特許第6409486号(P6409486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6409486-クラフトパルプの製造方法及び製造装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6409486
(24)【登録日】2018年10月5日
(45)【発行日】2018年10月24日
(54)【発明の名称】クラフトパルプの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   D21C 3/02 20060101AFI20181015BHJP
   D21C 11/10 20060101ALI20181015BHJP
【FI】
   D21C3/02
   D21C11/10
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-210961(P2014-210961)
(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-79524(P2016-79524A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】永谷 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 元
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−221638(JP,A)
【文献】 特開2001−115382(JP,A)
【文献】 特開平08−325971(JP,A)
【文献】 特開平08−168785(JP,A)
【文献】 特開平10−001890(JP,A)
【文献】 楊 学富,パルプ蒸解黒液蒸発凝縮水の嫌気処理特性評価,水環境学会誌,日本,1997年,第20巻第4号,第46−51頁
【文献】 紙パルプ技術便覧,紙パルプ技術協会,1992年 1月30日,第5版,第111頁、第127−129頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材チップを蒸解する蒸解工程と、
前記蒸解工程で発生する黒液をエバポレータを用いて濃縮し、濃黒液と凝縮水を得る濃縮工程と、
前記凝縮水を少なくとも嫌気処理し処理水を得る工程と、
前記処理水を用いて木材チップ由来のパルプを洗浄する工程とを含むクラフトパルプの製造方法であって、
前記クラフトパルプは未晒クラフトパルプであり、
前記処理水を得る工程はさらにオゾン処理工程を含むことを特徴とするクラフトパルプの製造方法。
【請求項2】
前記凝縮水の全有機炭素(TOC)濃度は1000mg/L以上である請求項1に記載のクラフトパルプの製造方法。
【請求項3】
前記処理水を得る工程では、前記凝縮水のうち70質量%以上が処理水となる請求項1または2に記載のクラフトパルプの製造方法。
【請求項4】
木材チップを蒸解する蒸解釜と、
前記蒸解釜で発生する黒液を濃縮し、濃黒液と凝縮水を生じさせるエバポレータと、
前記凝縮水を少なくとも嫌気処理し処理水を生じさせる処理装置と、
前記処理水を木材チップ由来のパルプの洗浄工程に送液する流路とを備えるクラフトパルプの製造装置であって、
前記クラフトパルプは未晒クラフトパルプであり、
前記処理装置は少なくとも嫌気処理槽及びオゾン処理槽を備えるクラフトパルプの製造装置。
【請求項5】
さらに洗浄塔と洗浄装置を備え、前記洗浄塔は前記蒸解釜の下流に配置され、前記洗浄装置は前記洗浄塔の下流に配置される請求項に記載のクラフトパルプの製造装置。
【請求項6】
前記流路は、前記処理水を前記洗浄装置に送液する請求項に記載のクラフトパルプの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフトパルプの製造方法及び製造装置に関する。具体的には、本発明は、クラフトパルプの製造工程で排出される黒液を濃縮する際に発生する凝縮水を処理し、洗浄水として利用する工程を含むクラフトパルプの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クラフトパルプの製造工程では、広葉樹や針葉樹など木材チップを蒸解し、クラフトパルプを得ている。この蒸解工程では、蒸解排液(黒液)が多量に発生する。黒液は、蒸留器(エバポレータ)を用いて濃縮され、濃黒液は、ボイラの燃料として使用されている。
【0003】
黒液を濃縮する際には、多量の凝縮水が生じる。通常このような凝縮水はクラフトパルプの製造工程における排水として処理される。しかし、凝縮水の量は多量であることに加え、凝縮水には黒液に由来する臭気成分が多量に含まれているため、凝縮水をそのまま排水処理した場合、処理負荷が大きくなるという懸念がある。
【0004】
このため、黒液の濃縮時に生じる凝縮水の一部に脱臭処理を施すことが検討されている。例えば、特許文献1では、クラフトパルプの漂白工程で生じる漂白排ガスと凝縮水を接触させることで、凝縮水を脱臭処理することが開示されている。このように、晒クラフトパルプの製造工程で生じる漂白排ガスを利用して凝縮水を脱臭することにより、効率よく凝縮水を処理することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−221638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された処理方法は、比較的汚染度の低い(有機分の含有量の少ない)凝縮水に対しての処理方法であり、汚染度の高い凝縮水を効率良く処理することができないという問題があった。
また、特許文献1に記載された処理方法は、晒クラフトパルプの製造工程で生じる漂白排ガスを利用して凝縮水を脱臭するものであるため、晒クラフトパルプ以外のクラフトパルプに適用することができず、その適用範囲は限定的であった。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、晒クラフトパルプ以外のクラフトパルプの製造工程にも適用可能な凝縮水の処理工程を含むクラフトパルプの製造方法であって、汚染度の高い凝縮水を処理し得る処理工程を含むクラフトパルプの製造方法を提供することを目的として検討を進めた。さらに本発明者らは、処理を行った凝縮水を排水とするのではなく、クラフトパルプの洗浄工程に再利用することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、黒液の濃縮工程で得られる凝縮水に特定の処理を行うことにより、処理水をクラフトパルプの洗浄工程で再利用し得ることを見出した。さらに、本発明者らは、このような工程を設けることで、ゼロ排水システムを構築し得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1]木材チップを蒸解する蒸解工程と、前記蒸解工程で発生する黒液をエバポレータを用いて濃縮し、濃黒液と凝縮水を得る濃縮工程と、前記凝縮水を少なくとも嫌気処理し処理水を得る工程と、前記処理水を用いて木材チップ由来のパルプを洗浄する工程とを含むことを特徴とするクラフトパルプの製造方法。
[2]前記クラフトパルプは未晒クラフトパルプである[1]に記載のクラフトパルプの製造方法。
[3]前記凝縮水の全有機炭素(TOC)濃度は1000mg/L以上である[1]又は[2]に記載のクラフトパルプの製造方法。
[4]前記処理水を得る工程は、さらにオゾン処理工程を含む[1]〜[3]のいずれかに記載のクラフトパルプの製造方法。
[5]前記処理水を得る工程では、前記凝縮水のうち70質量%以上が処理水となる[1]〜[4]のいずれかに記載のクラフトパルプの製造方法。
[6]木材チップを蒸解する蒸解釜と、前記蒸解釜で発生する黒液を濃縮し、濃黒液と凝縮水を生じさせるエバポレータと、前記凝縮水を少なくとも嫌気処理し処理水を生じさせる処理装置と、前記処理水を木材チップ由来のパルプの洗浄工程に送液する流路とを備えるクラフトパルプの製造装置。
[7]前記処理装置は、少なくとも嫌気処理槽及びオゾン処理槽を備える[6]に記載のクラフトパルプの製造装置。
[8]さらに洗浄塔と洗浄装置を備え、前記洗浄塔は前記蒸解釜の下流に配置され、前記洗浄装置は前記洗浄塔の下流に配置される[6]又は[7]に記載のクラフトパルプの製造装置。
[9]前記流路は、前記処理水を前記洗浄装置に送液する[8]に記載のクラフトパルプの製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の処理方法によれば、あらゆるクラフトパルプの製造工程において凝縮水を処理することができ、処理水をクラフトパルプの洗浄工程で再利用することができる。また、本発明の処理方法によれば、汚染度の高い凝縮水にも処理を行うことができ、処理水を再利用することができる。さらに、本発明の処理方法は、ゼロ排水システムを構築し得ることに寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のクラフトパルプの製造方法における工程の一部を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(クラフトパルプの製造方法)
本発明は、クラフトパルプの製造方法に関する。本発明のクラフトパルプの製造方法は、木材チップを蒸解する蒸解工程と、蒸解工程で発生する黒液をエバポレータを用いて濃縮し、濃黒液と凝縮水を得る濃縮工程と、凝縮水を少なくとも嫌気処理し処理水を得る工程と、処理水を用いてパルプを洗浄する工程とを含む。本発明では、上記の工程によって、大量に排出される凝縮水を効率良く処理することができ、かつ処理水を再利用することができる。これにより、排水処理の負荷を大幅に低減することが可能となる。さらに、本発明の処理方法は、ゼロ排水システムを構築することを可能にする。なお、ここでゼロ排水システムとは、黒液を濃縮する際に生じる凝縮水に由来した排水が殆どでないことを意味し、具体的には、排水が凝縮水の全質量に対して10質量%以下となることを意味する。
【0014】
本発明のクラフトパルプの製造方法で得られるクラフトパルプとしては特に制限はなく、晒クラフトパルプであっても未晒クラフトパルプであってもよい。中でも、本発明のクラフトパルプの製造方法で得られるクラフトパルプとしては未晒クラフトパルプであることが好ましい。
【0015】
図1には、本発明のクラフトパルプの製造方法における工程の一部を示している。図1に示すように、クラフトパルプの製造工程は、蒸解釜10において、木材チップを蒸解する蒸解工程を有する。
蒸解工程で発生する黒液は、エバポレータ20に送液される。エバポレータ20では、黒液は、少なくとも固形分が60質量%以上となるまで濃縮される。このようにエバポレータ20で濃縮された黒液は濃黒液となり、回収ボイラ50に送られ、回収ボイラの燃料となる。
【0016】
エバポレータ20では、濃黒液の他に、黒液を濃縮する際に生じる凝縮水が排出される。凝縮水には、黒液中の水分を蒸発することで得られた水分の他に、黒液中の臭気ガス成分が含まれている。このように、エバポレータ20では、蒸解工程で発生する黒液を濃縮することで、濃黒液と凝縮水が得られる。なお、臭気ガス成分としては、例えば、硫化水素、メチルメルカプタン、硫化ジメチル等が挙げられる。従来のクラフトパルプの製造工程では、凝縮水はそのまま排水として処理されるか、もしくは、脱臭処理等が施された後に排水として処理されていた。凝縮水は、発生量が多いため、排水として処理される場合、排水処理の負荷を高めていた。
【0017】
エバポレータ20で得られた凝縮水は、処理装置40に送液される。処理装置40では、凝縮水を少なくとも嫌気処理することで処理水を生成する。処理装置40では嫌気処理に加えて、脱臭処理をすることが好ましく、オゾン処理をすることがさらに含むことがより好ましい。すなわち、処理水を得る工程では、少なくとも嫌気処理をする工程とオゾン処理をする工程を含むことが好ましい。脱臭処理装置としては、例えば、エアーストリッピングや、スチームストリッピングを挙げることができる。
【0018】
処理装置40では嫌気処理を行う。このように、嫌気処理を導入することで、処理時に副生するメタンをボイラなどの燃料に活用することができる。さらに、処理水中の有機分が嫌気性微生物に分解され、オゾンなどの薬品使用量を削減することが可能である。
【0019】
オゾン処理工程は、凝縮水中にオゾンを供給することにより、難分解性物質を分解除去する工程である。オゾン処理工程は分子状のオゾンがその強力な酸化力によって、有機分を分解する処理方法である。オゾン処理はオゾン処理槽で行われ、オゾン処理槽は原料ガス装置、オゾン発生器、排オゾン処理設備、オゾンサイクリング設備などを備えることが好ましい。オゾン処理槽におけるオゾンの凝縮水への注入方式としてはディフューザ式、インジェクタ式、機械攪拌式などが挙げられる。オゾン処理工程では、凝縮水とオゾンを効率よく接触させることが重要である。
【0020】
オゾン処理工程では、オゾンの添加量は、0.5〜1000mg/Lであることが好ましく、0.5〜500mg/Lであることがより好ましく、0.5〜200mg/Lであることがさらに好ましい。オゾン処理工程におけるオゾンの添加量を上記範囲内とすることにより、凝縮水の臭気を効果的に抑制することができる。
【0021】
オゾン処理工程では、過酸化水素併用オゾン処理工程を施してもよい。過酸化水素併用オゾン処理工程では、処理を行いたい凝縮水中に過酸化水素とオゾンとを添加して反応させる。過酸化水素併用オゾン処理工程では、過酸化水素やオゾンよりも酸化分解力が非常に強いヒドロキシラジカル(OHラジカル)を効率的に生成させて、有機成分及び有機成分中に含まれる難分解性物質を分解除去することができる。過酸化水素併用オゾン処理工程においては、オゾン処理槽に凝縮水と過酸化水素水を予め入れておき、そこにオゾンを供給することにより、処理を行う。オゾン処理槽は撹拌システムを有していてもよく、供給された凝縮水と過酸化水素にオゾンが効率よく反応できるようにすることが好ましい。
【0022】
過酸化水素併用オゾン処理工程では、オゾンを0.5〜1000mg/Lとなるように添加し、過酸化水素を0.025〜20,000mg/Lとなるように添加することが好ましい。オゾンの添加量は、0.5〜1000mg/Lであることが好ましく、0.5〜500mg/Lであることがより好ましく、0.5〜200mg/Lであることがさらに好ましい。また、過酸化水素の添加量は、0.025〜20,000mg/Lであることが好ましく、0.1〜1000mg/Lであることがより好ましく、0.1〜200mg/Lであることがさらに好ましい。
なお、オゾンと過酸化水素の添加率の質量比は、1:0.05〜1:20であることが好ましく、1:0.1〜1:10であることがより好ましく、1:0.2〜1:5であることがさらに好ましい。
【0023】
処理装置40に送液される凝縮水は、有機分の含有量が多い凝縮水であってもよい。すなわち、処理装置40に送液される凝縮水は汚染度が高い凝縮水であってもよい。例えば、凝縮水の全有機炭素(TOC)濃度は1000mg/L以上であってもよく、1500mg/L以上であってもよく、2000mg/L以上であってもよい。このように処理装置40に送液される凝縮水は、全有機炭素(TOC)の濃度が上記範囲以上であっても、問題がなく処理される。すなわち、本発明では、凝縮水の汚染度が高いものでも処理することができ、得られた処理水を再利用することができる。なお、凝縮水の汚染度は、全有機炭素(TOC)の他に化学的酸素要求量(COD)(例えば、CODマンガン、CODクロム等)や、生物化学的酸素要求量(BOD)でも測定することができる。
【0024】
木材チップを蒸解して得られたブローパルプは蒸解釜10から洗浄塔30に送られる。洗浄塔30には、さらに洗浄装置35が連結されていることが好ましく、パルプはこのようは一連の洗浄工程で洗浄された後に、抄紙工程へと送られる。
【0025】
洗浄塔30では、蒸解されたパルプの洗浄が行われる。洗浄方法は特に限定されるものではないが、置換洗浄方式、希釈・脱水方式・プレス洗浄方式などが用いられる。また、洗浄方式はこれらの各種方式を組み合わせたものでもよい。置換洗浄方式は、パルプが含む黒液を洗浄水で押し出して置換することにより洗浄を進めるものである。希釈・脱水方式はパルプを洗浄水で希釈した後に脱水することでパルプを洗浄するものである。プレス洗浄方式は、パルプをプレスすることによって黒液を圧搾して押し出すものである。
【0026】
洗浄装置35としては、例えば洗浄フィルタを備えた装置等を挙げることができる。洗浄装置35における洗浄方法も特に限定されるものではなく、置換洗浄方式、希釈・脱水方式・プレス洗浄方式、あるいはこれらの各種方式を組み合わせたものが用いられる。
【0027】
ここで、処理装置40で得られた処理水は、木材チップ由来のパルプを洗浄する工程に送られ洗浄水として用いられる。また、処理装置40で得られた処理水は、パルプを洗浄する工程のみならず、抄紙工程等における希釈水として用いられてもよい。
【0028】
処理水を得る工程では、エバポレータ20で得られた凝縮水のうち70質量%以上が処理水として得られることが好ましく、80質量%以上が処理水として得られることが好ましい。また、本発明のクラフトパルプの製造方法においては、エバポレータから排水が発生しないことが好ましく、エバポレータを含めた全行程で排水の排出がないことが好ましい。すなわち、本発明のクラフトパルプの製造工程においては、ゼロ排水が実現し得る。
【0029】
(クラフトパルプの製造装置)
本発明は、クラフトパルプの製造装置に関するものでもある。本発明のクラフトパルプの製造装置は、木材チップを蒸解する蒸解釜と、蒸解釜で発生する黒液を濃縮し、濃黒液と凝縮水を生じさせるエバポレータと、凝縮水を少なくとも嫌気処理し処理水を生じさせる処理装置と、処理水を木材チップ由来のパルプの洗浄工程に送液する流路とを備える。
【0030】
図1には、クラフトパルプの製造装置の一部の構成が示されている。木材チップを蒸解する蒸解釜10には、エバポレータ20と洗浄塔30が連結されており、各々は配管で連結されている。また、洗浄塔30の下流には洗浄装置35が連結されており、洗浄塔30と洗浄装置35も配管で連結されている。
【0031】
配管の材質は特に限定されるものではないが、ステンレス鋼材を用いることが好ましい。ステンレス鋼材の中でも、SUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレスが特に好ましく用いられる。また、フェライト系ステンレス、オーステナイト系とフェライト系を二相組織とした二相ステンレスを用いてもよい。
【0032】
エバポレータ20では、蒸解工程で発生する黒液を濃縮することで、濃黒液と凝縮水を生成する。エバポレータ20としては、多重効用缶や機械再圧縮式エバポレーター(MVR)を利用してもよい。
【0033】
エバポレータ20で得られた濃黒液は、回収ボイラ50に送液され、濃黒液は回収ボイラ50において燃料として用いられる。一方、エバポレータ20で得られた凝縮水は、処理装置40に送液される。なお、エバポレータ20と処理装置も配管で連結されている。
【0034】
処理装置40は、少なくとも嫌気処理槽を備えることが好ましく、さらにオゾン処理槽を備えることが好ましい。
嫌気処理槽には、嫌気性微生物が存在しており、嫌気的条件下において嫌気性微生物が凝縮水中の臭気成分を分解する。
【0035】
オゾン処理槽には、オゾンが供給され、オゾンによって凝縮水中の難分解性物質が分解除去される。オゾン処理槽には、原料ガス装置、オゾン発生器、排オゾン処理設備、オゾンサイクリング設備などが備え付けられていることが好ましい。オゾン処理槽におけるオゾンの凝縮水への注入方式としてはディフューザ式、インジェクタ式、機械攪拌式などが挙げられる。
【0036】
オゾン処理槽では、過酸化水素併用オゾン処理を施してもよい。オゾン処理槽において過酸化水素併用オゾン処理を行う場合、オゾン処理槽には、過酸化水素貯蔵器や過酸化水素注入装置等が備えつけられていてもよい。また、オゾン処理槽は撹拌システムを有していてもよく、供給された凝縮水と過酸化水素にオゾンが効率よく反応できるようにすることが好ましい。
【0037】
洗浄塔30は、蒸解されたパルプの洗浄を行う装置であり、このような装置としては、紙パルプ業界で一般的に使用される装置を用いることができる。洗浄塔30の洗浄方式としては、置換洗浄方式、希釈・脱水方式・プレス洗浄方式、あるいはこれらを組み合わせた洗浄方式が用いられる。置換洗浄方式の洗浄機としては、ディフュージョンウォッシャーや加圧ディフュージョンウォッシャー、ベルトタイプ洗浄機などが用いられる。希釈・脱水方式の洗浄機としては、真空フィルター洗浄機、加圧フィルター洗浄機などが用いられる。プレス洗浄方式としてはスクリュー型プレス洗浄機、ディスク型プレス洗浄機、ロール型プレス洗浄機などが用いられる。
【0038】
洗浄装置35は、洗浄塔30で洗浄されたパルプをさらに洗浄する装置である。洗浄装置35としては、例えば洗浄フィルタを備えた装置等を挙げることができる。洗浄装置35の洗浄方式としては、置換洗浄方式、希釈・脱水方式・プレス洗浄方式、あるいはこれらを組み合わせた洗浄方式が用いられる。
【0039】
ここで、処理装置40で得られた処理水は、木材チップ由来のパルプを洗浄する工程に送られ洗浄水として用いられる。具体的には、処理水は、洗浄装置35に送られ、洗浄装置35の洗浄水として用いられる。なお、処理装置40で得られた処理水は、パルプを洗浄する工程のみならず、抄紙工程等における希釈水として用いられてもよい。
【0040】
処理装置40には、処理水を木材チップ由来のパルプの洗浄工程に送液する流路が備えつけられていること好ましい。例えば、流路は、処理装置40と洗浄装置35を連結する配管である。なお、流路は、処理装置40と洗浄塔30を連結する配管であってもよく、さらに下流の抄紙機等に連結する配管であってもよい。配管の材質は特に限定されるものではないが、ステンレス鋼材を用いることが好ましい。ステンレス鋼材の中でも、SUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレスが特に好ましく用いられる。また、フェライト系ステンレス、オーステナイト系とフェライト系を二相組織とした二相ステンレスを用いてもよい。
【0041】
本発明のクラフトパルプの製造装置においては、エバポレータ20で得られた凝縮水のうち70質量%以上が処理水となり、洗浄工程で再利用されることが好ましく、80質量%以上の処理水が再利用されることがより好ましい。また、本発明のクラフトパルプの製造装置においては、エバポレータ20から排液が発生しないことが好ましく、エバポレータを含めた全行程で排水の排出がないことが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
10 蒸解釜
20 エバポレータ
30 洗浄塔
35 洗浄装置
40 処理装置
50 回収ボイラ
図1