offsetが、軟化点とされる。
【0067】
〔外添剤〕
上記のトナー粒子は、そのままで本発明のトナーを構成することができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる後処理剤である流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加して本発明のトナーを構成してもよい。
【0068】
後処理剤としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子などよりなる無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子、あるいは、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物微粒子などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これら無機微粒子はシランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイルなどによって、耐熱保管性の向上、環境安定性の向上のために、表面処理が行われていることが好ましい。
【0069】
これらの種々の外添剤の添加量は、その合計が、トナー100質量部に対して0.05〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部とされる。また、外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
【0070】
以上のようなトナーによれば、十分な耐熱保管性が得られると共に、優れた低温定着性が得られ、かつ、低温オフセットや高温オフセットの発生が抑制されて広い定着温度幅を有し、さらに、ドキュメントオフセットの発生が抑制された定着画像を形成することができる。
結晶性ポリエステル樹脂の融点および結晶性は、これを形成するための多価アルコールおよび多価カルボン酸の炭素数によって決定される。従って、結晶性ポリエステル樹脂が上記関係式(1)および関係式(2)を共に満たす、すなわち多価アルコールおよび多価カルボン酸からなる構成単位の総炭素数と、多価アルコールと多価カルボン酸の炭素数比とが規定されたものであることにより、適度な融点と高い結晶性とが得られる。そして、このような適度な融点および高い結晶性を有する結晶性ポリエステル樹脂は、トナーの製造時や保管時、または定着画像において非晶性樹脂と非相溶の状態とされる。従って、トナーの保管時においては両樹脂の相溶に起因するガラス転移点などの低下が抑止されて耐熱保管性が得られ、また、熱定着時には両樹脂が相溶してシャープメルト性が得られて優れた低温定着性が得られる。さらに、熱定着後の定着画像においても両樹脂の相溶に起因するガラス転移点などの低下が抑止されてドキュメントオフセットの発生が抑制される。
【0071】
〔トナーの製造方法〕
本発明のトナーの製造方法は、上記のトナーの製造する方法であって、水系媒体中に分散された、結着樹脂を含有する微粒子、着色剤を含有する微粒子、および、離型剤を含有する微粒子を、凝集、融着する工程を有することを特徴とする方法である。
具体的には、例えば結着樹脂を構成する樹脂(非晶性樹脂、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂)による微粒子を、凝集、融着させることによりトナー粒子を得る乳化凝集法を用いることが好ましい。
【0072】
乳化凝集法は、結着樹脂を構成する樹脂の微粒子の分散液をおよび必要に応じてその他のトナー粒子構成成分の微粒子の分散液と混合し、pH調整による微粒子表面の反発力と電解質体よりなる凝集剤の添加による凝集力とのバランスを取りながら緩慢に凝集させ、平均粒径および粒度分布を制御しながら会合を行うと同時に、加熱撹拌することで微粒子間の融着を行って形状制御を行うことにより、トナー粒子を製造する方法である。
【0073】
このようなトナーの製造方法の具体的な一例としては、
(1)着色剤を水系媒体中に分散させ、着色剤微粒子分散液を調製する着色剤微粒子分散液調製工程
(2)ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に分散させ、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液を調製するウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液調製工程
(3)離型剤および必要に応じて荷電制御剤などのトナー粒子構成成分が含有された非晶性樹脂を水系媒体中に分散させ、非晶性樹脂微粒子分散液を調製する非晶性樹脂微粒子分散液調製工程
(4)非晶性樹脂微粒子、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子および着色剤微粒子を、水系媒体中で凝集、融着させて凝集粒子を形成する凝集、融着工程
(5)凝集粒子を熱エネルギーにより熟成して形状調整を行い、トナー粒子分散液を作製する熟成工程
(6)トナー粒子分散液を冷却する冷却工程
(7)冷却したトナー粒子分散液より当該トナー粒子を固液分離し、トナー粒子表面より界面活性剤などを除去する濾過、洗浄工程
(8)洗浄処理されたトナー粒子を乾燥する乾燥工程
から構成され、必要に応じて
(9)乾燥処理されたトナー粒子に外添剤を添加する外添処理工程
を加えることができる。
【0074】
本発明において、「水系媒体」とは、水50〜100質量%と、水溶性の有機溶媒0〜50質量%とからなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランを例示することができ、得られる樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒を使用することが好ましい。
【0075】
(1)着色剤微粒子分散液調製工程
着色剤微粒子分散液は、着色剤を水系媒体中に分散することにより調製することができる。着色剤の分散処理は、着色剤が均一に分散されることから、水系媒体中において界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(CMC)以上にした状態で行われることが好ましい。着色剤の分散処理に使用する分散機としては、公知の種々の分散機を用いることができる。
【0076】
〔界面活性剤〕
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤などを用いることができ、アニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0077】
この着色剤微粒子分散液調製工程において調製される着色剤微粒子分散液中の着色剤微粒子の分散径は、体積基準のメジアン径で10〜300nmとされることが好ましい。
この着色剤微粒子分散液中の着色剤微粒子の体積基準のメジアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS−800(大塚電子社製)」で測定されるものである。
【0078】
(2)ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液調製工程
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂を有機溶媒中に溶解または分散させて油相液を調製すると共に、界面活性剤を含有する水系媒体(水相)を用意し、油相液を水相中に添加し、機械的な剪断力、例えば高速撹拌、超音波照射などを行って乳化して油滴を形成した後、減圧などにより有機溶媒を除去する方法が挙げられる。この工程においては、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂が酸価を有するものである場合は、予め有機溶媒または水相に塩基化合物を溶解させておくことにより、当該ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂のカルボキシル基を中和することによって、安定な乳化液を調製することができる。
また、上記の油相液に水相を添加するいわゆる転相乳化法を用いることもできる。転相乳化法を用いる場合には、カルボキシル基の中和に係る塩基化合物を、有機溶媒に溶解させて使用することが好ましい。
【0079】
水相に溶解させることができる塩基化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機アルカリ化合物を用いることができる。また、有機溶媒に溶解させることができる塩基化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどの有機アルカリ化合物を用いることができる。
【0080】
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましい。
水系媒体の使用量を上記の範囲とすることで、水系媒体中において油相液を所望の粒径に乳化分散させることができる。
【0081】
使用される界面活性剤としては、例えば上述の界面活性剤と同様のものを挙げることができる。
【0082】
油相液の調製に使用される有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えばメチルエチルケトン、メタルイソブチルケトン、酢酸エチルなどが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
有機溶媒の使用量は、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂100質量部に対して、通常1〜300質量部、好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは25〜70質量部である。
【0083】
この工程において得られるウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子の平均粒子径は、体積基準のメジアン径で例えば50〜500nmの範囲にあることが好ましい。
なお、体積基準のメジアン径は、「UPA−150」(マイクロトラック社製)を用いて測定したものである。
【0084】
(3)非晶性樹脂微粒子分散液調製工程
非晶性樹脂がビニル樹脂である場合、非晶性樹脂微粒子分散液は、臨界ミセル形成濃度(CMC)以上の濃度の界面活性剤を含有した水系媒体に添加し、ビニル樹脂を形成するためのエチレン性不飽和単量体を加え、撹拌を行いつつ所望の重合温度で水溶性ラジカル重合開始剤を加え、重合を行うことにより、非晶性樹脂微粒子分散液を調製することができる。
離型剤を含有する非晶性樹脂微粒子を形成させる場合は、臨界ミセル濃度(CMC)以下の界面活性剤を含有した水系媒体中に、ビニル樹脂を形成するためのエチレン性不飽和単量体に離型剤や必要に応じて荷電制御剤などのトナー構成成分を溶解あるいは分散させた単量体溶液を添加し、機械的エネルギーを加えて液滴を形成させ、次いで、水溶性のラジカル重合開始剤を添加して、液滴中において重合反応を進行させることにより、非晶性樹脂微粒子分散液を調製することもできる。なお、前記液滴中に油溶性の重合開始剤が含有されていてもよい。このような非晶性樹脂微粒子分散液調製工程においては、機械的エネルギーを付与して強制的に乳化(液滴の形成)処理が必須となる。かかる機械的エネルギーの付与手段としては、ホモミキサー、超音波、マントンゴーリンなどの強い撹拌または超音波振動エネルギーの付与手段を挙げることができる。
【0085】
この工程において形成させる非晶性樹脂微粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成のものとすることもでき、この場合、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)により調製した第1樹脂粒子の分散液に、重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する方法を採用することができる。
【0086】
この工程において界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤として、例えば上述の界面活性剤と同様のものを用いることができる。
【0087】
〔ラジカル重合開始剤〕
ラジカル重合開始剤としては、水溶性ラジカル重合開始剤または油溶性ラジカル重合開始剤を用いることができる。
水溶性ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスアミジノプロパン塩酸塩、アゾビスアミジノプロパン酢酸塩などのアゾ化合物;過酸化水素、tert−ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物などが挙げられる。
油溶性ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾビスメチルプロピオネートなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイドなどの過酸化物などが挙げられる。
さらに、酸化剤であるラジカル重合開始剤と還元剤とを組み合わせたレドックス重合開始剤を用いることもできる。レドックス重合開始剤を使用することにより、ラジカル生成温度を単独のラジカル重合開始剤を用いた場合と比較して低くすることができるため、ラジカル重合温度を低くすることによって、非晶性樹脂とウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂との相溶が生じることを抑制することができて得られるトナー粒子において非晶性樹脂とウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂とを確実に非相溶の状態にすることができる。
レドックス重合開始剤としては、例えば、過硫酸化合物とメタ重亜硫酸ナトリウムを組み合わせたもの、過酸化水素とアスコルビン酸を組み合わせたものなどが挙げられる。
これらの中でも、水溶性ラジカル重合開始剤またはレドックス重合開始剤を用いることが好ましく、具体的には過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスシアノ吉草酸、過硫酸化合物とメタ重亜硫酸ナトリウム、過酸化水素とアスコルビン酸の組み合わせのレドックス重合開始剤が好ましく用いられる。
【0088】
〔連鎖移動剤〕
この工程においては、ビニル樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばアルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
【0089】
この工程において得られる非晶性樹脂微粒子の平均粒子径は、体積基準のメジアン径で例えば50〜500nmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは100〜300nmである。
なお、体積基準のメジアン径は、「UPA−150」(マイクロトラック社製)を用いて測定したものである。
【0090】
(4)凝集、融着工程
この工程は、上記の工程で形成した着色剤微粒子、非晶性樹脂微粒子およびウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子を、水系媒体中で凝集、融着させるものである。この工程では、水系媒体中に非晶性樹脂微粒子分散液、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液および着色剤微粒子分散液を添加して、これらの微粒子を凝集、融着させる。
【0091】
着色剤微粒子、非晶性樹脂微粒子およびウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子を凝集、融着する具体的な方法としては、水系媒体中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、かつ、離型剤およびウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の融解ピーク温度以上の温度に加熱することによって、着色剤微粒子、非晶性樹脂微粒子およびウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子などの微粒子の塩析を進行させると同時に融着を並行して進め、所望の粒子径まで成長したところで、凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させ、さらに、必要に応じて粒子形状を制御するために加熱を継続して行う方法である。
【0092】
この方法においては、凝集剤を添加した後に放置する時間をできるだけ短くして速やかに結着樹脂に係る非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以上の温度に加熱することが好ましい。この理由は明確ではないが、塩析した後の放置時間によっては粒子の凝集状態が変動して粒径分布が不安定になったり、融着させた粒子の表面性が変動したりする問題が発生することが懸念されるためである。この昇温までの時間としては通常30分間以内であることが好ましく、10分間以内であることがより好ましい。また、昇温速度としては1℃/分以上であることが好ましい。昇温速度の上限は特に規定されるものではないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から、15℃/分以下とすることが好ましい。さらに、反応系がガラス転移点以上の温度に到達した後、当該反応系の温度を一定時間保持することにより、融着を継続させることが肝要である。これにより、トナー粒子の成長と、融着とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナー粒子の耐久性を向上させることができる。
【0093】
〔凝集剤〕
使用する凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩などの一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0094】
この工程において、凝集を停止させるために凝集停止剤を用いてもよい。
凝集剤として二価の金属塩または三価の金属塩を用いた場合には、塩化ナトリウムなどの一価の金属塩を凝集停止剤として用いることができる。
また、凝集停止剤としては、エチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸などの金属錯体を形成するキレート化合物を用いることができる。
また、凝集剤として一価の金属塩を用いた場合には、金属塩濃度を臨界凝集濃度以下とすること、または酸を加えて一価の金属イオンを反応系外に排出させることによって凝集を停止させることができる。
【0095】
この工程において界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤として、例えば上述の界面活性剤と同様のものを用いることができる。
【0096】
(5)熟成工程
この工程は、具体的には、凝集粒子を含む系を加熱撹拌することにより、凝集粒子の形状を所望の平均円形度になるまで、加熱温度、撹拌速度、加熱時間を制御して調整し、所望の形状を有するトナー粒子を形成する工程である。この工程においては、熱エネルギー(加熱)によりトナー粒子の形状制御を行うことが好ましい。
【0097】
(6)冷却工程〜(8)乾燥工程
冷却工程、濾過、洗浄工程および乾燥工程は、公知の種々の方法を採用して行うことができる。
【0098】
(9)外添処理工程
この外添処理工程は、乾燥処理したトナー粒子に、必要に応じて外添剤を添加、混合する工程である。
外添剤の添加方法としては、乾燥されたトナー粒子に粉体状の外添剤を添加して混合する乾式法が挙げられ、混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミルなどの機械式の混合装置を用いることができる。
【0099】
以上のトナーの製造方法によれば、上記のトナーを製造することができる。
【0100】
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
キャリアとしては、例えば鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、これらの中ではフェライト粒子を用いることが好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる樹脂分散型キャリアなどを用いてもよい。
キャリアとしては、体積平均粒径が15〜100μmのものが好ましく、25〜80μmのものがより好ましい。
【0101】
〔画像形成装置〕
本発明のトナーは、一般的な電子写真方式の画像形成方法に用いることができ、このような画像形成方法が行われる画像形成装置としては、例えば静電潜像担持体である感光体と、トナーと同極性のコロナ放電によって当該感光体の表面に一様な電位を与える帯電手段と、一様に帯電された感光体の表面上に画像データに基づいて像露光を行うことにより静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを感光体の表面に搬送して前記静電潜像を顕像化してトナー像を形成する現像手段と、当該トナー像を必要に応じて中間転写体を介して転写材に転写する転写手段と、転写材上のトナー像を加熱定着させる定着手段を有するものを用いることができる。
また、本発明のトナーは、定着温度(定着部材の表面温度)が100〜200℃とされる比較的低温のものにおいて好適に用いることができる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0103】
〔結晶性ポリエステルジオール〔1〕の合成例〕
冷却管、撹拌機、窒素導入管および減圧装置を装着した反応容器中に、ジカルボン酸成分:セバシン酸691質量部、ジオール成分:1,6−ヘキサンジオール430質量部、および、テトラブトキシチタネート2質量部を入れ、180℃に昇温し、同温度で窒素気流下に生成する水を留去しながら10時間反応させ、次いで220℃まで徐々に昇温しながら、窒素気流下に生成する水を留去しながら5時間反応させた。さらに0.007〜0.026MPaの減圧下において水を留去しながら反応させ、酸価が0.1mgKOH/gになった時点で取り出し、結晶性ポリエステルジオール〔1〕を得た。
結晶性ポリエステルジオール〔1〕の重量平均分子量(Mw)は8,000、融点は67℃であった。
【0104】
〔結晶性ポリエステルジオール〔2〕〜〔7〕の合成例〕
上記の結晶性ポリエステルジオール〔1〕の合成例において、下記表1の処方に従ったこと以外は同様にして、結晶性ポリエステルジオール〔2〕〜〔7〕を得た。
結晶性ポリエステルジオール〔2〕〜〔7〕の重量平均分子量(Mw)および融点(Tm)を下記表2に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
〔ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の合成例〕
撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、冷却管、窒素導入装置および減圧装置を備えた反応容器に、結晶性ポリエステルジオール〔1〕452質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸15質量部およびメチルエチルケトン500質量部を投入して60℃で1時間撹拌した。この溶液に、イソホロンジイソシアネート44質量部を加え、80℃で12時間反応させた後、無水トリメリット酸13質量部および触媒としてテトラブトキシチタネート0.5質量部を入れ、120℃に昇温し、5時間反応させた後、メチルエチルケトンを留去することにより、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔1〕を合成した。
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の重量平均分子量(Mw)は36,000、酸価は13mgKOH/g、融点は67℃、吸熱量は72J/gであった。
【0108】
〔ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔2〕〜〔7〕の合成例〕
上記のウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の合成例において、結晶性ポリエステルジオール〔1〕の代わりに、それぞれ結晶性ポリエステルジオール〔2〕〜〔7〕を用いたこと以外は同様にして、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔2〕〜〔7〕を得た。
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔2〕〜〔7〕の重量平均分子量(Mw)、酸価、融点(Tm)および吸熱量を下記表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
〔ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製例〕
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部をメチルエチルケトン800質量部に溶解し、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂メチルエチルケトン溶液を調製した。一方、脱イオン水800質量部にドデシル硫酸ナトリウム4質量部およびトリエチルアミン18.76質量部を溶解した界面活性剤水溶液を調製した。この界面活性剤水溶液を撹拌しながら、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂メチルエチルケトン溶液を滴下した後、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔1〕におけるカルボン酸を中和した(中和度:100%)。これを室温において撹拌速度8000rpmで撹拌しながら、純水800質量部にドデシル硫酸ナトリウム8質量部を溶解した界面活性剤水溶液を添加した。さらに撹拌を続けた後、「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて高速撹拌を行うことにより、乳化液を調製し、その後、メチルエチルケトンを50℃で減圧下に留去することにより、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を調製した。
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕における微粒子の平均粒径は220nm、変動係数(CV値)は20%、固形分濃度は20%であった。
【0111】
〔ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔2〕〜〔7〕の調製例〕
上記のウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製例において、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の代わりに、それぞれウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂〔2〕〜〔7〕を用いると共に、トリエチルアミンの添加量を、用いるウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂の酸価に対応するモル量としたこと以外は同様にして、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔2〕〜〔7〕を得た。
ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔2〕〜〔7〕における微粒子の平均粒径および変動係数(CV値)を下記表4に示す。固形分濃度は全て20%であった。
【0112】
【表4】
【0113】
〔非晶性樹脂微粒子分散液〔1〕の調製例〕
スチレン190質量部、n−ブチルアクリレート70質量部、メタクリル酸18質量部およびペンタエリスリトールテトラベヘネート(融点82℃)49質量部を混合し、85℃に保温してモノマー溶液を調製した。脱イオン水700質量部にドデシル硫酸ナトリウム3.5質量部を加えて溶解することにより界面活性剤溶液を調製し、これを85℃に保温した。この界面活性剤溶液に上記のモノマー溶液を添加し、85℃に保温した状態で「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて高速撹拌を行うことにより、乳化液を調製した。
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた反応容器に、上記の乳化液を投入し、撹拌しながら窒素気流下82℃とし、さらに、過流酸カリウム3.4質量部を脱イオン水60質量部に溶解した重合開始剤溶液を加え、次いで、n−オクチルメルカプタン3質量部を30分間にわたって滴下し、窒素気流下82℃で5時間撹拌して重合反応を行った後、室温まで冷却することにより、非晶性樹脂微粒子分散液〔1〕を調製した。
非晶性樹脂微粒子分散液〔1〕における非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は28,000、非晶性樹脂微粒子の平均粒径は220nm、ガラス転移点(Tg)は47℃、固形分濃度は30%であった。
【0114】
〔着色剤微粒子分散液〔C〕の調製例〕
銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)40質量部を、脱イオン水155質量部にドデシル硫酸ナトリウム5質量部を溶解した界面活性剤水溶液に添加して撹拌した後、「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて高速撹拌を行うことにより、着色剤微粒子分散液〔C〕を得た。
着色剤微粒子分散液〔C〕における着色剤微粒子の平均粒径は180nm、固形分濃度は20%であった。
【0115】
〔実施例1:トナー〔1〕の製造例〕
撹拌装置、冷却管および温度計を備えた反応容器に、非晶性樹脂微粒子分散液〔1〕576質量部、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕240質量部、着色剤微粒子分散液〔C〕45質量部、エチレンオキシド(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(有効成分:27%)3質量部および脱イオン水630質量部を投入し、撹拌しながら0.1N−水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10に調整した。
さらに、塩化マグネシウム・六水和物20質量部を脱イオン水20質量部に溶解した塩化マグネシウム水溶液を滴下し、撹拌しながら内温を80℃まで昇温した。温度を80℃に維持して撹拌しながらサンプリングを行い、粒度分布測定装置「コールターカウンター3」(ベックマン・コールター社製)を用いて粒径を測定し、体積基準のメジアン径が6.5μmに到達した時点で塩化ナトリウム15質量部を脱イオン水60質量部に溶解した塩化ナトリウム水溶液を加え、粒径成長を停止した。さらに加熱、撹拌を継続しながら、フロー式粒子像分析装置「FPIA−2100」(シスメックス社製)を用い、円形度を測定して平均円形度が0.96に到達した時点で室温まで冷却を行った。この分散液に対して、濾過および洗浄を繰り返し行った後、乾燥し、これによりトナー粒子〔1〕を得た。
トナー粒子〔1〕の体積基準のメジアン径(D
50)は6.52μm、変動係数(CV値)は21%、平均円形度は0.964、ガラス転移点(Tg)は45℃であった。
【0116】
(示差走査熱量計測定)
上述の通りにトナー粒子〔1〕の示差走査熱量測定を行い、得られたDSC曲線から求められた、0℃から200℃まで昇温する二回目の昇温過程における融解ピークのピークトップ温度である融点(Tm)と吸熱量を測定したところ、融点(Tm)が66℃、吸熱量が15J/gであった。
【0117】
得られたトナー粒子〔1〕に対し、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=10nm、疎水化度=60)1質量%を添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機社製)により混合し、その後、45μmの目開きの篩を用いて粗大粒子を除去することにより、トナー〔1〕を得た。
【0118】
〔実施例2〜4、比較例1〜3:トナー〔2〕〜〔7〕の製造例〕
上記のトナー〔1〕の製造例において、ウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕の代わりに、それぞれウレタン変性結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔2〕〜〔7〕を用いたこと以外は同様にして、トナー粒子〔2〕〜〔7〕を得、トナー〔1〕の製造例と同様にして疎水性シリカを混合することにより、トナー〔2〕〜〔7〕を得た。
トナー粒子〔2〕〜〔7〕の体積基準のメジアン径(D
50)、変動係数(CV値)、ガラス転移点(Tg)および平均円形度を表5に示す。また、融点(Tm)および吸熱量を上記と同様に測定した。結果を表5に示す。
【0119】
【表5】
【0120】
〔現像剤の製造例1〜7〕
トナー〔1〕〜〔7〕の各々に対して、アクリル樹脂で被覆した体積平均粒径35μmのフェライトキャリアをトナー濃度が6質量%となるように添加して混合することにより、現像剤〔1〕〜〔7〕を製造した。
【0121】
上記のトナー〔1〕〜〔7〕および現像剤〔1〕〜〔7〕について、以下の評価を行った。
【0122】
(1)最低定着温度
定着温度を変更することができるよう改造した「BizHab PRO C6000L」(コニカミノルタ社製)を用い、トナー付着量9g/m
2 のベタ画像を、定着温度を180℃から5℃毎に100℃まで設定し350mm/secの線速でそれぞれ定着して出力した後、画像部分を谷折りにし画像が剥がれ折れ目に現れる幅が0.5mm以下となった定着温度のうちの最も低いものを最低定着温度(MFT)とした。
結果を表6に示す。この最低定着温度が130℃以下であれば本発明において低温定着性を有し、合格と判断される。
【0123】
(2)高温オフセット温度および低温オフセット温度
定着温度を変更することができるよう改造した「BizHab PRO C6000L」(コニカミノルタ社製)を用い、トナー付着量10g/m
2 のベタ画像を、定着温度を180℃から5℃毎に100℃まで設定し400mm/secの線速でそれぞれ定着して出力した。得られたベタ画像を目視で観察し、高温オフセットが生じた定着温度のうちの最も低いものを高温オフセット温度、低温オフセットが生じた定着温度のうち最も高いものを低温オフセット温度とした。
結果を表6に示す。この高温オフセット温度が175℃、かつ、低温オフセット温度が120℃以下であれば本発明において耐オフセット性を有し、合格と判断される。
【0124】
(3)耐熱保管性
トナー100質量部を、温度55℃、湿度90%RHの環境条件下において24時間放置した後、目開き45μmの篩で篩い、全体における篩上に残った凝集物の割合(質量%)によって耐熱保管性を評価した。
結果を表6に示す。本発明においては、篩上に残った凝集物の割合(トナー凝集率)が30質量%以下である場合が耐熱保管性を有し、合格と判断される。なお、トナー凝集率が5質量%未満である場合は、断熱梱包材なしで夏場に輸送を行ってもトナー凝集物の発生がなく、耐熱保管性が極めて優良であるレベルと考えられ、また、トナー凝集率が5質量%以上30質量%以下である場合は、ダンボール梱包のみで夏場に輸送を行ってもトナー凝集物の発生がなく、耐熱保管性が良好であるレベルと考えられる。一方、トナー凝集率が30質量%を超える場合は、保冷輸送を行わないとトナー凝集物が発生してしまうレベルと考えられる。
【0125】
(4)ドキュメントオフセット性
定着温度を変更することができるよう改造した「BizHab PRO C6000L」(コニカミノルタ社製)を用い、トナー付着量10g/m
2 のベタ画像を、定着温度150℃、定着線速400mm/secで定着したものを2枚出力した。得られた2枚の定着画像を、画像部と、非画像部および画像部とが重なるように向かい合わせて重ね、重ねた部分に対して80g/cm
2 相当になるように重りを載せ、温度60℃、湿度50%の恒温恒湿槽に3日間放置した。放置後、重ねた2枚の定着画像を剥離し、その画像欠損度合いを下記の評価基準に従ってレベル分けし、これにより耐ドキュメントオフセット性を評価した。
結果を表6に示す。本発明においては、「G3」〜「G5」のレベルである場合に耐ドキュメントオフセット性を有し、合格と判断される。
−評価基準−
G1:互いの画像部が接着したため、画像が定着されている紙ごと剥がれて、画像欠損が激しく、また非画像部へ明らかな画像の移行が見られる。
G2:画像同士が接着していたため、画像部のところどころに画像欠損の白抜けが発生している。
G3:重ねた2枚の画像を離す際に、互いの定着画像の表面に画像のあれやグロス低下は発生するが、画像としては画像欠損は殆どなく許容できるレベルである。非画像部に若干の移行が見られる。
G4:重ねた2枚の画像を離す際に、パリッと音がし、非画像部にもわずかに画像移行が見られるが、画像欠損はなく、全く問題無いレベルである。
G5:画像部、非画像部ともに全く画像欠損や画像移行が見られない。
【0126】
【表6】
【0127】
表6から明らかなように、本発明の実施例に係る現像剤〔1〕〜〔4〕は、十分な低温定着性および広い定着温度幅を有し、さらに耐熱保管性に優れ、耐ドキュメントオフセット性を有することが確認された。一方、関係式(1)および関係式(2)を満たさない比較例に係る現像剤〔5〕〜〔7〕は、低温定着性および耐熱保管性並びに耐ドキュメントオフセット性に劣り、定着温度幅も狭いものであることが確認された。