(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409476
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 75/32 20060101AFI20181015BHJP
F16H 1/46 20060101ALI20181015BHJP
F16H 37/12 20060101ALI20181015BHJP
F02B 75/24 20060101ALI20181015BHJP
F02B 61/00 20060101ALI20181015BHJP
F02B 61/06 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
F02B75/32 Z
F16H1/46
F16H37/12
F02B75/24
F02B75/32 A
F02B61/00 C
F02B61/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-205740(P2014-205740)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-75208(P2016-75208A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】柿木 宗篤
【審査官】
金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−275993(JP,A)
【文献】
特開平10−196396(JP,A)
【文献】
特公平03−057310(JP,B2)
【文献】
実開平06−001741(JP,U)
【文献】
国際公開第2013/047878(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/144073(WO,A1)
【文献】
米国特許第3886805(US,A)
【文献】
特開平7−305601(JP,A)
【文献】
特開平7−217443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 61/00,61/06,
75/24,75/28,
75/32
F16H 1/28− 1/48,
37/12−37/14,
48/00−48/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コンロッドの一端部で回転自在に軸支されてシリンダ内を往復動するピストンと、
駆動機構と、を有するエンジンにおいて、
前記駆動機構は、内歯車と、前記内歯車と噛合する遊星歯車と、前記遊星歯車と噛合して出力軸に動力を伝達する太陽歯車と、前記遊星歯車の側面における該遊星歯車の軸心から離間した位置で第2コンロッドの一端部を回転自在に軸支するクランクピンとを有する遊星歯車部と、直線動変換部と、を備え、
前記直線動変換部は、前記第1コンロッド及び前記第2コンロッドと、前記第1コンロッド及び前記第2コンロッドの他端部を回転自在に軸支するガイドシャフトと、前記ガイドシャフトを前記ピストンの往復動方向に直線動自在に支持するシャフトガイド部材と、を有し、
前記クランクピンが前記遊星歯車と一体となって前記内歯車の軸心まわりを自転しながら公転すると、前記クランクピンの公転軌道が、前記ピストンが上死点と下死点との中間位置になる時が長径となり、前記ピストンが前記上死点又は前記下死点にある時が短径となる楕円軌道となり、
一対の前記駆動機構を、一対の前記シリンダが同軸であってかつ一対の前記ピストンの頂面がそれぞれ外側又は内側を向くようにして配置するとともに、一対の前記出力軸と平行に延びる共通出力軸を設け、
一対の前記出力軸と前記共通出力軸とを、前記ピストンの行程を同期させる回転同期手段を介して接続したことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記回転同期手段が、一対の前記出力軸及び前記共通出力軸に掛け回された無端状のチェーン若しくはベルト、又は該出力軸及び該共通出力軸と噛合する平歯車である請求項1に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンに関し、更に詳しくは、ピストンの移動速度を圧縮上死点の近傍で遅くすることで燃費に有利な高等容度の燃焼を可能にした駆動機構を備えるとともに、部品の増加による機械損失を抑制しつつ、振動の発生を低減することができるエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、レシプロエンジンにおいては、シリンダ内を往復動するピストンの移動速度を圧縮上死点近傍で遅くすることにより、燃費に有利な高等容度の燃焼が可能になる。ここで、等容度とは、上死点で等容燃焼したときの熱効率を1とした場合の実際の図示熱効率割合をいう。
【0003】
このようなピストンの移動速度を可変にする技術として、ピストンピンとクランクピンとをマルチリンク機構によって連結した機関や装置が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1、2記載の技術では、ピストンピンとクランクピンとをコンロッドで連結するような一般的なエンジンよりも部品点数が増加するため、構造が複雑になるという問題がある。また、特許文献2に記載の装置では、マルチリンク機構を構成する揺動節(スイングアーム)の一端を固定しているため、揺動節が固定されていないリンク機構に比べ、クランク部の回転によって生じる慣性力の変動が大きくなるおそれがある。
【0005】
このような問題を解決するため、発明者は、
図1に示すような、遊星歯車を利用することで、ピストンの移動速度を圧縮上死点の近傍で遅くする駆動機構を備えたエンジンを考案した。
【0006】
この駆動機構1は、ピストン2の往復動を出力軸3の回転駆動力として出力するものであり、往復動部4と、遊星歯車部5と、それら往復動部4と遊星歯車部5とを連結する直線動変換部6とから構成されている。
【0007】
往復動部4は、中空円筒状のシリンダ7と、そのシリンダ7内を往復動自在なピストン2とを備えている。
【0008】
遊星歯車部5は、出力軸3と同軸であって回転不能に固定された一対の円環状の内歯車8a、8bと、それらの内歯車8a、8bとそれぞれ噛合する一対の遊星歯車9a、9bと、一方の遊星歯車9aの側面に同軸に固定された第1出力外歯車10と、出力軸3に同軸に設けられて第1出力外歯車10と噛合する第2出力外歯車11とを備えている。これらの第1出力外歯車10及び第2出力外歯車11は、太陽歯車を構成している。また、遊星歯車9a、9bの対向する側面における軸心から離間(オフセット)した位置には、出力軸3と平行に伸びるクランクピン12が固定されている。
【0009】
直線動変換部6は、第1及び第2コンロッド13、14と、内歯車8a、8bの軸心と平行に延びるガイドシャフト15と、ガイドシャフト15の両端部をピストン2の移動方向に直線動自在に支持するシャフトガイド部材16とを備えている。
【0010】
往復動部4と直線動変換部6とは、第1コンロッド13を介して接続されている。この第1コンロッド13の一端部は、ピストンピン17を介してピストン2に回転自在に軸支される一方で、他端部をガイドシャフト15によって回転自在に軸支されている。
【0011】
また、遊星歯車部5と直線動変換部6とは、第2コンロッド14を介して接続されている。この第2コンロッド14は、一端部をガイドシャフト15によって回転自在に軸支される一方で、他端部をクランクピン12によって回転自在に軸支されている。
【0012】
クランクピン12がオフセットされる位置は、ピストン2が上死点又は下死点にある時に内歯車8a、8bの軸心と最も近くなり、ピストン2が上死点と下死点との中間位置にある時に内歯車8a、8bの軸心から最も離れる位置である。
【0013】
この駆動機構1における各構成部材の寸法条件は、次の(1)式及び(2)式を満たしている。
Rm<Rm+Rd<Rc(=2×Rm) (1)
0<Rs、Rm+Rd+Rs<Rc(=2×Rm) (2)
【0014】
ここで、Rcは内歯車8a、8bの半径を、Rmは遊星歯車9a、9bの半径を、Rdは遊星歯車9a、9bの軸心とクランクピン12の軸心とのオフセット量を、Roは第1出力外歯車10の半径を、Rsはクランクピン12の半径を、それぞれ示す。
【0015】
また、第1コンロッド13の軸方向長さは、第2コンロッド14の軸方向長さの2倍に設定されることが好ましい。また、内歯車8a、8bと遊星歯車9a、9bとの歯数比は、2:1にすることが好ましい。
【0016】
上記の駆動機構1では、
図2に示すように、ピストンピン17、出力軸3及びガイドシャフト15は、第1コンロッド13に平行に延びる垂直軸上を移動する。そして、クランクピン12が遊星歯車9a、9bと一体となって内歯車8a、8bの軸心まわりを自転しながら公転すると、その公転軌道はピストン2が上死点と下死点との中間位置にある時が長径となり、ピストン2が上死点又は下死点にある時が短径となる楕円軌道Eとなる。つまり、クランクピン12の公転軌道が真円軌道を描く一般的なエンジンに比べて、ピストン2の圧縮上死点の近傍の移動速度を遅くすることが可能になって、圧縮上死点でピストン2の頂面に爆発力が効果的に作用するので、燃費に有利な高等容度の燃焼を実現できるのである。
【0017】
しかしながら、このような駆動機構1を備えたエンジンでは、振動の発生を抑制するためにバランスウェイトを設置すると、部品の増加による機械損失が発生してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2012−92843号公報
【特許文献2】特開2013−36449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、ピストンの移動速度を圧縮上死点の近傍で遅くすることで燃費に有利な高等容度の燃焼を可能にした駆動機構を備えるとともに、部品の増加による機械損失を抑制しつつ、振動の発生を低減することができるエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成する本発明のエンジンは、
第1コンロッドの一端部で回転自在に軸支されてシリンダ内を往復動するピストンと、
駆動機構と、を有するエンジンにおいて、前記駆動機構は、内歯車と、前記内歯車と噛合する遊星歯車と、前記遊星歯車と噛合して出力軸に動力を伝達する太陽歯車と、前記遊星歯車の側面における該遊星歯車の軸心から離間した位置で
第2コンロッドの
一端部を回転自在に軸支するクランクピンとを有する遊星歯車部と、
直線動変換部と、を備え、前記直線動変換部は、前記第1コンロッド及び前記第2コンロッドと、前記第1コンロッド及び前記第2コンロッドの他端部を回転自在に軸支するガイドシャフトと、前記ガイドシャフトを前記ピストンの往復動方向に直線動自在に支持するシャフトガイド部材と、を有し、前記クランクピンが前記遊星歯車と一体となって前記内歯車の軸心まわりを自転しながら公転すると、前記クランクピンの公転軌道が、前記ピストンが上死点と下死点との中間位置になる時が長径となり、前記ピストンが前記上死点又は前記下死点にある時が短径となる楕円軌道となり、一対の前記駆動機構を、一対の前記シリンダが同軸であってかつ一対の前記ピストンの頂面がそれぞれ外側又は内側を向くようにして配置するとともに、一対の前記出力軸と平行に延びる共通出力軸を設け、一対の前記出力軸と前記共通出力軸とを、前記ピストンの行程を同期させる回転同期手段を介して接続したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のエンジンによれば、一対の駆動機構におけるピストンの往復動に伴う慣性力を、バランスウェイトを増加させることなく、一対のピストン同士を対向配置することで打ち消し合わせるようにしたので、部品の増加による機械損失を抑制しつつ、振動の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】本発明の実施形態からなるエンジンの構成を示す斜視図である。
【
図5】本発明の別の実施形態からなるエンジンの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図3は、本発明の実施形態からなるエンジンを示す。なお、これ以降の図面においては、
図1と同一の箇所には同一の符号(A、B文字を除く)を付し、その説明を省略する。
【0024】
このエンジンは、
図1に示す駆動機構1を偶数備えており、一対の駆動機構1A、1B同士を、シリンダ7A、7Bが同軸であってかつ一対のピストン2A、2Bの頂面がそれぞれ外側を向くようにして配置したものである。また、一対の出力軸3A、3B間に、それらの出力軸3A、3Bと平行に延びるとともに、一対の第1コンロッド13A、13Bに平行に延びる垂直軸上に軸心が位置する共通出力軸18を設けている。更に、一対の出力軸3A、3Bと共通出力軸18とは、ピストン2A、2Bの行程を同期させる回転同期手段19を介して接続している。つまり、一対の出力軸3A、3B及び共通出力軸18は、同一の方向に回転するとともに、出力軸3A、3B同士は共通出力軸18に対して対称に回転する。
【0025】
この回転同期手段19は、一対の出力軸3A、3Bと共通出力軸18とに掛け回された無端状のチェーン又はベルト20から構成されている。
【0026】
なお、回転同期手段19は、
図4に示すように、出力軸3A、3Bのそれぞれと共通出力軸18とに噛合する平歯車21A、21Bから構成することもできる。この平歯車21A、21Bの枚数は、
図4の例のように、出力軸3A、3Bと共通出力軸18との間に1枚ずつに限るものではなく、2枚以上としても良い。
【0027】
このように一対の駆動機構1A、1Bを配置することで、一対のピストン2A、2Bの往復動により慣性力が打ち消し合わされるので、部品の増加による機械損失を抑制しつつ、振動の発生を低減することができるのである。また、一対の駆動機構1A、1Bの出力が共通出力軸18に共通化されるので、車両などへの適用が容易になる。
【0028】
図5は、本発明の別の実施形態からなるエンジンを示す。
【0029】
このエンジンは、一対の駆動機構1A、1B同士を、シリンダ7A、7Bが同軸であってかつ一対のピストン2A、2Bの頂面がそれぞれ内側を向くようにして配置したものである。
【0030】
このように一対の駆動機構1A、1Bを配置することによっても、上記の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0031】
なお、4台以上の偶数台の駆動機構1を有するエンジンの場合には、一対の駆動機構1A、1Bを同一の共通出力軸18に沿って平行に複数配置する。
【符号の説明】
【0032】
1、1A、1B 駆動機構
2 ピストン
3 出力軸
7 シリンダ
8a、8b 内歯車
9a、9b 遊星歯車
10 第1出力外歯車
11 第2出力外歯車
18 共通出力軸
19 回転同期手段
20 チェーン又はベルト
21A、21B 平歯車